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特開2023-129374固体酸化物形電気化学セル及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129374
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】固体酸化物形電気化学セル及びその利用
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1213 20160101AFI20230907BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230907BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20230907BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20230907BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230907BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20230907BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20230907BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20230907BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/12 101
H01M8/1253
H01M4/86 T
H01M8/124
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B13/04 301
C25B13/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031941
(22)【出願日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】18/113,117
(32)【優先日】2023-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2022031903
(32)【優先日】2022-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
(72)【発明者】
【氏名】川森 弘晶
【テーマコード(参考)】
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB40
4K021DB53
4K021DC03
5H018AA06
5H018BB01
5H018HH05
5H126AA02
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG12
(57)【要約】
【解決手段】固体酸化物形電気化学セルは、Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含む酸素極と、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質と、水素極と、固体電解質と前記酸素極との間には、希土類添加セリウム酸化物を含む中間層と、を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形電気化学セルであって、
Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含む酸素極と、
ジルコニウム酸化物を含む固体電解質と、
水素極と、
前記固体電解質と前記酸素極との間には、希土類添加セリウム酸化物を含む中間層と、
を備える、セル。
【請求項2】
前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるBは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びセリウム(Ce)からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるLnは、ランタン(La)又はサマリウム(Sm)である、請求項1に記載のセル。
【請求項4】
前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるz/(1-z)は0.01以上0.40以下である、請求項1に記載のセル。
【請求項5】
前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるz/(1-z)は0.02以上0.40以下である、請求項1に記載のセル。
【請求項6】
前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物において、BがCeのとき、z/(1-z)は0.005以上0.11以下である、請求項1に記載のセル。
【請求項7】
前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物における(1-y-z)は、0.05以上0.30以下である、請求項1に記載のセル。
【請求項8】
前記固体電解質の前記ジルコニウム酸化物は、希土類添加酸化ジルコニウムである、請求項1に記載のセル。
【請求項9】
前記中間層の希土類添加酸化セリウムは、ガドリニウム添加酸化セリウム、ランタン添加酸化セリウム、サマリウム添加酸化セリウム及びイットリウム添加酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のセル。
【請求項10】
前記固体電解質の前記ジルコニウム酸化物は、希土類添加酸化ジルコニウムであり、前記中間層の前記希土類添加セリウム酸化物は、ガドリニウム添加酸化セリウムである、請求項9に記載のセル。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のセルを備える、固体酸化物形電気化学デバイス。
【請求項12】
固体酸化物形燃料電池及び/又は固体酸化物形電解セルである、請求項11に記載の固体酸化物形電気化学デバイス。
【請求項13】
固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料であって、
Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含有する、材料。
【請求項14】
多孔質焼結体である、請求項13に記載の酸素極材料。
【請求項15】
固体酸化物形電気化学セルの製造方法であって、
Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含む酸素極層、希土類添加酸化セリウムを含む中間層、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質層及び水素極層を、この順序で備えるセルを取得する工程を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、固体酸化物形電気化学セル及びその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形電気化学セルとしては、固体酸化物形電解セル(SOEC)及び固体酸化物形燃料電池(SOFC)がある。これらの電気化学セルの性能は、電極材料や電解質材料の特性だけでなく、電極と電解質との界面で形成されることがある抵抗層の影響を大きく受けることが知られている。多用されているYSZ電解質とLSCF((LaSr)(CoFe)O3-δ)酸素極を用いたセルでは、電解質と酸素極との界面に高抵抗なSrZrO3が形成されることが指摘されている。このため、反応防止の目的で酸素極と電解質の間にセリア系の中間層が導入されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-69214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、中間層を導入しても、中間層と電解質との界面にも、高抵抗なSrZrO3が形成されてしまっていた。したがって、電気化学セルにおいては依然として高抵抗層形成の抑制が要請されている。
【0005】
本明細書は、酸素極と電解質との間での高抵抗相の生成をさらに抑制できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、セリア系中間相を配しても、依然としてSrZrO3が形成される原因について検討した。その結果、セル焼成などの加熱時に、酸素極からSrが中間相を拡散し、固体電解質であるYSZとの界面に到達し、Srが自身と反応性の高いZrと反応してSrZrO3を形成することを突き止めた。そこで、本発明者らは、Srに対する反応性がZrよりも高いTiに着目した。また、さらに、本発明者らは、Ceにも着目した。そして、予めTi、Zr、Ceを酸素極材料中に導入することにより、加熱時等にSrの拡散を抑制して、YSZ界面でのSrZrO3の形成を抑制できるという知見を得た。本明細書は、これらの知見に基づき以下の手段を提供する。
【0007】
[1]固体酸化物形電気化学セルであって、
Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含む酸素極と、
ジルコニウム酸化物を含む固体電解質と、
水素極と、
前記固体電解質と前記酸素極との間には、希土類添加セリウム酸化物を含む中間層と、
を備える、セル。
[2]前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるBは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びセリウム(Ce)からなる群から選択される1種又は2種以上である、[1]に記載のセル。
[3]前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるLnは、ランタン(La)又はサマリウム(Sm)である、[1]又は[2]に記載のセル。
[4]前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるz/(1-z)は0.01以上0.40以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のセル。
[5]前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物におけるz/(1-z)は0.02以上0.40以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のセル。
[6]前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物において、BがCeのとき、z/(1-z)は0.005以上0.11以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のセル。
[7]前記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物における(1-y-z)は、0.05以上0.30以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のセル。
[8]前記固体電解質の前記ジルコニウム酸化物は、希土類添加酸化ジルコニウムである、[1]~[7]のいずれかに記載のセル。
[9]前記中間層の希土類添加酸化セリウムは、ガドリニウム添加酸化セリウム、ランタン添加酸化セリウム、サマリウム添加酸化セリウム及びイットリウム添加酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[8]のいずれかに記載のセル。
[10]前記固体電解質の前記酸化ジルコニウムは、希土類添加酸化ジルコニウムであり、前記中間層の希土類添加セリウム酸化物は、ガドリニウム添加酸化セリウムである、[9]に記載のセル。
[11][1]~[10]のいずれかに記載のセルを備える、固体酸化物形電気化学デバイス。
[12]固体酸化物形燃料電池及び/又は固体酸化物形電解セルである、[11]に記載の固体酸化物形電気化学デバイス。
[13]固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料であって、
Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含有する、材料。
[14]多孔質焼結体である、[13]に記載の酸素極材料。
[15]固体酸化物形電気化学セルの製造方法であって、
Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含む酸素極層、希土類添加酸化セリウムを含む中間層、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質層及び水素極層を、この順序で備えるセルを取得する工程を備える、方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】Feを各種比率でTiによって置換した噴霧熱分解法によって合成したLSCF粉末のSEMによる観察結果を示す図である。図に伴う式中のxは、本明細書に開示される複合酸化物の組成式のzに相当している。以下の図面において同様である。
図2】Feを各種比率でTiによって置換した噴霧熱分解法によって合成したLSCF粉末のXRD測定結果を示す図である。
図3】Feを各種比率でTiによって置換した噴霧熱分解法によって合成したLSCF粉末の粒子径分布の評価結果を示す図である。
図4】実施例2で作製したSOFC用の積層体の概要を示す図である。
図5】Feを各種比率でTiによって置換したLSCFを酸素極とするSOFC用積層体のSEMの分析結果を示す図である。
図6】Feを各種比率でTiによって置換したLSCFを酸素極として用いたSOFC用積層体のEDX(Sr)の分析結果を示す図である。
図7】Feを各種比率でTiによって置換したLSCFを酸素極として用いたSOFCの800℃での最大出力密度を示す図である。
図8】Feの一部をZrで置換したLSCF粉末(X=0.15)のXRD測定結果を示す図である。
図9】Feの一部をZrで置換したLSCF粉末(X=0.15)を用いたSOFC用積層体のEDX(Sr、Co)の分析結果を示す図である。
図10】Feの一部を種々の比率でCeで置換したLSCF粉末を酸素極として用いたSOFC用積層体のSEM/EDX(Sr)の分析結果を示す図である。
図11】Feの一部を種々の比率でCeで置換したLSCF粉末を用いたSOFC用積層体の酸素極のSEM像を示す図である。
図12】Feを各種比率でCeによって置換したLSCFを酸素極とするSOFCの800℃での最大出力密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の開示は、固体酸化物形電気化学セル及びその利用等に関する。
【0010】
本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルは(以下、単にセルともいう。)は、水素極と、酸素極と、固体電解質と、酸素極と固体電解質との間にセリア系中間層を備えるとともに、酸素極は、Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されるストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物(以下、単に、本複合酸化物ともいう。)を含んでいる。このため、酸素極の焼成や、酸素極と中間層と固体電解質との一体焼成などの加熱時に、酸素極のストロンチウムの熱拡散が抑制されており、酸素極から中間層を通過して固体電解質にまで熱拡散するストロンチウムも減少し、固体電解質と中間層との界面に高抵抗なSrZrO3の生成が抑制される。
【0011】
高抵抗であるSrZrO3含有相の形成が抑制されることで、固体酸化物形電解セルとしても、固体酸化物形燃料電池セルとしても、効率的な電気化学反応が実現される。
【0012】
また、本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料によれば、中間層を備えていてもなお高抵抗相の形成の原因となるストロンチウムの熱拡散を抑制できる。このため、中間層と固体電解質との界面における高抵抗相の生成を抑制することができる。
【0013】
また、本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルの製造方法によれば、本複合酸化物を含む酸素極材料層を加熱する工程を含む。当該加熱工程において、ストロンチウムの熱拡散が抑制される。このため、当該加熱工程において、また、その他の加熱時においても、ストロンチウムが熱拡散により中間層及び固体電解質側に移動することが抑制される。これにより、中間層と固体電解質層との界面における高抵抗相の生成を抑制できる。
【0014】
本明細書において固体酸化物形電気化学セルは、固体酸化物形電解セル(SOEC)及び固体酸化物形燃料電池(SOFC)を含んでいる。固体酸化物形電気化学セルは、SOECとSOFCとのリバーシブルであってもよい。本明細書において、酸素極とは、SOECにおいては、酸素が生成する電極を意味し、SOFCにおいては、酸素(空気)が供給される電極(空気極)を意味している。また、本明細書において、水素極とは、SOECにおいては、水(水蒸気)が供給されて水素が生成する電極であり、SOFCにおいては、水素が供給される電極(燃料極)を意味している。
【0015】
以下、本明細書において開示する固体酸化物形電気化学セル、固体酸化物形電気化学デバイス、固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料、固体酸化物形電気化学セルの製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(固体酸化物形電気化学セル)
固体酸化物形電気化学セルは、酸素極と、固体電解質と、水素極と、固体電解質と酸素極との間に配置される中間層と、を備えることができる。
【0017】
(酸素極)
セルにおける酸素極は、Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表される本複合酸化物を含むことができる。なお、δは、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類等によって変動するが、典型的には、0≦δ<1である。
【0018】
本複合酸化物における各元素の比率は、セリア系中間層を酸素極と固体電解質との間に備えたSOECやSOFCセルやその前駆体である積層体を作製して、Srの熱拡散やSrZrO3の生成レベルを評価したり、SOECやSOFCの性能を評価したりすることにより容易に決定することができる。
【0019】
本複合酸化物は、Aサイト元素として、Srを備えている。また、他のAサイト元素として、Lnを備えている。Lnは、3価のランタノイド元素であればよく、特に限定されないが、例えば、ランタン(La)又はサマリウム(Sm)である。
【0020】
Sr及びLnに関するxの値は特に限定するものではない。Sr量に関するxの値は、0<x<1であり、例えば、0.2以上0.8以下であり、また例えば、0.3以上0.7以下であり、また例えば、0.3以上0.6以下であり、また例えば、0.3以上0.5以下であり、また例えば、0.5であり、また例えば、0.4である。LnがLaのとき、xが0.4であることが好適な場合がある。また、LnがSmのとき、x0.5であることが好適な場合がある。xの値に伴い、Ln量に関する1-xの値が定まる。
【0021】
本複合酸化物は、Bサイト元素としてCoを備えている。さらにBサイト元素として、Feを備えていてもよい。したがって、Bサイト元素は、Coのみのほか、CoとFeとの組み合わせがある。
【0022】
BサイトにおけるCo量に関する1-y-zの値は、0<(1-y-z)<1である。特に限定するものではないが、例えば、0.01以上1未満であり、また例えば、0.01以上1未満であり、また例えば、0.01以上0.98以下であり、また例えば、0.05以上0.9以下であり、また例えば、0.05以上0.65以下であり、また例えば、0.05以上0.6以下であり、また例えば、0.05以上、0.5以下であり、また例えば、0.05以上0.4以下であり、また例えば、0.05以上0.3以下であり、また例えば、0.05以上0.3以下であり、また例えば、0.05以上0.2以下である。さらに、また例えば、0.01以上0.98以下であり、また例えば、0.01以上0.90以下であり、また例えば、0.01以上0.65以下であり、また例えば、0.010.65以下であり、また例えば、0.1以上0.6以下であり、また例えば、0.1以上0.5以下であり、また例えば、0.1以上0.4以下であり、また例えば、0.1以上0.3以下であり、また例えば、0.2である。
【0023】
Bサイト元素としてのFe量に関するyの値は、例えば、0であり、また例えば、0.3以上0.95以下であり、また例えば、0.3以上0.9以下であり、また例えば、0.3以上0.8以下であり、また例えば、0.4以上0.95以下であり、また例えば、0.4以上0.9以下であり、0.4以上0.8以下であり、また例えば、0.5以上0.95以下であり、また例えば、0.5以上0.9以下であり、また例えば、0.5以上0.0.8以下であり、また例えば、0.6以上0.95以下であり、また例えば、0.6以上0.9以下であり、また例えば、0.6以上0.8以下であり、また例えば、0.65以上0.95以下であり、また例えば、0.65以上0.9以下であり、また例えば、0.65以上0.8以下である。
【0024】
本複合酸化物は、Bサイト元素として、さらに、4価元素(B)を備えている。本複合酸化物のBサイト元素としてCo及び/又はFeが主に3又は2の価数を備えるとき、さらに、4価元素を導入することで、Aサイト中の2価のストロンチウムを安定化することができると考えられる。それにより、Aサイトの2価のストロンチウムの拡散を抑制できるようになる。4価元素は、他のBサイト元素であるCo及び/又はFeの一部を置換するようにペロブスカイト型複合酸化物に含まれる。
【0025】
Bサイトのさらなる4価元素としては、特に限定するものではないが、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びCe(セリウム)から選択される1種又は2種以上である。上記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物にBサイトにおける4価元素の量は、特に限定するものではなく、AサイトのLn及びSr、Bサイトの他の元素であるCo及びFeの各比率他、酸素極の焼成や電池の作動時におけるSrの固相拡散を抑制できるように設定される。
【0026】
Bサイトにおける4価元素に関する量であるzの値は、特に限定するものではないが、例えば、下限値は、0超であり、0.005以上であり、また例えば、0.01以上であり、また例えば、0.02以上であり、また例えば、0.03以上であり、また例えば、0.05以上であり、また例えば、0.06以上である。また、上限値は、例えば、0.30以下であり、また例えば、0.25以下であり、また例えば、0.20以下であり、また例えば、0.15以下であり、また例えば、0.10以下である。
【0027】
なかでも、チタン及びジルコニウムについては、zの下限値は、例えば、0.01以上であり、また例えば、0.02以上であり、また例えば、0.03以上であり、また例えば、0.04以上であり、また例えば、0.05以上であり、また例えば、0.06以上であり、また例えば、0.10以上である。zの上限値は、例えば、0.30以下であり、また例えば、0.25以下であり、また例えば、0.20以下であり、また例えば、0.10以下であり、また例えば、0.15以下である。チタン及びジルコニウムについての、zの範囲は、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、0.01以上0.30以下であり、また例えば、0.02以上0.30以下であり、また例えば、0.03以上0.25以下であり、また例えば、0.03以上0.20以下であり、0.05以上0.2以下であり、また例えば、0.05以上0.15以下などである。さらに、例えば、0.06以上0.20以下であり、また例えば、0.06以上0.15以下であり、また例えば、0.10以上0.15以下である。
【0028】
また、BサイトにおけるCo及びFeの総量である1-zの値と、Bサイト4価元素に関する量であるzの値は、例えば、z/1-zが0.01以上0.40以下となるように設定することができる。上記比をこの範囲に設定することにより、このストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素極の焼成条件下やセルの使用条件下においてSrZrO3生成を抑制することができる。
【0029】
上記比の下限は、また例えば、0.02以上であり、また例えば、0.03以上であり、また例えば、0.04以上であり、また例えば、0.05以上であり、また例えば、0.06以上であり、また例えば、0.07以上であり、また例えば、0.08以上であり、また例えば、0.09以上であり、また例えば、0.10以上であり、また例えば、0.11以上であり、また例えば、0.12以上であり、また例えば、0.13以上であり、また例えば、0.14以上であり、また例えば、0.15以上である。上記比の上限は、また例えば、0.40未満であり、また例えば、0.39以下であり、また例えば、0.38以下であり、また例えば、0.37以下であり、また例えば、0.36以下であり、また例えば、0.35以下であり、また例えば、0.30以下であり、また例えば、0.25以下であり、また例えば、0.20以下である。
【0030】
上記の好ましい範囲は、上記した下限及び上限から適宜選択して用いることができる。典型的には、好ましい範囲は、例えば、0.01以上0.4未満であり、0.39以下であり、0.01以上0.38以下であり、また例えば、0.03以上0.38以下であり、また例えば、0.03以上0.30以下であり、また例えば、0.03以上0.25以下であり、また例えば、0.03以上0.20以下であり、また例えば、0.04以上0.38以下であり、また例えば、0.04以上0.30以下であり、また例えば、0.04以上0.25以下であり、また例えば、0.04以上0.20以下である。
【0031】
上記比は、例えば、本複合酸化物においてFeを備えており、かつSr量に関するxの値が、例えば、0.2以上0.8以下であり、また例えば、0.3以上0.7以下であり、また例えば、0.3以上0.6以下であり、また例えば、0.3以上0.5以下であり、また例えば、0.4であり、Co量に関する1-y-zの値が、例えば、0.05以上0.65以下であり、また例えば、0.1以上0.6以下であり、また例えば、0.1以上0.3以下であり、また例えば、0.2であるときにおいて、有意義である場合がある。
【0032】
以上の記載によれば、本複合酸化物は、例えば、La(ランタン)・Sr(ストロンチウム)・Co(コバルト)・Fe(鉄)を含む(La,Sr)(Co,Fe)O系複合酸化物(LSCF)のBサイトに4価元素を含む態様、La・Sr・Coを含む(La,Sr)CoO系複合酸化物(以下、「LSC」と称することがある。)のBサイトに4価元素を含む態様、Sr・Sm・Coを含む(Sr,Sm)CoO系複合酸化物(以下、「SSC」と称することがある。)のBサイトに4価元素であるTi及び/又はZrを含む態様態を採ることができる。
【0033】
LSCFとしては、Sr量に関するxの値が、0.25以上0.55以下であり、Co量に関する1-y-zの値が、0.05以上0.3以下であり、Fe量に関するyの値が、0.5以上0.9以下、Bサイトの4価元素に関するTi及び/又はZrのzの値が、0超0.3以下などの上記範囲を採ることができる。
【0034】
SSCとしては、Sr量及びSm量に関するxの値が、0.3以上0.6以下であり、また例えば、0.4以上0.5以下であり、Co量に関する1-y-zの値が、0.7以上1未満であり、Fe量に関するyの値が0であり、Bサイトの4価元素Ti及び/又はZrに関するzの値が、0超0.3以下などの上記範囲を採ることができる。また、LSCとしては、Sr量及びLa量に関するxの値が0.1以上0.8以下であり、また例えば、0.2以上0.7以下であり、Co量に関する1-y-zの値が、0.7以上1未満であり、Fe量に関するyの値が0であり、Bサイトの4価元素であるTi及び/又はZrに関するzの値が、0超0.3以下などの上記範囲を採ることができる。
【0035】
また、Bサイトの4価元素がセリウムのとき、zの値の下限は、例えば、0超であり、0.005以上であり、また例えば、0.01以上であり、また例えば、0.02以上であり、また例えば、0.03以上であり、また例えば、0.04以上であり、また例えば、0.05以上であり、また例えば、0.06以上である。セリウムについてのzの上限は、例えば、0.15以下であり、また例えば、0.14以下であり、また例えば、0.13以下であり、また例えば、0.12以下であり、また例えば、0.10以下であり、また例えば、0.09以下であり、また例えば、0.08以下であり、また例えば、0.07以下であり、また例えば、0.06以下であり、また例えば、0.05以下であり、また例えば、0.04以下であり、また例えば、0.03以下であり、また例えば、0.02以下であり、また例えば、0.01以下である。セリウムについてのz値の範囲は、これら下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、0超0.10以下であり、また例えば、0.005以上0.08以下であり、また例えば、0.01以上0.08以下であり、また例えば、0.005以上0.06以下であり、また例えば、0.01以上0.06以下であり、また例えば、0.005以上0.05以下であり、また例えば、0.01以上0.05以下であり、また例えば、0.005以上0.04以下であり、また例えば、0.01以上0.04以下であり、また例えば、0.005以上0.03以下であり、また例えば、0.01以上0.03以下であり、また例えば、0.005以上0.02以下であり、また例えば、0.01以上0.02以下などとすることができる。
【0036】
また、BサイトにおけるCo及びFeの総量である1-zの値と、Bサイト4価元素に関する量であるzの値は、BがCeのとき、z/(1-z)が0.005以上0.18以下となるように設定することができる。上記比をこの範囲に設定することにより、このストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素極の焼成条件下やセルの使用条件下においてSrZrO3の生成を抑制することができる。
【0037】
上記比の下限は、また例えば、0.005以上であり、また例えば、0.01以上であり、また例えば0.02以上であり、また例えば、0.03以上であり、また例えば、0.04以上であり、また例えば、0.05以上であり、また例えば、0.06以上である。上記比の上限は、例えば、0.18以下であり、また例えば、0.17以下であり、また例えば、0.16以下であり、また例えば0.15以下であり、また例えば、0.14以下であり、また例えば、0.13以下であり、また例えば、0.12以下であり、また例えば、0.11以下であり、また例えば、0.10以下であり、また例えば、0.09以下であり、また例えば、0.08以下であり、また例えば、0.07以下であり、また例えば、0.06以下であり、また例えば、0.05以下であり、また例えば、0.04以下であり、また例えば、0.03以下であり、また例えば、0.02以下である。
【0038】
上記の好ましい範囲は、上記した下限及び上限から適宜選択して用いることができる。典型的には、例えば、0超0.18以下であり、また例えば、0.005以上0.18以下であり、また例えば、0.01以上0.18以下であり、また例えば、0.03以上0.18以下であり、また例えば、0.06以上0.18以下であり、また例えば、0.005以上0.11以下であり、また例えば、0.01以上0.11以下であり、また例えば、0.03以上0.11以下であり、また例えば、0.06以上0.11以下であり、また例えば、0.005以上0.06以下であり、また例えば、0.01以上0.06以下であり、また例えば、0.03以上0.06以下であり、また例えば、0.005以上0.03以下であり、また例えば、0.01以上0.03以下であり、また例えば、0.005以上0.02以下であり、0.01以上0.02以下であり、また例えば、0.005以上0.01以下である。
【0039】
セリウムについての上記比は、例えば、本複合酸化物においてFeを備えており、かつSr量に関するxの値が、例えば、0.2以上0.8以下であり、また例えば、0.3以上0.7以下であり、また例えば、0.3以上0.6以下であり、また例えば、0.3以上0.5以下であり、また例えば、0.4であり、Co量に関する1-y-zの値が、例えば、0.05以上0.65以下であり、また例えば、0.1以上0.6以下であり、また例えば、0.1以上0.3以下であり、また例えば、0.2であるときにおいて、有意義である場合がある。
【0040】
以上の記載によれば、本複合酸化物は、例えば、La(ランタン)・Sr(ストロンチウム)・Co(コバルト)・Fe(鉄)を含む(La,Sr)(Co,Fe)O系複合酸化物(LSCF)のBサイトに4価元素を含む態様、La・Sr・Coを含む(La,Sr)CoO系複合酸化物(以下、「LSC」と称することがある。)のBサイトに4価元素を含む態様、Sr・Sm・Coを含む(Sr,Sm)CoO系複合酸化物(以下、「SSC」と称することがある。)のBサイトに4価元素であるCeを含む態様を採ることができる。
【0041】
LSCFとしては、Sr量に関するxの値が、0.25以上0.55以下であり、Co量に関する1-y-zの値が、0.05以上0.3以下であり、Fe量に関するyの値が、0.5以上0.9以下、Bサイトの4価元素に関するzの値が、0超0.15以下などの上記範囲を採ることができる。
【0042】
SSCとしては、Sr量及びSm量に関するxの値が、0.3以上0.6以下であり、また例えば、0.4以上0.5以下であり、Co量に関する1-y-zの値が、0.7以上1未満であり、Fe量に関するyの値が0であり、Bサイトの4価元素であるCeに関するzの値が、0超0.15以下などの上記範囲を採ることができる。また、LSCとしては、Sr量及びLa量に関するxの値が0.1以上0.8以下であり、また例えば、0.2以上0.7以下であり、Co量に関する1-y-zの値が、0.7以上1未満であり、Fe量に関するyの値が0であり、Bサイトの4価元素であるCeに関するzの値が、0超0.15以下などの上記範囲を採ることができる。
【0043】
さらに、酸素極は、本複合酸化物のほかに、一般式ABO3-δで示されるペロブスカイト型構造を有する化合物を酸素極材料として含んでいてもよい。ここで、AはSr、Sm、La及びCaからなる群から選択される1種又は2種以上であり、BはMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される1種又は2種以上であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。Aは、少なくともSrを含んでいてもよい。より具体的には、LSCF、LSC、SSCのほか、La・Sr・Ca・Mnを含む(La,Sr,Ca)MnO系複合酸化物、La・Sr・Mnを含む(La,Sr)MnO系複合酸化物等を挙げることができる。これらは、一種又は二種以上を混合して用いることができる。なお、δは、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類等によって変動するが、典型的には、0≦δ<1である。
【0044】
こうした酸素極材料は、公知の種々の方法で合成することができる。例えば、噴霧熱分解法でも合成することができる。噴霧熱分解法によれば、形状や粒径などの制御が可能であり、多孔質焼結体を形成するのに好適な粉体を得ることができる。例えば、本複合酸化物は、所望の比率となるように、原料を配合して原料液を調製し、噴霧熱分解装置によって、例えば、反応管の温度を霧化器に近い側から200℃、400℃、800℃、1000℃とし、空気などのキャリアガスを適当な流量で霧化器により液滴化した原料液を焼成することにより得ることができる。本複合酸化物の製造に用いる原料は、典型的には、各種金属の硝酸塩又はその水和物等である。例えば、Bサイトの4価元素であるTi、Zr及び/又はCeの原料として、酸化チタンのゾル、硝酸ジルコニル二水和物溶液、酸化ジルコニウムのゾル及び/又は硝酸セリウム六水和物などを用いることができる。
【0045】
特に限定するものではないが、酸素極材料の粉末の平均粒子径は、例えば、20μm以下であり、また例えば、0.01μm以上10μm以下であり、また例えば、0.05μm以上10μm以下であり、また例えば、0.1μm以上5μm以下であり、また例えば、0.2μm以上3μm以下であり、また例えば、0.5μm以上2μm以下であり、また例えば、1μm以上2μm以下である。本明細書において、平均粒子径は、光学顕微鏡による形態観察に基づいて行うことができる。平均粒子径の測定装置としては、例えば、Morphlogi4(Malvern Panalytical社製)を用いて、例えば、50倍の対物レンズを用いて、装置に付帯する粒子径の測定プロトコルに従い算出することができる。なお、本明細書において平均粒子径は、個数基準の粒度分布における積算値50%での粒径を意味している。
【0046】
酸素極は、多孔質焼結体として提供される。酸素極は、こうした酸素極材料を混合し、必要に応じて、後述する固体電解質材料を含んでおり、さらに、焼結助剤や造孔材等を用いて成形、製膜又は積層し、その後焼成することで、独立して又はセルの一部として得ることができる。酸素極の厚みはセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、電解質支持型セル又は水素極支持型セルのとき、例えば、5μm以上200μm以下であり、また例えば20μm以上50μm以下である。また、酸素極支持型セルのとき、例えば、0.5mm以上2mm以下である。また、メタルサポート型のとき、例えば、5μm以上200μm以下である。なお、酸素極の焼結のための焼成工程における加熱温度は、例えば、650℃以上1350℃以下であり、また例えば1000℃以上1250℃以下である。また、熱処理時間は、例えば、0.5時間以上24時間以下であり、また例えば1時間以上5時間以下である。その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0047】
(固体電解質)
固体電解質は、ジルコニウム酸化物を含有している。ジルコニウム酸化物は、特に限定するものではないが、安定化又は部分安定化酸化ジルコニウムが挙げられる。酸化ジルコニウムの安定化のためにドープされる金属は、特に限定しないが、カルシウム(酸化カルシウム)、マグネシウム(酸化マグネシウム)のほか、希土類であるイットリウム(酸化イットリウム)、スカンジウム(酸化スカンジウム)などが挙げられる。ドープ量は特に限定するものではいが、ジルコニアに対して、金属酸化物として6モル%以上10モル%以下などとすることができる。
【0048】
固体電解質は、緻密質焼結体として提供される。ジルコニウム酸化物を成形、製膜、積層し、焼成して焼結させることにより得ることができる。固体電解質の厚みは、セルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、固体電解質支持型セルのとき、例えば、0.1mm以上1mm以下である。また、酸素極支持型セル又は水素極支持型セルのとき、例えば、0.5μm以上100μm以下である。なお、固体電解質の焼結のための焼成工程における加熱温度及び時間は、例えば、700℃以上1500℃以下であり、また例えば1200℃以上1450℃以下である。また、熱処理時間は、例えば、0.5時間以上24時間以下であり、また例えば1時間以上6時間以下である。その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0049】
(水素極)
水素極は、固体酸化物形電気化学セルの水素極材料として従来公知の材料を含んでいる。例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)その他の白金族元素、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等からなる金属および/または金属元素のうちの1種類以上から構成される金属酸化物が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を用いることもできる。なお、これらの触媒となる金属酸化物に加えて、固体電解質材料である、安定化又は部分安定化ジルコニア若しくは希土類添加セリアを混合して用いることができる。特に限定するものではないが、金属酸化物/固体電解質の質量比は、例えば、5/5~8/2などとすることができる。なお、金属酸化物は、SOEC及びSOFCとして運転時において、水素極において還元されて金属となる。
【0050】
水素極は、多孔質焼結体として提供される。水素極は、こうした水素極材料を混合し、必要に応じて、焼結助剤や造孔材等を用いて成形、製膜又は積層し、その後焼成することで得ることができる。水素極の厚みはセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、耐久性、熱膨張率等から、固体電解質支持型セル又は酸素極支持型セルのとき、例えば、5μm以上200μm以下であり、また例えば、20μm以上50μm以下である。また、水素極支持型セルのとき、例えば、0.5mm以上2mm以下である。なお、水素極の焼結のための焼成工程における加熱温度及び時間は、固体電解質と同様であり、その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0051】
セルは、中間層を、固体電解質と酸素極との間に備えることができる。中間層は、例えば、希土類添加セリウム酸化物を含むことができる。希土類添加セリウム酸化物としては、特に限定するものではないが、ガドリニウム添加酸化セリウム(GDC)、ランタン添加酸化セリウム(LDC)、サマリウム添加酸化セリウム(SDC)及びイットリウム添加酸化セリウム(YDC)等が挙げられる。これらのセリウム酸化物を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0052】
中間層は、緻密質焼結体、若しくは多孔質の焼結体として提供される。中間層は、希土類セリウム酸化物に、必要に応じて、焼結助剤を用いて成形し、あるいは、固体電解質に対して製膜又は積層し、その後焼成することで得ることができる。中間層の厚みはセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、耐久性、熱膨張率等から、例えば、100μm以下であり、また例えば、1μm以上50μm以下であり、また例えば、1μm以上30μm以下であり、また例えば1μm以上20μm以下である。なお、中間層の焼結のための焼成工程における加熱温度及び時間は、水素極等と同様であり、その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0053】
セルの典型的な態様は、例えば、酸素極が上記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含み、固体電解質がYSZなどの希土類添加ジルコニウム酸化物であり、中間層がGDCである。
【0054】
こうしたセルは、円筒型や平板型など意図するSOECやSOFCの形態に応じて種々の形態を採ることができる。通常、セルは、公知のセパレータを介して複数層積層された上で、さらに、各種ガス流路、集電体、冷却装置などが備えられてSOECやSOFCが構成される。
【0055】
(固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料)
本明細書によれば、固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料として、本複合酸化物を含む材料が提供される。この酸素極材料は、より具体的には、Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δ(Lnは、3価のランタノイド元素であり、Bは、4価の元素であり、0<x<1、0≦y<1、0<z<1、及び0<z+y<1であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表される複合酸化物を含んでいる。酸素極材料としての本複合酸化物の各種態様は既に説明したとおりである。
【0056】
酸素極材料は、上記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物は、他のペロブスカイト型複合酸化物をさらに含む組成物であってもよい。また、酸素極材料を含む組成物は、例えば、固体電解質等にスクリーン印刷するためのスラリーの形態を採ることができる。スラリーは、適当な溶媒、焼結助剤、造孔材を含むことができる。さらに、酸素極材料は、薄膜や未焼結成形体の形態を採ることもできる。さらにまた、酸素極材料は、それ自体が、多孔質焼結体である形態を採ることもできる。
【0057】
(固体酸化物形電気化学セルの製造方法)
本明細書によれば、上記ストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物を含む酸素極、希土類添加セリウム酸化物を含む中間層、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質及び水素極を、備えるセルを取得する工程を備える、方法が提供される。この方法においては、所定の組成を有する酸素極と、中間層と、を備えるセルを取得することで、この取得工程における1回又は2回以上の焼結等のための焼成工程において、ストロンチウムの熱拡散による、固体電解質と中間層との間に高抵抗相の生成を抑制することができる。
【0058】
酸素極、中間層、固体電解質及び水素極の積層する順序やそれぞれの層の準備については特に限定するものではなく、公知の固体電解質電気化学セルの製造方法に準じることでセルを取得することができる。
【0059】
なお、本明細書によれば、かかる1又は2以上のセルに対してセパレータを適用し、さらに、水素、酸素又は水蒸気のガス流路、電極や集電体を適用して、SOEC及びSOFC並びにこれらを含むシステムを製造する方法も提供される。なお、単体セルに対して、こうした要素を付与してSOECやSOFCとし、さらに、システムを構築することは、当業者であれば、適宜実施することができる。
【0060】
(固体酸化物形電気化学デバイス)
本明細書によれば、本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルを備える電気化学デバイスが提供される。セルは、少なくともセル作製時ないしはスタック作製時における加熱によるSrの熱拡散が抑制されて固体電解質と中間層との間の高抵抗相の生成が抑制されている。このため、デバイスは、電気化学デバイスとして効率的な作動が可能となっている。デバイスは、通常、2以上のセルを、セパレータを介して積層されたスタックを備えている。かかるデバイスとしては、SOECやSOFCが挙げられる。
【実施例0061】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例0062】
(セル要素の原料粉末の準備)
酸素極及び水素極の原料粉末は以下の方法で合成した。中間層の原料粉末はGDC(Ce0.8Gd0.2)O2-x、(信越化学工業)をそれぞれ準備した。
【0063】
(酸素極及び水素極の原料粉末の合成)
酸素極及び水素極の原料粉末を噴霧熱分解法にて作製した。
【0064】
(酸素極原料粉末)
酸素極原料粉末として、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8-xTix)O3-δ(x=「0」,「0.01」、「0.03」、「0.06」、「0.09」、「0.15」、「0.31」、ただし、この式におけるxは、本明細書に開示される本複合酸化物の組成式におけるzに相当する。)を噴霧熱分解法で合成した。硝酸ランタン六水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト六水和物及び硝酸鉄九水和物及び二酸化チタンのゾルを、ランタン、ストロンチウム、コバルト、鉄及びチタンが上記組成になるように、イオン交換水で用いて原料溶液を調製した。この原料溶液においては、全カチオンのモル数で0.4mol/lとした。この原料溶液を、以下の条件で噴霧熱分解法に供して、目的の原料粉末を得た。
【0065】
<噴霧熱分解条件>
噴霧熱分解は、噴霧熱分解装置(オーエヌ総合電機株式会社製)を用いた。本装置は、塩化ビニル樹脂製の霧化器、アルミナ製の反応管(内径20mmφ、外径25mmφ、長さ1500mm)およびガラス製の捕集器から構成されている。また、反応管部分には4つの独立した加熱炉(カンタルヒーター)が具備されている。捕集器内にはメンブレンフィルター(142mmφ、孔径:0.45μm、オムニポアJHWP14225)をセットすることで合成した粒子を捕集するように構成されている。
【0066】
噴霧熱分解合成条件は、反応管の温度は霧化器に近い側から200℃、400℃、800℃、1000℃とし、結露防止の目的で捕集器はマントルヒーターを用いて100℃に保温した。超音波霧化器水浴温度は30℃とし、溶液容器温度は27℃とした。合成中のキャリアガス流量は3.0L/minとした。なお、キャリアガスにはAirを用いた。
【0067】
(水素極原料粉末)
水素極原料粉末として、NiO-YSZ(ZrO2-8mol%Y23)(NiO:YSZ=6:4(質量比))を噴霧熱分解法で合成した。酢酸ニッケル四水和物、硝酸イットリウムn水和物、硝酸ジルコニウム二水和物を、ニッケル、イットリウム、ジルコニウムが上記組成になるように、イオン交換水で用いて原料溶液を調製した。この原料溶液においては、全カチオンのモル数で0.45mol/lとした。この原料溶液を、上記と同様の条件で噴霧熱分解法に供して、目的の原料粉末を得た。
【0068】
得られた各種の酸素極原料粉末についてのSEM観察結果を図1に示し、XRDによる測定結果を図2に示し、粒子径分布の測定結果を図3に示す。なお、粒子径分布については、光学顕微鏡を利用する粒度分布測定装置(Morphlogi4、Malvern Panalytical社製)により、倍率50倍の対物レンズにて得られる視野における粒子の直径を測定して得た個数基準の粒度分布における積算値50%での粒径で表示している。
【0069】
図2に示すように、噴霧熱分解法によって得られた各酸素極原料粉末は、いずれも意図したストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物に固有の特性X線スペクトルを呈示した。また、図1及び図3に示すように、各酸素極原料粉末は、いずれもほぼ真球の球状粒子であって、平均粒子径も1.32μm~1.35μmであって狭い粒度分布の粉末であることがわかった。
【実施例0070】
(固体酸化物形燃料電池の単セル用積層体の作製)
実施例1で準備した各原料粉末とポリエチレングリコール(重合度400)とを3:1の質量比で混合して、それぞれ酸素極用スラリー、水素極用スラリー及び中間層用スラリーとした。
【0071】
本実施例で作製した単セル用積層体の概略を図4に示す。単セルは、固体電解質のディスク(8YSZ(ZrO2-8mol%Y23)、直径14mm、厚み200μm、東ソー株式会社製)の一方の面に対して、中間層用のGDCスラリーを、焼成後に直径9mm、厚み5μmとなるようにスクリーン印刷し、他方の面に対して、水素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷した後、大気中1400℃で2時間焼成した。さらに、焼成後の中間層に対してさらに、各種酸素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷し、大気中、1150℃で2時間焼成した。こうして、酸素極用スラリーとしてFeのTiによる置換量が異なる7種のスラリーに由来する酸素極を備える7種の積層体(系列1の比較製造例及び製造例1~6)を作製した。これらの7種のスラリーにおけるTi量は、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8-xTix)O3-σにおいて、x=「0」、「0.01」、「0.03」、「0.06」、「0.09」、「0.15」、「0.31」であり、Ti/(Fe+Ti)は、それぞれ、0、0.0125、0.0375、0.0750、0.1125、0.1875及び0.3875並びに、Ti/(Co+Fe)は、それぞれ、0、0.01、0.03、0.06、0.10、0.18及び0.45であった。
【0072】
さらに、焼成条件やセルの作動条件を過酷化して長期耐久性の評価のために以下の加速試験を行った。すなわち、各種酸素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷した後、大気中、1150℃で5時間焼成して、7種の積層体を作製した(系列2の比較製造例及び製造例1~6)を作製した。
【0073】
さらにまた、同様に加速試験として、各種酸素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷した後、大気中、1150℃で10時間焼成して、7種の積層体を作製した(系列3の比較製造例及び製造例1~6)を作製した。
【実施例0074】
(単セル断面の走査型電子顕微鏡(SEM)/エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による分析)
実施例2で作製した積層体のうち一部を除いた各種積層体について、SEM(HITACHI SU8000)を用いて、加速電圧15kV及び観察倍率5,000倍~10,000倍にて積層方向における断面を観察するとともに、EDX(HORIBA X-max80)を用いて前記断面における元素(Sr)の分布を分析した。結果を図5図6に示す。
【0075】
図5には、上段から系列1(1150℃で2時間焼成)、系列2(1150℃で5時間焼成)及び系列3(1150℃で10時間焼成)の比較製造例及び製造例1又は2~3及び5~6についてのSEM観察結果を示す。図5に示すように、緻密質な固体電解質表面に多孔質の中間層及び多孔質の酸素極が形成されていることがわかった。
【0076】
また、図6には、上段から系列1、系列2及び系列3の比較製造例及び製造例1又は2~3及び5~6についてのEDX(Sr)についての観察結果を示す。図6に示すように、各系列において、Tiによる置換量が増大するにつれて、固体電解質と中間層との界面におけるSr量が減少していることがわかった。また、系列1から系列3に焼成時間が延長されるに伴い、固体電解質と中間層との界面におけるSr量(SrZrO3に対応する)が増大していることがわかった。
【0077】
以上のことから、LSCFにおいてFeに対するTiの置換量が増大するにつれて、中間層及び固体電解質との界面へのSrの拡散及び中間層へのCoの拡散を抑制できることがわかった。また、製造例1(X=0.01、Ti/(Fe+Ti):0.0125、Ti/(Co+Fe):0.01)でも界面のSr量を抑制できるとともに、製造例2(x=0.03、Ti/(Fe+Ti):0.0375、Ti/(Co+Fe):0.03)を超えると、効果的にSr(SrZrO3)量を抑制できることがわかった。また、系列2及び系列3の結果からは、製造例5(x=0.15、Ti/(Fe+Ti):0.1875、Ti/(Co+Fe):0.18)を超えると、明らかに優れたSrの拡散の抑制及びSr(SrZrO3)量を抑制及びCoの拡散が抑制されていることがわかった。
【実施例0078】
(積層体のSOFCモードでの発電特性の評価)
実施例2で作製した積層体(系列1~3、比較製造例及び製造例1~6)につき、SOFCの単セルとして用いて、作動温度800℃で、酸素極側に空気を50cm3/min、水素極側にH2-3%H2Oを50cm3/minの条件で、ガスを供給して、最大出力密度を測定した。結果を図7に示す。
【0079】
図7に示すように、系列1~3の結果から、Ti置換量(x:Ti/(Fe+Ti):Ti/(Co+Fe))が、製造例1(0.01:0.0125:0.01)から製造例5(0.15:0.1875:0.18)までは、いずれも系列においてもTiを含まない比較製造例よりも高い発電特性を呈することがわかった。また、製造例1~3(0.01~0.06:0.0125~0.0750:0.01~0.06)又は製造例2~5(0.03~0.15:0.0375~0.1875:0.03~0.18)の範囲において、最大の電力密度を発揮することがあることがわかった。さらに、系列1~3の結果から、製造例5~6(0.15~0.31:0.1875~0.3875:0.18~0.45)の範囲において、初期の最大出力密度を下回ることが推測された。
【0080】
以上のことから、熱拡散するSrを含む複合酸化物からなる酸素極のストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトの一部においてTiを含めることで、固体電解質(YSZ)と中間層との間にSrZrO3の形成を抑制できること、及びそれによりSOFCモードにおける発電特性を向上する場合があることがわかった。
【0081】
また、このことから、このセルを、SOECとして用いた場合においても、高抵抗相の形成を抑制して電解効率を向上させうることができることがわかった。
【実施例0082】
(Bサイト4価元素としてZrを備える酸素極の原料粉末の準備及び固体酸化物形燃料電池における評価)
酸素極の原料粉末として、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8-xZrx)O3-σ(x=「0.15」)を、実施例1と同様に操作して、噴霧熱分解法で合成した。硝酸ランタン六水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト六水和物及び硝酸鉄九水和物及び硝酸ジルコニル二水和物(硝酸ジルコニル)の水溶液を、ランタン、ストロンチウム、コバルト、鉄及びジルコニウムが上記組成になるように、イオン交換水で用いて原料溶液を調製した。
【0083】
得られた本実施例の酸素極原料粉末についてのXRDによる測定結果を図8に示す。なお、併せて、実施例1で作製済みの本実施例と同一比でTi(x=0.15)を含有する(x=0.15)酸素極の原料粉末の測定結果を併せて示す。
【0084】
図8に示すように、噴霧熱分解法によって得られた酸素極原料粉末は、意図したストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物に固有の特性X線スペクトルを呈示した。
【0085】
次に、この酸素極材料と、実施例1で準備した他の原料粉末につき、実施例それぞれスラリーを作製し、実施例2に準じて、単セル用積層体を作製した。なお、焼成条件は、1150℃、2時間とした。
【0086】
この積層体につき、実施例3に準じて、単セル断面につきEDXによる分析を行い、Srの分布を分析した。結果を図9に示す。図9には、併せて、本実施例と同一比でTiを含む酸素極材料(x=0.15)とx=0である酸素極材料を用いて同様に作製した単セル用積層体についての測定結果を示す
【0087】
図9に示すように、Zrを備える複合酸化物を用いた場合であっても、Zrを備えない酸素極材料(x=0)に比較して固体電解質と中間層との界面におけるSr量が減少していることがわかった。以上のことから、Bサイト4価元素として、Zrも有効であることがわかった。
【実施例0088】
本実施例では、Ln1-xSrxCo1-y-zFeyz3-δにおけるCo量に関する1-y-zについて、1-y-z=0.2(1-y-z=0.2,y=0.8,z=0~0.32)に加えて、1-y-z=0.1(1-y-z=0.1,y=0.9,z=0~0.15)、および0.05(1-y-z=0.05,y=0.95,z=0~0.15)の組成についても実施例1に準じて調製し、実施例2に準じて単セル積層体を、1150℃で2時間、5時間及び10時間焼成して作製し、これらの積層体について実施例3に準じてエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による分析を行った(図示せず)。
【0089】
その結果、Co量(1-y-z)が0.05及び0.1の場合であっても、酸素極と中間層との界面におけるSr量が減少していることがわかった。また、Co量が0.05、0.1によっても、Co量が0.2である場合と同程度にSr量が減少していることもわかった。
【実施例0090】
(Ceを含む酸素極の原料粉末の準備及び固体酸化物形燃料電池の単セル用積層体の作製)
酸素極の原料粉末として、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8-xCex)O3-δ(x=「0」、「0.005」、「0.01」、「0.03」、「0.06」、「0.15」、ただし、この式におけるxは、本明細書に開示される本複合酸化物の組成式におけるzに相当する。)を噴霧熱分解法で合成した。硝酸ランタン六水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト六水和物及び硝酸鉄九水和物及び硝酸セリウム六水和物を用いて、ランタン、ストロンチウム、コバルト、鉄及びセリウムが上記組成になるように、イオン交換水で用いて原料溶液を調製した。この原料溶液においては、全カチオンのモル数で0.4mol/lとした。この原料溶液を、実施例1と同様の条件で噴霧熱分解法に供して、目的の原料粉末を得た。
【0091】
本実施例で準備した酸素極原料粉末とポリエチレングリコール(重合度400)とを3:1の質量比で混合して、酸素極用スラリーとした。
【0092】
酸素極用スラリーとして本実施例で作製した酸素極用スラリーを用いる以外は、実施例2と同様に操作して、単セル用積層体を作製した。こうして、FeのCeによる置換量が異なる6種のスラリーを作製した。これら6種のスラリーに由来する酸素極を備える6種の積層体(系列4の比較製造例及び製造例1~5)を作製した。これらの6種のスラリーにおけるCe量は、x=「0」、「0.005」、「0.01」、「0.03」、「0.06」、[0.15]であり、Ce/(Fe+Ce)は、「0」、「0.00625」、「0.0125」、「0.0375」、「0.0750」及び「0.1875」であり、並びにCe/(Co+Fe)は、0、0.005、0.01、0.03、0.06及び0.18であった。
【0093】
さらに、焼成条件やセルの作動条件を過酷化して長期耐久性の評価のために以下の加速試験を行った。すなわち、一部の酸素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷した後、大気中、1150℃で5時間焼成して、5種の積層体を作製した(系列5の比較製造例及び製造例2~5)を作製した。
【0094】
さらにまた、同様に加速試験として、各種酸素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷した後、大気中、1150℃で10時間焼成して、6種の積層体を作製した(系列6の比較製造例及び製造例1~5)を作製した。
【実施例0095】
(単セル断面のSEM及びEDXによる分析)
実施例6で作製した各種積層体について、実施例3に準じて、SEM(HITACHI SU8000)及びEDX(HORIBA X-max80)を用いて前記断面における元素(Sr)の分布を分析した。結果を図10に示す。
【0096】
図10には、上段から系列4(1150℃で2時間焼成)、系列5(1150℃で5時間焼成)及び系列6(1150℃で10時間焼成)のSEM/EDX(Sr)についての観察結果を示す。図10に示すように、各系列において、Ceによる置換量がx=0.005においても、無添加に比べSr量が減少していた。また、x=0.01では、充分に固体電解質と中間層との界面におけるSr量が減少していた。
【0097】
なお、比較製造例及び製造例1~5の酸素極のSEM像から、x=0.01以上では、明かるいコントラストで観察されるLDC(ランタン固溶セリア)粒子が認められるが、x=0.05では、LDC粒子は認められなかった(図11参照)。また、XRDによっても、x=0.05では、LDC由来ピークを観察しなかったが、x=0.01以上において、LDC由来ピークを観察した(図示せず。)。以上のことから、セリウムは、x=0.005までは固溶し、x=0.01以上になると、固溶できないセリウムがLDC粒子を生成することがわかった。このことは、4価の金属元素のBサイトへの固溶が、前記界面での、Srの増大抑制に有効であることを示している。
【0098】
以上のことから、LSCFにおいてFeの一部をCeで置換することにより、中間層及び固体電解質との界面へのSrの拡散及び中間層へのCoの拡散を抑制できることがわかった。また、Ceの場合には、置換量がTiに比べて小さくても、充分に固体電解質と中間層との界面のSr量を低減できることがわかった。
【実施例0099】
(積層体のSOFCモードでの発電特性の評価)
実施例7で作製した積層体(系列4~6、比較製造例及び製造例1~5)につき、SOFCの単セルとして用いて、作動温度800℃で、酸素極側に空気を50cm3/min、水素極側にH2-3%H2Oを50cm3/minの条件で、ガスを供給して、最大出力密度を測定した。結果を図12に示す。
【0100】
図12に示すように、系列4~6の結果から、CeでFeの一部を置換することにより、初期の最大出力密度を下回ることが抑制されていることがわかった。すなわち、Ce置換量(x:Ce/(Fe+Ce):Ce/(Co+Fe))が、製造例1(Ce置換量、0.005:0.00625:0.005)から製造例5(Ce置換量、0.15:0.1875:0.18)までは、いずれの系列においてもCeを含まない比較製造例よりも高い発電特性を維持することがわかった。なかでも、製造例1~4(Ce置換量0.005~0.06:0.00625~0.075:0.005~0.06)は、発電特性の良好な維持能を発揮することがあることがわかった。特に、製造例2~4(Ce置換量0.01~0.06:0.0125~0.075:0.01~0.06)は、初期の発電特性も高くかつその発電特性が低下しにくいことがわかった。
【0101】
以上のことから、熱拡散するSrを含む複合酸化物からなる酸素極のストロンチウム含有ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトの一部においてCeを含めることで、固体電解質(YSZ)と中間層との間にSrZrO3の形成を抑制できること、及びそれによりSOFCモードにおける発電特性を向上する場合があることがわかった。
【0102】
また、このことから、このセルを、SOECとして用いた場合においても、高抵抗相の形成を抑制して電解効率を向上させうることができることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12