(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129416
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】MVA又はMVAΔE3Lの固形腫瘍免疫療法剤としての使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/768 20150101AFI20230907BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230907BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A61K35/768
A61P35/00
C12N7/01 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104951
(22)【出願日】2023-06-27
(62)【分割の表示】P 2021137709の分割
【原出願日】2016-04-18
(31)【優先権主張番号】62/149,484
(32)【優先日】2015-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】デン リアン
(72)【発明者】
【氏名】ウォルコック ジェド
(72)【発明者】
【氏名】マーグホーブ タハ
(72)【発明者】
【氏名】シューマン スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ダイ ペイホン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ウェイイー
(57)【要約】
【課題】悪性腫瘍を治療する方法およびそのための組成物を提供する。また、宿主の免疫系を動員して腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させる。
【解決手段】本開示は、抗癌免疫療法剤として単独で又は1つ以上の免疫チェックポイント遮断剤と併用して、悪性固形腫瘍の治療のために腫瘍内に又は全身的にデリバリーされる、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルス又はMVAAE3Lに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪性固形腫瘍を罹患する対象動物を治療する方法であってMVA及びMVAΔE3L並びに前記の組合せの群から選択される改変ワクシニアウイルスを当該腫瘍の細胞にデリバリーし、それによって当該腫瘍を治療する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
ウイルスの量が下記の1つ以上を惹起するために有効である、請求項1に記載の方法:
a.腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように又は腫瘍に対抗する免疫系による進行中の応答を増強するように対象動物の免疫系を誘導する;
b.腫瘍のサイズを縮小する;
c.腫瘍を根絶する;
d.腫瘍の増殖を阻害する;
e.腫瘍の転移を阻害する;及び
f.転移性腫瘍を縮小させ又は根絶する。
【請求項3】
腫瘍に対抗する免疫応答が下記の1つ以上を達成する、請求項2に記載の方法:
a.腫瘍内及び/又は腫瘍流入領域リンパ節の抗腫瘍細胞傷害性CD8+ T細胞及びエフェクターCD4+ T細胞の少なくとも一方の増加;
b.I型IFNの誘導を介する、腫瘍に浸潤する樹状細胞の成熟の誘導;
c.腫瘍内免疫抑制性(調節性)CD4+ T細胞の減少;
d.腫瘍内の免疫抑制性腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の減少;
e.免疫細胞及び間質線維芽細胞におけるI型IFN、炎症性サイトカイン及びケモカイン生成の誘導。
【請求項4】
MVA又はMVAΔE3Lが腫瘍抗原をコード又は発現する核酸を内包しない、請求項1-3に記載の方法。
【請求項5】
腫瘍が、MVA又はMVAΔE3Lの存在場所に位置する腫瘍又は対象動物の身体のどこか他の場所に位置する腫瘍を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
CD4+エフェクターT細胞の動員及び活性化が腫瘍の調節性CD4+細胞の減少を伴う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍が、メラノーマ又は結腸癌種又は別の固形腫瘍である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが、腫瘍の退縮又は根絶を誘導するまで継続される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが、数週間、数カ月若しくは数年、又は利益が持続するかぎり或いは最大耐性用量に達するまで無期限に継続される、請求項5-8の1項以上に記載の方法。
【請求項10】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが、最大耐性用量に達するまで無期限に継続される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが非経口注射による、請求項5-10の1項以上に記載の方法。
【請求項12】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが腫瘍内注射による、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが静脈内注射による、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
対象動物が人間である、請求項5-13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
MVA又はMVAΔE3Lが、各投与につき約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる、請求項5-14の1項以上に記載の方法。
【請求項16】
MVA又はMVAΔE3Lが、各投与につき約106から約109プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる、請求項5-14に記載の方法。
【請求項17】
デリバリーされる量が全腫瘍細胞に感染するために十分である、請求項1-16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
デリバリーが、1カ月に1回から1週間に2回の範囲内の頻度で繰り返される、請求項5-17の1項以上に記載の方法。
【請求項19】
デリバリーが1週間に1回繰り返される、請求項5-18に記載の方法。
【請求項20】
メラノーマが転移性メラノーマである、請求項5-19に記載の方法。
【請求項21】
MVAがMVAΔE3Lである、請求項1-20のいずれか1項以上に記載の方法。
【請求項22】
対象動物において悪性固形腫瘍を治療する方法であって、下記の免疫学的効果の少なくとも1つを惹起するために有効な量の改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)若しくはMVAΔE3L又は両者の組み合わせを当該対象動物の腫瘍の細胞にデリバリーする工程を含む、前記方法:
a.腫瘍内及び/又は腫瘍流入領域リンパ節のエフェクターCD8+ T細胞及びエフェクターCD4+ T細胞の少なくとも一方の増加;
b.I型IFNの誘導を介する、腫瘍に浸潤する樹状細胞の成熟の誘導;
c.腫瘍内の免疫抑制性(調節性)CD4+ T細胞の減少;
d.腫瘍内の免疫抑制性腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の減少;
e.免疫細胞及び間質線維芽細胞におけるI型IFN、炎症性サイトカイン及びケモカインの生成の誘導。
【請求項23】
MVAΔE3Lが、I型IFNの誘導を介して腫瘍に浸潤する樹状細胞の成熟を誘導する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
有効な量が、腫瘍の細胞を認識するCD4+エフェクターT細胞を対象動物において動員及び活性化するために有効である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
CD4+エフェクターT細胞の動員及び活性化が腫瘍における調節性CD4+細胞の減少を伴う、請求項22-24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
腫瘍が、メラノーマ又は結腸癌種又は別の固形腫瘍である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
MVA又はMVAΔE3Lが感染腫瘍細胞においてI型インターフェロンを誘導する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが、腫瘍の退縮又は根絶を誘導するまで継続される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが、利益が持続するかぎり継続される、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが、最大耐性用量に達するまで継続される、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが腫瘍内若しくは静脈内注射によるか、又は腹腔内転移の場合には腹腔内注射による、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
当該MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが腫瘍内注射による、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーが静脈内注射による、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
対象動物が人間である、請求項22、23、24又は25に記載の方法。
【請求項35】
MVA又はMVAΔE3Lが、各投与につき約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
MVA又はMVAΔE3Lが、各投与につき約106から約109プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
デリバリーされる量が全腫瘍細胞に感染するために十分である、請求項25に記載の方法。
【請求項38】
デリバリーが、1カ月に1回から1週間に2回の範囲内の頻度で繰り返される、請求項25に記載の方法。
【請求項39】
デリバリーが1週間に1回繰り返される、請求項25に記載の方法。
【請求項40】
メラノーマが転移性メラノーマである、請求項25-39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
ウイルスがMVAΔE3Lである、請求項22-40の1項以上に記載の方法。
【請求項42】
対象動物において悪性固形腫瘍を治療する方法であって、当該腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように又は当該腫瘍に対抗する対象動物の進行中の応答を増強するように当該対象動物の免疫系を誘導するために有効な量のMVA若しくはMVAΔE3L又は前記の組合せを当該対象動物の腫瘍細胞にデリバリーして、下記の1つ以上を達成する工程を含む、前記方法:腫瘍サイズの縮小、腫瘍の根絶、腫瘍の増殖阻害、腫瘍の転移性増殖の阻害、腫瘍細胞のアポトーシスの誘導又は対象動物の生存延長。
【請求項43】
対象動物において悪性腫瘍を治療する方法であって、改変ワクシニアアンカラ(MVA)、MVAΔE3L及び前記の組合せから成る群から選択されるウイルスを、当該腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように又は当該腫瘍に対抗する前記対象動物の進行中の応答を増強するように当該対象動物の免疫系を誘導するために有効な量で当該対象動物にデリバリーし、さらに免疫チェックポイント遮断剤又は当該腫瘍内の免疫抑制機構を遮断するために有効な免疫チェックポイントアゴニストの第二の量を当該対象動物に一体的に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項44】
免疫抑制機構が、腫瘍細胞、間質細胞、又は腫瘍浸潤免疫細胞によって惹起される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
投与が非経口ルートによる、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
デリバリーが腫瘍内注射により、さらに投与が静脈内ルートによる、請求項43に記載の方法。
【請求項47】
デリバリー及び投与がともに静脈内ルートによる、請求項43に記載の方法。
【請求項48】
デリバリー及び当該投与がともに腫瘍内注射による、請求項43に記載の方法。
【請求項49】
免疫チェックポイント遮断剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA4阻害剤、LAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)に対する阻害性抗体、TIM3(T細胞免疫グロブリン及びムチン-3)に対する阻害性抗体、B7-H3に対する阻害性抗体及びTIGIT(Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)に対する阻害性抗体から成る群から選択され、さらに当該免疫チェックポイントアゴニストが、抗ICOS抗体、抗OX40抗体、抗4-1BB(CD137)及び抗GITRアゴニスト抗体から成る群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項50】
阻害剤のいずれも抗体である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
腫瘍が、原発性若しくは転移性メラノーマ、又は原発性若しくは転移性結腸癌種である、請求項43に記載の方法。
【請求項52】
ウイルス及び当該免疫チェックポイント遮断剤が、隔たりのある間隔を有するそれ自身の投与スケジュールにしたがって各々デリバリー/投与される、請求項43-46に記載の方法。
【請求項53】
ウイルスの1回目の用量が最初にデリバリーされ、ある時間経過後に当該免疫チェックポイント遮断剤の1回目の用量が投与される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
デリバリー及び投与が同じ全期間の間に並行して行われる、請求項52又は53に記載の方法。
【請求項55】
ウイルス及び免疫チェックポイント遮断剤の一方及び両方が、数週間、数カ月若しくは数年にわたって、又は利益が持続し最大耐性用量に達しないかぎり無期限にそれぞれデリバリー及び投与される、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
ウイルスが、各投与につき約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる、請求項43-55の1項以上に記載の方法。
【請求項57】
ウイルスが、各投与につき約106から約109プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
ウイルスデリバリーが、1カ月に1回から1週間に2回の範囲内の頻度で繰り返される、請求項43-57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
ウイルスデリバリーが1週間に1回繰り返される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
ウイルスがMVAΔE3Lである、請求項43-59の1項以上に記載の方法。
【請求項61】
ウイルスがMVAである、請求項43-59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
ウイルス及び免疫チェックポイント遮断剤が同時に投与される、請求項43-59の1項以上に記載の方法。
【請求項63】
ウイルス及び免疫チェックポイント遮断剤が同じ組成物中で投与される、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
不活化MVA及び当該免疫チェックポイント遮断剤が腫瘍内にデリバリーされる、請求項43-63に記載の方法。
【請求項65】
ウイルス及び当該免疫チェックポイント遮断剤が逐次的に投与される、請求項43に記載の方法。
【請求項66】
不活化MVA及び当該免疫チェックポイント遮断剤が腫瘍内にデリバリーされる、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
固形腫瘍の治療に使用する組成物であって、投与される宿主の免疫系を、腫瘍に対抗して免疫応答を上昇させるように又は腫瘍に対抗する宿主の進行中の免疫応答を増強するように誘導するために有効な量の、MVA及びMVAΔE3L並びに前記の組合せから成る群から選択される改変ワクシニアウイルス、並びに医薬的に許容できる担体又は希釈剤を含む、前記組成物。
【請求項68】
有効な量が単位剤形中に約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内で存在する、請求項67に記載の組成物。
【請求項69】
有効な量が106から109pfuの範囲内である、請求項68に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)本出願は、米国仮特許出願62/149,484(2015年4月17日出願)の優先権を主張する。前記仮特許出願の完全な開示は、参照によって本明細書にその完全な形で含まれる。
(政府援助)本明細書で開示する研究は、米国立衛生研究所のグラントK08AI073736及びR56 AI095692によって提供された補助を受けている。米国政府は本発明で権利を有することができる。
(配列表)本出願は、ASCII様式で電子提出され参照により本明細書にその完全な形で含まれる配列表を含む。前記ASCIIコピー(2016年6月15日作成)は11000-005111-WO0_SL.txtと称され、サイズは3,493バイトである。
(技術分野)
本開示は一般的には腫瘍学、ウイルス学及び免疫療法の分野に関係する。本開示は、ポックスウイルス、具体的には高度に弱毒化され改変されたワクシニアウイルスアンカラ(MVA)及びワクシニア病毒因子E3が欠失した組換え改変ワクシニアアンカラウイルス(MVAΔE3L)の癌免疫療法薬剤としての使用とともに免疫療法ベクターの開発のための使用に関する。前述のポックスウイルスはまた、免疫チェックポイント遮断剤療法と組み合わせて用いることができる。
【背景技術】
【0002】
免疫系及び癌
多くの研究が、癌進行における免疫系成分の弁別的存在の重要性を支持している(1)(Jochems et al., Exp Biol Med, 236(5): 567-579, 2011)。臨床データは、高密度の腫瘍浸潤リンパ球は臨床結果の改善と連繋していることを示唆する(2)(Mlecnik et al., Cancer Metastasis Rev.; 30: 5-12, 2011)。激烈なリンパ球浸潤と患者の生存との間の相関性が、多様なタイプの癌(メラノーマ、卵巣癌、頭頸部癌、乳癌、尿路上皮癌、結腸直腸癌、肺癌、肝細胞癌、胆嚢癌、及び食道癌を含む)で報告されている(3)(Angell et al., Current Opinion in Immunology, 25:1-7, 2013)。腫瘍の免疫浸潤物は、マクロファージ、樹状細胞(DC)、マスト細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナイーブ及びメモリーリンパ球、B細胞並びにエフェクターT細胞(Tリンパ球)を含み、主として、腫瘍細胞によって発現された抗原の認識及びその後のT細胞による腫瘍細胞の破壊に必要である。
癌細胞による抗原の提示及び腫瘍細胞に対して潜在的に作用し得る免疫細胞の存在にもかかわらず、多くの事例で免疫系は活性化されないか、或いは積極的に抑制される。この現象に対する要は、免疫系細胞に強制的に他の免疫系細胞を妨害させることによって自分自身を免疫応答から防御する腫瘍細胞の能力である。腫瘍は多くの免疫調節メカニズムを発達させて抗腫瘍免疫応答を回避する。例えば、腫瘍細胞は、免疫阻害性サイトカイン(例えばTGF-β)を分泌するか、又は免疫細胞(例えばCD4+T調節性細胞及びマクロファージ)を腫瘍病巣で誘導してこれらのサイトカインを分泌する。腫瘍はまた、CD4+T細胞が調節性表現型を発現するように変更させる能力を有する。その総合的な結果は、T細胞応答障害及びアポトーシスの誘導又はCD8+細胞傷害性T細胞の抗腫瘍免疫達成能力の低下である。加えて、腫瘍細胞表面のMHCクラスI発現の腫瘍随伴変化は、免疫応答に対して腫瘍細胞を‘見えないように’する(4)(Garrido et al. Cancer Immunol. Immunother. 59(10), 1601-1606, 2010)。加えて、抗原提示機能及び樹状細胞(DC)の妨害は抗腫瘍免疫の回避に寄与する(5)(Gerlini et al. Am. J. Pathol. 165(6), 1853-1863, 2004)。
【0003】
さらにまた、腫瘍のミクロ環境の局所的な免疫抑制的性質は、免疫編集とあいまって、標的抗原を発現しない癌細胞亜集団の逃亡をもたらし得る。したがって、免疫系の抗腫瘍活性の保存及び/又は回復を促進するアプローチの発見は少なからぬ治療的利益となろう。
免疫チェックポイントは、抗腫瘍免疫の腫瘍媒介ダウンレギュレーションに関係し、治療標的として用いられている。T細胞機能不全は、阻害性受容体、CTLA-4及びプログラム死1ポリペプチド(PD-1)(CD28ファミリー受容体のメンバーである)の発現誘導と同時に生じることが示されている。PD-1はCD28ファミリー受容体の阻害性メンバーである(CD28ファミリー受容体はPD-1の他にCD28、CTLA-4、ICOS及びBTLAを含む)。しかしながら、メラノーマ治療での免疫療法の使用に関する有望性は、当該臨床における使用及び特に抗CTLA-4(イピリブマブ)及び抗PD-1薬(例えばペムブロリズマブ及びニボルマブ)の規制当局の承認によって力説されているが、一方、これらの免疫療法に対する患者の応答は限定的である。T細胞でこれら阻害性シグナルを遮断することに焦点を当てた最近の臨床試験は、T細胞抑制の逆転は免疫療法の成功に必須であることを示した(6、7)(Sharma et al., Science 348(6230), 56-61, 2015;Topalian et al., Curr Opin Immunol. 24(2), 202-217, 2012)。これらの観察は、癌対抗免疫系を利用する新規な治療アプローチの開発の必要性を強調している。
【0004】
ポックスウイルス
ポックスウイルス(例えば操作されたワクシニアウイルス)は、転移癌の腫瘍溶解療法の最前線にある(8)(Kirn et al., Nature Review Cancer 9, 64-71, 2009)。ワクシニアウイルスは大型ウイルスであり、迅速なライフサイクル及び遠位組織への効率的な血行性拡散を示す(9)(Moss, In Fields Virology (Lippincott Williams & Wilkins, 2007, pp.2905-2946)。ポックスウイルスは、癌細胞で多数のトランスジーンを発現し、したがって治療有効性を増強するベクターとしてふさわしい(10)(Breitbach et al., Current pharmaceutical biotechnology 13, 1768-1772, 2012)。前臨床試験及び臨床試験は、通常療法難治性進行癌の治療のために腫瘍溶解ワクシニアウイルス及び他のポックスウイルスを使用することの有効性を示した(11-13)(Park et al., Lacent Oncol 9, 533-542, 2008;Kirn et al., PLoS Med 4, e353, 2007;Thorne et al., J Clin Invest 117, 3350-3358, 2007)。ポックスウイルス系腫瘍溶解療法は、細胞溶解、アポトーシス及び壊死の組み合わせにより癌細胞を殺滅するという利点を有する。この療法はまた、先天的な免疫センシング経路を誘発する(免疫センシング経路は、腫瘍への免疫細胞の動員及び抗腫瘍適応免疫応答の発達を促進する)。臨床試験(例えばJX-594)で従来の腫瘍溶解ワクシニア株は、腫瘍選択性を増強するためにチミジンキナーゼ欠損を有し、さらに免疫応答を刺激するためにトランスジーン(例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF))の発現を示す野生型ワクシニアウイルスを用いる(10)(Breitbach et al., Curr Pharm Biotechnol 13, 1768-1772, 2012)。しかしながら、多くの試験が、野生型ワクシニアウイルスは抗原提示細胞(APC)に対して免疫抑制作用を有し(14-17)(Engelmayer et al., J Immunol 163, 6762-6768, 1999;Jenne et al., Gene therapy 7, 1575-1583, 2000;P. Li et al., J Immunol 175, 6481-6488, 2005;Deng et al., J Virol 80, 9977-9987, 2006)、したがって腫瘍それ自体の免疫抑制作用及び免疫回避作用が増すことを示した。対照的に、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)(高度に弱毒化されたワクシニア株)は適度な免疫活性化作用を有する(18,19)(Drillien et al., J Gen Virol 85, 2167-75 (2004); Dai et al., PLoS Pathog 10(4), e1003989, 2014)。
【0005】
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)は高度弱毒化ワクシニア株であり、感染症及び癌のための重要なワクチンベクターである。MVAはニワトリ胚線維芽細胞で570代以上経過したワクシニア株に由来する。MVAは、親ワクシニアゲノムから31-kbが欠失し、哺乳動物細胞の大半で非複製性である。MVAは、WHO後援天然痘ワクチン接種で120,000人を超える人々で用いられた。その安全性と外来抗原を発現する能力のゆえに、MVAは、HIV、結核、マラリア、インフルエンザ、コロナウイルスだけでなく癌に対してもワクチンベクターとして研究されてきた(20-25)(Sutter et al., Current drug targets. Infectious disorders 3, 263-271, 2003;Gomez et al., Curr Gene Ther 8, 97-120, 2008;Gomez et al., Curr Gene Ther 11, 189-217, 2011;Goepfert et al., J Infect Dis 203, 610-619, 2011;Wyatt et al., Virology 372, 260-272, 2008;Garcia et al., Vaccine 29, 8309-8316 (2011)。
癌療法薬としてのMVAの研究はこれまでのところ、腫瘍抗原を発現するワクチンベクターとしての使用に限定されている(26、27)(Tagliamonte et al. Hum Vaccin Immunother 10, 3332-3346, 2014;Verardi et al., Hum Vaccin Immunother 8, 961-970, 2012)。多様な腫瘍抗原がMVA系ベクターによって発現され、いくつかの組換えウイルスは、様々な臨床試験期を迎えている。例えば、前立腺特異的抗原(PSA)及び前立腺酸ホスファターゼ(PAP)の両方を発現するMVA-PSA-PAPは、転移性前立腺癌の患者のための臨床試験中である。腫瘍抗原ブラキウリ及びT細胞共同刺激分子を発現する組換えウイルスMVA-ブラキウリ-TRICOMもまた、転移癌を有する患者のための臨床試験の最中である。p53腫瘍抑制因子を発現するMVA-p53もまた臨床試験中であり、安全であることが示されている。標的となっている他の腫瘍抗原にはHer2、hMUC-1、TWISTなどが含まれる。
【0006】
MVAは高度に弱毒化され中程度に免疫刺激性であるが、なお多数の免疫抑制性ウイルス遺伝子(重要な病毒因子E3を含む)を保持している。MVAΔE3L(ワクシニア病毒性因子E3の欠失によってさらに弱毒化された組換えMVA)は初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)で複製できないが、ベビーハムスター腎BHK-21細胞でのその複製達成能力を維持している(28)(Hornemann et al., J Virol 77(15), 8394-07, 2003)。MVAΔE3LはCEFでウイルスDNAゲノムを複製することができ、ウイルス後期タンパク質の合成で欠損を有する(28)(Hornemann et al., J Virol 77(15), 8394-07, 2003)。MVAΔE3はまた、CEFでアポトーシスを誘導する(28)(Hornemann et al., J Virol 77(15), 8394-07, 2003)。HeLa細胞のMVAΔE3L感染は類似の効果を示し、ウイルス複製、ウイルス後期遺伝子転写及び翻訳が障害される(29)(Ludwig et al., J Virol 79(4), 2584-2596, 2005)。MVAΔE3LはまたHeLa細胞で、アポトーシスをおそらくはミトコンドリア経路の活性化を介して誘導する(29)(Ludwig et al., J Virol 79(4), 2584-2596, 2005)。dsRNAが中間遺伝子転写中に生成され、2’-5’-オリゴアデニレートシンターゼ/RNase L及びタンパク質キナーゼR(PKR)の活性化をもたらすことができる。PKR欠損MEFでは、MVAΔE3Lは中期及び後期タンパク質を発現する能力を獲得する(29)(Ludwig et al., J Virol 79(4), 2584-2596, 2005)。
ある研究は、前アポトーシスタンパク質NoxaはMVAΔE3Lのアポトーシス誘導で役割を果たすという説を提唱する(30)(Fischer et al., Cell Death Differ 13, 109-118, 2006)。初期の研究は、MVAΔE3LはCEFでMVAよりも高レベルのI型インターフェロンを誘導することを示したが、正確なメカニズムは完全には説明されなかった(28)(Hornemann et al., J Virol 77(15), 8394-07, 2003)。
1つのMVAΔE3Lが米国特許7049145(参照により本明細書に含まれる)に記載されている。これは感染能力を有するが、大半の哺乳動物細胞(マウス及びヒトを含む)で非複製性である。
【0007】
本開示は、抗癌免疫療法剤としてのMVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内デリバリーに焦点を当てる。MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内デリバリーが、腫瘍浸潤免疫細胞(例えば白血球)、腫瘍細胞及び腫瘍随伴間質細胞から先天的免疫応答を引き出し、I型インターフェロン並びに炎症促進性サイトカイン及びケモカインの誘導をもたらすことが期待された(腫瘍の免疫抑制的ミクロ環境の変化を生じるであろう)。
多様な固形腫瘍での腫瘍ネオアンチゲンの最近の発見は、固形腫瘍は通常個々の人間で異なる固有のネオアンチゲンを保有することを示している(31、32)(Castle et al., Cancer Res 72, 1081-1091, 2012;Schumacher et al., Science 348, 69-74, 2015)。本発明で開示する組換えウイルスは、腫瘍抗原を発現することによって機能するものではない。本組換えMVAウイルスの腫瘍内デリバリーは、腫瘍ネオアンチゲンの効率的な相互提示及び腫瘍内の(さらにまた全身的に広がる)抗腫瘍適応免疫の発生を可能にし、したがって腫瘍に対抗する免疫応答の上昇に際して、腫瘍細胞によって発現される腫瘍弁別抗原及びネオアンチゲンを利用して“in situ癌ワクチン免疫”をもたらす。
腫瘍内での体細胞変異によって生じたネオアンチゲンの存在にもかかわらず、腫瘍抗原特異的T細胞の機能は多数の阻害機構によってしばしば妨害される(33)(Mellman et al., Nature 480, 480-489, 2011)。例えば活性化T細胞上の細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)のアップレギュレーションは、T細胞共同刺激因子CD28と競合して、樹状細胞(DC)上のCD80(B71)/CD86(B7.2)と相互作用し、したがってT細胞の活性化及び分裂を阻害し得る。CTLA-4はまた調節性T(Treg)細胞上で発現され、Tregの阻害性機能の媒介で重要な役割を果たす(34、35)(Wing et al., Science 322, 271-275, 2008;Peggs, et al., J Exp Med 206, 1717-1725, 2009)。加えて、腫瘍細胞上のPD-L/PD-L2の発現は、CD28ファミリー(PD-1)の阻害性受容体の活性化を生じ、T細胞消耗をもたらし得る。阻害性受容体(例えばCTLA-4及びプログラム死1ポリペプチド(PD-1))に対する抗体を利用する免疫療法は、動物試験での顕著な前臨床活性及び転移癌を有する患者の臨床応答を示し、転移性メラノーマ、非小細胞肺癌とともに腎細胞癌の治療についてFDAに承認された(6、36-39)(Leach et al., Science 271, 1734-1746, 1996;Hodi et al., NEJM 363, 711-723, 2010;Robert et al., NEJM 364, 2517-2526, 2011;Topalian et al., Cancer Cell 27, 450-461, 2012;Sharma et al., Science 348(6230), 56-61, 2015)。
【0008】
メラノーマ
メラノーマ(もっとも致死的な癌の1つ)は米国及び全世界で最も急増している癌である。その発生率は、主として過剰な日光浴及び日焼け装置の使用により白人の若い女性で1980年以来50%増加した。アメリカ癌協会によれば、2015年に米国ではほぼ78,000人がメラノーマと診断され、ほぼ10,000人(又は1時間に1人)がメラノーマで死亡するであろう。ほとんどの事例で、進行性メラノーマは通常療法(化学療法及び放射線照射を含む)に耐性である。結果として、転移性メラノーマを有する人々は非常に予後が悪く、余命はわずかに6から10カ月である。約50%のメラノーマがBRAF(重要な腫瘍促進遺伝子)に変異を有するという発見は、この疾患で標的療法のための道を開いた。BRAF阻害剤を用いる初期臨床試験は、目覚ましいけれども残念ながら持続性のない応答をBRAF変異メラノーマの患者で示した。したがって、これらの患者とともにBRAF変異を欠くメラノーマ患者のためのまた別の治療戦術が希求される。
ヒトの病理学データは、メラノーマ病巣内のT細胞浸潤物の存在は患者のより長期の生存と正の相関性を有することを示している(40)(Oble et al. Cancer Immun. 9, 3, 2009)。メラノーマに対する防御で免疫系が重要なことは、免疫療法(例えば免疫アクチベーターIFN-α2b及びIL-2(41)(Lacy et al. Expert Rev Dermatol 7(1):51-68, 2012))の部分的成功とともに、免疫チェックポイント療法(単独又は併用療法における抗CTLA-4及び抗PD-1/PD-L1を含む(6、7、37、42-45)(Sharma and Allison, Science 348(6230), 56-61, 2015;Hodi et al., NEJM 363(8), 711-723, 2010;Wolchok et al., Lancet Oncol. 11(6), 155-164, 2010;Topalian et al., NEJM 366(26), 2443-2454, 2012;Wolchok et al., NEJM 369(2), 122-133, 2013;Hamid et al., NEJM 369(2), 134-144, 2013;Tumeh et al., Nature 515(7528), 568-571, 2014))に対する転移性メラノーマ患者の前例のない臨床応答によってさらに支持される。しかしながら、多くの患者が免疫チェックポイント遮断単独療法に対して応答しない。ウイルス療法の追加が免疫チェックポイント遮断に対する耐性を克服する可能性がある(動物腫瘍モデルによって支持されている(46)(Zamarin et al., Sci Transl Med 6(226), 2014))。
【0009】
腫瘍免疫におけるI型インターフェロン及び細胞質ゾルDNAセンシング経路
I型IFNは宿主の抗腫瘍免疫で重要な役割を果たす(47)(Fuertes et al., Trends Immunol 34, 67-73, 2013)。IFNAR1欠損マウスは、腫瘍細胞移植後の腫瘍発育をより受けやすく、自発的な腫瘍特異性T細胞プライミングもまたIFNAR1欠損マウスでは不完全である(48、49)(Diamond et al., J Exp Med 208, 1989-2003, 2011;Fuertes et al., J Exp Med 208, 2005-2016, 2011)。より最近の研究は、細胞質ゾルDNAセンシング経路は腫瘍由来DNAの先天性免疫センシングで重要であることを示した(腫瘍由来DNAは抗腫瘍CD8+ T細胞免疫の発達をもたらす(50)(Woo et al., Immunity 41, 830-842, 2014))。この経路はまた、放射線誘導抗腫瘍免疫でも役割を果たす(51)(Deng et al., Immunity 41, 843-852, 2014)。自発的な抗腫瘍T細胞応答は癌患者で検出することができるが、癌は最終的には大半の患者で抗腫瘍免疫を征服する。腫瘍の免疫抑制的なミクロ環境を変化させる新規な戦術は癌療法のために有益であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、MVA及びMVAΔE3Lの両方が、癌に対抗する免疫療法の開発で効果的に用い得る特性を有するという発見に関連する。MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は腫瘍の退縮及び根絶さえもたらし、さらに全身的抗腫瘍免疫の発生を生じる。したがって、MVA及びMVAΔE3Lはともに固形腫瘍の治療のための免疫療法として用いることができる。さらにまた、MVA系ウイルス療法の腫瘍内デリバリー及び免疫チェックポイント遮断(又はチェックポイントアゴニスト療法)(全身的に又は腫瘍内にデリバリーされる)の併用は、注射実施腫瘍とともに注射非実施遠位腫瘍での抗腫瘍活性の増強をもたらすと期待される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、通常樹状細胞(cDC)のMVA感染は、新たに発見された細胞質ゾルDNAセンサーcGAS(環状GMP-AMPシンターゼ)及びそのアダプターSTING(IFN遺伝子の刺激因子(stimulator of IFN gene))によって媒介される細胞質ゾルDNAセンシング経路を介してI型IFNを誘発することを観察した。対照的に、cDCの野生型ワクシニア感染はI型IFNを誘導しない。本発明者らはまた、ワクシニア病毒因子を欠く組換えMVAウイルス(MVAΔE3L)のcDC感染は、MVAよりも高レベルのI型IFNを誘導することを観察した。前記はまた、cDCでMVAΔE3Lのための先天性免疫センシング経路を活性化し、I型IFN、炎症性サイトカイン及びケモカイン並びにMVA及びMVAΔE3Lによる癌細胞のアポトーシスを誘導する。
これらの観察は、これら高度弱毒化改変ワクシニアウイルスを免疫活性化物質として用いて、腫瘍によって誘導される免疫抑制性ミクロ環境を、I型IFN並びに他の炎症性サイトカイン及びケモカインの腫瘍細胞並びに免疫細胞における誘導を介して変化させることができる(換言すれば、宿主で抗腫瘍免疫応答を誘導するか又は既に進行している可能性がある抗腫瘍応答を増強し、さらにそれらの抑制を逆転させることができる)可能性をもたらす。これは、次には、より効率的な腫瘍抗原の提示、及び抗腫瘍CD8+ T細胞、エフェクターCD4+ T細胞の生成及び活性化とともに免疫抑制性CD4+調節性T細胞及び腫瘍随伴マクロファージの減少をもたらす。MVA及びMVAΔE3Lは安全なワクチンベクターであるので、腫瘍内でのそのようなウイルスベクターの使用は、腫瘍抗原の遊離、効率的な提示、並びに抗腫瘍エフェクター及びメモリーT細胞応答の発生、並びに抗腫瘍抗体生成を可能にする。実際、本発明者らは、腫瘍内で用いられたMVA及びMVAΔE3Lは、樹状細胞の活性化及び腫瘍抗原(発癌性ウイルス抗原、腫瘍弁別抗原及び腫瘍ネオアンチゲンを含む)の提示の改善をもたらすことを観察した。
【0012】
MVA及びMVAΔE3Lの局所的(例えば腫瘍内)注射を腫瘍の多様な病期について用いることができる。初期ステージ癌のためには、腫瘍の外科的除去の2-3週間前にウイルス療法を用いることができる。当該時間枠の間に、宿主は全身的な抗腫瘍適応免疫を発生させていよう。進行癌のためには、ウイルス療法を他の治療様式(外科手術、化学療法、標的療法、放射線照射及び免疫チェックポイント療法を含む)と組み合わせて用いることができる(下記で詳述されるであろう)。
不活化MVAを用いて本発明者らによって入手され、さらにPCT US2016/019663(2016年2月25日出願(参照によりその完全な形で本明細書に含まれる))に記載された結果に基づいて、本発明者らは以下のように仮定する:MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、免疫細胞及び癌細胞でI型IFNを誘導することによってPD-1又はCTLA-4標的アプローチに対し更なる有益な効果を提供し、免疫細胞(樹状細胞を含む)の活性化により腫瘍の免疫抑制的ミクロ環境を変化させるとともに腫瘍抗原提示を促進する。
ある特徴では、本開示は、対象動物で悪性固形腫瘍を治療する方法に関し、前記方法は、当該腫瘍に対抗して例えば上記の発明の概要に示す免疫応答を上昇させるように当該対象動物の免疫系を誘導するために有効な量のMVA又はMVAΔE3Lを当該対象動物の腫瘍細胞にデリバリーして下記の1つ以上(順不同)を達成する工程を含む:腫瘍サイズの縮小、腫瘍の根絶、腫瘍の増殖阻害、腫瘍の転移又は転移性増殖の阻害。
別の特徴では、本開示は悪性腫瘍を治療する方法に向けられ、前記方法は、当該腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように当該対象動物の免疫系を誘導するために有効な量のMVA又はMVAΔE3Lを当該対象動物の腫瘍細胞にデリバリーする工程を含む。
【0013】
いくつかの実施態様では、下記の具体的な特色の1つ以上もまた存在する:
-エフェクターT細胞の動員及び活性化は当該腫瘍の調節性CD4+細胞の減少を伴う;
-当該腫瘍はメラノーマ又は結腸癌種である;
-MVA又はMVAΔE3Lの周期的デリバリーレジメンは、それが腫瘍の退縮又は根絶を誘導するまで継続される;
-MVA又はMVAΔE3Lの周期的デリバリーレジメンは、利益が持続するかぎり数週間、数カ月若しくは数年又は無期限に継続される;
-MVA又はMVAΔE3Lの周期的デリバリーレジメンは、最大耐性用量に達するまで無期限に継続される;
-MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーは非経口注射による;
-MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーは腫瘍内注射による;
-MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーは静脈内注射による;
-対象動物は人間である;
-MVA又はMVAΔE3Lは、各投与につき約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる;
-MVA又はMVAΔE3Lは、各投与につき約106-109プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる;
-デリバリーされる量は全腫瘍細胞に感染するために十分である;
-デリバリーは、1カ月に1回から1週間に2回の範囲内の頻度で繰り返される;
-当該治療は数週間、数カ月又は数年継続する;
-デリバリーは、1カ月に1回から1週間に2回の範囲内の頻度で繰り返される;
-メラノーマは転移性メラノーマである。
【0014】
腫瘍の場所にMVA又はMVAΔE3Lをデリバリーすることによって、当該腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように悪性固形腫瘍罹患対象動物の免疫系が誘導される。腫瘍に対抗する対象動物の免疫系の刺激は、下記の免疫学的効果の1つ以上によって明白であり得る(さらに実際に試験することができる):
-腫瘍内及び/又は腫瘍流入領域リンパ節の抗腫瘍細胞傷害性CD8+ T細胞及びエフェクターCD4+ T細胞の増加;
-前記腫瘍に浸潤する樹状細胞のI型IFNの誘導を介する成熟誘導;
-腫瘍内及び/又は腫瘍流入領域リンパ節で腫瘍細胞を認識する活性化抗腫瘍エフェクターT細胞の対象動物における誘導;
-腫瘍内の免疫抑制性(調節性)CD4+ T細胞の減少;
-腫瘍の細胞が表面でMHCクラスIを発現しI型IFNを産生するように腫瘍の細胞における誘導。
より詳細には、ある特徴では、本開示は、悪性固形腫瘍を罹患する対象動物を治療する方法に向けられ、前記方法は、MVA及びMVAΔE3L並びに前記の組み合わせの群から選択される改変ワクシニアウイルスを腫瘍の細胞にデリバリーしそれによって当該腫瘍を治療する工程を含む。
いくつかの実施態様では、前記ウイルスは下記の1つ以上を引き起こすために有効である:
a.腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように又は腫瘍に対抗する免疫系による進行中の応答を増強するように、対象動物の免疫系を誘導する;
b.腫瘍のサイズを縮小する;
c.腫瘍を根絶する;
d.腫瘍の増殖を阻害する;
e.腫瘍の転移を阻害する;及び
f.転移性腫瘍を縮小させ又は根絶する。
【0015】
別の特徴では、本開示は対象動物で悪性固形腫瘍を治療する方法を提供し、前記方法は、腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように又は腫瘍に対抗する前記対象動物の進行中の応答を増強するように当該対象動物の免疫系を誘導するために有効な量のMVA若しくはMVAΔE3L又はその組合せを当該対象動物の腫瘍細胞にデリバリーして、下記の1つ以上を達成する工程を含む:腫瘍サイズの縮小、腫瘍の根絶、腫瘍の増殖阻害、腫瘍の転移性増殖の阻害、腫瘍細胞のアポトーシスの誘導又は対象動物の生存延長。別の特徴では、本開示は対象動物で悪性固形腫瘍を治療する方法に向けられ、前記方法は、下記の免疫学的効果の少なくとも1つを惹起するために有効な量の改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)若しくはMVAΔE3L又は両ウイルスの組み合わせを対象動物の腫瘍の細胞にデリバリーする工程を含む:
a.腫瘍内及び/又は腫瘍流入領域リンパ節のエフェクターCD8+ T細胞及びCD4+ T細胞の少なくとも一方の増加;
b.前記腫瘍に浸潤する樹状細胞のI型IFNの誘導を介する成熟誘導;
c.腫瘍内の免疫抑制性(調節性)CD4+ T細胞の減少;
d.腫瘍内の免疫抑制性腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の減少;
e.免疫細胞及び間質線維芽細胞におけるI型IFN、炎症性サイトカイン及びケモカインの生成誘導。
f.
【0016】
前述の特徴の各々におけるいくつかの実施態様で、
当該MVA又はMVAΔE3Lは腫瘍抗原をコード又は発現する核酸を含まない;
当該腫瘍は、MVA又はMVAΔE3Lの存在場所に位置する腫瘍又は当該対象動物の身体の他の場所に位置する腫瘍を含む;
CD4+エフェクターT細胞の動員及び活性化は前記腫瘍における調節性CD4+ Tの減少を伴う;
当該腫瘍はメラノーマ又は結腸癌腫又は別の固形腫瘍である;
当該MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーは、それが腫瘍の退縮又は根絶を誘導するまで継続される;
当該MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーは、数週間、数カ月又は数年、或いは利益が持続するかぎり又は最大耐性用量に達するまで無期限に継続される;
当該MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーは、最大耐性用量に達するまで無期限に継続される;当該MVA又はMVAΔE3Lのデリバリーは、非経口的、例えば腫瘍内又は静脈内注射による;当該対象動物は人間である;
当該MVA又はMVAΔE3Lは、各投与につき約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる;
MVA又はMVAΔE3Lは、各投与につき約106-109プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる;
当該デリバリーされる量は全腫瘍細胞に感染するために十分である;
当該デリバリーは、1カ月に1回から1週間に2回の範囲内の頻度で繰り返される;
当該デリバリーは1週間に1回繰り返される;
当該メラノーマは転移性メラノーマである;
当該MVAはMVAΔE3Lである。
さらに別の特徴では、本開示は対象動物で悪性腫瘍を治療する方法を提供し、前記方法は、改変ワクシニアアンカラ(MVA)、MVAΔE3L及びその組合せから成る群から選択されるウイルスを、腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させるように又は腫瘍に対抗する前記対象動物の進行中の応答を増強するように当該対象動物の免疫系を誘導するために有効な量で当該対象動物にデリバリーし、さらに免疫チェックポイント遮断剤又は腫瘍内の免疫抑制機構を遮断するために有効な免疫チェックポイントアゴニストの第二の量を当該対象動物に一体的に投与する工程を含む。
【0017】
より具体的な実施態様では、
当該免疫抑制機構は、腫瘍細胞、間質細胞、又は腫瘍浸潤免疫細胞によって惹起される;当該投与は非経口ルートによる;
当該デリバリーは腫瘍内注射により、さらに当該投与は静脈内ルートによる;
当該デリバリー及び当該投与はともに静脈内ルートによる;
当該デリバリー及び当該投与はともに腫瘍内注射による;
当該免疫チェックポイント遮断剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA4阻害剤、LAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)、TIM3(T細胞免疫グロブリン及びムチン-3)、B7-H3及びTIGIT(Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)に対抗する阻害性抗体から成る群から選択され;さらに当該免疫チェックポイントアゴニストは、抗ICOS抗体、抗OX40抗体、抗4-1BB(CD137)及び抗GITRアゴニスト抗体から成る群から選択される;
前記阻害剤又はアゴニストのいずれも抗体である;
当該腫瘍は、原発性若しくは転移性メラノーマ、又は原発性若しくは転移性結腸癌種、又は別の固形腫瘍である;
当該ウイルス及び当該免疫チェックポイント遮断剤は、隔たりのある間隔のそれ自身の投与スケジュールにしたがって各々デリバリー/投与される;
当該ウイルスの1回目の用量が最初に投与され、ある時間経過後に当該免疫チェックポイント遮断剤の1回目の用量が投与される;
当該デリバリー及び投与は同じ全期間の間に並行して行われる;
当該ウイルス及び免疫チェックポイント遮断剤の一方及び両方は、数週間、数カ月若しくは数年の期間にわたって、又は利益が持続し最大耐性用量に達しないかぎり無期限にそれぞれデリバリー及び投与される;
当該ウイルスは、各投与につき約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる;
当該ウイルスは、各投与につき約106-109プラーク形成単位(pfu)の範囲内の投薬量でデリバリーされる;
当該ウイルスデリバリーは、1カ月に1回から1週間に2回の範囲内の頻度で繰り返される;当該ウイルスデリバリーは1週間に1回繰り返される;
当該ウイルスはMVAΔE3Lである;
当該対象動物は人間である;
当該ウイルスはMVAである;
当該ウイルス及び当該免疫チェックポイント遮断剤又はアゴニストは同時に投与される;当該ウイルス及び当該免疫チェックポイント遮断剤又はアゴニストは同じ組成物中で投与される;
当該MVA及び当該免疫チェックポイント遮断剤は腫瘍内にデリバリーされる;
当該ウイルス及び当該免疫チェックポイント遮断剤は逐次的に投与される;
当該不活化MVA及び当該免疫チェックポイント遮断剤は腫瘍内にデリバリーされる。
【0018】
追加の特徴で、本開示は固形腫瘍の治療で使用される組成物を提供し、前記組成物は、前記組成物を投与される宿主の免疫系が当該腫瘍に対抗して免疫応答を上昇させるように又は腫瘍に対抗して進行中の宿主の免疫応答を増強するように宿主の免疫系を誘導するために有効なMVA及びMVAΔE3L及びその組合せから成る群から選択される改変ワクシニアウイルスのある量、及び医薬的に許容できる担体又は希釈剤を含む。
当該組成物のより具体的な実施態様では、当該有効な量は、単位剤形中に約105-1010プラーク形成単位(pfu)の範囲内であるか、又は有効な量は106-109プラークpfuの範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】MVAがげっ歯類のcDCでI型IFNを誘導することを示すデータを一連のグラフで表したものである。
図1Aは、WT VAC又はMVAの注射後1、4、8、14及び22時間のGM-CSF-BMDCにおけるIFN-α及びIFN-βの分泌レベルを示すグラフである。
図1Bは、WT VAC又はMVAの注射後6時間のGM-CSF-BMDCにおけるIFNA4及びIFNBのmRNAレベルを示す棒グラフである。
【
図2】転写因子IRF3/IRF7及びIFNAR1によって媒介される正のI型IFNフィードバックが、げっ歯類cDCにおけるMVAによるI型IFNの誘導に必要であることを示す一連の棒グラフである。
図2A-2Cは、IRF3
-/-(2A)、IRF7
-/-(2B)、IFNAR1
-/-(2C)マウス又はそれらの齢合致WTコントロールから作製したGM-CSF-BMDCにおけるIFN-α及びIFN-βの濃度の棒グラフである。データは算術平均±SEMである(n=3)。代表的な実験が示され、2回繰り返されている。
*はp<0.05、
**はp<0.01、
***はp<0.001。
【
図3A-B】STINGは、BMDCにおけるMVAによるI型IFN及びIRF3リン酸化の誘導に必要であることを示す一連のグラフである。
図3Aは、Sting
+/+及びSting
Gt/Gtマウスから作製しLPSで刺激するか又はMVAを感染させたGM-CSF-BMDC細胞のIFN-α及びIFN-βの分泌レベルの棒グラフを示す。
図3Bは、Sting
+/+及びSting
Gt/Gtマウスから作製しMVAを感染させたGM-CSF-BMDC細胞のIFNA4及びIFNBのmRNA発現レベルを示す。データは算術平均±SDである。結果は独立した2つの実験の代表例である。
【
図3C-D】STINGは、BMDCにおけるMVAによるI型IFN及びIRF3リン酸化の誘導に必要であることを示す一連のグラフである。
図3Cは、ホスホ-TBK1、TBK1、IRF3のホスホセリン-396、IRF3及びGAPDHのタンパク質レベルを示す免疫ブロットの走査画像である。“hpi”は感染後時間であり“M”は模擬感染コントロールである。
図3Dは、MVAを感染させたSting
Gt/Gt、IRF3
-/-及び齢合致WT C57B/6コントロールマウスのIFN-α及びIFN-βの分泌レベルを示す棒グラフである。データは算術平均±SDである。結果は独立した2つの実験の代表例である。
【
図4】cGASはcDCのMVA感染のための重要な細胞質ゾルDNAセンサーであることを示す一連のグラフである。
図4Aは、cGAS
-/-マウス及びその齢一致WTコントロールから作製しMVAを感染させたGM-CSF-BMDCのIFN-α及びIFN-βの分泌レベルを示す棒グラフである。データは算術平均±SEMである(n=3)。代表的な実験が示され、2回繰り返されている(
***はp<0.001)。
図4Bは、cGAS
-/-マウス及びその齢合致WTコントロールから作製しMVAを感染させたGM-CSF-BMDCのIFNA4及びIFNBのmRNA発現レベルを示す棒グラフである。データは算術平均±SEMである(n=3)。代表的な実験が示され、2回繰り返されている(
***はp<0.001)。
図4Cは、MVAを感染させたcGAS
+/+及びcGAS
-/- cDCにおけるホスホ-TBK1、TBK1、IRF3のホスホセリン-396、IRF3及びGAPDHのタンパク質レベルを示す免疫ブロットの走査画像である。“hpi”は感染後時間である。
【
図5A-B】MVAΔE3LはMVAよりも高レベルのI型IFN遺伝子発現をBMDCで誘導することを示す一連のグラフである。
図5Aは、WT VAC、MVA又はMVAΔE3Lを感染させたGM-CSF-BMDCにおけるE3及びβ-アクチンタンパク質レベルを示す免疫ブロットの走査画像である。“hpi”は感染後時間であり“M”は模擬感染コントロールである。
図5Bは、MVA又はMVAΔE3Lを感染させたGM-CSF-BMDCにおけるIFNA4及びIFNBのmRNAレベルを示す棒グラフである。データは算術平均±SEMである(n=3)。代表的な実験が示され、2回繰り返されている。
***はp<0.001であり、比較はMVA及びMVAΔE3L感染細胞との間で実施した。
【
図5C-D】MVAΔE3LはMVAよりも高レベルのI型IFN遺伝子発現をBMDCで誘導することを示す一連のグラフである。
図5Cは、IRF3
-/-マウス及び齢合致WT C57B/6マウスから作製しMVA又はMVAΔE3Lを感染させたGM-CSF-BMDCにおけるIFNA4及びIFNBのmRNAレベルを示す棒グラフである。データは算術平均±SEMである(n=3)。代表的な実験が示され、2回繰り返されている。
***はp<0.001であり、比較はMVA及びMVAΔE3L感染細胞との間で実施した。
図5Dは、MVA又はMVAΔE3Lを感染させたGM-CSF-BMDCにおけるp-IRF3及びβ-アクチンのタンパク質レベルを示す免疫ブロットの走査画像である。
【
図6】cGASはcDCのMVAΔE3LによるI型IFN誘導に必要であることを示す一連のグラフである。
図6Aは、MVAΔE3L感染cGAS
+/+及びcGAS
-/- cDCのIFNA4及びIFNBのmRNAレベルを示す棒グラフを含む。
図6Bは、MVAΔE3Lを感染させた、又はcGAMP(STINGのためのアゴニスト)で処理したcGAS
+/+及びcGAS
-/- cDCにおけるIFN-α及びIFN-βの分泌レベルを示す棒グラフを含む。
図6Cは、MVAΔE3L感染cGAS
+/+及びcGAS
-/- cDCのp-IRF3及びGAPDHのタンパク質レベルを示す免疫ブロットの走査画像である。
【
図7】dsRNAセンシング経路はまたIRF3のMVAΔE3L誘導リン酸化で役割を果たすことを示すウェスタンブロットデータの一連の走査画像である。
図1Aは、WT、Sting
Gt/Gt、又はMAVS
-/-マウスから作製しMVAΔE3Lを感染させるか又は当該処理を実施しなかった(NT)cDCにおけるp-IRF3及びβ-アクチンのタンパク質レベルを示す。“hpi”は感染後時間である。
図7Bは、WT又はSTING
Gt/Gt/MDA5
-/-(DKO)マウスから作製しMVAΔE3L又はMVAを感染させたcDCにおけるホスホ-TBK1、TBK1、IRF3のホスホセリン-396、IRF3及びGAPDHのタンパク質レベルを示す。“hpi”は感染後時間である。
【
図8A-D】げっ歯類初代線維芽細胞のMVA及びMVAΔE3L感染は、Ifnb(
図8A)、Ccl4(
図8B)、Il6(
図8C)及びCcl5(
図8D)の遺伝子発現の誘導をもたらし、大いにcGAS依存性であることを示す一連の棒グラフである。“NT”は無処理を表す。 MVAΔE3Lによって誘導されるIfnb(
図8E)、Ccl4(
図8F)、Il6(
図8G)及びCcl5(
図8H)の発現は、STING及びMDA5二重欠損げっ歯類の初代線維芽細胞では完全に停止した。
【
図8E-H】げっ歯類初代線維芽細胞のMVA及びMVAΔE3L感染は、Ifnb(
図8A)、Ccl4(
図8B)、Il6(
図8C)及びCcl5(
図8D)の遺伝子発現の誘導をもたらし、大いにcGAS依存性であることを示す一連の棒グラフである。“NT”は無処理を表す。 MVAΔE3Lによって誘導されるIfnb(
図8E)、Ccl4(
図8F)、Il6(
図8G)及びCcl5(
図8H)の発現は、STING及びMDA5二重欠損げっ歯類の初代線維芽細胞では完全に停止した。
【
図9】げっ歯類初代線維芽細胞のMVA及びMVAΔE3L感染は、IFN-β(
図9A)、CCL4(
図9B)、IL-6(
図9C)及びCCL5(
図9D)の生成をもたらし、大いにSTING依存性であり、MDA5からはいくらかの寄与があることを示す一連の棒グラフである。
【
図11】MVA又はMVAΔE3LによるB16-F10メラノーマ細胞の感染はアポトーシスを誘導することを示す一連の免疫ブロット走査画像である。
図11Aは、MVA又はMVAΔE3Lを感染させたB16-F10メラノーマ細胞におけるPARP、切断PARP及びβ-アクチンのタンパク質レベルを示す。
図11Bは、MVA又はMVAΔE3Lを感染させたB16-F10メラノーマ細胞におけるMCL-1及びβ-アクチンのタンパク質レベルを示す。“hpi”は感染後時間である。
図11Cは、MVA又はMVAΔE3Lを感染させたB16-F10メラノーマ細胞におけるリン酸化IRF3及びGAPDHのレベルを示す。“hpi”は感染後時間である。
【
図12A-C】MVA及びMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、担癌マウスの生存延長及びいくつかのマウスの腫瘍根絶をもたらすことを示す一連のグラフである。
図12A-Cは、PBS(A)、MVA(B)及びMVAΔE3L(C)を注射した個々のマウスの時間経過時の腫瘍体積を示すグラフである。
【
図12D-E】MVA及びMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、担癌マウスの生存延長及びいくつかのマウスの腫瘍根絶をもたらすことを示す一連のグラフである。
図12Dは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lを注射した担癌マウスのカプランマイヤー生存曲線である。
****はp<0.0001(MVA対PBSグループ);
***はp<0.001(MVAΔE3L対PBSグループ)。
図12Eは、MVA又はMVAΔE3Lで首尾よく処理し、さらに対側側面でB16-F10メラノーマ細胞によりチャレンジした後の担癌マウスのカプランマイヤー生存曲線である。ナイーブマウスは腫瘍細胞又はウイルスをこれまで全く投与されていない。
【
図13A-F】MVAの腫瘍内注射は腫瘍のミクロ環境で免疫学的変化を生じることを示すデータを表す一連のグラフである。
図13A-Bは、PBS(13A)又はMVA(13B)で処理した腫瘍におけるFoxP3発現CD4
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図13D-Eは、PBS(13D)又はMVA(13E)で処理した腫瘍におけるグランザイムB発現CD8
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
【
図13G-I】MVAの腫瘍内注射は腫瘍のミクロ環境で免疫学的変化を生じることを示すデータを表す一連のグラフである。
図13G-Hは、PBS(13G)又はMVA(13H)で処理した腫瘍におけるKi-67発現CD8
+細胞のフローサイトメトリー分析の散布図である。
図13Cは、PBS又はMVAで処理した腫瘍のCD4
+FoxP3
+細胞のパーセンテージを表すグラフである。
図13Fは、PBS又はMVAで処理した腫瘍のグランザイムB
+CD8
+細胞のパーセンテージを表すグラフである。
図13Iは、PBS又はMVAで処理した腫瘍のCD8
+Ki-67
+細胞のパーセンテージを表すグラフである。
【
図14】MVAの腫瘍内注射は腫瘍流入領域リンパ節(TDLN)で免疫学的変化を誘導することを示すデータを表す一連のグラフである。
図14A-Bは、PBS(14A)又はMVA(14B)処理マウスのTDLNにおけるグランザイムB
+CD8
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図14C-Dは、PBS(14D)又はMVA(14E)処理マウスのTDLNにおけるKi-67
+CD8
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図14Cは、PBS又はMVAで処理したマウスのTDLNのグランザイムB
+CD8
+細胞のパーセンテージを表すグラフである。
図14Fは、PBS又はMVAで処理したマウスのTDLNのCD8
+Ki-67
+細胞のパーセンテージを表すグラフである。
【
図15A-D】MVAΔE3Lは、MC38結腸癌細胞でI型IFN及び炎症性サイトカイン/ケモカイン生成を誘導することを示す一連のグラフである。
図15A-Dは、MVA又はMVAΔE3Lを感染させたMC38結腸癌細胞の上清におけるIFN-β(15A)、IL-6(15B)、CCL4(15C)及びCCL5(15D)のタンパク質レベルを示す棒グラフである。
【
図15E-I】MVAΔE3Lは、MC38結腸癌細胞でI型IFN及び炎症性サイトカイン/ケモカイン生成を誘導することを示す一連のグラフである。
図15E-Hは、MVA又はMVAΔE3Lの感染後6時間におけるMC38結腸癌細胞のIfnb(15A)、Il6(15B)、Ccl4(15C)及びCcl5(15D)のmRNAレベルを示す棒グラフである。
図15Iは、PARP、切断PARP、ホスホ-IRF3、IRF3及びβ-アクチンのタンパク質レベルを示すウェスタンブロットの走査画像である。“hpi”は感染後時間である。
【
図16】MVAΔE3Lはげっ歯類結腸癌モデルで腫瘍形成を阻害することを示す一連のグラフである。
図16A及び16BはマウスにおけるPBS又はウイルス注射後の腫瘍体積対時間の図表であり、MVAΔE3Lの腫瘍内注射は、マウス(C57B/6)の片側に移植したげっ歯類結腸腺癌(MC38細胞)の治療に有効であることを示す。処置前(0日目)及び処置後45日までのPBS又はMVAΔE3L処置グループマウスの腫瘍体積が示されている。
図16Cは、処置マウス(MVAΔE3L)対コントロールマウス(PBS)のカプランマイヤー生存曲線である。
***はp<0.001(MVAΔE3L対PBSグループ)。
【
図17A-F】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、げっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルにおいて注射非実施遠位腫瘍で抗腫瘍効果を誘導することを示すデータを表す一連のグラフである。
図17A-Fは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lをそれぞれ注射した後の期間(日数)に対する注射実施腫瘍(A、C、E)及び注射非実施腫瘍(B、D、F)の体積を示すグラフである。
【
図17G】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、げっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルにおいて注射非実施遠位腫瘍で抗腫瘍効果を誘導することを示すデータを表す一連のグラフである。
図17Gは、PBS(黒丸)、MVA(黒四角)又はMVAΔE3L(黒三角)を注射した担癌マウス(B16-F10細胞)のカプランマイヤー生存曲線である。
****はp<0.0001(MVAΔE3L対PBSグループ)、
***はp<0.001(MVA対PBSグループ)。
【
図18A-B】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、活性化CD8
+及びCD4
+ T細胞を誘導し、さらにげっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルの注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方において調節細胞CD4
+ T細胞を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。(
*はp<0.05、
**はp<0.01、
***はp<0.001、
****はp<0.0001)。
【
図18C-D】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、活性化CD8
+及びCD4
+ T細胞を誘導し、さらにげっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルの注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方において調節細胞CD4
+ T細胞を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。
図18C及びEは、グランザイムB
+(18C)又はKi-67(18E)を発現するCD8
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図18D及びFは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方における%CD8
+グランザイムB
+(18D)、CD8
+Ki-67
+(18F)T細胞のグラフである。(
*はp<0.05、
**はp<0.01、
***はp<0.001、
****はp<0.0001)。
【
図18E-F】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、活性化CD8
+及びCD4
+ T細胞を誘導し、さらにげっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルの注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方において調節細胞CD4
+ T細胞を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。
図18C及びEは、グランザイムB
+(18C)又はKi-67(18E)を発現するCD8
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図18D及びFは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方における%CD8
+グランザイムB
+(18D)、CD8
+Ki-67
+(18F)T細胞のグラフである。(
*はp<0.05、
**はp<0.01、
***はp<0.001、
****はp<0.0001)。
【
図18G-H】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、活性化CD8
+及びCD4
+ T細胞を誘導し、さらにげっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルの注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方において調節細胞CD4
+ T細胞を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。
図18Gは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方におけるCD4
+Foxp3
+ T細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図18Hは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方における%CD4
+Foxp3
+T細胞のグラフである。(
*はp<0.05、
**はp<0.01、
***はp<0.001、
****はp<0.0001)。
【
図18I-J】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、活性化CD8
+及びCD4
+ T細胞を誘導し、さらにげっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルの注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方において調節細胞CD4
+ T細胞を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。
図18I及びKは、グランザイムB
+(18I)又はKi-67(18K)を発現するCD4
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図18J及びLは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方における%CD4
+グランザイムB
+(18J)、CD8
+Ki-67
+(18L)T細胞のグラフである。(
*はp<0.05、
**はp<0.01、
***はp<0.001、
****はp<0.0001)。
【
図18K-L】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、活性化CD8
+及びCD4
+ T細胞を誘導し、さらにげっ歯類B16-F10メラノーマ両側移植モデルの注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方において調節細胞CD4
+ T細胞を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。
図18I及びKは、グランザイムB
+(18I)又はKi-67(18K)を発現するCD4
+細胞のフローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図18J及びLは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した注射実施腫瘍及び注射非実施腫瘍の両方における%CD4
+グランザイムB
+(18J)、CD8
+Ki-67
+(18L)T細胞のグラフである。(
*はp<0.05、
**はp<0.01、
***はp<0.001、
****はp<0.0001)。
【
図19A】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、げっ歯類B16-F10メラノーマモデルにおいて腫瘍随伴マクロファージ(TAM)を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。
図19Aは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した腫瘍のTAM細胞(CD45
+Ly6C
-MHCII
+CD24
loF4/80
+CD11b
+CD11c
+)フローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図19B-Dは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した腫瘍のCD45
+細胞中の%TAM、TAM1(CD11C
loCD11b
hi)、及びTAM2(CD11C
hiCD11b
lo)のグラフである。(
*はp<0.05、nsは有意でないことを示す)。
【
図19B-D】MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、げっ歯類B16-F10メラノーマモデルにおいて腫瘍随伴マクロファージ(TAM)を減少させることを示すデータを表す一連のグラフである。
図19Aは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した腫瘍のTAM細胞(CD45
+Ly6C
-MHCII
+CD24
loF4/80
+CD11b
+CD11c
+)フローサイトメトリー分析のドットプロットである。
図19B-Dは、PBS、MVA又はMVAΔE3Lで処置した腫瘍のCD45
+細胞中の%TAM、TAM1(CD11C
loCD11b
hi)、及びTAM2(CD11C
hiCD11b
lo)のグラフである。(
*はp<0.05、nsは有意でないことを示す)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義:
本明細書で用いられるように、以下の用語は、文脈が明瞭に別の意味を指示していないかぎり、それら用語に対して割り当てられた下記の意味を有するであろう。
“癌”は、制御不能の細胞の増殖を特徴とする、1つのクラスの人間及び動物の疾患を指す。明瞭にそうではないと指示されないかぎり、“癌”という用語は、本明細書では“腫瘍”、“悪性疾患”、“過分裂”及び“新形成”という用語と互換的に用いることができる。“癌細胞”という用語は、“腫瘍細胞”、“悪性細胞”、“過分裂細胞”及び“新形成細胞”という用語と互換性である。
“メラノーマ”は、メラニンを産生できる細胞に起源を発する悪性新形成を指す。メラノーマという用語は“悪性メラノーマ”と同義である。メラノーマは、患者のリンパ節、皮膚、肝、肺及び脳組織を含み広範囲に転移する。
“固形腫瘍”は、全ての新形成細胞増殖及び分裂、並びに全ての前癌性及び癌性細胞及び組織を指すが、ただし血液癌(例えばリンパ腫、白血病及び多発性骨髄腫を含む)を除く。固形腫瘍の例には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):軟組織肉腫、例えば線維肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍及び他の骨腫瘍(例えば骨肉腫、悪性線維性組織球腫)、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌種、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎生期癌、ウイルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、脳/CNS腫瘍(例えば星状細胞腫、神経膠腫、神経膠芽腫、小児腫瘍(例えば非定型奇形腫様/横紋筋肉腫様腫瘍、胚細胞腫瘍、胚芽腫、上衣細胞種)、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起神経膠腫、髄膜腫、メラノーマ、神経芽腫、及び網膜芽腫。本開示の組成及び方法が有用なもっとも一般的な固形腫瘍のいくつかには以下が含まれる:頭頸部癌、直腸腺癌、神経膠腫、髄芽腫、尿路上皮癌、膵腺癌、子宮の癌(例えば子宮内膜癌、卵管癌)、卵巣癌、子宮頸部癌、前立腺腺癌、非小細胞肺癌、(扁平上皮癌及び腺癌)、小細胞肺癌、メラノーマ、乳癌、乳管上皮内癌(ductal carcinoma in situ)、腎細胞癌、及び肝細胞癌、副腎腫瘍(例えば副腎皮質癌腫)、食道の、眼の(例えばメラノーマ、網膜芽細胞腫)、胆嚢の、胃腸管の腫瘍、ウイルムス腫瘍、心臓の頭部の及び頸部の腫瘍、喉頭及び下咽頭の、口部の(例えば舌、口、唾液腺)、鼻咽頭の腫瘍、神経芽腫、腹腔の、脳下垂体の腫瘍、カポジ肉腫、小腸の、胃の、精巣の、胸腺の、甲状腺の、副甲状腺の腫瘍、膣の腫瘍、並びに前述のいずれかの転移。
【0021】
“転移”は、その原発部位から近傍組織又は身体の遠位位置への癌の拡散を指す。癌細胞は原発腫瘍から離脱してリンパ管及び血管に浸透し、血流を通して循環し、身体の別の場所の正常組織で増殖することができる。転移は連続的プロセスであり、原発腫瘍から離脱した腫瘍細胞(又は癌幹細胞)で起こりがちで、血流又はリンパ管に載って移動して遠位部位で停止する。いったん別の部位で停止すると、癌細胞は血管又はリンパ管壁を再度浸透し、増加を続けて最終的に新腫瘍(転移性腫瘍)を形成する。いくつかの実施態様では、この新腫瘍は転移性(二次)腫瘍と称される。
“免疫応答”は、リンパ球、抗原提示細胞、食作用細胞、顆粒球、及び前記細胞又は肝臓によって生成される可溶性巨大分子(抗体、サイトカイン及び補体を含む)の1つ以上の作用を指し、前記作用は、癌性細胞、転移性腫瘍細胞などの選択的損傷、破壊又は人体からの排除をもたらす。免疫応答は、細胞性応答、例えばT細胞応答を含むことができる。T細胞応答は、細胞機能(すなわちT細胞機能)の変更(調整、例えば顕著な増強、刺激、活性化、障害又は阻害)である。T細胞応答は、個々のタイプのT細胞、又はT細胞サブセット(例えばエフェクターCD4+、CD4+ヘルパー、エフェクターCD8+、細胞傷害性CD8+、又はナチュラルキラー(NK)細胞)の発生、分裂若しくは拡張、又は刺激を含むことができる。そのようなT細胞サブセットは、1つ以上の細胞受容体又は細胞表面分子(例えばCD又は分化分子クラスター)を検出することによって同定できる。T細胞応答はまた、細胞性因子、例えば可溶性メディエーターの発現変更(統計的に有意な増加又は減少)を含むことができる。前記メディエーターは、他の細胞の分化又は分裂に影響を与える、例えばサイトカイン、リンホカイン、サイトカイン結合タンパク質、又はインターロイキンである。例えば、I型インターフェロン(IFN-α/β)は、先天性免疫の重要な調節因子である(52)(Huber et al. Immunology 132(4):466-474, 2011)。動物及び人間の研究によって、抗原認識抗腫瘍免疫応答の初期相でCD4+及びCD8+の両T細胞の運命に直接的に影響を与えるIFN-α/βの役割が示された。I型IFNは、樹状細胞、続いて先天性免疫系の見張り番の活性化に応答して誘導される。
“腫瘍免疫”は、腫瘍が免疫系による認識及び除去を回避するプロセスを指す。したがって、治療概念としては、腫瘍免疫は、そのような回避が弱められるか排除されるときに“治療”され、腫瘍は免疫系によって認識及び攻撃される(後者は本明細書では“抗腫瘍免疫”と称される)。腫瘍認識の例は腫瘍結合であり、腫瘍攻撃の例は、腫瘍縮小(数、サイズ又はその両方)及び腫瘍除去である。
【0022】
“T細胞”は、多様な細胞媒介適応免疫反応に加わる胸腺由来リンパ球を指す。
“ヘルパーT細胞”はCD4+T細胞を指し、ヘルパーT細胞はMHCクラスII分子に結合した抗原を認識する。少なくとも2つのタイプのヘルパーT細胞、Th1及びTh2が存在し、これらは異なるサイトカインを産生する。
“細胞傷害性T細胞”は、通常その表面にCD8分子マーカーを保有し(CD8+)、特異的な抗原分子をその表面に有する標的細胞を破壊することによって細胞媒介免疫で機能するT細胞を指す。細胞傷害性T細胞はまたグランザイムを放出する(グランザイムは、パーフォリン形成孔を介して標的細胞に侵入してアポトーシス(細胞死)を誘導できるセリンプロテアーゼである)。グランザイムは細胞傷害性表現型のマーカーとして役立つ。細胞傷害性T細胞の他の名称には、CTL、細胞溶解性T細胞、細胞溶解性Tリンパ球、キラーT細胞、又はキラーTリンパ球が含まれる。細胞傷害性T細胞の標的には、ウイルス感染細胞、細菌感染又は寄生原性生物感染細胞、又は癌細胞が含まれ得る。ほとんどの細胞傷害性T細胞はその細胞表面に存在するタンパク質CD8を有する。CD8はクラスI MHC分子部分に引き付けられる。典型的には、細胞傷害性T細胞はCD8+細胞である。
“腫瘍浸潤白血球”は、癌(例えばメラノーマ)に罹患した対象動物の白血球であって、腫瘍内在性であるか、あるいは循環(血液又はリンパ液)を出て腫瘍に移動してきている白血球を指す。
“免疫チェックポイント阻害剤”又は“免疫チェックポイント遮断剤”は、1つ以上のチェックポイントタンパク質の活性を完全に又は部分的に低下させるか、阻害するか、干渉するか又は調整する分子を指す。チェックポイントタンパク質はT細胞の活性化又は機能を調節する。チェックポイントタンパク質には、CD28受容体ファミリーメンバー、CTLA-4とそのリガンドCD80及びCD86;PD-1とそのリガンドPDL1及びPDL2;LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、ICOS及びBTLAが含まれるが、ただしこれらに限定されない(53)。
治療物質の投与の関係で用いられるとき、“非経口”は消化管経由投与以外の任意の投与ルートを含む。特に本明細書で開示される方法に対応するものは、静脈内(例えば肝門脈経由を含む)、腫瘍内又は髄腔内投与である。
“抗体”は、特異的に抗原と結合する免疫グロブリン分子又はそのような分子の抗原結合フラグメントを指す。したがって、抗体は、天然供給源又は組換え供給源から誘導される完全な免疫グロブリンであっても、完全な免疫グロブリンの免疫反応(抗原結合)フラグメント又は部分であってもよい。抗体は多様な形態で存在できる。前記形態には、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、Fab及びF(ab)2とともに単鎖抗体(scFv)、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト組換え抗体並びに二及び三特異性抗体が含まれる。
【0023】
“腫瘍溶解ウイルス”は、優先的に癌細胞に感染してそのような細胞で複製し、その複製プロセスを通して癌細胞の溶解を誘導するウイルスを指す。天然に存在する腫瘍溶解ウイルスの非限定的な例には、水疱性口内炎ウイルス、レトロウイルスとともに腫瘍選択性であるように操作されたウイルス、例えばアデノウイルス、ニューカッスル病ウイルス及び単純ヘルペスウイルスが含まれる(例えば以下を参照されたい:Nemunaitis, J. Invest New Drugs. 17(4):375-86, 1999;Kirn, DH et al. Nat Rev Cancer. 9(1):64-71, 2009;Kirn et al. Nat. Med. 7:781, 2001;Coffey et al. Science 282:1332, 1998)(8、54-56)。ワクシニアウイルスは多くのタイプの細胞に感染するが、以下の事実のために腫瘍細胞で優先的に複製する:腫瘍細胞は複製に有利な代謝をもち、さらにまた複製に有利なある種の経路の活性化を示し、先天性免疫系を回避する環境を作り出す(このことはまたウイルスの複製に有利である)。本開示の関係では、MVA及びMVAΔE3Lは腫瘍溶解ウイルスの定義には適合しない。なぜならば、MVA及びMVAΔE3Lは、腫瘍細胞内部で複製してアポトーシスを引き起こし本来は抗腫瘍作用を生じないからである。(さらにまた前記ウイルスは腫瘍抗原を発現しないのでワクチンの古典的定義に合致しない。しかしながら、それらは腫瘍に対抗する宿主の免疫応答を増強するので、MVA及びMVAΔE3Lは免疫刺激分子(アジュバントと同族)として機能すると言えよう)。
“MVA”は“改変ワクシニアアンカラ”を意味し、アンカラ株に由来する、ワクチン及びワクチンアジュバントとして使用するために開発された高度弱毒化ワクシニア株を指す。元のMVAはニワトリ胚細胞での連続継代によって野生型アンカラ株から単離された。このように処理されて、野生型ワクシニアのゲノムの15%(霊長類(ヒトを含む)において効率的に複製するその能力を含む)を失った(57)(Mayr et al., Zentralbl Bakteriol B 167, 375-390, 1978)。天然痘のワクチン免疫株MVAのマーカー、遺伝子構造、非経口ワクチン免疫により得られた経験、及び防御メカニズムが衰退した生物におけるふるまいから、MVAは遺伝子用組換えベクターとして、又は感染病若しくは腫瘍に対するワクチンデリバリーとして開発するために相応しい候補と考えられる(58)(Verheust et al., Vaccine 30(16), 2623-2632, 2012)。MVAは長さが178kbのゲノムを有し、配列は最初Antoineらの論文で開示された(59)(Antoine et al., Virol. 244(2): 365-396, 1998)。配列はまたGenbank U94848.1でも開示されている。臨床等級のMVAは市場でも公的にも利用可能である(Bavarian Nordic A/S Kvistgaard, Denmark)。さらにまた、MVAはATCC(ATCC, Rockville, MD)からもCMCN(Institut Pasteur Collection Nationale des Microorganismes, Paris, France)からも入手できる。
“MVAΔE3L”は機能的なE3L遺伝子を欠き、感染性であるが複製性でないMVAの欠失変異体を意味し、この変異体はさらに宿主の免疫系を回避する能力が障害されている。MVAΔE3Lをワクチンベクターとして用いることができる。この変異体MVA E3Lノックアウト及びその調製は、例えば米国特許7,049,145に記載されている。
【0024】
“対象動物”は、癌に罹患し、したがって罹患したときには治療を必要とする任意の動物(哺乳動物、人間又はその他)患者を意味する。
“治療的に有効な量”又は“有効量”は、所望の生物学的結果を提供するために1回以上の投薬及び十分な期間投与されたときに、疾患の軽減、治癒又は緩和をもたらす薬剤の十分な量を指す。本開示では、MVA又はMVAΔE3Lのそれぞれの有効な量は、(適切な期間及び適切な頻度で投与されたとき)癌細胞数を減少させるか、又は腫瘍サイズを縮小若しくは腫瘍を根絶させるか、又は周辺器官への癌細胞浸潤を阻害するか(すなわち浸潤速度の低下又は停止)、転移性増殖を阻害させるか(すなわち速度の低下又は停止)、腫瘍増殖を阻害するか(すなわち増殖の固定又は停止)、腫瘍の治療を可能にするか、及び/又は腫瘍に対抗する免疫応答を誘導する量である。任意の個々の症例における適切な治療薬量は、本開示に照らして当業者が日常的実験を用いて決定できる。そのような決定は、in vitroで有効と判明した量及び動物で有効と判明した量から開始されるであろう。治療的に有効な量は、先ず初めに当該濃度又は培養細胞に利益を供与すると判明した濃度に基づいて決定されるであろう。有効量は、細胞培養内のデータから推論することができ、さらに本明細書で詳述する要件に基づいて加減することができる。有効量の範囲の例は、投与につき105ウイルス粒子から約1012ウイルス粒子である。
特に本明細書に開示するウイルス系免疫刺激剤に関して言えば、“治療的に有効な量”又は“有効量”は、腫瘍細胞増殖を低下させ阻害し又は停止させ、それによって腫瘍を縮小させ又は排除するために十分であるか、又はin vitro、ex vivo若しくは対象動物での転移性拡散を阻害し低下させ又は停止させるために、或いは場合に応じて転移性拡散の低下、阻害及び/又は停止の1つ以上を最終的にもたらす腫瘍に対抗する免疫応答を生じさせるために十分なMVA又はMVAΔE3Lを含む組成物の量を指す。腫瘍細胞増殖の低下、阻害又は根絶は、壊死、アポトーシス若しくは免疫応答又は前述の2つ以上の組合せの結果であり得る(しかしながら、例えばアポトーシスの急激な低下は腫瘍溶解ウイルスで観察される同じ因子によるものとは限らない)。治療的に有効な量は例えば下記のような要件に応じて変動し得る:組成物に用いられる個々のMVA、処置される対象動物の齢及び症状、腫瘍形成の程度、他の治療様式の有無など。同様に、投与される組成物の投薬量及びその投与頻度も、多様な要件、例えば活性成分の性能、いったん投与されたときのその活性持続時間、投与ルート、対象動物のサイズ、齢、性別及び体調、有害反応のリスク、及び医師の判断に左右されるであろう。組成物は多様な剤形(例えば注射可能溶液)で投与される。
【0025】
特に免疫チェックポイント阻害剤との併用療法に関して言えば、免疫チェックポイント遮断剤の“治療的に有効な量”は、腫瘍のミクロ環境における免疫抑制を逆転させるか若しくは低下させるために、及び処置される対象動物の宿主免疫を活性化若しくは増強するために十分な免疫チェックポイント遮断剤の量を意味するであろう。承認済み、臨床試験中或いはなお開発中のいくつかの免疫チェックポイント遮断剤があり、下記が含まれる:CD28阻害因子(例えばCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原))に対抗する抗体(例えばイピリムマブ)、抗PD-1(プログラム死1)阻害性抗体(例えばニボルマブ、ペムブロリズマブ、ピジリズマブ、ラムブロリズマブ)、及び抗PD-L1(プログラム死リガンド1)阻害性抗体(MPDL3280A、BMS-936559、MEDI4736、MSB 00107180)の他に、LAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)、TIM3(T細胞免疫グロブリン及びムチン3)、B7-H3、及びTIGIT(Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)に対抗する阻害性抗体。前述の物質の投薬範囲は当業界で公知であるか、又はいくつかの用量決定臨床試験が完了しているので、当業界の技量範囲内であり他の可能な薬剤から容易に推定できる。
好ましくは、腫瘍は個々のチェックポイントを発現するが、このことは厳密に必要というわけではない。なぜならば、免疫チェックポイント遮断剤は、腫瘍内の免疫抑制メカニズム(前記メカニズムは腫瘍細胞、間質細胞及び腫瘍浸潤免疫細胞によって引き出される)をより一般的に遮断するからである。
例えば、CTLA4阻害剤イピリムマブは、メラノーマの外科手術後にアジュバント療法として投与されるときは、3mg/kgの合計輸液量を90分かけて1-2mg/mLで、3週間毎に合計4用量投与される。この治療方法はしばしば重篤で生命にかかわる免疫媒介有害反応を伴い、前記有害反応は、耐性用量とともに投与可能な累積量を制限する。MVA又はMVAΔE3Lと一体的に投与されるとき、イピリムマブの用量及び/又は累積量を減少させることは可能であろうと期待される。特に、下記に示す実験結果に照らせば、CTLA4阻害剤が前述のMVAウイルスの一方若しくは両方と同時に又は逐次的に腫瘍に直接投与される場合、CTLA4阻害剤の用量を減少させることはさらに可能であろうと期待される。したがって、イピリムマブについて上記に提供される量は、一体的投与で患者に与えられる具体的な投薬量及び累積量を決定するための出発点となろうが、最適量の決定のためには用量決定試験が必要であろう。
【0026】
ペムブロリズマブは、メラノーマのアジュバント療法として25mg/mLに希釈して投与するように処方される。この処方物は、30分かけて2mg/kgの投薬量で3週間毎に投与される。繰り返せば、これは、MVA又はMVAΔE3Lとの一体的投与及び投薬量決定の出発点となろう。
ニボルマブは、60分かける静脈内輸液として3mg/kgで2週間毎に投与するように処方され、前記量は、このチェックポイント阻害剤のMVA又はMVAΔE3Lとの一体的投与及び投薬量の決定で同様な出発点を提供する。
免疫刺激剤(例えばアゴニスト抗体)もまた癌の免疫療法として利用されている。例えば、抗ICOS抗体は、ICOSシグナリングの活性化及びT細胞活性化をもたらすICOSの細胞外ドメインと結合する。抗OX40抗体はOX40と結合して、T細胞の活性化、分裂及び生存をもたらすT細胞受容体シグナリングを増強することができる。他の例には4-lBB(CD137)、GITRに対抗するアゴニスト抗体が含まれる。これら薬剤の全てが種々の臨床試験相に入っている。
MVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射と併用して、免疫刺激アゴニスト抗体を全身的に用いることができる。また別に、免疫刺激アゴニスト抗体をMVA又はMVAΔE3Lと同時に若しくは連続して腫瘍内デリバリーを介して一体的に用いることができる。
“医薬的に許容できる担体及び/又は希釈剤”又は“医薬的に許容できる賦形剤”には、任意かつ全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌及び抗カビ剤、等張及び吸収遅延剤などが含まれる。生物学的活性物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は当業界で周知である。賦形剤の更なる詳細は下記で提供される。補充的活性成分、例えば抗微生物剤(例えば抗カビ剤)もまた組成物に取り入れることができる。
本腫瘍のミクロ環境に本開示のMVA又はMVAΔE3Lを配置する関係で用いられる“デリバリー”は、腫瘍への局所的投与によって又は例えば静脈内ルートによって実施されるか否かは問われない。前記用語は腫瘍それ自体に達するMVA又はMVAΔE3Lに着目する。
本明細書の“一体的投与”は、MVA又はMVAΔE3Lと併用される第二の治療様式の投与を指し、前記は例えば免疫チェックポイント遮断剤であり、MVA又はMVAΔE3Lと一緒にかつ時間的に接近して投与される。例えば、PD-1/PDL-1阻害剤及び/又はCTLA4阻害剤(より具体的な実施態様では抗体)は、MVA又はMVAΔE3Lと同時に投与されるか(MVA又はMVAΔE3Lが上記に述べるように腫瘍内又は全身的に投与されるときは、静脈内又は腫瘍内注射による)、或いはMVA又はMVAΔE3Lの投与の前若しくは後で投与され得る。MVA又はMVAΔE3L投与及び免疫チェックポイント遮断剤投与が1-7日離れているか又は3週間も離れていても、これは、本明細書に言う“時間的に接近”の範囲内であろう。
***
【0027】
ある実施態様では、本開示は、腫瘍罹患対象動物で抗腫瘍免疫応答を生じさせる方法に関し、前記方法は、MVA又はMVAΔE3Lの有効量を腫瘍にデリバリーする工程を含む。免疫系の刺激は以下の免疫学的効果の1つ以上によって表出され得る:
腫瘍内及び/又は腫瘍流入領域リンパ節のエフェクターCD8+T細胞及びエフェクターCD4+T細胞の少なくとも一方の増加;
I型IFNの誘導を介して、前記腫瘍に浸潤する樹状細胞の成熟の誘導;
腫瘍内及び/又は腫瘍流入領域リンパ節の腫瘍細胞を認識するエフェクターCD4+T細胞の対象動物での誘導;
腫瘍内の免疫抑制性(調節性)CD4+T細胞の減少;
I型IFN又は他の炎症性サイトカイン若しくはケモカインの1つ以上を誘導する腫瘍の細胞の誘導;
腫瘍内の免疫抑制性腫瘍随伴マクロファージの減少。
前述の1つ以上の免疫学的効果は治療に対する対象動物の応答の初期指標として機能することができ、さらに前記の有効性継続のモニターとして機能し得る。これらの効果の観察によって、本ウイルスが腫瘍を治療する態様は、腫瘍抗原(それら抗原は腫瘍内にデリバリーされないが筋肉内、皮下又は稀に静脈内ルートによってデリバーされる)を内包するワクチンベクターの治療態様とは相違し、かつ腫瘍溶解ウイルスの治療態様とも異なることが示される(腫瘍溶解ウイルスは主として腫瘍細胞でのウイルス複製のために細胞病変を引き起こす)。本治療にしたがってアポトーシスが生じるならば、それは、これらの異なる作用様式から生じるか又は生じる可能性があるアポトーシスと同じメカニズムに起因しない。
本発明者らは免疫応答のメカニズムを精査し、前記メカニズムは、I型IFNの生成を媒介するcGAS/STINGによって媒介される細胞質ゾルDNAセンシング経路によって開始すると結論した。当該メカニズム及び動員される免疫細胞の更なる洞察は実施例で提供される。実施例で提示される結論は、これらメカニズムが解明されている具体的な実験環境に限定されない。
ある実施態様では、本開示は、固形腫瘍を有すると診断された対象動物を治療する方法を提供し、前記方法は、MVA又はMVAΔE3Lの治療的に有効な量を当該腫瘍にデリバリーする工程を含む。
ある実施態様では、本開示は、癌を有すると診断された対象動物において抗腫瘍免疫を誘導する方法を提供し、前記方法は、MVA又はMVAΔE3Lの治療的に有効な量を当該対象動物に投与する工程を含む。本開示の方法は抗腫瘍免疫の誘導を含み、前記抗腫瘍免疫は、腫瘍サイズの減少、腫瘍の根絶、腫瘍増殖の阻害、腫瘍の転移阻害若しくは転移性増殖の低下又は腫瘍の転移性増殖の根絶、腫瘍細胞のアポトーシスの誘導、又は(無処置又は通常処置の対象動物と比較して)対象動物の生存延長をもたらすことができる。
別の実施態様では、本開示は、悪性固形腫瘍を有すると診断された対象動物において、治療的に有効な量のMVA又はMVAΔE3Lに当該腫瘍を暴露することによって、抗腫瘍免疫応答(先天性免疫応答及び/又は適応免疫応答(例えばT細胞応答)を含むことができる)を増強し、刺激し又は生じさせる方法を提供する。
【0028】
具体的な実施態様では、本開示は、腫瘍細胞に対抗するT細胞傷害性及び同様に腫瘍細胞に対抗するエフェクターT細胞の誘発という両関係において適応免疫応答を媒介する免疫応答を生じさせる方法を提供する。前記方法は、固形腫瘍罹患対象動物にMVA又はMVAΔE3Lを含む組成物を腫瘍内に又は(本開示が予想するように)静脈内に投与する工程を含み、ここで前記組成物の投与は、当該腫瘍に対抗する腫瘍特異的免疫応答を生じ、最終的に腫瘍増殖の低下、阻害又は根絶、転移性増殖の阻害、腫瘍細胞のアポトーシス、及び/又は対象動物の生存の延長をもたらす。実際、本発明者らは、癌細胞が殺滅されること、及び免疫応答が転移症例の場合のように遠隔場所へ移動できることを示した。
いくつかの実施態様では、本開示は、腫瘍細胞に対抗するT細胞傷害性及び同様に腫瘍細胞に対抗するエフェクターT細胞の誘引の両関係において適応免疫応答を媒介する免疫応答を誘引する方法を提供する。前記方法は、MVA又はMVAΔE3Lを含む組成物を非経口的に対象動物に投与する工程を含み、ここで前記組成物の投与は、腫瘍に対抗する腫瘍特異的免疫応答を生じ、最終的に腫瘍増殖の低下、阻害又は根絶、及び/又は転移性増殖の阻害、低下又は根絶、及び/又は通常療法若しくは無処置と比較して当該処置対象動物の生存の延長をもたらす。腹腔内転移については、ウイルスを腹腔内に注射することができる。
実際、本発明者らは、癌細胞が殺滅されること、及び免疫応答が転移症例の場合のように遠隔場所へ移動でき、なお抗腫瘍作用を発揮できることを示した。
【0029】
MVA及びMVAΔE3Lは大半の哺乳動物細胞で実質的に複製能力がないので、それらは、免疫系に対して複製能を有するワクチン又はベクターと同じ態様でその作用を発揮することはない。したがって、免疫系の刺激は腫瘍溶解の有効性の障害と考えられているが(8)(Kirn et al., Nat Rev Cancer. (1), 64-71, 2009)、MVA及びMVAΔE3Lは先天性免疫を利用して、細胞傷害性及びより広く腫瘍に対抗するエフェクターT細胞活性化の両関係において適応免疫を刺激することができる。
本開示はしたがって悪性固形腫瘍を処置する方法を提供し、前記方法は、固形腫瘍を有すると診断された対象動物において腫瘍に対抗する免疫応答を誘導するために有効な量のMVA又はMVAΔE3Lを対象動物の腫瘍にデリバリーする工程を含む。
本開示はまた、悪性固形腫瘍を罹患すると診断された対象動物において抗腫瘍全身性免疫を発生させる方法を提供し、前記方法は、前記対象動物の注射非実施腫瘍の拒絶及び腫瘍転移阻害の一方又は両方をもたらすために有効な量のMVA又はMVAΔE3Lを対象動物の腫瘍にデリバリーする工程を含む(前記を本発明者らは腫瘍再チャレンジによって試験している)。
本明細書で示すように、MVAは、通常樹状細胞(cDC)のI型IFN誘導をcGAS/STINGによって媒介される細胞質ゾルDNAセンシング経路を介して誘導する。C57B/6マウスの静脈内MVAデリバリーは野生型マウスでI型IFNを誘導したが、STING又はIRF3を欠くマウスでは誘導しない。MVAΔE3Lは、cDCでMVAよりも高レベルのI型IFN遺伝子発現及びIRF3リン酸化を誘導することもまた示された。MVAΔE3Lは、cGAS/STINGによって媒介される細胞質ゾルDNAセンシング経路及びMDA5/MAVSによって媒介されるdsRNAセンシング経路の両方によって検出される。加えて、B16メラノーマ細胞及びMC38結腸腺癌細胞のMVAΔE3L感染は、I型IFN並びに炎症促進性サイトカイン及びケモカインとともに、IRF3リン酸化の活性化を誘導する。MVA及びMVAΔE3Lはともに、PARP及びカスパーゼ-3の切断によって示されるようにB16及びMC38細胞でアポトーシスを誘導する。本開示にしたがえば、MVA及びMVAΔE3Lウイルスは直接的抗癌療法として用いられる。げっ歯類B16メラノーマモデルのMVA及びMVAΔE3Lの腫瘍内注射は、アポトーシス、生存延長及び腫瘍根絶とともに全身性抗腫瘍免疫の発生をもたらす。
これまでの論文に基づきかつ理論に拘束されずに、以下のメカニズムがMVA及びMVAΔE3Lの抗腫瘍作用に寄与すると考える:(i)通常樹状細胞及びマクロファージを含む免疫細胞におけるI型IFN応答の誘導、(ii)癌細胞におけるI型IFN並びに炎症促進性サイトカイン及びケモカインの誘導、(iii)癌細胞におけるアポトーシスの誘導、及び(iv)腫瘍免疫抑制性環境から免疫活性化環境への変化。
【0030】
改変ワクシニアアンカラ(MVA)
改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスは、ポックスウイルス科のオルトポックスウイルス属の一メンバーである。MVAは、ワクシニアウイルスアンカラ株(CVA)のニワトリ胚線維芽細胞(CEF)での約570回の連続継代によって作製された(60)(Mayr et al., Infection 3, 6-14, 1975)。このような長期継代の結果として、得られたMVAウイルスは広範囲のゲノム欠失を有し、宿主細胞は鳥類細胞に強く限定される(61)(Meyer et al., J. Gen. Virol. 72, 1031-1038, 1991)。得られたMVAは顕著に非病毒性であることが多様な動物モデルで示された(57)(Mayr et al., Dev. Biol. Stand. 41, 225-34, 1978)。
MVAの安全性及び免疫原性は広範囲に試験され、臨床試験、特にヒト天然痘に関するもので資料により証拠立てられている。これらの試験では120,000人を超える個体が含まれ、ヒトでの優れた有効性及び安全性が明示された。さらにまた、他のワクシニア系ワクチンと比較して、MVAは減弱された病毒性(感染性)を有するが、一方、MVAは良好な特異的免疫応答を誘発する。したがって、MVAは、特異的免疫応答を誘導する能力を有する安全なワクチンベクターとして確立されている。
上述の特徴のゆえに、MVAは、組換え遺伝子発現及びワクチンに用いられる操作MVAベクターの開発のための有望な標的となった。ワクチンベクターとして、MVAは多くの病的状態(HIV、結核及びマラリアを含む)とともに癌に関して研究されてきた(20、21)(Sutter et al., Curr Drug Targets Infect Disord 3: 263-271, 2003;Gomez et al., Curr Gene Ther 8: 97-120, 2008)。
ヒト単球由来樹状細胞(DC)のMVA感染は、DC活性化を引き起こすことが示された。DC活性化は、共刺激性分子のアップレギュレーション及び炎症促進性サイトカインの分泌を特徴とする(18)(Drillien et al., J Gen Virol 85: 2167-2175, 2004)。この点で、MVAは標準的な野生型ワクシニアウイルス(WT-VAC)と相違する(WT-VACはDCを活性化しない)。樹状細胞は、2つの主要なサブタイプ(通常樹状細胞(cDC)及び形質細胞様樹状細胞(pDC))に分類できる。前者(特にCD103+/CD8α+サブタイプ)はT細胞への抗原の相互提示に適応し、後者はI型IFNの強力な産生細胞である。
ヒト細胞のウイルス感染は、I型IFN(特にインターフェロン-アルファ(α))によって媒介される先天性免疫応答(第一線防御)の活性化をもたらす。前記活性化は通常、免疫学的“カスケード”の活性化を生じて、活性化T細胞(CTL及びヘルパーの両細胞)の動員及び分裂をもたらし、最終的に抗体を産生させる。しかしながら、ウイルスは宿主の免疫応答を弱める因子を発現する。MVAはWT-VACよりもさらに良好な免疫原であり、哺乳動物細胞では貧弱な複製を示す(例えば以下を参照されたい:Brandler et al., J. Virol. 84, 5314-5328, 2010)(62)。
しかしながらMVAは完全には複製不能ではなく、さらに、本発明者らが示すようにいくらかの残留免疫抑制活性を含む。それにもかかわらず、本明細書に示すように、MVAは処置対象動物の顕著な生存延長をもたらした。これらの所見が示唆することは、MVA(又はMVAΔE3L)を腫瘍に注射することによって又は全身的にデリバリーすることによって、宿主の先天性免疫及び適応免疫応答を増強し、それによって腫瘍の免疫応答回避能力を制圧し、腫瘍に対抗する免疫応答を上昇させる宿主の能力を(当該応答が天然のものであれ又は誘導されたものであれ、或いは別の免疫治療剤(例えばチェックポイント阻害剤)によって増強されたものであれ)回復させることが可能だということである。
E3が欠失した改変ワクシニアアンカラ(MVAΔE3L)
直前のセクションに記載したMVAの抗腫瘍作用はまたMVAΔE3Lでも観察される。後者はMVAよりも免疫抑制性が弱く、かつ大半の哺乳動物細胞で複製性も弱く、当該観点から好ましい。加えて、一般的にMVAΔE3Lの作用は、本明細書に記載する実験で観察されるようにMVAの作用よりも定性的に優れている。
【0031】
免疫応答
個々の免疫系の活性のアップレギュレーションによる免疫応答(例えば抗体及び/又はサイトカインの産生、又は細胞媒介免疫の活性化)の誘導に加えて、免疫応答はまた、検出することができる免疫の抑制、減弱又は任意の他のダウンレギュレーションを含み、ホメオスタシスを再構築し宿主自身の器官及び組織の過剰な損傷を予防することができる。いくつかの実施態様では、本開示の方法にしたがって誘導される免疫応答は、エフェクターCD8+(抗腫瘍細胞傷害性CD8+)T細胞若しくは活性化Tヘルパー細胞又はその両方を発生させる(直接的又は間接的に腫瘍細胞死又は腫瘍細胞の増殖能力の低下をもたらすことができる)。
本開示の方法による免疫応答の誘導は、多様な周知の免疫学的パラメーターのいずれかを検出することによって決定できる(63、64)(Takaoka et al., Cancer Sci. 94:405-11, 2003;Nagorsen et al., Crit. Rev. Immunol. 22:449-62, 2002)。免疫応答の誘導は、したがって多数の周知のアッセイ(免疫学的アッセイを含む)のいずれかによって決定できる。そのようなアッセイには以下の物質のin vivo、ex vivo又はin vitro測定が含まれるが、必ずしもそのような物質に限定されない:可溶性免疫グロブリン又は抗体;可溶性メディエーター(例えばサイトカイン、ケモカイン、ホルモン、増殖因子などとともに他の可溶性小ペプチド、炭水化物、ヌクレオチド及び/又は脂質メディエーター);免疫系の細胞の機能的又は構造的特性の変化によって決定される細胞の活性化状態の変化(例えば細胞分裂、運動性変化、細胞内陽イオン(例えばカルシウム)勾配又は濃度の変化;細胞内ポリペプチドのリン酸化又は脱リン酸化;特殊な活性の誘導(例えば特異的な遺伝子の発現又は細胞溶解性動作;免疫系細胞による細胞分化(表面抗原発現プロフィールの変化又はアポトーシス(プログラムされた細胞死)の開始を含む);又は免疫応答の存在を検出できる任意の他の規準。例えば、免疫細胞のタイプを識別する細胞表面マーカーは、CD4+、CD8+又はNK細胞と結合する特異的な抗体によって検出できる。検出可能な他のマーカー及び細胞成分には、インターフェロンγ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF)、IFN-α、IFN-β、IL-6及びCCL5が含まれるが、ただしそれらに限定されない。免疫応答を検出する一般的な方法にはフローサイトメトリー、ELISA、免疫組織化学が含まれるが、ただし前記に限定されない。これらアッセイ及び類似のアッセイを実施する手順は広く知られており、例えば以下の文献で見出すことができる(Letkovits, Immunology Methods Manual: The Comprehensive Sourcebook of Techniques, Current Protocols in Immunology, 1998)。
【0032】
医薬組成物及び調製物
MVA又はMVAΔE3Lを含む医薬組成物は担体又は希釈剤を含むことができる。これらは溶媒又は分散媒体であることができ、例えば、水、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び流動ポリエチレングリコールなど)、前記の適切な混合物、及び植物油を含む。適切な流動性は、例えば、コーティング(例えばレシチン)の使用によって、分散剤の場合には必要な粒子サイズの維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持できる。微生物作用の予防は、多様な抗菌及び抗カビ剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって実施できる。多くの事例で、等張剤(例えば糖類又は塩化ナトリウム)を加えることが好ましいであろう。注射可能な組成物の吸収延長は、吸収を遅らせる薬剤(例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)を組成物で使用することによってもたらし得る。一般的には、注射可能な調製物に適切である当業者が良く知る賦形剤を加えることができる。
MVA又はMVAΔE3Lを含む医薬組成物及び調製物は、通常的な混合、溶解、顆粒化、乳化、被包化、エントラッピング又は凍結乾燥プロセスの手段によって製造できる。ウイルス性医薬組成物は、通常的な態様で1つ以上の生理学的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤又は補助剤(in vitro、in vivo又はex vivoでの使用に適切なウイルス調製物の処方を容易にする)を用いて処方することができる。当該組成物は、1つ以上の追加の生物学的に活性な薬剤と組み合わせることができ(例えばGM-CSFの並行投与)、さらに医薬的に許容できる担体、希釈剤又は賦形剤とともに処方して、非経口投与又は腫瘍内投与に適切な本開示の医薬組成物(生物学的組成物を含む)又は獣医組成物を作製することができる。
【0033】
当業者に周知の多くのタイプの処方が可能である。選択される個々のタイプは、当業界ではよく認識されているように選択される投与ルートに左右される。例えば、全身性処方物は、一般的には注射による投与のために設計されるであろう(例えば静脈内の他に腫瘍内投与のために設計されるもの)。好ましくは、全身性又は腫瘍内処方物は無菌的である。
無菌的な注射可能溶液は、必要な量の適切な溶媒にMVA又はMVAΔE3Lを必要に応じて本明細書に記載の多様な他の成分とともに取り込み、続いて適切な滅菌手段を実施することによって調製される。一般的には、分散剤は、多様な無菌的活性成分を無菌的ベヒクルに取り込むことによって調製される。無菌的ベヒクルは、基本的分散媒体及び上記に記載のものに由来する必要な他の成分を含む。無菌的な注射可能溶液を調製するための無菌的散剤の場合には、好ましい調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、ウイルス+任意の追加される所望成分(先にろ過滅菌したその溶液に由来する)を生じる。
いくつかの実施態様では、本開示のMVA及びMVAΔE3L組成物は、水溶液として又は生理学的に適合する溶液若しくは緩衝液、例えばハンクス溶液、リンゲル溶液、マンニトール溶液又は生理学的緩衝食塩水として処方できる。ある種の実施態様では、MVA及びMVAΔE3L組成物はいずれも、処方薬剤、例えば懸濁剤、安定化剤、浸透若しくは分散剤、緩衝剤、凍結保護剤、又は保存料、例えばポリエチレングリコール、ポリソルベート80、1-ドデシルヘキサヒドロ-2H-アゼピン-2-オン(ラウロカプラン)、オレイン酸、クエン酸ナトリウム、トリスHCl、デキストロース、プロピレングリコール、マンニトール、ポリソルベートポリエチレンソルビタンモノラウレート(Tween(商標)-20)、ミリスチン酸イソプロピル、ベンジルアルコール、イソプロピルアルコール、エタノール、シュクロース、トレハロースを含むことができ、さらに当業界で一般的に公知である他の物質を本開示の組成物のいずれにも用いることができる(Pramanick et al., Pharma Times 45(3), 65-76, 2013)(65)。
本開示の生物学的組成物又は医薬組成物は、対象動物に当該組成物を投与したときにその中に含まれるウイルスを腫瘍細胞に感染させるために利用可能であるように処方できる。投与後の血清、腫瘍、及び所望の場合には他の組織中のウイルスレベルは、多様な良く確立された技術(例えば抗体系アッセイ(例えばELISA、免疫組織化学など))によってモニターすることができる
【0034】
MVA及びMVAΔE3Lの投薬量
一般的には、対象動物は、約105から約1010プラーク形成単位(pfu)の範囲のMVA及びMVAΔE3Lの投薬量を投与されるが、より低い又は高い用量を投与することもできる。好ましい実施態様では、投薬量は約106-109pfuである。ウイルス粒子に対するpfu等価量は用いられる具体的なpfu力価測定方法にしたがって相違し得る。一般的には、pfuは約5から100ウイルス粒子に等しい。治療的に有効なMVA又はMVAΔE3Lの量は、処方された投与頻度で処方された期間に1回以上の分割用量で投与できる。
例えば、当業者に明白なように、本開示のMVA又はMVAΔE3Lの治療的に有効な量は、複数の要件、例えば対象動物の疾患の状態、齢、性別、体重及び一般的状態、並びに個々の対象動物で所望の免疫学的応答(治療に対する対象動物の応答)を引きだすMVA又はMVAΔE3Lの能力にしたがって変動し得る。対象動物へのMVA又はMVAΔE3Lのデリバリーでは、投薬量はまた、複数の要件、例えば一般的病状、以前の病歴、疾患の進行、腫瘍量などにしたがって変動するであろう。
いくつかの実施態様では、投与の容易さ及び投薬量の均一性のために、本開示の組成物を単位剤形として処方することは有益であり得る。本明細書で用いられる単位剤形は、処置される対象哺乳動物のための一単位の投薬量に一致する物理的に別個の単一体を指し、各単一体は、所望の治療効果を生じるように計算された予め定めた量の活性物質を医薬的に又は獣医的に許容できる必要な担体と一緒に含む。
【0035】
MVA及びMVAΔE3Lの投与及び治療レジメン
MVA及びMVAΔE3Lの投与は、2つ以上のルート(非経口、例えば腫瘍内又は静脈内投与を含む)を用いて達成できる。ある実施態様では、MVA又はMVAΔE3Lは、例えば腫瘍内注射によって腫瘍に直接投与される(この場合直接的な局所反応が所望される)。加えて、MVA及びMVAΔE3Lの投与ルートは変動させることができ、例えば第一の投与は腫瘍内注射を用い、その後の投与は静脈内注射を介するか、又は前記の任意の組合せによる。治療的に有効な量のMVA又はMVAΔE3Lの注射は、処方された投与頻度で処方された期間投与することができる。ある種の実施態様では、MVA及びMVAΔE3Lは他の治療的処置と併せて用いることができる。例えば、MVA及びMVAΔE3Lは、大きな原発性腫瘍をもつ対象動物のためのネオアジュバント(術前)又はアジュバント(術後)設定で投与できる。そのような最適化治療レジメンは腫瘍に対抗する免疫応答を誘導し、一次療法(例えば外科手術)の前及び/又は後の対象動物の腫瘍量を縮小することは予想されるであろう。さらにまた、MVA又はMVAΔE3Lは、他の治療的処置(例えば化学療法又は放射線照射)と併せて投与できる。
ある種の実施態様では、MVA又はMVAΔE3Lウイルスは、1週間又は1カ月に少なくとも1回投与されるが、ただし必要な場合にはより頻繁に、例えば1週間に2回を数週間、数カ月、数年又は利益が持続するかぎり無期限でも投与することができる。より頻繁な投与は、耐性が存在する場合及びそのような投与が持続する又は増加する利益を生じる場合に意図される。本方法の利益には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):癌細胞の数の減少、腫瘍サイズの縮小、腫瘍の根絶、癌細胞の周辺器官への浸潤の阻害、転移性増殖の阻害又は固定、腫瘍増殖の阻害又は固定、及び生活の質の安定化又は改善。さらにまた、当該利益は、腫瘍に対抗する免疫応答の誘導、エフェクターCD4+ T細胞の活性化、エフェクターCD8+ T細胞の増加、又は調節性CD4+細胞の減少を含むことができる。例えばメラノーマの関係では、利益は、メラノーマの最初の診断から1年、2年、3年、4年、5年以内の又は6年を超える再発又は転移が存在しないことでもよい。同様な評価が結腸癌及び他の固形腫瘍についても可能である。
ある種の他の実施態様では、腫瘍全体又は腫瘍細胞がin vivo、ex vivo又はin vitroでMVA又はMVAΔE3Lで処置される。
【0036】
<実施例>
材料と方法
ウイルス及び細胞株:
MVA及びMVAΔE3LウイルスはGerd Sutter氏(ミュンヘン大学)の好意により提供され、BHK-21(ベビーハムスター腎細胞、ATCC CCL-10)細胞で増殖させた。MVAは市場で及び/又は公的に入手することができる。MVAΔE3Lウイルスの作製方法は以下に記載された(28)(Hornemann et al., J Virol 77, 8394-8407, 2003)。ウイルスは36%のシュクロースクッションで精製した。BHK-21は、以下を含むイーグル最少必須培地(イーグルMEM、Life Technologiesから購入できる(Cat# 11095-080))で培養した:10% FBS、0.1mM非必須アミノ酸(NEAA)及び50mg/mLのゲンタマイシン。げっ歯類メラノーマ細胞株B16-F10は元はI.Fidler氏(MD Anderson Cancer Center)から入手した。B16-F10細胞は、以下を補充したRPMI1640で維持した:10% FBS、100単位/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、0.1 mM NEAA、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム及び10mM HEPES緩衝剤。MC38結腸腺癌癌細胞はダルベッコ(Dulbecco’s)改変イーグル培地(DMEM, Invitrogen)で維持した。全ての細胞を5% CO
2インキュベーターにより37℃で増殖させた。
本明細書で用いた細胞及び細胞株は、特段の記載がなければ市場で又は公的に入手できる。
マウス:
C57BL/6J雌マウス(6から10週齢)をJackson Laboratoryから購入し、骨髄由来樹状細胞の調製用及びin vivo実験のコントロールとして用いた。これらのマウスはスローン・ケッタリング研究所(Sloan Kettering Institute)の動物施設で維持した。全ての手順を米国立衛生研究所の実験動物管理使用規定の推奨に厳密にしたがって実施した。プロトコルは、スローン・ケッタリング癌研究所の動物実験倫理委員会によって承認された。cGAS
-/-、IRF3
-/-、IRF7
-/-、MAVS
-/-、MDA5
-/-、及びSTING
Gt/Gtマウスは以下の研究者の実験室で作製された:Zhijian Chen(University of Texas Southwestern Medical Center;cGAS
-/-及びMAVS
-/-)、谷口維紹(東京大学;IRF3
-/-及びIRF7
-/-)、Marco Colonna(Washington University;MDA5
-/-)、及びRussell Vance(University of California, Berkeley;STING
Gt/Gt)。
上述の動物及び匹敵する動物の市場供給源は以下のとおりである:
【0037】
骨髄由来樹状細胞の作製:
マウスの脛骨及び大腿骨から、最初に当該骨から筋肉を除去し続いて0.5cc U-100インスリン注射器(Becton Dickinson)を用いて10% FCS含有RPMIで細胞を洗い出すことによって骨髄細胞を収集した。遠心分離後、細胞をACK溶解緩衝液(Lonza)に再懸濁し、氷上で1-3分間細胞をインキュベートして赤血球を溶解させた。続いて細胞を収集し、新鮮な培地に再懸濁し、40μmの細胞ろ過器(BD Biosciences)でろ過した。細胞数を数えた。GM-CSF-BMDCの作製のために、骨髄細胞(各15cm細胞培養皿に5百万細胞)をGM-CSF(30ng/mL、スローン・ケッタリング研究所のモノクローナル抗体中核施設によって製造)の存在下で10-12日間、CM中で培養した。CMは以下を補充したRPMI1640倍地である:10%ウシ胎児血清(FBS)、100単位/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、0.1mM必須及び非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム及び10mM HEPES緩衝剤。細胞は2日毎に古い培地の50%を新鮮な培地に交換することによって培養し、さらに3-4日毎に再プレートして接着細胞を除去した。非接着細胞だけを実験に使用した。
RNA単離及びリアルタイムPCR:
RNAを全細胞溶解物からRNeasyミニキット(Qiagen)で抽出し、第一鎖cDNA合成キット(Fermentas)を用いて逆転写した。定量的リアルタイムPCRは、SYBRグリーンPCRマスターミックス(Life Technologies)及びアプライドバイオシステムズ7500リアルタイムPCR装置(Life Technologies)を用いてトリプリケートで実施し、遺伝子特異的プライマーを用いた。相対的発現は、グリセロアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)のレベルに対して正規化した。
以下のプライマーをリアルタイムPCRに用いた:
IFNA4フォワード:5’-CCTGTGTGATGCAGGAACC-3’
IFNA4リバース:5’-TCACCTCCCAGGCACAGA-3’
IFNBフォワード:5’-TGGAGATGACGGAGAAGATG-3’
IFNBリバース:5’-TTGGATGGCAAAGGCAGT-3’
CCL5フォワード:5’-GCCCACGTCAAGGAGTATTTCTA-3’
CCL5リバース:5’-ACACACTTGGCGGTTCCTTC-3’
IL-6フォワード:5’-AGGCATAACGCACTAGGTTT-3’
IL-6リバース:5’-AGCTGGAGTCACAGAAGGAG-3’
CXCL10フォワード:5’-ATTCTTTAAGGGCTGGTCTGA-3’
CXCL10リバース:5’-CACCTCCACATAGCTTACAGT-3’
TNFフォワード:5’-GTCAGGTTGCCTCTGTCTCA-3’
TNFリバース:5’-TCAGGGAAGAGTCTGGAAAG-3’
GAPDHフォワード:5’-ATCAAGAAGGTGGTGAAGCA-3’
GAPDHリバース:5’-AGACAACCTGGTCCTCAGTGT-3’
相対的発現は、グリセロアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)のレベルに対して正規化した。
【0038】
サイトカインアッセイ:
細胞を多様なウイルスとMOI 10で1時間感染させるか又は模擬感染させた。接種物を除去し、細胞をPBSで2回洗浄し、新しい培地でインキュベートした。感染後種々の時間で上清を収集した。サイトカインレベルは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キットを用いて測定した(IFN-α/β(PBL Biomedical Laboratories)、IL-6、CCL4及びCCL5(R & D systems))。
ウェスタンブロット分析:
BMDC、B16-F10、又はMC38細胞(1x106)に10のMOI(感染多重度)でMVAを、又は等価量のMVA若しくはMVAΔE3Lを感染させた。感染から種々の時間後に、培地を除去し、細胞を収集した。全細胞溶解物を調製した。等量のタンパク質をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動に付し、ポリペプチドをニトロセルロース膜に移した。IRF3のホスホセリン-396に特異的なウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling)を用いて、IRF3のリン酸化を測定した。IRF3のレベルは、IRF3に対するウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling)を用いて測定した。抗STING抗体はCell Signalingから購入した。ワクシニアE3タンパク質レベルは、Dr. Stuart N. Isaacs(University of Pennsylvania)から提供された抗E3モノクローナル抗体(MAb 3015B2)によって測定した(66)(Weaver et al. Virus Res 130: 269-274, 2007)。抗PARP及び抗MCL-1抗体(Cell Signaling)を用いて、PARP切断及びMCL-1タンパク質分解を決定した。抗グリセロアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)又は抗β-アクチン抗体(Cell Signaling)をローディングコントロールとして用いた。
腫瘍移植及びウイルスの腫瘍内注射:
B16-F10メラノーマ細胞(1x105細胞)をC57BL/6Jマウスの右わき腹の剃毛皮膚の皮内に移植した。移植後10から12日して、腫瘍サイズを測定し、直径が3mm以上の腫瘍にマウスを麻酔してMVA若しくはMVAΔE3L(2x107pfu)又はPBSを注射した。ウイルスを毎週、又は各実験で指定するように注射した。マウスを毎日モニターし、腫瘍サイズを週に2回測定した。腫瘍体積は下記式にしたがって計算した:l(長さ)xw(幅)xh(高さ)/2。抑うつ徴候があれば又は腫瘍の直径が10mmに達したとき、マウスを安楽死させた。マウスを安楽死させた時に血清を収集した。
MC38マウス結腸腺癌細胞(2x105細胞)をC57BL/6Jマウスの右わき腹の剃毛皮膚の皮内に移植した。移植後7日して、腫瘍サイズを測定し、直径が2-3mmの腫瘍にマウスを麻酔してPBS又はMVAΔE3L(2x107pfu)を注射した。腫瘍サイズをウイルス注射から種々の日数後に測定した。
両側腫瘍移植モデル及びMVA又はMVAΔE3Lの腫瘍内注射:
簡単に記せば、B16-F10メラノーマ細胞をC57B/6マウスの左及び右わき腹の皮内に移植した(5x105を右わき腹及び1x105を左わき腹)。腫瘍移植から8日後に、2x107pfuのMVA又は等価量のMVAΔE3Lをより大きな右わき腹腫瘍の腫瘍内に注射した。腫瘍サイズを測定し、さらに週に2回腫瘍に再注射した。マウスの生存をモニターした。
いくつかの実験では、MC38結腸腺癌細胞をC57B/6マウスの左及び右わき腹の皮内に移植した(5x105を右わき腹及び1x105を左わき腹)。
【0039】
フローサイトメトリー:
腫瘍内又は腫瘍流入領域リンパ節内の免疫細胞の表現型及び特徴を分析するために、以下のプロトコルにしたがってFACS分析前に細胞懸濁物を作製した(46)(Zamarin et al., Science Translational Medicine 6, 226-232, 2014)。まず初めに、PBS又はMVAで処置してから3日後にピンセットと外科用ハサミを用いて腫瘍を単離した。続いて腫瘍を秤量した。腫瘍又は腫瘍流入領域リンパ節を細切してから、リベラーゼ(1.67 Wunsch U/mL)及びDNase(0.2mg/mL)とともに37℃で30分間インキュベートした。細胞懸濁物を以下の操作によって作製した:ピペット操作を繰り返し、70μmのナイロンフィルターでろ過し、続いて完全RPMIで洗浄しフィコール精製を実施して死細胞を除去する。細胞を抗CD3、CD45、CD4及びCD8抗体による表面標識のために処理した。固定可能色素eFluor506(eBioscience)を用いて、生細胞を死細胞から区別する。それらをさらにFoxP3固定及び透過化キット(eBioscience)により透過性にし、Ki-67、FoxP3及びグランザイムBのために染色する。骨髄系細胞集団の染色のために、蛍光色素結合抗体(抗CD45.2(104)、抗CD11b(M1/70)、抗Ly-6C(HK1.4)、抗MHCII(M5/114.15.2)、抗CD24(M1/69)、抗F4/80(BM8)、抗CD103(2E7)及び抗CD11c(N418)抗体)をeBioscienceから購入した。全ての抗体はそれらの対応するアイソタイプコントロールを用いて試験された。データはLSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて得た。データはFlowJoソフトウェア(Treestar)により分析した。
試薬:
試薬の市場供給源は以下のとおりである:CpGオリゴデオキシヌクレオチドODN2216(Invitrogen);cGAMPはInvitrogenから購入した。抗PARP、抗Mcll抗体はCell Signalingから入手した。フローサイトメトリーに使用した抗体は以下から購入した:eBioscience(CD45.2 Alexa Fluor 700、CD3 PE-Cy7、CD4 APC-efluor780、CD8 PerCP-efluor710、FOXP3 Alexa Fluor 700、CD45.2 eFluor 450、CD11b APC-eFluor 780、Ly-6C PE、MHC II PE-eFluor 610、CD24 APC、F4/80 PerCP-Cy5.5、CD103 FITC、CD11c Alexa Fluor 700)、Invitrogen(CD4 QDot 605、グランザイムB PE-テキサスレッド、グランザイムB APC)、BD Pharmingen(Ki-67-Alexa Fluor 488)。IRF3の抗ホスホセリン-396及び抗IRF3抗体はCell Signalingから購入した。
統計
両側独立スチューデントt検定を試験の2つのグループの比較に用いた。生存データはログランク(マンテル-コックス)検定によって分析した。有意とみなされるp値は以下のように数字で示される:*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001;****、p<0.0001。
【0040】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の調製:
腫瘍をマウスから分離し、ハサミですり潰す前に腫瘍の総重量を判定した。続いて、腫瘍を1.7U/mLのリベラーゼ(Roche)及び100μg/mLのDNase(Sigma)によりRPMI1640中で消化し、37℃シェーカーで30分間インキュベートした。消化後、細胞サンプルをRPMI1640で希釈し、細胞ろ過装置を通した。次に、細胞をRPMI1640で洗浄し、FACS緩衝液に再懸濁した。フローサイトメトリー分析のために染色する前に単一細胞を氷上で保持した。
TILのフローサイトメトリー:
TILを2.4G2 mAbと予めインキュベートしてFcγR結合を遮断し、氷上で30分間一組の抗体で染色した。蛍光色素結合抗体(抗CD45.2(104)、抗CD11b(M1/70)、抗Ly-6C(HK1.4)、抗MHCII(M5/114.15.2)、抗CD24(M1/69)、抗F4/80(BM8)、抗CD103(2E7)及び抗CD11c(N418)抗体)はeBioscienceから購入された。全ての抗体はそれらの対応するアイソタイプコントロールを用いて試験された。生存性は、LIVE/DEADキット(Invitrogen)で染色することによって判定した。全サンプルは、LSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて入手し、FlowJoソフトウェア(Treestar)により分析した。
マウス皮膚由来初代線維芽細胞の作製プロトコル:
マウスをCO2吸入により安楽死させて剃毛し、さらに化学的に脱毛した。前記を70%エタノールに1-2分間浸漬した。体幹皮膚を切除し、100mmの組織培養皿の蓋に入れたPBS中に置いて、表皮側を下にして広げた。2つのピンセットを用いて真皮側をこすって皮下組織を除去した後、皮膚サンプルを500μLのディスパーゼ(0.5U/mL)PBSとともに37℃で45分間インキュベートした。皮膚サンプルを100mmの組織培養皿の蓋に表皮側を上にして置き、2つのピンセットを用いて表皮を機械的に除去した。真皮シートをPBSで4回洗浄してから、これをI型コラーゲナーゼ(1%BSA含有PBS中に4mg/mL)により37℃で3時間消化した。20%FBS含有DME培地で細胞を1-2週間培養した。
【実施例0041】
MVAはマウスcDCにおいてI型IFN生成を誘導する
MVAがI型IFN誘導を誘導するか否かを試験するために、骨髄由来樹状細胞をGM-CSFの存在下で培養し(GM-CSF-BMDC又はcDC)、WT VAC又はMVAを感染多重度(MOI)10で感染させた。感染後、様々な時間(1、4、8、14及び22時間)に上清を収集し、ELISAによってIFN-α及びIFN-βタンパク質レベルを判定した。
図1Aに示すように、IFN-α及びIFN-βはともにMVA感染後8時間で検出され、感染後24時間まで蓄積し続けた。
WT VAC又はMVAのcDC感染がI型IFN遺伝子発現に影響を与えるか否かを試験するために、WT VAC又はMVAを感染させたGM-CSF-培養cDCから感染後6時間で単離したRNAを用いて、定量的リアルタイムPCR分析を実施した。模擬感染コントロールもまた当該実験に加えた。
図1Bに示すように、cDCのMVA感染は、非処置細胞と比較したとき、IFNA4及びIFNB mRNAをそれぞれ6倍及び105倍増加させた。対照的に、WT VAC感染はIFNA4及びIFNB mRNAレベルをそれぞれ2倍及び6倍増加させた(
図1B)。これらの結果は、MVAは、WT VACよりも実質的に強力なIFNA4及びIFNB遺伝子発現の誘導因子であることを示している(p<0.001)。この実験は、WT VAC及びMVAは宿主免疫系に対して、MVAのIFN-α及びIFN-βによって代表されるI型IFN発現を誘導する能力(WT VACには存在しない)を始めとして、異なる作用を有することを示す(ここでは樹状細胞に対する作用によって評価する)。