(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129424
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ゼオライト複合体含有養分放出シート、その製造方法及び植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
C05G 5/16 20200101AFI20230907BHJP
C05G 5/30 20200101ALI20230907BHJP
C05B 7/00 20060101ALI20230907BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20230907BHJP
【FI】
C05G5/16
C05G5/30 ZBP
C05B7/00
A01G31/00 601A
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106036
(22)【出願日】2023-06-28
(62)【分割の表示】P 2019193027の分割
【原出願日】2019-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木津井 健
(72)【発明者】
【氏名】杉田 修一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 雄二郎
(57)【要約】
【課題】養分の徐放性に優れたゼオライト複合体含有養分放出シートの提供。
【解決手段】ゼオライトとアパタイト系化合物の複合体を含み、前記ゼオライトの平均粒子径が0.1~10μmであり、前記アパタイト系化合物の平均径が30~500nmである、ゼオライト複合体含有養分放出シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトとアパタイト系化合物の複合体を含み、前記ゼオライトの平均粒子径が0.1~10μmであり、前記アパタイト系化合物の平均径が30~500nmである、ゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項2】
前記アパタイト系化合物が、前記ゼオライトの表面の少なくとも一部を覆う、請求項1に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項3】
前記アパタイト系化合物が、水酸アパタイトである、請求項1又は2に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項4】
前記複合体における前記ゼオライトの含有率が30質量%以上である、請求項1又は2に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項5】
前記複合体における前記アパタイト系化合物の含有率が10質量%以上である、請求項1又は2に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項6】
前記ゼオライトが、窒素、カリウム、カルシウム、及びリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項7】
前記ゼオライトが、Ca型ゼオライトである、請求項1又は2に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項8】
前記複合体と、生分解性樹脂を含む、請求項1又は2に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項9】
前記生分解性樹脂に、前記複合体を練り込んでなる、請求項8に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項10】
前記複合体を、吸液性材料からなるシート材に保持させてなる、請求項1又は2に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項11】
前記吸液性材料からなるシート材は、多孔体、フェルトを含む不織布、ポリマー材、パルプ材および紙材からなる群から選択される1種または2種以上の材料からなる、請求項10に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
【請求項12】
請求項8に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法であって、
前記複合体と、生分解性を有する樹脂を含むマスターバッチを得る工程と、前記マスターバッチ又は前記マスターバッチを生分解性樹脂で希釈混錬したものをシート状に成形する工程を有する、ゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項13】
Ca型ゼオライトを、窒素、カリウム及びリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むアルカリ水溶液に浸漬して前記複合体を得る工程を含む、請求項12に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項14】
前記複合体を得る工程で、前記アルカリ水溶液に浸漬後の前記Ca型ゼオライトを、150℃~800℃の温度範囲で焼成する、請求項12に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項15】
前記アルカリ水溶液は、リン酸化合物を含む、請求項12に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項16】
前記アルカリ水溶液は、カリウム化合物を含む、請求項12に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項17】
前記浸漬は、25~120℃で行う、請求項12に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項18】
前記浸漬は、複数回行う、請求項12に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項19】
請求項10に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法であって、
前記シート材が、窒素及びカリウム少なくとも一方の元素を含むゼオライトを含有し、
該シート材にリン酸イオンを接触させてなる、ゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項20】
前記ゼオライトがカルシウムを含有し、前記シート材にリン酸アンモニウム水溶液を接触させてなる、請求項19に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
【請求項21】
請求項1に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートから放出される養分を肥料として植物を栽培する、植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト複合体含有養分放出シート、その製造方法及び植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料の効能を長期に亘り持続可能とする技術に関し、ゼオライト粒子の細孔内に窒素及びカリウムの少なくとも一方の元素を担持し、そのゼオライト粒子の表面の少なくとも一部を、アパタイトを主とするリン酸カルシウム系化合物で被覆した肥料が開示されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、細孔内に窒素やカリウムを含有するゼオライトの表面をリン酸カルシウム系化合物で覆うことによって、肥料に徐放性を付与している。
【0004】
しかし近年、農業の効率化の観点から、持ち運びや施肥及び/又は回収作業などが容易で利便性が高く、更に長期に亘って肥料としての効能が持続できる肥料への需要が高まっている。
本明細書において、肥料とは、耕土に施す栄養物質を意味する。植物の生育には、酸素、水素、炭素、窒素、カリウム、リン、カルシウム、マグネシウム、硫黄の9元素のほか、マンガン、亜鉛、鉄などの微量元素が必要とされる。肥料は、前記9元素のうち、土壌中に特に欠乏しやすい窒素、リン、カリウム(以下、肥料の3要素ともいう)を補給するために使用される。肥料は、前記肥料の3要素のうち1種以上を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、養分の徐放性に優れた養分放出シートであって、持ち運び時などの利便性が高く、少ないゼオライト量でも効率的にかつ長期に亘って安定して養分を放出することができる養分放出シートの提供を目的とする。
養分とは、生物体の成長に必要な成分を意味する。養分として、例えば、前記肥料を例示することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、養分放出シートに、ゼオライトとアパタイト系化合物の複合体を含むことにより、上記の課題を解決できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成した。
【0008】
本発明は、以下〔1〕~〔11〕のゼオライト複合体含有養分放出シート、〔12〕~〔20〕のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法、及び〔21〕の植物栽培方法を提供する。
〔1〕 ゼオライトとアパタイト系化合物の複合体を含み、前記ゼオライトの平均粒子径が0.1~10μmであり、前記アパタイト系化合物の平均径が30~500nmである、ゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔2〕 前記アパタイト系化合物が、前記ゼオライトの表面の少なくとも一部を覆う、〔1〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔3〕 前記アパタイト系化合物が、水酸アパタイトである、〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔4〕 前記複合体における前記ゼオライトの含有率が30質量%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔5〕 前記複合体における前記アパタイト系化合物の含有率が10質量%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔6〕 前記ゼオライトが、窒素、カリウム、カルシウム、及びリンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔7〕 前記ゼオライトが、Ca型ゼオライトである、〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔8〕 前記複合体と、生分解性樹脂を含む、〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔9〕 前記生分解性樹脂に、前記複合体を練り込んでなる、〔8〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔10〕 前記複合体を、吸液性材料からなるシート材に保持させてなる、〔1〕又は〔2〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔11〕 前記吸液性材料からなるシート材は、多孔体、フェルトを含む不織布、ポリマー材、パルプ材および紙材からなる群から選択される1種または2種以上の材料からなる、〔10〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シート。
〔12〕 〔8〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法であって、前記複合体と、生分解性を有する樹脂を含むマスターバッチを得る工程と、前記マスターバッチ又は前記マスターバッチを生分解性樹脂で希釈混錬したものをシート状に成形する工程を有する、ゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔13〕 Ca型ゼオライトを、窒素、カリウム及びリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むアルカリ水溶液に浸漬して前記複合体を得る工程を含む、〔12〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔14〕 前記複合体を得る工程で、前記アルカリ水溶液に浸漬後の前記Ca型ゼオライトを、150℃~800℃の温度範囲で焼成する、〔12〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔15〕 前記アルカリ水溶液は、リン酸化合物を含む、〔12〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔16〕 前記アルカリ水溶液は、カリウム化合物を含む、〔12〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔17〕 前記浸漬は、25~120℃で行う、〔12〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔18〕 前記浸漬は、複数回行う、〔12〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔19〕 〔10〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法であって、前記シート材が、窒素及びカリウム少なくとも一方の元素を含むゼオライトを含有し、該シート材にリン酸イオンを接触させてなる、ゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔20〕 前記ゼオライトがカルシウムを含有し、前記シート材にリン酸アンモニウム水溶液を接触させてなる、〔19〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法。
〔21〕 〔1〕に記載のゼオライト複合体含有養分放出シートから放出される養分を肥料として植物を栽培する、植物栽培方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の肥料、すなわち、原料として使用するゼオライトと同形状(粉粒状、破砕物状、繊維状、板状、ブロック状等)の形状からなる肥料よりも持ち運び時などの利便性が高く、養分の徐放性に優れた養分放出シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1のSEM写真である。
【
図2】(a)溶出試験1-1(実施例)の結果を示すグラフである。(b)溶出試験1´-1(比較例)の結果を示すグラフである。
【
図3】(a)溶出試験1-2(実施例)の結果を示すグラフである。(b)溶出試験1´-2(比較例)の結果を示すグラフである。
【
図4】(a)溶出試験1-3(実施例)の結果を示すグラフである。(b)溶出試験1´-3(比較例)の結果を示すグラフである。
【
図5】(a)生育試験1-1(実施例)の結果を示す写真である。(b)生育試験1´-1(比較例)の結果を示す写真である。
【
図6】溶出試験2-1(実施例)の結果を示すグラフである。
【
図7】他の実施形態に係るゼオライト複合体含有養分放出シートによる生育試験結果を示す写真である。
【
図8】溶出試験3-1(実施例)の結果を示すグラフである。
【
図9】(a)生育試験3-1(実施例)の結果を示す写真である。(b)生育試験3´-1(比較例)の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を用いて本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のゼオライト複合体含有養分放出シートは、ゼオライトとアパタイト系化合物の複合体を含む。
本発明の一実施形態に係るゼオライト複合体含有養分放出シートは、ゼオライトとアパタイト系化合物の複合体と、生分解性を有する樹脂(以下、生分解性樹脂ともいう)を含む組成物を、シート状に成形してなる。
本発明の他の実施形態に係るゼオライト複合体含有養分放出シートは、吸液性材料からなるシート材に、前記複合体を保持させてなる。
【0013】
[複合体]
複合体は、前記アパタイト系化合物が前記ゼオライトの表面の少なくとも一部を覆うものであることが好ましい。
ゼオライトの表面がアパタイト系化合物で覆われている場合、ゼオライトに含まれる元素やイオンは放出されにくくなる。
例えば、肥料の3要素である窒素、リン、カリウムの少なくとも何れかを含むゼオライトが水溶液に触れると、これらの元素やその元素を含むイオンが水溶液を介して徐々に放出されるが、ゼオライトの表面の少なくとも一部をアパタイト系化合物で覆うことで、徐放性が向上する。
【0014】
(ゼオライト)
ゼオライトは、前記肥料の3要素の少なくとも何れかを含むことが好ましい。
ゼオライトは、ゼオライト中の陽イオン、例えばナトリウムイオン等をカルシウムイオン(Ca2+)で置換することによって十分な量のカルシウムが含有されたゼオライト系化合物(以下、Ca型ゼオライト)が好適である。
Ca型ゼオライトを用いることにより、葉物野菜の生育障害の要因となるナトリウムイオンの影響を低減したゼオライト複合体含有養分放出シートを得ることができる。
ゼオライトのカルシウム置換については、その反応条件や方法に関し特に制限はないが、例えば、塩化カルシウム溶液、水酸化カルシウム溶液、硝酸カルシウム溶液等(以下、カルシウム化合物溶液)にゼオライトを入れて10~40時間程度浸漬することによってイオン交換をし、試料を十分洗浄した後、再びカルシウム化合物溶液にゼオライトを入れる操作を2~10回繰り返してナトリウムイオンをカルシウムイオンで置換することができる。このイオン交換において使用するカルシウム化合物は水に溶解するものであればいかなるカルシウム化合物でもよく、また濃度も特に制限されるものではない。そして、イオン交換する時のカルシウム化合物溶液の温度についても0℃から沸点までの任意の温度でよい。このようなイオン交換はアルカリ性で行うことが望ましく、この時のpH調整液としては例えばアンモニア水が好ましいが、これらに特に限定されることはない。
なお、Ca型の合成ゼオライトを使用する場合、前記カルシウム化合物溶液を用いた処理は不要である。
【0015】
前記のゼオライト系化合物は、「結晶性の多孔質アルミノシリケート」として定義することができるもので、少なくともこの定義に含まれる各種の化合物を用いることができる。例えば、一般式としては、
(M1,M21/2)m(AlmSinO2(m+n))・XH2O
〔式中,M1:Na+、K+、H+等の1価陽イオン、M2:Ca2+、Mg2+、Sr2+等の2価陽イオン、m≦n、X:任意の整数〕
で表わされる。
【0016】
ゼオライトの結晶構造は、特に制限はなく、例えば、国際ゼオライト学会が定めるアルファベット3文字からなる構造コードにて表される各種の結晶構造が挙げられる。構造コードの例としては、例えば、LTA、FER、MWW、MFI、MOR、LTL、FAU、BEA、CHA、HEUの各コードが挙げられる。当該結晶構造の好適な一態様を結晶構造の名称で示すと、好ましくはA型、X型、β型、Y型、L型、ZSM-5型、MCM-22型、フェリエライト型、モルデナイト型及びチャバサイト型からなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくはA型、X型及びY型からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0017】
ゼオライトは、天然ゼオライトと合成ゼオライトの何れでもよく、その種類も特に限定されない。
天然ゼオライトは、その産地により、前記陽イオンの種類及び含有量が異なる。日本国内には、モルデナイト((Ca,K2,Na2)〔((AlO2)(SiO2)5)2〕・7H2O)を多く含む鉱床、及びクリノプチロライト((Ca,Na2)〔(AlO2)2(SiO2)7〕・16H2O)を多く含む鉱床が各地に存在する。入手のしやすさ等の実用的な観点からは、モルデナイト及びクリノプチロライトの少なくとも何れかを使用することが好ましい。
合成ゼオライトは、多種類の結晶が合成されている。工業的に最も利用されている合成ゼオライトは、A型またはX型である。
【0018】
ゼオライトの形態は、特に制限はなく、例えば、粉粒状、破砕物状、繊維状、板状、ブロック状等であってよい。より好ましくは、平均粒子径が0.1~10μmの結晶であるとよい。このようなゼオライトは、結晶性が高く一つの粒子が大きいため、リン酸カルシウム系化合物による被覆効果と相まって、該ゼオライト中に含まれる養分の水溶液に対する溶解性をより抑えることができる。なお、粒子径の測定は、沈降重量法や遠心沈降光透過法、レーザー回折・光散乱法などの測定法が可能である。流動相中における凝集などを区別できない可能性があるので、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡により直接観察し、個々の粒子の長短径の平均値を求め、個数基準による各フラクションの対数正規分布から平均粒子径を求めることが好ましい。
また、IUPACで定義されるミクロ細孔の直径の分布が0.5~2nmであるとよい。
【0019】
(アパタイト系化合物)
本発明のゼオライト複合体含有養分放出シートに用いる複合体を構成するアパタイト系化合物は、リン酸カルシウム系アパタイトであることが好ましく、水酸アパタイト(HAp)であることが特に好ましい。リン酸カルシウム系化合物は一般的には水溶液に対して溶解性が低いため、リン酸カルシウム系アパタイトを用いることで、リンについても、水溶液を介して徐々に放出させることが可能となる。
【0020】
アパタイト系化合物には、一般式として、Ca10(PO4)6X2(Xはハロゲン原子や水酸基を示す)で表わされるリン酸カルシウム系アパタイト等、各種のものが含まれる。例えば、水酸アパタイト:Ca10(PO4)6(OH)2や、フッ素アパタイト:Ca10(PO4)6F2等が例示される。
【0021】
アパタイト系化合物は、平均径が30~500nmの微結晶であることが好ましい。これにより、ゼオライトの表面に緻密な被覆層を形成することができ、該ゼオライト中に含まれる養分の水溶液に対する溶解性をより抑えることができる。
【0022】
(ゼオライト及びアパタイト系化合物の含有率)
複合体におけるゼオライトの含有率は、30質量%以上90質量%未満であることが好ましく、60質量%以上90質量未満であることがより好ましく、80質量%以上90質量%未満であることが最も好ましい。
複合体におけるゼオライトの含有率を30質量%以上とすることで、複合体中に、肥料等の養分を十分に含有させることができる。
【0023】
複合体におけるアパタイト系化合物の含有率は10重量%以上であることが好ましい。
【0024】
ゼオライト及びアパタイト系化合物の含有率を上記範囲とし、かつ、前記ゼオライトの細孔内に肥料の3要素の少なくとも何れかを担持させることで、肥料の用途に好適なゼオライト複合体含有養分放出シートであって、適宜必要な養分をバランス良く放出するゼオライト複合体含有養分放出シートを実現することができる。ゼオライト複合体含有養分放出シートから放出される養分のバランスは、ゼオライトに含まれる養分や、複合体におけるゼオライトとアパタイト系化合物の含有率を調整して適宜変更することができる。
ゼオライト複合体含有養分放出シートを肥料として用いる場合、一般にカルシウムも植物の生育促進や食料としての栄養分として有用であるため、カルシウムをゼオライト中の成分あるいはアパタイト中の成分として含有させ、栽培植物に摂取させることが好ましい。
【0025】
複合体には、ゼオライト以外の無機多孔体が含有されてもよい。好ましくは、吸着特性を有する無機多孔体が挙げられる。このような無機多孔体としては、例えば、ハイドロタルサイト、粘土鉱物類、シリカゲル、アルミナゲル、アルミノシリカゲル等が挙げられる。また、これらは2種以上含まれていてもよい。
【0026】
[複合体の製造方法]
ゼオライトと、リン酸またはリン酸塩の溶液とを反応させ、表層にアパタイト系化合物を生成させることで複合体を製造することができる。
【0027】
一実施形態における複合体の製造方法は、ゼオライトを、窒素、カリウム及びリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むアルカリ性の水溶液(以下、アルカリ水溶液)に浸漬する浸漬工程を有する。アルカリ水溶液の温度は0℃から沸点までの任意の温度でよく、その浸漬時間とアルカリ水溶液濃度も任意でよい。アルカリ水溶液のpHは7~12が好ましい。
この浸漬工程により、窒素、カリウム及びリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むアルカリ水溶液に浸漬するという簡便な方法で、ゼオライトの内部に窒素やカリウムを含ませること、及び/又は、ゼオライトの表層に例えばアパタイト系化合物という状態でリンを担持させることができる。
【0028】
反応時の圧力と温度は、溶液の沸点以下であれば任意の条件でよい。例えば、ゼオライトをアルカリ水溶液に浸漬する際の反応温度は、25~120℃の範囲が好ましい。これにより、ゼオライトの表層に効率よくアパタイト系化合物を形成することができる。また、アパタイト系化合物の生成には、中性あるいはアルカリ性の溶液、つまりpH7以上の溶液が好適である。
【0029】
ゼオライトは、最も容易にアパタイト化できるCa型ゼオライトが好ましく、アルカリ水溶液は、リン酸化合物を含む溶液であることが好ましく、リン酸アンモニウムを含む溶液であることがより好ましい。これにより、ゼオライトに含まれるカルシウムとのイオン交換という形で簡便にゼオライトに窒素を含ませることができる。または、アルカリ水溶液は、カリウム化合物を含む溶液であることが好ましく、水酸化カリウムを含む溶液であることがより好ましい。これにより、ゼオライトに含まれるカルシウムとのイオン交換という形で簡便にゼオライトにカリウムを含ませることができる。
【0030】
また、ゼオライトを被覆するアパタイト系化合物は、浸漬するリン酸塩の水溶液の濃度や反応温度、反応時間を適宜調整することで、所望の被覆率や膜厚で形成されることが可能となる。
【0031】
次に生成物を洗浄・ろ過分離し、乾燥することで、ゼオライト粒子表面の全面あるいは一部がアパタイト系化合物で覆われた複合体を得ることができる。前記の乾燥は、例えば、凍結乾燥や、乾燥機による加熱乾燥など、いかなる乾燥法でもよい。
前記複合体は、肥料の3要素のうち、少なくともリンを含み、その他の元素も任意で含有できる。
【0032】
浸漬工程の後に、150℃~800℃の温度範囲で焼成する焼成工程を含んでもよい。これにより、アパタイト系化合物の結晶化が促進され溶出速度を更に低下させることができるため、更に長期に亘り肥料としての効能を発揮し続けることができる。
【0033】
[ゼオライト複合体含有養分放出シート]
<実施形態1>
本発明の一つの実施形態に係るゼオライト複合体含有養分放出シートは、前記複合体と、生分解性樹脂を含む組成物を、シート状に成形してなる。
ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける複合体の含有率は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける複合体の含有率が大きいほど、ゼオライト複合体含有養分放出シートの単位質量当たりの養分含有量を増やすことができる。
ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける生分解性樹脂は、10質量%~50質量%であることが好ましい。ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける生分解性樹脂の含有率を10質量%以上とすることで、ゼオライト複合体含有養分放出シートの形状を維持し、強度を確保することができる。ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける生分解性樹脂の含有率を50%以下とすることで、ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける上記複合体の含有率を十分に確保することができる。
【0034】
本実施形態のゼオライト複合体含有養分放出シートは、生分解性樹脂に、前記複合体が練り込まれている。前記のように、複合体は、肥料の3要素のうち、少なくともリンを含み、その他の元素も任意で含有できるため、本実施形態のゼオライト複合体含有養分放出シートを肥料の用途に使用した場合、生分解性樹脂の分解または、水との接触によるイオン交換によって、複合体に含まれる前記元素が徐々に放出され、シート設置後に長期に亘って肥料としての効果が期待でき、施肥及び/又は回収作業を簡略化することができる。
シートの厚み、形状や生分解性樹脂の種類、ブレンド比を調節することにより、生分解性の調節や、シートの強度、複合体に含まれる元素の放出持続期間等も調節できる。
【0035】
(生分解性樹脂)
本発明による生分解性樹脂としては、特に限定されず、微生物産生系、天然物系、化学合成系の生分解性樹脂を適宜用いることができる。
前記微生物産生系とは、バクテリアやカビ、藻類などの微生物が、代謝の過程で体内に蓄積したポリエステルを利用する生分解性樹脂を意味し、バイオポリエステル(例:PHB/V)などの脂肪族ポリエステル類、バクテリアセルロース、プルランやカードランなどの微生物多糖が含まれる。
前記天然物系とは、天然物由来の生分解性樹脂を意味し、キトサン、セルロース、澱粉、酢酸セルロース、澱粉などを変性して熱可塑性を与えたものなどが含まれる。
前記化学合成系とは、化学的・生物学的に合成されたモノマーを重合することにより得られる生分解性樹脂を意味する。モノマーの種類、組み合せ、分子量などを自由に設計できる。化学合成系の生分解性樹脂は、硬質系と軟質系に分類できる。硬質系には、ポリ乳酸が含まれる。軟質系には、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などの脂肪族ポリエステル、芳香族変性脂肪族ポリエステル(PBAT)、ポリビニルアルコール(PVA)などが含まれる。
上記のうち、芳香族変性脂肪族ポリエステルは、複合体の高分散かつ高充填が容易であり、延伸性や透明性にも優れるため、本実施形態の用途に好適である。
【0036】
ゼオライト複合体含有養分放出シートには、強度、耐水性、耐久性(生分解性速度)などを制御するために、必要に応じて、他の生分解性材料、例えば、竹、葦、ケナフ、バガス等の植物繊維や、木粉、紙などを適当量添加することができる。
【0037】
(製造方法)
本実施形態のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法は、生分解性樹脂中に前記複合体を均一に分散させてシート化できれば特に限定されないが、例えば、前記複合体と生分解性樹脂を含むマスターバッチを作製し、前記マスターバッチを、あるいは前記マスターバッチを生分解性樹脂で希釈混錬したものを、押出成形、射出成形によりシート状に成形する方法を例示することができる。
【0038】
<実施形態2>
本発明の他の実施形態に係るゼオライト複合体含有養分放出シートは、吸液性材料からなるシート材に、前記複合体を保持させてなる。
【0039】
ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける複合体の含有率は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが最も好ましい。ゼオライト複合体含有養分放出シートにおける複合体の含有率が大きいほど、ゼオライト複合体含有養分放出シートの単位質量当たりの養分の含有量を増やすことができる。
【0040】
前記吸液性材料は、特に限定されないが、可逆的に吸液および排液を構造的に行うことができる材料が好ましく、多孔体、フェルトを含む不織布、ポリマー材、パルプ材および紙材からなる群から選択される1種または2種以上の材料であることがより好ましい。具体的には、ゼオライトシート、ポリウレタンシート、ポリウレタンフォーム、ポリウレタンスポンジ、ポリプロピレンウレタンスポンジ、ナイロン不織布、ポリオレフィン不織布、メラミンフォーム、綿状パルプ、吸液紙などがあげられるが、これらの例示に限定されるものではない。
【0041】
(製造方法)
本実施形態のゼオライト複合体含有養分放出シートの製造方法は、前記吸液性材料からなるシート材に、前記複合体を保持できれば特に限定されない。
本実施形態のゼオライト複合体含有養分放出シートは、例えば、不織布に、天然ゼオライトのクリノプチロライト(CLI)を保持させたシート材(ジークライト株式会社製「Csキャッチャー24」)(以下、CLIシート)を硝酸カルシウム水溶液に接触させて、クリノプチロライト中のナトリウムイオンをCa2+で置換したCa型CLIシートを作製し、該Ca型CLIシートをリン酸アンモニウム水溶液中に入れて反応させ、CLIの表層にアパタイト系化合物を生成させ、CLI/HAp複合体シートとして得ることができる。
【実施例0042】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
<試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1の作製>
天然ゼオライトのクリノプチロライト(CLI)を不織布(フェルト)に保持させたシート材(ジークライト株式会社製「Csキャッチャー24」)(以下、CLIシート)を硝酸カルシウム溶液に接触させて、クリノプチロライト中のナトリウムイオンをCa
2+で置換したCa型CLIシートを作製し、該Ca型CLIシートをリン酸アンモニウム水溶液中に入れて反応させ、CLIの表層にアパタイト系化合物を生成させ、CLI/HAp複合体シートである試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1を作製した。
試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1の表面を、SEM写真(走査電子顕微鏡写真、45°傾斜観察)により観察したところ、
図1に示すように、繊維状に水酸アパタイトの粒子が観察された。
また、EDX化学分析の結果、Ca/Pモル比が1.8であり、水酸アパタイトのCa/Pモル比1.67と近い値を示した。この結果は、水酸アパタイトの形成を示唆し、CLI/HAp複合体シートが作成できたことを示している。
【0044】
<溶出試験1-1>
1.0cm×1.0cmの試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1(CLI/HAp複合体量0.014g/1枚)を10枚用意し、遠沈管に、30mlの水道水とともに入れた。遠沈管を攪拌(室温、50rpm)し、攪拌開始後の0、4、8、12、16、20、24時間でそれぞれ遠沈管中の溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。測定結果を
図2(a)に示す。
【0045】
<溶出試験1-2>
10.0cm×10.0cmの試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1(CLI/HAp複合体量1.4g/1枚)を1枚用意し、該試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1に100ml/回の水をかけ、シートを通過した溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。この操作を18回繰り返した。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。測定結果を
図3(a)に示す。
【0046】
<溶出試験1-3>
10.0cm×10.0cmの試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1(CLI/HAp複合体量1.4g)を1枚用意した。
CLI粒子(ジークライト株式会社製「イタヤゼオライト Z-35」平均粒子径:3~5mm)10kgを0.3Mの約13Lの硝酸カルシウムに接触させ300rpmで1時間攪拌させた後、Na電極を用いて溶液中のNa
+濃度を測定した。10kg分のCLI粒子と接触させた硝酸カルシウム水溶液は廃棄し、新たな硝酸カルシウム水溶液を調製して再び同量のCLI粒子のイオン交換を行った。溶液中のNa
+濃度が250mg/L以下になるまでこの操作を繰り返し行い、Ca型CLI粒子を作製した。
容器(10cm×10cm×10cm)の下部に、培地として前記Ca型CLI粒子300gを入れた。
前記培地の上部に、前記試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1(CLI/HAp複合体量1.4g)を設置した。前記ゼオライト複合体含有養分放出シート1に水道水100mlを毎日接触させ、溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。測定結果を
図4(a)に示す。
【0047】
[比較例1]
<CLI/HAp複合粒子の作製>
作製したCa型CLI粒子500gと0.5Mリン酸アンモニウム水溶液1Lを80℃で24時間接触させて、ゼオライトの細孔中に存在するCa2+とリン酸アンモニウム水溶液中のNH4
+のイオン交換によってゼオライト表面にHApを形成させ、CLI/HAp複合粒子を作製した。
【0048】
<溶出試験1´-1>
比較例1で作製したCLI/HAp複合粒子1.0gを用意し、遠沈管に、30mlの水道水とともに入れた。遠沈管を攪拌(室温、50rpm)し、攪拌開始後の4、8、12、16、20、24時間でそれぞれ遠沈管中の溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。測定結果を
図2(b)に示す。
【0049】
<溶出試験1´-2>
比較例1で作製したCLI/HAp複合粒子50.0gを用意し、そこに100ml/回の水をかけ、通過した溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。この操作を27回繰り返した。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。測定結果を
図3(b)に示す。
【0050】
<溶出試験1´-3>
比較例1で作製したCLI/HAp複合粒子50.0gを用意した。10cm×10cm×10cmの容器に、培地としてCa型CLIを300g入れた。培地の上部に、前記CLI/HAp複合粒子50.0gを設置した。前記CLI/HAp複合粒子に水道水100mlを毎日接触させ、溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。測定結果を
図4(b)に示す。
【0051】
図2、
図3、
図4に示すように、アパタイト化させたCLI粒子よりも、アパタイト化させたシートの方がNH
4
+イオン溶出量が大きくなる。すなわち、アパタイト化させたシートは、アパタイト化させたCLI粒子よりも、圧倒的に重量が小さいにもかかわらず、上記のようにイオン溶出量が大きいという利点を有する。
アパタイト化させたシートは、アパタイト化させたCLI粒子と同等以上の性能を持ちながら、運搬・取り扱いがしやすく、利便性が高いという利点も有する。
【0052】
<生育試験>
ロックウール(2cm×2cm×3cm)1つあたりに、市販の小松菜の種を3粒入れ、水道水をロックウールの半分の高さになるまで入れて浸した。20℃の暗室内で2日静置した後、市販の肥料液(協和株式会社製「ハイポニカ」)に浸し、赤色LED光を照射しながら1週間かけて小松菜の苗を育てた。この苗を使用して、下記の方法で生育試験を行った。
<生育試験1-1>
プランター(22.5cm×62cm×18cm)の下部に、培地としてCLIと前記Ca型CLI粒子を3kgずつ入れた。培地の上部に、プランターの大きさに合わせた試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1(10.0cm×10.0cm)をのせた。試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1に穴をあけて下部の培地を露出させた箇所に、前記の苗を12個(縦2列、横6列)定植した。毎日水道水を100ml与え、赤色LED光を照射しながら20日かけて小松菜の生育状況を観察した。1、10、20日目の苗の写真を
図5(a)に示す。
<生育試験1´-1>
プランター(22.5cm×62cm×18cm)の下部に、培地としてCLIと前記Ca型CLI粒子を3kgずつ入れた。培地の上部に、CLI/HAp複合粒子50.0gをのせ、前記の苗を12個(縦2列、横6列)定植した。毎日水道水を100ml与え、赤色LED光を照射しながら20日かけて小松菜の生育状況を観察した。20日目の苗の写真を
図5(b)に示す。
【0053】
図5(a)に示す生育試験で使用した試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート1(10cm×10cm)のゼオライト複合体含有量(1.4g)は、
図5(b)に示す生育試験で使用したCLI/HAp複合粒子の量(50.0g)よりも少ないにもかかわらず、
図5から、20日目における育成度はほぼ同様の結果となり、重量あたりの植物育成度は、シートの方が優れており、運搬・取り扱いがしやすく利便性にも優れることが確認できる。
【0054】
[実施例2]
<試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート2の作製>
(マスターバッチの作製)
合成ゼオライト(ユニオン昭和株式会社製「モレキュラーシーブ5A パウダー」)1.2kgと、生分解性の芳香族変性脂肪族ポリエステル(BASF社製「エコフレックス」)1.8kgを口径30mmの二軸押出機(L/D=47)に供給し、樹脂温度200℃、回転数100rpmにて二軸押出機中で溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工して、合成ゼオライトが40質量%含有されているマスターバッチを作製した。
(Ca型ゼオライト5Aシートの作製)
上記のマスターバッチを押出機に供給し、最高温度が230℃となるように溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工し、生分解性樹脂組成物を得た。その後、得られたペレットを、60℃、40時間真空乾燥させた。乾燥させたペレットを、幅1000mmのTダイを装着したスクリュー径90mmの単軸押出機を用いて、押出温度215℃にて溶融押出し、40℃に設定されたキャストロールにて厚み400μmのCa型ゼオライト5Aシートを作製した。
(試験用ゼオライト含有養分放出シートの作製)
前記Ca型ゼオライト5Aシートを0.5Mリン酸アンモニウム水溶液1L中に接触させて、ゼオライト5Aの表層にアパタイト系化合物を生成させた、ゼオライト5A/HAp複合体シートである試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート2を作製した。
【0055】
<溶出試験2-1>
1.0cm×1.0cmの試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート2(ゼオライト5A/HAp複合体量0.14g)を10枚用意し、遠沈管に、30mlの水道水または蒸留水とともに入れた。遠沈管を攪拌(室温、50rpm)し、攪拌開始後の1、6、11、16、21時間でそれぞれ遠沈管中の溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。NH
4
+濃度の測定結果を
図6(a)に、リン酸イオン濃度の測定結果を
図6(b)に示す。
【0056】
図2(a)と
図6の対比から、アパタイト化させたシート(CLIフェルト)よりも、ユニオン昭和株式会社製「モレキュラーシーブ5A」を生分解性シート化した後アパタイト化したシートの方が、イオン溶出量が大きい。ユニオン昭和株式会社製「モレキュラーシーブ5A」を生分解性シート化した後アパタイト化したシートでは、とくにリン酸イオンの溶出が著しく大きいことが確認できる。
図6に示すように、NH
4
+イオンは水道水、Pは蒸留水の方が、溶出量が大きい。使用する流体を変更するだけで、優先して溶出させたいイオンの種類をコントロールできる。
【0057】
<生育試験>
ロックウール1つあたりに、市販の小松菜の種を3粒入れ、水道水をロックウールの半分の高さになるまで入れて浸した。20℃の暗室内で2日静置した後、市販の肥料液に浸し、赤色LED光を照射しながら1週間かけて小松菜の苗を育てた。この苗を使用して、下記の方法で生育試験を行った。
<生育試験2-1>
容器(10cm×10cm×10cm)の下部に土培地(刀川平和農園社、花と野菜の培養土)240gを入れ、上部に試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート2(10cm×10cm)をのせた。
試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート2の中央部に穴をあけて下部の土培地を露出させた箇所に、前記の苗を定植した。
毎日水道水を100ml与え、赤色LED光を照射しながら1か月かけて小松菜の生育状況を観察した。
30日目の苗の写真を
図7に示す。
図7から、ゼオライト複合体含有養分放出シート2を用いることで、実施例1(生育試験1-1)同様に小松菜が十分に生育することが確認できる。
【0058】
[実施例3]
<試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート3の作製>
(複合体の作製)
合成ゼオライト(ユニオン昭和株式会社製「モレキュラーシーブ5Aパウダー」)0.5gを、リン酸でpH9に調整した0.5Mリン酸アンモニウム/水酸化カリウム混合溶液(NH4
+/K+ モル比:1)50mlに浸漬し、40℃、8時間反応させた。反応後の試料は蒸留水でよく洗い乾燥機で、24時間乾燥して、ゼオライト/アパタイト複合体を合成した。当該ゼオライト/アパタイト複合体の粉末を融解後、蒸留-水和滴定法(NH4
+)及びICP発光分析法により化学組成分析を行い、肥料の三大必須元素であるアンモニウム、リン、カリウムがそれぞれ、1.74,2.41,5.46質量%存在していることを確認した。
(マスターバッチの作製)
前記ゼオライト/アパタイト複合体1.2kgと、生分解性の芳香族変性脂肪族ポリエステル(BASF社製「エコフレックス」)1.8kgを口径30mmの二軸押出機(L/D=47)に供給し、樹脂温度200℃、回転数100rpmにて二軸押出機中で溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工して、複合体が40質量%含有されているマスターバッチを作製した。
(試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート3の作製)
上記のマスターバッチを押出機に供給し、最高温度が230℃となるように溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工し、生分解性樹脂組成物を得た。その後、得られたペレットを、60℃、40時間真空乾燥させた。乾燥させたペレットを、幅1000mmのTダイを装着したスクリュー径90mmの単軸押出機を用いて、押出温度215℃にて溶融押出し、40℃に設定されたキャストロールにて厚み400μmの試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート3を作製した。
【0059】
<溶出試験3-1>
1.0cm×1.0cmの試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート3(ゼオライト5A/HAp複合体量0.14g)を10枚用意し、遠沈管に、30mlの水道水または蒸留水とともに入れた。遠沈管を攪拌(室温、50rpm)し、攪拌開始後の1、6、11、16、21時間でそれぞれ遠沈管中の溶液をサンプリングして、液相の分析を行った。NH
4
+濃度はインドフェノールブルー法、リン酸イオン濃度はモリブデン法によって測定した。NH
4
+濃度の測定結果を
図8に示す。
【0060】
図6と
図8の対比から、ユニオン昭和株式会社製「モレキュラーシーブ5A」を生分解性シート化した後アパタイト化したシートよりも、ユニオン昭和株式会社製「モレキュラーシーブ5A」をアパタイト化した後、生分解性シート化したシートの方が、徐放性が大きいことが確認できる。シートの製法によって、イオン溶出挙動をコントロールできる。
【0061】
<生育試験>
ロックウール1つあたりに、市販の小松菜の種を3粒入れ、水道水をロックウールの半分の高さになるまで入れて浸した。20℃の暗室内で2日静置した後、市販の肥料液に浸し、赤色LED光を照射しながら1週間かけて小松菜の苗を育てた。この苗を使用して、下記の方法で生育試験を行った。
<生育試験3-1>
容器(10cm×10cm×10cm)の下部に土培地(刀川平和農園社、花と野菜の培養土)240gを入れ、上部に試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート3(10cm×10cm)をのせた。試験用ゼオライト複合体含有養分放出シート3の中央部に穴をあけて下部の土培地を露出させた箇所に、前記の苗を定植した。毎日水道水を100ml与え、赤色LED光を照射しながら1か月かけて小松菜の生育状況を観察した。30日目の苗の写真を
図9(a)に示す。
【0062】
[比較例2]
<試験用ゼオライト含有養分放出シートの作製>
(マスターバッチの作製)
合成ゼオライト(ユニオン昭和株式会社製「モレキュラーシーブ5A パウダー」)1.2kgと、生分解性の芳香族変性脂肪族ポリエステル(BASF社製「エコフレックス」)1.8kgを口径30mmの二軸押出機(L/D=47)に供給し、樹脂温度200℃、回転数100rpmにて二軸押出機中で溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工して、合成ゼオライトが40質量%含有されているマスターバッチを作製した。
(試験用ゼオライト含有養分放出シートの作製)
上記のマスターバッチを押出機に供給し、最高温度が230℃となるように溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工し、生分解性樹脂組成物を得た。その後、得られたペレットを、60℃、40時間真空乾燥させた。乾燥させたペレットを、幅1000mmのTダイを装着したスクリュー径90mmの単軸押出機を用いて、押出温度215℃にて溶融押出し、40℃に設定されたキャストロールにて厚み400μmの試験用ゼオライト含有養分放出シートを作製した。
【0063】
<生育試験3´-1>
容器(10cm×10cm×10cm)の下部に土培地(刀川平和農園社、花と野菜の培養土)を240g入れ、上部に試験用ゼオライト含有養分放出シート(10cm×10cm)をのせた。試験用ゼオライト含有養分放出シートの中央部に穴をあけて下部の土培地を露出させた箇所に、前記の苗を定植した。毎日水道水を100ml与え、赤色LED光を照射しながら1か月かけて小松菜の生育状況を観察した。30日目の苗の写真を
図9(b)に示す。
【0064】
図9から、植物育成度は、ゼオライト複合体含有養分放出シート(
図9(a))の方が、複合体でないゼオライトを含有するシートであるゼオライト含有養分放出シート(
図9(b))より優れることが確認できる。
本発明に係るゼオライト複合体含有養分放出シートは、「持ち運びや施肥及び/又は回収作業が容易であり、粒子よりも利便性が高い」、「養分の徐放性に優れる」、「土壌中で生分解する低環境負荷である」等の特性を備え、農業におけるシート状徐放性肥料として好適である。