(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129469
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】回転伝達構造体、カテーテル、及びガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20230907BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A61M25/00 624
A61M25/09 516
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114185
(22)【出願日】2023-07-12
(62)【分割の表示】P 2021574402の分割
【原出願日】2020-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 亜由子
(72)【発明者】
【氏名】浅畑 絵里花
(57)【要約】
【課題】回転伝達部材の回転伝達性を向上できるとともに、回転伝達構造体の剛性を調整可能な技術を提供する。
【解決手段】回転伝達構造体20は、素線31を巻回して構成されたコイル体30と、コイル体30の隣接する素線31間を接続する補強体40と、を備えている。補強体40は、素線31間が接続された状態のコイル体30において、長手方向における所定領域21の剛性が他の領域22の剛性よりも低くなるように設けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を巻回して構成されたコイル体と、
前記コイル体の隣接する前記素線間を接続する補強体と、を備え、
前記補強体は、前記素線間が接続された状態の前記コイル体において、長手方向における所定領域の剛性が他の領域の剛性よりも低くなるように設けられていることを特徴とする回転伝達構造体。
【請求項2】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、
複数の前記接続部は、前記所定領域において前記他の領域よりも疎に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の回転伝達構造体。
【請求項3】
複数の前記接続部は、仮想的ならせん形状に沿って配置され、
前記所定領域における前記らせん形状のピッチは、前記他の領域における前記らせん形状のピッチよりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の回転伝達構造体。
【請求項4】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、
前記所定領域に配置された前記接続部の材料のヤング率は、前記他の領域に配置された前記接続部の材料のヤング率よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転伝達構造体。
【請求項5】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、
複数の前記接続部は、前記コイル体の巻き方向と逆向きの仮想的ならせん形状に沿って配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回転伝達構造体。
【請求項6】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、
複数の前記接続部は、仮想的な多条のらせん形状に沿って配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の回転伝達構造体。
【請求項7】
前記補強体の外径は、前記コイル体の最大外径以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の回転伝達構造体。
【請求項8】
前記補強体の内径は、前記コイル体の最小内径以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の回転伝達構造体。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の回転伝達構造体によって補強されたシャフト部を備えるカテーテルであって、
前記回転伝達構造体における前記所定領域は、前記他の領域よりも先端側に位置することを特徴とするカテーテル。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の回転伝達構造体と、前記回転伝達構造体の内腔に挿通されたコアシャフトと、を備えるガイドワイヤであって、
前記回転伝達構造体における前記所定領域は、前記他の領域よりも先端側に位置することを特徴とするガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転伝達構造体、カテーテル、及びガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、隣接する巻線を含むコイルと、コイルの隣接する巻線を接続する部材を備えた医療デバイスの構造が開示されている。コイルの隣接する巻線を接続する部材は、隣接する巻線間でトルクを伝達できるように、隣接する巻線間の領域の一部に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、補強体によって回転伝達部材の回転伝達性を向上することについて検討されているものの、補強体によって回転伝達構造体の剛性を調整することについて考慮されていない。
【0005】
本発明は、回転伝達部材の回転伝達性を向上できるとともに、回転伝達構造体の剛性を調整可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転伝達構造体は、素線を巻回して構成されたコイル体と、前記コイル体の隣接する前記素線間を接続する補強体と、を備え、前記補強体は、前記素線間が接続された状態の前記コイル体において、長手方向における所定領域の剛性が他の領域の剛性よりも低くなるように設けられている。
【0007】
本発明によれば、補強体で接続されていないコイル体に比して回転伝達構造体の回転伝達性を向上できるとともに、補強体によって回転伝達構造体の剛性を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るカテーテルの全体図である。
【
図2】
図2は、シャフト部を示した説明図である。説明上、先端チップと中層の一部と外層の一部とを除去した図である。
【
図3】
図3は、シャフト部と先端チップとの断面図である。
【
図5】
図5は、回転伝達構造体の分解斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態2に係る回転伝達構造体の断面図である。
【
図8】
図8は、回転伝達構造体の分解斜視図である。
【
図9】
図9は、実施形態3に係る回転伝達構造体の断面図である。
【
図11】
図11は、実施形態4に係る回転伝達構造体の断面図である。
【
図13】
図13は、実施形態5に係るガイドワイヤの全体図である。
【
図14】
図14は、他の実施形態に係る補強体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、複数の前記接続部は、前記所定領域において前記他の領域よりも疎に配置されていてもよい。この構成によれば、複数の接続部の配置を変更することによって、回転伝達構造体の剛性を好適に調整することができる。
【0011】
複数の前記接続部は、仮想的ならせん形状に沿って配置され、前記所定領域における前記らせん形状のピッチは、前記他の領域における前記らせん形状のピッチよりも大きくてもよい。この構成によれば、らせん形状のピッチを変更することによって、回転伝達構造体の剛性を好適に調整することができる。
【0012】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、前記所定領域に配置された前記接続部の材料のヤング率は、前記他の領域に配置された前記接続部の材料のヤング率よりも小さくてもよい。この構成によれば、接続部の材料のヤング率を変更することによって、回転伝達構造体の剛性を好適に調整することができる。
【0013】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、複数の前記接続部は、前記コイル体の巻き方向と逆向きの仮想的ならせん形状に沿って配置されていてもよい。この構成によれば、複数の接続部がコイル体の巻き方向と同じ向きの仮想的ならせん形状に沿って配置されている構成に比して、回転伝達性がよい。
【0014】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、複数の前記接続部は、仮想的な多条のらせん形状に沿って配置されていてもよい。この構成によれば、複数の接続部が1条のらせん形状に沿って配置されている構成に比して、補強体によって調整できる剛性の範囲を大きくできる。
【0015】
前記補強体の外径は、前記コイル体の最大外径以下であってもよい。この構成によれば、補強体を設けたことに起因して、回転伝達構造体の外径が大きくなることを抑制できる。
【0016】
前記補強体の内径は、前記コイル体の最小内径以上であってもよい。この構成によれば、補強体を設けたことに起因して、回転伝達構造体の内径が小さくなることを抑制できる。
【0017】
本発明のカテーテルは、上述の回転伝達構造体によって補強されたシャフト部を備えるカテーテルであって、前記回転伝達構造体における前記所定領域は、前記他の領域よりも先端側に位置してもよい。この構成によれば、回転伝達性に優れ、かつ、先端部の柔軟性が確保されたカテーテルを実現可能となる。
【0018】
本発明のガイドワイヤは、上述の回転伝達構造体と、前記回転伝達構造体の内腔に挿通されたコアシャフトと、を備えるガイドワイヤであって、前記回転伝達構造体における前記所定領域は、前記他の領域よりも先端側に位置してもよい。この構成によれば、回転伝達性に優れ、かつ、先端部の柔軟性が確保されたガイドワイヤを実現可能となる。
【0019】
<実施形態1>
次に、本発明を具体化した実施形態1について、
図1から
図6を参照して説明する。
図1では、図示右側が体内に挿入される先端側(遠位側)、左側が医師等の手技者によって操作される後端側(近位側、基端側)になっている。
【0020】
図1は、回転伝達構造体20を備えた医療用カテーテル(医療用デバイスの一種)10を示した説明図である。カテーテル10は、シャフト部11と、シャフト部11の先端側に設けられた先端チップ12と、シャフト部11の基端側に設けられたコネクタ13と、を備えている。シャフト部11は、先端部11A以外の部分の剛性よりも先端部11Aの剛性が低い。シャフト部11における先端部11A以外の部分は、シャフト部11の本体部若しくは基端部とも称される部分である。
【0021】
シャフト部11は、
図2に示すように、内側から順に内層14と、補強体としての回転伝達構造体20と、中層15と、外層16と、を有する。
【0022】
内層14は、樹脂から形成され、内部にガイドワイヤや他のカテーテルを挿入するためのルーメン17を構成する。内層14を形成する樹脂材料は、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、PTFE(ポリテトラフルオロチレン)が用いられる。内層14の外周には補強体としての回転伝達構造体20が形成されている。回転伝達構造体20の構成については後に説明する。
【0023】
回転伝達構造体20の外周には樹脂からなる中層15が形成され、内層14と回転伝達構造体20とを被覆する。中層15を形成する樹脂材料は、特に限定されるものではなく、ポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリエステル、ポリウレタン等が用いられる。
【0024】
図3の断面図に示したように、中層15は、先端チップ12を除いてシャフト部11を被覆する。中層15は、回転伝達構造体20の間隙(言い換えると、隣接する素線31間の隙間32)において、内層14と接着している。
【0025】
中層15の外周には樹脂からなる外層16が形成され、中層15を被覆する。外層16を形成する樹脂材料は、特に限定されるものではなく、中層15と同様に、ポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリエステル、ポリウレタン等が用いられる。外層16は、シャフト部11において先端部11A側に向けて柔軟になるように、硬度の異なる樹脂材料を用いた構成になっていてもよい。例えば、先端部11Aを被覆する第一外層16Aは、先端部11A以外の部分を被覆する第二外層16Bよりも柔軟な樹脂で形成さていてもよい。
【0026】
回転伝達構造体20は、
図4に示すように、コイル体30と補強体40とを備えている。回転伝達構造体20は、第1領域21と、第1領域21よりも基端側に位置する第2領域22とを有している。第1領域21は、長手方向における所定領域に相当する。第2領域22は、他の領域に相当する。具体的には、第1領域21はシャフト部11における先端部11Aを構成する。第2領域22はシャフト部11における先端部11A以外の部分を構成する。
【0027】
コイル体30は、
図4及び
図5に示すように、素線31を巻回して構成されている。素線31は、扁平な平線である。素線の断面形状は略矩形でもよく、略円形や多角形であってもよい。素線31の径は、全長に亘って略一定である。素線31の材料は特に限定されないが、ステンレス合金(SUS)、ニッケルチタン合金(NiTi)、チタン(Ti)、プラチナ(Pt)、タングステン(W)、金(Au)、銀(Ag)など生体適合性を有し、腐食しにくい材料が好ましい。
【0028】
コイル体30は、らせん状に巻回されている。コイル体30の外径及び内径は、全長に亘って略一定である。このコイル体30は、補強体40で接続されていない状態において、全長に亘って曲げ剛性及びねじり剛性が略一定である。コイル体30は、隣接する素線31どうしが接触しておらず、いわゆる疎巻きになっている。換言すれば、コイル体30は、隣接する素線31の間に隙間32が形成されている。
【0029】
補強体40は、コイル体30の隣接する素線31間を接続する部材である。補強体40の材料は特に限定されないが、コイル体30と同じ材料でもよく、異なる材料であってもよい。補強体40の材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルチタン合金(NiTi)、チタン(Ti)、ニッケルクロム合金(NiCr)などの金属材料や、金属製のロウ材、樹脂製の接着剤等が挙げられる。また、補強体40は、素線31間を溶接することによって、コイル体30を構成する材料の一部で形成されてもよい。本実施形態では、補強体40は、全域にわたって同じ材料で形成されている。
【0030】
補強体40は、素線31間が接続された状態のコイル体30において、第1領域21の剛性が第2領域22の剛性よりも低くなるように設けられている。この補強体40は、第1領域21と第2領域22の双方に設けられている。第1領域21の剛性は、補強体40で接続されていないコイル体30の剛性よりも高く、第2領域22の剛性よりも低い。回転伝達構造体20は、第2領域22から第1領域21に向けて剛性が徐々に低くなっている。剛性の指標としては、曲げ剛性やねじり剛性を例示できる。
【0031】
補強体40は、素線31間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部41,42によって構成されている。複数の接続部41,42のうち、複数の接続部41が第1領域21に配置され、複数の接続部42が第2領域22に配置されている。
【0032】
複数の接続部41,42は、第1領域21において第2領域22よりも疎に配置されている。換言すれば、複数の接続部41の密度は、複数の接続部42の密度より小さい。複数の接続部41の密度は、例えば、コイル体30の単位長当たりの複数の接続部41の質量として求めることができる。この際、コイル体30の単位長は、複数の接続部41,42の分布に応じて適宜設定してよい。複数の接続部42の密度は、複数の接続部41の密度と同様にして求めることができる。複数の接続部41,42の密度は、接続部の数、大きさ、及び配置(後述するらせん形状のピッチ、らせん形状の条数)等を変更することで調整できる。
【0033】
複数の接続部41,42は、仮想的な1条のらせん形状S1に沿って配置されている。このらせん形状S1は、コイル体30の巻き方向と逆向きであり、例えば、コイル体30が先端に向かって反時計回り方向に巻回されている(S巻き)場合、複数の接続部41,42は、先端に向かって時計回り方向に巻回される(Z巻き)ような仮想的ならせん形状S1に沿って配置されている。
【0034】
第1領域21におけるらせん形状S1のピッチP1は、第2領域22におけるらせん形状S1のピッチP2よりも大きい。換言すれば、回転伝達構造体20は、剛性を調整するために、らせん形状S1のピッチを可変とした構成である。らせん形状S1のピッチは、回転伝達構造体20の長さ方向におけるらせん形状S1の巻き間の寸法である。第1領域21におけるらせん形状S1のピッチP1は、先端側に向かうにつれて徐々に大きくなっている。
【0035】
接続部41の大きさは、接続部42の大きさよりも小さい。具体的には、素線31の巻き方向について、接続部41の寸法が、接続部42の寸法よりも小さい。複数の接続部41,42の大きさは、先端側に向かうにつれて徐々に小さくなっている。
【0036】
補強体40の外径は、
図6に示すように、コイル体30の最大外径以下である。換言すれば、補強体40は、コイル体30の外周面34に外接する仮想円筒面34Aの内周側に配置されている。また、補強体40の内径は、コイル体30の最小内径以上である。換言すれば、補強体40は、コイル体30の内周面35に内接する仮想円筒面35Aの外周側に配置されている。つまり、補強体40は、複数の接続部41,42が互いに隣接する素線31の間の隙間32に配置される形態である。補強体40の外側面は、コイル体30の外周面34と面一状をなす。補強体40の内側面は、コイル体30の内周面35と面一状をなす。なお、補強体40の大きさ及び配置はこれに限られない。例えば、コイル体30の径方向において、補強体40(接続部41,42)の寸法が素線31の厚さ寸法よりも小さく、接続部41,42が外周面34と内周面35の間に位置する構成であってもよい。
【0037】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0038】
本実施形態の回転伝達構造体20によれば、補強体40で接続されていないコイル体に比して回転伝達構造体20の回転伝達性を向上できるとともに、補強体40によって回転伝達構造体20の剛性を調整することができる。例えば、回転伝達構造体20によれば、シャフト部11における先端部11A以外の部分では剛性を高くして、カテーテル10の操作性を向上させ、シャフト部11における先端部11Aでは回転伝達構造体20の柔軟性を確保することができる。
【0039】
本実施形態の効果を確認するために、補強体におけるらせん形状のピッチを変更して、回転伝達構造体の曲げ剛性をシミュレーションによって求めた。この結果から、補強体におけるらせん形状のピッチを大きくすると曲げ剛性が小さくなることが確認できた。また、補強体におけるらせん形状のピッチを変更して、回転伝達構造体のねじり剛性をシミュレーションによって求めた。この結果から、補強体におけるらせん形状のピッチを大きくするとねじり剛性が小さくなることが確認できた。さらに、ピッチを段階的に大きくすると、所定の条件下では、ねじり剛性よりも曲げ剛性の方が小さくなり易い傾向にあることが確認できた。この結果から、例えば、回転伝達構造体20の部位に応じてねじり剛性を確保しつつ曲げ剛性を小さくする等、補強体40によって回転伝達構造体20が適用される医療用デバイスに応じた曲げ剛性及びねじり剛性を実現できることが示唆された。
【0040】
また、回転伝達構造体の剛性を調整するために管状部材の側面にスロットパターンを形成した構成では、回転伝達構造体に回転力を付与した場合に、管状部材に形成されたスロットの開口縁に応力が集中して、回転伝達構造体が破断等することが懸念される。これに対して、本実施形態では、回転伝達構造体20に回転力を付与した場合に、コイル体30における素線31間の接続が一部外れたとしても、コイル体30自体の破断は回避できる。
【0041】
本実施形態では、複数の接続部41,42は、第1領域21において第2領域22よりも疎に配置されている。このため、複数の接続部41,42の配置を変更することによって、回転伝達構造体20の剛性を好適に調整することができる。
【0042】
本実施形態では、第1領域21におけるらせん形状S1のピッチP1が、第2領域22におけるらせん形状S1のピッチP2よりも大きい。このため、らせん形状S1のピッチP1,P2を変更することによって、回転伝達構造体20の剛性を好適に調整することができる。
【0043】
本実施形態では、複数の接続部41,42は、コイル体30の巻き方向と逆向きの仮想的ならせん形状S1に沿って配置されている。このため、複数の接続部41,42がコイル体30の巻き方向と同じ向きの仮想的ならせん形状S1に沿って配置されている構成に比して、回転伝達性がよい。
【0044】
本実施形態では、補強体40の外径は、コイル体30の最大外径以下である。このため、補強体40を設けたことに起因して、回転伝達構造体20の外径が大きくなることを抑制できる。補強体40の内径は、コイル体30の最小内径以上である。このため、補強体40を設けたことに起因して、回転伝達構造体20の内径が小さくなることを抑制できる。さらに、本実施形態では、補強体40が素線31間の隙間32に配置されている。このため、回転伝達構造体20を押し込んだ際に、押し込み力を先端側により伝達し易くすることができ、回転伝達構造体20のプッシャビリティをより向上させることができる。
【0045】
本実施形態のカテーテル10は、上述の回転伝達構造体20によって補強されたシャフト部11を備えるカテーテル10であって、回転伝達構造体20における第1領域21が、第2領域22よりも先端側に位置している。このため、回転伝達性に優れ、かつ、先端部11Aの柔軟性が確保されたカテーテル10を実現可能となる。
【0046】
<実施形態2>
実施形態2に係る回転伝達構造体220は、
図7及び
図8に示すように補強体の構成が実施形態1とは相違する。実施形態1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0047】
回転伝達構造体220は、コイル体30と補強体240とを備えている。回転伝達構造体220は、第1領域21と、第1領域21よりも基端側に位置する第2領域22と、第1領域21と第2領域22の中間に位置する中間領域23とを有している。第1領域21は、長手方向における所定領域に相当する。第2領域22は、他の領域に相当する。具体的には、第1領域21はシャフト部11の先端部11Aを構成する。第2領域22はシャフト部11の基端部を構成する。
【0048】
補強体240は、素線31間が接続された状態のコイル体30において、第1領域21の剛性が第2領域22の剛性よりも低くなるように設けられている。この補強体240は、第1領域21、第2領域22、及び中間領域23に設けられている。第1領域21の剛性は、補強体240を有しないコイル体30の剛性よりも高く、第2領域22及び中間領域23の剛性よりも低い。中間領域23の剛性は第2領域22の剛性よりも低い。回転伝達構造体220は、第2領域22から第1領域21に向けて剛性が多段階に低くなっている。剛性の指標としては、曲げ剛性やねじり剛性を例示できる。
【0049】
補強体240は、素線31間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部241,242,243によって構成されている。複数の接続部241,242,243のうち、複数の接続部241が第1領域21に配置され、複数の接続部242が第2領域22に配置されている。複数の接続部243は中間領域23に配置されている。複数の接続部241は、所定領域に配置された接続部に対応する。複数の接続部242は、他の領域に配置された接続部に対応する。
【0050】
複数の接続部241,242,243は、仮想的な4条のらせん形状S1~S4に沿って配置されている。この4条のらせん形状S1~S4の各々は、コイル体30の巻き方向と逆向きであり、例えば、コイル体30が先端に向かって反時計回り方向に巻回されている(S巻き)場合、複数の接続部241,242,243は、先端に向かって時計回り方向に巻回される(Z巻き)ような仮想的ならせん形状S1~S4に沿って配置されている。4条のらせん形状S1~S4は、互いに周方向に90°ずつズレた配置となっている。複数の接続部241の密度は、複数の接続部242の密度と同等である。
【0051】
接続部241を形成する材料のヤング率は、接続部242を形成する材料のヤング率よりも小さい。具体的には、複数の接続部241は、互いに同じ第1の材料からなる。
図8では、第1の材料で形成された接続部を黒色で表している。複数の接続部242は、互いに同じ第2の材料からなる。
図8では、第2の材料で形成された接続部を白色で表している。この第1の材料のヤング率は第2の材料のヤング率よりも小さい。複数の接続部243のうち半分の接続部243は、第1の材料からなり、複数の接続部243のうち残りの半分の接続部243は、第2の材料からなる。第1の材料からなる複数の接続部243は、4条のらせん形状S1~S4のうち2条のらせん形状S1,S3に沿って配置されている。第2の材料からなる複数の接続部243は、4条のらせん形状S1~S4のうち他の2条のらせん形状S2,S4に沿って配置されている。
【0052】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0053】
本実施形態の回転伝達構造体220によれば、補強体240で接続されていないコイル体に比して回転伝達性を向上できるとともに、補強体240によって回転伝達構造体220の剛性を調整することができる。例えば、回転伝達構造体220によれば、シャフト部11における先端部11A以外の部分では剛性を高くして、カテーテル10の操作性を向上させ、シャフト部11における先端部11Aでは回転伝達構造体220の柔軟性を確保することができる。
【0054】
本実施形態の効果を確認するために、複数の接続部を形成する材料のヤング率を変更して、回転伝達構造体の曲げ剛性をシミュレーションによって求めた。この結果から、複数の接続部を形成する材料のヤング率を小さくすると曲げ剛性が小さくなることが確認できた。また、複数の接続部を形成する材料のヤング率を変更して、回転伝達構造体のねじり剛性をシミュレーションによって求めた。この結果から、複数の接続部を形成する材料のヤング率を小さくするとねじり剛性が小さくなることが確認できた。さらに、補強体を形成する材料のヤング率を段階的に小さくすると、所定の条件下では、ねじり剛性よりも曲げ剛性の方が小さくなり易い傾向にあることが確認できた。この結果から、例えば、回転伝達構造体220の部位に応じてねじり剛性を確保しつつ曲げ剛性を小さくする等、補強体240によって回転伝達構造体220が適用される医療用デバイスに応じた曲げ剛性及びねじり剛性を実現できることが示唆された。
【0055】
第1領域21に配置された接続部241の材料のヤング率は、第2領域22に配置された接続部242の材料のヤング率よりも小さい。このため、接続部241,242の材料のヤング率を変更することによって、回転伝達構造体220の剛性を好適に調整することができる。
【0056】
複数の接続部241,242は、仮想的な多条のらせん形状S1~S4に沿って配置されている。このため、複数の接続部241,242が1条のらせん形状に沿って配置されている構成に比して、複数の接続部241と複数の接続部242によって調整できる剛性の範囲を大きくできる。
【0057】
本実施形態では、中間領域23に異なるヤング率の材料からなる複数の接続部243が配置されるから、回転伝達構造体220の剛性を徐々に変化させることができる。
【0058】
<実施形態3>
実施形態3に係る回転伝達構造体320は、
図9及び
図10に示すように補強体の構成が実施形態1とは相違する。実施形態1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0059】
補強体340は、素線31間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部341,342によって構成されている。複数の接続部341,342のうち、複数の接続部341が第1領域21に配置され、複数の接続部342が第2領域22に配置されている。複数の接続部341,342は、仮想的な1条のらせん形状S1に沿って配置されている。このらせん形状S1は、コイル体30の巻き方向と逆向きであり、例えば、コイル体30が先端に向かって反時計回り方向に巻回されている(S巻き)場合、複数の接続部341,342は、先端に向かって時計回り方向に巻回される(Z巻き)ような仮想的ならせん形状S1に沿って配置されている。
【0060】
複数の接続部341,342は、第1領域21において第2領域22よりも疎に配置されている。換言すれば、複数の接続部341の密度は、複数の接続部342の密度より小さい。複数の接続部341の密度は、例えば、コイル体30の単位長当たりの複数の接続部341の質量として求めることができる。複数の接続部342の密度も、同様にして求めることができる。この際、コイル体30の単位長は、複数の接続部341,342の分布に応じて適宜設定してよい。
【0061】
第1領域21におけるらせん形状S1のピッチP1は、第2領域22におけるらせん形状S1のピッチP2よりも大きい。らせん形状S1のピッチは、回転伝達構造体320の長さ方向におけるらせん形状S1の巻き間の寸法である。第1領域21におけるらせん形状S1のピッチP1は全域にわたって同じであり、第2領域22におけるらせん形状S1のピッチP2は全域にわたって同じである。つまり、らせん形状S1のピッチは、先端側に向かって段階的に大きくなっている。
【0062】
本実施形態では、らせん形状のピッチを段階的に変更した簡便な構成によって、回転伝達構造体320の剛性を好適に調整することができる。回転伝達構造体320は、第2領域22から第1領域21に向けて剛性が段階的に低くなっている。
【0063】
<実施形態4>
実施形態4に係る回転伝達構造体420は、
図11及び
図12に示すように補強体の構成が実施形態1とは相違する。実施形態1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0064】
補強体440は、素線31間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部441,442によって構成されている。複数の接続部441,442のうち、複数の接続部441が第1領域21に配置され、複数の接続部442が第2領域22に配置されている。複数の接続部441は、仮想的な1条のらせん形状S1に沿って配置されている。複数の接続部442は、仮想的な2条のらせん形状S1,S2に沿って配置されている。これらのらせん形状S1,S2は、コイル体30の巻き方向と逆向きであり、例えば、コイル体30が先端に向かって反時計回り方向に巻回されている(S巻き)場合、複数の接続部441,442は、先端に向かって時計回り方向に巻回される(Z巻き)ような仮想的ならせん形状S1に沿って配置されている。らせん形状S1のピッチP1は、らせん形状S2のピッチP2と同じである。
【0065】
本実施形態では、らせん形状S1,S2の条数を変更した簡便な構成によって、回転伝達構造体420の剛性を好適に調整することができる。回転伝達構造体420は、第2領域22から第1領域21に向けて剛性が段階的に低くなっている。
【0066】
<実施形態5>
実施形態5に係る回転伝達構造体520は、ガイドワイヤ510を構成する点が実施形態1とは相違する。実施形態1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0067】
図13は、回転伝達構造体520を有するガイドワイヤ(医療用デバイスの一種)510を示した説明図である。ガイドワイヤ510は、回転伝達構造体520と、回転伝達構造体520の内腔に挿通されたコアシャフト511等を備える。回転伝達構造体520の先端とコアシャフト511の先端とは先端ロウ付部512で接続されており、回転伝達構造体520の基端とコアシャフト511の中間部とは後端ロウ付部513で接続されている。
【0068】
回転伝達構造体520は、コイル体30と補強体40とを備えている。回転伝達構造体520は、第1領域21と、第1領域21よりも基端側に位置する第2領域22とを有している。第1領域21は、長手方向における所定領域に相当する。第2領域22は、他の領域に相当する。回転伝達構造体520の構成は、実施形態1と同様でありその説明を省略する。
【0069】
本実施形態のガイドワイヤ510は、回転伝達構造体520における第1領域21が、第2領域22よりも先端側に位置している。このため、回転伝達性に優れ、かつ、先端部の柔軟性が確保されたガイドワイヤ510を実現可能となる。
【0070】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
(1)上記実施形態以外にも、回転伝達構造体における第1領域及び第2領域の位置、範囲は適宜変更可能である。例えば、第1領域はシャフト部における先端部に限られず、シャフト部において柔軟性が要求される任意の領域を構成してもよい。第2領域は、第1領域の基端側に限られず先端側に位置してもよい。第2領域は、第1領域以外の全領域に限られず一部領域を構成してもよい。さらに、回転伝達構造体は、中間領域以外にも、第1領域と第2領域の双方と剛性が異なる第3領域を有していてもよい。
【0072】
(2)補強体によって回転伝達構造体の剛性を変化させる構成は、上記実施形態の構成に限られない。例えば、補強体の大きさ、補強体を形成する材料の物性、らせん形状のピッチ、らせん形状の条数のうち、一種又は複数種を組み合わせて変更することによって、回転伝達構造体の剛性を変化させることができる。
【0073】
(3)補強体は複数の接続部によって構成されるものに限られず、単一の部材によって構成されてもよい。そのような場合には、
図14に示すように、補強体640を先端側に向かうにつれて幅寸法が小さくなった長手状に形成して、第1領域21と第2領域22に補強体640の幅寸法が異なる部分を設けてもよい。また、このような単一の部材によって構成された補強体640は、
図14に示すようにコイル体30の外側に設けられてもよく、コイル体の内側に設けられてもよい。
【0074】
(4)複数の接続部は、コイル体の巻き方向と同じ向きの仮想的ならせん形状に沿って配置されてもよい。複数の接続部は、仮想的ならせん形状に沿って配置されなくてもよく、例えば、コイル体の長手方向に沿って配置されもよい。
【0075】
(5)上記実施形態以外にも、コイル体の構成は変更可能である。例えば、コイル体は、補強体で接続されていない状態において、剛性が異なる領域を有していてもよい。コイル体は素線間に隙間を有しておらず、密巻きにされていてもよい。コイル体の巻方向は限定されない。
【0076】
(6)上記実施形態では、素線の径が全長に亘って略一定である構成を例示したが、素線の径は基端から先端に向かって細くなっていてもよい。
【0077】
(7)回転伝達構造体の剛性の変化の態様は上記実施形態の構成に限られない。回転伝達構造体の剛性は、徐々に変化してもよく、任意の段階数にて段階的に変化してもよい。
【0078】
(8)回転伝達構造体は、カテーテル以外のガイドワイヤ等の医療用デバイスに備えられてもよい。回転伝達構造体は、用いられる医療用デバイスに応じて樹脂層等でコーティングされてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 カテーテル
11 シャフト部
11A 先端部
12 先端チップ
13 コネクタ
20,220,320,420,520 回転伝達構造体
21 第1領域(所定領域)
22 他の領域(第2領域)
23 中間領域
30 コイル体
31 素線
32 隙間
34 外周面
34A 仮想円筒面
35 内周面
35A 仮想円筒面
40,240,340,440,640 補強体
41,241,341,441 接続部(所定領域に配置された接続部)
42,242,342,442 接続部(他の領域に配置された接続部)
243 接続部
510 ガイドワイヤ
511 コアシャフト
S1,S2,S3,S4 らせん形状
【手続補正書】
【提出日】2023-07-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線が巻回された構成を有するコイル体と、
前記コイル体の隣接する前記素線間を接続する補強体と、を備え、
前記補強体は、前記素線間が接続された状態の前記コイル体において、長手方向における所定領域の剛性が他の領域の剛性よりも低くなるように設けられ、
前記補強体の外径は、前記コイル体の最大外径に等しく、前記補強体の内径は、前記コイル体の最小内径に等しいことを特徴とする回転伝達構造体。
【請求項2】
素線が巻回された構成を有するコイル体と、
前記コイル体の隣接する前記素線間を接続する補強体と、を備え、
前記補強体は、前記素線間が接続された状態の前記コイル体において、長手方向における所定領域の剛性が他の領域の剛性よりも低くなるように設けられ、
前記補強体の外側面は、前記コイル体の外周面と面一状をなし、前記補強体の内側面は、前記コイル体の内周面と面一状をなしていることを特徴とする回転伝達構造体。
【請求項3】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、
複数の前記接続部は、前記所定領域において前記他の領域よりも疎に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転伝達構造体。
【請求項4】
複数の前記接続部は、仮想的ならせん形状に沿って配置され、
前記所定領域における前記らせん形状のピッチは、前記他の領域における前記らせん形状のピッチよりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の回転伝達構造体。
【請求項5】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、
複数の前記接続部は、前記コイル体の巻き方向と逆向きの仮想的ならせん形状に沿って配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回転伝達構造体。
【請求項6】
前記補強体は、前記素線間を接続する部分ごとに設けられた複数の接続部によって構成され、
複数の前記接続部は、仮想的な多条のらせん形状に沿って配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の回転伝達構造体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の回転伝達構造体によって補強されたシャフト部を備えるカテーテルであって、
前記回転伝達構造体における前記所定領域は、前記他の領域よりも先端側に位置することを特徴とするカテーテル。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の回転伝達構造体と、前記回転伝達構造体の内腔に挿通されたコアシャフトと、を備えるガイドワイヤであって、
前記回転伝達構造体における前記所定領域は、前記他の領域よりも先端側に位置することを特徴とするガイドワイヤ。