(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001296
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】アブレーション装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20221222BHJP
A61B 18/18 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61N5/06 A
A61B18/18 200
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179562
(22)【出願日】2022-11-09
(62)【分割の表示】P 2018208208の分割
【原出願日】2018-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2017215922
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521031567
【氏名又は名称】株式会社ニューロライテック
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 一夫
(57)【要約】
【課題】赤外線光を用いたアブレーション装置において、赤外線光を効率良く集光させることにより組織の深部までの焼灼を実現させる。
【解決手段】赤外線光を発する赤外線光源10と、赤外線光源10から発せられた赤外線光を導く導光部20と、導光部20によって導かれた赤外線光を集光する集光部30と、を備え、集光部30で集光した赤外線光をヒト又は動物の組織へと照射するアブレーション装置1であって、集光部30は、導光部20によって導かれた赤外線光を所定の焦点に集光する集光ミラー31を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線光を発する赤外線光源と、前記赤外線光源から発せられた赤外線光を導く導光部と、前記導光部によって導かれた赤外線光を集光する集光部と、を備え、前記集光部で集光した赤外線光をヒト又は動物の組織へと照射するアブレーション装置であって、
前記集光部は、前記導光部によって導かれた赤外線光を所定の焦点に集光する集光ミラーを有する、アブレーション装置。
【請求項2】
前記赤外線光源から発せられた赤外線光を遮断する遮光部を備える、請求項1に記載のアブレーション装置。
【請求項3】
前記遮光部による赤外線光の遮断時間を制御することにより、前記組織のうち赤外線光が照射される部位の焼灼温度を調整する遮光制御部を備える、請求項2に記載のアブレーション装置。
【請求項4】
前記遮光部は、前記赤外線光源と前記導光部の間に配置された回転式シャッタを有し、
前記遮光制御部は、前記回転式シャッタの回転速度を制御することにより前記赤外線光の遮断時間を制御する、請求項3に記載のアブレーション装置。
【請求項5】
前記遮光部は、可視光を透過させるか又は可視光の量を減衰させる、請求項2から4の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項6】
前記遮光部は、前記赤外線光源と前記導光部の間に配置された平行移動式シャッタを有し、
前記遮光制御部は、前記平行移動式シャッタの速度及びタイミングを制御することにより前記赤外線光の遮断時間を制御する、請求項3に記載のアブレーション装置。
【請求項7】
可視光を発する可視光源と、
可視光を検出する検出光学系と、を備え、
前記導光部は、前記可視光源から発せられた可視光を前記集光ミラーへと導き、
前記集光ミラーは、前記導光部によって導かれた可視光を前記焦点に集光し、
前記検出光学系は、前記焦点付近で反射した可視光を検出する、請求項1から6の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項8】
前記検出光学系は、前記可視光の光量を調整する可視光フィルタと、前記可視光フィルタを透過した光を結像する結像レンズと、前記結像レンズによって結像された可視光を検出する撮像カメラと、を有する、請求項7に記載のアブレーション装置。
【請求項9】
前記焦点は、前記組織の表面又は前記組織の内部に配置され、
前記集光ミラーは、前記焦点に前記赤外線光を集光する放物面、又は、線状に構成された前記焦点に前記赤外線光を集光する円錐面又は多角錐面、を有し、前記放物面又は前記円錐面若しくは前記多角錐面の設置角度により焼灼方向を変更する、請求項1から8の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項10】
前記集光ミラーは、前記導光部によって導かれた赤外線光を拡散させる拡散面と、前記拡散面によって拡散された赤外線光を前記焦点に集光させる集光面と、を有し、前記拡散面及び前記集光面の設置角度及び形状により焼灼方向を変更する、請求項1から8の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項11】
前記拡散面には、前記導光部によって導かれた赤外線光を反射させて拡散させる際に赤外線光の特性を変化させる材料が塗布されている、請求項10に記載のアブレーション装置。
【請求項12】
前記組織のうち赤外線光が照射される部位に接触するように配置される印加電極及び検出電極と、
前記部位の凝固状況を判定する凝固判定部と、を備え、
前記凝固判定部は、前記印加電極を介して前記部位の第一の部分に印加される電流と、前記検出電極を介して前記部位の第二の部分で検出される電圧と、に基づいて算出されるインピーダンスが所定の閾値を超えるか又は前記インピーダンスの変化が略一定となった場合に、前記部位が凝固したものと判定する、請求項1から11の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項13】
前記組織のうち赤外線光が照射される部位に接触するように配置される印加電極及び検出電極と、
前記部位の凝固状況を判定する凝固判定部と、を備え、
前記凝固判定部は、前記印加電極を介して前記部位の第一の部分に印加される電位と、前記検出電極を介して前記部位の第二の部分で検出される電位と、の比が所定の閾値を超えるか又は前記比が略一定となった場合に、前記部位が凝固したものと判定する、請求項1から11の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項14】
前記組織のうち赤外線光が照射される部位に接触するように配置される検出電極と、
前記部位の凝固状況を判定する凝固判定部と、を備え、
前記凝固判定部は、前記検出電極を介して前記部位で検出される照射前の心拍電位と、前記検出電極を介して前記部位で検出される照射後の心拍電位と、の比が所定の閾値を超えるか又は前記比が略一定となった場合に、前記部位が凝固したものと判定する、請求項1から11の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項15】
前記赤外線光源から発せられた赤外線光を遮断する遮光部と、
前記凝固判定部により前記部位が凝固したものと判定した場合に、前記部位への赤外線光の照射を停止するように前記赤外線光源及び/又は前記遮光部を制御する停止制御部を備える、請求項12から14の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項16】
前記組織のうち赤外線光が照射される部位の周囲の組織温度を検出する温度センサと、
前記温度センサで検出された温度に基づいて前記部位の温度を推定する温度推定部と、を備える、請求項1から15の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項17】
前記導光部の射出口の形状は、凸レンズ形状とされている、請求項1から16の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項18】
前記集光ミラーと前記凸レンズ形状とされた前記射出口との間の距離は、変更可能とされている、請求項17に記載のアブレーション装置。
【請求項19】
前記導光部の射出口の形状は、凹レンズ形状とされている、請求項1から16の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項20】
前記集光ミラーと前記凹レンズ形状とされた前記射出口との間の距離は、変更可能とされている、請求項19に記載のアブレーション装置。
【請求項21】
前記集光ミラーによって集光された赤外線光を前記組織に向けて照射するための照射口と、
前記照射口を前記組織に密着させた状態を維持するための固定手段と、
を備える、請求項1から20の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項22】
前記固定手段は、前記集光ミラーと前記照射口との間に形成される空間に存在する空気を外部に排出して前記空間内の圧力を負圧にする排気機構を有する、請求項21に記載のアブレーション装置。
【請求項23】
前記排気機構は、前記空間に連通する排気通路と、前記排気通路を介して前記空間に存在する空気を吸引して外部へと排出する吸引装置と、を有する、請求項22に記載のアブレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、僧帽弁膜症等に伴う心房細動を治療するために、心筋の焼灼(組織凝固)を行って心筋内の異常伝導を断ち切る装置の開発が進められている。近年においては、ハロゲンランプの光を石英ロッドに導光し、石英ロッドの遠方端から出る赤外線光を用いて組織の焼灼を行う赤外線凝固装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる装置を採用すると、電気エネルギが体内に流れることがなく直接的に組織を加熱することで組織凝固を起こすことができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された赤外線凝固装置においては、近赤外光に対する石英ロッドの波長透過性が悪いために長い距離の導光ができず、細い石英ロッドを使うことができないという問題がある。また、
図22に示すように石英ロッドRの先端を狭くすると、先端に行くほど赤外線光Iは乱反射を繰り返すこととなり、石英ロッドR自体が発熱するものの、赤外線光Iは焼灼したい組織の対象部位Sの方向に直進しない。このため、対象部位Sに密着させないと赤外線光Iによる熱焼灼はできないという問題もあった。さらに、石英の屈折率は波長が長くなると小さくなることから、赤外線光を使用すると屈折による集光設計も難しくなる。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、赤外線光を用いたアブレーション装置において、赤外線光を効率良く集光させることにより組織の深部までの焼灼を実現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係るアブレーション装置は、赤外線光を発する赤外線光源と、赤外線光源から発せられた赤外線光を導く導光部と、導光部によって導かれた赤外線光を集光する集光部と、を備え、集光部で集光した赤外線光をヒト又は動物の組織へと照射するものであって、集光部は、導光部によって導かれた赤外線光を所定の焦点に集光する集光ミラーを有するものである。焦点は、組織の表面又は組織の内部に配置されることができる。
【0007】
集光ミラーとしては、焦点に赤外線光を集光する放物面又は線状に構成された焦点に赤外線光を集光する円錐面(多角錐面)を有し、これら放物面又は円錐面(多角錐面)の設置角度により焼灼方向を変更するものを採用することができる。また、導光部によって導かれた赤外線光を拡散させる拡散面と、拡散面によって拡散された赤外線光を焦点に集光させる集光面と、を有し、拡散面及び集光面の設置角度及び形状により焼灼方向を変更する集光ミラーを採用してもよい。また、この際、光源として白色レーザ光を使用し、導光部によって導かれた白色レーザ光を、酸化チタン等の材料からなる反射材かつ拡散材を塗布した拡散面で反射させて新たな赤外線光を生成し、その反射された赤外線光を集光面で焦点に集光させることもできる。
【0008】
かかる構成を採用すると、赤外線光源から発せられ導光部によって導かれた赤外線光を集光部で集光してヒト又は動物の組織へと照射する際に、集光ミラーで赤外線光を所定の焦点に集光することができる。従って、組織の表面や組織内に焦点を配置することにより、組織の深部まで焼灼することが可能となる。
【0009】
本発明に係るアブレーション装置において、赤外線光源から発せられた赤外線光を遮断する遮光部と、この遮光部による赤外線光の遮断時間を制御することにより、組織のうち赤外線光が照射される部位の焼灼温度を調整する遮光制御部と、を備えることができる。遮光部は、赤外線光源と導光部の間に配置された回転式シャッタを有することができ、遮光制御部は、回転式シャッタの回転速度を制御することにより赤外線光の遮断時間を制御することができる。また、遮光部は、赤外線光源と導光部の間に配置された平行移動式シャッタを有することもでき、遮光制御部は、平行移動式シャッタの速度及びタイミングを制御することにより赤外線光の遮断時間を制御することもできる。
【0010】
かかる構成を採用すると、赤外線光源から発せられた赤外線光を遮光部で遮断することができるため、赤外線光源のオン・オフ制御を行うことなく、赤外線光の照射を簡易かつ迅速に遮断することが可能となる。また、遮光部による赤外線光の遮断時間を制御することにより、組織のうち赤外線光が照射される部位の焼灼温度を調整することができる。
【0011】
本発明に係るアブレーション装置において、可視光を透過させるか又は可視光の量を減衰させる遮光部を採用することができる。
【0012】
かかる構成を採用すると、赤外線光源から発せられた赤外線光を遮光部で遮断することができる一方、遮光部で可視光を透過させる(又は可視光の量を減衰させる)ことができる。従って、赤外線光の照射を遮断しつつ可視光を連続的に照射することができる。
【0013】
本発明に係るアブレーション装置において、可視光を発する可視光源と、可視光を検出する検出光学系と、を備えることができる。かかる場合において、可視光源から発せられた可視光を集光ミラーへと導く導光部を採用し、導光部によって導かれた可視光を焦点に集光する集光ミラーを採用し、焦点付近で反射した可視光を検出する検出光学系を採用することができる。検出光学系は、可視光の光量を調整する可視光フィルタと、可視光フィルタを透過した光を結像する結像レンズと、結像レンズによって結像された可視光を検出する撮像カメラと、を有することができる。
【0014】
かかる構成を採用すると、可視光源から発せられ導光部によって導かれた可視光を集光ミラーで所定の焦点に集光することができ、焦点付近で反射した可視光を検出光学系で検出することができる。従って、組織の焦点付近の焼灼状況を目視観察することが可能となる。
【0015】
本発明に係るアブレーション装置において、組織のうち赤外線光が照射される部位に接触するように配置される印加電極及び検出電極と、当該部位の凝固状況を判定する凝固判定部と、を備えることができる。かかる場合において、凝固判定部は、印加電極を介して当該部位の第一の部分に印加される電流と、検出電極を介して当該部位の第二の部分で検出される電圧と、に基づいて算出されるインピーダンスが所定の閾値を超えるか又は当該インピーダンスの変化が略一定となった場合に、当該部位が凝固したものと判定することができる。
【0016】
かかる構成を採用すると、印加電極を介して組織のうち赤外線光が照射される部位の第一の部分に印加される電流と、検出電極を介して当該部位の第二の部分で検出される電圧と、に基づいて算出されるインピーダンスが所定の閾値を超える(又は当該インピーダンスの変化が略一定となった)場合に、当該部位が凝固したものと判定することができる。
【0017】
本発明に係るアブレーション装置において、組織のうち赤外線光が照射される部位に接触するように配置される印加電極及び検出電極と、当該部位の凝固状況を判定する凝固判定部と、を備えることができる。かかる場合において、凝固判定部は、印加電極を介して当該部位の第一の部分に印加される電位と、検出電極を介して当該部位の第二の部分で検出される電位と、の比が所定の閾値を超えるか又は当該比が略一定となった場合に、当該部位が凝固したものと判定することができる。
【0018】
かかる構成を採用すると、印加電極を介して組織のうち赤外線光が照射される部位の第一の部分に印加される電位と、検出電極を介して当該部位の第二の部分で検出される電位と、の比が所定の閾値を超える(又は当該比が略一定となった)場合に、当該部位が凝固したものと判定することができる。
【0019】
本発明に係るアブレーション装置において、組織のうち赤外線光が照射される部位に接触するように配置される検出電極と、当該部位の凝固状況を判定する凝固判定部と、を備えることができる。かかる場合において、凝固判定部は、検出電極を介して検出される照射前の心拍電位と、検出電極を介して検出される照射後の心拍電位と、の比が所定の閾値を超えるか又は当該比が略一定となった場合に、当該部位が凝固したものと判定することができる。
【0020】
かかる構成を採用すると、検出電極を介して組織のうち赤外線光が照射される部位で検出される照射前後の心拍電位の比が所定の閾値を超える(又は当該比が略一定となった)場合に、当該部位が凝固したものと判定することができる。このように心拍電位を利用して組織の凝固判定を行うことができるため、外部電位を心臓の組織に印加する必要がない。従って、外部電位によって心拍が乱れることを防止することができる。
【0021】
本発明に係るアブレーション装置において、凝固判定部により当該部位が凝固したものと判定した場合に、当該部位への赤外線光の照射を停止するように、赤外線光源及び/又は遮光部を制御する停止制御部を備えることができる。
【0022】
かかる構成を採用すると、組織のうち赤外線光が照射される部位が凝固した場合に、当該部位への赤外線の照射を自動的に停止することができる。
【0023】
本発明に係るアブレーション装置において、組織のうち赤外線光が照射される部位の周囲の組織温度を検出する温度センサと、温度センサで検出された温度に基づいて当該部位の温度を推定する温度推定部と、を備えることができる。
【0024】
かかる構成を採用すると、組織のうち赤外線光が照射される部位の周囲の組織温度に基づいて、当該部位の温度推定することができる。
【0025】
本発明に係るアブレーション装置において、導光部の射出口の形状を凸レンズ形状とすることができる。
【0026】
かかる構成を採用すると、導光部の射出口の形状を凸レンズ形状としているため、導光部によって導かれる可視光の焦点位置と赤外線光の焦点位置とを異ならせる(可視光の焦点位置を赤外線光の焦点位置よりも近い位置に設定する)ことができる。従って、例えば、可視光の焦点位置を組織の表面に設定する一方、赤外線光の焦点位置を組織の内部に設定することができる。
【0027】
本発明に係るアブレーション装置において、導光部の射出口の形状を凹レンズ形状とすることができる。
【0028】
かかる構成を採用すると、導光部の射出口の形状を凹レンズ形状としているため、導光部によって導かれる赤外線光の焦点位置を遠くに設定する(焦点距離を長くする)ことができる。
【0029】
本発明に係るアブレーション装置において、集光ミラーと凸レンズ形状(又は凹レンズ形状)とされた射出口との間の距離を変更可能とすることができる。
【0030】
かかる構成を採用すると、組織の状態によって焼灼深さを変更したいような状況において、赤外線光の焦点位置を変更することができるため有効である。
【0031】
本発明に係るアブレーション装置において、集光ミラーによって集光された赤外線光を組織に向けて照射するための照射口と、照射口を組織に密着させた状態を維持するための固定手段と、を備えることができる。固定手段は、集光ミラーと照射口との間に形成される空間に存在する空気を外部に排出して空間内の圧力を負圧にする排気機構を有することができる。排気機構は、空間に連通する排気通路と、排気通路を介して空間に存在する空気を吸引して外部へと排出する吸引装置と、を有することができる。
【0032】
かかる構成を採用すると、組織に対する照射口の位置変化を抑制することができる。従って、集光された赤外線光を、組織の所定の焦点に確実に照射することが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、赤外線光を用いたアブレーション装置において、赤外線光を効率良く集光させることにより組織の深部までの焼灼を実現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態に係るアブレーション装置の全体構成を説明するための構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るアブレーション装置の集光部を斜め上方から見た場合の斜視図である。
【
図4】
図2に示す集光部を斜め下方から見た場合の斜視図である。
【
図5】
図2に示す集光部の内部構成を示す縦断面図である。
【
図7】(A)は本発明の実施形態に係るアブレーション装置の組織凝固判定用の回路を示す回路図であり、(B)は組織のインピーダンスを説明するための説明図である。
【
図8】(A)は心電図であり、(B)は心拍電位の波形(心房波)を示すグラフである。
【
図9】焼灼前に検出された心拍電位と焼灼後に検出された心拍電位との比の時間履歴を示すグラフである。
【
図10】(A)は赤外線光のオン・オフのタイミングを示すタイミングチャートであり、(B)は赤外線光が照射される対象部位の温度の時間履歴を示すグラフである。
【
図11】(A)は赤外線光のオン・オフのタイミングを示すタイミングチャートであり、(B)は赤外線光が照射される対象部位の温度の時間履歴を示すグラフであり、(C)は赤外線光が照射される対象部位の周囲の平均温度の時間履歴を示すグラフである。
【
図12】本発明の実施形態に係るアブレーション装置の光学系の構成を示す構成図である。
【
図16】導光部の射出口を凸レンズの形状に加工した例を示すものであり、(A)は導光部の斜視図、(B)は導光部の断面図である。
【
図17】
図16に示す導光部を用いた場合における可視光の焦点位置と赤外線光の焦点位置との相違を説明するためのものであり、(A)は導光した赤外線光を反射させて集光した状態を示す図、(B)は導光した赤外線光を反射させずに集光した状態を示す図である。
【
図18】導光部の射出口を凹レンズの形状に加工した例を示すものであり、(A)は導光部の斜視図、(B)は導光部の断面図である。
【
図19】
図18に示す導光部を用いた場合における赤外線光の焦点位置を説明するための説明図である。
【
図20】アブレーション装置の赤外線照射口を対象部位に密着させた状態で固定するための固定手段(排気機構)の構成を説明するための断面図である。
【
図21】(A)は
図20に示す排気機構を含むアブレーション装置の斜視図、(B)は(A)に示すアブレーション装置から集光部を取り除いた状態を示す斜視図、(C)は排気機構に含まれる排気通路を説明するための説明図である。
【
図22】従来の赤外線光式アブレーション装置の集光部の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0036】
まず、
図1~
図12等を用いて、本発明の実施形態に係るアブレーション装置1の構成について説明する。本実施形態に係るアブレーション装置1は、
図1に示すように、ハロゲンランプ10、導光部20、集光部30、内視鏡挿入部40、遮光部50、制御部60等を有し、集光部30で集光した赤外線光をヒト又は動物の組織の所定の部位(以下、「対象部位」と称する)Sへと照射するものである。
【0037】
ハロゲンランプ10は、対象部位Sを焼灼して凝固させるための赤外線光を発するものであり、本発明における赤外線光源に相当するものである。本実施形態としては、
図1に示すような略直方体状の筐体を有するハロゲンランプ10を採用している。また、ハロゲンランプ10は、赤外線光(例えば波長780~3000nm)を発すると同時に、可視光(例えば波長370~780nm)をも発することができるものであり、本発明における可視光源としても機能する。
【0038】
導光部20は、ハロゲンランプ10から発せられた赤外線光を導くように機能するものである。本実施形態においては、導光部20として、
図1に示すような可撓性を有する長尺円筒状の光ファイバを採用している。なお、本実施形態における導光部20は、ハロゲンランプ10から発せられた可視光を集光部30へと導く機能をも果たすものである。
【0039】
集光部30は、導光部20によって導かれた赤外線光を集光するように機能するものである。なお、本実施形態においては、内視鏡が内部に挿入される円筒状の内視鏡挿入部40を介して集光部30が導光部20に接続されているが、内視鏡挿入部40を介在させずに、円筒状の導光部20の先端に集光部30を接続することもできる。集光部30は、内視鏡挿入部40(又は導光部20)から取り外すことができるようになっており、交換可能とされている。
【0040】
ここで、
図2~
図9を用いて、集光部30の構成について具体的に説明する。
【0041】
集光部30は、導光部20によって導かれて光入射口41(
図6参照)から入射する赤外線光を、組織の表面又は組織の内部に配置された所定の焦点に集光する集光ミラー31(
図5及び
図6参照)を有している。集光ミラー31は、線状に構成された焦点に赤外線光を集光する円錐面31a(
図6参照)を有している。ここで、線状に構成された焦点とは、点状の焦点が連続的に連なって線状とされることを意味する。このように線状に赤外線光を照射することにより、心筋内の異常伝導を効果的に断ち切ることが可能となる。なお、円錐面31aに代えて、線状に赤外線光を集光可能な多角錐面を採用することもできる。集光ミラー31は、導光部20によって導かれて光入射口41から入射する可視光を焦点に集光する機能をも果たすものである。
【0042】
集光部30は、集光ミラー31によって線状に集光された赤外線光を照射するための赤外線照射口32(
図4参照)を有している。赤外線照射口32の長さ及び幅(すなわち照射される赤外線光の長さ及び幅)は、対象部位Sの大きさに応じて適宜設定することができる。赤外線照射口32の長さは、例えば0.1~30mm程度に設定することができる。また、赤外線照射口32の幅は、例えば0.1~5mm程度に設定することができる。
【0043】
集光部30は、
図4に示すように、組織のうち赤外線光が照射される対象部位Sの周囲の温度を検出する温度センセ33を有している。温度センサ33で検出された温度の情報は、温度推定部として機能する制御部60に送られて、対象部位Sの温度の推定に用いられる。
【0044】
集光部30は、組織のうち赤外線光が照射される対象部位Sに接触するように配置される一対の印加電極34及び一対の検出電極35(
図4参照)を有している。印加電極34は、対象部位Sの第一の部分に接触し、検出電極35は、対象部位Sの第二の部分(第一の部分とは異なる部分)に接触するように配置される。対象部位Sの第一の部分には、印加電極34を介して所定のパルス電位が印加される一方、対象部位Sの第二の部分では、検出電極35を介してパルス電位が検出される。
【0045】
図7(A)に示すように、一方の印加電極34(Hc)と一方の検出電極35(Hp)は相互に隣接しており、他方の印加電極34(Lc)と他方の検出電極35(Lp)は相互に隣接している。印加電極34(Hc、Lc)を介してパルス電位を加えたときの電流は、印加電極34(Hc、Lc)間の対象部位Sのインピーダンス(R
int:
図7(B)参照)と対象部位Sの周囲の組織のインピーダンス(R
out:
図7(B)参照)の合成インピーダンス(R
int+R
out)により流れる。電圧計のインピーダンスが合成インピーダンス(R
int+R
out)よりも充分に大きい場合には、検出電極35(Hp、Lp)間で検出される電圧は、合成インピーダンス(R
int+R
out)間の電圧となる。このようないわゆる4端子法により、対象部位Sとその周囲の組織のインピーダンスを算出することができ、これにより対象部位Sの焼灼状況を判定することが可能となる。すなわち、算出されたインピーダンスが所定の閾値を超えるか、又は、算出されたインピーダンスの変化が略一定となった場合に、対象部位Sが凝固したものと判定することができる。
【0046】
本実施形態においては、外部からパルス電位を印加するのではなく、治療対象となっているヒト又は動物の心拍電位(
図8(B)参照)をパルス電位として採用することとしている。このため、印加電極34を実質的には使用せず、検出電極35のみを使用している。凝固判定部として機能する制御部60は、
図9を用いて後述するように、検出電極35を介して対象部位Sで検出される照射前後の心拍電位の比(Vb/Va)が略一定となった場合に、対象部位Sが凝固したものと判定することとしている。心拍電位は、個体により多少の違いはあるものの、焼灼の前後で変わるわけではない。対象部位Sの焼灼前に検出される心拍電位をVb、焼灼後に検出される心拍電位をVaとすると、焼灼前の電位Vbに対して、焼灼後には、心筋細胞が活動しない伝導のみの電位Vaとなり、焼灼が完了するとこれらの比(Vb/Va)は略一定値となる。
【0047】
遮光部50は、ハロゲンランプ10から発せられた赤外線光を遮断するように機能するものである。本実施形態における遮光部50は、
図1に示すように、ハロゲンランプ10と導光部20の間に配置された回転式シャッタ51を有している。回転式シャッタ51は、ハロゲンランプ10の筐体に回転軸52を介して回転可能に取り付けられており、赤外線光を遮断する遮断部51aと、赤外線光を透過させる透過部51bと、を有している。なお、回転式シャッタ51の遮断部51a及び透過部51bは、何れも可視光を透過させるか又は可視光の量を減衰させるように構成されている。制御部60は、対象部位Sが凝固したものと判定した場合に、対象部位Sへの赤外線光の照射を停止するように回転式シャッタ51の回転を制御する。
【0048】
制御部60は、各部を統合制御するものであり、各種制御プログラムやデータを格納するメモリや各種演算を行うCPUを有している。
【0049】
制御部60は、対象部位Sの凝固状況を判定する凝固判定部として機能する。具体的には、制御部60は、集光部30の検出電極35を介して対象部位Sで検出される照射前後の心拍電位の比が略一定となった(飽和した)場合に、対象部位Sが凝固したものと判定する。
【0050】
VbとVaの比(Vb/Va)は、対象部位Sの焼灼前のインピーダンスR
INTと焼灼後のインピーダンスR
INT´の比(R
INT/R
INT´)に対応する。心筋の組織の厚さは心房部位で約5mm、心室部位で約10mmであり、深部まで焼灼した時点で対象部位Sのインピーダンスの変化は飽和するため、焼灼前後のインピーダンスの比(R
INT/R
INT´)や焼灼前後の心拍電位の比(Vb/Va)も
図9に示すように飽和すると考えられる。従って、本実施形態における制御部60は、焼灼(照射)前の心拍電位Vbを検出するとともに焼灼(照射)後の心拍電位Vaを複数回(例えば3回)検出した後、これら焼灼(照射)前後の心拍電位の比(Vb/Va)を算出し、得られた値が略同一となった(飽和した)場合に、対象部位Sが凝固したものと判定する。なお、焼灼前後の心拍電位の比(Vb/Va)が所定の閾値を超えた場合に、対象部位Sが凝固したものと判定することもできる。
【0051】
また、制御部60は、対象部位Sが凝固したものと判定した場合に、対象部位Sへの赤外線光の照射を停止するようにハロゲンランプ10及び/又は遮光部50を制御する。すなわち、制御部60は、本発明における停止制御部として機能する。また、制御部60は、温度センサ33で検出された温度に基づいて対象部位Sの温度を推定する。すなわち、制御部60は、本発明における温度推定部としても機能する。
【0052】
さらに、制御部60は、対象部位Sの焼灼温度を調整するように遮光部50による赤外線光の遮断時間を制御する。すなわち、制御部60は、本発明における遮光制御部としても機能する。制御部60は、回転式シャッタ51の回転速度を制御することにより、赤外線光の遮断時間を制御することができる。制御部60は、
図10(A)、(B)に示すように、対象部位Sの焼灼温度が所定の閾値Ttに到達した場合に赤外線光の照射を停止するように遮光部50を制御したり、
図11(A)~(C)に示すように、対象部位Sの周囲の平均焼灼温度を徐々に変化(上昇・下降)させるべく赤外線光の照射デューティ比を調整するように遮光部50を制御したりすることができる。例えば、制御部60は、
図11(A)、(C)に示すように、照射デューティ比を2:1に設定することにより平均焼灼温度を上昇させ、照射デューティ比を1:1に設定することにより平均焼灼温度を(例えば60°~80°の間に)維持し、照射デューティ比を1:2に設定することにより平均焼灼温度を下降させることができる。
【0053】
本実施形態に係るアブレーション装置1は、
図12に示すように、可視光源としてのハロゲンランプ10から発せられ導光部20によって導光され集光部30によって集光されて組織の対象部位S(焦点付近)に照射され、対象部位Sで反射した可視光を検出する検出光学系70を備えている。検出光学系70は、対象部位Sで反射した可視光の光量を調整する可視光フィルタ71と、可視光フィルタ71を透過した光(可視光)を結像する結像レンズ72と、結像レンズ72によって結像された可視光を検出する撮像カメラ73と、を有している。かかる構成により、組織の対象部位S(焦点付近)の焼灼状況を目視観察することが可能となる。
【0054】
なお、
図12では、対象部位S(焦点付近)で反射した可視光を、導光部20を経由させることなく検出光学系70で検出した例を示したが、
図13及び
図14に示すように、対象部位S(焦点付近)で反射した光を、導光部20及びハーフミラー80を経由させて検出光学系70で検出することもできる。
【0055】
また、
図12~
図14では、対象部位S(焦点付近)で反射した可視光を検出する検出光学系70を採用した例を示したが、可視光を検出する検出光学系70に代えて、対象部位S(焦点付近)で反射した赤外線光を検出する検出光学系(例えば、対象部位Sで反射した赤外線光の光量を調整するフィルタと、フィルタを透過した赤外線光を結像する結像レンズと、結像レンズによって結像された赤外線光を検出するサーモカメラと、を有するもの)を採用することもできる。
【0056】
次に、本実施形態に係るアブレーション装置1の使用方法について説明する。
【0057】
まず、ヒト又は動物の組織の対象部位Sに、アブレーション装置1の集光部30の赤外線照射口32を接触させる。この際、アブレーション装置1の集光部30の検出電極35を対象部位Sに接触させる。次いで、アブレーション装置1の赤外線源10から発せられ導光部20によって導光され集光部30によって集光された赤外線光を対象部位Sに照射することにより、対象部位Sを焼灼して凝固させる。
【0058】
アブレーション装置1の制御部60は、集光部30の検出電極35を介して対象部位Sで検出される焼灼前後の心拍電位の比を算出し、得られた値が略同一となった場合に対象部位Sが凝固したものと判定し、対象部位Sへの赤外線光の照射を停止するようにハロゲンランプ10及び/又は遮光部50を制御する。以上の工程群を経て、対象部位Sの焼灼を完了する。なお、安全性を担保するため、ハロゲンランプ10の最大照射時間を例えば30秒に設定し、この最大照射時間内で、対象部位Sの最大焼灼完了時間を予め設定しておくことができる。
【0059】
以上説明した実施形態に係るアブレーション装置1においては、ハロゲンランプ10から発せられ導光部20によって導かれた赤外線光を集光部30で集光してヒト又は動物の組織へと照射する際に、集光ミラー31で赤外線光を所定の焦点に集光することができる。従って、組織の表面や組織内に焦点を配置することにより、組織の深部まで焼灼することが可能となる。
【0060】
また、以上説明した実施形態に係るアブレーション装置1においては、ハロゲンランプ10から発せられた赤外線光を遮光部50で遮断することができるため、ハロゲンランプ10のオン・オフ制御を行うことなく、赤外線光の照射を簡易かつ迅速に遮断することが可能となる。ハロゲンランプ10のオン・オフ制御を繰り返すと、ランプ寿命が短くなるとともに、色温度が変化する(すなわち赤外線光や可視光の発生波長が変化する)。本実施形態のように遮光部50で赤外線光の照射を制御することにより、ハロゲンランプ10の消耗や発生波長の変動を防止することができる。また、制御部60で遮光部50による赤外線光の遮断時間を制御することにより、対象部位Sの焼灼温度を調整することができる。
【0061】
また、以上説明した実施形態に係るアブレーション装置1においては、可視光源としても機能するハロゲンランプ10から発せられ導光部20によって導かれた可視光を集光ミラー31で所定の焦点に集光することができ、焦点付近で反射した可視光を検出光学系70で検出することができる。従って、組織の焦点付近の焼灼状況を目視観察することが可能となる。
【0062】
また、以上説明した実施形態に係るアブレーション装置1においては、ハロゲンランプ10から発せられた赤外線光を遮光部50で遮断することができる一方、遮光部50で可視光を透過させることができる。従って、赤外線光の照射を遮断しつつ可視光を連続的に照射することができる。
【0063】
また、以上説明した実施形態に係るアブレーション装置1においては、検出電極35を介して組織のうち赤外線光が照射される対象部位Sで検出される照射前後の心拍電位の比(Vb/Va)が略一定となった場合に、対象部位Sが凝固したものと判定することができる。このように心拍電位を利用して組織の凝固判定を行うことができるため、外部電位を心臓の組織に印加する必要がない。従って、外部電位によって心拍が乱れることを防止することができる。
【0064】
また、以上説明した実施形態に係るアブレーション装置1においては、対象部位Sが凝固したものと判定した場合に、対象部位Sへの赤外線光の照射を停止するようにハロゲンランプ10及び/又は遮光部50を制御する制御部60を備えるため、対象部位Sが凝固した場合に、対象部位Sへの赤外線の照射を自動的に停止することができる。
【0065】
また、以上説明した実施形態に係るアブレーション装置1においては、対象部位Sの周囲の温度を検出する温度センサ33と、温度センサ33で検出された温度に基づいて対象部位Sの温度を推定する制御部60と、を備えるため、対象部位Sの周囲の温度に基づいて、対象部位Sの温度を推定することができる。
【0066】
なお、以上の実施形態においては、対象部位に対して線状の赤外線光を照射するために、線状に構成される焦点に赤外線光を集光する円錐面31aを有する集光ミラー31を採用した例を示したが、集光ミラー31の構成はこれに限られるものではない。
【0067】
例えば、線状ではなく点状の焦点に赤外線光を集光する
図12に示すような放物面31a′を有する集光ミラーを採用してもよい。この際、放物面31a′の設置角度を適宜設定することにより、対象部位Sに照射する赤外線光の照射角度を変更することができる。例えば、放物面31a′の設置角度を変更することにより、導光部20によって導かれた赤外線光を90°、120°、150°等の角度で反射させることができる。
【0068】
また、
図13に示すように、導光部20によって導かれた赤外線光を拡散させる拡散面31bと、拡散面31bによって拡散された赤外線光を反射させて所定の焦点に集光させる集光面(反射面)31cと、を有する集光ミラー31を採用することもできる。かかる場合には、拡散面31b及び集光面31cの設置角度及び形状を適宜変更することにより焼灼方向を変更することができる。また、例えば導光部20によって導かれた白色レーザ光を、酸化チタン等の反射材かつ拡散材を塗布した拡散面31bに照射して反射させて新たな赤外線光を生成し、その反射された赤外線光を集光面31cで所定の焦点に集光させることもできる。
【0069】
また、
図12に示す構成と
図13に示す構成を組み合わせることもできる。すなわち、
図15に示すように、導光部20によって導かれた赤外線光を拡散させる拡散部31bと、拡散部31bによって拡散された赤外線光を所定の方向に反射させる反射面31cと、反射面31cによって反射された赤外線光を所定の焦点に集光する放物面31a′と、を有する構成を採用することができる。このような拡散系を採用すると、(短い波長の光は拡散され易く正面方向に抜け難いため)正面方向における色温度を低下させることができ、かつ、反射面31cによって周囲に拡散した短い波長の光を集めることができるため、エネルギ効率を向上させることができる。また、放物面31a′上にエネルギが集中することに起因して放物面31a′の温度が局所的に上昇することを避けることができる。拡散部31bとしては、赤外線光を拡散させる拡散面を採用することができる。この際、拡散面に酸化チタン等の反射材かつ拡散材を塗布しておくことが好ましい。このようにすると、例えば酸化チタンの粒子径等に応じて赤外線光の特性を変化させることができる。
【0070】
また、以上の実施形態においては、回転式シャッタ51を有する遮光部を採用した例を示したが、遮光部の構成はこれに限られるものではない。例えば、ハロゲンランプ10と導光部20の間に配置された平行移動式シャッタを有する遮光部を採用することもできる。かかる場合には、制御部60(遮光制御部)で平行移動式シャッタの速度及びタイミングを制御することにより、赤外線光の遮断時間を制御することができる。
【0071】
また、以上の実施形態においては、円筒状の導光部20を採用した例を示したが、導光部20の形状はこれに限られるものではない。例えば、断面形状が六角形状とされた角筒状の導光部を採用することもできる。かかる角筒状の導光部は、赤外線光を反射させて導く反射面が内部に設けられた中空部材である。このような構成を採用すると、反射面によって反射されて導かれる赤外線光の照射エネルギを均一化することができる。これは、円筒状の導光部20を採用した場合には射出光のプロファイルがガウシアン形状となるのに対し、断面六角形状の角筒状の導光部を採用すると射出光のプロファイルがフラットトップ形状となるためである。従って、対象部位の照射面の一部にエネルギが集中してその部分の温度が集中的に上昇することを抑制することができ、温度上昇に起因した集光ミラー31の変形による反射効率の低下を抑制することができる。なお、中空部材からなる導光部の断面形状は、六角形状に限られるものではなく、他の多角形状(三角形状、四角形状、五角形状等)としてもよい。
【0072】
また、以上の実施形態においては、導光部20として中空部材を採用した例を示したが、赤外線光を透過させる中実部材(例えば石英ロッド)を導光部として採用することもできる。この際、導光部の断面形状を六角形状とすることができる。このような構成を採用すると、透過される赤外線光の照射エネルギを均一化することができる。従って、対象部位の照射面の一部にエネルギが集中してその部分の温度が集中的に上昇することを抑制することができ、温度上昇に起因した集光ミラー31の変形による反射効率の低下を抑制することができる。なお、中実部材からなる導光部の断面形状は、六角形状に限られるものではなく、他の多角形状(三角形状、四角形状、五角形状等)としてもよい。
【0073】
また、
図16(A)、(B)に示すように、中実部材からなる導光部20Aの射出口の形状を凸レンズ20Aaの形状に加工することもできる。このような構成を採用すると、導光部20Aによって導かれる可視光の焦点位置と赤外線光の焦点位置とを異ならせることができる。具体的には、可視光の焦点位置を、赤外線光の焦点位置よりも近い位置に設定することができる。従って、例えば
図17(A)、(B)に示すように、可視光の焦点位置を対象部位S(組織)の表面SSに設定する一方、赤外線光の焦点位置を対象部位S組織の内部SIに設定することができる。なお、
図17(A)は、導光部20Aによって導光した赤外線光を集光部30の集光ミラー31で反射させて集光した状態を示す図であり、
図17(B)は、導光部20Aによって導光した赤外線光を(集光ミラー31で反射させることなく)そのまま正面に集光した状態を示す図である。
【0074】
また、
図18(A)、(B)に示すように、中実部材からなる導光部20Aの射出口の形状を凹レンズ20Abの形状に加工することもできる。このような構成を採用すると、凹レンズ20Abで赤外線光を拡散(屈折)させることができるので、
図19に示すように、凹レンズ20Abがない場合よりも赤外線光の焦点位置を遠くに設定する(焦点距離を長くする)ことができる。
図19は、導光部20Aによって導光した赤外線光を集光部30の集光ミラー31で反射させて集光した状態を示す図である。なお、可視光もまた凹レンズ20Abによって拡散(屈折)する。この際、波長が比較的長い可視光は、波長が比較的短い赤外線光よりも大きく拡散(屈折)することとなる。
【0075】
なお、
図16~
図19では、中実部材からなる導光部20Aの射出口の形状を凸レンズ20Aa又は凹レンズ20Abの形状に加工した例を示したが、中空部材からなる導光部の射出口に凸レンズ又は凹レンズを設けた場合(すなわち、中空部材からなる導光部の射出口の形状を凸レンズ形状又は凹レンズ形状にする場合)においても上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0076】
また、導光部20Aの先端に凸レンズ20Aa(又は凹レンズ20Ab)をネジ止めで取り付けることにより、集光ミラー31と、凸レンズ20Aa(又は凹レンズ20Ab)の形状とされた導光部20Aの射出口と、の間の距離を変更可能とすることもできる。このようにすると、組織の状態によって焼灼深さを変更したいような状況において、赤外線光の焦点位置を変更することができるため有効である。
【0077】
また、以上の実施形態においては、アブレーション装置1の集光部30の赤外線照射口32を対象部位Sに接触させた状態で、集光部30で集光された赤外線光を対象部位Sに照射した例を示したが、このように赤外線照射口32と対象部位Sとを接触(密着)させた状態を維持するための固定手段を設けることができる。このような構成を採用すると、対象部位Sに対する赤外線照射口32の位置変化を抑制することができるため、集光された赤外線光を対象部位Sの所定の焦点に確実に照射することが可能となる。
【0078】
固定手段としては、
図20及び
図21に示すように、集光ミラー31と赤外線照射口32との間に形成される空間Aに存在する空気を外部に排出して空間内の圧力を負圧にする排気機構90を採用することができる。排気機構90は、空間Aに連通する排気通路91と、排気通路91を介して空間Aに存在する空気を吸引して外部へと排出する(図示されていない)吸引装置と、を有することができる。排気通路91は、
図20及び
図21に示すように、角筒状の導光部20Bと導光部20Bの外周を覆う円筒部材20Cとの間に形成される複数の間隙92と、これら間隙92に連通するように円筒部材20Cに設けられた貫通孔93と、円筒部材20Cの外部に装着された外部流路部材20Dの内部に設けられ貫通孔93に連通する外部流路94と、から構成することができる。
【0079】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、かかる実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0080】
1…アブレーション装置
10…ハロゲンランプ(赤外線光源、可視光源)
20・20A・20B…導光部
20Aa…凸レンズ
20Ab…凹レンズ
30…集光部
31…集光ミラー
31a…円錐面
31b…拡散面
31c…集光面
32…赤外線照射口
33…温度センサ
34…印加電極
35…検出電極
50…遮光部
51…回転式シャッタ
60…制御部(遮光制御部、凝固判定部、停止制御部、温度推定部)
70…検出光学系
71…可視光フィルタ
72…結像レンズ
73…撮像カメラ
90…排気機構(固定手段)
91…排気通路
A…(集光ミラーと赤外線照射口との間に形成される)空間
S…対象部位(組織のうち赤外線光が照射される部位)
【手続補正書】
【提出日】2022-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線光を発する赤外線光源と、前記赤外線光源から発せられた赤外線光を導く導光部と、前記導光部によって導かれた赤外線光を集光する集光部と、前記組織のうち赤外線光が照射される部位に接触するように配置される検出電極と、前記部位の凝固状況を判定する凝固判定部と、を備え、前記集光部で集光した赤外線光をヒト又は動物の組織へと照射するアブレーション装置であって、
前記集光部は、前記導光部によって導かれた赤外線光を所定の焦点に集光する集光ミラーを有し、
前記凝固判定部は、前記検出電極を介して前記部位で検出される照射前の心拍電位と、前記検出電極を介して前記部位で検出される照射後の心拍電位と、の比が所定の閾値を超えるか又は前記比が略一定となった場合に、前記部位が凝固したものと判定する、アブレーション装置。
【請求項2】
前記焦点は、前記組織の表面又は前記組織の内部に配置され、
前記集光ミラーは、前記焦点に前記赤外線光を集光する放物面、又は、線状に構成された前記焦点に前記赤外線光を集光する円錐面又は多角錐面、を有し、前記放物面又は前記円錐面若しくは前記多角錐面の設置角度により焼灼方向を変更する、請求項1に記載のアブレーション装置。
【請求項3】
前記集光ミラーは、前記導光部によって導かれた赤外線光を拡散させる拡散面と、前記拡散面によって拡散された赤外線光を前記焦点に集光させる集光面と、を有し、前記拡散面及び前記集光面の設置角度及び形状により焼灼方向を変更する、請求項1に記載のアブレーション装置。
【請求項4】
前記拡散面には、前記導光部によって導かれた赤外線光を反射させて拡散させる際に赤外線光の特性を変化させる材料が塗布されている、請求項3に記載のアブレーション装置。
【請求項5】
前記赤外線光源から発せられた赤外線光を遮断する遮光部と、
前記凝固判定部により前記部位が凝固したものと判定した場合に、前記部位への赤外線光の照射を停止するように前記赤外線光源及び/又は前記遮光部を制御する停止制御部を備える、請求項1から4の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項6】
前記組織のうち赤外線光が照射される部位の周囲の組織温度を検出する温度センサと、
前記温度センサで検出された温度に基づいて前記部位の温度を推定する温度推定部と、を備える、請求項1から5の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項7】
前記導光部の射出口の形状は、凸レンズ形状とされている、請求項1から6の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項8】
前記集光ミラーと前記凸レンズ形状とされた前記射出口との間の距離は、変更可能とされている、請求項7に記載のアブレーション装置。
【請求項9】
前記導光部の射出口の形状は、凹レンズ形状とされている、請求項1から6の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項10】
前記集光ミラーと前記凹レンズ形状とされた前記射出口との間の距離は、変更可能とされている、請求項9に記載のアブレーション装置。
【請求項11】
前記集光ミラーによって集光された赤外線光を前記組織に向けて照射するための照射口と、
前記照射口を前記組織に密着させた状態を維持するための固定手段と、
を備える、請求項1から10の何れか一項に記載のアブレーション装置。
【請求項12】
前記固定手段は、前記集光ミラーと前記照射口との間に形成される空間に存在する空気を外部に排出して前記空間内の圧力を負圧にする排気機構を有する、請求項11に記載のアブレーション装置。
【請求項13】
前記排気機構は、前記空間に連通する排気通路と、前記排気通路を介して前記空間に存在する空気を吸引して外部へと排出する吸引装置と、を有する、請求項12に記載のアブレーション装置。