(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012968
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】自動車用ドアのホールシール材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20230119BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20230119BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
B60J5/00 501E
F16J15/10 N
B60R13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116774
(22)【出願日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】高山 克海
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】神宮 直樹
【テーマコード(参考)】
3D023
3J040
【Fターム(参考)】
3D023BA02
3D023BB08
3D023BD03
3D023BE02
3J040BA01
3J040EA02
3J040EA41
3J040FA05
3J040FA08
3J040HA01
3J040HA09
3J040HA22
(57)【要約】
【課題】熱収縮によって外周リップ部のような未発泡樹脂が変形することを極力抑制することができる。
【解決手段】発泡樹脂から構成される発泡本体部6と、未発泡樹脂で構成される外周リップ部7との同一成形材であり、外周リップ部7の先端部721がインナーパネル4の開口部41の外周部43に弾性付勢で押し当てられて当接するように固定される自動車用ドア1のホールシール材5であって、発泡本体部6のコアバック痕溝64の外側に立壁部63が周設され、立壁部63の外寄りには未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部631が形成され、未発泡立壁部631から外側に突出するように外周リップ部7が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂部と未発泡樹脂部との同一成形材であり、
前記発泡樹脂部と前記未発泡樹脂部との境界に立壁部が設けられ、
前記立壁部の前記未発泡樹脂部側に寄った位置に未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部が形成されることを特徴とする自動車用ドアのホールシール材。
【請求項2】
発泡樹脂から構成される発泡本体部と、未発泡樹脂で構成される外周リップ部との同一成形材であり、前記外周リップ部の先端部がインナーパネルの開口部の外周部に弾性付勢で押し当てられて当接するように固定される自動車用ドアのホールシール材であって、
前記発泡本体部のコアバック痕溝の外側に立壁部が周設され、
前記立壁部の外寄りには未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部が形成され、
前記未発泡立壁部から外側に突出するように前記外周リップ部が形成されていることを特徴とする自動車用ドアのホールシール材。
【請求項3】
前記外周リップ部が、前記発泡本体部の厚み方向に延びる起立壁と、前記起立壁から前記インナーパネル側に向かって外側に傾斜して形成されたリップ縁と、前記未発泡立壁部と前記起立壁とを断面視略H形状となるように連結する未発泡樹脂で構成された架橋部とから構成されていることを特徴とする請求項2記載の自動車用ドアのホールシール材。
【請求項4】
請求項2又は3の何れかに記載の自動車用ドアのホールシール材の製造方法であって、
前記外周リップ部と、前記立壁部と、前記立壁部で囲まれ且つ前記立壁部の高さより厚みが薄い基板に対応する形状の空洞で構成されるキャビティを、固定金型と可動金型とで区画して形成し、前記立壁部の形状の空洞における前記可動金型の後退する側の面に前記固定金型を配置し、前記立壁部の形状の空洞の内側面に前記可動金型の側面を配置する第1工程と、
前記キャビティに発泡性溶融樹脂を充填する第2工程と、
前記可動金型をコアバックして前記発泡性溶融樹脂を発泡させ、前記ホールシール材を形成する第3工程とを備えることを特徴とする自動車用ドアのホールシール材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ドアのインナーパネルの開口部をシールするホールシール材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ドアのインナーパネルとアウターパネルとの間の空間には、スピーカ装置やドアロック装置等の各種部品が設けられ、これらの各種部品の取り付け作業用にインナーパネルには開口部が形成されている。そして、この開口部は、特許文献1、2のようなホールシール材を用いて閉塞されている。
【0003】
特許文献1、2の構造では、発泡材で形成されたシート状のシール本体と、シール本体に積層して固着された合成樹脂フィルムでホールシール材が構成され、インナーパネルの開口部の周縁部に合成樹脂フィルムの周縁部をブチルシール剤で接着して、ホールシール材で開口部が閉塞されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-2094号公報
【特許文献2】特開2018-58402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インナーパネルの開口部をシールするドアホールシール構造としては、特許文献1、2の構造の他に、
図6に示すように、発泡樹脂から構成される発泡本体部102と、主に未発泡樹脂で構成される外周リップ部103との同一成形材であるホールシール材101を形成し、インナーパネル201の開口部202を閉塞するようにホールシール材101を配置し、ホールシール材101の外周リップ部103の先端部104をインナーパネル201の開口部202の外周部203に弾性付勢で押し当てるようにして、シール性を確保する構造が考えられる。
【0006】
このようなホールシール材101は、
図7(a)に示すように、固定金型301、302と可動金型303とで区画して形成されるキャビティ300に発泡性溶融樹脂を充填し、可動金型303を図示太線矢印の方向にコアバックして形成することが可能である。
【0007】
しかしながら、コアバックで形成されるホールシール材101では、可動金型303のコアバックの際に、可動金型303と固定金型302のいずれとも接触しない非接触領域105が発生する。コアバックの発泡樹脂成形では金型に接触している領域の樹脂は金型との接触によって冷やされるのに対し、非接触領域105の樹脂は冷却が進まずに高温状態が維持される。そのため、コアバックで成形したホールシール材101を自然冷却すると、
図7(b)の二点鎖線に示すように、非接触領域105の熱収縮によって外周リップ部103が意図した形状よりも大きく反り返るように変形してしまう。
【0008】
このように大きく熱変形したホールシール材101では、外周リップ部103の先端部104をインナーパネル201の外周部203に弾性付勢で押し当ててシール性を確保することは困難となるため、熱収縮によって外周リップ部が変形することを極力抑制することができるホールシール材が望まれる。また、例えば発泡樹脂部でドーナツ状に周囲を囲まれた領域にホールシール材の取付箇所等の未発泡樹脂部を形成する場合にも、上記と同様の非接触領域の発生、熱収縮による意図しない形状への変形が発生するため、このような変形を防止することも望まれる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、未発泡樹脂と発泡樹脂との境界において、熱収縮による意図しない形状の変形が発生することを極力抑制することができるホールシール材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の自動車用ドアのホールシール材は、発泡樹脂部と未発泡樹脂部との同一成形材であり、前記発泡樹脂部と前記未発泡樹脂部との境界に立壁部が設けられ、前記立壁部の前記未発泡樹脂部側に寄った位置に未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部が形成されることを特徴とする。
これによれば、コアバックの際に金型と非接触となって接触領域よりも高温となる領域を立壁部で遮断し、熱収縮が及ぼす影響を大幅に減少させることができる。従って、未発泡樹脂と発泡樹脂との境界において、熱収縮による意図しない形状の変形が発生することを極力抑制することができ、意図した形状の自動車用ドアのホールシール材を確実に得ることができる。
【0011】
本発明の自動車用ドアのホールシール材は、発泡樹脂から構成される発泡本体部と、未発泡樹脂で構成される外周リップ部との同一成形材であり、前記外周リップ部の先端部がインナーパネルの開口部の外周部に弾性付勢で押し当てられて当接するように固定される自動車用ドアのホールシール材であって、前記発泡本体部のコアバック痕溝の外側に立壁部が周設され、前記立壁部の外寄りには未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部が形成され、前記未発泡立壁部から外側に突出するように前記外周リップ部が形成されていることを特徴とする。
これによれば、発泡本体部のコアバック痕溝の外側に、外寄りに未発泡立壁部を有する立壁部を周設する構成により、コアバックの際に金型と非接触となって接触領域よりも高温となる領域を立壁部の内側に留めることができ、熱収縮が外周リップ部に及ぼす影響を立壁部で遮断して大幅に減少させることができる。従って、熱収縮によって外周リップ部が変形することを極力抑制する、換言すれば未発泡樹脂と発泡樹脂との境界において、熱収縮による意図しない形状の変形が発生することを極力抑制することができ、外周リップ部をインナーパネルに弾性付勢で確実に押し当てることができるホールシール材とすることができる。また、コアバックで形成される発泡樹脂の領域が外周リップ部の根元付近まで及ぶことを立壁部で防止することができ、外周リップ部に発泡樹脂の部分が形成されて強度が低下することを防止することができる。また、本ホールシール材で構成されるドアホールシール構造では、インナーパネルの開口部の外周部にホールシール材の外周リップ部の先端部を弾性付勢で押し当て、隙間なく常に面圧がかかる状態とすることができ、外部からの振動の加振力を超える圧力で外周リップ部の先端部をインナーパネルの外周部に押し付けて振動を抑え込み、外力に起因する異音(ビビリ音)或いはがたつきの発生を防止できる。更に、インナーパネルの開口部の周辺において接着された合成樹脂フィルムが振動して異音が発生するようなことが無く、ホールシール材に起因する異音の発生も防止できる。更に、このドアホールシール構造では、外周リップ部の先端部をインナーパネルの開口部の外周部に弾性付勢で押し当てて当接状態を維持することにより、ホールシール材の外周部とインナーパネルの開口部の外周部とのシール性、防水性を確保することができる。
【0012】
本発明の自動車用ドアのホールシール材は、前記外周リップ部が、前記発泡本体部の厚み方向に延びる起立壁と、前記起立壁から前記インナーパネル側に向かって外側に傾斜して形成されたリップ縁と、前記未発泡立壁部と前記起立壁とを断面視略H形状となるように連結する未発泡樹脂で構成された架橋部とから構成されていることを特徴とする。
これによれば、未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部と起立壁と架橋部で構成される断面視略H形状により、外周リップ部を含むホールシール材の外周部の強度を高めることができる。更に、この断面視略H形状により、外周リップ部の弾力性を高め、外周リップ部の先端部がインナーパネルの開口部の外周部に弾性付勢で押し当てられる弾性力、面圧をより高めることができる。従って、本ホールシール材で構成されるドアホールシール構造では、より確実に異音の発生防止、シール性や防水性の確保の効果を得ることができる。
【0013】
本発明の自動車用ドアのホールシール材の製造方法は、本発明の自動車用ドアのホールシール材を製造する方法であって、前記外周リップ部と、前記立壁部と、前記立壁部で囲まれ且つ前記立壁部の高さより厚みが薄い基板に対応する形状の空洞で構成されるキャビティを、固定金型と可動金型とで区画して形成し、前記立壁部の形状の空洞における前記可動金型の後退する側の面に前記固定金型を配置し、前記立壁部の形状の空洞の内側面に前記可動金型の側面を配置する第1工程と、前記キャビティに発泡性溶融樹脂を充填する第2工程と、前記可動金型をコアバックして前記発泡性溶融樹脂を発泡させ、前記ホールシール材を形成する第3工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、可動金型をコアバックして発泡性溶融樹脂を発泡させる際に、可動金型に対応して発泡する部分は、外側に位置する立壁部となる樹脂に接触して一体化されながら形成されていく。従って、ホールシール材の可動金型の後退する側の面に形成されるコアバック痕溝に対応する、金型と非接触となって高温となる領域を非常に小さくすることができ、熱収縮が外周リップ部に及ぼす影響をより大きく減少させることができる。また、コアバック痕溝に対応する高温な非接触領域は、内側以外が金型に接触する立壁部に隣接して形成されることから、コアバックの際に非接触領域の冷却を促進することができ、かかる点からも熱収縮が外周リップ部に及ぼす影響をより大きく減少させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、未発泡樹脂と発泡樹脂との境界において、熱収縮による意図しない形状の変形が発生することを極力抑制することができるホールシール材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による実施形態のホールシール材を用いたドアホールシール構造を有する自動車用ドアの正面図。
【
図2】本発明による実施形態のホールシール材を用いたドアホールシール構造の断面図。
【
図3】(a)は
図2のA部拡大図、(b)は
図2のB部拡大図。
【
図4】(a)~(c)は実施形態のホールシール材の製造工程を説明する工程説明図。
【
図5】(a)~(c)は
図4の(a)~(c)にそれぞれ対応する部分拡大図。
【
図6】比較例のホールシール材の外周リップ部をインナーパネルに押し当てた状態を示す断面説明図。
【
図7】(a)は比較例のホールシール材の製造工程を説明する断面説明図、(b)は比較例のホールシール材における外周リップ部の熱変形を説明する断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態の自動車用ドアのホールシール材〕
本発明による実施形態の自動車用ドアのホールシール材5は、
図1~
図3に示すように、自動車用ドア1でアウターパネル2とドアトリム3との間に配置されるインナーパネル4に設けられるドアホールシール構造に用いられる。ホールシール材5は、発泡樹脂から構成される発泡本体部6と、未発泡樹脂で構成される外周リップ部7との同一成形材で構成される。
【0017】
ホールシール材5の発泡本体部6は、発泡コア層61と、発泡コア層61の外側に形成されたスキン層62とで構成される。また、発泡本体部6の外周には、立壁部63が形成され、立壁部63の外寄りは未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部631になっている。立壁部63は、発泡本体部6に設けられた周溝のコアバック痕溝64の外側に周設されている。
【0018】
外周リップ部7は、未発泡立壁部631から外側に突出するように形成されており、発泡本体部6の厚み方向に延びる起立壁71と、起立壁71からインナーパネル4側に向かって外側に傾斜して形成されたリップ縁72と、未発泡立壁部631と起立壁71とを断面視略H形状となるように連結する未発泡樹脂で構成された架橋部73とから構成されている。図示例のリップ縁72は、起立壁71の端部から略弧状に湾曲して傾斜するように形成されており、その先端部721はホールシール材5の周縁となる位置に配設され、玉縁状に形成されている。また、図示例の架橋部73は、発泡本体部6の厚み方向における未発泡立壁部631の中央よりもインナーパネル4側に寄った位置に形成されて、未発泡立壁部631と起立壁71とに架設されている。
【0019】
本実施形態における発泡本体部6のインナーパネル4側の面には、略U字形状に突出する部分で構成される掛止具係合穴65と、外側に爪を向けて形成されている掛止フック66がそれぞれ所定の複数個所に設けられ、発泡本体部6のスキン層62の一部として一体形成されている。掛止具係合穴65には別部材の掛止具8が挿入されて係着される。
【0020】
そして、ホールシール材5は、インナーパネル4の開口部41を閉塞するように配置され、発泡本体部6がインナーパネル4に機械的に固定される。本実施形態では、掛止フック66がインナーパネル4の開口部41の周縁42の内側に引っ掛けられ、掛止具係合穴65に係着される掛止具8の先端フック81がインナーパネル4の開口部41の周縁42の内側に引っ掛けられて掛止固定されている(
図2、
図3参照)。即ち、発泡本体部6をインナーパネル4の開口部41側に引き寄せる力が加わるようにして、発泡本体部6がインナーパネル4の開口部41の周縁42に掛止固定されている。
【0021】
インナーパネル4に掛止固定で機械的に固定されたホールシール材5の外周リップ部7の先端部721は、インナーパネル4の開口部41の外周部43に弾性付勢で押し当てられ、当接状態が維持される。図示例では、略垂直方向に延びる周縁42から外側に向かって車室側に略弧状に湾曲するように傾斜して形成されたインナーパネル4の開口部41の外周部43に、玉縁状の先端部721が弾性付勢で押し当てられて当接状態が維持されている。
【0022】
本実施形態ドアホールシール構造で用いられるホールシール材5を製造する際には、例えば
図4(a)及び
図5(a)に示すように、外周リップ部7と、立壁部63と、立壁部63で囲まれ且つ立壁部63の高さより厚みが薄い基板に対応する形状の空洞で構成されるキャビティ90を、固定金型91、92と可動金型93とで区画して形成する。発泡性溶融樹脂の成形時には可動金型93は
図4(a)の太線二点鎖線矢印の方向に後退するようになっており、立壁部63の形状の空洞における可動金型93の後退する側の面901には固定金型92が配置され、立壁部63の形状の空洞の内側面903には可動金型93の側面が配置される。
【0023】
次いで、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、図示省略する発泡性溶融樹脂の注入路からキャビティ90に発泡性溶融樹脂MRを注入し、充填する。この発泡性溶融樹脂には自動車用ドア1のホールシール材5に適用可能な適宜の材料を用いることが可能であり、
例えばPP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)等のオレフィン系樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)やPC(ポリカーボネート)とABSとの混合樹脂など非晶質樹脂、オレフィン系等の熱可塑エラストマーや、又はEPDM(エチレンプロピエンジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、NBR(ニトリルゴム)等の合成ゴム等を用いると良好である。尚、本実施形態では、掛止具係合穴65を構成する略U字形部分の形状に対応する隙間911と、掛止フック66の形状に対応する隙間912が固定金型91に設けられており、隙間911、912にも発泡性溶融樹脂MRが充填される。掛止具係合穴65に相当する部位には、固定金型91内で進退自在或いは固定金型91に外付けで着脱自在な金属棒材が設置され、発泡性溶融樹脂MRの注入、充填時には金属棒材で塞がれて、掛止具係合穴65に対応する形状が形成されるようになっている。
【0024】
その後、
図4(c)及び
図5(c)に示すように、図示の太線矢印の方向に可動金型93をコアバックして発泡性溶融樹脂MRを発泡させ、発泡本体部6と外周リップ部7から構成されるホールシール材5が形成される。この際、本実施形態では、形成されたホールシール材5に、掛止具係合穴65を構成する略U字形部分と、掛止フック66も併せて形成される。このように形成されたホールシール材5には、可動金型93の側面に対応する位置において、発泡本体部6の可動金型93側の面にコアバック痕溝64が形成され、その外側に未発泡立壁部631を有する立壁部63と、外周リップ部7が形成される。
【0025】
本実施形態の自動車用ドア1のホールシール材5によれば、発泡本体部6のコアバック痕溝64の外側に、外寄りに未発泡立壁部631を有する立壁部63を周設する構成により、コアバックの際に金型と非接触となって接触領域よりも高温となる領域を立壁部63の内側に留めることができ、熱収縮が外周リップ部7に及ぼす影響を立壁部63で遮断して大幅に減少させることができる。従って、熱収縮によって外周リップ部7が変形することを極力抑制することができ、外周リップ部7をインナーパネル4に弾性付勢で確実に押し当てることができる。また、コアバックで形成される発泡樹脂の領域が外周リップ部7の根元付近まで及ぶことを立壁部63で防止することができ、外周リップ部7に発泡樹脂の部分が形成されて強度が低下することを防止することができる。
【0026】
また、ホールシール材5で構成されるドアホールシール構造では、インナーパネル4の開口部41の外周部43にホールシール材5の外周リップ部7の先端部721を弾性付勢で押し当て、隙間なく常に面圧がかかる状態とすることができ、外部からの振動の加振力を超える圧力で外周リップ部7の先端部721をインナーパネル4の外周部43に押し付けて振動を抑え込み、外力に起因する異音(ビビリ音)或いはがたつきの発生を防止できる。更に、インナーパネル4の開口部41の周辺において接着された合成樹脂フィルムが振動して異音が発生するようなことが無く、ホールシール材5に起因する異音の発生も防止できる。更に、このドアホールシール構造では、外周リップ部7の先端部721をインナーパネル4の開口部41の外周部43に弾性付勢で押し当てて当接状態を維持することにより、ホールシール材5の外周部とインナーパネル4の開口部41の外周部43とのシール性、防水性を確保することができる。
【0027】
また、未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部631と起立壁71と架橋部73で構成される断面視略H形状により、外周リップ部7或いはホールシール材5の外周部の強度を高めることができる。更に、この断面視略H形状により、外周リップ部7の弾力性を高め、外周リップ部7の先端部721がインナーパネル4の開口部41の外周部43に弾性付勢で押し当てられる弾性力、面圧をより高めることができる。従って、ホールシール材5で構成されるドアホールシール構造では、より確実に異音の発生防止、シール性や防水性の確保の効果を得ることができる。
【0028】
また、上記実施形態のホールシール材5を製造する方法によれば、可動金型93をコアバックして発泡性溶融樹脂MRを発泡させる際に、可動金型93に対応して発泡する部分は、外側に位置する立壁部63となる樹脂に接触して一体化されながら形成されていく。従って、ホールシール材5の可動金型93の後退する側の面に形成されるコアバック痕溝64に対応する、金型と非接触となって高温となる領域を非常に小さくすることができ、熱収縮が外周リップ部7に及ぼす影響をより大きく減少させることができる。また、コアバック痕溝64に対応する高温な非接触領域は、内側以外が金型に接触する立壁部63に隣接して形成されることから、コアバックの際に非接触領域の冷却を促進することができ、そのような点からも熱収縮が外周リップ部7に及ぼす影響をより大きく減少させることができる。
【0029】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0030】
例えば上記実施形態のホールシール材5によるドアホールシール構造では、発泡本体部6をインナーパネル4に掛止固定する構成としたが、本発明のホールシール材5を用いてドアホールシール構造を構成する際のホールシール材5の固定には、本発明の趣旨の範囲内で適宜の固定する構造を用いることが可能である。特に、掛止固定、ボルト締め、ねじ止め、カシメ固定、圧入固定等の力学的作用による固定、換言すれば機械的な固定を用いると良好であるが、例えば本発明におけるホールシール材の発泡本体部のインナーパネル側に部分的な突出部を設け、この突出部をインナーパネルの開口部の周縁に接着等で化学的に固定することも可能である。
【0031】
また、上記実施形態における外周リップ部7の先端部721の形状は、強度向上、破損防止、インナーパネル4との当接による接触面積の増加の観点から玉縁状に形成したが、外周リップ部の先端部の形状を玉縁状以外の形状にしたものも本発明に含まれる。また、本発明における未発泡立壁部から外側に突出する外周リップ部の形状も本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、上記実施形態の断面視略H形状に限定されない。
【0032】
また、上記実施形態では、発泡樹脂部として発泡樹脂から構成される発泡本体部、未発泡樹脂部として未発泡樹脂で構成される外周リップ部を例に説明したが、本発明の自動車用ドアのホールシール材には、発泡樹脂部と未発泡樹脂部との境界に立壁部が設けられ、立壁部の未発泡樹脂部側に寄った位置に未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部が形成される適宜の自動車用ドアのホールシール材が含まれる。例えば発泡樹脂部でドーナツ状に周囲を囲まれた領域にホールシール材の取付箇所等の未発泡樹脂部を形成する場合に、発泡樹脂部と未発泡樹脂部との境界に立壁部を設け、立壁部のホールシール材の取付箇所等の未発泡樹脂部側に寄った位置に未発泡樹脂で構成される未発泡立壁部を設ける構造の自動車用ドアのホールシール材としてもよい。このような本発明の自動車用ドアのホールシール材によれば、未発泡樹脂と発泡樹脂との境界において、熱収縮による意図しない形状の変形が発生することを極力抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、自動車用ドアのインナーパネルの開口部を閉塞するホールシール材として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…自動車用ドア 2…アウターパネル 3…ドアトリム 4…インナーパネル 41…開口部 42…周縁 43…外周部 5…ホールシール材 6…発泡本体部 61…発泡コア層 62…スキン層 63…立壁部 631…未発泡立壁部 64…コアバック痕溝 65…掛止具係合穴 66…掛止フック 7…外周リップ部 71…起立壁 72…リップ縁 721…先端部 73…架橋部 8…掛止具 81…先端フック 90…キャビティ 901…可動金型が後退する側の面 902…内側面 91…固定金型 911、912…隙間 92…固定金型 93…可動金型 MR…発泡性溶融樹脂 101…ホールシール材 102…発泡本体部 103…外周リップ部 104…先端部 105…非接触領域 201…インナーパネル 202…開口部 203…外周部 301、302…固定金型 303…可動金型