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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129694
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】板材コーティング剤及び板材
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/32 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
B27K3/32
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123360
(22)【出願日】2023-07-28
(62)【分割の表示】P 2023516407の分割
【原出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021073498
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521177924
【氏名又は名称】エムアンドエイチ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 俊範
(57)【要約】
【課題】不燃性と高接着性能とを有する板材積層物を製造可能な板材コーティング剤を提供する。
【解決手段】板材コーティング剤は、加熱による板材の燃焼を抑制する板材コーティング剤であって、珪砂を含む。板材コーティング剤は、更に、無機性の添加剤を含むことが好ましい。前記添加剤は、顔料を含むことが好ましい。前記添加剤は、抗菌剤、抗ウイルス剤又は撥水剤の少なくとも何れか1つを含むことが好ましい。板材コーティング剤は、無機性の材料により構成されることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱による板材の燃焼を抑制する板材コーティング剤であって、
珪砂を含む
ことを特徴とする板材コーティング剤。
【請求項2】
更に、無機性の添加剤を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の板材コーティング剤。
【請求項3】
前記添加剤は、顔料を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の板材コーティング剤。
【請求項4】
前記添加剤は、抗菌剤、抗ウイルス剤又は撥水剤の少なくとも何れか1つを含む
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の板材コーティング剤。
【請求項5】
無機性の材料により構成される
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の板材コーティング剤。
【請求項6】
厚さ1μm以上1mm以下を有して表面に形成され、加熱による板材の燃焼を抑制するとともに珪砂を含むコーティング層を備える
ことを特徴とする板材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、板材コーティング剤及び板材に関する。
【0002】
日本国内での住宅等において使用される木材には、日本国の法律に基づく例えば「不燃性」(準不燃性、難燃性でもよい。以下同じ)が要求される。木材に不燃性を付与する技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1の段落0009には、「(1)まず、50℃以上の温水にポリリン酸を投入する。(2)次いで、上記ポリリン酸が完全に溶解したら、温度を維持して、リン酸第2アンモニウムを投入し、攪拌溶解させる。(3)そして、これが溶解したら、温度を維持したまま、ホウ酸を投入し、攪拌して溶解させる。(4)次いで、上記溶解水にリン酸を投入して溶解させる。このようにして木材用不燃薬剤を精製する。」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-81603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば15mmを超える厚さの板状の木材(板材)の場合、不燃性付与のために薬剤を板材に含侵させようとすると、薬剤が内部に十分に含侵し難い。そこで、薬剤を含侵させた薄い板材を接着剤によって複数積層することで、板材積層物である厚い木材が得られる。しかし、本発明者が検討したところ、従来の技術だと接着剤による板材同士の接着性能が担保されず、時間の経過により板材同士が剥がれ易いことがわかった。
本開示が解決しようとする課題は、不燃性と高接着性能とを有する板材積層物を製造可能な板材コーティング剤及び板材の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の板材コーティング剤は、加熱による板材の燃焼を抑制する板材コーティング剤であって、珪砂を含む。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、不燃性と高接着性能とを有する板材積層物を製造可能な板材コーティング剤及び板材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の板材積層物の斜視図である。
図2】本開示の板材積層物の断面図である。
図3】本開示の板材積層物の製造方法を示すフローチャートである。
図4】穿孔工程を実行する穿孔装置の模式図である。
図5】実施例3で使用した板材の上面図である。
図6図5のA-A線断面図である。
図7】実施例5に係る不燃試験の結果を示す図面代用写真である。
図8】参考例(実施例1)に係る不燃試験の結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0009】
図1は、本開示の板材積層物10の斜視図である。図2は、本開示の板材積層物10の断面図である。板材積層物10は、板材1である第1板材11及び第2板材12と、接着層13とを備える。板材積層物10は、第1板材11と第2板材12とを交互に積層することで構成される。第1板材11と第2板材12とは接着層13により接着される。
【0010】
第1板材11及び第2板材12には、板状の木材(即ち板材)に板材加工用組成物が含侵される。板材加工用組成物は、加熱による板材1の燃焼を抑制するとともに、第1板材11と第2板材12との接着性能を向上させる組成物である。
【0011】
板材1は、表面に孔20(図4)を備えることが好ましい。孔20を備えることで、板材加工用組成物を板材1の内部に迄十分に含侵し易くでき、板材積層物10の不燃性能を向上できる。特に、板材加工用組成物がセラミック粒子(後記)を含む場合等、板材加工用組成物は通常はスラリー状である。従って、孔20を備えることで、スラリー状の板材加工用組成物を板材1の内部に迄十分に含侵できる。
【0012】
孔20は、孔20の開口側から板材1を視た上面視において、例えば、散点的に配置された例えば円形、矩形等の形状を有してもよく、例えば一方向から他方向に直線的又は曲線的に延在する溝でもよい。また、散点的に配置される場合、等間隔で規則的に配置されてもよく、任意の場所のみ配置されてもよい。詳細は後記するが、板材加工用組成物の含侵促進の観点から、孔20は、少なくとも、冬目を貫通する位置に配置されることが好ましい。また、孔20は、板材1を構成する6つの面の少なくとも1面に形成できる。具体的には例えば、板材1のうちの、接着層13(後記)の配置面を除く面(通常は4つの面)に形成できる。ただし、孔20の形成面は、板材積層物10の意匠性に影響が少ない面であることが好ましい。
【0013】
孔20は、板材1のうち、例えば板目の面に備えられる。板目の面に備えられることで、孔20を通じて、板材1の内部に迄十分に板材加工用組成物を含侵できる。ただし、孔20は、柾目の面に備えられてもよい。
【0014】
孔20は、木材である板材1のセルロース繊維を断ち切るように、形成される。このように、繊維をせん断することにより、周辺部への板材加工用組成物の含浸性を拡張でき、含侵し易くできる。また、含浸工程S3(図3)及び乾燥工程S4(図3)後に、繊維が有する応力による形状変形を抑制できる。孔20の内壁は、板材1の構成材料であるセルロース、リグニン等により形成される。このような材料によって孔20の内壁が形成されることで、孔20の内壁においても、その他の部分と同様にして、板材加工用組成物を含侵できる。
【0015】
孔20は、例えば、後記する図4に示すように、板材1の厚さ方向に沿って延在する。孔20は、通常は、板材1の表面に垂直な方向に延在するが、例えば、当該表面に対して角度を有して形成されてもよい。孔20は、板材1を貫通するように備えられてもよく、板材1の厚さ方向で一部にのみ備えられてもよい。
【0016】
孔20の深さは、意匠性及び作業効率を考慮して、適宜決定すればよく、特に制限されない。孔20の深さは、例えば、板材1の厚さの例えば30%以上、好ましくは40%以上、上限として例えば100%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは70%以下にできる。なお、100%の場合、孔20は板材1を貫通する。また、孔20が対向する2つの表面に形成される場合、孔20の深さの合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0017】
板材1が例えば20mmを超えるような厚い場合、板材1の強度確保の観点から、孔20の深さは5mm以上15mm以下(例えば10mm)にすることが好ましい。
【0018】
孔20が板目の面に備えられる場合、複数の冬目を貫通する深さを有することが好ましい。冬目の部分は固く、板材加工用組成物が含侵し難い部分であるが、孔20によって複数の冬目が貫通されていることで、板材1の内部に迄十分に板材加工用組成物を含侵できる。
【0019】
孔20の大きさ(例えば内径のうちの最も長い部分の長さ)は、例えば0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、上限として例えば5mm以下、好ましくは3mm以下である。孔20が上面視で例えば円形である場合、大きさは孔20の直径である。更に、複数の孔20が備えられる場合、隣接する孔20同士の間隔に特に制限は無いが、例えば5mm以上、好ましくは10mm以上、上限として例えば20mm以下、好ましくは15mm以下にできる。
【0020】
板材加工用組成物は、炭化促進成分と、連鎖抑制成分と、バインダ粒子とを含む。炭化促進成分、連鎖抑制成分、及びバインダ粒子は、いずれも無機性である。無機性であることで板材1に例えば不燃性を付与できる。
【0021】
炭化促進成分は、板材1の加熱時に板材1中の有機成分の炭化を促進させる成分である。炭化促進成分を含むことで、加熱面におけるセルロース、リグニン等の有機成分を炭化させて内部への酸素の侵入を抑制できる。これにより、内部に存在する有機成分の燃焼を抑制できる。また、加熱面に炭化物を形成できるため内部への伝熱を抑制でき、内部に存在する有機成分の燃焼を抑制できる。
【0022】
炭化促進成分の形状は特に制限されないが、例えば水への不溶性又は難溶性を示す例えば粒状であることが好ましい。粒状であることで、不溶性又は難溶性であっても、板材加工用組成物に分散し易くできる。粒状の炭化促進成分の粒径は例えば10μm以上50μm以下である。粒径をこの範囲にすることで、板材1に含侵し易くできる。粒径は、例えばレーザー回折式散乱法に基づく平均粒径を採用できる。
【0023】
炭化促進成分の具体的成分は特に制限されないが、例えばホウ素系(例えばホウ酸等)、リン系(例えばリン酸等)、硫酸アンモニウム等の少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、ホウ素系を含むことが好ましく、中でもホウ酸を含むことが好ましい。ホウ素系は安定して存在し、安価で入手し易いため、板材加工用組成物の製造コストを低減できる。
【0024】
連鎖抑制成分は、板材1の加熱時に生じる吸熱分解の生成物によって近接する成分への反応連鎖を抑制する成分である。連鎖抑制成分により、吸熱分解の化学反応による冷却効果を奏することができる。また、上記の炭化促進成分とともに、炭化物等の生成物に起因する非接触効果による反応連鎖を遮断できる。
【0025】
連鎖抑制成分の具体的成分は特に制限されないが、例えばリン酸二水素アンモニウム(リン酸第一アンモニウム)、グアニジン化合物、ポリホウ酸ナトリウム、ホウ砂、ホウ酸亜鉛等の少なくとも1種が挙げられる。中でも、親水性が高い成分が好ましく、リン酸二水素アンモニウムを含むことが好ましい。リン酸二水素アンモニウムは低吸湿性を示す。このため、板材1の全体に分散させたときに板材1の内部に水分を吸収し難くでき、内部水分に起因する接着層13での剥離を抑制できる。
【0026】
なお、例えば連鎖抑制成分と上記の炭化促進成分とは、同一の成分(例えばホウ酸)であってもよい。即ち、例えばホウ酸を含む場合、ホウ酸は、連鎖抑制成分及び炭化促進成分として機能する。
【0027】
バインダ粒子は、板材1中の有機成分(セルロース等)と、炭化促進成分及び連鎖抑制成分と、を接着する疎水性のものである。バインダ粒子を含むことで、板材1中で有機成分に密着するように炭化促進成分及び連鎖抑制成分を配置でき、有機成分を燃え難くできる。また、疎水性であることで、バインダ粒子を起点とする木材、炭化促進成分及び連鎖抑制成分への水分の移行を抑制でき、これらを長期にわたって接着できる。
【0028】
バインダ粒子は微細であることが好ましく、具体的には、バインダ粒子の粒径は例えば1μm以上100μm以下である。粒径をこの範囲にすることで、板材1に含侵し易くできる。また、バインダ粒子の粒径をこの範囲にすることで、バインダ粒子を安定的に配置できる。粒径は、例えばレーザー回折式散乱法に基づく平均粒径を採用できる。なお、粒径は、単一の粒径である必要は無く、バインダ粒子は異なる大きさの粒子の混合粉末でもよい。混合粉末を使用することで、隙間を埋めるようにバインダ粒子を配置でき、接着性能をより向上できる。また、バインダ粒子は真球状、非真球状のどちらでもよい。非真球状は、例えば、角ばった形状(角を有する形状)、楕円体等の形状である。
【0029】
バインダ粒子の具体的成分は特に制限されないが、水に不溶性又は難溶性の無機材料が挙げられ、例えば珪砂等の少なくとも1種が挙げられる。中でも珪砂を含むことが好ましい。珪砂を使用することで、水分が保持され難くなり、板材加工用組成物を板材1に含侵させて乾燥させた後に白華現象を抑制できる。また、珪砂により無機断熱層が形成され、不燃性を向上できる。
【0030】
板材加工用組成物は、セラミック粒子(焼結体)を含むことが好ましい。セラミック粒子は、例えば、板材積層物10の不燃性を向上させる機能を有する。焼結体は高い遮熱性能を有するため、セラミック粒子が熱の伝播を抑制できる。これにより、延焼深度を浅くできる。なお、粒子がセラミック粒子であるか否かは、例えば、電子顕微鏡を用いた観察、成分分析等により判断できる。
【0031】
セラミック粒子は、真球状であることが好ましい。真球状であることで板材1に入り込み易くなり、板材1に含侵させ易くできる。また、真球状であることで、非真球状の粒子(例えば嵩高い粒子)よりも嵩密度を高くでき、セラミックに起因する遮熱効果を特に向上できる。これにより、板材1の不燃性を特に向上できる。なお、真球状のセラミック粒子は、例えば、溶融及び焼結により製造できる。また、セラミック粒子は真球状であることが好ましいものの、非真球状でもよい。
【0032】
板材加工用組成物がセラミック粒子を含む場合、セラミック粒子は、少なくとも、板材1のうちの最も外側に配置された板材1に含まれることが好ましい。これにより、最も外側に配置された板材1に対し、例えば炎等が接触した場合であっても、セラミック粒子に起因する耐熱性によって板材1の耐熱性を向上できる。この結果、最も外側に配置された板材1よりも内側に配置された板材1に対し、熱が伝播することを抑制して遮熱効果を発揮でき、延焼深度を浅くできる。これにより、板材積層物10の全体の不燃性を向上できる。
【0033】
セラミック粒子の具体的成分は、炎に耐えられる耐熱性を有する成分であれば特に制限されず、例えば、アルミナ、蛍石等の金属酸化物により構成される焼結体、シリカ(二酸化ケイ素)、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の非金属酸化物により構成される焼結体等の少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
セラミック粒子の大きさは特に制限されず、例えば8μm以上、好ましくは10μm以上、その上限として例えば35μm以下、好ましくは20μm以下である。セラミック粒子の大きさをこの範囲にすることで、板材1に含侵させ易くできる。特に、板材1への含侵により内部にセラミック粒子を配置することで、接着層13(後記)による接着を強固にできる。セラミック粒子の大きさは、例えば、上記バインダ粒子の大きさと同様の測定方法により測定できる。
【0035】
なお、セラミック粒子は、例えば、塊状のセラミック(例えばシリカ等)を爆砕し、熱処理することで、製造できる。また、真球状であるか否かは、例えば顕微鏡を用いた観察により確認できる。
【0036】
板材加工用組成物にセラミック粒子を含有させる場合、セラミック粒子の含有量は、板材加工用組成物の全体を基準として、例えば0.5質量%以上5質量%以下にできる。セラミック粒子の含有量をこの範囲にすることで、板材1に含侵させ易くできる。
【0037】
セラミック粒子を含む板材加工用組成物を板材1に含侵させた場合、板材1の内部かつ表面付近にセラミック粒子が配置される。この状態で接着剤(後記)を塗布すると、接着剤も板材1に含侵するが、板材1のうちのセラミック粒子の部分には接着剤は含侵できず、意図的に接着強度を低下できる。これにより、詳細は実施例を参照して後記するが、炎と接触させたときに意図的に剥離を生じさせて、不燃性を特に向上できる。
【0038】
板材加工用組成物は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で、炭化促進成分と連鎖抑制成分とバインダ粒子との含有成分以外に任意の成分を含んでもよい。また、溶媒(例えば水)における含有成分の濃度は特制限されないが、例えば30質量%以上40質量%以下にできる。更に、炭化促進成分と連鎖抑制成分とバインダ粒子との相対的な含有割合も特に制限されないが、例えば、炭化促進成分1質量%に対し、連鎖抑制成分を例えば5質量%以上15質量%以下、バインダ粒子を例えば1質量%以上10質量%以下の割合で使用できる。
【0039】
板材加工用組成物は、例えば、板材1への含侵用薬剤である。含浸用薬剤であることで、板材1の全体に不燃性を付与できる。含浸の具体的方法は、図3を参照して後記する。
【0040】
板材加工用組成物は、板材1の表面へのコーティング剤としても使用できる。コーティング剤であることで、表面が加熱されたときの内部の燃焼抑制と、板材1の全体に含侵させないために板材1の質量を軽量化と、を両立できる。コーティングの具体的方法は、図3を参照して後記する。
【0041】
第1板材11及び第2板材12のそれぞれの厚さは、何れも独立して、例えば1mm以上、好ましくは3mm以上、上限として例えば15mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは9mm以下である。厚さをそれぞれこの範囲にすることで、第1板材11及び第2板材12のそれぞれの全体に板材加工用組成物を含侵し易くできる。
【0042】
接着層13は、第1板材11と第2板材12とを接着するものである。接着層13は、任意の接着剤を第1板材11又は第2板材12の少なくとも一方に塗布して貼り合わせることで、形成できる。このような接着剤としては、木材同士を接着可能な接着剤が挙げられ、具体的には例えばイソシアネート系、酢酸ビニル樹脂系、レゾルシノール樹脂系、メラミン樹脂系、ユリア樹脂系等の接着成分を主成分とする接着剤を使用できる。
【0043】
接着層13は、このような接着成分の他に、本開示の効果を著しく損なわない範囲で、例えば上記のセラミック粒子、珪砂等の任意の成分を含んでもよい。接着層13が、セラミック粒子等の成分を含む場合、接着層13は、硬化促進の観点から、一液硬化型の接着剤に由来する接着層13が好ましい。
【0044】
接着層13の厚さは特に制限されないが、例えば1μm以上1mm以下、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上15μm以下にできる。ただし、通常、接着層13の厚さは、セラミック粒子等の含有成分の大きさよりも厚くなる。
【0045】
接着層13は、上記のセラミック粒子と同様のセラミック粒子を含むことができる。従って、接着層13又は上記板材加工用組成物の少なくとも一方は、セラミック粒子を含むことが好ましい。接着層13がセラミック粒子を含むことで、板材加工用組成物に含まれる場合と同様に、板材積層物10の不燃性を向上できる。特に、最も外側に配置(最外配置)される板材1に隣接する接着層13に含まれることで、最外配置される板材1が燃焼しても、接着層13中のセラミック粒子により、隣接する板材1への熱の伝播が抑制される。これにより、延焼深度を浅くして板材積層物10の全体の燃焼を抑制でき、板材積層物10の全体の不燃性を向上できる。
【0046】
これに加えて、接着層13がセラミック粒子を含む場合、セラミック粒子は接着機能には関与しないことから、含まない場合と比べ、長期的な使用への影響がない程度に、接着性能が意図的に抑制される。これにより、最も外側に配置される板材1が燃焼した場合に、燃焼により炭化した板材1を、接着層13を介して接着されていた板材1から意図的に剥離できる。この結果、炭化した板材1と、そのすぐ内側に配置された未炭化の板材1との間に隙間(空間)を形成でき、熱の伝播を抑制できる。このため、隣接する板材1同士が連続的に燃焼することを抑制でき、板材積層物10の全体の不燃性を向上できる。
【0047】
接着層13がセラミック粒子を含む場合、セラミック粒子の具体的成分及び大きさは、上記の板材加工用組成物に含まれるセラミック粒子と同様の事項を適用できる。ただし、接着層13におけるセラミック粒子の含有量は、接着層13の全体を基準として、例えば1質量%以上、好ましくは3質量%以上、上限として例えば15質量%以下、好ましくは12質量%以下にできる。
【0048】
なお、セラミック粒子は、接着層13に代えて、又は、接着層13とともに、第1板材11及び第2板材12の少なくとも一方の下地層(不図示)に含まれてもよい。下地層は、第1板材11及び第2板材12の少なくとも一方の板材1の表面に形成された、板材1の一部としての層である。下地層が形成される場合、接着層13は、第1板材11及び第2板材12のうちの下地層に接着される。
【0049】
板材積層物10は、第1板材11又は第2板材12の少なくとも一方の表面に、表面コーティング層14を備える。図示の例では、第1板材11は、上下各表面に表面コーティング層14を備え、更に、第2板材12も、上下各表面に表面コーティング層14を備える。表面コーティング層14を備えることで、接着層13と表面コーティング層14との親和性を利用して、第1板材11又は第2板材12の少なくとも一方と接着層13とを接着できる。ただし、表面コーティング層14は備えられなくてもよい。
【0050】
表面コーティング層14は、例えば、上記の炭化促進成分、連鎖抑制成分及びバインダ粒子とを含んで構成できる。このようにすることで、第1板材11又は第2板材12の少なくとも一方の表面を起点とする加熱に対する不燃性及び高接着性能を発揮し易くできる。また、バインダ粒子が疎水性であるため、バインダ粒子を起点とする木材、炭化促進成分、連鎖抑制成分及び接着層13への水分の移行を抑制できる。これにより、表面コーティング層14と接着層13との剥離を抑制でき、長期にわたってこれらを強固に接着できる。炭化促進成分、連鎖抑制成分及びバインダ粒子濃度は、上記の板材加工用組成物と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
表面コーティング層14は珪砂を含むことが好ましい。珪砂を含むことで、板材積層物10に例えば含侵させた上記板材加工用組成物の乾燥後に、板材加工用組成物が表面析出する白華を抑制できる。なお、珪砂は、バインダ粒子として含んでもよく、その他の目的で含んでもよい。
【0052】
表面コーティング層14は、更に、任意の添加剤を含んでもよい。任意の添加剤としては、例えば、ロウ(ワックス)の成分、顔料、抗菌剤(酸化チタン等)等の少なくとも1種が挙げられる。
【0053】
表面コーティング層14の厚さは特に制限されないが、例えば1μm以上1mm以下、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上15μm以下にできる。
【0054】
板材積層物10は、最表面2に、最表面コーティング層15を備える。最表面コーティング層15を備えることで、最表面2の機能性を向上できる。ただし、最表面コーティング層15は、備えられなくてもよい。
【0055】
最表面コーティング層15は、顔料、抗菌剤、抗ウイルス剤、又は撥水剤の少なくとも何れか1つの無機性の添加剤を含むことが好ましい。これにより、最表面2の意匠性、抗菌性、抗ウイルス性、撥水性等の各機能を向上できる。例えば、最表面コーティング層15が顔料を含むことで、板材積層物10の最表面2を着色できる。また、塗料の塗布とは異なり、顔料を含む透明な最表面コーティング層15を備えることで、最表面2の例えば木目模様を使用者が視認できるため、意匠性を向上できる。
【0056】
また、最表面コーティング層15は通常は空気に晒されたり人に触れられたりし易い。そこで、無機性の抗菌剤、抗ウイルス剤、又は撥水剤の少なくとも何れか1つを含むことで、板材積層物10への不燃性の付与と、板材積層物10への抗菌性、抗ウイルス性又は撥水性の少なくとも1つの付与とを両立できる。特に、最表面2に抗菌性を付与することで、最表面2からの細菌等の板材1の内部への侵入を抑制でき、内部の腐食を抑制できる。また、最表面2に撥水性を付与することで、最表面2から湿気の板材1内部への侵入を抑制でき、内部の腐食を抑制できる。
【0057】
抗菌剤、抗ウイルス剤及び撥水剤の具体的成分は特に制限されない。抗菌剤及び抗ウイルス剤としては例えば防腐防蟻能を有する無機性の成分が挙げられ、具体的には例えば、ホウ酸、リン酸等が挙げられる。また、抗菌材及び抗ウイルス剤として例えば酸化チタン等のイオンによる抗菌作用を発揮できる成分も挙げられ、このような成分を使用することで、屋外、地球でも長期にわたって利用できる。更に、撥水剤としては、例えばシリカ、オルガノシロキサン、シラン等のケイ素化合物が挙げられる。
【0058】
最表面コーティング層15は、無機性の材料により構成されることが好ましい。これにより、日光等の紫外線を含む光が照射されたときでも、光による最表面コーティング層15の劣化を抑制できる。
【0059】
また、最表面コーティング層15は、図示のように、表面コーティング層14を兼ねてもよい。即ち、板材積層物10のうち最も外側に配置される板材1の外側には、表面コーティング層14かつ最表面コーティング層15としての層が形成される。従って、最表面コーティング層15としては、上記の表面コーティング層14に関する事項を同様に適用でき、例えば、最表面コーティング層15は、例えば、上記の炭化促進成分、連鎖抑制成分及びバインダ粒子とを含んで構成できる。これにより、表面コーティング層14において説明した効果のほか、最表面コーティング層15が無機性の材料により構成されるため、例えば油性インクを付着させたときに容易に消すことができる。
【0060】
最表面コーティング層15の厚さは特に制限されないが、例えば1μm以上1mm以下、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上15μm以下にできる。
【0061】
板材積層物10は、任意の用途に使用できる。例えば、板材積層物10は、薄い板材1を複数積層することで、1枚の板材1のみでは不燃性の付与が難しかった厚さ(例えば10mm厚~50mm厚であるが、更に厚くてもよい)の合板を得ることができる。例えば、板材加工用組成物を含侵させた5mm厚の板材1を10枚積層することで、優れた不燃性を有する50mmの板材積層物10を製造できる。特に、詳細は実施例を参照しながら後記するが、板材1同士の接着能力に優れるため、剥離が少なく長期にわたって安定的に使用できる。
【0062】
他にも板材積層物10は、CLT合板、粉体/木毛合板、石膏ボード、コンクリート部位、鋼製部位、紙製品、布製品、ビニルシート製品、突板木材(広葉樹・針葉樹)等の任意の用途に使用できる。また、既存の認定不燃材(単板、合板の何れでもよい)においても、本開示に係る板材加工用組成物を使用することで、板材積層物10として使用できる。即ち、新たな木材から板材積層物10を製造しなくても、既存の板材積層物と本開示の板状加工用組成物とを使用することで、本開示の板材積層物10を製造できる。
【0063】
板材積層物10を構成する板材1には、上記のように板材加工用組成物が含侵され、板材1の内部の残留水分が少ない。このため、十分な不燃性付与と接着層13による接着能力の向上とともに、長期間に亘って白華現象を抑制できる。また、内部の残留水分(内部水分)が場所に寄らず同程度になるような厚さにすることで、積層した板材積層物10の全体で残留水分が同程度になる。これにより、含水率の違いに起因する変形ムラを抑制して、ワレ等を抑制できる。
【0064】
図3は、本開示の板材積層物10(図1)の製造方法を示すフローチャートである。板材積層物10の製造方法は、製材工程S1と、穿孔工程S2と、含浸工程S3と、乾燥工程S4と、R加工工程S5と、コーティング工程S6と、接着剤塗布工程S7と、積層工程S8と、仕上げ形状加工工程S9と、最表面コーティング工程S10と、を含む。なお、穿孔工程S2は、行うことが好ましいものの、行わなくてもよい。
【0065】
製材工程S1は、例えば厚さ1mm以上15mm以下の例えば平坦な板材1(図1)を木材から製材する工程である。木材の種類に制限は無く、例えば杉、檜等を使用できる。製材方法は特に制限はないが、例えば、板材1の内部水分を減らす観点から、冬場の木材を使用することが好ましい。ただし、夏場の木材であっても、板材1の厚さを薄くすることで、内部水分を十分に低減できる。
【0066】
図4は、穿孔工程S2を実行する穿孔装置100の模式図である。穿孔工程S2は、第1板材11(図1)又は第2板材12(図1)の少なくとも一方の板材1の表面110に孔20を形成する工程である。孔20は、棒部材1022の先端を表面110に押し込むことで形成される。穿孔装置100は、板材1の表面110に対し、孔20を形成する装置である。孔20を形成する表面110は、上記のように、板材1のうちの板目面であることが好ましい。
【0067】
穿孔装置100は、搬送ローラ101と、掻きローラ102と、駆動ローラ103とを備える。搬送ローラ101は、例えば複数配置され、板材1を搬送する。図示の例では、上下方向に配置された2つの搬送ローラ101間に板材1が配置される。板材1を挟み込む2つの搬送ローラ101は、図示の例では、左右方向に2組備えられる。上側の搬送ローラ101と下側の搬送ローラ101とが反対方向に回転することで、2つの搬送ローラ101によって挟持された板材1が搬送される。
【0068】
掻きローラ102は、表面110と対向し回転に伴って表面110を掻くようにして表面110に孔20を形成する。掻きローラ102は、回転軸1021と、回転軸1021の表面から外側(例えば径方向)に延びる棒部材1022とを備える。
【0069】
回転軸1021は例えば円柱であり、回転軸1021には、モータ(不図示)に接続された駆動ローラ103に対して、ベルト104が接続される。駆動ローラ103が回転すると、駆動ローラ103に巻かれたベルト104を介して、駆動ローラ103の回転力は回転軸1021に伝達される。これにより、回転軸1021が回転する。
【0070】
棒部材1022は、孔20の形成間隔(後記の間隔L3(図5))に対応する間隔を有して、回転軸1021の表面に例えば複数配置される。棒部材1022は、肉眼で視認したときにある程度の太さを有する円柱、角柱等の柱状でもよく、円錐、角錐等の錘状でもよい。また、棒部材1022は、例えば顕微鏡で確認したときにある視認できる程度の太さを有する例えば針状でもよい。棒部材1022の先端が板材1の表面110に押し込まれる(食い込む)ことで、表面110に孔20が形成される。このように、棒部材1022の押し込みにより孔20が形成されることで、木材である板材1の性質を大きく損なうことなく、孔20を形成できる。このため、孔20を通じた板材加工用組成物の含侵を制御し易くなり、板材1の全体に板材加工用組成物を含浸させ易くできる。
【0071】
棒部材1022の形状は、所望する孔20の形状に対応して決定すればよく、孔20の内壁面が円柱の外側面を有する場合、棒部材1022は例えば円柱により構成される。押し込み易いように、棒部材1022の先端は尖っていてもよい。掻きローラ102と表面110との間の距離を変えることで、棒部材1022が板材1に押し込まれる深さを変えることができ、孔20の深さを変えることができる。
【0072】
図3に戻って、含浸工程S3は、板材1に板材加工用組成物を含侵させる工程である。板材1に孔20が形成されている場合、板材加工用組成物は、孔20(図4)を形成した板材1に含侵される。板材加工用組成物は、例えば孔20を通じて、板材1の全体に含侵される。板材加工用組成物は、通常は、溶媒としての水を含むスラリー状である。
【0073】
含侵の具体的方法は特に制限されない、例えば、板材1を加減圧可能な釜(不図示)に入れて減圧することで、板材1の内部水分を低減できる。次いで、減圧状態で板材加工用組成物のスラリーを釜に入れ、適宜加圧等することで、板材1に板材加工用組成物を含侵できる。加圧は、減圧状態から大気圧に戻す加圧でもよいし、減圧状態から大気圧を超える圧力への加圧でもよい。含浸時の具体的な条件は特に制限されないが、板材1の内部にまで十分に含侵できる条件にすることが好ましい。特に板材1の厚さを上記のように例えば1mm以上10mm以下にすることで、満遍なく含浸でき、含侵ムラを抑制できる。
【0074】
板材加工用組成物は、上記のセラミック粒子を含んでもよく、板材1への含浸により、セラミック粒子を板材1の内部に配置(固定)できる。セラミック粒子が含まれる場合、後記する乾燥工程S4以降において、板材1の表面にセラミック粒子が残存しない程度に板材加工用組成物を含侵させることが好ましい。これにより、接着剤による接着強度の意図しない低下を抑制できる。残存しないような含浸は、例えば、過剰量の板材加工用組成物を用いて含侵させた後、板材1の表面に残存するセラミック粒子を除去することで行ってもよいし、残存しない程度の板材加工用組成物の濃度及び回数で、板材加工用組成物を板材1の表面に例えば塗布することで行ってもよい。
【0075】
乾燥工程S4は、板材加工用組成物を含侵させた板材1を乾燥させる工程である。乾燥により、孔20の内部に残存する板材加工用組成物のスラリーも乾燥され、孔20の内部が固体で満たされる。乾燥の具体的条件は特に制限されず、例えば上記釜中で適宜加熱、減圧等を行うことで乾燥できる。乾燥により、板材加工用組成物が板材1の内部に固定される。
【0076】
R加工工程S5は、乾燥した板材1のR加工(曲げ加工)により、湾曲した板材1を製造する工程である。R加工の具体的方法は特に制限されないが、任意の治具(不図示)を用いて板材1をR加工することで、板材1を所望の形状に曲げることができる。なお、R加工工程S5は必須ではなく、製品の仕様に応じて、R加工工程S5を行わずに平坦な板材1をそのまま使用してもよい。また、R加工工程S5は、乾燥工程S4の前に行ってもよい。
【0077】
コーティング工程S6は、板材加工用組成物を内部に固定した板材1の表面に、表面コーティング層14(図2)を形成する工程である。表面コーティング層14の形成方法は特に制限されない。例えば、表面コーティング層14の上記説明において説明した含有成分を任意の溶媒(例えば水)に分散させた分散液(スラリーでもよい)を塗布し、溶媒を蒸発させることで、形成できる。なお、コーティング工程S6は、製品の仕様に応じて、行われてもよく、行われなくてもよい。
【0078】
コーティング工程S6を行うことで、板材1の表面に残存し得る穿孔部(不図示)に分散液を含侵でき、吸湿の更なる抑制及び後記する積層工程S8での接着性能の向上を図ることができる。
【0079】
また、セラミック粒子を含む板材加工用組成物を用いてコーティング工程S6を行う場合、含浸工程S3での説明と同様に、接着剤塗布工程S7(後記)において、板材1の表面にセラミック粒子が残存しない程度に板材加工用組成物をコーティングすることが好ましい。
【0080】
接着剤塗布工程S7は、表面コーティング層14を形成した表面に対し、接着剤を塗布する工程である。コーティング工程S6を行わなかった場合には、乾燥工程S4又はR加工工程S5を経た表面に対し、接着剤が塗布される。塗布する表面は、板材1の必ずしも両表面である必要は無く、後記の積層工程S8において隣接する2枚の板材1のうち、少なくとも一方の板材1における他方の板材1の側の表面に塗布されればよい。使用する接着剤の種類に特に制限はないが、上記の接着層13(図2)において説明した接着剤を使用できる。
【0081】
積層工程S8は、適宜、表面コーティング層14を形成した板材1(図2)を積層する工程である。積層工程S8では、まず、接着剤塗布工程S7において塗布した接着剤を挟むように少なくとも2枚の板材1が積層される。同様に、所望の枚数の板材1が積層されるように、それぞれの板材1を積層して適宜加熱、加圧等することで、接着剤が固化する。これにより、何れも図2に示すように、接着層13を介して第1板材11と第2板材12とを積層した板材積層物10が形成される。
【0082】
仕上げ形状加工工程S9は、積層工程S8で得た板材積層物10を最終的な仕上げ形状に加工する工程である。加工の具体的な方法は特に制限さず、任意の方法を採用できる。なお、仕上げ形状加工工程S9は、製品の仕様に応じて、行われてもよく、行われなくてもよい。
【0083】
最表面コーティング工程S10は、仕上げ形状に加工した板材積層物10の両方の最表面2(図2)のうち、少なくとも一方(好ましくは双方)の最表面2に、最表面コーティング層15(図2)を形成する工程である。最表面コーティング層15の形成方法は特に制限されない。例えば、最表面コーティング層15の上記説明において説明した含有成分を任意の溶媒(例えば水)に分散させた分散液(スラリーでもよい)を塗布し、溶媒を蒸発させることで、形成できる。なお、最表面コーティング工程S10は、製品の仕様に応じて、行われてもよく、行われなくてもよい。
【0084】
最表面コーティング工程S10を行うことで、板材1の表面に残存し得る孔20に分散液を含侵でき、吸湿の更なる抑制を図ることができる。また、例えば分散液に顔料を含ませることで、最表面2(図2)を着色できる。更に、例えば分散液に抗菌剤、抗ウイルス剤又は撥水剤を含ませることで、屋外耐侯性の板材積層物10を製造できる。また、必要に応じて更に最表面2を加熱処理することで表面を炭化させて例えば意匠性を更に向上できる。
【実施例0085】
以下、本開示について、実施例を挙げて更に具体的に説明する。
【0086】
・浸漬剥離評価及び煮沸剥離評価
<実施例1>
ホウ酸(炭化促進成分)と、リン酸二水素アンモニウム(連鎖抑制成分)と、珪砂(粒径5μm~95μmの混合粉末であるバインダ粒子。非真球状で、焼結していない二酸化ケイ素)とを、質量比で1:6:2の割合で秤量し、溶媒として水を用いて、35質量%のスラリー状の分散液(板材加工用組成物)を作製した。
【0087】
冬場に採取された杉及び檜を使用した集成材を、幅100mm、長さ100m、厚さ15mmの板状に切断し、板材1(図1)を作製した。板材1は少なくとも2枚作製した。実施例1では、穿孔工程S2(図3)は行わなかった。作製した各板材1に上記分散液を十分に含侵させて乾燥させることで、内部に板材加工用組成物を固定した。固定後、それぞれの板材1の表面のうち、接着剤の塗布予定面に分散液を塗布し、乾燥させて溶媒を蒸発させた。これにより、各板材1の表面に、厚さ10μmの表面コーティング層14(図2)が形成された。
【0088】
各板材1の表面コーティング層14のうち、一方の表面コーティング層14に接着剤(オーシカ社製 鹿印ピーアイボンド6000。主成分は水性高分子イソシアネート系)を塗布し、2枚の板材1を積層して固化させた。これにより、何れも図2に示す、厚さ10μmの接着層13を介して第1板材11及び第2板材12を積層した板材積層物10を作製した。そして、作製した板材積層物10を使用して、以下の不燃試験、浸漬剥離試験、及び煮沸剥離試験を行った。
【0089】
不燃試験は、板材積層物10を適宜成形し、一般社団法人建材試験センター発行の「防耐火性能試験・評価業務方法書」に記載の方法により行った。この結果、作製した板材積層物10は不燃性を有していた。この理由は、炭化促進成分及び連鎖抑制成分のほか、バインダ粒子としての珪砂により無機断熱層が形成されたため、不燃性を発揮できたと考えられる。
【0090】
浸漬剥離試験は、以下のようにして行った。作製した板材積層物10を、水温10℃~20℃の水中に6時間浸漬した後室温10℃~20の室内で18時間乾燥させた。これを1サイクルとし、合計2サイクル実行した。2サイクル実行後、第1板材11と接着層13と第2板材12との積層部分を目視で確認したところ、第1板材11及び第2板材12と接着層13との間に剥離は認められなかった。従って、第1板材11及び第2板材12は、高い接着能力を有することが確認できた。
【0091】
煮沸剥離試験は、以下のようにして行った。作製した板材積層物10を、水温100℃の沸騰水に4時間浸漬した後室温10℃~20の室内で6時間乾燥させた。乾燥後、第1板材11と接着層13と第2板材12との積層部分を目視で確認したところ、第1板材11及び第2板材12と接着層13との間に剥離は認められなかった。従って、浸漬剥離試験よりも過酷な状態に晒されたとしても、第1板材11及び第2板材12は、高い接着能力を有することが確認できた。
【0092】
これらのように、浸漬剥離試験及び煮沸剥離試験の何れにおいても、剥離は認められなかった。従って、例えば室温、空気中での使用等の通常の使用時には、長期にわたって剥離を抑制でき、信頼性の高い板材積層物10を製造できると考えられる。
【0093】
この結果が得られた理由は、疎水性のバインダ粒子(珪砂)に起因すると考えられる。即ち、疎水性のバインダ粒子には、水分が保持され難い。従って、有機物である木材と、炭化促進成分及び連鎖抑制成分とが、水分を保持し難いバインダ粒子によって接着される。このため、内部に水分が浸入し難く、内部の水分に起因する剥離を抑制できたと考えられる。また、疎水性のバインダ粒子により、木材、炭化促進成分、連鎖抑制成分及び接着層13を強固に接着できる。これにより、隙間の形成を抑制でき、隙間への水の侵入に起因する剥離を抑制でき、浸漬剥離試験及び煮沸剥離試験の何れにおいても優れた結果が得られたと考えられる。
【0094】
<実施例2>
表面コーティング層14を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして板材積層物10を作製し、不燃試験、浸漬剥離試験、及び煮沸剥離試験を行った。この結果、作製した板材積層物10は不燃性を有していた。また、浸漬剥離試験及び煮沸剥離試験のいずれにおいても剥離は認められず、実施例1と同様に、第1板材11及び第2板材12は、高い接着能力を有することが確認できた。
【0095】
<比較例1>
珪砂(バインダ粒子)を使用しないこと以外は実施例1と同様にして板材積層物10を作製し、不燃試験、浸漬剥離試験、及び煮沸剥離試験を行った。この結果、作製した板材積層物10は不燃性を有していた。しかし、浸漬剥離試験及び煮沸剥離試験のいずれにおいても、10mmを超える大きな剥離が認められた。従って、第1板材11及び第2板材12の接着能力は低いことが分かった。この理由は、炭化促進成分及び連鎖抑制成分が吸湿した結果、内部の水分に起因して剥離が生じたと考えられる。また、これらは弱い接着力で接着しているため、これらの間に隙間が生じ易い。このため、水分が隙間に侵入し易いため、更に、侵入した水分に起因して剥離が生じたと考えられる。
【0096】
・穿孔工程S2の有無による含侵評価
<実施例3>
図5は、実施例3で使用した板材1の上面図である。図6は、図5のA-A線断面図である。棒部材1022(図4)を用いた穿孔工程S2(図3)により、図5及び図6に示す示す板材1を作製した。孔20は等間隔で形成され、いずれも同じ形状を有する。板材1の厚さL1は20mmで、孔20は、上面視で円形であり、板材1の両面に複数個形成した。孔20の大きさ(直径)L2は、0.5mm~1mm、隣接する孔20の間隔L3は10mm、孔20の深さL4は3mmとした。1つの孔20の深さは、板材1の厚さに対して15%であるが、孔20は、2つの表面110にそれぞれ形成されるため、合計で、板材1の厚さに対して30%である。そして、作製した板材1の質量を測定した。
【0097】
孔20を備える板材1を、実施例1の板材加工用組成物に入れ、2時間煮沸した。2時間経過後に取り出し、20℃迄自然冷却させた後に水洗した。水洗後、十分に乾燥させ、質量を測定した。そして、煮沸後の質量から煮沸前の質量を減じることで、含侵された板材加工用組成物の質量を決定した。以上の操作を合計で4回行った。
【0098】
<実施例4>
孔20を備えないこと以外は実施例3と同様にして、板材加工用組成物の質量を決定した。
【0099】
<評価結果>
実施例3及び実施例4の結果を下記の表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示すように、孔20を備えることで、含浸量を飛躍的に増やすことができた。このため、例えば含侵のための時間を短縮できたり、含侵のための圧力付与が不要になる等の利点が得られる。また、板材1に含侵し易くなるため、板材1の厚さが厚くなっても、内部に迄十分に含侵できる。従って、複数の板材1を備える板材積層物10の厚さを更に厚くでき、更に様々な用途に板材積層物10を使用できる。即ち、本開示の板材加工用組成物は板材積層物10に使用できるが、積層しない単層の板材1に対しても使用できる。
【0102】
・セラミック粒子の有無による不燃評価及び剥離評価
<実施例5>
実施例1の板材加工用組成物に対し更にセラミック粒子を添加し、実施例5の板材加工用組成物を作製した。セラミック粒子は、真球状で大きさ直径8μm(レーザー回折式散乱法に基づく平均粒径)のシリカ(二酸化ケイ素の焼結体)を使用し、使用量は、板材加工用組成物に対して1質量%とした。
【0103】
板材1の表面に、実施例5の板材加工用組成物を1回塗布し、乾燥させた。塗布により板材加工用組成物は板材1に内部に含侵するとともに、乾燥により表面に厚さ0.1μmの薄膜が形成された。薄膜はセラミック粒子の大きさよりも薄いことから、セラミック粒子は、板材1の内部に含侵したと考えられる。薄膜表面に実施例1で使用した接着剤を塗布し、以降は実施例1と同様にして、実施例5の板材積層物10を作製した。ただし、実施例5では、3枚の板材1を使用して板材積層物10を作製した。従って、最表面の2枚の板材1は、中央の1枚の板材1に対し、下地層及び接着層13を介して接着する。
【0104】
実施例5と、参考例としての上記実施例1(セラミック粒子を含まない)との各板材積層物10について、不燃試験及び剥離試験(浸漬剥離試験及び煮沸剥離試験)を行った。結果を図7及び図8に示す。
【0105】
図7は、実施例5に係る不燃試験の結果を示す図面代用写真である。図7に示すように、3枚の板材1のうち、炎に接触した板材1(写真中、黒くなった部分(炭化した部分)を含む一番下の板材1)が残り2枚の板材1から剥離し、炭化が、最外配置された1枚の板材1のみに抑えられた。これは、炎に接触した板材1が残り2枚の板材1から剥離して隙間が生じ、当該隙間によって、熱が残り2枚の板材1に伝達し難くなったためと考えられる。この結果、残り2枚の板材1は炭化しなかったと考えられる。
【0106】
また、剥離した板材1には反りが発生したものの、貫通、破損、崩壊等の大きな損傷は生じなかった。試験中、板材1はいずれも燃焼せず、有害な煙等も発生しなかったことから、実施例5の板材積層物10は不燃性を有することが確認できた。また、板材積層物10の全体でみたときに、炭化も反り生じなかった板材1を基材、炭化及び反りが生じた板材1を表層材として考えることができる。このように考えると、表層材のみの炭化及び反りによって、基材を炭化及び変形させずに、基材の形態を維持できた、ということもできる。
【0107】
図8は、参考例(実施例1)に係る不燃試験の結果を示す図面代用写真である。図8に示すように、板材積層物10において板材1は剥離しなかった。このため、写真中、板材積層物10のうちの黒くなった部分(炭化した部分)は、写真中一番上に示される最表面の板材1に加えて、中央の板材1にまで進行していた。従って、実施例5よりは炭化が進行した。これは、板材1同士が接着しているため、炭化が連続的に進行したためと考えられる。ただし、参考例においても、板材1に、貫通、破損、崩壊等の大きな損傷は生じなかった。試験中、板材1はいずれも燃焼せず、有害な煙等も発生しなかったことから、参考例の板材積層物10も不燃性を有することが確認できた。
【0108】
また、図示は省略するが、実施例5及び参考例(実施例1)のいずれの板材積層物10においても、板材1は剥離しなかった。このため、実施例5の板材積層物10は、参考例の板材積層物10と少なくとも同等の剥離強度を有するとともに、参考例の板材積層物10よりも高い不燃性を有することが示された。従って、セラミック粒子を使用するか否かは、板材1及び板材積層物10を、内装材、外装材(足場が必要な場所)、構造材、表層材(強度の厳格な確保)等の、どのような使用目的で使用するかにより、決定すればよいといえる。このため、本開示によれば、使用者が工法を任意に選択できるという利点が得られる。
【符号の説明】
【0109】
1 板材
10 板材積層物
11 第1板材
12 第2板材
13 接着層
14 表面コーティング層
15 最表面コーティング層
2 最表面
S1 製材工程
S2 穿孔工程
S3 含浸工程
S4 乾燥工程
S5 R加工工程
S6 コーティング工程
S7 接着剤塗布工程
S8 積層工程
S9 仕上げ形状加工工程
S10 最表面コーティング工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8