(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129744
(43)【公開日】2023-09-15
(54)【発明の名称】液肥の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 11/00 20060101AFI20230908BHJP
C05G 5/20 20200101ALI20230908BHJP
C05G 1/00 20060101ALI20230908BHJP
C08B 37/00 20060101ALN20230908BHJP
【FI】
C05F11/00
C05G5/20
C05G1/00 F
C08B37/00 A
C08B37/00 Q
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022068691
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】302002801
【氏名又は名称】有限会社栄和商事
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(72)【発明者】
【氏名】土居 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋
【テーマコード(参考)】
4C090
4H061
【Fターム(参考)】
4C090AA10
4C090BA40
4C090BC05
4C090CA01
4C090CA04
4C090CA05
4C090CA11
4C090CA19
4C090DA03
4H061AA02
4H061CC41
4H061GG13
4H061GG20
4H061GG55
4H061LL02
4H061LL05
(57)【要約】
【課題】 海藻を原料としてミネラルバランスの良好な液肥を製造する方法を提供する。
【解決手段】 海藻を細断(S1)した後に圧搾(S2)して一次搾汁と一次搾滓とに分ける第一分離工程と、上記一次搾滓を-1~-5℃の温度帯で30分間以上冷却して凍結(S3)させた後に解凍(S4)し、圧搾(S5)して二次搾汁(液肥)と二次搾滓とに分ける第二分離工程とを有する液肥の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻を細断した後に圧搾して一次搾汁と一次搾滓とに分ける第一分離工程と、
上記一次搾滓を-1~-5℃の温度帯で30分間以上冷却して凍結させた後に解凍し、圧搾して液肥と二次搾滓とに分ける第二分離工程と、を有する液肥の製造方法。
【請求項2】
上記海藻がキリンサイであることを特徴とする請求項1に記載の液肥の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海藻を原料とする、カリウムを多く含み、かつミネラルバランスが良好な液肥を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅藻類や褐藻類などの海藻には、農作物や花卉の栽培に用いる肥料の三要素と言われる窒素、リン、カリウムが多く含まれるため、従来から、海藻の搾汁をそのままで、あるいは加工して、液体肥料(液肥)にする方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特表2006-504605号公報)には、生の海藻をミキサーで砕いて均質化してスラリーとし、そのスラリーを圧搾して得た汁液を主原料として液肥を製造する方法が記載されている。
また、特許文献2(実開昭63-183245号公報)には、生の海藻を低温バーニング加工(低温加熱加工)した後に液体抽出機によって液肥を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006-504605号公報
【特許文献2】実開昭63-183245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の海藻を原料とする液肥の製造方法は、海藻を粉砕したり加熱したりした後に、圧搾を1回行うことで搾汁を得て、この搾汁をそのまま液肥としたり液肥の材料としていた。
【0006】
しかし、海藻にはカリウムが非常に多く含まれているため、海藻の搾汁に含まれるミネラル全体としては、相対的にカリウムが突出して多く含まれることになり、それは農作物や花卉の栽培に適した液肥のミネラルバランスとしては、必ずしも望ましいものではなかった。そのため、従来の海藻の搾汁は、特にカリウムを多く必要とする農作物や花卉のための生物刺激剤や活性剤として他の肥料の効果を高める目的で使用されたり、他の原材料を加えてミネラルバランスを整えてから液肥として使用されたりする場合が多かった。
【0007】
そこで、本発明は、海藻を原料として、簡易な方法でミネラルバランスの良好な液肥を製造する方法を提供することを課題とする。
【0008】
また、海藻がキリンサイである場合には、増粘多糖類のカラギーナン製造用の良質な材料を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の手段によって解決された。
【0010】
〔1〕 海藻を細断した後に圧搾して一次搾汁と一次搾滓とに分ける第一分離工程と、上記一次搾滓を-1~-5℃の温度帯で30分間以上冷却して凍結させた後に解凍し、圧搾して液肥と二次搾滓とに分ける第二分離工程と、を有する液肥の製造方法。
【0011】
〔2〕 上記海藻がキリンサイであることを特徴とする上記〔1〕に記載の液肥の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
上記〔1〕に記載の液肥の製造方法は、第一分離工程において、海藻に含まれる多量のカリウムを一次搾汁とともに取り除いてカリウム含量を減じた一次搾滓を作製し、第二分離工程において、かかる一次搾滓を-1~-5℃の温度帯で30分間以上冷却することで、一次搾滓の海藻内に大きな氷結晶が生成するように緩慢凍結させて、一次搾滓の海藻の細胞構造を破壊し、その後解凍して圧搾することで液肥を得る方法であり、得られる液肥は、カリウム含量が減少しているが、他の有用なミネラル類は減少していないものとなる。
したがって、上記〔1〕に記載の液肥の製造方法によれば、海藻を原料として簡易な方法でミネラルバランスの改善された液肥を製造することができる。
【0013】
上記〔2〕に記載の液肥の製造方法によれば、上記第二分離工程において液肥と分離して得た二次搾滓を、良質なカラギーナン製造用の材料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る液肥の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る液肥の製造方法を、
図1に基づいて説明する。
液肥の製造方法は、
図1に示すS1からS5までの各処理からなる。まず、液肥の原料とする海藻を用意する。海藻の種類は限定されないが、キリンサイなどの紅藻類や昆布などの褐藻類が一般的である。海藻は生の状態であることが望ましいが、乾燥品を水戻ししたものでもよい。
【0016】
海藻は、まず食品用細断機などによって一辺が1~10mm程度の大きさの小片になるように細断する(S1:細断処理)。
【0017】
次に、細断した海藻を、圧搾機によって圧搾して一次搾汁と一次搾滓とに分ける(S2:一次圧搾処理)。かかる圧搾処理は、得られる一次搾汁と一次搾滓との質量比が3:7程度になるように行うことが望ましい。以上の海藻から一次搾汁と一次搾滓を作製するまでの工程が第一分離工程である。
【0018】
第一分離工程で得られた一次搾滓は、次工程における液肥の材料となる。
また、一次搾汁には、多量のカリウムが含まれているとともに、窒素、リン、その他肥料の構成要素として有用なミネラル類、アミノ酸類及び植物ホルモン類などが含まれている。そのため、特にカリウムを多く必要とする農作物や花卉のための植物刺激剤や植物活性剤として、他の肥料の効果を高める目的で使用することができ、また、他の原材料を加えてミネラルバランスを整えてから液肥として使用することができる。
【0019】
なお、原料の海藻がキリンサイである場合、一次搾汁に含まれる水溶性カリウムの濃度は約1.5~2.0質量%であり、一次搾汁に含まれる水溶性カリウム以外の水溶性ミネラル類の濃度に比べて突出して高濃度である。例えば、かかる水溶性カリウムの濃度は、水溶性リンの濃度(約0.003~0.005質量%)の約400~500倍に達する。
【0020】
次に、第一分離工程で得られた一次搾滓を、冷凍機によって一次搾滓の中心部分の温度を-1~-5℃に保った状態で30分間以上保持するように冷却して緩慢凍結させる(S3:緩慢凍結処理)。この緩慢凍結処理によって、一次搾滓の海藻の体内の水分が凍って大きな氷結晶が生成するため、海藻の細胞壁や細胞内小器官などの細胞構造が破壊される。
凍った一次搾滓は、その後すぐに解凍してもよいが、-15℃以下に保持した冷凍庫内で3日間以上保管すれば、海藻の体内に生成した氷結晶がさらに大きく成長して、海藻の細胞構造の破壊が促進されるため望ましい。
【0021】
次に、凍った一次搾滓を解凍する(S4:解凍処理)。解凍方法は高温で加熱する方法以外であればいかなる方法でも差し支えないが、通常は自然解凍でよい。
【0022】
解凍した一次搾滓を圧搾機によって圧搾して二次搾汁(液肥)と二次搾滓とに分ける(S5:二次圧搾処理)。かかる圧搾処理は、得られる二次搾汁と二次搾滓との質量比が3:2程度になるように行うことが望ましい。以上の一次搾滓から二次搾汁と二次搾滓を作製するまでの工程が第二分離工程である。
【0023】
第二分離工程で得られた二次搾汁は、特許請求の範囲の記載における液肥に該当するものであり、一次搾汁に比べてカリウムの含有量が少なく、かつ窒素、リン、その他肥料の構成要素として有用なミネラル類、アミノ酸類及び植物ホルモン類などは一次搾汁と同等以上に含まれている。そのため、農作物や花卉のための液肥としてそのまま使用できるものである。
【0024】
なお、原料の海藻がキリンサイである場合、二次搾汁に含まれる水溶性カリウムの濃度は約0.2~2.8質量%であり、二次搾汁に含まれる水溶性リンの濃度(約0.01~0.05質量%)の約20~56倍である。このように、二次搾汁には水溶性カリウムが多く含まれているが、他の水溶性ミネラル類と比べた場合に一次搾汁のように突出した含有量ではなく、ミネラルバランスが改善されたものである。
【0025】
以上のとおり、本発明の液肥の製造方法によれば、海藻を原料として簡易な方法でミネラルバランスの改善された液肥を製造することができる。
【0026】
原料の海藻がキリンサイである場合、第二分離工程で得られた二次搾滓は、良質なカラギーナン製造用の材料にできる。
一般にキリンサイを原料としてカラギーナンを製造する場合には、不要な物質を取り除くためにアルカリ処理を行う必要がある。しかし、上記の第二分離工程で得られた二次搾滓は、2回の分離工程において不要物質の多くが一次搾汁と二次搾汁とに含められて取り除かれているため、カラギーナンを製造する場合にアルカリ処理を行う必要がない。
したがって、上記二次搾滓をカラギーナン製造用の材料とする場合には、アルカリ処理やPH調整を行う必要がなく、低コストで良質のカラギーナンを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本願発明にかかる液肥の製造方法は、海藻を原料とする液肥製造の産業分野において利用される。
【符号の説明】
【0028】
S1・・ 細断処理
S2・・ 一次圧搾処理
S3・・ 緩慢凍結処理
S4・・ 解凍処理
S5・・ 二次圧搾処理