(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129754
(43)【公開日】2023-09-19
(54)【発明の名称】磁石式義歯アタッチメント
(51)【国際特許分類】
A61C 13/235 20060101AFI20230911BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A61C13/235
H01F7/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034000
(22)【出願日】2022-03-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】菊池 永喜
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 晋平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】800g程度の高い吸着力と、0.5mm~1mmの小さな厚みを有し、有髄歯を支台歯とするブリッジの応用を可能な磁性アタッチメントを開発する。
【解決手段】磁石構造体のシールドプレートは、残留磁気6kG以上の18Cr-8Ni系ステンレス磁石が複数個からなり、キャップはカップ状のホール部を複数個有するとともにそれぞれに永久磁石を装入して、複合磁石化による磁気吸引力の向上を図る。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯に配設される磁石構造体と支台歯の上に配設される軟磁性材料からなるキーパーとからなり、上記磁石構造体の吸着面と上記キーパーの被吸着面とを当接させることにより両者が磁力による自己吸引力によって互いに吸着するように構成された磁石式義歯アタッチメントにおいて、
前記磁石構造体は、複数個の開口部を有するカップ状の形状を有し、その底部と側面部はCr系磁性ステンレス鋼よりなるキャップと前記キャップの凹部に収納する開口部と同数の複数個の永久磁石と前記キャップの開口部に蓋する開口部と同数の複数個のシールドプレートとからなり、
前記シールドプレートは、Cr-Ni系ステンレス鋼製の開口部と同じ形状の一枚の薄板にて、外縁部は非磁性のCr-Ni系ステンレス鋼で、外縁部以外は厚み方向に飽和着磁したCr-Ni系ステンレス磁石の複合磁性材料からなり、
かつ、前記キャップ側面部の最端部と前記シールドプレートとの境界部は溶接によって接合されて、その溶接部は平滑化された吸着面を形成しており、
前記キーパーは、Cr系軟磁性ステンレス鋼からなることを特徴とする磁石式義歯アタッチメント。
【請求項2】
請求項1において、
前記磁石構造体は、吸着面積は1.7mm2~20mm2、厚み0.3mm~1mmの薄板形状からなることを特徴とする薄型の磁石式義歯アタッチメント。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記Cr-Ni系ステンレス磁石は、13kG以上の飽和磁化、50~200Oeの保磁力、かつ6kG以上の残留磁気を有することを特徴とする磁石式義歯アタッチメント。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項において、
前記キーパーは厚み0.05mm~0.2mm、吸着面積は1.7mm2~24mm2で、被吸着面の硬さHv250以上を有することを特徴とする磁石式義歯アタッチメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療分野において磁石吸引力を利用して義歯を維持固定するために用いるキャップ状の薄型の磁石式義歯アタッチメントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年義歯は、X線画像解析装置や3次元の形状測定を使って、口腔内の歯列状態を診断して、コンピュータで義歯を設計し、設計したデジタルデータをもとに、3次元プリンターで製作され始めている。つまり義歯は、精密鋳造デンチャーからデジタルデンチャーへと変わりつつある。デジタルデンチャーの維持装置として、磁石式義歯アタッチメントが期待されている。
【0003】
現行の磁石式義歯アタッチメントは、
図8に示すように、磁石構造体とキーパーとからなっており、磁石構造体は義歯内に装着され、キーパーは支台歯側に埋設される。両者の吸着面・被吸着面を介して、磁力で両者は吸着される。磁石構造体とキーパーを合わせた厚みは、2mm~4mmである。
それゆえ、現行の磁石式義歯アタッチメントを、有髄歯を支台歯としたクラウンブリッジなどに適用しようとした場合、
図9に示すように 厚みは1.0mm以下が必要で、現行のそれは、厚みが2~4mmと大きく、有髄歯の治療には使えない。
【0004】
また、現行の磁石式義歯アタッチメントの磁石構造体の構造は、
図10に示すように、Nd磁石と磁性キャップ、磁性キーパー、磁性プレートおよび磁性プレートと磁性キャップの間の非磁性部からなる磁気回路を形成している。この構造のままで部品の厚みを半減していき、厚みを0.5~1.0mmとすると、吸着力が大幅に減少し、十分な維持力を確保することができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、磁石構造体の吸着面積は1.7~20mm2と現行品よりさらに小さくしつつ、厚み0.3~1.0mmの薄型形状で、吸着力を400gから800gの性能を有する薄型の磁石式義歯アタッチメントを実現するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-227253号公報
【特許文献2】特開2004-154596号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本金属学会講演概要集(1996年9月29日第408頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の磁石式義歯アタッチメントは、
図1に示すように 吸着力は厚みを小さくすると、大幅に減少するにという欠点があった。本発明は、この欠点を解決したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、吸着力と厚みの関係の鋭意研究した結果、第1にプレート材質をCr系磁性ステンレスに代えて、Cr-Ni系ステンレス磁石に代えた場合には
図2に示すように吸着力はCr-Ni系ステンレス磁石の残留磁気の強さに比例して増加することを見いだした。
【0010】
第2に、磁石構造体の設置する磁石の数を1個から4個まで増やして、磁石構造体およびキーパーの形状とサイズを相似形に変化させてた複数個の磁石式義歯アタッチメントを2個から4個横方向に並べて組み合わせた磁石構造体を試作してその吸着力と厚みの関係を調査した。
その結果、
図3に示すように、吸着面積を一定として、磁石の数を2個、3個、4個と変化させ、かつ高さを1/2、1/3、1/4とした時の吸着力(gf)は、Cr-Ni系ステンレス磁石プレートの場合、吸着力は厚みを小さくしてもほとんど減少しないことが分かる。他方Cr磁性ステンレスプレートの場合、吸着力は厚みを小さくすると大幅に減少することが分かる。
【0011】
以上の発見を基礎にした薄型の磁石式義歯アタッチメントの構成は、次のとおりである。
磁石式義歯アタッチメントは、義歯に配設される磁石構造体と支台歯の上に配設される軟磁性材料よりなるキーパーとからなり、磁石構造体の吸着面とキーパーの被吸着面とを当接させることにより両者が磁力による自己吸引力によって互いに吸着するように構成されている。
磁石構造体は、キャップと永久磁石とシールドプレートとからなり、キャップは複数個の開口部を有するカップ状の形状を有し、その底部と側面部はCr系磁性ステンレス鋼よりなる。永久磁石はキャップの開口部と同数の複数個がキャップの凹部にそれぞれ収納され、シールドプレートはキャップの開口部と同数の複数個がキャップの開口部の蓋をそれぞれにする。
シールドプレートは、Cr-Ni系ステンレス鋼製の開口部と同じ形状の一枚の薄板で、外縁部は非磁性のCr-Ni系ステンレス鋼で、外縁部以外は厚み方向に飽和着磁したCr-Ni系ステンレス磁石の複合磁性材料からなり、かつ、キャップ側面部の最端部とシールドプレートとの境界部は溶接によって接合されて、その溶接部は平滑化された吸着面を形成している。
キーパーは、Cr系軟磁性ステンレス鋼からなる。
【0012】
ここで、上記磁石構造体は、吸着面積は1.7~20mm2、厚みは0.3~1mmの薄板からなることが好ましい。さらに、上記Cr-Ni系ステンレス磁石は、13kG以上の飽和磁化、50~200Oeの保磁力、かつ6kG以上の残留磁気を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、小型・薄型で高い磁気吸引力を有する薄型の磁石式義歯アタッチメントに関するものである。それは、有髄歯を支台歯とした可撤性の磁石式クラウンやブリッジの製作に役立つものと期待されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】磁気吸着力とCr-Ni系ステンレス磁石の残留磁気の強さの関係を示す図である
【
図2】現行磁石式義歯アタッチメントの磁気吸着力と厚みの関係を示す図である。
【
図3】磁気吸引力に及ぼすプレート材質と磁石個数の影響を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1(4個タイプ)の断面図である。
【
図5】4個の永久磁石を収納するキャップのホール部の上面図(a)および断面図(b)である。
【
図6】本発明の実施例1のプレートのシールド板(A)および非磁性改質部を有する複合シールド板(B)である。
【
図7】本発明の溶接部で、キャップ側面部の最端部と複合シールド板の非磁性改質部よりなる境界部との接合状態を示す図である。
【
図8】磁石式義歯アタッチメントの維持装置としての使用法を示す図である。
【
図9】有髄歯を支台歯とした磁石式ブリッジの磁石式義歯アタッチメントの薄さを示す図である。
【
図10】磁石式義歯アタッチメントの断面を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態は次の通りである。
本発明の磁石式義歯アタッチメントは、
義歯に配設される磁石構造体と支台歯の上に配設される軟磁性材料からなるキーパーとからなり、前記磁石構造体の吸着面と上記キーパーの被吸着面とを当接させることにより両者が磁力による自己吸引力によって互いに吸着するように構成された磁石式義歯アタッチメントにおいて、
前記磁石構造体は、複数個の開口部を有するカップ状の形状を有し、その底部と側面部はCr系磁性ステンレス鋼よりなるキャップと前記キャップの凹部に収納する開口部と同数の複数個の永久磁石と前記キャップの開口部に蓋する開口部と同数の複数個のシールドプレートとからなり、
前記シールドプレートは、Cr-Ni系ステンレス鋼製の開口部と同じ形状の一枚の薄板にて、外縁部は非磁性のCr-Ni系ステンレス鋼で、外縁部以外は厚み方向に飽和着磁したCr-Ni系ステンレス磁石の複合磁性材料からなり、
かつ、前記キャップ側面部の最端部と前記シールドプレートとの境界部は溶接によって接合されて、その溶接部は平滑化された吸着面を形成しており、
前記キーパーは、Cr系軟磁性ステンレス鋼からなることを特徴とする。
【0016】
磁石式義歯アタッチメントの構造と機能を、
図4および
図5に示す磁石4個の例を用いて説明する。
磁石式義歯アタッチメント1は、磁石構造体10とキーパー20とから構成されている。磁石構造体10は義歯床に配設されて磁気吸引力を発揮している。一方、キーパー20は支台歯に配設される軟磁性材料からなる。両者の関係は、一方は磁石構造体10に吸着面130が設けられ、他方はキーパー20には被吸着面200が設けられており、吸着面130と被吸着面200とは当接されることにより両者が磁気吸引力によって互いに吸着し、吸着されるように構成されている。
【0017】
先ず磁石構造体10の構造について説明する。
磁石構造体10は、4個の永久磁石11と永久磁石を収容する4個のホール部11Hを持つキャップ12とキャップの開口部の蓋をする4個のシールドプレート13とから構成される。
【0018】
永久磁石11は、Nd-Fe-B系磁石(Nd磁石)など希土類磁石が好ましい。Nd磁石では、最大エネルギー積は大きいほど好ましく、BHmaxが40~55MGOeとする。BHmax40MGOe未満のBHmaxでは十分な磁気吸引力を得ることができない。汎用的なNd磁石として上限はBHmax55MGOeとする。
【0019】
キャップ12は、Cr系磁性ステンレス鋼からなる。形状は、楕円形を含む円形状、正方形や長方形などの方形および方形の角部に丸みを有するものなどよりなり、以下所定の形状という。また、キャップのホール部の形状も同様である。
図4では、キャップ12およびホールド部11Hの形状は正方形状にてコーナーにR部を有している。
その特性は、透磁率2000程度で、飽和磁気量Bsは116kG程度とする。耐腐食性を阻害しない範囲で、Cr量やMo量を減らして透磁率および飽和磁気量を高めて、磁気吸引力の向上を図る方が好ましい。
【0020】
シールドプレート13は、ホール部11Hと同じ形状のCr-Ni系ステンレス製の薄板で、外縁部(外周部)は非磁性で、外縁延部以外はCr-Ni系ステンレス磁石からなっている。Cr-Ni系ステンレス磁石は厚み方向に着磁されており、その性能は、13kG以上の飽和磁化、50~200Oeの保磁力、かつ6kG以上の残留磁気を有している。特に残留磁気を大きくするほど、磁気吸引力は増加するので、6kG以上確保することが重要である。
これにより、Cr-Ni系ステンレス磁石は、キャップ12のホール部11Hに収容されている永久磁石11と複合磁石を形成して大きな磁気吸引力を実現している。
同時にシールドプレート13は、キャップとの境界部を溶接して、永久磁石11を口腔内の唾液などから保護して腐食から守っている。さらにシールドプレート13の非磁性部は、複合磁石とキャップとを磁気的に遮断し、磁気吸引力の低下を防止している。
【0021】
ここで、ステンレス磁石の製造方法は、シールドプレート13の形状に応じて次の方法がある。
まず、円板状のシールドプレートの場合には、
ア)オーステナイト相のCr-Ni系ステンレス鋼棒を冷間引抜加工して80%以上のマルテンサイト変態を生ぜしめ、そこから薄板を所定の形状に輪切りして厚み方向の繊維状組織を有するシールド板131(
図6(A))を作製する。
イ)オーステナイト相のCr-Ni系ステンレス鋼薄板を冷間加工により50%以上のマルテンサイト変態を生ぜしめ、そこから所定の形状に打ち抜いてシールド板131(
図6(A))を作製する。
次に、方形状のシールドプレートの場合には、
ウ)オーステナイト相のCr-Ni系ステンレス鋼薄板を冷間加工により50%以上のマルテンサイト変態を生ぜしめ、そこから所定の形状に打ち抜いてシールド板131(
図6(A))を作製する。
なお、ア)において方形状の異形棒に冷間引抜加工して製造してもよい。
【0022】
以上のマルテンサイト変態状態のシールド板131の外周部を加熱してオーステナイト相に戻して、Cr-Ni系ステンレス鋼の非磁性改質を行なう。その幅は0.15~0.3mm、厚みは0.05~0.10mmが好ましい。これにより、中央部は半硬質磁性材料からなるとともに外周部は非磁性材料(非磁性部)からなる複合シールド板132(
図6(B))を作製する。
キャップにNd磁石を設置してからこの複合シールド板で蓋をして溶接をして、その後3万Oe
以上の磁力で磁性アタッチメントの厚み方向にNd磁石と一緒に着磁して永久磁石とする。
【0023】
Crステンレス鋼製のキャップは、18Crステンレス鋼、18Cr-2Moステンレス鋼などの軟磁性Crステンレス鋼板を所定の形状に打ち抜き、それを絞り加工により円筒上の容器を作製する。そのまま使用してもよいし、その後熱処理して使用してもよい。
【0024】
磁石構造体の製造方法は、Cr系磁性ステンレス鋼よりなるキャップ12に4個の永久磁石11を装入し、キャップ12の開口部に蓋としてのCr-Ni系ステンレス鋼とCr-Ni系ステンレス磁石よりなる複合シールド板132を圧入して磁石構造体を組み立てる。次に複合シールド板132とキャップ12との境界部を一体的に溶接する。
【0025】
溶接については、
図6に示すように、Cr系磁性ステンレス鋼のキャップ12と複合シールド板132のリング状のCr-Ni系ステンレス鋼131bとの境界部(接合部)の表面側をレーザー溶接する。レーザー溶接により形成される溶接部133は、Cr系磁性ステンレス鋼とCr-Ni系ステンレス鋼を溶け込ました合金にて少量のδフェライト相が析出はしているが、非磁性部131bにまで至らないので磁気的遮断は完全にすることができる。
なお、溶接部133のサイズは、幅0.10mmその公差は0.01mmが好ましい。溶接深さはシールドプレートの厚みと同じで、0.05mm~0.10mmが好ましい。
その後、溶接部133は研磨されて平坦面となる。
【0026】
キーパー20は、Cr系軟磁性ステンレス鋼板を所定の形状・サイズに打ち抜いて作製する。サイズ的には厚み0.05mmから0.2mm、吸着面積は磁石構造体の吸着面と同じか、やや広い1.7~24mm2とすることが好ましい。キーパーとしては、磁石構造体との吸着面である上面は研磨により平滑にして、凹凸度は1μm以下にすることが好ましい。キーパーの硬さは、冷間成形状態で使用する場合は、硬さHv200以上、熱処理を施す場合は硬さHv200以下とする。
【0027】
磁石構造体のサイズは、吸着面積は1.7~20mm2、厚み0.3mm~1mmの薄板形状からなる。これらの寸法と形状は有髄歯を支台歯としたブリッジに適用できるものである。
【0028】
Cr-Ni系ステンレス磁石は、13kG以上の飽和磁化、50~200Oeの保磁力、かつ6kG以上の残留磁気よりなる特性を有している。特に残留磁気を6kG以上とすることで、磁気吸引力(吸着力)を強くすることができる。
【0029】
さらに、第2の実施形態としては、キーパーの硬さをHv250以上となるように、冷間成形して硬くして、耐摩耗性を改善する。
吸着力は、冷間成形により硬くして素材の透磁率を熱処理状態の2000から200程度に低下させても、吸着力は低下しないことを確認した。この理由としては、キーパーの吸着面の磁極S極とN極は非常に近くて反磁界係数が大きいので、素材の透磁率が2000から200に低下しても、有効透磁率は20程度とあまり変わらない為と考えられる。または、Cr-Ni系ステンレス磁石を採用する本発明の磁石構造体の場合、起磁力が大きくなって、キーパー部の磁気抵抗が少し大きくなっても吸着力に影響しないとも考えている。
【実施例0030】
[実施例1]
本発明にかかる磁石式義歯アタッチメントおよびその製造方法について、
図3~7を用いて説明する。
本例の磁石式義歯アタッチメント1は、磁石構造体10とキーパー20とから構成され、磁石構造体10は永久磁石11と、4個の永久磁石11を収納する4個のホール部11Hを有する容器であるキャップ12と、キャップ12の凹所開口部の蓋となる4個のシールドプレート13とからなる。
【0031】
磁石構造体10の構成について、説明する。
永久磁石11は、組成はNd系磁石にて、そのBHmaxは52MGOe、Msは1.33Tである。サイズは直径1.5mm、高さ0.45mmにて、コーナーにはR部が形成されている。
キャップ12は、18Cr-2Moステンレス鋼にて、その透磁率は2000Oe、飽和磁束密度Bsは16kGである。サイズは方形で6×6mm、高さ0.6mmである。
その製造方法は、厚さ0.2mmの18Cr-2Moステンレス鋼板から冷間プレス加工法によ
り4×4mm方形状で、深さ0.4mmの4つの窪み(ホール部11H)を有する容器として形成
したものである。
【0032】
シールドプレート13は、方形状薄板で、外縁部は非磁性で、外縁部以外は18Cr-8Ni系ステンレス磁石からなっている。18Cr-8Ni系ステンレス磁石は厚み方向に着磁されており、その性能は、13kG以上の飽和磁化、50~200Oeの保磁力、かつ6kG以上の残留磁気を有している。
【0033】
18Cr-8Ni系ステンレス磁石は、キャップ1に収容されている永久磁石11と複合磁石を形成し大きな磁気吸引力を実現している。
【0034】
同時に4個のシールドプレート13は、キャップ12との境界部を溶接して、それぞれ永久磁石11を口腔内の唾液などから保護し腐食から守っている。さらにシールドプレート13の非磁性部131bは、複合磁石とキャップ12とを磁気的に遮断し、磁気吸引力の低下を防止している。
【0035】
4個の永久磁石11をキャップ12に装入し、次いでキャップ1の凹所開口部に蓋となる4個のシールドプレート13を圧入して、Cr系磁性ステンレスのキャップ12と4個のシールドプレート13の18Cr-8Ni系ステンレス鋼131bとの接合部の表面側をレーザー溶接する。溶接部133の幅は0.15mm、深さは0.05mmとした。
【0036】
次に、キャップ12は、18Cr-2Moステンレス鋼にて、その透磁率は2000、飽和磁束密度Bsは16kGである。キーパー20は、同じく18Cr-2Moステンレス鋼で、透磁率は1000,硬さはHv230であった。
【0037】
Cr系磁性ステンレスのキャップ12および18Cr-8Ni系ステンレス磁石から構成される本実施例1の磁石式義歯アタッチメントと、従来の軟磁性ステンレス鋼のキャップおよびシールプレートから構成される義歯アタッチメントとを比較する。キーパーは同一として、吸着力の比較試験を行なった。両者ともにサイズおよび永久磁石等は同じで、磁石式か軟磁性ステンレス鋼式かの相違のみである。
その結果、従来の義歯アタッチメントは600gfに対して、磁石式義歯アタッチメントは820gfと吸着力は36%の向上が得られた。
【0038】
[実施例2]
実施例1において、キーパー20の硬さをHv270にし、厚みは、0.10mm、吸着面積は磁石構造体の吸着面と同じ16mm2、磁石構造体との吸着面である上面は研磨により平滑にして、凹凸度は1μm以下とした。
その結果、実施例1の磁石式義歯アタッチメントと同じ吸着力820gを得ることができた。
本発明は、シールドプレートにCr-Ni系ステンレス磁石を採用し、かつ複数個の磁石を採用することにより、吸着力を600g以上に向上し、かつ磁石式義歯アタッチメントの厚みを1mm以下とすることができ、有髄歯を支台歯とするブリッジに適用でき、これにより幅広い普及が期待される。