IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

特開2023-129770燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体
<>
  • 特開-燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体 図1
  • 特開-燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体 図2
  • 特開-燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体 図3
  • 特開-燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体 図4
  • 特開-燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体 図5
  • 特開-燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体 図6
  • 特開-燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129770
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230912BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20230912BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230912BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
B01J23/42 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034017
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 拓也
(72)【発明者】
【氏名】玄番 美穂
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 功彬
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA22A
4G169BA42A
4G169BB02B
4G169BC67A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EB18X
4G169EC14X
4G169EC14Y
4G169ED02
5H018AA06
5H018BB08
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE17
5H018HH04
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】本開示は、アイオノマによる触媒の被毒を抑制しつつ触媒担体の細孔の内部の触媒にプロトンを供給することができる、高効率な燃料電池用触媒層を提供する。
【解決手段】本開示における燃料電池用触媒層は、細孔を有する導電性の触媒担体と少なくとも一部が細孔の内部に担持された触媒とを備えた触媒担持材料と、触媒担持材料の外表面の少なくとも一部を被覆するプロトン伝導性のアイオノマと、を備える。そして、触媒担持材料は、触媒担体の外表面および細孔の内部に修飾する酸性官能基の量が、触媒担体の単位重量グラム当たり0.2mmоl以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する導電性の触媒担体と少なくとも一部が前記細孔の内部に担持された触媒とを備えた触媒担持材料と、前記触媒担持材料の外表面の少なくとも一部を被覆するプロトン伝導性のアイオノマと、を備え、
前記触媒担体の外表面および前記細孔の内部に修飾する酸性官能基の量が、前記触媒担体の単位重量グラム当たり0.2mmоl以上であることを特徴とする、燃料電池用触媒層。
【請求項2】
前記細孔は、平均細孔径が3nm以上10nm以下である、請求項1に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項3】
前記触媒担体の外表面および前記細孔の内部に修飾する酸性官能基の量が、前記触媒担体の単位重量グラム当たり2.0mmоl以下である、請求項1または2に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項4】
前記酸性官能基は、フェノール性水酸基またはカルボキシル基である、請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項5】
電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面に配置されたアノードと、前記電解質膜の他方の主面に配置されたカソードと、を備え、
前記カソードは、請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層を含む、電解質膜-電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用触媒層および電解質膜-電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、触媒担体の細孔内に触媒を担持することで、アイオノマによる触媒の被毒を抑制する触媒担持材料を開示する。この触媒担持材料は、細孔を有する導電性の触媒担体と、少なくとも一部が触媒担体の細孔内に担持された触媒と、を備え、外表面の少なくとも一部がアイオノマによって覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-64852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、アイオノマによる触媒の被毒を抑制しつつ触媒担体の細孔の内部の触媒にプロトンを供給することができる、高効率な燃料電池用触媒層を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における燃料電池用触媒層は、細孔を有する導電性の触媒担体と少なくとも一部が細孔の内部に担持された触媒とを備えた触媒担持材料と、触媒担持材料の外表面の少なくとも一部を被覆するプロトン伝導性のアイオノマと、を備える。
【0006】
そして、触媒担持材料は、触媒担体の外表面および細孔の内部に修飾する酸性官能基の量が、触媒担体の単位重量グラム当たり0.2mmоl以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示における燃料電池用触媒層は、触媒担体に酸性官能基を修飾することで、触媒担体の細孔の内部に水分を保持できるので、触媒担体の細孔の内部に担持された触媒へプロトンを供給することができる。
【0008】
細孔の内部に担持された触媒は、アイオノマに被覆されることなく、細孔の内部に保持される水分によってプロトンが供給されるので、触媒の利用効率を高めることができ、高効率な燃料電池用触媒層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1における燃料電池用触媒層の触媒担持材料の断面を示す模式図
図2】本発明の実施の形態1における燃料電池用触媒層の触媒担持材料の断面の一部を拡大した模式図
図3】本発明の実施の形態1における燃料電池用触媒層の触媒担持材料の細孔の内部の官能基の状態を示す模式図
図4】本発明の実施の形態1における電解質膜-電極接合体を備えた電気化学デバイスの断面を示す模式図
図5】本発明の実施の形態1における燃料電池用触媒層に用いたアイオノマの構造を示す概略図
図6】本発明の実施の形態1における燃料電池用触媒層の実施例1~4と比較例の触媒担持材料に修飾する官能基量と規格化した質量活性との関係を示す特性図
図7】本発明の実施の形態1における燃料電池用触媒層の製造工程を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に相到するに至った当時、燃料電池の触媒層における三相界面の形成という技術は、プロトン供給の観点から、触媒とアイオノマとを接触させることが性能向上につながると考えられてきたが、近年、アイオノマが触媒に接触することにより、触媒がアイオノマに被毒され、むしろ触媒活性が低下することが分かってきた。
【0011】
そのため、当該業界では、アイオノマによる触媒の被毒を抑制するということを課題として、メソポーラス材料等の大容量のメソ孔(細孔)を有する触媒担体の細孔の内部に触媒を担持させることで、アイオノマが触媒に接触しないように製品設計をするのが一般的であった。
【0012】
しかし、触媒担体の細孔の内部に触媒を担持させると、触媒担体の構造によって触媒担体の細孔の内部へのアイオノマの浸入が抑制されるため、触媒の近傍にアイオノマが存在せず、触媒担持材料の細孔の内部の触媒へのプロトン供給は十分でないという課題があった。
【0013】
アイオノマを触媒に接触させないことと、触媒にプロトンを供給することは相反する事象であり、両立することは通常の発想では困難である。
【0014】
そうした状況下において、発明者らは、プロトンが水分内を移動するということをヒントにして、触媒担体の細孔の内部へ水分を吸着させて、触媒担体の細孔の内部に担持された触媒へプロトンを供給するという着想を得た。
【0015】
そして、発明者らは、その着想を実現するには、触媒担体の細孔の内部に吸着される水分量が不十分という課題があることを発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0016】
そこで、本開示は、触媒担体の細孔の内部まで水分を保持することによって、触媒担体の細孔の内部の触媒へプロトンを供給し、高効率な触媒層を提供する。
【0017】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0018】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0019】
(実施の形態1)
以下、図1図7を用いて、実施の形態1を説明する。
【0020】
[1-1.構成]
(電気化学デバイス)
図4に示すように、電気化学デバイス40は、カソードセパレータ24とアノードセパレータ28とによって電解質膜-電極接合体30が挟持された構成になっている。
【0021】
(電解質膜-電極接合体)
電解質膜-電極接合体30は、図4に示すように、電解質膜21と、カソード触媒層22とカソードガス拡散層23とを含むカソード34および、アノード触媒層26とアノードガス拡散層27とを含むアノード35によって構成されている。電解質膜-電極接合体30は、電解質膜21がカソード34とアノード35とによって挟持された構成になっている。
【0022】
電解質膜21は、カソード34とアノード35との間のプロトン伝導を行う膜であり、プロトン伝導性とガスバリア性とを併せ持つ必要がある。本実施の形態の電解質膜-電極接合体30では、電解質膜21として、パーフルオロスルホン酸樹脂膜を用いた。このパーフルオロスルホン酸樹脂膜は、プロトン伝導性が高く、例えば、燃料電池の発電環境下でも安定に存在できる。電解質膜21の膜厚は、10μmである。電解質膜21の膜厚が10μmであれば、高いガスバリア性および高いプロトン伝導性を得られる。
【0023】
ガス拡散層(カソードガス拡散層23およびアノードガス拡散層27)は、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つ層であって、基材とコーティング層を有する。
【0024】
本実施の形態の電解質膜-電極接合体30では、ガス拡散層の基材として、導電性、ならびに気体・液体の透過性に優れた材料である、カーボンペーパーを用いる。
【0025】
コーティング層は、基材と触媒層(カソード触媒層22およびアノード触媒層26)との間とに介在して、基材と触媒層との接触抵抗を下げて、水の排水性を向上するための層である。
【0026】
本実施の形態の電解質膜-電極接合体30では、ガス拡散層のコーティング層として、導電性材料であるカーボンブラックおよび撥水性樹脂であるポリテトラフルオロエチレンを用いる。
【0027】
カソード触媒層22は、電極の電気化学反応の速度を促進させる層である。カソード触媒層22は、図1に示す、触媒担持材料5を含んでいる。
【0028】
(触媒担持材料)
触媒担持材料5は、図1に示すように、細孔4を有する導電性の触媒担体1と、触媒担体1に担持された触媒2と、親水性の官能基(側鎖)と疎水性の主鎖を備えたアイオノマ3と、を備えている。触媒担持材料5は、多孔性で導電性の触媒担体1の少なくとも細孔の内部に触媒2を担持し、触媒担体1の外表面の一部がアイオノマ3によって被覆されている。
【0029】
触媒2は、触媒担体1の外表面に担持された細孔外触媒2aと、触媒担体1の外表面から内部へと連通する細孔4における開口部よりも奥の部分に担持された細孔内触媒2bとに区別される。
【0030】
なお、本実施の形態では、触媒担持材料5に用いる触媒担体1として、メソポーラスカーボンを例に挙げて説明するが、触媒担体1は、このメソポーラスカーボンに限定されるものではない。細孔径や細孔容積がメソポーラスカーボンと同じで導電性であれば、他の材料であっても良い。
【0031】
触媒担体1に使用可能なメソポーラスカーボンの他の材料としては、例えば、チタン、スズ、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、シリコン等の酸化物で構成され
る材料が挙げられる。
【0032】
本実施の形態において触媒担体1に用いたメソポーラスカーボンは、図1図2に示すように、外表面から内部へと連通する細孔4を有している。
【0033】
細孔4のモード径が6nmである。細孔4のモード径が6nm以上あれば、触媒担体1の内部に多くの触媒2を担持することができる。
【0034】
触媒担体1に用いたメソポーラスカーボンは、平均粒径が200nm以上1000nm以下となるように構成されている。平均粒径が200nm以上であれば、メソポーラスカーボンの粒径がアイオノマ3の長さに対して十分に大きいため、アイオノマ3が細孔4内に入り込む領域が、細孔4の細孔容積に対して小さくなるので、アイオノマ3による被毒の影響を受ける触媒2の割合が小さくなる。
【0035】
図3に示すように、官能基7が触媒担体1の表面を修飾している。本実施の形態では、触媒担持材料5の官能基7として、酸性のフェノール性水酸基を用いる。酸性の官能基7は水分6を表面に吸着することができる。
【0036】
触媒担持材料5の外部から供給されたプロトンは、触媒担体1の表面に吸着したアイオノマ3を経由して細孔4の入口まで搬送される。アイオノマ3と官能基7に吸着した水分6は、接触しており、細孔4の入口まで搬送されたプロトンは、さらに水分6を経由して細孔内触媒2bまで搬送される。
【0037】
触媒2(細孔外触媒2aと細孔内触媒2b)の材料は、白金および白金と異なる金属を含む。白金と異なる金属としては、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、アルミニウム、クロム、鉄、モリブデン、タングステン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、銅、銀等が挙げられる。中でも、白金とコバルトとの合金は、酸素還元反応に対する触媒活性が高く、かつ燃料電池の発電環境下における耐久性が良好となるため適当である。
【0038】
本実施の形態1において触媒担持材料5に用いた触媒2は、触媒2に含まれる全金属に対する、触媒2に含まれる白金および白金と異なる金属のモル比が0.25以上である。触媒2に含まれる白金と異なる金属はコバルトである。このような組成の触媒2は、高い活性を示す。
【0039】
コバルトは、例えば、燃料電池の発電環境下で溶出しやすく、長時間発電した場合、燃料電池の発電性能の低下を招く。そこで、触媒2に含まれる白金およびコバルトのモル比が1以下とすることで、このような発電性能の低下を抑制することができる。触媒2の組成は、PtxCo(xは1以上4以下)の組成で表される。
【0040】
アイオノマ3は、電解質膜21を通過してきたプロトンをカソード触媒層22中の触媒2まで伝達するもので、繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として、酸性の官能基を有する。
【0041】
本実施の形態では、アイオノマ3として、電解質膜21と同質の固体高分子材料であるパーフルオロスルホン酸樹脂を用いる。このパーフルオロスルホン酸樹脂は、イオン交換性樹脂の中でもプロトン伝導性が高く、燃料電池の発電環境下でも安定して存在するため好適である。
【0042】
アイオノマ3は、図5に示すように、スルホン酸基を備えた親水部と、疎水部のランダ
ム共重合体からなる高分子鎖と、高分子鎖の末端に結合している親水部の凝集構造からなる親水性ブロックと、を備える。
【0043】
ここで、高分子鎖とは、親水部と疎水部のランダム共重合体を示し、高分子鎖の分子構造は特に限定されない。また、高分子鎖に含まれる親水部と疎水部の比率も特に限定されない。さらに、高分子鎖はC-F結合を含むフッ素系高分子である。
【0044】
アイオノマ3における親水部とは、図5に示すように、高分子鎖中において、スルホン酸基が結合している部分の最小の繰り返し単位をいう。親水部は、いずれかの部分にスルホン酸基を備えている。親水部の数は触媒2への被毒に影響を与える。親水部は触媒2と結合しやすく、親水部と結合した触媒2はガス中の酸素との酸素還元反応が阻害されるため、触媒2の触媒活性が低下する。
【0045】
溶液中のアイオノマ3は、イオン交換機であるスルホン酸基からプロトンが解離し、スルホン酸基が負電荷を帯びる。触媒2の表面は正電荷を帯びるので、アイオノマ3のスルホン酸基が触媒2の表面に吸着し易い。
【0046】
アイオノマ3における疎水部とは、図5に示すように、高分子鎖において、酸基(スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基など)が結合していない部分の最小の繰り返し単位をいう。疎水部の構造は特に限定されない。
【0047】
アイオノマ3の重量比は、カソード触媒層22に含まれるカーボンの総重量に対して、0.8~1.5である。このカーボンは、メソポーラスカーボンである。
【0048】
アイオノマ3は、触媒担体1の外表面の少なくとも一部を被覆する。触媒担体1は、多数の細孔4を有するため、アイオノマ3による触媒2の被毒を抑制し、かつ触媒2を高担持密度で担持した燃料電池用触媒を得るために有用である。
【0049】
(触媒層の製造工程)
上記の内容に基づいて、電気化学デバイス40におけるカソード触媒層22の製造工程について、説明する。図7は触媒層の製造工程を示すフローチャートである。
【0050】
(親水化処理工程)
まず、図1に基づいて、電気化学デバイス40におけるカソード触媒層22の製造方法について説明する。
【0051】
触媒担体1の設計細孔径が6nmで、触媒担体1における触媒2の担持率が50wt%である触媒担持材料5(田中貴金属製、TECCо(PMPC-S2)52-PN)を、1mоl/Lの硝酸溶液に含浸する。硝酸溶液の濃度は特に限定されないが、0.1~3mоl/Lであることが好ましい。本実施の形態では、触媒担持材料5を含侵する硝酸溶液の温度を75℃に保つ。触媒担持材料5を含浸する硝酸溶液の温度は75℃に限定されないが、触媒担持材料5を含侵する硝酸溶液の温度としては、50℃~90℃の温度範囲が好ましい。
【0052】
触媒担持材料5の親水化処理は、ビーカーの中に、触媒担持材料5、硝酸溶液、純水をそれぞれ入れ、そのビーカーの内容物をスターラーで撹拌しながら加熱することにより行う。触媒担持材料5の親水化処理の時間は特に限定されないが、触媒担持材料5の親水化処理の時間としては、0.5h~5hの時間にすることが好ましい。
【0053】
触媒担持材料5の親水化処理後に、触媒担持材料5の細孔4中に残留している硝酸溶液
を除去するために触媒担持材料5の洗浄を行う。触媒担持材料5の洗浄は、純水の中に触媒担持材料5を入れて、触媒担持材料5に純水を含浸させることにより行う。そして洗浄液のpHが6以上になることを確認して触媒担持材料5の洗浄を終了する。触媒担持材料5からの硝酸の除去が不十分であると、触媒2の表面に付着した硝酸によって触媒2の触媒活性が低下し、電気化学デバイス40の効率が低下する。
【0054】
触媒担持材料5の洗浄終了後に、触媒担持材料5を100℃以上の温度に加熱して、触媒担持材料5に含侵した純水を蒸発させて、触媒担持材料5を乾燥させる。本実施の形態では、触媒担持材料5を120℃の温度で12h加熱して触媒担持材料5を乾燥させた。以上のようにして、親水化処理工程(S01)を実施した。
【0055】
(インク調整工程)
親水化処理工程(S01)において親水化処理を実施した触媒担持材料5を、エタノール:水=1:1の重量割合の混合溶媒に投入し、さらに、アイオノマ3(AGC株式会社製、IQ100B)の重量比が触媒担持材料5のカーボン重量に対して1.0となる量のアイオノマ3を投入し、固形分濃度が7%のスラリーを調整する。
【0056】
この調整したスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン製、スターバースト)を用いて、100MPaで粉砕処理した。その後、粉砕処理をしたスラリーを、自公転可変式ミキサー(クラボウ製、マゼルスター)にて20分間撹拌処理した。撹拌処理をしたスラリーである触媒インクは、脱泡処理のため、常温にて12hのエージングを行った。このようにして、インク調整工程(S02)を実施した。
【0057】
(塗布工程)
以上のようにして作製した触媒インクを、スプレー法によって電解質膜21の片方の主面の略中央部に塗布(S03)し乾燥させることで、カソード触媒層22を作製した。上記のように調整したカソード触媒層22の実施例および比較例について、説明する。
【0058】
(実施例1)
親水化処理工程において、触媒担持材料5の硝酸溶液への含浸時間を0.5hにした。それ以外の条件については上記の内容にてカソード触媒層22を作製した。
【0059】
(実施例2)
親水化処理工程において、触媒担持材料5の硝酸溶液への含浸時間を1hにした。それ以外の条件については実施例1の作製法と同様にして実施例2のカソード触媒層22を作製した。
【0060】
(実施例3)
親水化処理工程において、触媒担持材料5の硝酸溶液への含浸時間を3hにした。それ以外の条件については実施例1の作製法と同様にして実施例3のカソード触媒層22を作製した。
【0061】
(実施例4)
親水化処理工程において、触媒担持材料5の硝酸溶液への含浸時間を5hにした。それ以外の条件については実施例1の作製法と同様にして実施例4のカソード触媒層22を作製した。
【0062】
(比較例)
比較例については、上記の親水処理工程を実施しなかった。それ以外の条件であるインク調整工程、塗布工程については実施例1~4と同様にして比較例のカソード触媒層22
を作製した。
【0063】
続いて、実施例1~4と比較例のカソード触媒層22が設けられた電解質膜21におけるカソード触媒層22側の面とは反対側の主面の略中央部に、アノード触媒層26を形成した。
【0064】
アノード触媒層26は以下のようにして作製される。まず、市販の白金担持カーボンブラック触媒(田中貴金属工業株式会社製、TEC10E50E)を、水とエタノールを同量含む混合溶媒に投入・撹拌した。得られたスラリーにアイオノマ(AGC株式会社製、IQ100B)の重量比が白金カーボンブラック触媒のカーボンに対して0.6となるように投入し、自公転可変式ミキサー(クラボウ製、マゼルスター)にて20分間撹拌処理を行った。
【0065】
このようにして作製した触媒インクを、実施例1~4と比較例のカソード触媒層22が設けられた電解質膜21におけるカソード触媒層22側の面とは反対側の主面の略中央部に、スプレー法によって塗布し乾燥させることで、アノード触媒層26を作製した。
【0066】
このようにして作製された、実施例1~4と比較例のカソード触媒層22とアノード触媒層26のそれぞれの露出面にガス拡散層(SGLカーボンジャパン株式会社製、GDL25BC)を配置して、140℃の高温環境下において1MPaの圧力を5分間、加えることにより、実施例1~4と比較例の電解質膜-電極接合体30を作製した。
【0067】
得られた実施例1~4と比較例の電解質膜-電極接合体30を、電解質膜-電極接合体30のカソード34と対向する面にサーペンタイン形状の流路が溝状に形成されたカソードセパレータ24と、電解質膜-電極接合体30のアノード35と対向する面にサーペンタイン形状の流路が溝状に形成されたアノードセパレータ28とで挟持し、それを所定の治具に組み込むことで、燃料電池セルとなる、実施例1~4と比較例の電気化学デバイス40を作製した。
【0068】
[1-2.動作]
以上のように構成された電気化学デバイス40について、以下その動作、作用を説明する。
【0069】
以上のように作成された電気化学デバイス40の温度を65℃に保ち、アノードセパレータ28とアノード35との間の流路には露点が60℃の水素を、カソードセパレータ24とカソード34との間の流路には露点が65℃の酸素を、それぞれ燃料電池の電気化学反応(酸化・還元反応)によって消費される量よりも十分に多い流量で流し、アノード35とカソード34とを、電子負荷装置を介して電気的に接続した。
【0070】
このとき、電子負荷装置(PLZ-664WA、菊水電子工業株式会社製)を用いて定電流動作中に電気化学デバイス40の各電圧を測定した。また、測定の間、電気化学デバイス40の電気抵抗を1kHzの固定周波数を持つ低抵抗計でin―situ測定した。
【0071】
そして、電気化学デバイス40の電気抵抗分の補正を加えた電流―電圧曲線から、0.9Vにおける電流値を読み取り、カソード触媒層22に含まれる白金量で規格化することで触媒活性の指標とした。これは、0.9Vにおける質量活性と呼ばれ、燃料電池の触媒活性を示す指標として一般的に用いられる。
【0072】
触媒担持材料5に修飾した官能基量については、水蒸気吸着法によって算出した。実施例1~4と比較例の触媒担持材料5について、容積が一定のセルに入れて、水蒸気を導入
し、導入前後の圧力変動を水蒸気の単分子吸着と見なして、単位重量あたりの水蒸気吸着量(mmоl/g)から官能基量(mmоl/L)を算出した。
【0073】
このようにして、実施例1~4と比較例の電気化学デバイス40における触媒担持材料5に修飾する官能基量と0.9Vにおける質量活性との関係を、図6に示す。なお、図6では、比較例の0.9Vにおける質量活性の値を1として、実施例1~4の値は規格化した。
【0074】
実施例1のカソード触媒層22では官能基量が0.2mmоl/L、実施例2のカソード触媒層22では官能基量が1.3mmоl/Lとなり、比較例よりも官能基を多く触媒担持材料5に修飾できていることが分かる。
【0075】
質量活性についても、実施例1と実施例2のカソード触媒層22では、比較例と比較して1.2~1.3倍となり、向上できていることが分かる。これは、図3に示すように実施例1と実施例2のカソード触媒層22では細孔4内に存在する細孔内触媒2bへ水分6を介してプロトンを供給することができるようになったため、触媒担持材料5内で活用できる触媒2の表面積を向上し、規格化活性が良化したものと見られる。
【0076】
一方で、実施例3のカソード触媒層22では、官能基量が2.0mmоl/L、実施例4のカソード触媒層22では、官能基量が3.6mmоl/Lとなることから、実施例1と実施例2のカソード触媒層22よりも、さらに多くの官能基を修飾していることが分かる。
【0077】
しかし、実施例4のカソード触媒層22の規格化活性については、実施例1と実施例2のカソード触媒層22の規格化活性よりも低い結果が得られた。これは、実施例4のカソード触媒層22では細孔4内に存在する水分6の吸着量が過剰となり、細孔4を一部閉塞することで、細孔4内を拡散して細孔内触媒2bへ供給される酸素の流量が低下し、利用可能な細孔内触媒2bの表面積が減少に転じたためと考えられる。
【0078】
上記から、実施例1~3のカソード触媒層22のように適正な親水化処理工程を実施することで、利用可能な細孔内触媒2bの表面積を向上し、カソード触媒層22の質量活性を向上できる。
【0079】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、カソード触媒層22は、細孔4を有する導電性の触媒担体1と少なくとも一部が細孔4の内部に担持された触媒2とを備えた触媒担持材料5と、触媒担持材料5の外表面の少なくとも一部を被覆するプロトン伝導性のアイオノマ3と、を備える。触媒担持材料5は、触媒担体1の外表面および細孔の内部に修飾する酸性の官能基7の量が、触媒担体1の単位重量グラム当たり0.2mmоl以上である。
【0080】
本実施の形態のカソード触媒層22は、カソード触媒層22の触媒担持材料5は、触媒担体1の外表面および細孔の内部に酸性の官能基を、触媒担体1の単位重量グラム当たり0.2mmоl以上修飾することで、触媒担持材料5の細孔の内部の触媒2(細孔内触媒2b)の近傍まで水分6を吸着することができる。
【0081】
そのため、細孔4内を湿潤環境にすることで、細孔4内の水分6を経由して細孔内触媒2bへプロトンを供給することができる。細孔4の内部に担持された触媒2(細孔内触媒2b)は、アイオノマ3に被覆されることなく、細孔4の内部に保持される水分6によってプロトンが供給されるので、触媒2の利用効率を高めることができ、高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0082】
本実施の形態のように、カソード触媒層22の触媒担持材料5は、触媒担体1の細孔4の平均細孔径が3nm以上10nm以下であってもよい。触媒担体1の細孔4の平均細孔径が3nm以上10nm以下であれば、触媒担体1の細孔4の内部にアイオノマ3が浸入することを防ぎ、触媒担持材料5の内部に担持された触媒2の近傍まで電解質膜-電極接合体30の水分6を吸着することができる。
【0083】
そのため、触媒2がアイオノマ3に被毒されることを防ぎつつ、触媒担体1の細孔4内を湿潤環境にできるため、触媒2の利用効率を高めることができ、高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0084】
本実施の形態のように、カソード触媒層22の触媒担持材料5は、触媒担体1の外表面および細孔の内部に修飾する酸性の官能基7の量が、触媒担体1の単位重量グラム当たり2.0mmоl以下であってもよい。
【0085】
触媒担体1の外表面および細孔の内部に修飾する酸性の官能基7の量を、触媒担体1の単位重量グラム当たり2.0mmоl以下にすれば、細孔4の内部が官能基7によって閉塞されるのを防ぐことができる。そのため、触媒担持材料5の触媒担体1の内部に担持されている触媒2の近傍まで酸素を供給することができるため、触媒2の利用効率を高めることができ、高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0086】
本実施の形態のように、触媒担体1の表面を修飾する官能基7は、フェノール性水酸基またはカルボキシル基であってもよい。触媒担体1の表面を修飾する官能基7がフェノール性水酸基またはカルボキシル基であれば、細孔4内に吸着した水分6の接触角を小さくすることができる。
【0087】
そのため、細孔4内が水分6によって閉塞されるのを防ぐことがによって、細孔4内の水分6を経由した触媒2へのプロトン供給と、細孔4を経由した触媒2への酸素の供給を両立することができるので、触媒2の利用効率をさらに高めることができ、さらに高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0088】
本実施の形態のように、電解質膜-電極接合体30は、電解質膜21と、電解質膜21の一方の主面に配置されたアノード35と、電解質膜21の他方の主面に配置されたカソード34と、を備え、カソード34は、本実施の形態のカソード触媒層22を含んでもよい。
【0089】
電解質膜-電極接合体30におけるカソード34が本実施の形態のカソード触媒層22を含んでいれば、電解質膜-電極接合体30におけるカソード34のカソード触媒層22は、親水化処理によって水蒸気吸着量を向上した触媒担持材料5で構成される。
【0090】
そのため、カソード34における触媒担持材料5の内部に担持された触媒2はアイオノマ3による被毒を抑制しつつ、プロトンを供給できるので、高効率なカソード触媒層22となり、電解質膜-電極接合体30を高効率化することができる。
【0091】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0092】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0093】
実施の形態1では、細孔4のモード径が6nmである触媒担持材料5を説明した。触媒担持材料5の細孔4のモード径は3nm以上10nm以下であればよい。したがって、触媒担持材料5の細孔4のモード径は6nmに限定されない。
【0094】
ただし、細孔4のモード径が3nm以上の触媒担持材料5を使用すれば、細孔4内に空気(酸素含有ガス)の酸素の分圧を向上することができる。また、細孔4のモード径が10nm以下の触媒担持材料5を使用すれば、細孔4内にアイオノマ3が浸入しにくくなるので、高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0095】
実施の形態1では、触媒担持材料5に用いる触媒担体1として、メソ孔と称される大きさの細孔4を有するメソポーラスカーボンを用いたカソード触媒層22を説明した。触媒担持材料5に用いる触媒担体1は、優れた導電性と撥水性を有すればよい。したがって、触媒担持材料5に用いる触媒担体1は、メソポーラス材料に限定されない。
【0096】
ただし、触媒担持材料5に用いる触媒担体1として、メソ孔を有するメソポーラス材料を使用すれば、高い質量活性を有するため、高効率なカソード触媒層22を得ることができる。また、触媒担持材料5に用いる触媒担体1として、ケッチェンブラックを用いてもよい。触媒担持材料5に用いる触媒担体1として、ケッチェンブラックを用いれば、優れた導電性と排水性とを有することができるので、高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0097】
実施の形態1では、触媒担持材料5の細孔4の内部に担持される触媒2が、白金および白金と異なる金属から構成されたカソード触媒層22を説明した。カソード触媒層22の触媒2は酸化還元反応が進行すればよい。したがって、カソード触媒層22の触媒担持材料5の細孔4の内部に担持される触媒2の材料は、白金に限定されない。
【0098】
カソード触媒層22の触媒担持材料5の細孔4の内部に担持される触媒2における白金と異なる金属に、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、アルミニウム、クロム、鉄、モリブデン、タングステン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、銅、銀等を使用すれば、高い質量活性を有するため高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0099】
また、触媒2における白金と異なる金属として、コバルトを用いてもよい。触媒2における白金と異なる金属としてコバルトを用いれば、優れた質量活性と耐久性に優れた触媒2を作製することができる。
【0100】
実施の形態1では、膜厚が10μmの電解質膜21を用いた電解質膜-電極接合体30を説明した。電解質膜-電極接合体30に用いる電解質膜21の膜厚は5μm以上50μm以下であればよい。したがって、電解質膜-電極接合体30に用いる電解質膜21の膜厚は10μmに限定されない。
【0101】
電解質膜-電極接合体30に用いる電解質膜21の膜厚が5μm以上であれば、高いガスバリア性を得られる。また、電解質膜-電極接合体30に用いる電解質膜21の膜厚が50μm以下であれば、電解質膜21を移動するプロトンの抵抗を低減できるので、高いプロトン伝導性を得られる。
【0102】
実施の形態1では、カソード触媒層22の作製方法として、スプレー法による手法を説明した。カソード触媒層22の作製方法は電解質膜-電極接合体30で一般的に用いられ
ている手法を用いればよい。したがって、カソード触媒層22の作製方法は、スプレー法に限定されない。
【0103】
ただし、カソード触媒層22の作製方法として、スプレー法を用いれば、スプレー時に溶媒を乾燥できるので、短時間で触媒層を作製することができる。また、カソード触媒層22の作製方法として塗布乾燥法を用いれば、カソード触媒層22におけるカソードガス拡散層23との境界面が平らになるので、カソード触媒層22とカソードガス拡散層23の接着が良好となるため、高効率なカソード触媒層22を得ることができる。
【0104】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示は、例えば、燃料電池のセルを構成する電解質膜-電極接合体に利用される電極触媒において有用である。具体的には、燃料電池スタックなどに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 触媒担体
2 触媒
2a 細孔外触媒
2b 細孔内触媒
3 アイオノマ
4 細孔
5 触媒担持材料
6 水分
7 官能基
21 電解質膜
22 カソード触媒層
23 カソードガス拡散層
24 カソードセパレータ
26 アノード触媒層
27 アノードガス拡散層
28 アノードセパレータ
30 電解質膜-電極接合体
34 カソード
35 アノード
40 電気化学デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7