(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129774
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 201K
H01G4/30 515
H01G4/30 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034023
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】新井 紀宏
(72)【発明者】
【氏名】広井 一路
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕千
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE01
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
(57)【要約】
【課題】高い信頼性を有する積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、第1及び第2外部電極と、を具備する。セラミック素体は、内部電極が積層された電極積層部と、電極積層部を挟んで第1軸方向に対向する第1及び第2カバー部と、を有する。第1及び第2外部電極は、セラミック素体を第2軸方向から覆う被覆部と、カバー部上を第2軸方向に沿って延在する延在部と、をそれぞれ有する。セラミック素体は、セラミックスの結晶粒と、結晶粒の間に位置する偏析粒子と、を含む。延在部と電極積層部との間に位置するカバー部の端部領域の断面において、偏析粒子のうち結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子の数が、結晶粒の数の40%以上95%以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に積層されたセラミック層と前記セラミック層の間に配置された内部電極とを含む電極積層部と、前記電極積層部を挟んで前記第1軸方向に対向する第1及び第2カバー部と、を有するセラミック素体と、
前記セラミック素体を前記第1軸に直交する第2軸方向から覆う被覆部と、前記第1カバー部上又は前記第2カバー部上の少なくとも一方を前記第2軸方向に沿って延在する延在部と、をそれぞれ有する第1及び第2外部電極と、
を具備し、
前記セラミック素体は、
セラミックスの結晶粒と、前記結晶粒の間に位置する偏析粒子と、を含み、
前記第1又は第2カバー部の少なくとも一方は、
前記延在部と前記電極積層部との間に位置する端部領域を含み、
前記端部領域の断面において、前記偏析粒子のうち前記結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子の数が、前記結晶粒の数の40%以上95%以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記偏析粒子は、ケイ素を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項2に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記偏析粒子は、さらに、希土類元素又はアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記偏析粒子は、三重点に存在する
積層セラミック電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記端部領域の断面における前記結晶粒の平均粒径は、50nm以上500nm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項6】
請求項5に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記端部領域の断面における前記結晶粒の平均粒径は、170nm以上250nm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記セラミック層の断面における単位面積当たりの前記偏析粒子の数は、前記端部領域の断面における単位面積当たりの前記偏析粒子の数よりも少ない
積層セラミック電子部品。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1又は第2カバー部の少なくとも一方は、
前記第2軸方向において前記第1及び第2外部電極間に位置する中央領域を含み、
前記中央領域の断面において、前記第1軸方向表層部における前記結晶粒の平均粒径は、前記第1軸方向中央部における前記結晶粒の平均粒径よりも大きい
積層セラミック電子部品。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1又は第2カバー部の少なくとも一方は、
前記第2軸方向において前記第1及び第2外部電極間に位置する中央領域を含み、
前記中央領域の断面において、前記第1軸方向表層部における単位面積当たりの前記偏析粒子の数は、前記第1軸方向中央部における単位面積当たりの前記偏析粒子の数よりも少ない
積層セラミック電子部品。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記結晶粒は、バリウム及びチタンを含む
積層セラミック電子部品。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記結晶粒は、カルシウム又はジルコニウムの少なくとも一方を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項12】
第1軸方向に積層されたセラミック層と前記セラミック層の間に配置された内部電極とを含む電極積層部と、前記電極積層部を挟んで前記第1軸に直交する第2軸方向に対向する第1及び第2サイドマージン部と、を有するセラミック素体と、
前記セラミック素体を前記第1軸及び前記第2軸に直交する第3軸方向から覆う被覆部と、前記第1サイドマージン部上又は前記第2サイドマージン部上の少なくとも一方を前記第3軸方向に沿って延在する延在部と、をそれぞれ有する第1及び第2外部電極と、
を具備し、
前記セラミック素体は、
セラミックスの結晶粒と、前記結晶粒の間に位置する偏析粒子と、を含み、
前記第1又は第2サイドマージン部の少なくとも一方は、
前記延在部と前記電極積層部との間に位置する端部領域を含み、
前記端部領域の断面において、前記偏析粒子のうち前記結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子の数が、前記結晶粒の数の40%以上95%以下である
積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部電極を備えた積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサでは、セラミック素体内への水素の拡散によって、絶縁抵抗が低下し、信頼性が低下し得る。セラミック素体内への水素の拡散は、例えば、外部電極を形成するための湿式メッキ工程などで発生する水素が外部電極に吸蔵された状態で残存することによって生じやすくなる。
【0003】
これに対し、特許文献1には、外部電極内の水素をセラミック素体内に拡散させにくくする技術が開示されている。この技術では、内部電極に水素の吸収を抑制する作用を有する金属を添加することで、外部電極内の水素の内部電極に沿った経路でのセラミック素体内への拡散を抑制することができる。
【0004】
また、特許文献2には、外部電極からセラミック素体への水素の侵入を抑制する技術が開示されている。この技術では、外部電極の下地層に水素の透過を妨げる作用を有するMoを添加する。これにより、下地層上にメッキ層を形成する際に発生する水素がセラミック素体に侵入することを阻止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-080011号公報
【特許文献2】特開2018-101751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、車載用の電子機器等に積層セラミック電子部品が搭載されることがある。このため、高温等の過酷な環境下においても絶縁抵抗の低下が生じにくい、高い信頼性を有する積層セラミック電子部品が求められている。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高い信頼性を有する積層セラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、第1及び第2外部電極と、を具備する。
前記セラミック素体は、第1軸方向に積層されたセラミック層と前記セラミック層の間に配置された内部電極とを含む電極積層部と、前記電極積層部を挟んで前記第1軸方向に対向する第1及び第2カバー部と、を有する。
前記第1及び第2外部電極は、前記セラミック素体を前記第1軸に直交する第2軸方向から覆う被覆部と、前記第1カバー部上又は前記第2カバー部上の少なくとも一方を前記第2軸方向に沿って延在する延在部と、をそれぞれ有する。
前記セラミック素体は、
セラミックスの結晶粒と、前記結晶粒の間に位置する偏析粒子と、を含む。
前記第1又は第2カバー部の少なくとも一方は、
前記延在部と前記電極積層部との間に位置する端部領域を含み、
前記端部領域の断面において、前記偏析粒子のうち前記結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子の数が、前記結晶粒の数の40%以上95%以下である。
【0009】
この構成では、外部電極と電極積層部の間に位置するカバー部の端部領域の断面において、偏析粒子のうち結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子の数が、結晶粒の数の40%以上95%以下となる。これにより、外部電極から端部領域に放出された水素の進行が多数の小粒子によって阻害され、水素の影響による絶縁抵抗の低下が抑制される。また、上記粒径を有する小粒子を多数偏析させることにより、大きな粒径を有する偏析粒子を多数偏析させる場合と比較して、添加物の過剰な添加を抑制でき、セラミック素体の過焼結等の不具合を抑制できる。したがって、積層セラミック電子部品の信頼性を高めることができる。
【0010】
例えば、前記偏析粒子は、ケイ素を含んでいてもよい。
さらに、前記偏析粒子は、希土類元素又はアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0011】
また、偏析粒子は、三重点に存在していてもよい。
【0012】
例えば、前記端部領域の断面における前記結晶粒の平均粒径は、50nm以上500nm以下であってもよく、さらに、170nm以上250nm以下であってもよい。
【0013】
また、前記セラミック層の断面における単位面積当たりの前記偏析粒子の数は、前記端部領域の断面における単位面積当たりの前記偏析粒子の数よりも少なくてもよい。
これにより、偏析粒子によるセラミック層の誘電率の低下を抑制することができる。
【0014】
また、前記第1又は第2カバー部の少なくとも一方は、
前記第2軸方向において前記第1及び第2外部電極間に位置する中央領域を含んでいてもよい。
この場合、前記中央領域の断面において、前記第1軸方向表層部における前記結晶粒の平均粒径は、前記第1軸方向中央部における前記結晶粒の平均粒径よりも大きい。
また、この場合、前記中央領域の断面において、前記第1軸方向表層部における単位面積当たりの前記偏析粒子の数は、前記第1軸方向中央部における単位面積当たりの前記偏析粒子の数よりも少なくてもよい。
これにより、外部電極に覆われていない中央領域の表層部からの、水分の浸入のリスクを抑制することができる。したがって、水分の影響による積層セラミック電子部品の絶縁抵抗の低下を抑制することができ、積層セラミック電子部品の信頼性をより高めることができる。
【0015】
例えば、結晶粒は、バリウム及びチタンを含んでいてもよい。
また例えば、結晶粒は、カルシウム又はジルコニウムの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の他の形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、第1及び第2外部電極と、を具備する。
前記セラミック素体は、第1軸方向に積層されたセラミック層と前記セラミック層の間に配置された内部電極とを含む電極積層部と、前記電極積層部を挟んで前記第1軸に直交する第2軸方向に対向する第1及び第2サイドマージン部と、を有する。
前記第1及び第2外部電極は、前記セラミック素体を前記第1軸及び前記第2軸に直交する第3軸方向から覆う被覆部と、前記第1サイドマージン部上又は前記第2サイドマージン部上の少なくとも一方を前記第3軸方向に沿って延在する延在部をそれぞれ有する。
前記セラミック素体は、
セラミックスの結晶粒と、前記結晶粒の間に位置する偏析粒子と、を含む。
前記第1又は第2サイドマージン部の少なくとも一方は、
前記延在部と前記電極積層部との間に位置する端部領域を含み、
前記端部領域の断面において、前記偏析粒子のうち前記結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子の数が、前記結晶粒の数の40%以上95%以下である。
【0017】
この構成では、外部電極と電極積層部の間に位置するサイドマージン部の端部領域の断面において、偏析粒子のうち結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子の数が、結晶粒の数の40%以上95%以下となる。これによっても、水素の影響による絶縁抵抗の低下が抑制される。また、添加物の過剰な添加を抑制でき、セラミック素体の過焼結等の不具合を抑制できる。したがって、積層セラミック電子部品の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、高い信頼性を有する積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】
図2の領域R1の微細構造を模式的に示す図である。
【
図5】本実施形態の比較例に係る積層セラミックコンデンサのセラミック素体の微細構造を模式的に示す図である。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す平面図である。
【
図9】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面には、適宜、相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は、積層セラミックコンデンサ10に対して固定された固定座標系を規定する。
【0021】
[積層セラミックコンデンサの全体構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0022】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14aと、第2外部電極14bと、を備える。各外部電極14a,14bを、外部電極14とも称する。
【0023】
セラミック素体11は、X軸に垂直な第1端面E1及び第2端面E2と、Y軸に垂直な第1側面S1及び第2側面S2と、Z軸に垂直な第1主面M1及び第2主面M2と、を有する直方体として構成される。なお、「直方体」とは、実質的に直方体状であればよく、例えばセラミック素体11の各面を接続する稜部が丸みを帯びていてもよい。
【0024】
セラミック素体11の主面M1,M2、端面E1,E2、及び側面S1,S2はいずれも、平坦面として構成される。本実施形態に係る平坦面とは、全体的に見たときに平坦と認識される面であれば厳密に平面でなくてもよく、例えば、表面の微小な凹凸形状や、所定の範囲に存在する緩やかな湾曲形状などを有する面も含まれる。
【0025】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ10は、例えば以下のようなサイズを有する。積層セラミックコンデンサ10のX軸方向における寸法は、例えば、0.2mm以上3.5mm以下である。積層セラミックコンデンサ10のY軸方向における寸法は、例えば、0.1mm以上2.8mm以下である。積層セラミックコンデンサ10のZ軸方向における寸法は、例えば、0.1mm以上2.8mm以下である。なお、積層セラミックコンデンサ10のある方向における「寸法」は、当該方向における最大寸法とする。Z軸方向における寸法がY軸方向における寸法より大きい積層セラミックコンデンサ10は、いわゆる高背型の積層セラミックコンデンサとなる。高背型の積層セラミックコンデンサは、高さ方向(Z軸方向)のスペースを有効に利用することができるので、実装基板に省スペースに実装でき、かつ、大きな静電容量を得ることができる。
【0026】
また、以下の説明において、「X軸方向内側」とは、積層セラミックコンデンサ10をX軸方向に2等分する仮想的なY-Z平面に近づく側をいい、「X軸方向外側」とは、上記仮想的なY-Z平面から遠ざかる側をいう。「Z軸方向内側」とは、積層セラミックコンデンサ10をZ軸方向に2等分する仮想的なX-Y平面に近づく側をいい、「Z軸方向外側」とは、上記仮想的なX-Y平面から遠ざかる側をいう。
【0027】
外部電極14a,14bは、セラミック素体11のX軸方向における両端部を覆っている。例えば、
図1に示す第1外部電極14aは、セラミック素体11の第1端面E1から両主面M1,M2及び両側面S1,S2に延出している。
図1に示す第2外部電極14bは、セラミック素体11の第2端面E2から両主面M1,M2及び両側面S1,S2に延出している。
【0028】
セラミック素体11は、電極積層部16と、第1カバー部17aと、第2カバー部17bと、を有する。カバー部17a,17bは、電極積層部16を挟んでZ軸方向に対向し、セラミック素体11の主面M1,M2を構成している。各カバー部17a,17bを、カバー部17とも称する。
【0029】
各カバー部17のZ軸方向における厚みは、絶縁性を確保しつつ、小型化を実現する観点から、例えば、5μm以上300μm以下とすることができる。なお、各カバー部17のZ軸方向における厚みは、各カバー部17のZ軸方向における最大寸法とする。
【0030】
セラミック素体11は、さらに、電極積層部16を挟んでY軸方向に対向する第1サイドマージン部15a及び第2サイドマージン部15bを有していてもよい。各サイドマージン部15a,15bを、サイドマージン部15とも称する。これにより、電極積層部16のY軸方向の端部の絶縁性が確保される。
【0031】
電極積層部16は、Z軸方向に積層されたセラミック層18と、セラミック層18の間に配置された内部電極12,13と、を含む。第1内部電極12及び第2内部電極13は、セラミック層18を介してZ軸方向に交互に配置される。本実施形態において、セラミック層18と、内部電極12,13とは、いずれもX-Y平面に沿って延びるシート状に構成される。
【0032】
第1内部電極12は、第1外部電極14aに覆われた第1端面E1に引き出されている。一方、第2内部電極13は第2外部電極14bに覆われた第2端面E2に引き出されている。これにより、第1内部電極12は第1外部電極14aのみに接続され、第2内部電極13は第2外部電極14bのみに接続される。
【0033】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14a,14b間に電圧が印加されると、内部電極12,13間の複数のセラミック層18に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10には、外部電極14a,14b間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0034】
内部電極12,13は、金属材料を主成分として含む。当該金属材料としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、及びこれらの合金などが挙げられる。
【0035】
各内部電極12,13のZ軸方向における厚みは、例えば、0.5μm以上2.0μm以下とすることができる。内部電極12,13の厚みは、内部電極12,13の複数箇所において測定された厚みの平均値とする。一例として、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察された視野中の内部電極12,13から6層を選択し、各層において均等に離間した5箇所の厚みを測定する。そして、得られた30箇所の厚みの平均値を内部電極12,13の厚みとする。
【0036】
各セラミック層18のZ軸方向における厚みは、例えば、0.4μm以上15μm以下とすることができる。これにより、各セラミック層18のZ軸方向における厚みを、後述する誘電体セラミックスの結晶粒の粒径以上とすることができ、かつ、静電容量を高めることができる。セラミック層18の厚みは、セラミック層18の複数箇所において測定された厚みの平均値とする。一例として、SEM又はTEMによって観察された視野中のセラミック層18から6層を選択し、各層において均等に離間した5箇所の厚みを測定する。そして、得られた30箇所の厚みの平均値を、セラミック層18の厚みとする。
【0037】
セラミック素体11は、誘電体セラミックスを主成分として含む。セラミック素体11に含まれる誘電体セラミックスは、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する。ペロブスカイト構造を有する誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含む材料が挙げられる。また、ペロブスカイト構造を有する誘電体セラミックスは、カルシウム(Ca)又はジルコニウム(Zr)の少なくとも一方を含む材料であってもよい。
【0038】
具体的に、誘電体セラミックスは、チタン酸バリウムの他、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Ti,Zr,Ti)O3)、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム((Ba,Ca)(Ti,Zr)O3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)、酸化チタン(TiO2)などの組成系でもよい。セラミック素体11は、複数の組成系の誘電体セラミックスを含んでいてもよい。
【0039】
さらに、セラミック素体11は、誘電体セラミックスの他、副成分を含んでいてもよい。
例えば、セラミック素体11は、焼結性を高め、構造欠陥を抑制する等の観点から、副成分として、ケイ素(Si)を含んでいてもよい。さらに、セラミック素体11は、希土類元素又はアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を含んでいてもよい。希土類元素としては、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ネオジム(Nd)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。さらに、セラミック素体11は、副成分として、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、その他の元素を含んでいてもよい。
【0040】
セラミック層18、カバー部17及びサイドマージン部15の組成は、同一でもよいし、異なっていてもよい。電極積層部16とその周囲との物性の違いに起因する応力を緩和する観点からは、カバー部17及び/又はサイドマージン部15が、セラミック層18と同一の組成系の誘電体セラミックスを含むことが好ましい。
【0041】
[外部電極の構成]
本実施形態における第1及び第2外部電極14a,14bは、セラミック素体11をX軸方向から覆う被覆部141と、カバー部17上をX軸方向に沿って延在する第1延在部142と、をそれぞれ有する。本実施形態における第1及び第2外部電極14a,14bは、さらに、サイドマージン部15上をX軸方向に沿って延在する第2延在部143をそれぞれ有する。なお、本実施形態において、第1延在部142を延在部142とも称する。
【0042】
また、本実施形態において、外部電極14は、複数の層を有する。具体的に、外部電極14は、セラミック素体11上に配置された下地層144と、下地層144上に配置されたメッキ層145と、を有する。
【0043】
下地層144は、例えば、導電性金属ペーストを焼き付けた焼結金属膜として構成されてもよいし、焼結金属膜とスパッタ膜等の積層構造を有していてもよい。例えば、下地層144は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)又はこれらの合金の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0044】
メッキ層145は、1又は複数のメッキ膜を含む。メッキ層145の各メッキ膜は、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、又はこれらの合金の少なくとも一つを主成分として含んでいてもよい。
【0045】
メッキ層145を形成するための湿式メッキ工程などで発生した水素が、外部電極14に吸蔵されることが知られている。当該水素は、水素原子や水素イオンや水素同位体などの様々な状態を採り得る。
【0046】
外部電極14a,14b間に電圧が印加されることで、外部電極14a,14bに吸蔵されていた水素が電界の影響を受けて、セラミック素体11に拡散する。この水素の影響によってセラミック素体11が劣化し、積層セラミックコンデンサ10における絶縁抵抗の低下が生じ得る。
【0047】
本実施形態において、カバー部17は、外部電極14の延在部142と電極積層部16の間に位置する第1端部領域(端部領域)171を含む。この端部領域171は、特に、延在部142から電極積層部16へ向かう水素の移動経路となりやすい。そこで、本発明者らは、カバー部17の端部領域171に、所定のサイズの小粒子を多数偏析させることで、積層セラミックコンデンサ10における絶縁抵抗の低下を抑制できることを見出した。以下、セラミック素体11の微細構造の詳細について説明する。
【0048】
[セラミック素体の微細組織]
図4は、セラミック素体11における微細組織を模式的に示す部分断面図であり、
図2に示す端部領域171内の領域R1を示す図である。
【0049】
セラミック層18、カバー部17、及びサイドマージン部15を含むセラミック素体11は、誘電体セラミックスの結晶粒20を含む多結晶体である。
図4及び後述する
図5において、結晶粒20は、全体に密に配置された、白く大きい粒子として表している。
【0050】
結晶粒20は、上述の誘電体セラミックスを主成分として含み、ペロブスカイト構造等の結晶構造を有している。例えば、結晶粒20は、誘電体セラミックスを構成する元素として、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含んでおり、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3)を含んでいてもよい。また、結晶粒20は、誘電体セラミックスを構成する元素として、カルシウム(Ca)又はジルコニウム(Zr)の少なくとも一方を含んでいてもよい。なお、セラミック層18、カバー部17、及びサイドマージン部15の結晶粒20は、同一の誘電体セラミックスを含むことが好ましいが、異なる誘電体セラミックスを含んでいてもよい。
【0051】
セラミック素体11では、焼成過程において、原料のセラミック粒子が凝集し、結晶粒20が密に配置された多結晶体が形成される。セラミック素体11において、結晶粒20の間には結晶粒界22が形成されており、さらに、3個以上の結晶粒20に囲まれた隙間には、三重点23が形成されている。なお、本実施形態において、「三重点23」とは、3個の結晶粒20間の隙間に限定されず、4個以上の結晶粒20間の隙間も含むものとする。
【0052】
さらに、セラミック素体11は、結晶粒20の間に位置する偏析粒子21を含む。偏析粒子21は、セラミック素体11の焼成過程において、結晶粒20に含まれなかった副成分等の元素が偏析することで形成される。
図4及び
図5において、偏析粒子21は、黒い粒状の構造として表している。
【0053】
偏析粒子21は、セラミック素体11に添加される副成分に応じた組成を有し、例えば、Siを含む。さらに、偏析粒子21は、上述の副成分として列記した、希土類元素、又はアルカリ土類金属元素の少なくとも一つを含んでいてもよい。偏析粒子21は、例えば酸化物であるが、これに限定されない。偏析粒子21は、結晶構造を有していてもよいが、非晶質であってもよい。
【0054】
三重点23には、結晶粒20間に隙間が形成されやすいため、偏析物が生じやすい。このため、偏析粒子21は、三重点23に存在することが多く、その場合熱履歴、経時履歴に対して拡散しにくく安定的であるが、結晶粒界22に存在していることもある。
【0055】
結晶粒20間に偏析粒子21が形成されていることは、例えば、積層セラミックコンデンサ10の断面に対して、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)、透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(TEM-EDX)、又は波長分散型X線分析(WDX)等の元素分析を行うことにより、確認することができる。
【0056】
外部電極14a,14b間に電圧が印加された場合、水素は、セラミック素体11において、結晶粒20内の結晶欠陥を通って移動すると考えられている。隣り合う結晶粒20間に偏析粒子21が配置されていた場合、水素は偏析粒子21内に入り込みにくいため、偏析粒子21を避けるように移動する。そこで、水素の移動経路となる結晶粒20間に偏析粒子21を配置することで、水素の直線的な移動を阻害し、水素が電極積層部16に到達するまでの時間を遅らせることができる。
【0057】
一方で、本実施形態の比較例に係る
図5の微細構造に示すように、偏析物が凝集して粒径の大きな偏析粒子21が形成された場合には、偏析粒子21が分散して配置されず、水素の進行を阻害する作用は得られにくい。さらに、このような粒径の大きい偏析粒子21を多数形成するためには、副成分を過剰に添加させる必要が生じ、セラミック素体11の過焼結などの不具合が発生し得る。
【0058】
そこで、本実施形態においては、結晶粒20間に、凝集度の低い、粒径の小さな偏析粒子21を多数配置することで、水素の進行を効果的に阻害することができる。
【0059】
粒径の小さな偏析粒子21として、結晶粒20の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子21aを定義する。具体的に、本実施形態におけるカバー部17の端部領域171の断面では、結晶粒20の数を100%とした場合に、小粒子21aの数が結晶粒20の数の40%以上95%以下となることを特徴とする。
【0060】
本実施形態において、セラミック素体11の各部の断面は、例えばZ軸方向に平行な断面であり、さらに、
図2に示すようなX軸方向及びZ軸方向に平行な断面(X-Z平面に平行な断面)であることが好ましい。
【0061】
結晶粒20の平均粒径の0.5%よりも小さい偏析粒子21は、サイズが小さすぎてカウントが困難になることに加えて、水素の拡散を抑制する効果が得られにくい。一方、結晶粒20の平均粒径の10%よりも大きい偏析粒子21を多数形成するためには、上述のように、副成分を過剰に添加する必要が生じる。このため、端部領域171に、結晶粒20の平均粒径の0.5%以上10%以下の小粒子21aを多数形成することで、副成分の過剰添加によるセラミック素体11の不具合を抑制しつつ、水素の悪影響を抑制することができる。
【0062】
端部領域171の断面において、結晶粒20に対する小粒子21aの個数比を40%以上とすることで、後述する実施例において示すように、高温負荷試験において絶縁抵抗の劣化が開始するまでの時間を十分に長くすることができる。これにより、厳しい環境下においても劣化しにくく、信頼性の高い積層セラミックコンデンサ10を得ることができる。さらに、結晶粒20に対する小粒子21aの個数比を例えば70%以上とすることで、絶縁抵抗の劣化をより効果的に抑制することができる。
【0063】
なお、結晶粒20に対する小粒子21aの個数比を95%よりも多くすることは現実的に難しいことから、本実施形態では、端部領域171の断面における結晶粒20に対する小粒子21aの個数比を95%以下とする。
【0064】
本実施形態における、結晶粒20の数を100%とした場合の小粒子21aの数の比率(小粒子個数比)の算出方法について説明する。
【0065】
まず、セラミック素体11の研磨等によって、カバー部17の断面を露出させる。この断面は、一例としてX-Z平面に平行な断面であって、セラミック素体11のY軸方向における中央部を通る断面とする。続いて、SEM又はTEMを用いて、当該断面を1万~10万倍に拡大し、カバー部17の端部領域171を観察する。観察対象の位置は、例えば、
図2の領域R1のように、端部領域171のZ軸方向における中央部であってもよい。また、この観察対象の位置は、延在部142のX軸方向における端部14e(
図2参照)と電極積層部16との間であってもよい。但し、観察対象の位置はこれに限定されない。
【0066】
結晶粒20が50個以上含まれる領域を、小粒子個数比の算出対象である観察対象領域として決定し、撮像する。観察対象領域は、一つの視野であることが好ましいが、連続する複数の視野からなる領域でもよい。また、観察対象領域内に一部のみが存在する結晶粒20についてはカウントしない。
【0067】
続いて、この観察対象領域の画像を用いて、結晶粒20の平均粒径を算出する。まず、
図6に示すように、1個の結晶粒20の最長寸法L11を測定し、最長寸法L11を規定する線分と直交する方向に最長となる幅寸法L12を測定する。この最長寸法L11及び幅寸法L12の平均値を、その粒子の粒径とする。観察対象領域内における50個の結晶粒20の平均粒径を算出し、その値を結晶粒20の平均粒径とする。
【0068】
続いて、上記観察対象領域内において、結晶粒20間に存在する偏析粒子21各々の粒径を、結晶粒20と同様の方法で算出する。具体的には、
図6の破線で囲った拡大図に示すように、1個の偏析粒子21の最長寸法L21を測定し、最長寸法L21を規定する線分と直交する方向に最長となる幅寸法L22を測定する。この最長寸法L21及び幅寸法L22の平均値を、その偏析粒子21の粒径とする。
【0069】
そして、上記観察対象領域内の全ての偏析粒子21のうち、結晶粒20の平均粒径の0.5%以上10%以下となる小粒子21aの数をカウントする。但し、観察対象領域内に一部のみが存在する小粒子21aについてはカウントしない。最後に、上記観察対象領域内の結晶粒20の数を100%とした場合の、小粒子21aの数の比率(小粒子の数/結晶粒の数×100)を算出する。
【0070】
上述の方法に基づいて算出された端部領域171の断面における結晶粒20の平均粒径は、例えば50nm以上500nm以下であり、例えば、170nm以上250nm以下であることが好ましい。偏析粒子21は、焼成過程において、結晶粒20の粒成長に伴って凝集する傾向がある。このため、端部領域171の断面における結晶粒20の平均粒径を、例えば50nm以上500nm以下とすることで、端部領域171における偏析粒子21の凝集を抑制し、小粒子21aの個数比を40%以上に調整しやすくなる。特に、端部領域171の断面における結晶粒20の平均粒径を170nm以上250nm以下とすることで、後述する実施例においても示すように、小粒子21aの個数比を十分に高め、絶縁抵抗の低下をより効果的に抑制することができる。
【0071】
一方で、セラミック層18において多数の偏析粒子21が形成された場合、セラミック層18における誘電率が低下し、積層セラミックコンデンサ10の静電容量が低下する可能性がある。
【0072】
このため、本実施形態では、セラミック層18の断面における単位面積当たりの偏析粒子21の数は、端部領域171の断面における単位面積当たりの偏析粒子21の数よりも少ないことが好ましい。これにより、積層セラミックコンデンサ10の静電容量を維持しつつ、信頼性を高めることができる。
【0073】
セラミック層18における偏析粒子21の数のカウントも、上述の端部領域171と同様に行うことができる。具体的に、積層セラミックコンデンサ10から、「小粒子個数比の算出方法」において説明した方法により、断面を露出する。この断面は、小粒子個数比の算出に用いた断面であってもよい。SEM又はTEMを用いて、当該断面を1万~10万倍に拡大し、結晶粒20が50個以上含まれる観察対象領域を撮像する。端部領域171及びセラミック層18の各々の観察対象領域に含まれる偏析粒子21の数をカウントする。但し、観察対象領域内に一部のみが存在する偏析粒子21についてはカウントしない。続いて、各観察対象領域の面積を算出し、カウントされた偏析粒子21の数をこの面積で除する。これにより、端部領域171及びセラミック層18の各々における単位面積当たりの偏析粒子21の数を算出することができる。
【0074】
一方で、カバー部17は、X軸方向において外部電極14a,14b間に位置する中央領域172を含む。中央領域172は、外部電極14に覆われていないため、外部電極14からの水素の拡散のリスクは低いが、積層セラミックコンデンサ10の外部からの水分の浸入のリスクが大きい。そこで、本実施形態では、上述の端部領域171の構成に加えて、中央領域172を以下のように構成することで、水分の浸入による絶縁抵抗の低下も抑制でき、積層セラミックコンデンサ10の信頼性をさらに高めることができる。
【0075】
具体的に、中央領域172の断面において、Z軸方向表層部172aにおける結晶粒20の平均粒径が、Z軸方向中央部172bにおける結晶粒20の平均粒径よりも大きいことが好ましい。このような構成は、例えば、カバー部17を複数のセラミックシートによって形成し、かつ、Z軸方向表層部172aに対応する位置のセラミックシートのセラミック粒子の平均粒径を、Z軸方向中央部172b対応する位置のセラミックシートのセラミック粒子の平均粒径よりも大きくすることで、実現することができる。
なお、中央領域172のZ軸方向表層部172aは、中央領域172をZ軸方向に3等分したうちの、主面M1,M2を含む領域とする。中央領域172のZ軸方向中央部172bは、中央領域172をZ軸方向に3等分したうちの中央の領域とする。
【0076】
これにより、中央領域172のZ軸方向表層部172aの結晶粒20が粒成長してより密に配置され、積層セラミックコンデンサ10の外部から水分が浸入するリスクを低減することができる。
【0077】
また、上述のように、結晶粒20の粒成長と偏析粒子21の凝集度には関連性があることから、中央領域172の断面において、Z軸方向表層部172aにおける単位面積当たりの偏析粒子21の数が、Z軸方向中央部172bにおける単位面積当たりの偏析粒子21の数よりも少ないことが好ましい。
【0078】
中央領域172のZ軸方向表層部172aとZ軸方向中央部172bの対比方法について説明する。
【0079】
「小粒子個数比の算出方法」において説明した方法により、積層セラミックコンデンサ10から断面を露出する。この断面は、小粒子個数比の算出に用いた断面であってもよい。続いて、SEM又はTEMを用いて、当該断面を1万~10万倍に拡大し、中央領域172のZ軸方向表層部172a及びZ軸方向中央部172bのそれぞれにおいて、結晶粒20が50個以上含まれる領域を観察対象領域として撮像する。
【0080】
そして、中央領域172のZ軸方向表層部172a及びZ軸方向中央部172bの各々において、撮像した観察対象領域に含まれる結晶粒20の平均粒径を算出する。結晶粒20の平均粒径の算出方法は、「小粒子個数比の算出方法」において説明した方法とする。これにより、中央領域172の断面において、Z軸方向表層部172a及びZ軸方向中央部172bの結晶粒20の平均粒径を比較することができる。
【0081】
そして、中央領域172のZ軸方向表層部172a及びZ軸方向中央部172bの各々の観察対象領域に含まれる全ての偏析粒子21の数をカウントする。但し、観察対象領域内に一部のみが存在する偏析粒子21についてはカウントしない。続いて、各観察対象領域の面積を算出し、カウントされた偏析粒子21の数をこの面積で除する。これにより、中央領域172のZ軸方向表層部172a及びZ軸方向中央部172bの各々の断面における単位面積当たりの偏析粒子21の数を算出することができる。
【0082】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
図7は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図8及び
図9は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図7に沿って、
図8及び
図9を適宜参照しながら説明する。
【0083】
(ステップS01:セラミックシート準備)
ステップS01では、電極積層部16を形成するための第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102と、カバー部17を形成するためのカバー用セラミックシート103と、を準備する。セラミックシート101,102,103は、複数のセラミック素体11に対応する領域を有する大判のシートとして構成される。
【0084】
図8A,B,Cに示すセラミックシート101,102,103は、未焼成のセラミックグリーンシートとして構成される。まず、セラミックグリーンシートの材料を混合してスラリーを得る。当該材料は、誘電体セラミックスの粉末と、バインダ樹脂と、有機溶媒と、添加物と、を含む。これらの材料をボールミル等で混合したスラリーを、ロールコーターやドクターブレードなどを用いてシート状に成形する。セラミックシート101,102と、カバー用セラミックシート103とは、同一の組成でもよいし、異なる組成でもよい。
【0085】
本実施形態において、セラミックシート101,102,103の主成分となる誘電体セラミックスは、誘電体セラミックスとして列記した上述の材料を用いることができる。また、添加物は、上述の副成分として挙げたケイ素(Si)を含んでいることが好ましい。さらに、添加物は、上述の副成分として列記した希土類元素又はアルカリ土類金属元素の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0086】
本実施形態において、カバー用セラミックシート103におけるSiの含有量は、誘電体セラミックスのBサイトの元素濃度を100atm%とした場合、0.1~2.5atm%とすることができる。これにより、後述する焼成工程におけるセラミック素体11の焼結性を調整し、Siを含む小粒子21aを多数偏析させることができる。また、他の添加物の含有量は、セラミック素体11の焼結性等を鑑みて適宜調整することができる。
【0087】
セラミックシート101,102の厚みは、焼成後のセラミック層18の厚みに応じて調整される。セラミックシート103の厚みは、焼成後のカバー部17の厚みに応じて適宜調整される。
【0088】
図8に示すように、第1セラミックシート101には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極パターン112が形成され、第2セラミックシート102には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極パターン113が形成されている。内部電極パターン112,113は、セラミックシート101,102上に導電性ペーストを印刷することにより形成することができる。なお、カバー用セラミックシート103には内部電極パターンを形成しない。
【0089】
各セラミックシート101,102,103には、セラミック素体11を個片化する際のカットラインLx,Lyが示されている。各内部電極パターン112,113は、例えば、1本のカットラインLyを跨いで延びる矩形状に構成される。但し、第2内部電極パターン113は、第1内部電極パターン112とはX軸方向又はY軸方向に1チップ分ずれて形成されている。
【0090】
(ステップS02:積層)
ステップS02では、
図9に示すように、セラミックシート101,102,103を積層し、積層シート104を作製する。
【0091】
図9に示す積層シート104では、電極積層部16を形成するセラミックシート101,102が交互に積層され、そのZ軸方向上下に、カバー用セラミックシート103が積層される。これらのセラミックシート101,102,103は、圧着されることにより一体化される。なお、セラミックシート101,102,103の枚数は
図9に示す例に限定されない。
【0092】
(ステップS03:切断)
ステップS03では、積層シート104をカットラインLx,Lyに沿って切断することにより、未焼成のセラミック素体11を作製する。
【0093】
(ステップS04:焼成)
ステップS04では、未焼成のセラミック素体11を焼結させる。これにより、
図1~3に示すセラミック素体11が作製される。焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0094】
本実施形態においては、焼成条件を調整することにより、端部領域171に、結晶粒20に対する個数比が40%以上95%以下の小粒子21aを形成することができる。例えば、低めの焼成温度で短時間維持し、速やかに降温することで、小粒子21aの数を増加させることができる。具体的な焼成温度、昇温速度、及び降温速度は、セラミック素体11に用いられるセラミックスラリーの組成によって調整することができる。一例として、誘電体セラミックスとしてチタンジルコン酸バリウムカルシウム系材料を用いる場合には、焼成温度を1250~1300℃程度とし、最高温度域の酸素分圧を10-11~10-10(atm)程度とし、焼成温度で5秒~1分程度維持し、その後降温させる。例えば、昇温速度及び降温速度は、50~150℃/minの間で調整することができる。
【0095】
(ステップS05:外部電極形成)
ステップS05では、焼成されたセラミック素体11のX軸方向端部に外部電極14a,14bを形成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10を作製する。
【0096】
例えば、セラミック素体11のX軸方向両端部に導電性ぺーストを塗布し、焼き付けて、下地層144を形成する。導電性ペーストの塗布は、ディップ法、印刷法等で行うことができる。この下地層144上に、1又は複数のメッキ膜を形成し、メッキ層145を形成することができる。各メッキ膜は、例えば、電解メッキ法によって形成することができる。
【0097】
以上の各工程により、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10が製造される。なお、本実施形態における製造方法は、上述の例に限定されない。例えば、ステップ05の導電性ペーストの塗布を、ステップS04の焼成工程の前に行ってもよい。これにより、セラミック素体11の焼成と同時に、下地層144を形成することができる。
【0098】
本実施形態によれば、メッキ層145の形成によって発生した水素が外部電極14に吸蔵された場合でも、カバー部17の端部領域171に小粒子21aが多数偏析されるため、電極積層部16への水素の拡散を抑制することができる。したがって、積層セラミックコンデンサ10の信頼性の低下を抑制することができる。
【0099】
[実施例及び比較例]
上記実施形態の実施例及び比較例について説明する。実施例1~8では、カバー部の端部領域の断面における小粒子個数比が、結晶粒の数の40%以上95%以下となる条件で積層セラミックコンデンサのサンプルを作製した。また、比較例1,2では、上記小粒子個数比が40%未満となる条件で積層セラミックコンデンサのサンプルを作製した。上記小粒子個数比は、カバー部の組成、焼成温度及び焼成温度の維持時間によって調整した。
【0100】
実施例1~8及び比較例1,2ではいずれも、積層セラミックコンデンサのサンプルのサイズを1.0mm×0.5mm×0.5mmとした。各カバー部のZ軸方向の寸法は、80μmとした。また、実施例1~8及び比較例1,2では、積層セラミックコンデンサのサンプルにおける上記小粒子個数比以外の構成を実質的に同様とした。
【0101】
(実施例1)
実施例1では、まず、導電性ペーストを印刷した第1及び第2セラミックシートと、導電性ペーストを印刷しないカバー用セラミックシートと、を準備した。カバー用セラミックシートは、主成分の誘電体セラミックスと、添加物と、を含むものとした。主成分の誘電体セラミックスは、Ba,Ca,Ti,Zrを含むチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム((Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、BCTZ)とした。この誘電体セラミックスにおいて、Ti及びZrの原子数の和に対するBa及びCaの原子数の和の比率((Ba+Ca)/(Ti+Zr))は、0.997とした。また、添加剤は、Ca,Zr、Ho、Mg、Mn、V、Siを含むものとした。表1に示すように、(Ti+Zr)を100atm%としたときのMgの含有量は1.5atm%、Siの含有量は1.0atm%とした。
【0102】
これらのセラミックシートを
図9に示すように積層及び圧着して積層シートを作製し、この積層シートを切断して未焼成のセラミック素体を作製した。続いて、未焼成のセラミック素体を焼成した。焼成工程では、表1に示すように、焼成温度を1260℃、焼成温度の維持時間を0.1分とした。そして、下地層、メッキ層を形成することで、
図1~3に示すような外部電極を形成した。これにより、実施例1のサンプルを作製した。
【0103】
(実施例2)
表1に示すように、カバー用セラミックシートの添加物について、(Ti+Zr)を100atm%としたときのMgの含有量を1.0atm%とした以外は、実施例1と同様に実施例2のサンプルを作製した。
【0104】
(実施例3)
表1に示すように、カバー用セラミックシートの添加物について、(Ti+Zr)を100atm%としたときのSiの含有量を1.5atm%とし、焼成温度を1250℃とした以外は、実施例1と同様に実施例3のサンプルを作製した。
【0105】
(実施例4)
表1に示すように、カバー用セラミックシートの添加物としてMgを添加せず、焼成温度を1250℃とした以外は、実施例1と同様に実施例4のサンプルを作製した。
【0106】
(比較例1)
表1に示すように、焼成温度の維持時間を12分とした以外は、実施例1と同様に比較例1のサンプルを作製した。
【0107】
(実施例5)
カバー用セラミックシートの組成と、焼成温度を変更した以外は、実施例1と同様に実施例5のサンプルを作製した。
【0108】
実施例5において、カバー部に対応するカバー用セラミックシートは、主成分の誘電体セラミックスとして、Ba,Tiを含むチタン酸バリウム(BaTiO3、BT)を含むものとした。この誘電体セラミックスにおいて、Tiの原子数に対するBaの原子数の比率(Ba/Ti)は、0.998とした。また、カバー用セラミックシートの添加物は、Ho、Mg、Mn、V、Siを含むものとした。表1に示すように、Tiを100atm%としたときのMgの含有量は1.5atm%、Siの含有量は1.0atm%とした。また、実施例5では、焼成温度を1275℃とした。
【0109】
(実施例6)
表1に示すように、カバー用セラミックシートの添加物について、Tiを100atm%としたときのMgの含有量を1.0atm%とした以外は、実施例5と同様に実施例6のサンプルを作製した。
【0110】
(実施例7)
表1に示すように、カバー用セラミックシートの添加物について、Tiを100atm%としたときのSiの含有量を1.5atm%とし、焼成温度を1260℃とした以外は、実施例5と同様に実施例7のサンプルを作製した。
【0111】
(実施例8)
表1に示すように、カバー用セラミックシートの添加物としてMgを添加せず、焼成温度を1260℃とした以外は、実施例5と同様に実施例8のサンプルを作製した。
【0112】
(比較例2)
表1に示すように、焼成温度の維持時間を12分とした以外は、実施例5と同様に比較例1のサンプルを作製した。
【0113】
【0114】
(結晶粒の平均粒径)
実施例及び比較例の各サンプルを研磨し、X-Z平面に平行で、かつ、積層セラミックコンデンサのY軸方向の中央部を通る断面を露出した。続いて、SEMを用いて、当該断面を3万~5万倍に拡大し、結晶粒が50個以上含まれる観察対象領域を撮像した。上記観察対象領域は、領域R1に相当する位置とした。すなわち、この観察対象領域の位置は、カバー部における、外部電極のX軸方向端部と電極積層部との間であって、Z軸方向における中央部とした。そして、上述の「小粒子個数比の算出方法」に従って、この観察対象領域に含まれる50個の結晶粒の平均粒径を算出した。この結果を、表1に示す。
【0115】
表1に示すように、実施例1~8及び比較例1~2では、端部領域の断面における結晶粒の平均粒径が、50nm以上500nm以下であった。実施例1~8のうち、実施例1,4,6,8では、結晶粒の平均粒径が170nm以上250nm以下であった。
【0116】
(小粒子個数比の算出)
続いて、各サンプルの上記観察対象領域の画像を用いて、上述の「小粒子個数比の算出方法」に従って、結晶粒の数に対する小粒子の数の比率(小粒子個数比)を算出した。
【0117】
まず、上記観察対象領域内の結晶粒の数を算出した。続いて、上述の粒径の算出方法に基づいて、同一の観察対象領域内に位置する各偏析粒子の粒径を算出した。粒径を算出した偏析粒子のうち、結晶粒の平均粒径の0.5%以上10%以下となる小粒子の数をカウントした。そして、上記観察対象領域内の結晶粒の数を100%とした場合の、小粒子の数の比率(小粒子の数/結晶粒の数×100)を、「小粒子個数比」として算出した。この結果を、表1に示す。
【0118】
表1に示すように、実施例1~8では、いずれも、小粒子個数比が40%以上95%以下であった。これに対し、比較例1及び2では、小粒子個数比が0%であった。
【0119】
(高温負荷試験)
続いて、実施例1~8及び比較例1,2に対して、125℃において定格電圧の2倍の電圧を印加し、リーク電流値が測定開始時から20%以上上昇した時間(絶縁抵抗(IR)劣化開始時間)を測定した。この結果を、表1に示す。
【0120】
表1に示すように、小粒子個数比が0%である比較例1及び2では、IR劣化開始時間がいずれも1000時間以下であった。これに対し、小粒子個数比が40%以上95%以下の実施例1~8では、IR劣化開始時間がいずれも2000時間以上であった。これにより、端部領域における小粒子個数比を40%以上95%以下とすることで、過酷な条件下においてもIR劣化の開始を遅らせることができるとわかった。
【0121】
また、実施例1~8のうち、結晶粒の平均粒径が170nm以上250nm以下である実施例1,4,6,8では、IR劣化開始時間が3000時間以上となった。これにより、端部領域の結晶粒の平均粒径を170nm以上250nm以下とすることで、IR劣化の開始をより遅らせることができるとわかった。
【0122】
[他の実施形態]
以上、本発明の主な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0123】
第1実施形態では、主に、外部電極14からカバー部17の第1端部領域171に放出される水素の拡散を抑制する構成について説明した。一方で、サイドマージン部15も、
図3に示すように、外部電極14の第2延在部143と電極積層部16の間に位置する第2端部領域151を含んでおり、水素の移動経路となりやすい。そこで、サイドマージン部15の第2端部領域151の断面における小粒子個数比を調整することで、外部電極14からサイドマージン部15の第2端部領域151に放出される水素の拡散を抑制することができる。
【0124】
具体的に、サイドマージン部15の第2端部領域151の断面では、偏析粒子21のうち、結晶粒20の平均粒径の0.5%以上10%以下の粒径を有する小粒子21aの数が、結晶粒20の数の40%以上95%以下となることが好ましい。これにより、第2端部領域151において水素の拡散を抑制でき、絶縁抵抗の低下を抑制することができる。
【0125】
この例において、積層セラミックコンデンサ10は、サイドマージン部15を後付けする工法で製造されてもよい。すなわち、電極積層部16及びカバー部17に対応するセラミックシートの積層体を個片化した後に、その積層体のY軸方向両側に、未焼成のサイドマージン部15を形成する。このような製造方法を適用することにより、サイドマージン部15の組成を調整することが容易になる。
【0126】
さらに、カバー部17の第1端部領域171及びサイドマージン部15の第2端部領域151の双方の断面において、小粒子個数比を40%以上95%以下とすることで、絶縁抵抗の低下をより一層抑制することができる。
【0127】
また、外部電極14の構成は上述の例に限定されず、例えば、第1主面M1又は第2主面M2の一方にのみ第1延在部142が形成されていてもよい。また、外部電極14は、側面S1,S2上に形成されていなくてもよい。
【0128】
また、上記実施形態では積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサ10について説明したが、本発明は一対の外部電極を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0129】
10 積層セラミックコンデンサ
11 セラミック素体
12,13 内部電極
14,14a,14b 外部電極
15,15a,15b サイドマージン部
16 電極積層部
17,17a,17b カバー部
171 端部領域
172 中央領域
20 結晶粒
21 偏析粒子
21a 小粒子
E1,E2 端面
S1,S2 側面
M1,M2 主面