(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012980
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】感熱記録材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/44 20060101AFI20230119BHJP
B41M 5/28 20060101ALI20230119BHJP
B41M 5/46 20060101ALI20230119BHJP
B41M 5/323 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
B41M5/44 220
B41M5/28 220
B41M5/46 210
B41M5/323
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116799
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西村 直哉
【テーマコード(参考)】
2H026
【Fターム(参考)】
2H026AA24
2H026BB46
2H026DD02
2H026DD46
2H026DD48
2H026DD55
2H026DD57
2H026FF01
2H026FF11
2H026FF15
2H026HH03
2H026HH05
(57)【要約】
【課題】赤外線レーザー光の照射により画像を形成することができ、耐アルコール性が良好な版下材料を得ることができる感熱記録材料の製造方法を提供する。
【解決手段】光透過性支持体上に赤外線吸収層、非感光性の有機銀塩と還元剤を含有する感熱記録層、および保護層をこの順に有する感熱記録材料の製造方法において、該感熱記録層上に、多価イソシアネート化合物を保護層塗布液の全固形分に対して59質量%以上含有し、かつ芳香族系および/またはグリコール系の揮発性成分を保護層塗布液の全揮発性成分に対して66質量%以上含有する保護層塗布液を塗布、乾燥して該保護層を形成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性支持体上に赤外線吸収層、非感光性の有機銀塩と還元剤を含有する感熱記録層、および保護層をこの順に有する感熱記録材料の製造方法において、該感熱記録層上に、多価イソシアネート化合物を保護層塗布液の全固形分に対して59質量%以上含有し、かつ芳香族系および/またはグリコール系の揮発性成分を保護層塗布液の全揮発性成分に対して66質量%以上含有する保護層塗布液を塗布、乾燥して該保護層を形成することを特徴とする感熱記録材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線レーザー光の照射により画像を形成することができる感熱記録材料の製造方法に関し、特に版下原稿の作製に好適な感熱記録材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
版下原稿の作製に用いられる高画質な画像記録方法として、ハロゲン化銀感光材料を用いた湿式処理の画像形成方法が長く一般的に用いられてきた。しかしながら、湿式処理の画像形成方法では現像液や定着液等の廃液処理が必要で環境負荷が大きいことから、湿式処理を必要としない乾式の画像形成方法が種々検討されている。ハロゲン化銀感光材料を用いた湿式処理の画像形成方法と同等の、高いコントラストを得ることができる乾式の画像形成方法としては、支持体上に感熱記録層を有する感熱記録材料にサーマルヘッドあるいは赤外線レーザー光を用いて画像形成する方法が挙げられる。その中でも、高密度記録、高画質記録ができる観点から、赤外線レーザー光を用いた感熱記録方式が優位である。
【0003】
赤外線レーザー光の照射により画像を形成する感熱記録材料としては、例えば特開平6-194781号公報(特許文献1)には高濃度の画像を記録できる感熱記録材料として、熱的に還元可能な銀源、銀イオン用還元剤、約500~1100nmの波長範囲のレーザー光を吸収する染料、および重合性結合剤を含有する画像形成層と、該画像形成層上に酢酸セルロースを含有する表面層を設けた感熱記録材料が開示され、また特開2004-9583号公報(特許文献2)には加熱した際の表面に浮き出す化合物を低減可能な画像形成材料として、支持体上に非感光性の有機銀塩および還元剤を含有する画像形成層と保護層がこの順に積層され、画像形成層および保護層に多価イソシアネート化合物を含有する画像形成材料が開示されている。
【0004】
このような感熱記録材料を版下材料として使用する際には、感光材料との密着露光時に埃やごみなどの異物が間に挟まることで画像欠陥の原因になることがあるため、版下材料の表面に付着した埃やごみなどを前もってアルコールで拭き取る場合がある。その際に摩擦やアルコールによって感熱記録材料の表面に傷が入ったり、画像形成層や感熱層が剥がれたりすることを防止するために、表面層や保護層を画像形成層や感熱層の上に設けることが知られている。このことは、前記した特許文献1や特許文献2以外にも、例えば、特開平10-29377号公報(特許文献3)には感熱層をスティッキングや溶剤等から保護できる保護層を有する感熱記録材料として、有機銀塩、有機銀塩の現像剤、赤外線吸収色素、および水溶性バインダーを含有する感熱層と、該感熱層上に顔料と共にポリビニルアルコールおよびその誘導体を含有する保護層を形成した赤外線レーザー光用感熱記録材料が開示されている。しかしながら、昨今の版下材料ではより高精細な画像を扱うため、細かな異物が重大な画像欠陥の原因になる恐れが高まっていることから、前もって感熱記録材料の表面をアルコールで拭き取る頻度が多くなっており、感熱記録材料の耐アルコール性について更なる改善が求められていた。
【0005】
他方、特開2004-299380号公報(特許文献4)には記録画像及び地肌の耐水性、耐溶剤性に優れる感熱記録材料として、支持体上に熱により呈色する感熱発色層と該感熱発色層上にポリビニルアルコール、キトサン、顔料、および架橋剤としてイソシアネート化合物を含有する保護層を有する感熱記録材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-194781号公報
【特許文献2】特開2004-9583号公報
【特許文献3】特開平10-29377号公報
【特許文献4】特開2004-299380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、赤外線レーザーの照射により画像を形成することができ、耐アルコール性が良好な版下材料を得ることができる感熱記録材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題は、以下の発明により解決される。
光透過性支持体上に赤外線吸収層、非感光性の有機銀塩と還元剤を含有する感熱記録層、および保護層をこの順に有する感熱記録材料の製造方法において、該感熱記録層上に、多価イソシアネート化合物を保護層塗布液の全固形分に対して59質量%以上含有し、かつ芳香族系および/またはグリコール系の揮発性成分を保護層塗布液の全揮発性成分に対して66質量%以上含有する保護層塗布液を塗布、乾燥して該保護層を形成することを特徴とする感熱記録材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、赤外線レーザーの照射により画像を形成することができ、耐アルコール性が良好な版下材料を得ることができる感熱記録材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0011】
本発明において感熱記録材料は、光透過性支持体上に後述する赤外線吸収層および感熱記録層を形成した後、該感熱記録層上に後述する保護層塗布液を塗布、乾燥して保護層を形成することで得られる。かかる光透過性支持体としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、硝酸セルロース、ポリカーボネート等の樹脂フィルムや、ガラス等の無機材料等が挙げられる。なお、本発明において光透過性支持体とは、全光線透過率が60%以上である支持体を意味し、更に好ましくは70%以上である。また該光透過性支持体のヘーズ値は10%以下であることが好ましい。該光透過性支持体は易接着層、ハードコート層、帯電防止層等の公知の層を有していてもよい。本発明における光透過性支持体の厚みは特に規定されるものではないが、ハンドリング性の観点から50~300μmであることが好ましい。
【0012】
本発明において感熱記録材料が有する赤外線吸収層は、赤外線吸収色素を含有することが好ましい。本発明における赤外線吸収色素は、600~1500nmの波長領域に吸収を有する色素であることが好ましく、650~1100nmの波長領域に吸収極大を有する色素がより好ましく、750~1100nmの波長領域に吸収極大を有する色素が更に好ましい。また、本発明における赤外線吸収色素は、版下原稿の作製に好適な感熱記録材料に使用するために、高圧水銀ランプやケミカルランプの紫外線領域における発光ピークが存在する350~450nmの波長領域における吸収が上述した600~1500nmの波長領域の吸収と比べてできる限り小さいことが好ましい。具体的には600~1500nmの波長領域の吸収極大における吸光度ε1と、350~450nmの波長領域の吸収極大における吸光度ε2の比ε1/ε2が4.0以上であることが好ましい。このような色素としてはスクアリリウム、シアニン、メロシアニン、ビス(アミノアリール)ポリメチンなどのポリメチン骨格を有する化合物が挙げられ、具体的には以下の一般式(1)~(3)で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
【0014】
一般式(1)~(3)のR1~R10は置換基であり、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、エステル基、アミド基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、チオエーテル基、スルホニル基などが例示される。これらはそれぞれ同じ置換基でも異なる置換基であってもよく、また他の置換基と結合して環構造を形成していてもよい。またX-は負の電荷を有する原子または原子団を表し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオンなどのオキソ酸、テトラフルオロボレート、ヘキサフロオロホスフェート、アルキルおよびアリールスルホナートなどが挙げられる。具体的には以下の例示化合物(1)~(7)のような化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
【0016】
【0017】
赤外線吸収層における赤外線吸収色素の含有量は、赤外線吸収層の全固形分に対して0.1~20質量%が好ましい。
【0018】
本発明において赤外線吸収層は上述した赤外線吸収色素と共にバインダー成分を含有することが好ましい。かかるバインダー成分としては熱可塑性樹脂が好ましく、例えばヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が例示される。これらのバインダー成分は水や有機溶媒に溶解して用いるか、疎水性ポリマー固体が微粒子の状態で分散しているラテックスやポリマー分子がミセルを形成し分散しているものを用いてもよい。本発明においては、上述したバインダー成分は乾燥後に光透過性の被膜を形成するものが好ましい。またこれらのバインダー成分は必要に応じてお互いに相溶する樹脂を2種以上併用してもよい。
【0019】
本発明において感熱記録材料が有する赤外線吸収層は、上述した赤外線吸収色素およびバインダー成分を含有する赤外線吸収層塗布液を作製し、該赤外線吸収層塗布液を前述した光透過性支持体上に塗布、乾燥して形成することが好ましい。また、該赤外線吸収層の塗布量は乾燥質量で0.01~5.0g/m2が好ましい。
【0020】
また塗布性の向上を目的として、該赤外線吸収層用塗布液は種々の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としてはノニオン系、アニオン系、カチオン系いかなるものも使用してもよく、特に限定されない。
【0021】
本発明において感熱記録材料が有する感熱記録層は、非感光性の有機銀塩を含有する。該有機銀塩は、後述する還元剤と共に加熱されることにより還元されて銀画像を形成する。具体的には、熱現像感光材料に関するリサーチディスクロージャー第17029(II)項、第29963(XVI)項に記載されているような没食子酸、シュウ酸、ベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の有機酸の銀塩;1-(3-カルボキシプロピル)チオ尿素、1-(3-カルボキシプロピル)-3,3-ジメチルチオ尿素等のカルボキシアルキルチオ尿素の銀塩;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド類とサリチル酸、安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、5,5-チオジサリチル酸等の芳香族カルボン酸との高分子反応生成物と銀との錯体;3-(2-カルボキシエチル)-4-ヒドロキシメチル-4-チアゾリン-2-チオン、3-カルボキシメチル-4-メチル-4-チアゾリン-2-チオン等のチオン類の銀塩または錯体;イミダゾール、ピラゾール、ウラゾール、1,2,4-トリアゾール、1H-テトラゾール、3-アミノ-5-ベンジルチオ-1,2,4-トリアゾールおよびベンゾトリアゾールから選ばれる含窒素複素環の銀塩または錯体;サッカリン、5-クロロサリチルアルドキシム等の銀塩;メルカプチド類の銀塩等が挙げられる。これらのうち炭素数が10以上の脂肪酸銀が好ましく、ステアリン酸銀、ベヘン酸銀が特に好ましい。
【0022】
本発明において感熱記録層が含有する非感光性の有機銀塩の含有量は、版下材料として使用するために必要な最大濃度によって適宜調整することが可能であり、銀換算値として1平方メートルあたり0.5~2.0gが好ましい。
【0023】
本発明において感熱記録材料が有する感熱記録層は還元剤を含有する。かかる還元剤としては、米国特許第3,074,809号明細書に記載のピロガロール、4-ステアロイルピロガロール、没食子酸イソプロピル、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル、2,5-ジヒドロキシ安息香酸等、米国特許第3,440,049号明細書あるいは特開平06-317870号公報記載のポリヒドロキシインダン類や、特開2001-328357号公報記載のジヒドロキシ安息香酸誘導体が好ましい。
【0024】
感熱記録層における還元剤の含有量は、還元剤の種類や、有機銀塩の種類によって広範に変化しうるが、有機銀塩1モルあたり0.1~3.0モルであることが好ましく、0.5~2.0モルであることが更に好ましい。また種々の目的のために、上述した還元剤は2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明において感熱記録材料が有する感熱記録層は、サーモグラフィまたはフォトサーモグラフィの分野において知られている、いわゆる色調剤を含有することが好ましい。色調剤の例としては前出の熱現像感光材料に関するリサーチディスクロージャー第17029(V)項、第29963(XXII)項等で公知であり、具体的にはフタルイミドに代表されるイミド類、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールに代表されるメルカプト化合物、フタラジン、フタラゾン、4-メチルフタル酸、テトラクロロフタル酸およびそれらの無水物に代表されるフタル酸誘導体、1,3-ベンズオキサジン-2,4-ジオンに代表されるベンズオキサジン誘導体等が挙げられる。また種々の目的のために、上述した色調剤は2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明において感熱記録材料が有する感熱記録層は画像銀の形成の抑制や促進、画像形成前後の感熱記録材料の保存性を向上させる等の目的で、様々な促進剤や安定剤およびそれらの前駆体を含有してもよい。具体的には写真用添加剤として知られているベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンズオキサゾール、4-ヒドロキシ-6-メチル-1,3,3a,7-テトラザインデン、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、3-メルカプト-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、4-ベンツアミド-3-メルカプト-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール等から選ぶことができる。また種々の目的のために、上述した促進剤や安定剤およびそれらの前駆体は2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明において感熱記録材料が有する感熱記録層はバインダー成分を含有することが好ましい。かかるバインダー成分としては熱可塑性樹脂が好ましく、例えば上述した赤外線吸収層のバインダー成分と同様の熱可塑性樹脂を好ましく用いることができる。また、バインダー成分は必要に応じてお互いに相溶する樹脂を2種以上併用してもよい。
【0028】
感熱記録層が含有するバインダー成分の含有量としては、感熱記録層の全固形分に対して10~70質量%が好ましい。
【0029】
上述したバインダー成分は、塩化物イオンや臭化物イオン等の遊離のハロゲン化物イオンを含有しないことが好ましい。ハロゲン化物イオンは有機銀塩の銀イオンと反応し、感光性のハロゲン化銀を形成するため、本発明の感熱記録材料の耐光性を低下させる原因となる。具体的にはバインダー成分の含有量に対して100ppm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明において感熱記録層は、前述した赤外線吸収層と隣接していることが好ましく、これにより赤外線レーザー光の照射による画像の形成が効率的になり、高精細な画像を得ることができる。感熱記録層を形成する方法としては、上述した有機銀塩、還元剤、色調剤、およびバインダー成分等を含有する感熱記録層塗布液を作製し、該感熱記録層塗布液を前述した赤外線吸収層上に塗布、乾燥して形成することが好ましい。また塗布性の向上を目的として、該感熱記録層塗布液は種々の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としてはノニオン系、アニオン系、カチオン系いかなるものも使用してもよく、特に限定されるものではない。
【0031】
本発明において感熱記録材料は感熱記録層上に保護層を有する。該保護層は、多価イソシアネート化合物を保護層塗布液の全固形分に対して59質量%以上含有し、かつ芳香族系および/またはグリコール系の揮発性成分を保護層塗布液の全揮発性成分に対して66質量%以上含有する保護層塗布液を上述した感熱記録層上に塗布、乾燥して形成する。これによって本発明の感熱記録材料が良好な耐アルコール性を得ることができる。
【0032】
上記した多価イソシアネート化合物は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であることが好ましく、例えばジメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂肪族多価イソシアネート化合物や、トリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチルベンゾール-2,6-ジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネートなどの芳香族多価イソシアネート化合物や、これらのうち単独または2種類以上の多価イソシアネート化合物が2量体または3量体を形成したアダクト体、またはこれらの多価イソシアネート化合物と2価または3価のポリオールとが反応したアダクト体などが挙げられる。またこれらのうち、脂肪族多価イソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネートおよびそのアダクト体が好ましく、芳香族多価イソシアネート化合物としてはトリレンジイソシアネートおよびそのアダクト体が好ましい。なお、これらの多価イソシアネート化合物は種々の目的によって単独で用いてもよく、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのような多価イソシアネート化合物はイソシアネート系架橋剤として一般的に販売されている製品をそのまま用いることができ、具体的な製品名としてはDIC(株)製のバーノック(登録商標)シリーズや、東ソー(株)製のコロネート(登録商標)シリーズを挙げることができる。
【0033】
本発明における保護層塗布液が含有する多価イソシアネート化合物の含有量の上限は特にないが、含有量が多いほど指触乾燥時間が長くなる場合があるため、生産性を良くする観点から保護層塗布液の全固形分に対して95質量%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明における保護層塗布液が含有する芳香族系および/またはグリコール系の揮発性成分は、沸点が250℃以下であることが好ましい。芳香族系の揮発性成分とは芳香環を有する揮発性成分であり、具体的にはベンゼン(沸点80.1℃)、トルエン(沸点110.6℃)、о-キシレン(沸点144℃)、m-キシレン(沸点139℃)、p-キシレン(沸点138.4℃)、エチルベンゼン(沸点136℃)、トリメチルベンゼン(沸点169℃)、クロロベンゼン(沸点132℃)、スチレン(沸点145℃)などが挙げられる。グリコール系の揮発性成分とは2つ以上の炭素を有する脂肪族炭化水素の2つの炭素原子にそれぞれ1つずつ酸素原子が単結合で結合した構造を有する揮発性成分であり、具体的にはエチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188.2℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点194℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(沸点141℃)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点144.5℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点132℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146.4℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点145℃)などが挙げられる。これらのうち、芳香族系の揮発性成分を使用することが好ましく、その中でも良好な耐アルコール性が得られる観点からトルエン、о-キシレンを使用することがより好ましい。これらの揮発性成分は種々の目的によって単独で用いてもよく、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。保護層塗布液における芳香族系および/またはグリコール系の揮発性成分の含有量の上限は、保護層塗布液の全揮発性成分に対して100質量%である。
【0035】
本発明における保護層は、保護層塗布液の指触乾燥時間を短縮して生産性を向上させる目的で、上記した多価イソシアネート化合物とともにバインダー成分として高分子化合物を含有することが好ましい。該高分子化合物としては、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有していることが好ましく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなどのポリビニルアルコール誘導体や、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体や、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの多価アルコールと種々モノマーとの共重合体などが挙げられる。これらの高分子化合物は、種々の目的によって単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0036】
本発明において保護層はバキューム性や耐傷性を高める目的で、艶消し剤を含有していてもよい。該保護層を形成するにあたり、艶消し剤は上述した保護層塗布液中に分散させて用いることが好ましい。艶消し剤の分散には、ホモディスパーのような高速攪拌機が適している。
【0037】
上記した艶消し剤は有機系または無機系いずれの艶消し剤でも使用することができる。有機系艶消し剤としては、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート等が例示され、無機系艶消し剤としては、シリカ、アルミナ、タルク、マイカ等が例示される。市販品としては例えば、シリコーン樹脂系艶消し剤としてモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズジャパン合同会社から発売されているトスパール(登録商標)120、130、145、2000Bや、シリカ系艶消し剤としてAGCエスアイテック(株)から発売されているサンスフェア(登録商標)H-31、H-51、NP-30等を例示することができる。これらは単一の微粒子であるが、艶消し剤の形態としては単一の微粒子および微粒子が集合した微粒子集合体粒子のいずれを用いてもよい。
【0038】
保護層における艶消し剤の含有量は、保護層の全固形分に対して0.5~40質量%であることが好ましく、1~30質量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明において感熱記録材料が有する保護層は、上述した多価イソシアネート化合物、高分子化合物や艶消し剤などを含有する保護層塗布液を作製し、上述した感熱記録層上に塗布、乾燥して形成する。本発明における保護層の塗布量は、用いる高分子化合物の種類や求められる感熱感度により広範に変化しうるが、乾燥質量で0.5~10g/m2が好ましく、2~8g/m2がより好ましい。
【0040】
本発明において、上述した赤外線吸収層塗布液、感熱記録層塗布液、および保護層塗布液の塗布方法については特に制限はなく、E.D.Cohen,E.B.Gutoff,“Modern Coating and Drying Technology”,WILEY-VCH,Inc.New York,1992に記載されているような各種の塗布方法から選択することができる。更にスリット型ダイコーターを用いたスライド塗布方式や、同種、あるいは異種のコーター装置を組み合わせて塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗布方式によって複数の層を同時に塗布することは、生産性を向上させる意味でも特に好ましい。
【0041】
本発明において感熱記録材料は更に必要に応じて、上記した赤外線吸収層、感熱記録層、および保護層に加えて、光透過性支持体と赤外線吸収層との間に易接着層や断熱層等を設けたり、赤外線吸収層、感熱記録層、および保護層のそれぞれの層の間に中間層等を設けたり、保護層上に易剥離層等を設けたり、赤外線吸収層、感熱記録層、および保護層を有する光透過性支持体の面の反対の面に帯電防止層等を設けたりすることもできるが、上述したように高精細な画像を得る観点から赤外線吸収層と感熱記録層は隣接していることが好ましい。
【0042】
上述した感熱記録材料を用い、該感熱記録材料の保護層側から画像様に赤外線レーザー光を照射することにより画像を得ることができる。該赤外線レーザー光の光源としては、半導体レーザー、He-Neレーザー、Arレーザー、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザー等が挙げられる。本発明における感熱記録材料は、照射する赤外線レーザー光のエネルギーおよび露光時間を変えることにより、画像部の濃度を変化させることができる。
【実施例0043】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、この記述により本発明が限定されるものではない。なお記述中「%」は質量基準である。
【0044】
<実施例1>
【0045】
<赤外線吸収層塗布液の調製および塗布>
2-ブタノン81.0質量部、メタノール24.0質量部に、ポリビニルブチラール(Butvar(登録商標)B-79、イーストマンケミカルジャパン(株)製)9.0質量部、赤外線吸収色素として例示化合物(5)(IRT、昭和電工(株)製、ε1/ε2=6.2)0.45質量部を加えて赤外線吸収層塗布液とした。厚さ100μmのPETベース(全光線透過率92%、ヘーズ値4%)上に、この赤外線吸収層塗布液を乾燥質量が1.0g/m2となるように小径グラビアコーターを用いて塗布し、60℃にて1分間乾燥させた。
【0046】
<ベヘン酸銀分散液の調製>
ベヘン酸銀結晶20.0質量部、ポリビニルブチラール(ButvarB-79)22.0質量部を175質量部の2-ブタノンに加え、直径0.65mmのジルコニアビーズを充填したビーズミル装置(DYNO-MILL KD20B型、ウィリー・エ・バッコーフェン社製)を用いてベヘン酸銀分散液(平均粒子径0.6μm)を得た。
【0047】
<感熱記録層塗布液の調製および塗布>
2-ブタノン45.0質量部に、ポリビニルブチラール(ButvarB-79)2.4質量部、上述したベヘン酸銀分散液30.0質量部、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル1.5質量部、テトラクロロフタル酸無水物0.6質量部、フタラゾン1.2質量部を加えて感熱記録層塗布液とした。上述のようにして既に得られた赤外線吸収層上に、この感熱記録層塗布液を銀換算値として1.3g/m2となるようにダイコーターを用いて塗布し、80℃にて2分間乾燥させ感熱記録層を形成した。
【0048】
<保護層塗布液の調製および塗布>
トルエン2.8質量部に、アクリディック(登録商標)WXU-880-BA(DIC(株)製;アクリルポリオール樹脂50%、酢酸イソブチル40%、メチルイソブチルケトン10%)0.91質量部、サンスフェアH51(AGCエスアイテック(株)製;シリカ粒子、平均粒子径5μm)0.03質量部を加え、攪拌して全体を均一にした後、攪拌しながらバーノックDN-980(DIC(株)製;多価イソシアネート化合物75%、酢酸エチル25%)1.4質量部を加えて保護層塗液を得た。この保護層塗布液を上記感熱記録層上に乾燥質量が5.0g/m2となるようにダイコーターを用いて塗布し、90℃にて2分間乾燥させたのち40℃にて3日間加温して実施例1の感熱記録材料を得た。
【0049】
<実施例2>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエン9.0質量部に、アクリディックWXU-880-BAを0.91質量部、サンスフェアH51を0.1質量部加えて攪拌し、全体を均一にした後、攪拌しながらバーノックDN-980を5.5質量部加えて保護層塗液を得た以外は実施例1と同様にして実施例2の感熱記録材料を得た。
【0050】
<実施例3>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、バーノックDN-980を1.4質量部用いる代わりにコロネートL(ポリイソシアネート変性体75%、酢酸エチル25%)を1.4質量部用いた以外は実施例1と同様にして実施例3の感熱記録材料を得た。
【0051】
<実施例4>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、バーノックDN-980を1.4質量部用いる代わりにコロネート2715(ポリイソシアネート変性体90%、酢酸ブチル10%)を1.2質量部用いた以外は実施例1と同様にして実施例4の感熱記録材料を得た。
【0052】
<実施例5>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエンを2.8質量部用いる代わりにo-キシレンを2.8質量部用いた以外は実施例1と同様にして実施例5の感熱記録材料を得た。
【0053】
<実施例6>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエンを2.8質量部用いる代わりにエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを2.8質量部用いた以外は実施例1と同様にして実施例6の感熱記録材料を得た。
【0054】
<実施例7>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエンを2.8質量部用いる代わりにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを2.8質量部用いた以外は実施例1と同様にして実施例7の感熱記録材料を得た。
【0055】
<実施例8>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエンを2.8質量部用いる代わりにトルエンを1.4質量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを1.4質量部用いた以外は実施例1と同様にして実施例8の感熱記録材料を得た。
【0056】
<比較例1>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエン2.0質量部に、アクリディックWXU-880-BAを0.91質量部、サンスフェアH51を0.02質量部加えて攪拌し、全体を均一にした後、攪拌しながらバーノックDN-980を0.63質量部加えて保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例1の感熱記録材料を得た。
【0057】
<比較例2>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエン1.7質量部に、アクリディックWXU-880-BAを0.91質量部、サンスフェアH51を0.013質量部加えて攪拌し、全体を均一にした後、攪拌しながらバーノックDN-980を0.26質量部加えて保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例2の感熱記録材料を得た。
【0058】
<比較例3>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエンを2.8質量部用いる代わりに酢酸n-ブチルを2.8質量部用いた以外は実施例1と同様にして比較例3の感熱記録材料を得た。
【0059】
<比較例4>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエンを2.8質量部用いる代わりに2-ブタノンを2.8質量部用いた以外は実施例1と同様にして比較例4の感熱記録材料を得た。
【0060】
<比較例5>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、トルエンを2.8質量部用いる代わりにトルエンを2.0質量部と酢酸ブチルを0.84質量部用いた以外は実施例1と同様にして比較例5の感熱記録材料を得た。
【0061】
<比較例6>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、水18.0質量部に、クラレポバール60-98((株)クラレ製;ポリビニルアルコール)1.0質量部を溶解させ、サンスフェアH51を0.02質量部加えて更に攪拌し、全体を均一にした後、攪拌しながらホウ酸0.05質量部を加えて保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例6の感熱記録材料を得た。
【0062】
<比較例7>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、2-ブタノン9.0質量部に、酢酸セルロース1.0質量部を溶解させ、サンスフェアH51を0.02質量部加えて更に攪拌し、全体を均一にして保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例7の感熱記録材料を得た。
【0063】
このようにして得られた実施例1~8および比較例1~7の感熱記録材料をサーマルCTPセッター(Eastman Kodak Co.製、Trendsetter(登録商標)800)にセットし、1000mJ/cm2の条件で200lpiの5~95%網点(5%刻み)および20μmの細線を有する2400dpiの画像(20mm(幅)×200mm(長さ))を形成した。
【0064】
<耐アルコール性評価>
上記画像形成後の実施例1~8および比較例1~7の感熱記録材料の画像部と非画像部が両方含まれる箇所を、保護層を有する側から、消毒用エタノール(健栄製薬(株)製;エタノール79%)を含ませたウェスで20往復擦った。擦った箇所を目視で観察し、目立った傷がない場合を◎、僅かに傷が観察されるが実用上問題ない場合を○、塗膜の剥がれはないものの目立った傷が観察される場合を△、目立った傷と共に塗膜の剥がれが観察される場合を×として評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1の結果から明らかなように、本発明によって、赤外線レーザー光の照射により画像を形成することができ、耐アルコール性が良好な感熱記録材料が得られることが分かる。