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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129840
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】デーツ発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20230912BHJP
   A23L 2/84 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L2/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034129
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】390008637
【氏名又は名称】オタフクソース株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村(長谷川) 桃子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充史
(72)【発明者】
【氏名】松下 一信
(72)【発明者】
【氏名】藥師 寿治
(72)【発明者】
【氏名】片岡 尚也
【テーマコード(参考)】
4B016
4B117
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE04
4B016LE05
4B016LG01
4B016LK18
4B016LP01
4B016LP13
4B117LC02
4B117LG01
4B117LG05
4B117LP05
(57)【要約】
【課題】デーツを効率的に発酵させることが可能であり、グルコースを消費させるとともにグルコン酸を生成することで、フレッシュな酸味と程よい甘味を有する嗜好性の高いデーツ発酵物を得るデーツ発酵物の製造方法を提供する。
【解決手段】デーツ果実又はデーツ果汁に加水してデーツ加水物を得る加水工程と、デーツ加水物に酢酸菌を接種して発酵させる発酵工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デーツ果実又はデーツ果汁に加水してデーツ加水物を得る加水工程と、
前記デーツ加水物に酢酸菌を接種して発酵させる発酵工程と、
を含む、デーツ発酵物の製造方法。
【請求項2】
前記デーツ加水物は、Brix値が15%~30%である、請求項1に記載のデーツ発酵物の製造方法。
【請求項3】
前記酢酸菌は、アセトバクター属、グルコノバクター属、コマガタエイバクター属から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のデーツ発酵物の製造方法。
【請求項4】
前記発酵工程は、デーツ発酵物のグルコン酸濃度が2%(w/v)以上となるまで発酵させる、請求項3に記載のデーツ発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デーツ発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナツメヤシの実であるデーツ(Date)は、ドライフルーツとして食される他、デーツのピューレ(デーツピューレ)は、ソースの原材料としても使用されている。デーツは、食物繊維を豊富に有し、カリウム、マグネシウム等のミネラルを含む栄養素が多く含まれることから、近年、健康食品として注目されているが、プルーンやレーズンのような他のドライフルーツに比べて認知度は低い。
【0003】
デーツは、干し柿や黒糖に似た、コクのある甘味を有していることが特徴である。しかしながら、このデーツ特有の甘みは、人によっては「甘すぎる」と感じられる場合もあり、甘みを抑えて嗜好性を高める検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、デーツ濃縮果汁に乳酸菌を加えて発酵処理することにより、えぐ味をマスキングし、甘味を低減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-004756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように甘味を低減させるだけでは、デーツ特有の味を大きく変化させることはできず、デーツ発酵物の嗜好性を高める効果は低いと言える。
【0007】
本発明の目的は、フレッシュな酸味と程よい甘味を有する嗜好性の高いデーツ発酵物を効率良く得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、デーツを酢酸菌により発酵させることで、乳酸菌よりも効率的に発酵させることが可能であることを見出した。さらに、デーツを酢酸菌により発酵させることで、グルコン酸の生成によりフレッシュに感じられる酸味をデーツに付与するとともに、グルコースの消費により甘味が低減され、嗜好性の優れたデーツ発酵物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明のデーツ発酵物の製造方法は、デーツ果実又はデーツ果汁に加水してデーツ加水物を得る加水工程と、前記デーツ加水物に酢酸菌を接種して発酵させる発酵工程と、を含む。
【0010】
前記デーツ加水物は、Brix値が15%~30%であることが好ましい。
【0011】
前記酢酸菌は、アセトバクター属、グルコノバクター属、コマガタエイバクター属から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
前記発酵工程は、デーツ発酵物のグルコン酸濃度が2%(w/v)以上となるまで発酵させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のデーツ発酵物の製造方法によれば、デーツを効率的に発酵させることが可能であり、グルコースを消費させるとともにグルコン酸を生成することで、フレッシュな酸味と程よい甘味を有する嗜好性の高いデーツ発酵物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】デーツ発酵物の製造工程の概略を示すフローチャートである。
図2】乳酸菌αと酢酸菌Iのグルコース消費量を比較した試験結果を示すグラフである。
図3】乳酸菌αと酢酸菌Iのグルコース消費量を比較した試験結果を示すグラフである。
図4】Brix20%のデーツ加水物に対して酢酸菌I~Vを植菌した試験結果を示すグラフである。
図5】Brix35%のデーツ加水物に対して酢酸菌I~Vを植菌した試験結果を示すグラフである。
図6】Brix25%のデーツ加水物に対して酢酸菌Vを植菌した試験結果を示すグラフである。
図7】Brix30%のデーツ加水物に対して酢酸菌Vを植菌した試験結果を示すグラフである。
図8】Brix24%のデーツ加水物に対して酢酸菌VIを植菌した試験結果を示すグラフである。
図9】Brix15%~35%のデーツ加水物に対して酢酸菌VIを植菌した試験結果を示すグラフである。
図10】デーツ発酵物の官能評価結果を平均値で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0016】
<デーツ>
デーツは、主に中近東で栽培されている「ナツメヤシ」の実である。デーツは、2~3cm程度の大きさであり、種子を含み、その外面は果皮によって覆われている。デーツは、栄養価が高く、糖質やミネラル、食物繊維を多く含んでいる。
【0017】
そのため、デーツは、中近東では、古来よりドライフルーツなどとして広く食用されている。日本では、ドライフルーツとして食用される他、ソース等の加工食品の原材料として利用されている。
【0018】
デーツがソース等の加工食品の原材料として利用される場合、その果実分が使用される。通常は、それをピューレに加工して用いられている(デーツピューレ)。デーツピューレは、デーツの果実に所定量の水を加え、摩砕して細かく磨り潰したものである。
【0019】
本発明に使用される原材料は、デーツ果実又はデーツ果汁であるが、デーツ果実には、デーツピューレも含まれるものとする。デーツ果実又はデーツ果汁に加水して得られるデーツ加水物は、デーツピューレ又はデーツ果汁である。
【0020】
デーツ加水物は、好ましくはBrix値が35%未満であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは15%~30%である。なお、Brix値は、20℃における糖用屈折計の示度であり、本実施形態においては、デジタル屈折計(X-5000α、ATAGO社製)を用いてBrix値を測定している。
【0021】
<酢酸菌>
酢酸菌は、デーツ加水物に対して、乳酸菌よりも効率的に発酵を進行させ、より多くのグルコースを消費させることが可能である。また、酢酸発酵によりグルコースから生成されるグルコン酸は、デーツ特有の甘みと調和するフレッシュな酸味を与えるため、デーツ発酵物の嗜好性を高めることができる。本発明に用いられる酢酸菌は、酢酸菌科(Acetobacteraceae)に属する細菌であって、特に限定されないが、アセトバクター(Acetobacter)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、コマガタエイバクター(Komagataeibacter)属から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
アセトバクター(Acetobacter)属の酢酸菌としては、例えば、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis)、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・インドネシエンシス(Acetobacter indonesiensis)などが挙げられる。より好ましくは、アセトバクター・パスツリアヌス NBRC 3284株(Acetobacter pasteurianus NBRC 3284)である。
【0023】
グルコノバクター(Gluconobacter)属の酢酸菌としては、例えば、グルコノバクターオキシダンス(Gluconobacter oxydans)、グルコノバクター・フラトウリ(Gluconobacter frateurii)などが挙げられる。より好ましくは、グルコノバクターオキシダンス NBRC 3287株(Gluconobacter oxydans NBRC 3287)、グルコノバクターオキシダンス NBRC 12528株(Gluconobacter oxydans NBRC 12528)またはグルコノバクターオキシダンス 621H株(Gluconobacter oxydans 621H)である。
【0024】
コマガタエイバクター(Komagataeibacter)属の酢酸菌としては、例えば、コマガタエイバクター・メデリネンシス(Komagataeibacter medellinensis)、コマガタエイバクター・ハンゼニイ(Komagataeibacter hansenii)、コマガタエイバクター・ユーロペウス(Komagataeibacter europaeus)などが挙げられる。より好ましくは、コマガタエイバクター・メデリネンシス NBRC 3288株(Komagataeibacter medellinensis NBRC 3288)または、お多福醸造株式会社の醸造樽より単離されたKomagataeibacter sp.である。なお現在、Komagataeibacter sp.については公的機関に寄託されていないが、オタフクソース株式会社 研究室内に保管されており、必要に応じて分譲することが可能である。
【0025】
-デーツ発酵物の製造方法-
図1に、デーツ発酵物の製造方法の主な工程を示す。この製造工程は、加水工程、加熱殺菌工程、発酵工程などで構成されており、上述したデーツ加水物に、酢酸菌が植菌されて発酵される。酢酸菌による発酵工程は、この製法において必須の工程である。
【0026】
本製造方法により、デーツ加水物中のグルコースがグルコン酸に効率的に転換され、グルコン酸を豊富に含むデーツ発酵物が、結果物として得られる。得られたデーツ発酵物は、グルコン酸によるフレッシュな酸味と、グルコースの消費による程よい甘味を有し、滑らかな舌触りで発色も良く、加工食品の素材として好適である。
【0027】
(加水工程)
本工程では、デーツ果実又はデーツ果汁に所定量の水を加え、混合する。そうすることにより、デーツ加水物を得る。デーツ加水物は、この加水工程において、Brix値が15%~30%に調整されることが好ましい。Brix値が15%未満であると、水分量が増え、デーツ特有の風味が損なわれてしまい、加工食品の素材として不適である。また、Brix値が35%以上で、酢酸発酵の進行が急激に低下してしまう。加工食品の原材料としての適性および発酵効率の観点から、デーツ加水物のBrix値は、15%~30%に調整されることが好ましく、より好ましくは、20%~30%である。
【0028】
(殺菌工程)
発酵工程を円滑に行うために、発酵工程に先立って本工程において、デーツ加水物を殺菌処理するのが好ましい。例えば、デーツ加水物を70℃以上に加熱して、20分以上保持すればよい。これにより、余計な細菌や酵母等の増殖を防止することができる。
【0029】
(冷却工程)
殺菌工程の後、酢酸菌の至適活動温度である約30℃まで冷却する。
【0030】
(植菌工程)
デーツ加水物に対し、酢酸菌を接種した。なお、用いた酢酸菌は、濃度30%の糖化液にて前培養を行ったものを用いたが、植菌可能であれば方法は限定されない。
【0031】
(発酵工程)
発酵工程では、デーツ発酵物にフレッシュな酸味を付与するため、デーツ発酵物のグルコン酸濃度が2%(w/v)以上となるまで発酵させることが好ましい。この発酵工程において、酢酸菌によりデーツ加水物中のグルコースがグルコン酸に変換されることで、得られるデーツ発酵物の甘みを抑え、フレッシュな酸味を付与することが可能となる。
【0032】
発酵工程は、通常の酢酸発酵で行われる方法で行えばよく、撹拌発酵、振とう発酵または静置発酵のいずれも行うことができるが、原材料としてデーツ果汁を用いると、撹拌発酵ではデーツ加水物の発泡により発酵効率が低下する場合があるため、振とう発酵または静置発酵がより好ましい。なお、デーツ加水物がデーツピューレである場合は、撹拌しても気泡を生じ難い。また、温度や発酵期間の条件も限定されないが、温度は約30℃、発酵期間は4日~7日が好ましい。
【0033】
-酢酸菌と乳酸菌の比較検討-
酢酸菌または乳酸菌をデーツ加水物に接種して発酵させ、グルコースの消費量を比較した。乳酸菌として、Lactobacillus brevis 1059T株(以下、乳酸菌αという)を用い、酢酸菌として、Gluconobacter oxydans NBRC 3287(以下、酢酸菌Iという)を用いた。発酵温度は30℃である。なお、デーツ発酵物中のグルコースは、HPLC(Prominence、島津製作所製)を用いて定量した。
【0034】
図2は、乳酸菌αと酢酸菌Iのグルコース消費量を比較した試験結果を示すグラフである。図2は、Brix値20%のデーツ加水物に対して、乳酸菌αと酢酸菌Iをそれぞれ接種した場合の、発酵0日目と発酵6日目のグルコース量を示す。酢酸菌Iのグルコース消費量は、乳酸菌αよりも多く、その差は顕著であった。
【0035】
図3は、乳酸菌αと酢酸菌Iのグルコース消費量を比較した試験結果を示すグラフである。図3は、Brix値37.7%のデーツ加水物(デーツピューレ)に対して、乳酸菌αを接種した場合の、発酵0日目と発酵6日目のグルコース量と、Brix値35%のデーツ加水物に対して、酢酸菌Iを接種した場合の、発酵0日目と発酵6日目のグルコース量を示す。この結果から、酢酸菌Iおよび乳酸菌αは、Brix35%以上のデーツ加水物に対して接種した場合、Brix値20%のデーツ加水物と比較して発酵効率は低いが、乳酸菌αよりも酢酸菌Iの方がより多くのグルコースを消費したことが分かる。
【0036】
これらの結果から、デーツ加水物のグルコースを消費するためには、乳酸発酵よりも酢酸発酵が適していると言える。
【0037】
-酢酸菌I~Vを用いた検討-
次に、様々な種類の酢酸菌をデーツ加水物(デーツピューレ)に接種し、30℃で静置発酵させた。酢酸菌として、上記酢酸菌Iの他、Acetobacter pasteurianus NBRC 3284(以下、酢酸菌IIともいう)、Gluconobacter oxydans NBRC 12528(以下、酢酸菌IIIともいう)、Gluconobacter oxydans 621H(以下、酢酸菌IVともいう)、Komagataeibacter medellinensis NBRC 3288(以下、酢酸菌Vともいう)を用いた。
【0038】
図4は、Brix20%のデーツピューレに対して酢酸菌I~Vを植菌し、7日間発酵させた後の、デーツ発酵物中のグルコン酸量を示すグラフである。具体的には、7gのデーツ加水物を50mlチューブ内で発酵させた。図4中、controlは、酢酸菌を接種しないデーツ加水物を他と同様の条件で静置した。なお、デーツ発酵物中のグルコン酸は、HPLC(Prominence、島津製作所製)を用いて定量した。
【0039】
図4に示すように、Brix20%のデーツピューレと酢酸菌I~Vを用いたすべてのサンプルにおいて、グルコン酸が初期値の倍以上となり、濃度2%(w/v)以上となっていたことから、酢酸発酵が良好に進んでいることが分かった。特に、酢酸菌Iと酢酸菌IVはグルコン酸の生成が顕著に見られた。
【0040】
図5は、Brix35%のデーツピューレに対して酢酸菌I~Vを植菌し、7日間発酵させた後の、デーツ発酵物中のグルコン酸量を示すグラフである。具体的には、7gのデーツ加水物を50mlチューブ内で発酵させた。図5中、controlは、酢酸菌を接種しないでデーツ加水物を他と同様の条件で静置した。
【0041】
図5に示すように、Brix35%のデーツピューレと酢酸菌I~Vを用いたすべてのサンプルにおいて、グルコン酸の生成は僅かであり、Brix20%のデーツピューレを用いた場合と比べて発酵が抑制されていた。
【0042】
次に、繊維をほとんど含まないデーツ果汁に酢酸菌Iを接種して発酵させた。
【0043】
図6は、Brix25%のデーツ果汁に対して酢酸菌Iを植菌し、発酵前と6日間発酵させた後の、デーツ発酵物中のグルコース量およびグルコン酸量を示すグラフである。具体的には、10gのデーツ果汁を50mlチューブ内で静置発酵させた。
【0044】
図6に示すように、グルコース量の減少とグルコン酸量の増加が見られ、デーツ果汁の酢酸発酵が確認されたが、繊維を多く含むデーツピューレと比較して、発酵が弱いことが分かった。
【0045】
図7は、Brix30%のデーツ果汁に対して酢酸菌Iを植菌し、発酵前と6日間発酵させた後の、デーツ発酵物中のグルコース量およびグルコン酸量を示すグラフである。具体的には、10gのデーツ果汁を50mlチューブ内で静置発酵させた。
【0046】
図7に示すように、グルコース量の減少とグルコン酸量の増加が見られ、Brix25%よりもデーツ果汁の酢酸発酵が進んでいることが確認されたが、繊維を多く含むデーツピューレと比較すると、発酵は弱かった。
【0047】
この結果から、デーツ加水物としては、繊維の少ないデーツ果汁よりも、繊維を多く含むデーツピューレの方が酢酸発酵をより効率的に進行させることが分かった。
【0048】
-酢酸菌VIを用いた検討-
次に、お多福醸造株式会社の醸造樽より単離されたKomagataeibacter sp.(以下、酢酸菌VIともいう)をデーツ加水物(デーツピューレ)に接種し、30℃で静置発酵させた。
【0049】
図8は、Brix24%のデーツピューレに対して酢酸菌VIを植菌し、発酵前、発酵4日間および発酵7日間の、デーツ発酵物中のグルコース量およびグルコン酸量を示すグラフである。具体的には、100gのデーツピューレを500mlビーカー内で発酵させた。
【0050】
図8に示すように、発酵日数4日において、3.3(w/v)%のグルコン酸が生成されており、デーツ発酵物に十分な酸味を付与することができていた。また、発酵日数7日においては、5.1(w/v)%のグルコン酸が生成されていた。酢酸菌VIは、上記検討にて顕著な発酵を示した酢酸菌Iおよび酢酸菌IVと同等の発酵効率であった。
【0051】
この結果から、デーツ加水物を発酵させる酢酸菌として、アセトバクター(Acetobacter)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、コマガタエイバクター(Komagataeibacter)属に属する酢酸菌が適しているが、特に、Gluconobacter oxydans NBRC 3287(酢酸菌I)、Gluconobacter oxydans 621H(酢酸菌IV)およびお多福醸造株式会社の醸造樽より単離されたKomagataeibacter sp.(酢酸菌VI)が好適であると言える。
【0052】
図4および図5の結果から、デーツ加水物のBrix値が35%以上で、発酵効率が顕著に低下する傾向が見られたことから、酢酸菌VIを用い、改めてデーツ加水物のBrix値について検討した。
【0053】
図9は、Brix15%、20%、30%および35%のデーツピューレに対して酢酸菌VIを植菌し、6日間発酵させた後の、デーツ発酵物中のグルコン酸量を示すグラフである。具体的には、10gのデーツピューレを50mlチューブ内において30℃で静置発酵させた。
【0054】
図9に示すように、Brix30%までは、グルコン酸は良好に生成されており、酢酸発酵が進んでいることが示されたが、Brix値35%の場合は、グルコン酸の生成量が顕著に低く、やはり酢酸発酵が抑制されていることが示された。
【0055】
図4図5および図9の結果から、デーツ加水物はBrix30%以下が酢酸発酵に好適であることが分かった。なお、デーツ加水物がBrix15%未満の場合、酢酸発酵は良好に進むものの、得られたデーツ発酵物は水分量が多く、デーツ特有の風味が損なわれてしまい、その後の加工にも適していない。そのため、デーツ加水物はBrix15%~30%がより好ましい。
【0056】
-官能評価-
上述した酢酸菌VIを用いて、Brix25のデーツピューレを5日間酢酸発酵させ、Brix26%のデーツ発酵物を得た。具体的には、100gのデーツピューレを500mlビーカー内において30℃で静置発酵させた。発酵後にBrix値が上がったのは、乾燥により濃縮されたものと考えられる。このデーツ発酵物に対し、デーツピューレに加水してBrix26%としただけの未発酵のデーツピューレを比較対象とし、官能評価を行った。
【0057】
なお、未発酵のデーツピューレと、発酵後のデーツピューレを分析したところ、表1に示すように、発酵前5.4であったpHが発酵後は3.0を示しており、発酵前に0.111であった酸度は、発酵後に1.444へ上がっていた。また、発酵後のデーツピューレ中、グルコース、グルコン酸、酢酸およびエタノールは表2に示す結果であった。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
未発酵のデーツピューレと発酵後のデーツピューレを比較して、20代~50代の男女9名により、官能評価をおこなった結果を表3に示す。酸味、甘味、フレッシュさ、滑らかさ、色の明るさの各項目について、未発酵品の評価を3とした時にそれよりも発酵品の程度が強い場合は最高で5点までとし、程度が弱い場合は最低で1点までとして採点した。
【0061】
【表3】
【0062】
全員が発酵品の方が、酸味が強く、甘味が弱いと回答した。また、フレッシュさは9名中7名が発酵品のフレッシュさが強いと回答した。滑らかさは、全員が未発酵品と同等又はそれ以上と回答した。また、色については全員が発酵品の方が明るくなったと回答した。表4に、9名の回答の平均点を示し、図10に、その評価に基づいたデーツ発酵物の味と色のバランスデータを示す。
【0063】
【表4】
【0064】
酢酸発酵により得られたデーツ発酵物は、グルコン酸の生成により、発酵後にもかかわらず、フレッシュに感じられる酸味を呈する。グルコン酸の酸味は、尖った酸味ではなく、果実様の酸味であり、グルコースの消費により程よい甘さとなることから、甘味と酸味のバランスの取れた甘酸っぱいフレッシュさを与えることができる。そのため、グルコン酸を含むデーツ発酵物は嗜好性に優れている。また、デーツ発酵物は、デーツ特有のザラつきが緩和され、滑らかな口当たりが感じられる傾向にあった。さらに、デーツ発酵物は発酵前よりも明るい発色を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10