(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129849
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】音信号処理方法、音信号処理装置および音信号配信システム
(51)【国際特許分類】
G10K 15/08 20060101AFI20230912BHJP
H04S 7/00 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
G10K15/08
H04S7/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034141
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健治
【テーマコード(参考)】
5D162
5D208
【Fターム(参考)】
5D162AA05
5D162CA26
5D208AA01
5D208AB07
5D208AD03
(57)【要約】
【課題】配信者の意図するエフェクトを、リスナ側での再生時に再現できる音信号処理方法を提供する。
【解決手段】音信号処理方法は、配信元から、音信号と、該音信号に施されるべき第1信号処理の第1パラメータと、を受信し、リスナの再生環境の第1音響特性を検出し、前記音信号に第2信号処理を施して、前記再生環境で再生される音信号を得る、音信号処理方法であって、前記第1パラメータおよび前記第1音響特性に基づいて、前記第2信号処理を制御する第2パラメータを調整する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配信元から、音信号と、該音信号に施されるべき第1信号処理の第1パラメータと、を受信し、
リスナの再生環境の第1音響特性を検出し、
前記音信号に第2信号処理を施して、前記再生環境で再生される音信号を得る、
音信号処理方法であって、
前記第1パラメータおよび前記第1音響特性に基づいて、前記第2信号処理を制御する第2パラメータを調整する、
音信号処理方法。
【請求項2】
さらに、前記配信元の会場環境の第2音響特性を受信し、
前記第2パラメータを調整する過程では、前記第1パラメータ、前記第1音響特性、および前記第2音響特性に基づいて、前記第2パラメータを調整する、
請求項1に記載の音信号処理方法。
【請求項3】
前記第1信号処理および前記第2信号処理は、前記音信号にリバーブを付与する処理を含む、
請求項1または請求項2に記載の音信号処理方法。
【請求項4】
前記音信号は、複数の音源からの音に対応する複数の音信号のそれぞれであり、
前記第1パラメータは、前記複数の音源に対応する複数の第1パラメータのそれぞれであり、
前記第2信号処理の制御は、前記複数の第1パラメータに応じて前記複数の音信号のそれぞれについて個別に行われる、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の音信号処理方法。
【請求項5】
取得した前記音信号は、前記第1信号処理が施される前の音信号である、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の音信号処理方法。
【請求項6】
リスナから音響特性を調整するための第3パラメータを取得し、
前記第2パラメータを調整する過程では、前記第1パラメータ、前記第1音響特性、および前記第3パラメータに基づいて、前記第2パラメータを調整する、
請求項5に記載の音信号処理方法。
【請求項7】
配信元から、音信号と、該音信号に施されるべき第1信号処理の第1パラメータと、を受信する受信器と、
リスナの再生環境の第1音響特性を検出する検出器と、
前記音信号に第2信号処理を施して、前記再生環境で再生される音信号を得る処理器と、
を備えた音信号処理装置であって、
前記処理器は、前記第1パラメータおよび前記第1音響特性に基づいて、前記第2信号処理を制御する第2パラメータを調整する、
音信号処理装置。
【請求項8】
前記受信器は、さらに、前記配信元の会場環境の第2音響特性を受信し、
前記処理器は、前記第1パラメータ、前記第1音響特性、および前記第2音響特性に基づいて、前記第2パラメータを調整する、
請求項7に記載の音信号処理装置。
【請求項9】
前記第1信号処理および前記第2信号処理は、前記音信号にリバーブを付与する処理を含む、
請求項7または請求項8に記載の音信号処理装置。
【請求項10】
前記音信号は、複数の音源からの音に対応する複数の音信号のそれぞれであり、
前記第1パラメータは、前記複数の音源に対応する複数の第1パラメータのそれぞれであり、
前記第2信号処理の制御は、前記複数の第1パラメータに応じて前記複数の音信号のそれぞれについて個別に行われる、
請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の音信号処理装置。
【請求項11】
前記音信号は、前記第1信号処理が施される前の音信号である、
請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の音信号処理装置。
【請求項12】
さらに、
リスナから音響特性を調整するための第3パラメータを受け付けるインタフェースを備え、
前記処理器は、前記第1パラメータ、前記第1音響特性、および前記第3パラメータに基づいて、前記第2パラメータを調整する、
請求項11に記載の音信号処理装置。
【請求項13】
請求項7乃至請求項12のいずれか1項に記載の音信号処理装置と、
前記音信号および前記第1パラメータを配信する配信装置と、
を備えた音信号配信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、音信号に所定の信号処理を施す音信号処理方法および音信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子楽器の音信号に対して、カーネギーホール等の残響音を付与するエフェクタが開示されている。特許文献1のエフェクタは、部屋の響きに合わせて残響音のエフェクトパラメータを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音信号をコンテンツとして配信する場合、配信者(配信側のオペレータ)は、音信号にエフェクトを付与する等して、配信するコンテンツの音作りを行う。特許文献1は、音信号をコンテンツとして配信することは想定されていない。特許文献1のエフェクタは、コンテンツに付与されているエフェクトのパラメータを想定していないため、配信者の意図するエフェクトを実現することができない場合がある。
【0005】
以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、配信者の意図するエフェクトを、リスナ側での再生時に再現できる音信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る音信号処理方法は、配信元から、音信号と、該音信号に施されるべき第1信号処理の第1パラメータと、を受信し、リスナの再生環境の第1音響特性を検出し、前記音信号に第2信号処理を施して、前記再生環境で再生される音信号を得る、音信号処理方法であって、前記第1パラメータおよび前記第1音響特性に基づいて、前記第2信号処理を制御する第2パラメータを調整する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、配信者の意図するエフェクトを、リスナ側での再生時に再現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】音信号処理システム1の構成を示すブロック図である。
【
図2】配信装置10の主要構成を示すブロック図である。
【
図3】音信号処理装置10Aの主要構成を示すブロック図である。
【
図4】音信号処理装置10Aの動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5(A)は、配信者の意図する第1信号処理のリバーブエフェクトの第1パラメータを時間軸で示した図であり、
図5(B)は、再生環境の第1音響特性を時間軸で示した図であり、
図5(C)は、第2信号処理の第2パラメータを時間軸で示した図である。
【
図6】変形例1に係る音信号処理装置10Aの動作を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(A)は、配信者の意図する第1信号処理のリバーブエフェクトの第1パラメータを時間軸で示した図であり、
図7(B)は、再生環境の第1音響特性を時間軸で示した図であり、
図7(C)は、配信元の第2音響特性を時間軸で示した図である。
【
図8】第2信号処理の第2パラメータを時間軸で示した図である。
【
図9】
図9(A)は、配信者の意図する第1信号処理のリバーブエフェクトの第1パラメータを時間軸で示した図であり、
図9(B)は、目標の音響特性を時間軸で示した図であり、
図9(C)は、再生環境の第1音響特性を時間軸で示した図である。
【
図10】第2信号処理の第2パラメータを時間軸で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、音信号処理システム1の構成を示すブロック図である。音信号処理システム1は、配信装置10、音信号処理装置10A、音信号処理装置10B、および音信号処理装置10Cを備えている。音信号処理装置10A、音信号処理装置10B、および音信号処理装置10Cは、それぞれインターネット5を介して配信装置10に接続されている。
【0010】
音信号処理装置10A、音信号処理装置10B、および音信号処理装置10Cは、それぞれパーソナルコンピュータ等の情報処理装置からなる。配信装置10も、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置からなる。
【0011】
配信装置10は、配信元の会場に設置され、例えばスタジオ等の演奏の録音に適した場所に設置される。音信号処理装置10A、音信号処理装置10B、および音信号処理装置10Cは、スタジオとは異なる、コンテンツを遠隔地で聴くユーザ(リスナ)の居る自宅の部屋やレンタルルーム等に設置される。
【0012】
図2は、音信号処理装置10Aの主要構成を示すブロック図である。
図2では代表して音信号処理装置10Aの構成を示すが、他の音信号処理装置10Bおよび音信号処理装置10Cも同様の構成を有する。
【0013】
音信号処理装置10Aは、表示器101、ユーザインタフェース(I/F)102、フラッシュメモリ103、CPU104、RAM105、通信インタフェース(I/F)106、およびオーディオI/O107を備えている。これら構成は、バス151を介して接続されている。
【0014】
表示器101は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)またはOLED(Organic Light-Emitting Diode)等からなり、種々の情報を表示する。ユーザI/F102は、スイッチ、キーボード、マウス、トラックボール、またはタッチパネル等からなり、ユーザの操作を受け付ける。ユーザI/F102がタッチパネルである場合、該ユーザI/F102は、表示器101とともに、GUI(Graphical User Interface以下略)を構成する。
【0015】
通信I/F106は、本発明の受信器に対応し、イーサネット(登録商標)等の通信線を介して、インターネット5に接続される。音信号処理装置10Aは、通信I/F106を介して配信装置10からコンテンツを受信する。配信装置10の配信するコンテンツは、不図示のサーバを介して受信してもよい。
【0016】
CPU104は、本発明の検出器および処理器に対応する。CPU104は、記憶媒体であるフラッシュメモリ103に記憶されているプログラムをRAM105に読み出して、所定の機能を実現する。例えば、CPU104は、表示器101にユーザの操作を受け付けるための画像を表示し、ユーザI/F102を介して、当該画像に対する選択操作等を受け付けることで、GUIを実現する。
【0017】
CPU104は、通信I/F106を介して受信したコンテンツを再生する。CPU104は、再生したコンテンツに係る音信号をオーディオI/O107に出力する。オーディオI/O107は、不図示のスピーカまたはマイク等の音響機器を接続するインタフェースである。オーディオI/O107は、再生されたコンテンツに係る音信号をスピーカに出力する。これにより、音信号処理装置10Aのユーザは、配信元から配信されたコンテンツの音を聴くことができる。
【0018】
なお、CPU104が読み出すプログラムは、自装置内のフラッシュメモリ103に記憶されている必要はない。例えば、プログラムは、サーバ等の外部装置の記憶媒体に記憶されていてもよい。この場合、CPU104は、該サーバから都度プログラムをRAM105に読み出して実行すればよい。
【0019】
図3は、配信装置10の構成を示すブロック図である。配信装置10は、表示器201、操作部202、オーディオI/O203、通信I/F204、CPU205、フラッシュメモリ206、およびRAM207を備えている。これら構成は、バス171を介して接続されている。
【0020】
表示器201は、例えばLCDまたはOLED等からなり、種々の情報を表示する。操作部202は、スイッチ、キーボード、マウス、トラックボール、摘まみ、スライダ、またはタッチパネル等からなり、ユーザの操作を受け付ける。操作部202がタッチパネルである場合、該操作部202は、表示器201とともに、GUIを構成する。
【0021】
CPU205は、配信装置10の動作を制御する制御部である。CPU205は、記憶媒体であるフラッシュメモリ206に記憶された所定のプログラム(音信号処理プログラム)をRAM207に読み出して実行することにより各種の動作を行なう。なお、プログラムは、サーバに記憶されていてもよい。CPU205は、ネットワークを介してサーバからプログラムをダウンロードし、実行してもよい。
【0022】
オーディオI/O203は、マイク、楽器、または楽器用アンプ等の音源に接続される。オーディオI/O203は、複数の音源のそれぞれの音を主成分とする複数の音信号を受け付ける。
【0023】
配信者(配信側のオペレータ)は、操作部202を介して、これら音響機器から入力される複数の音信号にそれぞれ施されるべき第1信号処理の第1パラメータを設定する。配信者は、モニタを用いて第1信号処理された音を聴きながら、第1パラメータを調整する。そのモニタは、配信者が装着したヘッドフォン、配信者の近傍のスピーカ、配信者が居るライブハウスのメインスピーカの何れでもよい。
【0024】
例えば、第1信号処理は、各音信号の定位やレベルを調整する処理や、リバーブを付与する処理を含む。第1パラメータは、第1信号処理を制御するためのパラメータである。リバーブ処理を制御するための第1パラメータは、リバーブの減衰時間および深さを示すパラメータを含む。マイク、楽器、または楽器用アンプ等の音源は、スタジオ等の反射音の少ない場所に設置されている。そこで、配信者は、マイク、楽器、または楽器用アンプ等の音源の音にリバーブエフェクト等の所定のエフェクトを付与して、エフェクトが付与された音をモニタで確認しながら、音作り(第1パラメータの調整)を行う。ただし、本実施形態では、配信装置10は、受け付けた音信号に第1信号処理を施すことなく、これら複数の音信号と、これら複数の音信号に施されるべき第1信号処理の第1パラメータと、を配信する。
【0025】
なお、配信者は、操作部202を介して、複数の音源の音信号をミキシング後の音信号に施されるべき第1信号処理の第1パラメータを設定してもよい。
【0026】
CPU205は、オーディオI/O203を介して複数の音信号を受け付ける。また、CPU205は、操作部202を介して複数の音信号のそれぞれの第1パラメータを受け付ける。
【0027】
CPU205は、受け付けた複数の音信号にそれぞれの第1パラメータを付加し、コンテンツとして通信I/F204に出力する。
【0028】
通信I/F204は、イーサネット(登録商標)等の通信線を介して、インターネット5に接続される。配信装置10は、通信I/F106を介してコンテンツを配信する。コンテンツは、不図示のサーバを介して配信してもよい。
【0029】
図4は、リスナの部屋にある、音信号処理装置10Aの動作を示すフローチャートである。音信号処理装置10Aの受信器は、配信装置10から複数の音信号と、それぞれの第1パラメータと、を受信する(S11)。
【0030】
音信号処理装置10Aの検出器は、その部屋の再生環境を示す第1音響特性を検出する(S12)。音信号処理装置10Aは、例えば不図示のスピーカから測定音をその部屋に出力し、不図示のマイクでインパルス応答を測定し、その部屋の残響時間や残響量などの再生環境を示す第1音響特性を取得する。第1音響特性は、周波数帯域毎の特性であってもよい。
【0031】
音信号処理装置10Aの処理器は、受信した第1パラメータおよび検出した第1音響特性に基づいて、第2信号処理の第2パラメータを調整する(S13)。音信号処理装置10Aの処理器は、さらに、調整した第2パラメータに基づいて、受信した音信号に第2信号処理を施す(S14)。
【0032】
第2信号処理は、上記第1信号処理に含まれる処理と同じタイプの、音信号にリバーブを付与するリバーブ処理を含む。第2パラメータは、第1パラメータを第1音響特性で補正した値である。リバーブ処理を制御する第2パラメータは、リバーブの減衰時間および深さを含む。
【0033】
図5(A)は、配信者の意図する第1信号処理のリバーブエフェクトを時間軸の包絡線で示した図である。
図5(B)は、再生環境の第1音響特性を時間軸の包絡線で示した図である。
図5(C)は、第2信号処理のリバーブエフェクトを時間軸の包絡線で示した図である。
【0034】
音信号処理装置10Aの処理器は、第1パラメータから、リバーブ処理のインパルス応答を求め、そのインパルス応答の包絡(
図5(A))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、部屋のインパルス応答を測定し、そのインパルス応答の包絡(
図5(B))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、第1パラメータから求めたインパルス応答の包絡(
図5(A))から、部屋のインパルス応答の包絡(
図5(B))を引き算して、差分の包絡(
図5(C))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、リバーブ処理のインパルス応答が、この差分の包絡(
図5(C))を近似するように、第2パラメータを調整する。なお、インパルス応答の差分の算出は、周波数領域で行われてもよい。例えば、
図5(A)に示す様に、配信者は、時間T1から時間T2にかけてレベルL1の残響音が徐々に減衰する様なリバーブエフェクトを設定している。
図5(B)に示す様に、再生環境では、時間T3(この例では時間T1と一致する。)で生じたレベルL2の残響音が時間T4にかけて減衰する音響特性を示す。この場合、音信号処理装置10Aは、
図5(C)に示す様に、時間T1~T4にかけて、第1信号処理の第1パラメータから、再生環境で生じる残響音のレベルを差分(または除算)したリバーブエフェクトの第2パラメータを算出する。
【0035】
これにより、音信号処理装置10Aは、リスナに対して、配信者の意図に近いエフェクトが付与された音を聴かせることができる。
【0036】
音信号が複数の音源からの音に対応する複数の音信号のそれぞれであり、第1パラメータが複数の音源に対応する複数の第1パラメータのそれぞれである場合、音信号処理装置10Aは、第2信号処理の制御を複数の第1パラメータに応じて複数の音信号のそれぞれについて行う。つまり、音信号処理装置10Aは、複数の音信号に対応するそれぞれの第1パラメータと第1音響特性に基づいて、それぞれの第2パラメータを算出する。音信号処理装置10Aは、第2信号処理を施した後の複数の音信号をミキシングし、オーディオI/O107に出力する。 コンテンツが、複数の音信号をミキシングした後の音信号と、ミキシング後の音信号に施されるべき第1信号処理の第1パラメータと、を含む場合、音信号処理装置10Aは、第2信号処理を、ミキシングした後の音信号について行う。
【0037】
(変形例1)
音信号処理装置10Aは、配信元の会場環境における第2音響特性を受信し、第2パラメータを調整する過程では、受信した第1パラメータ、第2音響特性、および検出した第1音響特性に基づいて、第2パラメータを調整してもよい。
【0038】
上記実施形態では、配信元の会場環境は、反射音の極めて少ないスタジオであったが、例えば配信元の会場環境は、コンサートホール等のライブ会場である場合もある。この場合、配信装置10は、ライブ会場の客席における第2音響特性を取得する。第2音響特性は、ライブ会場の残響時間や残響量などの再生環境を示す特性(インパルス応答)である。第1音響特性は、周波数帯域毎の特性であってもよい。配信装置10は、例えばライブイベントの前に予め不図示のスピーカから測定音を出力し、不図示のマイクでインパルス応答の音信号を収音し、その音信号に基づいて配信元の会場環境の第2音響特性を算出する。又は、配信装置10は、ライブイベント中に、スピーカで再生している音信号と、客席で収音された音信号とに基づいて、配信元の会場環境の第2音響特性を随時算出しても良い。配信装置10は、取得した第2音響特性を配信する。
【0039】
図6は、変形例1に係る音信号処理装置10Aの動作を示すフローチャートである。音信号処理装置10Aの受信器は、配信装置10から複数の音信号と、それぞれの第1パラメータと、第2音響特性と、を受信する(S101)。第1パラメータは、例えばライブ会場のオーディオミキサのオペレータが、ライブ会場のメインスピーカ用に調整したパラメータである。あるいは、第1パラメータは、オーディオミキサのオペレータが、ライブ会場のメインスピーカ用とは別に、配信用に調整したパラメータでもよい。その場合、オーディオミキサのオペレータは、会場の音とは別の、ヘッドフォンで聴いた音に基づいてそのパラメータを調整する。
【0040】
音信号処理装置10Aの検出器は、その部屋の再生環境を示す第1音響特性を検出する(S12)。音信号処理装置10Aの処理器は、受信した第1パラメータ、第2音響特性、および検出した第1音響特性に基づいて、第2信号処理の第2パラメータを調整する(S103)。音信号処理装置10Aの処理器は、さらに、調整した第2パラメータに基づいて、受信した音信号に第2信号処理を施す(S14)。
【0041】
図7(A)は、配信者の意図する第1信号処理のリバーブエフェクトを時間軸の包絡線で示した図である。
図7(B)は、再生環境の第1音響特性を時間軸の包絡線で示した図である。
図7(C)は、配信元の第2音響特性を時間軸の包絡線で示した図である。
図8は、第2信号処理のリバーブエフェクトを時間軸の包絡線で示した図である。
【0042】
音信号処理装置10Aの処理器は、第1パラメータから、リバーブ処理のインパルス応答を求め、そのインパルス応答の包絡(
図7(A))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、部屋のインパルス応答を測定し、そのインパルス応答の包絡(
図7(B))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、配信装置10から受信した第2音響特性のインパルス応答の包絡(
図7(C))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、第1パラメータの包絡(
図7(A))から、部屋のインパルス応答の包絡(
図7(B))および第2音響特性のインパルス応答の包絡(
図7(C))を引き算して、差分の包絡(
図8)を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、リバーブ処理のインパルス応答が、この差分の包絡(
図8)を近似するように、第2パラメータを調整する。なお、インパルス応答の差分の算出は、周波数領域で行われてもよい。例えば、
図7(C)に示す様に、配信元の会場環境では、時間T5(この例では時間T1と一致する。)で生じたレベルL3の残響音が時間T6にかけて減衰する音響特性を示す。そこで、音信号処理装置10Aの処理器は、
図8に示す様に、時間T1~T4にかけて、第1信号処理の第1パラメータから、配信元および再生環境で生じる残響音のレベルを差分(または除算)したリバーブエフェクトの第2パラメータを算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、時間T4~T6にかけて、第1信号処理の第1パラメータから、再生環境で生じる残響音のレベルを差分(または除算)したリバーブエフェクトの第2パラメータを算出する。
【0043】
この場合、音信号処理装置10Aは、リスナに対して、配信者の意図に近くかつ配信側の会場の音響環境が反映されたエフェクトが付与された音を聴かせることができる。
【0044】
(変形例2)
リスナは、任意の音響特性を有するリバーブエフェクトを設定してもよい。例えば、音信号処理装置10Aは、表示器101およびユーザI/F102からなるGUIを介して、リバーブのパラメータの微調整を受け付ける。音信号処理装置10Aは、リスナから音響特性を調整する第3パラメータを受け付ける。
【0045】
そして、配信装置10から受信した第1パラメータと、測定等により検出した再生環境の第1音響特性と、受け付けた第3パラメータと、に基づいて、音信号に施す第2信号処理の第2パラメータを調整する。
【0046】
図9(A)は、配信者の意図する第1信号処理のリバーブエフェクトの第1パラメータを時間軸の包絡線で示した図である。
図9(B)は、目標の音響特性を時間軸の包絡線で示した図である。
図9(C)は、再生環境の第1音響特性を時間軸の包絡線で示した図である。
図10は、第2信号処理の第2パラメータを時間軸の包絡線で示した図である。
【0047】
音信号処理装置10Aの処理器は、第1パラメータから、リバーブ処理のインパルス応答を求め、そのインパルス応答の包絡(
図9(A))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、目標の音響特性の第3パラメータから、リバーブ処理のインパルス応答の包絡(
図9(B))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、部屋のインパルス応答を測定し、そのインパルス応答の包絡(
図9(C))を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、第3パラメータのインパルス応答の包絡(
図9(B))から、第1パラメータのインパルス応答の包絡(
図9(A))および部屋のインパルス応答の包絡(
図9(C))を引き算して、差分の包絡(
図10)を算出する。音信号処理装置10Aの処理器は、リバーブ処理のインパルス応答が、この差分の包絡(
図10)を近似するように、第2パラメータを調整する。なお、インパルス応答の差分の算出は、周波数領域で行われてもよい。例えば、音信号処理装置10Aの処理器は、
図10に示す様に、時間T1~T6にかけて、目標の音響特性の第3パラメータから、第1パラメータおよび第1音響特性のレベルを差分(または除算)したリバーブエフェクトの第2パラメータを算出する。また、音信号処理装置10Aの処理器は、時間T6~T2にかけて、目標の音響特性の第3パラメータから、第1パラメータのレベルを差分(または除算)したリバーブエフェクトの第2パラメータを算出する。
【0048】
この場合、音信号処理装置10Aは、配信者の意図と再生環境の第1音響特性とリスナの好みとを考慮してリバーブエフェクトの第3パラメータを調整するため、リスナに対して、配信者の意図に近くかつリスナの好みを反映したリバーブエフェクトが付与された音を聴かせることができる。
【0049】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の範囲を含む。
【0050】
例えば、上記実施形態では、第1信号処理および第2信号処理の例として残響音を付与するエフェクトを示したが、第1信号処理および第2信号処理は、他にも、例えばディレイ、またはコーラス等の他の空間系エフェクトであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 :音信号処理システム
5 :インターネット
10 :配信装置
10A :音信号処理装置
10B :音信号処理装置
10C :音信号処理装置
101 :表示器
102 :ユーザI/F
103 :フラッシュメモリ
104 :CPU
105 :RAM
106 :通信I/F
107 :オーディオI/O
151 :バス
171 :バス
201 :表示器
202 :操作部
203 :オーディオI/O
204 :通信I/F
205 :CPU
206 :フラッシュメモリ
207 :RAM