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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129878
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/564 20060101AFI20230912BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20230912BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20230912BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
D06M15/564
D06M13/224
D06M15/643
D06M13/292
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034202
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 倫
(72)【発明者】
【氏名】関藤 正剛
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA21
4L033BA39
4L033CA50
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】ゴムと合成繊維との接着力が高く、繊維-繊維間摩擦力の低い合成繊維用処理剤を提供する。
【解決手段】ポリウレタン樹脂(P)及び水性媒体を含む合成繊維用処理剤であって、ポリウレタン樹脂(P)は、ポリエステルポリオールを含むポリオール成分(A)及び有機ポリイソシアネート成分(B)を構成原料とする樹脂であり、ポリエステルポリオールはカーボネート基を有し、ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基の濃度及びウレア基の濃度の合計が11.0重量%超13.5重量%以下である合成繊維用処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂(P)及び水性媒体を含む合成繊維用処理剤であって、
ポリウレタン樹脂(P)は、ポリエステルポリオールを含むポリオール成分(A)及び有機ポリイソシアネート成分(B)を構成原料とする樹脂であり、
ポリエステルポリオールはカーボネート基を有し、
ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基の濃度及びウレア基の濃度の合計が11.0重量%超13.5重量%以下である合成繊維用処理剤。
【請求項2】
ポリオール成分(A)が、数平均分子量が500以上のポリエステルポリオールと、親水性基及び活性水素を有する化合物(a2)とを含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
親水性基及び活性水素を有する化合物(a2)の有する親水性基が、アニオン性基である請求項2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記アニオン性基の量が前記ポリウレタン樹脂(P)の重量に基づいて0.01~11重量%であり、前記アニオン性基がカルボン酸(塩)基である請求項3に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記有機ポリイソシアネート成分(B)が、炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネートを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
ポリウレタン樹脂(P)中のウレア基の濃度が、2.5~6.5重量%である請求項1~5のいずれか1項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
更に、平滑剤(E)及び/又はアニオン性界面活性剤(F)を含み、
平滑剤(E)が、脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(E1)、脂肪族ポリカルボン酸アルキルエステル(E2)及びシリコーン化合物(E5)からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記アニオン性界面活性剤(F)が、炭素数8~24の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩及び炭素数8~24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩からなる群より選ばれる一種以上である請求項7に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の合成繊維用処理剤を含む合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成繊維用処理剤及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリエステル繊維等の合成繊維は、タイヤ、ベルト、シート及びホース等のゴム構造物を補強する材料として広く使用されている。ポリエステル等の合成繊維と、ゴムとの接着力を向上させるものとして、例えば特許文献1に記載の繊維用処理剤が知られている。
特許文献1には、多価アルコール、ポリアミン、多価カルボン酸の単独またはそれらの組み合わせにアルキレンオキサイドを付加して得られ、且つ1分子中に3個以上の活性水素を有する化合物と、スルホネート及び/又はサルフェート系アニオン界面活性剤とを所定の割合で含む繊維用処理剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-19088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴム構造物を補強する合成繊維に用いる繊維用処理剤においては、ゴム構造物を補強するために、ゴムと合成繊維との接着力が高いことが求められるが、ゴムと合成繊維との接着力を高くすると、繊維同士も接着しやすくなる。繊維同士が接着すると、繊維をゴムに練りこむときの力が繊維に負荷を与え、繊維が切断してしまいゴムを補強する効果に悪影響を与えることがあるため改善が求められていた。
本発明は、ゴムと合成繊維との接着力が高く、繊維繊維間摩擦力が低い合成繊維用処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、ポリウレタン樹脂(P)及び水性媒体を含む合成繊維用処理剤であって、 ポリウレタン樹脂(P)は、ポリエステルポリオールを含むポリオール成分(A)及び有機ポリイソシアネート成分(B)を構成原料とする樹脂であり、ポリエステルポリオールはカーボネート基を有し、ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基の濃度及びウレア基の濃度の合計が11.0重量%超13.5重量%以下である合成繊維用処理剤;ならびに、前記合成繊維用処理剤を含む合成繊維である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ゴムと合成繊維との接着力が高く、繊維繊維間摩擦力が低い合成繊維用処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の合成繊維用処理剤はポリウレタン樹脂(P)及び水性媒体を含む。ポリウレタン樹脂(P)は、ポリエステルポリオールを含むポリオール成分(A)及び有機ポリイソシアネート成分(B)を構成原料とする樹脂である。ポリウレタン樹脂(P)は、前記構成原料[ポリオール成分(A)及び有機ポリイソシアネート成分(B)]を反応させてなる。以下において、ポリオール成分(A)を「(A)成分」と呼ぶことがある。
【0008】
本発明において、ポリオール成分(A)は、ポリエステルポリオール(a1)を含み、当該ポリエステルポリオール(a1)はカーボネート基を有する。ポリオール成分(A)が、ポリエステルポリオールとしてカーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)を含むことにより、ポリウレタン樹脂(P)中にカーボネート基が導入され、これによりゴムと合成繊維との接着力を高めることができる。ポリウレタン樹脂(P)の構成原料がカーボネート基を有するポリエステルポリオールを含まない場合、ゴムと合成繊維との接着力が不十分となることがある。
【0009】
ポリウレタン樹脂(P)中のカーボネート基は、13C NMRにより確認することができる。カーボネート基が存在する場合、155ppm付近にカーボネート基由来のピークが検出できる。
【0010】
カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)としては、例えば、1種または2種以上の炭素数2~20の多価アルコールと、低分子カーボネート化合物とを、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0011】
前記炭素数2~20の多価アルコールとしては、炭素数2~12の直鎖又は分岐の脂肪族2価アルコール(エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の直鎖アルコール;1,2-、1,3-又は2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール及び4-メチルオクタンジオール等の分岐アルコール等);炭素数6~20の脂環式2価アルコール(1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘプタンジオール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等);炭素数8~20の芳香環含有2価アルコール(m-又はp-キシリレングリコール、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン及びビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等);炭素数3~20の3価アルコール[脂肪族トリオール(グリセリン及びトリメチロールプロパン等)等];炭素数5~20の4~8価アルコール[脂肪族ポリオール(ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジグリセリン及びジペンタエリスリトール等);糖類(ショ糖、グルコース、マンノース、フルクトース、メチルグルコシド及びその誘導体)]等が挙げられる。これらのうち、炭素数3~9の脂肪族2価アルコールが好ましく、炭素数4~6の脂肪族2価アルコールがより好ましい。
【0012】
カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)の構成材料である低分子カーボネート化合物としては、例えば、アルキル基の炭素数が1~6のジアルキルカーボネート、炭素数2~6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6~9のアリール基を有するジアリールカーボネートなどが挙げられる。
【0013】
カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)としては、融点が20℃以下のポリカーボネートポリオール及び融点が20℃より高いポリカーボネートポリオールのいずれを用いてもよい。
融点が20℃以下のポリカーボネートポリオールは、例えば前記炭素数2~20の多価アルコールとして、分岐構造を有する2価アルコールを用いるか、2種以上の2価アルコールを併用することにより製造することができる。
【0014】
融点が20℃以下のポリカーボネートポリオールとしては市販品を用いうる。このような市販品としては「デュラノール G4672」[旭化成ケミカルズ(株)製]、「デュラノール T5652」[旭化成ケミカルズ(株)製]、「クラレポリオール C-2090」[クラレ(株)製]、「クラレポリオール C-2050」[クラレ(株)製]及び「クラレポリオール C-2015N」[クラレ(株)製]等が挙げられる。
【0015】
融点が20℃より高いポリカーボネートポリオールとしては市販品を用いうる。このような市販品としては「デュラノール T6002」[旭化成ケミカルズ(株)製]、「ETERNACOLL UH-200」[宇部興産(株)製]、「ニッポラン-980R」[日本ポリウレタン(株)製]、「プラクセルCD220」[ダイセル(株)製]及び「クラレポリオール C-2065N」[クラレ(株)製]等が挙げられる。
【0016】
カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)としては、特開2016-84463号公報に記載のカーボネート基とともにオキシカルボニル基を有するポリエステルポリオールを用いてもよい。カーボネート基及びオキシカルボニル基を有するポリエステルポリオールとしては、前記炭素数2~20の多価アルコールと前記低分子カーボネート化合物と前記炭素数2~10の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を縮合させる方法、上述したカーボネート基を有するポリエステルポリオールと前記炭素数2~20の多価アルコールと前記炭素数2~10の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を縮合させる方法、後述のオキシカルボニル基を有するポリエステルポリオールと前記炭素数2~20の多価アルコールと前記低分子カーボネート化合物を縮合させる方法、上述のポリカーボネートポリオールを開始剤としてラクトンモノマーを開環重合させる方法、上述したカーボネート基を有するポリエステルポリオールとオキシカルボニル基を有するポリエステルポリオールをエステル交換させる方法等で得られるものが挙げられる。
【0017】
カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)としては、繊維繊維間摩擦力を低くするという観点から、数平均分子量(以下、Mnと略記)が500以上のポリエステルポリオールが好ましく、1000以上のポリエステルポリオールがより好ましい。また、ゴムと合成繊維との接着力が高いという観点からMnが10000以下のポリエステルポリオールが好ましく、8000以下のポリエステルポリオールがより好ましい。カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
本発明において、ポリエステルポリオールのMnの測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、例えば以下の条件で測定することができる。
装置:「Waters Alliance 2695」[Waters社製]
カラム:「Guardcolumn Super H-L」(1本)、「TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000(いずれも東ソー株式会社製)を各1本連結したもの」
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:10μL
流量:0.6mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン
【0019】
(A)成分は、ポリオールとして、カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)以外の他のポリエステルポリオール、ポリエステルポリオール以外のポリオール(例えば、ポリエーテルポリオール等)を含んでいてもよい。これらのポリオールは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記他のポリエステルポリオールとしては、例えば、エステル基としてオキシカルボニル基のみを有するポリエステルポリオール等が挙げられる。当該エステル基としてオキシカルボニル基のみを有するポリエステルポリオールとしては、特開2016-84463号公報に記載の脱水縮合型ポリエステルポリオール及びポリラクトンポリオール等が挙げられる。
【0021】
前記ポリエステルポリオール以外のポリオールとしては、例えばポリエーテルポリオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、前記炭素数2~20の多価アルコールのアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)付加物等が挙げられる。
【0022】
ポリエーテルポリオールにおいて、 炭素数2~20の多価アルコールに付加させるAOとしては、炭素数2~12のAO[エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、1,2-又は1,3-プロピレンオキサイド、1,2-,1,3-又は2,3-ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記)、3-メチルテトラヒドロフラン、スチレンオキサイド、α-オレフィンオキサイド及びエピクロルヒドリン等]が挙げられる。
AOは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。AOを2種以上併用する場合、炭素数2~20の2価アルコール等への結合順序は任意であり、その結合形式はランダム形式でもブロック形式でもこれらの併用でもよい。
【0023】
カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)、他のポリエステルポリオール及びポリエステルポリオール以外のポリオールは、それぞれ、ポリウレタン樹脂(P)の柔軟性の観点から、ジオールであることが好ましい。
【0024】
ポリオール成分(A)はさらに、親水性基及び活性水素(親水性基由来の活性水素を除く)を有する化合物(a2)を含んでいてもよい。ポリウレタン樹脂(P)が、前記化合物(a2)を含む(A)成分を構成材料とする態様であると、(P)を水性媒体に分散させる際に、分散安定性を向上させることができ、好ましい。以下において、「親水性基及び活性水素を有する化合物(a2)」を「化合物(a2)」と呼ぶことがある。
【0025】
化合物(a2)が有する親水性基としては、アニオン性基及びカチオン性基が挙げられる。化合物(a2)としてはアニオン性基及び活性水素を有する化合物(a21)及びカチオン性基と活性水素を含有する化合物(a22)等が挙げられる。化合物(a2)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
アニオン性基及び活性水素を有する化合物(a21)としては、例えばアニオン性基としてカルボン酸(塩)基を有する化合物、アニオン性基としてスルホン酸(塩)基を有する化合物、アニオン性基としてスルファミン酸(塩)基を有する化合物等が挙げられる。以下において、「アニオン性基及び活性水素を有する化合物(a21)」を「化合物(a21)」と呼ぶことがある。
アニオン性基としてカルボン酸(塩)基を有する化合物としては、カルボン酸(塩)基を有する炭素数が2~10の化合物が挙げられ、具体的には、ジアルキロールアルカン酸(例えば2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールヘプタン酸及び2,2-ジメチロールオクタン酸等)、酒石酸、アミノ酸(例えばグリシン、アラニン及びバリン)並びにこれらの化合物を中和剤(c1)(詳細は後述)で中和した塩等が挙げられる。
【0027】
アニオン性基としてスルホン酸(塩)基を有する化合物としては、スルホン酸(塩)基を有する炭素数が2~16の化合物が挙げられ、具体的には、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸、スルホイソフタル酸ジ(エチレングリコール)エステル、並びにこれらの化合物を中和剤(c1)で中和した塩等が挙げられる。
【0028】
アニオン性基としてスルファミン酸(塩)基を有する化合物としては、スルファミン酸(塩)基を有する炭素数が2~10の化合物が挙げられ、具体的には、N,N-ビス(2-ヒドロキシルエチル)スルファミン酸、並びにこれらの化合物を中和剤(c1)で中和した塩等が挙げられる。
【0029】
アニオン性基及び活性水素を有する化合物(a21)が塩である場合の中和剤(c1)としては、例えばアンモニア、炭素数1~20のアミン化合物及びアルカリ金属(ナトリウム、カリウム及びリチウム等)の水酸化物が挙げられる。
前記炭素数1~20のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノエタノールアミン及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン及びN-メチルジエタノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
これらのうち、好ましいのはトリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びN-メチルジエタノールアミンである。
【0030】
カチオン性基及び活性水素を含有する化合物(a22)としては、例えば炭素数1~20の3級アミノ基含有ジオール[N-アルキルジアルカノールアミン(例えばN-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン及びN-メチルジプロパノールアミン)及びN,N-ジアルキルモノアルカノールアミン(例えばN,N-ジメチルエタノールアミン)等]等の化合物を後述の中和剤(c2)(詳細は後述)で中和した塩等が挙げられる。以下において、「カチオン性基及び活性水素を有する化合物(a22)」を「化合物(a22)」と呼ぶことがある。
【0031】
化合物(a22)が塩である場合の中和剤(c2)としては、炭素数1~10のモノカルボン酸(例えばギ酸、酢酸、プロパン酸及び乳酸等)、炭酸、塩酸、燐酸、硫酸、炭酸ジメチル、硫酸ジメチル、メチルクロライド及びベンジルクロライド等が挙げられる。これらの内、好ましいのは炭酸及び燐酸である。以下において、中和剤(c1)及び中和剤(c2)を総括して「中和剤(C)」または「(C)成分」ともいう。
【0032】
親水性基及び活性水素を有する化合物(a2)が塩である場合の中和剤(C)は、ウレタン化反応前、ウレタン化反応中、ウレタン化反応後、水性媒体への分散工程前、水性媒体への分散工程中又は水性媒体への分散後のいずれの時期に添加しても良いが、ポリウレタン樹脂(P)の安定性の観点から、水性媒体への分散工程前又は水性媒体への分散工程中に添加することが好ましい。
【0033】
化合物(a2)としては、ポリウレタン樹脂(P)の分散安定性の観点からアニオン性基及び活性水素を有する化合物(a21)が好ましく、アニオン性基としてカルボン酸(塩)基を有する化合物がより好ましく、2,2-ジメチロールプロピオン酸及びその塩が特に好ましい。
【0034】
(A)成分が化合物(a2)としてアニオン性基及び活性水素を有する化合物(a21)を含む場合、前記アニオン性基の量はポリウレタン樹脂(P)の分散安定性の観点から、前記ポリウレタン樹脂(P)の重量に基づいて0.01~11重量%であることが好ましく、0.05~10重量%であることがより好ましい。化合物(a2)が塩の場合の親水性基の重量は、後述の中和剤により塩が形成される前の親水性基の重量、例えばカルボン酸塩の場合はカルボキシル基(カルボン酸基)の重量、スルホン酸塩の場合はスルホ基(スルホン酸基)の重量を意味する。
【0035】
(A)成分は、ポリオールを主成分とする成分であり、ポリオール以外に、必要に応じ、鎖伸長剤(a3)を含有してもよい。鎖伸長剤(a3)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0036】
鎖伸長剤(a3)としては、水、上記炭素数2~20の多価アルコール、炭素数2~36の脂肪族ポリアミン[エチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジヘキシレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチエレンヘキサミン及びヘキサエチレンヘプタミン等のポリ(n=2~6)アルキレン(炭素数2~6)ポリ(n=3~7)アミン等]、炭素数6~20の脂環式ポリアミン(1,3-又は1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-又は2,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン及びイソホロンジアミン等)、炭素数6~20の芳香族ポリアミン(1,3-又は1,4-フェニレンジアミン、2,4-又は2,6-トリレンジアミン、4,4’-又は2,4’-メチレンビスアニリン等)、炭素数3~20の複素環式ポリアミン(2, 4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン、ピペラジン及びN-アミノエチルピペラジン等)、ヒドラジン又はその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド例えばアジピン酸ジヒドラジド等)及び炭素数2~20のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール及びトリエタノールアミン)等が挙げられる。
【0037】
ポリウレタン樹脂(P)の機械的強度の観点から、鎖伸長剤(a3)としては、水、炭素数2~20の多価アルコール及び炭素数2~36の脂肪族ポリアミンが好ましく、1,4ブタンジオール、ジエチレントリアミン及びエチレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
【0038】
有機ポリイソシアネート成分(B)としては、ポリウレタンの製造に使用されている公知のものが使用でき、2~3個又はそれ以上のイソシアネート基を有する炭素数8~26の芳香族ポリイソシアネート(b1)、炭素数4~22の脂肪族ポリイソシアネート(b2)、炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b3)、炭素数10~18の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)及びこれらのポリイソシアネートの変性物(b5)等が挙げられる。有機イソシアネート成分(B)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0039】
炭素数8~26の芳香族ポリイソシアネート(b1)としては、例えば1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(以下、トリレンジイソシアネートをTDIと略記)、粗製TDI、4,4’-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、ジフェニルメタンジイソシアネートをMDIと略記)、粗製MDI、ポリアリールポリイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート及びm-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられる。
【0040】
炭素数4~22の脂肪族ポリイソシアネート(b2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略記)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート及び2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられる。
【0041】
炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b3)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」ともいう)、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(以下、水添MDIともいう)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート及び2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0042】
炭素数10~18の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)としては、例えばm-又はp-キシリレンジイソシアネート及びα,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0043】
(b1)~(b4)のポリイソシアネートの変性物(b5)としては、前記ポリイソシアネートの変性物(ウレタン基、カルボジイミド基、アロハネート基、ウレア基、ビウレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基又はオキサゾリドン基含有変性物等;遊離イソシアネート基含有量が通常8~33重量%、好ましくは10~30重量%、特に12~29重量%のもの)、例えば変性MDI(ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDI及びトリヒドロカルビルホスフェート変性MDI等)、ウレタン変性TDI、ビウレット変性HDI、イソシアヌレート変性HDI及びイソシアヌレート変性IPDI等のポリイソシアネートの変性物が挙げられる。
【0044】
有機ポリイソシアネート成分(B)としては、繊維繊維間摩擦力の観点から、炭素数8~18の脂環式ポリイソシアネート(b3)を含むことが好ましく、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネートがより好ましい。
【0045】
本発明における水性媒体(M)としては、水及び水と有機溶媒との混合物が挙げられる。有機溶剤としては、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル及びγ-ブチロラクトン等)、エーテル系溶剤(THF等)、アミド系溶剤[N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びN-メチルカプロラクタム等]、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコール等)及び芳香族炭化水素系溶剤(トルエン及びキシレン等)等が挙げられる。これらの有機溶剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。水性媒体としては、分散性の観点から、水と有機溶媒との混合物が好ましく、水と水溶性の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトン等)との組み合わせが好ましく、水とアセトンとの組み合わせが特に好ましい。
【0046】
本発明において、ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基の濃度及びウレア基の濃度の合計が11.0重量%超13.5重量%以下である。本発明におけるポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基濃度とウレア基濃度の合計が前記範囲であることにより、繊維繊維間摩擦力が低い合成繊維用処理剤を提供することができる。ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基の濃度及びウレア基の濃度の合計が13.5重量%超であると、繊維繊維間摩擦力が高くなり、前記合計が11.0重量%以下であるとゴムと合成繊維との接着力が低くなる。
【0047】
ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基の濃度及びウレア基の濃度の合計は、繊維繊維間摩擦力の観点から、好ましくは11.1重量%以上、より好ましくは11.2重量%以上であり、好ましくは13.4重量%以下、より好ましくは13.3重量%以下である。
【0048】
ポリウレタン樹脂(P)中のウレア基の濃度は、繊維繊維間摩擦力の観点から、好ましくは2.5~6.5重量%であり、より好ましくは2.8~6.2重量%である。
【0049】
ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基濃度及びウレア基濃度はそれぞれ、原料の仕込量から算出することもできるし、以下の分析方法により測定することもできる。
<ウレタン基濃度及びウレア基濃度の測定方法>
ポリウレタン樹脂(P)中のウレタン基濃度及びウレア基濃度は、窒素分析計[ANTEK7000(アンテック社製)]によって定量される窒素原子含有量とH-NMRによって定量されるウレタン基とウレア基の比率から算出する。H-NMR測定については、「NMRによるポリウレタン樹脂の構造研究:武田研究所報34(2)、224-323(1975)」に記載の方法で行う。即ちH-NMRを測定して、(B)成分として脂肪族イソシアネートを使用した場合、化学シフト6ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト7ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を測定し、当該重量比と上記の窒素原子含有量からウレタン基濃度及びウレア基濃度を算出する。(B)成分として芳香族イソシアネートを使用した場合、化学シフト8ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト9ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を算出し、当該重量比と上記の窒素原子含量からウレタン基濃度及びウレア基濃度を算出する。(B)成分として脂環式イソシアネートを使用した場合、化学シフト6ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト7ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を算出し、当該重量比と上記の窒素原子含量からウレタン基濃度及びウレア基濃度を算出する。
【0050】
本発明においてポリウレタン樹脂(P)の数平均分子量Mnは樹脂の機械的強度の観点から、好ましくは1万~100万、更に好ましくは1万~50万、特に好ましくは1万~20万、最も好ましくは1万~10万である。ポリウレタン樹脂(P)のMnは、例えば東ソー(株)製「HLC-8220GPC」を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、溶剤としてDMFを用い、ポリスチレンを標準物質として、サンプル濃度は0.125重量%とし、カラム固定相にはGuardcolumn α、TSKgel α-M[いずれも東ソー(株)]を用い、カラム温度は40℃として測定される。
【0051】
本発明の合成繊維用処理剤は、ポリウレタン樹脂(P)及び水性媒体を含むポリウレタン樹脂の水性分散体(U)として用いることができる。当該水性分散体(U)は、ポリウレタン樹脂(P)の構成成分[(A)成分および(B)成分]並びに必要に応じて使用する成分[例えば中和剤(C)及び酸化防止剤(D)(酸化防止剤については後述)など]を用いて、特開2016-84463号公報に記載の方法等により製造することができる。
【0052】
ポリウレタン樹脂の水性分散体(U)の製造方法の一例を説明する。カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1)を含むポリオール成分と有機イソシアネート成分(B)とを反応させて反応液を得る(工程1)。次に、工程1で得られた反応液に、中和剤(C)、酸化防止剤(D)及び水性媒体を加えて混合することにより分散体を得る(工程2)。
工程1における反応条件(温度、時間、圧力等)は用いる構成材料によって適宜設定することができる。工程2の後には鎖伸長工程を行ってもよい。鎖伸長工程は工程2で得られた分散体に鎖伸長剤(a3)を加えることにより行うことができる。さらに、分散体に含まれる溶剤などを除去する工程を行ってもよい。
【0053】
本発明の合成繊維用処理剤は、繊維-繊維間の摩擦低減効果の観点から、更に、平滑剤(E)及び/又はアニオン性界面活性剤(F)を含むことが好ましい。
【0054】
本発明において、平滑剤(E)は、繊維に平滑性を付与し、ゴムに繊維を練りこむ際、繊維(繊維-繊維間)にかかる摩擦を低減する基剤のことである。以下において、平滑剤(E)を「(E)成分」と呼ぶことがある。
平滑剤(E)としては、脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(E1)、脂肪族ポリカルボン酸アルキルエステル(E2)、硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(E3)、油脂及び油脂のAO付加物(E4)及びシリコーン化合物(E5)等が挙げられる。
平滑剤(E)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(E1)としては、脂肪族モノカルボン酸(e1)と、アルコール(ex)とのエステル(モノエステル、ジエステル、トリエステルまたはテトラエステル等)等が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸(e1)としては、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族飽和モノカルボン酸(e11)[直鎖脂肪族飽和モノカルボン酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等)、分岐脂肪族飽和モノカルボン酸(例えば、イソステアリン酸及びイソアラキン酸等)等]及び炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸(e12)[例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸及びエルシン酸等]並びにこれらの脂肪族モノカルボン酸のアルキル基中の水素原子が水酸基で置換されたオキシカルボン酸(例えば、リシノール酸等)等が挙げられる。脂肪族モノカルボン酸(e1)は炭素数に分布のあるカルボン酸(例えばヤシ油脂肪酸等)等であってもよい。
【0056】
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(E1)を構成するアルコール(ex)としては、例えば、炭素数3~32のアルコール、及びこれらのアルコールへのアルキレンオキサイド1~5モル付加物等が挙げられる。
炭素数3~32のアルコールとしては、炭素数8~32の脂肪族1価アルコール[脂肪族飽和1価アルコール{直鎖脂肪族飽和1価アルコール(例えば、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール及びステアリルアルコール等)、分岐脂肪族飽和1価アルコール(例えば、2-エチルヘキシルアルコール、2-デシルテトラデカノール、イソステアリルアルコール、イソエイコシルアルコール、イソテトラコシルアルコール等)等}、脂肪族不飽和1価アルコール{直鎖脂肪族不飽和1価アルコール(例えば、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール及びエルシルアルコール等)、分岐脂肪族不飽和1価アルコール(例えば、フィトール等)];炭素数3~24の脂肪族多価(2~6価)アルコール[脂肪族飽和2価アルコール(例えば、1,6-ヘキサンジオール及びネオペンチルグリコール等)及び脂肪族飽和3~6価アルコール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビトール等)等]等が挙げられる。これらのうちトリメチロールプロパンが好ましい。
炭素数3~32のアルコールに付加するアルキレンオキサイドとしては、炭素数2~4のアルキレンオキサイド(以下、AOと略記することがある。)が好ましく、具体的にはエチレンオキサイド(以下、EOと略記することがある。)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記することがある。)、ブチレンオキサイド(以下、BOと略記することがある。)等が挙げられる。これらのうち、乳化性の観点から、EOが更に好ましい。
また、AOの平均付加モル数は、平滑性の観点から、好ましくは1~4モルである。
【0057】
脂肪族ポリカルボン酸アルキルエステル(E2)としては、脂肪族ポリカルボン酸(e2)と、アルコール(ex)とのエステル(モノエステル、ジエステル、トリエステルまたはテトラエステル等)等が挙げられる。
脂肪族ポリカルボン酸(e2)としては、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族飽和ジカルボン酸(e21)[例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸等]、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和ジカルボン酸(e22)[例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸及びシトラコン酸等]、カルボキシル基を3つ以上有する炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族ポリカルボン酸(e23)[例えば、1,2,3-プロパントリカルボン酸等]等が挙げられる。
脂肪族ポリカルボン酸アルキルエステル(E2)を構成するアルコール(ex)としては、脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(E1)で説明したアルコール(ex)と同じものが挙げられる。
【0058】
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(E3)としては、硫黄原子含有脂肪族カルボン酸(e3)[炭素数4~24のものが好ましく、例えば、チオジ酢酸、チオジプロピオン酸、チオジ酪酸、チオジ吉草酸及びチオジヘキサン酸等が挙げられる]と、アルコール(ex)とのエステル(モノエステル、ジエステル、トリエステルまたはテトラエステル等)等が挙げられる。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(E3)を構成するアルコール(ex)としては、脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(E1)で説明したアルコール(ex)と同じものが挙げられる。
【0059】
油脂および油脂のAO付加物(E4)としては、天然油脂(脂肪酸とグリセリンとのエステル化物)、及び前記天然油脂のAO付加物等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、菜種油(主成分をエルカ酸トリグリセリドとする混合物)、パーム油(主成分をオレイン酸及びパルミチン酸のグリセリドとする混合物)、ヒマシ油(主成分をリシノール酸のグリセリドとする混合物)、ひまわり油(主成分をリノール酸及びオレイン酸のグリセリドとする混合物)等が挙げられる。油脂のAO付加物の具体例としてはポリオキシエチレンヒマシ油等が挙げられる。
【0060】
シリコーン化合物(E5)としてはジメチルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、フェニル変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0061】
平滑剤(E)としては、脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(E1)、脂肪族ポリカルボン酸アルキルエステル(E2)及びシリコーン化合物(E5)からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、トリメチロールプロパンのヤシ油脂肪酸(モノ、ジまたはトリ)エステル及びジメチルポリシロキサン等がより好ましい。
【0062】
平滑剤(E)の化学式量又は数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、好ましくは400~1,100であり、更に好ましくは500~800の範囲である。
化学式量又はMnが400以上である場合、平滑剤成分としての耐熱性又は油膜強度が特に優れるため、十分な平滑性が得られやすく、一方、Mnが1,100以下であれば、繊維と繊維間の動摩擦係数が低くなり平滑性が向上するため好ましい。
【0063】
なお、本発明において、平滑剤(E)の数平均分子量Mnは、GPCにより例えば以下の測定条件で測定することができる。
<GPCの測定条件>
機種:HLC-8120[東ソー(株)製]
カラム:TSK gelSuperH4000、TSK gel SuperH3000、TSK gel SuperH2000[いずれも東ソー(株)製]
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6ml/分
試料濃度:0.25重量%
注入量:10μl
標準:ポリオキシエチレングリコール[東ソー(株)製;TSK STANDARD POLYETHYLENE OXIDE]
データ処理装置:SC-8020[東ソー(株)製]
【0064】
アニオン性界面活性剤(F)としては、炭素数8~24の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩(F1)及び炭素数8~24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩(F2)等が挙げられる。アニオン性界面活性剤(F)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
以下において、アニオン性界面活性剤(F)を「(F)成分」と呼ぶことがある。
【0065】
炭素数8~24の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩(F1)を構成する炭素数8~24の脂肪族アルコールとしては、炭素数8~24の直鎖脂肪族飽和1価アルコール(例えば、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール及びステアリルアルコール等)、炭素数8~24の分岐脂肪族飽和1価アルコール(例えば、2-エチルヘキシルアルコール、2-デシルテトラデカノール、イソステアリルアルコール、イソエイコシルアルコール、イソテトラコシルアルコール等)、炭素数8~24の直鎖脂肪族不飽和1価アルコール(例えば、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール及びエルシルアルコール等)及び炭素数8~24の分岐脂肪族不飽和1価アルコール(例えば、フィトール等)等が挙げられる。
これらのうち炭素数8~24の分岐脂肪族飽和1価アルコール及び炭素数8~24の直鎖脂肪族不飽和1価アルコールが好ましく、炭素数8~20の直鎖脂肪族不飽和1価アルコールがより好ましく、オレイルアルコールがさらに好ましい。
【0066】
炭素数8~24の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩(F1)は、炭素数8~24の脂肪族アルコールのリン酸エステルのアルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属原子としてはナトリウム原子、カリウム原子及びリチウム原子等が挙げられる。これらのうち、カリウム原子およびナトリウム原子が好ましい。
【0067】
炭素数8~24の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩(F1)は、リン酸モノエステル塩、リン酸ジエステル塩及びこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0068】
炭素数8~24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩(F2)を構成する炭素数8~24の脂肪族アルコールとしては、上記(F1)の説明で例示した炭素数8~24の脂肪族アルコールと同様のものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0069】
炭素数8~24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩(F2)を構成するアルキレンオキサイド(AO)としては炭素数2~4のアルキレンオキサイドが好ましく、具体的にはエチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド(BO)等が挙げられる。これらのうち、乳化性の観点から、EOが更に好ましい。
また、AOの平均付加モル数は、平滑性の観点から、好ましくは1~4モルである。
【0070】
炭素数8~24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩(F2)は、炭素数8~24の脂肪族アルコールのリン酸エステルのアルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属原子としてはナトリウム原子、カリウム原子及びリチウム原子等が挙げられる。これらのうち、カリウム原子およびナトリウム原子が好ましい。
【0071】
炭素数8~24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩(F2)は、リン酸モノエステル塩、リン酸ジエステル塩及びこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0072】
本発明の合成繊維用処理剤中のポリウレタン樹脂(P)[以下(P)成分ともいう]の重量割合は、ゴムと合成繊維との接着力が高く、繊維繊維間摩擦力を低くする効果が高いという観点から、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量に基づいて、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上であり、好ましくは100重量%以下、より好ましくは99.7重量%以下である。本発明において、「不揮発性成分」とは、試料1gをガラス製シャーレ中で蓋をせず、130℃45分間循風乾燥機で加熱乾燥した後の残渣である。
【0073】
本発明において、合成繊維用処理剤中の(E)成分の重量割合は、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量に基づいて、好ましくは0重量%~80重量%、より好ましくは0重量%~75重量%である。
【0074】
本発明において、合成繊維用処理剤中の(F)成分の重量割合は、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量に基づいて、好ましくは0重量%~80重量%、より好ましくは0重量%~75重量%である。
【0075】
本発明の合成繊維用処理剤は、(P)成分、(E)成分及び(F)成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては酸化防止剤(D)、希釈剤(G)、その他の添加剤(H)等が挙げられる。
【0076】
酸化防止剤(D)としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤〔2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン[BASF社製イルガノックス565]、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート[BASF社製イルガノックス245]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート][BASF社製イルガノックス1010]等〕、イオウ系酸化防止剤(2-メルカプトベンズイミダゾール等)及びリン系酸化防止剤[ポリ(ジプロピレングリコール)フェニルホスファイト等]等が挙げられる。これらは一種単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。「酸化防止剤(D)」を「(D)成分」ともいう。
【0077】
希釈剤(G)としては、水及び鉱物油[精製スピンドル油及び流動パラフィン(ノルマルパラフィン等)等]等が挙げられる。
【0078】
その他の添加剤(H)としては、制電剤(脂肪酸石鹸など)、pH調整剤[アルカリ類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルキルアミン及びアルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物)、有機酸類(オレイン酸等)等]、紫外線吸収剤、粘度調整剤及び外観調整剤等が挙げられる。
【0079】
本発明の合成繊維用処理剤は、エマルションとして合成繊維に付与することができる。エマルションが水を含有するエマルション(水系エマルション)の場合、ムラなく繊維に給油でき、合成繊維用処理剤の飛散を防ぐ観点から、合成繊維用処理剤中の不揮発性成分の重量割合は、合成繊維用処理剤の重量に基づいて、5~30重量%であることが好ましく、5~25重量%であることが更に好ましい。
【0080】
本発明の合成繊維用処理剤が、上記の鉱物油を含有する鉱物油溶液の場合(水を含有するエマルションではない場合)、ムラなく繊維に給油でき、処理剤の飛散を防ぐ観点から、合成繊維用処理剤中の不揮発性成分の重量割合は、合成繊維用処理剤の重量に基づいて、10~90重量%であることが好ましく、15~85重量%であることが更に好ましい。鉱物油溶液の動粘度(25℃)は1~500mm/sが好ましく、さらに好ましくは2~300mm/sである。なお、本発明において、動粘度(25℃)は、ウベローデ型粘度計にて測定した値である。
【0081】
本発明の合成繊維用処理剤は、ポリウレタン樹脂の水性分散体(U)及び必要に応じ用いる成分[例えば(E)成分、(F)成分、希釈剤(G)及びその他の添加剤(H)等]を、常温又は必要により加熱(例えば30~90℃)して均一に混合すること等により得ることができる。各成分の配合順序、配合方法は特に限定されない。
【0082】
[合成繊維]
本発明の合成繊維は本発明の合成繊維用処理剤を含む。
本発明の合成繊維は、カーボネート基を有するポリエステルポリオールを含むポリオール成分(A)及び有機ポリイソシアネート成分(B)を構成原料とするポリウレタン樹脂を含む。当該ポリウレタン樹脂は本発明の合成繊維用処理剤由来のポリウレタン樹脂(P)であることが好ましいが、これに限定されない。ポリオール成分(A)および有機ポリイソシアネート成分(B)は、上記合成繊維用処理剤で説明した(A)成分および(B)成分と同様である。
本発明の合成繊維において、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の割合は、合成繊維の重量に基づき、0.2~2重量%であることが好ましい。
【0083】
本発明の合成繊維は、合成繊維用処理剤で処理する前の合成繊維(「未処理繊維」と呼ぶ)を、本発明の合成繊維用処理剤で処理して得ることができる。
【0084】
未処理繊維を本発明の合成繊維用処理剤により処理する際には、本発明の合成繊維用処理剤として、上記の希釈剤(水及び鉱物油等)を含有しないもの(希釈剤で希釈しないもの)を用いてもよいが、上記の希釈剤により希釈した溶液又はエマルションを用いてもよい。
【0085】
合成繊維用処理剤の未処理繊維への付与方法としては、公知の方法等が使用でき、ローラー又はガイド給油装置等を用いて、紡糸工程、延伸工程の後に付着させることができる。合成繊維用処理剤は含浸により未処理繊維に付与してもよい。
【0086】
本発明の合成繊維用処理剤で処理した合成繊維においてはゴムと繊維との接着性を向上させることができ、かつ繊維繊維間摩擦力を低くする効果が高い。つまり本発明によれば、ゴムと合成繊維との接着力を高めつつ、繊維繊維間摩擦力を低くすることにより、繊維の開繊性を良好なものとすることができ、繊維がゴムに均一に分散してゴム補強効果を向上できる。したがって、本発明の合成繊維用処理剤で処理した合成繊維は、タイヤコード、動力伝達ベルト、搬送用ベルト及びゴムホースの補強コード等の用途で用いることが好ましい。ゴム補強用の繊維としてはアラミド繊維が好ましい。
【0087】
ゴム補強用のアラミド繊維を用いるゴムとしては、例えば、アクリルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、多硫化ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム及びフッ素ゴム等のゴムが挙げられる。
【0088】
本発明の合成繊維はゴム補強用のアラミド繊維以外に、例えば、エアバッグ用ナイロン繊維、タイヤコード用ナイロン繊維、エアバッグ用ポリエステル繊維、タイヤコード用ポリエステル繊維及びシートベルト用ポリエステル繊維にも適用できる。
【実施例0089】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下において部は重量部を表す。
【0090】
<製造例1:(E-1)の製造>
撹拌機、温度計を備えた反応容器に、椰子油脂肪酸422重量部、トリメチロールプロパン100重量部、パラトルエンスルホン酸1.4重量部及び50重量%次亜リン酸水溶液0.9重量部投入し、窒素雰囲気下、徐々に165℃まで昇温し、10時間、減圧度2.7kPaで、エステル化反応を行った。95℃まで冷却し、「キョーワード600S」(協和化学工業社製;ケイ酸マグネシウム)2.0重量部を投入し、0.5時間撹拌した。「ラヂオライト#700」(協和化学工業社製;ケイソウ土ろ過助剤)を用いてろ過し、トリメチロールプロパン椰子脂肪酸トリエステル(E-1)を得た。
【0091】
<製造例2:(F-1)の製造>
撹拌機、温度計を備えた反応容器に、オレイルアルコール602重量部及び無水リン酸105重量部を仕込み、60℃で反応させた後、水酸化カリウム88重量部を投入し、オレイルアルコールのリン酸エステルカリウム塩(モノオレイルリン酸二カリウム塩及びジオレイルリン酸カリウム塩の混合物)を得た。得られたオレイルアルコールリン酸エステルカリウム塩に水を加えて、オレイルアルコールリン酸エステルカリウム塩(F-1)を25重量%含有する溶液を得た。
【0092】
<製造例3:(F-2)の製造>
製造例2において、オレイルアルコール602重量部に代えて、オレイルアルコールEO5モル付加物を525重量部、水酸化カリウム88重量部に代えて、水酸化ナトリウムを74重量部用いたこと以外は製造例2と同様にして、オレイルアルコールEO5モル付加物のリン酸エステルナトリウム塩を得た。得られたオレイルアルコールEO5モル付加物のリン酸エステルナトリウム塩に水を加えて、オレイルアルコールEO5モル付加物のリン酸エステルナトリウム塩(F-2)を73重量%含有する溶液を得た。
【0093】
[実施例1~17及び比較例1~11]
下記成分を用いて各例の繊維用処理剤を製造し、評価試験を行った。
実施例および比較例で用いた各成分は以下の通りである。
[ポリウレタン樹脂分散体(U)]
[ポリウレタン樹脂(P)]
(A)成分
(a1:ポリエステルポリオール)
(a1-1):カーボネート基を有するポリエステルジオール[「ETERNACOLL UH-200」、宇部興産(株)製のポリカーボネートジオール、Mn:2000]
(a1-2):カーボネート基を有するポリエステルジオール[「デュラノール G4672」、旭化成ケミカルズ(株)製のポリカーボネートジオール、Mn:2000]
(a1-3):カーボネート基を有するポリエステルジオール[「デュラノール T6002」、旭化成ケミカルズ(株)製のポリカーボネートジオール、Mn:2000]
(a2:親水基及び活性水素を有する化合物)
(a2-1):ジメチロールプロピオン酸
(a3:鎖伸長剤)
(a3-1):1,4-ブタンジオール
(a3-2):ジエチレントリアミン
(a3-3):エチレンジアミン
(a3-4):エチレングリコール
[比較の成分:上記ポリエステルポリオール(a1)に代えて比較例で用いた成分]
(a’-1):PP2000(ポリプロピレン:Mn2000)
(B)成分
(b-1):4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)
(b-2):ヘキサメチレンジイソシアネート
(b-3):イソホロンジイソシアネート
(C)成分
(C-1):トリエチルアミン
[水性媒体(M)]
(M-1):アセトン
(M-2)水
[酸化防止剤(D)]
(D-1)BASF社製イルガノックス245
[(E)成分]
(E-1):製造例1で得たトリメチロールプロパントリ椰子脂肪酸エステル
(E-2):ジメチルポリシロキサン[品名:KF-96-100CS、信越化学工業(株)製]
(E-3):ポリオキシエチレンヒマシ油[品名:ブラウノン BR-425、青木油脂工業(株)製]
[(F)成分]
(F-1):製造例2で得たオレイルアルコールリン酸エステルカリウム塩を25重量%含有する溶液
(F-2):製造例3で得たオレイルアルコールEO5モル付加物のリン酸エステルナトリウム塩を73重量%含有する溶液
【0094】
[実施例1]
(1)繊維用処理剤の製造
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1-1)30部、カーボネート基を有するポリエステルポリオール(a1-2)189.2部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(a2-1)27.7部、水添MDI(b-1)126.8部及びアセトン249.1部を仕込んだ。続いて乾燥窒素雰囲気下で75℃に加熱し、10時間ウレタン化反応を行い、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造した。反応溶液を40℃に冷却後、ヒンダードフェノール系酸化防止剤[BASF(株)製「IRGANOX 245]1.0部、トリエチルアミン(C-1)14.6部及びアセトン297.0部を添加・混合し、更に水500.0部を混合してなる水性媒体を加え回転子-固定子式方式の機械乳化機で混合することで水性分散体を得た。得られた水性分散体に撹拌下、水94.6部に鎖伸長剤[1,4-ブタンジオール(a3-1)0.4部、ジエチエレントリアミン(a3-2)5.9部及びエチレンジアミン(a3-3)0.4部]を溶解した溶液を加え、50℃で5時間撹拌して鎖伸長反応を行った。その後、減圧下に65℃でアセトンを留去し、ポリウレタン樹脂水性分散体を含む繊維用処理剤を得た。
【0095】
(2)試料コードの作製
(1)で得られた繊維用処理剤を、以下の方法により撚糸コードに付着させた。
脱脂乾燥したポリエステル繊維の撚糸コード(1000デニール/72フィラメント、Performance Fibers社製)を繊維用処理剤に浸して、5分間静置した後、遠心脱水機にて処理前のコードの重量の1.013倍となるように絞り、60℃の乾燥機にて乾燥させることで水を除去し、繊維用処理剤を付着させた試料コードを作製した。処理剤の付着量は0.5重量%となるようにした。当該試料コードを用いて後述の評価試験(剥離試験力、繊維-繊維間摩擦力、繊維-金属間摩擦力及び繊維-金属間摩擦帯電量)を行った。結果を表1に示す。
【0096】
[実施例2~3、比較例2]
実施例1の(1)において、各成分の量を表1及び表2に記載の量に変更したこと以外は実施例1の(1)と同じ操作を行い、ポリウレタン樹脂水性分散体を含む繊維用処理剤を得た。
得られた各例の繊維用処理剤を用いて実施例1の(2)と同じ方法により試料コードを作製した。処理剤の付着量は表1及び表2に記載の量となるように調整した。作製した試料コードを用いて後述の評価試験(剥離試験力、繊維-繊維間摩擦力、繊維-金属間摩擦力及び繊維-金属間摩擦帯電量)を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0097】
[実施例4]
(1)繊維用処理剤の製造
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、(a1-1)28.5部、(a1-2)179.7部と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(a2-1)26.3部、水添MDI(b-1)120.5部及びアセトン236.7部を仕込んだ。続いて乾燥窒素雰囲気下で75℃に加熱し、10時間ウレタン化反応を行い、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造した。反応溶液を40℃に冷却後、ヒンダードフェノール系酸化防止剤[BASF(株)製「IRGANOX 245]1.0部、トリエチルアミン(C-1)13.9部及びアセトン282.2部を添加・混合し、更に水475.0部を混合してなる水性媒体を加え回転子-固定子式方式の機械乳化機で混合することで水性分散体を得た。得られた水性分散体に撹拌下、水89.9部に鎖伸長剤[1,4-ブタンジオール(a3-1)0.4部、ジエチエレントリアミン(a3-2)5.6部及びエチレンジアミン(a3-3)0.4部]を溶解した溶液を加え、50℃で5時間撹拌して鎖伸長反応を行った。その後、減圧下に65℃でアセトンを留去し、ポリウレタン樹脂水性分散体を得た。さらに、その後、(E-1)50部を加えて40℃で30分間撹拌し、繊維用処理剤を得た。
【0098】
(2)試料コードの作製
(1)で得られた繊維用処理剤を用いて実施例1の(2)と同じ方法により試料コードを作製した。処理剤の付着量は表1に記載の量となるように調整した。作製した試料コードを用いて後述の評価試験(剥離試験力、繊維-繊維間摩擦力、繊維-金属間摩擦力及び繊維-金属間摩擦帯電量)を行った。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例5~17及び比較例5~11]
実施例4の(1)において、各成分の量を表1及び表2に記載の量に変更したこと以外は実施例1の(1)と同じ操作を行い、ポリウレタン樹脂水性分散体を含む繊維用処理剤を得た。(F)成分を用いる例(例えば実施例5)では、(E)成分と同様にアセトン留去後に(F)成分を添加した。(E)成分及び(F)成分を共に用いる例(例えば実施例6)ではアセトン留去後に(E)成分と(F)成分を添加した。
得られた各例の繊維用処理剤を用いて実施例1の(2)と同じ方法により試料コードを作製し、当該試料コードを用いて後述の評価試験(剥離試験力、繊維-繊維間摩擦力、繊維-金属間摩擦力及び繊維-金属間摩擦帯電量)を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0100】
[比較例1]
(1)繊維用処理剤の製造
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置にPP2000(a’-1)211.3部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(a2-1)29.0部、水添MDI(b-1)132.4部及びアセトン248.5部を仕込んだ。続いて乾燥窒素雰囲気下で75℃に加熱し、10時間ウレタン化反応を行い、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造した。反応溶液を40℃に冷却後、ヒンダードフェノール系酸化防止剤[BASF(株)製「IRGANOX 245]1.0部、トリエチルアミン(C-1)15.3部及びアセトン296.8部を添加・混合し、更に水500.0部を混合してなる水性媒体を加え回転子-固定子式方式の機械乳化機で混合することで水性分散体を得た。得られた水性分散体に撹拌下、水94.6部、鎖伸長剤[1,4-ブタンジオール(a3-1)0.4部、ジエチエレントリアミン(a3-2)6.2部及びエチレンジアミン(a3-3)0.4部]を溶解した溶液を加え、50℃で5時間撹拌して鎖伸長反応を行った。その後、減圧下に65℃でアセトンを留去し、ポリウレタン樹脂水性分散体を含む繊維用処理剤を得た。
【0101】
(2)試料コードの作製
(1)で得られた繊維用処理剤を、実施例1の(1)と同じ方法により試料コードを作製した。当該試料コードを用いて後述の評価試験(剥離試験力、繊維-繊維間摩擦力、繊維-金属間摩擦力及び繊維-金属間摩擦帯電量)を行った。結果を表2に示す。
【0102】
[比較例4]
(1)繊維用処理剤の製造
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、(E-3)900部及び(F-2)100部を加え、40℃で1時間撹拌して比較例6の繊維用処理剤を得た。
(2)試料コードの作製
(1)で得られた繊維用処理剤を、実施例1の(1)と同じ方法により試料コードを作製した。当該試料コードを用いて評価試験(剥離試験力、繊維-繊維間摩擦力、繊維-金属間摩擦力及び繊維-金属間摩擦帯電量)を行った。結果を表2に示す。
【0103】
[評価試験]
<評価試験1:剥離試験力の測定>
(1)試験片の作製
各例の試料コードを用い下記方法に従って、試験片を作製した。
上記の試料コードの先端から4cmのところまで接着剤(速乾GF(クロロプレンゴム系接着剤);セメダイン社製)を塗布し30分間乾燥させた。
乾燥後の試料コード2本を、接着剤が付着した面同士を貼り合わせて固定し、室温で10日間静置し、一対の試験片を作製した。試験片は、各例ごとに5対作製した。比較例3については合成繊維用処理剤を付着させない(未処理の)撚糸コードを用いて上記接着剤を塗布し、試験片を作製した。
【0104】
(2)剥離力の測定
下記に従い、剥離力を測定した。
各試験片の引張試験(引張試験速度300mm/分)を行い試験片が剥離するときの力(N)を測定し、5対の試験片の測定値の平均値を算出した。結果を表に示す。剥離力は大きいほうが、クロロプレンゴムと合成繊維との接着力が高くなる。ゴムと合成繊維との接着性に優れるという観点から、剥離力は68N以上が好ましい。一方、剥離力が大きすぎる(接着力が高すぎる)と繊維の開繊性が低下し繊維がゴムに均一に分散しづらくなりゴム補強効果が低下することがある。ゴム補強効果に優れるという観点から、剥離力は90N以下が好ましい。
【0105】
<評価試験2:繊維-繊維間の摩擦力の測定>
評価試験1の試料コードの作製において、脱脂乾燥したポリエステル繊維の撚糸コードを6,6-ナイロン製の原糸(470デニール/72フィラメント)に変えたこと以外は「評価試験1」と同じ操作を行い、各例の合成繊維用処理剤を付着させた試料糸を作製した。比較例3については合成繊維用処理剤を付着させない、上記原糸[6,6-ナイロン製の原糸(470デニール/72フィラメント)]を(未処理で)使用した。
【0106】
作製した各例の試料糸を、温度25℃、湿度40%の条件下、TORAY式摩擦試験機を用いて初期荷重9.8N(1000gf)、糸速度100m/分、ツイスト数2.5回における繊維-繊維間の摩擦を測定した。結果を表1及び表2に示す。
繊維-繊維間の摩擦力は作業性に優れ加工しやすいという観点から16.1N以上が好ましい。一方、繊維-繊維間摩擦力が大きくなりすぎると、開繊しにくくなり、繊維がゴムに均一に分散しづらくなりゴム補強効果が低下することがある。繊維-繊維間摩擦力は、開繊性に優れるという観点から17.4N以下が好ましい。
【0107】
<評価試験3:繊維-金属間の摩擦力及び摩擦帯電量の測定>
評価試験2で作成した試料糸を用いて、下記の方法により、繊維-金属間の摩力及び摩擦帯電量を測定した。
(1)糸速度0.5m/分の条件における繊維-金属間の摩擦力及び摩擦帯電量の測定
試料糸を、温度25℃、湿度40%の条件下で、TORAY式摩擦試験機を用いて表面温度が25℃の摩擦体の表面(表面梨地クロムメッキ、直径5cmの円柱状の摩擦体)に初期荷重9.8N(1000gf)、糸速度0.5m/分、接触角180°で接触させた後の荷重を測定し、試料糸と摩擦体との摩擦力とした。結果を表1及び表2に示す。
糸速度0.5m/分の条件での繊維-金属間の摩擦力は作業性に優れ加工しやすいという観点から17.1N以上が好ましく、毛羽の発生を少なくできるという観点から18.5N以下が好ましい。
摩擦帯電量の測定はデジタル静電集電位測定器(春日電機(株)製、品番:MODEL KSD-1000)を用いて行った。糸速度0.5m/分の条件での繊維-金属間の摩擦帯電量は、均一に巻き取りやすいという観点から-50V~0Vが好ましい。結果を表1及び表2に示す。
【0108】
(2)糸速度300m/分の時の繊維-金属間の摩擦力及び摩擦帯電量の測定
試料糸を、温度25℃、湿度40%の条件下で、TORAY式摩擦試験機を用いて表面温度が25℃の摩擦体の表面(表面梨地クロムメッキ、直径5cmの円柱状の摩擦体)に初期荷重9.8N(1000gf)、糸速度300m/分、接触角180°で接触させた後の荷重を測定し、試料糸と摩擦体との摩擦力とした。結果を表1及び表2に示す。
糸速度300m/分の条件での繊維-金属間の摩擦力は、作業性に優れ加工しやすいという観点から20.6N以上が好ましく、毛羽の発生を少なくできるという観点から22.7N以下が好ましい。
摩擦帯電量の測定はデジタル静電集電位測定器(春日電機(株)製、品番:MODEL KSD-1000)を用いて行った。糸速度300m/分の条件での繊維-金属間の摩擦帯電量は、均一に巻き取りやすいという観点から-50V~0Vが好ましい。結果を表1及び表2に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
実施例の合成繊維用処理剤を用いた繊維では、剥離力が高く、ゴムと合成繊維との接着性に優れることがわかる。
実施例の合成繊維用処理剤を用いた繊維においては、剥離力が大きすぎず(90N以下)、また繊維-繊維間摩擦力が低い(17.4N以下)ので、開繊性に優れており繊維がゴムに均一に分散しやすくなりゴムの補強効果に優れると推察される。
以上より、本発明によれば、ゴムと合成繊維との接着力が高く、繊維繊維間摩擦力を低くする効果が高い合成繊維用処理剤を提供することができる。