(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129893
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】缶詰飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20230912BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20230912BHJP
B65D 8/20 20060101ALI20230912BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230912BHJP
A23L 2/54 20060101ALI20230912BHJP
C12G 3/04 20190101ALN20230912BHJP
【FI】
A23L2/00 W
C09K3/10 C
C09K3/10 E
B65D8/20 B
A23L2/52
A23L2/54
A23L2/00 T
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034228
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】大學 康宏
(72)【発明者】
【氏名】喜田 奈央
(72)【発明者】
【氏名】森田 碧
(72)【発明者】
【氏名】土谷 展生
(72)【発明者】
【氏名】小澤 誠
(72)【発明者】
【氏名】井阪 僚
(72)【発明者】
【氏名】土屋 広之
(72)【発明者】
【氏名】島田 宜治
【テーマコード(参考)】
3E061
4B115
4B117
4H017
【Fターム(参考)】
3E061AA16
3E061AB08
3E061AC05
3E061BA01
3E061BB08
3E061DB08
4B115LG02
4B115LH03
4B115LP01
4B115LP02
4B117LC14
4B117LC15
4B117LE10
4B117LG01
4B117LK04
4B117LK06
4B117LK07
4B117LL01
4B117LP17
4H017AA03
4H017AA04
4H017AB01
4H017AC14
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】d-リモネンと密封材との相互作用を抑制することのできる、缶詰飲料を提供すること。
【解決手段】飲料缶と、前記飲料缶に充填されたd-リモネンを含有する飲料と、を含む缶詰飲料であって、前記飲料缶には、前記飲料缶の密封性を高めるための密封材が設けられており、前記密封材は、ゴム成分、充填剤、及び老化防止剤を含有し、前記ゴム成分が、アクリロニトリルブタジエンゴムを主成分とし、スチレン系ゴム及びロジン系樹脂を含有せず、前記密封材は、28%以下の皮膜膨潤率を有する、缶詰飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料缶と、前記飲料缶に充填されたd-リモネンを含有する飲料と、を含む缶詰飲料であって、
前記飲料缶には、前記飲料缶の密封性を高めるための密封材が設けられており、
前記密封材は、ゴム成分、充填剤、及び老化防止剤を含有し、
前記ゴム成分が、アクリロニトリルブタジエンゴムを主成分とし、スチレン系ゴム及びロジン系樹脂を含有せず、
前記密封材は、28%以下の皮膜膨潤率を有し、
前記皮膜膨潤率は、下記式1に従って算出される値であり、
(式1)皮膜膨潤率(%)=[(M2/625)-1]×100
式1中、Mは、前記密封材からなる厚み0.25mm、直径25mmの乾燥皮膜を、d-リモネン(38℃)中に72時間浸漬した時の皮膜の直交する2方向の直径の平均値M(mm)である、
缶詰飲料。
【請求項2】
前記密封材の厚み0.2~0.4mmの乾燥皮膜が、引張試験(JIS K 6251準拠)により測定して、0.4~6MPaの範囲にある引張強さを有する、請求項1記載の缶詰飲料。
【請求項3】
前記ゴム成分が、1種又は2種以上のアクリロニトリルブタジエンゴムで構成される請求項1又は2記載の缶詰飲料。
【請求項4】
前記密封材において、前記ゴム成分(固形分)100重量部に対して、前記充填剤が4~80重量部の量で含有されている、請求項1~3の何れかに記載の缶詰飲料。
【請求項5】
前記充填剤が、アルミニウム系充填剤である請求項1~4の何れかに記載の缶詰飲料。
【請求項6】
前記飲料缶が、開口部を有する缶体と、前記開口部を閉じるように設けられた金属蓋とを備えており、
前記密封材は、前記缶体と前記金属蓋との接合部に設けられている、請求項1~5の何れかに記載の缶詰飲料。
【請求項7】
前記缶体と、前記金属蓋とは、二重巻締により接合されている、請求項6に記載の缶詰飲料。
【請求項8】
前記飲料は、可食性の水溶液と、d-リモネンを含む疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離している、請求項1~7の何れかに記載の缶詰飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
容器に詰められた飲料として、缶詰飲料が普及している。缶詰飲料の製造時には、まず、一部が開口した缶体が用意され、缶体に飲料液が充填される。飲料液の充填後、一般的には金属蓋により開口部が閉じられる。金属蓋と缶体とは、例えば二重巻締により接合される。
【0003】
金属蓋と缶体とは、高い密封性が得られるように接合されていることが求められる。密封性を確保する為に、金属蓋と缶体との間に、密封材として塗膜が設けられる場合がある。密封材には、巻締時の巻締性と共に、長期にわたって容器の密封性を確保し得る密封性を有することが要求される。
【0004】
このような性能を有する密封材として、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)やカルボキシル化スチレン-ブタジエンゴム(CSBR)等のスチレン系のエラストマーをベースとする密封材組成物が広く使用されており、例えば、特許文献1には、容器用シーラント組成物として、上記SBRの他、ロジン系樹脂等の粘着付与剤や充填剤を配合し得ることが記載されている。
【0005】
一方で、飲料として、d-リモネンを含有する飲料も知られている(例えば特許文献2、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6116584号
【特許文献2】特開2018-99089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、密封材としてSBRを含む材料を使用し、飲料がd-リモネンを含有する場合には、d-リモネンと密封材との相互作用により、密封材が膨潤し、劣化してしまう場合があることが判った。
また、密封材の柔軟性を高めるため、軟化剤としてロジン系樹脂が使用される場合もあるが、ロジン系樹脂を使用した場合にも、スチレン系樹脂と同様に、d-リモネンとの間の相互作用による劣化が起こりやすくなることが判った。
そして、SBR及びロジン系樹脂を使用することなく、缶詰飲料に要求される物性を有する密封材を実現することは、困難であった。
そこで、本発明の課題は、d-リモネンと密封材との相互作用による密封材の劣化を防止しつつ、密封材が缶詰飲料に要求される物性を有する、缶詰飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、密封材の組成を工夫することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の手段により実現される。
[1]飲料缶と、前記飲料缶に充填されたd-リモネンを含有する飲料と、を含む缶詰飲料であって、前記飲料缶には、前記飲料缶の密封性を高めるための密封材が設けられており、前記密封材は、ゴム成分、充填剤、及び老化防止剤を含有し、前記ゴム成分が、アクリロニトリルブタジエンゴムを主成分とし、スチレン系ゴム及びロジン系樹脂を含有せず、前記密封材は、28%以下の皮膜膨潤率を有し、前記皮膜膨潤率は、下記式1に従って算出される値であり、
(式1)皮膜膨潤率(%)=[(M2/625)-1]×100
式1中、Mは、前記密封材からなる厚み0.25mm、直径25mmの乾燥皮膜を、d-リモネン(38℃)中に72時間浸漬した時の皮膜の直交する2方向の直径の平均値M(mm)である、缶詰飲料。
[2]前記密封材の厚み0.2~0.4mmの乾燥皮膜が、引張試験(JIS K 6251準拠)により測定して、0.4~6MPaの範囲にある引張強さを有する、[1]記載の缶詰飲料。
[3]前記ゴム成分が、1種又は2種以上のアクリロニトリルブタジエンゴムで構成される[1]又は[2]記載の缶詰飲料。
[4]前記密封材において、前記ゴム成分(固形分)100重量部に対して、前記充填剤が4~80重量部の量で含有されている、[1]~[3]の何れかに記載の缶詰飲料。
[5]前記充填剤が、アルミニウム系充填剤である[1]~[4]の何れかに記載の缶詰飲料。
[6]前記飲料缶が、開口部を有する缶体と、前記開口部を閉じるように設けられた金属蓋とを備えており、前記密封材は、前記缶体と前記金属蓋との接合部に設けられている、[1]~[5]の何れかに記載の缶詰飲料。
[7]前記缶体と、前記金属蓋とは、二重巻締により接合されている、[6]に記載の缶詰飲料。
[8]前記飲料は、可食性の水溶液と、d-リモネンを含む疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離している、[1]~[7]の何れかに記載の缶詰飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、d-リモネンと密封材との相互作用による密封材の劣化を防止しつつ、密封材が缶詰飲料に要求される物性を有する、缶詰飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態に係る缶詰飲料は、飲料缶と、飲料缶に充填されたd-リモネンを含有する飲料と、を含む。前記飲料缶には、前記飲料缶の密封性を高めるために、密封材が設けられている。密封材は、飲料缶の製造時に、密封材組成物を所定の部位に塗布し、乾燥させることにより、形成される。
【0012】
1:密封材
密封材は、ゴム成分、充填剤、及び老化防止剤を含有する。ここで、ゴム成分は、アクリロニトリルブタジエンゴム(以下、NBRという場合がある)を主成分とし、スチレン系ゴム及びロジン系樹脂を含有しない。また、密封材は、28%以下の皮膜膨潤率を有する。なお、皮膜膨潤率の定義については、後述する。
このような密封材は、スチレン系ゴム及びロジン系樹脂を含まないので、d-リモネンとの相互作用が発生し難い。よって、飲料がd-リモネンを含有する場合であっても、密封材が劣化し難い。加えて、本実施形態によれば、柔軟性及び耐久性等の物性の点でも、缶詰飲料用の密封材に要求されるレベルを満たすことができる。
【0013】
以下に、密封材の組成や物性について、詳述する。
【0014】
(ゴム成分)
ゴム成分は、上述のように、NBRを主成分として含有する。ここで、「主成分として含有する」とは、密封材に含まれるゴム成分のうち、NBRの量が最も多いことを言う
NBRにおけるアクリロニトリル含有量は、例えば25~35質量%、好ましくは25~30質量%である。NBRを主成分とする密封材は、一般に、硬い塗膜となる。しかし、アクリロニトリル量が上記範囲にあることにより、適度な柔軟性を付与することが可能となる。NBRにおけるアクリロニトリル含有量が25質量%以上であれば、密封性及び耐久性が低下しない。NBRにおけるアクリルニトリル含有量が35質量%以下であれば、密封材として必要な柔軟性が低下することもない。
NBRとしては、水素化又はカルボキシル化されたものも使用することができる。これにより、形成される塗膜の硬さ等を調整することができる。
【0015】
ゴム成分として、NBRの他に、他の成分が含まれていてもよい。例えば、従来より密封材として使用されていたブタジエンゴム等、公知のゴム成分が、密封材の性質を損なわない範囲で配合されていてもよい。
【0016】
ただし、既述のように、スチレン系ゴムは、ゴム成分として使用されない。スチレン系ゴムとは、スチレン成分を含有するゴムである。スチレン系ゴムとしては、SBRおよびCSBRなどが挙げられる。スチレン系ゴムは、d-リモネンに可溶である。スチレン系ゴムの使用を避けることにより、飲料と密封材との相互作用が防止される。
また、天然ゴム及びイソプレンゴムも、d-リモネンとの相互作用の点から、使用されていないことが好ましい。
【0017】
好ましくは、ゴム成分は、1種又は2種以上のアクリロニトリルブタジエンゴムで構成される。「構成される」とは、ゴム成分の実質的に全量が、1種又は2種以上のアクリロニトリルブタジエンゴムであることを意味する。
【0018】
(充填剤)
充填剤は、耐内容物性、可塑性等の物性を密封材に付与すると共に、密封材組成物を塗布する際の塗布作業性や、塗布後の乾燥性を向上させるために添加される。
充填剤として、酸化アルミニウム、アルミナホワイト、硫酸アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等のアルミニウム系充填剤、コロイダルシリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸および合成ケイ酸塩のようなシリカ質充填剤、タルク、ドロマイト、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、フライアシュ、軽石粉、ガラス粉、アスベスト、珪藻土、ベントナイト、マイカ等、または、有機物粉体およびこれらから成る中空粒子等を使用することができる。
【0019】
好ましくは、アルミニウム系充填剤が使用される。アルミニウム系充填剤は、ゴム補強性が小さく、密封材の柔軟性を維持できる点から、好ましい。
アルミニウム系充填剤としては、水酸化アルミニウムが好適に使用される。
【0020】
充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば4~80質量部、好ましくは8~72質量部である。
【0021】
(老化防止剤)
老化防止剤は、密封材の耐久性を向上するために添加される。
老化防止剤としては、2,2-メチレン-ビス-〔6-(1-メチルシクロヘキシルーp-クレゾール)〕、ジ-β-ナフチル-p-フェニルジアミン、4,4‘-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-エチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4‘-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、ヒンダードフェノール系還元物質、およびビタミンE系還元物質等の従来公知の老化防止剤を使用することができる。
【0022】
老化防止剤としては、耐汚染性の観点から、2,2-メチレン-ビス-〔6-(1-メチルシクロヘキシルーp-クレゾール)〕が好適に使用される。
【0023】
老化防止剤は、ゴム成分100重量部に対して、例えば0.5~8重量部の量で添加することができる。
【0024】
(その他成分)
密封材には、上記の成分以外に、必要に応じて、他の成分が添加されていてもよい。ただし、その他の成分は、d-リモネンに溶解し難い成分であることが好ましい。その他の成分として、例えば、粘度調整剤、分散剤、顔料等が挙げられる。
【0025】
粘度調整剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩(ナトリウム、亜鉛)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムおよびグアーガム、カラヤガム、トラガントガム等を例示できる。粘度調整剤は、例えば、ゴム成分100重量部に対して0.5~10重量部の量で配合できる。
【0026】
分散剤としては、オレイン酸、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸等の脂肪酸;アルキルアリルスルホン酸、ニ塩基性脂肪酸エステルのスルホン酸塩、脂肪族アミドのスルホン酸、等の有機スルホン酸;以上の酸のナトリウム塩、カリウム塩あるいはアンモニウム塩、或いはポリオキシアルキレン誘導体を例示できる。分散剤は、例えば、ゴム成分100重量部に対して0.5~5重量部の量で配合できる。
【0027】
顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ等を例示できる。顔料は、例えば、ゴム成分100重量部に対して0.5~30重量部の量で配合できる。
【0028】
(密封材の皮膜膨潤率)
本実施形態に係る密封材は、28%以下の皮膜膨潤率を有している。
ここで、皮膜膨潤率とは、下記式1に従って算出される値である。
(式1)皮膜膨潤率(%)=[(M2/625)-1]×100
式1中、Mは、厚み0.25mm、直径25mmである密封材の乾燥皮膜を、d-リモネン(38℃)中に72時間浸漬した時の皮膜の直交する2方向の直径の平均値M(mm)である。
【0029】
上記のように、皮膜膨潤率が28%であること、すなわち、乾燥皮膜の膨潤による平面部分の投影面積の増加率が28%以下の範囲にあることにより、飲料が高濃度のリモネンを含有する場合であっても、長期にわたって密封材としての密封性を発現させることができる。
【0030】
また、密封材は、厚みを0.2~0.4mmとした乾燥皮膜の引張試験(JIS K 6251準拠)における引張強さ(抗張力)が0.4~6MPa、特に0.4~5.6MPaの範囲にあることが好適である。引張強さ(抗張力)が上記範囲にあることにより、密封材に要求される巻締性及び柔軟性を得ることができる。
【0031】
(密封材組成物)
本実施形態に係る密封材は、既述の通り、水性分散体である密封材組成物を調製し、これを飲料缶の製造時に所定部位に塗布し、乾燥させることにより、得ることができる。密封材組成物は、例えば、上述したゴム成分のラテックスに、上述の充填剤等の添加剤を配合し、粘度、固形分量等を調整し、pH9~11になるようアンモニア水を添加して分散安定化を図ることで、調製することができる。水性分散体として調製した密封組成物を、所定の部位に塗布した後、突沸を生じさせない程度の熱風で加熱して水分を蒸発させる。これにより、塗膜として密封材を得ることができる。
【0032】
2:飲料缶
本実施形態において、飲料缶としては、開口部を有する缶体と、この開口部を閉じるように設けられた金属蓋とを有するものが用いられる。密封材は、缶体と金属蓋との接合部に設けられる。
例えば、金属蓋における缶体との接合予定部分(すなわち外周部)に、密封材組成物を塗布し、乾燥させる。そして、缶体の開口部に金属蓋を配置し、巻締加工等を行うことにより、飲料缶を得ることができる。
【0033】
金属蓋としては、特に限定されるものではないが、例えば、各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板が使用される。表面処理鋼板としては、冷間圧延鋼板を焼鈍した後、必要に応じて追加の圧延を施し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の表面処理の一種または二種以上行ったものを用いることができる。またアルミニウムメッキ、アルミニウム圧延等を施したアルミニウム被覆鋼板が用いられる。また軽金属板としては、いわゆる純アルミニウム板の他にアルミニウム合金板が使用される。金属蓋としては、ポリエステル樹脂等から成る樹脂被覆や、エポキシ系塗料等から成る塗膜等が形成されたものが用いられてもよい。
【0034】
なお、本実施形態に係る密封材は優れた柔軟性を有することから、スチールに比して強度が低く且つ軟らかい素材であり、飲料用途に多用されているアルミニウム合金製缶に適用される蓋の巻締部に好適に使用できる。
【0035】
また、好ましくは、本実施形態に係る飲料缶は、缶体と金属蓋とが二重巻締により接合されるものである。
【0036】
好ましい一態様において、缶体は、アルミニウム製である。この場合に、金属蓋も、好ましくはアルミニウム製である。そして、缶体と金属蓋とが、二重巻締により、巻締められている。この際、密封材は、あらかじめ、金属蓋の外周部に形成される。そして、密封材が形成された金属蓋が、二重巻締により、缶体と接合させられる。
密封材の厚みは、好ましくは、10~40μmである。
【0037】
3:飲料
本実施形態において、飲料缶に充填される飲料としては、d-リモネンを含有する飲料であればよく、特に限定されない。
【0038】
本実施形態において、飲料中のd-リモネン濃度は、例えば0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上である。このような濃度でd-リモネンが含まれていると、一般に密封材との相互作用が考えられるが、本実施形態によれば、d-リモネンとの相互作用が抑制されるので、問題ない。d-リモネン濃度の上限値は、例えば50g/L以下、好ましくは42g/L以下である。このような範囲内であれば、d-リモネンとの相互作用により、密封材に深刻な劣化がみられることもない。d-リモネンの濃度は、より好ましくは1g/L以下である。このような範囲内であれば、飲料としての香りが大きく損なわれることもない。d-リモネンの濃度は、例えば、GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量することができる。
【0039】
(飲料に関する好適な変形例)
好適な変形例において、飲料は、可食性の水溶液(以下、ベース液体という場合もある)と、d-リモネンを含む疎水性液滴とを含有し、可食性の水溶液と疎水性液滴とが分離しているものである。そのような飲料として、例えば、特許第6847288号に記載のものが挙げられる。
清涼飲料水やアルコール飲料等には、柑橘類から得られる精油等が香り付けのために含まれる場合があり、そのような精油には、d-リモネンが多く含まれる。また、精油は疎水性である。そのような精油などを由来とする疎水性香気成分は、一般的には、水に溶解又は分散しやすいように処理されている。例えば乳化剤等を用いて乳化させたり、果実パルプに吸着させたりすることにより、疎水性香気成分が水に分散させられている。
【0040】
これに対して、本変形例によれば、飲料において、可食性の水溶液と、精油等を由来とする疎水性液滴とが分離しているため、香りがより感じられやすくなる。
【0041】
疎水性液滴は、液面に浮いて存在していてもよいし、液中に存在していてもよい。好ましくは、疎水性液滴は、液面に浮いている。疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物の密度がベース液体の密度よりも小さければ、疎水性液滴は、液面に浮くことになる。
疎水性液滴の存在は、例えば、飲料を顕微鏡で観察することで確認できる。あるいは、疎水性液滴が液面に浮いている場合、目視で確認できる場合もある。
【0042】
本変形例に係る飲料の製造方法は、特に制限されるものではなく、最終的に、ベース液体と疎水性液滴が分離するような方法であればよい。例えば、缶体にベース液体を充填した後、d-リモネンを含有する疎水性液状組成物(例えば、柑橘類由来の精油等)を添加する。これにより、疎水性液状組成物により、疎水性液滴が形成される。
【0043】
あるいは、飲料の組成を調整することによって、ベース液体と疎水性液滴とを分離させることも可能である。水性のベース液体と疎水性液状組成物とは、非常に馴染みにくい。そこで、分散剤や乳化剤の使用の有無、および使用量を工夫することによってベース液体と疎水性液滴とを分離させることが可能である。
【0044】
また、予め、ベース液体と疎水性液状組成物とを混合し、その後に、缶体に混合物を充填してもよい。この際、分散剤や乳化剤を適宜選択して使用したり、攪拌強度を調整することにより、混合処理後の一定期間はベース液体中に疎水性液状組成物が分散しているものの、その後ベース液体から分離して疎水性液滴を形成させることもできる。このような方法では、製造中にはベース液体と疎水性液状組成物とが均一に混ざり合っているため、取扱いが容易となるという利点がある。
【0045】
飲料に添加する疎水性液状組成物の量は、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.2g/L以上である。このような量であれば、充分な香増強効果が期待できる。一方で、疎水性液状組成物の量が多すぎると、油っぽくなり、飲料としてあまり好ましくはない。この観点から、飲料の全量に対する疎水性液状組成物の含有量は、好ましくは1.0g/L以下、より好ましくは0.8g/L以下である。
【0046】
本実施形態において、飲料は、アルコール飲料であっても非アルコール飲料であってもよい。アルコール飲料である場合、アルコール度数は、例えば、1容量%以上、より好ましくは2容量%以上、さらに好ましくは3容量%以上であり、例えば15容量%以下、好ましくは12容量%以下である。
【0047】
飲料は、炭酸飲料であってもよいが、非炭酸飲料であってもよい。好ましくは、飲料は、炭酸飲料である。
【実施例0048】
(実施例1~10)
表1に示したNBRのラテックスと充填剤、及び老化防止剤として2,2-メチレン-ビス-[6-(1-メチルシクロヘキシルーp-クレゾール)]を、表1に示したラテックス中のゴム成分(固形分)100重量部に対する重量部で使用した。
これらの成分に、粘度調整剤としてメチルセルロースをゴム成分(固形分)100重量部に対して3重量部、分散剤としてオレイン酸アンモニウムをゴム成分(固形分)100重量部に対して0.25重量部、を配合し、アンモニア水を添加してpH9.5の水性分散体の密封材組成物を調製した。
得られた密封材組成物を使用して後述する評価を行った。評価結果を表1に併せて示す。
【0049】
(比較例1~6)
表2に示したNBR及び/又はSBRのラテックスと充填剤、及び老化防止剤として2,2-メチレン-ビス-[6-(1-メチルシクロヘキシルーp-クレゾール)]を表2に示したラテックス中ゴム成分(固形分)100重量部に対する重量部で使用した。また比較例5及び6ではロジン系樹脂を表2に示したゴム成分(固形分)100重量部に対する重量部で使用した。
これらの成分に、粘度調整剤としてメチルセルロースをゴム成分(固形分)100重量部に対して3重量部、分散剤としてオレイン酸アンモニウムをゴム成分(固形分)100重量部に対して0.25重量部、を配合し、アンモニア水を添加してpH9.5の水性分散体の密封材組成物を調製した。
得られた密封材組成物を使用して後述する評価を行った。評価結果を表2に併せて示す。
【0050】
表1及び表2中、NBR(中ニトリル)は、アクリロニトリル含有量(重量%)が25以上、31未満のNBRである。NBR(中高ニトリル)は、アクリロニトリル含有量(重量%)が31以上、36未満のNBRである。NBR(低ニトリル)は、アクリロニトリル含有量(重量%)が25未満のNBRである。
表1及び表2における各評価結果の記号は以下の意味である。
〇:現象が認められず、良好である。
△:現象は認められるが、実用上問題がない。
×:現象が認められ、実用に適さない。
【0051】
(評価方法)
1.密封材皮膜特性
(1.1.皮膜膨潤率)
・密封材組成物から、乾燥後の膜厚が0.25mmとなるよう製膜した密封材皮膜を直径25mmの円形型で打ち抜いて試験片とした。
・ガラス容器にd-リモネンを100ml入れ、上記の円形に打ち抜いた皮膜1枚を投入した。
・容器を密栓し、38℃にて3日間(72時間)保管して皮膜を取出した。
・取出した皮膜の直行する2方向で測定した直径の平均値M(mm)から、前述の式(1)に従って皮膜膨潤率を計算した。
【0052】
(1.2.皮膜の引張強さ)
・密封材組成物から、乾燥後の膜厚が0.2~0.4mmとなるよう製膜した密封材皮膜を、JIS K 6251ダンベル状2号型に打ち抜き、間隔20mmの標線を付して試験片とした。
・速度200mm/minの引張試験に供し、引張強さ(MPa)を算出した。
【0053】
2.密封材性能評価
(2.1.金属蓋への塗布乾燥時のブリスタ)
・板厚0.27mmの5000系アルミニウム合金による204径アルミニウム合金製蓋の外周部に密封材組成物を塗布し、熱風式電気オーブンを使用して90℃で10分間乾燥し、密封材を得た。
・乾燥後の密封材の皮膜にブリスタが認められない場合(評価記号○)、ブリスタが生じているが密封材層を通して蓋材が露出していない場合(評価記号△)は実用上問題無いと判断した。
・ブリスタが生じており、かつ蓋材が露出している場合(評価記号×)については、長期の密封性維持の観点から、実用に適さないと判断した。
【0054】
(2.2.二重巻締空隙からの密封材はみ出し)
・板厚0.27mmの5000系アルミニウム合金による204径アルミニウム合金製蓋外周部に密封材組成物を塗布し、熱風式電気オーブンを使用して90℃で10分間乾燥し、密封材が形成された204径アルミニウム合金製蓋を作製した。
・この蓋に合わせて204径ネックドイン加工を施した、アルミニウム合金製211径350グラムツーピース飲料缶(JIS Z 1571準拠)に下記2種の内容物を充填し、即座に二重巻締で接合した。
・上記アルミニウム合金製ツーピース飲料缶は、3104系アルミニウム合金製で、缶の側壁金属の厚みを最薄部で0.11mm、フランジ相当部で0.17mmとした。
(1)5℃に冷却したアルコール度数7の炭酸入りスピリッツ345.8mLを缶に入れ、リモネン4.2mLを添加した。(リモネンは概ね10g/L)。液面には、リモネンを含む疎水性液滴が浮いていた。
(2)5℃に冷却したアルコール度数9の炭酸入りスピリッツ332.5mLを缶に入れ、リモネン17.5mLを添加した。(リモネンは概ね42g/L)。液面には、リモネンを含む疎水性液滴が浮いていた。
・55℃-10分の温水シャワー殺菌処理を実施した。
・上記2種の内容物を充填した缶詰を、蓋側を上として20°傾けた状態にて37℃で3ヶ月間保管の後、缶をネックドイン部で切断し、缶の内側で蓋と缶胴の間の空隙を目視で観察した。
・密封材のはみ出しが確認された場合、実用に適さないと判断した。
【0055】
(2.3.二重巻締後内容物 皮膜からの微小離脱片の浮遊)
・上記2.2.の温水シャワー殺菌まで同様に行った。
・上記2種の内容物を充填した缶詰を、蓋側を上として20°傾けた状態にて37℃で3日間保管の後、蓋に穴を開けて内容物を5Cろ紙で吸引濾過し、ろ紙に固形物が残存したもの、さらに缶をネックドイン部で切断して缶内を観察し、缶及び蓋の内面に固形物の付着が認められた場合、実用に適さないと判断した。
【0056】
(2.4.二重巻締後 缶外面ベト付き)
・上記2.2.の温水シャワー殺菌まで同様に行った。
・乾燥後に缶外面の二重巻締部直下(二重巻締工程で内容物が付着しやすい部位)を指で軽く擦り、ベト付きを感じた場合には実用に適さないと判断した。
【0057】
(2.5.85℃-20日間蓋加熱後二重巻締の際の皮膜脱落)
・板厚0.27mmの5000系アルミニウム合金による204径アルミニウム合金製蓋の外周部に密封材組成物を塗布し、熱風式電気オーブンを使用して90℃で10分間乾燥し、密封材が形成された204径アルミニウム合金製蓋を作成した。
・二重巻締適用前に、上記の密封材形成済みのアルミニウム合金製蓋を熱風式電気オーブンを使用して85℃で20日間加熱した後、内容物を入れずに、前記のアルミニウム合金製211径350グラムツーピース飲料缶に二重巻締で接合した。
・缶をネックドイン部で切断し、缶の内側や外側に密封材の脱落物が認められた場合は、実用に適さないと判断した。
【0058】
(2.6. アルミニウム合金缶 二重巻締加工寸法異常)
・上記2.2.の2条件の内容物を充填し、二重巻締断面におけるボデーフックが良好に伸びている場合(評価記号○)、ボデーフックに曲がりが生じているが缶胴側壁に座屈が生じ無い場合(評価記号△)については実用上問題無いと判断した。
【0059】
(2.7. アルミニウム合金缶 漏洩)
・上記2.2.の温水シャワー殺菌まで同様に行った。
・缶詰をSOT蓋を上として20°傾けた状態として37℃で3ヶ月間保管の後に、巻締部からの内容物漏洩有無を目視で確認および室温に戻して缶詰内圧を確認した。
・上記で漏洩が認められず、缶詰内圧が37℃保管前に室温で測定した初期内圧の95%以上残存していた場合については、実用上問題無いと判断した。
【0060】
(2.8.スチール缶 二重巻締加工寸法異常)
・202径190グラムスリーピース飲料缶(JIS Z 1571)に準じた、板厚0.18mmのぶりき製溶接オープントップ缶を、両端の開口径を200径とし、板厚0.3mmの5000系アルミニウム合金による200径のアルミニウム合金製蓋の外周部に密封材組成物を塗布し、熱風式電気オーブンを使用して90℃で10分間乾燥した蓋を二重巻締で接合して作成した。
・上記オープントップ缶に、5℃に冷却したアルコール度数9の炭酸入りスピリッツ179mLを入れ、次いでリモネン11mLを添加した。(リモネンは概ね49g/L)。
・即座にもう一枚の上記と同様の当該密封材塗工済みの200径のアルミニウム合金製蓋を二重巻締で接合した。
・2枚の蓋の二重巻締断面におけるボデーフックが良好に伸びている場合(評価記号○)については実用上問題無いと判断した。
【0061】
(2.9.スチール缶 漏洩)
・上記2.8.の手順による缶詰を、内容物を入れた後に巻締めた側のアルミ蓋を上として20°傾けた状態にて37℃で3ヶ月間保管の後に、巻締部からの内容物漏洩有無を目視で確認および室温に戻して缶詰内圧を確認した。
・上記で漏洩が認められず、缶詰内圧が37℃保管前に室温で測定した初期内圧の95%以上残存していた場合については、実用上問題無いと判断した。
【0062】
【0063】
実施例に係る密封材は、概ね42g/Lの濃度でリモネンを含有する内容物に対しても優れたリモネン耐性を有し、しかも柔軟性及び耐久性を有することから、特にリモネン含有飲料を充填するアルミニウム製缶の缶蓋との密封材として好適に使用される。