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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129926
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】流体駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 15/28 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
F15B15/28 Z
F15B15/28 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034286
(22)【出願日】2022-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)22期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマIIISociety5.0実現のための社会実装技術/CPS構築のためのセンサリッチ柔軟エンドエフェクタシステム開発と実用化、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】川村 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 正男
【テーマコード(参考)】
3H081
【Fターム(参考)】
3H081AA03
3H081BB01
3H081CC25
3H081CC29
3H081FF01
3H081FF26
3H081FF47
3H081GG01
3H081GG03
3H081HH04
(57)【要約】
【課題】高精度な位置制御ができるばかりか、電気系統を使用することができない場所であってもアクチュエータの位置制御が可能な流体駆動装置を提供する。
【解決手段】制御部5は、圧力センサ(第1圧力センサ30,第2圧力センサ40)にて計測した圧力値、質量流量センサ(第1質量流量センサ31,第2質量流量センサ32,第3質量流量センサ41,第4質量流量センサ42)にて計測した質量流量値に基づいて、エネルギー方程式を動的に逐次計算することにより、アクチュエータ2の位置を制御してなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンによって少なくとも第1圧力室と第2圧力室とに区画されたアクチュエータと、
前記第1圧力室又は前記第2圧力室の圧力を少なくとも計測する圧力センサと、
前記第1圧力室又は前記第2圧力室に存在する伸縮する流体の質量流量を少なくとも計測する質量流量センサと、
前記アクチュエータの位置を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記圧力センサにて計測した圧力値及び前記質量流量センサにて計測した質量流量値に基づいて、以下の数式(1)を動的に逐次計算することにより、前記アクチュエータの位置を制御してなる流体駆動装置。
【数1】
ここで、
kは前記流体の比熱比、Rは前記流体の気体定数、Tは前記流体の絶対温度、gは重力加速度、wは前記質量流量センサにて計測した質量流量値に基づく質量流量値、pは前記圧力センサにて計測した圧力値に基づく絶対圧力値、Vは前記第1圧力室又は前記第2圧力室の体積を表す。
【請求項2】
前記アクチュエータを停止させる際、前記第1圧力室及び前記第2圧力室を加圧した状態で停止させてなる請求項1に記載の流体駆動装置。
【請求項3】
前記第1圧力室、前記第2圧力室に、一時的に、前記供給手段より供給される流体よりも高圧の流体を供給する高圧供給手段を、さらに有してなる請求項1又は2に記載の流体駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用ロボットは、位置制御を基盤としており(例えば、特許文献1参照)、高速、高精度、高可搬荷重の優れた特徴を有し、製造分野などで利用が拡大されている。このような位置制御にあたって、流体が伸縮しない油圧を用いた油圧駆動においては、アクチュエータに入る油圧の流量を計測することによりアクチュエータの位置を任意に決定することが可能となる。
【0003】
しかしながら、空気のように流体が伸縮するような場合、アクチュエータが受ける外部応力の変化を受けやすい。そのため、流量を計測することによりアクチュエータの位置を任意に決定する方法では、位置制御が困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題を解決すべく、空気のように伸縮する流体を使用する場合、アクチュエータに一定の圧力を「印加する」「印加しない」の2つの状態から、機構的に設けた「あて止め」によって、延びた状態と縮んだ状態の2つの状態の動作位置を決める手法が採用されている。
【0005】
しかしながら、この方法では高精度な位置制御が困難であることから、アクチュエータに別途位置センサを設け、この位置センサの情報をフィードバックすることで位置制御を行う方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-41649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アクチュエータに別途位置センサを設けた場合、当然、位置センサを駆動させるための電気系統が必要であることから、アクチュエータの設置場所が、電気系統を使用する場所に限られるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、高精度な位置制御ができるばかりか、電気系統を使用することができない場所であってもアクチュエータの位置制御が可能な流体駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
請求項1に係る流体駆動装置は、ピストン(21)によって少なくとも第1圧力室(2a)と第2圧力室(2b)とに区画されたアクチュエータ(2)と、
前記第1圧力室(2a)又は前記第2圧力室(2b)の圧力を少なくとも計測する圧力センサ(第1圧力センサ30,第2圧力センサ40)と、
前記第1圧力室(2a)又は前記第2圧力室(2b)に存在する伸縮する流体の質量流量を少なくとも計測する質量流量センサ(第1質量流量センサ31,第2質量流量センサ32,第3質量流量センサ41,第4質量流量センサ42)と、
前記アクチュエータ(2)の位置を制御する制御手段(制御部5)と、を有し、
前記制御手段(制御部5)は、前記圧力センサ(第1圧力センサ30,第2圧力センサ40)にて計測した圧力値及び前記質量流量センサ(第1質量流量センサ31,第2質量流量センサ32,第3質量流量センサ41,第4質量流量センサ42)にて計測した質量流量値に基づいて、以下の数式(1)を動的に逐次計算することにより、前記アクチュエータ(2)の位置を制御してなることを特徴としている。
【0011】
【数1】
【0012】
ここで、kは前記流体の比熱比、Rは前記流体の気体定数、Tは前記流体の絶対温度、gは重力加速度、wは前記質量流量センサ(第1質量流量センサ31,第2質量流量センサ32,第3質量流量センサ41,第4質量流量センサ42)にて計測した質量流量値に基づく質量流量値、pは前記圧力センサ(第1圧力センサ30,第2圧力センサ40)にて計測した圧力値に基づく絶対圧力値、Vは前記第1圧力室(2a)又は前記第2圧力室(2b)の体積を表す。
【0013】
請求項2に係る流体駆動装置は、上記請求項1に記載の流体駆動装置において、前記アクチュエータ(2)を停止させる際、前記第1圧力室(2a)及び前記第2圧力室(2b)を加圧した状態で停止させてなることを特徴としている。
【0014】
請求項3に係る流体駆動装置は、上記請求項1又は2に記載の流体駆動装置において、前記第1圧力室(2a)、前記第2圧力室(2b)に、一時的に、前記供給手段(圧空ポンプ6)より供給される流体よりも高圧の流体を供給する高圧供給手段を、さらに有してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
請求項1に係る発明によれば、圧力センサ(第1圧力センサ30,第2圧力センサ40)にて計測した圧力値、質量流量センサ(第1質量流量センサ31,第2質量流量センサ32,第3質量流量センサ41,第4質量流量センサ42)にて計測した質量流量値に基づいて、上記数式(1)を動的に逐次計算するようにすれば、第1圧力室(2a)又は第2圧力室(2b)の体積が算出され、その算出された体積によって、ピストン(21)の移動距離が一意的に定まることとなる。それゆえ、このような方法で、アクチュエータ(2)の位置を制御すれば、高精度な位置制御ができるばかりか、位置センサが不要となり、もって、電気系統を使用することができない場所であってもアクチュエータの位置制御が可能となる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、第1圧力室(2a)の圧力又は第2圧力室(2b)の圧力を回復させる際のバタつきを解消することができると共に、物体が衝突した際の衝撃を検出することが可能となる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、静止摩擦によるアクチュエータ(2)の動作遅れを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る流体駆動装置の一実施形態を示すブロック図である。
図2】同実施形態に係る流体駆動装置を用いた位置制御と、位置センサを用いた位置制御とを比較したグラフ図である。
図3図2に示すグラフ図の一部を拡大することで、同実施形態に係る流体駆動装置を用いた位置制御におけるバタつきを説明するためのグラフ図である。
図4図3に示す同実施形態に係る流体駆動装置を用いた位置制御におけるバタつきを解消させる方法を説明するためのグラフ図である。
図5】第1圧力室及び第2圧力室を加圧させた状態で、停止させている際、衝撃を与えた際の計測値を示すものであって、(a)は、質量流量値の計測結果を示すグラフ図、(b)は、圧力値の計測結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る流体駆動装置を、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとする。
【0021】
図1に示すように、流体駆動装置1は、アクチュエータ2と、アクチュエータ2への流体の給排を制御する第1給排制御部3と、アクチュエータ2への流体の給排を制御する第2給排制御部4と、制御部5と、で主に構成されている。以下、各構成について詳しく説明することとする。なお、本発明に係る流体は、伸縮する空気やガスなどの流体であって、本実施形態においては、空気を例示している。
【0022】
<アクチュエータの説明>
アクチュエータ2は、エアーシリンダからなるもので、図1に示すように、チューブ20と、チューブ20内に移動自在に挿入されるとともにチューブ20内を第1圧力室2aと第2圧力室2bとに区画するピストン21と、チューブ20内に移動自在に挿入されるとともにピストン21に連結されるT字状のロッド22と、を備えている。
【0023】
<第1給排制御部の説明>
第1給排制御部3は、第1圧力室2aへ供給する流体、又は、第1圧力室2aから排出される流体を制御するものである。より詳しく説明すると、第1給排制御部3は、図1に示すように、第1圧力センサ30を備えている。この第1圧力センサ30は、第1圧力室2aへ供給する流体の圧力、第1圧力室2aから排出される流体の圧力を計測するものである。また、第1給排制御部3は、図1に示すように、第1質量流量センサ31と、第2質量流量センサ32と、を備えている。この第1質量流量センサ31は、第1圧力室2aへ供給する流体の質量流量を計測するもので、第2質量流量センサ32は、第1圧力室2aから排出される流体の質量流量を計測するものである。
【0024】
ところで、第1圧力室2aへ流体を供給するにあたっては、以下のように供給される。すなわち、図1に示す圧空ポンプ6より、第1給排制御部3が備える第1電空レギュレータ33に流体が供給される。この第1電空レギュレータ33は、流体の流量を自動で調整するもので、調整された流体は、第1エアータンク34に供給される。この第1エアータンク34は、流体(本実施形態においては、空気)を一時的に貯めておくもので、第1圧力室2aへ流体を一気に供給した際、第1電空レギュレータ33の能力を超えてしまい、流体が供給できなくなるような事態が生じた場合に、流体の供給を補うことができるように配置されているものである。
【0025】
しかして、このような第1エアータンク34に貯留された流体は、第1給排制御部3が備える第1給気電磁弁35に供給される。この第1給気電磁弁35は、電気的に弁を開閉することによって、第1質量流量センサ31に流体を供給したりしなかったりすることができるものである。かくして、第1給気電磁弁35が開放されると、流体は、図1に示すように、第1質量流量センサ31、及び、流体の流量を調整する第1ニードルバルブ36を通って、第1圧力室2aへ供給されることとなる。
【0026】
しかして、このようにして、第1圧力室2aへ流体が供給されることとなる。
【0027】
一方、第1圧力室2aから流体が排出される場合は、図1に示すように、流体の流量を調整する第2ニードルバルブ37、及び、第2質量流量センサ32を通って、第1給排制御部3が備える第1排気電磁弁38に排出される。この第1排気電磁弁38は、電気的に弁を開閉することによって、流体を外部に排気したりしなかったりすることができるものであって、第1排気電磁弁38が開放されると、外部に流体が排出されることとなる。
【0028】
<第2給排制御部の説明>
第2給排制御部4は、第2圧力室2bへ供給する流体、又は、第2圧力室2bから排出される流体を制御するものである。より詳しく説明すると、第2給排制御部4は、図1に示すように、第2圧力センサ40を備えている。この第2圧力センサ40は、第2圧力室2bへ供給する流体の圧力、第2圧力室2bから排出される流体の圧力を計測するものである。また、第2給排制御部4は、図1に示すように、第3質量流量センサ41と、第4質量流量センサ42と、を備えている。この第3質量流量センサ41は、第2圧力室2bへ供給する流体の質量流量を計測するもので、第4質量流量センサ42は、第2圧力室2bから排出される流体の質量流量を計測するものである。
【0029】
ところで、第2圧力室2bへ流体を供給するにあたっては、以下のように供給される。すなわち、図1に示す圧空ポンプ6より、第2給排制御部4が備える第2電空レギュレータ43に流体が供給される。この第2電空レギュレータ43は、流体の流量を自動で調整するもので、調整された流体は、第2エアータンク44に供給される。この第2エアータンク44は、流体(本実施形態においては、空気)を一時的に貯めておくもので、第2圧力室2bへ流体を一気に供給した際、第2電空レギュレータ43の能力を超えてしまい、流体が供給できなくなるような事態が生じた場合に、流体の供給を補うことができるように配置されているものである。
【0030】
しかして、このような第2エアータンク44に貯留された流体は、第2給排制御部4が備える第2給気電磁弁45に供給される。この第2給気電磁弁45は、電気的に弁を開閉することによって、第3質量流量センサ41に流体を供給したりしなかったりすることができるものである。かくして、第2給気電磁弁45が開放されると、流体は、図1に示すように、第3質量流量センサ41、及び、流体の流量を調整する第3ニードルバルブ46を通って、第2圧力室2bへ供給されることとなる。
【0031】
しかして、このようにして、第2圧力室2bへ流体が供給されることとなる。
【0032】
一方、第2圧力室2bから流体が排出される場合は、図1に示すように、流体の流量を調整する第4ニードルバルブ47、及び、第4質量流量センサ42を通って、第2給排制御部4が備える第2排気電磁弁48に排出される。この第2排気電磁弁48は、電気的に弁を開閉することによって、流体を外部に排気したりしなかったりすることができるものであって、第2排気電磁弁48が開放されると、外部に流体が排出されることとなる。
【0033】
<制御部の説明>
制御部5は、アクチュエータ2の位置制御、具体的には、ピストン21の位置を制御することができるものである。より詳しく説明すると、図1に示すように、ピストン21の位置を矢印Y1方向の所定位置まで移動させたい場合、制御部5は、第1給気電磁弁35を開放し、第1排気電磁弁38を閉止し、第2給気電磁弁45を閉止し、第2排気電磁弁48を開放するように制御する。これにより、第1圧力室2aへ流体が供給され、第2圧力室2bから流体が排出されることとなるから、ピストン21の位置が図1に示す矢印Y1方向に移動することとなる。この際、制御部5は、第1質量流量センサ31にて計測した流体の質量流量値と、第1圧力センサ30にて計測した第1圧力室2aへ供給する流体の圧力値を用いて、上記数式1に示すエネルギー方程式により第1圧力室2aの体積を算出する。
【0034】
ここで、kは流体の比熱比、Rは流体の気体定数、Tは流体の絶対温度、gは重力加速度、wは第1質量流量センサ31にて計測した流体の質量流量値、pは第1圧力センサ30にて計測した第1圧力室2aへ供給する流体の圧力値に基づく絶対圧力値、Vは第1圧力室の体積を表すものである。なお、第1圧力センサ30は、ゲージ圧を計測するものであるため、制御部5は、ゲージ圧から絶対圧力値に変換する処理を行う必要がある。
【0035】
かくして、このようにして、制御部5は、第1圧力室2aの体積を算出すると、アクチュエータ2は、エアーシリンダであるから、その算出した体積を、予め制御部5に設定されている第1圧力室2aの断面積で除算する。これにより、ピストン21の移動距離を算出することができる。
【0036】
次いで、制御部5は、算出した移動距離を用いて、以下の数式2に示す状態方程式を実時間で計算することで、ピストン21の位置推定を行う。
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、yは上記算出した移動距離であり、それ以外は上述したものと同一である。
【0039】
かくして、制御部5は、その推定したピストン21の位置が目標位置に到達するまで、上記数式1,2を動的に逐次計算し、目標位置に到達すると、制御部5は、第1給気電磁弁35を閉止し、第1排気電磁弁38を閉止し、第2給気電磁弁45を閉止し、第2排気電磁弁48を閉止するように制御することとなる。これにより、ピストン21の位置が目標位置で停止することとなる。
【0040】
他方、図1に示すように、ピストン21の位置を矢印Y2方向の所定位置まで移動させたい場合、制御部5は、第1給気電磁弁35を閉止し、第1排気電磁弁38を開放し、第2給気電磁弁45を開放し、第2排気電磁弁48を閉止するように制御する。これにより、第2圧力室2bへ流体が供給され、第1圧力室2aから流体が排出されることとなるから、ピストン21の位置が図1に示す矢印Y2方向に移動することとなる。この際、制御部5は、第3質量流量センサ41にて計測した流体の質量流量値と、第2圧力センサ40にて計測した第2圧力室2bへ供給する流体の圧力値を用いて、上記数式1に示すエネルギー方程式により第2圧力室2bの体積を算出する。なお、この際、数式1のwは第3質量流量センサ41にて計測した流体の質量流量値、pは第2圧力センサ40に計測した第2圧力室2bへ供給する流体の圧力値に基づく絶対圧力値、Vは第2圧力室2bの体積を表すものとなる。また、第2圧力センサ40は、ゲージ圧を計測するものであるため、制御部5は、ゲージ圧から絶対圧力値に変換する処理を行う必要がある。
【0041】
かくして、このようにして、制御部5は、第2圧力室2bの体積を算出すると、アクチュエータ2は、エアーシリンダであるから、その算出した体積を、予め制御部5に設定されている第2圧力室2bの断面積で除算する。これにより、ピストン21の移動距離を算出することができる。
【0042】
次いで、制御部5は、算出した移動距離を用いて、上記数式2に示す状態方程式を実時間で計算することで、ピストン21の位置推定を行う。
【0043】
かくして、制御部5は、その推定したピストン21の位置が目標位置に到達するまで、上記数式1,2を動的に逐次計算し、目標位置に到達すると、制御部5は、第1給気電磁弁35を閉止し、第1排気電磁弁38を閉止し、第2給気電磁弁45を閉止し、第2排気電磁弁48を閉止するように制御することとなる。これにより、ピストン21の位置が目標位置で停止することとなる。
【0044】
しかして、このようにすれば、アクチュエータ2の位置制御にあたって位置センサが不要となり、もって、アクチュエータ2へ流体を供給できるようにするだけで、位置制御が可能となるから、電気系統を使用することができない場所であってもアクチュエータ2の位置制御が可能となる。また、このような位置制御の方法であれば、第1圧力室2aの体積又は第2圧力室2bの体積と、ピストン21の位置関係が一意的に定めるため、どのような形状にも、適用可能となる。
【0045】
また、この際、上記のようにアクチュエータ2の位置制御をした場合と、位置センサにてピストン21の位置を計測し、位置制御をした場合とを比較したところ、図2に示すような結果となった。図2に示す折れ線グラフS1が位置センサにて計測したものを示し、折れ線グラフS2が、上記のように計算したものを示している。この結果から、上記のようにアクチュエータ2の位置制御をした場合であっても、位置センサにてピストン21の位置を計測し、位置制御した場合と略同一の結果となることが分かった。よって、上記のようにアクチュエータ2の位置制御をした場合であっても、高精度な位置制御が可能となる。
【0046】
しかして、以上説明した本実施形態によれば、高精度な位置制御ができるばかりか、電気系統を使用することができない場所であってもアクチュエータの位置制御が可能となる。そのため、CT(Computed Tomography)や、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、原子炉、血圧計のカフなど、様々な所で使用することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態における数式2に示す状態方程式を、例えば、オイラー法で解くと、以下の数式3に示すような式となる。
【0048】
【数3】
【0049】
なお、上記数式3に示すf(t,y(t))が状態方程式(yドット)となる。
【0050】
ここで、上記数式3を、制御部5を用いて算出すると、以下に示す数式4として、k番目の値から次のk+1番目の値を算出することとなる。
【0051】
【数4】
【0052】
例えば、上記Δtを10msとすると、この10ms毎に算出を繰り返すことにより、順番にy値を算出していき、もって、制御系にフィードバックすることができることとなる。
【0053】
かくして、このようにすれば、y,yドットを実時間のフィードバック制御に利用することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態においては、アクチュエータ2として、エアーシリンダを例示したが、エアーシリンダ以外の空気圧柔軟指のような場合には、体積とyとの関係は線形でないものの、関係式をあらかじめ導出すれば、同様に曲率などとして位置を推定することが可能となる。特に、yドットは、実時間計算から直接算出できるため、yを計算してから差分計算で算出する必要がない。
【0055】
またさらに、圧力と体積(又は、y)から、外力を推定することも可能である。
【0056】
<アクチュエータ動作停止時の説明>
ところで、図2に示す折れ線グラフS2は、図2に示す折れ線グラフS1と比較すると若干バタつきが生じている箇所がある。この理由を図2に示すグラフ図の一部を拡大した図3を用いて説明することとする。図3に示す1.00s付近から1.30s付近まで、折れ線グラフS3に示すように、図1に示す第1給気電磁弁35を開放し、折れ線グラフS4に示すように、第2排気電磁弁48を開放すると、折れ線グラフS5に示すように、第1圧力室2aの圧力は一定であるものの、折れ線グラフS6に示すように、第2圧力室2bの圧力は低下することとなる。そこで、第2圧力室2bの圧力の低下を防ぐため、ピストン21の位置が目標位置に到達した際、折れ線グラフS3に示すように、第1給気電磁弁35を閉止し、折れ線グラフS4に示すように、第2排気電磁弁48を閉止した後、図3に示す折れ線グラフS7に示すように、第2給気電磁弁45を、1.30s付近から1.40付近まで開放する。これにより、第2圧力室2bに流体が供給されることとなるから、図3に示す折れ線グラフS6に示すように、第2圧力室2bの圧力は元の圧力に徐々に戻ることとなる。しかしながら、この際、図3に示す折れ線グラフS2に示すようにアクチュエータ2の位置制御を計算によって行った場合に、若干バタつきが生じる結果となる。
【0057】
一方、図3に示す折れ線グラフS3に示すように、第1給気電磁弁35を閉止した際、折れ線グラフS5に示すように、第1圧力室2aの圧力は低下することとなる。そこで、第1圧力室2aの圧力の低下を防ぐため、折れ線グラフS3に示すように、1.80s付近から、第1給気電磁弁35を開放する。これにより、第1圧力室2aに流体が供給されることとなるから、図3に示す折れ線グラフS5に示すように、第1圧力室2aの圧力は元の圧力に徐々に戻ることとなる。しかしながら、この際、図3に示す折れ線グラフS2に示すようにアクチュエータ2の位置制御を計算によって行った場合に、若干バタつきが生じる結果となる。
【0058】
以上のことから、図2に示す折れ線グラフS2に若干のバタつきが生じているのは、第1圧力室2aの圧力又は第2圧力室2bの圧力を回復させる動作を行うことによって生じたものである。なお、図3に示す折れ線グラフS8は、第2排気電磁弁48の開閉状態を示し、図3では、常時閉止した状態を示している。
【0059】
ところで、上記のような動作をさせれば、第1圧力室2aの圧力又は第2圧力室2bの圧力を回復させることができるものの、このようなバタつきが生じると、アクチュエータ2の応答性に問題が生じる可能性がある。そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねった結果、この現象を回避するには、以下のようにすることが良いことを突き止めた。
【0060】
すなわち、図4に示す折れ線グラフS3に示すように、第1給気電磁弁35を開放状態のままとし、図4に示す折れ線グラフS8に示すように、第1排気電磁弁38を閉止状態のままとし、図4に示す折れ線グラフS7に示すように、第2給気電磁弁45を開放状態のままとし、図4に示す折れ線グラフS4に示すように、第2排気電磁弁48を閉止状態のままとする。そして、この状態で、ピストン21の位置を目標位置に移動させる際(図1に示す矢印Y1方向に移動させる)、図4に示す折れ線グラフS7に示すように、第2給気電磁弁45を、2.20s付近から閉止すると共に、図4に示す折れ線グラフS4に示すように、第2排気電磁弁48を開放する。これにより、ピストン21の位置が目標位置に移動することとなり、もって、目標位置に到達すると、図4に示す折れ線グラフS7に示すように、第2給気電磁弁45を、2.60s付近から開放すると共に、図4に示す折れ線グラフS4に示すように、第2排気電磁弁48を閉止する。
【0061】
しかして、このようにすれば、第1圧力室2aに流体が供給され続け、さらに、第2圧力室2bに流体が供給され続けることとなるから、ピストン21の位置が目標位置に到達し移動が停止した際、第1圧力室2aと第2圧力室2bは加圧された状態となる。これにより、図4に示すように、折れ線グラフS2に示す若干のバタつきを解消させることができ、図4に示す折れ線グラフS5,S6に示すように、圧力の低下も解消させることができた。それゆえ、動作停止時は、第1圧力室2a及び第2圧力室2bを加圧させておいた方が良いことを、本発明者らは、突き止めた。なお、第1圧力室2aと第2圧力室2bを加圧させた状態で、ピストン21の位置を目標位置で停止させ続けるには、第1圧力室2aの圧力と第2圧力室2bの圧力とは、拮抗状態とする必要がある。しかしながら、第1圧力室2aには、ロッド22が存在していることから、このロッド22の存在によって、第1圧力室2aの断面積は、第2圧力室2bの断面積よりも小さくなる。そこで、この断面積の差を補うべく、図3及び図4に示すように、第1圧力室2aの圧力の方が第2圧力室2bの圧力より高圧となるように流体を供給するようにしている。これにより、第1圧力室2aの圧力と第2圧力室2bの圧力とを、拮抗状態にすることができる。なお、第1圧力室2aと第2圧力室2bの断面積に差が無ければ、供給する流体の圧力は同一で良い。
【0062】
<アクチュエータ動作停止時による物体衝突の説明>
一方、本発明者らは、動作停止時に、第1圧力室2a及び第2圧力室2bを加圧させた状態にした際、流体が供給されやすい状態となるから、流体の伸縮によって、アクチュエータ2に何らかの物体が衝突した際、その衝撃を検出できるのではないかと考え、以下のような実験を行った。
【0063】
すなわち、第1圧力室2a及び第2圧力室2bを加圧させた状態で、ロッド22の先端に、振り子の要領で、錘50gを自然落下させて、衝撃を与えた際の質量流量値と圧力値を計測した。その結果が図5に示すものである。図5(a)に示すように、質量流量値は大幅な乱れが生じ、SN比26dbであることが分かった。そのため、質量流量値を計測しておけば、衝撃を検出することが可能であることが分かった。なお、図5(a)に示す「質量流量1」は、第1質量流量センサ31であり、「質量流量2」は、第2質量流量センサ32であり、「質量流量3」は、第3質量流量センサ41であり、「質量流量4」は、第4質量流量センサ42である。
【0064】
一方、図5(b)に示すように、圧力値は変化が小さく、衝撃を検出することは不可能であることが分かった。なお、図5(b)に示す「圧力1」は、第1圧力センサ30である。
【0065】
以上のことより、第1圧力室2a及び第2圧力室2bを加圧させた状態で、停止させている際、質量流量値を計測しておけば、衝撃を検出することができることが分かった。
【0066】
<アクチュエータの静止摩擦の説明>
他方、アクチュエータ2は、エアーシリンダであるから、ピストン21の静止摩擦が存在する。そのため、流体を供給すると、排出側にピストン21の静止摩擦が発生し、もって、排出側が影響を受けることとなる。それゆえ、図3及び図4に示す折れ線グラフS6に示すように、第2圧力室2bの圧力がかなり低下していることが伺える。このように圧力が低下してしまうと、圧力復帰までに時間を要し、アクチュエータ2の動作遅れの要因ともなる。そのため、このような動作遅れの要因を解消させるため、第1圧力室2aへの流体供給路、第2圧力室2bへの流体供給路に別系統の流体供給路を別途設けて、流体排出側となった第1圧力室2a又は第2圧力室2bの圧力が低下しすぎないよう、一時的に、圧空ポンプ6より供給される流体の圧力よりも高圧の流体を供給するようにしても良い。
【0067】
<変形例の説明>
なお、本実施形態において示した形状等はあくまで一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、本実施形態においては、アクチュエータ2として、第1圧力室2aと第2圧力室2bが存在すものを例示したが、それ以上の圧力室が存在するものにも適用可能である。また、本実施形態においては、上記説明したように、どのような形状にも適用可能であることから、直線運動するアクチュエータだけでなく、角度制御するアクチュエータ等、アクチュエータに応じた制御が可能である。
【0068】
また、本実施形態においては、ピストン21の移動距離を算出するにあたり、第1質量流量センサ31にて計測した流体の質量流量値、第3質量流量センサ41にて計測した流体の質量流量値を用いた例を示したが、それに限らず、第1質量流量センサ31にて計測した流体の質量流量値に代え、第2質量流量センサ32にて計測した流体の質量流量値を用いても良く、第3質量流量センサ41にて計測した流体の質量流量値に代え、第4質量流量センサ42にて計測した流体の質量流量値を用いても良い。しかしながら、本実施形態に示したような静止摩擦が存在するアクチュエータ2を使用する場合には、ピストン21の静止摩擦によって排気側の計測に時間的遅れが生じることから、高精度な位置制御ができない可能性がある。そのため、高精度な位置制御を行うには、本実施形態に示したように、供給側の、第1質量流量センサ31にて計測した流体の質量流量値、第3質量流量センサ41にて計測した流体の質量流量値を用いた方が、好ましい。
【0069】
また、本実施形態においては、圧空ポンプ6を用いて流体を供給し、流体を自然排気する例を示したが、それに限らず、圧空ポンプ6を用いず、供給する側となる第1圧力室2a又は第2圧力室2bを大気圧にし、排気する側となる第2圧力室2b又は第1圧力室2aの外部排気を、真空ポンプを用いて排気させるようにしても良い。このようにしても、第1圧力室2aの圧力と、第2圧力室2bの圧力に圧力差が生じることとなるから、上記説明したアクチュエータ2の動作を実現させることが可能となる。この際、上記数式1,2で用いる質量流量値は、第2質量流量センサ32にて計測した流体の質量流量値、又は、第4質量流量センサ42にて計測した流体の質量流量値を用いることとなる。
【0070】
さらに、圧空ポンプ6と、真空ポンプを併用するようにしても良い。すなわち、供給する側となる第1圧力室2a又は第2圧力室2bに、圧空ポンプ6にて流体を供給し、排気する側となる第2圧力室2b又は第1圧力室2aの外部排気を、真空ポンプを用いて排気させるようにする。このようにしても、第1圧力室2aの圧力と、第2圧力室2bの圧力に圧力差が生じることとなるから、上記説明したアクチュエータ2の動作を実現させることが可能となる。この際、上記数式1,2で用いる質量流量値は、第1質量流量センサ31にて計測した流体の質量流量値、又は、第3質量流量センサ41にて計測した流体の質量流量値を用いるようにすれば良い。
【符号の説明】
【0071】
1 流体駆動装置
2 アクチュエータ
2a 第1圧力室
2b 第2圧力室
21 ピストン
3 第1給排制御部
30 第1圧力センサ(圧力センサ)
31 第1質量流量センサ(質量流量センサ)
32 第2質量流量センサ(質量流量センサ)
40 第2圧力センサ(圧力センサ)
41 第3質量流量センサ(質量流量センサ)
42 第4質量流量センサ(質量流量センサ)
5 制御部(制御手段)
6 圧空ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5