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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129931
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ダンパー装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230912BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20230912BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F15/06 G
E04H9/02 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034297
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA19
2E139BD35
3J048AA06
3J048BC02
3J048BE12
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】設置対象に特別な構造を要せず、簡便な構成により構造物に変位が生じた際に減衰力を発生させつつ、設計値以上の水平方向の変位が生じた際に一定の減衰力を発生させるダンパー装置を提供する。
【解決手段】本発明は、外筒内において軸方向に一定の摩擦力を生じて伸縮自在な内筒を有する1つ以上の摩擦ダンパーを備え、前記摩擦ダンパーの軸方向一方側は設置対象における移動端に連結され、軸方向他方側は前記設置対象における固定端に連結され、前記軸方向は、水平方向に対して所定の初期角度を有するように配置されていることを特徴とする、ダンパー装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒内において軸方向に一定の摩擦力を生じて伸縮自在な内筒を有する1つ以上の摩擦ダンパーを備え、
前記摩擦ダンパーの軸方向一方側は設置対象における移動端に連結され、軸方向他方側は前記設置対象における固定端に連結され、
前記軸方向は、水平方向に対して所定の初期角度を有するように配置されていることを特徴とする、
ダンパー装置。
【請求項2】
前記固定端と前記移動端とが相対的に変位する外力が生じた際に、前記固定端と前記移動端との間の水平方向における移動距離に設計値が設定され、
前記設計値は、前記軸方向の角度が水平方向に近い所定値以下となるように設定され、
前記固定端と前記移動端との間の水平方向に生じる減衰力は、前記移動距離の増加に比例して増加し、前記移動距離が前記設計値以上である場合に略一定となる、
請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項3】
前記摩擦ダンパーは、
前記初期角度が90°である第1摩擦ダンパーと、
前記初期角度が0°である第2摩擦ダンパーと、を備える、
請求項1または2に記載のダンパー装置。
【請求項4】
外筒内において軸方向に一定の摩擦力を生じて伸縮自在な内筒を有する複数の摩擦ダンパーを備えるダンパー部と、
前記ダンパー部に設けられた伸縮自在な弾性部材と、を備え、
前記ダンパー部は、枠状に連結された第1摩擦ダンパーと、第2摩擦ダンパーと、第3摩擦ダンパーと、第4摩擦ダンパーとを備え、
前記第2摩擦ダンパーの軸方向一方側と前記第1摩擦ダンパーの軸方向他方側とは第3連結部において回転自在に連結され、
前記第2摩擦ダンパーの軸方向他方側と前記第3摩擦ダンパーの軸方向他方側は第1連結部において回転自在に連結され、
前記第3摩擦ダンパーの軸方向一方側と前記第4摩擦ダンパーの軸方向他方側は第4連結部において回転自在に連結され、
前記第4摩擦ダンパーの軸方向一方側と前記第1摩擦ダンパーの軸方向一方側は第2連結部において回転自在に連結され、
前記弾性部材は、前記第3連結部と前記第4連結部とを連結し、
前記第1連結部は設置対象における固定端に連結され、前記第2連結部は前記設置対象における移動端に連結されていることを特徴とする、
ダンパー装置。
【請求項5】
前記ダンパー部は、前記第1連結部と前記第2連結部とを結ぶ直線方向が水平方向に平行となるように配置されている、
請求項4に記載のダンパー装置。
【請求項6】
上下方向に並列された2個以上の前記ダンパー部を備える、
請求項4に記載のダンパー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の免震装置には、構造物の揺れを減衰させるダンパーが設けられる。例えば、特許文献1には、建物に設けられた免震層を備え、免震層は、傾斜すべり支承と鉛直変位依存型摩擦ダンパーを備える免震システムが記載されている。この免震システムは、傾斜すべり支承の水平方向変位の増加に伴い鉛直方向変位が増加することにより、変位の増加に従って復元力を増加させる変位依存型ダンパーに構成されている。この免震システムによれば、免震層の変位の大きさに応じて減衰量を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-025300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたシステムは、水平方向の変位が設計変位を超えた場合、水平方向の変位と荷重との関係は線形に維持される。そのため、特許文献1に記載されたシステムは、摩擦力が増大することによって構造物に生じる加速度が大きくなり、変位依存型ダンパーの効果がなくなる虞がある。従って、特許文献1に記載されたシステムには、建物の水平方向の変位が設計変位を超えた場合に、設計で想定した以上の摩擦力を抑えるフェイルセーフが必要となるという課題がある。
【0005】
また、特許文献1に記載されたシステムによれば、僅かな鉛直変位(十数mm以下)が生じる場合でも高い減衰力の追従性が求められるため、高い精度を要求されるという課題がある。また、特許文献1に記載されたシステムは、設置場所において高い鉛直剛性が求められるため、設置場所が限られるという課題がある。
【0006】
本発明は、設置対象に特別な構造を要せず、簡便な構成により構造物に変位が生じた際に減衰力を発生させつつ、設計値以上の水平方向の変位が生じた際に一定の減衰力を発生させるダンパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、本発明は、外筒内において軸方向に一定の摩擦力を生じて伸縮自在な内筒を有する1つ以上の摩擦ダンパーを備え、前記摩擦ダンパーの軸方向一方側は設置対象における移動端に連結され、軸方向他方側は前記設置対象における固定端に連結され、前記軸方向は、水平方向に対して所定の初期角度を有するように配置されていることを特徴とする、ダンパー装置である。
【0008】
本発明によれば、建物に生じる変位の増加に比例して減衰力が増加する変位依存型ダンパーを構成することができる。本発明によれば、一般的な摩擦ダンパーを用いて構成可能であり、建設コストを低減できる。
【0009】
また、本発明は、前記固定端と前記移動端とが相対的に変位する外力が生じた際に、前記固定端と前記移動端との間の水平方向における移動距離に設計値が設定され、前記設計値は、前記軸方向の角度が水平方向に近い所定値以下となるように設定され、前記固定端と前記移動端との間の水平方向に生じる減衰力は、前記移動距離の増加に比例して増加し、前記移動距離が前記設計値以上である場合に略一定となるように構成されていてもよい。
【0010】
本発明によれば、建物の変位が設計値を超えた場合には減衰力が略一定となる変位依存型ダンパーを構成することができる。
【0011】
本発明の前記摩擦ダンパーは、前記初期角度が90°である第1摩擦ダンパーと、前記初期角度が0°である第2摩擦ダンパーと、を備えていてもよい。
【0012】
本発明によれば、鉛直方向に配置された第1摩擦ダンパーと水平方向に配置された第2摩擦ダンパーとにより簡便な構成により、減衰力を増加させることができる。
【0013】
本発明は、外筒内において軸方向に一定の摩擦力を生じて伸縮自在な内筒を有する複数の摩擦ダンパーを備えるダンパー部と、前記ダンパー部に設けられた伸縮自在な弾性部材と、を備え、前記ダンパー部は、枠状に連結された第1摩擦ダンパーと、第2摩擦ダンパーと、第3摩擦ダンパーと、第4摩擦ダンパーとを備え、前記第2摩擦ダンパーの軸方向一方側と前記第1摩擦ダンパーの軸方向他方側とは第3連結部において回転自在に連結され、前記第2摩擦ダンパーの軸方向他方側と前記第3摩擦ダンパーの軸方向他方側は第1連結部において回転自在に連結され、前記第3摩擦ダンパーの軸方向一方側と前記第4摩擦ダンパーの軸方向他方側は第4連結部において回転自在に連結され、前記第4摩擦ダンパーの軸方向一方側と前記第1摩擦ダンパーの軸方向一方側は第2連結部において回転自在に連結され、前記弾性部材は、前記第3連結部と前記第4連結部とを連結し、前記第1連結部は設置対象における固定端に連結され、前記第2連結部は前記設置対象における移動端に連結されている、ダンパー装置である。
【0014】
本発明によれば、一般的な摩擦ダンパーを組み合わせることで、建物に生じる変位の増加に比例して減衰力が増加すると共に、建物の変位が設計値を超えた場合には減衰力が略一定となる変位依存型ダンパーを構成することができる。
【0015】
本発明の前記ダンパー部は、前記第1連結部と前記第2連結部とを結ぶ直線方向が水平方向に平行となるように配置されていてもよい。
【0016】
本発明によれば、枠状に組み合わされた4個の摩擦ダンパーにより、変位依存型ダンパーを構成することができる。
【0017】
本発明は、上下方向に並列された2個以上の前記ダンパー部を備えていてもよい。
【0018】
本発明によれば、ダンパーを水平方向に平行に増加させることにより、減衰力を増加させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、構造物に変位が生じた際に減衰力を発生させつつ、設計値以上の変位が生じた際に一定の減衰力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】摩擦ダンパーの構成を示す図である。
図2】摩擦ダンパーの復元力特性を示す図である。
図3】平行に配置された複数の摩擦ダンパーの復元力特性を示す図である。
図4】従来の変位依存型ダンパーの復元力特性を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るダンパー装置が適用された構造体の構成を示す図である。
図6】ダンパー装置の構成を示す図である。
図7】ダンパー装置に生じる減衰力を示す図である。
図8】ダンパー装置の角度とcos値との関係を示す図である。
図9】ダンパー装置の復元力特性を示す図である。
図10】変形例1に係るダンパー装置が適用された構造体の構成を示す図である。
図11】変形例1に係るダンパー部の構成を示す平面図である。
図12】変形例1に係るダンパー部の構成を示す側面図である。
図13】変形例1に係るダンパー装置の復元力特性を示す図である。
図14】変形例1に係るダンパー部の動作を示す図である。
図15】複数のダンパー部を有する変形例1に係るダンパー装置の構成を示す図である。
図16】変形例2に係るダンパー装置が適用された構造体の構成を示す図である。
図17】変形例2に係るダンパー装置の復元力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るダンパー装置の実施形態について説明する。
【0022】
図1に示されるように、一般的な摩擦ダンパーDは、外筒D1と外筒D1内に移動自在に設けられた内筒D2とを備えている。摩擦ダンパーDは、外筒D1から内筒D2に締付力Tが加えられることにより、外筒D1の内周面と内筒D2の外周面との間の接触面に生じる摩擦力Fにより減衰力Qを生じさせる。摩擦ダンパーDは、外筒D1と内筒D2の間に軸方向に沿って相対変位が生じた際に、摩擦力により生じる熱エネルギーや材料の塑性化により生じる履歴吸収エネルギーに基づいて地震エネルギーを吸収するように構成されている。
【0023】
図2に示されるように、摩擦ダンパーDは、締付力Tが一定であり、且つ、内筒D2と外筒D1との間の摩擦係数も一定である場合、変位の増減に依存せず一定の摩擦力Fを生じる。そのため、摩擦ダンパーDの復元力特性は、変位に対する摩擦力が一定に示された矩形となる。摩擦ダンパーDを用いた減衰力Qは、摩擦力Fと反対方向に同じ大きさで生じる。減衰力Qを増加させるため、複数の摩擦ダンパーDによりダンパー装置が構成される場合がある。
【0024】
図3に示されるように、並列に配置された複数の摩擦ダンパーを備えるダンパー装置全体の減衰力Qは、摩擦力をFとすると、Q=n×F(nは、摩擦ダンパーの数量)である。このとき、ダンパー装置全体の復元力特性は、変位に対する減衰力が一定に示された矩形となる。摩擦ダンパーには、この他、ダンパーのストロークの増大に伴い減衰力が増大する、変位依存型摩擦ダンパーも提案されている。
【0025】
図4に示されるように、変位依存型摩擦ダンパーは、通常の摩擦ダンパーと異なる復元力特性を有している。図示するように、変位依存型摩擦ダンパーの復元力特性は、変位ゼロ点における初期状態の摩擦力Fが従来の摩擦ダンパーDの摩擦力Fに比して数割程度である。変位依存型摩擦ダンパーの復元力特性は、軸方向の変位の増大と共に摩擦力が増大し、摩擦力が従来の摩擦ダンパーDの摩擦力と同値となった際に設計最大摩擦力Fmaxとなるように調整されている。これにより、変位依存型摩擦ダンパーは、変位が小さい中小地震時には従来の摩擦ダンパーDに比して小さな摩擦力を生じ、変位が大きくなるに従って摩擦力が大きく生じるように構成されている。
【0026】
変位依存型摩擦ダンパーは、建物の免震層に適用することができる。変位依存型摩擦ダンパーを免震層に設置した第1構造物と、最大摩擦力が同一である従来の変位に依存しない摩擦ダンパーDを設置した第2構造物とを比較する。中小地震が発生した際は、第1構造物の第1応答加速度は、摩擦力Fが小さいため第2構造物の第2応答加速度に比して小さくなるという効果を奏する。しかしながら、建物の水平方向の最大設計変位δmを超えるような大きな地震が発生した場合、第1構造物の第1応答加速度は、変位の増大に比例して変位依存型摩擦ダンパーの摩擦力が大きくなるため、第2構造物の第2応答加速度に比して増大する虞がある。以下、構造物に変位が生じた際に減衰力を発生させつつ、設計値以上の変位が生じた際に一定の減衰力を発生させるダンパー装置について説明する。
【0027】
図5及び図6に示されるように、ダンパー装置1は、免震層Mを有する構造体50に設けられている。構造体50は、例えば、基礎側に設けられた下部構造体51と、下部構造体51の上方に設けられた上部構造体52とを備えている。上部構造体52は、免震層Mを介して下部構造体51に支持されている。上部構造体52は、例えば、建物である。下部構造体51は、例えば、地盤側に設けられた基礎構造である。下部構造体51は、建物の中間層に設けられるものであってもよい。免震層Mは、例えば、ゴム等の弾性体で形成された板状体と鉄板が交互に積層されて形成されている。ダンパー装置1は、上部構造体52と上部構造体52との間を連結している。
【0028】
地震が発生した場合、下部構造体51と上部構造体52とは、相対的に変位する。このとき、免震層Mは、伸縮自在に上部構造体52を下部構造体51に対して支持する。免震層Mが伸縮することにより、地震発生時において、下部構造体51に対する上部構造体52の相対的な変位に対して上部構造体52に下部構造体51に発生する揺れが直接伝搬することが防止される。
【0029】
しかし、長周期大振幅地震動が発生した際には免震層Mだけでは、上部構造体52の揺れを低減できなくなる虞があるため、上部構造体52と下部構造体51との間に揺れを減衰するためのダンパー装置1が設けられる。
【0030】
ダンパー装置1は、例えば、一定の摩擦力を生じて軸L方向に伸縮自在な摩擦ダンパー2を備える。以下、適宜、方向の説明において軸方向一方側と軸方向他方側を定義するが、便宜上のものであり、一方側及び他方側を読み替えてもよい。摩擦ダンパー2の軸方向他方側は設置対象である構造体50における固定端51Aに連結され、軸方向一方側は設置対象である構造体50における移動端52Aに連結されている。固定端51Aは、例えば、下部構造体51側に設けられている。固定端51Aは、例えば、下部構造体51と一体に設けられた固定台座である。移動端52Aは、例えば、上部構造体52側に設けられている。移動端52Aは、上部構造体52と一体に設けられた固定台座である。
【0031】
固定端51Aの上面には、連結部材51Bが設けられている。摩擦ダンパー2の軸方向一方側は、連結部材51Bに軸ピンP1を介して回転自在に連結されている。移動端52Aの下面には、連結部材52Bが設けられている。摩擦ダンパー2の軸方向他方側は、連結部材52Bに軸ピンP2を介して回転自在に連結されている。摩擦ダンパー2は、例えば、円筒形の外筒3と、外筒3の内周面に移動自在に挿入された円筒形の内筒4とを備えている。外筒3の内周面と内筒4の外周面とは、接触している。外筒3は、所定の締め付けトルクにて内筒4を締め付け、摩擦を生じさせている。
【0032】
内筒4は、軸方向に沿って外筒3に対して相対的に移動可能であり、移動方向と反対方向に一定の摩擦力Fを生じ、移動方向に対して一定の減衰力Qを生じさせる。内筒4の軸方向一方側は、外筒3内に挿入されている。内筒4の軸方向他方側は、外筒3の軸方向他方側から露出している。内筒4の軸方向他方側には、連結部材52Bと連結する棒状の第1連結杆5が設けられている。第1連結杆5の軸方向一方側は、内筒4に固定されている。第1連結杆5の軸方向他方側は、軸ピンP2を介して連結部材52Bに回転自在に連結されている。
【0033】
外筒3の軸方向一方側には、棒状の第2連結杆6が設けられている。第2連結杆6の軸方向他方側は、外筒3の軸方向一方側に固定されている。第2連結杆6の軸方向一方側は、軸ピンP1を介して連結部材51Bに回転自在に連結されている。摩擦ダンパー2の軸方向は、水平方向に対して所定の初期角度θを有するように斜めに配置されている。摩擦ダンパー2の構成は一例であり、伸縮時に軸方向に沿って一定の摩擦力を生じることができれば他の構成を有していてもよい。
【0034】
図7に示されるように、摩擦ダンパーの軸方向の摩擦力Fとすると、水平方向の減衰力Q0hと鉛直方向の減衰力Q0vは、以下の式(1)により示される。
【0035】
【数1】
地震により、下部構造体51と上部構造体52との間に相対的に水平変位δが生じる。これに伴い、摩擦ダンパー2は伸長し、伸長の過程において軸方向に沿って一定の摩擦力Fを生じる。このとき、摩擦力Fと反対方向に減衰力Qを生じる。水平変位δが、最大設計変位δmに到達した場合、この時の水平方向の減衰力Qmhと鉛直方向の減衰力Qmvは、以下の式(2)により示される。このとき、水平変位δの値に関係なく摩擦力Fは一定である。
【0036】
【数2】
【0037】
下部構造体51と上部構造体52との間の相対的な水平変位が0から最大設計変位δmまでは、摩擦ダンパー2と水平方向のなす角度θが小さくなるたびに水平方向に生じる減衰力Qが増大する。下部構造体51と上部構造体52とは、相対的に変位した後、免震層Mの復元力に基づいて元の位置に戻る。このとき、連動して摩擦ダンパー2は、伸長時と同じ軌跡上を移動して元の位置に戻る。
【0038】
図8に示されるように、例えば、ダンパー装置1に発生する水平方向の設計初期減衰力を摩擦力Fの20%に設定したい場合、摩擦ダンパー2の軸方向と水平方向との初期角度θを78°に設定すればよい。また、下部構造体51と上部構造体52との間の水平方向の相対的な最大設計変位δmを50cmに設定した場合、最大設計変位δmにおける摩擦ダンパー2の軸方向と水平方向との角度が18°である。このとき、cos18°が0.95であるため、水平方向の減衰力Qは、摩擦力Fの95%となる。
【0039】
ダンパー装置1は、上記構成により、下部構造体51と上部構造体52との間の水平方向の相対的な変位δが最大設計変位δmを超えた際、水平方向の減衰力Qcosθの変化は、95%以上となり略減衰力Qの値に近い一定値となる。
【0040】
図9に示されるように、ダンパー装置1の復元力特性は、下部構造体51と上部構造体52との間の水平方向の相対的な変位δが0の初期位置においては、Q0h=Fcosθである。例えば、固定端51Aと移動端52Aとの間の水平方向における相対的な変位(移動距離)は、最大設計変位δmに設定する。最大設計変位δmの位置において摩擦ダンパー2の軸方向の角度が水平方向に近い所定値以下となるように設定されている。図9の例では、初期角度θ=78°、初期の水平減衰力Q0h=0.2F、設計角度θm=18°、水平方向の減衰力Qmh=0.95Fに各設定値が設定されている。
【0041】
上記条件において、固定端51Aと移動端52Aとが相対的に変位する外力が生じた際に、固定端51Aと移動端52Aとの間の水平方向に生じる減衰力Qは、移動距離が0から最大設計変位δmまでの間は、移動距離の増加に連動して増加する。移動距離が最大設計変位δm以上となった場合、水平方向に生じる減衰力Qは略一定となる。
【0042】
上述したように、ダンパー装置1によれば、構造物に変位が生じた際に、水平方向の相対的な変位の増加に連動して増加する減衰力を発生させつつ、水平方向に相対的に最大設計変位δm以上の変位が生じた際に一定の減衰力を発生させる変位依存型摩擦ダンパーを実現できる。ダンパー装置1によれば、既存の摩擦ダンパー2を用いて構成されるため、装置構成を簡略化すると共に、設置コストを低減することができる。ダンパー装置1によれば、構造体50に移動距離が少ない小さい地震力が生じる際には小さい減衰力Qを発生し、移動距離が最大設計変位δm以上である場合には、減衰力Qhを一定に保持し、構造体50に加わる加速度を低減することができる。
【0043】
以下、変位依存型摩擦ダンパーを実現するダンパー装置の変形例について説明する。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については、同一の名称及び符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0044】
[変形例1]
図10に示されるように、ダンパー装置1Aは、構造体50において水平方向に伸縮自在となるように取り付けられている。
【0045】
図11及び図12に示されるように、ダンパー装置1Aは、複数の摩擦ダンパー2を備えるダンパー部2Sと、ダンパー部に設けられた伸縮自在な弾性部材10と、を備える。ダンパー部2Sは、例えば、枠状に連結された第1摩擦ダンパー2Aと、第2摩擦ダンパー2Bと、第3摩擦ダンパー2Cと、第4摩擦ダンパー2Dとを備えている。第1摩擦ダンパー2Aと、第2摩擦ダンパー2Bと、第3摩擦ダンパー2Cと、第4摩擦ダンパー2Dとは、それぞれ摩擦ダンパー2により構成されている。
【0046】
ダンパー部2Sは、例えば、平面視して時計回りに第1摩擦ダンパー2Aと、第2摩擦ダンパー2Bと、第3摩擦ダンパー2Cと、第4摩擦ダンパー2Dとの順に配置されている。また、ダンパー部2Sは、平面視して各ダンパー同士を連結する第1連結部R1と、第2連結部R2と、第3連結部R3と、第4連結部R4が設けられている。第1連結部R1、第2連結部R2、第3連結部R3、及び第4連結部R4は、例えば、軸ピンによるピン結合である。
【0047】
第1摩擦ダンパー2Aの軸方向他方側と第2摩擦ダンパー2Bの軸方向一方側は第3連結部R3において回転自在に連結されている。第2摩擦ダンパー2Bの軸方向他方側と第3摩擦ダンパー2Cの軸方向他方側は第1連結部R1において回転自在に連結されている。第3摩擦ダンパー2Cの軸方向一方側と第4摩擦ダンパー2Dの軸方向他方側は第4連結部R4において回転自在に連結されている。第4摩擦ダンパー2Dの軸方向一方側と第1摩擦ダンパー2Aの軸方向一方側は第2連結部R2において回転自在に連結されている。
【0048】
弾性部材10は、第3連結部R3と第4連結部R4とを連結している。弾性部材10は、例えば、コイルスプリングである。第1連結部R1と第2連結部R2とを結ぶ直線と、第2摩擦ダンパー2Bの軸線とのなす角度はθであり、初期角度はθに設定されている。第3連結部R3と第4連結部R4との間は、角度θを確保するため、弾性部材10により予張力Fsがかけられている。これにより、ダンパー部2Sは、第1連結部R1と、第2連結部R2とを結ぶ軸線上において伸縮自在に構成されている。
【0049】
第1連結部R1は、例えば、設置対象(構造体50)における固定端51Aに連結されている。第2連結部は、例えば、設置対象における移動端52Aに連結されている(図10参照)。これにより、第1連結部R1の位置は固定され、第2連結部R2、第3連結部R3、及び第4連結部R4は、変位可能に構成されている。ダンパー部2Sは、第1連結部R1と第2連結部R2とを結ぶ直線方向が水平方向に平行となるように配置されている。
【0050】
第1摩擦ダンパー2Aの摩擦力は、Fである。第2摩擦ダンパー2Bの摩擦力は、Fである。第3摩擦ダンパー2Cの摩擦力は、Fである。第4摩擦ダンパー2Dの摩擦力は、Fである。第1摩擦ダンパー2A、第2摩擦ダンパー2B、第3摩擦ダンパー2C、及び第4摩擦ダンパー2Dの復元力特性は、従来の摩擦ダンパーの復元力特性と同様である(図2参照)。ダンパー部2Sの初期角度θ及び角度θにおける減衰力Qは、以下の式(3)により示される。
【0051】
【数3】
【0052】
ダンパー部2Sは、θ=0となったときに、最大設計変位δmとなるように設定されている。このとき、cos0=1であるから、減衰力Qは、最大値Qmaxとなり、以下の式(4)により示される。
【0053】
【数4】
【0054】
ダンパー部2Sの変位は、最大設計変位δmを超えても、θ角度は0度のままである。従ってダンパー部2Sの減衰力Qは、最大設計変位δmを超えた場合、Qmaxのままで一定となる。
【0055】
図13には、ダンパー部2Sの復元力特性が示されている。ダンパー部2Sは、変位したあと、戻るときに同じ経路で戻ってくることができる。ダンパー部2Sの復元力特性は、減衰力が式(3)に基づいて余弦関数(cos)に依存するため、力の伝達は線形関数(図4)よりスムーズにできる。ダンパー部2Sを構成する各ダンパーの各摩擦力F、F、F、Fは、同一に設定されていてもよいし、F=FC、=Fに設定されていてもよい。
【0056】
図14に示されるように、固定端51Aと移動端52Aとが相対的に変位する外力が生じた際に、固定端51Aと移動端52Aとの間の水平方向に生じる減衰力Qは、移動距離が0から最大設計変位δmまでの間は、移動距離の増加に連動して増加する。移動距離が最大設計変位δm以上となった場合、水平方向に生じる減衰力QはQmaxとなり、略一定となる。
【0057】
図15に示されるように、ダンパー装置1Aは、上下方向に並列に配置された2個以上のダンパー部2Sを備え、減衰力Qを増加させてもよい。上述したように、ダンパー装置1Aによれば、構造物に変位が生じた際に、水平方向の相対的な変位の増加に連動して増加する減衰力を発生させつつ、水平方向に相対的に設計値以上の変位が生じた際に一定の減衰力を発生させる変位依存型摩擦ダンパーを実現できる。
【0058】
ダンパー装置1Aによれば、既存の摩擦ダンパー2を複数個用いて構成されるため、装置構成を簡略化すると共に、設置コストを低減することができる。ダンパー装置1Aによれば、構造体50に移動距離が少ない小さい地震力が生じる際には小さい減衰力Qを発生し、移動距離が最大設計変位δm以上である場合には、減衰力Qを一定に保持し、構造体50に加わる加速度を低減することができる。
【0059】
[変形例2]
図16に示されるように、ダンパー装置1Bは、水平に配置された摩擦ダンパー2(第1摩擦ダンパー)と、垂直に配置された摩擦ダンパー2(第2摩擦ダンパー)とを備えている。ダンパー装置1Bは、初期角度が90°である摩擦ダンパー2と、初期角度が0°である摩擦ダンパー2との2個の摩擦ダンパー2を備えている。初期状態における摩擦ダンパー2の摩擦力Fとすると、水平方向の減衰力Q0hと鉛直方向の減衰力Q0vとは以下の式(5)により示される。
【0060】
【数5】
【0061】
水平方向の移動距離が最大設計変位δm以上になった場合、水平方向の減衰力Qmhと鉛直方向の減衰力Qmvは、式(6)に示されるように、変位に関係なく摩擦力Fは一定となる。
【0062】
【数6】
【0063】
図17に示されるように、ダンパー装置1Bの復元力特性は、垂直方向に設置された摩擦ダンパー2の復元力特性と水平方向に配置された摩擦ダンパー2の復元力特性を合成した値となる。水平方向の移動距離が0から最大設計変位δmまでは、垂直方向に配置された摩擦ダンパー2の軸方向と水平方向との角度θが小さくなるに従って、水平方向に生じる減衰力Qが増大する。ダンパー装置1Bは、水平方向に移動距離が生じたあと、戻るときに同じ経路で戻ってくることができる。
【0064】
上述したように、ダンパー装置1Bによれば、鉛直方向に配置された摩擦ダンパー2に加えて水平方向に配置された摩擦ダンパー2に基づいて、ダンパー装置1に比して減衰力Qを増加させることができる。ダンパー装置1Bによれば、通常の摩擦ダンパー2を用いることにより、構成を簡略化することができる。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、変形例2に係るダンパー装置1Bは、摩擦ダンパー2に換えて、変形例1のダンパー部2Sが配置されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1、1A、1B ダンパー装置
2 摩擦ダンパー
2A 第1摩擦ダンパー
2B 第2摩擦ダンパー
2C 第3摩擦ダンパー
2D 第4摩擦ダンパー
2S ダンパー部
3 外筒
4 内筒
10 弾性部材
51A 固定端
52A 移動端
D 摩擦ダンパー
D1 外筒
D2 内筒
R1 第1連結部
R2 第2連結部
R3 第3連結部
R4 第4連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17