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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129954
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】乗客コンベアの検査方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
B66B31/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034329
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】宋 彦舟
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321CB11
3F321EB07
3F321EC06
(57)【要約】
【課題】異物による誤認識を抑制し、錆の発生箇所を認識できる乗客コンベアの検査方法を提供する
【解決手段】
本発明の乗客コンベアの検査方法は、カメラ27が踏段10を撮影し、処理部22が撮影された画像からデマケーションと前補強部109を認識し、デマケーションに変色部があるかどうかを判定し、デマケーションに変色が無ければ錆サンプル42~46と前補強部109の画像を比較し、前補強部109の錆領域を判定し、デマケーションに変色があれば変色部の色情報と錆サンプル42~46の両方と前補強部109の画像を比較し、前補強部109の錆領域を判定し、表示部23が前補強部109の錆領域の面積を出力する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの検査方法において、
カメラが踏段を撮影し、
処理部が撮影された画像からデマケーションと補強部を認識し、
デマケーションに変色部があるかどうかを判定し、
デマケーションに変色が無ければ錆の色サンプルと補強部の画像を比較し、補強部の錆領域を判定し、
デマケーションに変色があれば変色部の色情報と錆の色サンプルの両方と補強部の画像を比較し、補強部の錆領域を判定し、
出力部が補強部の錆領域の面積を出力する乗客コンベアの検査方法。
【請求項2】
前記処理部がデマケーションに変色部があると判定したとき、変色部は異物があると判定する請求項1に記載の乗客コンベアの検査方法。
【請求項3】
前記錆の色サンプルは補強部に固定されている請求項2に記載の乗客コンベアの検査方法。
【請求項4】
前記錆の色サンプルは、錆具合を異なる色で表示する複数の錆の色サンプルと、補強部の塗装に使用された塗料と同じ材質、同じ塗装方法で作製された塗装サンプルと含む請求項3に記載の乗客コンベアの検査方法。
【請求項5】
前記カメラは赤外線画像と可視光画像の複数種の画像を撮影可能なカメラである請求項4に記載の乗客コンベアの検査方法。
【請求項6】
前記処理部は錆の面積が前記補強部の全体面積の所定値以上であるか否か判定する請求項4に記載の乗客コンベアの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーター等に適用する乗客コンベアの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の外部表面に発生した錆色から腐食状態を判別する技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。
【0003】
特許文献1では、鉄塔等の構造物の外部表面をカメラで撮影し、撮影した画像を処理することにより、二値化処理とHough変換で検査対象物を抽出すると共に、明度、彩度、色相、面積、面積比等を利用して検査対象物の腐食状態を検出し、検査対象物外部表面の腐食度や劣化レベルを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-132962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗客コンベアでは、安全性を確保するために、定期的にメンテナンスが実施される。メンテナンスでは、乗客が乗る踏段について、錆による腐食の有無、油カス等の異物の付着の有無の検査が行われる。この検査は、作業員の目視により行われるため、踏段のクリートの溝に発生した錆を確認し難かった。これを解決する手法として、特許文献1に記載の技術を適用することが考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、画像認識により構造物の外部表面に発生した錆を認識するようにしているが、例えば、異物と錆を認識する点については考慮されていなかった。
【0007】
そのため、特許文献1に記載の技術は、異物を錆と誤認識する可能性があり、特にデマケーションに油カス等の異物が発生する乗客コンベアの錆の検査には向いていない。
【0008】
本発明の目的は、異物による誤認識を抑制し、錆の発生箇所を認識できる乗客コンベアの検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明は、乗客コンベアの検査方法において、カメラが踏段を撮影し、処理部が撮影された画像からデマケーションと補強部を認識し、デマケーションに変色部があるかどうかを判定し、デマケーションに変色が無ければ錆の色サンプルと補強部の画像を比較し、補強部の錆領域を判定し、デマケーションに変色があれば変色部の色情報と錆の色サンプルの両方と補強部の画像を比較し、補強部の錆領域を判定し、出力部が補強部の錆領域の面積を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異物による誤認識を抑制し、錆の発生箇所を認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係る乗客コンベアの概略構成図である。
図2】踏段10を後方側から見た斜視図である。
図3図2をF方向(前方側)から見た斜視図である。
図4】本発明の実施例に係る検査装置の概略構成図である。
図5】前補強部109に錆サンプルマーカー40を固定した状態を示す概略図である。
図6】錆サンプル基準データベース28に記憶されている錆サンプルマーカー40に対応する特徴量と錆具合の一例を示す図である。
図7】本発明の実施例に係る乗客コンベアの検査方法を示すフローチャートである。
図8図7の細部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、同様の説明は繰り返さない。
【0013】
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【0014】
以下の実施例では、一例として昇降型の乗客コンベアの例を用いて説明するが、水平型の乗客コンベアであるオートウォークでも構わない。
【0015】
図1は、本発明の実施例に係る乗客コンベアの概略構成図である。乗客コンベア1は、建屋の下階床2と上階床3との間に架設され、下階床2に向かって延在する下部水平部4a、上階床3に向かって延在する上部水平部4b、及び下部水平部4aと上部水平部4bとの間に形成される傾斜部4cとを有するトラスフレーム4を備えている。下部水平部4aの終端部には、下階床2の建築受梁5に載置される既設下部支持アングル6が設けられる。上部水平部4bの終端部には、上階床3の建築受梁7に載置される既設上部支持アングル8が設けられている。トラスフレーム4は長手方向両端部に設けた支持アングルによって建築受梁5,7に架設されている。
【0016】
トラスフレーム4には、構成部品として、無端状に連結され、乗降口間を循環移動する複数の踏段10と、上部機械室9に設置される踏段駆動機11と、踏段駆動機11により駆動される上部スプロケット12と、下部機械室13に設置される下部スプロケット14と、上部スプロケット12および下部スプロケット14に巻回される踏段チェーン15と、踏段10の進行方向(トラスフレーム4の長手方向)に沿って踏段10の両側方に立設される欄干16と、この欄干16より支持される移動手摺り17とが設置されている。踏段10は、上部スプロケット12と下部スプロケット14の位置で折り返すように動作する。
【0017】
次に踏段10の構成について説明する。図2は、踏段10を後方側から見た斜視図である。図3は、図2をF方向(前方側)から見た斜視図である。なお、本実施例では、上り方向に運転されている乗客コンベアを例に説明する。このため矢印に示す方向をそれぞれ上下・前後・左右と定義する。
【0018】
踏段10は、乗客が乗る位置となる水平部を有するクリート101と、クリートの後端部(移動方向の一端部)から下方へ弧面を有して延びるライザ102と、クリート101とライザ102とを接合するフレーム103とを備える。クリート101は、踏段10の移動方向に平行な複数の山部と溝部とを備え、これらの山部と溝部が左右方向(幅方向)に交互に配置されている。クリート101の山部の上面は、踏段10の上面を構成し、乗客が乗る面となる。
【0019】
さらに、踏段10は、クリート101の端部にデマケーションを備えている。デマケーションは、後端部に形成された後端デマケーション104と、左右両側に形成された2つの側端デマケーション105と、前端部に形成された前端デマケーション106とを備える。
【0020】
後端デマケーション104は、クリート101のライザ102側の端部、すなわちクリート101の後端部(下階側の端部)である。側端デマケーション105は、クリート101の左右方向(幅方向)の両端部である。前端デマケーション106は、クリート101のライザ102側と反対方向の端部、すなわちクリート101の前端部(上階側の端部)である。これらのデマケーション(後端デマケーション104,側端デマケーション105,前端デマケーション106)は、識別性の高い色に着色されているのが好ましい。例えば、上記デマケーションは、黄色に着色する。
【0021】
また、デマケーション(後端デマケーション104,側端デマケーション105,前端デマケーション106)は、クリート101とは別の部品を樹脂などで成形し、この部品をクリート101に設置することで構成してもよい。クリート101とは別の部品で構成された上記デマケーションは、クリート101と同様に、踏段10の移動方向に平行な複数の山部と溝部とを備える。
【0022】
フレーム103の左右両側には、トラスフレーム4上を移動する前輪107と、後輪108が備えられている。前輪107は、車軸107aを介してフレーム103の左右両側に備えられる。後輪108は、フレーム103の左右両側に直接取り付けられている。
【0023】
クリート101の前端部(ライザ102の移動方向とは反対側の他端部)の下方には、クリート101の強度を確保するための前補強部109(補強部)が備えられている。前補強部109はクリート101の左右方向(幅方向)に沿って延びており、前後方向に沿って切断した断面が、前側に向かって開くようにU字状に形成されている。
【0024】
前補強部109の上側受け部109aは、クリート101の下面に固定されており、前補強部109の下側受け部109bは、ボルト110によってフレーム103に固定されている。また、前補強部109には、下側受け部109bから下方に向かって延びたフランジ部109cを備えている。前補強部109のフランジ部109cの任意の位置には、後述する錆サンプルマーカー40(錆の色サンプル)が固定される。
【0025】
ライザ102の下方には、ライザ102の強度を確保するための後補強部111が備えられている。後補強部111はライザ102の左右方向(幅方向)に沿って延びている。
【0026】
後補強部111の上側は、ライザ102の下方に固定されており、後補強部111の下側は、ボルト112によってフレーム103に固定されている。
【0027】
乗客コンベア1は、安全性を確保するために、定期的に点検が実施される。点検にあたっては、上部機械室9の上方、下部機械室13の上方を覆うアプローチレーン9a,13a(図1参照)の一部を取り外し、上部機械室9の上方、下部機械室13の上方を開放した状態で行われる。そして、作業員は上部機械室9及び下部機械室13に入り、点検作業を実施する。
【0028】
点検の一つに、踏段10に発生した錆の検査がある。従来は、作業員の目視により実施されていたが、錆の発生箇所によっては確認し難かった。また、踏段には錆以外に汚れも付着しており、錆と汚れの識別が難しかった。これを解決する手段について以下説明する。
【0029】
図4は、本発明の実施例に係る検査装置の概略構成図である。検査装置20は制御部21、処理部22、表示部23(出力部)、通信部24、赤外線ライト25、蛍光灯26、カメラ27(撮影手段)、錆サンプル基準データベース28、図示しない電源供給部(バッテリー)から構成されている。
【0030】
本実施例において、制御部21は少なくとも以下の制御を行う。
(1)赤外線ライト25の照射と遮断の制御
(2)蛍光灯26の照射と遮断の制御
(3)カメラ27の起動と終了の制御
(4)カメラ27から撮影された録画を処理部22へ伝送する制御
制御部21には、図示しない中央処理装置、各機器を制御するためのプログラムを記憶する記憶装置が備えられており、中央処理装置が記憶装置に記憶されたプログラムに従い、各機器を制御する。
【0031】
また、処理部22はカメラ27が撮影した踏段10の画像を処理するものであり、少なくとも以下の処理を行う。
(1)制御部21から伝送された録画画像から各踏段10を切り分ける処理
(2)錆サンプルマーカー40(図5参照)を検出する処理
(3)前補強部109を検出する処理
(4)デマケーションを検出する処理
(5)デマケーションの色を検出する処理
(6)色を比較する処理
(7)画像中特定のエリアの特徴量(例えばRGB値と輝度)を抽出する処理
(8)前記特徴量を用いて錆サンプルマーカー40と比較する処理
(9)画像中特定のエリアの面積を計算する処理
(10)前記特定エリアの特徴量と錆サンプルマーカー40の比較結果を用いて錆サンプル基準データベース18から錆具合を読み取る処理
(11)前記の処理結果を記録する処理
処理部22には、図示しない中央処理装置、各機器を制御するためのプログラムを記憶する記憶装置が備えられており、中央処理装置が記憶装置に記憶されたプログラムに従い、各処理を実行する。
【0032】
表示部23(出力部)は、処理部22で処理した結果を表示(出力)する。
【0033】
通信部24は少なくとも以下の処理を行う。
(1)履歴データベース30との通信を行う処理
(2)非図示の保存部から検出結果を履歴データベース30へ送信する処理
(3)検出結果が保存されたことを履歴データベース30から受信する処理
赤外線ライト25は、少なくとも波長が780nm以上の赤外線を照射可能とする。
【0034】
蛍光灯26は、少なくとも可視光波長(380nm~780nm)を照射可能なものとする。
【0035】
カメラ27は、少なくとも可視光波長と赤外線波長(380nm以上)を認識可能なものとする。すなわち、カメラ27は、赤外線画像と可視光画像との複数種の画像を撮影可能なカメラである
錆サンプル基準データベース28は、錆サンプルマーカー40の各サンプルが対応する錆具合を保存するものである。
【0036】
履歴データベース30は、アップロードされた各踏段10における錆の有無、錆面積、錆具合、計測日時、画像データと乗客コンベア1の基本情報を記憶するデータベースである。
【0037】
検査装置20は、例えば三脚等に搭載され、アプローチレーン9a,13aの一部を取り外して上方が開放された上部機械室9、或いは下部機械室13に設置される。そして、上部スプロケット12、下部スプロケット14で折り返される踏段10を撮影し、踏段10の前補強部109、クリート101に発生する錆、デマケーションの汚れを検査するものである。踏段10は、上部スプロケット12、下部スプロケット14で折り返された際に、前補強部109が露出する。
【0038】
次に錆錆サンプルマーカー40の構成について説明する。図5は、前補強部109に錆サンプルマーカー40を固定した状態を示す概略図である。図5は、踏段10の前補強部109、前端デマケーション106を前側から見た状態を示している。なお、図5は検査装置20を上部機械室9側に設置した状態である。検査装置20を下部機械室13側に設置した場合は、前端デマケーション106は前補強部109の下側に位置するようになるが、検査方法に変更はない。
【0039】
上述したように、前補強部109のフランジ部109cの任意の位置には、錆サンプルマーカー40が固定される。錆サンプルマーカー40は、両面テープ、磁石等で前補強部109のフランジ部109cに固定される。
【0040】
錆サンプルマーカー40は、前補強部109のフランジ部109cに固定される固定板41と、固定板41の表面に備えられた複数の錆サンプル42~46と、固定板41の表面に備えられた塗装サンプル47から構成される。
【0041】
錆サンプル42~46は、錆具合を異なる色で表示している。錆サンプル42~46は、例えば、部品交換が必要な錆(錆サンプル42)、補修が必要な錆(錆サンプル43)、注意が必要な錆(錆サンプル44)、放置して良い錆(錆サンプル45,46)といったように、錆具合がわかるように、色を設定することが好ましい。本実施例では、錆サンプル42が錆具合が最も酷い状態を示しており、錆サンプル42から錆サンプル43,44,45のように紙面の右側に進むに従い錆具合が軽くなり、錆サンプル46が錆具合が最も軽い状態を示している。本実施例では錆のサンプル数を5個としているが、数はこれに限定されるものでは無い。
【0042】
塗装サンプル47は、前補強部109の塗装に使用された塗料と同じ材質、同じ塗装方法で作製されたものである。
【0043】
錆サンプルマーカー40は、カメラ27で撮影するが、乗客コンベア1の設置場所、点検する時間帯等によってカメラ27が認識する輝度、照度が変化する。例えば、屋内に設置された乗客コンベアでは、屋外に設置された乗客コンベアに比べ輝度・照度が小さくなり、夜間に点検を実施する場合は、昼間に点検を実施する場合に比べ輝度・照度が小さくなる。このため、錆サンプルマーカー40は、乗客コンベア1の設置場所、点検する時間帯等を考慮した複数パターンを準備することが好ましい。
【0044】
図5に示す例では、前補強部109に錆50が発生している。前補強部109に発生した錆50は、塗装サンプル47とは異なる色となっている。図5に示す例では、錆50は部品交換が必要な錆(錆サンプル42)に対応する状態となっている。また、前端デマケーション106の一部には、異物Mが付着し、前端デマケーション106の色と異なる状態となっている。
【0045】
図6は、錆サンプル基準データベース28に記憶されている錆サンプルマーカー40に対応する特徴量と錆具合の一例を示す図である。
【0046】
本実施例の錆サンプル基準データベース28には、赤外線画像と可視光画像に分けて記憶されている。錆サンプル基準データベース28は、複数の特徴量(サンプル1、2、3…)毎に、それぞれR成分、G成分、B成分、輝度の4つの指標が記憶されている。また、この4つの指標は、赤外線画像の場合と可視光画像の場合の2種類あり、1つのサンプルについて合計8つの値から構成されている。そして、これらの指標から錆具合A、B、C…が判定される。
【0047】
次に、乗客コンベアの検査方法について、図5乃至図8を用いて説明する。図7は、本発明の実施例に係る乗客コンベアの検査方法を示すフローチャートである。図8は、図7の細部を示すフローチャートである。
【0048】
作業員は、検査装置20に検査対象となる乗客コンベアの製造番号等の情報を入力する(ステップS201)。
【0049】
作業員は、踏段10の前補強部109に錆サンプルマーカー40を固定する(ステップS202)。
【0050】
検査装置20の制御部21は、赤外線ライト25を点灯させ、踏段10に赤外線光を照射させる。さらに、制御部21は、乗客コンベアを一周運転させ、対象部品をカメラ27で撮影し、赤外線画像を録画させる(ステップS203)。
【0051】
次に検査装置20の制御部21は、蛍光灯26を点灯させ、踏段10に可視光を照射させる。さらに制御部21は、乗客コンベアを一周運転させ、対象部品をカメラ27で撮影し、可視光画像を録画させる(ステップS204)。本実施例では、赤外線画像と可視光画像の複数種の画像を撮影している。なお、ステップS203とステップS204の順序は逆であっても構わない。また、赤外線光の照射、可視光の照射は両方照射する必要はなく、乗客コンベアの点検を行う機種、設置場所、時間、天候等に応じて、どちらか一方のみに切替て照射するようにしても良い。
【0052】
次に、検査装置20の処理部22は、録画された赤外線画像、可視光画像を用いて判定処理を行う(ステップS205)。判定処理の詳細について図8にて説明する。
【0053】
ステップS205-1において制御部21は、録画された赤外線画像、可視光画像を踏段10毎に切り分け、その画像情報を処理部22に送信する。
【0054】
次に処理部22は、錆サンプルマーカー40が固定された踏段10を抽出し、錆サンプルマーカー40を認識する。さらに処理部22は、赤外線画像と可視光画像から錆サンプルマーカー40(錆サンプル42~46及び塗装サンプル47)の特徴量(図6参照)を抽出し、錆サンプルの特徴量群Aとする(ステップS205-2)。ステップS205-2では、処理部22は錆サンプルマーカー40を撮影した画像情報から特徴量群Aを抽出する。
【0055】
次に処理部22は、カメラ27で撮影された画像から各踏段10の前補強部109を認識する(ステップS205-3)。
【0056】
次に処理部22は、カメラ27で撮影された画像から各踏段10のデマケーション(前端デマケーション106)を認識する(ステップS205-4)。
【0057】
ステップS205-3及びステップS205-4は、カメラ27が踏段を撮影し、処理部22が撮影された画像からデマケーションと前補強部109を認識するステップとなる。
【0058】
次に処理部22は、ステップS205-4で認識されたデマケーションに、デマケーションの色と異なる部分(異物M:図5参照)を検出する(ステップS205-5)。処理部22には、予めデマケーションの色が記憶されており、予め記憶されたデマケーションの色と認識されたデマケーションの色を比較する。
【0059】
次に処理部22は、ステップS205-5の検出結果を基に、デマケーションに、デマケーションの色と異なる部分(異物M)があるか否かを判定する(ステップS205-6)。ステップS205-6は、認識されたデマケーションに変色部があるかどうか、すなわち異物があるか否かを判定するステップとなる。デマケーションにデマケーションの色と異なる部分がある場合(ステップS205-6のYes)、処理部22は、デマケーションに異物があると判定し、ステップS205-7を実行する。デマケーションにデマケーションの色と異なる部分がない場合は(ステップS205-6のNo)、ステップS205-9を実行する。
【0060】
次に処理部22は、デマケーションにデマケーションの色と異なる部分を異物M(油かす)として認識し、異物の特徴量を抽出し、特徴量Bとする(ステップS205-7)。例えば、図5では、デマケーション106の一部に異物Mが付着しており、この異物Mの特徴量を抽出し、特徴量Bとする。
【0061】
次に処理部22は、ステップS205-2にて抽出された特徴量群AとステップS205-7にて抽出された特徴量Bを使用して、前補強部109の錆、塗装、異物を検出する(ステップS205-8)。
【0062】
また、デマケーションにデマケーションの色と異なる部分がない場合は(ステップS205-6のNo)、処理部22は、踏段10には異物(油カス)がないと認識し、特徴量群Aを使用して前補強部109の錆と塗装を検出する(ステップS205-9)。検出後、ステップS205-10を実行する。
【0063】
次に処理部22は、ステップS205-8の判定結果より、前補強部109に錆があるかどうかを判定する(ステップS205-10)。ステップS205-10は、錆サンプルの特徴量群Aと前補強部109の画像情報とから前補強部109に錆があるか否かを判定するステップとなる。錆がある場合は(ステップS205-10のYes)、ステップS205-11を実行する。錆がない場合は(ステップS205-10のNo)、処理部22は前補強部109が良好と判定する(ステップS205-12(ステップS211))。ステップS205-8及びその後ステップS205-10のNoのステップは、デマケーションに異物があり、前補強部109に錆がない場合、踏段10には錆が発生していないと判定するステップとなる。
【0064】
ステップS205-10の判定結果において錆がある場合、処理部22は、錆に対する可視光画像と赤外線画像の解析結果をマッチングし、一致する部分を錆として認識する(ステップS205-11)。例えば、図5では前補強部109に錆50が発生しており、発生した錆50は錆サンプル42に対応し、部品交換が必要な錆具合となっている。
【0065】
次に処理部22は、錆サンプル基準データベース28から錆具合のデータを読み取り、錆具合を表示部23に表示し、錆の面積を計算する(ステップS205-13)。ステップS205-13は、前補強部109に錆がある場合に錆の具合を表示部23(出力部)に出力するステップとなる。
【0066】
以上のように処理部22は、デマケーションに変色が無ければ錆サンプルマーカー40と前補強部109の画像を比較し、前補強部109の錆領域を判定する。また、処理部22はデマケーションに変色があれば変色部の色情報と錆サンプルマーカー40の両方と前補強板109の画像を比較し、前補強部109の錆領域を判定する。そして、表示部23が前補強部109の錆領域の面積を出力する。
【0067】
次に処理部22は、各踏段10の検出結果を記録する(ステップS205-14)。
【0068】
処理部22は、以上のようにして錆及び異物の判定処理を行う。再び図7に戻る。
【0069】
ステップS205の判定処理において錆があると判定された場合、処理部22は、例えば錆の面積が前補強部109の全体面積のx%以上(所定値以上)であるか否か判定する(ステップS206)。
【0070】
錆の面積が前補強部109の全体面積のx%以上(所定値以上)である場合(ステップS206のYes)、処理部22は保守・交換の指示を表示部23に表示(出力)させる(ステップS207)。
【0071】
次に処理部22は、作業履歴と判定結果を処理部22の記憶部に保存(ステップS208)すると共に、通信部24を介して履歴データベースに作業履歴と判定結果を送信する(ステップS209)。
【0072】
ステップS206において錆の面積が前補強部109の全体面積のx%未満(所定値未満)である場合(ステップS206のNo)、処理部22は前補強部109に発生した錆具合がz以下であるか否か判定する(ステップS210)。ステップS210は、錆具合を判定するステップとなる。例えば、図5に示す錆サンプルマーカー40の場合、錆サンプル42,43がz以下(所定の錆サンプル以下)となる。
【0073】
前補強部109に発生した錆具合がz以下(所定の錆サンプル以下)である場合(ステップS210のYes)、処理部22は保守・交換の指示を表示部23に表示(出力)させる(ステップS207)。例えば、図5に示す錆50の場合、錆の面積が前補強部109の全体面積のx%未満であっても錆具合がz以下(錆サンプル42に該当)であるので、処理部22は錆具合がz以下であると判定し、保守・交換の指示を表示部23に表示(出力)させる。
【0074】
前補強部109に発生した錆具合がz以下でない場合(ステップS210のNo)、処理部22は前補強部109(踏段10)が良好であると判定する(ステップS205-12(ステップS211))。例えば、図5に示す錆サンプルマーカー40の場合、錆サンプル44,45,46が錆具合zを超えている。
【0075】
次に処理部22は、作業履歴を処理部22の記憶部に保存(ステップS208)すると共に、通信部24を介して履歴データベースに作業履歴を送信する(ステップS209)。
【0076】
本実施例では以上のようにして、踏段10に発生した錆の有無、デマケーションの異物の付着の有無を判定するようにしている。本実施例では、前補強部109を検査し、錆の有無を検査している。前補強部109に錆が発生した場合、クリート101の溝にも錆が発生している可能性がある。作業員は前補強部109に錆が発生した踏段10を把握し、その踏段10のクリート101の溝を重点的に検査することが可能となる。
【0077】
以上説明した本実施例では、錆サンプルマーカー40を前補強部109に固定して撮影した画像から錆サンプルマーカー40(錆サンプル42~46及び塗装サンプル47)の特徴量を抽出し、特徴量群Aとするようにしたが、錆サンプルマーカー40の特徴量は、予めデータベースに保存するようにし、データベースに保存された錆データと撮影した画像情報を比較するようにしても良い。その場合、乗客コンベアの点検を行う機種、場所、時間、天候等に対応した錆データを事前調査し、その錆データをデータベースに保存する。そして、乗客コンベアの点検を行う際には、点検を実施する機種、場所、時間、天候等に対応した錆データを用いて検査するようにする。
【0078】
本実施例によれば、錆に加え、異物を認識できる乗客コンベアの検査方法を提供することができる。
【0079】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成を置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…乗客コンベア、2…下階床、3…上階床、4…トラスフレーム、4a…下部水平部、4b…上部水平部、4c…傾斜部、5…建築受梁、6…既設下部支持アングル、7…建築受梁、8…既設上部支持アングル、9…上部機械室、9a…アプローチレーン、10…踏段、11…踏段駆動機、12…上部スプロケット、13…下部機械室、13a…アプローチレーン、14…下部スプロケット、15…踏段チェーン、16…欄干、17…移動手摺り、20…検査装置…制御部、22…処理部、23…表示部、24…通信部、25…赤外線ライト、26…蛍光灯、27…カメラ、28…錆サンプル基準データベース、30…履歴データベース、40…錆サンプルマーカー、41…固定板、42~46…錆サンプル、47…塗装サンプル、50…錆、101…クリート、102…ライザ、103…フレーム、104…後端デマケーション、105…側端デマケーション、106…前端デマケーション、107…前輪、107a…車軸、108…後輪、109…前補強部、109a…上側受け部、109b…下側受け部、109c…フランジ部、110…ボルト、111…後補強部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8