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特開2023-129968肉盛り加工装置および肉盛り加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129968
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】肉盛り加工装置および肉盛り加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/342 20140101AFI20230912BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B23K26/342
B23K26/073
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034351
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000121202
【氏名又は名称】エンシュウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】高林 真宏
(72)【発明者】
【氏名】皿井 裕樹
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA33
4E168CB07
4E168DA34
4E168DA35
4E168EA17
4E168FA01
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】肉盛り加工の歩留まりが低下することなく、肉盛り加工幅を広く確保して肉盛り加工を短時間で行うことができる、肉盛り加工装置および肉盛り加工方法を提供する。
【解決手段】肉盛り加工装置10は、ワークWの加工部位にレーザ光を照射してレーザスポットPを形成するレーザ照射部24と、粉体吐出口64a~64d、66a~66dを有する粉体吐出部26と、テーブル変位機構14と、粉体供給手段28とを備える。レーザ照射部24は、レーザ発振器36と、光学系48と、レーザ出射孔62および粉体吐出口が設けられた肉盛りノズル58とを有する。光学系48は、レーザスポットPが進行方向に対して平面視で直交する方向へ長い形状となるようにレーザ光を集光させる。粉体吐出部26は、粉体吐出口から吐出された粉体がレーザスポットPの長さ方向に沿って集まるように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工部位にレーザ光を照射してレーザスポットを形成するレーザ照射部と、
前記レーザスポットに向けて粉体を吐出させる粉体吐出口を有する粉体吐出部と、
前記レーザスポットを前記加工部位に沿って進行させるレーザスポット進行手段と、
前記粉体吐出部に前記粉体を供給する粉体供給手段とを備え、
前記レーザ照射部は、前記レーザ光を発生させるレーザ発振器と、前記レーザスポットが進行方向に対して平面視で直交する方向へ長い形状となるように前記レーザ光を集光させる光学系と、前記レーザ光を出射させるためのレーザ出射孔および前記粉体吐出口が設けられた肉盛りノズルとを有し、
前記粉体吐出部は、前記粉体吐出口から吐出された前記粉体が前記レーザスポットの長さ方向に沿って集まるように構成される、肉盛り加工装置。
【請求項2】
前記粉体吐出部は、前記レーザスポットに対する前記粉体の供給量が前記レーザスポットの長さ方向の中央部で最大となるように構成される、請求項1に記載の肉盛り加工装置。
【請求項3】
前記粉体吐出口は、前記レーザスポットの長さ方向と同じ方向へ長く延びて形成される、請求項1または2に記載の肉盛り加工装置。
【請求項4】
前記粉体吐出部は、前記レーザスポットの進行方向において前記レーザスポットを挟んだ両側に配置される2つの粉体吐出口群のうち少なくとも一方を有し、
前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口は、前記レーザスポットの長さ方向と同じ方向へ並べて設けられる、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項5】
前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口のうち互いに隣接する2つの前記粉体吐出口は、前記レーザスポットに吐出する前記粉体の吐出範囲が一部において互いに重なるように構成される、請求項4に記載の肉盛り加工装置。
【請求項6】
前記粉体吐出口群は、4つの前記粉体吐出口を有し、
4つの前記粉体吐出口のうち、外側の2つの前記粉体吐出口の一方および他方は、前記レーザスポットを長さ方向に二分したときの一方および他方に前記粉体を吐出するように構成され、
4つの前記粉体吐出口のうち、内側の2つの前記粉体吐出口の一方および他方は、前記レーザスポットの長さ方向中央部に前記粉体を重ねて吐出するように構成される、請求項4または5に記載の肉盛り加工装置。
【請求項7】
前記粉体吐出部は、前記粉体供給手段から供給される前記粉体を受け入れる複数の粉体供給口と、前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口と前記粉体供給口とを繋ぐ複数の粉体流路とを有し、
複数の前記粉体供給口は、複数の前記粉体吐出口の並び方向と同じ方向へ並べて設けられる、請求項4ないし6のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項8】
前記肉盛りノズルは、前記レーザ光が通過する光路の内壁面を構成するインナーノズルと、前記インナーノズルの外側に嵌め合わされるアウターノズルとを有し、
前記複数の粉体流路は、前記アウターノズルの内面に形成された複数の溝と、前記インナーノズルの外面に前記溝を覆うように形成された平坦面とで構成される、請求項7に記載の肉盛り加工装置。
【請求項9】
制御装置を備え、
前記粉体吐出部は、前記レーザスポットの進行方向において前記レーザスポットを挟んだ両側に配置される2つの粉体吐出口群を有し、
前記制御装置は、前記レーザスポットの進行方向前方に設けられた前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口から前記粉体を吐出させるように前記粉体供給手段の動作を制御する、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項10】
レーザスポットを形成するためのレーザ光を出射させるためのレーザ出射孔と、前記レーザスポットに向けて粉体を吐出させるための粉体吐出口とを有する肉盛りノズルを用いた肉盛り加工方法であって、
前記レーザ出射孔からワークの加工部位にレーザ光を照射して、平面視で細長い形状の前記レーザスポットを形成するレーザスポット形成工程と、
前記レーザスポットを、平面視で長さ方向に対して直交する方向へ進行させるレーザスポット進行工程と、
前記粉体が前記レーザスポットの長さ方向に沿って集まるように前記粉体吐出口から前記粉体を吐出させる粉体吐出工程とを備える、肉盛り加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの加工部位に粉体を供給すると同時にレーザ光を照射することによって、粉体を溶融固化させて肉盛り加工を行う肉盛り加工装置および肉盛り加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された従来のレーザによる肉盛り方法(肉盛り加工方法)は、母材の肉盛り位置(加工部位)に合金材料の粉末を連続供給する工程と、肉盛り層の幅方向に長い線状のレーザビームを粉末に向けて照射する工程と、肉盛り層の長さ方向においてレーザビームを母材に対して相対的に移動させる工程とを備えている。この従来技術によれば、線状のレーザビームを長さ方向に対して直交する方向へ移動させることによって、肉盛り加工幅を広く確保でき、加工時間を短くできる。
【0003】
特許文献1において、合金材料の粉末を連続供給するための具体的な構成は不明であるが、一般的には、粉末供給とレーザ照射とを同軸上で行うための肉盛りノズルを用いた構成が知られており、その一例が下記特許文献2に開示されている。
【0004】
特許文献2に開示された従来のレーザ積層造形装置(肉盛り加工装置)は、被加工物の加工部位にレーザ光を照射する照射部と、レーザ光が照射された領域(レーザスポット)に粉末材料を供給する材料供給部と、レーザスポットを被加工物に対して移動させるための移動機構とを備えている。照射部は、吹出ノズル(肉盛りノズル)の中心部に設けられた照射孔から加工部位にレーザ光を照射するように構成されており、材料供給部は、照射孔の周囲に円環状に並べられた複数の吹出口からレーザスポットに向けて粉末材料を吹き出すように構成されている。この従来技術によれば、レーザ光の照射孔および粉末材料の吹出口が吹出ノズル(肉盛りノズル)に一体的に設けられているので、レーザスポットに対して吹出口を高い精度で位置決めでき、簡単な構成で高い肉盛り加工精度を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3232940号
【特許文献2】特許第6749308号
【0006】
しかしながら、特許文献2のレーザ積層造形装置(肉盛り加工装置)では、円環状に並べられた複数の吹出口から粉末材料が吹き出されるので、この装置を特許文献1に開示された肉盛り方法(肉盛り加工方法)に用いた場合には、粉末材料の吐出範囲を線状のレーザスポットの範囲内に収めることができなかった。そのため、粉末材料を効率よく溶融することができず、肉盛り加工の歩留まりが低下するという問題があった。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、肉盛り加工の歩留まりが低下することなく、肉盛り加工幅を広く確保して肉盛り加工を短時間で行うことができ、さらに、簡単な構成で高い肉盛り加工精度を得ることができる、肉盛り加工装置および肉盛り加工方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る肉盛り加工装置の特徴は、ワークの加工部位にレーザ光を照射してレーザスポットを形成するレーザ照射部と、前記レーザスポットに向けて粉体を吐出させる粉体吐出口を有する粉体吐出部と、前記レーザスポットを前記加工部位に沿って進行させるレーザスポット進行手段と、前記粉体吐出部に前記粉体を供給する粉体供給手段とを備え、前記レーザ照射部は、前記レーザ光を発生させるレーザ発振器と、前記レーザスポットが進行方向に対して平面視で直交する方向へ長い形状となるように前記レーザ光を集光させる光学系と、前記レーザ光を出射させるためのレーザ出射孔および前記粉体吐出口が設けられた肉盛りノズルとを有し、前記粉体吐出部は、前記粉体吐出口から吐出された前記粉体が前記レーザスポットの長さ方向に沿って集まるように構成されることにある。
【0009】
この構成では、進行方向に対して平面視で直交する方向へ長い形状のレーザスポットによって、肉盛り加工幅を広く確保できるので、加工時間を短くできる。また、レーザ出射孔が設けられた肉盛りノズルに粉体吐出口が設けられるので、レーザスポットに対して粉体吐出口を高い精度で位置決めでき、簡単な構成で高い肉盛り加工精度を得ることができる。
【0010】
さらに、粉体吐出口から吐出された粉体は、レーザスポットの長さ方向に沿って集まるので、レーザスポットからはみ出す粉体の量を少なくでき、粉体を効率よく溶融することができる。これにより、肉盛り加工の歩留まりが低下することを抑制できるとともに、溶融不良に起因する加工部位の汚損を抑制できる。なお、レーザスポットの形状は、具体的には、長方形、長円形および楕円形などである。
【0011】
また、粉体吐出部から吐出される粉体としては、金属粉のほか、樹脂粉末またはセラミック粉末を用いることができる。
【0012】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記粉体吐出部は、前記レーザスポットに対する前記粉体の供給量が前記レーザスポットの長さ方向の中央部で最大となるように構成されることにある。
【0013】
一般的なレーザ発振器で発生するレーザ光の強度分布は、回転対称の正規分布(ガウス分布)となり、レーザスポットにおいては、長さ方向の中央部の強度が最大となる。上記構成では、粉体の供給量がレーザスポットの長さ方向の中央部で最大となるので、レーザスポットに供給された粉体の全てを効率よく溶融することができる。
【0014】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記粉体吐出口は、前記レーザスポットの長さ方向と同じ方向へ長く延びて形成されることにある。
【0015】
この構成では、粉体をレーザスポットの長さ方向に沿わせて正確に供給できる。
【0016】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記粉体吐出部は、前記レーザスポットの進行方向において前記レーザスポットを挟んだ両側に配置される2つの粉体吐出口群のうち少なくとも一方を有し、前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口は、前記レーザスポットの長さ方向と同じ方向へ並べて設けられることにある。
【0017】
この構成では、粉体吐出口群の各粉体吐出口の開口面積を、粉体吐出口が1つだけの場合と比べて小さくできるので、粉体の直進性を高めることができ、粉体が分散することによる歩留まりの低下を抑制できる。
【0018】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口のうち互いに隣接する2つの前記粉体吐出口は、前記レーザスポットに吐出する前記粉体の吐出範囲が一部において互いに重なるように構成されることにある。
【0019】
この構成では、レーザスポットにおける粉体の吐出範囲が一部において互いに重なるため、吐出範囲どうしの境界部分において粉体が不足することを抑制でき、レーザスポットの全体に対して粉体を均一に供給できる。
【0020】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記粉体吐出口群は、4つの前記粉体吐出口を有し、4つの前記粉体吐出口のうち、外側の2つの前記粉体吐出口の一方および他方は、前記レーザスポットを長さ方向に二分したときの一方および他方に前記粉体を吐出するように構成され、4つの前記粉体吐出口のうち、内側の2つの前記粉体吐出口の一方および他方は、前記レーザスポットの長さ方向中央部に前記粉体を重ねて吐出するように構成されることにある。
【0021】
一般的なレーザ発振器で発生するレーザ光の強度分布は、回転対称の正規分布(ガウス分布)となり、レーザスポットにおいては、長さ方向の中央部の強度が最大となる。上記構成では、粉体の供給量がレーザスポットの長さ方向の中央部で最大となるので、レーザスポットに供給された粉体の全てを効率よく溶融することができる。また、各粉体吐出口から吐出される粉体の吐出量を調整することによって、レーザスポットの各部分に供給される粉体の供給量を調整できる。
【0022】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記粉体吐出部は、前記粉体供給手段から供給される前記粉体を受け入れる複数の粉体供給口と、前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口と前記粉体供給口とを繋ぐ複数の粉体流路とを有し、複数の前記粉体供給口は、複数の前記粉体吐出口の並び方向と同じ方向へ並べて設けられることにある。
【0023】
この構成では、粉体を、複数の粉体供給口および複数の粉体流路を通して、複数の粉体吐出口に均一に供給できる。
【0024】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記肉盛りノズルは、前記レーザ光が通過する光路の内壁面を構成するインナーノズルと、前記インナーノズルの外側に嵌め合わされるアウターノズルとを有し、前記複数の粉体流路は、前記アウターノズルの内面に形成された複数の溝と、前記インナーノズルの外面に前記溝を覆うように形成された平坦面とで構成されることにある。
【0025】
この構成では、アウターノズルを溝の数が異なる他のものに交換するだけで、粉体吐出口の数を簡単に変更できる。また、粉体流路のメンテナンスを容易に行うことができるとともに、損傷したアウターノズルの交換を容易に行うことができる。
【0026】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、制御装置を備え、前記粉体吐出部は、前記レーザスポットの進行方向において前記レーザスポットを挟んだ両側に配置される2つの粉体吐出口群を有し、前記制御装置は、前記レーザスポットの進行方向前方に設けられた前記粉体吐出口群を構成する複数の前記粉体吐出口から前記粉体を吐出させるように前記粉体供給手段の動作を制御することにある。
【0027】
この構成では、レーザスポットの進行方向前方に設けられた複数の粉体吐出口から粉体が吐出されるので、レーザスポットに粉体を正確に供給できるとともに、粉体を十分に溶融させることができ、溶融不良などで肉盛り層に欠陥が生じることを防止できる。
【0028】
上記目的を達成するため、本発明に係る肉盛り加工方法の特徴は、レーザスポットを形成するためのレーザ光を出射させるためのレーザ出射孔と、前記レーザスポットに向けて粉体を吐出させるための粉体吐出口とを有する肉盛りノズルを用いた肉盛り加工方法であって、前記レーザ出射孔からワークの加工部位にレーザ光を照射して、平面視で細長い形状のレーザスポットを形成するレーザスポット形成工程と、前記レーザスポットを、平面視で長さ方向に対して直交する方向へ進行させるレーザスポット進行工程と、前記粉体が前記レーザスポットの長さ方向に沿って集まるように前記粉体吐出口から前記粉体を吐出させる粉体吐出工程とを備えることにある。
【0029】
この構成では、細長い形状のレーザスポットによって、肉盛り加工幅を広く確保できるので、加工時間を短くできる。また、肉盛りノズルがレーザ出射孔と粉体吐出口とを有しているので、レーザスポットに対して粉体吐出口を高い精度で位置決めでき、高い肉盛り加工精度を得ることができる。
【0030】
さらに、粉体吐出口から吐出された粉体は、レーザスポットの長さ方向に沿って集まるので、レーザスポットからはみ出す粉体の量を少なくでき、粉体を効率よく溶融することができる。これにより、肉盛り加工の歩留まりが低下することを抑制できるとともに、溶融不良に起因する加工部位の汚損を抑制できる。なお、レーザスポットの形状は、具体的には、長方形、長円形および楕円形などである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1実施形態に係る肉盛り加工装置の構成を示す正面図である。
図2】レーザ照射部および粉体吐出部の構成を示す一部を断面にした正面図である。
図3】肉盛り加工ヘッドの構成(トーチを除く。)を示す斜視図である。
図4】肉盛り加工ヘッドの構成(トーチを除く。)を示す図であり、(A)は正面図、(B)は底面図である。
図5】肉盛り加工ヘッドの構成(トーチを除く。)を示す図であり、(C)は平面図、(D)は部分断面図である。
図6】肉盛りノズルの構成を示す分解斜視図である。
図7】インナーノズルの構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は背面図である。
図8】アウターノズルの構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図である。
図9】粉体吐出口群を構成する各粉体吐出口の吐出範囲を示す図である。
図10】第1実施形態に係る肉盛り加工装置の電気的構成を示すブロック図である。
図11】第1実施形態に係る肉盛り加工装置の制御動作を示すフローチャートである。
図12】(A)は、第2実施形態に係る肉盛り加工装置における粉体吐出口群を構成する各粉体吐出口の吐出範囲を示す図であり、(B)は、第3実施形態に係る肉盛り加工装置における粉体吐出口群を構成する各粉体吐出口の吐出範囲を示す図である。
図13】(A)は、第4実施形態に係る肉盛り加工装置におけるレーザスポット進行手段の構成を示す正面図、(B)は、第5実施形態に係る肉盛り加工装置におけるレーザスポット進行手段の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る肉盛り加工装置および肉盛り加工方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0033】
(肉盛り加工装置10の構成)
図1は、第1実施形態に係る肉盛り加工装置10の構成を示す正面図である。図1に示す肉盛り加工装置10は、ワークWの加工部位に肉盛り加工を施すものであり、ワークWを支持する板状のテーブル12と、テーブル12を互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸の方向へ変位させるためのテーブル変位機構14とを備えている。
【0034】
テーブル変位機構14は、上記3つの方向においてテーブル12を変位させるための3つの送りねじ機構(図示省略)を有している。各送りねじ機構は、ボールねじとリニアガイドとで構成されており、各ボールねじには、X方向駆動モータ16、Y方向駆動モータ18およびZ方向駆動モータ20のそれぞれの回転軸が接続されている。したがって、各駆動モータ16,18,20の動作を制御装置30で制御することによって、テーブル12およびワークWを任意の方向へ変位させることができる。
【0035】
後述するように、ワークWの加工部位には、レーザ照射部24によってレーザスポットP(図9)が形成されるため、図1に示すテーブル変位機構14でテーブル12およびワークWを変位させると、ワークWの加工部位に対するレーザスポットPの相対的な位置が変位する。つまり、本実施形態では、図1に示すテーブル変位機構14が、レーザスポットPをワークWの加工部位に沿って進行させる「レーザスポット進行手段」として機能する。言い換えると、「レーザスポット進行手段」は、テーブル変位機構14で構成されている。
【0036】
図1に示すように、肉盛り加工装置10は、さらに、肉盛り加工ヘッド22を構成するレーザ照射部24および粉体吐出部26と、粉体供給手段28と、制御装置30と、入力部32と、表示部34とを備えている。
【0037】
図2は、レーザ照射部24および粉体吐出部26の構成を示す一部を断面にした正面図である。図3は、肉盛り加工ヘッド22の構成(トーチ38を除く。)を示す斜視図である。図4は、肉盛り加工ヘッド22の構成(トーチ38を除く。)を示す図であり、(A)は正面図、(B)は底面図である。図5は、肉盛り加工ヘッド22の構成(トーチ38を除く。)を示す図であり、(C)は平面図、(D)は断面図である。
【0038】
図2に示すレーザ照射部24は、ワークW(図1)の加工部位にレーザ光を照射してレーザスポットP(図9)を形成するものであり、レーザ発振器36と、トーチ38(光学系48を含む。)と、アダプタ部40と、エキスパンド部42と、ノズル部44(肉盛りノズル58を含む。)とを有している。
【0039】
図2に示すレーザ発振器36は、レーザ光を発生させる機器である。本実施形態のレーザ発振器36は、レーザ光の強度分布が回転対称の正規分布(ガウス分布)となる一般的なレーザ発振器である。したがって、後述する光学系48でレーザ光を集光させてレーザスポットP(図9)を形成したとき、レーザスポットPの中央部の強度が最大となる。
【0040】
図2に示すトーチ38は、円筒状のケース46と、ケース46の内部に組み込まれた光学系48とを有している。光学系48は、図5(C)に示すレーザスポットPが進行方向(前後方向)に対して平面視で直交する方向(左右方向)へ長い形状となるようにレーザ光を集光させる光学部品の集合体である。レーザ発振器36とトーチ38とは、光ファイバケーブル50を介して接続されている。図5(C)に示すように、本実施形態のレーザスポットPは、長方形であり、後述するレーザ出射孔62の真下に形成される。なお、レーザスポットPの形状は、細長い形状であればよく、長円形および楕円形などでもよい。
【0041】
図2に示すアダプタ部40は、エキスパンド部42とノズル部44との一体物をトーチ38に接続するための部分であり、上端部に接続フランジ40aを有する円筒状に形成されている。図2に示すエキスパンド部42は、光学系48を構成する集光レンズ48aからノズル部44の先端部に設けられたれレーザ出射孔62までの距離を調整するためのスペーサ部材であり、アダプタ部40と連通する円筒状に形成されている。
【0042】
図1に示すように、エキスパンド部42の周壁部には、肉盛り加工ヘッド22の内部空間にシールドガス(不活性ガス)を供給するためのガス供給口52が設けられている。ガス供給口52には、ホース54を介してガスボンベなどのガス供給源56が接続されている。制御装置30は、ガス供給源56の開閉動作を制御する。
【0043】
図2に示すように、ノズル部44は、肉盛りノズル58と、肉盛りノズル58を保持する筒状のノズル本体60とを有している。肉盛りノズル58の先端部58aには、レーザ光を出射させるためのレーザ出射孔62が設けられている。また、肉盛りノズル58の先端部58aにおけるレーザ出射孔62の周囲には、第1の粉体吐出口群64および第2の粉体吐出口群66が、レーザ出射孔62を挟んだ両側に配置されている。
【0044】
図5(C)に示すように、粉体吐出部26は、上記の第1の粉体吐出口群64および第2の粉体吐出口群66と、これらに関連する第1の流路群68および第2の流路群70を有している。第1の粉体吐出口群64および第1の流路群68は、第2の粉体吐出口群66および第2の流路群70と対称に構成されている。
【0045】
図5(C)に示すように、第1の粉体吐出口群64は、レーザスポットPに向けて粉体を吐出させる4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dを有している。4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dは、レーザスポットPの長さ方向と同じ方向、すなわちレーザスポットPの進行方向(前後方向)に対して平面視で直交する方向(左右方向)に並べて設けられている。また、4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dのそれぞれは、レーザスポットPの長さ方向と同じ方向へ長く延びて形成されている。ここで、粉体吐出口64a,64b,64c,64dから吐出される粉体は、肉盛り加工に一般的に用いられる金属粉である。
【0046】
図5(C)に示すように、第1の流路群68は、4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dのそれぞれに粉体を供給するための4つの粉体流路68a,68b,68c,68dを有している。粉体流路68a,68b,68c,68dのそれぞれは、下端から上端へ向かうにつれて外側へ傾斜するように構成されており、これらの相互の間隔は、下端から上端へ向かうにつれて広くなるように定められている。
【0047】
図5(D)に示すように、互いに隣接する2つの粉体流路68a,68bの上端部には、逆V字状の分岐路72aが設けられており、互いに隣接する他の2つの粉体流路68c,68dの上端部には、逆V字状の分岐路72bが設けられている。図4(A)に示すように、分岐路72a,72bは、ノズル本体60の外周部に設けられた粉体供給口74a,74bに連通されている。すなわち、粉体供給口74a,74bには、分岐路72a,72bによってそれぞれ2つずつの粉体流路68a,68b,68c,68dに分岐するように構成されている。このように、2つの粉体流路68a,68b(または68c,68d)の間に粉体供給口74a(または74b)を配置することで粉体流路68a,68b(または68c,68d)への粉体供給量を均一化することができる。図4(B)に示すように、粉体供給口74a,74bには、接続部76a,76bを介してホース78a,78bの下流側端部が接続されており、ホース78a,78bの上流側端部は、分岐継手80を介して、ホース82の下流側端部に接続されている。
【0048】
図5(C)に示すように、第2の粉体吐出口群66は、第1の粉体吐出口群64と同様に、4つの粉体吐出口66a,66b,66c,66dを有している。第2の流路群70は、第1の流路群68と同様に、4つの粉体流路70a,70b,70c,70dを有している。2つの粉体流路70a,70bの上端部には、分岐路(図示省略)が設けられており、他の2つの粉体流路70c,70dの上端部には、分岐路(図示省略)が設けられている。図4(B)に示すように、2つの分岐路(図示省略)のそれぞれに連通する粉体供給口84a,84bには、接続部86a,86bを介してホース88a,88bの下流側端部が接続されており、ホース88a,88bの上流側端部は、分岐継手90を介して、ホース92の下流側端部に接続されている。
【0049】
図5(C)に示す第1の粉体吐出口群64、第2の粉体吐出口群66、第1の流路群68および第2の流路群70は、粉体吐出部26(図2)の主要部であり、これらは、肉盛りノズル58に一体的に組み込まれている。以下では、肉盛りノズル58の構成を具体的に説明する。
【0050】
図6は、肉盛りノズル58の構成を示す分解斜視図である。図7は、インナーノズル98の構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は背面図である。図8は、アウターノズル100の構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図である。
【0051】
図6に示すように、肉盛りノズル58は、第1の粉体吐出口群64を有する第1のノズル片94と、第2の粉体吐出口群66を有する第2のノズル片96とを組み合わせることによって、全体として中空の錐状に構成されている。
【0052】
第1のノズル片94は、インナーノズル98とアウターノズル100aとの組み合わせで構成されており、第2のノズル片96は、インナーノズル98とアウターノズル100bとの組み合わせで構成されている。インナーノズル98は、2つのノズル片94,96に共通の部品であり、アウターノズル100a,100bのそれぞれは、インナーノズル98の半分に対応している。つまり、2つのアウターノズル100a,100bが組み合わされることによって、インナーノズル98の全体に対応するアウターノズル100が構成される。
【0053】
図6に示すように、インナーノズル98は、レーザ光が通過する光路の内壁面を構成する筒状の部材であり、ノズル本体60(図2)の内側に嵌め合わされる円筒状の第1篏合部102と、ノズル本体60(図2)の内側に嵌め合わされる四角筒状の第2篏合部104と、四角形の断面を有する中空角錐状の第1流路構成部106とを有している。
【0054】
図7(B)に示すように、第1篏合部102の外周面には、2つの環状の溝108が形成されており、2つの溝108の間には、冷却水の流路を構成するための溝110が形成されている。図2に示すように、インナーノズル98をノズル本体60の内側に嵌め合わせる際には、2つの溝108にOリングなどの封止部材112が装着される。
【0055】
図7(B)に示すように、第2篏合部104の外側面のうち、レーザスポットPの進行方向(前後方向)に対して直交する一方の面(前面)104aには、上記2つの分岐路72a,72bを構成するための逆V字状の溝114a,114bが、レーザスポットPの長さ方向と同じ方向に並べて形成されている。図7(D)に示すように、第2篏合部104の外側面のうち、一方の面(前面)104aとは反対側の他方の面(後面)104bには、溝114a,114bと同様の溝116a,116bが、レーザスポットPの長さ方向と同じ方向に並べて形成されている。
【0056】
図7(B),(C)に示すように、第1流路構成部106の外側面106aは、4つの台形の平坦面で構成されている。
【0057】
図8(A),(B),(C)に示すように、第1のノズル片94のアウターノズル100aは、ノズル本体60(図2)の下部に接合される半鍔状の接合部118aと、レーザスポットPの進行方向においてインナーノズル98の前半分の外側に嵌め合わされる第2流路構成部120aとを有している。図8(A)に示すように、第2流路構成部120aの3つの内側面のうち真中の面(前面)121aは、レーザスポットPの長さ方向に対して平行となる面であり、この面(前面)121aには、第1の粉体吐出口群64および第1の流路群68(図5(C))に対応する第1の粉体吐出溝群122が形成されている。そして、接合部118aには、アウターノズル100aをノズル本体60(図2)に接合するためのボルト124(図4(B))が挿通される2つの貫通孔126が形成されている。
【0058】
図8(A),(B),(C)に示すように、第2のノズル片96のアウターノズル100bは、ノズル本体60(図2)の下部に接合される半鍔状の接合部118bと、レーザスポットPの進行方向においてインナーノズル98の後半分の外側に嵌め合わされる第2流路構成部120bとを有している。図8(A)に示すように、第2流路構成部120bの3つの内側面のうち真中の面(後面)121bは、レーザスポットPの長さ方向に対して平行となる面であり、この面(後面)121bには、第2の粉体吐出口群66および第2の流路群70(図5(C))に対応する第2の粉体吐出溝群128が形成されている。そして、接合部118bには、アウターノズル100bをノズル本体60(図2)に接合するためのボルト124(図4(B))が挿通される2つの貫通孔126が形成されている。
【0059】
図2に示すように、アウターノズル100aとインナーノズル98とが嵌め合わされて第1のノズル片94が構成されると、図6に示す第1流路構成部106の平坦面である外側面106aと、第2流路構成部120aの内面に形成された第1の粉体吐出溝群122すなわち複数の溝とが協働して、図5(C)に示す第1の流路群68および第1の粉体吐出口群64が構成される。
【0060】
図2に示すように、アウターノズル100bとインナーノズル98とが嵌め合わされて第2のノズル片96が構成されると、図6に示す第1流路構成部106の平坦面である外側面106aと、第2流路構成部120bの内面に形成された第2の粉体吐出溝群128とが協働して、図5(C)に示す第2の流路群70および第2の粉体吐出口群66が構成される。
【0061】
上述の通り、粉体流路68a,68b,68c,68dおよび粉体流路70a,70b,70c,70dのそれぞれは、下端から上端へ向かうにつれて外側へ傾斜するように構成されており、かつ、これらの相互の間隔は、下端から上端へ向かうにつれて広くなるように定められている。したがって、粉体吐出口64a,64b,64c,64dおよび粉体吐出口66a,66b,66c,66dから吐出された粉体は、レーザスポットPの長さ方向に沿って集まる。
【0062】
図9に示すように、本実施形態では、粉体流路の傾斜角度、粉体吐出口の形状、粉体吐出口からレーザスポットPまでの距離などを適宜調整することによって、レーザスポットPの各領域に供給される粉体の供給量が調整されている。
【0063】
つまり、4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dのうち、外側の2つの粉体吐出口64a,64dの一方および他方は、レーザスポットPを長さ方向に二分したときの一方および他方に粉体を吐出するように構成されている。4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dのうち、内側の2つの粉体吐出口64b,64cの一方および他方は、レーザスポットPの長さ方向中央部に粉体を重ねて吐出するように構成されている。4つの粉体吐出口66a,66b,66c,66dについても、同様に構成されている。したがって、レーザスポットPに対する粉体の供給量は、レーザスポットPの長さ方向の中央部で最大となる。言い換えると、粉体吐出部26は、レーザスポットPに対する粉体の供給量がレーザスポットPの長さ方向の中央部で最大となるように構成されている。
【0064】
図1に示す粉体供給手段28は、肉盛り加工ヘッド22の粉体吐出部26に粉体を供給するものであり、図5(C)に示す粉体吐出口64a,64b,64c,64dおよび粉体吐出口66a,66b,66c,66dのそれぞれに粉体を供給する粉体供給部130a,130bを有している。粉体供給部130a,130bのそれぞれには、上記ホース82,92の上流側端部が接続されている。
【0065】
また、粉体供給部130a,130bのそれぞれは、粉体にキャリアガス(窒素ガスなどの不活性ガス)を混合して、この混合体をキャリアガスの圧力で上記ホース82,92に向けて圧送する圧送装置132a,132bを有している。さらに、粉体供給部130a,130bのそれぞれは、粉体の供給量を調整可能に構成された供給量調整手段134a,134bを有している。本実施形態の供給量調整手段134a,134bは、「開閉調整弁」であり、粉体供給部130a,130bの出口付近に組み込まれている。
【0066】
図1に示す制御装置30は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(図示省略)によって構成されており、肉盛り加工プログラムは、予めROMに記憶されている。また、制御装置30は、CPUに組み込まれたタイマー136を有している。
【0067】
図10は、肉盛り加工装置10の電気的構成を示すブロック図である。図10に示すように、制御装置30には、X方向駆動モータ16、Y方向駆動モータ18、Z方向駆動モータ20、入力部32、表示部34、レーザ発振器36、粉体供給部130a,130bおよびガス供給源56が電気的に接続されている。なお、図1に示す圧送装置132a,132bおよび供給量調整手段134a,134bは、粉体供給部130a,130bの一部であり、これらの動作も制御装置30で制御される。
【0068】
本実施形態の入力部32は、肉盛り加工プログラムに関する各種の条件などを入力するための操作パネルであり、本実施形態の表示部34は、肉盛り加工プログラムに関する各種の情報などを表示するための液晶表示パネルである。
【0069】
(肉盛り加工装置10の作動)
図11は、肉盛り加工装置10(図1)の制御動作を示すフローチャートである。
【0070】
作業者が制御装置30に肉盛り加工プログラムを実行させるとき、作業者は、まず、「粉体到達時間」を予め測定し、この「粉体到達時間」を、図10に示す入力部32から入力して制御装置30のRAMに記憶させる。ここで、「粉体到達時間」とは、制御装置30が粉体を吐出させるように粉体供給手段28の動作を開始させた時点から、粉体がレーザスポットPに到達する時点までの経過時間であり、本実施形態では、0.5~3秒程度になる。
【0071】
また、作業者は、図1に示すワークWの加工部位にレーザスポットPが位置するように、テーブル12に対してワークWを固定する。そして、作業者は、図10に示す入力部32の操作ボタンを操作して、制御装置30に肉盛り加工プログラムを実行させる。
【0072】
肉盛り加工プログラムが開始すると、制御装置30は、まず、図11に示すステップS1において、第1の粉体吐出口群64および第2の粉体吐出口群66から、予め定められた吐出量で粉体を選択的に吐出させるように粉体供給手段28の動作を開始させる。つまり、制御装置30は、粉体とキャリアガスとの混合体を粉体吐出部26に圧送するように、粉体供給部130a,130bの圧送装置132a,132bを選択的に駆動させる。
【0073】
図5(C)に示すように、本実施形態では、粉体吐出部26は、レーザスポットPの進行方向(前後方向)においてレーザスポットPを挟んだ両側に配置される2つの粉体吐出口群64,66を有している。制御装置30は、レーザスポットPの進行方向前方に設けられた第1の粉体吐出口群64を構成する複数の粉体吐出口64a,64b,64c,64dから粉体を吐出させるように粉体供給手段28の動作を制御する。なお、粉体の吐出に用いる粉体吐出口群は、レーザスポットPの進行方向前方のものに限定されるものではなく、例えば、肉盛り量を増やす必要がある場合などには、2つの粉体吐出口群64,66を同時に用いてもよい。
【0074】
仮に、上記の「粉体到達時間」を考慮することなく、レーザスポットPの現在位置に粉体を供給しようとすると、レーザスポットPの進行方向を切り替える方向転換位置においては、粉体の到達が間に合わず、肉盛り加工を高精度で行うことが困難である。そこで、制御装置30は、現時点から「粉体到達時間」とほぼ同じ時間(例えば0.5~3秒)を経過した時点におけるレーザスポットP(将来位置)に粉体を供給するように粉体供給手段28の動作を制御する。つまり、「粉体到達時間」とほぼ同じ時間を先取りして粉体供給手段28の動作を制御する。したがって、方向転換位置においても、肉盛り加工を高精度で行うことができる。
【0075】
図11に示すステップS3において、制御装置30は、粉体供給手段28の動作が開始してから「粉体到達時間」が経過したか否かを判断し、「NO」と判断すると、「粉体到達時間」が経過するまで待機し、「YES」と判断すると、ステップS5に進んで、レーザ照射を開始するとともに、レーザスポットPの進行を開始する。
【0076】
ステップS1において、「粉体到達時間」とほぼ同じ時間を先取りしてレーザスポットP(将来位置)に粉体を供給しても、粉体供給手段28の動作が開始する時点とレーザスポットPの進行が開始する時点が同じであれば、レーザスポットPの始動位置においては、粉体の到達が間に合わず、肉盛り加工を高精度で行うことが困難である。そこで、制御装置30は、上記のステップS3,S5を実行する。
【0077】
つまり、制御装置30は、粉体を吐出させるように粉体供給手段28の動作を開始させた時点から、「粉体到達時間」とほぼ同じ時間を経過した時点で、レーザスポットPを形成するようにレーザ発振器36の動作を制御するとともに、レーザスポットPの進行を開始するようにテーブル変位機構(レーザスポット進行手段)14の動作を制御する。したがって、レーザスポットPの始動位置にも粉体を供給でき、肉盛り加工を高精度で行うことができる。
【0078】
ステップS7において、制御装置30は、肉盛り加工プログラムを終了するか否かを判断し、「YES」と判断すると、そのまま終了し、「NO」と判断すると、ステップS9に進む。
【0079】
ステップS9において、制御装置30は、レーザスポットPの進行方向を変更するか否かを判断し、「NO」と判断すると、その動作状態を保持し、「YES」と判断すると、ステップS11に進んで、変更後の進行方向に対応した粉体供給を開始する。例えば、レーザスポットPが加工部位に対して相対的に往復走査される場合には、往路から復路に切り替わるタイミングでレーザスポットPの進行方向が逆になり、レーザスポットPを挟んだ両側に配置された2つの粉体吐出口群64,66の前後が逆になる。
【0080】
次のステップS13において、制御装置30は、変更後の進行方向に対応した粉体供給を開始した時点、すなわち、進行方向を変更した後のレーザスポットPに粉体を吐出させるように粉体供給手段28の動作を開始させた時点から、「粉体到達時間」が経過したか否かを判断し、「NO」と判断すると、「粉体到達時間」が経過するまで待機する。「YES」と判断すると、ステップS15に進んで、レーザスポットPの進行方向を変更するように、テーブル変位機構(レーザスポット進行手段)14の動作を制御し、その後、ステップS7に戻る。
【0081】
(肉盛り加工方法)
上記の通り、本実施形態では、「レーザスポット形成工程」、「レーザスポット進行工程」および「粉体吐出工程」を備える「肉盛り加工方法」が、制御装置30によって自動的に実行される。ここで、「レーザスポット形成工程」は、レーザ出射孔62からワークWの加工部位にレーザ光を照射して、平面視で細長い形状のレーザスポットPを形成する工程である。「レーザスポット進行工程」は、レーザスポットPを、予め定められた方向であって、平面視で長さ方向に対して直交する方向へ進行させる工程である。「粉体吐出工程」は、粉体がレーザスポットPの長さ方向に沿って集まるように粉体吐出口64a~64d,66a~66dから粉体を吐出させる工程である。
【0082】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、上記構成により以下の各効果を奏することができる。すなわち、図5(C)に示すように、進行方向(前後方向)に対して平面視で直交する方向へ長い形状のレーザスポットPによって、肉盛り加工幅を広く確保できるので、加工時間を短くできる。また、図2に示すように、レーザ出射孔62が設けられた肉盛りノズル58に粉体吐出口64a~64d、66a~66d(図5(C))が設けられるので、レーザスポットPに対して粉体吐出口を高い精度で位置決めでき、簡単な構成で高い肉盛り加工精度を得ることができる。
【0083】
さらに、粉体吐出口から吐出された粉体は、レーザスポットPの長さ方向に沿って集まるので、レーザスポットPからはみ出す粉体の量を少なくでき、粉体を効率よく溶融することができる。これにより、肉盛り加工の歩留まりが低下することを抑制できるとともに、溶融不良に起因する加工部位の汚損を抑制できる。
【0084】
図1に示すレーザ発振器36で発生するレーザ光の強度分布は、回転対称の正規分布(ガウス分布)となり、レーザスポットPにおいては、長さ方向の中央部の強度が最大となるが、図9に示すように、粉体の供給量は、レーザスポットPの長さ方向の中央部で最大となるので、レーザスポットPに供給された粉体の全てを効率よく溶融することができる。また、各粉体吐出口から吐出される粉体の吐出量を制御装置30で調整することによって、レーザスポットPの各部分に供給される粉体の供給量を調整できる。
【0085】
図9に示すように、粉体吐出口64a~64d、66a~66dは、レーザスポットPの長さ方向と同じ方向へ長く延びて形成されるので、粉体をレーザスポットPの長さ方向に沿わせて正確に供給できる。また、この場合、粉体吐出口64a~64d、66a~66dからそれぞれ吐出される各粉体は、粉体流路68a~68d,70a~70dが粉体吐出口64a~64d、66a~66dに向かって延びる粉体流路68a~68d,70a~70dの形成方向の延長線に沿って吐出されることでレーザスポットPの長さ方向の中央部で集中する。つまり、粉体の吐出方向は、粉体流路68a~68d,70a~70dが粉体吐出口64a~64d、66a~66dに向かって延びる形成方向によって規定されている。
【0086】
粉体吐出口群64,66は、複数の粉体吐出口64a~64d、66a~66dで構成されるので、各粉体吐出口の開口面積を、粉体吐出口が1つだけの場合と比べて小さくできる。したがって、粉体の直進性を高めることができ、粉体が分散することによる歩留まりの低下を抑制できる。
【0087】
図4(B)に示す粉体供給口74a,74bおよび粉体供給口84a,84bのそれぞれは、複数の粉体吐出口64a~64d、66a~66dの並び方向と同じ方向へ並べて設けられるので、複数の粉体流路68a~68d、70a~70dの構成を簡素化できる。また、粉体を、複数の粉体供給口および複数の粉体流路を通して、複数の粉体吐出口64a~64d、66a~66dに均一に供給できる。
【0088】
図5(C)に示す複数の粉体流路68a~68d、70a~70dは、図6に示すアウターノズル100の内面に形成された複数の溝(粉体吐出溝群122,128)と、図6に示すインナーノズル98の平坦な外側面106aとで構成されるので、アウターノズル100を溝の数が異なる他のものに交換するだけで、粉体吐出口の数を簡単に変更できる。また、粉体流路のメンテナンスを容易に行うことができるとともに、損傷したアウターノズル100の交換を容易に行うことができる。
(変形例)
本発明の実施にあたっては、上記の実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、レーザスポットPがテーブル変位機構14を用いて進行されるが、レーザスポットPは、予め定められた進行経路に沿うように作業者の手動で進行されてもよい。つまり、「レーザスポット進行手段」は作業者の手動で動かすことができるように構成されてもよい。
【0089】
上記実施形態では、肉盛り加工装置10は、レーザ発信機36から出射されるレーザ光を光ファイバケーブル50を介してトーチ38に導くように構成した。しかし、肉盛り加工装置10は、レーザ発信機36を直接トーチ38に接続して構成することもできる。
【0090】
上記実施形態では、図5(C)に示す2つの粉体吐出口群64,66がレーザスポットPを挟んだ両側に配置されているが、これらの一方は、省略されてもよい。また、粉体吐出口群64が4つの粉体吐出口64a~64dで構成され、粉体吐出口群66が4つの粉体吐出口66a~66dで構成されているが、これらの数は、1つ以上で3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。つまり、少なくとも1つであればよい。
【0091】
図1に示すように、上記実施形態では、粉体吐出口群64,66(図5(C))のそれぞれに連通するホース82,92が2つの粉体供給部130a,130bに対して個別に接続されているが、ホース82,92は、共通する1つの粉体供給部(図示省略)に対して接続されてもよい。この場合、ホース82,92のそれぞれに対応して設けられた供給量調整手段(図示省略)によって、粉体吐出口群64,66のそれぞれに供給される粉体の供給量が個別に調整されてもよい。すなわち、粉体供給部は、1つまたは複数の粉体吐出口ごとに設けてもよいし、複数の粉体吐出口に対して共通の粉体供給部を設けることもできる。
【0092】
上記実施形態では、図4(B)に示す粉体供給口74a,74bおよび粉体供給口84a,84bが2つずつ設けられているが、これらの数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。つまり、少なくとも1つであればよい。
【0093】
図12(A)は、第2実施形態に係る肉盛り加工装置における各粉体吐出口64a~64d、66a~66dの吐出範囲を示す図であり、(B)は、第3実施形態に係る肉盛り加工装置における各粉体吐出口64a~64d、66a~66dの吐出範囲を示す図である。なお、第2実施形態および第3実施形態は、第1実施形態に対して、粉体流路の傾斜角度、粉体吐出口の形状、粉体吐出口からレーザスポットPまでの距離などを調整することによって、レーザスポットPに対する粉体の供給量、供給位置および供給方向などを調整したものであり、肉盛り加工装置10(図1)の基本的構成は同じである。
【0094】
図9に示すように、上記実施形態では、粉体吐出部26は、レーザスポットPに対する粉体の供給量がレーザスポットPの長さ方向の中央部で最大となるように構成されているが、粉体の供給量は、長さ方向の全長にわたってほぼ均一にされてもよい。例えば、図12(A)に示す第2実施形態に係る肉盛り加工装置のように、レーザスポットPを長さ方向に四分割したときのそれぞれに対して、4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dおよび4つの粉体吐出口66a,66b,66c,66dの少なくとも一方から粉体が均等に供給されてもよい。
【0095】
また、図12(B)に示す第3実施形態に係る肉盛り加工装置のように、レーザスポットPを長さ方向に四分割したときのそれぞれに対して、4つの粉体吐出口64a,64b,64c,64dおよび4つの粉体吐出口66a,66b,66c,66dの少なくとも一方から粉体が供給されるとき、互いに隣接する2つの粉体吐出口から吐出される粉体の吐出範囲は、一部で重ね合わされてもよい。つまり、互いに隣接する2つの粉体吐出口は、レーザスポットPに吐出する粉体の吐出範囲が一部において互いに重なるように構成されてもよい。粉体の吐出範囲においては、中央部に比べて外側の部分の供給量が分散により少なくなるが、図12(B)に示す構成によれば、互いに隣接する吐出範囲の外側部分どうしが重なるので、吐出範囲どうしの境界部分において粉体が不足することを抑制できる。
【0096】
図13(A)は、第4実施形態に係る肉盛り加工装置140における「レーザスポット進行手段」の構成を示す正面図、図13(B)は、第5実施形態に係る肉盛り加工装置142における「レーザスポット進行手段」の構成を示す正面図である。
【0097】
上記実施形態では、「レーザスポット進行手段」が、テーブル変位機構14で構成されているが、「レーザスポット進行手段」の種類は、特に限定されるものではなく、他の種類の機構が用いられてもよい。例えば、図13(A)に示す第4実施形態に係る肉盛り加工装置140のように、「レーザスポット進行手段」は、肉盛り加工ヘッド22をX方向、Y方向およびZ方向へ変位させるヘッド変位機構144で構成されてもよい。また、図13(B)に示す第5実施形態に係る肉盛り加工装置142のように、「レーザスポット進行手段」は、テーブル変位機構14およびヘッド変位機構144の両方で構成されてもよい。
【0098】
さらに、図13(B)に示す第5実施形態に係る肉盛り加工装置142のように、テーブル変位機構14は、テーブル12を回転させる回転機構や、傾斜させる傾斜機構を有していてもよいし、ヘッド変位機構144は、肉盛り加工ヘッド22を傾斜させる傾斜機構を有していてもよい。回転機構は、θ方向駆動モータ146を有しており、各傾斜機構は、傾斜駆動モータ(図示省略)を有しており、これらの駆動モータの動作が、図10に示す制御装置30によって制御される。なお、図10では、θ方向駆動モータ146だけを破線で示しており、傾斜駆動モータを省略している。
【0099】
上記実施形態では、粉体吐出口64a,64b,64c,64dから金属粉体を吐出するようにした。しかし、粉体吐出口64a,64b,64c,64dから吐出される粉体は、肉盛り対象物の仕様に応じて適宜選定されるものである。したがって、粉体吐出口64a,64b,64c,64dから吐出される粉体は、金属粉のほかに、熱硬化性樹脂の粉末またはセラミック粉末を用いることもできる。
【符号の説明】
【0100】
P…レーザスポット、W…ワーク、10…肉盛り加工装置、12…テーブル、14…テーブル変位機構(レーザスポット進行手段)、22…肉盛り加工ヘッド、24…レーザ照射部、26…粉体吐出部、28…粉体供給手段、30…制御装置、32…入力部、34…表示部、36…レーザ発振器、38…トーチ、40…アダプタ部、42…エキスパンド部、44…ノズル部、48…光学系、52…ガス供給口、56…ガス供給源、58…肉盛りノズル、60…ノズル本体、62…レーザ出射孔、64…第1の粉体吐出口群、64a,64b,64c,64d…粉体吐出口、66…第2の粉体吐出口群、66a,66b,66c,66d…粉体吐出口、68…第1の流路群、68a,68b,68c,68d…粉体流路、70…第2の流路群、70a,70b,70c,70d…粉体流路、74a,74b,84a,84b…粉体供給口、94…第1のノズル片、96…第2のノズル片、98…インナーノズル、100…アウターノズル、122…第1の粉体吐出溝群、128…第2の粉体吐出溝群、130a,130b…粉体供給部、132a,132b…圧送装置、134a,134b…供給量調整手段、136…タイマー。
図1
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図13