(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129974
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】TOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物及びその焼成物である電極が積層されているTOPCon型太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
H01L31/04 264
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034362
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 正博
(72)【発明者】
【氏名】森下 直哉
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA01
5F151AA04
5F151CB13
5F151DA07
5F151FA10
5F151FA15
5F251AA01
5F251AA04
5F251CB13
5F251DA07
5F251FA10
5F251FA15
(57)【要約】
【課題】TOPCon型太陽電池において、微結晶n+シリコン層への侵食が抑制されており、且つ微結晶n+シリコン層と良好なコンタクトを形成して高い変換効率を達成できる裏面電極を形成するための導電性アルミニウムペースト組成物を提供する。
【解決手段】アルミニウム-シリコン合金粉末と、有機ビヒクルと、ガラスフリットとを含有するアルミニウムペースト組成物であって、
前記ガラスフリットは、TeO2、V2O5及びB2O3を含有し、前記TeO2の含有量が前記ガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲であり、且つ
前記TeO2の含有量をxmol%、前記V2O5の含有量をymol%及び前記B2O3の含有量をzmol%とし、〔(y+z)/x〕の値が1.5~1.9の範囲である、
ことを特徴とするTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム-シリコン合金粉末と、有機ビヒクルと、ガラスフリットとを含有する導電性アルミニウムペースト組成物であって、
前記ガラスフリットは、TeO2、V2O5及びB2O3を含有し、前記TeO2の含有量が前記ガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲であり、且つ
前記TeO2の含有量をxmol%、前記V2O5の含有量をymol%及び前記B2O3の含有量をzmol%とし、〔(y+z)/x〕の値が1.5~1.9の範囲である、
ことを特徴とするTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物。
【請求項2】
前記アルミニウム-シリコン合金粉末は、シリコン濃度が30~45質量%である、請求項1に記載のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物。
【請求項3】
前記ガラスフリットは、更にWO3、ZnO及びBi2O3からなる群から選択される少なくとも一種を20mol%以下の含有量で含有する、請求項1又は2に記載のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物の焼成物である裏面電極が積層されていることを特徴とするTOPCon型太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物及びその焼成物である電極が積層されているTOPCon型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池の効率を向上する技術の一つとして、TOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)構造を採用した太陽電池素子が考案されている。以下、本明細書において、当該構造を採用した太陽電池を「TOPCon型太陽電池」と称する。
【0003】
このようなTOPCon構造では、ベース基板となるシリコン基板表面と銀やアルミニウム等を用いた金属電極との間の再結合損失を減らすために、ベース基板と金属電極との間に、酸化シリコンからなる数nm程度の薄いトンネル酸化物層と、高濃度のリンやホウ素等をドーピングした半導体層と、Si3N4やAl2O3等からなるパッシベーション層とが形成されている。
【0004】
代表的なTOPCon型太陽電池としては、ベース基板としてn型シリコン半導体基板を備え、裏面電極との間に酸化物層(酸化シリコン層)と高濃度にリンをドーピングした微結晶n+シリコン層とを備えた構造が提案されている。また、かかるTOPCon型太陽電池の裏面電極として、アルミニウム-シリコン合金粒子と、有機ビヒクルと、ガラス粉末(ガラスフリット)とを含有した導電性アルミニウムペースト組成物の焼成物を用いる検討がなされている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の方法のように、導電性アルミニウムペースト組成物にビスマスを主成分とするガラスフリットを処方した場合に、ガラスフリットによる微結晶n+シリコン層への侵食が生じて太陽電池の性能が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みて完成されたものであり、TOPCon型太陽電池において、微結晶n+シリコン層への侵食が抑制されており、且つ微結晶n+シリコン層と良好なコンタクトを形成して高い変換効率を達成できる裏面電極を形成するための導電性アルミニウムペースト組成物を提供することを目的とする。また、その焼成物である裏面電極が積層されているTOPCon型太陽電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成のガラスフリットを含有する導電性アルミニウムペースト組成物を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物及びそれを用いたTOPCon型太陽電池に関する。
1.アルミニウム-シリコン合金粉末と、有機ビヒクルと、ガラスフリットとを含有する導電性アルミニウムペースト組成物であって、
前記ガラスフリットは、TeO2、V2O5及びB2O3を含有し、前記TeO2の含有量が前記ガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲であり、且つ
前記TeO2の含有量をxmol%、前記V2O5の含有量をymol%及び前記B2O3の含有量をzmol%とし、〔(y+z)/x〕の値が1.5~1.9の範囲である、
ことを特徴とするTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物。
2.前記アルミニウム-シリコン合金粉末は、シリコン濃度が30~45質量%である、上記項1に記載のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物。
3.前記ガラスフリットは、更にWO3、ZnO及びBi2O3からなる群から選択される少なくとも一種を20mol%以下の含有量で含有する、上記項1又は2に記載のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物。
4.上記項1~3のいずれかに記載のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物の焼成物である裏面電極が積層されていることを特徴とするTOPCon型太陽電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性アルミニウムペースト組成物によれば、特定組成のガラスフリットを含有することにより、微結晶n+シリコン層への侵食が抑制されており、且つ微結晶n+シリコン層と良好なコンタクトを形成して高い変換効率を達成できる裏面電極を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】TOPCon型太陽電池の構造の一例を示す断面模式図である。
【
図2】実施例及び比較例において、微結晶n
+シリコン層の表面に導電性アルミニウムペースト組成物をスクリーン印刷した際の印刷幅を示す図である。具体的には、印刷幅が1mm、長さが10mm、印刷間隔が1.2mm、1.4mm、1.6mm、1.8mm及び2.0mmの条件で並列するように設定したことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のTOPCon型太陽電池電極用導電性アルミニウムペースト組成物及びそれを用いたTOPCon型太陽電池について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は特に断らない限り「以上、以下」を示す。つまり、「A~B」は、A以上B以下の範囲を示す。
【0013】
1.TOPCon型太陽電池
本発明の導電性アルミニウムペースト組成物はTOPCon型太陽電池電極用であるが、導電性アルミニウムペースト組成物がアルミニウム-シリコン合金粉末と、有機ビヒクルと、ガラスフリットとを含有し、特にガラスフリットが所定の特定組成を有する限り、他の要件は公知のTOPCon型太陽電池の要件を適用することができる。
【0014】
図1は、TOPCon型太陽電池の構造の一例を示す断面模式図である。
図1に示すTOPCon型太陽電池は、ベース基板のn型シリコン半導体基板1の受光面側にp型不純物層2が形成されており、n型シリコン半導体基板1の裏面側に裏面電極5を備え、n型シリコン半導体基板1と裏面電極5との間に極めて薄い酸化物層3と、高濃度にドーパントがドープされた微結晶n
+シリコン層4とを備える。詳細には、n型シリコン半導体基板1と裏面電極5との間に、酸化物層3がn型シリコン半導体基板1側に、微結晶n
+シリコン層4が裏面電極5側に備わる。この構造を有することにより、TOPCon型太陽電池は、酸化物層3によりトンネル効果が生じてn型シリコン半導体基板1(n
-シリコン層)と微結晶n
+シリコン層4(n
+シリコン層)との界面でのキャリアロスが抑制できる。
【0015】
酸化物層3としては、例えば酸化ケイ素が適用される。酸化物層3の厚さは限定されず、例えば1~10nmとすることができ、3~8nmとすることが好ましい。酸化物層3の厚さが1~10nmであることで、前述のトンネル効果が起こりやすく、キャリアが太陽電池の裏面側へ移動し易くなるので、変換効率の増大がもたらされる。また、酸化物層3の厚さが1~10nmであれば、n-シリコン層とn+シリコン層との界面でのキャリアロスも抑制され易いので、変換効率の低減が起こりにくい。
【0016】
n型シリコン半導体基板1としては、例えば半導体用途又は太陽電池用途で使われるシリコン半導体基板を広く適用することができる。
【0017】
TOPCon型太陽電池において、微結晶n
+シリコン層4と裏面電極5との間には、パッシベーション膜を導入することもできる。パッシベーション膜は、公知の太陽電池と同様に開口部を有することもできる。n型シリコン半導体基板1の裏面電極5と逆側の面にはp型不純物層を介してフィンガー電極(
図1では図示なし)が形成される。フィンガー電極は、例えば銀やアルミニウム等で形成される。
【0018】
裏面電極5は、本発明の導電性アルミニウムペースト組成物によって形成する。詳細は後述するが、本発明の導電性アルミニウムペースト組成物は特定組成のガラスフリットを含有することにより、微結晶n+シリコン層4への侵食が抑制されており、且つ微結晶n+シリコン層4と良好なコンタクトを形成して高い変換効率を達成できる裏面電極5を形成することができる。また、導電性アルミニウムペースト組成物であることにより、スクリーン印刷法等の公知の印刷法を採用できる点で裏面電極5の焼成前塗膜を簡便に形成することができる。以下、導電性アルミニウムペースト組成物について説明する。
【0019】
2.導電性アルミニウムペースト組成物
本発明の導電性アルミニウムペースト組成物は、TOPCon型太陽電池電極用であり、詳細には裏面電極の形成に使用される。当該ペースト組成物は、アルミニウム-シリコン合金粉末と、有機ビヒクルと、ガラスフリットとを含有し、
前記ガラスフリットは、TeO2、V2O5及びB2O3を含有し、前記TeO2の含有量が前記ガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲であり、且つ
前記TeO2の含有量をxmol%、前記V2O5の含有量をymol%及び前記B2O3の含有量をzmol%とし、〔(y+z)/x〕の値が1.5~1.9の範囲である、
ことを特徴とする。
【0020】
上記特徴を有する本発明の導電性アルミニウムペースト組成物によれば、特定組成のガラスフリットを含有することにより、微結晶n+シリコン層への侵食が抑制されており、且つ微結晶n+シリコン層と良好なコンタクトを形成して高い変換効率(電気特性)を達成できる裏面電極を形成することができる。
【0021】
以下、本発明の導電性アルミニウムペースト組成物の各成分について詳述する。
【0022】
<アルミニウム-シリコン合金粉末>
導電性アルミニウムペースト組成物において、アルミニウム-シリコン合金粉末は、導電性をもたらす役割を果たし得る成分である。アルミニウム-シリコン合金粉末におけるシリコン濃度は特に限定されないが、30~45質量%であることが好ましい。シリコン濃度が30~45質量%であることにより、焼成工程において、導電性アルミニウムペースト組成物が微結晶n+シリコン層と溶融し難くなり、これにより導電性アルミニウムペースト組成物と微結晶n+シリコン層とがアルミニウム-シリコン合金層を形成し難くなる。この結果、キャリアの損失に起因するセルの変換効率低下が抑制される。シリコン濃度が30質量%を下回ると、p+層が形成されるので変換効率低下が引き起こされるおそれがある。シリコン濃度が45質量%を超えると抵抗が高くなりすぎ、更にアルミニウム-シリコン合金粉末の製造が難しくなるおそれがある。
【0023】
アルミニウム-シリコン合金粉末の粒子の大きさは特に限定されない。例えば、アルミニウム-シリコン合金粉末(粒子)の体積平均粒子径D50は、1~15μmとすることができる。この中でも、体積平均粒子径D50は、3~15μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。なお、本明細書におけるアルミニウム-シリコン合金粉末の体積平均粒子径D50は、レーザー回折法により測定される値をいう。
【0024】
また、アルミニウム-シリコン合金粉末は、第3成分としてストロンチウムを含んでいてもよい。すなわち、ストロンチウムを含む導電性粉末としては、アルミニウム-シリコン-ストロンチウム(Al-Si-Sr)合金粉末のほか、アルミニウム-シリコン合金粉末とアルミニウム-シリコン-ストロンチウム合金粉末との併用でもよい。
【0025】
ストロンチウムを含む導電性粉末に含まれるストロンチウムの量は特に限定されないが、0.01~1質量%とすることができる。導電性粉末にストロンチウムが加わることにより、シリコン濃度が高い場合に焼成中の液層組成量が増し、焼結が促進されて表面抵抗が低下するという効果がある。
【0026】
<有機ビヒクル>
本発明の導電性アルミニウムペースト組成物において、有機ビヒクルの種類は特に限定されず、例えば、太陽電池の裏面電極を形成するために用いられる公知の有機ビヒクルを広く適用することができる。有機ビヒクルとして、溶剤に樹脂が溶解した材料を挙げることができる。又は、有機ビヒクルは、溶剤を含まず、樹脂そのものを使用してもよい。
【0027】
溶剤の種類は限定的ではなく、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。有機ビヒクルに含まれる溶剤は、1種又は2種以上とすることができる。
【0028】
樹脂としては、例えば、公知の各種樹脂を挙げることができ、具体的には、エチルセルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂、ポリビニールブチラール樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート化合物、シアネート化合物、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリ4フッ化エチレン樹脂、シリコン樹脂等を挙げることができる。有機ビヒクルに含まれる樹脂は、1種又は2種以上とすることができる。
【0029】
有機ビヒクルは必要に応じて各種添加剤を含むこともできる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、タックファイヤー、カップリング剤、静電付与剤、重合禁止剤、チキソトロピー剤、沈降防止剤等を挙げることができる。具体的には、ポリエチレングリコールエステル化合物、ポリエチレングリコールエーテル化合物、ポリオキシエチレンソルビタンエステル化合物、ソルビタンアルキルエステル化合物、脂肪族多価カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ポリエステル酸のアマイドアミン塩、酸化ポリエチレン系化合物、脂肪酸アマイドワックス、ステアリン酸のアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。
【0030】
有機ビヒクルに含まれる樹脂、溶剤及び各種添加剤の割合は任意に調整することができ、例えば、公知の有機ビヒクルと同様の成分比とすることができる。
【0031】
<ガラスフリット>
本発明の導電性アルミニウムペースト組成物に含まれるガラスフリットとは、ガラス質のフリット(粉末)である。特に本発明では、ガラスフリットとしてTeO2、V2O5及びB2O3を含有し、前記TeO2の含有量が前記ガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲であり、且つ
前記TeO2の含有量をxmol%、前記V2O5の含有量をymol%及び前記B2O3の含有量をzmol%とし、〔(y+z)/x〕の値が1.5~1.9の範囲である、特定組成のガラスフリットを採用することを特徴とする。これにより、微結晶n+シリコン層への侵食が抑制されており、且つ微結晶n+シリコン層と良好なコンタクトを形成して高い変換効率(電気特性)を達成できる裏面電極を形成することができる。また、ガラスフリットの他の効果としては、アルミニウム-シリコン合金粉末表面の酸化被膜と酸化還元反応を起こすことにより、アルミニウム-シリコン合金粉末同士の焼結性をコントロールすることができる。なお、本明細書では、ガラスフリットに含まれる各元素の含有量は酸化物換算において表記している。
【0032】
本発明においては、ガラスフリットはTeO2、V2O5及びB2O3を含有し、TeO2の含有量がガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲であればよく、その中でも30~36mol%の範囲が好ましい。TeO2の含有量が40mol%を超える場合には、導電性アルミニウムペースト組成物を高温で焼成した際にアルミニウムとテルミット反応を起こし易いため過焼成となるおそれがある。また、本発明においては、TeO2の含有量をxmol%、V2O5の含有量をymol%及びB2O3の含有量をzmol%とし、〔(y+z)/x〕の値が1.5~1.9の範囲であればよい。
【0033】
本発明においては、ガラスフリットはTeO2、V2O5及びB2O3以外に、任意の成分を含んでもよい。例えば、任意の成分としては、酸化物表記でWO3、ZnO、Bi2O3等が挙げられる。このような任意の成分の含有量は限定的ではないが、ガラスフリット全量に対して合計量で20mol%以下であることが好ましく、5~20mol%であることがより好ましい。WO3、ZnO及びBi2O3からなる群から選択される少なくとも一種を合計量で5mol%以上含有することによりガラスフリットの安定性を高め易くなる。
【0034】
TeO2の含有量は、ガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲にある。またV2O5の含有量は特に限定されないが10~35mol%の範囲が好ましく、B2O3の含有量もまた限定されないが20~45mol%の範囲が好ましい。
【0035】
本発明の導電性アルミニウムペースト組成物は、冒頭で説明したTOPCon型太陽電池の裏面電極用ペースト組成物として有用である。本発明は、導電性アルミニウムペースト組成物の発明に加えて、導電性アルミニウムペースト組成物の焼成物である裏面電極が積層されていることを特徴とするTOPCon型太陽電池の発明も包含する。
【0036】
導電性アルミニウムペースト組成物の塗膜を焼成する際の焼成温度は、所望の裏面電極が形成される限り限定的ではないが、焼成温度は700℃以上とすることが好ましい。これにより、導電性アルミニウムペースト組成物と微結晶n+シリコン層とがアルミニウム-シリコン合金を形成することを抑制して所望の裏面電極を形成し易くなる。焼成温度の上限は、例えば導電性アルミニウムペースト組成物に含まれるアルミニウム-シリコン合金粉末の融点より低いことが好ましく、この場合、導電性アルミニウムペースト組成物と微結晶n+シリコン層とがアルミニウム-シリコン合金をさらに形成し難くなる。この点から、焼成温度は900℃以下であることが好ましく、850℃以下であることがより好ましく、800℃以下であることが特に好ましい。
【0037】
塗膜の焼成時間は、焼成温度に応じて適宜決定できる。例えば1分以上300分以下とすることができ、1分以上5分以下であることが好ましい。焼成は、空気雰囲気、窒素雰囲気のいずれで行ってもよい。焼成方法も特に限定されず、例えば、公知の加熱炉を用いて焼成処理を行うことが得きる
【実施例0038】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0039】
実施例1
ガスアトマイズ法により、アルミニウム-シリコン合金粒子を製造した。アルミニウム-シリコン合金粒子は、シリコン濃度が38質量%、体積平均粒子径D50が8.0μmとなるように製造した。得られたアルミニウム-シリコン合金粒子100質量部及び、TeO2:30mol%、B2O3:24mol%、V2O5:30mol%、WO3:5mol%、ZnO:1mol%、Bi2O3:10mol%から成るガラス粉末5質量部を、分散装置(ディスパー)を用いて、エチルセルロースがブチルジグリコールに溶解した10質量%濃度の樹脂液(有機ビヒクル)30質量部に分散させ、導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0040】
実施例2
ガラス粉末の組成がTeO2:32mol%、B2O3:40mol%、V2O5:20mol%、WO3:8mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0041】
実施例3
ガラス粉末の組成がTeO2:35mol%、B2O3:20mol%、V2O5:35mol%、WO3:5mol%、Bi2O3:5mol%からからなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0042】
実施例4
ガラス粉末の組成がTeO2:36mol%、B2O3:45mol%、V2O5:10mol%、WO3:9mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0043】
実施例5
アルミニウム-シリコン合金粒子のシリコン濃度が35質量%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0044】
実施例6
アルミニウム-シリコン合金粒子のシリコン濃度が42質量%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0045】
実施例7
アルミニウム-シリコン合金粒子の代わりにアルミニウム-シリコン-ストロンチウム合金粒子であってシリコン濃度が35質量%、ストロンチウム濃度が0.05質量%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0046】
実施例8
アルミニウム-シリコン合金粒子の代わりにアルミニウム-シリコン-ストロンチウム合金粒子であってシリコン濃度が42質量%、ストロンチウム濃度が0.05質量%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0047】
比較例1
ガラス粉末の組成がB2O3:55mol%、ZnO:30mol%、Bi2O3:15mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0048】
比較例2
ガラス粉末の組成がTeO2:40mol%、B2O3:50mol%、WO3:10mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0049】
比較例3
ガラス粉末の組成がTeO2:28mol%、B2O3:35mol%、V2O5:30mol%、WO3:7mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0050】
比較例4
ガラス粉末の組成がTeO2:30mol%、B2O3:40mol%、V2O5:20mol%、Bi2O3:10mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0051】
比較例5
ガラス粉末の組成がTeO2:25mol%、B2O3:35mol%、V2O5:30mol%、Bi2O3:10mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0052】
比較例6
ガラス粉末の組成がTeO2:35mol%、B2O3:15mol%、V2O5:35mol%、WO3:5mol%、Bi2O3:10mol%からなるものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0053】
比較例7
アルミニウム-シリコン合金粉末の代わりにアルミニウム粉末を使用した以外は、実施例1と同様の方法で導電性アルミニウムペースト組成物を得た。
【0054】
(電極形成)
図1、
図2に示す様に、n型シリコン半導体基板1にp型不純物層2を設けた面とは反対側の面に、内側から順に厚さ5nmの酸化物(酸化ケイ素)層3及び厚さ200nmの微結晶n
+シリコン層4が積層されたウェハを準備した。このウェハに、実施例及び比較例で調製した導電性アルミニウムペースト組成物を、印刷後の厚みが20~30μm、幅が1mm、長さが10mm、印刷間隔が1.2mm、1.4mm、1.6mm、1.8mm及び2.0mmの条件で並列するように設定してスクリーン印刷した。次に印刷後の積層体を700℃に設定した赤外ベルト炉に設置し、この温度で焼成することにより裏面電極5の形成を行った。これにより、評価用の焼成基板を製作した。
【0055】
(コンタクト抵抗の評価)
日置電機株式会社製の抵抗測定器(製品名:ミリオームハイテスタHiTESTER 3540)を用いて、得られた焼成基板の電気抵抗を測定し、TLM(Transmission line method)法により、裏面電極5と微結晶n+シリコン層4とのコンタクト抵抗を算出した。
【0056】
(微結晶n+シリコン層4への侵食の評価)
焼成基板に形成された裏面電極を、常温の塩酸水溶液に60分間浸すことで除去した後、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、微結晶n+シリコン層4を侵食していなかったものを「〇」、侵食していたものを「×」として評価した。
【0057】
以上の結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
表1に示すとおり、ガラスフリットが、TeO2、V2O5及びB2O3を含有し、TeO2の含有量がガラスフリット全量に対して30~40mol%の範囲であり、且つ、TeO2の含有量をxmol%、V2O5の含有量をymol%及びB2O3の含有量をzmol%とし、〔(y+z)/x〕の値が1.5~1.9の範囲ものを用いることにより、10mΩ・cm2以下の低いコンタクト抵抗と、微結晶n+シリコン層への侵食を抑制することができることが確認された。