(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129980
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】故障予兆診断装置及び故障予兆診断方法
(51)【国際特許分類】
B60T 17/00 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
B60T17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034369
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北井 瑳佳
(72)【発明者】
【氏名】宮内 努
(72)【発明者】
【氏名】小池 潤
(72)【発明者】
【氏名】工藤 匠
【テーマコード(参考)】
3D049
【Fターム(参考)】
3D049AA04
3D049BB06
3D049HH04
3D049HH52
3D049KK16
3D049RR04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両の運用及び線形条件に関わらず、空気圧縮機またはその関連機器における故障の予兆を診断する。
【解決手段】故障予兆診断装置100は、空気圧縮機210の稼働データ及び関連機器の圧力データを入力するデータ入力部110と、稼働データに基づいて空気圧縮機210の実稼働時間を算出する稼働時間算出部120と、稼働データ及び圧力データに基づいて、関連機器ごとに、空気圧縮機210の稼働に対して当該関連機器が使用した圧縮空気の量を示す積算圧力変位量を算出する積算圧力変位量算出部130と、各関連機器の積算圧力変位量を特徴量として、当該特徴量を使用する予測モデルから空気圧縮機210の予測稼働時間を算出する稼働時間予測モデル部140と、実稼働時間と予測稼働時間との比較結果に基づいて、空気圧縮機210または関連機器の少なくとも何れかにおける故障予兆の有無を診断する故障予兆診断部150と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧縮機または前記空気圧縮機が生成した圧縮空気を使用する関連機器における故障予兆を診断する故障予兆診断装置であって、
前記空気圧縮機の稼働データ及び前記関連機器の圧力データを入力するデータ入力部と、
前記データ入力部に入力された前記稼働データに基づいて、前記空気圧縮機の実稼働時間を算出する稼働時間算出部と、
前記データ入力部に入力された前記稼働データ及び前記圧力データに基づいて、前記関連機器ごとに、前記空気圧縮機の稼働に対して当該関連機器が使用した圧縮空気の量を示す積算圧力変位量を算出する積算圧力変位量算出部と、
前記積算圧力変位量算出部によって算出された各関連機器の積算圧力変位量を特徴量として、当該特徴量を使用する予測モデルから前記空気圧縮機の予測稼働時間を算出する稼働時間予測モデル部と、
前記稼働時間算出部によって算出された実稼働時間と、前記稼働時間予測モデル部によって算出された予測稼働時間との比較結果に基づいて、前記空気圧縮機または前記関連機器の少なくとも何れかにおける故障予兆の有無を診断する故障予兆診断部と、
を備えることを特徴とする故障予兆診断装置。
【請求項2】
前記故障予兆診断部は、
周期的に前記実稼働時間と前記予測稼働時間とを比較し、
前記比較において前記実稼働時間が前記予測稼働時間と第1の閾値との合計時間よりも長い場合に、前記故障予兆の可能性が有ると検知し、
前記故障予兆の可能性の検知結果に基づいて、前記故障予兆の有無を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の故障予兆診断装置。
【請求項3】
前記故障予兆診断部は、
前記故障予兆の可能性が有るという検知が第2の閾値を超える回数で連続した場合に、前記故障予兆が有ると診断する
ことを特徴とする請求項2に記載の故障予兆診断装置。
【請求項4】
前記予測モデルは、前記関連機器による影響を受けない構成における前記空気圧縮機の正常時の稼働時間に、前記関連機器の動作によって追加される前記空気圧縮機の稼働時間である追加稼働時間を加算することによって前記予測稼働時間を算出し、
前記追加稼働時間は、前記関連機器ごとに、当該関連機器の前記特徴量に所定の方法で決定された影響度を掛け合わせて算出される
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の故障予兆診断装置。
【請求項5】
前記関連機器に、圧力データを取得可能な第1の関連機器と、圧力データは取得できないが所定の動作データを取得可能な第2の関連機器とが含まれる場合、
前記稼働時間予測モデル部は、前記圧力データに基づいて算出された前記積算圧力変位量を前記第1の関連機器の特徴量とし、前記動作データに基づいて算出された動作回数を前記第2の関連機器の特徴量として、前記第1及び第2の関連機器の特徴量を使用して前記予測モデルから前記空気圧縮機の予測稼働時間を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の故障予兆診断装置。
【請求項6】
前記第1の関連機器の1つがブレーキ装置である場合、当該第1の関連機器の前記圧力データはブレーキシリンダ圧力値であり、
前記第1の関連機器の1つが空気ばねである場合、当該第1の関連機器の前記圧力データはエアーサスペンション圧力値であり、
前記第2の関連機器の1つがドア装置である場合、当該第2の関連機器の前記動作データはドアの開閉情報である
ことを特徴とする請求項5に記載の故障予兆診断装置。
【請求項7】
前記実稼働時間と前記予測稼働時間との比較結果に基づいて、前記予測モデルにおける各前記関連機器の影響度を更新するモデル更新部をさらに備える
ことを特徴とする請求項4に記載の故障予兆診断装置。
【請求項8】
前記モデル更新部は、
前記実稼働時間が前記予測稼働時間と前記第1の閾値との合計時間以下で、かつ、前記予測稼働時間が前記実稼働時間と前記第1の閾値との合計時間より長い場合に、
それぞれの前記関連機器の前記影響度を、前記予測稼働時間における各特徴量の比重に応じて低下させる
ことを特徴とする請求項7に記載の故障予兆診断装置。
【請求項9】
前記モデル更新部は、
前記故障予兆診断部によって前記故障予兆の可能性が有ると検知された状態が前記第2の閾値の回数を超えて連続して発生する前に、前記実稼働時間が前記予測稼働時間と前記第1の閾値との合計時間以下となった場合に、
それぞれの前記関連機器の前記影響度を、前記予測稼働時間における各特徴量の比重に応じて増加させる
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の故障予兆診断装置。
【請求項10】
前記故障予兆診断部は、前記故障予兆が有ると診断した場合は、所定の出力先にアラートを通知する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の故障予兆診断装置。
【請求項11】
空気圧縮機または前記空気圧縮機が生成した圧縮空気を使用する関連機器における故障予兆を診断する故障予兆診断装置による故障予兆診断方法であって、
前記故障予兆診断装置が、前記空気圧縮機の稼働データ及び前記関連機器の圧力データを入力するデータ入力ステップと、
前記故障予兆診断装置が、前記データ入力ステップで入力された前記稼働データに基づいて、前記空気圧縮機の実稼働時間を算出する稼働時間算出ステップと、
前記故障予兆診断装置が、前記データ入力ステップで入力された前記稼働データ及び前記圧力データに基づいて、前記関連機器ごとに、前記空気圧縮機の稼働に対して当該関連機器が使用した圧縮空気の量を示す積算圧力変位量を算出する積算圧力変位量算出ステップと、
前記故障予兆診断装置が、前記積算圧力変位量算出ステップで算出された各関連機器の積算圧力変位量を特徴量として、当該特徴量を使用する予測モデルから前記空気圧縮機の予測稼働時間を算出する稼働時間予測ステップと、
前記故障予兆診断装置が、前記稼働時間算出ステップで算出された実稼働時間と、前記稼働時間予測ステップで算出された予測稼働時間との比較結果に基づいて、前記空気圧縮機または前記関連機器の少なくとも何れかにおける故障予兆の有無を診断する故障予兆診ステップと、
を備えることを特徴とする故障予兆診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障予兆診断装置及び故障予兆診断方法に関し、鉄道車両に用いられる空気圧縮機またはその圧縮空気を利用する関連機器における故障の予兆を診断する故障予兆診断装置及び故障予兆診断方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
保守作業の効率化及び省力化の観点から、車上機器から取得されるデータを活用した、故障予兆診断技術の開発が求められている。車上機器の中でも、空気ブレーキや空気バネなどで使用する圧縮空気を生成する空気圧縮機は、故障時に空気ブレーキ等の他の機器の動作にも影響を与えることから、故障が発生するよりも前にその予兆を検知し診断する技術の開発が強く求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、鉄道車両の機器モニタリングデータを利用してコンプレッサの異常の発生を高い精度で検知しようとする異常検知方法が開示されている。特許文献1の異常検知方法によれば、コンプレッサ(空気圧縮機)が稼働中かつ、ブレーキが未動作時のデータを抽出し、さらにそのデータを一定の時間で分割したデータの中で、最も蓄圧系の圧力上昇量が大きかったデータを抽出する。また、その時の空気ばねの圧力変位量、車両重量から算出した乗車率、走行速度、及び外気温の情報を説明変数として重回帰分析によって圧力上昇量を算出する。そして、抽出した蓄圧系の圧力上昇量と、重回帰分析によって算出した圧力上昇量とを比較することで、異常検知を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の異常検知方法では、空気圧縮機が稼働中かつ、圧縮空気を用いる機器(例えばブレーキ)が動作していない時間を対象として、異常検知の判断に用いる圧力上昇量のデータを抽出するものであった。そのため、機器が搭載された車両の運用や線形条件によっては、データの抽出条件に該当する期間が短く、故障予兆診断に用いるデータを十分に取得できないおそれがあった。具体的には例えば、機器を鉄道車両のブレーキとしたとき、鉄道車両は停車駅の手前からブレーキで減速して駅に停車するため、駅間が短い場合には圧力上昇量のデータを取得することができない。また、駅間に急な下り勾配が続くような場合も、長時間ブレーキが動作し続けることから、圧力上昇量のデータを取得することができない。このように、特許文献1の異常検知方法では、空気圧縮機の稼働中に、圧縮空気を使用する関連機器がほぼ動作しているような状況では、異常検知の判断に用いるデータを十分に取得できず、その結果、空気圧縮機またはその関連機器における異常検知を実施できない期間が発生するおそれがあった。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、車両の運用及び線形条件に関わらず、空気圧縮機またはその圧縮空気を利用する関連機器における故障の予兆を診断することが可能な故障予兆診断装置及び故障予兆診断方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、空気圧縮機または前記空気圧縮機が生成した圧縮空気を使用する関連機器における故障予兆を診断する故障予兆診断装置であって、前記空気圧縮機の稼働データ及び前記関連機器の圧力データを入力するデータ入力部と、前記データ入力部に入力された前記稼働データに基づいて、前記空気圧縮機の実稼働時間を算出する稼働時間算出部と、前記データ入力部に入力された前記稼働データ及び前記圧力データに基づいて、前記関連機器ごとに、前記空気圧縮機の稼働に対して当該関連機器が使用した圧縮空気の量を示す積算圧力変位量を算出する積算圧力変位量算出部と、前記積算圧力変位量算出部によって算出された各関連機器の積算圧力変位量を特徴量として、当該特徴量を使用する予測モデルから前記空気圧縮機の予測稼働時間を算出する稼働時間予測モデル部と、前記稼働時間算出部によって算出された実稼働時間と、前記稼働時間予測モデル部によって算出された予測稼働時間との比較結果に基づいて、前記空気圧縮機または前記関連機器の少なくとも何れかにおける故障予兆の有無を診断する故障予兆診断部と、を備える故障予兆診断装置が提供される。
【0008】
また、かかる課題を解決するため本発明においては、空気圧縮機または前記空気圧縮機が生成した圧縮空気を使用する関連機器における故障予兆を診断する故障予兆診断装置による故障予兆診断方法であって、前記故障予兆診断装置が、前記空気圧縮機の稼働データ及び前記関連機器の圧力データを入力するデータ入力ステップと、前記故障予兆診断装置が、前記データ入力ステップで入力された前記稼働データに基づいて、前記空気圧縮機の実稼働時間を算出する稼働時間算出ステップと、前記故障予兆診断装置が、前記データ入力ステップで入力された前記稼働データ及び前記圧力データに基づいて、前記関連機器ごとに、前記空気圧縮機の稼働に対して当該関連機器が使用した圧縮空気の量を示す積算圧力変位量を算出する積算圧力変位量算出ステップと、前記故障予兆診断装置が、前記積算圧力変位量算出ステップで算出された各関連機器の積算圧力変位量を特徴量として、当該特徴量を使用する予測モデルから前記空気圧縮機の予測稼働時間を算出する稼働時間予測ステップと、前記故障予兆診断装置が、前記稼働時間算出ステップで算出された実稼働時間と、前記稼働時間予測ステップで算出された予測稼働時間との比較結果に基づいて、前記空気圧縮機または前記関連機器の少なくとも何れかにおける故障予兆の有無を診断する故障予兆診ステップと、を備える故障予兆診断方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両の運用及び線形条件に関わらず、空気圧縮機またはその関連機器における故障の予兆を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る故障予兆診断装置100の構成例を示すブロック図である。
【
図2】稼働時間算出部120による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図3】積算圧力変位量算出部130による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図4】稼働時間予測モデル部140による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図5】関連機器の影響度α
nの決定方法の一例を説明するための図である。
【
図6】故障予兆診断部150による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る故障予兆診断装置100の構成例を示すブロック図である。
【
図8】第2の実施形態の積算圧力変位量算出部130による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係る故障予兆診断装置300の構成例を示すブロック図である。
【
図10】稼働時間予測モデル部340による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図11】故障予兆診断部350による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図12】モデル更新部360による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述する。
【0012】
(1)第1の実施形態
(1-1)構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係る故障予兆診断装置100の構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、故障予兆診断装置100は、データ入力部110、稼働時間算出部120、積算圧力変位量算出部130、稼働時間予測モデル部140、及び故障予兆診断部150を備えて構成される。
【0013】
また、故障予兆診断装置100には、故障予兆の診断対象の機器として、空気圧縮機210、ブレーキ装置220、及び空気ばね230が接続されている。空気圧縮機210は、圧縮空気を生成して供給する機器である。ブレーキ装置220及び空気ばね230は、空気圧縮機210が生成した圧縮空気を使用する関連機器の一例である。空気圧縮機210の関連機器は、1つであっても複数であってもよい。
【0014】
データ入力部110は、空気圧縮機210から空気圧縮機210の稼働データを入力し、空気圧縮機210が生成した圧縮空気を使用するブレーキ装置220及び空気ばね230から、それぞれの圧力データを入力する。さらに、データ入力部110は、空気圧縮機210の稼働データを稼働時間算出部120及び積算圧力変位量算出部130に出力し、ブレーキ装置220及び空気ばね230の圧力データを積算圧力変位量算出部130に出力する。
【0015】
本実施形態では、圧縮空気を使用する関連機器の圧力データとして、一般的な鉄道車両において搭載されていることが多いブレーキ装置220のブレーキシリンダ(BC)圧力値と、空気ばね230のエアーサスペンション(AS)圧力値とを例に用いて説明する。但し、本実施形態で使用可能な圧力データは上述した圧力データに限定されるものではなく、空気圧縮機210で生成された圧縮空気を使用する関連機器が存在する場合は、当該関連機器ごとの圧力データもデータ入力部110に入力されるとしてよい。以上のことは、他の実施形態でも同様である。
【0016】
また、データ入力部110における各データの入力方法は、各機器にデータ入力部110を直接接続することによってデータを入力してもよいし、各機器を搭載した車両(例えば鉄道車両)において各機器の情報を集約及び制御する不図示の車両情報制御装置が備えられている場合には、車両情報制御装置にデータ入力部110を接続することによって各データを入力するようにしてもよい。また、各機器を搭載した車両が、公共無線通信等を用いて車両基地等に設置されたサーバまたはクラウド環境上に構築されたサーバ等の記憶領域に対して各データを送信可能な機能を有する場合は、故障予兆診断装置100を上記のサーバに接続可能な環境下に実装し、上記サーバからデータ入力部110に各データを入力するようにしてもよい。以上のことは、他の実施形態でも同様である。
【0017】
稼働時間算出部120は、データ入力部110から空気圧縮機210の稼働データを入力し、入力した情報に基づいて実稼働時間を算出し、これを故障予兆診断部150へ出力する。空気圧縮機210の稼働データは、少なくとも空気圧縮機210の稼働状態(稼働中または停止中)を示す。稼働時間算出部120による処理の詳細は後述する。
【0018】
積算圧力変位量算出部130は、データ入力部110から稼働データ、BC圧力値、及びAS圧力値を入力し、入力した情報に基づいて、各関連機器の積算圧力変位量(積算BC圧力変位量、積算AS圧力変位量)を算出し、これらを稼働時間予測モデル部140へ出力する。積算圧力変位量は、空気圧縮機210の1回(所定回数であってもよい)の稼働に対する関連機器の圧力の変位量であって、関連機器ごとに算出される。なお、積算圧力変位量は、空気圧縮機210の1回の稼働中に関連機器が使用した圧縮空気量、ともいえる。積算圧力変位量算出部130による処理の詳細は後述する。
【0019】
稼働時間予測モデル部140は、積算圧力変位量算出部130から積算BC圧力変位量及び積算AS圧力変位量を入力し、入力した情報に基づいて稼働時間の予測値である予測稼働時間を導出し、これを故障予兆診断部150へ出力する。稼働時間予測モデル部140による処理の詳細は後述する。
【0020】
故障予兆診断部150は、稼働時間算出部120から実稼働時間を、稼働時間予測モデル部140から予測稼働時間を入力し、入力した情報に基づいて故障予兆の診断を行い、その診断結果を運転士や車両基地へ出力する。故障予兆診断部150による処理の詳細は後述する。
【0021】
以下では、故障予兆診断装置100の各機能部による処理の詳細を説明する。
【0022】
(1-2)稼働時間算出部120の処理
図2は、稼働時間算出部120による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図2に示す処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0023】
図2によればまず、稼働時間算出部120は、データ入力部110から空気圧縮機210の稼働データを取得する。前述した通り、空気圧縮機210の稼働データには、少なくとも、空気圧縮機210の稼働状態(稼働中/停止中)が示される(ステップS101)。
【0024】
次に、稼働時間算出部120は、ステップS101で取得した稼働データを参照し、空気圧縮機210の稼働状態が停止中から稼働中に変化したか否かを判定する(ステップS102)。稼働状態が停止中から稼働中に変化した場合(ステップS102のYES)、ステップS103に進み、稼働状態が停止中から稼働中に変化していない場合(ステップS102のNO)、ステップS104に進む。
【0025】
ステップS103では、稼働時間算出部120は、稼働時間の計測を開始し、ステップS104に進む。
【0026】
ステップS104では、稼働時間算出部120は、ステップS101で取得した稼働データを参照し、空気圧縮機210の稼働状態が稼働中から停止中に変化したか否かを判定する。稼働状態が稼働中から停止中に変化した場合(ステップS104のYES)、ステップS105に進み、稼働状態が稼働中から停止中に変化していない場合(ステップS104のNO)、処理を終了する。
【0027】
ステップS105では、稼働時間算出部120は、稼働時間の計測を停止し、計測した時間を実稼働時間に設定し、ステップS106に進む。実稼働時間は、空気圧縮機210が稼働してから停止するまでに経過した稼働時間の実測結果であり、稼働時間算出部120は、所定の記憶領域に実稼働時間を記憶する。
【0028】
次いで、稼働時間算出部120は、ステップS105で設定した実稼働時間を故障予兆診断部150に出力し(ステップS106)、処理を終了する。
【0029】
以上、
図2に示した処理を実行することにより、稼働時間算出部120は、空気圧縮機210の稼働データに基づいて、空気圧縮機210の実稼働時間を算出し、出力することができる。
【0030】
(1-3)積算圧力変位量算出部130の処理
図3は、積算圧力変位量算出部130による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図3に示す処理は、
図2の処理と同様の周期で繰り返し実行される。
【0031】
図3によればまず、積算圧力変位量算出部130は、データ入力部110から、空気圧縮機210の稼働データ(稼働中/停止中)と、ブレーキ装置220のBC圧力値と、空気ばね230のAS圧力値とを取得する(ステップS201)。
図2の説明で述べたように、ステップS201の処理は、
図2のステップS101の処理と同様の周期で実行される。
【0032】
次に、積算圧力変位量算出部130は、ステップS201で取得した稼働データを参照し、空気圧縮機210の稼働状態が停止中から稼働中に変化したか否かを判定する(ステップS202)。稼働状態が停止中から稼働中に変化した場合(ステップS202のYES)、ステップS204に進み、稼働状態が停止中から稼働中に変化していない場合(ステップS202のNO)、ステップS203に進む。
【0033】
ステップS203では、積算圧力変位量算出部130は、ステップS201で取得した稼働データに基づいて、空気圧縮機210の稼働状態が稼働中であるか否かを判定する。稼働状態が稼働中である場合は(ステップS203のYES)、ステップS204に進み、稼働状態が稼働中ではない場合は(ステップS203のNO)、後述するステップS206に進む。
【0034】
ステップS204では、積算圧力変位量算出部130は、関連機器ごとの圧力データについて、積算圧力変位量を算出する。具体的には、積算圧力変位量算出部130は、ステップS201で取得したBC圧力値及びAS圧力値についてそれぞれ、1周期前の圧力値との差分を算出し、この差分の絶対値をそれぞれの積算圧力変位量に積算することによって、BC圧力値の積算圧力変位量(積算BC圧力変位量)とAS圧力値の積算圧力変位量(積算AS圧力変位量)を算出する。そして、積算圧力変位量算出部130は、現在のBC圧力値及びAS圧力値を所定の記憶領域に記憶し(ステップS205)、ステップS206に進む。
【0035】
ステップS206において、積算圧力変位量算出部130は、ステップS201で取得した稼働データに基づいて、空気圧縮機210の稼働状態が稼働中から停止中に変化したか否かを判定する。稼働状態が稼働中から停止中に変化した場合は(ステップS206のYES)、ステップS207に進み、稼働状態が稼働中から停止中に変化していない場合は(ステップS206のNO)、処理を終了する。
【0036】
ステップS207では、積算圧力変位量算出部130は、現在の積算BC圧力変位量及び積算AS圧力変位量を稼働時間予測モデル部140に出力する。その後、積算圧力変位量算出部130は、自身が管理する各関連機器の積算圧力変位量の値を「0」に初期化し(ステップS208)、処理を終了する。
【0037】
以上のように、
図3に示した積算圧力変位量の算出処理によって、積算圧力変位量算出部130は、空気圧縮機210が稼働を開始してから停止するまでの1回の稼働に対して各関連機器が使用した圧縮空気量を算出することができる。
【0038】
なお、本例ではデータ入力部110から積算圧力変位量算出部130に入力される圧力データがBC圧力及びAS圧力である場合について説明したが、データ入力部110に入力される圧力データが上記以外にもある場合には、積算圧力変位量算出部130は、ステップS204,S205,S207,S208の処理を、入力された各圧力データに対して実施すればよい。
【0039】
(1-4)稼働時間予測モデル部140の処理
図4は、稼働時間予測モデル部140による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図4に示す処理は、
図3のステップS207において積算圧力変位量算出部130から各関連機器の積算圧力変位量が出力されたときに開始される。
【0040】
図4によればまず、稼働時間予測モデル部140は、
図3のステップS207で積算圧力変位量算出部130から出力された各関連機器の積算圧力変位量(例えば、積算BC圧力変位量及び積算AS圧力変位量)を取得する(ステップS301)。
【0041】
次に、稼働時間予測モデル部140は、ステップS301で取得した積算圧力変位量を、後述する式1の予測モデル式に代入して、予測稼働時間を算出する(ステップS302)。
【0042】
そして、稼働時間予測モデル部140は、ステップS302で算出した予測稼働時間を故障予兆診断部150に出力し(ステップS303)、処理を終了する。
【0043】
(1-4-1)予測モデル
空気圧縮機210の予測稼働時間を算出する予測モデルについて詳しく説明する。
図4のステップS302で使用される予測モデル式は、例えば以下の式1で示される。
【数1】
式1において、Y
t[秒]は予測稼働時間、A[秒]は基準稼働時間、X
n[kPa]は関連機器nの積算圧力変位量、α
n[秒/kPa]は関連機器nの影響度である。
【0044】
基準稼働時間Aは、関連機器による影響を受けない構成における空気圧縮機210の正常時の稼働時間である。基準稼働時間Aは、空気圧縮機210の正常時の空気圧縮性能W[kPa/秒]と、空気圧縮機210が生成した圧縮空気を蓄積するタンクにおける起動圧力Pmin及び停止圧力Pmaxが事前に分かっている場合には、「A=(Pmax-Pmin)/W」の式を用いて算出することができる。なお、起動圧力Pminは上記タンクにおける起動圧力の下限圧力値であり、停止圧力Pmaxは、上記タンクにおける停止圧力の上限圧力値である。
【0045】
また、空気圧縮性能W、起動圧力Pmin、及び停止圧力Pmaxの値が不明である場合は、新品時また点検や修理直後から一定期間における、各関連機器の積算圧力変位量が「0」であった場合の実稼働時間の値を蓄積し、その平均の値を用いるようにすればよい。上記の一定期間とは、空気圧縮機210が搭載されている車両(列車)で想定される運用(駅間、種別)が網羅的に含まれるデータを取得可能な期間とする。
【0046】
各関連機器の影響度αnは、各関連機器における積算圧力変位量の空気圧縮機210への影響度合いを示したパラメータであり、より具体的には、各関連機器が1kPaの圧縮空気を使用するあたりの空気圧縮機210の動作時間の延長量[秒]を示したパラメータである。影響度αnのそれぞれの値α1~αnは、事前に、一定期間分の実稼働時間とその時の積算BC圧力変位量及び積算AS圧力変位量のデータとを学習データとした回帰学習等を用いて算出される。
【0047】
また、関連機器n以外の積算圧力変位量が「0」であった場合には、
図5に示すように、関連機器nの積算圧力変位量とその時の稼働時間との関係性に基づいて、関連機器nの影響度α
nを決定するようにしてもよい。具体的には例えば、関連機器nの積算圧力変位量と対応する稼働時間とを一定期間に亘って蓄積し、最小二乗法等の公知の手法で近似式を算出し、その近似式における傾きの値を影響度α
nとして決定することができる(
図5参照)。上記の一定期間とは、空気圧縮機210が搭載されている車両(列車)で想定される運用(駅間、種別)が網羅的に含まれるデータを取得可能な期間とする。
【0048】
図5は、関連機器の影響度α
nの決定方法の一例を説明するための図である。
図5に示したように、一定期間に亘って蓄積した関連機器nの稼働時間と積算圧力変位量のデータに対して、所定の手法を用いて近似式を算出することができる。そして、
図5に示した、一次関数の近似式における傾きを、関連機器nの影響度α
nに決定することができる。
【0049】
(1-5)故障予兆診断部150の処理
図6は、故障予兆診断部150による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図6に示す処理は、
図2及び
図4の処理が終了した後に実行される。
【0050】
図6によればまず、故障予兆診断部150は、稼働時間算出部120から実稼働時間を取得し、稼働時間予測モデル部140から予測稼働時間を取得する(ステップS401)。
【0051】
次に、故障予兆診断部150は、ステップS401で取得した実稼働時間及び予測稼働時間に基づいて、実稼働時間が予測稼働時間に閾値d1を足した値よりも大きいか否かを判定する(ステップS402)。詳細は後述するが、閾値d1は、空気圧縮機210の実稼働時間及び予測稼働時間から、空気圧縮機210またはその関連機器において故障が発生し得る状態であるかを判定するために用いられるパラメータである。
【0052】
ステップS402において肯定結果が得られた場合は(ステップS402のYES)、空気圧縮機210の実稼働時間が予測稼働時間に対して長すぎることから、空気圧縮機210または関連機器において異常(故障)が発生し得る状態と判断できる。そこで、故障予兆診断部150は、自身が保持するパラメータである故障予兆カウンタの値を1加算し(ステップS403)、ステップS404に進む。
【0053】
一方、ステップS402において否定結果が得られた場合は(ステップS402のNO)、空気圧縮機210の実稼働時間が予測稼働時間に対して正常な範囲内であることから、空気圧縮機210または関連機器において異常(故障)が発生する予兆は検知されない。そこで、故障予兆診断部150は、故障予兆カウンタの値を「0」に初期化し(ステップS406)、ステップS407に進む。
【0054】
ステップS404では、故障予兆診断部150は、故障予兆カウンタの値が閾値d2よりも大きいか否かを判定する(ステップS404)。詳細は後述するが、閾値d2は、故障予兆カウンタの値から、空気圧縮機210またはその関連機器において故障の予兆があるかを判定するために用いられるパラメータである。
【0055】
ステップS404において故障予兆カウンタの値が閾値d2よりも大きい場合は(ステップS404のYES)、故障予兆カウンタの値が故障予兆の検知基準に到達した状態である。そこで、故障予兆診断部150は、故障予兆を検知した旨を所定の報知手段またはその制御手段に通知し、所定の報知手段または制御手段が、故障予兆の検知に対応する警告(故障予兆アラート)を運転士、運転指令、または検修区等の所定の報知先へ報知する(ステップS405)。故障予兆アラートの報知の詳細は後述する。ステップS405の後はステップS407に進む。
【0056】
一方、ステップS404において故障予兆カウンタの値が閾値d2以下である場合は(ステップS404のNO)、故障予兆カウンタの値が1以上ではあるが、故障予兆の検知基準にまでは到達していない状態である。そこで、故障予兆診断部150は、現段階では故障予兆アラートの報知は行わずに、ステップS407に進む。
【0057】
そしてステップS407では、故障予兆診断部150は、現在の故障予兆カウンタの値を所定の記憶領域に保存し、その後、処理を終了する。
【0058】
(1-5-1)閾値d1
閾値d1の詳細について説明する。閾値d1は、予測稼働時間に対して実稼働時間が異常な値であるか判定するためのパラメータであって、実稼働時間に許容される予測稼働時間からの超過時間の基準を示す。
【0059】
閾値d1の算出方法としては、例えば、前記した式1における基準稼働時間Aの算出の際に、蓄積したデータの平均値を用いた場合は、蓄積したデータの標準偏差σを算出し、統計学上で外れ値とされる値(3σ等)を閾値d1に用いるようにしてもよい。
【0060】
また例えば、事前に空気圧縮機210の正常時の空気圧縮性能W[kPa/秒]について、その最大値W
maxと最小値W
minとが既知である場合、以下の式2から閾値d
1を算出するようにしてもよい。
【数2】
【0061】
また、空気圧縮機210の起動圧力P
min及び停止圧力P
maxの値に、例えば「P
min±ΔP
1」及び「P
max±ΔP
2」のように幅があることが既知の場合には、ΔP
1,ΔP
2の値を用いて、以下の式3から閾値d
1を算出するようにしてもよい。
【数3】
【0062】
また、空気圧縮性能Wの最大値W
max及び最小値W
minと、上記のΔP
1,ΔP
2とがすべて既知である場合は、以下の式4から閾値d
1を算出するようにしてもよい。
【数4】
【0063】
(1-5-2)閾値d2
閾値d2の詳細について説明する。閾値d2は、予測稼働時間に対して実稼働時間が過剰に長い現象(具体的には、予測稼働時間よりも閾値d1以上に長い現象)が連続的に発生しているかを判定するためのパラメータであって、上記現象の連続的な発生回数の基準を示す。
【0064】
閾値d2の値は、駅間や、時間帯等の条件が網羅的に含まれたデータにおいて、連続的に実稼働時間が予測稼働時間よりも閾値d1以上長い時間を取り続けた場合に、故障予兆が発生していると検知できるように、列車の運行計画から決定される。
【0065】
また、空気配管に物体が衝突して亀裂が生じた場合などの突発的な故障を検知するために、実稼働時間が、予測稼働時間に閾値d1を積算した値を大幅に超過した値(例えば、閾値d1の2倍の値など)を示した場合は、閾値d2の値を、上述した閾値d2の値よりも少ない回数(例えば、2回や3回等)に設定するようにしてもよい。
【0066】
(1-5-3)故障予兆アラートの報知
故障予兆アラートの報知方法の詳細を説明する。故障予兆アラートは、故障予兆診断部150が空気圧縮機210の故障予兆を検知したときに、所定の報知手段やその制御手段が、空気圧縮機210の故障予兆を検知した旨を、画面表示や音声鳴動によって、運転士や、運転指令、検修区に報知する機能である。
【0067】
例えば故障予兆診断装置100が列車に搭載されている場合は、不図示の車両情報制御装置に故障予兆アラートを出力し、車両情報制御装置から運転台の表示器に故障予兆を検知した旨の画面表示を行う。また、故障予兆診断装置100から、直接運転台の表示器に故障予兆を検知した旨の画面表示を行うようにしてもよい。また、故障予兆診断装置100が、車両情報制御装置の集約された車両データを、公共無線通信等を用いて運転指令や検修区などにある地上システムに送信する機能がある場合には、故障予兆アラートを車両データに含ませて、地上システムに送信することで、地上システムにある画面等を通じて故障予兆アラートを報知する等としてもよい。さらに、故障予兆診断装置100が運転指令や検修区などにある地上システム上に実装されている場合は、故障予兆アラートを地上システム上の画面等に表示するとしてもよい。
【0068】
以上に説明したように、第1の実施形態に係る故障予兆診断装置100によれば、車両(列車)の運用中に空気圧縮機210が稼働した場合でも、精度よく空気圧縮機210の稼働時間(予測稼働時間)を推測することが可能である。また、故障予兆診断装置100は、空気圧縮機210で生成された圧縮空気を使用する関連機器が空気圧縮機210の稼働中に使用した圧縮空気量を算出する機能や、それぞれの関連機器による圧縮空気の使用量が予測稼働時間に与える影響度合いを考慮する機能を有する。これらの機能を有することにより、故障予兆診断装置100は、一定期間以上に亘り(閾値d2の回数まで連続して)、空気圧縮機210の実稼働時間が予測稼働時間よりも閾値d1以上長い値を示した場合に、空気圧縮機210またはその関連機器(例えばブレーキ装置220または空気ばね230)において故障予兆が発生したと判断することができる。
【0069】
かくして、本実施形態に係る故障予兆診断装置100は、車両の走行中の様々なタイミングで稼働する空気圧縮機210、または空気圧縮機210で生成された圧縮空気を使用する各関連機器における異常(故障)の予兆を、車両の運用及び線形条件に制限されることなく、常に精度よく検知し診断することが可能となる。
【0070】
(2)第2の実施形態
(2-1)構成
図7は、本発明の第2の実施形態に係る故障予兆診断装置100の構成例を示すブロック図である。
図7に示すように、第2の実施形態に係る故障予兆診断装置100の構成は、第1の実施形態で
図1に示した構成と同様である。第1の実施形態との相違点として、第2の実施形態では、空気圧縮機210が搭載される車両が、圧縮空気を使用してドアの開閉動作を行う空気式のドア装置240を有するとしている。すなわち、第2の実施形態では、空気圧縮機210で生成された圧縮空気を使用する関連機器として、第1の実施形態と同様のブレーキ装置220及び空気ばね230に、ドア装置240が追加されており、ドア装置240からデータ入力部110にデータが入力される。
【0071】
ここで、一般的な鉄道車両では、ドア装置240で使用する圧縮空気が蓄積される空気タンクの圧力値は計測していないことが多い。この場合、ドア装置240から圧力データを取得することはできない。そこで第2の実施形態においてデータ入力部110は、ドア装置240からの入力データとして、ドアの開閉情報を取得する。
【0072】
上記のように構成された第2の実施形態に係る故障予兆診断装置100では、稼働時間算出部120及び故障予兆診断部150については、構成及び処理ともに第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、データ入力部110、積算圧力変位量算出部130、及び稼働時間予測モデル部140については、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0073】
(2-2)データ入力部110の処理
第2の実施形態において、データ入力部110は、空気圧縮機210から稼働データを、ブレーキ装置220及び空気ばね230からそれぞれの圧力データ(BC圧力値、AS圧力値)を、ドア装置240から開閉データを入力する。開閉データは、ドア装置240におけるドアの開閉状態を示す情報である。また、データ入力部110は、空気圧縮機210の稼働データを稼働時間算出部120及び積算圧力変位量算出部130に出力し、ブレーキ装置220及び空気ばね230の圧力データ(BC圧力値、AS圧力値)と、ドア装置240の開閉データ(開/閉)とを積算圧力変位量算出部130に出力する。
【0074】
(2-3)積算圧力変位量算出部130の処理
第2の実施形態における積算圧力変位量算出部130の処理について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、第2の実施形態の積算圧力変位量算出部130による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図8においては、第1の実施形態で説明した
図3と同様の処理については、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0075】
図8によればまず、積算圧力変位量算出部130は、データ入力部110から、空気圧縮機210の稼働データ(稼働中/停止中)と、ブレーキ装置220のBC圧力値と、空気ばね230のAS圧力値と、ドア装置240の開閉データとを取得する(ステップS501)。
【0076】
次のステップS202~S205の処理は、
図3のステップS202~S205の処理と同様である。ステップS205の処理の後は、ステップS502に進む。
【0077】
ステップS502では、積算圧力変位量算出部130は、ステップS201で取得した開閉データに基づいて、ドア装置240の開閉状態が閉から開に変化したか否かを判定する。開閉状態が閉から開に変化した場合は(ステップS502のYES)、ステップS503に進み、開閉状態が閉から開に変化していない場合は(ステップS502のNO)、ステップS206に進む。
【0078】
ステップS503では、積算圧力変位量算出部130は、自身が保持するパラメータであるドア開回数の値を1加算し、ステップS206に進む。
【0079】
ステップS206では、
図3で説明した通り、積算圧力変位量算出部130は、ステップS201で取得した稼働データに基づいて、空気圧縮機210の稼働状態が稼働中から停止中に変化したか否かを判定する。稼働状態が稼働中から停止中に変化した場合は(ステップS206のYES)、ステップS504に進み、稼働状態が稼働中から停止中に変化していない場合は(ステップS206のNO)、処理を終了する。
【0080】
ステップS504では、積算圧力変位量算出部130は、現在の積算BC圧力変位量、積算AS圧力変位量、及びドア開回数を稼働時間予測モデル部140に出力する。その後、積算圧力変位量算出部130は、自身が管理する各関連機器の積算圧力変位量及びドア開回数の値を「0」に初期化し(ステップS505)、処理を終了する。
【0081】
(2-4)稼働時間予測モデル部140の処理
第2の実施形態において、稼働時間予測モデル部140が実行する処理の処理手順は、第1の実施形態で
図4に示した処理手順例と同様である。但し、第2の実施形態では、使用する予測モデルが異なるため、以下では、予測モデルの変更点について説明する。
【0082】
第2の実施形態において稼働時間予測モデル部140は、例えば以下の式5を用いて、空気圧縮機210の予測稼働時間を算出することができる。
【数5】
【0083】
式5において、Yt[秒]は予測稼働時間、A[秒]は基準稼働時間、Xn[kPa]は関連機器nの積算圧力変位量、αn[秒/kPa]は関連機器nの影響度である。これらは第1の実施形態で式1に説明した予測モデル式と同じである。さらに式5において、影響度β1[秒/回]はドア開回数の影響度、ドア開回数Z1[回]はドア開回数の値である。
【0084】
影響度β
1は、ドア装置240におけるドア開回数1回あたりの空気圧縮機210の動作時間の延長量[秒]を示したパラメータである。影響度β
1は、第1の実施形態で説明した積算圧力変位量の影響度α
nと同様の方法で算出することができる。具体的には例えば、事前に、一定期間分の実稼働時間とその時のドア開回数とを学習データとした回帰学習等を用いて算出されてもよい。また例えば、
図5に例示したように、他の関連機器の積算圧力変位量が「0」であった場合には、当該状況におけるドア開回数とその時の稼働時間とを一定期間蓄積し、最小二乗法等の公知の手法で近似式を算出し、その近似式における傾きの値を影響度β
1として決定してもよい。上記の一定期間とは、空気圧縮機210が搭載されている車両(列車)で想定される運用(駅間、種別)が網羅的に含まれるデータを取得可能な期間とする。
【0085】
以上に説明したように、第2の実施形態に係る故障予兆診断装置100によれば、故障予兆の診断対象に含まれる関連機器を、ブレーキ装置220や空気ばね230のように圧力データを取得できる第1の関連機器だけに限定することなく、ドア装置240のように圧力データを取得できない第2の関連機器が含まれる場合であっても、第1及び第2の関連機器による空気圧縮機210の稼働時間への影響度を考慮して、空気圧縮機210の予測稼働時間を算出することができる。すなわち、第2の実施形態に係る故障予兆診断装置100によれば、多様な関連機器を搭載した車両において、精度よく稼働時間を推定し、車両の運用及び線形条件に制限されることなく、推定された稼働時間に基づいて、空気圧縮機210またはその関連機器の故障予兆を常に精度よく診断することが可能となる。
【0086】
なお、上記説明では、圧力データを取得できない第2の関連機器としてドア装置240だけを示したが、第2の実施形態に係る故障予兆診断装置100は、複数の第2の関連機器が接続される場合でも、同様に、故障予兆を精度よく診断することができる。このような場合、具体的には、それぞれの第2の関連機器に対応する「β×Z」の項数を追加した式5を用いて予測稼働時間を算出し、算出した予測稼働時間と実稼働時間とに基づいて故障予兆の検知及び診断を行えばよい。
【0087】
(3)第3の実施形態
本発明の第3の実施形態について説明する。前述した特許文献1に開示された異常検知方法では、特定の車両の営業開始から1年間のデータを用いて異常検知の判断の目安となる境界線を算出していた。しかし、このような方法では、車両ごとの個体差や、同一種類の車両であっても異なる線区を走行していた場合の特性の違いを考慮することができず、境界線を算出した車両以外に適用した場合には診断の精度が低下するおそれがあった。このような課題を鑑みて、本発明の第3の実施形態では、車両ごとの個体差や、車両が導入される線区の違いに影響を受けることなく、空気圧縮機またはその関連機器の故障予兆を精度よく検知し診断できる故障予兆診断装置を提供する。
【0088】
(3-1)構成
図9は、本発明の第3の実施形態に係る故障予兆診断装置300の構成例を示すブロック図である。
図9に示すように、故障予兆診断装置300は、データ入力部310、稼働時間算出部320、積算圧力変位量算出部330、稼働時間予測モデル部340、故障予兆診断部350、及びモデル更新部360を備えて構成される。
【0089】
また、
図9の故障予兆診断装置300には、第1の実施形態で
図1に示した故障予兆診断装置100と同様に、故障予兆の診断対象の機器として、空気圧縮機210、ブレーキ装置220、及び空気ばね230が接続される。なお、
図9は一例であって、故障予兆診断装置300に接続される空気圧縮機210の関連機器は、1つであっても複数であってもよい。また、関連機器は、第2の実施形態で示したドア装置240のように、圧力データを取得できない機器であってもよい。
【0090】
データ入力部310は、第1の実施形態で説明したデータ入力部110と同様の構成である。
【0091】
稼働時間算出部320は、算出した実稼働時間を故障予兆診断部350及びモデル更新部360に出力する点以外は、第1の実施形態で説明した稼働時間算出部120と同様の構成である。
【0092】
積算圧力変位量算出部330は、第1の実施形態で説明した積算圧力変位量算出部130と同様の構成である。
【0093】
稼働時間予測モデル部340は、積算圧力変位量算出部330から各関連機器の積算圧力変位量(積算BC圧力変位量、積算AS圧力変位量)を入力し、モデル更新部360から各積算圧力変位量の影響度の値を入力し、入力した情報に基づいて、所定の予測モデルを用いて空気圧縮機210の予測稼働時間を算出する。さらに、稼働時間予測モデル部340は、算出した予測稼働時間を故障予兆診断部350に出力し、算出した予測稼働時間と、当該予測稼働時間の算出に用いた予測モデルにおける各関連機器の積算圧力変位量及び影響度の値と、をモデル更新部360に出力する。稼働時間予測モデル部340による処理の詳細は後述する。
【0094】
故障予兆診断部350は、稼働時間算出部320から実稼働時間を、稼働時間予測モデル部340から予測稼働時間を入力し、入力した情報に基づいて故障予兆の診断を行う。さらに、故障予兆診断部350は、故障予兆の診断結果を運転士や車両基地へ出力し、診断状態の値をモデル更新部360へ出力する。本説明では、診断状態は、状態に応じて「0」、「1」、「2」の何れかの値をとるが、その他の状態を示す他の値が用意されていてもよい。故障予兆診断部350による処理の詳細は後述する。
【0095】
モデル更新部360は、稼働時間算出部320から実稼働時間を入力し、稼働時間予測モデル部340から予測モデルにおける各影響度及び特徴量の値と、予測稼働時間とを入力し、故障予兆診断部350から診断状態の値を入力する。そしてモデル更新部360は、これらの入力した情報に基づいて、予測モデルにおける各影響度の値を更新し、更新した各影響度の値を稼働時間予測モデル部340に出力する。モデル更新部360による処理の詳細は後述する。
【0096】
上記のように構成された故障予兆診断装置300において、データ入力部310、稼働時間算出部320、及び積算圧力変位量算出部330による処理は、第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。以下では、第1の実施形態とは異なる処理を行う稼働時間予測モデル部340、故障予兆診断部350、及びモデル更新部360について、詳しく説明する。
【0097】
(3-2)稼働時間予測モデル部340の処理
図10は、稼働時間予測モデル部340による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【0098】
図10によればまず、稼働時間予測モデル部340は、積算圧力変位量算出部330から出力された各関連機器の積算圧力変位量(例えば、積算BC圧力変位量及び積算AS圧力変位量)を取得し、モデル更新部360から各積算圧力変位量に対応した影響度の値α’
1~α’
nを取得する(ステップS601)。
【0099】
次に、稼働時間予測モデル部340は、式1の予測モデル式における影響度α1~αnを、ステップS601で取得した値α’1~α’nに更新する(ステップS602)。
【0100】
次に、稼働時間予測モデル部340は、ステップS601で取得した積算圧力変位量を、式1の予測モデル式に代入して、予測稼働時間を算出する(ステップS603)。
【0101】
そして、稼働時間予測モデル部340は、ステップS603で算出した予測稼働時間を故障予兆診断部150に出力し、予測稼働時間と、当該予測稼働時間の算出で用いた各関連機器の積算圧力変位量X1~Xn及び影響度α1~αnとをモデル更新部360に出力し(ステップS604)、処理を終了する。
【0102】
(3-3)故障予兆診断部350の処理
図11は、故障予兆診断部350による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図11において、第1の実施形態で説明した
図6と同様の処理については、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0103】
図11によればまず、故障予兆診断部350は、稼働時間算出部320から実稼働時間を取得し、稼働時間予測モデル部340から予測稼働時間を取得する(ステップS401)。
【0104】
次に、故障予兆診断部350は、ステップS401で取得した実稼働時間及び予測稼働時間に基づいて、実稼働時間が予測稼働時間に閾値d1を足した値よりも大きいか否かを判定する(ステップS402)。閾値d1は、第1の実施形態で説明した閾値d1と同様に算出されるパラメータである。ステップS402において実稼働時間が予測稼働時間に閾値d1を足した値よりも大きい場合は(ステップS402のYES)、故障予兆診断部350は、故障予兆カウンタの値を1加算し(ステップS403)、ステップS701に進む。
【0105】
ステップS701では、故障予兆診断部350は、診断状態の値を「0」にする。「0」の診断状態は、今回周期で故障予兆が検知され、診断のために、故障予兆が以降も連続して発生するかを継続して監視する必要がある状態を表す。
【0106】
ステップS701に次いで、故障予兆診断部350は、故障予兆カウンタの値が閾値d2よりも大きいか否かを判定する(ステップS404)。ステップS404において故障予兆カウンタの値が閾値d2よりも大きい場合は(ステップS404のYES)、故障予兆診断部350は、故障予兆アラートを運転士、運転指令、または検修区等の所定の報知先へ報知し(ステップS405)、ステップS407に進む。一方、ステップS404において故障予兆カウンタの値が閾値d2以下である場合は(ステップS404のNO)、故障予兆アラートの報知は行わずに、ステップS407に進む。ステップS404の判定及びその判定結果に応じた処理の詳細は、第1の実施形態で説明した通りである。
【0107】
ステップS402において実稼働時間が予測稼働時間に閾値d1を足した値以下であった場合は(ステップS402のNO)、ステップS702に進む。
【0108】
ステップS702では、故障予兆診断部350は、故障予兆カウンタの値が「0」よりも大きいか否かを判定する。故障予兆カウンタの値が「0」よりも大きい場合、すなわち「1」または「2」である場合(ステップS702のYES)、故障予兆診断部350は、診断状態の値を「2」にして(ステップS703)、ステップS406に進む。「2」の診断状態は、前回周期で検知された故障予兆が今回周期では検知されなかったことから、誤検知であった可能性がある状態を表す。一方、故障予兆カウンタの値が「0」である場合(ステップS702のYES)、故障予兆診断部350は、診断状態の値を「1」にして(ステップS704)、ステップS406に進む。「1」の診断状態は、前回周期に続いて今回周期でも故障予兆が検知されなかったことから、故障予兆が検知されていない正常な状態、あるいは故障予兆が検知ができていない誤検知(他の誤検知と区別するために「未検知」とも称する)の状態であることを表す。
【0109】
ステップS406では、故障予兆診断部350は、故障予兆カウンタの値を「0」に初期化し、ステップS407に進む。
【0110】
ステップS407では、故障予兆診断部350は、現在の故障予兆カウンタの値を所定の記憶領域に保存する。
【0111】
最後に、故障予兆診断部350は、現在の診断状態の値をモデル更新部360に出力し(ステップS705)、処理を終了する。
【0112】
(3-4)モデル更新部360の処理
図12は、モデル更新部360による処理の処理手順例を示すフローチャートである。
図12の処理は、
図11のステップS705の処理後に開始される。
【0113】
図12によればまず、モデル更新部360は、稼働時間算出部320から実稼働時間を取得し、稼働時間予測モデル部340から予測稼働時間と、各関連機器の積算圧力変位量及び影響度とを取得し、故障予兆診断部350から診断状態を取得する(ステップS801)。
【0114】
次に、モデル更新部360は、ステップS801で取得した診断状態の値を判定する(ステップS802)。診断状態の値は「0」、「1」、「2」の何れかである。診断状態の値が「0」の場合はステップS803に進み、診断状態の値が「1」の場合はステップS804に進み、診断状態の値が「2」の場合はステップS807に進む。
【0115】
診断状態が「0」である場合は、今回周期で故障予兆が検知され、以降も連続して発生するかを継続して監視する状態である。この状態において故障予兆を検知する予測モデルのパラメータを変更する必要はない。そこで、ステップS803において、モデル更新部360は、自身が記憶領域に記憶している予測稼働時間、実稼働時間、及び各関連機器の積算圧力変位量の値を、ステップS801で取得した値にそれぞれ更新し、処理を終了する。
【0116】
診断状態が「1」である場合は、故障予兆が検知されていない正常な状態、あるいは故障予兆が検知ができていない誤検知(未検知)の状態である。この誤検知(未検知)の状態は、車両の個体差等によって想定よりも長い予測稼働時間が算出されているために、故障予兆が検知できていない(未検知である)、ことを意味する。これらの状態を考慮して、ステップS804においてモデル更新部360は、予測稼働時間が実稼働時間に閾値d1を加えた値よりも大きいか否かを判定する。予測稼働時間が実稼働時間に閾値d1を加えた値よりも大きい場合(ステップS804のYES)、予測稼働時間が長くなりすぎて未検知のおそれがある状態を表すため、ステップS805に進む。一方、予測稼働時間が実稼働時間に閾値d1を加えた値以下の場合は(ステップS804のNO)、予測稼働時間に問題はなく、何も変更する必要がないため、処理を終了する。
【0117】
ステップS805では、モデル更新部360は、ステップS801で取得した各関連機器の積算圧力変位量と対応する影響度とを掛け合わせた値X
1α
1~X
nα
nを算出し、算出した各値の大きさの比率γ
1~γ
nを、以下の式6を用いて算出し、ステップS806に進む。
【数6】
【0118】
ステップS806では、モデル更新部360は、ステップS805で算出した各関連機器の比率γ
1~γ
nに応じて、影響度α
1~α
nの値を以下の式7を用いて影響度α’
1~α’
kに更新し、ステップS809に進む。
【数7】
式7において、α’
k[秒/kPa]はある関連機器kの更新後の影響度、α
k[秒/kPa]は関連機器kの更新前の影響度、X
k[kPa]は関連機器kの積算圧力変位量、Y
t[秒]は予測稼働時間、Y[秒]は実稼働時間である。閾値d
1は、前述した閾値d
1と同様である。
【0119】
診断状態が「2」である場合は、前回周期で検知された故障予兆が誤検知であった可能性がある状態である。この状態では、故障予兆を検知する予測モデルを変更することが好ましく、予測モデルの影響度の更新値を算出する必要がある。そこで、ステップS807において、モデル更新部360は、自身が記憶領域に記憶している各関連機器の積算圧力変位量と対応する影響度とを掛け合わせた値X1α1~Xnαnを算出し、算出した各値の大きさの比率γ1~γnを、上記した式6を用いて算出し、ステップS808に進む。
【0120】
ステップS808では、モデル更新部360は、ステップS807で算出した各関連機器の比率γ
1~γ
nに応じて、影響度α
1~α
nの値を以下の式8を用いて影響度α’
1~α’
kに更新し、ステップS809に進む。
【数8】
式8において、α’
k[秒/kPa]は更新後の関連機器kの影響度、α
k[秒/kPa]は更新前の関連機器kの影響度、X
k[kPa]は関連機器kの積算圧力変位量、Y
t[秒]は予測稼働時間、Y[秒]は実稼働時間である。閾値d
1は、前述した閾値d
1と同様である。
【0121】
そして、ステップS809では、モデル更新部360は、ステップS806またはステップS808で算出した更新後の関連機器kの影響度α’kを稼働時間予測モデル部340に出力し、処理を終了する。
【0122】
以上に説明したように、第3の実施形態に係る故障予兆診断装置300では、実稼働時間と予測稼働時間の大小関係と故障予兆の検知状況とに基づいて診断状態を決定し、診断状態に基づいて予測モデルのパラメータ(各関連機器による空気圧縮機210の稼働時間への影響度)を逐次更新することにより、車両ごとの個体差や車両が導入される線区の違い等による影響を考慮した予測モデルに更新することができる。かくして、第3の実施形態に係る故障予兆診断装置300は、車両ごとの個体差や、車両が導入される線区の違いに関わらず、空気圧縮機210の稼働時間を高精度に推定することができ、この推定した稼働時間を用いて、空気圧縮機210またはその関連機器の故障予兆を精度よく検知し、診断することができる。
【0123】
なお、第3の実施形態における上記説明では、第1の実施形態と同様に、圧力データを取得可能なブレーキ装置220及び空気ばね230を関連機器としたが、第2の実施形態のように圧力データを取得できない関連機器が接続される場合であっても、第3の実施形態を実現することは可能である。
【0124】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0125】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができ、あるいは、外部のサーバやクラウドからプログラム等が配布される形式であってもよい。
【0126】
また、図面において制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0127】
100,300 故障予兆診断装置
110,310 データ入力部
120,320 稼働時間算出部
130,330 積算圧力変位量算出部
140,340 稼働時間予測モデル部
150,350 故障予兆診断部
210 空気圧縮機
220 ブレーキ装置
230 空気ばね
240 ドア装置
360 モデル更新部