(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130040
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】変位測定装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/16 20060101AFI20230912BHJP
G01B 7/16 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01D5/16 U
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034482
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】592252027
【氏名又は名称】山内 常生
(71)【出願人】
【識別番号】594184159
【氏名又は名称】丹羽 章二
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】山内 常生
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 章二
【テーマコード(参考)】
2F063
2F077
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063BA30
2F063DA02
2F063DA06
2F063EC02
2F063LA05
2F077EE07
2F077TT02
2F077TT23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】測定対象の電気抵抗や電気容量の微小な変化を周波数の変化に変換することで、これら物理量の微小な変化を測定する変位測定装置を提供する。
【解決手段】変形することにより抵抗値が変化する第1導線と、
第1導線の第1-1部分と第1-2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する第1周波数変換部と、を備え、
第1-2部分と第1-2部分の距離が変位したときの第1周波数変換部が出力する周波数の変化に基づき、第1-1部分と第1-2部分との距離の変位を特定する第1変位量特定部と、を備えてなる、変位測定装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形することにより抵抗値が変化する第1導線と、
前記第1導線の第1-1部分と第1-2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する第1周波数変換部と、を備え、
前記第1-1部分と前記第1-2部分の距離が変位したときの前記第1周波数変換部が出力する周波数の変化に基づき、前記第1-1部分と前記第1-2部分との距離の変位を特定する第1変位量特定部と、を備えてなる、変位測定装置。
【請求項2】
変形することにより抵抗値が変化する第2導線であって、前記第1導線に沿わせて配置される第2導線と、
前記第2導線に備えられる緩衝部であって、前記第2導線に外力がかかったときにその外力を吸収して前記第2導線の第2-1部分と前記第2-2部分との距離を一定に保つ、緩衝部と、
前記第2-1部分と前記第2-2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する第2周波数変換部と、
前記第2周波数変換部の出力する周波数に基づき、前記第1変位量特定部が特定する変位量を補正する補正部と、
を更に備える、請求項1に記載の変位測定装置。
【請求項3】
前記第1導線と前記第2導線とは同一材料で形成される、請求項2に記載の変位測定装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の変位測定装置を用いる変位測定方法であって、
前記第1導線の第1-1部分と前記第2導線の第2-1部分とを前記測定対象の第1部位に固定し、前記前記第1導線の第1-2部分と前記第2導線の第2-2部分とを前記測定対象の第2部位に固定して、ここに、前記第1導線は前記測定対象に追従して変化させ、
前記測定対象が第1状態のときの前記第1周波数変換部から出力される第1―1周波数と、前記測定対象が第2状態のときの前記第1周波数変換部から出力される第1-2周波数との差から、前記第1変位量特定部は前記測定対象の第1状態と第2状態とにおける前記第1-1部分と前記第1-2部分との距離の変位量を特定し、
ここに、前記第1状態のときの前記第2周波数変換から出力される第2-1周波数と前記第2状態のとき前記第2周波数変換部から出力される第2-2周波数とに基づき、前記補正部が前記変位量を補正する、変位測定方法。
【請求項5】
前記測定対象は圧縮されたコンクリートであり、
前記第1状態は前記コンクリートのデフォルト圧縮状態であり、
前記第2状態は前記第1導線と交差する方向へ前記コンクリートにスリットを形成した後の前記コンクリートの状態である、請求項4に記載の変位測定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の変位測定装置を用いる測定方法であって、
変形することにより抵抗値が変化する第1導線を圧縮されているコンクリート製の測定対象へ埋入させ、
前記測定対象へ前記第1導線が埋入された状態での前記第1導線の第1抵抗値に対応する第1周波数を測定し、
前記測定対象から前記第1導線を埋入した部分を分離し、
前記分離した部分を第2状態としてそこに埋入されている前記第1導線の第2抵抗値に対応する第2周波数を特定し、
前記第1周波数と前記第2周波数に基づき、前記分離した部分の変位を測定する変位測定方法。
【請求項7】
下記式1の特性を有する第1導線と、
ΔR1=ρ1*ΔL/A1+α1*Δt (1)
ここに、未知数としてのΔR1は第1導線の抵抗値変化、ΔLは第1導線の軸方向の変化、Δtは温度変化であり、既知数としてのρ1は第1導線の材料の電気抵抗率、A1は第1導線の断面積、α1は第1導線の材料の抵抗温度係数である、
前記第1-1部分と前記第1-2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する第1周波数変換部と、
下記式2の特性を有する第2導線と、
ΔR2=ρ2*ΔL/A2+α2*Δt (2)
ここに、未知数としてのΔR2は第2導線の抵抗値変化、ΔLは第2導線の軸方向の変化、Δtは温度変化であり、既知数としてのρ2は第2導線の材料の電気抵抗率、A2は第2導線の断面積、α2は第2導線の材料の抵抗温度係数である、
前記第2-1部分と前記第2―2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する第2周波数変換部と、
前記第1周波数変換部から出力される周波数の変化から第1導線の抵抗値変化ΔR1を求めて前記式1へ代入し、前記第2周波数変換部から出力される周波数の変化から第2導線の抵抗値変化ΔR2を求めて式2へ代入し、ΔLとΔtの少なくとも一つを特定する特定部と、
を備えてなる変位量特定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の変位測定装置を用いる変位測定方法であって、
前記第1導線の第1-1部分と前記第2導線の第2-1部分とを前記測定対象の第1部位に固定し、前記前記第1導線の第1-2部分と前記第2導線の第2-2部分とを前記測定対象の第2部位に固定し、ここに、前記第1導線を前記測定対象に追従して変化させ、
前記測定対象が第1状態のときの前記第1周波数変換部から出力される第1―1周波数と、前記測定対象が第2状態のときの前記第1周波数変換部から出力される第1-2周波数との差からΔR1を特定し、前記第1状態のときの前記第2周波数変換から出力される第2-1周波数と前記第2状態のとき前記第2周波数変換部から出力される第2-2周波数との差からΔR2を特定し、それぞれ前記式(1)及び式(2)へ代入し、ΔLとΔtの少なくとも1つの値を演算する、
変位測定方法。
【請求項9】
前記測定対象は圧縮されたコンクリートであり、
前記第1状態は前記コンクリートのデフォルト圧縮状態であり、
前記第2状態は前記第1導線及び前記第2導線と交差する方向へ前記コンクリートにスリットを形成した後の前記コンクリートの状態である、請求項8に記載の変位測定方法。
【請求項10】
前記測定対象は圧縮されたコンクリートであり、
前記第1導線と前記第2導線は前記コンクリートへ埋入され、
前記第1状態は前記コンクリートのデフォルト圧縮状態であり、
前記第2状態は前記第1導線と前記第2導線を共に埋入した部分を前記測定対象から分離した後の、該部分の状態である、請求項8に記載の変位測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象の電気抵抗や電気容量の微小な変化を周波数の変化に変換することで、これら物理量の微小な変化を測定する技術が特許文献1に紹介されている。
コンクリート構造物、特にプレストレスコンクリート構造物(以下、「PC構造物」という)の劣化状況を測定するための変位測定装置が特許文献2及び特許文献3に紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2021-145428号公報
【特許文献2】特許第6757007号公報
【特許文献3】特開2007-170955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、特許文献1で紹介された技術を特許文献2及び特許文献3等で紹介された変位測定装置に適用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その第1局面は次のように規定される。即ち、
変形することにより抵抗値が変化する第1導線と、
前記第1導線の第1-1部分と第1-2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する第1周波数変換部と、を備え、
前記第1-1部分と前記第1-2部分の距離が変位したときの前記第1周波数変換部が出力する周波数の変化に基づき、前記第1-1部分と前記第1-2部分との距離の変位を特定する第1変位量特定部と、を備えてなる、変位測定装置。
【0006】
このように規定される第1局面の変位測定装置によれば、第1導線の第1-1部分から第1-2部分をセンサ部として、その抵抗、即ちインピーダンスの変化にともない周波数を変化させる第1の発振回路を構成する。ここに、第1-1部分と第1-2部分との距離は測定対象の膨張又は収縮に応じて変化する。
第1の発振回路の出力する周波数と第1導線における第1-1部分から第1-2部分までの部分の抵抗の変化との関係を予め求めておけば、第1の発振回路が出力する周波数変化より第1-1部分から第1-2部分までの部分の抵抗変化を特定できる。第1導線においてその変形量と抵抗値の変化との関係が予め求められておれば、周波数の変化に基づき第1-1部分と第1-2部分との間の距離の変化を求めることができる。測定対象の膨張又は収縮に対応し、第1-1部分と第1-2部分が測定対象の第1部位と第2部位とに固定されたとき、当該距離の変化は第1部位と第2部位との変位に相当する。
【0007】
第1導線の抵抗値が温度により変化するものであるとき、その温度の影響を補正することが好ましい。
そこでこの発明では、温度補正のための第2導線を第1導線に沿わせて測定対象に配置する。即ち、第2導線の第2-1部分と第2-2部分とを測定対象の第1部位と第2部位へ固定する。ここに、第2導線に緩衝部を設けて、測定対象の第1部位と第2部位とが変位しても、その変位が緩衝部に緩衝されて、第2導線の第2-1部分と第2-2部分との距離の変化として現れないとき、この第2導線から得られる周波数の変化は温度の変化に起因するものと考えられる。よって、当該周波数の変化を用いて、第1の発振回路が出力する周波数変化を補正できる(第2局面、第4局面)。
ここに、第2導線は第1導線と同一の材料で形成することが好ましい。電気抵抗の温度変化が等しいからである(第3局面)。
【0008】
第2導線と第1導線とを次のように異なる材料で形成することもできる(第7局面)。
第1導線は下記式1の特性を有する。
ΔR1=ρ1*ΔL/A1+α1*Δt (1)
ここに、未知数としてのΔR1は第1導線の抵抗値変化、ΔLは第1導線の軸方向の変化、Δtは温度変化であり、既知数としてのρ1は第1導線の材料の電気抵抗率、A1は第1導線の断面積、α1は第1導線の材料の抵抗温度係数である。
【0009】
第2導線は下記式2の特性を有する。
ΔR2=ρ2*ΔL/A2+α2*Δt (2)
ここに、未知数としてのΔR2は第2導線の抵抗値変化、ΔLは第2導線の軸方向の変化、Δtは温度変化であり、既知数としてのρ2は第2導線の材料の電気抵抗率、A2は第2導線の断面積、α2は第2導線の材料の抵抗温度係数である。
【0010】
第1周波数変換部は前記第1-1部分と前記第1-2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する。
第2周波数変換部は前記第2-1部分と前記第2―2部分との間の抵抗値を周波数に変換して出力する。
【0011】
ここに、第1周波数変換部から出力される周波数の変化から第1導線の抵抗値変化ΔR1を求めて式1へ代入し、第2周波数変換部から出力される周波数の変化から第2導線の抵抗値変化ΔR2を求めて式2へ代入し、これらの連立法的式を解くことで、ΔLとΔtが特定される。
【0012】
かかる変位測定装置は、PC構造物の現有応力測定に適用できる。
その一つである応力開放法の適用例として第5局面が提案される。即ち、
第2又は第3局面に記載の変位測定装置を用いる変位測定方法であって、
前記第1導線の第1-1部分と前記第2導線の第2-1部分とを前記測定対象の第1部位に固定し、前記前記第1導線の第1-2部分と前記第2導線の第2-2部分とを前記測定対象の第2部位に固定して、ここに、前記第1導線は前記測定対象に追従して変化させ、
前記測定対象が第1状態のときの前記第1周波数変換部から出力される第1―1周波数と、前記測定対象が第2状態のときの前記第1周波数変換部から出力される第1-2周波数との差から、前記第1変位量特定部は前記測定対象の第1状態と第2状態とにおける前記第1-1部分と前記第1-2部分との距離の変位量を特定し、
ここに、前記第1状態のときの前記第2周波数変換から出力される第2-1周波数と前記第2状態のとき前記第2周波数変換部から出力される第2-2周波数とに基づき、前記補正部が前記変位量を補正する、変位測定方法において、
前記測定対象は圧縮されたコンクリートであり、
前記第1状態は前記コンクリートのデフォルト圧縮状態であり、
前記第2状態は前記第1導線と交差する方向へ前記コンクリートにスリットを形成した後の前記コンクリートの状態である、変位測定方法。
【0013】
PC構造物の現有応力測定法の一つであるコア応力開放法への適用例として、第6局面の発明を提案する。即ち、
第1局面の変位測定方法において、前記測定対象は圧縮されたコンクリートであり、
変形することにより抵抗値が変化する第1導線を圧縮されているコンクリート製の測定対象へ埋入させ、
前記測定対象へ前記第1導線が埋入された状態での前記第1導線の第1抵抗値に対応する第1周波数を測定し、
前記測定対象から前記第1導線を埋入した部分を分離し、
前記分離した部分を第2状態としてそこに埋入されている前記第1導線の第2抵抗値に対応する第2周波数を特定し、
前記第1周波数と前記第2周波数に基づき、前記分離した部分の変位を測定する変位測定方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1はこの発明の一の実施形態の変位測定装置の構成を示す回路図である。
【
図2】
図2はこの発明の他の実施形態の変位測定装置の構成を示す回路図である。
【
図3】
図3は
図2の変位測定装置を用いて行う応力解放法を説明する概念図である。
【
図4】
図4は同じくコア応力開放法を説明する概念図である。
【0015】
この発明の実施形態の変位測定装置1の構成を
図1に示す。
この変位測定装置50はセンサ用出力装置1及びセンサ部100から構成される。
このセンサ用出力装置1は発振回路部5、波形調整部7、波形解析部10、周波数補正部20及び特定部30から構成される。
【0016】
発振回路部5は第1のインピーダンス部として第1導線101、第2のインピーダンス部としてのキャパシタ(コンデンサ)CA及びコンパレータとから構成される汎用的な発振回路である。第1導線101には鋼線が用いられ、その第1-1部分101aが測定対象(PC構造物)の第1部位Aに固定され、その第1-2部分101bが測定対象の第2部位Bに固定される。第1-1部分101aと第1-2部分101bとはテンションのかかった状態でそれぞれ測定対象の第1部位Aと第2部位Bとに固定される。従って、測定対象の第1部位Aと第2部位Bとの変位(伸長若しくは収縮)応じて、第1-1部位101aと第1-2部分101bとの距離が変化する。これにより、第1導線101全体の抵抗値も変化する。
【0017】
この発振回路部5では、第1導線に沿わせて第2導線102を配置した。第1導線102には第1導線と同一材料の鋼線が用いられ、その第2-1部分102aが測定対象の第1部位Aに固定され、その第2-2部分102bが測定対象の第2部位Bに固定される。符号102cは緩衝部であり、例えばコイルで形成される。この緩衝部102cがあることで、測定対象の第1部位Aと第2部位Bとが変位(伸長若しくは収縮)して第2-1部分102aと第2-2部分102bとの距離が変化しても、その変化に応じて第2導線102の抵抗値は変化せずに、一定である。
第1導線101と第2導線102とはスイッチSW1により切り替えられる。
この例では、第1導線と第2導線は鋼線に限定されるものではなく、その伸びに応じて電気抵抗値が変化するものであれば、特に限定されない。
【0018】
第1導線101を選択した発振回路部5の状態が測定モードであり、第2導線102を選択した発振回路部5の状態が基準モードである。
この例では発振回路としてRC回路を採用したが、当業者であればインバータやNANDゲートを組み合わせる構成を容易に想定できよう。
【0019】
波形調整部7は、測定モードの出力と基準モードの出力との波形(矩形波)に変化を与える。この例では、スイッチSW1に同期させてスイッチSW2を切り替えることで、それぞれ出力波形の振幅に変化を与えている。
波形解析部10は矩形波の周波数を特定する。即ち、矩形波の立ち上がりから立下りまでのクロック数をカウントする。クロックとしては1MHz以上を用いるものとする。クロック数から矩形波(即ち1/2波長)の時間が特定されるので、周波数が計算できる。勿論、連続した複数の矩形波に含まれるクロック数をカウントしてもよい。
【0020】
波形解析部10で特定されたデジタルデータとして周波数は出力補正部としての周波数補正部20の周波数保存部23に保存される。
波形解析部10の出力は単なる周波数に関するデータであるので、それが測定モードに由来するものか、若しくは基準モードに由来するものかを、データのみから特定することはできない。そこで、この例では、スイッチSW1の切替えのタイミング(時刻t1)をタイミング発生部21からの信号で制御する。タイミング発生部21から切替信号を出力したタイミング(時刻t1)は周波数保存部23に送られて、波形解析部10から送られるデータに関連付けて保存される。これにより、周波数保存部23に保存される周波数に関するデータは、それが得られた時刻と紐づけられる。
【0021】
周波数減算部25は測定モードでの周波数(時刻t1)から、スイッチSW1を切替えた直後での基準モードでの周波数(時刻t2)を減算する。そして、次にスイッチSW1を切替えた直後の測定モードでの周波数(時刻t3)から、再度スイッチSW1を切り替えた直後の基準モードでの周波数(時刻t4)を減算する。以後、これを繰り返す。
【0022】
測定対象の第1部位Aと第2部位Bとが変化しても、緩衝部102cの作用により、第2導線102の電気抵抗は変化しないので、基準モードでの周波数の変化は、周囲環境(特に温度)変化に起因する。かかる周囲環境の変化は第1導線101も同様に被るので、第2導線102から得られた周波数変化で第1導線101からの周波数を補正することで、周囲環境の変化が補正される。
【0023】
特定部30は、周波数補正部20で補正された周波数の変化を、予め求めておいた校正データに照らして、電気抵抗変化として特定する。
更には、第1導線101における第1-1部分101aと第1-2部分101bとの距離と抵抗との関係を予め求めておけば、電気抵抗変化から第1-1部分101aと第1-2部分101bとの距離の変化が特定される。この距離の変化は測定対象の第1部位Aと第2部位Bとの変位に該当する。
【0024】
この発明の他の実施形態の変位測定装置60の構成を
図2に示す。
なお、
図1と同一の採用を奏する要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この変位測定装置60はセンサ用出力装置1及びセンサ部200から構成される。
【0025】
センサ部200において第1導線101には鋼線が用いられ、その第1-1部分101aが測定対象の第1部位Aに固定され、その第1-2部分101bが測定対象の第2部位Bに固定される。第1-1部分101aと第1-2部分101bとはテンションのかかった状態でそれぞれ測定対象の第1部位Aと第2部位Bとに固定される。従って、測定対象の第1部位Aと第2部位Bとの変位(伸長若しくは収縮)に応じて、第1-1部分101aと第1-2部分101bとの距離が変化する。これにより、第1導線100全体の抵抗値も変化する。
【0026】
この発振回路部5では、第1導線101に沿わせて第2導線102が配置される。第2導線102には第1導線と異なる材料の鋼線が用いられ、その第2-1部分102aが測定対象の第1部位Aに固定され、その第2-2部分102bが測定対象の第2部位Bに固定される。従って、測定対象の第1部位Aと第2部位Bとの変位(伸長若しくは収縮)に応じて、第2-1部分102aと第2-2部分102bとの距離が変化する。これにより、第2導線100全体の抵抗値も変化する。
【0027】
第1導線101を選択した発振回路部5の状態が測定モードとし、第2導線102を選択した発振回路部5の状態が基準モードとして、各モードにおける周波数変化を測定する。
この周波数変化から各導線の抵抗値変化ΔRが特定されるので、第7局面で説明した式1に第1導線101の抵抗値変化ΔR1を代入し、式2に第2導線の抵抗値変化ΔR2を代入し、式1及び式2を二元一次連立方程式として汎用的な手法で解けば、第1導線における第1-1部分101aと第1-2部分101aとの距離の変化ΔL1(第2導線における第2-1部分102aと第2-2部分102bとの距離の変化ΔL2に等しい)が特定され、もって測定対象の第1部位Aと第2部位Bとの変位が特定される。
併せて、測定対象の温度変化Δtも特定される。
【0028】
図2の変位測定装置60を応力解放法に適用する例を
図3に示す。
図3において、
図2と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
図3において符号300は測定対象たるPC構造物を示し、符号301はスリットである。
測定対象300の表面に第1部位Aと第2部位Bとが固定される。両者の間の距離はL
ABである。
第1部位Aにアーチ状のブリッジ303の一端が片持ちはりの状態で固定される。ブリッジ303の自由端と第1部位Bとの間に第1導線101が架設される。即ち、第1導線101の一端は第1部位Bに直接固定され、その他端はブリッジ303の自由端に固定される。
第1導線101において変形する部位の長さ、換言すれば第1部位Aに固定される第1-1部分101aと第2部位Bに固定される第1-2部分101bとの距離はL
abで表される。
【0029】
ブリッジ303は、第1導線101より剛性が強く、第1部位Aと第2部位Bとの相対的な変位が全て第1導線101の変形に反映される。
またブリッジ303は、第1部位A及び第2部位B間に架設した状態で、その内側へスリット301を形成する際、その治具との干渉を避ける高さが必要である。
上記の事例では、スリット301を第1部位Aと第2部位Bの中間に穿設した。
しかし、スリットの穿設に伴う応力解放の前後で第1部位Aと第2部位Bとの
間の変形量が検出できる位置に少なくとも1つのスリット301を穿設すれば、
逆解析で現有応力が推定できる。
【0030】
図3の第1導線101は、
図2の発振回路5に組み込まれるように、導線を介してスイッチSW1とコンパレータとの間に配置される。スリット301を形成する前のデフォルトの状態において、第1導線101からの発振周波数を記録する。
次に、スリット301を穿設した後の導線101からの発振周波数を記録し、前者の周波数と後者の周波数とを比較する。周波数の差より、第1導線101における電気抵抗の変化ΔR1が特定される。
同様にして、図示しない、第2導線102からの周波数変化に基づきその電気抵抗の変化ΔR2が特定される。
これらの値を既述の連立方程式に代入することで、第1導線101(第2導線102)の変形量が特定される。そして、この特定した変形量より、測定対象物の物性値と第1部位Aおよび第2部位Bと穿設したスリット301との位置関係を考慮し、逆解析で測定対象物の現有応力を求める。
【0031】
ここに、第1導線101において第1-1部分101aと第1-2部分101bとの距離Labを第1部位Aと第2部位Bとの距離LABより小さくすることで、第1部位Aと第2部位Bとの間で測定されるひずみの変化量がLAB/Lab倍に増幅されている。
上記の例では、スリット301を穿設するときの応力開放の状態(即ち第1部位Aと第2部位Bとの変位の状態)を動的に観察することもできる。
上記において、第1部位Aと第2部位Bを設けるベースを、スリット形成用治具との干渉が無くなるように測定対象300から突出させれば、ブリッジ303を第1部位A及び第2部位Bと同一平面に配置可能である。
上記において、スリット301を第1部位Aと第2部位Bの中間に設けたが、第1部位Aの左に設けても第2部位Bの右に設けても、双方に設けてもよい。
【0032】
図2の変位測定装置60をコア応力解放法に適用する例を
図4に示す。
図4において、
図2と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
図4において符号400は測定対象たるPC構造物を示す。また図中の破線はオーバーコアリングの位置を示す。
この例では、
図4の拡大図に示すように第1導線101と第2導線102とが折り返した状態で、かつ直線状にPC構造物400に埋設されている。
埋設された状態で第1導線101及び第2導線102から得られる周波数と、オーバーコアリングした後に得られる第1導線及び第2導線から得られる周波数とを比較することで、応力開放後のコアの変形量を得ることができることは
図3の例と同様である。そして、このコアの変形量より、応力解放を行ったコアの大きさと物性値ならびに第1導線と第2導線との位置関係を考慮し、逆解析で測定対象物の現有応力を求める。
【0033】
図4の例では、PC構造物の紙面の左右方向(Z方向)の応力を推定できることとなる。第1導線101と第2導線102とを紙面の上下方向に配置すればPC構造物のY方向の応力を推定できる。第1導線101と第2導線102とを紙面垂直方向に配置すればPC構造物のX方向の応力を推定できる。
【0034】
この発明の実施形態では第1導線や第2導線の抵抗値の変化を発振回路の周波数の変化として検出する方法について記載した。しかしながら、抵抗値の微小な変化はホイートストンブリッジ回路等で検出することもできる。さらに、
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1 センサ用出力装置
50、60 変位測定装置
100 センサ部
101 第1導線
102 第2導線
101a 第1導線の第1-1部分
101b 第1導線の第1-2部分
102a 第2導線の第2-1部分
102b 第2導線の第2-2部分
300、400 測定対象
301 スリット
A 第1部位
B 第2部位