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特開2023-130113質量分離装置、輸送装置、および線形加速器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130113
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】質量分離装置、輸送装置、および線形加速器
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/28 20060101AFI20230912BHJP
   H05H 9/00 20060101ALI20230912BHJP
   H05H 7/08 20060101ALI20230912BHJP
   H01J 49/06 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
H01J49/28 800
H05H9/00 A
H05H7/08
H01J49/06 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034599
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 和也
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】関 孝義
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA03
2G085BA02
2G085BA05
2G085BA13
2G085BA15
2G085DA02
2G085EA07
(57)【要約】
【課題】輸送系長を増大させずに、荷電粒子ビーム中のイオン種選別および不要イオン除去が可能な質量分離装置、輸送装置および線形加速器を提供する。
【解決手段】複数のコイル31と、コイル31に励磁電流を供給するコイル用電源13と、荷電粒子ビーム2の吸収に際して発生する熱を除去する冷却部33を備える、複数の電極30と、電極30に電圧を印加する電極用電源12と、を備え、荷電粒子ビーム2の軸から見た断面上において、電極30により生成する電場とコイル31により生成する磁場とが直交方向に生成される位置に電極30およびコイル31が配置されている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームのイオン種選択、不要イオンの除去を行う質量分離装置であって、
複数のコイルと、
前記コイルに励磁電流を供給するコイル用電源と、
前記荷電粒子ビームの吸収に際して発生する熱を除去する冷却部を有する、複数の電極と、
前記電極に電圧を印加する電極用電源と、を備え、
前記荷電粒子ビームの軸から見た断面上において、前記電極により生成する電場と前記コイルにより生成する磁場とが直交方向に生成される位置に前記電極および前記コイルが配置されている
ことを特徴とする質量分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分離装置において、
前記電場と前記磁場の強度比を調整する
ことを特徴とする質量分離装置。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分離装置において、
前記コイルで生成する前記磁場の強度を増加させるための磁性体を更に備える
ことを特徴とする質量分離装置。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分離装置において、
複数の前記電極の各々の間の空間が、前記荷電粒子ビームの軸から見た断面上において放射状にならないように、前記電極が配置されている
ことを特徴とする質量分離装置。
【請求項5】
請求項1に記載の質量分離装置において、
前記荷電粒子ビームが通過する複数の前記電極の間の間隔が、下流側ほど径が小さくなっている
ことを特徴とする質量分離装置。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分離装置を備えることを特徴とする輸送装置。
【請求項7】
請求項6に記載の輸送装置において、
前記荷電粒子ビームを収束させる収束コイルを更に備える
ことを特徴とする輸送装置。
【請求項8】
請求項7に記載の輸送装置と、
プラズマを生成する荷電粒子ビーム生成装置と、
前記荷電粒子ビーム生成装置から前記プラズマを引き出す加速電極と、
前記質量分離装置を通過した前記荷電粒子ビームをさらに加速する後段加速器と、を備える
ことを特徴とする線形加速器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線形加速器における荷電粒子ビームの質量分離装置、輸送装置および線形加速器に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームを輸送する際に不要なイオンを除去する技術が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1には、「加速器よりの高エネルギー・イオンビームがイオン種選定器、対物コリメータ、ビーム集束器を経て試料にスポット入射する高エネルギー荷電ビームを用いた微小領域の表面改質、又は物性・組成分析等の装置において、加速器のすぐ下流に対物コリメータを配置し、対物コリメータと四重極電磁石レンズとの間の物面距離中のドリフト空間にイオン種・ビームエネルギーの分析コンポーネントを挿入する構成としたことを特徴とする集束イオンビーム装置」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3―74037号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. Bellan et al., Source and LEBT beam preparation for IFMIF-EVEDA RFQ, Proceedings of LINAC2016, Nuclear Fusion 55 (2015) 086003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1には、ウィーンフィルタ(E×B)型質量分析器、イオン種別スリットを用いた荷電粒子ビームのイオン種選択方法が記載されている。しかし、特許文献1の構成では、大電流の荷電粒子ビーム輸送における不要イオン除去の物理的な負荷(例えばスパッタリング等)に耐えることができない、との課題がある。
【0007】
そのため、非特許文献1に記載のように、大電流の荷電粒子ビーム輸送における不要イオンの除去法として、ソレノイド磁場によるビーム収束力のイオン質量依存性を利用して、冷却機能を持ったコリメータである入射コーンに不要イオンを衝突させることで、不要イオンを除去することが考えられる。しかし、この方法では、中心起動付近におけるイオン種分離、および不要イオン除去ができない、との課題がある。
【0008】
ビーム中のイオン種が選別できずに不要イオンが残っている場合、後段加速器での放電につながるため、荷電粒子ビームの安定供給ができなくなる。そのため、大電流荷電粒子ビームの中心起動付近におけるイオン種選別には、非特許文献1の構成にウィーンフィルタ(E×B)型などの質量分離装置が必要となるが、輸送装置が大型化する、つまり輸送系長が増大することで、空間電荷効果によるビーム発散の影響が大きくなる、との課題がある。
【0009】
本発明の目的は、輸送系長を増大させずに、荷電粒子ビーム中のイオン種選別および不要イオン除去が可能な質量分離装置、輸送装置および線形加速器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、荷電粒子ビームのイオン種選択、不要イオンの除去を行う質量分離装置であって、複数のコイルと、前記コイルに励磁電流を供給するコイル用電源と、前記荷電粒子ビームの吸収に際して発生する熱を除去する冷却部を有する、複数の電極と、前記電極に電圧を印加する電極用電源と、を備え、前記荷電粒子ビームの軸から見た断面上において、前記電極により生成する電場と前記コイルにより生成する磁場とが直交方向に生成される位置に前記電極および前記コイルが配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、輸送系長を増大させずに、荷電粒子ビーム中のイオン種選別および不要イオン除去が可能となる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る質量分離装置、輸送装置を含む線形加速器の構成概略図である。
図2】実施例1の質量分離装置をビーム軸に平行な方向から見たときの概略構成を示す図である。
図3】実施例1の質量分離装置における質量分離器をビーム軸に平行な方向から見たときの断面の概略形状を示す図である。
図4】実施例1の質量分離装置における質量分離器をビーム軸に垂直な方向から見た断面形状を示す概略図である。
図5】実施例2の質量分離装置における質量分離器をビーム軸に垂直な方向から見た断面形状を示す概略図である。
図6】実施例3の質量分離装置における質量分離器をビーム軸に垂直な方向から見た断面形状を示す概略図である。
図7】実施例4の質量分離装置における質量分離器をビーム軸に垂直な方向から見た断面形状を示す概略図である。
図8】実施例5の質量分離装置における質量分離器をビーム軸に平行な方向から見たときの断面の概略形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0014】
<実施例1>
本発明の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器の実施例1について図1乃至図4を用いて説明する。
【0015】
最初に、質量分離装置を含めた輸送装置を含む線形加速器の全体構成について図1を用いて説明する。図1は、実施例1に係る質量分離器1を含む線形加速器の構成概略図である。
【0016】
図1に示される線形加速器18は、プラズマ4を生成する荷電粒子ビーム生成装置3、荷電粒子ビーム生成装置3からプラズマを引き出して荷電粒子ビーム2を加速する加速電極5,6、質量分離装置16を含む荷電粒子ビーム2を輸送する質量分離器1を含む輸送装置17、および質量分離装置16を通過した荷電粒子ビーム2をさらに加速する後段加速器9で構成される。
【0017】
このうち、輸送装置17は、荷電粒子ビーム2を収束させる収束コイル7,8、および質量分離装置16を備える。また、質量分離装置16は、質量分離器1、電極用電源12、コイル用電源13から構成される。
【0018】
荷電粒子ビーム生成装置3は、例えば、マイクロ波イオン源、ECR(Electron Cyclotron Resonance)イオン源、デュオプラズマトロン、あるいは電子銃などを用いることができる。本実施形態では、荷電粒子ビーム生成装置3としてマイクロ波イオン源を採用している。
【0019】
荷電粒子ビーム生成装置3内でマイクロ波により生成されたプラズマ4は、加速電極5,6との電位差によって引き出される。これにより、荷電粒子ビーム2が生成される。
【0020】
生成された荷電粒子ビーム2は、線形加速器18の外壁を構成するチャンバー14に沿って設置された収束コイル7,8によって収束されて、後段の後段加速器9に輸送される。収束コイル7,8では、例えば磁性体を用いた磁極を用いることができる。
【0021】
後段加速器9は、例えば、高周波加速器などで、RFQ(Radio Frequency Quadrupole)やDTL(Drift Tube Linac)などを採用することができ、あるいはこれらの組み合わせを採用することができる。また、後段加速器9として、コッククロフトウォルトン型やバンでグラーフ型など静電加速器を採用することもできる。
【0022】
質量分離装置16は、荷電粒子ビーム2のイオン種選択、不要イオンの除去を行うための装置であり、複数のコイル31、これら複数のコイル31に励磁電流を供給するコイル用電源13、複数の電極30、これら複数の電極30に電圧を印加する電極用電源12、コイル31で生成する磁場の強度を増加させるためのヨーク32、を備える。
【0023】
図2に示すように、このうち、複数のコイル31、複数の電極30、ヨーク32により質量分離器1が構成される。
【0024】
ここで、荷電粒子ビーム2を収束して後段加速器9に輸送する際に、収束コイル7,8によるビーム収束力を調整することで、特定の質量を持つイオン以外の不要イオンを質量分離器1で受け止めて除去する。
【0025】
荷電粒子ビーム2中の特定イオンより質量の低いイオンのビーム10は、短焦点となり再度発散することで質量分離器1に受け止められる。一方で、特定イオンより質量の高いイオンのビーム11は、長焦点となるため収束力が足りずに質量分離器1に受け止められて吸収する。
【0026】
このために、図1に示された線形加速器18では、質量分離器1の形状を荷電粒子ビーム2のビーム進行方向に厚みのある形状とする。その上で、荷電粒子ビーム2が通過する複数の電極30の間に荷電粒子ビーム2が通過するための貫通孔を設ける。
【0027】
ここで、荷電粒子ビーム2の収束力の質量依存性に基づいたイオン種選別法では、中心軌道付近の不要イオンを除去することができない。そのため、質量分離器1に図2のように電場と磁場を直交させたE×B型の質量分離の機能を持たせる。これにより、荷電粒子ビーム2中の特定の質量を持つイオンビーム20のみを直進させるとともに、不要なイオンビーム21を偏向させて、質量分離器1に吸収させて除去する。
【0028】
すなわち、荷電粒子ビーム2の軸から見た断面上において、電極30により生成する電場とコイル31により生成する磁場とが直交方向に生成される位置に電極30およびコイル31が配置されているものとする。
【0029】
その上で、E×B型の質量分離では、特定のエネルギーと質量を持つ荷電粒子に対してのみ、ローレンツ力が打ち消すように電場と磁場を調整する。このようにすることで、特定のイオン種の荷電粒子ビームのみを直進させて、それ以外のイオン種の荷電粒子ビームを偏向させることが可能となる。
【0030】
質量分離器1に上記E×B型の質量分離機能を持たせるために、図3のように電場発生用の電極30、磁場発生用のコイル31、およびヨーク32で構成する。ここで、電極30としては好適には鉄などが用いられる。なお、ヨーク32を配置しない、もしくは電極30を銅などの非磁性体で構成して磁性体を減らしても良いし、ヨーク32を配置しないとともに電極30を非磁性体で構成するとの両方を実施しても良い。
【0031】
電極用電源12により電極30に電圧を印加することで電場を生成し、コイル用電源13によりコイル31に電圧を印加することで磁場を生成する。この際、電極用電源12とコイル用電源13の強度比を調整して電場と磁場の強度比を調整することで荷電粒子ビーム2の軌道を調整することができる。
【0032】
図4はビーム軸方向から見た質量分離器1の断面図である。
【0033】
図4では、構成例として、8極の電極30a1,30b1,30c1,30d1,30a2,30b2,30c2,30d2とコサイン分布巻き型のコイル31a,31bを配置する形態を示している。この場合、荷電粒子ビーム2の垂直面内の任意の方向に電場および磁場を発生させることができる。
【0034】
電極30の数は6極以上であれば、2の倍数で増加させることが可能であり、より多くの電極を持つ構造の方が均一な二極電磁場分布が生成できる。
【0035】
ここで、外周側のコイル31aと内周側のコイル31bとは互いに独立しており、コイル用電源13も別系統の2つの電源で構成されるものとする。
【0036】
8極の電極30a1,30b1,30c1,30d1,30a2,30b2,30c2,30d2のうち、ビーム軸方向から見たときに180°反対側に位置する電極30a1,30a2で1組、電極30b1,30b2で1組、電極30c1,30c2で1組、電極30d1,30d2で1組、計4組で構成され、各々独立している、すなわち電極用電源12も別系統の4つの電源で構成される構成とする。
【0037】
しかし、電極用電源12は、コイル用電源13とは異なり、4組の電極30a1,30a2、電極30b1,30b2、電極30c1,30c2、電極30d1,30d2に印加する電圧の比率は一定であることから、電極用電源12は抵抗などの配置によって1つの電源で構成することができる。
【0038】
図2に戻り、電極30は、イオン種分離された不要なイオンビームや発散したイオンビームを受ける吸収体の役割も果たすため、ビーム衝突で発生する熱を除去する冷却部33を有する。この冷却部33は、電極30内部の空洞に冷却材を導入する構造とすることができるが、これ以外にも電極30の側面に冷却材が触れるような構造でも良い。なお、図4では、冷却部33は図示の都合上省略している。
【0039】
また、図3に示すように、荷電粒子ビーム2が通過する複数の電極30の間の貫通孔を、荷電粒子ビーム2のビーム経路の下流側程、孔径が小さくなるコーン形状とする。
【0040】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0041】
上述した本発明の実施例1の質量分離装置16は、荷電粒子ビーム2のイオン種選択、不要イオンの除去を行う装置であって、複数のコイル31と、コイル31に励磁電流を供給するコイル用電源13と、荷電粒子ビーム2の吸収に際して発生する熱を除去する冷却部33を備える、複数の電極30と、電極30に電圧を印加する電極用電源12と、を備え、荷電粒子ビーム2の軸から見た断面上において、電極30により生成する電場とコイル31により生成する磁場とが直交方向に生成される位置に電極30およびコイル31が配置されている。
【0042】
これによって、不要イオンの吸収体と特定イオンのみ直進するウィーンフィルタ(E×B)型のイオン種分離機能を兼ねた質量分離が可能であり、線形加速器18としての輸送系長を維持できる。したがって、空間電荷効果によるビーム発散を増大させずに、荷電粒子ビームのイオン種選別および不要イオン除去が可能となる。
【0043】
このような質量分離装置16は、好適には線形加速器として好適であり、核融合発電炉におけるイオン供給源、中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)あるいはシンクロトン型加速器を用いる粒子線治療装置に適用可能である。
【0044】
また、電場と磁場の強度比を調整するため、任意の方向に荷電粒子ビーム2を偏向することができるので、後段加速器9に入射する際の軌道調整を行うことが可能である。
【0045】
更に、コイル31で生成する磁場の強度を増加させるためのヨーク32を更に備えることで、コイル31やコイル用電源13の小型化などを図ることができる。
【0046】
また、荷電粒子ビーム2が通過する複数の電極30の間の間隔が、下流側ほど径が小さくなっていることにより、収束されなかった不要イオンを効率良く止めることができる。
【0047】
更に、荷電粒子ビーム2を収束させる収束コイル7,8を更に備えることで、特定の質量を持つイオン以外の不要イオンをより効果的に質量分離器1で受け止めて除去することができる。
【0048】
<実施例2>
本発明の実施例2の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器について図5を用いて説明する。図5は、本実施例の質量分離器をビーム軸方向から見た断面形状を示す概念図である。
【0049】
実施例1との違いは、磁場発生用のコイル40の巻き方である。
【0050】
図5に示す質量分離器1Aでは、8極のそれぞれの磁極41を巻くようにコイル40を配置する集中巻型のコイル配置である。
【0051】
より具体的には、8極のそれぞれの磁極41のうち、磁極41a1の周囲のコイル40a1と、これら磁極41a1、コイル40a1からビーム軸方向から見たときに180°反対側に位置する磁極41a2とその周囲のコイル40a2とが1組のコイルを形成する。
【0052】
同様に、磁極41b1の周囲のコイル40b1と、これら磁極41b1、コイル40b1からビーム軸方向から見たときに180°反対側に位置する磁極41b2とその周囲のコイル40b2とが1組のコイルを形成する。磁極41c1の周囲のコイル40c1と、これら磁極41c1、コイル40c1からビーム軸方向から見たときに180°反対側に位置する磁極41c2とその周囲のコイル40c2とが1組のコイルを形成する。磁極41d1の周囲のコイル40d1と、これら磁極41d1、コイル40d1からビーム軸方向から見たときに180°反対側に位置する磁極41d2とその周囲のコイル40d2とが1組のコイルを形成する。
【0053】
これらの計4組のコイル40a1,40a2、コイル40b1,40b2、コイル40c1,40c2、コイル40d1,40d2は、各々が独立しており、異なる電源により磁場を発生させる。
【0054】
なお、電極30を非磁性体とし、磁極41およびヨーク32を配置しない構成としても良いし、これらを組み合わせて磁性体の量を減らした構成としても良い。
【0055】
また図5の構成におけるコイルをモータなどで採用される分布巻型のコイル配置としても良い。
【0056】
その他の構成・動作は前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0057】
本発明の実施例2の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器においても、前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器とほぼ同様な効果が得られる。
【0058】
<実施例3>
本発明の実施例3の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器について図6を用いて説明する。図6は、本実施例の質量分離器をビーム軸方向から見た断面形状を示す概念図である。
【0059】
本実施例と実施例1との違いは、図6の電極50の電極間構造である。
【0060】
本実施例の質量分離器1Bでは、複数の電極50の各々の間の空間が、荷電粒子ビーム2の軸から見た断面上において放射状にならないように、電極50が配置されており、電極50の外周部に配置されているコイル31a,31bから荷電粒子ビーム2が見えにくい構造となっている。
【0061】
その他の電極50の構造は、実施例1の電極30と略同じ構成であり、ビーム軸方向から見たときに180°反対側に位置する電極50a1,50a2で1組、電極50b1,50b2で1組、電極50c1,50c2で1組、電極50d1,50d2で1組、計4組で構成され、各々独立している構成とすることができるが、1つの電源で構成してもよい。
【0062】
なお、電極の電極間構造は、図6に示す電極50のような構造に限定されず、図4図5の電極30の構造に各々の電極30の間、更には図6のような電極50の各々の電極50の間に凹凸部を設けるなど、荷電粒子ビーム2がコイル31に衝突しにくくなる構造とすることができる。
【0063】
その他の構成・動作は前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0064】
本発明の実施例3の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器においても、前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器とほぼ同様な効果が得られる。
【0065】
また、複数の電極50の各々の間の空間が、荷電粒子ビーム2の軸から見た断面上において放射状にならないように、電極50が配置されていることにより、発散した荷電粒子ビームやイオン種選別された荷電粒子ビームが、吸収体を兼ねる電極50以外に衝突することを抑制することでコイル31への衝突することを抑制し、不要な荷電粒子ビームによる衝突損傷や熱損傷をより抑制することができる。従って、線形加速器18としての動作安定性をより向上させることができる。
【0066】
<実施例4>
本発明の実施例4の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器について図7を用いて説明する。図7は、本実施例の質量分離器をビーム軸方向から見た断面形状を示す概念図である。
【0067】
本実施例と実施例1との違いは、E×B型質量分離の電場および磁場の生成方向が固定されていることである。図7に示すように、本実施例での質量分離器1Cは、磁極61、電磁極62および複数のコイル63で構成させる。
本実施例では、E×B型質量分離のための二極磁場が磁極61および電磁極62の一部を巻くように配置されるコイル63に流れる電流によって発生させる。また電場については、電磁極62にのみ電圧を印加することで、磁場と直交方向に発生させる。
【0068】
図7に示す質量分離装置では、電磁極62用とコイル63用の2組の電源が必要である。
【0069】
磁極61および電磁極62は、不要なイオン種を含む荷電粒子ビームが衝突して熱が発生するため、冷却部が必要となる。その冷却部の冷却構造については、実施例1の電極30の冷却部33と同様の構造とすることができる。
【0070】
なお、後述する図8と同様に、本実施例では、一対の平板電極と一対のコイルのみを用いた簡易構造を採用することができる。
【0071】
その他の構成・動作は前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0072】
本発明の実施例4の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器においても、前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器とほぼ同様な効果が得られる。
【0073】
また、本実施例では、磁場および電場の発生方向を変更することができない。そのため、実施例1のように電場および磁場を調整することで、加速対象の特定のイオンビームを任意の方向に偏向することはできない。しかしE×B型の質量分離の機能のみを必要とする場合は、実施例1に対して電源の数を大幅に減少させることができる、との利点がある。
【0074】
<実施例5>
本発明の実施例5の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器について図8を用いて説明する。図8は、本実施例の質量分離器をビーム軸に平行な方向から見た断面形状を示す概念図である。
【0075】
図8に示すように、本実施例の質量分離装置の質量分離器1Dでは、実施例1と異なり、荷電粒子ビーム2の吸収に際して発生する熱を除去する冷却部74を備える複数の電極70、複数のコイル71、コイル71で生成する磁場の強度を増加させるためのヨーク72が荷電粒子ビーム2のビーム軸と平行になるように配置されている構造である点である。
【0076】
実施例1のように収束コイル7,8を用いる必要がない場合、質量分離器1は図3のようなコーン形状である必要はない。そのため、図8のように質量分離器1Dのうち、チャンバー14内に配置される各構造を荷電粒子ビーム2のビーム軸に対して平行な直線構造とすることができる。
【0077】
なお、実施例1と同様に、ヨーク72を配置しない、もしくは電極70を非磁性体で構成して磁性体を減らしても良いし、両方を実施しても良い。
【0078】
その他の構成・動作は前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0079】
本発明の実施例5の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器においても、前述した実施例1の質量分離装置、輸送装置、および線形加速器とほぼ同様な効果が得られる。
【0080】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0081】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0082】
1,1A,1B,1C,1D…質量分離器
2…荷電粒子ビーム
3…荷電粒子ビーム生成装置
4…プラズマ
5,6…加速電極
7,8…収束コイル
9…後段加速器
10…低質量イオンビーム
11…高質量イオンビーム
12…電極用電源
13…コイル用電源
14…チャンバー
16…質量分離装置
17…輸送装置
18…線形加速器
20…選別後のイオンビーム
21…不要イオンビーム
30,30a1,30a2,30b1,30b2,30c1,30c2,30d1,30d2…電極
31,31a,31b…コイル
32…ヨーク(磁性体)
33,73…冷却部
40,40a1,40a2,40b1,40b2,40c1,40c2,40d1,40d2…コイル
41,41a1,41a2,41b1,41b2,41c1,41c2,41d1,41d2…磁極(磁性体)
50,50a1,50a2,50b1,50b2,50c1,50c2,50d1,50d2…電極
61…磁極(磁性体)
62…電磁極
63…コイル
70…電極
71…コイル
72…ヨーク(磁性体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8