(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130121
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ウォラストナイト含有焼成物の製造方法及び該焼成物の利用
(51)【国際特許分類】
C04B 18/06 20060101AFI20230912BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230912BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C04B18/06
C04B28/02
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034612
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
(72)【発明者】
【氏名】比留間 友亮
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA26
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】バイオマス灰を利用して、セメント等に配合する材料などとして有用なウォラストナイト含有素材を提供する。
【解決手段】
バイオマス灰を30質量%以上含有する焼成用原料組成物を準備し、前記焼成用原料組成物を焼成してウォラストナイト(CaSiO3)を形成させる、ウォラストナイト含有焼成物の製造方法である。また、前記製造方法により得られたウォラストナイト含有焼成物を材料として水硬性組成物を調製し、前記水硬性組成物に水を加えて混練して混練物を得、前記混練物を硬化させる、ウォラストナイト含有焼成物を利用した硬化体の製造方法である。前記混練物を硬化させる際には、炭酸化の処理を施すことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス灰を30質量%以上含有する焼成用原料組成物を準備し、前記焼成用原料組成物を焼成してウォラストナイト(CaSiO3)を形成させる、ウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
【請求項2】
前記バイオマス灰として、原料バイオマス灰を分級して得られた細粉を用いる、請求項1記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
【請求項3】
前記バイオマス灰として、原料バイオマス灰を水洗して用いるか、又は、原料バイオマス灰を分級して得られた細粉を水洗して用いる、請求項1記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
【請求項4】
前記焼成用原料組成物のCaO/SiO2質量比が0.5~1.2である、請求項1~3のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
【請求項5】
前記焼成用原料組成物を900℃~1,300℃で焼成する、請求項1~4のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
【請求項6】
前記バイオマス灰として、非晶質量が30質量%以上であるものを用いる、請求項1~5のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
【請求項7】
前記バイオマス灰として、ケイ酸率が3.0~20.0であるものを用いる、請求項1~6のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法によりウォラストナイト含有焼成物を得、前記ウォラストナイト含有焼成物を材料としてなる水硬性組成物を調製し、前記水硬性組成物に水を加えて混練して混練物を得、前記混練物を硬化させる、ウォラストナイト含有焼成物を利用した硬化体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法によりウォラストナイト含有焼成物を得、前記ウォラストナイト含有焼成物を材料としてなる水硬性組成物を調製し、及び、前記ウォラストナイト含有焼成物を材料としてなる、水硬性組成物と合わせるための骨材を調製し、前記骨材及び前記水硬性組成物に水を加えて混練して混練物を得、前記混練物を硬化させる、ウォラストナイト含有焼成物を利用した硬化体の製造方法。
【請求項10】
前記混練物を硬化させる際に炭酸化の処理を施す、請求項8又は9記載の硬化体の製造方法。
【請求項11】
バイオマス灰を分級し、前記分級により得られた細粉を焼成してウォラストナイト含有焼成物を得るとともに、前記分級により得られた粗粉を水硬性組成物による硬化体の材料として利用する、バイオマス灰の資源化方法。
【請求項12】
前記ウォラストナイト含有焼成物を水硬性組成物による硬化体の材料として利用する、請求項11記載のバイオマス灰の資源化方法。
【請求項13】
前記バイオマス灰の分級により得られた粗粉をコンクリート用骨材、コンクリート混和材、セメント混合材、又はセメントクリンカ原料として利用する、請求項11又は12記載のバイオマス灰の資源化方法。
【請求項14】
前記ウォラストナイト含有焼成物をコンクリート用骨材、コンクリート混和材、又はセメント混合材として利用する、請求項11~13のいずれか1項に記載のバイオマス灰の資源化方法。
【請求項15】
前記ウォラストナイト含有焼成物と前記バイオマス灰の分級により得られた粗粉とを、共に共通する硬化体の材料として利用して該硬化体を得る、請求項11~14のいずれか1項に記載のバイオマス灰の資源化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント等に配合する材料などとして有用なウォラストナイト含有素材に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸塩鉱物として知られるウォラストナイト(CaSiO3)は、樹脂、塗料、建材、ゴム、セラミックなど多くの分野に利用されている。なかでも、セメント系建材や炭酸化養生コンクリートでは、二酸化炭素と反応して強度発現するため、硬化材として有用であり、また、その際に二酸化炭素が吸収/固定されることから、CO2削減の面からも注目されている(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年、再生可能エネルギーの普及に向けた各所事業体における諸般の取り組みにより、バイオマス発電設備の建設・運開ラッシュとなっている。それに伴い、バイオマス発電で発生する燃焼灰(バイオマス灰)の発生量も増大しており、都市ゴミで発生する焼却灰と同様に、セメント原料などとして資源化することが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】兵頭 他「炭酸化によるセメント系材料のCO2吸収固定」太平洋セメント研究報告第179号(2020)第15-30頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、バイオマス灰を利用してウォラストナイトを人造する技術については、知見に乏しかった。
【0006】
本発明の目的は、バイオマス灰を利用して、セメント等に配合する材料などとして有用なウォラストナイト含有素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討したところ、バイオマス灰を原料にして、これに焼成の処理を施すことにより、ケイ酸塩鉱物として知られるウォラストナイト(CaSiO3)が形成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおり構成されるものである。
[1]バイオマス灰を30質量%以上含有する焼成用原料組成物を準備し、前記焼成用原料組成物を焼成してウォラストナイト(CaSiO3)を形成させる、ウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
[2]前記バイオマス灰として、原料バイオマス灰を分級して得られた細粉を用いる、上記[1]記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
[3]前記バイオマス灰として、原料バイオマス灰を水洗して用いるか、又は、原料バイオマス灰を分級して得られた細粉を水洗して用いる、上記[1]記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
[4]前記焼成用原料組成物のCaO/SiO2質量比が0.5~1.2である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
[5]前記焼成用原料組成物を900℃~1,300℃で焼成する、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
[6]前記バイオマス灰として、非晶質量が30質量%以上であるものを用いる上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
[7]前記バイオマス灰として、ケイ酸率が3.0~20.0であるものを用いる、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のウォラストナイト含有焼成物の製造方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の製造方法によりウォラストナイト含有焼成物を得、前記ウォラストナイト含有焼成物を材料としてなる水硬性組成物を調製し、前記水硬性組成物に水を加えて混練して混練物を得、前記混練物を硬化させる、ウォラストナイト含有焼成物を利用した硬化体の製造方法。
[9]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の製造方法によりウォラストナイト含有焼成物を得、前記ウォラストナイト含有焼成物を材料としてなる水硬性組成物を調製し、及び、前記ウォラストナイト含有焼成物を材料としてなる、水硬性組成物と合わせるための骨材を調製し、前記骨材及び前記水硬性組成物に水を加えて混練して混練物を得、前記混練物を硬化させる、ウォラストナイト含有焼成物を利用した硬化体の製造方法。
[10]前記混練物を硬化させる際に炭酸化の処理を施す、上記[8]又は[9]記載の硬化体の製造方法。
[11]バイオマス灰を分級し、前記分級により得られた細粉を焼成してウォラストナイト含有焼成物を得るとともに、前記分級により得られた粗粉を水硬性組成物による硬化体の材料として利用する、バイオマス灰の資源化方法。
[12]前記ウォラストナイト含有焼成物を水硬性組成物による硬化体の材料として利用する、上記[11]記載のバイオマス灰の資源化方法。
[13]前記バイオマス灰の分級により得られた粗粉をコンクリート用骨材、コンクリート混和材、セメント混合材、又はセメントクリンカ原料として利用する、上記[11]又は[12]記載のバイオマス灰の資源化方法。
[14]前記ウォラストナイト含有焼成物をコンクリート用骨材、コンクリート混和材、又はセメント混合材として利用する、上記[11]~[13]のいずれか1項に記載のバイオマス灰の資源化方法。
[15]前記ウォラストナイト含有焼成物と前記バイオマス灰の分級により得られた粗粉とを、共に共通する硬化体の材料として利用して該硬化体を得る、上記[11]~[14]のいずれか1項に記載のバイオマス灰の資源化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バイオマス灰を利用した工程により、セメント等に配合する材料などとして有用なウォラストナイト含有素材を容易に得ることができる。また、これにより、バイオマス灰を有効に資源化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態を説明するフロー図である。
【
図2】本発明の他の実施形態を説明するフロー図である。
【
図3】ウォラストナイト生成量を原料の違いにより比較した結果(水準4、水準11、水準13、水準15:加熱温度1,100℃・CaO/SiO
2質量比0.7、及び水準8、水準12、水準14、水準16:加熱温度1,100℃・CaO/SiO
2質量比1)を示す図表である。
【
図4】ウォラストナイト生成量を加熱温度の違いにより比較した結果(水準1~7:CaO/SiO
2質量比0.7)を示す図表である。
【
図5】ウォラストナイト生成量をCaO/SiO
2質量比の違いにより比較した結果(水準4,水準8、水準9:加熱温度1,100℃)を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示されるように、本発明は、バイオマス灰を原料にして、これに焼成の処理を施すことによりケイ酸塩鉱物として知られるウォラストナイト(CaSiO
3)を形成させ、そのように形成させたウォラストナイトを含有する焼成物を得るものである。後述するように、原料バイオマス灰は、水洗してから用いてもよい。
【0012】
また、
図2に示されるように、本発明においては、焼成用原料とされるバイオマス灰は、原料バイオマス灰に分級の処理を施して、その粒度を調整してから用いてもよい。
【0013】
以下、本発明について更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」の記述は、特にことわりがない場合には、全体質量中に存在する質量換算での内割り百分率であるものとする。
【0014】
〔1.焼成の原料〕
<バイオマス灰>
本明細書において「バイオマス灰」とは、通常、当業者に理解される意義と同義である。すなわち、動植物に由来する有機物である資源(ただし、化石資源を除く)からなるバイオマスを、焼却又は燃焼させたあとに残る灰のことである。典型的に、例えば、草木竹の焼却灰、食品残渣の焼却灰などが挙げられる。また、バイオマスを石炭と混合して燃焼して得られる燃焼灰であってもよい。バイオマスの有効活用を促進する観点からは、バイオマス灰中に含まれるバイオマスに由来する灰の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~95質量%であり、特に好ましくは70質量%~90質量%である。
【0015】
本発明に用いるバイオマス灰としては、草木竹の燃焼灰のなかでも、パーム椰子殻を燃料として得られたパーム椰子殻灰(PKS灰)が好適に例示される。パーム椰子殻はパーム油生産の副産物であり、天然バイオマス・エネルギー産業で主に使用されている。パーム椰子殻は、灰分の少ない黄褐色の繊維状物質で、その粒径は5mm~40mm程度であり、発熱量は4000Kcal/kg程度であるため、近年では、再生可能資源を用いたエネルギー生産において、バイオマス発電の燃料としての利用が増えている。
【0016】
バイオマスを焼却又は燃焼する態様としては、特に限定されるものではなく、例えば、ストーカ式の燃焼炉を用いた方法、流動床式の燃焼炉を用いた方法などであってよい。なかでも、流動床式の燃焼炉では、燃焼炉内で脱硫を行う目的で石灰石が投入されるため、カルシウム分や硫黄分が含まれており、バイオマス灰中では主に石膏(CaSO4・2H2O)の形態として含まれている。焼成によりウォラストナイト(CaSiO3)が形成される際には、これがCaO源としても作用する。また、流動床式の燃焼炉の飛灰であれば、粒度が細かく粉砕や混合が容易であり、易焼成性が高い。よって、バイオマス灰として、流動床式の燃焼炉の飛灰を用いることが好ましい。流動床式の燃焼炉の例としては、循環流動床式の燃焼炉、加圧式流動床式の燃焼炉などが挙げられる。
【0017】
<バイオマス灰の前処理>
本発明に用いるバイオマス灰は、流動床式の燃焼炉等の設備が備わるバイオマス発電施設などから入手して、それをそのまま用いてもよく、必要に応じて、分級や水洗などの前処理を施したうえで用いてもよい。
【0018】
・分級
本発明においては、次のような理由から、原料バイオマス灰を分級してその細粉を用いることが好ましい。
【0019】
流動床式の燃焼炉の設備では、流動媒体として、石英を主成分とした砂が投入される。このため、バイオマス灰には、溶融固化又は凝集したガラス、砂由来の粒子(比較的粗い粒子)、及び、前述の石灰石由来又はバイオマス由来であってアルカリ金属及び塩素が含まれる粒子(比較的細かい粒子)が含まれている。よって、流動床式の燃焼炉等の設備が備わるバイオマス発電施設などから入手したバイオマス灰には、その粒度分布において、粒径が小さい側のピークと、粒径が大きい側のピークとが存在し、その間で任意に選択した粒径を分級点として、バイオマス灰を粗粒分と細粒分とに分別し、採取することができる。
【0020】
一般に、流動床式の燃焼炉等の設備から回収されるバイオマス灰のブレーン比表面積は典型的に、例えば、1,000cm2/g~4,000m2/gであり、より典型的には1,500cm2/g~3,500cm2/gであり、更により典型的には2,000~3,000cm2/gである。この原料バイオマス灰を分級して細粉分を採取すると、そのブレーン比表面積は、典型的に、例えば、2,500cm2/g~7,000cm2/gであり、より典型的には3,000cm2/g~6,000cm2/gであり、更により典型的には4,000cm2/g~5,000cm2/gである。一方、細粉分を採取したあとに残る粗粉分のブレーン比表面積は、典型的に、例えば、250cm2/g~2,000cm2/gであり、より典型的には500cm2/g~1,500cm2/gであり、更により典型的には750cm2/g~1,250cm2/gである。
【0021】
原料バイオマス灰を分級して得られる細粉にはCaOが比較的多く含まれており、ウォラストナイト(CaSiO3)の形成に必要なCaO源とSiO2源とのバランスがよい。また、粉末度が高く、粉砕しなくても易焼成性が高いために相対的に低温の焼成温度、または短い焼成時間でウォラストナイトが生成される。一方で、塩素分や硫黄分が比較的多く含まれているが、必要に応じて後述する水洗の処理により除去してもよいし、あるいは、それらは含有量によっては焼成時に揮発除去され得る。
【0022】
一方、原料バイオマス灰を分級して得られる粗粉は、ケイ素分が多く、塩素分や硫黄分が少ないため、一般的なセメントクリンカ原料、特に粘土や石炭灰の代替原料として好適に使用される。なお、セメント混合材やコンクリート混和材、ALC・ケイ酸カルシウム板のケイ酸質材料として用いる場合は、粉砕して、反応性を高めるとよい。また、粗粉を粉砕せずにコンクリートやモルタル、炭酸化硬化体の細骨材(砂)として用いることもできる。
【0023】
以上のように、バイオマス灰は、分級により分別される成分の特徴を生かして、より合理的に資源化することができる。すなわち、原料バイオマス灰を分級して得られた細粉については、焼成によりウォラストナイトを形成させるための原料に使用するとよく、その分級により得られた粗粉については、コンクリート用骨材、コンクリート混和材、セメント混合材、セメントクリンカ原料等、水硬性組成物による硬化体の材料として使用するとよい。また、細粉から焼成によりウォラストナイトを形成させて得られた焼成物については、必要に応じて、粒度を調製したり、塩素分や硫黄分除去したりしたうえ、こちらもコンクリート用骨材、コンクリート混和材、セメント混合材等、水硬性組成物による硬化体の材料として利用することができる。この場合、細粉からの材料と粗粉からの材料とを、共に共通する硬化体の材料として利用すると、製造する硬化体あたりに占める原料バイオマス灰からの資源化率が高められ、より効率的である。例えば、細粉を原料として得られた焼成物を水硬性組成物の材料として、これを使用して硬化体を得、一方で粗粉をその硬化体の骨材あるいは粉砕して混合材(混和材)として使用するなどである。
【0024】
原料バイオマス灰を分級して細粉と粗粉に分別する場合、その分級点としては、上記したような成分の分離の観点から、好ましくは10μm~100μm、より好ましくは30μm~90μm、特に好ましくは38μm~75μmの範囲内において任意に選択することができる。
【0025】
分級手段としては、バイオマス灰を上述したようなμmオーダの分級点で分級できる手段であればよく、特に限定されないが、例えば、ふるい、重力沈降、慣性分級装置、遠心分級装置、重力式分級装置などが挙げられる。なかでも、分級精度の観点から、サイクロン型エアセパレータ、渦流型遠心分級装置、ふるい分け装置などが好ましい。
【0026】
なお、分級を湿式で行うと塩素が水に溶解するため、比較的塩素分の多い細粒についても、その塩素がほとんど除かれたものになる。
【0027】
また、流動床式である焼却炉には、ボイラ、空気予熱器、高温ガス流路などに沈降した焼却灰を回収するための設備、サイクロンによる焼却灰回収設備、バグフィルタによる焼却灰回収設備などが備えられている場合がある。これら回収設備で回収された焼却灰の粒度は、回収設備毎に異なり、特定の回収設備からは特定の粒度のバイオマス灰を回収することができる。このため、原料バイオマス灰を分級する代わりに、上記設備を適宜選択してバイオマス灰を回収することにより、所望する粒度を有するバイオマス灰を準備するようにしてもよい。
【0028】
・水洗
本発明の限定されない任意の態様においては、原料となるバイオマス灰は、水洗の処理を施してから用いてもよい。その水洗処理により、塩素分、硫黄分、カリウム分など、セメント、コンクリート等の水硬性組成物に配合する材料として忌避される成分を除去することができる。
【0029】
水洗処理の方法は、特に限定されるものではなく、慣用の方法によればよい。例えば、国際公開第2021/193668号公報に記載のバイオマス灰の処理方法などを、次に説明するように適宜参照し得る。ただし、水洗処理の方法としては、以下に説明する具体例に限らないことは勿論である。
【0030】
その処理方法としては、例えば、バイオマス灰に水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、そのスラリーを水洗する水洗工程と、その水洗後のスラリーを脱水する脱水工程を備えている。スラリー化は、バイオマス灰と水を収容するための容器と、それらを混合してスラリーとなすための攪拌手段を少なくとも備えた粉体溶解槽を使用して行い得る。水洗は、スラリーを所定時間静置又は攪拌することによりなされる。これにより、バイオマス灰の溶解性成分がスラリーの液相に溶出した状態のスラリーとなる。その状態のスラリーを粉体溶解槽から排出して、フィルタープレス等の固液分離装置で脱水する。
【0031】
上記スラリー化工程におけるバイオマス灰(M1とする)と水(W1とする)との質量比(W1/M1)は、4~10が好ましく、4~7がより好ましく、4~5が特に好ましい。質量比(W1/M1)が4よりも小さいと、バイオマス灰からの塩素等のセメント忌避成分の溶出が不十分となるなど、改質効果が不十分となる場合がある。また、質量比(W1/M1)が10よりも大きいと、排水の量が多くなってしまう。
【0032】
水洗工程の所要時間は、バイオマス灰を水で十分に処理するため、30分間以上とすることが好ましく、45分間以上がより好ましい。また、温度条件は、高い程、バイオマス灰からの塩素等の忌避成分の溶出効率がよくなるが、処理に係るコストの観点からは、5℃~50℃とすることが好ましく、25℃~50℃がより好ましい。
【0033】
脱水工程においては、スラリー中に含まれる塩素等の忌避成分が液相と共に残留することを防ぐため、脱水物の水分は20質量%~90質量%とすることが好ましく、30質量%~70質量%とすることがより好ましい。また、必要に応じて、脱水物に新たに水を加えて再度脱水する。これによれば、スラリーの液相がほとんど水に置き換わるので、より好ましい。
【0034】
上記処理方法において、好ましくは、水洗の際のpHを酸性側に調整する。すなわちpHを低減させることで、pH調整しない場合に比べて、塩素をより効率よく除くことができる。pH調整剤としては、スラリーのpHを低減することができるものであれば特に制限はない。例えば、酸溶液、CО2含有ガス等が挙げられる。すなわち、例えば、セメント製造設備のロータリーキルンの燃焼排ガスやバイオマスの焼却設備やバイオマス発電所の燃焼排ガスには二酸化炭素(CO2)が含まれているので、その燃焼排ガスをスラリーに吹込むことにより、pHを弱アルカリ性に低減することができる。CО2含有ガスは二酸化炭素が含まれていればよいが、効率的な炭酸化を促すためには、二酸化炭素濃度は10体積%以上が好ましく、20体積%がより好ましい。また、燃焼排ガスのなかでも、特にセメント製造設備の塩素バイパスダストを捕集後のガスには硫黄酸化物(SOx)などの有害ガスが含まれるので、これを固定化する効果も期待できる。
【0035】
スラリーの水洗の際のpH条件としては、pH4~12.5であることが好ましく、pH5~12であることがより好ましい。
【0036】
・乾燥灰
本発明の限定されない任意の態様においては、原料バイオマス灰として乾燥灰を用いてもよい。乾燥灰とは、一度も水を噴霧されたことがなく、粒状になっておらず、水和物を生成していない灰のことをいう。これに対して、一度水を噴霧され、粒状になったり、生成した水和物に塩素が取り込まれたりすると、上述したようにして分級、あるいは水洗の処理により特徴的な成分を分別することが困難となる場合がある。よって、原料バイオマス灰として乾燥灰を用いて、上述したような分級の処理とともに水洗の処理を行うような場合には、分級の処理を水洗の処理を施す前に行って、例えばその細粉を得、これを水洗するようにすることが好ましい。
【0037】
乾燥灰としては、例えば、粉末X線回折法により水和物であるフリーデル氏塩、またはエトリンガイトが検出されないことが好ましい。また、含水率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。また、強熱減量が10%以下であることが好ましい。ここで、含水率は、105℃で乾燥した際の質量減少率として求めることができる。また、強熱減量は、105℃で乾燥された対象物を975℃で加熱した際の質量減少率として求めることができる。
【0038】
<バイオマス灰の組成特性>
以下、焼成用原料とされるバイオマス灰について、これらに限定されないが、典型的な組成特性について説明する。
【0039】
焼成用原料とされるバイオマス灰中のCaOの割合(強熱原料ベース)は、好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~35質量%である。CaOの割合が上記範囲内であれば、ウォラストナイト(CaSiO3)の形成に必要なCaO源の添加量が少なくなるか、分級を行った際は不要となるため、別途添加設備の追加や添加にかかる薬剤コストを低く抑えることができる。
【0040】
焼成用原料とされるバイオマス灰のケイ酸率(S.M.)は、好ましくは3.0~20.0、より好ましくは4.0~18.0、更に好ましくは5.0~16.0、特に好ましくは8.0~13.0である。ケイ酸率が上記範囲内であれば、SiO2に対するAl2O3とFe2O3の合計量を少なく抑えることができるので、ウォラストナイトの生成量をより多くすることができる。したがって、焼成物を水硬性組成物の材料として利用する場合、その強度発現性をより向上させることができる。一方、ケイ酸率が上記範囲を超えるときは、バイオマスに由来する灰の量を確保しづらくなる場合がある。
【0041】
焼成用原料とされるバイオマス灰中のAl2O3の割合(強熱原料ベース)は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。Al2O3の割合が上記範囲を超えると、焼成により非反応性のメリライト類が多く生成する場合がある。なお、バイオマス灰は一般的な石炭灰に比べてAl2O3の割合が少なく好適である。
【0042】
焼成用原料とされるバイオマス灰中の非晶質量(アモルファス量)は、ウォラストナイトの生成速度の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。
【0043】
焼成用原料とされるバイオマス灰中のアルカリ金属の割合(強熱原料ベース)は、酸化物(R2O)換算で、好ましくは1.0質量%~5.0質量%、より好ましくは1.5質量%~4.0質量%である。アルカリ金属の割合が上記範囲未満であると、ウォラストナイトの生成速度が遅くなる場合がある。一方、アルカリ金属の割合が上記範囲を超えると、焼成の処理により非反応性の長石類が多く生成したり、焼成中に溶融したり、大塊が発生しやすいために、キルンでの焼成が困難となったりする場合がある。また、焼成物をセメント混合材、コンクリート混和材、コンクリートの骨材として使用する場合に、アルカリ骨材反応が発生するおそれがある。
【0044】
なお、アルカリ金属(R)の酸化物(R2O)換算の割合は、試料中のNa2O及びK2Oの各割合(質量%)から以下の式(1)を用いて算出することができる。
R2O=Na2O+0.658K2O ・・・(1)
【0045】
<焼成用原料組成物>
バイオマス灰には、ウォラストナイトの形成に必要なCaO源とSiO2源が共に備わっている。よって、入手したバイオマス灰や前処理したバイオマス灰は、それをそのまま焼成用となしてもよい。すなわち、例えば、焼成用原料組成物として、バイオマス灰を100質量%含有するものであってもよい。
【0046】
一方、バイオマス灰には、適宜他の原料を加えて焼成用原料組成物となしてもよい。ただし、ウォラストナイトを効率的に生成する観点から、焼成用原料組成物中のバイオマス灰の含有量は、少なくとも30質量%以上であるものとする。焼成用原料組成物中のバイオマス灰の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更により好ましくは75質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0047】
・他の原料
SiO2源として用いることができる他の原料としては、例えば、建設発生土(建設現場や工事現場等で副次的に発生する土壌、土砂、残土、廃土壌、建設汚泥)、火山灰などの火山由来物、珪石、粘土などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
CaO源として用いることができる他の原料としては、例えば、石灰石、生石灰、消石灰、貝殻、カルシウムを含有する産業廃棄物又は一般廃棄物などが挙げられる。カルシウムを含有する産業廃棄物としては、例えば、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、製鉄汚泥等)、建設廃材、コンクリート廃材、各種焼却灰(例えば、バイオマス灰、石炭灰、鶏糞灰、家畜糞灰、汚泥焼却灰)、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、各種副産物、未利用資源(使用されずに残存した材料等)などが挙げられる。カルシウムを含有する一般廃棄物としては、例えば、下水汚泥乾粉、及び都市ごみ焼却灰などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
焼成用原料組成物には、セメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料を、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜含有せしめてもよい。例えば、粘土等のアルミニウム含有原料(Al2O3源)、鉄滓、鉄ケーキ等の鉄含有原料(Fe2O3源)などが挙げられ得る。
【0050】
焼成用原料組成物は、上述したバイオマス灰や、CaO源、SiO2源等の他の原料などを、適宜それらの所定量を混合することにより、調合することができる。また、その際、原料は必要に応じて粉砕を行ってもよい。原料調合の手段は、特に限定するものではなく、例えば、ミキサ等の慣用の装置を使用すればよい。また、粉砕手段としては、例えば、ボールミル等の慣用の装置を使用することができる。
【0051】
<焼成用原料組成物の組成特性>
以下、焼成用原料組成物について、これらに限定されないが、典型的な組成特性について説明する。
【0052】
焼成用原料組成物中のCaOとSiO2の質量比(CaO/SiO2)は、ウォラストナイトの生成量の観点から、好ましくは0.5~1.2、より好ましくは0.5~1.1、更に好ましくは0.6~1.0、特に好ましくは0.7~0.9である。
【0053】
焼成用原料組成物のケイ酸率(S.M.)は、好ましくは3.0~20.0、より好ましくは4.0~19.0、更に好ましくは5.0~18.0、更により好ましくは8.0~17.0、特に好ましくは10.0~17.0、最も好ましくは12.0~17.0である。ケイ酸率が上記範囲内であれば、SiO2に対するAl2O3とFe2O3の合計量を少なく抑えることができるので、ウォラストナイトの生成量をより多くすることができる。したがって、焼成物を水硬性組成物の材料として利用する場合、その強度発現性をより向上させることができる。一方、ケイ酸率が上記範囲を超えるときは、バイオマスに由来する灰の量を確保しづらくなる場合がある。
【0054】
焼成用原料組成物中のAl2O3の割合(強熱原料ベース)は、好ましくは1.0質量%~7.0質量%、より好ましくは1.5質量%~5.0質量%、特に好ましくは2.0質量%~3.0質量%である。Al2O3の割合が上記範囲内であればウォラストナイトの生成量をより多くすることができる。ただし、Al2O3の割合が上記範囲を超えると、焼成により非反応性のメリライト類が多く生成する場合がある。
【0055】
焼成用原料組成物中のアルカリ金属の割合(強熱原料ベース)は、酸化物(R2O)換算で、好ましくは0.3質量%~4.0質量%、より好ましくは1.1質量%~3.0質量%、特に好ましくは1.2質量%~2.5質量%である。アルカリ金属の割合が上記範囲未満であると、ウォラストナイトの生成速度が遅くなる場合がある。一方、アルカリ金属の割合が上記範囲を超えると、焼成の処理により非反応性の長石類が多く生成したり、焼成中に溶融したり、大塊が発生しやすいために、キルンでの焼成が困難となったりする場合がある。また、焼成物をセメント混合材、コンクリート混和材、コンクリートの骨材として使用する場合に、アルカリ骨材反応が発生するおそれがある。
【0056】
なお、アルカリ金属(R)の酸化物(R2O)換算の割合は、上述した式(1)を用いて算出することができる。また、焼成用原料組成物中のアルカリ金属(R2O)の割合が高い場合や焼成物中のアルカリ金属を低下させたい場合は、塩素を添加して後述の焼成を行うことにより、アルカリ金属を塩化させて、揮発あるいは生成物の水洗により除去してもよい。
【0057】
〔2.焼成〕
本発明においては、上記した焼成用原料組成物に焼成の処理を施すことにより、ケイ酸塩鉱物として知られるウォラストナイト(CaSiO3)を含有する焼成物を得る。
【0058】
<焼成処理>
焼成条件としては、バイオマス灰を原料にしてウォラストナイトを形成させることがでればよく、特に限定されないが、上記した焼成用原料組成物を、好ましくは900℃~1300℃、より好ましくは1,000℃~1,250℃、更に好ましくは1,100℃~1,200℃の温度条件で焼成すればよい。
【0059】
焼成手段は、特に限定されるものではなく、例えば、ロータリーキルン等の慣用の装置を使用することができる。ロータリーキルンを使用して焼成を行う際には、燃料代替廃棄物として、例えば、廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用してもよい。
【0060】
<ウォラストナイト含有焼成物>
上記した焼成処理により得られる焼成物には、ケイ酸塩鉱物として知られるウォラストナイト(CaSiO3)が含まれている。ウォラストナイトには、珪灰石(α型、低温型)や偽珪灰石(β型、高温型)の形態が存在することが知られている。本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物は、それらの一方の形態を単一的に含んでいてもよく、複数の形態を複合的に含んでいてもよい。ウォラストナイトの含有量としては(複数の形態を複合的に含んでいる場合にはその合計として)、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。なお、二酸化炭素吸収性は、偽珪灰石のほうがより活性が高い。よって、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を二酸化炭素吸収の目的で用いる場合には、ウォラストナイトのうち偽珪灰石の形態が多くを占めることが好ましく、例えば、ウォラストナイトの形態のうち半分以上を占めることがより好ましい。
【0061】
上記した焼成処理により得られる焼成物には、ウォラストナイト以外にも他の鉱物成分が含まれている場合がある。例えば、ランキナイト(3CaO・2SiO2)が挙げられる。ランキナイトは二酸化炭素との反応性を有するとともに、その反応による強度発現性を有する。ただし、ウォラストナイト含量を確保する観点からは、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物においては、ランキナイトの含有量は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。また、メリライト類が挙げられる。すなわち、オケルマン石成分(Ca2MgSi2O7)、フェロオケルマン石成分(Ca2FeSi2O7)、ゲーレン石成分(Ca2Al2SiO7)、ソーダメリライト成分(CaNaAlSi2O7)、ハーディストン石成分(Ca2ZnSi2O7)、グギア石成分(Ca2BeSi2O7)、岡山石成分(Ca2B2SiO7)、フェリゲーレン石成分(Ca2Fe3+2SiO7)、及びフェリアルミニウムゲーレン石成分(Ca2Fe3+AlSiO7)などである。ここで、メリライト類は、二酸化炭素との反応性に乏しく、その反応による強度発現性に乏しい。よって、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物においては、メリライト類の含有量は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
上記した焼成処理により得られる焼成物には、中間反応鉱物成分としてビーライト(2CaO・SiO2)が含まれている場合がある。あるいは、未反応鉱物成分として、生石灰、石英、長石類、非晶質相などが含まれている場合がある。ここで、ウォラストナイト含量を確保する観点からは、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物においては、生石灰の含有量は2質量%以下であることが好ましく、石英の含有量は8質量%以下であることが好ましく、長石類の含有量は8質量%以下であることが好ましい。また、非晶質量としては、45質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが最も好ましい。また、上記の中間反応鉱物成分と未反応鉱物成分の合計量は50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが最も好ましい。
【0063】
なお、本明細書において「鉱物」とは、地質学的に天然物として形成された鉱物以外にも、上述した焼成の処理などにより形成された、天然鉱物と同様な成分組成、結晶構造を有する人工鉱物をも含む意味である。鉱物成分の形態は、常法に従い、粉末X線回折、顕微鏡観察、電子線後方散乱回折(Electron Backscatter Diffraction:EBSD)等を用いて測定することができる。また、鉱物成分の含有量は、粉末X線回折の場合にはリートベルト法や、顕微鏡観察や電子線後方散乱回折の場合にはポイントカウンティングなどによって測定することが可能である。
【0064】
〔3.焼成物の用途〕
本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物は、そのまま、あるいは粗砕などの粒度調整を行ったうえで、路盤材、埋め戻し材等の土木資材などの用途に利用することが可能である。あるいは、モルタルやコンクリート用の骨材などの用途に利用することも可能である。すなわち、通常、細骨材としては砂などを使用し、粗骨材としては砂利などを使用するが、それらの代わりに利用され得る。
【0065】
本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物は、また、樹脂強化用のフィラー、セメント混合材、コンクリート混和材、ALC・ケイ酸カルシウム板のケイ酸質材料などの用途に利用することも可能である。この場合には、必要に応じて粉砕や分級の処理を施して、適宜粒度を調整して用いるとよい。例えば、ブレーン比表面積が、好ましくは2,500~10,000cm2/g、より好ましくは3,000~9,000cm2/gである。その粉砕時には、既往の石膏や粉砕助剤を添加してもよい。粉砕手段は、特に限定されるものではなく、ボールミル等の慣用の装置を使用することができる。分級手段は、特に限定されるものではなく、回転羽根付きの遠心式空気分級機等の慣用の装置を使用することができる。
【0066】
本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を、上記のように適宜粒度を調整したうえ、セメント混合材、コンクリート混和材などとして用いると、水と混練して硬化させる際において、ブリーディング低減、流動性の向上、水和熱の低減などの効果が期待できる。
【0067】
また、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を、上記のように適宜粒度を調整したうえ、早強ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントクリンカ、C3A高含有セメント(例えばC3A含量10質量%~15質量%)、又はC3A高含有セメントクリンカ(例えばC3A含量10質量%~15質量%)など、既往のセメント100質量部に対して、外割で、5質量部~25質量部となる量を混合して用いると、普通ポルトランドセメントと同等品質のセメントを得ることができる。
【0068】
本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物は、例えば、ポルトランドセメントなどの既往のセメントと比較したとき、原料として使用する石灰石の量を少なくすることができ、かつ、より低い焼成温度で製造することができるため、後述するようにセメントの代わりに水硬性組成物の材料として用いることで、全体としてセメント製造にかかわる二酸化炭素の排出量をより小さくすることができる。
【0069】
<水硬化性組成物>
上述したように、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物は、セメント、モルタル、コンクリートなどの水硬性組成物の材料として利用することができる。ここで、本明細書において「水硬性組成物」とは、通常、当業者に理解される意義と同義である。すなわち、水と合わせて混練することにより硬化する組成物のことである。通常、そのような組成物は、水と合わせる前の形態としては、粉末状に調製されている。
【0070】
本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を水硬性組成物の材料として用いる場合、必要に応じて粉砕や分級の処理を施して、適宜粒度を調整して用いるとよい。例えば、ブレーン比表面積が、好ましくは2,500cm2/g~10,000cm2/g、より好ましくは3,000cm2/g~9,000cm2/gである。上記ブレーン比表面積が2,500cm2/g以上であれば、得られる硬化体の強度がより大きくなる。一方で、上記ブレーン比表面積が10,000cm2/g以下であれば、製造コストの観点から、粉砕に要するエネルギーをより低く抑えることができる。
【0071】
粉砕手段は、特に限定されるものではなく、ボールミル等の慣用の装置を使用することができる。分級手段は、特に限定されるものではなく、回転羽根付きの遠心式空気分級機等の慣用の装置を使用することができる。
【0072】
・セメント
本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を水硬性組成物の材料として用いる場合、その水硬化性組成物中には、得られる硬化体の強度をより大きくする観点からは、既往のセメントを含むことが好ましい。そのようなセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、エコセメント、速硬セメント、超速硬セメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、強度発現性やコストの観点から、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントの少なくとも1種以上が好ましい。ウォラストナイト含有焼成物を水硬性組成物の材料として用いる場合、例えば、セメント組成物100質量部中において、内割で、5質量部~50質量部であってよく、10質量部~35質量部であってよく、15質量部~25質量部であってよい。また、水硬化性組成物より炭酸化硬化体を製造する場合、水硬化性組成物中に含まれる上記焼成物の割合は、二酸化炭素の吸収量をより大きくし、かつ、得られる硬化体の強度をより大きくする観点からは、その割合の下限として、例えば、セメント組成物100質量部中において、内割で、20質量部以上であってよく、30質量部以上であってよく、50質量部以上であってよく、75質量部以上であってよい。一方で、脱型を行う際の硬化体の強度をより大きくする、又は、脱型を行う時期をより早くして、硬化体からなる製品の生産効率をより向上する観点からは、上記割合の上限として、例えば、セメント組成物100質量部中において、内割で、95質量部以下であってよく、90質量部以下であってよく、更に好ましくは75質量部以下であってよく、60質量部以下であってよく、50質量部以下であってよい。
【0073】
なお、上記水硬性組成物は、既往のセメントを含まない態様であってもよく、例えば、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物をそのまま用いてもよい。すなわち例えば、水硬性組成物として、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を100質量%含有するものであってもよい。ただし、そのようにして既往のセメントを含まないか、あるいは少量しか含まない態様で用いる場合、強度発現性等の観点からは、ブレーン比表面積を大きくし、例えば、8,000cm2/g~12,000cm2/gなどとなるよう粉砕したり、あるいは、水と合わせて混練して硬化させる際に加熱養生したりするなど、これらのうち少なくともいずれか一方を行うことが好ましい。
【0074】
・石膏
上記水硬性組成物には、硬化前の混練物の流動性や作業性等の観点から、その材料として石膏を配合してもよい。石膏としては、特に限定されるものではなく、例えば、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏などが挙げられる。また、石膏の形態の例としては、二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
石膏の配合量は、硬化前の混練物の流動性や作業性等の観点から、水硬性組成物(粉末状)100質量部に対して、外割で、好ましくは1質量部~6質量部、より好ましくは3質量部~5質量部である。
【0076】
なお、上記水硬性組成物に、その材料として配合する石膏としては、予め粉砕してなる石膏粉末を用いてもよいが、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を粉砕して適当な粒度とする際に、石膏も一緒に粉砕して、その石膏が上記水硬性組成物中に含有されるようにしてもよい。
【0077】
・アミン類
上記水硬性組成物には、その材料としてアミン類を配合してもよい。アミン類には、二酸化炭素と反応して炭酸イオンの生成を促進する作用があることが知られており、水硬性組成物がアミン類を含む場合、水硬性組成物に含まれるカルシウム成分の炭酸化がより効率よく進行し、後述する炭酸化硬化体の強度を高めることができる。
【0078】
アミン類としては、分子内にアミノ基とヒドロキシル基を有するものであればよく、特に限定されないが、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)などが挙げられる。なお、これらのアミン類は、一般的に粉砕助剤として知られている。また、アミン類として、工場等の排ガスから二酸化炭素を回収するためのアミン系二酸化炭素回収装置から回収される、使用済みのアミン類を含む廃液を用いてもよい。すなわち、そのような使用済みのアミン類は、通常、廃液処分とされているが、上記アミン類として使用することで有効に再利用することができる。
【0079】
アミン類の配合量は、硬化体の炭酸化を速める観点、あるいは、例えば、炭酸化養生を行う場合にその強度発現性を高める観点から、水硬性組成物(粉末状)100質量部に対して、外割で、好ましくは0.002質量部~1質量部、より好ましくは0.01質量部~0.1質量部である。
【0080】
なお、アミン類は、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を粉砕して適当な粒度とする際の粉砕助剤として使用して、そのアミン類が上記水硬性組成物中に含有されるようにしてもよい。
【0081】
・その他の材料
上記水硬性組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、必要に応じて他の材料を配合してもよい。他の材料としては、減水剤、消泡剤、収縮低減剤等の各種添加剤や、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末等の各種混和材などが挙げられる。また、初期強度を高め、ハンドリングを向上させるために急硬材、硬化促進剤などを配合してもよい。上記水硬性組成物中のその他の材料の割合は、その材料の種類によっても異なるが、典型的に、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下などである。
【0082】
・石膏やフリーライムの含有量
上記水硬性組成物中の石膏の含有量は、SO3換算で、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%~4.0質量%である。石膏の含有量が上記範囲内であれば、硬化前の混練物の流動性がより向上する。
【0083】
上記水硬性組成物中のフリーライム(遊離石灰)の割合は、後述する炭酸化養生工程における強度発現性の観点から、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは0.2~1.5質量%である。
【0084】
なお、上記水硬性組成物が、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物以外の材料を配合してなるものである場合、上記石膏や遊離石灰の含有量には、その材料に由来する石膏や遊離石灰が含まれるものとする。
【0085】
<硬化体>
上記水硬性組成物を水と合わせて混練して硬化させることにより、ウォラストナイト含有焼成物を利用した硬化体を得ることができる。
【0086】
・水
上記硬化体を得るための水としては、特に限定されず、水道水、スラッジ水などが挙げられる。水と水硬性組成物(粉末状)との質量比(水/粉末状水硬性材料)は、好ましくは0.3~1.0、より好ましくは0.4~0.7である。上記比が0.3以上であれば、通気性が確保され二酸化炭素の吸収効果がより大きくなる。また、水硬性組成物の混練物のワーカビリティが向上する。上記比が1.0以下であれば、硬化体の強度が確保できる。
【0087】
・骨材
上記水硬性組成物を硬化させる際には、得られる硬化体のボディを形成させるための骨材を使用してもよい。骨材として、例えば、細骨材の例としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ、軽量細骨材、再生骨材、人工焼成骨材、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。また、粗骨材の例としては、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、スラグ、軽量粗骨材、再生骨材、人工焼成骨材、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0088】
上記水硬性組成物を硬化させる際に使用する上記骨材としては、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を用いてもよい(以下、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物を骨材として用いる場合のことを、「焼成物骨材」という場合がある。)。これによれば、上記焼成物骨材の表面の大部分は、ウォラストナイトが存在し、それらが炭酸化することで硬化体に吸収される二酸化炭素の総量を増加することができ、かつ、セメントペーストと骨材との界面が炭酸化反応で緻密になることで硬化体の強度をより大きくすることができる。
【0089】
上記水硬性組成物に上記焼成物骨材を使用する場合、細骨材及び粗骨材の少なくともいずれか一方の骨材として使用することが可能である。また、この場合、本発明により提供されるウォラストナイト含有焼成物には、適宜、所望の骨材(細骨材あるいは粗骨材等)としての使用に適した粒度となるように破砕や粒度調整を行い、そのようにして調製された焼成物骨材を用いるとよい。
【0090】
上記水硬性組成物に上記焼成物骨材を使用する場合、例えば、その水硬性組成物による硬化体が既往のモルタル様である場合は、そのようなモルタルに通常用いられる細骨材の代用として、あるいは、その水硬性組成物による硬化物が既往のコンクリート様である場合は、そのようなコンクリートに通常用いられる細骨材及び粗骨材の少なくともいずれか一方の代用として含まれていればよいが、硬化体に吸収される二酸化炭素の総量を増加する観点からは、通常用いられる細骨材の代用として含まれていることが好ましい。
【0091】
上記水硬性組成物に上記焼成物骨材を使用する場合、上記焼成物骨材に加えて、それ以外の骨材を使用してもよい。骨材としては、上述したように、例えば、細骨材の例としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ、軽量細骨材、再生骨材、人工焼成骨材、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。また、粗骨材の例としては、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、スラグ、軽量粗骨材、再生骨材、人工焼成骨材、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0092】
上記水硬性組成物に上記焼成物骨材を使用する場合、使用する骨材全量中の上記焼成物骨材の割合は、好ましくはその下限として、20質量%以上であってよく、25質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。使用する骨材全量中の上記焼成物骨材の割合が上記範囲以上であれば、一般的な骨材を用いた場合と比較して、得られる硬化体が吸収することができる二酸化炭素の総量をより増やすことができ、かつ、得られる硬化体の強度をより大きくすることができる。
【0093】
また、上記焼成物骨材が細骨材である場合、細骨材全量中の上記焼成物骨材の割合は、好ましくはその下限として、20質量%以上であってよく、25質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。使用する細骨材全量中の上記焼成物骨材の割合が上記範囲以上であれば、一般的な骨材を用いた場合と比較して、得られる硬化体が吸収することができる二酸化炭素の総量をより増やすことができ、かつ、得られる硬化体の強度をより大きくすることができる。
【0094】
上記水硬性組成物に骨材を使用する場合、骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合はその合計量)は、水硬性組成物(粉末状)100質量部に対して、外割で、好ましくは200質量部~700質量部、より好ましくは200質量部~600質量部である。骨材の配合量が上記範囲内であれば、得られる硬化体の強度が良好となる一方で、収縮率が小さく抑えられる。
【0095】
上記水硬性組成物に細骨材と粗骨材を組み合わせて使用する場合、細骨材率(全骨材質量に対する細骨材の質量の百分率)は、好ましくは5%~60%である。細骨材率が上記範囲内であれば、混練物のワーカビリティや成形のし易さが向上する。また、粗粒率は、好ましくは1.0~7.0、より好ましくは1.5~6.5である。
【0096】
<炭酸化硬化体>
上記水硬性組成物を水と合わせて混練して硬化させることにより、ウォラストナイト含有焼成物を利用した硬化体を得ることができる。また、その硬化の際に炭酸化の処理を施すことにより、二酸化炭素を吸収してなる炭酸化硬化体を得ることができる。ここで、本明細書において「炭酸化」とは、上記水硬性組成物による硬化体中のアルカリ性の成分が、二酸化炭素と反応して、該アルカリ性の成分のpHを低下させることをいう。
【0097】
以下、一例として、(A)水硬性組成物(粉末状)と、(B)水と、(C)骨材を混練して、水硬性組成物の混練物を調製する混練物を得、それを型枠内に打設し、養生して炭酸化硬化体を得る方法について説明する。
【0098】
[混練物調製工程]
本工程は、上述した(A)水硬性組成物(粉末状)と、(B)水と、(C)骨材の各材料を混練して混練物を調製する工程である。
【0099】
各材料を混練する方法は、特に限定されるものではない。また、混練に用いる装置も特に限定されるものではなく、例えば、オムニミキサ、パン型ミキサ、二軸練りミキサ、傾胴ミキサ等の慣用のミキサを使用することができる。
【0100】
[打設工程]
本工程は、上記工程で得られた混練物を型枠内に打設する工程である。
【0101】
打設方法としては、特に限定されるものではなく、流し込み成形等の慣用の方法を使用することができる。
【0102】
混練物を型枠内に打設した後、脱型するまでの養生方法としては、特に限定されるもではなく、例えば、気中養生、湿空養生、水中養生、蒸気養生等の一般的な養生方法を採用することができる。
【0103】
[脱型工程]
本工程は、型枠内の混練物が硬化した後に、混練物が硬化してなる水硬性組成物の硬化体を型枠から脱型する工程である。
【0104】
[高強度化養生工程]
本工程は、脱型工程と炭酸化養生工程の間に任意に設けられる工程であって、水硬性組成物の硬化体の強度を高めるための工程である。
【0105】
本工程において、型枠から脱型した水硬性組成物の硬化体を、その圧縮強さが、好ましくは3N/mm2以上、より好ましくは5N/mm2以上、特に好ましくは10N/mm2以上となるまで養生することで、炭酸化養生後の炭酸化硬化体の強度(例えば、モルタルの圧縮強さ、コンクリートの圧縮強度)を高めることができる。
【0106】
養生方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、気中養生、湿空養生、水中養生、及び蒸気養生等の一般的な養生方法を用いることができる。なお、高強度化養生工程における「養生」には、炭酸化養生は含まれないものとする。
【0107】
[炭酸化養生工程]
本工程は、型枠から脱型した水硬性組成物の硬化体を炭酸化養生して、水硬性組成物の硬化体を、炭酸化してなる炭酸化硬化体を得る工程である。
【0108】
本工程において炭酸化養生に用いられる二酸化炭素ガスの濃度は、好ましくは1体積%以上、より好ましくは3体積%以上、更に好ましくは10体積%以上、更により好ましくは50体積%以上、特に好ましくは60体積%以上である。上記濃度が1体積%以上であれば、炭酸化養生工程における二酸化炭素の吸収量を大きくすることができる。
【0109】
二酸化炭素ガスの濃度の上限は、特に限定されるものではなく、二酸化炭素ガスの濃度が高いほど、二酸化炭素の吸収量を増加させることができるが、一方で養生設備等のコストを低くする観点からは、好ましくは90体積%以下、より好ましくは70体積%以下、特に好ましくは50体積%以下である。
【0110】
また、炭酸化養生工程における温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは5℃~100℃、より好ましくは10℃~50℃、特に好ましくは15℃~35℃である。炭酸化養生における温度が上記範囲内であれば、炭酸化硬化体の強度をより大きくすることができる。また、炭酸化硬化体からなる製品の生産性が向上する。
【0111】
また、本発明の炭酸化硬化体は、比較的低温(例えば、5℃~30℃)で炭酸化養生を行った場合であっても、二酸化炭素の排出量の低減効果が大きいものである。
【0112】
本工程における相対湿度は、特に限定されるものではないが、好ましくは20%~90%、より好ましくは30%~80%、特に好ましくは40%~70%である。上記相対湿度が20%以上であれば、炭酸化硬化体の生産性がより向上し、炭酸化硬化体の強度がより大きくなる。上記相対湿度が90%を超えるものにすることは困難であり、設備等にかかるコストが過大となる。
【0113】
炭酸化養生工程において、炭酸化硬化体の表面からの炭酸化深さは、好ましくは2mm以上、より好ましくは5mm以上、更に好ましくは8mm以上、特に好ましくは10mm以上になるように、炭酸化養生を行うことが好ましい。炭酸化深さが2mm以上となるように炭酸化養生を行なうことで、炭酸化硬化体により多くの二酸化炭素を吸収させることができる。具体的には、上述した炭酸化養生工程における、二酸化炭素ガスの濃度、温度、及び相対湿度の数値や、養生時間を適宜調整することで、上記炭酸化深さを2mm以上にすることができる。
【0114】
また、短時間で二酸化炭素を吸収させる観点から、好ましくは材齢(脱型後)1日、より好ましくは材齢(脱型後)3日において、上記炭酸化深さを2mm以上にするように炭酸化養生を行なうことが好ましい。
【0115】
なお、「炭酸化硬化体の表面からの炭酸化深さ」は、「JIS A 1152:2018(コンクリートの中性化深さの測定方法)」に準拠して測定することができる。
【0116】
得られた炭酸化硬化体は、路盤材やインターロッキングブロック等として利用することができる。また、路盤材等として設置した後も、二酸化炭素を継続して吸収して、固定化することができる。
【0117】
また、水硬性組成物が焼成物骨材(上述した焼成物からなる骨材)を含む場合、緻密化させ骨材強度を高める観点から、混練物調製工程の前に、焼成物骨材に対して、炭酸化処理を行ってもよい。炭酸化処理は、例えば湿潤状態にし、二酸化炭素ガス存在下に静置すればよい。なお、この際に、焼成物骨材に過剰に炭酸化を行うと、炭酸化養生時に炭酸化反応が生じないので、炭酸化養生後の炭酸化硬化体の強度の向上が得られない場合がある。
【0118】
上記製造方法によって得られた炭酸化硬化体は、焼成物粉砕物(上述した焼成物の粉砕物)に代えて、一般的なポルトランドセメントを用いた場合、又は、焼成物骨材に代えて、一般的な骨材を用いた場合と比較して、炭酸化硬化体の製造に際して排出される二酸化炭素の量が、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上低減されるものである。また、炭酸化硬化体の強度(例えば、圧縮強さ)の低下の割合が、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下であるものである。
【実施例0119】
以下、試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの試験例によって限定されるものではない。
【0120】
〔1.試験試料〕
・バイオマス灰原粉:バイオマス発電所から発生したフライアッシュ(炉形式:循環流動層ボイラ(CFB)、燃料:ヤシ殻(PKS)100%)の(以下、「原粉」と記載)
・バイオマス灰粗粉※:原粉の53μm篩上品(以下、「粗粉」と記載)
・バイオマス灰細粉※:原粉の53μm篩通過品(以下、「細粉」と記載)
・珪砂:鹿島6号珪砂(以下、「珪砂」と記載)
・炭酸カルシウム:特級(95.5%以上)CaCO3粉末、CaO濃度調整剤として使用
※分級装置:スピンエアシーブ(SAR-75)(セイシン企業社製)
【0121】
〔2.分析方法〕
・バイオマス灰(水洗前)化学組成:蛍光X線装置(リガク社製、「ZSX Primus II」)を用いた(検量線(粘土)法)
・バイオマス灰(水洗後)化学組成、及び焼成物化学組成:蛍光X線装置(リガク社製、「ZSX Primus II」)を用いた(FP法:ファンダメンタルパラメータ法)
・鉱物含有量:内部標準物質としてコランダム(Al2O3)を内割りで10%添加した試料を用いて、X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製D8 ADVANCE A-25)によってX線回折パターンを測定した。
【0122】
X線回折の測定条件は、CuKα線、管電圧50kV、管電流40mA、走査範囲10°~65°(2θ)、ステップ幅0.0234、スキャンスピード0.13sec/stepとした。次に、得られた回折パターンを用いてソフトウェア(ブルカー・エイエックス社製TOPAS Ver.6.0)によりリートベルト解析を行い、鉱物組成の定量結果を得た。得られた結果のうち、コランダム定量値より、以下の式(2)を用いて非晶質量を算出した。
【0123】
G=100・(A-R)/{A・(100-R)/100}…(2)
なお、(2)式において、Gは非晶質量(%)、RはAl2O3の混合率(%)、AはAl2O3の定量値(%)である。
【0124】
また、リートベルト解析から得られた定量結果を、コランダムの定量値を除いた組成の合計量が100%となるように標準化した上で、更にこの値から非晶質量を除いた割合で標準化した値をもって、各バイオマス灰の鉱物組成とした。
【0125】
〔3.試験試料の特性〕
表1には、試験試料の化学組成を示す。
【0126】
【0127】
表2には、試験試料のXRD定性分析結果を示す。
【0128】
【0129】
表3には、試験試料のXRD/リートベルト解析結果を示す。
【0130】
【0131】
表4には、試験試料のブレーン比表面積とCaO/SiO2質量比を示す。
【0132】
【0133】
〔3.試験試料の特性〕
(水洗処理)
原粉、粗粉、細粉に含まれる塩素分を事前に水洗除去した。
・水洗水比:1:4(バイオマス灰100gに対して水400g)
・攪拌条件:回転数400rpm、時間30分、水温は常温
・ケーキ洗浄水比:1:4(バイオマス灰100gに対して水400g)
【0134】
(粉末度調整)
焼成時の粉末度の影響をなくすため、原粉/水洗品、粗粉/水洗品、珪砂のブレーン値を細粉/水洗品のブレーン値と同等になるように微粉砕機(ディスクミル)で調整した。
【0135】
表5には、前処理後試料の化学組成を示す。
【0136】
【0137】
表6には、前処理後試料のXRD定性分析結果を示す。
【0138】
【0139】
表7には、前処理後試料のXRDリートベルト解析結果を示す。
【0140】
【0141】
表8には、前処理後試料のブレーン比表面積とCaO/SiO2を示す。
【0142】
【0143】
〔4.試験条件・水準〕
ウォラストナイトの生成条件を調査すべく、焼成温度とCaO/SiO2質量比について各水準を設けた。
【0144】
表9には、試験水準を示す。
【0145】
【0146】
表10には、試験水準のための配合を示す。
【0147】
【0148】
表11には、試験水準のための配合の調整後の試料の化学組成を示す。
【0149】
【0150】
〔5.加熱処理ならびに結果〕
(加熱条件)
・加熱時使用炉:箱型電気炉(モトヤマ社製S7-2035D-OP)
・加熱温度:試験水準の通り
・加熱時間:60分
【0151】
表12には、加熱処理品のXRDリートベルト解析結果を示す。
【0152】
【0153】
表13には、加熱処理品の化学組成を示す。
【0154】
【0155】
更に、
図3には、ウォラストナイト生成量を原料の違いにより比較した結果(水準4、水準11、水準13、水準15:加熱温度1,100℃・CaO/SiO
2質量比0.7、及び水準8、水準12、水準14、水準16:加熱温度1,100℃・CaO/SiO
2質量比1)を示す。
【0156】
その結果、表12、表13、
図3に示されるように、バイオマス灰の原粉や、分級して得られた細粉もしくは粗粉を加熱処理すると、珪砂に比べてウォラストナイト(CaSiO
3)量が増加した。したがって、バイオマス灰を原料とすることで、ウォラストナイトの生成反応が早くなり、容易にウォラストナイト含有焼成物が得られることがわかる。特に細粉を原料としたものは、ウォラストナイト(CaSiO
3)量が高く、中間反応鉱物成分と未反応鉱物成分の量が低く、焼結反応の進行が速い。なお、粗粉を原料としたものは、ウォラストナイト(CaSiO
3)量が低く、ウォラストナイト生成速度は遅いが、加熱後のCaOおよびSiO
2は原灰や細粉を原料としたものよりも高含有量(低SM、低R
2O、低MgO、低SO
3)であるため、より高い温度で、あるいは長時間焼成することで、ウォラストナイト含有量はより高められるものと考えられる。
【0157】
図4には、水準1~7の結果を示し、加熱品中のウォラストナイト含有量を加熱温度の違いにより比較した。
【0158】
図4に示されるように、バイオマス灰を原料にしてウォラストナイトを形成させるには、1,000℃を超える温度条件であることが好ましいものと考えられた。特に1,200℃以上において、偽珪灰石が増加し、中間反応鉱物成分と未反応鉱物成分が減少していることがわかる。
【0159】
図5には、水準4,水準8、水準9の結果を示し、加熱品中のウォラストナイト含有量を焼成用原料組成物中のCaO/SiO
2質量比の違いにより比較した。
【0160】
図5に示されるように、バイオマス灰を原料にしてウォラストナイトを形成させる際、焼成用原料組成物中のCaO/SiO
2質量比としては、およそ0.5~1.2の範囲であれれば良好な結果が得られるものと考えられた。なお、CaO/SiO
2質量比が高いほどウォラストナイト含有量が低く、ウォラストナイト生成速度は遅いが、より高い温度で、あるいは長時間焼成することで、ウォラストナイト含有量はより高められるものと考えられる。
【0161】
表14には、細粉の水洗有無(水準4と水準10)について(加熱温度1,100℃)、生成鉱物を比較した結果を示す。
【0162】
また、表15には、細粉の水洗有無(水準4と水準10)について(加熱温度1,100℃)、化学組成を比較した結果を示す。
【0163】
【0164】
【0165】
表14、表15に示されるように、バイオマス灰の細粉を水洗して加熱処理して得られた加熱処理品は、水洗しない場合に比べてウォラストナイトの生成量が同等で塩素含有量が低くなった。