(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130122
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】錆除去方法およびゲル状錆除去剤
(51)【国際特許分類】
C23G 5/02 20060101AFI20230912BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20230912BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C23G5/02
C11D17/08
C11D7/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034613
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】522089952
【氏名又は名称】有限会社LEMON HOUSE
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 浩子
(72)【発明者】
【氏名】田中 良作
(72)【発明者】
【氏名】織田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】宮城 誠
【テーマコード(参考)】
4H003
4K053
【Fターム(参考)】
4H003BA15
4H003DA09
4H003DB01
4H003DC02
4H003EB42
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA30
4K053PA02
4K053QA01
4K053RA32
4K053SA03
(57)【要約】
【課題】本発明は、大規模な錆除去作業にも適用可能な錆除去方法とゲル状錆除去剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る被処理物の錆の除去方法は、前記被処理物の表面に、乳酸菌、増粘剤、及び水を含むゲル状錆除去剤を塗布する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の錆を除去する方法であって、
前記被処理物の表面に、乳酸菌、増粘剤、及び水を含むゲル状錆除去剤を塗布する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記増粘剤として増粘多糖類を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増粘多糖類としてヒドロキシプロピルセルロースを用いる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記乳酸菌としてLactobacillus属乳酸菌を用いる請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記乳酸菌を含む菌群としてEM菌を用いる請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
更に、前記ゲル状錆除去剤を前記被処理物から水で洗い流す工程を含む請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
乳酸菌、増粘剤、及び水を含有することを特徴とするゲル状錆除去剤。
【請求項8】
前記増粘剤が増粘多糖類である請求項7に記載のゲル状錆除去剤。
【請求項9】
前記増粘多糖類がヒドロキシプロピルセルロースである請求項8に記載のゲル状錆除去剤。
【請求項10】
前記乳酸菌がLactobacillus属乳酸菌である請求項7~9のいずれかに記載のゲル状錆除去剤。
【請求項11】
前記乳酸菌を含む菌群としてEM菌を含有する請求項7~9のいずれかに記載のゲル状錆除去剤。
【請求項12】
前記水と前記増粘剤の合計に対する前記増粘剤の割合が5質量%以上、35質量%以下である請求項7~11のいずれかに記載のゲル状錆除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模な錆除去作業にも適用可能な錆除去方法とゲル状錆除去剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁や鉄塔などの大型建造物や、船舶や自動車などには、特に塗装が十分でない箇所や塗装が剥離した箇所で錆が発生することがある。錆による鉄鋼材の腐食は、当初は小さなものであっても、やがては孔食といった大きな損傷につながる可能性があるため、錆を落とした上で塗装しなおす必要がある。錆除去は、大型建造物に対しても、主にサンダーやサンドブラストを使って人為的かつ物理的に行われている。この際、研削材や粉塵が飛散して作業員の健康や周辺環境に悪影響を与える可能性がある。また、サンドブラストでは周辺の保護のため養生する必要があるが、この養生の手間もかなり大きい。錆の除去には酸を使うことも考えられるが、特に大型建造物には周辺環境への影響から実施することは困難である。そこで、毒性が低く環境に対する安全性の高い物質が種々探索されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ローカストビーンガム等の天然多糖類、グアニジン塩などの塩基性抗菌物質、及びフミン質を有効成分として含有する洗浄脱錆組成物が開示されている。また、特許文献2には、汚れやカビの除去や脱臭に用いる洗浄剤であって、枯草菌などを含むものが開示されており、磁性小器官であるマグネトソームを有するマグネトスピリラム属細菌を更に含むことも記載されている。しかし、特許文献1に記載の実施例では、加温した洗浄脱錆組成物液に発錆している金属部品を浸漬した上で超音波を付与している。よって、実際の錆除去作業では、かなりの洗浄作業が必要であり、大規模な実施は困難であると考えられる。また、特許文献2に記載のマグネトームには実用的な吸着能力があるか疑問であるし、金属ならともかく、錆の主成分である酸化鉄を吸着できるかも疑問である。
【0004】
また、錆除去のためのものではないが、例えば特許文献3には、枯草菌を主成分とする防錆剤が開示されている。特許文献4には、オーレオバシディウム属微生物により生産されるβ-1,3-グルカンを主鎖とする多糖と酸および/またはキレート剤とからなる金属表面洗浄剤が開示されており、当該洗浄剤が錆止めに有効であると記載されている。特許文献5および非特許文献1には、有用微生物発酵物質(EM・X:Effective Micro-organisms applied extract)が産生する0.55R・0.3(NH4)2O・Al2O3・0.95P2O5・0.22H2O(Rは(C4H9)2NHまたはCH3OH)で表される金属錯体を有効成分とする金属表面保護剤が開示されており、当該金属表面保護剤が金属表面を錆などから保護することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-209290号公報
【特許文献2】特開2016-153508号公報
【特許文献3】特開2012-144781号公報
【特許文献4】特開平6-146036号公報
【特許文献5】特開平11-43786号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】星村義一ら,信学技報,Vol.97,pp.33-38(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、作業員や環境への安全性や影響を考慮した錆除去剤や防錆剤は検討されている。
しかし、錆除去剤と防錆剤とではその作用効果や作用機序が全く異なるため、防錆効果があるからといって錆除去効果があるとは限らない。また、安全性の高い錆除去剤は、錆除去性能が十分でなかったり、煩雑な洗浄操作が必要であるといった事情により、大型建造物の錆除去作業など大規模な錆除去作業には適していないといえる。
そこで本発明は、大規模な錆除去作業にも適用可能な錆除去方法とゲル状錆除去剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、乳酸菌を含むゲル状の錆除去剤を被処理物に塗布した後に放置することで錆を分解することができ、且つ次いで水を使って洗い流すことで、作業員や環境に悪影響を与えることなく錆を除去できることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
以下、本発明を示す。
[1] 被処理物の錆を除去する方法であって、
前記被処理物の表面に、乳酸菌、増粘剤、及び水を含むゲル状錆除去剤を塗布する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 前記増粘剤として増粘多糖類を用いる前記[1]に記載の方法。
[3] 前記増粘多糖類としてヒドロキシプロピルセルロースを用いる前記[2]に記載の方法。
[4] 前記乳酸菌としてLactobacillus属乳酸菌を用いる前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記乳酸菌を含む菌群としてEM菌を用いる前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[6] 更に、前記ゲル状錆除去剤を前記被処理物から水で洗い流す工程を含む前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 乳酸菌、増粘剤、及び水を含有することを特徴とするゲル状錆除去剤。
[8] 前記増粘剤が増粘多糖類である前記[7]に記載のゲル状錆除去剤。
[9] 前記増粘多糖類がヒドロキシプロピルセルロースである前記[8]に記載のゲル状錆除去剤。
[10] 前記乳酸菌がLactobacillus属乳酸菌である前記[7]~[9]のいずれかに記載のゲル状錆除去剤。
[11] 前記乳酸菌を含む菌群としてEM菌を含有する前記[7]~[9]のいずれかに記載のゲル状錆除去剤。
[12] 前記水と前記増粘剤の合計に対する前記増粘剤の割合が5質量%以上、35質量%以下である前記[7]~[11]のいずれかに記載のゲル状錆除去剤。
【発明の効果】
【0010】
従来、特に大規模な錆除去作業は、作業員の健康や周辺環境を害する可能性があり、また養生が必要であった。また、酸により錆を除去できることは知られているが、やはり作業員の健康や周辺環境への問題のため、大規模な実施はされていない。特に、酸を使った錆除去作業では、作業後における酸の処理が難しいという問題がある。
それに対して本発明によれば、ゲル状錆除去剤を被処理物に塗布し、放置した後に水で洗い流すのみであり、サンダーやサンドブラストを使う場合のように粉塵は発生せず、また研磨の必要は無いので、作業員の負担は大幅に減る。また、本発明に係るゲル状錆除去剤の主な成分は、乳酸菌、増粘剤、及び水である。乳酸菌は一般的に無害であるといえるし、環境に放出されても生育条件と合わなければ自然に死滅する。増粘剤も、一般的には環境中で分解されるものが多く、水は当然に無害である。よって、錆の分解後にゲル状錆除去剤を環境中に放出しても、環境への影響は小さいといえる。
従って、本発明に係る錆除去方法とゲル状錆除去剤は、特に大規模な錆除去作業に有効であることから、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(1)は、錆除去試験に用いた発錆鋼材試料と、処理後における評価レベル2の試料の代表的な写真を示し、
図1(2)は、処理後における評価レベル3の試料と評価レベル4の試料の代表的な写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、乳酸菌、増粘剤、及び水を含有するゲル状錆除去剤を用いる。
【0013】
乳酸菌とは、発酵によって糖などの炭水化物から乳酸をつくる細菌の総称であり、例えば、Lactobacillus属細菌、Bifidobacterium属細菌、Lactococcus属細菌、及びStreptococcus属細菌などが挙げられる。Lactobacillus属細菌としては、例えば、L.acidophilus種細菌、L.brevis種細菌、L.bulgaricus種細菌、L.casei種細菌、L.curvatus種細菌、L.gasseri種細菌、L.plantanum種細菌、L.reuteri種細菌、及びL.rhamnosus種細菌が挙げられる。Bifidobacterium属細菌としては、例えば、B.adolescentis種細菌、B.animalis種細菌、B.bifidum種細菌、B.breve種細菌、B.infantis種細菌、及びB.longum種細菌が挙げられる。Lactococcus属細菌としては、例えば、L.lactis種細菌、L.chungangensis種細菌、L.garvieae種細菌、L.piscium種細菌、及びL.raffinolactis種細菌が挙げられる。Streptococcus属細菌としては、例えば、S.Lactis種細菌が挙げられる。
【0014】
本発明のゲル状錆除去剤は、乳酸菌を含んでいれば、他の菌を含んでいてもよい。乳酸菌以外の菌としては、例えば、Rhodopseudomonas palustris種細菌、Rhodobacter sphaeroides種細菌、及びBlastochloris viridis種細菌などの光合成細菌;Saccharomyces cerevisiae種菌やCandida utilis種菌などの酵母菌;Streptomyces albus種細菌やSteptomyces griseus種細菌などの放線菌;Aspergillus oryzaeやMucor hiemalisなどの糸状菌が挙げられる。
【0015】
乳酸菌に加えて他の有用微生物を含む有用微生物群を用いてもよい。かかる有用微生物群は、EM菌(Effective Microorganisms)として市販されている。EM菌としては、例えば、少なくとも下記の微生物を含むものが挙げられる。
1.乳酸菌 Lactobacillus plantarum(ATCC8014)
Lactobacillus casei(ATCC7469)
Streptococcus Lactis(IFO12007)
2.光合成細菌 Rhotdopseudomonas plaustris(ATTC17001)
Rhodobacter sphaeroides(ATTC17023)
3.酵母菌 Saccharomyces cerevisiae(IFO0203)
Candida utilis(IFO0619)
4.放線菌 Steptomyces albus(ATCC3004)
Steptomyces griseus(IFO3358)
5.糸状菌 Aspergillus oryzae(IFO5770)
Mucor hiemalis(IFO8567)
【0016】
ゲル状錆除去剤に含まれる乳酸菌の菌数は、錆除去効果が有効に発揮される範囲で適宜調整すればよい。
【0017】
増粘剤は、ゲル状錆除去剤の粘度を上げることにより、錆を除去すべき被処理物にゲル状錆除去剤をより厚く、即ち被処理物の単位面積あたりの塗布量をより多くしたり、被処理物上にゲル状錆除去剤をより安定的に維持したり、ゲル状錆除去剤の拙速な乾燥を抑制したり、ゲル状錆除去剤内における嫌気性条件を維持するための成分である。
【0018】
増粘剤は、前記作用を示すものであれば、有機増粘剤であっても無機増粘剤であってもよい。有機増粘剤としては、例えば、増粘多糖類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、アクリル酸・メタクリル酸共重合体などが挙げられる。無機増粘剤としては、例えば、ラポナイト、ベントナイト、スメクタイト等の親水性粘土鉱物;シリカ、タルク等の親水性増粘性化合物が挙げられる。これら増粘剤は、環境中に放出されても無害であるか、或いは有害性は非常に低いと考えられる。
【0019】
増粘剤としては、特に増粘多糖類が好ましい。増粘多糖類は、ゲル状錆除去剤の粘度を高める他、乳酸菌などの菌類の栄養となり、菌類の生存の維持や増殖に寄与し、錆除去効果をより一層高める可能性がある。増粘多糖類としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース及びその誘導体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びその誘導体、スルホン化セルロース誘導体、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体、カルボキシメチルエチルセルロース及びその誘導体、酢酸フタル酸セルロース、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース等のカチオン化セルロース、エチルセルロース、クロルカルメロース及びその誘導体などのセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ及びその誘導体、アクリル酸グラフトデンプン及びその誘導体などのデンプン誘導体;キサンタンガム、サクシノグリカン、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、ガラクタン、アラビアガム、トラガントガム、タマリンドガム、寒天、アガロース、マンナン、ヒアルロン酸及びその誘導体、コンドロイチン硫酸及びその誘導体、カードラン、ペクチン、アルギン酸及びその誘導体、デンプン、デキストリン等、セルロース誘導体及びデンプン誘導体以外の増粘多糖類が挙げられる。なお、前記誘導体には、塩が含まれるものとする。
【0020】
増粘剤は1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、増粘剤の使用量は、ゲル状錆除去剤の粘度が適度になる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、水と増粘剤の合計に対する前記増粘剤の割合を5質量%以上、35質量%以下とすることができる。また、ゲル状錆除去剤全体に対する増粘剤の割合を1質量%以上、35質量%以下とすることができる。前記割合としては、5質量%以上が好ましく、また、40質量%以下または30質量%以下が好ましく、20質量%以下または15質量%以下がより好ましい。
【0021】
ゲル状錆除去剤の粘度は、錆を除去すべき被処理物に十分量のゲル状錆除去剤を塗布できる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、20~25℃で測定した粘度を5mPa・s以上、100,000mPa・s以下に調整することができる。
【0022】
ゲル状錆除去剤に含まれる水は、菌類の生存の維持や増殖などに重要な成分である。水としては、蒸留水、精製水、水道水、井戸水など、菌類の生存を妨げるものでなければ特に制限されず使用できる。
【0023】
ゲル状錆除去剤のpHは、例えば、7.5以下とすることができ、7.0以下または6.5以下が好ましく、また、6.0以上、7.0以下に調整することも好ましい。特に6.0以上、7.0以下のpH範囲は、一般的な乳酸菌の至適pHであるといえる。但し、乳酸菌が活発に活動することにより、pHは徐々に低下し、最終的には4.0以下になると考えられる。
【0024】
ゲル状錆除去剤に含まれる水としては、緩衝液を用いてもよい。緩衝液としては、例えば、リン酸塩緩衝液を用いることができる。
【0025】
ゲル状錆除去剤には、その錆除去効果が有効に発揮される範囲で、菌類、増粘剤、及び水以外の成分を配合してもよい。添加成分としては、特に制限されないが、例えば、グルコース、ペプトン、トリプトン、酵母エキス、肉エキス等の栄養成分;クエン酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等の塩類;非イオン界面活性剤などの界面活性剤;色素や顔料が挙げられる。
【0026】
ゲル状錆除去剤は、常法により製造することができる。例えば、菌類を含む菌液に、増粘剤以外の成分を混合して溶解または分散させた後、混合液を攪拌しつつ増粘剤を少量ずつ加えて混合すればよい。
【0027】
以下、本発明に係る錆の除去方法につき工程ごとに説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0028】
1.ゲル状錆除去剤の塗布工程
本工程では、少なくとも乳酸菌、増粘剤、及び水を含むゲル状錆除去剤を、錆を除去すべき被処理物の表面に塗布する。ゲル状錆除去剤の塗布量は、実施規模やゲル状錆除去剤の粘度などに応じて、錆除去効果が有効に発揮される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、塗布直後のゲル状錆除去剤の厚さが0.5mm以上、3cm以下となるよう塗布すればよい。
【0029】
ゲル状錆除去剤の塗布手段は、ゲル状錆除去剤を被処理物へ良好に塗布できるものであれば特に制限されず、例えば、ペイントローラーを用いてもよいし、吹き付けてもよい。
【0030】
2.静置工程
本工程では、ゲル状錆除去剤を塗布した被処理物を静置する。本発明による錆除去の機構は必ずしも明らかではないが、少なくとも乳酸菌の活動が関与すると考えられるため、少なくとも乳酸菌が活動可能な条件で静置することが好ましい。
【0031】
例えば、乳酸菌は、菌種にもよるが、20℃以上、50℃以下の温度で増殖すると言われているため、日中の最高気温が20℃以上となる条件でゲル状錆除去剤を塗布した被処理物を静置することが好ましい。当該温度の上限に関しては、日中の最高気温が35℃以下の条件であれば、塗布したゲル状錆除去剤の過剰な乾燥が抑制されると考えられる。
【0032】
静置時間は、錆を十分に除去できる範囲で適宜決定すればよいが、例えば、1日以上、20日以下とすることができる。当該時間としては、3日以上が好ましく、5日以上がより好ましく、また、15日以下が好ましく、12日以下がより好ましい。なお、本発明方法を屋外で実施する場合には、ゲル状錆除去剤が雨により被処理物から脱落してしまうおそれがあるため、雨が降るおそれのある期間の静置は避けるべきであり、予想外に雨が降る場合には、ゲル状錆除去剤を塗布した部分に雨があたらないよう養生することが好まし。
【0033】
3.ゲル状錆除去剤の除去工程
本工程では、ゲル状錆除去剤により少なくとも一部の錆が被処理物から除去された後、被処理物からゲル状錆除去剤を除去する。
【0034】
ゲル状錆除去剤の除去手段としては、常法を用いることができる。例えば、必須成分である菌類、増粘剤、及び水は何れも親水性であるので、ゲル状錆除去剤を被処理物から水で洗い流すことができる。この際、必須成分である乳酸菌は一般的に嫌気性細菌であり、環境に放出されることにより死滅すると考えられ、また、増粘剤も自然界で分解されるため、本発明に係るゲル状錆除去剤は、環境負荷が小さいといえる。
【0035】
本発明により、作業員や周辺環境に対して低負荷で被処理物の錆を有効に除去することが可能である。また、本発明により被処理物の錆を十分に除去できない場合には、サンダーやサンドブラスト等による錆除去を併用してもよい。この場合、本発明により錆は低減されているため、サンダーやサンドブラスト等を併用しても、作業員や周辺環境に対する負荷を低減することができる。
【実施例0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
実施例1
(1)ゲル状錆除去剤の調製
EM菌液(「EM活性液EM-1」EM研究機構社製,105~106cells/mL)に2質量%の糖蜜(「糖蜜(ネオモラセスト)」EM研究機構社製)を添加し、30~40℃で120時間保管した。
撹拌装置(「特注培養装置」LEMON HOUSE)を使って、前記菌液、増粘剤としてヒドロキシプロピルセルロース(「HPC-M」日本曹達社製)、及び精製水を表1に示す割合(質量%)で、30~40℃で混合することにより、ゲル状錆除去剤を調製した。
また、比較のために、増粘剤を使わずに表1に示す組成の組成物を調製した。
【0038】
(2)錆除去試験
沿岸部の屋外で補強板として約1年間使用され、全面的に発錆した一般構造用圧延鋼材(SS400,厚さ約2mm)を2~3cm×5~6cmに切断し、ヘラを使用して各組成物を厚さが1~2mm程度になるよう薄く塗布し、常温で3日間静置した。
次いで、組成物の塗布面を水洗し、錆の状態を以下の基準により評価した。結果を表1に示す。
評価レベル
1: 錆がほぼ全面に残存
2: 錆が一部除去されたが、金属光沢無し
3: 錆がほぼ全面的に除去されたが、金属光沢無し
4: 錆がほぼ全面的に除去され、少なくとも一部に金属光沢が認められる
試験前試料と評価レベル2~4の代表的な写真を
図1に示す。
【0039】
【0040】
表1に示される結果の通り、増粘剤を含まない組成物を用いた場合には、錆除去効果は十分ではなかった。その理由としては、組成物を十分に塗布することができず、試験片上の有効菌量が十分でなかったことが考えられる。
一方、増粘剤を含む組成物を塗布した場合には、錆除去効果が認められた。その理由としては、有効菌の当初塗布量が比較的多かったことや、水分の保持により有効菌が活動または増殖できたことが考えられる。
【0041】
実施例2
増粘剤をヒドロキシプロピルセルロース(「HPC-M」日本曹達社製)からカルボキシメチルセルロースナトリウム(「CMC DAICEL 1160」ダイセル社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてゲル状錆除去剤を調製した。得られたゲル状錆除去剤の粘度を回転式粘度計を使って20~25℃で測定したところ、50質量%のEM菌液を含むゲル状錆除去剤の粘度は6500mPa・s、70質量%のEM菌液を含むゲル状錆除去剤の粘度は8000mPa・sであった。なお、実施例1で用いた、50質量%のEM菌液を含むゲル状錆除去剤の粘度は6000mPa・s、70質量%のEM菌液を含むゲル状錆除去剤の粘度は8200mPa・sであった。
得られたゲル状錆除去剤の錆除去効果を、実施例1と同様に試験した。結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
表2に示される結果の通り、増粘剤を変更しても、EM菌、増粘剤および水を含む組成物は、優れた錆除去効果を示した。
【0044】
実施例3
EM菌液の代わりに、乳酸菌(Lactobacillus plantanum ATCC8014)の菌液を用いた以外は実施例1と同様にしてゲル状錆除去剤を調製し、試験した。結果を表3に示す。
【0045】
【0046】
表3に示される結果の通り、乳酸菌、増粘剤および精製水を含む組成物は、錆を有する試験片に塗布して静置するのみで、優れた錆除去効果を示すことが明らかになった。
【0047】
実施例4
表4に示す組成の通り、グルコースを添加し、且つ乳酸菌の配合量を低減した以外は実施例3と同様にしてゲル状錆除去剤を調製し、試験した。結果を表4に示す。
【0048】
【0049】
表4に示される結果の通り、乳酸菌、増粘剤および精製水に加えて糖分を含む組成物は、乳酸菌量が極端に低減されたにもかかわらず、優れた錆除去効果を示した。その理由としては、糖が乳酸菌の栄養分となり、糖の活動や増殖が活発になったことが考えられる。