(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130161
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ガスセンサモジュール及びガスセンサシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20230912BHJP
G01N 5/02 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
G01N27/00 K
G01N5/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034671
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 舞
(72)【発明者】
【氏名】河口 康晃
(72)【発明者】
【氏名】町田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】下石坂 望
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060HC10
2G060HC13
(57)【要約】
【課題】ガスを検出する信号の電圧の範囲の幅が大きい場合に、電力やスペースの増大を抑制しつつ、ガス検出の信号を取得しやすいガスセンサモジュールを提供する。
【解決手段】ガスセンサ110と、測定対象の測定結果に応じてガスセンサ110から出力される第1アナログ信号を所定量増幅して第2アナログ信号を出力するアンプ群120と、第2アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器130と、デジタル信号を取得するマイクロコントローラ140と、備え、マイクロコントローラ140は、アンプ群120の各アンプのオフセット電圧をスライドさせる制御を行うオフセット制御部144を備える、ガスセンサモジュール10が提供される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサと、
測定対象の測定結果に応じて前記ガスセンサから出力される第1アナログ信号を所定量増幅して第2アナログ信号を出力する増幅器と、
前記第2アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記デジタル信号を取得する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記増幅器のオフセット電圧をスライドさせる制御を行うオフセット制御部を備える、ガスセンサモジュール。
【請求項2】
前記オフセット制御部は、設定値に基づいて前記AD変換器の入力レンジをスライドさせる制御を行う、請求項1に記載のガスセンサモジュール。
【請求項3】
前記制御部は、前記設定値を記憶する記憶部をさらに備える、請求項2に記載のガスセンサモジュール。
【請求項4】
前記設定値を選択する選択スイッチをさらに備える、請求項2に記載のガスセンサモジュール。
【請求項5】
前記オフセット制御部は、所定時間における前記デジタル信号の傾きに基づいて前記増幅器のオフセット電圧をスライドさせる制御を行う、請求項1に記載のガスセンサモジュール。
【請求項6】
前記制御部は、前記増幅器の増幅率を切り替える制御を行うゲイン制御部をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサモジュール。
【請求項7】
前記ゲイン制御部は、前記第2アナログ信号の電圧が前記AD変換器の入力レンジを超えた場合に前記増幅器の増幅率を減少させるように制御する、請求項6に記載のガスセンサモジュール。
【請求項8】
前記ゲイン制御部は、所定時間における前記デジタル信号の傾きに基づいて前記増幅器の増幅率を切り替える制御を行う、請求項6に記載のガスセンサモジュール。
【請求項9】
前記制御部は、前記オフセット制御部によるオフセット電圧のスライドの前後又は前記ゲイン制御部による前記増幅器の増幅率の切り替えの前後で前記AD変換器の出力を合わせる補正を行う補正部をさらに備える、請求項6~8のいずれか1項に記載のガスセンサモジュール。
【請求項10】
前記ガスセンサは、
検出対象のガスの量に応じて体積が変化する感応膜と、
前記感応膜の体積の変化に伴って生じる応力を検出する検出部と、
を備える、請求項1~9のいずれか1項に記載のガスセンサモジュール。
【請求項11】
請求項1に記載のガスセンサモジュールと、
前記制御部から前記デジタル信号を取得し、前記デジタル信号に基づいた情報を出力する情報処理装置と、
を備えるガスセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスセンサモジュール及びガスセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
対象(例えば、気体又は液体を構成する分子等)の量に応じて体積が変化する体積変化体を備えるとともに、体積変化体の体積の変化に伴って生じる応力を検出するセンサが知られている。特許文献1には、本体部と、体積変化体と、検出部とを備えるセンサが開示されている。本体部は、平板状であり、且つ、第1方向における第1端が支持されるとともに、厚さ方向における両端面のうちの少なくとも一方にて開口する収容空間を有する。体積変化体は、対象の量に応じて体積が変化するとともに、少なくとも一部が収容空間に収容されるように本体部により支持される。検出部は、本体部のうちの、第1方向における第2端に連接し、且つ、体積変化体の体積の変化に伴って生じる応力を検出する。
【0003】
このようなセンサを用いたガスセンサモジュールは、センサにより検出されたガスのアナログ信号の電圧をアンプにより増幅した後、ADコンバータによりデジタル信号に変更したものをマイクロコンピュータに出力することで、ガスの検出データを取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ADコンバータに出力されたアナログ信号が、ADコンバータにより出力可能な電圧のレンジを超えることがある。そうすると、マイクロコンピュータはガス検出の信号を取得することができない。例えば、ガスに応じて膨張又は収縮することで生じる応力によりガスを検知する感応膜を用いるガスセンサの場合、ガスがプラスとマイナスの両方を含む広い範囲の電圧として検出されることがある。このような場合は、検出された信号が、ADコンバータにより出力可能な電圧のレンジを超えやすくなる。検出された信号が、ADコンバータにより出力可能な電圧のレンジを超えやすくなると、当然、ガス検出の信号を取得することができない。
【0006】
他方、この問題に対応するために、ADコンバータにより出力可能な電圧のレンジの幅を単純に広くしようとすると、多量の電力を要したり、ADコンバータのサイズを大きくしたりする必要などの問題も生じる。
【0007】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ガスを検出する信号の電圧の範囲の幅が大きい場合に、電力やスペースの増大を抑制しつつ、ガス検出の信号を取得しやすいガスセンサモジュール及びガスセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある観点によれば、ガスセンサと、測定対象の測定結果に応じて前記ガスセンサから出力される第1アナログ信号を所定量増幅して第2アナログ信号を出力する増幅器と、前記第2アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、前記デジタル信号を取得する制御部と、を備え、前記制御部は、前記増幅器のオフセット電圧をスライドさせる制御を行うオフセット制御部を備える、ガスセンサモジュールが提供される。
【0009】
前記オフセット制御部は、設定値に基づいて前記AD変換器の入力レンジをスライドさせる制御を行ってもよい。
【0010】
前記制御部は、前記設定値を記憶する記憶部をさらに備えてもよい。
【0011】
上記ガスセンサモジュールは、前記設定値を選択する選択スイッチをさらに備えてもよい。
【0012】
前記オフセット制御部は、所定時間における前記デジタル信号の傾きに基づいて前記増幅器のオフセット電圧をスライドさせる制御を行ってもよい。
【0013】
前記制御部は、前記増幅器の増幅率を切り替える制御を行うゲイン制御部をさらに備えてもよい。
【0014】
前記ゲイン制御部は、前記第2アナログ信号の電圧が前記AD変換器の入力レンジを超えた場合に前記増幅器の増幅率を減少させるように制御してもよい。
【0015】
前記ゲイン制御部は、所定時間における前記デジタル信号の傾きに基づいて前記増幅器の増幅率を切り替える制御を行ってもよい。
【0016】
前記制御部は、前記オフセット制御部によるオフセット電圧のスライドの前後又は前記ゲイン制御部による前記増幅器の増幅率の切り替えの前後で前記AD変換器の出力を合わせる補正を行う補正部をさらに備えてもよい。
【0017】
前記ガスセンサは、検出対象のガスの量に応じて体積が変化する感応膜と、前記感応膜の体積の変化に伴って生じる応力を検出する検出部と、を備えてもよい。
【0018】
本開示の別の観点によれば、上記ガスセンサモジュールと、前記制御部から前記デジタル信号を取得し、前記デジタル信号に基づいた情報を出力する情報処理装置と、を備えるガスセンサシステムが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、ガスを検出する信号の電圧の範囲の幅が大きい場合であっても、電力やスペースの増大を抑制しつつ、ガス検出の信号を取得しやすいガスセンサモジュール及びガスセンサシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るガスセンサモジュールを備えたガスセンサシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】センサから出力されるアナログ信号の例を示すグラフである。
【
図3】ガスセンサモジュールの構成例を示す図である。
【
図4】アンプから出力されるアナログ信号の時間変化の例を示すグラフである。
【
図5】アンプから出力されるアナログ信号の時間変化の例を示すグラフである。
【
図6】AD変換器が出力するデジタル信号の補正例を示す図である。
【
図7】アンプから出力されるアナログ信号の時間変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
図1は、本実施形態に係るガスセンサモジュールを備えたガスセンサシステムの概略構成を示す図である。
図1に示したガスセンサシステム1は、ガスセンサモジュール10と、中継装置20と、情報処理装置30と、を備える。
【0023】
ガスセンサモジュール10は、測定対象を測定する。測定対象は、気体、液体、又は、固体を構成する分子である。また例えば、測定対象は、気体、液体、及び、固体のうちの少なくとも2つからなる混合物を構成する分子である。ガスセンサモジュール10は、内部にセンサを備える。本実施形態に係るセンサは、測定対象の量に応じて体積が変化する体積変化体を備えるとともに、体積変化体の体積の変化に伴って生じる応力を検出するセンサである。
【0024】
中継装置20は、ガスセンサモジュール10による測定対象の測定結果をガスセンサモジュール10から取得する。ガスセンサモジュール10と中継装置20とは有線で接続されている。中継装置20は、測定対象の測定結果をガスセンサモジュール10から取得すると共に、ガスセンサモジュール10へ電力を供給する。
【0025】
そして中継装置20は、ガスセンサモジュール10から取得した測定対象の測定結果を蓄積し、蓄積した測定結果を任意のタイミングで情報処理装置30に送信する。中継装置20から情報処理装置30への送信は、所定の通信プロトコル、例えばUDP(User Datagram Protocol)によって行われる。中継装置20から情報処理装置30への送信は、有線送信であってもよく、無線送信であってもよい。中継装置20は、測定結果を蓄積する際に、所定のフォーマット、例えばCSV(Comma Separated Value)形式で蓄積する。
【0026】
情報処理装置30は、ガスセンサモジュール10で測定され、中継装置20から送信された測定結果に対する情報処理を実行する。例えば、情報処理装置30は、ガスセンサモジュール10で測定された測定結果をグラフで表示する処理を実行する。
【0027】
なお、本実施形態では、ガスセンサモジュール10と、中継装置20とを別々の装置としているが、本開示は係る例に限定されない。ガスセンサモジュール10に、中継装置20の機能を備え、ガスセンサモジュール10から情報処理装置30へ直接測定結果を送信してもよい。
【0028】
ガスセンサモジュール10は、センサからの出力をアンプで増幅し、増幅後のアナログ信号を、AD変換器でデジタル信号に変換することで、センサによる測定対象の測定結果を得る。ここで、通常AD変換器があらゆる信号レベルの入力を変換できるわけではなく、変換可能な信号レベルは、仕様の最大電圧に制限される。センサから出力されるアナログ信号の範囲が予め分かっていれば、その範囲をカバーできる入力レンジのAD変換器を用意すればよい。しかし、センサから出力されるアナログ信号の範囲が不定であれば、センサから出力されるアナログ信号を正しくデジタル信号に変換できない場合がある。
【0029】
図2は、あるセンサから出力されるアナログ信号の例を示すグラフである。例えば入力レンジが0V~5VのAD変換器を用いた場合、0V~5Vの範囲にあるアナログ信号はデジタル信号へ変換することができる。しかし、0V~5Vの範囲を超えるアナログ信号は、入力レンジが0V~5VのAD変換器ではクリッピングされてしまい、デジタル信号へ正しく変換することができない。
【0030】
また、本実施形態で用いるセンサは、測定対象の量に応じて体積が変化する体積変化体を備えており、膨張すればプラスの電圧値を、収縮すればマイナスの電圧値を、それぞれ出力する。また、センサが出力する波形は、測定対象と官能膜とによって決まるため、新規の測定対象を測定した場合、センサがどのような波形のデータを出力するかどうか分からない。
【0031】
さらに、センサから出力されるアナログ信号は微小なため、アンプで増幅させてからAD変換器に送られるが、アンプのオフセット電圧によっては、アンプを通過した後のアナログ信号の範囲が、AD変換器の入力レンジから外れてしまう。そこで、アンプのオフセット電圧の調整も必要となるが、測定対象に応じた調整が求められ、さらにオフセット電圧は、周囲温度及び時間経過によりドリフトする。
【0032】
また、入力レンジを超える範囲のアナログ信号がAD変換器に入力された場合を想定して、入力レンジの幅が広いAD変換器を用いたり、オフセット電圧がドリフトしないアンプを用いたりすることは、電力消費量の増大及びガスセンサモジュールのコストアップに繋がってしまう。
【0033】
本実施形態に係るガスセンサモジュールは、コストアップに繋がるような部品を用いずに、様々な測定対象に対応できるよう、アンプのオフセット電圧の調整、及び、アンプのゲインの調整を、ガスセンサモジュールの筐体を開けずに行えるようにしたことを特徴とする。
【0034】
図3は、本実施形態に係るガスセンサモジュール10の構成例を示す図である。ガスセンサモジュール10は、ガスセンサ110と、アンプ群120と、AD変換器130と、マイクロコントローラ140と、DCDC変換器150と、スイッチ部160と、を備える。
【0035】
ガスセンサ110は、測定対象の量に応じて体積が変化する官能膜111を備えるとともに、体積変化体の体積の変化に伴って生じる応力を検出する検出部112を備える、ピエゾ抵抗型応力応答センサである。ガスセンサ110は、例えば、国際公開第2019/188164号に開示されているセンサを用いることができる。本実施形態に係るガスセンサ110は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスを用いて製造されたセンサである。本実施形態に係るガスセンサ110は、4つのチャンネルで測定対象の測定結果を出力する。ガスセンサ110による測定対象の測定に応じて出力されるアナログ信号が、本開示の第1アナログ信号の一例である。
【0036】
アンプ群120は、ガスセンサ110の出力を所定量増幅する。アンプ群120は、ガスセンサ110の出力チャンネルの数に応じたアンプからなり、本実施形態では、アンプ群120は4つのアンプ121、122、123、124からなる。アンプ群120を構成する各アンプ121~124は、それぞれ、外部から増幅率(ゲイン)及びオフセット電圧を切り替えることが可能なアンプである。アンプ群120の各アンプ121~124が出力するアナログ信号が、本開示の第2アナログ信号の一例である。
【0037】
AD変換器130は、アンプ群120の各アンプが出力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。本実施形態では、AD変換器130は4チャンネルのアナログ信号の入力のそれぞれをデジタル信号へ変換して、デジタル信号をマイクロコントローラ140へ出力する。
【0038】
マイクロコントローラ140は、本開示の制御部の一例であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備える集積回路である。マイクロコントローラ140のROMには、アンプ群120の各アンプ121~124のゲインを制御することで、レンジ制御プログラムが格納されている。マイクロコントローラ140のCPUが、ROMに格納されたゲイン制御プログラムを読み出して実行することにより、マイクロコントローラ140はオフセット制御部142、ゲイン制御部144及び補正部146を備えるように機能する。
【0039】
オフセット制御部142は、アンプ群120の各アンプ121~124のオフセット電圧を切り替える制御を行う。オフセット制御部142は、アンプ121~124のオフセット電圧を切り替えることで、アンプ群120の出力をAD変換器130の入力レンジに適合させることができる。
【0040】
ゲイン制御部144は、アンプ群120の各アンプ121~124のゲイン(増幅率)を切り替える制御を行う。ゲイン制御部144は、アンプ121~124のゲインを切り替えることで、アンプ群120の出力をAD変換器130の入力レンジに適合させることができる。
【0041】
オフセット制御部142は、設定値記憶部148に記憶されている設定値を参照して、アンプ121~124のオフセット電圧を切り替える。また、ゲイン制御部144は、設定値記憶部148に記憶されている設定値を参照して、アンプ121~124のゲインを切り替える。設定値記憶部148に記憶されている設定値は、例えば、予めいくつかの測定対象を測定し、その測定対象の測定結果としてガスセンサ110が出力するアナログ信号がAD変換器130の入力レンジに適合するようなオフセット電圧及びゲインの設定値である。
【0042】
オフセット制御部142及びゲイン制御部144が参照する設定値の切り替えは、例えば、中継装置20又は情報処理装置30から設定値を切り替えるコマンドをガスセンサモジュール10に送信することによって行われてもよい。中継装置20又は情報処理装置30から設定値を切り替えるコマンドをガスセンサモジュール10に送信することで、ガスセンサモジュール10の筐体を開けてオフセット電圧を調整したりゲインを変更したりする必要無く、ガスセンサ110が出力するアナログ信号をAD変換器130の入力レンジに適合させることができる。
【0043】
図4は、アンプ群120のあるアンプから出力されるアナログ信号の時間変化の例を示すグラフである。例えば、ガスセンサ110による測定結果を示す電圧値が時間と共に上昇していく場合、ある時刻tで所定の閾値を上回る。このまま電圧値が上昇を続けると、やがてAD変換器130の入力レンジの上限に達し、測定結果を示す電圧値をAD変換器130で正しくデジタル信号に変換できなくなってしまう。
【0044】
そこで、オフセット制御部142及びゲイン制御部144は、AD変換器130から出力されるデジタル信号が所定の閾値を超えた場合に、参照する設定値を切り替えて、切り替えた設定値をアンプ群120の各アンプ121~124に設定してもよい。例えばAD変換器130から出力されるデジタル信号の値が所定の閾値を超えた場合(言い換えれば、アンプ群120のあるアンプから出力されるアナログ信号の電圧値が所定の閾値を超えた場合)に、ゲイン制御部144は、設定値記憶部148に格納されている設定値の参照先を切り替え、アンプ群120の各アンプに設定するゲインを変更する。
【0045】
図5は、アンプ群120のあるアンプから出力されるアナログ信号の時間変化の例を示すグラフである。
図5に示した例では、時刻tまではアンプのゲインを100倍にしていたが、時刻tでAD変換器130から出力されるデジタル信号の値が所定の閾値を超えたので、時刻t以後ではゲイン制御部144がアンプのゲインを50倍に切り替えている。時刻tでゲイン制御部144がアンプのゲインを半分に切り替えることで、仮に電圧値が上昇を続けても、AD変換器130の入力レンジの上限に達するまで余裕が生じる。
【0046】
測定の途中でオフセット制御部142がアンプのオフセット電圧を切り替えたり、ゲイン制御部144がアンプのゲインを切り替えたりすると、アンプから出力されるアナログ信号の連続性が無くなる。マイクロコントローラ140は、AD変換器130から出力されるオフセット電圧又はゲインの切り替え後のデジタル信号に対して、切り替え前のオフセット電圧又はゲインに合わせるような補正を行う補正部146を備えてもよい。
図5の例では、補正部146は、時刻t以後はAD変換器130が出力するデジタル信号を2倍にする補正を行う。
【0047】
図6は、補正部146による、AD変換器130が出力するデジタル信号の補正の例を示す図である。時刻t以後でAD変換器130が出力するデジタル信号を補正しない場合は、
図6の破線で示す値となるが、これは時刻t以前の測定結果とゲインが一致していないので、正しい値とはならない。時刻t以後では、AD変換器130が出力するデジタル信号を補正部146が2倍に補正することで、時刻t以前の測定結果と時刻t以後の時刻t以前の測定結果とでゲインが一致することになる。
【0048】
図5の例ではゲイン制御部144がアンプのゲインを切り替えていたが、アンプのゲインの切り替えに代えて、又はアンプのゲインの切り替えに加えて、オフセット制御部142がアンプのオフセット電圧の切り替えを行ってもよい。
【0049】
図7は、アンプ群120のあるアンプから出力されるアナログ信号の時間変化の例を示すグラフである。
図7に示した例では、時刻tまではアンプのオフセット電圧を所定の第1の電圧にしていたが、時刻tでAD変換器130から出力されるデジタル信号の値が所定の閾値を超えたので、時刻t以後ではオフセット制御部142がアンプのオフセット電圧を第1の電圧より低い所定の第2の電圧に切り替えている。時刻tでオフセット制御部142がアンプのオフセット電圧を下方に切り替えることで、仮に電圧値が上昇を続けても、AD変換器130の入力レンジの上限に達するまで余裕が生じる。
【0050】
図6では、時刻tの前後でアンプのゲインが切り替わった場合の補正例が示されているが、時刻tの前後でオフセット電圧が切り替わった場合も、補正部146は同様にデジタル信号を補正する。
【0051】
DCDC変換器150は、直流電圧の変換を行う。例えば、DCDC変換器150は、外部から供給された電力の電圧を、内部の動作電圧に変換して各部に出力する。本実施形態では、中継装置20から供給される電力の電圧を内部の動作電圧に変換して出力する。
【0052】
スイッチ部160は、ガスセンサモジュール10を操作するための各種のスイッチからなる。本実施形態では、スイッチ部160は、オフセット制御部142及びゲイン制御部144が参照する設定値を切り替えるスイッチが設けられ得る。設定値を切り替えるスイッチがスイッチ部160に設けられていることで、ガスセンサモジュール10は、外部の装置による、オフセット制御部142及びゲイン制御部144が参照する設定値の切り替えが不要となる。
【0053】
本実施形態にかかるガスセンサモジュール10は、
図3に示したような構成を有することで、ゲイン及びオフセット電圧の切り替えをマイクロコントローラから行わない構成と比較して、電力やスペースの増大を抑制しつつ、ガス検出の信号が取得しやすくなる。
【0054】
なお、設定値記憶部148に格納されている設定値は、情報処理装置30等の外部の装置から修正されてもよい。また、情報処理装置30等の外部の装置から設定値が設定値記憶部148に追加されてもよい。ガスセンサモジュール10の外部から設定値が修正又は追加されることで、ガスセンサモジュール10で検出するガスの種類の増加に対応することが出来る。
【0055】
また、上述の例では、補正部146は、AD変換器130から出力されるオフセット電圧又はゲインの切り替え後のデジタル信号に対して、切り替え前のオフセット電圧又はゲインに合わせるような補正を行っていたが、本開示は係る例に限定されない。補正部146は、AD変換器130から出力されるオフセット電圧又はゲインの切り替え前のデジタル信号に対して、切り替え後のオフセット電圧又はゲインに合わせるような補正を行ってもよい。補正部146によるこのような補正は、例えば、ノイズが小さく、切り替え前のデジタル信号に対して信号を増幅させる方が良い場合に好適である。
【0056】
また、上述の例では、オフセット制御部142及びゲイン制御部144は、設定値記憶部148に記憶されている設定値を参照して、各アンプ121~124のゲイン及びオフセット電圧を切り替えていたが、本開示は係る例に限定されない。例えば、オフセット制御部142又はゲイン制御部144は、所定時間のデジタル信号の傾きに基づいて、その傾きが継続すると、デジタル信号が所定の閾値を超えるかどうかを判断し、判断結果に基づいて、各アンプ121~124のゲイン又はオフセット電圧を切り替える制御を行ってもよい。例えば、オフセット制御部142又はゲイン制御部144は、測定開始からの所定時間のデジタル信号の傾きに基づいて各アンプ121~124のゲイン又はオフセット電圧を切り替える制御を行ってもよい。係る制御を行うことで、オフセット制御部142又はゲイン制御部144は、設定値を参照せずに各アンプ121~124のゲイン又はオフセット電圧をリアルタイムで切り替えることができる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これら各種の変更例または修正例についても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0058】
1 ガスセンサシステム
10 ガスセンサモジュール
20 中継装置
30 情報処理装置
110 ガスセンサ
120 アンプ群
130 AD変換器
140 マイクロコントローラ
150 DCDC変換器
160 スイッチ部