(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130167
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】タイヤの旋回性能の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20230912BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034682
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】吉村 公孝
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB06
3D131BB09
3D131BB19
3D131LA21
3D131LA22
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】 タイヤの旋回性能、とりわけ限界旋回性能を評価することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 タイヤの旋回性能を評価するための方法である。タイヤを車両に装着して、車両を旋回走行させる工程と、走行中の車両に生じる前後加速度データ及び横加速度データを複数回取得する工程と、コンピュータが、前後加速度データ及び横加速度データを用いて摩擦円7を作成する工程と、コンピュータが、摩擦円7の輪郭8内の面積を計算する工程と、コンピュータが、面積を出力する工程とを含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの旋回性能を評価するための方法であって、
前記タイヤを車両に装着して、前記車両を旋回走行させる工程と、
走行中の前記車両に生じる前後加速度データ及び横加速度データを複数回取得する工程と、
コンピュータが、前記前後加速度データ及び前記横加速度データを用いて摩擦円を作成する工程と、
前記コンピュータが、前記摩擦円の輪郭内の面積を計算する工程と、
前記コンピュータが、前記面積を出力する工程とを含む、
タイヤの旋回性能の評価方法。
【請求項2】
前記コンピュータが、前記面積に基づいて、前記タイヤの旋回性能を評価する工程をさらに含む、請求項1に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
【請求項3】
前記評価する工程は、前記面積が大きいほど、前記旋回性能が良好であると評価する工程を含む、請求項2に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
【請求項4】
前記面積を計算する工程は、前記摩擦円を画像処理することにより、前記輪郭を抽出する工程を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
【請求項5】
前記コンピュータが、第1タイヤの摩擦円である第1摩擦円を作成する工程と、
前記コンピュータが、第2タイヤの摩擦円である第2摩擦円を作成する工程と、
前記コンピュータが、前記第1摩擦円と前記第2摩擦円との差が判別可能なように、前記第1摩擦円と前記第2摩擦円とを重ねたグラフを出力する工程とを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
【請求項6】
前記第1タイヤを装着した車両と、前記第2タイヤを装着した車両とを、同一のサーキットで走行させて、前記前後加速度データ及び前記横加速度データをそれぞれ取得する工程を含む、請求項5に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤの旋回性能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤの等価コーナリングパワーを評価するための方法が記載されている。この方法では、先ず、車両を異なる車体速度で旋回走行させるステップと、車体スリップ角、横加速度及び車体速度に基づいて、車体スリップ角が0となるときの第1速度を求める演算ステップと、第1速度に基づいて、等価コーナリングパワーを求める評価ステップとが実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法では、タイヤの操縦安定性能を評価することができるものの、タイヤの旋回性能、とりわけ限界旋回性能の評価については、改善の余地があった。
【0005】
本開示は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤの旋回性能、とりわけ限界旋回性能を評価することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、タイヤの旋回性能を評価するための方法であって、前記タイヤを車両に装着して、前記車両を旋回走行させる工程と、走行中の前記車両に生じる前後加速度データ及び横加速度データを複数回取得する工程と、コンピュータが、前記前後加速度データ及び前記横加速度データを用いて摩擦円を作成する工程と、前記コンピュータが、前記摩擦円の輪郭内の面積を計算する工程と、前記コンピュータが、前記面積を出力する工程とを含む、タイヤの旋回性能の評価方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示のタイヤの旋回性能の評価方法は、上記の工程を採用することにより、タイヤの旋回性能、とりわけ限界旋回性能を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】タイヤの旋回性能の評価方法を実行するためのコンピュータを示す斜視図である。
【
図2】タイヤの旋回性能の評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】前後加速度データ及び横加速度データを示す図である。
【
図6】面積計算工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】本開示の他の実施形態のタイヤの旋回性能の評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】第1摩擦円作成工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第1摩擦円及び第2摩擦円を示すグラフである。
【
図11】第2摩擦円作成工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図12】第1摩擦円の第1輪郭、及び、第2摩擦円の第2輪郭を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、開示の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本開示の内容理解のためのものであって、本開示は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態のタイヤの旋回性能の評価方法(以下、単に「評価方法」ということがある。)は、タイヤの旋回性能、とりわけ限界旋回性能が評価される。限界旋回性能とは、例えば、サーキット等での高速走行時において、タイヤが滑るか滑らないかの摩擦の限界(グリップの限界)付近での旋回性能を意味している。したがって、走行中の車両に生じる前後加速度及び横加速度が大きいほど、高いグリップを発揮できており、限界旋回性能が優れていることを示している。
【0011】
[コンピュータ]
図1は、本実施形態のタイヤの旋回性能の評価方法を実行するためのコンピュータ1を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態の評価方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0012】
[タイヤの旋回性能の評価方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態のタイヤの旋回性能の評価方法が説明される。
図2は、本実施形態のタイヤの旋回性能の評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0013】
[車両を旋回走行させる]
本実施形態の評価方法では、先ず、タイヤを車両に装着して、車両を旋回走行させる(工程S1)。
図3は、本実施形態の車両2の概念図である。
【0014】
車両2は、評価対象のタイヤ3を装着可能であれば、特に限定されない。本実施形態の車両2には、レーシング用自動車が採用される。本実施形態の車両2には、評価対象のタイヤ3と、加速度センサ4とが設けられている。
【0015】
加速度センサ4には、公知のものが採用されうる。本実施形態の加速度センサ4には、例えば、直交3軸方向の加速度をそれぞれ計測できる圧電式の加速度センサが採用されうる。直交3軸方向には、例えば、車両2の左右方向X、車両2の上下方向Y及び車両2の前後方向Zが設定される。このような加速度センサ4により、走行中の車両2に生じる前後加速度及び横加速度を測定することが可能となる。本実施形態では、車両2の重心Gに加速度センサ4が配置されているが、特に限定されない。
【0016】
タイヤ3は、旋回性能(限界旋回性能)が評価されるものであれば、特に限定されるわけではない。例えば、乗用車用、自動二輪車用、重荷重用、レーシング用等の空気入りタイヤや、エアレスタイヤ(非空気式タイヤ)等、種々のカテゴリーのタイヤ3が採用されうる。本実施形態のタイヤ3には、レーシング用の空気入りタイヤが採用される場合が例示される。
【0017】
本実施形態の工程S1では、先ず、タイヤ3が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填される。そして、正規内圧が充填されたタイヤ3が、車両2の全輪に装着される。車両2に装着されたタイヤ3には、例えば、正規荷重の45~70%程度の荷重が負荷されている。
【0018】
「正規リム」とは、タイヤ3が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ3毎に定めるリムである。したがって、正規リムは、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0019】
「正規内圧」とは、タイヤ3が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ3毎に定めている空気圧である。したがって、正規内圧は、例えば、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0020】
「正規荷重」とは、タイヤ3が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ3毎に定めている荷重である。したがって、正規荷重は、例えば、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0021】
なお、適用される規格がないタイヤ3の場合、正規リム、正規内圧及び正規荷重には、メーカにより推奨されるリム、空気圧及び荷重が適用される。
【0022】
次に、本実施形態の工程S1では、タイヤ3が装着された車両2を、旋回走行させる。旋回走行させる経路は、旋回走行が可能であれば、特に限定されるわけではなく、例えば、サーキット、高速道路、山岳路及び一般道が採用されうる。本実施形態では、限界旋回走行が可能なサーキットにおいて、車両2を高速走行させている。
【0023】
[前後加速度データ及び横加速度データを取得]
次に、本実施形態の評価方法では、走行中の車両2に生じる前後加速度データ及び横加速度データが、複数回取得される(工程S2)。本実施形態の工程S2では、走行中の車両2に生じる前後加速度データ及び横加速度データが、加速度センサ4によって複数回取得される。
【0024】
図4は、前後加速度データ5及び横加速度データ6を示す図である。
図4では、番号(通し番号)、複数の前後加速度(前後加速度データ5)及び複数の横加速度(横加速度データ6)が示されている。本実施形態では、予め定められた間隔で(例えば、サンプリング周波数100Hz(すなわち、100回/1秒(0.01秒))ごとに)、前後加速度データ5及び横加速度データ6が取得されている。また、前後加速度データ5及び横加速度データ6が取得されるタイミングは、車両2(
図3に示す)の限界旋回走行中において、前後加速度データ5及び横加速度データ6が取得できれば、特に限定されない。本実施形態では、車両2の走行開始から走行終了までの間(例えば、岡山国際サーキット1周3703m)、前後加速度データ5及び横加速度データ6が取得される。
【0025】
本実施形態では、限界旋回走行時の前後加速度データ5及び横加速度データ6を確実に取得するために、例えば、サーキットにおいて、車両流れが発生するかしないかの境界付近で、車両2(
図3に示す)を走行させるのが好ましい。そのような限界走行ができるように、事前にサーキット等で訓練をしたドライバーによって、車両を走行させるのが好ましい。これにより、限界旋回性能を確実に評価することが可能となる。前後加速度データ5及び横加速度データ6は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0026】
[摩擦円を作成]
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、前後加速度データ5及び横加速度データ6を用いて摩擦円を作成する(工程S3)。
図5は、摩擦円7を示すグラフである。
図5において、縦軸が前後加速度を示しており、横軸が横加速度を示している。
【0027】
図5の縦軸において、0よりも上側に向かうほど、前方向(駆動時)の加速度が大きいことを示しており、また、0よりも下側に向かうほど、後方向(制動時)の加速度が大きいことを示している。一方、
図5の横軸において、0よりも右側に向かうほど、右方向(右旋回時)の加速度が大きいことを示しており、また、0よりも左側に向かうほど、左方向(左旋回時)の加速度が大きいことを示している。
【0028】
本実施形態の工程S3では、
図5の縦軸及び横軸において、
図4に示した前後加速度データ5及び横加速度データ6(前後加速度及び横加速度)が、それぞれプロットされる。これにより、プロットされた点の集合体により、摩擦円7が作成される。摩擦円7において、色が濃く示されている部分は、走行中の車両2に生じた加速度(前後加速度及び横加速度)の頻度が大きいことを示している。
【0029】
摩擦円7は、適宜作成されうる。例えば、既知の表計算ソフト(例えば、Excel(「Excel」は登録商標))に、前後加速度データ5及び横加速度データ6を取り込み、表計算ソフトのグラフ作成機能を用いることで、摩擦円7が容易に作成されうる。このような摩擦円7を効率よく作成するために、例えば、表計算ソフトのマクロ(自動化機能)を用いて、自動的に作成されるのが好ましい。これにより、摩擦円7を短時間かつ正確に作成することが可能となる。摩擦円7は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0030】
[摩擦円の面積を計算(面積計算工程)]
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、摩擦円7の輪郭内の面積を計算する(面積計算工程S4)。摩擦円7の輪郭内の面積は、適宜計算することができる。
図6は、面積計算工程S4の処理手順を示すフローチャートである。
【0031】
[輪郭を抽出]
本実施形態の面積計算工程S4では、先ず、コンピュータ1(
図1に示す)が、
図5に示した摩擦円7を画像処理することにより、輪郭を抽出する(工程S41)。画像処理は、摩擦円7の輪郭を抽出することができれば、適宜実施されうる。
【0032】
本実施形態の工程S41では、先ず、摩擦円7が画像情報に変換される。次に、摩擦円7の画像情報が示す色情報(ピクセル)に対し、例えば、予め定められた閾値に基づいて、二値化処理等の画像処理が行われる。このような画像処理後の摩擦円7(図示省略)は、頻度が大きい加速度(すなわち、色が濃く示された加速度)のみで構成されており、測定ノイズ(頻度が小さい加速度)が排除されている。
【0033】
図7は、摩擦円7の輪郭8を示すグラフである。次に、本実施形態の工程S41では、画像処理によって取得された摩擦円7(図示省略)の輪郭8が抽出される。このような輪郭8は、走行中の車両に生じた加速度(すなわち、画像処理によって測定ノイズが排除された加速度)の範囲を示している。摩擦円の輪郭8は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0034】
[輪郭内の面積を計算]
次に、本実施形態の面積計算工程S4では、コンピュータ1(
図1に示す)が、摩擦円7の輪郭8内の面積を計算する(工程S42)。輪郭8内の面積は、適宜計算することができる。本実施形態の工程S42では、先ず、輪郭8の座標値から輪郭8で囲まれる領域9が特定される。そして、特定された領域が微小区間(図示省略)に区分され、それらの微小区間の面積を総和して(すなわち、積分)、輪郭8内の面積が計算される。本実施形態では、1.0Gを1.0mに換算したときの面積が求められている。
【0035】
摩擦円7の輪郭8内の面積は、例えば、表計算ソフトのマクロ(自動化機能)を用いて、自動的に計算されるのが好ましい。これにより、輪郭8内の面積を、短時間かつ正確に計算することが可能となる。輪郭8内の面積は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0036】
[摩擦円の面積を出力]
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、摩擦円7の輪郭8内の面積を出力する(工程S5)。本実施形態の工程S5では、
図1に示したコンピュータ1のディスプレイ装置1dや、プリンター(図示省略)等から、摩擦円7の輪郭8内の面積(
図7に示す)が出力される。
図7に示されるように、面積は、摩擦円7とともに出力されてもよい。
【0037】
摩擦円7の輪郭8の面積は、その値が大きいほど、前後加速度データ5及び横加速度データ6が、前後加速度及び横加速度の大きい範囲に分布していることを示している。したがって、輪郭8の面積が大きいほど、タイヤ3(
図3に示す)の摩擦の限界(グリップの限界)が高くなっており、限界旋回性能が優れていることを示している。
【0038】
一方、摩擦円7の輪郭8の面積は、その値が小さいほど、前後加速度データ5及び横加速度データ6が、前後加速度及び横加速度の小さい範囲に分布していることを示している。したがって、輪郭8の面積が小さいほど、タイヤ3(
図3に示す)の摩擦の限界(グリップの限界)が小さくなっており、限界旋回性能が劣っていることを示している。
【0039】
本実施形態では、摩擦円7の輪郭8内の面積が出力されることにより、面積の大きさに基づいて、評価対象のタイヤ3の旋回性能(限界旋回性能)を評価することが可能となる。
【0040】
[旋回性能を評価]
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、
図7に示した摩擦円7の輪郭8内の面積に基づいて、タイヤ3(
図3に示す)の旋回性能を評価する(工程S6)。旋回性能(限界旋回性能)の評価は、輪郭8内の面積に基づくものであれば、適宜実施される。
【0041】
上述したように、摩擦円7の輪郭8内の面積が大きいほど、旋回性能(限界旋回性能)が優れている一方、輪郭8の面積が小さいほど、限界旋回性能が劣っていることを示している。本実施形態では、輪郭8の面積が予め定められた閾値以上である場合に、タイヤ3(
図3に示す)の旋回性能(限界旋回性能)が良好であると評価している。閾値は、評価対象のタイヤ3に求められる旋回性能に応じて、適宜設定されうる。
【0042】
工程S6において、
図3に示したタイヤ3の旋回性能(限界旋回性能)が良好であると判断された場合(工程S6で「Yes」)、タイヤ3の設計因子に基づいて、タイヤ3が製造(生産)される(工程S7)。一方、工程S6において、タイヤ3の旋回性能(限界旋回性能)が不良であると判断された場合(工程S6で「No」)、タイヤ3の設計因子の変更及びタイヤ3が試作されて(工程S8)、工程S1~工程S6が再度実施される。これにより、タイヤ3の旋回性能(限界旋回性能)が良好なタイヤ3を、確実に設計及び製造(生産)することが可能となる。
【0043】
[タイヤの旋回性能の評価方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態の評価方法では、評価対象の一つのタイヤ3の摩擦円7が作成されたが、このような態様に限定されない。例えば、複数のタイヤの摩擦円7が作成されてもよい。
【0044】
この実施形態の評価方法では、第1タイヤ3A及び第2タイヤ3B(
図3に示す)の摩擦円が作成される場合が例示される。第1タイヤ3Aと第2タイヤ3Bとは、設計因子の少なくとも一部が互いに異なっている。
図8は、本開示の他の実施形態のタイヤの旋回性能の評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0045】
[第1摩擦円を作成]
この実施形態の評価方法では、先ず、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1タイヤ3Aの摩擦円である第1摩擦円を作成する(第1摩擦円作成工程S11)。
図9は、第1摩擦円作成工程S11の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0046】
この実施形態の第1摩擦円作成工程S11では、先ず、
図3に示されるように、第1タイヤ3Aを車両2に装着して、車両2を旋回走行させる工程S111が行われる。次に、第1タイヤ3Aを装着した車両2について、走行中に生じる前後加速度データ5及び横加速度データ6(
図3に示す)を複数回取得する工程S112が行われる。次に、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1タイヤ3Aの前後加速度データ5及び横加速度データ6を用いて第1摩擦円を作成する工程S113が行われる。これらの工程S111~S113は、これまでの実施形態の工程S1~3(
図2に示す)と同様の手順に基づいて実施される。
図10は、第1摩擦円7A及び第2摩擦円7Bを示すグラフである。
【0047】
[第2摩擦円を作成]
この実施形態の評価方法では、先ず、コンピュータ1(
図1に示す)が、第2タイヤ3Bの摩擦円である第2摩擦円7B(
図10に示す)を作成する(第2摩擦円作成工程S12)。
図11は、第2摩擦円作成工程S12の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0048】
この実施形態の第2摩擦円作成工程S12では、先ず、
図3に示されるように、第2タイヤ3Bを車両2に装着して、車両2を旋回走行させる工程S121が行われる。次に、第2タイヤ3Bを装着した車両2について、走行中に生じる前後加速度データ5及び横加速度データ6(
図4に示す)を複数回取得する工程S122が行われる。次に、コンピュータ1(
図1に示す)が、第2タイヤ3Bの前後加速度データ5及び横加速度データ6を用いて第2摩擦円7B(
図10に示す)を作成する工程S123が行われる。これらの工程S121~S123は、これまでの実施形態の工程S1~3(
図2に示す)と同様の手順に基づいて実施される。
【0049】
[第1摩擦円及び第2摩擦円を重ねたグラフを出力]
次に、この実施形態の評価方法では、
図10に示されるように、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1摩擦円7Aと第2摩擦円7Bとの差が判別可能なように、第1摩擦円7Aと第2摩擦円7Bとを重ねたグラフを出力する(工程S13)。この実施形態では、第1摩擦円7A及び第2摩擦円7Bのコントラストに差が付けられており、例えば、第1摩擦円7Aが明るく表示され、かつ、第2摩擦円7Bが暗く表示されている。これにより、第1摩擦円7Aと第2摩擦円7Bとを容易に判別することが可能となる。
【0050】
この実施形態の評価方法では、第1摩擦円7Aと第2摩擦円7Bとが重ねられることにより、第1摩擦円7Aの大きさと、第2摩擦円7Bの大きさとを直接比較することができる。これにより、第1タイヤ3Aと第2タイヤ3B(
図3に示す)との間において、旋回性能(限界旋回性能)の差を、目視にて容易に確認することができる。さらに、前後加速度及び横加速度のそれぞれの大きさについて、第1タイヤ3Aと第2タイヤ3Bとの間で比較することができる。したがって、この実施形態の評価方法では、第1タイヤ3A及び第2タイヤ3Bの旋回性能(限界旋回性能)を評価することができる。
【0051】
車両2を旋回走行させる工程S111(
図9に示す)及び工程S121(
図11に示す)では、第1タイヤ3Aを装着した車両2(
図3に示す)と、第2タイヤ3Bを装着した車両2(
図3に示す)とを、同一のサーキットで走行させる工程が含まれてもよい。この工程では、第1タイヤ3A及び第2タイヤ3Bについて、前後加速度データ5及び横加速度データ6(
図4に示す)がそれぞれ取得される。これにより、同一の条件で取得された前後加速度データ5及び横加速度データ6に基づいて、第1摩擦円7A及び第2摩擦円7Bが作成されるため、第1タイヤ3A及び第2タイヤ3Bの旋回性能(限界旋回性能)を高い精度で評価することが可能となる。
【0052】
[第1摩擦円及び第2摩擦円の面積を計算]
次に、この実施形態の評価方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1摩擦円7Aの第1輪郭内の面積、及び、第2摩擦円7Bの第2輪郭内の面積を計算する(工程S14)。
図12は、第1摩擦円7Aの第1輪郭8A、及び、第2摩擦円7Bの第2輪郭8Bを示すグラフである。本実施形態の工程S14では、これまでの実施形態の面積計算工程S4(
図2及び
図6に示す)と同一の処理手順に基づいて、第1輪郭8A内の面積、及び、第2輪郭8B内の面積がそれぞれ計算される。計算された第1輪郭8A内の面積、及び、第2輪郭8B内の面積は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0053】
[第1摩擦円及び第2摩擦円の面積を出力]
次に、この実施形態の評価方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1摩擦円7Aの第1輪郭8A内の面積、及び、第2摩擦円7Bの第2輪郭8B内の面積を出力する(工程S15)。工程S15は、これまでの実施形態の面積を出力する工程S5(
図2に示す)と同一の手順に基づいて、
図12に示されるように、第1摩擦円7A(第1タイヤ3A)の面積、及び、第2摩擦円7B(第2タイヤ3B)の面積がそれぞれ出力される。
【0054】
この実施形態では、第1摩擦円7Aの第1輪郭8A内の面積、及び、第2摩擦円7Bの第2輪郭8B内の面積がそれぞれ出力されることにより、第1摩擦円7Aと第2摩擦円7Bとの視覚的な差だけでなく、それぞれの面積の大きさで比較することができる。したがって、この実施形態の評価方法では、第1タイヤ3Aと第2タイヤ3Bとの旋回性能(限界旋回性能)の差を比較することが可能となる。また、
図12に示されるように、第1摩擦円7A(第1タイヤ3A)の面積、及び、第2摩擦円7B(第2タイヤ3B)の面積が、大きい順に並べられて表示されてもよいし、さらに、順位が表示されてもよい。これにより、第1タイヤ3Aの旋回性能と、第2タイヤ3Bの旋回性能とを、正確に評価することが可能となる。
【0055】
[旋回性能を評価]
次に、この実施形態の評価方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1摩擦円7Aの第1輪郭8A内の面積と、第2摩擦円7Bの第2輪郭8B内の面積に基づいて、第1タイヤ3Aの旋回性能と、第2タイヤ3Bの旋回性能との良否を評価する(工程S16)。旋回性能(限界旋回性能)の評価は、第1摩擦円7A及び第2摩擦円7Bの各面積に基づくものであれば、適宜実施される。
【0056】
工程S16では、第1摩擦円7Aの第1輪郭8A内の面積が、第2摩擦円7Bの第2輪郭8B内の面積よりも大きい場合に、第1タイヤ3Aが、第2タイヤ3Bよりも旋回性能(限界旋回性能)が良好であると評価される(工程S16で「第1タイヤ」)。この場合、第1タイヤ3Aの設計因子に基づいて、第1タイヤ3Aが製造(生産)される(工程S17)。
【0057】
一方、工程S16において、第2摩擦円7Bの第2輪郭8B内の面積が、第1摩擦円7Aの第1輪郭8A内の面積よりも大きい場合に、第2タイヤ3Bが、第1タイヤ3Aよりも旋回性能(限界旋回性能)が優れていると評価される(工程S16で「第2タイヤ」)。この場合、第2タイヤ3Bの設計因子に基づいて、第2タイヤ3Bが製造(生産)される(工程S18)。
【0058】
このように、この実施形態では、第1タイヤ3A及び第2タイヤ3Bのうち、タイヤの旋回性能(限界旋回性能)が良好なタイヤ3を、確実に設計及び製造(生産)することが可能となる。なお、第1摩擦円7Aの面積と第2摩擦円7Bの面積とが同一である場合や、摩擦円の面積が予め定められた閾値未満である場合には、第1タイヤ3A及び第2タイヤ2Bの設計因子が変更されて、第1摩擦円作成工程S11~工程S16が再度実施されてもよい。
【0059】
この実施形態では、
図12に示されるように、第1タイヤ3Aの第1摩擦円7Aと、第2タイヤ3Bの第2摩擦円7Bとを重ねたグラフが出力されたが、このような態様に限定されない。例えば、第1タイヤ3A及び第2タイヤ3Bとは異なる複数のタイヤ3(第3タイヤなど)の摩擦円(図示省略)が重ねられてもよい。これにより、複数のタイヤ3の旋回性能(限界旋回性能)を評価することが可能となる。
【0060】
この実施形態では、第1タイヤ3Aの第1摩擦円7Aと、第2タイヤ3Bの第2摩擦円7Bとが比較されたが、このような態様に限定されない。例えば、第1路面をタイヤ3で走行させたときの摩擦円(図示省略)と、第1路面とは異なる第2路面をタイヤ3で走行させたときの摩擦円(図示省略)とが比較されてもよい。これにより、異なる路面において発揮されるタイヤ3の旋回性能を評価することが可能となる。
【0061】
以上、本開示の特に好ましい実施形態について詳述したが、本開示は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0062】
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
【0063】
[本開示1]
タイヤの旋回性能を評価するための方法であって、
前記タイヤを車両に装着して、前記車両を旋回走行させる工程と、
走行中の前記車両に生じる前後加速度データ及び横加速度データを複数回取得する工程と、
コンピュータが、前記前後加速度データ及び前記横加速度データを用いて摩擦円を作成する工程と、
前記コンピュータが、前記摩擦円の輪郭内の面積を計算する工程と、
前記コンピュータが、前記面積を出力する工程とを含む、
タイヤの旋回性能の評価方法。
[本開示2]
前記コンピュータが、前記面積に基づいて、前記タイヤの旋回性能を評価する工程をさらに含む、本開示1に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
[本開示3]
前記評価する工程は、前記面積が大きいほど、前記旋回性能が良好であると評価する工程を含む、本開示2に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
[本開示4]
前記面積を計算する工程は、前記摩擦円を画像処理することにより、前記輪郭を抽出する工程を含む、本開示1ないし3のいずれかに記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
[本開示5]
前記コンピュータが、第1タイヤの摩擦円である第1摩擦円を作成する工程と、
前記コンピュータが、第2タイヤの摩擦円である第2摩擦円を作成する工程と、
前記コンピュータが、前記第1摩擦円と前記第2摩擦円との差が判別可能なように、前記第1摩擦円と前記第2摩擦円とを重ねたグラフを出力する工程とを含む、本開示1ないし4のいずれかに記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
[本開示6]
前記第1タイヤを装着した車両と、前記第2タイヤを装着した車両とを、同一のサーキットで走行させて、前記前後加速度データ及び前記横加速度データをそれぞれ取得する工程を含む、本開示5に記載のタイヤの旋回性能の評価方法。
【符号の説明】
【0064】
7 摩擦円
8 輪郭