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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130168
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/511 20060101AFI20230912BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C23C16/511
H05H1/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034683
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(72)【発明者】
【氏名】篠田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】滝 和也
(72)【発明者】
【氏名】田中 一平
(72)【発明者】
【氏名】吉本 悠里
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA05
2G084BB07
2G084BB12
2G084BB14
2G084CC06
2G084CC08
2G084CC16
2G084CC33
2G084DD37
2G084DD40
2G084DD42
2G084DD44
2G084DD51
2G084DD56
2G084FF21
2G084FF23
2G084HH20
2G084HH34
2G084HH45
4K030BA28
4K030FA01
4K030FA02
4K030GA02
(57)【要約】
【課題】被加工材料の表面に対する成膜処理を高速に行い、且つ広範囲に均一で高品質な皮膜を形成できる成膜装置を提供する。
【解決手段】導電性を有する被加工材料8を接地電位に接続する。被加工材料8外周周囲にシース拡大電極30を配置し、正のバイアス電圧を印加することで、被加工材料8の皮膜形成領域10に沿ってシース層が拡大される。マイクロ波供給口22の導入面22Dから被加工材料8にマイクロ波を導入し、シース層へ表面波として伝搬させる。皮膜形成領域10に沿って高密度プラズマが生成され、被加工材料8の皮膜形成領域10に高品質な皮膜が高速に形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する被加工材料を内部に配置可能な処理容器と、
前記処理容器にガスを供給するガス供給部と、
前記被加工材料の皮膜形成領域に沿ってプラズマを生成させるためのマイクロ波を供給するマイクロ波供給部と、
前記被加工材料の皮膜形成領域に沿うシース層を拡大させるバイアス電圧を前記被加工材料に印加する電圧印加部と、
前記マイクロ波供給部から供給される前記マイクロ波を前記被加工材料に導入する導入面を有し、前記導入面に対して前記処理容器内に突出するように配置された前記被加工材料に前記導入面から前記マイクロ波を導入し、前記バイアス電圧の印加によって前記被加工材料の皮膜形成領域に沿って拡大された前記シース層へ、表面波として伝搬させるマイクロ波導入口と
を備えた成膜装置であって、
前記被加工材料は電気的に前記電圧印加部の接地電位と同電位に接続されており、
前記被加工材料の突出方向において前記導入面に対して前記マイクロ波導入口とは反対側にて形成される前記シース層の厚みを拡大させるための電極であって、前記被加工材料の外側周囲に配置され、前記電圧印加部から供給される正のバイアス電圧が印加されるシース拡大電極を備えること
を特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記シース拡大電極は前記マイクロ波導入口における前記導入面の外側周囲を囲んで配置され、且つ前記処理容器内で前記突出方向へ向けて延びること
を特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記突出方向における前記シース拡大電極の先端は、前記被加工材料に皮膜を形成する領域として予め設定される皮膜形成領域における前記導入面側の縁部に対し、前記突出方向と直交する方向において対応する位置、又は前記突出方向とは逆方向側の位置にあること
を特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記シース拡大電極の前記先端は、前記マイクロ波導入口の前記導入面よりも前記突出方向に位置すること
を特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記シース拡大電極は、前記突出方向へ向けて、少なくとも5mm以上延びること
を特徴とする請求項3又は4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記シース拡大電極は、前記ガスが通過可能な編目又は織目を有し、金属製の素線を含む編物又は織物、若しくは前記ガスが通過可能な穴部を有する金属板によって形成され、前記被加工材料に皮膜を形成する領域として予め設定される皮膜形成領域を含む前記被加工材料の外側周囲を囲う電極であること
を特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記ガス供給部は、少なくとも炭化水素を含むガスを供給し、
前記成膜装置は、前記被加工材料にダイヤモンド膜を成膜すること
を特徴とする請求項1から6の何れかに記載の成膜装置。
【請求項8】
前記シース拡大電極と前記被加工材料とを電気的に絶縁する絶縁部材を備え、
前記マイクロ波導入口を透過して前記導入面から前記被加工材料に導入される前記マイクロ波の導入方向における前記絶縁部材の厚みは、前記マイクロ波の波長の1/4以下であること
を特徴とする請求項1から7の何れかに記載の成膜装置。
【請求項9】
前記シース拡大電極に印加される正のバイアス電圧は、接地電位との電位差が、プラズマの生成に必要な電位差よりも低い電圧であること
を特徴とする請求項1から8の何れかに記載の成膜装置。
【請求項10】
前記処理容器内で前記マイクロ波導入口を覆う金属製のカバーを備え、
前記マイクロ波導入口は、
前記マイクロ波供給部から供給される前記マイクロ波を前記処理容器内に案内する基部と、
前記基部から前記処理容器内へ向けて突出し、前記マイクロ波の導入方向に沿って延び、前記突出方向側の先端面である前記導入面から前記被加工材料に前記マイクロ波を導入する突出部と、
前記導入面に開口し、前記突出方向が前記マイクロ波の導入方向に沿う向きに凹部状に形成され、前記被加工材料の前記皮膜形成領域よりも前記突出方向の逆方向側を保持する凹部と
を有し、
前記カバーは、前記マイクロ波導入口の前記基部を覆い、前記マイクロ波の導入方向を前記基部から前記突出部の前記導入面へ向けた方向に限定すること
を特徴とする請求項1から9の何れかに記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工材料の表面に皮膜を形成する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材などの導電性を有する被加工材料の表面に成膜処理を行う装置が知られている。例えば特許文献1に記載の成膜装置は、被加工材料に負のバイアス電圧を印加し、マイクロ波供給口から供給するマイクロ波を、被加工材料の表面の皮膜形成領域に生成されたシース層に沿って伝搬させる。これによりプラズマが伸長し、原料ガスがプラズマによって分解されることで、被加工材料の表面に成膜処理が施される。特許文献1では、被加工材料の外側の周囲に補助電極を配置し、補助電極に接地電位又は正のバイアス電圧を印加する。これにより、マイクロ波供給口側とは反対側のシース層の厚みを拡大させてプラズマの密度の減衰を低減し、成膜処理能力の低下を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-69685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1では、被加工材料に負のバイアス電圧が印加されているため、ダイヤモンドなど導電性の低い皮膜を成膜しようとすると異常放電(所謂アーキング現象)が発生し、良好な品質の皮膜を形成することできなくなるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、被加工材料の表面に対する成膜処理を高速に行い、且つ広範囲に均一で高品質な皮膜を形成できる成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る成膜装置は、導電性を有する被加工材料を内部に配置可能な処理容器と、前記処理容器にガスを供給するガス供給部と、前記被加工材料の皮膜形成領域に沿ってプラズマを生成させるためのマイクロ波を供給するマイクロ波供給部と、前記被加工材料の皮膜形成領域に沿うシース層を拡大させるバイアス電圧を前記被加工材料に印加する電圧印加部と、前記マイクロ波供給部から供給される前記マイクロ波を前記被加工材料に導入する導入面を有し、前記導入面に対して前記処理容器内に突出するように配置された前記被加工材料に前記導入面から前記マイクロ波を導入し、前記バイアス電圧の印加によって前記被加工材料の皮膜形成領域に沿って拡大された前記シース層へ、表面波として伝搬させるマイクロ波導入口とを備えた成膜装置であって、前記被加工材料は電気的に前記電圧印加部の接地電位と同電位に接続されており、前記被加工材料の突出方向において前記導入面に対して前記マイクロ波供給口とは反対側にて形成される前記シース層の厚みを拡大させるための電極であって、前記被加工材料の外側周囲に配置され、前記電圧印加部から供給される正のバイアス電圧が印加されるシース拡大電極を備えることを特徴とする。
【0007】
成膜装置は、公知のMVP法(Microwave sheath-Voltage combination Plasma法)を用いた成膜処理を行うことで、被加工材料の表面に高密度且つ均一なプラズマを発生させて、高品質な皮膜を高速に形成できる。被加工材料の電位を接地電位とすることで、成膜装置はアーキング現象の発生を抑制し、高品質な皮膜を形成できる。また、シース拡大電極に正のバイアス電圧を印加することで、成膜装置は被加工材料の前記反対側に形成されるシース層の厚みを拡大させ、広範囲に均一な皮膜を形成できる。
【0008】
本態様において、前記シース拡大電極は前記マイクロ波導入口における前記導入面の外側周囲を囲んで配置され、且つ前記処理容器内で前記突出方向へ向けて延びてもよい。導入面の外側周囲をシース拡大電極が囲うので、導入面から被加工材料に導入されるマイクロ波がシース拡大電極の外側に漏れることがなく、成膜装置は、広範囲に均一で高品質な皮膜を高速に形成できる。
【0009】
本態様において、前記突出方向における前記シース拡大電極の先端は、前記被加工材料に皮膜を形成する領域として予め設定される皮膜形成領域における前記導入面側の縁部に対し、前記突出方向と直交する方向において対応する位置、又は前記突出方向とは逆方向側の位置にあってもよい。被加工材料の外側周囲をシース拡大電極が囲う部分には成膜されない。故に、シース拡大電極の先端の位置を設定することにより、成膜装置は、皮膜形成領域に確実に成膜処理を行うことができる。
【0010】
本態様において、前記シース拡大電極の前記先端は、前記マイクロ波導入口の前記導入面よりも前記突出方向に位置してもよい。MVP法による成膜処理では、マイクロ波導入口の導入面よりも突出方向に皮膜が形成される。導入面付近では、不完全な皮膜が形成される、所謂導入面汚れが生じやすい。故にシース拡大電極は、マイクロ波導入口の導入面よりも突出方向側に先端が位置することで、導入面汚れを防止できる。
【0011】
本態様において、前記シース拡大電極は、前記突出方向へ向けて、少なくとも5mm以上延びてもよい。シース拡大電極の突出方向の長さが5mm未満の場合、突出方向との直交方向における被加工材料とシース拡大電極との間にもプラズマが発生し、皮膜形成領域外に皮膜が形成される可能性がある。
【0012】
本態様において、前記シース拡大電極は、前記ガスが通過可能な編目又は織目を有し、金属製の素線を含む編物又は織物、若しくは前記ガスが通過可能な穴部を有する金属板によって形成され、前記被加工材料に皮膜を形成する領域として予め設定される皮膜形成領域を含む前記被加工材料の外側周囲を囲う電極であってもよい。ガスが通過可能なシース拡大電極を被加工材料の外周周囲を囲って配置することで、成膜装置は、皮膜形成領域を含む被加工材料の表面全体に、広範囲に均一で高品質な皮膜を高速に形成できる。
【0013】
本態様において、前記ガス供給部は、少なくとも炭化水素を含むガスを供給し、前記成膜装置は、前記被加工材料にダイヤモンド膜を成膜してもよい。被加工材料の電位を接地電位としたことで、成膜装置は導電性の低い皮膜を形成する場合に問題となるアーキング現象の発生を抑制できる。故に成膜装置は、ダイヤモンド等の導電性の低い皮膜であっても、広範囲に均一で高品質に、且つ高速に形成できる。
【0014】
本態様において、前記シース拡大電極と前記被加工材料とを電気的に絶縁する絶縁部材を備え、前記マイクロ波導入口を透過して前記導入面から前記被加工材料に導入される前記マイクロ波の導入方向における前記絶縁部材の厚みは、前記マイクロ波の波長の1/4以下であってもよい。故に成膜装置は被加工材料に供給されるマイクロ波の一部が絶縁部材を介して処理容器内に漏れてしまうことを防止できる。
【0015】
本態様において、前記シース拡大電極に印加される正のバイアス電圧は、接地電位との電位差が、プラズマの生成に必要な電位差よりも低い電圧であってもよい。シース拡大電極に印加される正のバイアス電圧によってプラズマが発生しないので、成膜装置は、被加工材料の皮膜形成領域に沿って形成されるシース層を確実に拡大することができる。
【0016】
本態様において、前記処理容器内で前記マイクロ波導入口を覆う金属製のカバーを備え、前記マイクロ波導入口は、前記マイクロ波供給部から供給される前記マイクロ波を前記処理容器内に案内する基部と、前記基部から前記処理容器内へ向けて突出し、前記マイクロ波の導入方向に沿って延び、前記突出方向側の先端面である前記導入面から前記被加工材料に前記マイクロ波を導入する突出部と、前記導入面に開口し、前記突出方向が前記マイクロ波の導入方向に沿う向きに凹部状に形成され、前記被加工材料の前記皮膜形成領域よりも前記突出方向の逆方向側を保持する凹部とを有し、前記カバーは、前記マイクロ波導入口の前記基部を覆い、前記マイクロ波の導入方向を前記基部から前記突出部の前記導入面へ向けた方向に限定してもよい。カバーによってマイクロ波の導入方向を導入面へ向けた方向に限定し、突出方向に沿わせることができるので、成膜装置は、より効率的に、被加工材料の皮膜形成領域に皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の成膜装置1の概略構成を示す図である。
図2】被加工材料の突出方向の位置におけるプラズマ発光輝度の分布を示すグラフである。
図3】変形例1のマイクロ波供給口22、被加工材料8、シース拡大電極130の配置を示す図である。
図4】変形例2のマイクロ波供給口22、被加工材料8、シース拡大電極230の配置を示す図である。
図5】変形例3のマイクロ波供給口22、被加工材料8、シース拡大電極330の配置を示す図である。
図6】変形例4のマイクロ波供給口22、被加工材料8、シース拡大電極430の配置を示す図である。
図7】第2実施形態のマイクロ波供給口22、被加工材料8、シース拡大電極530の配置を示す図である。
図8】変形例5のマイクロ波供給口22、被加工材料8、シース拡大電極630の配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
図面を参照し本発明の第1実施形態の成膜装置1を説明する。成膜装置1は、被加工材料8の表面に、ダイヤモンド皮膜を形成するための装置である。図1に示すように、成膜装置1は、処理容器2、真空ポンプ3、ガス供給部5、制御部6を備える。処理容器2はステンレス等の金属製であり、気密構造の容器である。処理容器2は、接地電位(GND)に電気的に接続されている。真空ポンプ3は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2の内部を真空排気可能なポンプである。処理容器2の内部には、成膜対象である導電性を有する被加工材料8が配置され、被加工材料8はマイクロ波供給口22によって支持される。
【0019】
被加工材料8は、本実施形態では超硬K10製穴加工用ドリルである。被加工材料8の材質は、皮膜形成領域10が導電性を有していれば、特に限定されるものではない。超硬K10とは、JIS B 4053:2013に記載される分類に基づく超硬合金である。被加工材料8は超硬K10に限ったものではなく、皮膜形成領域10に導電性を有していればよい。
【0020】
ガス供給部5には、例えばマスフローコントローラ(MFC)が用いられる。ガス供給部5は、処理容器2の内部に成膜用の原料ガスを供給する。原料ガスは、例えばメタンガス(CH)と水素ガス(H)であり、MFCの制御により、適度に混合して処理容器2内に供給される。また、図示しないが、処理容器2内には不活性ガスも供給される。制御部6は、装置全体の制御を司る。制御部6はCPU、ROM、RAM等を含む。
【0021】
成膜装置1では、処理容器2の内部に保持された被加工材料8に対してダイヤモンドの成膜処理を行うためのプラズマが発生される。成膜装置1は、プラズマを発生するため、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、DC電源15を備える。本実施形態では、特開2004-47207号公報に開示された方法(以下、「MVP法(Microwave sheath-Voltage combination Plasma法)」という。)により、表面波励起プラズマが発生される。以降の記載では、MVP法を説明する。
【0022】
マイクロ波パルス制御部11は制御部6の指示に従い、マイクロ波電源13にパルス信号を供給する。マイクロ波電源13は、制御部6の指示に従い、マイクロ波発振器12へ電力を供給する。マイクロ波発振器12は、制御部6の指示に従い2.45GHzのマイクロ波パルスを発振し後述するアイソレータ17に該マイクロ波パルスを供給する。
【0023】
マイクロ波パルスはマイクロ波発振器12からアイソレータ17、チューナー18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を経由し、被加工材料8の皮膜形成領域10に供給される。同軸導波管21は、図示しない同軸導波管変換器を介し、導波管19から突設される。マイクロ波供給口22は、石英などのマイクロ波を透過する誘電体等の部材である。アイソレータ17は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発振器12へ戻ることを防ぐものである。チューナー18は、マイクロ波の反射波が最小になるようにチューナー18前後のインピーダンスを整合するものである。
【0024】
マイクロ波供給口22は、処理容器2内へ向けて突出する突出部22Aと、突出部22Aを支持する基部22Bを有する。基部22Bは金属製のカバー23で覆われる。カバー23は処理容器2と電気的に接続されている。突出部22Aは、処理容器2内に開口する凹部22Cを有する。処理容器2内に開口する凹部22Cを有する。被加工材料8は凹部22Cに挿入される。故に、被加工材料8は処理容器2の内側において導波管19から離れる方向に突出するように配置される。尚、凹部22C内には、被加工材料8を支持する図示しない治具を設けてもよい。被加工材料8の上端には、図示しない電極が接続される。電極は接地電位(GND)と電気的に接続されている。即ち、被加工材料8の電位は、処理容器2と同電位の接地電位である。
【0025】
基部22Bのカバー23は、マイクロ波供給口22を透過したマイクロ波パルスの導入方向を限定する。カバー23は、導入方向以外の方向において基部22Bの外側を覆うことで、処理容器2内へのマイクロ波パルスの漏れを防ぐ。尚、マイクロ波供給口22の凹部22Cは、凹部22Cに挿入される被加工材料8が処理容器2内へ向けて突出する突出方向が導入方向に沿う向きとなるように、突出部22Aに形成されている。また、被加工材料8の一端側は、突出部22Aによって外側周囲が覆われている。覆われた部分にはプラズマが発生せず、皮膜が形成されない。即ち皮膜は、突出方向における突出部22Aの先端面である導入面22Dよりも突出方向側に形成される。尚、便宜上、突出方向における突出方向側を、突出方向の「上方」、突出方向とは反対側を、突出方向「下方」とよぶ場合がある。
【0026】
マイクロ波供給口22の突出部22Aの外側周囲には、シース拡大電極30が設けられる。シース拡大電極30は金属材料から形成される筒状の電極であり、ガスは透過しない。シース拡大電極30の突出方向側の先端30Aは、マイクロ波供給口22の突出部22Aの導入面22Dと突出方向において同じ位置にある。シース拡大電極30の突出方向の長さは、少なくとも5mm以上である。上限値は処理容器2内に収まる範囲である。シース拡大電極30の突出方向の長さが5mm未満の場合、プラズマがシース拡大電極30を乗り越えて、突出方向において皮膜形成領域(後述)とは反対側でダイヤモンド皮膜が形成される可能性がある。
【0027】
シース拡大電極30の下端部は基部22Bを覆うカバー23上に位置し、カバー23とシース拡大電極30の下端部の間に絶縁部材24が設けられる。絶縁部材24は突出部22Aの外周周囲を囲い、且つマイクロ波パルスの導入方向に厚みを有する円板状である。絶縁部材24は、シース拡大電極30とカバー23及び処理容器2とを電気的に絶縁する。絶縁部材24の厚みは、マイクロ波パルスの波長の1/4以下であり、電力の印加によって絶縁破壊が起きない厚さである。この構成により、マイクロ波供給口22を透過するマイクロ波パルスがカバー23とシース拡大電極30との間にある絶縁部材24を透過して、導入方向とは異なる方向に処理容器2内へ漏れ出すことが防止される。
【0028】
シース拡大電極30は正電圧パルス発生部16と電気的に接続し、正のバイアス電圧パルスが印加される。DC電源15は、制御部6の指示に従い、正電圧パルス発生部16に正のバイアス電圧を供給する。DC電源15の負極は、接地電位(GND)に電気的に接続されている。正電圧パルス発生部16は、DC電源15から供給された正のバイアス電圧をパルス化する。このパルス化の処理は、正電圧パルス発生部16が制御部6の指示に従い、正のバイアス電圧パルスの大きさ、周期、及びデューティ比を制御する処理である。
【0029】
マイクロ波パルス、及び正のバイアス電圧パルスの少なくとも一部が同一時間に印加されるように制御することにより、表面波励起プラズマが発生する。マイクロ波は2.45GHzに限らず、0.3GHz~50GHzの周波数であればよい。また、マイクロ波はパルス状のマイクロ波パルスであるが、連続するマイクロ波でもよい。尚、成膜装置1は、正電圧パルス発生部16の代わりに、DC電源15から、連続する正のバイアス電圧をシース拡大電極30に印加してもよい。
【0030】
処理容器2の側壁に設けられた窓27の外側近傍の位置に、放射温度計29が配置される。放射温度計29は、制御部6に電気的に接続される。放射温度計29は赤外線を受信し、受信した赤外線の強度を算出する。放射温度計29は、算出した赤外線の強度から被加工材料8の表面温度を算出し、被加工材料8の温度情報を制御部6に出力する。
【0031】
制御部6は、DC電源15とマイクロ波電源13に制御信号を出力してマイクロ波パルスの印加電力と正電圧パルスの印加電圧を制御する。制御部6は、正電圧パルス発生部16及びマイクロ波パルス制御部11に制御信号を出力することによって、パルス状の正のバイアス電圧パルスの印加タイミング、及び供給電圧と、マイクロ波発振器12から発生されるマイクロ波パルスの供給タイミング、及び供給電力とを制御する。
【0032】
制御部6は、ガス供給部5に流量制御信号を出力して原料ガス及び不活性ガスの供給を制御する。制御部6は、処理容器2に取り付けられた真空計26から入力される処理容器2内の圧力を表す圧力信号に基づいて、圧力調整バルブ7に制御信号を出力して、処理容器2内の圧力を制御する。
【0033】
[表面波励起プラズマの説明]
通常、表面波励起プラズマを発生させる場合、ある程度以上の電子(イオン)密度におけるプラズマと、これに接する誘電体との界面に沿ってマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は、この界面に電磁波のエネルギーが集中した状態で表面波として伝播される。その結果、界面に接するプラズマは高エネルギー密度の表面波によって励起され、さらに増幅される。これにより高密度プラズマが生成されて維持される。ただし、この誘電体を導電性材料に換えた場合、導電性材料は表面波の導波路としては機能せず、好ましい表面波の伝播及びプラズマ励起を生ずることはできない。
【0034】
一方、プラズマに接する物体の表面近傍には、本質的に単一極性の荷電粒子層、所謂シース層が形成される。物体が、接地電位に接続された被加工材料8の場合、シース層とは電子密度が低い層、即ち、正極性であって、マイクロ波の周波数帯においては比誘電率ε≒1の層である。このため、被加工材料8の外周周囲にシース拡大電極30を設け、被加工材料8を接地電位に接続し、シース拡大電極30に、接地電位よりも高い正のバイアス電圧を印加することで、被加工材料8の皮膜形成領域10に沿って形成されるシース層のシース厚さが厚くなり、即ちシース層が拡大する。このシース層が、プラズマとプラズマに接する物体との界面に表面波を伝播させる誘電体として作用する。尚、シース拡大電極30に印加される正のバイアス電圧は、接地電位との電位差が、プラズマの生成に必要な電位差よりも低くなるように設定した電圧である。
【0035】
故に、被加工材料8の一端に近接して配置されたマイクロ波供給口22からマイクロ波が供給され、被加工材料8の外側外周に配置されたシース拡大電極30に正のバイアス電圧が印加され、且つ被加工材料8が接地電位に接続されることによって、マイクロ波はシース層とプラズマとの界面に沿って表面波として伝搬する。この結果、被加工材料8の皮膜形成領域10に沿って表面波に基づく高密度励起プラズマが発生する。この高密度励起プラズマが、上述した表面波励起プラズマである。
【0036】
このMVP法では、マイクロ波供給口22に密着させて被加工材料8を配置し、被加工材料8の皮膜形成領域10に沿ってシース層が形成される。被加工材料8を接地電位に接続し、被加工材料8の外周周囲にシース拡大電極30を配置して正のバイアス電圧を印加することにより拡大されたシース層に沿って、表面波として伝搬するマイクロ波によって高密度プラズマが生成される。このプラズマの密度が高いので、被加工材料8は高速成膜される。被加工材料8は、同軸導波管21の中心導体と対向して配置されるので、マイクロ波が上方向に効率よく伝搬する。
【0037】
シース拡大電極30は、マイクロ波供給口22の突出部22Aの周囲を覆って被加工材料8の外周周囲に配置される。シース拡大電極の突出方向における長さは5mm以上が望ましく、本実施例では52.7mmである。被加工材料8のの皮膜形成領域10のうちシース拡大電極30が配置される領域には、シース拡大電極30との間に突出部22Aが配置されているため原料ガスが到達しにくく、ダイヤモンド皮膜は形成されにくい。即ち、成膜装置1は、被加工材料8の処理表面のうち、突出方向におけるシース拡大電極30の先端30Aよりも処理容器2内に突出する領域に、ダイヤモンド皮膜を形成できる。被加工材料8の処理表面において、ダイヤモンド皮膜を形成する対象とする領域を、皮膜形成領域10という。尚、皮膜形成領域は、被加工材料8の用途に応じて設定される。例えば、被加工材料8がドリルであれば、皮膜形成領域には溝長が設定される。例えば、被加工材料8がエンドミルであれば、皮膜形成領域には刃長が設定される。成膜装置1の使用者は、予め被加工材料8に設定した皮膜形成領域にダイヤモンド皮膜を形成するためには、突出方向におけるシース拡大電極30の先端30Aの位置が、皮膜形成領域のマイクロ波供給口22側における縁部(便宜上、皮膜形成領域の「下端」8Aとよぶ。)と同じ位置になるように、適切な大きさのシース拡大電極30、又はマイクロ波供給口22の凹部22Cに挿入する治具を選択すればよい。
【0038】
尚、従来技術の成膜装置では、被加工材料に負のバイアス電圧を印加するのに対し、本願の成膜装置1は、被加工材料8を接地電位に接続する。炭化水素系ガスを原料ガスとする場合、プラズマによって、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ(CNT)等、様々な構造の炭化物が生成される。被加工材料に付着したグラファイト、CNTは水素プラズマによって選択的にエッチングされるため、被加工材料の表面にはダイヤモンド薄膜が形成される。ダイヤモンドは導電性がなく、従来技術のように被加工材料に負のバイアス電圧を印加した場合、ダイヤモンドの表面に電荷がたまる。このため、たまった電荷と被加工材料の電位差によって異常放電(アーキング現象)が発生し、ダイヤモンド皮膜を破壊する。本実施形態の成膜装置1は被加工材料8の電位を接地電位とすることで、たまった電荷との電位差を小さくすることによるアーキング現象の発生を抑制できるので、ダイヤモンド皮膜の破壊を防止し、高品質なダイヤモンド皮膜を形成できる。
【0039】
このような構成の成膜装置1を用い、被加工材料8にダイヤモンド皮膜の形成を行って、皮膜の形成状態を確認する実験を行った結果を図2に示す。図2に示すグラフにおいて、横軸は、皮膜形成領域の下端8Aの位置を原点とした被加工材料8の突出方向の位置を示す。即ち、値が大きくなる程、マイクロ波供給口22から遠い位置を示す。縦軸は、プラズマ発光輝度を示す。
【0040】
原料ガスがプラズマによって分解されることで、被加工材料8の表面にダイヤモンド皮膜が形成される。成膜速度は、プラズマ密度が大きい程速くなることが知られている。故に、プラズマ密度と被加工材料8の表面に生成される膜厚には密接な相関があることも知られている。膜厚ばらつきを少なくするには、プラズマ密度分布が均一であることが求められる。プラズマ密度を測定する方法として、発光分光分析装置(OES)がある。OESで計測される発光輝度はプラズマから発生した励起光を示していることから発光輝度≒プラズマ密度≒膜厚となる。故に、成膜中の発光輝度分布を測定することにより、被加工材料8の表面に生成されるダイヤモンド皮膜の膜厚分布を推定することが可能である。即ち、図2における縦軸のプラズマ発光輝度値のばらつきが大きいほど膜厚分布が大きいことを示す。
【0041】
実験条件を以下に示す。被加工材料8は、直径10mm、全長が85mmで溝長50mmの超硬K10製切削工具である。尚、本実験においては皮膜形成領域10として被加工材料8の先端から50mmまでの領域を設定した。本願の成膜装置1のマイクロ波パルスは、電力が1500W、周波数が1kHz、デューティ比が50%となるように制御し、バイアス電圧パルスは、周波数が1kHz、電圧の値が+400Vとなるように制御し、Hが200sccm、CHが2sccmで供給され、圧力が2kPaとなるように制御した。また、比較例として、特開2016-69685号公報の図1に記載の成膜装置のマイクロ波パルスは、電力が1500W、周波数が1kHz、デューティ比が50%となるように制御し、バイアス電圧パルスは、周波数が1kHz、電圧の値が-500Vとなるように制御し、処理容器に、Hが200sccm、CHが2sccmで供給され、圧力が0.8kPaとなるように制御した。プラズマ発光輝度が測定された位置は、被加工材料8の下端8Aから突出方向に50mm離れた位置までの範囲である。本願の成膜装置1によるプラズマ発光輝度を示す実験データは、「●」で示す。従来技術の成膜装置によるプラズマ発光輝度を示す実験データは、「○」で示す。
【0042】
本願の実線データが示すように、プラズマ発光輝度は、皮膜形成領域10の下端8Aから突出方向に離れるにしたがって低下したが、皮膜形成領域の下端8Aから突出方向に50mmまでの領域においては、プラズマ発光輝度60%以上の値が得られた。即ち本願の実験データによれば、下端8Aから突出方向に50mmまでの領域においては、プラズマ発光輝度のばらつきが、±20%以内に収まるということが確認された。
【0043】
一方、従来技術の実験データが示すように、プラズマ発光輝度は、皮膜形成領域の下端8Aから突出方向に離れるにしたがって本願よりも大きく低下し、下端8Aから突出方向に50mmの領域におけるプラズマ発光輝度は、約20%であった。即ち、下端8Aから突出方向に50mmまでの領域におけるプラズマ発光輝度のばらつきは、±40%以内である。従来技術の実験データによれば、プラズマ発光輝度のばらつきが±20%以内に収まる領域は、下端8Aから突出方向に35mmまでの領域であることが確認された。
【0044】
従って、本願の成膜装置1を用いることで、従来技術における下端8Aから突出方向に35mmまでの領域よりも長い50mmまでの領域において、膜厚ばらつきが±20%以内に収まり、皮膜の厚さとして十分な品質を確保できる領域を確保できることがわかった。ダイヤモンド皮膜は、ドリルなど、穴加工用工具に多く用いられている。ドリルの場合、ダイヤモンド皮膜は溝長部にあたる部分に形成すると十分な効果を奏することから、溝長にあたる先端から50mmを皮膜形成領域10として設定する。本実施形態で用いたドリルの溝長は50mmであることから、ダイヤモンド皮膜は刃先から50mmの範囲で、膜厚ばらつき±20%以内が求められている。よって本願の成膜装置1は、十分な品質のダイヤモンド皮膜を高速に形成できる。また、成膜中に品質異常となるアーキング現象も発生しないことを確認した。
【0045】
以上説明したように、成膜装置1は、公知のMVP法を用いた成膜処理を行うことで、被加工材料8の表面に高密度且つ均一なプラズマを発生させて、高品質な皮膜を高速に形成できる。被加工材料8の電位を接地電位とすることで、成膜装置1はアーキング現象の発生を抑制し、高品質な皮膜を形成できる。また、シース拡大電極30に正のバイアス電圧を印加することで、成膜装置1は被加工材料8の突出方向において導入面22Dに対してマイクロ波供給口22とは反対側に形成されるシース層の厚みを拡大させ、広範囲に均一な皮膜を形成できる。
【0046】
シース拡大電極30は、マイクロ波供給口22の導入面22Dの外側周囲を囲う。故に導入面22Dから被加工材料8に導入されるマイクロ波がシース拡大電極30の外側に漏れることがなく、成膜装置1は、広範囲に均一で高品質な皮膜を高速に形成できる。
【0047】
被加工材料8の外側周囲をシース拡大電極30が囲う部分には成膜されない。故に、シース拡大電極30の先端30Aの位置を設定することにより、成膜装置1は、皮膜形成領域に確実に成膜処理を行うことができる。
【0048】
被加工材料8の電位を接地電位としたことで、成膜装置1は導電性の低い皮膜を形成する場合に問題となるアーキング現象の発生を抑制できる。故に成膜装置1は、ダイヤモンド等の導電性の低い皮膜であっても、広範囲に均一で高品質に、且つ高速に形成できる。
【0049】
マイクロ波供給口22の基部22Bのカバー23は処理容器2と同電位の接地電位である。故に、カバー23の突出方向側に配置され、正のバイアス電圧が印加されるシース拡大電極30は、カバー23と絶縁する必要がある。絶縁部材24は、カバー23とシース拡大電極30との間に設けられ、その厚みは、マイクロ波の波長の1/4以下である。故に、成膜装置1は被加工材料8に供給されるマイクロ波の一部が絶縁部材24を介して処理容器2内に漏れることを防止できる。
【0050】
<変形例1>
シース拡大電極30は、突出方向において、マイクロ波供給口22の導入面22Dと同じ位置に先端30Aを設けたが、これに限らない。例えば、図3に示すシース拡大電極130のように、突出方向における先端130Aの位置が、マイクロ波供給口22の導入面22Dよりも突出方向の下方側にあってもよい。変形例1の他の部分の構成は、第1実施形態と同様である。シース層は、シース拡大電極30から突出方向へ向けて被加工材料8の表面に沿って形成される。シース拡大電極130の先端130Aが導入面22Dよりも突出方向の下方側にある場合、突出方向における先端130Aの位置から導入面22Dの位置までの範囲において、被加工材料8は突出部22Aに覆われるのでダイヤモンド皮膜は形成されないが、導入面22Dから突出方向側には十分な品質のダイヤモンド皮膜を形成できる。よって変形例1の場合、突出方向における導入面22Dの位置が、皮膜形成領域の下端8Aとなるように、被加工材料8における皮膜形成領域が設定されるとよい。
【0051】
<変形例2>
例えば、図4に示すシース拡大電極230のように、突出方向における先端230Aの位置が、マイクロ波供給口22の導入面22Dよりも突出方向の上方側にあってもよい。シース拡大電極230は、先端230Aの位置を導入面22Dよりも突出方向の上方に延ばした形態であり、導入面22Dと先端230Aとの間には間隙がある。この間隙はマイクロ波供給口22の突出部22Aの厚み程度の大きさである。変形例2の他の部分の構成は、第1実施形態と同様である。導入面22Dと先端230Aとの間隙には原料ガスが入り込みにくいので、十分な品質の皮膜が形成されにくい。よって変形例2の場合、突出方向におけるシース拡大電極230の先端230Aの位置を、実質的に、皮膜形成領域の下端8Aとして調整できる。
【0052】
MVP法による成膜処理では、マイクロ波供給口22の導入面22Dよりも突出方向に皮膜が形成される。導入面22D付近では、不完全な皮膜が形成される、所謂導入面汚れが生じやすい。故にシース拡大電極230は、マイクロ波供給口22の導入面22Dよりも突出方向側に先端230Aが位置することで、導入面汚れを防止できる。
【0053】
<変形例3>
例えば、図5に示すシース拡大電極330のように、突出方向との直交方向において被加工材料8からシース拡大電極330を離し、マイクロ波供給口22のカバー23よりも突出方向との直交方向の外側に配置してもよい。変形例3の他の部分の構成は、第1実施形態と同様である。この場合、カバー23とシース拡大電極330が突出方向に並んで配置されないので、絶縁部材324はカバー23より突出方向との直交方向の外側で処理容器2とシース拡大電極330とを絶縁すればよく、厚みに規定を設ける必要がない。尚、シース拡大電極30より内側の露出部分にも皮膜が形成され得るので、マイクロ波供給口22の導入面22Dに不完全な皮膜が形成される導入面汚れが生じやすい。導入面汚れを抑制するため、導入面22Dは、カバー23の上面と略同じ位置に設けるとよい。
【0054】
<変形例4>
例えば、図6に示すように、被加工材料8の接地電位への接続は、マイクロ波供給口422を介して行ってもよい。マイクロ波供給口422は、突出部422Aと基部422Bを突出方向に貫通する貫通穴422Cを有する。基部422B側の貫通穴422Cには、接地電極421を設ける。接地電極421は、接地電位(GND)と電気的に接続する。被加工材料8は、突出部422A側の貫通穴422C内に保持する。被加工材料8は、貫通穴422C内で、接地電極421と電気的に接続する。変形例4の他の部分の構成は、第1実施形態と同様である。このような接地電極421を設けることで、処理容器2内で被加工材料8に直接電気的な接続を行う必要がなく、処理容器2内への被加工材料8の配置にかかる手間を軽減できる。上記実施例及び上記変形例におけるシース拡大電極の先端30A、130A、230A、330Aと皮膜形成領域10と距離は最も近い位置で0.1~20mmの間が望ましく、本実施例では1.5mmである。
【0055】
<第2実施形態>
以下、本発明の成膜装置1の第2実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。第1実施形態において、シース拡大電極30は、被加工材料8を処理容器2内で保持するマイクロ波供給口22の突出部22Aの外周周囲に配置した。図7に示すように、第2実施形態におけるシース拡大電極530は、金属製の素線を編み込んだ編物で形成した電極であり、ガスは編目を容易に通過できる。シース拡大電極530はマイクロ波供給口22の基部22Bのカバー23よりも突出方向との直交方向の外側に離れて配置され、突出方向に延びて被加工材料8の外周周囲を取り囲む。カバー23とシース拡大電極530が突出方向に並んで配置されないので、絶縁部材524はカバー23より突出方向との直交方向の外側で処理容器2とシース拡大電極530との間に設けられ、処理容器2とシース拡大電極530とを絶縁する。第2実施形態の他の部分の構成は、第1実施形態と同様である。
【0056】
ガスはシース拡大電極530の編目を容易に通過するので、被加工材料8の突出方向との直交方向において被加工材料8とシース拡大電極530との間には、十分な濃度の原料ガスが存在する。故に成膜装置1は、マイクロ波供給口22の導入面22Dよりも突出方向側における被加工材料8の皮膜形成領域10に、広範囲に均一で高品質な皮膜を高速に形成できる。
【0057】
<変形例5>
第2実施形態のシース拡大電極530は、被加工材料8の外周周囲のみならず、被加工材料8の全体を覆う形態であってもよい。例えば、図8に示すシース拡大電極630は、被加工材料8の外周周囲を覆いつつ被加工材料8よりも突出方向に長く延び、袋状に閉じる。シース拡大電極630は、第2実施形態と同様に、金属製の素線を編み込んだ編物で形成した電極であり、編目をガスが容易に通過できる。故に、シース拡大電極630の内側には、十分な濃度の原料ガスが存在する。よって成膜装置1は、マイクロ波供給口22の導入面22Dよりも突出方向側における被加工材料8の皮膜形成領域10に、広範囲に均一で高品質な皮膜を高速に形成できる。
【0058】
<その他の変形例>
第2実施形態のシース拡大電極530,630は編物で形成した電極であるが、金属製の素線を織り込み、織目をガスが容易に通過可能な織物で形成した電極でもよい。複数の貫通穴が形成されたパンチングメタルを筒状或いは袋状に形成し、ガスが容易に通過可能な電極でもよい。また、第1実施形態の変形例4は、第2実施形態においても適用できる。シース拡大電極530,630と皮膜形成領域との距離は最も近い位置で10~60mmの間が望ましく、本実施例では39mmである。
【0059】
第1、第2実施形態において、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、アイソレータ17、チューナー18、導波管19、及び同軸導波管21は、本発明の「マイクロ波供給部」の一例である。DC電源15は、本発明の「電圧印加部」の一例である。マイクロ波供給口22は、本発明の「マイクロ波導入口」の一例である。皮膜形成領域の下端8Aは、本発明の「縁部」の一例である。
【符号の説明】
【0060】
1 成膜装置
2 処理容器
5 ガス供給部
8 被加工材料
8A 下端
10 皮膜形成領域
11 マイクロ波パルス制御部
12 マイクロ波発振器
13 マイクロ波電源
15 DC電源
17 アイソレータ
18 チューナー
19 導波管
21 同軸導波管
22 マイクロ波供給口
22A 突出部
22B 基部
22C 凹部
22D 導入面
23 カバー
24 絶縁部材
30 シース拡大電極
30A 先端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8