(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130169
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】積層金型とその型締め機
(51)【国際特許分類】
B29C 43/36 20060101AFI20230912BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20230912BHJP
B29C 43/42 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C43/34
B29C43/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034684
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 明也
(72)【発明者】
【氏名】木下 稔夫
【テーマコード(参考)】
4F202
4F204
【Fターム(参考)】
4F202AA36
4F202AC04
4F202AJ09
4F202AM32
4F202CA09
4F202CB01
4F202CD16
4F202CD18
4F202CD30
4F202CK32
4F204AA36
4F204AC04
4F204AJ09
4F204AM32
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN11
4F204FN12
4F204FQ15
(57)【要約】
【課題】樹脂などの成形材料、特にバイオマス粉体材料を成形する場合の十分なガス抜きと流動性を実現しつつ安定した成形ができるようにする。
【解決手段】複数の金属薄板20を分解可能な状態で積層して構成された、積層方向Zとは異なる方向へ分割可能な割型構造であって、積層方向Zへの加圧ピンの圧力を受けて成形材料を圧縮成形する、圧縮成形用の積層金型1である。積層金型1は、位置決めピン30を挿通させるための挿通部を有していてもよい。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属薄板を分解可能な状態で積層して構成された、積層方向とは異なる方向へ分割可能な割型構造であって、積層方向への加圧ピンの圧力を受けて成形材料を圧縮成形する、圧縮成形用の積層金型。
【請求項2】
前記金属薄板は、レーザ切断にて加工されたものである、請求項1に記載の積層金型。
【請求項3】
位置決めピンを挿通させるための挿通部を有する、請求項1または2に記載の積層金型。
【請求項4】
前記金属薄板のうち、成形品のアンダーカットの部位または該アンダーカットに隣接した部位を成形する部分に、当該成形品に対して傾斜した面取り部が設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層金型。
【請求項5】
前記アンダーカットの横断面の形状が多角形である、請求項4に記載の積層金型。
【請求項6】
前記面取り部が、周方向に等間隔に設けられた複数の湾曲面で構成されている、請求項4または5に記載の積層金型。
【請求項7】
積層された前記金属薄板を分解した後、前記アンダーカットを成形するための金属薄板および前記面取り部が設けられた金属薄板の積層方向の位置が変更可能である、請求項4から6のいずれか一項に記載の積層金型。
【請求項8】
割型の接合面が非平面である、請求項1から7のいずれか一項に記載の積層金型。
【請求項9】
前記接合面が、積層方向に沿った平面視において非直線状に形成されている、請求項8に記載の積層金型。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の積層金型を型締める型締め機であって、
前記積層金型を挟み込む上プレートおよび下プレートと、
前記上プレートと前記下プレートとに型締め圧力を作用させる型締め手段と、
を備える、型締め機。
【請求項11】
前記積層金型の割型方向の両側部を抑えるサイドパネルをさらに備える、請求項10に記載の型締め機。
【請求項12】
前記サイドパネルの上被係合部を係合させる上係合部が前記上プレートに形成され、前記サイドパネルの下被係合部を係合させる下係合部が前記下プレートに形成されている、請求項11に記載の型締め機。
【請求項13】
前記上被係合部および前記上係合部の少なくとも一方、および前記下被係合部および前記下係合部の少なくとも一方に、型締め圧力の分力を生じさせ、前記積層金型の方へと向く力を前記サイドパネルに作用させる傾斜部が形成されている、請求項12に記載の型締め機。
【請求項14】
前記成形品の一部を凹形状とするコアをさらに備える、請求項10から13のいずれか一項に記載の型締め機。
【請求項15】
圧縮成形装置の加圧ピンが挿通可能な加圧用透孔が前記上プレートに設けられている、請求項10から14のいずれか一項に記載の型締め機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層金型とその型締め機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多品種少量の製品が望まれることが多くなり、これに伴って金型製作に係るコスト削減と納期短縮が強く要望されるようになっている。従来の一般的な金型は、鋳物または鋼材ブロックを切削加工にて造形し製作するというものであるが、鋳物の場合は鋳物製作に時間を要し、鋼材ブロックから削り出す場合には加工に多くの時間とコストがかかる。これに対し、上記のごとき要望に応えうるものとして、積層金型という考え方が生まれている。これは、形状の異なる薄い板材を積層して金型の3次元立体を形成するというものであり、例えばレーザ加工によって精密に切断した金属板を積層することによって金型形状をつくるといったことが行われている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、金型を使った樹脂成形法には射出成形法や圧縮成形法といったものがあるが、従来の積層金型は大多数が射出成形向きで、金型の冷却機能向上のために冷却用の水路を容易に設けられるようにしたものが多い。このため、積層部の接合とその後の機械加工が必要である。また、圧縮成形法は、プラスチック成形法のうち最も古い方法で、特に熱硬化性樹脂の代表的な成形法である。バイオマス粉体材料においても同成形法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のごとき樹脂成形法では、射出成形法と圧縮成形法のいずれにおいても成形時のガス発生と材料流動性は留意すべき課題となっており、特に、ガスに対する対応は重要な項目である。例えば、熱硬化性樹脂は、硬化するときの反応状態により、縮重合形と付加重合形の2種類に分けられるのであるが、縮重合形の樹脂は、加熱、反応促進剤により水、アンモニア、フェノール、ホルマリン等の揮発分が発生し、付加重合形の樹脂では、レジン同士がそのまま反応して大きな分子に成長するので揮発分はほとんど発生しないが、材料のすき間にある空気や水分はガスとして存在するので、縮重合形と同様にガスが発生するといった現象を生じさせる。これは、上記のようなバイオマス粉体材料を成形する場合においても同様であり、例えば漆を含んだ粉体材料を対象とした場合、漆の揮発成分と木粉材料に含まれる水分およびそのすき間にある空気がガスとして存在しており、ガス抜きを十分に行うことが課題となる。また、漆を含んだ粉体材料を対象とした場合には、材料流動性に劣り成形条件に大きな影響を与えることがあるため、従来の金型では安定した成形が困難であるという実情もある。
【0006】
そこで、本発明は、樹脂などの成形材料、特にバイオマス粉体材料を成形する場合の十分なガス抜きと流動性を実現しつつ安定した成形ができるようにした構造の積層金型とその型締め機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の金属薄板を分解可能な状態で積層して構成された、積層方向とは異なる方向へ分割可能な割型構造であって、積層方向への加圧ピンの圧力を受けて成形材料を圧縮成形する、圧縮成形用の積層金型である。
【0008】
上記のごとき積層金型によれば、積層された金属薄板と金属薄板との間からガス抜きされるようになる(別の表現をすれば、金型全体でガスベントが行われるようになる)結果、圧縮成形の過程における十分がガス抜きを実現しやすくなる(
図20参照)。また、積層金型によってこのようにガス抜きが十分に行われるようになるということは、液体の漏れ効果により材料の流動性ひいては成形性が向上することにつながる。これは、バイオマス粉体材料などを成形するような場合に特に顕著であり、このような粉体材料を安定して成形することに寄与する。
【0009】
上記のごとき積層金型において、金属薄板は、レーザ切断にて加工されたものであってもよい。
【0010】
上記のごとき積層金型は、位置決めピンを挿通させるための挿通部を有するものであってもよい。
【0011】
上記のごとき積層金型において、金属薄板のうち、成形品のアンダーカットの部位または該アンダーカットに隣接した部位を成形する部分に、当該成形品に対して傾斜した面取り部が設けられていてもよい。
【0012】
上記のごとき積層金型において、アンダーカットの横断面の形状が多角形であってもよい。
【0013】
上記のごとき積層金型において、面取り部が、周方向に等間隔に設けられた複数の湾曲面で構成されていてもよい。
【0014】
上記のごとき積層金型において、積層された金属薄板を分解した後、アンダーカットを成形するための金属薄板および面取り部が設けられた金属薄板の積層方向の位置が変更可能であってもよい。
【0015】
上記のごとき積層金型において、割型の接合面が非平面であってもよい。
【0016】
上記のごとき積層金型において、接合面が、積層方向に沿った平面視において非直線状に形成されていてもよい。
【0017】
本発明の別の態様は、上記のごとき積層金型を型締める型締め機であって、
積層金型を挟み込む上プレートおよび下プレートと、
上プレートと下プレートとに型締め圧力を作用させる型締め手段と、
を備える、型締め機である。
【0018】
上記のごとき型締め機は、積層金型の割型方向の両側部を抑えるサイドパネルをさらに備えていてもよい。
【0019】
上記のごとき型締め機において、サイドパネルの上被係合部を係合させる上係合部が上プレートに形成され、サイドパネルの下被係合部を係合させる下係合部が下プレートに形成されていてもよい。
【0020】
上記のごとき型締め機において、上被係合部および上係合部の少なくとも一方、および下被係合部および下係合部の少なくとも一方に、型締め圧力の分力を生じさせ、積層金型の方へと向く力をサイドパネルに作用させる傾斜部が形成されていてもよい。
【0021】
上記のごとき型締め機は、成形品の一部を凹形状とするコアをさらに備えていてもよい。
【0022】
上記のごとき型締め機において、圧縮成形装置の加圧ピンが挿通可能な加圧用透孔が上プレートに設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、樹脂などの成形材料、特にバイオマス粉体材料を成形する場合の十分なガス抜きと流動性を実現しつつ安定した成形ができるようにした構造の積層金型とその型締め機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態における、積層金型を構成する金属薄板の一例を示す平面図である。
【
図2】
図1中のII-II線における金属薄板の断面を示す図である。
【
図3】
図1に示す金属薄板の一部(丸で囲む部分)を拡大して示す図である。
【
図4】(A)形状修正がされていない金属薄板と、(B)成形品のアンダーカットの部位または該アンダーカットに隣接した部位を成形する部分に、当該成形品の中心軸に対して傾斜した面取り部を設けることで形状修正がされた金属薄板とを示す図である。
【
図5】形状修正がされていない金属薄板と形状修正がされた金属薄板とを上下に配置した状態を示す斜視図である。
【
図6】
図5の示した金属薄板を重ね合わせて積層した状態を示す斜視図である。
【
図7】所定枚数の金属薄板を積層してなる積層金型の一例を示す斜視図である。
【
図8】所定枚数の金属薄板を積層してなる積層金型の一例を示す正面図である。
【
図9】積層金型を挿入する前の状態の型締め機を示す斜視図である。
【
図10】積層金型を挿入して型締めをした後の状態の型締め機を示す斜視図である。
【
図11】積層金型を挿入して型締めをした後の状態の型締め機を示す平面図である。
【
図12】積層金型を挿入して型締めをした後の状態の型締め機を示す側面図である。
【
図13】
図11中のXIII-XIII線における型締め機等の断面を示す図である。
【
図14】成形品の一例としてのぐい飲み容器であって、アンダーカットの位置が異なるものの画像を(A)~(C)に示す図である。
【
図15】成形品としてのぐい飲み容器の一例を示す平面図である。
【
図16】成形品としてのぐい飲み容器の一例を示す正面図である。
【
図17】
図16中のXVII-XVII線におけるぐい飲み容器の断面形状を示す図である。
【
図18】
図15中のXVIII-XVIII線におけるぐい飲み容器の断面を示す図である。
【
図19】(A)アンダーカットの一部に欠けが生じた成形品、(B)形状修正がされた金属薄板を用いて成形した、アンダーカットの欠けがない成形品をそれぞれ示す画像である。
【
図20】(A)積層された金属薄板と金属薄板との間からガス抜きされる様子を表す、本発明の一態様における積層金型の概略的な断面図と、(B)コアと金型との間からのみガス抜きされる様子を表す、従来の積層金型の断面図である。
【
図21】金属薄板の厚みtと積層枚数を変更することにより圧縮成形時のガス等の漏れ量がどのように変化するのか検証するための実験装置の構成を示す図である。
【
図22】金属薄板の厚みtと積層枚数を変更することにより圧縮成形時のガスの漏れ量がどのように変化するのか検証するために行った実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る積層金型とその型締め機の好適な実施形態を詳細に説明する(
図1等参照)。
【0026】
本実施形態では、圧縮成形用の金属薄板20を複数用意し、それらを所定する積層して組み上げ、割型構造の積層金型10を構成したうえで、この積層金型10を型締め機100に固定して圧縮成形を行うこととしている。以下ではまず積層金型について説明し、続いて型締め機100について説明し、さらに、これを用いて行う圧縮成形やこれにより成形される成形品について説明する。
【0027】
[積層金型]
本実施形態の積層金型10は、型締め機100によって固定された状態でプランジャ220から積層方向(図中において符号Zで表す)への圧力を受けて樹脂などの成形材料を圧縮成形する金型である。本実施形態では、複数の金属薄板を分解可能な状態で積層して構成された、積層方向とは異なる方向へ分割可能な割型構造の積層金型10を用いる(
図7、
図13等参照)。
【0028】
金属薄板20は、複数が積層されることによって積層金型10を構成するように設けられた板材からなる(
図1、
図7等参照)。金属薄板20の形状は特に限定されないが、本実施形態では平面視でおよそ正方形状の薄板を採用している。金属薄板20の中央部には、成形品の外周面を形づくる型枠として機能する成形面21が設けられている。積層された金属薄板20の各成形面21とコア150との間に、樹脂などの成形材料を圧縮して成形品500を成形するための隙間となるキャビティ12が形成される(
図13参照)。
【0029】
本実施形態では、積層方向とは垂直な方向に分割可能な、対向する一対の薄板構成部材(本明細書ではこれらを割型と呼ぶ)20L,20Rを接合面24で接合して組み合わせることによって1枚の金属薄板20が構成されるようにしている(
図1等参照)。なお、対向する割型20L,20Rを分離、接合する方向を以下では便宜的に左右方向と称し、符号Xで表す(
図2等参照)。割型20L,20Rの接合面24の形状や構造は特に限定されるものではなく、平面的であってもよいし非平面であってもよい。本実施形態では、平面視において、山形状ないしは谷形状の凹凸によって構成される、左右方向Xとは垂直な方向(以下では便宜的に前後方向と称し、符号Yで表す)に延びる折れ線状の接合面24を設けている(
図1、
図3等参照)。接合面24をあらかじめこのような所定の凹凸形状としておくことで、対向する一対の割型20L,20Rどうしを接合して組み合わせる際、精度よく位置合わせすることを容易とした状態で金属薄板20が構成されるようにすることができる(
図1等参照)。また、このように、接合面24を直線状に延びる形状ではなくあえて途中で折れ曲がる折れ線状(非直線状)の形状とすることは、対向する接合面24どうしの接触領域が増え、これに伴い圧縮成型時のガスがこれら接合面24の接触領域の間から前後方向Yへ漏れるのが適度に抑えられ、結果的に、積層された状態の金属薄板20と金属薄板20との間からガス抜きされて金型全体でガスベントが行われるようになるという点でも好適である。
【0030】
積層されて積層金型10を構成する複数の金属薄板20のそれぞれには、位置決めピン30を挿通させるための挿通部25が設けられている(
図1、
図7等参照)。挿通部25に位置決めピン30を挿通することで、積層された複数の金属薄板20のすべての左右方向Xおよび前後方向Yの位置を揃えることができる(
図8等参照)。挿通部25の位置や個数は特に限定されるものではないが、本実施形態では矩形の金属薄板20の四隅に対称的に位置するように、割型20L,20Rのそれぞれに2つずつ計4つの挿通部25を設けている(
図1等参照)。
【0031】
各金属薄板20の左右方向Xにおける側部(割型20L,20Rどうしを接合し、あるいは分割する際の方向における側部)28は、金属薄板20を積層した際、面が揃って面一となるように形成されている(
図6~
図8等参照)。圧縮成形時、積層金型10は、型締め機100のサイドパネル130によってこれら側部28を介して左右方向に圧縮される(
図13等参照)。
【0032】
上記のごとく複数の金属薄板20を積層し、金属薄板20の各成形面21とコア150との間にキャビティ12を形成する構造とした本実施形態の積層金型10においては、成形面21が異なる金属薄板20を組み合わせることにより、異なる形状の成形品を成形することが容易である(別言すれば、型形状の自由度が増している)。例えば、成形品の一例としてコップ状の容器(以下、「ぐい飲み容器」と称する容器を例示しつつ説明する)300を成形する際、当該ぐい飲み容器300の外周に一部にくびれた凹形状のアンダーカット310を設ける場合には、当該アンダーカット310に対応する部分にのみ、他の部位の金属薄板20の成形面21とは形状や径が異なる成形面(アンダーカット成形面21u)を有する金属薄板(いわばアンダーカット成形用の金属薄板)20uを配置することで(
図5、
図6参照)、当該部分にアンダーカット310を成形することができる(
図14(A)
図16等参照)。また、金属薄板20を適宜に組み換え、アンダーカット成形用の金属薄板20uの位置を変えることでアンダーカット310の位置が異なるぐい飲み容器300を簡単に成形することができるし(
図14(B)、(C)参照)、複数の金属薄板20を積層する構造の本実施形態の積層金型10によればこのようなアレンジや応用やきわめて容易である。しかも、アンダーカット310の一部のみ形状を変更したいという場合や、複数の金属薄板20の一部に不良品がふくまれているといった場合においても、当該部分の金属薄板20のみを取り換えることでこれらに対応することができるため、使い勝手きわめて優れる。
【0033】
また、アンダーカット成形用の金属薄板20uのアンダーカット成形面21uの形状を適宜変更することで、ぐい飲み容器300のアンダーカット310の横断面形状を円形とすることも非円形とすることも可能である。一例をあげれば、アンダーカット成形用の金属薄板20uのアンダーカット成形面21uを多角形とすることで、アンダーカット310の部分のみ横断面形状が多角形であってその他の部分が断面円形であるという、持ちやすさといった実用性に優れかつデザインの面で優美なぐい飲み容器300を成形することができる(
図6、
図17等参照)。
【0034】
なお、上記のごとくアンダーカット310を成形した場合、当該アンダーカット310とそれ以外の部分の境目に段差が生じ、形状によっては段差が大きくなったり、段差が尖った形状となったりすることがある。このこと自体、問題はないが、バイオマス粉体材料を成形する場合、とくに、漆を含んだ粉体材料を成形する場合、ぐい飲み容器(成形品)300の当該段差部分において欠けが生じたり、欠けが生じやすくなったりすることがある(
図19(A)参照)。この点を鑑み、本実施形態では、金属薄板20のうち、ぐい飲み容器300のアンダーカット310の部位または該アンダーカット310に隣接した部位を成形する部分に、面取り部22を設けている(
図4~
図6等参照)。
【0035】
面取り部22は、上記のような凹形状のアンダーカット310の上下の角張った部分をなくして緩やかな形状とする(本明細書ではこれを「形状修正」と称する場合がある)ように設けられている。そのような形状であれば面取り部22の具体的な形状がとくに限定されることはないが、一例として、本実施形態では、ぐい飲み容器300の中心軸(
図18、さらに
図6において符号300Cで示す)に対して傾斜した面で面取り部22を構成している。より具体的には、アンダーカット310がない部分とアンダーカット310部分との境目に位置する金属薄板20の多角形の成形面21に、周方向に等間隔となるように複数の湾曲面を設けて面取り部22としている(
図5、
図6等参照)。このような面取り部22によれば、成形時、ぐい飲み容器300のアンダーカット310の周辺の段差部分を面取りして丸めて形状修正し、角張った部分がない緩やかな形状とすることができる。このようにして成形されたぐい飲み容器300、とくに漆を含んだような粉体材料で成形されるぐい飲み容器300は、当該段差部分で欠けが生じないようになり、かつ、アンダーカット310とそれ以外の部分とが円滑に繋がる形状となることから手でもったときに角張りを感じない質感のよいものとなり、さらにはデザインの面でも他にはない優美なものになりうる(
図19(B)等参照)。なお、積層された金属薄板20を分解した後、アンダーカット310を成形するための金属薄板20uおよび面取り部22が設けられた金属薄板20の積層方向の位置を適宜変更することによってアンダーカット310の位置が異なるぐい飲み容器300を簡単に成形することができることは上述したとおりである。
【0036】
上記のごとき金属薄板20の製造手段は特に限定されない。一例として、本実施形態では薄板の切断加工と、複雑な輪郭形状の切断といった面で有利なレーザ切断にて各金属薄板20を加工することとするが、他の手段を採用してももちろん構わない。
【0037】
[型締め機]
型締め機100は、積層金型10を型締めして固定するための型締めモールドベースによって構成される機器である。本実施形態の型締め機100は、上プレート110、下プレート120、サイドパネル130、クランプハンドル140、コア150などを備える(
図9~
図13参照)。
【0038】
上プレート110および下プレート120は、積層金型10を上下から挟み込む板状の部材である(
図9等参照)。上プレート110には、圧縮成形装置200のプランジャ220が挿通される加圧用透孔116が設けられている(
図13等参照)。また、上プレート110には、サイドパネル130の上被係合部131を係合させる上係合溝111が形成されている。また、下プレート120には、サイドパネル130の下被係合部132を係合させる下係合溝122が形成されている(
図13等参照)。これら上係合溝111および下係合溝122には、積層方向Zに沿った型締め圧力が作用した際に左右方向Xに沿った分力を生じさせ、積層金型10の方へと向く力をサイドパネル130に作用させる傾斜部111s,122sが形成されている(
図13等参照)。
【0039】
サイドパネル130は、金属薄板20の側部28がある面から積層金型10の両側部を割型方向に沿って(本実施形態の場合には、左右方向Xに沿って)抑えつけるように設けられた一対の部材である(
図10等参照)。サイドパネル130の上部には、上プレート110の上係合溝111に係合する上被係合部131が形成されている。また、サイドパネル130の下部には、下プレート120の下係合溝122に係合する下被係合部132が形成されている(
図13等参照)。これら上被係合部131および下被係合部132には、積層方向Zに沿った型締め圧力が作用した際に左右方向Xに沿った分力を生じさせ、積層金型10の方へと向く力をサイドパネル130に作用させる傾斜部131s,132sが形成されている(
図13等参照)。本実施形態では、これら傾斜部131s,132sの傾斜角と、上記の上係合溝111の傾斜部111sおよび下係合溝122の傾斜部122sのそれぞれの傾斜角とを等しくし、各部においてそれぞれ面接触するようにしている(
図13等参照)。ただし、このように各部における傾斜角を互いに等しくするのは好適な一例にすぎず、積層方向Zに沿った型締め圧力を作用させた際に楔の作用によって左右方向Xに沿った分力を生じさせ、積層金型10の方へと向く力をサイドパネル130に作用させるものである限り、具体的な態様はここに例示したものに限られることはない。
【0040】
クランプハンドル140は、上プレート110と下プレート120とに積層方向Zに沿った型締め圧力を作用させる型締め手段の一例として設けられているものである(
図9、
図10等参照)。本実施形態のクランプハンドル140は、下端部が下プレート120に係合した状態の型締めロッド142の上端部の回転軸142aに回転可能に接続されていて、当該クランプハンドル140を回転させるに伴い回転軸142aからの径(距離)が漸次大きくなる略渦巻き状の当接面144を介し、上プレート110に作用させる圧力を徐々に増大させるように設けられている(
図13参照)。本実施形態では、4つのクランプハンドル140やこれらに対応する型締めロッド142を上プレート110の四隅に配置し、偏りなく均等に圧力を作用させることができるようにしている(
図11、
図12等参照)。なお、クランプハンドル140は上記のとおり型締め手段として用いることができる構成の一例にすぎず、この他、ボルトやナットからなる締結部材などを型締め手段として用いることができることはいうまでもない。
【0041】
コア150は、成型品の一部を凹形状とするための内型となる部分である。本実施形態では、上向きに凸であるテーパー形状のコア150を下プレート120に設け、成形時、ぐい飲み容器300の内側面が、当該コア150の形状どおりの形となるようにしている(
図13等参照)。本実施形態では、下プレート120に対してコア150を着脱できる構造としている。こうした場合には、成形しようとするぐい飲み容器300の内側形状に応じてコア150のみを別の形状のものに取り換えることができる。
【0042】
なお、上記のごとき型締め機100においては、クランプハンドル(型締め手段)140よる型締め圧力が、良好なガスベントを実現するためにCAEによるシミュレーションで算出された結果に基づき設定されているとよい。
【0043】
[圧縮成形装置]
圧縮成形装置200は、積層金型10のキャビティ12内に充填された粉体材料をプランジャ(加圧ピン)220を用いて加圧成形する装置である。圧縮成形装置200自体は、以前から用いられている公知の装置であって構わない。なお、図中では、圧縮成形装置200のうちプランジャ220および該プランジャ220が取り付けられるプレート230のみを示し、装置全体の図示は省略している(
図13等参照)。
【0044】
上記のごとき積層金型10によれば、積層された金属薄板20と金属薄板20との間からガス抜きをすることで、金型全体でガスベントを行うことができるようになる(
図20参照)。一般に、バイオマス粉体材料を成形する場合、例えば漆を含んだ粉体材料(例示すれば、ウルシの樹液である「漆」と、スギ木粉などの植物繊維とを加熱・混錬して作成したバイオマス粉体材料や、これと同様の自然由来の材料など)を対象とした場合、漆の揮発成分と木粉材料に含まれる水分およびそのすき間にある空気がガスとして存在しており、材料流動性に劣り成形条件に大きな影響を与えることがあることからガス抜きを十分に行うことが課題となるところ、本実施形態の積層金型10によれば、成形材料の中に含まれるこれらのような揮発分や発生する気体、液体成分などを排出させやすい。このことから、従来の金型では安定した成形が困難であった場面においても、この積層金型10を用いることで材料の流動性を向上させることが可能となり、ガス抜きを十分に行うことで、成形品の成形不良や、外観不良となる「ふくれ」「ひび」「くもり」などの発生を抑制し、もって、安定した成形を実現することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態のごとき積層金型10によれば、異なった形状の金属薄板20の積層順番を変更する等により、例えば上述の実施形態においてはアンダーカット310の位置を異ならせた例を示したように(
図14参照)、違った形状の成形品を成形することや、金属薄板20の積層順番を変更することによりデザインを変更することが可能でありかつ容易である。
【0046】
また、バイオマス粉体のような材料を成形する場合、成形しようとする形状の違いによって事前に成形不良に対しての対策を講ずることは難しいが、本実施形態のごとき積層金型10によれば、都度分解し、別形状の金属薄板20に置き換えることが可能な、いわば低コストで製作できる分解可能な金型を実現しているので、容易に検証をすることが可能となる。実際、漆器をはじめとする漆製品などを成形対象とする場合には、大きさや形状が多岐にわたり、仕上げ工程など手間が掛かり、製品試作段階では型形状の決定が難しいという課題があり、かつ、ぐい飲み容器300をはじめとする成形品を製品化するには試作段階から金型が必要な上、生産量により金型償却費が増加することがあるといった課題もあるが、本実施形態の積層金型10を採用すればこれらのような課題にも対応しやすい。
【0047】
さらに付け加えるに、近年、環境負荷の低減に向け脱プラスチック化が進む中、自然由来の材料が注目されているという状況にあるところ、本実施形態に係る積層金型10とその型締め機100は、そうした新たな材料に対応することができることから、ひいては環境負荷の低減に寄与することができるものであるということもできる。
【0048】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態ではとくにバイオマス粉体材料を成形対象の一例として挙げつつ説明したが、これに限らず、圧縮成形法に用いられる成形材料すべてに本発明を適用することができることはいうまでもない。
【0049】
また、上述の実施形態では平面視、正面、左右といった表現を用いて説明したがこれらが便宜的な表現にすぎないものであることもまたいうまでもない。例えば、圧縮成形装置を横置きにして水平方向に圧縮するとすれば左右方向に圧縮するということになると表現できるかもしれないが、本発明の内容からすれば、そのような表面的な表現にとらわれることがないことは明らかである。
【実施例0050】
積層金型10において金属薄板20の厚みtが変わると圧縮成形時のガスの漏れ量がどのように変化するのか検証するべく実験装置400を用いて実験を行った(
図21、
図22参照)。
【0051】
実験装置400にて検証するための金型には、実際の圧縮成形にて用いられる積層金型1と同等の構造のものを採用した。この積層金型10は、幅(左右方向Xの長さ)55mm、縦(前後方向Yの長さ)50mmの矩形状の金属薄板20の中心に直径16mmの穴を空けて円形の成形面21とし、その左右に位置決めピン30を通すための直径6mmの挿通部25を開けた形状とした。下プレート120には液体投入用の穴を空けて3/16のテーパーねじにカプラーを取り付け、そのカプラーに2.5MPaの圧力が発生する手動レシプロポンプ406をホース(配管)407でつないだ(
図21参照)。溶液には漆溶液と同等の粘性を示すグリセリン溶液を使用した。なお、
図21中における符号402はプレス機、403は金型調温器、404は圧力計(型締め圧用)、405は圧力計(液圧力用)、408は溶液容器を示す。
【0052】
(実験用の積層金型の仕様)
・金属薄板の厚み:t=0.5mm、t=1.0mm、t=2.0mm、t=3.0mm、t=6.0mm、t=10mm
・金属薄板の材質:SUS304
・金属薄板の表面粗さ:Ra0.2~0.4μm
但しt=0.5~3.0までは一般的圧延板を使用し、t=6mm、t=10mmは機械加工とした。それぞれの金属薄板20を高さ(積層方向Zに沿った厚さ)30mmになるようにそれぞれ以下の枚数(t=0.5:60枚、t=1.0:30枚、t=2.0:15枚、t=3.0:10枚、t=6.0:5枚、t=10:3枚)を積層して型締めを行った。
【0053】
(実験条件)
・金型締め力:1000kg
・金型温度:45℃
・金型投入液:グリセリン溶液
・投入液圧力:2.5MPa
・液圧時間:60秒
【0054】
(ガス漏れ量の計測方法)
ろ紙を長さ200mm、幅29.5mmの大きさに切り出し、その切り出した用紙の重さを統一した。幅55mm、縦50mm、高さ30mmの実験用の積層金型1の外周にろ紙を巻き付け、漏れ出た液体(グリセリン)を吸わせて計量した。
【0055】
上記実験の結果を
図22に示す。また、当該実験における漏れ量の違いから得られた知見は以下のとおりである。
1. 金属薄板20を重ねた接面の隙間は、表面性状(表面粗さ)だけではなく、板厚公差及び平面度公差(表面のうねり・そり)に関係する。
2. 金属薄板20の板厚(厚みt)が薄い場合、板の強度が弱いため、型締めを行った時に板全体が変形(弾性変形)され金属薄板20同士の隙間が減少する。
3. 金属薄板20の板厚(厚みt)が厚くなっていくと、板の強度が増え、当該板全体の変形(弾性変形)も少なく、板の表面のそり、うねり(平面度)が変化しない為に隙間が維持され漏れ量が増える。
4. グラフ(
図22)から明かなとおり、厚みt=6.0mmと10mmの場合は極端に漏れ量が多くなった。