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特開2023-130185車両用装置、プログラム、車両用システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130185
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】車両用装置、プログラム、車両用システム
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/44 20060101AFI20230912BHJP
   G01P 3/48 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01P3/44 B
G01P3/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034713
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 晴美
(72)【発明者】
【氏名】榎園 和也
(72)【発明者】
【氏名】赤間 貞洋
(72)【発明者】
【氏名】近江 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】木田 喜啓
(57)【要約】
【課題】車輪の回転速度を把握することができる車両用装置、プログラム及び車両用システムを提供する。
【解決手段】車両用装置は、車輪を構成するホイール10の内側空間に、軸受50、レース部80、平面状の受信コイル及び励磁コイルを備えている。レース部80は、軸受50を構成する内輪52と一体回転する。レース部80は、金属部分と、軸受50の軸方向において貫かれた部分とが周方向において交互に設けられた構成になっている。受信コイルには、励磁コイルに励磁電圧が供給されている場合に電圧が誘起される。車両用装置は、受信コイルの出力電圧信号に基づいて、車輪の回転速度を算出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に適用される車両用装置において、
前記車両の車輪を前記車両の車体に対して回転可能に支持する軸受(50,350)と、
前記軸受の周方向に延びる円環状の検出対象部(81,82,84,85,87,88,310,370)と、
前記車体に対して固定されるとともに前記軸受の軸方向において前記検出対象部と対向する位置に前記検出対象部と非接触の状態で設けられ、前記軸方向と交差する方向に延びる平面状の受信コイル(110,120,130,140,150)と、
交流の励磁電圧が供給される励磁コイル(100)と、を備え、
前記検出対象部は、前記車輪の回転に伴って回転するように設けられ、
前記検出対象部は、
金属部分(81,312)と、前記軸受の軸方向において貫かれた部分(82,313)とが前記周方向において交互に設けられた構成、
前記軸方向に凹む凹部(88)と、前記凹部に対して前記軸方向に突出する凸部(87)とが前記周方向において交互に設けられた構成、又は
金属部分と非金属部分とが前記周方向において交互に設けられた構成
になっており、
前記受信コイルには、前記励磁コイルに前記励磁電圧が供給されている場合に電圧が誘起され、
前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪の回転速度を算出するパラメータ算出部(72,73)を備える、車両用装置。
【請求項2】
前記車両の走行動力源となるモータ(20,320)を備え、
前記モータは、周方向に極性が交互となる複数の磁極を形成する磁石ユニット(32)を含む回転子(30)を有し、
前記パラメータ算出部は、前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記回転子の回転角を更に算出する、請求項1に記載の車両用装置。
【請求項3】
前記受信コイルは、前記励磁コイルに前記励磁電圧が供給されている場合において、前記検出対象部の前記軸方向の変位、前記検出対象部の前記軸方向と直交する上下方向の変位、及び前記検出対象部の車長方向の変位のうち、少なくとも1つに応じた電圧信号を出力し、
前記パラメータ算出部は、前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪に作用する荷重を更に算出する、請求項1又は2に記載の車両用装置。
【請求項4】
前記車両の走行動力源となるモータ(320)を備え、
前記受信コイルは、前記励磁コイルに前記励磁電圧が供給されている場合において、前記検出対象部の前記軸方向の変位、前記検出対象部の前記軸方向と直交する上下方向の変位、及び前記検出対象部の車長方向の変位のうち、少なくとも1つに応じた電圧信号を出力し、
前記パラメータ算出部は、前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記モータの回転軸(321)に作用する荷重を更に算出する、請求項1に記載の車両用装置。
【請求項5】
算出された前記荷重に基づいて、前記車両の保守管理に係る処理を行う管理部(74~79)を備える、請求項3又は4に記載の車両用装置。
【請求項6】
前記管理部は、前記保守管理に係る処理として、
算出された前記荷重に基づいて、前記車輪に作用したストレスの累積値を算出する処理(74)と、
算出した前記累積値に基づいて、前記車両をメンテナンスすべき旨の情報を通知する処理(76)と、を行う、請求項5に記載の車両用装置。
【請求項7】
前記管理部は、前記保守管理に係る処理として、
算出された前記荷重に基づいて、前記車両の故障可能性があるか否かを判定する処理(79)を行う、請求項5に記載の車両用装置。
【請求項8】
前記管理部は、前記保守管理に係る処理として、
算出された前記荷重に基づいて、前記車輪に作用したストレスの累積値を算出する処理(74)と、
算出した前記累積値に基づいて、前記車両又は前記車両の構成部品のリユースが可能であるか否かの判定処理(77)と、を行う、請求項5に記載の車両用装置。
【請求項9】
前記管理部は、リユースが可能であると判定した場合、算出した前記累積値に基づいて、前記車両又は前記車両の構成部品のリユース価値の判定処理(74)を行う、請求項8に記載の車両用装置。
【請求項10】
前記管理部は、前記保守管理に係る処理として、
算出された前記荷重に基づいて、前記車輪に作用したストレスの累積値を算出する処理(74)と、
算出した前記累積値に基づいて、前記車両の構成部品の交換時期を判定する処理(76)と、を行う、請求項5に記載の車両用装置。
【請求項11】
前記軸受(50)は、外輪部材(51)、内輪部材(52)、及び前記外輪部材と前記内輪部材との間に設けられる転動体(53)を有し、前記車体に対して固定されるベース部(42)に対して前記車輪を回転可能に支持し、
前記軸受、前記検出対象部及び前記励磁コイルは、前記車輪を構成するホイール(10)の内側空間に設けられ、
前記受信コイルは、前記内側空間において前記ベース部に対して固定され、
前記外輪部材及び前記内輪部材のうち、一方である第1軸受部材(52)が前記車輪に対して固定され、他方である第2軸受部材(51)が前記ベース部に対して固定され、
前記検出対象部は、前記第1軸受部材と一体回転するように設けられている、請求項1~10のいずれか1項に記載の車両用装置。
【請求項12】
車両の車輪を前記車両の車体に対して回転可能に支持する軸受(50,350)と、
前記軸受の周方向に延びる円環状の検出対象部(81,82,84,85,87,88,310,370)と、
前記車体に対して固定されるとともに前記軸受の軸方向において前記検出対象部と対向する位置に前記検出対象部と非接触の状態で設けられ、前記軸方向と交差する方向に延びる平面状の受信コイル(110,120,130,140,150)と、
交流の励磁電圧が供給される励磁コイル(100)と、
コンピュータ(70,410,600)と、を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記検出対象部は、前記車輪の回転に伴って回転するように設けられ、
前記検出対象部は、
金属部分(81,312)と、前記軸受の軸方向において貫かれた部分(82,313)とが前記周方向において交互に設けられた構成、
前記軸方向に凹む凹部(88)と、前記凹部に対して前記軸方向に突出する凸部(87)とが前記周方向において交互に設けられた構成、又は
金属部分と非金属部分とが前記周方向において交互に設けられた構成
になっており、
前記受信コイルは、前記励磁コイルに前記励磁電圧が供給されている場合において、前記検出対象部の前記軸方向の変位、前記検出対象部の前記軸方向と直交する上下方向の変位、及び前記検出対象部の車長方向の変位のうち、少なくとも1つに応じた電圧信号を出力し、
前記コンピュータに、
前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪の回転速度を算出する処理と、
前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪に作用する荷重を算出する処理と、
算出した前記荷重に基づいて、前記車両の保守管理に係る処理と、を行わせる、プログラム。
【請求項13】
車両(400)に搭載された車両用装置と、前記車両に搭載された制御装置(410)と、通信ネットワーク(500)を介して前記制御装置と通信可能なサーバ(600)と、を備える車両用システムにおいて、
前記車両用装置は、
前記車両の車輪を前記車両の車体に対して回転可能に支持する軸受(50,350)と、
前記軸受の周方向に延びる円環状の検出対象部(81,82,84,85,87,88,310,370)と、
前記車体に対して固定されるとともに前記軸受の軸方向において前記検出対象部と対向する位置に前記検出対象部と非接触の状態で設けられ、前記軸方向と交差する方向に延びる平面状の受信コイル(110,120,130,140,150)と、
交流の励磁電圧が供給される励磁コイル(100)と、を備え、
前記検出対象部は、前記車輪の回転に伴って回転するように設けられ、
前記検出対象部は、
金属部分(81,312)と、前記軸受の軸方向において貫かれた部分(82,313)とが前記周方向において交互に設けられた構成、
前記軸方向に凹む凹部(88)と、前記凹部に対して前記軸方向に突出する凸部(87)とが前記周方向において交互に設けられた構成、又は
金属部分と非金属部分とが前記周方向において交互に設けられた構成
になっており、
前記受信コイルは、前記励磁コイルに前記励磁電圧が供給されている場合において、前記検出対象部の前記軸方向の変位、前記検出対象部の前記軸方向と直交する上下方向の変位、及び前記検出対象部の車長方向の変位のうち、少なくとも1つに応じた電圧信号を出力し、
前記制御装置は、
前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪の回転速度を算出する処理と、
前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪に作用する荷重を算出する処理と、
算出した前記荷重を前記通信ネットワークを介して前記サーバに送信する処理と、を行い、
前記サーバは、前記制御装置から送信された前記荷重を受信し、受信した前記荷重に基づいて、前記車両の保守管理に係る処理を行う、車両用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用装置、プログラム及び車両用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、車輪の回転速度に応じた信号を出力する車輪速センサと、車輪速センサの出力信号に基づいて車輪の回転速度を算出する制御装置とを備える車両が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2900001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車輪速センサに代えて、車輪の回転速度を把握可能な新たな構成が望まれている。
【0005】
本発明は、車輪の回転速度を把握することができる車両用装置、プログラム及び車両用システムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、車両に適用される車両用装置において、
前記車両の車輪を前記車両の車体に対して回転可能に支持する軸受と、
前記軸受の周方向に延びる円環状の検出対象部と、
前記車体に対して固定されるとともに前記軸受の軸方向において前記検出対象部と対向する位置に前記検出対象部と非接触の状態で設けられ、前記軸方向と交差する方向に延びる平面状の受信コイルと、
前記内側空間に設けられ、交流の励磁電圧が供給される励磁コイルと、を備え、
前記外輪部材及び前記内輪部材のうち、一方である第1軸受部材が前記車輪に対して固定され、他方である第2軸受部材が前記ベース部に対して固定され、
前記検出対象部は、前記車輪の回転に伴って回転するように設けられ、
前記検出対象部は、
金属部分と、前記軸受の軸方向において貫かれた部分とが前記周方向において交互に設けられた構成、
前記軸方向に凹む凹部と、前記凹部に対して前記軸方向に突出する凸部とが前記周方向において交互に設けられた構成、又は
金属部分と非金属部分とが前記周方向において交互に設けられた構成
になっており、
前記受信コイルには、前記励磁コイルに前記励磁電圧が供給されている場合に電圧が誘起され、
前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪の回転速度を算出するパラメータ算出部を備える。
【0007】
検出対象部が回転すると、励磁電圧が供給されている受信コイルからは、車輪の回転速度に応じた誘起電圧信号が出力される。このため、パラメータ算出部は、受信コイルの出力電圧信号に基づいて、車輪の回転速度を算出することができる。ここで、受信コイルは、軸受の軸方向と交差する方向に延びる平面状とされている。このため、受信コイルの小型化を図ることができる。以上説明した第1の発明によれば、車輪の回転速度を把握することができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記車両の走行動力源となるモータを備え、
前記モータは、周方向に極性が交互となる複数の磁極を形成する磁石ユニットを含む回転子を有し、
前記パラメータ算出部は、前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記回転子の回転角を更に算出する。
【0009】
第2の発明によれば、車輪の回転速度に加えて、モータの制御に用いられる回転子の回転角(例えば電気角)を算出することができる。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記受信コイルは、前記励磁コイルに前記励磁電圧が供給されている場合において、前記検出対象部の前記軸方向の変位、前記検出対象部の前記軸方向と直交する上下方向の変位、及び前記検出対象部の車長方向の変位のうち、少なくとも1つに応じた電圧信号を出力し、
前記パラメータ算出部は、前記受信コイルの出力電圧信号に基づいて、前記車輪に作用する荷重を更に算出する。
【0011】
第3の発明によれば、車輪の回転速度に加えて、車輪に作用する荷重を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る車輪の縦断面図。
図2】レース部の平面図。
図3】タイヤに横力が作用した場合に外輪に対して内輪が傾斜した状態を示す図。
図4】タイヤに垂直荷重が作用した場合における内輪の上下方向変位を示す図。
図5】検出ユニットを示す図。
図6】検出ユニット及び処理部の電気的構成を示す図。
図7】多層基板の平面視における励磁コイル及び第1,第2受信コイルの投影図。
図8】多層基板の1層目に形成された配線パターン及びビアを示す図。
図9】多層基板の2層目に形成された配線パターン及びビアを示す図。
図10】多層基板の3層目に形成された配線パターン及びビアを示す図。
図11】多層基板の4層目に形成された配線パターン及びビアを示す図。
図12】第1,第2受信コイル及び遮蔽部の相対位置関係を示す図。
図13】変位及び回転角の検出原理を説明するための図。
図14】変位及び回転角の検出原理を説明するための図。
図15】簡略化した第2受信コイルの平面図。
図16】受信コイルの出力電圧信号及びこの信号の包絡線の推移を示す図。
図17】第1,第2包絡線の推移を示す図。
図18】変位信号及び軸方向変位の関係を示す特性図。
図19】横力が作用した場合における包絡線の基準状態からの変化を示す図。
図20】垂直荷重が作用した場合における第1,第2受信コイル及び遮蔽部の相対位置関係を示す図。
図21】垂直荷重が作用した場合における包絡線の基準状態からの変化を示す図。
図22】変位信号及び上下方向変位の関係を示す特性図。
図23】第1,第2変位信号と、各変位ΔY,ΔZ、横力及び垂直荷重とが紐づけられた特性情報を示す図。
図24】第1実施形態の変形例に係るレース部の平面図。
図25】第1実施形態の変形例に係るレース部の斜視図。
図26】第1実施形態の変形例に係るレース部の平面図。
図27】第2実施形態に係る第1,第2受信コイル及び遮蔽部の相対位置関係を示す図。
図28】第3実施形態に係る受信コイルを示す図。
図29】基準状態における受信コイル及び遮蔽部の相対位置関係と、包絡線の推移とを示す図。
図30】横力が作用する場合における受信コイル及び遮蔽部の相対位置関係と、包絡線の推移とを示す図。
図31】垂直荷重が作用する場合における受信コイル及び遮蔽部の相対位置関係と、包絡線の推移とを示す図。
図32】第4実施形態に係るレース部及び検出ユニットを示す図。
図33】第5実施形態に係る車輪の縦断面図。
図34】第6実施形態に係る車輪の縦断面図。
図35】第7実施形態に係る車輪の縦断面図。
図36】レース部の平面図。
図37】第8実施形態に係る車両の保守管理処理の機能ブロック図。
図38】車輪に作用する荷重の統計値の算出方法の一例を示す図。
図39】車輪に作用する荷重の統計値の算出方法の一例を示す図。
図40】メンテナンス通知処理による通知時期の一例を示す図。
図41】メンテナンス通知処理による通知時期の一例を示す図。
図42】メンテナンス通知処理による通知時期の一例を示す図。
図43】車両の構成部品の寿命診断方法の一例を示す図。
図44】車両の構成部品の寿命診断及びリユース判定方法の一例を示す図。
図45】リユース判定方法の一例を示す図。
図46】リユース判定方法の一例を示す図。
図47】第9実施形態に係る車両用システムの全体構成図。
図48】その他の実施形態に係る車輪の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る車両用装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の車両用装置は、インホイールモータを備える車輪(駆動輪)に作用する力を算出可能に構成されている。車両は、例えば、2つの前輪及び2つの後輪を有する乗用の4輪車両である。ただし、車両としては、これに限らず、2輪車両等、4輪以外の車両であってもよい。また、車両の用途としては、乗用に限らない。
【0014】
図1に示すように、車輪は、ホイール10及びインホイールモータ20を備えている。ホイール10は、円筒状のリム部11と、リム部11のうち車幅方向外側の端部に設けられた円板上のディスク部12とを備えている。リム部11の外周には、タイヤ13が取り付けられている。
【0015】
インホイールモータ20は、リム部11及びディスク部12により囲まれたホイール10の内側空間に収容されており、ホイール10に回転動力を付与する。インホイールモータ20は、回転子30と、回転子30の径方向内側に配置された固定子40とを備えるアウタロータ型のモータである。
【0016】
回転子30は、円筒状の磁石保持部31と、磁石保持部31の内周面に設けられた磁石ユニット32とを備えている。磁石保持部31においてインホイールモータ20の軸方向(車両の車幅方向)の外側端から内側端までにわたって、リム部11の内周面と対向している。磁石ユニット32は、回転子30の回転中心軸線と同心の円筒状をなしており、磁石保持部31の内周面に固定された複数の磁石を有している。つまり、本実施形態のインホイールモータ20は表面磁石型の同期機(SPMSM)である。磁石ユニット32において、磁石は、回転子30の周方向に沿って極性が交互に変わるように並べられている。これにより、磁石ユニット32には、周方向に複数の磁極が形成されている。磁石は、例えば焼結ネオジム磁石である。ちなみに、インホイールモータ20としては、埋込磁石型の同期機(IPMSM)であってもよい。
【0017】
回転子30は、磁石保持部31のうち車幅方向外側端部に設けられ、磁石保持部31とディスク部12とを接続する円盤状の平板部33を備えている。平板部33には、ディスク部12がボルトにより固定されている。これにより、回転子30とホイール10とが一体回転する。
【0018】
固定子40は、径方向において磁石ユニット32と対向する位置に配置された円筒状の固定子巻線41と、固定子巻線41の径方向内側に設けられた円筒状の固定子ベース部42とを備えている。固定子巻線41は、径方向において磁石ユニット32と対向する位置に設けられたコイルサイド部と、コイルサイド部の軸方向両端に設けられたコイルエンド部とを備えている。
【0019】
固定子ベース部42は、例えばナックル等を介して車体に固定され、固定子巻線41等を保持する。固定子ベース部42は、車体に対して固定された円筒部43を備えている。円筒部43のうち径方向において固定子巻線41と隣り合う部分が固定子コア43aとされている。
【0020】
固定子ベース部42は、円筒部43の軸方向一端から径方向内側に延びる固定部44を備えている。固定部44及び軸受50により、固定子ベース部42に対して回転子30が回転可能に支持されている。固定部44のうち径方向外側端部は、平板部33側に突出する円環状の突出部45とされている。突出部45のうち平板部33に対向する部分は平坦面とされている。
【0021】
軸受50は、転がり軸受(例えばラジアル玉軸受)であり、「第1軸受部材」に相当する外輪51と、「第2軸受部材」に相当する内輪52と、外輪51及び内輪52の間に配置された複数の転動体53(例えば玉)とを備えている。外輪51は、ボルトにより固定部44に固定されている。内輪52は、径方向において外輪51と対向する円柱部52aと、円柱部52aの軸方向一端部から径方向外側に延びるフランジ部52bとを備えている。フランジ部52bは、ボルトにより平板部33及びディスク部12に固定されている。なお、図1には、内輪52と外輪51とが同軸になっている状態を示す。
【0022】
車両には、固定子巻線41に電気的に接続されたインバータと、インバータに電気的に接続された蓄電部とが備えられている。蓄電部は、車体に設けられ、例えばリチウムイオン蓄電池等の蓄電池である。インバータを構成する上,下アームスイッチのスイッチング制御は、制御装置により行われる。これにより、回転子30が回転し、車輪が回転する。なお、インバータ及び制御装置は、車体に設けられていてもよいし、インホイールモータ20に内蔵されていてもよい。
【0023】
ホイール10の内側空間には、「検出用回転部」に相当する円盤状のレース部80と、「変位検出部」に相当する検出ユニット90とが設けられている。レース部80及び検出ユニット90は、インホイールモータ20の回転子30の回転角(具体的には、電気角又は機械角)、車輪の回転速度、接地面(地面)GLと車輪(タイヤ13)との間に作用する横力Fy、及び接地面GLに対して垂直方向に接地面GLと車輪との間に作用する力(以下、垂直荷重Fz)を算出するために用いられる。横力が作用する方向と垂直荷重が作用する方向とは直交する。例えば、算出された回転角(電気角)は、制御装置においてインバータのスイッチング制御に用いられ、車輪の回転速度及び横力及び垂直荷重は、制御装置において車両の走行制御に用いられる。
【0024】
図1及び図2に示すように、レース部80は、円盤状をなし、金属材料(例えば、鉄又はアルミニウム)で構成されている。レース部80の中央部には、貫通孔が形成されている。レース部80のうち貫通孔の周縁部は、ディスク部12方向に屈曲する屈曲部80aとされている。屈曲部80aは、回転子30の平板部33の中央部に形成された貫通孔に嵌め込まれている。レース部80は、回転子30の平板部33から離間して、かつ、内輪52のフランジ部52bに面接触した状態で、ボルトにより固定されている。これにより、レース部80と内輪52とが同軸にされている。レース部80、回転子30及びホイール10は一体回転する。
【0025】
レース部80のうち径方向外側端部は、固定子ベース部42の突出部45と対向している。図2に示すように、レース部80の径方向外側端部には、金属部分である遮蔽部81と、レース部80の板厚方向に貫かれた切欠82とが周方向において交互に形成されている。遮蔽部81及び切欠82により、円環状の「検出対象部」が形成されている。本実施形態では、遮蔽部81の周方向長さL1と、切欠82の周方向長さL2とが等しくなっている。また、図2に示す例では、遮蔽部81及び切欠82が8組設けられている。なお、図2に示すLCiは、内輪52の中心軸線を示す。
【0026】
検出ユニット90は、いわゆる渦電流式のインダクティブセンサである。検出ユニット90は、図2図5及び図6に示すように、基板91と、基板91に設けられたコイル部92と、回路部93とを備えている。図2は、ホイール10側から見たレース部80を示す図である。図5は、ホイール10側から見た基板91を示す図である。基板91は、突出部45の平坦面に固定されている。これにより、基板91は、外輪51の軸方向と直交する方向に延びている。本実施形態では、基板91は、円環状の突出部45のうち上端部の平坦面に固定されている。
【0027】
図1及び図6に示すように、回路部93は、処理部70と電気的に接続されている。詳しくは、突出部45に挿通孔46が形成され、挿通孔46に挿通された配線を介して処理部70と回路部93とが電気的に接続されている。なお、処理部70は、車体に設けられていてもよいし、インホイールモータ20に内蔵されていてもよい。
【0028】
コイル部92は、励磁コイル100、第1受信コイル110及び第2受信コイル120を備えている。各コイル100,110,120は平面コイルである。回路部93は、集積回路で構成されている。回路部93は、図6に示すように、励磁コイル100に高周波の励磁電圧を供給する励磁回路94と、受信回路95とを備えている。励磁コイル100に励磁電圧が供給されると、励磁電圧と同じ又は同等の周波数の電圧が第1受信コイル110及び第2受信コイル120に誘起される。受信回路95は、各受信コイル110,120の両端の電圧を出力電圧信号として検出する。
【0029】
図1に示すように車輪に横力Fyが作用すると、図3に示すように、外輪51の中心軸線LCoに対する内輪52の中心軸線LCiの傾きθが大きくなる。この場合、各受信コイル110,120と、レース部80との軸方向距離が変化し、各受信コイル110,120の出力電圧信号の振幅が変化する。検出ユニット90は、この振幅変化に基づいて、レース部80の軸方向変位ΔYを算出し、算出した軸方向変位ΔYに基づいて、横力Fyを算出する。
【0030】
一方、車輪に垂直荷重Fzが作用すると、図4に示すように、外輪51の中心軸線LCoに対して直交する方向に、内輪52の中心軸線LCiが変位する。その結果、フランジ部52bに固定されたレース部80も変位する。この場合において、各受信コイル110,120の出力電圧信号の振幅が変化するように検出ユニット90が構成されている。この構成については、後に詳述する。検出ユニット90は、この振幅変化に基づいて、レース部80の軸方向及び車長方向と直交する方向における変位(以下、上下方向変位ΔZ)を算出し、算出した上下方向変位ΔZに基づいて、垂直荷重Fzを算出する。
【0031】
続いて、図7図11を用いて、コイル部92について説明する。本実施形態において、基板91は多層基板(具体的には4層の基板)であり、コイル部92を構成する励磁コイル100及び各受信コイル110,120は、多層基板上の配線パターンにより構成されている。図8図11には、レース部80側から基板91を見た場合における各層に形成された配線パターンを示す。図7(a)は、1層目の配線パターンに2~4層目の配線パターンを投影した図である。
【0032】
まず、励磁コイル100について説明する。励磁コイル100は、図8及び図9に示すように、基板91の板厚方向に隣接する1層目及び2層目に形成されている。各層の配線パターンは、励磁側ビアVIに充填された導体により電気的に接続されている。1層目には、配線パターンとして、励磁回路94に電気的に接続された第1励磁端部101と、第1励磁端部101から励磁側ビアVIまで時計回りに複数回(3回)周回して形成された第1励磁パターン102とが形成されている。2層目には、励磁回路94に電気的に接続された第2励磁端部103と、第2励磁端部103から励磁側ビアVIまで反時計回りに複数回(3回)周回して形成された第2励磁パターン104とが形成されている。これにより、6ターンの平面コイルの励磁コイル100が基板91に形成されている。励磁コイル100は、外輪51の周方向に延びる円弧状をなしている。
【0033】
続いて、第1受信コイル110について説明する。第1受信コイル110は、図8図11に示すように、1~4層目に形成されている。図10に示すように、3層目には、受信回路95に電気的に接続された第1受信端部111が形成されている。第1受信端部111には、第1AビアVA1を介して、1層目のパターン112の第1端が接続されている。パターン112の第2端には、第2AビアVA2を介して、2層目のパターン113の第1端が接続されている。パターン113の第2端には、第3AビアVA3、パターン114及び第4AビアVA4を介して、1層目のパターン115の第1端が接続されている。パターン115の第2端には、第5AビアVA5を介して、2層目のパターン116の第1端が接続されている。パターン116の第2端には、第6AビアVA6、パターン117及び第7AビアVA7を介して、4層目の第2受信端部118が接続されている。第2受信端部118は、受信回路95に接続されている。受信回路95は、第1受信端部111及び第2受信端部118の電位差を第1出力電圧信号v1として検出する。
【0034】
第1受信コイル110は、図7(a)に示すように、基板91の平面視において励磁コイル100に囲まれた領域に設けられている。また、第1受信コイル110は、励磁コイル100に励磁電圧が供給されている場合、第1受信コイル110の第1受信端部111及び第2受信端部118の間に第1極性の電圧を発生させる第1部分と、第1極性とは逆極性の第2極性の電圧を発生する第2部分とから構成されることとなる。詳しくは、図7(b)に示すように、基板91の平面視において、第1受信コイル110の周方向の中央部が1ターンの第1部分110Aとされ、第1受信コイル110のうち第1部分110Aの両端部が、第1部分110Aと同じターン数(1ターン)の第2部分110Bとされている。これにより、第1受信コイル110の周方向の中央軸線Ltに対して一方側の第1,第2部分110A,110Bのパターン形状と他方側の第1,第2部分110A,110Bのパターン形状とが上記中央軸線Ltに対して対称になっている。
【0035】
続いて、第2受信コイル120について説明する。第2受信コイル120は、図8図11に示すように、1~4層目に形成されている。図10に示すように、3層目には、受信回路95に電気的に接続された第3受信端部121が形成されている。第3受信端部121には、第1BビアVB1を介して、2層目のパターン122の第1端が接続されている。パターン122の第2端には、第2BビアVB2を介して、1層目のパターン123の第1端が接続されている。パターン123の第2端には、第3AビアVA3、パターン124及び第4BビアVB4を介して、1層目のパターン125の第1端が接続されている。パターン125の第2端には、第5BビアVB5を介して、2層目のパターン126の第1端が接続されている。パターン126の第2端には、第6BビアVB6、パターン127及び第7BビアVB7を介して、4層目の第4受信端部128が接続されている。第4受信端部128は、受信回路95に接続されている。受信回路95は、第3受信端部121及び第4受信端部128の電位差を第2出力電圧信号v2として検出する。
【0036】
第2受信コイル120は、図7(a)に示すように、基板91の平面視において励磁コイル100に囲まれた領域に設けられている。第2受信コイル120の周方向長さは、第1受信コイル110の周方向長さと同じである。第2受信コイル120の径方向長さは、第1受信コイル110の径方向長さよりも大きい。
【0037】
図7(c)に示すように、第2受信コイル120は、第1受信コイル110と同様に、第1部分120A及び第2部分120Bから構成されている。基板91の平面視において、第2受信コイル120の周方向の中央軸線Ltに対して一方側が第1部分120Aとされ、他方側が第2部分120Bとされている。
【0038】
第1受信コイル110及び第2受信コイル120において、中央軸線Ltから周方向端までの周方向長さは、遮蔽部81及び切欠82の周方向長さL1と同じである。また、図7(a)に示すように、基板91の平面視において、第2受信コイル120の周方向両端位置は、第1受信コイル110の周方向両端位置と同じである。
【0039】
基板91の平面視において、第2受信コイル120の径方向外側端の位置は、図12に示すように、外輪51の中心軸線LCoを中心とする第1同心円C1上に存在する。第1受信コイル110の径方向外側端の位置は、中心軸線LCoを中心とする第2同心円C2上に存在する。第2同心円C2の半径は、第1同心円C1の半径よりも小さい。第1受信コイル110の径方向内側端の位置は、中心軸線LCoを中心とする第3同心円C3上に存在する。第3同心円C3の半径は、第2同心円C2の半径よりも小さい。第2受信コイル120の径方向内側端の位置は、中心軸線LCoを中心とする第4同心円C4上に存在する。第4同心円C4の半径は、第3同心円C3の半径よりも小さい。
【0040】
第2受信コイル120の径方向外側端部は、基準状態における遮蔽部81の径方向外側端81aからはみ出している。基準状態は、任意に設定することができる。基準状態とは、例えば車両の停車状態であり、具体的には例えば水平な路面に車両が停車している状態である。図12に示すCPは、外輪51の中心軸線LCoを中心として、かつ、基準状態における遮蔽部81の径方向外側端81aを通る同心円CPである。
【0041】
続いて、図13図23を用いて、検出ユニット90によって変位及び回転角を検出できる原理について説明する。
【0042】
まず、図13及び図14を用いて、この原理の概要について説明する。図13に示すように、励磁コイルに高周波の励磁電圧vr(t)が供給されると、励磁コイルに高周波電流が流れる。その電流により磁束φ(t)が発生し、磁束φ(t)が受信コイルを鎖交する。受信コイルの両端には、鎖交磁束の時間変化率に比例した電圧ve(t)が誘起される。
【0043】
図14には、金属部分である遮蔽部により受信コイルの一部が覆われた状態を示す。遮蔽部のうち受信コイルと対向する部分には、励磁コイルの通電に伴う鎖交磁束により渦電流が流れる。この渦電流により、受信コイルに誘起電圧を発生させる磁束を弱める向きに磁束が発生し、受信コイルの誘起電圧の振幅が小さくなる。つまり、受信コイルの両端の電位差の振幅は、受信コイルのうち遮蔽部に覆われていない面積に比例する。
【0044】
図13及び図14の説明事項を踏まえ、図15及び図16を用いて、第2受信コイル120を例にして検出原理について説明する。図15及び図16は、図7等に示した第2受信コイル120及び遮蔽部81を、周方向を直線状にして示した図である。図16は、第2受信コイル120及び遮蔽部81の相対的な位置関係と、第2受信コイル120の第2出力電圧信号v2の推移とを示す図である。
【0045】
図15及び図16において、第2受信端部118から第1受信端部111へと電流が流れる方向(I+)を正方向と称し、第1受信端部111から第2受信端部118へと電流が流れる方向(I-)を負方向と称すこととする。また、図15及び図16では、紙面手前側から奥側に、励磁コイル100からの磁束が通過する。
【0046】
図16の時刻t1において、第1部分120Aの中央側の半分と、第2部分120Bの中央側の半分とが遮蔽部81により覆われている。第1部分120Aには正方向に電流を流そうとする電圧が誘起され、第2部分120Bには負方向に電流を流そうとする電圧が誘起される。その結果、第1部分120Aで発生する誘起電圧と第2部分120Bで発生する誘起電圧とが打ち消し合い、第2出力電圧信号v2の振幅が0となる。
【0047】
時刻t2において、第1部分120A及び第2部分120Bのうち第2部分120Bが遮蔽部81により覆われる。この場合、第1部分120Aには正方向に電流を流そうとする電圧が誘起され、第2部分120Bの誘起電圧が0となる。その結果、第2出力電圧信号v2の振幅が第1極性(正極性)側の最大値となる。この最大値は、レース部80が第2受信コイル120に近づくほど大きくなる。
【0048】
時刻t3において、第1部分120Aの端部側の半分と、第2部分120Bの端部側の半分とが遮蔽部81により覆われている。第1部分120Aには正方向に電流を流そうとする電圧が誘起され、第2部分120Bには負方向に電流を流そうとする電圧が誘起される。その結果、第1部分120Aで発生する誘起電圧と第2部分120Bで発生する誘起電圧とが打ち消し合い、第2出力電圧信号v2の振幅が0となる。
【0049】
時刻t4において、第1部分120A及び第2部分120Bのうち第1部分120Aが遮蔽部81により覆われる。この場合、第2部分120Bには負方向に電流を流そうとする電圧が誘起され、第1部分120Aの誘起電圧が0となる。その結果、第2出力電圧信号v2の振幅が、第1極性とは逆極性の第2極性(負極性)側の最大値となる。この最大値は、レース部80が第2受信コイル120に近づくほど大きくなる。
【0050】
本実施形態では、レース部80の径方向外側端部に遮蔽部81及び切欠82が交互に形成されている。このため、回転子30の回転中において、第2受信コイル120の第2出力電圧信号v2の振幅は周期的に変化し、図16及び図17に破線にて示すように、第2出力電圧信号v2の包絡線(以下、第2包絡線ENV2)は、正弦波状になる。例えば、磁石ユニット32の磁極位置の周方向間隔と、遮蔽部81及び切欠82の周方向長さとを関係付けて設定することにより、振幅又は包絡線と電気角θeとを対応付けることができる。
【0051】
本実施形態では、励磁コイル100に励磁電圧が供給されている場合において、第2受信コイル120の第2出力電圧信号v2に対する第1受信コイル110の第1出力電圧信号v1の位相差が90度である。このため、図17に一点鎖線にて示すように、第2包絡線ENV2に対する第1出力電圧信号v1の包絡線(以下、第1包絡線ENV1)の位相差も90度である。
【0052】
図17に示すように、第2包絡線ENV2の振幅は、第1包絡線ENV1の振幅よりも小さい。これは、図7(a)に示すように、基板91の平面視において、第2受信コイル120により囲まれる面積が第1受信コイル110により囲まれる面積よりも大きいためである。
【0053】
受信回路95は、基準状態における第1包絡線ES1の振幅に対する実際の第1包絡線ENV1の振幅のずれ量を第1変位信号として処理部70に出力する。また、受信回路95は、基準状態における第2包絡線ES2の振幅に対する実際の第2包絡線ENV2の振幅のずれ量を第2変位信号として処理部70に出力する。本実施形態では、基準状態における第1,第2変位信号が0となるように受信回路95が構成されている。各変位信号は、各出力電圧信号v1,v2の正極性側の振幅最大値及び負極性側の振幅最大値が出現するたびに更新される。
【0054】
車輪に作用する横力が変化する場合について説明する。
【0055】
横力の方向が車幅方向外側を向いている場合、レース部80の上端部が固定子ベース部42側に近づき、下端部がホイール10側に近づくように外輪51に対して内輪52が傾く。この場合における軸方向変位ΔY及び各変位信号の極性を、図18に示すように正とする。軸方向変位ΔYが正方向に大きくなるほど、各変位信号が正方向に大きくなる。これは、図19(a)に示すように、レース部80が第1,第2受信コイル110,120に近づくほど、基準状態における第1,第2包絡線ES1,ES2に対して、実際の第1,第2包絡線ENV1,ENV2が大きくなるためである。
【0056】
横力の方向が車幅方向内側を向いている場合、レース部80の下端部が固定子ベース部42側に近づき、上端部がホイール10側に近づくように外輪51に対して内輪52が傾く。この場合における軸方向変位ΔY及び各変位信号の極性を、図18に示すように負とする。軸方向変位ΔYが負方向に大きくなるほど、各変位信号が負方向に大きくなる。これは、図19(b)に示すように、レース部80が第1,第2受信コイル110,120から離れるほど、基準状態における第1,第2包絡線ES1,ES2に対して、実際の第1,第2包絡線ENV1,ENV2が小さくなるためである。一方、基準状態における第1,第2変位信号は0となる。
【0057】
続いて、車輪に作用する垂直荷重が変化する場合について説明する。
【0058】
図20に、基準状態における各受信コイル110,120及び遮蔽部81の相対位置関係を示す。図20は、図7等に示した第1,第2受信コイル110,120及び遮蔽部81を、周方向を直線状にして示した図である。図中、ハッチングにて示す部分は、各受信コイル110,120のうち遮蔽部81により覆われる部分である。図21(a)に、基準状態における各包絡線の推移を示す。
【0059】
上向きの垂直荷重が増加する場合、レース部80の上端部が上側に変位する。この場合における上下方向変位ΔZ及び各変位信号の極性を、図22に示すように正とする。上下方向変位ΔZが正方向に大きくなるほど、各変位信号が正方向に大きくなる。これは、図20(b)に示すように、レース部80が上側に変位するほど、第2受信コイル120のうち遮蔽部81により覆われる面積が増加し、図21(b)に示すように、基準状態における第1,第2包絡線ES1,ES2に対して、実際の第1,第2包絡線ENV1,ENV2が大きくなるためである。
【0060】
一方、下向きの垂直荷重が増加する場合、レース部80の上端部が下側に変位する。この場合における上下方向変位ΔZ及び各変位信号の極性を、図22に示すように負とする。上下方向変位ΔZが負方向に大きくなるほど、各変位信号が負方向に大きくなる。これは、図20(c)に示すように、レース部80が下側に変位するほど、第2受信コイル120のうち遮蔽部81により覆われる面積が減少し、図21(c)に示すように、基準状態における第1,第2包絡線ES1,ES2に対して、実際の第1,第2包絡線ENV1,ENV2が小さくなるためである。
【0061】
図18に示すように、軸方向変位ΔYの単位変化量あたりの第2変位信号の変化量である第2横力係数K2yは、軸方向変位ΔYの単位変化量あたりの第1変化信号の変化量である第1横力係数K1yよりも大きい。これは、基板91の平面視において、第2受信コイル120により囲まれる面積が第1受信コイル110により囲まれる面積よりも大きいためである。
【0062】
図22に示すように、上下方向変位ΔZの単位変化量あたりの第2変位信号の変化量である第2垂直荷重係数K2zは、上下方向変位ΔZの単位変化量あたりの第1変化信号の変化量である第1垂直荷重係数K1zよりも大きい。これは、基板91の平面視において、第2受信コイル120により囲まれる面積が第1受信コイル110により囲まれる面積よりも大きいためである。
【0063】
また、第2垂直荷重係数K2zは第2横力係数K2yよりも小さく、第1垂直荷重係数K1zは第1横力係数K1yよりも小さい。これは、例えば、車輪における上下方向の剛性が車幅方向の剛性よりも大きいことに起因する。本実施形態では、「K2y>K1y>K2z>K1z」の関係になっている。
【0064】
以上から、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZの組み合わせと、第1変位信号及び第2変位信号の組み合わせとを一義的に紐づけることができる。このため、処理部70を構成する変位算出部71は、第1,第2変位信号と、第1,第2変位信号、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZを算出する。
【0065】
処理部70を構成する力算出部72は、算出された軸方向変位ΔYと、軸方向変位ΔY及び横力Fyが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、横力Fyを算出する。力算出部72は、算出された上下方向変位ΔZと、上下方向変位ΔZ及び垂直荷重Fzが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、垂直荷重Fzを算出する。
【0066】
なお、上記マップ情報又は数式情報は、処理部70が備える記憶部(例えば不揮発性メモリ)に記憶されていればよい。また、力算出部72は、第1,第2変位信号と、第1,第2変位信号、横力Fy及び垂直荷重Fzが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、横力Fy及び垂直荷重Fzを算出してもよい。第1,第2変位信号と、マップ情報又は数式情報とに基づく荷重の算出は、第1,第2変位信号が登場する以下の各実施形態においても同様に適用できる。
【0067】
処理部70を構成する角度算出部73は、第1出力電圧信号v1及び第2出力電圧信号v2の少なくとも一方に基づいて、回転子30の回転角(例えば電気角θe)を算出する。
【0068】
具体的には例えば、角度算出部73は、第1包絡線ENV1又は第2包絡線ENV2に基づいて、電気角θeを算出すればよい。これは、包絡線が出力電圧信号の振幅の推移を示す情報であること、及び出力電圧信号の振幅が回転角に依存することに基づく算出方法である。
【0069】
また、例えば、角度算出部73は、第1出力電圧信号v1、第2出力電圧信号v2及び励磁電圧vrを入力として、同期検波及びローパスフィルタを用いることにより、電気角θeを算出すればよい。この算出方法は、デジタルトラッキング方式のものであり、例えば、特開2015-073407の明細書の段落0028~0030に記載されている。
【0070】
角度算出部73は、第1包絡線ENV1又は第2包絡線ENV2に基づいて、車輪の回転速度を算出する。この算出方法は、レース部80の回転中において、レース部80の回転速度が高いほど、包絡線の周波数が高くなることに基づく方法である。角度算出部73及び力算出部72が「パラメータ算出部」に相当する。
【0071】
なお、角度算出部73は、算出した電気角の時間微分値に基づいて、車輪の回転速度を算出してもよい。
【0072】
以上詳述した本実施形態によれば、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZを適正に算出することができ、ひいては横力Fy及び垂直荷重Fzの算出精度を高めることができる。また、1つの検出ユニット90及び処理部70により、車輪に作用する荷重に加えて、車輪の回転速度及び電気角を算出することができる。このため、車載センサの数を削減することができる。
【0073】
各受信コイル110,120は、軸受50の軸方向と交差する方向に延びる平面状とされている。このため、各受信コイル110,120の小型化を図ることができる。平面状であるため、ホイール10の内側空間において軸方向に広いスペースを確保できない場合であっても、各受信コイル110,120を配置しやすい。
【0074】
固定子ベース部42のうち、径方向において軸受50から離れた位置であって、軸方向においてレース部80の径方向端部と対向する位置に、検出ユニット90が設けられている。レース部80のうち軸方向において検出ユニット90と対向する部分は、軸受50から径方向外側に離れた部分である。このため、車輪に横力が作用する場合において、レース部80のうち軸方向において検出ユニット90と対向する部分の軸方向の変位を大きくすることができる。その結果、軸方向変位ΔYの検出精度を高めることができ、ひいては車両のばね下を構成する車輪の横力Fyの算出精度を高めることができる。
【0075】
インホイールモータ20をアウタロータ型の構成としたため、レース部80の径方向端部を、軸受50から径方向に大きく離れた位置に配置することができる。これにより、軸方向変位ΔYの検出精度を高めることができる。
【0076】
第1受信コイル110及び第2受信コイル120が、固定子巻線41を構成するコイルエンド部よりも軸方向においてホイール10側に設けられている。これにより、固定子巻線41への通電に伴うノイズ等が第1受信コイル110及び第2受信コイル120の誘起電圧に及ぼす影響を抑制できる。その結果、軸方向変位ΔY、上下方向変位ΔZ及び回転角の検出精度を高めることができる。
【0077】
<第1実施形態の変形例>
・レース部は、図1等に示した構成に限らず、例えば、以下(A),(B)の構成であってもよい。
【0078】
(A)図24に示すように、レース部83には、遮蔽部85と、レース部を貫く開口84とが周方向において交互に設けられている。なお、図24の83aは、図1及び図2に示す屈曲部80aに相当する。また、開口84の周方向長さが図2の切欠82の周方向長さに対応する。
【0079】
(B)図25及び図26に示すように、レース部83には、レース部83の平坦面から内輪52の軸方向に突出する凸部87と、レース部83の平坦面から軸方向に突出するとともに凸部87に対して内輪52の軸方向に凹む凹部88とが周方向において交互に設けられている。なお、凸部87の周方向長さが図2の遮蔽部81の周方向長さに対応し、凹部88の周方向長さが図2の切欠82の周方向長さに対応する。凹部88及び凸部87が設けられていることにより、回転子30の回転中において、各受信コイル110,120とレース部83との軸方向距離が変化する。この変化を利用して、第1実施形態と同様に、軸方向変位ΔYを検出することができる。
【0080】
・第2受信コイル120の径方向長さと、第1受信コイル110の径方向長さとが同じであってもよい。また、第2受信コイル120の径方向外側端の位置と、第1受信コイル110の径方向外側端の位置とが同じであり、第2受信コイル120の径方向内側端の位置と、第1受信コイル110の径方向内側端の位置とが同じであってもよい。この場合、検出ユニット90及び処理部70により、車輪に作用する荷重として、横力Fyを算出することはできる。
【0081】
ちなみに、この場合、基板91に形成される2つの受信コイルが、同じ形状のコイル(例えば第2受信コイル120)であってもよい。この場合、2つの受信コイルの誘起電圧の位相が同じになる。
【0082】
<第2実施形態>
本実施形態では、図27に示すように、第1受信コイル130及び第2受信コイル140の形状が変更されている。図27は、第1,第2受信コイル130,140及び遮蔽部81を、周方向を直線状にして示した図である。第1受信コイル130は、第1実施形態の第1受信コイル110に対応し、第2受信コイル140は、第1実施形態の第2受信コイル120に対応している。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0083】
第1受信コイル130の径方向寸法と、第2受信コイル140の径方向寸法とは同じである。基板91の平面視において、第2受信コイル140の径方向外側端の位置は、外輪51の中心軸線LCoを中心とする第1同心円CA上に存在する。第1受信コイル130の径方向外側端の位置は、中心軸線LCoを中心とする第2同心円CB上に存在する。第2同心円CBの半径は、第1同心円CAの半径よりも小さい。第2受信コイル140の径方向外側端部は、基準状態における遮蔽部81の径方向外側端81aからはみ出している。
【0084】
本実施形態においても、図18及び図22に示すような特性がある。このため、変位算出部71及び力算出部72により、第1実施形態と同様に算出処理を行うことができる。
【0085】
<第3実施形態>
本実施形態では、2つの受信コイルに代えて、1つの受信コイルの出力電圧信号に基づいて、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZが算出される。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0086】
図28は、受信コイル150を、周方向を直線状にして示した図である。受信コイル150は、第1実施形態の第2受信コイル120に対応し、第1部分150A及び第2部分150Bを有している。受信コイル150は、基板91に形成されている。第1部分150A、第2部分150B及び遮蔽部81の周方向寸法は同じである。
【0087】
基板91の平面視において、第1部分150Aの径方向外側端の位置は、外輪51の中心軸線LCoを中心とする第1同心円Cα上に存在する。第2部分150Bの径方向外側端の位置は、中心軸線LCoを中心とする第2同心円Cβ上に存在する。第2同心円Cβの半径は、第1同心円Cαの半径よりも小さい。第1部分150Aにより囲まれる面積は、第2部分150Bにより囲まれる面積よりも大きい。第1部分150Aの径方向外側端部は、基準状態における遮蔽部81の径方向外側端81aからはみ出している。
【0088】
続いて、図29図31を用いて、1つの受信コイル150の出力電圧信号に基づいて、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZを算出できる理由について説明する。
【0089】
図29には、基準状態における受信コイル150及び遮蔽部81の相対位置関係と、基準状態における上記出力電圧信号の包絡線(以下、基準包絡線ES)の推移とを示す。図29(a)には、受信コイル150の平面視において、第1部分150Aの一部が遮蔽部81により覆われている状態を示す。図29(b)には、レース部80が回転し、第1部分150A及び第2部分150Bの一部が遮蔽部81により覆われている状態を示す。図29(c)には、レース部80が更に回転し、第2部分150B全てが遮蔽部81により覆われている状態を示す。
【0090】
基準包絡線ESにおいて、相対的に小さい小振幅と、相対的に大きい大振幅とが交互に出現する。図31には、基準包絡線ESのゼロクロスタイミングをts0にて示す。図29において、受信コイル150と遮蔽部81との相対位置関係が(a)の場合における基準包絡線ESは時刻tsaの値(つまり、小振幅)となり、(b)の場合における基準包絡線ESは時刻tsbの値となり、(c)の場合における基準包絡線ESは時刻tscの値(つまり、大振幅)となる。
【0091】
続いて、図30に、車輪に車幅方向内側の横力が作用する場合における受信コイル150及び遮蔽部81の相対位置関係と、出力電圧信号の包絡線ENVの推移とを示す。図30において、受信コイル150と遮蔽部81との相対位置関係が(a)の場合における包絡線ENVは時刻tyaの値(つまり、小振幅)となり、(b)の場合における包絡線ENVは時刻tybの値となり、(c)の場合における基準包絡線ESは時刻tycの値(つまり、大振幅)となる。
【0092】
車幅方向内側の横力が車輪に作用すると、遮蔽部81が受信コイル150から離れるように変位する。この場合、包絡線ENVの小振幅は、基準包絡線ESの小振幅よりも小さくなり、包絡線ENVの大振幅は、基準包絡線ESの大振幅よりも小さくなる。また、包絡線ENVのゼロクロスタイミングty0が、基準包絡線ESのゼロクロスタイミングts0から遅れる。
【0093】
一方、車幅方向外側の横力が車輪に作用すると、遮蔽部81が受信コイル150に近づくように変位する。この場合、包絡線ENVの小振幅は、基準包絡線ESの小振幅よりも大きくなり、包絡線ENVの大振幅は、基準包絡線ESの大振幅よりも大きくなる。また、包絡線ENVのゼロクロスタイミングty0が、基準包絡線ESのゼロクロスタイミングts0よりも早まる。
【0094】
したがって、包絡線の大振幅及び小振幅と、基準包絡線ESのゼロクロスタイミング及び包絡線ENVのゼロクロスタイミングのずれ量とに基づいて、軸方向変位ΔYを把握することができる。
【0095】
続いて、図31に、車輪に作用する上向きの垂直荷重が増加する場合における受信コイル150及び遮蔽部81の相対位置関係と、出力電圧信号の包絡線ENVの推移とを示す。図31において、受信コイル150と遮蔽部81との相対位置関係が(a)の場合における包絡線ENVは時刻tzaの値(つまり、小振幅)となり、(b)の場合における包絡線ENVは時刻tzbの値となり、(c)の場合における基準包絡線ESは時刻tzcの値(つまり、大振幅)となる。
【0096】
基準状態に対して上向きの垂直荷重が増加すると、遮蔽部81が上側に変位する。この場合、包絡線ENVの小振幅は、基準包絡線ESの小振幅よりも大きくなる。これは、第1部分150Aにおいて遮蔽部81により覆われる面積が増加し、第2部分150B側で発生する電位差を打ち消そうとする第1部分150Aの誘起電圧が小さくなるためである。また、包絡線ENVの大振幅は、基準包絡線ESの大振幅から変化しない。これは、遮蔽部81が上側に変位した場合であっても、第2部分150Bの径方向外側端が遮蔽部81からはみ出さないためである。
【0097】
基準状態に対して上向きの垂直荷重が増加すると、包絡線ENVのゼロクロスタイミングtz0が、基準包絡線ESのゼロクロスタイミングts0から遅れる。
【0098】
一方、基準状態に対して下向きの垂直荷重が増加すると、遮蔽部81が下側に変位する。この場合、包絡線ENVの小振幅は、基準包絡線ESの小振幅よりも小さくなり、包絡線ENVの大振幅は、基準包絡線ESの大振幅から変化しない。また、包絡線ENVのゼロクロスタイミングtz0が、基準包絡線ESのゼロクロスタイミングts0よりも早まる。
【0099】
したがって、包絡線の大振幅及び小振幅と、基準包絡線ESのゼロクロスタイミング及び包絡線ENVのゼロクロスタイミングのずれ量とに基づいて、上下方向変位ΔZを把握することができる。
【0100】
以上から、包絡線ENVの小振幅、大振幅及び基準包絡線ESのゼロクロスタイミングと包絡線ENVのゼロクロスタイミングとのずれ量の組み合わせと、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZの組み合わせとを紐づけたマップ情報又は数式情報が作成できる。変位算出部71は、受信コイル150の出力電圧信号に基づく包絡線ENVを用いて、包絡線ENVの小振幅及び大振幅と、基準包絡線ESのゼロクロスタイミングからのずれ量とを算出する。変位算出部71は、算出した小振幅及び大振幅と、上記ずれ量と、上記マップ情報又は数式情報とに基づいて、軸方向変位ΔY及び上下方向変位ΔZを算出する。力算出部72は、算出された軸方向変位ΔYと、軸方向変位ΔY及び横力Fyが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、横力Fyを算出する。力算出部72は、算出された上下方向変位ΔZと、上下方向変位ΔZ及び垂直荷重Fzが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、垂直荷重Fzを算出する。なお、変位算出部71は、例えば、回転子30の電気角と関係付けて設定された基準タイミングを、基準包絡線ESのゼロクロスタイミングとして把握すればよい。また、マップ情報又は数式情報として、包絡線ENVの小振幅、大振幅及び基準包絡線ESのゼロクロスタイミングと包絡線ENVのゼロクロスタイミングとのずれ量の組み合わせと、横力Fy及び垂直荷重Fzの組み合わせとを紐づけたマップ情報又は数式情報が記憶部に記憶されていてもよい。この場合、力算出部72は、このマップ情報又は数式情報と、算出した小振幅及び大振幅と、算出した上記ずれ量とに基づいて、横力Fy及び垂直荷重Fzを算出すればよい。
【0101】
<第3実施形態の変形例>
受信コイルとして、図7(b)のような形状の受信コイルが用いられてもよい。この場合、受信コイルの第1部分及び第2部分のうち一方の径方向寸法が他方の径方向寸法よりも大きくなっていればよい。
【0102】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態の検出ユニット90は、垂直荷重Fzに代えて、車両の車長方向において接地面GLと車輪との間に作用する力(以下、前後荷重Fx)を算出する。横力Fyが作用する方向と前後荷重Fxが作用する方向とは直交する。前後荷重Fxは、制御装置において車両の走行制御に用いられる。
【0103】
図32に、レース部80及び検出ユニット90を示す。
【0104】
基板91に形成された第1,第2受信コイル110,120は、内輪52の中心軸線LCi(レース部80の回転中心)を通る水平軸線HLを跨いた状態で設けられている。例えば、レース部80の平坦面の平面視において、第1,第2受信コイル110,120の周方向の中央軸線Ltと水平軸線HLとが一致するように基板91が配置されている。
【0105】
第1,第2受信コイル110,120は、レース部80の車長方向両端部のうち、車両前側の端部又は車両後側の端部付近に設けられている。以下、車両前側の端部に第1,第2受信コイル110,120が設けられている場合を例にして説明する。
【0106】
車両が加速する場合における前後荷重Fxを正とし、車両が減速する場合における前後荷重Fxを負とする。前後荷重Fxが正となる場合、遮蔽部81が車両進行方向側に変位する。この状態は、第1実施形態において車輪に作用する上向きの垂直荷重が増加する状態に対応する。一方、前後荷重Fxが負となる場合、遮蔽部81が車両進行方向とは逆側に変位する。この状態は、第1実施形態において車輪に作用する下向きの垂直荷重が増加する状態に対応する。
【0107】
受信回路95は、第1実施形態と同様に、基準状態における第1包絡線ES1の振幅に対する実際の第1包絡線ENV1の振幅のずれ量を第1変位信号として処理部70に出力する。また、受信回路95は、基準状態における第2包絡線ES2の振幅に対する実際の第2包絡線ENV2の振幅のずれ量を第2変位信号として処理部70に出力する。
【0108】
変位算出部71は、第1,第2変位信号と、第1,第2変位信号、軸方向変位ΔY及び車長方向変位ΔXが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、軸方向変位ΔY及び車長方向変位ΔXを算出する。
【0109】
力算出部72は、算出された軸方向変位ΔYと、軸方向変位ΔY及び横力Fyが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、横力Fyを算出する。力算出部72は、算出された車長方向変位ΔXと、車長方向変位ΔX及び前後荷重Fxが関係付けられたマップ情報又は数式情報に基づいて、前後荷重Fxを算出する。
【0110】
以上説明した本実施形態によれば、単一の検出ユニット90により、軸方向変位ΔY及び車長方向変位ΔXを検出することができる。
【0111】
<第4実施形態の変形例>
第1,第2受信コイルとして、図27に示す第1,第2受信コイル130,140が用いられてもよい。また、受信コイルとしては、2つに限らず、図28に示す1つの受信コイルが用いられてもよい。
【0112】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図33に示すように、回転子30、レース部80及び軸受50の同軸度を小さくできる構成が採用されている。なお、図33において、先の図1等に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。また、本実施形態のレース部80には屈曲部80aが形成されていない。
【0113】
回転子30を構成する平板部33の径方向中央部には、貫通孔33aが形成されている。平板部33のうち車幅方向内側の面には、径方向内側端部から径方向外側に向かって延びる円環状の段差部33bが形成されている。段差部33bのうち車幅方向内側の面は平坦面とされている。段差部33bのうち径方向内側端部には、車幅方向内側に突出する円環状の位置決め部33cが形成されている。
【0114】
レース部80の径方向中央部には、貫通孔80bが形成されている。段差部33bの平坦面にレース部80の平坦面が当接した状態で、レース部80の貫通孔80bに位置決め部33cが嵌め合わされる。これにより、回転子30の回転中心軸線とレース部80の回転中心軸線とが同軸にされている。
【0115】
内輪52のフランジ部52bのうち径方向内側端部には、車幅方向外側に突出する円環状の軸受側段差部52cが形成されている。平板部33のうち位置決め部33cよりも径方向内側部分は、車幅方向外側に凹む円環状の凹部33dが形成されている。軸受側段差部52cが凹部33dに嵌め合わされることにより、内輪52の中心軸線、回転子30の回転中心軸線及びレース部80の回転中心軸線が同軸にされている。特に本実施形態では、フランジ部52bの車幅方向外側の平坦面と、レース部80及び位置決め部33cの平坦面とが当接している。これにより、回転子30の回転中心軸線、レース部80の回転中心軸線及び内輪52の中心軸線の同軸度を好適に小さくできる。
【0116】
平板部33、レース部80及びフランジ部52bには、軸方向に貫通する第1貫通孔が形成されている。第1貫通孔は、周方向に並んで(例えば、周方向に等間隔に並んで)複数形成されている。各第1貫通孔には、ボルト200が挿通されている。ボルト200の頭部を車幅方向外側に向けるとともにボルト200の軸部を車幅方向内側に向けた状態で、ボルト200が第1貫通孔に挿通されている。この挿通状態において、軸部の先端部の雄ネジがナット201の雌ネジにねじ込まれている。これにより、重ね合わされた状態の平板部33、レース部80及びフランジ部52bがボルト200の頭部とナット201とにより挟み込まれる。その結果、回転子30、レース部80及び軸受50が一体化されている。
【0117】
平板部33、レース部80、フランジ部52b及びディスク部12には、軸方向に貫通する第2貫通孔が形成されている。第2貫通孔は、第1貫通孔の形成位置からずれた位置に、周方向に並んで(例えば、周方向に等間隔に並んで)複数形成されている。各第2貫通孔には、ボルト210が挿通されている。ボルト210の頭部を車幅方向内側に向けるとともにボルト210の軸部を車幅方向外側に向けた状態で、ボルト210が第2貫通孔に挿通されている。この挿通状態において、ボルト210の雄ネジがナット211の雌ネジにねじ込まれている。これにより、重ね合わされた状態の平板部33、フランジ部52b、レース部80及びディスク部12がボルト210の頭部とナット211とにより挟み込まれる。その結果、回転子30、軸受50、レース部80及びホイール10が一体化されている。
【0118】
続いて、駆動輪の製造方法について説明する。この製造方法では、レース部80を備えるモータASSYを組み立てた後、モータASSYをホイール10に組み付ける。
【0119】
段差部33bの平坦面にレース部80の平坦面を当接させた状態で、レース部80の貫通孔80bに位置決め部33cを嵌め合わせる。その後、レース部80を段差部33b及びフランジ部52bで挟みつつ、軸受側段差部52cを凹部33dに嵌め合わせる。
【0120】
平板部33、レース部80及びフランジ部52bを重ねた状態で、ボルト200の頭部を回転子30の外側に向けてボルト200を各第1貫通孔に挿通する。そして、ボルト200の雄ネジにナット201の雌ネジをねじ込む。これにより、重ね合わされた状態の平板部33、レース部80及びフランジ部52bがボルト200の頭部とナット201とにより挟み込まれる。これにより、回転子30、レース部80及び軸受50が一体化されたモータASSYとなる。ここで、段差部33bの平坦面にレース部80の平坦面を当接させているため、ボルト200にナット201がねじ込まれる場合におけるレース部80の反りを抑制することができる。
【0121】
モータASSYとディスク部12とを重ねた状態で、ボルト210の頭部を固定子ベース部42側に向けてボルト210を各第2貫通孔に挿通する。そして、ボルト210の雄ネジにナット211の雌ネジをねじ込む。これにより、モータASSY及びホイール10が一体化される。
【0122】
以上説明した本実施形態によれば、回転子30、レース部80及び軸受50の同軸度を小さくした駆動輪を提供することができる。これにより、検出ユニット90による検出精度を高めることができる。
【0123】
<第6実施形態>
以下、第6実施形態について、第5実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図34に示すように、レース部80が、内輪52ではなく、回転子30に固定されている。なお、図34において、先の図33等に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0124】
段差部33bの平坦面にレース部80の平坦面が当接した状態で、レース部80の貫通孔80bに位置決め部33cが嵌め合わされている。この状態で、ボルト220によりレース部80と段差部33bとが固定されている。
【0125】
平板部33及びフランジ部52bには、軸方向に貫通する第1貫通孔が形成されている。第1貫通孔は、周方向に並んで(例えば、周方向に等間隔に並んで)複数形成されている。各第1貫通孔には、ボルト230が挿通されている。ボルト230の頭部を車幅方向内側に向けるとともにボルト230の軸部を車幅方向外側に向けた状態で、ボルト230が第1貫通孔に挿通されている。この挿通状態において、ボルト230の雄ネジがナット231の雌ネジにねじ込まれている。これにより、重ね合わされた状態の平板部33及びフランジ部52bがボルト230の頭部とナット231とにより挟み込まれる。その結果、回転子30、レース部80及び軸受50が一体化されている。
【0126】
平板部33、フランジ部52b及びディスク部12には、軸方向に貫通する第2貫通孔が形成されている。第2貫通孔は、径方向において第1貫通孔の形成位置からずれた位置に、周方向に並んで(例えば、周方向に等間隔に並んで)複数形成されている。各第2貫通孔には、ボルト240が挿通されている。ボルト240の頭部を車幅方向内側に向けるとともにボルト240の軸部を車幅方向外側に向けた状態で、ボルト240が第2貫通孔に挿通されている。この挿通状態において、ボルト240の雄ネジがナット241の雌ネジにねじ込まれている。これにより、重ね合わされた状態の平板部33、フランジ部52b及びディスク部12がボルト240の頭部とナット241とにより挟み込まれる。その結果、回転子30及びホイール10が一体化されている。
【0127】
<第7実施形態>
以下、第7実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図35に示すように、ホイール10の内側空間にインホイールモータが備えられていない。モータは、例えば、車両の車体に設けられたオンボードモータである。なお、図35において、先の図1等に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0128】
車輪は、サスペンション装置を介して車両の車体に取り付けられている。サスペンション装置は、ナックル300(「ベース部」に相当)を備えている。ナックル300には、車幅方向に貫通する貫通孔が形成されている。ナックル300には、軸受50の外輪51がボルトにより固定されている。ナックル300の貫通孔と、外輪51の中心軸線LCoとは同軸である。
【0129】
外輪51のうち車幅方向内側端部には、レース部310が固定されている。ナックル300を車幅方向内側から見た場合、ナックル300の貫通孔からレース部310が見えるようになっている。図36に示すように、レース部310は、円盤状をなし、金属材料(例えば、鉄又はアルミニウム)で構成されている。レース部310は、円環部311と、円環部311から径方向内側に延びる遮蔽部312とを備えている。遮蔽部312は、周方向において等間隔に複数設けられている。これにより、金属部分である遮蔽部312と、レース部310の板厚方向に貫かれた切欠313とが周方向において交互に形成されている。本実施形態では、遮蔽部312の周方向長さと、切欠313の周方向長さとが等しくなっている。
【0130】
図35に示すように、検出ユニット90は、ナックル300に取り付けられている。検出ユニット90の第1,第2受信コイル110,120は、軸方向においてレース部310の遮蔽部312及び切欠313と対向するように設けられている。
【0131】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の構成を得ることができる。
【0132】
<第8実施形態>
以下、第8実施形態について、上記各実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態の処理部70は、車輪に作用する荷重算出値に基づいて、車両の保守管理処理を行う。図37は、この処理の機能ブロック図である。処理部70は、マイコンを主体として構成され、マイコンは、CPUを備えている。マイコンが提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコンがハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコンは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、保守管理処理、電気角算出処理、車輪の回転速度算出処理及び荷重算出処理のプログラムが含まれる。プログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されるプログラムは、OTA(Over The Air)等、インターネット等の通信ネットワークを介して更新可能である。
【0133】
本実施形態の力算出部72は、横力Fy、垂直荷重Fz及び前後荷重Fxを算出する。このため、検出ユニット90は、例えば、第1実施形態及び第4実施形態の構成を備えている。
【0134】
走行距離算出部75は、車両の走行距離を算出する。詳しくは、走行距離算出部75は、トリップ毎の走行距離や、積算走行距離を算出する。1トリップは、例えば、ユーザが車両に乗車して車両の走行が開始されてから、ユーザが車両を駐車するまでの期間である。積算走行距離は、車両が製造されてから現在までの走行距離である。走行距離算出部75は、例えば、角度算出部73により算出された車輪の回転速度に基づいて走行距離を算出すればよい。
【0135】
処理部70は、車輪に作用したストレスの累積値を算出し、算出したストレス累積値に基づいて、車両の保守管理処理を行う。このために、処理部70は、統計演算部78及びストレス算出部74を備えている。ストレス累積値は、積算走行距離が長くなったり、荷重が大きくなったりするほど、大きくなる傾向にある。このため、ストレス累積値は、車両の構成部品の劣化度合いと相関するパラメータである。
【0136】
統計演算部78は、横力Fy、垂直荷重Fz及び前後荷重Fxそれぞれの時間平均値Favey,Favez,Favex及び最大値Fmaxy,Fmaxz,Fmaxxを算出する。時間平均値及び最大値は、例えば図38に示すように、車両が製造されてから現在までに算出された荷重に基づいて算出される。以下に説明する処理では、横力Fy、垂直荷重Fz及び前後荷重Fxが用いられるが、説明の便宜上、垂直荷重Fzを例にして説明する。
【0137】
ストレス算出部74は、走行距離算出部75により算出された積算走行距離と、統計演算部78により算出された荷重平均値Favez及び荷重最大値Fmaxzとに基づいて、ストレス累積値を算出する。例えば、ストレス算出部74は、下式に基づいて、ストレス累積値を算出すればよい。下式において、Kb,Km,Kaは正の係数である。
【0138】
ストレス累積値=Kb×積算走行距離×(Km×Fmaxz+Ka×Favez)
メンテナンス判定部76は、算出されたストレス累積値が各判定閾値を超えたと判定するたびに、車両の構成部品を交換すべき旨の情報を車両のドライバ、車両の管理者、車両の整備業者、及び車両製造会社に通知する。ドライバへの通知は、例えば、ナビゲーション装置により実施されればよい。また、管理者、整備業者及び車両製造会社への通知は、例えば、通信ネットワークを介して管理者、整備業者及び車両製造会社の通信端末に対して実施されればよい。
【0139】
図40に示すように、判定閾値は複数設定されている。図40に示す例では、隣り合う判定閾値の間隔が同一になっている。図40に示す例では、ストレス累積値が時刻t1において1つ目の判定閾値を超え、通知処理がなされる。また、ストレス累積値が時刻t2,t3,t4において2,3,4つ目の判定閾値を超え、通知処理がなされる。
【0140】
通知処理によれば、車両の構成部品(例えば、タイヤ13等の足回り部品)のストレスを高精度に把握でき、ドライバに部品交換を促すことができる。その結果、ドライバの乗車中に車両が故障する事態の発生を抑制できる。また、ストレス累積値が判定閾値を超えるたびにメンテナンス通知がなされるため、メンテナンスを必要以上に実施することも不要になり、車両維持に要するコストを削減できる。
【0141】
判定閾値の間隔は、図41に示すように、ストレス累積値が大きくなるほど小さく設定されてもよい。積算走行距離が長くなるほど、車両の構成部品の劣化度合いが大きくなる傾向にある。このため、図41に示す設定方法によれば、積算走行距離が長くなり、構成部品の故障が発生しやすい状況である場合に通知処理の頻度を高くできる。その結果、ドライバに車両の修理を適切に促すことができる。
【0142】
メンテナンス判定部76は、ストレス累積値が判定閾値を超えたと判定した場合以外にも、図42に示すように、積算走行距離が判定距離を超えたと判定した場合に通知処理を行ってもよい。図42に示す例では、ストレス累積値が判定閾値を超えたと判定された時刻t1,t2,t3以外に、積算走行距離が第1,第2判定距離を超えたと判定された時刻ta,tbにおいて通知処理が行われる。
【0143】
なお、ストレス累積値の算出に用いられる荷重最大値は、各トリップで算出された荷重最大値のうち最も大きい値が用いられてもよい。図39に示す最大値は、各トリップで算出された荷重最大値のうち最も大きい値である。また、ストレス累積値の算出に用いられる荷重平均値は、各トリップで算出された荷重平均値の平均値が用いられてもよい。
【0144】
図37の説明に戻り、処理部70を構成するリユース判定部77は、ストレス累積値に基づいて、車両を中古車としてリユース可能であるか否かを判定し,また、車両の構成部品を中古部品としてリユース可能であるか否かを判定する。リユース判定部77は、リユース可能であると判定した場合、車両又は車両の構成部品のリユース価値を判定する。
【0145】
リユース判定部77は、図43に示すように、ストレス累積値が許容閾値Sth以下であると判定した場合、構成部品のリユースが可能であると判定する。許容閾値Sthは、車両又は構成部品の設計寿命に基づいて設定されている。許容閾値Sthは、車両毎又は構成部品毎に設定されていてもよい。一方、リユース判定部77は、ストレス累積値が許容閾値Sthを超えたと判定した場合、構成部品のリユースが不可能であると判定する。
【0146】
リユース判定部77は、ストレス累積値が許容閾値Sth以下であると判定した場合、許容閾値Sthに対してストレス累積値が小さいほど、構成部品のリユース価値(例えば、販売価格)が高いと判定する。この判定結果の情報は、例えば、車両の表示部(例えばナビゲーション装置のディスプレイ)又は管理者等の通信端末の表示部に表示される。これにより、構成部品や車両のリユース価値の見積もりを簡易に実施することができる。
【0147】
リユース判定部77は、図44に示すように、ストレス累積値が、許容閾値Sthよりも小さい閾値Tth以下であると判定した場合、特定の用途向けの構成部品のリユースが可能であると判定してもよい。これは、例えば、リユースされる構成部品として劣化度合いが比較的小さい部品であることを判定するための判定方法である。
【0148】
なお、リユース判定部77は、図45及び図46に示すように、第1リユース判定値Rth1及び第2リユース判定値Rth2と、荷重最大値及び荷重平均値とを比較することにより、リユースの可否を判定してもよい。図45に示す例では、リユース判定部77は、「荷重最大値≦Rth1、荷重平均値≦Rth2」であると判定する。一方、図45に示す例では、リユース判定部77は、「荷重最大値≦Rth1、荷重平均値>Rth2」であると判定する。図45の判定結果は、例えば、リユース先の構成部品の使われ方が、現在の使われ方よりも厳しくないことを条件にリユース可能と判定する情報になり得る。一方、図44の判定結果は、例えば、リユースされる構成部品として劣化度合いが比較的小さい部品であることを判定する情報になり得る。以上、リユース判定処理について説明したが、判定方法や閾値は、リユース先の用途等に応じて適宜決定されればよい。
【0149】
図37の説明に戻り、処理部70を構成する異常判定部79は、力算出部72により算出された荷重と、統計演算部78により算出された荷重平均値とに基づいて、車両の故障可能性があるか否かを判定する。異常判定部79は、例えば、「荷重>E×荷重平均値」であると判定した場合に故障可能性があると判定してもよい。ここで、Eは正の係数である。なお、係数Eは、横力Fy、垂直荷重Fz及び前後荷重Fxそれぞれについて個別に設定されていてもよい。
【0150】
異常判定部79は、故障可能性があると判定した場合、故障可能性がある旨を、車両のドライバ、車両の管理者、車両の整備業者、及び車両製造会社に通知する。異常判定部79の処理によれば、車両の故障を事前に把握することができる。
【0151】
なお、異常判定部79は、車両の走行に関わる制御目標値と、力算出部72により算出された荷重とに基づいて、車両の故障可能性があるか否かを判定してもよい。詳しくは、異常判定部79は、車両の走行に関わる実際の制御値が制御目標値である場合に想定される荷重と、算出された荷重とのずれが所定量を超えると判定した場合に車両の故障可能性があると判定する。ここで、制御目標値は、例えば以下の(A)~(C)である。
【0152】
(A)ドライバによるハンドル操作量に基づく車輪(操舵輪)の目標転舵角、又は車両の自動運転制御装置等により算出された目標転舵角。
【0153】
(B)ドライバによるブレーキペダルの踏み込み量に基づく車輪への目標制動力、又は自動運転制御装置等により算出された車輪への目標制動力。
【0154】
(C)ドライバによるアクセスペダルの踏み込み量に基づく車両の目標駆動力、又は自動運転制御装置等により算出された車両の目標駆動力。
【0155】
なお、本実施形態において、図37に示す各構成が「管理部」に相当する。
【0156】
以上説明した本実施形態によれば、車両の保守管理を適正に実施することができる。
【0157】
<第9実施形態>
以下、第9実施形態について、第8実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図47に示すように、保守管理処理の一部が、車両400の外部に設置されたサーバ600で実施される。なお、図47において、先の図37等に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0158】
車両400は、制御装置410を備えている。制御装置410は、マイコンを主体として構成されている。制御装置410は、処理部70と、車両側通信部420とを備えている。車両側通信部420は、インターネット等の通信ネットワーク500を介して、サーバ600が備えるサーバ側通信部610と情報のやりとりを行う。処理部70は、力算出部72及び走行距離算出部75を備えている。ストレス算出部74、メンテナンス判定部76、リユース判定部77、統計演算部78及び異常判定部79は、車両400側の制御装置410には備えられておらず、サーバ600の処理部620に備えられている。制御装置410において算出された荷重及び積算走行距離等の情報は、車両側通信部420、通信ネットワーク500及びサーバ側通信部610を介してサーバ600に送信される。
【0159】
サーバ600は、マイコンを主体として構成され、マイコンは、CPUを備えている。マイコンが提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコンがハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコンは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、保守管理処理等のプログラムが含まれる。プログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。なお、記憶部に記憶されるプログラムは、OTA等、インターネット等の通信ネットワークを介して更新可能である。
【0160】
処理部620を構成するメンテナンス判定部76は、算出されたストレス累積値が各判定閾値を超えたと判定するたびに、車両の構成部品を交換すべき旨の情報を車両のドライバ、車両の管理者、車両の整備業者、及び車両製造会社に通知する。ドライバ、車両の管理者、車両の整備業者、及び車両製造会社への通知は、サーバ側通信部610及び通信ネットワーク500を介して実施される。
【0161】
リユース判定部77は、第8実施形態で説明したリユースに関わる情報を、車両のドライバ、車両の管理者、車両の整備業者、及び車両製造会社に通知する。異常判定部79は、故障可能性があると判定した場合、故障可能性がある旨を、車両のドライバ、車両の管理者、車両の整備業者、及び車両製造会社に通知する。
【0162】
このように、保守管理処理の一部を、車両400側ではなく、サーバ600側で実施することもできる。
【0163】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0164】
・ホイール10を回転可能に支持する軸受と、モータとが同軸になっていなくてもよい。また、モータの少なくとも一部がホイール10の内側空間外に配置されていてもよい。この場合における車輪の一例を図48に示す。図48において、先の図1等の構成と同一の構成又は対応する構成に、便宜上、同一の符号を付しているものもある。
【0165】
車輪は、モータ320と、減速装置340とを備えている。モータ320のトルクは、減速装置340を介してホイール10に伝達される。モータ320は、モータ320の回転軸321は、ホイール10を回転可能に支持する軸受350の中心軸線に対して上方にオフセットしている。モータ320は、固定子322と、固定子322の径方向内側に配置された回転子323とを備えるインナロータ型のモータである。回転子323には、磁石ユニット324が設けられている。回転子323に設けられた回転軸321は、モータハウジング325に設けられた軸受326,327により回転可能に支持されている。回転軸321の先端部には、外歯が形成されている。モータハウジング325は、ナックル360に固定されている。
【0166】
減速装置340は、遊星歯車機構を備える装置である。減速装置340は、駆動軸341と、駆動軸341の端部に設けられたサンギア342とを備えている。サンギア342の外歯は、回転軸321の外歯と噛み合っている。サンギア342の直径は、回転軸321の直径よりも大きく、サンギア342の歯数は、回転軸321の歯数よりも多い。駆動軸341は、軸受350を構成する内輪351に固定されている。駆動軸341と内輪351の中心軸線とは同軸である。軸受350は、外輪352と、外輪352及び内輪351の間に配置された複数の転動体353とを備えている。外輪352のフランジ部352aは、ボルトによりディスク部12に固定されている。
【0167】
減速装置340は、キャリア343、リングギア344及び複数のピニオンギア345を備えている。キャリア343は、軸受350の外輪352に固定され、外輪352と一体回転する。キャリア343の中心軸線と、外輪352の中心軸線とは同軸である。キャリア343は、ピニオンギア345を回転可能に支持し、サンギア342の回転とともに回転するように構成されている。ピニオンギア345の外歯は、リングギア344の内歯と噛み合っている。リングギア344は、ケース346に固定され、ケース346は、ナックル360に固定されている。
【0168】
回転子323の軸方向端部には、円盤状のレース部370が設けられている。レース部370としては、上記各実施形態で説明した種々の構成を採用することができる。回転子323とレース部370とは一体回転する。モータハウジング325内において、レース部370と軸方向に対向する位置には、検出ユニット90が設けられている。
【0169】
なお、図48の構成において、力算出部72は、横力Fyに代えて、モータ320の回転軸321に作用する荷重であって、回転軸321が延びる方向(軸方向)に作用する荷重を算出すればよい。また、力算出部72は、垂直荷重Fzに代えて、回転軸321に作用する上下方向の荷重を算出すればよい。この場合において、回転軸321に作用する荷重の算出には、上記各実施形態で説明した構成と同様に、マップ情報又は数式情報が用いられればよい。
【0170】
・第1~第3,第5,第6実施形態において、検出ユニット90が軸方向においてレース部80の下端部と対向する位置に設けられていてもよい。また、検出ユニット90が、レース部80に対してディスク部12側に配置されていてもよい。
【0171】
図2の切欠82、図24の開口84又は図36の切欠313に、合成樹脂等の非金属部が設けられていてもよい。この場合、レース部において、金属部分と非金属部分とが周方向において交互に設けられた構成を実現でき、第1実施形態等の同様に回転角を検出することができる。
【0172】
図1に示すインホイールモータ20がレース部80を備えていなくてもよい。この場合、例えば、インホイールモータ20の平板部33のうち、軸方向においてコイル部92と対向する部分に、遮蔽部と開口とが周方向に交互に形成されたり、凹部と凸部とが周方向に交互に形成されたりしてもよい。なお、この場合、平板部33が「検出用回転部」に相当する。
【0173】
・第1,第2,第5,第6実施形態において、基板91に形成される受信コイルは1つであってもよい。
【0174】
・軸受としては、外輪51が固定子ベース部42に固定され、内輪52がホイール10に固定されているものに限らず、外輪がホイール10に固定され、内輪が固定子ベース部42に固定されているものであってもよい。この場合、内輪が「第1軸受部材」に相当し、外輪が「第2軸受部材」に相当する。
【0175】
・モータとしては、アウタロータ型のものに限らず、インナロータ型のものであってもよい。
【0176】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0177】
20…インホイールモータ、30…回転子、40…固定子、50…軸受、80…レース部、90…検出ユニット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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