(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130206
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】変位依存型ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20230912BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230912BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20230912BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F16F15/04 E
F16F15/02 E
F16F7/08
E04H9/02 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034742
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA19
2E139BD35
3J048AA03
3J048AC01
3J048BC02
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066CA07
3J066CB07
(57)【要約】
【課題】免震支承の形態にかかわらず免震層に設置可能な変位依存型ダンパーを提供する。
【解決手段】上面にV字形の凹状の下摺接面23をX方向(第1方向)に有し、構造物の下部構造体14の上方に固定される下沓2と、下面に逆V字形の凹状の上摺接面33を、X方向と水平面上において直交するY方向(第2方向)に有し、構造物の上部構造体15の下方に固定される上沓3と、下摺接面23に対してX方向に摺動可能な下摺動面と、上摺接面に対して第2方向に摺動可能な上摺動面46を備える摺動子4と、上沓3と上部構造体15との間に設けられ鉛直方向に弾性変形可能な圧縮ばね51(弾性部材)と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面にV字形の凹状の下摺接面を第1方向に有し、構造物の下部構造体の上方に固定される下沓と、
下面に逆V字形の凹状の上摺接面を、前記第1方向と水平面上において直交する第2方向に有し、構造物の上部構造体の下方に固定される上沓と、
前記下摺接面に対して前記第1方向に摺動可能な下摺動面と、前記上摺接面に対して前記第2方向に摺動可能な上摺動面を備える摺動子と、
前記上沓と前記上部構造体との間に設けられ鉛直方向に弾性変形可能な弾性部材と、を有する変位依存型ダンパー。
【請求項2】
上面にV字形の凹状の下摺接面を第1方向に有し、構造物の下部構造体の上方に固定される下沓と、
下面に逆V字形の凹状の上摺接面を、前記第1方向と水平面上において直交する第2方向に有し、構造物の上部構造体の下方に固定される上沓と、
前記下摺接面に対して前記第1方向に摺動可能な下摺動面と、前記上摺接面に対して前記第2方向に摺動可能な上摺動面を備える摺動子と、を有し、
前記摺動子は、
前記下摺動面を有する下側部材と、
前記上摺動面を有する上側部材と、
前記下側部材と前記上側部材との間に設けられ鉛直方向に弾性変形可能な弾性部材と、を有する変位依存型ダンパー。
【請求項3】
上面に下方に凹んだ球面状の下摺接面を有し、構造物の下部構造体の上方に固定される下沓と、
下面に上方に凹んだ球面状の上摺接面を有し、構造物の上部構造体の下方に固定される上沓と、
前記下摺接面に対して摺動可能な下摺動面と、前記上摺接面に対して摺動可能な上摺動面を備える摺動子と、を有し、
前記摺動子は、
前記下摺動面を有する下側部材と、
前記上摺動面を有する上側部材と、
前記下側部材と前記上側部材との間に設けられ鉛直方向に弾性変形可能な弾性部材と、を有する変位依存型ダンパー。
【請求項4】
前記弾性部材の水平方向の変形を規制する水平変位規制部材を有する請求項1から3のいずれか一項に記載の変位依存型ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位依存型ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な摩擦ダンパーは、外筒から内筒に締付力を加え、外筒と内筒の間の相対変位と接触面の摩擦力による履歴吸収エネルギーで地震エネルギーを吸収する。このような摩擦ダンパーの復元力特性は、締付力が一定で、内筒と外筒との間の摩擦係数も一定であれば、変位の増減に依存せず摩擦力が一定となる。
【0003】
一方、摩擦力が変位の増減に依存する変位依存型摩擦ダンパーも知られている(例えば、特許文献1参照)。変位依存型摩擦ダンパーの復元力特性は、変位が増加すると共に摩擦力が増大する特徴がある。このため、変位依存型摩擦ダンパーは、変位が小さい中小地震時には小さな摩擦力、変位が大きくなる大地震時には大きな摩擦力を生じることになる。すなわち、大地震時における最大摩擦力と同じ摩擦力をもつ従来の変位依存しない摩擦ダンパーを免震層に設置した場合と比べ、変位依存型摩擦ダンパーを免震層に設置した場合は、中小地震時における摩擦力が小さくなるため構造物の応答加速度が低減する。
【0004】
特許文献1に開示された変位依存型摩擦ダンパーは、免震支承である傾斜すべり支承と、鉛直ばねと摩擦ダンパーを直列した鉛直方向変位依存型摩擦ダンパーとを組み合わせることで、上記のような変位依存型の摩擦ダンパーの復元力特性を実現している。その原理は、傾斜すべり支承の水平方向変位の増加に伴い免震の上部構造の鉛直方向変位が増加する特性を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された変位依存型摩擦ダンパーは、免震支承として傾斜すべり支承が設けられた免震構造に鉛直方向変位依存型摩擦ダンパーを併用する構成であるため、免震支承として傾斜すべり支承以外の一般のゴム支承などが設けられた免震構造には採用できない。
また、特許文献1に開示された変位依存型摩擦ダンパーは、傾斜すべり支承の水平方向変位の増加に伴い免震の上部構造の鉛直方向変位が増加する特性を利用しているため、上部構造の鉛直方向変位を伝達可能な位置に設置され、傾斜すべり支承の設置される免震層とは別の場所に設置される。このような場合、変位依存型摩擦ダンパーを設置するスペースを免震層以外の場所に確保しなければならないとともに、設置やメンテナンスの際には、免震層に設置される傾斜すべり支承の鉛直変位と変位依存摩擦ダンパーの水平変位との調整に労力がかかるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、免震支承の形態にかかわらず免震層に設置可能な変位依存型ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る変位依存型ダンパーは、上面にV字形の凹状の下摺接面を第1方向に有し、構造物の下部構造体の上方に固定される下沓と、下面に逆V字形の凹状の上摺接面を、前記第1方向と水平面上において直交する第2方向に有し、構造物の上部構造体の下方に固定される上沓と、前記下摺接面に対して前記第1方向に摺動可能な下摺動面と、前記上摺接面に対して前記第2方向に摺動可能な上摺動面を備える摺動子と、前記上沓と前記上部構造体との間に設けられ鉛直方向に弾性変形可能な弾性部材と、を有する。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る変位依存型ダンパーは、上面にV字形の凹状の下摺接面を第1方向に有し、構造物の下部構造体の上方に固定される下沓と、下面に逆V字形の凹状の上摺接面を、前記第1方向と水平面上において直交する第2方向に有し、構造物の上部構造体の下方に固定される上沓と、前記下摺接面に対して前記第1方向に摺動可能な下摺動面と、前記上摺接面に対して前記第2方向に摺動可能な上摺動面を備える摺動子と、を有し、前記摺動子は、前記下摺動面を有する下側部材と、前記上摺動面を有する上側部材と、前記下側部材と前記上側部材との間に設けられ鉛直方向に弾性変形可能な弾性部材と、を有する。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る変位依存型ダンパーは、上面に下方に凹んだ球面状の下摺接面を有し、構造物の下部構造体の上方に固定される下沓と、下面に上方に凹んだ球面状の上摺接面を有し、構造物の上部構造体の下方に固定される上沓と、前記下摺接面に対して摺動可能な下摺動面と、前記上摺接面に対して摺動可能な上摺動面を備える摺動子と、を有し、前記摺動子は、前記下摺動面を有する下側部材と、前記上摺動面を有する上側部材と、前記下側部材と前記上側部材との間に設けられ鉛直方向に弾性変形可能な弾性部材と、を有する。
【0011】
本発明では、変位依存型ダンパーは、水平方向変位の増加に伴い摺動子が下沓に対して上方に移動し、上沓が摺動子に対して上方に移動し、鉛直方向の寸法が大きくなろうとする。変位依存型ダンパーは、下部構造体と上部構造体との間に設置されているため、弾性部材が収縮することで鉛直方向の寸法を一定に維持することができる。
収縮した弾性部材の復元力により、摺動子の下摺動面が下沓の下摺接面に押し付けられ、摺動子の上摺動面が上沓上摺接面に押し付けられて、摺動子と下沓との摩擦抵抗力および摺動子と上沓との摩擦抵抗力とを増大させることができる。変位依存型ダンパーは、水平方向変位の増加に依存して摩擦力が増大する。
本発明の変位依存型ダンパーは、弾性部材の弾性変形により、鉛直方向の寸法を一定に維持しつつ、水平方向変位の増加に依存して摩擦力を増大させることができるため、免震支承として傾斜すべり支承以外の一般のゴム支承や弾性すべり支承などが設けられた免震構造にも採用できる。
また、変位依存型ダンパーは、設置される層の鉛直変位を利用する構成ではないため、免震支承が設けられる免震層に設置することができる。
【0012】
本発明に係る変位依存型ダンパーでは、前記弾性部材の水平方向の変形を規制する水平変位規制部材を有していてもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、弾性部材が水平方向に変位することを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、免震支承の形態にかかわらず免震層に設置可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態による変位依存型ダンパーが設けられた構造物を示す図である。
【
図2】第1実施形態による変位依存型ダンパーの平面図である。
【
図3】初期状態の変位依存型ダンパーをY方向から見た図である。
【
図4】初期状態の変位依存型ダンパーをX方向から見た図である。
【
図8】X方向に変位した変位依存型ダンパーをY方向から見た図である。
【
図9】Y方向に変位した変位依存型ダンパーをX方向から見た図である。
【
図11】圧縮ばねの軸変形と圧縮力との関係を示すグラフである。
【
図13】第2実施形態による変位依存型ダンパーの平面図である。
【
図14】変位依存型ダンパーをY方向から見た図である。
【
図16】変位依存型ダンパーをX方向から見た図である。
【
図19】第3実施形態による変位依存型ダンパーの平面図である。
【
図23】変位依存型ダンパーの復元力を説明する図である。
【
図24】レベル2の地震時の最大応答加速度を示すグラフである。
【
図25】レベル1の地震時の最大応答加速度を示すグラフである。
【
図26】レベル2の地震時の免震変位の結果を示すグラフである。
【
図27】レベル1の地震時の免震変位の結果を示すグラフである。
【
図28】レベル2の地震時の残留変位の結果を示すグラフである。
【
図29】レベル1の地震時の残留変位の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による変位依存型ダンパーについて、
図1-
図12に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態による変位依存型ダンパー1は、高層ビルなどの構造物11の免震層12に免震支承の積層ゴム支承13やダンパーとともに設置される。免震層12は、基礎などの下部構造体14と、その上方の上部構造体15との間に設けられる。下部構造体14と上部構造体15とは、水平方向に相対変位可能である。
【0017】
変位依存型ダンパー1は、下部構造体14の上方に固定される下沓2と、上部構造体15の下方に固定される上沓3と、下沓2と上沓3との間に設けられる摺動子4と、上沓3と上部構造体15との間に設けられるばね部5と、を有する。下沓2は、上沓3の下方に間隔をあけて配置される。
【0018】
図2から
図4に示すように、下沓2および上沓3は、それぞれ長尺の部材で、水平方向に延びる向きに配置される。下沓2が延びる方向と上沓3が延びる方向とは直交している。下沓2が延びる水平方向をX方向(第1方向)と表記し、上沓3が延びる水平方向をY方向(第2方向)と表記する。図面では、上下方向を矢印Zの方向(Z方向)で示す。部材などの形状で、上下方向から見た形状を平面視形状と表記する。
【0019】
下沓2は、下部構造体14に固定される下部プレート21と、下部プレート21の上に固定される下沓本体22と、を有する。
下部プレート21は、平板状であり、板面が水平となる向きで下部構造体14の上方を向く面に固定される。
図3に示すように、下沓本体22は、上面全体にV字形の凹状の下摺接面23が形成される。下摺接面23は、X方向の両端部それぞれからX方向の中央に向かって漸次下側に向かう面である。下摺接面23のX方向の一方側の傾斜角度と他方側の傾斜角度とは、同じ値に設定される。
下部プレート21の平面視形状は、下沓本体22の平面視形状よりも大きい。
【0020】
図2から
図4に示すように、上沓3は、ばね部5に支持される上部プレート31と、上部プレート31の下に固定される上沓本体32と、を有する。
上部プレート31は、平板状であり、板面が水平となる向きでばね部5に支持される。
図3に示すように、上沓本体32は、下面全体に逆V字形の凹状の上摺接面33が形成される。上摺接面33は、Y方向の両端部それぞれからY方向の中央に向かって漸次上側に向かう面である。上摺接面33のY方向の一方側の傾斜角度と他方側の傾斜角度とは、同じ値に設定される。上摺接面33の傾斜角度は、下摺接面23の傾斜角度と同じ値である。
上部プレート31の平面視形状は、上沓本体32の平面視形状よりも大きい。
【0021】
図2から
図4に示すように、ばね部5は、複数の圧縮ばね51(弾性部材)と、複数の圧縮ばね51が固定されるとともに上部構造体15に固定されるばね固定プレート52と、複数の圧縮ばね51の周囲に設けられるガイドプレート53(水平変位規制部材)と、を有する。
固定プレート52は、平板状であり、板面が水平となる向きで上部構造体15の下方を向き変位依存型ダンパー1と上下方向に対向する面に固定される。固定プレート52の平面視形状は、上部プレート31の平面視形状よりも大きく設定される。
【0022】
ガイドプレート53は、板状で、固定プレート52の外周部全体から下方に突出している。ガイドプレート53は、固定プレート52を介して上部構造体15に固定される。ガイドプレート53の内周の平面視形状は、上部プレート31の平面視形状との略同じである。ガイドプレート53の内側には、下方から上部プレート31が挿入される。固定プレート52およびガイドプレート53と上部プレート31とは、ガイドプレート53の高さ範囲において上下方向に相対変位可能である。
【0023】
図5に示すように、上部プレート31の外縁部には、上沓3とガイドプレート53との横ずれを防止するため横ずれ防止板311が設けられていてもよい。横ずれ防止板311は、ガイドプレート53の鉛直面となる内側面と面接触している。
【0024】
複数の圧縮ばね51は、固定プレート52と上部プレート31との間に配置される。複数の圧縮ばね51は、それぞれ同じばねであり、上下方向に伸縮する向きでX方向およびY方向に配列される。圧縮ばね51は、上下方向に弾性変形可能な弾性部材である。複数の圧縮ばね51は、上部構造体15に固定される固定プレート52と上沓3の上部プレート31が上下方向に相対変位すると、伸縮する。
上述しているように、複数の圧縮ばね51および上部プレート31は、ガイドプレート53の内側に配置される。このため、固定プレート52と上部プレート31とが上下方向に相対変位して圧縮ばね51が伸縮しても、固定プレート52と上部プレート31とが水平方向に相対変位しないとともに、圧縮ばね51が上下方向に対して斜めとなる方向に伸縮することがない。すなわち、上部構造体15と上沓3とは、水平方向に相対変位しない。
【0025】
摺動子4は、上下方向において下沓2と上沓3との間に配置される。すなわち、摺動子4は、下沓2の上方かつ上沓3の下方に配置される。
図3、
図4、
図6および
図7に示すように、摺動子4は、摺動子本体41と、下ガイド部42と、上ガイド部43と、摩擦材441-444と、を有する。
摺動子本体41は、平面視形状が略正方形のブロック体である。
【0026】
摺動子本体41の下面411は、X方向の両端から中央部に向かうに従って突出する緩やかなV字形の凸状に成形される。摺動子本体41の上面412は、Y方向の両端から中央部に向かうに従って突出する緩やかな逆V字形の凸状に成形される。
摺動子本体41の下面411は、下沓2の下摺接面23と上下方向に対向する。摺動子本体41の上面412は、上沓3の上摺接面33と上下方向に対向する。
【0027】
下ガイド部42は、摺動子本体41の下面411のY方向の両縁部それぞれから下方に突出している。下ガイド部42は、壁状である。下ガイド部42は、X方向に延び、摺動子本体41の下面411のY方向の縁部全体にわたって設けられている。摺動子本体41の下面411のY方向の一方側に設けられた下ガイド部42と、他方側に設けられた下ガイド部42とは、Y方向に対向している。一対の下ガイド部42の間には、下沓2が配置される。一対の下ガイド部42の互いに対向する側の側面は、下沓2の側面と対向する。
上ガイド部43は、摺動子本体41の上面412のX方向の両縁部それぞれから上方に突出している。上ガイド部43は、壁状である。上ガイド部43は、Y方向に延び、摺動子本体41の上面412のX方向の縁部全体にわたって設けられている。摺動子本体41の上面412のX方向の一方側に設けられた上ガイド部43と、他方側に設けられた上ガイド部43とは、X方向に対向している。一対の上ガイド部43の間には、上沓3が配置される。一対の上ガイド部43の互いに対向する側の側面は、上沓3の側面と対向する。
【0028】
摩擦材441-444は、摩擦減衰作用を持つ板状の部材である。摩擦材44は、例えば、良好な摺動性を持つPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系やPA(ポリアミド)系の樹脂により形成される。なお、摩擦材441-444の材料は、樹脂材料に限定されず、例えば、焼結金属等であってもよい。さらに、摩擦材441-444の材料は、熱硬化性樹脂を結合材とした、繊維材料、摩擦調整材、及び充填剤等の複合素材からなる摩擦材、または積層構造の摩擦材であってもよい。この場合は、例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバーなどが挙げられる。
【0029】
摩擦材441-444は、摺動子本体41の下面411、上面412、一対の下ガイド部42の互いに対向する側面、一対の上ガイド部43の互いに対向する側面に貼り付けられている。
摺動子本体41の下面411に貼り付けられた摩擦材を下面摩擦材441と表記し、摺動子本体41の上面412に貼り付けられた摩擦材を上面摩擦材442と表記し、下ガイド部42の側面に貼り付けられた摩擦材を下ガイド摩擦材443と表記し、上ガイド部43の側面に貼り付けられた摩擦材を上ガイド摩擦材444と表記する。
【0030】
下面摩擦材441は、摺動子本体41の下面411に沿って貼り付けられる。本実施形態では、下面摩擦材441は、摺動子本体41の下面411におけるV字形の先端(下端)を挟んだX方向の両側それぞれに貼り付けられる。下面摩擦材441の下面は、下沓2の下摺接面23と接触し、下摺接面23に沿って摺動する。摺動子4における下面摩擦材441の下面を下摺動面45と表記する。
上面摩擦材442は、摺動子本体41の上面412に沿って貼り付けられる。本実施形態では、上面摩擦材442は、摺動子本体41の上面412における逆V字形の先端(上端)を挟んだY方向の両側それぞれに貼り付けられる。上面摩擦材442の上面は、上沓3の上摺接面33と接触し、上摺接面33に沿って摺動する。上面摩擦材442の上面を摺動子4における上摺動面46と表記する。
【0031】
下ガイド摩擦材443は、一対の下ガイド部42それぞれの互いにY方向に対向する側面に沿って取り付けられる。下ガイド摩擦材443は、下沓2の側面と接触し、下沓2の側面に沿って摺動する。
上ガイド摩擦材444は、一対の上ガイド部43それぞれの互いにX方向に対向する側面に沿って取り付けられる。上ガイド摩擦材444は、下沓2の側面と接触し、上沓3の側面に沿って摺動する。
本実施形態では、下ガイド摩擦材443は、一対の下ガイド部42の下面に連続して取り付けられる。上ガイド摩擦材444は、一対の上ガイド部43の上面に連続して取り付けられる。
下面摩擦材441、上面摩擦材442、下ガイド摩擦材443および上ガイド摩擦材444の取り付けられる個数は適宜設定されてよい。
【0032】
変位依存型ダンパー1は、初期状態では、下沓2のX方向の中央部と、上沓3のY方向の中央部とが上下方向に対向し、下沓2の中央部と、上沓3の中央部との間に摺動子4が配置される。摺動子4の下摺動面45と、下沓2の下摺接面23とが上下方向に重なり、摺動子4の上摺動面46と、上沓3の上摺接面33とが上下方向に重なる。
【0033】
図8および
図9に示すように、変位依存型ダンパー1は、下部構造体14と上部構造体15との間で任意の水平方向(X方向およびY方向)に相対変位が生じると、摺動子4が下沓2の下摺接面23に沿ってX方向に相対変位しながら、上沓3の上摺接面33に沿ってY方向に相対変位する。
【0034】
図8に示すように、下部構造体14と上部構造体15とのX方向の相対変位量が大きくなると、摺動子4は、下沓2の下摺接面23のX方向の中央23aから端部23b側に移動する。このとき、摺動子4は、傾斜面である下沓2の下摺接面23の上部側に位置するため、重力により、下部側(初期状態の位置)に戻ろうとする復元力(傾斜復元力)が生じる。
【0035】
また、摺動子4が下沓2の下摺接面23のX方向の中央から端部側に移動すると、上沓3および摺動子4が初期状態よりも上部構造体15に近づこうとする。このとき、上沓3と上部構造体15との間の圧縮ばね51が圧縮されることにより、上沓3および摺動子4が上部構造体15に近づいても上部構造体15を上方に押し上げることが無く、上部構造体15の下部構造体14に対する高さは変わらない。摺動子4は、圧縮されたことによる圧縮ばね51の反力によって、下沓2の下摺接面23に押し付けられる。これにより、摺動子4の下摺動面45と下摺接面23との摩擦力が大きくなり、構造物11の応答加速度を減衰させる減衰力(摩擦復元力)が生じる。
【0036】
図9に示すように、下部構造体14と上部構造体15とのY方向の相対変位量が大きくなると、摺動子4は、上沓3の上摺接面33のY方向の中央から端部側に移動する。このとき、上沓3は、上摺接面33の下部側(Y方向の端部側)が摺動子4の上摺動面46の上に位置するため、重力により、上部側(Y方向の中央)が摺動子4の上摺動面46の上に位置する初期状態に戻ろうとする復元力(傾斜復元力)が生じる。
【0037】
また、上沓3の上摺接面33の下部側(Y方向の端部側)が摺動子4の上摺動面46の上に位置すると、上沓3が初期状態よりも上部構造体15に近づこうとする。このとき、上沓3と上部構造体15との間の圧縮ばね51が圧縮されることにより、上沓3が上部構造体15に近づいても上部構造体15を上方に押し上げることが無く、上部構造体15の下部構造体14に対する高さは変わらない。摺動子4は、圧縮されたことによる圧縮ばね51の反力によって、上沓3の下摺接面23が押し付けられる。これにより、摺動子4の上摺動面46と上摺接面33との摩擦力が大きくなり、構造物11の応答加速度を減衰させる減衰力(摩擦復元力)が生じる。
【0038】
変位依存型ダンパー1は、下部構造体14と上部構造体15とのX方向の相対変位量が大きくなるほど、上沓3および摺動子4が上部構造体15に近づく。上沓3および摺動子4が上部構造体15に近づくほど、摩擦復元力が大きくなる。すなわち、X方向の摩擦復元力は、下部構造体14と上部構造体15とのX方向の相対変位量に依存している。
変位依存型ダンパー1は、下部構造体14と上部構造体15とのY方向の相対変位量が大きくなるほど、上沓3が上部構造体15に近づくほど、摩擦復元力が大きくなる。すなわち、Y方向の摩擦復元力は、下部構造体14と上部構造体15とのY方向の相対変位量に依存している。
【0039】
免震層12の水平変位に伴う圧縮コイルばね(圧縮ばね51)の軸変形(増分)νは、水平変位X×tanθになる(
図10および
図11参照)。変位0のとき変位依存型ダンパー1に作用する軸力をW(プレロード)とすると、変位依存型ダンパー1の摩擦復元力Fu(減衰力)と、傾斜復元力Fθと、これらを合成した合成復元力Fは以下の式になる。なお、Wは、変位依存型ダンパー1により上部構造体15に浮き上がりが生じない範囲で設定する。
【0040】
【0041】
μは、傾斜すべり面の摩擦係数(下摺接面23と下摺動面45との摩擦係数、上摺接面33と上摺動面46との摩擦係数)である。
kは、圧縮コイルばねのバネ定数である。
Wは、圧縮コイルばねのプレロード。圧縮コイルばねの予圧縮量v0とするとW=kv0である。
Xは、水平変位である。
θは、傾斜すべり面の傾斜角度(下摺接面23および上摺接面33の傾斜角度)である。
【0042】
すなわち、変位依存型ダンパー1は、変位が大きくなるほど、摩擦力も大きくなる変位依存型の摩擦ダンパーである。変位依存型ダンパー1の摩擦復元力Fuと、傾斜復元力Fθと、合成復元力Fの関係を
図12に示す。
ここでは、摩擦係数μは、tanθの10倍以上とする。
また、本実施形態の変位依存型ダンパー1の設計プレロードは、支承載荷重の0.1倍とする。免震変位の増大によるプレロードの増大は、5倍以下とする。摩擦復元力と傾斜復元力と合成復元力の摩擦係数μは、tanθの10倍以下とする。初期合成復元力(変位ゼロ点)は、設計免震変位(例えば、30cm)おける最大合成復元力の0.6倍以下、かつW/Wt>0.1であれば、残留変位が著しい小さい(ほぼ5mm以下)ことを実現するものである。Wtは構造物の総重量である。
【0043】
また、変位依存型ダンパー1は、X、Yの2方向に傾斜があるので、両方向に変位した場合の摩擦復元力Fuと、傾斜復元力Fθと、合成復元力Fは下式となる。
【0044】
【0045】
次に、上記の本実施形態による変位依存型ダンパー1の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による変位依存型ダンパー1では、水平方向変位の増加に伴い摺動子4が下沓2に対して上方に移動し、上沓3が摺動子4に対して上方に移動し、鉛直方向の寸法が大きくなろうとする。変位依存型ダンパー1は、下部構造体14と上部構造体15との間に設置されているため、圧縮ばね51が収縮することで鉛直方向の寸法を一定に維持することができる。
収縮した圧縮ばね51の復元力により、摺動子4の下摺動面45が下沓2の下摺接面23に押し付けられ、摺動子4の上摺動面46が上沓3の上摺接面33に押し付けられて、摺動子4と下沓2との摩擦抵抗力および摺動子4と上沓3との摩擦抵抗力とを増大させることができる。変位依存型ダンパー1は、水平方向変位の増加に依存して摩擦力が増大する。
変位依存型ダンパー1は、圧縮ばね51の弾性変形により、鉛直方向の寸法を一定に維持しつつ、水平方向変位の増加に依存して摩擦力を増大させることができるため、免震支承として傾斜すべり支承以外の一般のゴム支承や弾性すべり支承などが設けられた免震構造にも採用できる。
また、変位依存型ダンパー1は、設置される層の鉛直変位を利用する構成ではないため、免震支承が設けられる免震層12に設置することができる。変位依存型ダンパー1や、上部構造体15の変位を変位依存型ダンパー1に伝達する構造などを、構造物11の外部に設置する必要がないため、敷地面積を有効に活用できる。
【0046】
変位依存型ダンパー1は、X方向およびY方向の傾斜面を利用した構成であるため、設計目標性能を満足するよう、X方向とY方向とで必要に応じて、摩擦係数および傾斜角度を別々に設定することも可能である。変位依存型ダンパー1は、1台でX方向およびY方向の2方向の摩擦係数および傾斜角度を設定できる。
変位依存型ダンパー1は、傾斜すべり支承の特性と同様に、減衰機能だけでなく復元機能も有している。圧縮ばね51の鉛直荷重は、免震変位の増大に伴って増大するため、摩擦力とともに復元力も大きくなり、免震層12の残留変位を小さくすることができる。
免震の変位が市販のオイルダンパーの対応サイズ(例えば0.6m)を超える場合でも、下沓2および上沓3の長さを伸ばすことで、変位が例えば1m以上の巨大地震にも対応できる。
【0047】
本実施形態による変位依存型ダンパーでは、圧縮ばね51の水平方向の変形を規制するガイドプレート53が設けられている。
このような構成とすることにより、圧縮ばね51が水平方向に変位することを防止できる。
【0048】
(他の実施形態)
次に、他の実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0049】
(第2実施形態)
図13に示すように、第2実施形態による変位依存型ダンパー1Bは、第1実施形態による変位依存型ダンパー1とばね部5が設けられる位置が異なる。第2実施形態による変位依存型ダンパー1Bに設けられるばね部をばね部5Bと表記する。ばね部5Bは、摺動子4Bに設けられる。
図14から
図17に示すように、上沓3の上部プレート31は、上部構造体15に固定される。
【0050】
摺動子4Bの摺動子本体41Bは、上下方向の略中央で上下2つに分割され、その間にばね部5Bが設けられる。摺動子本体41Bの分割された下側の部分を本体下側47と表記し、上側の部分を本体上側48と表記する。本体下側47の下面には、第1実施形態の摺動子本体41と同様の下摺動面45が形成され、下ガイド部42が設けられている。本体上側48の上面には、第1実施形態の摺動子本体41と同様の上摺動面46が形成され、上ガイド部43が設けられている。本体下側47の上面471は、上方を向く水平面である。本体上側48の下面481は、下方を向く水平面である。本体下側47と本体上側48とは、上下方向に重なって配置される。
【0051】
ばね部5Bは、複数の圧縮ばね51(弾性部材)と、ガイドプレート53B(水平変位規制部材)と、を有する。
ガイドプレート53Bは、本体下側47の外周面に取り付けられる。ガイドプレート53は、下部側が本体下側47に固定され、上部側が本体下側47の上面471よりも上方に突出している。
図18に示すように、本実施形態のガイドプレート53Bは、平面視形状がC字形であり、本体下側47に対して2つ固定されている。2つのガイドプレート53Bは、互いに開口する側を対向させるようにして本体下側47をX方向の両側から挟むように本体下側47に固定されている。2つのガイドプレート53Bに挟まれた空間おける本体下側47よりも上方の部分には、本体上側48の下部側が配置される。本体上側48は、ガイドプレート53Bと固定されておらず、上下方向に相対変位可能である。本体下側47と本体上側48との水平方向の相対変位は、ガイドプレート53によって規制されている。
【0052】
ガイドプレート53Bと本体下側47とは、わずかな寸法分だけ上下方向に相対変位できるように固定されていてもよい。例えば、ガイドプレート53Bと本体下側47とがそれぞれに設けられた孔部に挿入されたピンで固定され、ガイドプレート53Bおよび本体下側47のいずれかの孔部が上下方向に延びる長孔に形成されていてもよい。
【0053】
本体下側47の上面471と本体上側48の下面481との間には、複数の圧縮ばね51が配置される。複数の圧縮ばね51は、それぞれ同じばねであり、上下方向に伸縮する向きでX方向およびY方向に配列される。複数の圧縮ばね51は、ガイドプレート53の内側に配置される。複数の圧縮ばね51は、外周にガイドプレート53が設けられることにより、水平方向の変形が規制される。
複数の圧縮ばね51は、本体下側47と本体上側48との上下方向の相対変位に応じて伸縮する。
【0054】
変位依存型ダンパー1Bは、下部構造体14と上部構造体15との間で任意の水平方向(X方向およびY方向)に相対変位が生じると、摺動子4が下沓2の下摺接面23に沿ってX方向に相対変位しながら、上沓3の上摺接面33に沿ってY方向に相対変位する。
【0055】
下部構造体14と上部構造体15とのX方向の相対変位量が大きくなると、摺動子4は、下沓2の下摺接面23のX方向の中央から端部側に移動する。このとき、摺動子4は、傾斜面である下沓2の下摺接面23の上部側に位置するため、重力により、下部側(初期状態の位置)に戻ろうとする復元力(傾斜復元力)が生じる。
【0056】
また、摺動子4Bが下沓2の下摺接面23のX方向の中央から端部側に移動すると、上沓3および摺動子4Bが初期状態よりも上部構造体15に近づこうとする。このとき、本体下側47と本体上側48との間の圧縮ばね51が圧縮されることにより、上沓3および摺動子4Bが上部構造体15に近づいても上部構造体15を上方に押し上げることが無く、上部構造体15の下部構造体14に対する高さは変わらない。摺動子4Bは、圧縮されたことによる圧縮ばね51の反力によって、下沓2の下摺接面23に押し付けられる。これにより、摺動子4Bの下摺動面45と下摺接面23との摩擦力が大きくなり、構造物11の応答加速度を減衰させる減衰力(摩擦復元力)が生じる。
【0057】
下部構造体14と上部構造体15とのY方向の相対変位量が大きくなると、摺動子4は、上沓3の上摺接面33のY方向の中央から端部側に移動する。このとき、上沓3は、上摺接面33の下部側(Y方向の端部側)が摺動子4の上摺動面46の上に位置するため、重力により、上部側(Y方向の中央)が摺動子4の上摺動面46の上に位置する初期状態に戻ろうとする復元力(傾斜復元力)が生じる。
【0058】
また、上沓3の上摺接面33の下部側(Y方向の端部側)が摺動子4Bの上摺動面46の上に位置すると、上沓3が初期状態よりも上部構造体15に近づこうとする。このとき、本体下側47と本体上側48との間の圧縮ばね51が圧縮されることにより、上沓3が上部構造体15に近づいても上部構造体15を上方に押し上げることが無く、上部構造体15の下部構造体14に対する高さは変わらない。摺動子4Bは、圧縮されたことによる圧縮ばね51の反力によって、上沓3の下摺接面23が押し付けられる。これにより、摺動子4Bの上摺動面46と上摺接面33との摩擦力が大きくなり、構造物11の応答加速度を減衰させる減衰力(摩擦復元力)が生じる。
【0059】
変位依存型ダンパー1Bは、下部構造体14と上部構造体15とのX方向の相対変位量が大きくなるほど、上沓3および摺動子4Bが上部構造体15に近づく。上沓3および摺動子4が上部構造体15に近づくほど、摩擦復元力が大きくなる。すなわち、X方向の摩擦復元力は、下部構造体14と上部構造体15とのX方向の相対変位量に依存している。
変位依存型ダンパー1Bは、下部構造体14と上部構造体15とのY方向の相対変位量が大きくなるほど、上沓3が上部構造体15に近づく、上沓3が上部構造体15に近づくほど、摩擦復元力が大きくなる。すなわち、Y方向の摩擦復元力は、下部構造体14と上部構造体15とのY方向の相対変位量に依存している。
【0060】
上記の第2実施形態による変位依存型ダンパー1Bでは、第1実施形態による変位依存型ダンパー1と同様の効果を奏する。
複数の圧縮ばね51を摺動子4の本体下側47と本体上側48との間に設けるため、複数の圧縮ばね51を上沓3と上部構造体15との間に設ける第1実施形態と比べて、圧縮ばね(弾性部材)51の数を少なくできる。
【0061】
(第3実施形態)
図19および
図20に示すように、第3実施形態による変位依存型ダンパー1Cは、上記の実施形態による変位依存型ダンパー1,1Bと、下沓、上沓、摺動子およびばね部の形態が異なっている。
変位依存型ダンパー1Cの下沓、上沓、摺動子およびばね部を下沓2C、上沓3C、摺動子4Cおよびばね部5Cと表記する。
【0062】
本実施形態では、下沓2Cの下摺接面23が下方に凹んだ球面であり、上沓3Cの上摺接面33が上方に凹んだ球面状である。摺動子4Cは、第2実施形態の4Bと同様に、本体下側47と本体上側48とに分割されている。本体下側47と本体上側48との間にばね部5Cが設けられている。摺動子4Cは、平面視形状が円形である。本体下側47の下面の下摺動面45Cは、下方に張り出した球面である。本体上側48の上面の上摺動面46Cは、上方に張り出した球面である。第3実施形態では、摺動子4Cの下摺動面45Cが下沓2Cの下摺接面23に沿って水平方向の全方向に摺動し、上摺動面46Cが上沓3Cの上摺動面46Cに沿って水平方向の全方向に摺動する。
【0063】
ばね部5Cは、本体下側47と本体上側48との間に複数の配列された圧縮ばね51(弾性部材)と、複数の圧縮ばね(弾性部材)51の周囲に設けられたガイドプレート53C(水平変位規制部材)と、を有している。ガイドプレート53Cの平面視形状は、本体下側47および本体上側48の平面視における外形に沿ったC字形状である。
【0064】
変位依存型ダンパー1Cは、初期状態では、下沓2Cの中央部と、上沓3Cの中央部とが上下方向に対向し、下沓2Cの中央部と、上沓3Cの中央部との間に摺動子4Cが配置される。摺動子4Cの下摺動面45Cと、下沓2の下摺接面23Cとが上下方向に重なり、摺動子4Cの上摺動面46Cと、上沓3Cの上摺接面33Cとが上下方向に重なる。
【0065】
変位依存型ダンパー1Cは、下部構造体14と上部構造体15との間で任意の水平方向(X方向およびY方向)に相対変位が生じると、摺動子4が下沓2の下摺接面23Cに沿って水平方向に相対変位しながら、上沓3の上摺接面33に沿って水平方向に相対変位する。
【0066】
下部構造体14と上部構造体15との水平方向の相対変位量(初期状態からの相対変位量)が大きくなると、摺動子4Cは、下沓2の下摺接面23の中央から端部側に移動する。このとき、摺動子4Cは、球面である下沓2Cの下摺接面23の上部側に位置するため、重力により、下部側(初期状態の位置)に戻ろうとする復元力(傾斜復元力)が生じる。
【0067】
また、摺動子4Cが下沓2Cの下摺接面23の中央から端部側に移動すると、上沓3Cおよび摺動子4Cが初期状態よりも上部構造体15に近づこうとする。このとき、本体下側47と本体上側48との間の圧縮ばね51が圧縮されることにより、上沓3および摺動子4Bが上部構造体15に近づいても上部構造体15を上方に押し上げることが無く、上部構造体15の下部構造体14に対する高さは変わらない。摺動子4Cは、圧縮されたことによる圧縮ばね51の反力によって、下沓2の下摺接面23に押し付けられる。これにより、摺動子4Bの下摺動面45と下摺接面23との摩擦力が大きくなり、構造物11の応答加速度を減衰させる減衰力(摩擦復元力)が生じる。
【0068】
下部構造体14と上部構造体15との水平方向の相対変位量が大きくなると、摺動子4は、上沓3の上摺接面33の中央から端部側に移動する。このとき、上沓3は、上摺接面33の下部側(端部側)が摺動子4の上摺動面46の上に位置するため、重力により、上部側(中央部)が摺動子4の上摺動面46の上に位置する初期状態に戻ろうとする復元力(傾斜復元力)が生じる。
【0069】
また、上沓3Cの上摺接面33の下部側(端部側)が摺動子4Cの上摺動面46の上に位置すると、上沓3Cが初期状態よりも上部構造体15に近づこうとする。このとき、本体下側47と本体上側48との間の圧縮ばね51が圧縮されることにより、上沓3Cが上部構造体15に近づいても上部構造体15を上方に押し上げることが無く、上部構造体15の下部構造体14に対する高さは変わらない。摺動子4Cは、圧縮されたことによる圧縮ばね51の反力によって、上沓3Cの下摺接面23が押し付けられる。これにより、摺動子4Cの上摺動面46と上摺接面33との摩擦力が大きくなり、構造物11の応答加速度を減衰させる減衰力(摩擦復元力)が生じる。
【0070】
変位依存型ダンパー1Cは、下部構造体14と上部構造体15との水平方向の相対変位量が大きくなるほど、上沓3および摺動子4Bが上部構造体15に近づく。上沓3および摺動子4が上部構造体15に近づくほど、摩擦復元力が大きくなる。すなわち、X方向の摩擦復元力は、下部構造体14と上部構造体15との水平方向の相対変位量に依存している。
【0071】
上記の第2実施形態による変位依存型ダンパー1Bでは、球面を利用したダンパーにおいても第2実施形態による変位依存型ダンパー1Bと同様の効果を奏する。
【0072】
本実施形態による変位依存型ダンパー1と、従来のダンパーとを比較する解析について説明する。
解析は、
図1に示す構造と同様の構造を1質点系モデルで解析を行う。
免震構造物の総重量Wtは、47100kNとした。
天然ゴム支承の長期載荷重量Wbは、総重量Wtの9割として断面設定し、水平剛性k=6.52×10
3kN/m、減衰定数h=2%とした。
・変位依存型摩擦ダンパーに作用する鉛直荷重Wは、(2)においてW/Wt=0.05~0.2として設定する。
【0073】
(パラメータ)
図21に示すように、地震波は、エルセントロ波、タフト波、八戸波である。L2(レベル2地震)は、極めて稀に発生する地震動を指し、L1(レベル1地震)は、中規模の地震で、その構造物の耐用年数中に一度以上は受ける可能性が高い地震動を指す。
図22に各地震波形を示す。
【0074】
変位依存型ダンパーの特性は、
図12に示す変位依存型ダンパーと同様である。
傾斜角度θ=1.5°とし、傾斜すべり面の摩擦係数μは、tan1.5度(=0.026)の10倍であるμ=0.26とし、免震設計変位30cmとして、プレロードWとすれば、以下のように設定される。
ゼロ変位点におけるF
θ=Wtanθ=Wtan1.5=0.026W
Fu=μW=10(倍)×Wtan1.5=0.26W
合成復元力F=0.026W+0.26W=0.286Wになる。
ここではゼロ変位点における合成復元力をF
0と定義すると、
F
0=0.026W+0.26W=0.286Wになる。
また、免震設計変位(本資料は30cm)における合成復元力をF
30と定義する。
【0075】
本解析の2つのパラメータは、以下に示す。
A:本発明のダンパーのプレロードWと免震構造物の重量Wtの載荷重率α倍とし、
W=αWt
α=0.050、0.075、0.10、0.125、0.15、 0.175、0.2とする。
B:初期合成復元力F
0は、最大値F30の復元力率β倍とし、
F
0=βF
30
β=0.2、0.4、0.6、0.8とする。
F
30=F
0の5倍,2.5倍、1.7倍、1.25倍とすることに相当する。
また、従来の摩擦ダンパーの場合は
図23に示すように、変位に関係なく全てF
30になる。
(解析結果)
各地震波における最大応答加速度、最大応答変位と載荷重率α(=W/Wt)との関係を
図24から
図29に示す。
図24から
図29の凡例では、復元力率β(=F
0/F
30)0.2、0,4、0.6、0.8:位依存型摩擦ダンパーで、F
0=F
30の20%、40%、60%、80%とする。
従来:従来型摩擦ダンパー(β=F
0/F
30=1.0、F
30の100%)とした結果を示す。
【0076】
図24から
図29から以下のことがわかる。
従来型摩擦ダンパーと変位依存型摩擦ダンパーにおける最大応答加速度は、載荷重率αが大きくなるほど大きくなるが、変位依存型摩擦ダンパーの方が、変動が小さい傾向にある。また、復元力率βが小さいほど低減率が多くなるが、その差は著しくない。
これらのことにより、従来型摩擦ダンパーの方が変位依存型摩擦ダンパーより加速度が大きくなり、変位依存性ダンパーを適用する効果があることを確認した。
【0077】
従来型摩擦ダンパーと変位依存型摩擦ダンパーにおける最大応答変位は、載荷重率αや復元力率βが大きくなるほど小さくなる。従来型摩擦ダンパーの方が変位依存型摩擦ダンパーより応答変位が小さいが、いずれも一般的な免震支承の変形対応範囲内にあり、問題ない。
最大応答加速度は、L2よりL1の方が、従来型摩擦ダンパーと変位依存型摩擦ダンパーの差が大きく、また、変位が小さい時の摩擦力が小さい後者の方が低減される。
これらのことにより、L1レベルの中小地震では、変位依存型摩擦ダンパーの方が従来型摩擦ダンパーより大幅に小さく、初期摩擦力が小さいほど低減効果が大きい。
【0078】
最大応答変位は、L2よりL1の方が従来型摩擦ダンパーと変位依存型摩擦ダンパーの差がやや小さい。
【0079】
残留変位については、地震動によりばらつきがあるものの概ね従来型摩擦ダンパーの方が変位依存型摩擦ダンパーより大きい。復元力率βの違いによる差は小さい。
載荷重率αは、0.1~0.2、復元力率βは0.4~0.6程度とすることが好適である。
このようにすることで、残留変位をL2地震で20mm、L1地震で10mm以下と十分小さくすることができる。
【0080】
以上のことにより、変位依存型摩擦ダンパーは、従来型摩擦ダンパーより、最大応答加速度を低減できるし、また初期合成復元力の方が小さいほど低減率が多い、入力地震動が小さいL1地震の方がL2地震より免震効果が大きくなり、従来型摩擦ダンパーよりも十分小さい加速度に収めることができることがわかった。
載荷重率αは、0.1~0.2、復元力率βは、0.4~0.6程度とすることが好適である。
【0081】
以上、本発明による変位依存型ダンパーの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
上記の実施形態では、複数の圧縮ばね51の周囲に、圧縮ばね51の水平方向の変位を規制するガイドプレート53が設けられているが、このようなガイドプレート53が設けられていなくてもよい。
【0082】
上記の実施形態では、弾性部材として圧縮ばね51を採用しているが、鉛直方向に弾性変形可能なゴムや皿ばねなどを採用してもよい。
【0083】
上記の実施形態では、免震層12に免震支承として積層ゴム支承13が設けられているが、積層ゴム支承13以外に弾性すべり支承などが免震支承として設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1,1B,1C 変位依存型ダンパー
2,2C 下沓
3,3C 上沓
4,4B,4C 摺動子
5,5B,5C ばね部
11 構造物
14 下部構造体
15 上部構造体
23,23C 下摺接面
33,33C 上摺接面
45,45C 下摺動面
46,46C 上摺動面
51 圧縮ばね(弾性部材)
53,53B,53C ガイドプレート(水平変位規制部材)