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特開2023-130215樹脂製の軌道輪を備えるクロスローラ軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130215
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】樹脂製の軌道輪を備えるクロスローラ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/62 20060101AFI20230912BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20230912BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F16C33/62
F16C19/36
F16C33/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034762
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】本山 真生
(72)【発明者】
【氏名】川島 孝文
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA26
3J701AA34
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA03
3J701BA09
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA64
3J701BA69
3J701BA70
3J701DA14
3J701EA34
3J701EA37
3J701EA38
3J701FA31
3J701FA44
3J701FA51
3J701GA31
3J701GA60
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】軽量かつ耐摩耗性を有する軸受を提供すること。
【解決手段】内周に互いに直交する一対の外輪軌道面を有する外輪と、前記外輪と共通の中心軸を有し、外周に互いに直交する一対の内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に周方向に交互に傾斜方向を異にして配置された複数のローラと、を備えるクロスローラ軸受である。前記外輪および前記内輪は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂で形成されてなる。前記ローラは、前記ローラの直径dと、前記ローラの前記軸方向の長さLとが、d×0.97>Lの関係を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に互いに直交する一対の外輪軌道面を有する外輪と、
前記外輪と共通の中心軸を有し、外周に互いに直交する一対の内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に周方向に交互に傾斜方向を異にして配置された複数のローラと、
を備えるクロスローラ軸受であって、
前記外輪および前記内輪は、
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂で形成されてなり、
前記ローラは、
前記ローラの直径dと、前記ローラの前記軸方向の長さLとが、
d×0.97>L
の関係を満たす、
クロスローラ軸受。
【請求項2】
前記外輪は、軸方向に分割された第1外輪分割輪と第2分割輪とを含み、
前記内輪は、一体の部材から構成されている、
請求項1に記載のクロスローラ軸受。
【請求項3】
前記外輪及び前記内輪は、PEEK樹脂で構成され、
前記外輪の外径は26~310mm、
前記内輪の内径は15~250mm
である、
請求項1または請求項2に記載のクロスローラ軸受。
【請求項4】
前記ローラは、
軸方向に延びる中空円筒形状を有し、前記軸方向における第1端と、前記第1端と前記軸方向における逆側の端部である第2端とを含む第1部分と、
前記第1端と連続し、前記軸方向に直交する面を有する第2部分と、
前記第2端と連続し、前記軸方向に直交する面を有する第3部分と、
を含み、
前記第2部分は、前記第1部分の前記第1端を閉塞し、
前記第3部分は、前記第1部分に対して径方向内方に突出する突出部を含み、
前記第3部分は、前記第1部分の前記第2端を閉塞しない、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項5】
前記第1部分と、前記第2部分と、前記第3部分とは、一連の板材で構成されている、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【請求項6】
前記複数のローラのすべては、
前記第1端が前記内輪と対面し、前記第2端が前記外輪と対面するよう配置されている、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の軌道輪を備えるクロスローラ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスローラ軸受として、内輪は一体の部品で構成され、外輪は軸方向に分割された分割輪を組み合わせて構成されたものが知られている。例えば特許文献1に開示されたクロスローラ軸受では、分割輪の双方を貫通するねじ穴が形成され、このねじ穴に挿通されたボルトとナットとが締結されることによって、分割輪同士が互いに固定されている。
【0003】
内輪と外輪がいずれもワンピースの一体部品で構成されたクロスローラ軸受が知られている。例えば特許文献2には、ローラの直径および高さが2mmであり、外輪の外径と内輪の内径との差の半分である軸受の断面高さが実質的に5.5mmである超薄型クロスローラ軸受が開示されている。隣接するローラの間にはセパレータが配置され、セパレータは長尺の円柱形状に形成されている。セパレータは、両端面の平面部の中央に、平面部に囲まれた凹部が形成されている。
【0004】
外輪および内輪からなる軌道輪が、樹脂の成形体である転がり軸受が知られている。例えば特許文献3には、軌道輪がポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂で構成され、転動体がセラミックス製の玉である転がり軸受が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭60-95228号公報
【特許文献2】特開2009-287587号公報
【特許文献3】特開2017-180750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軽量かつ耐摩耗性を有する軸受が望まれる。そこで本発明は、軽量かつ耐摩耗性を有する軸受を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従ったクロスローラ軸受は、内周に互いに直交する一対の外輪軌道面を有する外輪と、前記外輪と共通の中心軸を有し、外周に互いに直交する一対の内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に周方向に交互に傾斜方向を異にして配置された複数のローラと、を備える。前記外輪および前記内輪は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂で形成されてなる。前記ローラは、前記ローラの直径dと、前記ローラの前記軸方向の長さLとが、d×0.97>Lの関係を満たす。
【発明の効果】
【0008】
上記クロスローラ軸受は、軽量かつ耐摩耗性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示に従うクロスローラ軸受の一部を切り開いて示す斜視図である。
図2図2は、図1におけるII-II断面を示す断面図である。
図3図3は、本開示に従うクロスローラ軸受から第1外輪部材および第2外輪部材を省き、一部を拡大して示す斜視図である。
図4図4は、本開示に従うクロスローラ軸受から第1外輪部材を省き、一部を拡大して示す模式図である。
図5図5は、本開示に従うクロスローラ軸受のローラを示す側面図、平面図および底面図である。
図6図6は、図5におけるVI-VI断面を示す断面図である。
図7図7は、図5におけるVI-VI断面を含む断面斜視図である。
図8図8は、本開示に従うクロスローラ軸受のローラを示す側面図である。
図9図9は、図8に示すクロスローラ軸受のローラの断面図である。
図10図10は、図9に示された断面と同じ断面が表れたローラの断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示に従ったクロスローラ軸受は、内周に互いに直交する一対の外輪軌道面を有する外輪と、前記外輪と共通の中心軸を有し、外周に互いに直交する一対の内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に周方向に交互に傾斜方向を異にして配置された複数のローラと、を備える。前記外輪および前記内輪は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂で形成されてなる。前記ローラは、前記ローラの直径dと、前記ローラの前記軸方向の長さLとが、d×0.97>Lの関係を満たす。
【0011】
従来、軽量なクロスローラ軸受として、外輪や内輪を薄肉に形成したものが知られている(例えば特許文献2)。特許文献2のクロスローラ軸受は、内輪および外輪がそれぞれワンピースの一体部品で構成されており、外輪に設けられた組み込み孔を通じて、外輪と内輪の間にローラが挿入される。特許文献2のクロスローラ軸受は、内輪、外輪、ローラともに高炭素クロム軸受鋼で構成される。ローラは中実の円柱形状で、長さと直径とが実質的に同一のサイズに形成されている。
【0012】
軸受が組み込まれる装置の小型化および軽量化の要求に伴って、軸受に対しても一層の軽量化が望まれている。この背景の下で軸受の軽量化が検討され、従来汎用されている鋼製の軌道輪では軽量化に限界があると考えられた。そこで、より軽量な材料として、軌道輪を樹脂で構成することが検討された。転がり軸受において、樹脂製の軌道輪を用いる検討は一部で行われている(例えば特許文献3)。特許文献3では、荷重変形を防止するために寸法安定性に特に優れた樹脂材料を用いて軌道輪を構成し、かつ、セラミックス製の玉を転動体として用いている。しかしながら、クロスローラ軸受では荷重方向が一様でないこと、また、軽量化の観点から、特許文献3の玉軸受をクロスローラ軸受に転用することは困難と考えられた。
【0013】
本開示にかかるクロスローラ軸受は、外輪および内輪が樹脂で構成されるとともに、外輪と内輪の間に挿入されるローラについて、ローラの直径dとローラの軸方向の長さLとが、d×0.97>Lの関係を満たす。この構成によって、負荷によって軌道輪が弾性変形を生じた場合であっても、ローラの転走が損なわれず、確実に動作するクロスローラ軸受が得られることが見出された。同時に、前記の形状を有するローラによれば、ローラの端面やその角部分が軌道面に接触することによる軌道面の傷付きが抑制され、軌道輪の摩耗や接触抵抗が低減されて、より耐久性に優れた軸受が得られることが見出された。
【0014】
本開示にかかるクロスローラ軸受において、前記外輪は軸方向に分割された第1外輪分割輪と第2分割輪とを含み、前記内輪は一体の部材から構成されていてもよい。かかる構成の外輪および内輪を用いることによって、汎用的な製造方法を利用しながら、合理的なコストで軽量かつ耐摩擦性を有するクロスローラ軸受を得ることができる。
【0015】
本開示にかかるクロスローラ軸受において、前記外輪及び前記内輪は、PEEK樹脂で構成され、前記外輪の外径は26~310mm、前記内輪の内径は15~250mmであってよい。PEEK樹脂を用いてこの範囲のクロスローラ軸受を構成すると、従来の鋼製の軸受に対して質量が60~80%程度低減され、かつ、充分な耐摩擦性と実用的な耐荷重を備えるクロスローラ軸受が得られる。
【0016】
本開示にかかるクロスローラ軸受において、前記ローラは、軸方向に延びる中空円筒形状を有し、前記軸方向における第1端と、前記第1端と前記軸方向における逆側の端部である第2端とを含む第1部分と、前記第1端と連続し、前記軸方向に直交する面を有する第2部分と、前記第2端と連続し、前記軸方向に直交する面を有する第3部分と、を含むローラであってよい。前記第2部分は前記第1部分の前記第1端を閉塞し、前記第3部分は前記第1部分に対して径方向内方に突出する突出部を含み、前記第3部分は前記第1部分の前記第2端を閉塞しないものであってよい。すなわち、このローラは、円筒の両端のうち、一端は閉塞され、他端は側壁から径方向内方に突出する突出部を有するが閉塞されない構造を有する。このような形状を備えるローラを採用することによって、さらなる軽量化を実現しながら、耐摩擦性も確保できる。
【0017】
前記第1部分と、前記第2部分と、前記第3部分とは、一連の板材で構成されていてもよい。つまり、ローラは、一連の板材を曲げて構成されたものであってもよい。このようなローラは、板材のプレス加工、具体的には絞り加工によって得ることができる。従来、クロスローラ軸受におけるローラは研削加工によって作製されていたところ、板材の絞り加工によってローラを作製することによって、中空部分を大きくすることが可能で、大幅な軽量化が実現できる。また、生産性が高く合理的なコストで軸受を作製できる。さらに、板材の切断端部を折り曲げて第3部分を構成することによって、軌道面における傷の発生を抑制できる。このため、傷の発生に起因する回転抵抗の増加を抑制し、軸受の早期破損が防止される。
【0018】
本開示にかかるクロスローラ軸受において、前記複数のローラのすべては、前記第1端が前記内輪と対面し、前記第2端が前記外輪と対面するよう配置されていてもよい。かかる構成とすることで、内輪の軌道面とローラとの接触抵抗に起因する回転抵抗の増加を抑制するという効果がある。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本開示にかかるクロスローラ軸受の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0020】
(クロスローラ軸受)
図1は本開示に従うクロスローラ軸受1の一部を切り開いて示す斜視図である。図2は、図1におけるII-II断面を示す断面図である。図3は、クロスローラ軸受1から第1外輪部材11および第2外輪部材12を省き、一部を拡大して示す斜視図である。
【0021】
図1を参照して、まずクロスローラ軸受1の概要を説明する。クロスローラ軸受1は、円環状の外輪10と、円環状の内輪20と、外輪10と内輪20との間に挿入された複数の転動体としてのローラ30と、を主に備える。外輪10と内輪20は共通の中心軸Rを有する。中心軸Rの延びる方向をクロスローラ軸受1の軸方向という。ローラ30は、側面と端面との間が曲線的に形成された略円柱状の外形を有する。ローラ30は、第1の方向に配置されたローラ31と、ローラ31と直交する第2の方向に配置されたローラ32と、を含む。ローラ31とローラ32とは、交互に傾斜方向を異にして、隣接するローラ31とローラ32の転動軸が互いに直交するように配置されている。ローラ31とローラ32は、配置方向が異なるのみで同一の材質および形状を有する。
【0022】
本開示にかかるクロスローラ軸受1の外輪10および内輪20は、樹脂製である。本開示にかかるクロスローラ軸受は、軽量化を実現するために軌道輪(外輪および内輪)が樹脂で構成されていることを特徴とする。樹脂製の軌道輪と前述のローラとを備えることによって、従来になく軽量で、かつ耐摩耗性にも優れ実用上必要な耐久性を有する軸受を実現できる。
【0023】
外輪10および内輪20を構成する樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂である。樹脂は1種であっても2種以上が併用されてもよい。
【0024】
軌道輪を構成する樹脂には、フィラー(充填材)を含んでもよい。フィラーとしては、樹脂成形体の強化材、固体潤滑剤、または両者の混合物等が挙げられる。強化材としては、ガラス繊維(GF)、カーボン繊維(CF)、アラミド繊維や、チタン酸カリウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカ等のウィスカ類が使用できる。固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、グラファイト、二硫化モリブデン、炭素粉末、タルク等が使用できる。さらに、酸化防止剤や安定剤等、公知の添加物成分を含んでよい。
【0025】
図1図2を参照して、外輪10は、軸方向に分割された2つの分割輪である、第1外輪部材11および第2外輪部材12から構成される。第1外輪部材11および第2外輪部材12同士は、穴15に挿入される締結部材によって固定される。外輪10は、その内周に第1軌道面11aおよび第2軌道面12aを有する。第1外輪部材11が第1軌道面11aを有する。第2外輪部材12が第2軌道面12aを有する。第1軌道面11aと第2軌道面12aとが、互いに直交する一対の外輪軌道面10aを構成する。
【0026】
外輪10において、第1外輪部材11と第2外輪部材12は同一の形状を有してよい。このため、裏表の区別のない、軸方向における中心を通る平面に対して対称であるクロスローラ軸受が得られる。なお、クロスローラ軸受1の製造において、第1外輪部材11と第2外輪部材12は組み合わされた状態で製造されてもよく、別々に製造されてもよい。すなわち、組み合わせを特定することなく複数の(多数の)外輪部材を作製した後に、任意に2つの外輪部材を組み合わせてクロスローラ軸受を組み立ててもよい。本開示にかかるクロスローラ軸受の寸法は特に制限されないが、小径であること、具体的には外輪の外径は26~310mm程度、内輪の内径は15~250mm程度のクロスローラ軸受であることが好ましい。
【0027】
内輪20は一体に形成された一部品で構成される。内輪20は、外周に第3軌道面21aおよび第4軌道面22aを有する。第3軌道面21aと第4軌道面22aとが、互いに直交する一対の内輪軌道面20aを構成する。第1軌道面11a、第2軌道面12a、第3軌道面21a、第4軌道面22aによって規定される環状の空間が、ローラ30が転走する軌道である。
【0028】
図2に示される断面において、第1軌道面11aと第4軌道面22aとを最短距離でつなぐ仮想直線と、第2軌道面12aと第3軌道面21aとを最短距離でつなぐ仮想直線とは、互いに直交する。第1の方向に配置されたローラ31は、円筒側面状の外周面51aを有する。外周面51aが、第2軌道面12aおよび第3軌道面21aと接触し、ローラ31が第2軌道面12aおよび第3軌道面21a上を転走する。同様に、第2の方向に配置されたローラ32は、第1軌道面11aおよび第4軌道面22a上を転走する。
【0029】
図3を参照して、ローラ31は、両端面のうち開口部s2を有する側の端面である第2端面71aが、外輪10に対面するように配置される。より具体的には、ローラ31の第1端面61a(図5)が、内輪20の第4軌道面22a(図2)に対面し、第2端面71aが外輪10の第1軌道面11aに対面する。ローラ32も同様であり、ローラ32の第2端面71aが外輪10に対面するように配置される。ローラ32の第1端面61a(図5)が、内輪20の第3軌道面21a(図2)に対面し、第2端面71aが外輪10の第2軌道面12aに対面する。これらの向きにローラを配置することによって、内輪の軌道面とローラとの接触抵抗に起因する回転抵抗の増加を抑制するという効果がある。
なお、ローラ30の配置方向はこれに限定されない。閉塞側の端面である第1端面61aが外輪軌道面10aに対向するように配置されてもよく、配置方向を制御せずにランダムに配置してもよい。
【0030】
クロスローラ軸受1の使用態様は制限されないが、例えば、外輪10が外部装置の軸受ハウジングに固定され、内輪20が外力を受けて回転する構成として用いられうる。また、内輪20が外部装置のハウジングに固定され、外輪10が外力を受けて回転する構成として用いられてもよい。
【0031】
図4は、クロスローラ軸受1から第1外輪部材11を省き、一部を拡大して示す模式図である。図4を参照して、図中矢印に示すようにクロスローラ軸受1が外周側から径方向に負荷を受けると、図中点線で示すように外輪(第2外輪部材12)が弾性変形することがある。特に、クロスローラ軸受1は外輪10および内輪20が樹脂で構成されるため、鋼製の軌道輪である場合よりも弾性変形の程度が大きくなる。軌道輪が弾性変形すると、転走するローラ32に隣接するローラ31のスペースが失われ、ローラ31と第2軌道面12aが当接し、軸受の回転を阻害するおそれがある。本開示にかかるクロスローラ軸受1では、ローラ31の長さLをローラ31の直径dよりも小さくすることによって、ローラ31と第2軌道面12aとの干渉を回避しうる。また、ローラ31は第2端面71aの角が湾曲領域42となり、曲面に形成されているため、第2軌道面12aと当接する場合であっても第2軌道面12aを傷付けることが少なく、摩擦抵抗も低減される。かかる形状によって、軸受が負荷を受ける場合にも、軸受の円滑な動作を実現できる。さらに、ローラ31の第1端面61aと内輪20の第4軌道面22aとは、第1端面61aの中心領域c1付近で接触する。ここで、第1端面61aは開口部のない平坦な面に形成されており、開口部s2のある第2端面71aが第4軌道面22aに対向するよう配置された場合と比べて、第4軌道面22aに対する接触抵抗を抑制できる。かかる構成によって、クロスローラ軸受1における回転抵抗の上昇を抑制し、クロスローラ軸受1の耐摩擦性および耐久性をさらに良好にできる。
【0032】
(ローラ)
図5は、本開示に従うクロスローラ軸受に備えられるローラ30を示す(a)側面図、(b)平面図および(c)底面図である。図6は、図1におけるVI-VI断面を示すローラ30の断面図である。図7は、図5におけるVI-VI断面を含むローラ30の断面斜視図である。
【0033】
本開示にかかるクロスローラ軸受1に備えられるローラ30について説明する。
図5(a)~(c)を参照して、ローラ30は、第1部分としての側壁51と、側壁51と湾曲領域41を介して連続する第2部分としての第1端壁61と、側壁51と湾曲領域42を介して連続する第3部分としての第2端壁71と、を含む。側壁51は、軸rの方向に延びる円筒形状を有する(以下のローラ30の説明では、軸rの方向を単に軸方向と称する。)。側壁51の軸rに直交する断面は、円形である。側壁51の外周面51aの直径が、ローラ30の直径dである。側壁51は軸方向における第1端51Aと、軸方向における第1端51Aと逆側の端部である第2端51Bとを含む。
【0034】
第1端壁61は、ローラ30の軸方向に直交する方向に延在する第1端面61aを含む。第2端壁71は、ローラ30の軸方向に直交する方向に延在する第2端面71aを含む。第1端面61aと第2端面71aとの間の長さが、ローラ30の長さLである。第1端壁61は、側壁51の第1端51Aを閉塞する円盤状の壁面である。第2端壁71は、第2端51Bと湾曲領域42を介して連続し、径方向内方に延びる円環状の壁面である。すなわち、側壁51の第2端51Bは、第2端壁71によって閉塞されておらず、側壁51の第2端51B側には、軸rを中心とした円形の開口部s2が形成されている。開口部s2は、第2端壁71の先端面71eによって規定される。
【0035】
ローラ30における直径dと長さLとは、直径d×0.97>長さLとされる。また、直径d×0.5≦長さLであることが好ましい。すなわち、ローラ30の長さLは、直径dに対して50%以上97%未満であることが好ましい。ローラ30の長さLが、直径dに対して50%未満になると、クロスローラ軸受の動作中にローラがスピンし、回転を阻害するおそれがある。また、ローラ30の具体的な寸法として、直径d(mm)-0.2(mm)≧長さL(mm)であってもよい。従来、クロスローラ軸受において、ローラの直径と長さは等しいか、直径よりも長さが若干小さい程度とされていた。本開示にかかる軸受では、軌道輪が樹脂で構成され、負荷を受けた際に弾性変形が生じることがある。このような場合であっても、ローラの長さと直径の関係を上記のとおりとすることによって、軌道輪の弾性変形を許容可能となり、弾性変形が生じた場合であってもローラの端面と軌道面とが接触して回転がロックすることを回避できる。
【0036】
図6図7を参照して、ローラ30は、側壁51と第1端壁61と第2端壁71によって囲まれた中空部s1を有する。中空部s1は開口部s2に対して大径である。側壁51、第1端壁61、第2端壁71は実質的に同じ厚みt1を有する。ローラ30の寸法は、本発明の効果が得られる限り制限されないが、一例として、直径dが3mm、長さLが2.8mm、壁面の厚みt1が0.3mmであってよい。典型的には、直径dは2~12mmであってよく、長さLは2~12mmであってよく、壁面の厚みt1は0.1~3.0mmであってよい。壁面の厚みt1は、直径dに対して5~25%であってよい。第2端壁71が側壁51から突出する長さp1は特に制限されないが、例えば直径dに対して5~20%であってよい。
【0037】
第1端壁61と、側壁51と、第2端壁71とは、湾曲領域41、42を介して一連に連続している。湾曲領域41、42の外側表面は、曲面に形成されている。この形状によって、ローラ30が軌道内で転動する際に接触抵抗が低減され、また、軌道面の摩耗をより低減できる。ローラ30は連続する一連の曲げられた板材によって形成されている。ローラ30は、典型的には板材のプレス加工、より具体的には絞り加工によって得られる。
【0038】
ローラ30は、例えばSUS304、SUS304等のステンレス鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気メッキ鋼板等の鋼板、アルミニウム合金板等の曲げ加工によって構成されうる。また、樹脂あるいは軸受鋼で構成されてもよい。さらに、ガラス、セラミックス等の無機材料で構成されてもよい。ローラ30を構成する材質は、用途に応じて選択されうる。例えば、優れた耐食性が求められる場合にはステンレス鋼板を用いることができる。より軽量性が求められる場合には無機材料を用いることができる。
【0039】
ローラ30の製造方法は特に限定されないが、例えば金属板の絞り加工によって製造できる。典型的な製造方法として、まず金属板の深絞り加工によって、所望の径を有するとともに、完成品の長さよりも深い円筒部を有するカップ状部分を形成する。次いで、円筒部の開放端を切断してカップ状部材を得る。続いて、開放端を径方向内側に折り曲げるよう、折り曲げ加工を行う。なお、両端面および側面はさらに研磨によって所定の形状を形成してもよい。
【0040】
(ローラの変形例)
図8は、本開示に従うクロスローラ軸受に備えられるローラ131を示す側面図である。図9は、ローラ131の軸rに沿う断面を示す断面図である。図10は、図9に示された断面と同じ断面が表れたローラ131の断面斜視図である。ローラ131は、第2端壁171を除いて、ローラ30と同様の構成を備える。以下では、ローラ131がローラ30と異なる構成を中心に説明し、共通する構成の説明は大幅に省略する。
【0041】
図8図10を参照して、ローラ131は、第1部分としての側壁51と、側壁51と湾曲領域41を介して連続する第2部分としての第1端壁61と、側壁51と湾曲領域42を介して連続する第3部分としての第2端壁171と、を含む。第2端壁171は、ローラ131の軸方向に直交する方向に延在する第2端面171aを含む。第2端壁171は、側壁51の第2端51Bと湾曲領域42を介して連続し、側壁51から径方向内方に突出して延びる円環状の部分である。側壁51の第2端51Bは、第2端壁171によって閉塞されず、軸rを中心とした円形の開口部s12を有する。開口部s12は、第2端壁171の内周面171dによって規定される部分である。第2端壁171は、径方向内方に突出して延びるとともに、その先端はさらに湾曲してローラ131の軸方向に延びている。第2端壁171の先端面171eは、ローラ131の軸方向に直交する方向に延びている。
【0042】
ローラ131はローラ30と同様に、金属板の絞り加工によって製造できる。典型的な製造方法として、まず金属板の深絞り加工によって、所望の径を有するとともに、完成品の長さよりも深い円筒部を有するカップ状部分を形成する。次いで、円筒部の開放端を切断してカップ状部材を得る。続いて、開放端側を径方向内側に丸め込むようにカーリング加工する。両端面および側面はさらに研磨によって所定の形状を形成してもよい。
【0043】
(クロスローラ軸受の製造)
軌道輪が樹脂製であるクロスローラ軸受1は、例えば次の手順で作製される。すなわち、所定の形状を備える内輪と、複数のローラと、2つの外輪部材とを準備する。樹脂製の内輪および外輪部材は、例えばPEEK樹脂の切削加工または樹脂成形加工(射出成形や押出成形を含み、これらに限らない)によって得ることができる。ローラは、前述したプレス加工によって得ることができる。続いて組み立てを行う。図1を参照して、内輪20と外輪部材の一方(図1では第2外輪部材12)を組み合わせて、ローラ30を配置する。このとき、隣接するローラの軌道面を交互に逆に位置するように配置する。また、ローラ30の閉塞側端面が内輪20に対面するように配置する。続いて第1外輪部材をかぶせて、第1外輪部材と第2外輪部材の周方向位置を合わせる。次いで、穴15に、例えばねじである締結部材を挿入して締結し、第1外輪部材と第2外輪部材とを固定する。
【0044】
本開示にかかるクロスローラ軸受は、軌道輪(外輪および内輪)は樹脂製であり、かつ、ローラはプレス加工された鋼板の薄板で形成されることが好ましい。この組み合わせによれば、軽量化の効果が特に優れるとともに、耐摩擦性を有し、耐久性に優れたクロスローラ軸受が得られる。また、軌道輪(外輪および内輪)は樹脂製であり、かつ、ローラも樹脂製であるクロスローラ軸受であることも好ましい。
【0045】
上記のほか、本開示にかかるクロスローラ軸受は様々な変形例がありえる。例えば、クロスローラ軸受は、外輪および内輪がいずれも一体部品で形成されてもよい。例えば、隣接するローラ間にセパレータが配置されてもよい。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 クロスローラ軸受、10 外輪、10a 外輪軌道面、11 第1外輪部材、11a 第1軌道面、12 第2外輪部材、12a 第2軌道面、15 穴、20 内輪、20a 内輪軌道面、21a 第3軌道面、22a 第4軌道面、30、31、32、131 ローラ、41、42 湾曲領域、51 側壁、51a 外周面、61 第1端壁、61a 第1端面、71、171 第2端壁、71a、171a 第2端面、71e、171e 先端面、171d 内周面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10