(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130252
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230912BHJP
B32B 17/02 20060101ALI20230912BHJP
H05K 9/00 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
B32B15/08 J
B32B17/02
H05K9/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034833
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】武内 信貴
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AG00B
4F100AJ07B
4F100AK01B
4F100AK01D
4F100AK01E
4F100AK15E
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4F100AK25E
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4F100AK46E
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4F100AK69E
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100DG01B
4F100JB12B
4F100JB12D
4F100JB16E
4F100JJ07
4F100YY00B
4F100YY00D
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB41
5E321BB53
5E321GG05
5E321GH10
(57)【要約】
【課題】 金属層を備えたシートにおいて、不燃性に優れ、かつ、熱溶着による接合をおこなうことのできる、シートの提供を主な課題とする。
【解決手段】 少なくとも、金属層と、ガラス繊維織物と、熱可塑性樹脂層と、がこの順に積層されたシートであって、前記ガラス繊維織物の両面に硬化性樹脂を含み、前記ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含む、シート。電磁波シールド用膜材料とし、テント倉庫の屋根や外壁、膜構造建築物の建築材料、膜天井等として適用することが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、金属層と、ガラス繊維織物と、熱可塑性樹脂層と、がこの順に積層されたシートであって、
前記ガラス繊維織物の両面に硬化性樹脂を含み、
前記ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含む、シート。
【請求項2】
前記ガラス繊維織物が、当該ガラス繊維織物を構成するガラス繊維表面に、ポリビニルアルコール及び/又は澱粉を含有する、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
Laに対する前記ガラス繊維織物の厚さの比率(ガラス繊維織物の厚さ/La×100)が70~95%である、請求項1又は2に記載のシート。
La:前記ガラス繊維織物の一方の面に含まれている前記硬化性樹脂の外側界面から前記ガラス繊維織物の他方の面に含まれている前記硬化性樹脂の外側界面までの距離
【請求項4】
前記ガラス繊維織物の質量(g/m2)に対する、前記硬化性樹脂の質量(g/m2)の比率(硬化性樹脂の質量/ガラス繊維織物の質量×100)が15~45質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂層の厚さが100~300μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
前記シートの厚さに対する、前記熱可塑性樹脂層の厚さの割合(熱可塑性樹脂層の厚さ/シートの厚さ×100)が30~70%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂層がポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリアミドからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のシート。
【請求項8】
一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って測定される、輻射電気ヒーターからシートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後の最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、総発熱量が8MJ/m2以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁波シールド性を有するシートとして、金属層とガラス繊維織物とを含むシートが知られている。
【0003】
例えば、ガラスクロスの表裏両面にアルミ箔を接着して構成した電磁波遮断用シートであって、ガラスクロスの厚さは100μm~150μmの範囲であり、また少なくとも一方のアルミ箔の厚さは7μm~30μmの範囲である電磁波遮断用シートが知られている(特許文献1参照。)。該文献によれば、当該電磁波遮断用シートはガラスクロスによって強化されているので、施工時にアルミ箔が破損するおそれが少なく、且つアルミ箔はガラスクロスの両側に設けられているので、一方のアルミ箔が破損しても他方のアルミ箔により電磁波の遮断効果を達成でき、さらに、二枚のアルミ箔で構成されていることにより、電磁波が片方のアルミ箔を通過しても、通過した電磁波は他方のアルミ箔により確実に遮断され電磁波遮断効果を確保できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、体育館等の大規模空間を有する建築物の天井が脱落する被害が生じ、人命が失われた施設もあった。そして、地震時における天井脱落による被害を防止すべく、平成25年7月に建築基準法施行令の一部改正ならびに同年8月「天井脱落対策に係る一連の技術基準告示(平成25年国土交通省告示第771号他)」が公布(平成26年4月1日から施行)されている。これにより「特定天井」に該当する場合には、これらの技術基準に従って脱落防止対策を行うことが義務づけられた。これらに伴い、近年、不燃性に優れ、比較的軽いガラス繊維織物を用いた膜材料が注目されている。
【0006】
上記のガラス繊維織物は、原料反の幅がせいぜい1~2m程度と限られていることから、ガラス繊維織物を用いて大面積の膜材料とする場合は、ガラス繊維織物同士を接合する必要がある。
【0007】
また、近年、大規模空間において5G通信を活用したeスポーツ大会等がおこなわれることが多くなることが見込まれ、大規模空間外からの電磁波によるノイズを低減することが求められている。
【0008】
ここで、シート同士を接合する方法として熱溶着による接合が挙げられるところ、特許文献1のシートは、両面にアルミ箔が設けられていることから、熱溶着による接合ができないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を解決し、金属層を備えたシートにおいて、不燃性に優れ、かつ、熱溶着による接合をおこなうことのできる、シートの提供を主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
当初、本発明者等は、ガラス繊維織物に熱溶着による接合が可能な熱可塑性樹脂層を含浸させ、これに金属層を積層したシートとすることで、上記課題が解決できるのではないかと考えた。しかしながら、当該シートを熱溶着により接合する場合、ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる熱可塑性樹脂が溶融し、ガラス繊維織物の一部が熱可塑性樹脂層から露出してしまい、これに起因して接合性に劣る場合があることを知得した。
【0011】
そこで、本発明者等は、ガラス繊維織物に硬化性樹脂を含浸させて硬化性樹脂層とし、当該硬化性樹脂層の一方の面に金属層を、他方の面に熱溶着による接合が可能な熱可塑性樹脂層を積層したシートとすることを考えた。硬化性樹脂層は、熱溶着時の加熱によって溶融し難く、これによりガラス繊維織物が露出することを抑制することができる、と考えたことによる。しかしながら、当該シートとした場合、樹脂量が多くなり、不燃性、柔軟性に劣る場合があることを知得した。具体的に、建築基準法では、不燃性の要件として、輻射電気ヒーターからシートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後の最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、総発熱量が8MJ/m2以下であることが定められている。当該総発熱量及び発熱速度は、酸素消費法と呼ばれる方法によって計算され、樹脂量に大きく依存する。
【0012】
そこで、本発明者等がさらに検討を重ね、少なくとも、金属層と、ガラス繊維織物と、熱可塑性樹脂層とがこの順に積層されたシートであって、前記ガラス繊維織物の両面に硬化性樹脂を含み、前記ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含む、シートとすることにより、上記課題を解決できることを知得した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.少なくとも、金属層と、ガラス繊維織物と、熱可塑性樹脂層と、がこの順に積層されたシートであって、前記ガラス繊維織物の両面に硬化性樹脂を含み、前記ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含む、シート。
項2.前記ガラス繊維織物が、当該ガラス繊維織物を構成するガラス繊維表面に、ポリビニルアルコール及び/又は澱粉を含有する、項1に記載のシート。
項3.Laに対する前記ガラス繊維織物の厚さの比率(ガラス繊維織物の厚さ/La×100)が70~95%である、項1又は2に記載のシート。
La:前記ガラス繊維織物の一方の面に含まれている前記硬化性樹脂の外側界面から前記ガラス繊維織物の他方の面に含まれている前記硬化性樹脂の外側界面までの距離
項4.前記ガラス繊維織物の質量(g/m2)に対する、前記硬化性樹脂の質量(g/m2)の比率(硬化性樹脂の質量/ガラス繊維織物の質量×100)が15~45質量%である、項1~3のいずれか1項に記載のシート。
項5.前記熱可塑性樹脂層の厚さが100~300μmである、項1~4のいずれか1項に記載のシート。
項6.前記シートの厚さに対する、前記熱可塑性樹脂層の厚さの割合(熱可塑性樹脂層の厚さ/シートの厚さ×100)が30~70%である、項1~5のいずれか1項に記載のシート。
項7.前記熱可塑性樹脂層がポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリアミドからなる群より選ばれる1種以上を含む、項1~6のいずれか1項に記載のシート。
項8.一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って測定される、輻射電気ヒーターからシートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後の最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、総発熱量が8MJ/m2以下である、項1~7のいずれか1項に記載のシート。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシートによれば、少なくとも、金属層と、ガラス繊維織物と、熱可塑性樹脂層と、がこの順に積層されたシートであって、前記ガラス繊維織物の両面に硬化性樹脂を含み、前記ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含むことから、金属層を備えたシートにおいて、不燃性に優れ、かつ、熱溶着による接合をおこなうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のシートの層構造の一例を説明する、横断面模式図である。
【
図2】本発明のシートの層構造の一例を説明する、横断面模式図である。
【
図4】一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」を行う際に使用する試験装置の概略を示す図である。
【
図5】一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」を行う際に使用する試験装置に含まれる試験ホルダー及び押さえ枠の概略図である。
図5中に示す数値(寸法)の単位はmmである。
【
図6】実施例における熱溶着による接合性の評価方法について説明する模式図であり、
図6(A)は平面図、
図6(B)は
図6(A)のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のシートは、少なくとも、金属層と、ガラス繊維織物と、熱可塑性樹脂層と、がこの順に積層されたシートであって、前記ガラス繊維織物の両面に硬化性樹脂を含み、前記ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含む。
【0017】
図1及び2は、本発明のシートの層構造の一例を説明する、横断面模式図である。
図1及び2に示すように、本発明のシート1は、金属層2と、ガラス繊維織物3と、熱可塑性樹脂層41と、がこの順に積層されており、ガラス繊維織物3の両面に硬化性樹脂5を含み、ガラス繊維織物3が、硬化性樹脂5が含浸していない未含浸部(空隙部)6を含む。
【0018】
図1及び2に示す態様では、硬化性樹脂5は、ガラス繊維織物3の両表面において硬化性樹脂層を形成して含まれており、硬化性樹脂層の一部がガラス繊維織物3に含浸し、ガラス繊維織物3が当該硬化性樹脂層の外側(金属層2との界面側及び熱可塑性樹脂層41との界面側)に露出しない状態で含まれている。
【0019】
また、本発明のシート1は、前記した層以外の他の層が積層されていてもよい。例えば、本発明のシート1は、金属層2の、ガラス繊維織物3とは反対側に、他の層を設けることができる。
図2に示す態様では、金属層2のガラス繊維織物3とは反対側に熱可塑性樹脂層42を備えている。
図2に示す態様の場合、熱可塑性樹脂層41を構成する熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂層42を構成する熱可塑性樹脂とは、同種の熱可塑性樹脂を用いてもよいし、異種の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0020】
本発明のシート1の積層構成の具体例としては、以下の積層構成が例示される。
(積層構成例A)
金属層2/硬化性樹脂5によって形成された層/ガラス繊維織物3/硬化性樹脂5によって形成された層/熱可塑性樹脂層41がこの順に積層された積層構成であって、前記熱可塑性樹脂層41のガラス繊維織物3側とは反対側の面、及び前記金属層2のガラス繊維織物3側とは反対側の面とが空気中に露出するように配置される、積層構成。なお、当該積層構成例Aでは、熱可塑性樹脂層は前記熱可塑性樹脂層41の1層のみ含むものとすることができる。
【0021】
(積層構成例B)
熱可塑性樹脂層42/金属層2/硬化性樹脂5によって形成された層/ガラス繊維織物3/硬化性樹脂5によって形成された層/熱可塑性樹脂層41がこの順に積層された積層構成であって、前記熱可塑性樹脂層41のガラス繊維織物3側とは反対側の面、及び前記熱可塑性樹脂層42のガラス繊維織物3側とは反対側の面とが空気中に露出するように配置される積層構成。
【0022】
以下、本発明のシートについて詳述する。
【0023】
金属層2
本発明のシート1は金属層2を含む。金属層2は、主に電磁波を遮断する役割を果たす。金属層2としては、金属箔、金属蒸着膜、金属メッキ膜を使用できる。金属層2に使用する金属は、例えばアルミニウム、銅、銀、金等の導電性金属が好ましく、一種類の金属、もしくは複数金属の合金のいずれも使用することができる。高周波の電磁波の遮断性およびコストの面から銅、銀、アルミニウムがより好ましく、アルミニウムが特に好ましい。
【0024】
金属層2の厚さは、5~50μmの範囲内が好ましく、10~30μmの範囲内がより好ましく、15~25μmがさらに好ましい。また、金属層2の質量としては、13~135g/m2が好ましく、27~81g/m2がより好ましく、40~68g/m2がさらに好ましい。
【0025】
ガラス繊維織物3
本発明のシート1はガラス繊維織物3を含む。ガラス繊維織物3は、主にシート1の不燃性と、引張強さや引裂強さ等機械的強度とを高めることに寄与する。
【0026】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物3を構成するガラス繊維のガラス材料としては、特に制限されず、公知のガラス材料を用いることができる。ガラス材料として、具体的には、無アルカリガラス(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス(Cガラス)、高強度・高弾性率ガラス(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス(ARガラス)、等が挙げられる。
【0027】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物3を構成するガラス繊維の形態としては、長繊維とすることが好ましく、不燃性と、熱溶着による接合性と、引張強さや引裂強さ等機械的強度と、をより一層並立させる観点から、長繊維である単繊維が多数集合したマルチフィラメントであるガラス糸とすることがより好ましい。また、長繊維である単繊維が多数集合したマルチフィラメントであるガラス糸としては、長繊維である単繊維を多数撚りまとめて糸状にしたガラスヤーンとすることがより好ましい。さらに、ガラス繊維織物3を構成するガラス繊維は、比較的少ない織密度としても効果的に経糸間の隙間及び緯糸間の隙間を調整し、シート1の不燃性とをより高めやすくという観点と、シートとしたときの引張強さ、引裂強さ等機械的強度をより高めやすくするという観点と、から、上記ヤーンの複数が該ヤーンの撚り方向とは反対方向に撚り合わされてなる合撚糸であることが好ましく、上記ヤーンの2~4本が該ヤーンの撚り方向とは反対方向に撚り合わされてなる合撚糸であることがより好ましい。上記合撚糸の撚り数(上撚り数)としては、2~5回/25mmが好ましく、3.0~4.5回/25mmがより好ましく挙げられる。
【0028】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物3を構成するガラス繊維(単繊維)の直径としては、不燃性と、熱溶着による接合性と、引張強さや引裂強さ等機械的強度と、をより一層並立させる観点から、5~12μmが好ましく、8~10μmがより好ましい。また、ガラス糸とする場合、ガラス糸中の単繊維の本数としては、同様の観点から、300~1200本が好ましく、300~1000本がより好ましく、500~700本がさらに好ましい。また、ガラス糸の番手としては、同様の観点から、20~200texが好ましく、50~150texがより好ましく、70~130texがさらに好ましい。
【0029】
ガラス繊維織物3の織組織としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等が挙げられ、中でも平織が好ましい。
【0030】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物3の織密度としては、不燃性と、引張強さや引裂強さ等機械的強度と、をより一層両立させる観点から、5~100本/25mmが挙げられ、10~50本/25mmが好ましく、15~25本/25mmがより好ましい。
【0031】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物3の質量としては、不燃性と、熱溶着による接合性と、引張強さや引裂強さ等機械的強度と、をより一層並立させる観点から、12~300g/m2が好ましく、50~200g/m2がより好ましく、100~180g/m2がさらに好ましい。
【0032】
また、本発明のシート1の質量に対する、ガラス繊維織物3の質量の割合としては、不燃性と、熱溶着による接合性と、引張強さや引裂強さ等機械的強度と、をより一層並立させる観点から、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。
【0033】
ガラス繊維織物3の厚さとしては、50~300μmが好ましく、100~200μmがより好ましく、130~190μmがさらに好ましい。
【0034】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物3は、当該ガラス繊維織物3を構成するガラス繊維表面に、ポリビニルアルコール及び/又は澱粉を含有することができ、中でも、経糸が、澱粉を含み、ポリビニルアルコールを含まないことが好ましい。ポリビニルアルコール及び/又は澱粉は、例えばガラス繊維織物3の、ガラス繊維紡糸集束剤又はサイジング剤として用いられるものであり、通常、温度400℃程度で熱処理するヒートクリーニング処理により除去(脱油)され得るものである。一方、本発明においては、紡糸集束剤及び/又はサイジング剤を除去せず、すなわち、ヒートクリーニング処理をおこなわないことにより、紡糸集束剤又はサイジング剤に由来するポリビニルアルコール及び/又は澱粉を含有するようにして、シート1の機械的強度をより一層向上させることができる。また、ガラス繊維織物3を構成するガラス繊維表面に、ポリビニルアルコール及び/又は澱粉を含むことにより、ガラス繊維間の摩擦が低減され、後述する経糸及び緯糸の糸幅が広がりやすくなり、ガラス繊維織物3の表面をより一層平滑にしやすくすることができる。ガラス繊維織物3の質量における、集束剤及びサイジング剤の付着量合計の割合としては、0.5~1.5質量%が好ましく、0.6~1.2質量%がより好ましい。
【0035】
本発明のシート1において、引張強さや引裂強さ等機械的強度を高いものとしつつ、ガラス繊維織物3の凹凸をより低減する観点から、経糸及び緯糸の開繊度は、5~30%が好ましく、8~20%がより好ましい。本発明において、経糸及び緯糸の開繊度は、次のように測定されるものである。すなわち、まず、経糸及び緯糸の糸幅Wを測定する。当該糸幅Wは、ガラス繊維織物を10cm角に切り出し、光学顕微鏡(キーエンス株式会社製商品名VHX-100)を用い、倍率100倍で観察をおこない、経糸、緯糸それぞれについて無作為に20本選び、該20本のガラス糸の太さの測定を行い、当該20本のガラス糸の平均値を糸幅Wとする。そして、当該糸幅W、前述した経糸及び緯糸のガラス繊維(単繊維)の直径D及び単繊維の本数Nを用い、下記式(1)により開繊度を求める。なお、下記式(1)における分母は、仮想的に単繊維が幅方向に隙間なく一列に配置されたときの糸幅を示すものであり、開繊度は、当該仮想的な糸幅に対する度合いとして定義されるものである。
式(1)・・・開繊度(%)=W/(D×N)
【0036】
熱可塑性樹脂層41
本発明のシート1は、熱可塑性樹脂層41を含む。熱可塑性樹脂層41はシート1の熱溶着による接合性に寄与する。
【0037】
熱可塑性樹脂層41に含まれる熱可塑性樹脂としては、特に制限されない。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリアミドからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。中でも、熱溶着による接合性により優れるという観点から、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0038】
本発明のシート1において、熱可塑性樹脂層41の1層あたりの厚さとしては、不燃性と、熱溶着による接合性と、をより一層両立させる観点から、50~500μmが好ましく、75~350μmがより好ましく、90~300μmがさらに好ましい。また、本発明のシート1において、熱可塑性樹脂層41の1層あたりの質量としては、同様の観点から、60~360g/m2が好ましく、90~300g/m2がより好ましく、110~260g/m2がさらに好ましい。また、ガラス繊維織物3の質量(g/m2、集束剤及びサイジング剤をガラス繊維表面に含むときは、当該集束剤及びサイジング剤の質量も含む質量)に対する、熱可塑性樹脂層41の1層あたりの質量の比率(熱可塑性樹脂層41の質量/ガラス繊維織物3の質量×100)としては、80~180質量%が好ましく、100~170質量%がより好ましい。また、本発明のシート1の厚さに対する、熱可塑性樹脂層41の1層あたりの厚さの割合(熱可塑性樹脂層41の厚さ/シート1の厚さ×100)としては、15~70%が好ましく、20~60%がより好ましい。
【0039】
硬化性樹脂5
本発明のシート1は、ガラス繊維織物3の両面に硬化性樹脂5を含む。そして、本発明のシート1は、ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部6を含む。このような構成を備えることにより、不燃性を維持しながら、熱溶着による接合によってガラス繊維織物3が露出することを防ぎ、金属層2や熱可塑性樹脂層41の剥離を低減することができる。
図1に示すように、本発明のシート1は、硬化性樹脂5が、ガラス繊維織物3の両表面において硬化性樹脂層を成して含まれており、当該硬化性樹脂層の一部がガラス繊維織物3に含浸し、ガラス繊維織物3が当該硬化性樹脂層の外側(金属層2との界面側及び熱可塑性樹脂層4との界面側)に露出しない状態で含まれているものとすることができる。
【0040】
硬化性樹脂5としては、例えば、硬化性アクリル系樹脂、硬化性ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、硬化性ポリエステル系樹脂等が挙げられる。中でも、金属層2とガラス繊維織物3との接合性、並びに、ガラス繊維織物3と熱可塑性樹脂層41との接合性により優れるという観点から、硬化性ウレタン系樹脂が好ましい。
【0041】
硬化性ポリウレタン系樹脂を構成するポリオール成分としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。また、硬化性ポリウレタン系樹脂を構成するポリイソシアネート成分としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチレンプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0042】
シート1におけるガラス繊維織物の両面に含まれる硬化性樹脂5の総含有量としては、不燃性と、熱溶着による接合性と、をより一層両立させる観点から、ガラス繊維織物3の質量(g/m2、集束剤及びサイジング剤をガラス繊維表面に含むときは、当該集束剤及びサイジング剤の質量も含む質量)に対する、当該硬化性樹脂5の質量(g/m2)の比率(硬化性樹脂5の質量/当該ガラス繊維織物3の質量×100)が30~60質量%が好ましく、35~55質量%がより好ましく、40~50質量%がさらに好ましい。また、当該硬化性樹脂5の質量としては、50~90g/m2が好ましく、60~80g/m2がより好ましい。また、当該硬化性樹脂5の質量と熱可塑性樹脂層41の1層あたりの質量との比率(硬化性樹脂5の質量/熱可塑性樹脂層41の質量)としては、不燃性と、熱溶着による接合性と、をより一層両立させる観点から、0.2~0.5が好ましく、0.3~0.4がより好ましい。
【0043】
図3は、
図1の部分拡大図である。
図3において、Laは、ガラス繊維織物2の一方の面に含まれている硬化性樹脂5の外側界面からガラス繊維織物2の他方の面に含まれている硬化性樹脂5の外側界面までの距離を示し、Lb1は、ガラス繊維織物2の金属層2側に含まれている硬化性樹脂5の厚さを示し、Lb2は、ガラス繊維織物2の熱可塑性樹脂層41側に含まれている硬化性樹脂5の厚さを示す。本発明のシート1において、上記Laに対するガラス繊維織物3の厚さの比率(ガラス繊維織物3の厚さ/La×100)としては、不燃性と、熱溶着による接合性と、をより一層両立させる観点から、70~95%が好ましく、80~90%がより好ましい。また、Laとしては、80~330μmが好ましく、130~230μmがより好ましく、160~220μmがさらに好ましい。また、Lb1及びLb2としては、5~50μmが好ましい。
【0044】
他の層
前述のように、本発明のシート1は、本発明の効果を奏する範囲内で、金属層2、ガラス繊維織物3、熱可塑性樹脂層41及びガラス繊維織物3の両表面において硬化性樹脂5によって形成される硬化性樹脂層、以外の他の層を備えてもよい。当該他の層としては、例えば、
図2に示す、金属層2のガラス繊維織物3とは反対側に備える熱可塑性樹脂層42が挙げられる。
図2に示す態様の場合、熱可塑性樹脂層42の具体的な構成としては前述した熱可塑性樹脂層41と同様とすることが挙げられる。熱可塑性樹脂層41を構成する熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂層42を構成する熱可塑性樹脂とは、同種の熱可塑性樹脂を用いてもよいし、異種の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0045】
シートの物性
本発明のシート1は、一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って測定される、輻射電気ヒーターからシートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後の最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、総発熱量が8MJ/m2以下であることが好ましい。当該最大発熱速度及び総発熱量とするには、ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含むものとすることの他、熱可塑性樹脂層41の厚さ、Laに対するガラス繊維織物3の厚さの比率等調整することにより可能となる。
【0046】
なお、一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」については、具体的には、以下に示す試験体、試験装置及び試験条件に記載の内容に従って行われる。
【0047】
[試験体]
(1)試験体(シート1)の個数は3個とする。
(2)試験体の形状及び寸法は、1辺の大きさが99mm±1mmの正方形とする。
(3)試験前に、試験体を温度23℃±2℃、相対湿度50%±5%で一定質量になるように養生する。
[試験装置]
(1)使用する試験装置の概略図を
図4に示す。試験装置は、円錐状に形作られた輻射電気ヒーター、スパークプラグ、輻射熱遮蔽板、試験体ホルダー、ガスサンプリング装置及びガス流量の測定ができる排気システム、熱流計等で構成される。
(2)輻射電気ヒーターは、50kW/m
2の輻射熱を試験体表面に均一な照射が安定してできるものとする。
(3)輻射熱遮蔽板は、試験開始前の輻射熱から試験体を保護できるものとする。
(4)試験装置に含まれる試験ホルダー及び押さえ枠の概略図を
図5に示す。試験体ホルダーは、外寸で1辺106mm±1mmの正方形で、外寸で深さが25mm±1mmの大きさで、厚さが2.4mm±0.15mmのステンレス鋼製とする。押さえ枠は、内寸で1辺111mm±1mmの正方形で、外寸で高さ54mm±1mmで、厚さが1.9mm±0.1mmで、上部に1辺94.0mm±0.5mmの正方形の開口部を設けたステンレス鋼製とする。
(5)排気システムは、試験温度で有効に機能する遠心式排気ファン、フード、ファンの吸気及び排気ダクト、オリフィスプレート流量計等を備えているものとする。フード下端部と試験体表面との距離は、210mm±50mmとし、その状態での排気システムの排気装置は、標準温度と標準圧力に換算した流量が0.024m
3/s以上であることとする。排気ガス流量の測定のために、内径57mm±3mmで、厚さ1.6mm±0.3mmのオリフィスプレートを排気煙道内でファンから下流に350mm±15mm以上離れた位置に設ける。排気ガス採取を目的として、12個の直径2.2mm±0.1mmの穴のあるリングサンプラーをフードから685mm±15mmの位置に、穴が流れと反対の方向に向くように取り付ける。また、排気ガスの温度を、オリフィスプレートから上流100mm±5mmの位置の排気ダクトの中心部で測定する。
(6)ガスサンプリング装置は、排気ガス中の酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の濃度を連続的に正確に測定できるものとする。
(7)スパークプラグは、10kVの変圧器あるいは誘導式コイルシステム等から電力を供給できるものとする。スパークプラグの電極間距離は、3mm±0.5mmとし、電極の位置を原則として試験体の中心軸上13mm±2mmとする。
(8)熱流計は、100kW/m
2±10kW/m
2まで測定可能なシュミット・ベルター(Schmidt Boelter)型を用いる。熱流計の熱感知部は、直径12.5mmの円形で、表面の輻射率は0.95±0.05であるものとする。
【0048】
[試験条件]
(1) 試験時間は、試験体表面に輻射熱が照射され、同時に電気スパークが作動してから、20分とする。
(2) 試験体は、側面と裏面を厚さ0.025mm以上、0.04mm以下のアルミニウム箔で包んで押さえ枠に入れ、さらに裏面側に無機繊維(公称密度64~128kg/m3)を充填してから、試験体ホルダーに押し込むものとする。なお、試験体としては、ガラス繊維織物2に対して熱可塑性樹脂層41側の表面が輻射電気ヒーターに対向するようにセットする。
(3) 試験中は、輻射電気ヒーターから試験体の表面に50kW/m2の輻射熱を照射する。
(4) 排気ガス流量を0.024m3/sに調節する。
(5) 試験開始までは、輻射熱遮蔽板によって、試験体が輻射熱を受けないようにする。
(6) 輻射熱遮蔽板を移動する前に、スパークプラグを所定の位置に設定する。
【0049】
[測定]
(1) 酸素の濃度を5秒以内の間隔で測定する。
(2) 以下に示す手法で、単位面積当たりの発熱速度(kW/m2)を算出し、単位面積当たりの発熱速度が200kW/m2超の状態の継続時間を「単位面積当たりの発熱速度200kW/m2超過継続時間」として求める。更に単位面積当たりの発熱速度を時間で台形積分することによって、単位面積当たりの総発熱量(MJ/m2)を算出する。ここで、台形積分は、試験時間を積分区間とし、積分区間を測定間隔で等分して行い、負の発熱速度は0とし、正の発熱速度のみを積算する。
【0050】
【0051】
本発明のシート1は、ガラス繊維織物3を含むことから、引張強さや引裂強さ等機械的強度に優れる。とりわけ、ヒートクリーニング処理をおこなわないことにより、より一層機械的強度に優れたものとすることができる。本発明のシート1が備える好適な引張強さとしては、ガラス繊維織物3の経糸方向の引張強さが500~2500N/25mmが好ましく挙げられ、1000~2000N/25mmがより好ましく挙げられる。また、本発明のシート1が備える好適な引張強さとしては、ガラス繊維織物3の経糸方向及び緯糸方向の引張強さが500~2000N/25mmが好ましく挙げられ、500~1500N/25mmがより好ましく挙げられる。なお、本明細書において、引張強さは、JIS R 3420:2013 7.4.2に準じ、定速伸長型引張試験機(インテスコ株式会社製)を用い、試験片長さを250mm、試験片の幅(両端部から糸をほぐす前の幅)を40mm、つかみ間隔を100mm、試験片の幅(両端部から糸をほぐした後の幅)を25mm、定速引張速度を50mm/minとし、ガラス繊維織物3の経糸方向及び緯糸方向について、それぞれ5回測定し、それぞれ5回の平均値を経糸方向の引張強さ及び緯糸方向の引張強さ(N/25mm)とする。
【0052】
本発明のシート1が備える好適な伸びとしては、ガラス繊維織物3の経糸方向の伸びが0.5~5%が好ましく挙げられる。また、本発明のシート1が備える好適な伸びとしては、ガラス繊維織物3の緯糸方向の伸びが2~8%が好ましく挙げられる。なお、本明細書において、伸びは、JIS R 3420:2013 7.4.2に準じ、定速伸長型引張試験機(インテスコ株式会社製)を用い、試験片長さを250mm、試験片の幅(両端部から糸をほぐす前の幅)を40mm、つかみ間隔を100mm、試験片の幅(両端部から糸をほぐした後の幅)を25mm、定速引張速度を50mm/minとし、ガラス繊維織物3の経糸方向及び緯糸方向について、それぞれ5回測定し、それぞれ5回の平均値を経糸方向の伸び及び緯糸方向の伸びとする。
【0053】
また、本発明のシート1が備える好適な引裂強さとしては、ガラス繊維織物3の経糸方向の引張強さが50~200N/25mmが好ましく、経糸方向の引裂強さが100~150N/25mmがより好ましい。また、本発明のシート1が備える好適な引裂強さとしては、ガラス繊維織物3の緯糸方向の引張強さが50~200N/25mmが好ましく、経糸方向の引裂強さが80~130N/25mmがより好ましい。さらに、本発明のシート1が備える好適な引裂強さとしては、ガラス繊維織物3の経糸方向及び緯糸方向の引裂強さが50~200N/25mmが好ましく、経糸方向及び緯糸方向の引裂強さが70~150N/25mmがより好ましい。本発明において、引裂強さは、次のように測定、算出される。
(試験方法)
JIS R 3420:2013の7.16のC法(トラペゾイド法)に準じ、シート1から75mm×150mmの試験片を経糸方向、緯糸方向にそれぞれ採取し、定速荷重型引張試験機(株式会社オリエンテック製商品名RTC-1310A)を用いて引張速度を150mm/minとしておこない、最大荷重を測定する。なお、「経糸方向に採取」とは、試験片の長辺が経糸方向となるように採取し、短辺の中央に切れ目を入れるものであり、経糸方向の引裂強さとは、経糸方向に採取した試験片を5つ準備してそれぞれの最大荷重を測定し、当該5つの平均値を経糸方向の引裂強さとする。また、「緯糸方向に採取」とは、試験片の長辺が緯糸方向となるように採取し、短辺の中央に切れ目を入れるものであり、緯糸方向の引裂強さとは、緯糸方向に採取した試験片を5つ準備してそれぞれの最大荷重を測定し、当該5つの平均値を緯糸方向の引裂強さとする。
【0054】
本発明のシート1の質量としては、200~1000g/m2が挙げられ、300~700g/m2が好ましく挙げられ、400~600g/m2が好ましく挙げられる。また、本発明のシート1の厚さとしては、200~1000μmが挙げられ、200~600μmが好ましく挙げられ、300~500μmが好ましく挙げられる。
【0055】
本発明のシート1において、JIS R 3420:2013 7.3に準じ測定される前記処理ガラス繊維織物の強熱減量が30~80質量%が挙げられ、不燃性と、熱溶着による接合性と、をより一層両立させる観点から、40~80質量%が好ましく挙げられ、50~70質量%がより好ましく挙げられる。
【0056】
シートの用途
本発明のシートは、テント倉庫の屋根や外壁、膜構造建築物の建築材料、膜天井等に使用することができる。とりわけ、電磁波シールド用膜材料とし、テント倉庫の屋根や外壁、膜構造建築物の建築材料、膜天井等として適用することが好ましい。
【0057】
シートの製造方法
本発明のシート1の製造方法としては特に限定されない。当該製造方法として、例えば、次の製造方法が挙げられる。
【0058】
まず、ガラス繊維織物3を準備する。ガラス繊維織物3の製造方法としては、ガラス繊維表面に澱粉(通常は紡糸集束剤として付与される)を含む経糸及び緯糸を準備し、織機で製織することが好ましく挙げられ、さらには、ガラス繊維表面に澱粉を含む経糸及び緯糸を準備し、糊付け工程を含まないものとして製織することがより好ましく挙げられる。具体的に、ガラス繊維織物の製造においては、経糸はサイジング剤(2次サイズとも呼ばれ、製織工程のダメージから経糸を保護する目的で、整経工程の後の糊付け工程にて付与されるもの。)が付与されるのが一般的であり、当該サイジング剤としては、ポリビニルアルコールが多く用いられる。ここで、本発明者等の検討によれば、糊付け工程を含まない、すなわちガラス繊維織物にサイジング剤を付与しないことにより、サイジング剤を付与したものに比して、経糸の開繊度がより高まり、ガラス繊維織物3により平滑性を与えることを見出した。従って、ガラス繊維織物3の製造においては、ガラス繊維表面に澱粉を含む経糸及び緯糸を準備し、糊付け工程を含まないものとして製織することがより好ましい。
【0059】
さらに、上記ガラス繊維織物3の製造において、ガラス繊維表面に澱粉を含む経糸及び緯糸を準備して製織し、ヒートクリーニング処理を含まないものとすることが好ましい。本発明においては、紡糸集束剤及び/又はサイジング剤を除去せず、すなわち、ヒートクリーニング処理をおこなわないことにより、シート1の機械的強度をより一層向上させることができる。また、ガラス繊維織物3を構成するガラス繊維表面に、ポリビニルアルコール及び/又は澱粉を含むことにより、ガラス繊維間の摩擦が低減され、後述する経糸及び緯糸の糸幅が広がりやすくなり、ガラス繊維織物3の表面をより一層平滑にしやすくすることができる。
【0060】
次いで、金属層2、ガラス繊維織物3、及び熱可塑性樹脂層41をこの順に積層する。当該積層工程における積層の方法、順序等については特に制限されない。例えば、金属層2とガラス繊維織物3とを、及びガラス繊維織物3と熱可塑性樹脂層41とを、それぞれ硬化性樹脂5を介して積層する方法が挙げられる。
【0061】
硬化性樹脂5を含む溶液を、金属層2のガラス繊維織物3側の面又はガラス繊維織物3の金属層2側の面、に塗布し、乾燥させた後に、金属層2とガラス繊維織物3を積層することができる。また、硬化性樹脂5を含む溶液を、熱可塑性樹脂層41のガラス繊維織物3側の面、又は熱可塑性樹脂層41のガラス繊維織物3側の面に塗布し、乾燥させた後に、ガラス繊維織物3と熱可塑性樹脂層41とを積層することができる。塗布の方法としては、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、スプレーコート法、リップコート法、ダイコート法等が挙げられる。また、積層の方法(例えば、金属層2とガラス繊維織物3、又はガラス繊維織物3と熱可塑性樹脂層41を、硬化性樹脂5を介して接合する方法)としては、熱圧着、及び必要に応じて硬化性樹脂5の硬化反応をより進める養生をおこなうことにより塗布乾燥した硬化性樹脂5を硬化させること等が挙げられる。熱圧着の条件としては、例えば、温度150~180℃、圧力0.1~1MPa、時間1~5分の条件が挙げられる。また、養生の条件としては、用いる硬化性樹脂5の種類により、硬化収縮が過剰に進まないように適宜調整すればよいが、例えば、雰囲気温度20℃で48時間以上静置すること等が挙げられる。このとき、硬化性樹脂5を含む溶液の粘度を500mPa・s以上(B型粘度計により測定、測定環境温度23℃、スピンドルNo.3、回転速度12r/min)とすることで、塗布した硬化性樹脂5を含む溶液をガラス繊維織物内部に含浸しづらくなり、表面に多く残存することでガラス繊維織物の露出を防ぎやすくすることができる。
【0062】
上記積層について、金属層2のガラス繊維織物3側の面に硬化性樹脂5を含む溶液を塗布し、乾燥させた後に、金属層2とガラス繊維織物3を積層する工程、及び、熱可塑性樹脂層41のガラス繊維織物3側の面に硬化性樹脂5を含む溶液を塗布し、乾燥させた後に、ガラス繊維織物3と熱可塑性樹脂層41とを積層する工程、を含むことが好ましい。このようにすることにより、ガラス繊維織物3が、前記硬化性樹脂5が含浸していない未含浸部6を含むようにしやすくしつつ、硬化性樹脂5を含む層をより平滑に備えさせることができる。
【実施例0063】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0064】
<物性の評価方法>
1.ガラス糸の単繊維直径(μm)、単繊維本数(本)
ガラス繊維織物を30cm角にカットしたものを2枚用意し、一方を経糸観察用、他方を緯糸観察用として、それぞれをエポキシ樹脂(丸本ストルアス株式会社製商品名3091)に包埋して硬化させ、経糸、緯糸の断面が観察可能な程度に研磨し、SEM(日本電子株式会社製商品名JSM-6390A)を用い、倍率500倍で観察、測定をおこなった。
(1)ガラス糸の単繊維直径D(μm)
経糸、緯糸それぞれについて無作為に20本選び、該20本のガラス糸の全単繊維の直径(最も大きい部分)を測定して平均値を算出し、経糸及び緯糸の単繊維直径Dとした。
(2)単繊維本数N(本)
経糸、緯糸それぞれについて無作為に20本選び、20本のガラス糸の全単繊維数を測定して平均値を算出し、経糸及び緯糸の単繊維本数Nとした。
【0065】
2.ガラス糸の番手(tex)
JIS R 3420 2013 7.1に従い、測定、算出した。
【0066】
3.ガラス繊維織物3の織密度(本/25mm)
JIS R 3420 2013 7.9に従い、経、緯糸の織密度を測定、算出した。
【0067】
4.経糸及び緯糸の糸幅W(μm)
ガラス繊維織物を10cm角に切り出し、光学顕微鏡(キーエンス株式会社製商品名VHX-100)を用い、倍率100倍で平面方向から観察を行った。経糸、緯糸それぞれについて無作為に20本選び、該20本のガラス糸の太さの測定を行った。当該20本のガラス糸の平均値を糸幅Wとした。
【0068】
5.経糸及び緯糸の開繊度(%)
糸幅W、経糸及び緯糸の単繊維直径D及び単繊維の本数Nを用い、下記式(1)により開繊度を求めた。なお、下記式(1)における分母は、仮想的に単繊維が幅方向に隙間なく一列に配置されたときの糸幅を示すものであり、開繊度は、当該仮想的な糸幅に対する度合いとして定義されるものである。
式(1)・・・開繊度(%)=W/(D×N)
【0069】
6.経糸及び緯糸の強熱減量(質量%)
JIS R 3420:2013 7.3.2に従い、測定、算出した。
【0070】
7.ガラス繊維織物3の質量(g/m2)
JIS R 3420 2013 7.2に従い、測定、算出した。
【0071】
8.ガラス繊維織物3の厚さ(μm)
JIS R 3420 2013 7.10.1A法に従い、測定、算出した。
【0072】
9.シート1、金属層2、La、Lb1、Lb2及び熱可塑性樹脂層41の厚さ(μm)
シート1の断面を、装置として日本電子株式会社製商品名JSM-6390Aにて観察し、任意に10か所の厚さを測定し、その平均値をシート1、金属層2、La、Lb1、Lb2及び熱可塑性樹脂層41の厚さとした。
【0073】
10.シート1の経糸方向及び緯糸方向の引張強さ(N/25mm)、伸び(%)並びに引裂強さ(N/25mm)
前述した方法にて測定した。
【0074】
11.シート1の強熱減量(質量%)
前述した方法にて測定した。
【0075】
12.不燃性の評価
一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って測定される、輻射電気ヒーターからシートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験における総発熱量(MJ/m2)及び発熱速度200kW/m2超過継続時間(秒)を、前述した方法で評価した。総発熱量が8MJ/m2以下、かつ加熱開始後の最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないものを、不燃性に優れるものとして合格(〇)とした。
【0076】
13.熱溶着による接合性
図6は熱溶着による接合性の評価方法について説明する模式図であり、
図6(A)は平面図、
図6(B)は
図6(A)のA-A断面図である。
図6(A)、(B)に示すように、シート1をタテ30cm、ヨコ20cmに2枚切り出し(シート11、シート12)、熱可塑性樹脂層41の面が上になり、シート11及びシート12の長辺同士が突き合わさるように並べて置いた。次いでシート1をタテ30cm、ヨコ4cmに切り出し(シート13)、熱可塑性樹脂層4同士が接するように、シート13のヨコ方向の中心位置がシート11及びシート12の長辺同士を突き合せた位置と同じ位置になるように重ねた。当該重ねた部分を熱風の温度を250℃に設定したヒートガンを使用してシート11とシート13、及びシート12とシート13とを熱溶着させ接合した。熱溶着させたシート13が手で剥がれなかったものを合格(〇)とした。
【0077】
<実施例>
(金属層2の準備)
金属層2として、厚さ18μm、質量48.6g/m2のアルミニウム箔を準備した。
【0078】
(ガラス繊維織物3の準備)
まず、経糸及び経糸としてユニチカグラスファイバー株式会社製合撚糸(商品名ECG150 1/3 3.8S)を準備した。上記経糸及び緯糸を用い、経糸密度が19本/25mm、緯糸密度が19本/25mmとなるように平織組織で製織し、ガラス繊維織物を得た。経糸及び緯糸の強熱減量は0.8質量%、厚さは160μm、質量155g/m2であった。整経糊付け及びヒートクリーニング処理を行わなかったため、ガラス繊維織物には、紡糸集束剤として澱粉が含まれており、ポリビニルアルコールは含まれていなかった。
【0079】
なお、前記経糸及び緯糸として使用した合撚糸は、Z方向に0.7回/25mmで撚られたヤーン(1本のヤーンに含まれる単繊維の本数:200本、単繊維の直径:9μm)が下撚り数として3.8回/25mmに追撚された下撚り糸3本が、該ヤーンの撚り方向とは反対方向に3.8回/25mmに撚り合わされてなる合撚糸であり、該合撚糸の番手は101.2texである。
【0080】
(熱可塑性樹脂層41の準備)
熱可塑性樹脂層41として、ポリ塩化ビニルフィルム(アキレス株式会社製商品名アキレスフラーレ)を準備した。厚さ150μm、質量195g/m2であった。
【0081】
(硬化性樹脂5の準備)
硬化性樹脂5として、硬化性ウレタン樹脂(東洋インキ株式会社製商品名LIS-7059)と、硬化剤(東洋インキ株式会社製商品名LCR-1585)準備した。硬化性ウレタン樹脂と硬化剤を100:5の割合で混合し、未硬化の硬化性樹脂5溶液を準備した。当該溶液の粘度は、500mPa・s以上(B型粘度計により測定、測定環境温度23℃、スピンドルNo.6、回転速度20r/min)であった。
【0082】
(シート1の製造)
前記準備したガラス繊維織物3の一方の表面に、前記準備した未硬化の硬化性樹脂5溶液を溶液温度23℃としてバーコーターにて塗布し、温度150℃で3分間乾燥させて溶媒を揮発させ、硬化性樹脂5からなる層(硬化性樹脂層)を形成した。乾燥後の当該硬化性樹脂層の質量は35g/m2であった。次に、当該硬化性樹脂層に前記準備した金属層2を重ね、温度150℃、プレス圧0.1MPa、時間10秒熱プレスを行い、金属層2/硬化性樹脂層/ガラス繊維織物3の中間体を得た。次に、当該中間体のガラス繊維織物面側に、前記準備した未硬化の硬化性樹脂5溶液をバーコーターにて塗布し、温度150℃で3分間乾燥させて溶媒を揮発させ、硬化性樹脂5からなる層(硬化性樹脂層)を形成した。乾燥後の当該硬化性樹脂層の質量は35g/m2であった。次いで当該硬化性樹脂層に前記準備した熱可塑性樹脂層41を重ね、温度150℃、プレス圧0.1MPa、時間10秒熱プレスを行い、金属層2/硬化性樹脂5によって形成された層/ガラス繊維織物3/硬化性樹脂5によって形成された層/熱可塑性樹脂層41の積層構成とし、その後雰囲気温度20℃、時間96時間の条件で養生して硬化性樹脂5の硬化反応をさらに進めてシート1を得た。得られたシート1において、硬化性樹脂層5によって形成された層は、ガラス繊維織物3の表面部分において含浸し、かつ、ガラス繊維織物3の表面のガラス繊維が露出しないように被覆された状態で含まれていた。また、ガラス繊維織物3は、厚さ方向中心部付近において当該接着剤5が存在しない空隙部6を含むものであった。
【0083】
測定結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
表1のとおり、実施例のシートは、少なくとも、金属層と、ガラス繊維織物と、熱可塑性樹脂層と、がこの順に積層されたシートであって、前記ガラス繊維織物の両面に硬化性樹脂を含み、前記ガラス繊維織物が、前記硬化性樹脂が含浸していない未含浸部を含むことから、金属層を備えたシートにおいて、不燃性に優れ、かつ、熱溶着による接合をおこなうことが可能となるものであった。