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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130276
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】重根関数制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
G05B11/36 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022054538
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】521056593
【氏名又は名称】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA02
5H004GA03
5H004HA05
5H004HB05
5H004KB01
5H004LA01
5H004LA03
5H004LA12
(57)【要約】      (修正有)
【要約】
【課題】ステップ応答のオーバーシュートを抑制すると共に早い立ち上がりを実現する。
【解決手段】実軸においては連続な実重根軌跡を実現するマルチ制御パラメタの実変数σの関数における最大値(計算容易な3重根の場合も含む)をマルチ制御パラメタの設定値として用い、複素平面においてはマルチ制御パラメタの関数仮想交点の共役重根の関数として、もしくはそれらの混合によるマルチ制御パラメタを設定し、虚軸においては、限界角速度のマルチ制御パラメタ由来の関数交点を無くすことによって不安定にならないことを特徴とし、根軌跡安定であり、無限大のゲイン余裕を有するロバスト安定を実現するという意味での簡易ロバスト性を確保できる制御方式、加えて、制御対象へのPDローカルフィードバック等によって、制御対象の特性を変えて同定をやり直してから、上記のワンループ手法を適用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実重根軌跡上でのマルチ制御パラメタ最大値の同定パラメタ関数設定法で,実重根軌跡を実現するために実変数σを代表制御パラメタの関数として設定し、その最大値(実軸分離点もしくは三重根点)となるマルチ制御パラメタを用いることを特徴とする制御方式
【請求項2】
マルチ制御パラメタ連立方程式の虚軸における交点を無くして不安定化を防止しつつ、連立条件方程式の円形曲線と実重根軌跡からジャンプする不連続直線との仮想交点による共役複素代表根を関数として実現するマルチ制御パラメタを用いることを特徴とする制御方式
【請求項3】
請求項2に記載のマルチ制御パラメタの関数として実現する連立条件方程式の仮想交点による共役複素代表根と請求項1記載の実重根軌跡の入口もしくは、それらを実現する代表制御パラメタの複素数関数値と実変数σ関数の最大値もしくは各制御器出口調整値を2点境界値とし、前者境界値から後者境界値への時間遅れ移動式内分混合を特徴とし、遅れ時間の調整によってオーバーシュートや立ち上がり時間などの制御性を適当に調整できることを特徴とする制御方式
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
プロセス制御および簡易ロバスト制御分野
【背景技術】
【0002】
プロセス制御の基本制御対象とされる一次遅れと無駄時間系については古くから多くの研究があり、特にローカルフィードバックを行わず補償器も設置しない1ループフィードバック制御系においては、手動での開ループステップ応答の形状から無駄時間と時定数とゲイン定数の3パラメタを同定し、それらを用いたZiegler・Nicolsらによる経験則や限界感度法(ゲインを上げてサイクリングを起こしてゲインをその半分等に調整する方法)などによって従属型のPID制御やそれらを変換した独立型のPID制御が行われてきた。位相進み系の補償器についても1次遅れの長い時定数の補償はできても無駄時間の補償は難しい。特に、無駄時間による安定性の悪化を防止するのが難しい。
ローカルフィードバックを許す場合には制御器に無駄時間部と制御対象のローカルフィードバックを行うスミス補償器を用いれば、無駄時間をループ外に追い出すことによってループ内を1次遅れのみとすることによって不安定にならない制御を実現できるが、パラメタ変動によって無駄時間がループに戻ってくるので、急激な安定性の悪化が予想される。
フィードバックループ切断による急変リスクも予想されA/Mインターロックも複雑化する。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献】
【特許文献】特開平03-062165:重根判定方式(1991)
【0004】
【非特許文献】
【非特許文献】Makoto Katoh etc.,PI or IPD Control Parameters of First-order Delay with Lag Time within a Closed Loop based on Functional Setting of Real Double Root,IFAC ROCOND2022,(2022)(投稿中)
【発明の概要】
無駄時間と一次遅れ系近似のIPDもしくはPIDプロセス制御の簡易解析解法(AOSASIPD or AOSASPID)において、実軸においては連続な実重根軌跡を実現するマルチ制御パラメタの実変数σの関数における最大値をマルチ制御パラメタの設定値として用い、複素平面においてはマルチ制御パラメタの関数仮想交点の共役重根の関数として、もしくはそれらの混合によるマルチ制御パラメタを設定し、虚軸においては、限界角速度のマルチ制御パラメタ由来の関数交点を無くすことによって不安定にならないことを特徴とする制御方式
加えて、制御対象へのPDローカルフィードバック等によって、制御対象の特性を変えて同定をやり直してから、上記のワンループ手法を適用することを特徴とする制御方式
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例え1次遅れであっても無駄時間を含む対象の積分制御系は制御性が悪く、オーバーシュートが大きく立ち上がりが遅く、ループゲインを大きくすると不安定になるという欠点があり、その解決のためにスミス補償器を用いて無駄時間をループ外へ追い出すと、制御ループが増えてループ切断のリスクが増すという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここでは、ループ切断のリスクを低減するためにスミス補償器を用いずにワンループで、無駄時間を含む1次遅れ制御対象を計算が容易になる積分優先のIPD制御や比例優先のPI制御を用いて制御する際に、制御パラメタの調整を実重根軌跡に基づいて行う方式を提示
【発明の効果】
【0007】
実軸においては連続な実重根軌跡を実現する2制御パラメタの実変数σの関数における最大値を2制御パラメタの設定値として用いることによって、そのステップ応答のオーバーシュートを抑制すると共に早い立ち上がりを実現し、複素平面においては2制御パラメタの関数交点の孤立重根とし、そのステップ応答では小さなオーバーシュートと定常サイクリングながら高速立ち上がりを実現し、虚軸においては、限界角速度の2制御パラメタ由来の関数交点を無くすことによって、不安定化を防止し、根軌跡安定であり、無限大のゲイン余裕のロバスト安定を実現するという意味での簡易ロバスト性を確保すること
【図面の簡単な説明】
図1】むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループの制御に際して、IPD制御における実重根軌跡実現2制御パラメタのσ関数とその最大値
図2】むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループの制御に際して、IPD制御における2制御パラメタ正実現の共役複素仮想孤立交点代表重根プロット
図3】むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループの制御に際して、PI制御における実重根軌跡実現2制御パラメタのσ関数とその最大値
図4】むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループの制御に際して、PI制御における2制御パラメタ正実現の共役複素仮想孤立交点代表重根プロット
図5】むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループの制御に際して、IPD制御における1次遅れ相殺およびKi実重根軌跡最大値実現3制御パラメタ(Ki=0.0193,Kp=0.3915,Kd=0.0967)
図6】むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループの制御に際して、IPD制御における1次遅れ相殺およびKiの共役複素仮想交点代表重根の3制御パラメタ(Ki=0.068,Kp=1.38,Kd=1.38)
図7】むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループの制御に際して、IPD制御における1次遅れ相殺においてKiの共役複素仮想交点代表重根から実重根軌跡最大値実現制御への出口2点境界値一次遅れ移動式内分混合制御(T=7s)
【発明を実施するための形態】
【0008】
ローカルフィードバック等の手段を許容して、1次遅れと無駄時間によってパラメタを調整近似できる線形伝達関数制御対象モデルに対して、前向きに制御偏差のIPDもしくはPIDの3項制御装置を置いて、理論上はユニテイフィードバック制御によって得られる目標値から制御量までの総合伝達関数の特性方程式をベースに誘導できる根軌跡に基づいて制御パラメタを対象パラメタの関数として調整し実施する形態で、ステップ応答シミュレーションにおいては、フィードバック要素やアクチュエータの短い遅れや飽和や不感帯も考慮する形態
【実施例0009】
むだ時間と標準1次遅れ制御対象例の補償器を用いない1ループ制御の積分器優先IPD制御に際して、次のような制御対象と制御器伝達関数とその正規化ゲインを含む3制御パラメタ構成によって、制御対象の1次遅れとゲインKを相殺し、KiとTd2の2制御パラメタを残した構成とした。数値例は1タンク液位制御対象で、K=28[cm/v],T=20[s],L=1[s]
次のような簡易な特性方程式を得る。s’=Lsと正規化することもできるが、ここでは間違い易いし、陽なLの条件を見たいので省略するが、数値例題ではL=1としているので、正規化した場合と同じ数値になっている。L=1以外では実部も虚部もL倍に拡大すれば良い。
この1方程式を2制御パラメタについて解いて、まず、従属なsの2関数を得る。
これを独立関数にするために、次のようにK関数にP2-D02条件を導入する。
これからKiを含まない実重根sspのTd2sp関数が得られる。
これをKi関数に代入するとTd2を含まないTd2と独立なsspのKisp関数を得る。
ここで、Φ(ssp)=0に,これらのP2-D02条件を用いれば、
となり、二重根のための十分条件を示せる。
と書けるから、
これは外側の制御パラメタKiのP1D01条件によって、実軸からの分離点になることも次の様に示せる。
この式はKpを少し大きくすれば実部がゼロになるということを意味するから
soは実軸分離点である。
Kispの関数をf(ssp)とすれば、一般的にこれが区分連続単調関数であれば逆関数が存在するので、それをgとすれば、単調区分毎に次のように1つの実重根が連続的に求まるので、Kisp変化に対する実重根軌跡が次のように定まる
単調増加と単調減少は極値点で切り替わるから、Kispの停留条件から極値を求めると、2回目の微分条件P2-D02は
また、2パラメタの同時正実条件から、
ここで、Kispの2回微分は
さらに、これが三重根である確認をすると
Kispの導関数は単調減少であるから最大値を有する。
Kispの単調増加範囲:[-∞,-2/L],単調減少範囲:[-2/L,-1/L]
Td2spについては求まった実重根軌跡の関数として図1のように定めれば良い。
正実条件範囲であれば、Kispについてもsspの関数として設定することもできる。
そのIPD制御の3パラメタ:
を用いたステップ応答は図5のようにオーバーシュート無く立ち上がり時間も整定時間も相当早い。根軌跡安定で、ゲイン余裕は無限大になるので、全範囲でロバスト安定である。
この実施形態においては、複素平面においても複素関数の実部と虚部の分離が手計算でも容易に可能で、
各制御パラメタの正実条件
や虚部のゼロ条件の連立方程式:
による交点も図4の場合(次のように複雑になる。):
【0010】
PI制御の複素平面での重根(P2-D02)軌跡について、まず、特性方程式は
制御パラメタ1/Tispは複素平面における実部虚部の分解手計算が困難なので、より簡単になる逆数のTispについて、知能計算ツールα を用いて複素平面における実部と虚部の分解を計算した結果は次の様になる。
TIspの虚部=0から
Kispの虚部=0から
TIspの実部から
Kpspの実部から
と異なり、図2のように2パラメタ複素関数の虚部条件による円型と鍵型のジャンプ仮想交点の共役複素孤立代表重根から2制御パラメタが正実現できる特徴がある。破線は円型と鍵型の実軸交点と複素面の仮想交点と鍵型の特異点を結合。
そのステップ応答は図5に示すように立ち上がりは高速であるがオーバーシュートがあり、定常サイクリングもあり、単独では最良ではないが、適当なタイミングで図4の実重根最大値に切り替える方式が期待できるが、タイミングが悪いとハンチングを起こす。
そこで、図7に示す例のように複素平面上の仮装交点と実軸上の実重根最大値を2点境界値とする前者から後者への適度な時定数の一次遅れ移動式内分混合法が最良形態である。
虚部のゼロ条件の連立方程式において、σ=0とおけば、虚軸における重根軌跡安定条件が得られる。
2つの共通条件はω=∞である。すなわち、重根軌跡不安定にならない。
そのときの制御パラメタはKispc=∞,Tdspc=0,Kpspc=∞,Kdspc=0
ループゲイン余裕も常に無限大あり、ロバスト安定である。
このように、このIPD制御の例におけるP2-D02点(図1における三角点)はグラフからすぐに判るように実重根軌跡の最大ピーク点であるだけでなく、実重根軌跡の実軸からの分離点でもあり、ループゲイン余裕も無限大を維持しているロバスト安定点であり、仮想複素共役重根点でも制御パラメタが正実現でき4拍子揃っているが、IPDCのようには三重根点は定まらない。
【0011】
本手法は最初にIPD制御の分子側1次因子によって、前向きに一次遅れを相殺して、無駄時間系のIP制御にするという相殺特徴であったが、近似的な一次遅れ相殺法として、もう1つ一次遅れを相殺する方法として次のような無駄時間の1次のパデ近似と戻し無駄近似を用いたPDローカルフィードバック法がある。
両方併用すれば、近似的であるが2次遅れでも相殺して無駄時間のみとして同様の制御性を得ることができると思われる。
しかしながら、ローカルフィードバック法の最大の問題点はA/Mステーションでの手動運転がループを1つ切ってローカルフィードバックを残して改良制御対象を同定する場合とループを2つ切って元の一次遅れと無駄時間を同定する場合の2種類必要であり、インターロックも含めて複雑化することである。
【産業上の利用可能性】
【0012】
今回の模擬に用いたパラメタは1タンクの水の1要素液位制御系を念頭に置いた無駄時間と1次遅れプロセスである。相変化を伴う水―蒸気系の2要素3要素制御が必要なプロセスは含まれていない。
また、サーボであっても無駄時間が発生し、1次遅れで表現できるような系は利用の可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-05-01
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
磯村:制御系の並列学習(重根フィルタの提案),日本機械学会論文集(C編)60-571(1994),pp877-883
磯村:制御系の並列学習(重根フィルタ)による同定,日本機械学会論文集(C編)60-571(1994),pp1685-1691
Nishino S.,Kitamura A.(2002). Smith Predicted Type Robust PI Controller with Adaptive Modification for the Thickness Control in the Rolling Mill,Transactions of The Institute of Systems Control and Information Engineering,Vol.11,No.5,pp.577-585
Nishino S.,Narazaki H.,Kitamura A.Y.Fujita,H.Asada(1996).Interpolated Control of Looper Hight for Hot Strip Mills,Transactions of The Institute of Systems Control and Information Engineering,Vol.9,No.11,pp.548-554
Katoh M.,Fujiwara A,(2007).Auto Tuning on Robust Parameters of a PID Controller for a 2nd-order Adjusted System with One Changeable Parameter,Proceedings of SICE Annual Conference 2007,pp1624-1627
加藤,井村:1次の線形モデル誤差を有する非線形低次系に対する簡易ロバスト正規化IP制御とリスク・利害同定,第53回自動制御連合講演会666(2010),pp1340-1344
Katoh M.(2011).Simple Robust Normalized PI Control for Controlled Objects with One-order Modelling Error,A.Bartoszewicz ed.,Robust Control‐Theory and Applications,12 Sec.INTECK,pp.261-282
Katoh M.,Eguchi T.(2013).A Robust Proper Compensator Design and an Application for Magnetic Levitation,Proceedings of SICE2013,pp.666-670
Katoh M.,(2014).Evaluation of SIRO COIN Controller and Application for Magnetic Levitation,Proceedings of SICE2014,pp.181-185
Katoh M.(2016).No Overshoot Step Response of an Integral Controller with a Simple Robust Lead Inverse Compensator to Improve Saftey of Vehicles,International Journal of Automation and Control Engineering(IJACE),Vol.5,pp.1-11
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
ローカルフィードバック等の手段を許容して、1次遅れと無駄時間によってパラメタを調整近似できる線形伝達関数制御対象モデルに対して、前向きに制御偏差のIPDもしくはPIDの3項制御装置を置いて、理論上はユニティフィードバック制御によって得られる目標値から制御量までの総合伝達関数の特性方程式をベースに誘導できる根軌跡に基づいて制御パラメタを対象パラメタの関数として調整し実施する形態で、ステップ応答シミュレーションにおいては、フィードバック要素やアクチュエータの短い遅れや飽和や不感帯も考慮する形態
加えて手動での開ループステップ応答の形状から無駄時間と時定数とゲイン定数の3パラメタを正規乱数制限モンテカルロ法等の手法で定期的に同定して関数設定の制御パラメタ計算を更新することによって、対象パラメタ変動に追従してロバスト性を確保する形態