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特開2023-130283離型フィルム、離型フィルムの製造方法、および離型フィルムを有する積層体
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  • 特開-離型フィルム、離型フィルムの製造方法、および離型フィルムを有する積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130283
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】離型フィルム、離型フィルムの製造方法、および離型フィルムを有する積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20230912BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230912BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230912BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B32B27/36
C08J5/18 CFD
C08J7/04 Z
B29C55/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137499
(22)【出願日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022034274
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊原 大貴
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 一善
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F100
4F210
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB19
4F006AB24
4F006AB39
4F006AB65
4F006AB66
4F006BA11
4F006CA00
4F006DA04
4F006EA05
4F071AA46
4F071AB26
4F071AD02
4F071AE11
4F071AF53Y
4F071AG12
4F071AG17
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F100AA20A
4F100AK01B
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK51D
4F100AR00B
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA18B
4F100CB00E
4F100DE01A
4F100EH17
4F100EH46
4F100EJ30
4F100EJ37
4F100EJ42
4F100EJ55
4F100EJ86
4F100GB32
4F100JB16D
4F100JC00A
4F100JL14B
4F100JL16A
4F100YY00A
4F100YY00B
4F210AA24
4F210AG01
4F210AG03
4F210QA02
4F210QC06
4F210QD08
4F210QD21
4F210QG01
4F210QG15
4F210QG18
4F210QW12
(57)【要約】
【課題】本発明は、離型層の上に形成された被着体との離型性に優れ、特に前記被着体の形成方法に依らず安定して剥離が可能であり、かつ被着体への離型成分の転写が少ない、塗装保護シート形成用離型フィルムを提供する。
【解決手段】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の厚みをd0(nm)、前記離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、前記ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たし、塗装保護シート形成に用いることを特徴とする、離型フィルム。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0 ・・・ 式(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の厚みをd0(nm)、前記離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、前記ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たし、塗装保護シート形成に用いることを特徴とする、離型フィルム。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0 ・・・ 式(1)
【請求項2】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、前記離型層の厚みd0(nm)により算出される、前記離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする、離型フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムが、バイオマス原料とリサイクル原料の少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
塗装保護シート形成用離型フィルムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の離型フィルム。
【請求項5】
前記離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、前記ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たすことを特徴とする、請求項2に記載の離型フィルム。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0・・・ 式(1)
【請求項6】
飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度(K)に対するポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)[-]が0.01未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の離型フィルム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の離型フィルムを製造する離型フィルムの製造方法であって、
ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に前記離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程、塗布後の前記ポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、及び延伸後のポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程をこの順に有することを特徴とする、離型フィルムの製造方法。
【請求項8】
表面コート層、熱可塑性ポリウレタン層、及び粘着層をこの順に有する塗装保護シートを塗装保護シート1としたときに、前記塗装保護シート1の少なくとも粘着層側の表面に離型フィルムを有する積層体であって、前記離型フィルムが、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有し、前記離型層の高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、前記離型層の厚みd0(nm)により算出される、前記離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする、積層体。
【請求項9】
前記塗装保護シート1の両面に前記離型フィルムを有することを特徴とする、請求項8に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性と転写抑制性に優れた離型フィルム、離型フィルムの製造方法、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
離型フィルムは、隣接する被着体との界面で剥離することが可能な部材であり、粘着製品における粘着材層の保護フィルムや、各種工業製品の加工工程におけるキャリアフィルムとして使用される。特に近年、各種製品の製造速度向上や高品位化の観点から、より軽い力で剥離可能な離型性に優れたフィルムの需要が高まっている。
【0003】
離型性に優れるフィルムとしては、工業的な生産性や耐熱性の観点から、表面にシリコーン化合物に含有せしめた離型フィルム(シリコーン離型フィルム)が最も一般的に使用されている(例えば特許文献1参照)。しかし、シリコーン化合物を含有している場合、フィルムの表面自由エネルギーが低くなるため、ハジキや気泡の噛み込みにより被着体が均一に形成できない場合がある。
【0004】
一方、例えば自動車等の乗り物の塗装部の擦り傷、飛び石による傷防止や、天候による劣化防止のための塗装保護シートの製造に用いられる離型フィルムにおいても従来からシリコーン離型フィルムが用いられてきたが(特許文献2)、近年では、機能層塗布の観点からシリコーン化合物を含まない離型フィルム(以下、非シリコーン離型フィルムと記載する。)を好適に用いることができると知られている(特許文献3)。
【0005】
このような課題に対して、非シリコーン離型フィルムの主材料として、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物、中でも長鎖アルキル基含有樹脂を用いる検討が行われている(例えば特許文献4~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-155459号公報
【特許文献2】特表2010-505663号公報
【特許文献3】特開2021-155631号公報
【特許文献4】特開2004-230772号公報
【特許文献5】特開2004-351626号公報
【特許文献6】特開2020-163694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非シリコーン離型フィルムを塗装保護シートの製造に用いる場合には、その加工方法による剥離特性の変化が課題となる。すなわち「押し出された溶融樹脂に沿わせる形で配置し冷却される離型フィルム」、「表面コート層の保護を目的に貼り付けられる離型フィルム」、「粘着層の保護を目的に貼り付けられる離型フィルム」が存在し、それぞれ離型性が異なることが課題となる。
【0008】
例えば、特許文献4の離型フィルムのようにシリコーン化合物を含まない離型剤を単純に溶剤で塗布し乾燥する方法では、溶融樹脂との接触時に温度変化により離型性を維持することが困難となるばかりではなく、表面コートや粘着層の加工を阻害することが分かった。一方、特許文献5の有機樹脂を併用する離型層では、有機樹脂が熱可塑性樹脂の場合には溶融樹脂との接触時に温度変化することによって離型性を維持することが困難となり、有機樹脂が熱硬化性樹脂の場合には溶融樹脂との離型性は発現するものの、粘着層との間に十分な離型性が得られない点が課題となる。更に、特許文献6のフッ素系樹脂を用いた加熱圧着用離型フィルムは、表面コート層と類似する材料系となる場合があり、十分な離型性が得られない場合があった。
【0009】
そこで、本発明では上記欠点を解消し、離型層と離型層上に設けられる層(被着体)を軽い力で剥離することができ(すなわち離型性に優れ)、特に被着体の形成方法(塗布乾燥や溶融樹脂押し出しなど)に依らず安定した離型性を有し、被着体を剥離する際に離型層成分の転写が少ない(すなわち転写抑制性に優れた)離型フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の物理特性を有する積層フィルムを用いることにより、離型性と転写抑制性を併せ持つ塗装保護シート形成用離型フィルムとなし得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は次の構成からなる。すなわち、
[I] ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の厚みをd0(nm)、前記離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、前記ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たし、塗装保護シート形成に用いることを特徴とする、離型フィルム。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0 ・・・ 式(1)
および
[II] ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、前記離型層の厚みd0(nm)により算出される、前記離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする、離型フィルム。
である。
【0011】
以下[I]に示す離型フィルムを本発明の第1の離型フィルム、[II]に示す離型フィルムを本発明の第2の離型フィルム、両者を総称して本発明の離型フィルムということがある。
【0012】
なお、本発明の離型フィルムは以下の態様とすることもでき、離型フィルムを有する積層体とすることもできる。また、本発明の離型フィルムの製造方法は以下のとおりとすることができる。
【0013】
[1] ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の厚みをd0(nm)、前記離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、前記ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たし、塗装保護シート形成に用いることを特徴とする、離型フィルム。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0 ・・・ 式(1)
[2] ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、前記離型層の厚みd0(nm)により算出される、前記離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする、離型フィルム。
[3] 前記ポリエステルフィルムが、バイオマス原料とリサイクル原料の少なくとも一方を含む、[1]または[2]に記載の離型フィルム。
[4] 塗装保護シート形成用離型フィルムであることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の離型フィルム。
[5] 前記離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、前記ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たすことを特徴とする、[2]~[4]のいずれかに記載の離型フィルム。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0・・・ 式(1)
[6] 飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度(K)に対するポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)[-]が0.01未満であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の離型フィルム。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の離型フィルムを製造する離型フィルムの製造方法であって、ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に前記離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程、塗布後の前記ポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、及び延伸後のポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程をこの順に有することを特徴とする、離型フィルムの製造方法。
[8] 表面コート層、熱可塑性ポリウレタン層、及び粘着層をこの順に有する塗装保護シートを塗装保護シート1としたときに、前記塗装保護シート1の少なくとも粘着層側の表面に離型フィルムを有する積層体であって、前記離型フィルムが、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有し、前記離型層の高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、前記離型層の厚みd0(nm)により算出される、前記離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする、積層体。
[9] 前記塗装保護シート1の両面に前記離型フィルムを有することを特徴とする、[8]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、離型層と被着体との離型性に優れ、特に被着体の形成方法に依らず安定した離型性を有し、被着体を剥離する際に離型層成分の転写抑制性に優れた離型フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施態様にかかる離型フィルムを用いた積層体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の離型フィルムについて、詳細に説明する。本発明の第1の離型フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の厚みをd0(nm)、前記離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、前記ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たし、塗装保護シート形成に用いることを特徴とする。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0 ・・・ 式(1)。
【0017】
本発明の第2の離型フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層の高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、前記離型層の厚みd0(nm)により算出される、前記離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする。
【0018】
初めに本発明の離型フィルムにおける、これらの物理特性の意味と制御方法の例について説明する。
【0019】
本発明の第1の離型フィルムは、離型層の厚みをd0(nm)、離型層にポリエステル粘着テープを貼り付けて150℃×5時間加熱し、ポリエステル粘着テープを剥離した後に残存した離型層の厚みをd1(nm)としたときに、下記式(1)を満たす。ここで「150℃×5時間加熱」とは150℃の温度で5時間加熱することをいい、ポリエステル粘着テープとは、日東電工社製、日東31Bテープ、若しくはこれと同等粘着力を有するアクリル系粘着剤層を有するポリエステル粘着テープをいう。なお、本発明の第2の離型フィルムにおいても下記式(1)を満たすことが好ましい。
{(d0-d1)/d0}×100≦20.0 ・・・ 式(1)。
【0020】
離型フィルムが上記式(1)を満たすことは、ポリエステル粘着テープ剥離前後の離型層厚みの変化率が20%以下であることを意味する。この特性は、例えば塗装保護シートの形成工程において、溶融樹脂との離型性の向上、および表面コート層の加工性の向上に寄与する特性である。具体的には、ポリエステル粘着テープ剥離時の厚み変化は、ポリエステル粘着テープを貼りつけて150℃で5時間加熱される過程で、離型層に粘着層の成分が浸透することで引き起こされる。そこで粘着テープ剥離前後の離型層厚みの変化率を低減することで、高温での加工時における離型性の低下を軽減した離型層を形成することが可能となる。
【0021】
上記観点から、本発明の離型フィルムの{(d0-d1)/d0}×100は17.0以下が好ましく、粘着性の高い層を有する部材への使用を考慮すれば6.5以下がより好ましい。なお本発明の離型フィルムの{(d0-d1)/d0}×100は小さいほど好ましく、その下限は0である。{(d0-d1)/d0}×100が0であることは、ポリエステル粘着テープ剥離前後で厚みの変化が見られない状態、すなわちd0=d1である状態を表す。
【0022】
d0は、離型フィルムを厚み方向と平行に切断した断面を顕微鏡で撮影した写真を解析することにより求めることができる。また、d1はアクリル系ポリエステル粘着テープを離型層上に貼り付け、熱風オーブンにて150℃5時間加熱し、剥離角度180°、引張速度300mm/分の条件でポリエステル粘着テープを剥離した後に、d0と同様の測定方法で測定することができる。d0とd1の詳細な測定方法は後述する。
【0023】
本発明の離型フィルムにおいて、上記式(1)を満たすように粘着テープ剥離前後での離型層の厚みの変化率を制御する方法については、離型層形成用の樹脂組成物の樹脂成分や架橋剤成分を選択する方法や、離型層の製造方法において架橋反応を促進する方法が挙げられる。これらの制御方法の指標の一つとして、後述する高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される原子量を用いることが出来る。本発明の離型層の好ましい組成、および離型フィルムの製造方法については後述する。
【0024】
ここで高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される原子量について説明する。離型フィルムにおいて、離型層表面の結合状態や硬度を数値化する手法は多数存在する。例えば、赤外線分光法を用いた振動分光や、ナノインデンテーションを用いた押し込み硬さ分析などの方法が挙げられるが、これらの方法はいずれも基材に相当するポリエステルフィルム部分との切り分けが難しく、ポリエステルフィルム部分の影響を抑えて離型層の特性をより正確に把握することが困難であった。
【0025】
本発明者らが検討を重ねた結果、HR-RBS法を用いることで離型層の特性をより正確に把握できることを見出した。測定試料がポリエステルフィルムの片面に離型層を有する離型フィルムである場合、HR-RBS法はHeイオンを測定試料の離型層の表面方向から基材層方向に入射し、後方すなわち基材層方向から基材層表面方向に散乱したHeイオンのエネルギーを解析することで表面の構造情報を取得する方法である。本方法を用いることにより、離型層表面の元素情報、深さ情報、濃度情報を得ることができる。本方法は表面に敏感な分析法であることから、離型層のような表面に形成された層の特性を効果的かつ高精度に解析することが可能である。
【0026】
HR-RBS法により取得できる情報は、具体的には、特定のエネルギーを持って散乱されたイオンのイオン強度(すなわち個数)であり、エネルギーは元素情報に、イオン強度は各元素の存在量に相当する。イオン強度は測定条件により変動する値であることから、実際には着目する元素の相対的な数量に換算される。非シリコーン材料で構成される離型層の表面特性を特徴づける数値として本発明者らが検討した結果、炭素元素数当たりの窒素元素数N/Cに好ましい範囲が存在することを確認した。窒素原子は有機化合物の反応部位に多く存在するため、膜物性を効果的に特徴づける指標となると考えられる。なお一方、各元素の絶対数は離型層の厚みによっても増減するため、離型層の特性をより正確に表すためには、単位厚み当たりの数値に換算する必要がある。
【0027】
本発明の第2の離型フィルムは、高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、離型層の厚みd0(nm)により算出される、離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする。なお、第1の離型フィルムも上記要件を満たすことが好ましい。離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が0.0030に満たない場合には、例えば塗装保護シートを形成する際に、溶融樹脂との離型性が不足することや、粘着層との貼り合わせの後に離型性が不足することがある。上記観点から、本発明の離型フィルムにおいては、離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が0.0035以上であることが好ましく、粘着性の高い層を有する部材への使用を考慮すれば0.0080以上であることがより好ましい。一方、厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比の上限値については特に限定されないが、離型層が有機化合物で構成される場合、おおよそ0.1000[nm-1]が実質的な上限となり、実現可能性の面から好ましくは0.0200[nm-1]である。なお、HR-RBS法によるN/Cの測定の詳細については後述する。
【0028】
本発明の離型フィルムにおいて、HR-RBS法によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)は、離型層を構成する成分量を調整するばかりでなく、離型層の架橋状態や、離型層をウェットコーティング法で形成する場合における乾燥の進行による膜密度の調整など、複数の因子で制御することが可能である。本発明の離型フィルムを構成する離型層の好ましい組成、および好ましい離型フィルムの製造方法については後述する。
【0029】
本発明の離型フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有する。ポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン-2,6-ナフタレート、エチレン-α,β-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4‘-ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成単位を主要構成単位とするものを好ましく用いることができる。ここで主要構成単位とは、樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、50モル%を超えて100モル%以下含まれる構成単位をいう。ポリエステルフィルムとは、ポリエステルを主成分とするシート状の材料をいい、主成分とは全構成成分中に50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。また、上記のポリエステルは、必要に応じて全構成単位中に50モル%未満、好ましくは30モル%以下の共重合単位を含むことができる。
【0030】
本発明の離型フィルムにおけるポリエステルフィルムとしては、耐熱性、平滑性の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。また、離型ポリエステルフィルムに熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムを用いることが好ましい。ここで、ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、フィルムを構成する全成分の50質量%より多く100質量%以下をポリエチレンテレフタレート(共重合体も含む。)が占めるフィルムをいい、ポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムについても同様に解釈できる。なお、共重合量の違い等でポリエチレンテレフタレートに相当する樹脂が複数種含まれる場合、ポリエチレンテレフタレートの含有量は該当する全樹脂成分を合算して算出するものとする。この点も、ポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムにおいても同様である。
【0031】
上記ポリエステルフィルムは、熱安定性、機械的強度の観点から、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、広角X線回折で直交する二方向に配向したパターンを示すポリエステルフィルムをいう。一般に、二軸配向ポリエステルフィルムは、未延伸状態のポリエステルシートを直交する2方向に延伸することで得られる。より具体的には、例えば、未延伸状態のポリエステルシートを長手方向と幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸した後、熱処理を施して結晶配向を完了することで得られる。ポリエステルフィルムとして二軸配向ポリエステルフィルムを用いることにより、離型フィルムの熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が向上する他、平面性も向上する。ここで長手方向とは、製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールにおいてはフィルムの巻き方向がこれに相当する。)をいい、幅方向とはフィルム面内で長手方向に直交する方向をいう。
【0032】
また、ポリエステルフィルムは、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などを、その特性を悪化させない程度に含むことができる。
【0033】
ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、基材層として十分な機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10~500μm、より好ましくは20~250μm、特に好ましくは30~150μmである。また、ポリエステルフィルムは、単層フィルムであっても、共押出しによる複合フィルムであっても、複数のフィルムを各種の方法で貼り合わせた複合フィルムであってもよい。
【0034】
本発明の離型フィルムにおける離型層は、前述のポリエステルフィルムの少なくとも片面に位置する。離型層は、その上に溶融樹脂や、粘着層、表面コート層などの被着体を積層した後、離型フィルムを剥離する工程において、剥離が容易に行われるために必要な層である。
【0035】
本発明の離型フィルムの離型層は、飛行時間型2次イオン質量分析(GCIB-TOF-SIMS)において、最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度(K)に対するポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)[-]が0.01未満であることが好ましい。P/Kの測定方法の詳細は後述するが、P/Kが0.01未満である場合、樹脂層がポリジメチルシロキサンに由来する成分が少ないため、本発明の離型フィルムを塗装保護シート形成用の工程フィルムとして使用した際、溶融樹脂へのシリコーン化合物(特にポリジメチルシロキサン)の移行がなく、表面コート層加工時の塗布欠点などのトラブルを防ぐことができる。
【0036】
本発明の離型フィルムの離型層のP/Kを上記の範囲とする方法は特に限られるものではないが、例えば、離型層形成用の樹脂組成物に使用するポリジメチルシロキサンを含む材料の配合量を制御する方法が挙げられる(詳細は後述)。
【0037】
本発明の離型フィルムにおける離型層は、膜厚が20nm以上400nm未満であることが好ましく、30nm以上200nm未満であることがより好ましい。離型層の膜厚を20nm以上400nm未満とすることで、ポリエステルフィルム上に均一な塗布性、離型性を有する離型層を設けることが容易となる。離型層の膜厚が400nm以上になると、製造コストが高くなる他、離型層形成用の樹脂組成物を塗布する際にムラやスジが発生しやすくなり、得られる離型フィルムの品位が低下する場合がある。
【0038】
本発明の離型フィルムにおいて、{(d0-d1)/d0}×100を20.0以下、かつ/または、離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比を0.0030[nm-1]以上にする方法としては、特に限定されることはないが、代表的な方法としては、離型層を、離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、及び反応性化合物(C)を含有する樹脂組成物から形成する方法や、長手方向に一軸延伸されたフィルムにインラインコート法で離型層を形成する方法がある(詳細は後述)。なお、これらの方法は適宜組み合わせてもよい。
【0039】
本発明の第1の離型フィルムは、塗装保護シートの形成に用いるものである。また、第2の離型フィルムも同用途に好適に用いることができる。ここで塗装保護シートとは、塗装部を保護する目的で、塗装部を被覆する形で使用されるシート状の部材をいう。塗装保護シートは、例えば、擦り傷や飛来物に起因する傷の防止、天候や洗浄剤などの薬品による劣化防止などの役割を担う。塗装保護シート具体的な使用態様としては、例えば自動車等の乗り物の塗装の上から筐体全体を被覆する態様が挙げられる。塗装保護シートは、ペイントプロテクションシート/フィルム、外装保護シート/フィルム、表面保護シート/フィルムなどの名称でも呼称される。
【0040】
塗装保護シートの製造方法については、例えば、特許文献2や特許文献3のような公知文献にて開示されているが、離型フィルムが使用される工程は大きく分けて以下の3工程である。
1.押し出された溶融樹脂に沿わせる形で離型フィルムを配置し冷却する工程。
2.表面コート層の保護を目的に離型フィルムを貼り付ける工程。
3.粘着層の保護を目的に離型フィルムを貼り付ける工程。
【0041】
塗装保護シートの主たる構成材料である樹脂としては、熱可塑性ポリウレタンが好適に用いられる。一方、耐薬品性などの機能を付与する表面コート層としては、フッ素成分、シリコーン成分などを共重合したブロック共重合体や、フッ素成分やシリコーン成分などを側鎖として結合させたグラフト重合体を含む熱硬化型樹脂が好ましく用いられる。
【0042】
更に塗装保護シートを筐体に貼り合わせるために使用される粘着層としては、公知の粘着剤を用いることができる。粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤等、一般的なものを使用できる。これらの中でも、好適な粘着力、耐久性等を発揮し得るアクリル系粘着剤が好ましい。
【0043】
次に、本発明の離型フィルムを含む積層体の代表的な構成を、図1を用いて説明する。図1に示す構成は、熱可塑性樹脂層1の片面に粘着層2を有する構成であり、粘着層2と反対の面には表面コート層3を有してもよい。熱可塑性樹脂層1~表面コート層3の積層体である塗装保護シート4に対して、実使用までのカバーとして少なくとも粘着層2の表面を離型フィルム5で覆う形態となる。なお離型フィルム5の離型層6は塗装保護シート4側に配置される。更に本発明の離型フィルムは、表面コート層3の表面に離型フィルム7を配置することも出来る。両面を離型フィルム5および7で覆うことで塗装保護シート4の傷付きや、埃などの異物の混入を防ぐことが出来る。
【0044】
本発明の離型フィルムを塗装保護シートの形成に用いる場合、離型層の上に被着体を形成することができる。ここで被着体とは、樹脂やセラミックなどを含む層状の成型体を指す。被着体の形成方法については特に限定されないが、例えば溶融樹脂の押出、塗布、貼合などの方法によって、離型層の表面に隣接して形成することができる。被着体の形成に溶媒成分を有する塗液を使用する場合、また表面層が反応性の活性部位を反応させて成る硬化層の場合には、未乾燥の状態及び未硬化の状態を含め、被着体として扱うものとする。
【0045】
本発明の離型フィルムは、離型層上に設けられる層が高温の加工工程を有する場合や、防汚・耐薬品性に優れるフッ素系の添加剤を含む場合にも安定した離型性を発現するという特徴を有する。そのため、本発明の離型フィルムは、離型層の表面に溶融樹脂をキャストした後に冷却する工程や、防汚性や耐薬品性を付与する表面コート層を形成後に貼り合わせを実施し、使用前に被着体から剥離する、塗装保護シート形成用途に好適に用いられる。
【0046】
以下、本発明の離型フィルムの離型層形成用の樹脂組成物について説明する。本発明の離型フィルムの離型層は、離型剤(A)と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類のバインダー樹脂(B)とメラミン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の反応性化合物(C)を含有する樹脂組成物から形成されることが好ましい。かかる構成とすることで、離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比、ひいては粘着テープ剥離前後の離型層厚みの変化率である{(d0-d1)/d0}×100を好適な範囲に調整し、離型層として被着体に対する離型性を良好なものとすることが容易になる。
【0047】
本発明の離型フィルムでいう離型剤(A)とは、層の表面に離型性(すなわち樹脂の表面自由エネルギーを低下させ、被着体との剥離を容易にする特性)を付与することができる化合物を示す。離型剤として一般に使用される材料としてはシリコーン化合物やフッ素化合物が挙げられるが、これらは離型層の製造工程において表面に強く引き寄せられる相分離を引き起こすことが知られている。相分離の結果として後述の好ましい成分との混合が不十分となり、前述の離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比の低下を引き起こし、離型性の低下に繋がる場合がある。
【0048】
本発明の離型フィルムで用いることのできる離型剤(A)としては、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物などが挙げられる。中でも、長鎖アルキル基含有樹脂は、良好な離型性を付与できる点で好ましい。一方、本発明の離型フィルムの離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比を好ましい範囲に調整する観点から、長鎖アルキル基とは別に側鎖として反応性官能基を含有することが好ましい。すなわち、本発明の離型剤として特に好ましい形態は長鎖アルキル基と反応性官能基を有する共重合樹脂である。反応性官能基については、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられるが、後述する好ましい溶媒である水との相溶性の観点から、ヒドロキシル基を有することが特に好ましい。
【0049】
長鎖アルキル基含有化合物は市販されているものを使用してもよく、具体的には、アシオ産業社製の長鎖アルキル系化合物である“アシオレジン”(登録商標)シリーズ、一方社油脂工業社製の長鎖アルキル化合物である“ピーロイル”シリーズ、中京油脂社製の長鎖アルキル系化合物の水性分散体である“レゼム”シリーズなどを使用することができる。離型剤(A)は、炭素数12以上のアルキル基を有することが好ましく、炭素数16以上のアルキル基を有することがより好ましい。アルキル基の炭素数を12以上にすることで、疎水性が高まることとなり、離型剤(A)として十分な離型性能を発現させることができる。アルキル基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、25以下であると製造が容易であるため好ましい。
【0050】
炭素数12以上のアルキル基を有する樹脂は、ポリメチレンの主鎖に炭素数12以上のアルキル基の側鎖を有する樹脂であることがより好ましい。主鎖が疎水性のポリメチレンであることで、前述の長鎖アルキル基と反応性官能基の共重合樹脂を形成した際にも反応性官能基の凝集を抑制することが出来るため、離型剤(A)の離型効果をより優れたものとすることができる。また、離型剤(A)の別の好ましい態様として、炭素数12以上のアルキル基を有するブロック共重合体(より好ましくは炭素数12以上のアルキル基を有するアクリル系のブロック共重合体)が挙げられる。このような態様とすることで、離型性の発現に寄与する炭素数12以上のアルキル基の配列方向がより均一化されるため、離型フィルムの離型性を向上させることができる。
【0051】
なお、炭素数12のアルキル基の含有の有無については離型フィルムからも、例えばTOF-SIMS(TOF-SIMS:飛行時間型2次イオン質量分析法)にて得られる信号の内、アルキル基に相当する物の強度を用いて評価することが出来る。このとき、イオンスパッタ法による切削法を併用することで深さ方向(厚み方向)に連続的に測定を行うことが可能であり、アルキル基含有化合物の分布状態についても評価することが出来る。
【0052】
本発明の第2の離型フィルムにおける離型層を形成するバインダー樹脂(B)としては、前述の離型層の緻密性に相当するパラメータである1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比が0.0030[nm-1]以上となる樹脂であれば任意の材料を使用することが可能である。また、第1の離型フィルムにおいても同様の樹脂を好適に用いることができる。このような樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を単独で又は複数種類組み合わせて使用することが好適であるが、前述の離型層の緻密性を調整する観点、反応性官能基の導入容易性の観点からアクリル樹脂を用いることがより好ましい。反応性官能基については、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、などが挙げられるが、離型層の緻密性を調整して離型性を高める観点から、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を有することが好ましく、ヒドロキシル基およびカルボキシル基を共に有する共重合アクリル樹脂であることが特に好ましい。
【0053】
バインダー樹脂(B)として用いることができるアクリル樹脂は、特に限定されることはないが、構成するモノマー成分としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド等のアミド基含有モノマー、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマー、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマーなどを用いることができる。またこれらのモノマーは単独で重合しても良いし、他種のモノマーと併用し共重合してもよい。
【0054】
本発明の離型フィルムのバインダー樹脂(B)に用いられるアクリル樹脂のガラス転移点(Tg)は特に限定されるものではないが、好ましくは0~90℃、より好ましくは10~80℃である。Tgが0℃以上のアクリル樹脂を用いることにより高温高湿下でも離型性が保たれ、逆にTgが90℃以下のアクリル樹脂を用いることにより、後述の好ましい製造方法において延伸時における亀裂の発生を軽減することができる。また、該アクリル樹脂の分子量は10万以上が好ましく、より好ましくは30万以上とするのが離型性の点で好ましい。
【0055】
本発明の離型フィルムにおいて用いられる好ましいアクリル樹脂としては、ヒドロキシアルキルアクリレート、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、アクリル酸を含む共重合体等であり、特に好ましくは2-ヒドロキシエチルアクリレートおよびアクリル酸を含む共重合体である。
【0056】
その他、バインダー樹脂(B)として用いることができるエポキシ樹脂としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ジグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系架橋剤などを用いることができる。エポキシ樹脂として、市販されているものを使用してもよく、例えば、ナガセケムテック株式会社製エポキシ化合物“デナコール”(登録商標)EX-611、EX-614、EX-614B、EX-512、EX-521、EX-421、EX-313、EX-810、EX-830、EX-850など)、坂本薬品工業株式会社製のジエポキシ・ポリエポキシ系化合物(SR-EG、SR-8EG、SR-GLGなど)、大日本インキ工業株式会社製エポキシ架橋剤“EPICLON”(登録商標)EM-85-75W、あるいはCR-5Lなどを好適に用いることができ、中でも、水溶性を有するものが好ましく用いられる。
【0057】
また、本発明の離型フィルムにおけるバインダー樹脂(B)として用いるポリエステル樹脂は、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、ジカルボン酸とジオールから重縮合して得られるものが好ましい。該ポリエステル樹脂の原料となるジカルボン酸としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸が使用できる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p-p’-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。脂肪族及び脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸など、及びそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0058】
該ポリエステル樹脂の原料となるジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1、3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4、4’-メチレンジフェノール、4、4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-、m-、及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,2’-ジオール、シクロヘキサン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオールなどを用いることができる。さらに、該ポリエステル樹脂として、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体などを用いることも可能である。
【0059】
また、本発明の離型フィルムにおけるバインダー樹脂(B)として用いるウレタン樹脂は、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0060】
ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプトラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0061】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチレンプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0062】
本発明の離型フィルムにおける離型層には反応性化合物(C)を含有することが、特に前述の離型層の架橋反応を十分に進行させ、離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比、ひいては粘着テープ剥離前後の離型層厚みの変化率を調整する観点で特に好ましい。反応性化合物(C)としては、メラミン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物などが挙げられる。中でも、メラミン化合物は単位分子量当たりの反応性官能基量が多く、高温加熱により緻密な架橋を形成しやすくなるため好ましい。
【0063】
反応性化合物(C)として用いることができるメラミン化合物としては、例えば、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物などを用いることができる。また、メラミン化合物としては、単量体または2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。エーテル化に用いられる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノールなどを用いることができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂及び完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などである。その中でも、メチロール化メラミン樹脂が最も好ましく用いられる。
【0064】
また、反応性化合物(C)として用いることができるカルボジイミド化合物は、該化合物中に官能基としてカルボジイミド基、またはその互変異性の関係にあるシアナミド基を分子内に1個または2個以上有する化合物である。このようなカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド及びウレア変性カルボジイミド等を挙げることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0065】
さらに、反応性化合物(C)として用いることができるイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ビトリレン-4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0066】
さらに、イソシアネート基は水と反応し易いため、塗剤のポットライフの点で、イソシアネート基をブロック剤などでマスクしたブロックイソシアネート系化合物などを好適に用いることができる。この場合、ポリエステルフィルムに離型層形成用の樹脂組成物を塗布した後の乾燥工程において熱がかかることで、ブロック剤が解離し、イソシアネート基が露出する結果、架橋反応が進行することになる。
【0067】
なお、本発明の離型フィルムの離型層形成用の樹脂組成物は、離型剤(A)とバインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の好ましい含有量については後述する。
【0068】
本発明の離型フィルムの離型層形成用の樹脂組成物は、離型剤(A)とバインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)のほかに、粒子成分を含んでいてもよい。前述したとおり、本発明の離型フィルムの樹脂層は、フィルム表面が平滑であると従来のフィルムとは異なり、滑り性が高くなる。本発明の離型フィルムにおいて、巻取性が悪化するほどに滑り性が高い場合には、離型層形成用の樹脂組成物中にかかる粒子成分を含めることで、樹脂層表面に突起形状を形成することができ、搬送性が良好となる。
【0069】
本発明の離型フィルムにおいて好適に用いられる粒子成分としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ヒ素(As)、テルル(Te)及びアスタチン(At)を結ぶ斜めの線上および左に位置する元素の酸化物微粒子が挙げられる。このような粒子成分としては、例えば、SiO、TiO、ZrO、ZnO、CeO、SnO、Sb、インジウムドープ酸化錫(ITO)、リンドープ酸化錫(PTO)、Y、La、Al、などが挙げられる。なお、これらの粒子成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。分散安定性や屈折率の観点からは、SiO、TiO、ZrOが特に好ましい。
【0070】
本発明の離型フィルムの離型層に用いる粒子成分は、数平均粒子径が3nm以上500nm以下であることが好ましい。より好ましくは20nm以上400nm以下、さらに好ましくは40nm以上300nm以下である。ここで数平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により求めた粒子径をいう。具体的には、倍率を50万倍として画面に存在する10個の粒子の外径を測定し、これを合計10視野について繰り返して合計100個の粒子の外径を測定することにより求めた数平均粒子径である。ここで外径とは、粒子の最大の径(つまり粒子の長径であり、粒子中の最も長い径を示す。)を表し、内部に空洞を有する粒子の場合も同様に、粒子の最大の径を表す。該粒子成分の数平均粒子径が3nm以上であると、粒子同士のファンデルワールス力が抑えられて粒子の凝集が軽減される傾向にある。一方、該粒子成分の数平均粒子径が500nm以下であることにより、離型層からの粒子の脱落を軽減できる。
【0071】
粒子成分の製造方法は特に限定されるものではないが、粒子成分をアクリル樹脂で表面処理する方法などを挙げることができ、具体的には、以下の(i)~(iv)の方法が例示される。なお、本発明において表面処理とは、粒子成分の表面の全部または一部にアクリル樹脂を吸着・付着させる処理をいう。以下の(i)~(iv)のいずれの方法によっても目的とする効果を得ることができる。
(i)粒子成分とアクリル樹脂をあらかじめ混合した混合物を溶媒中に添加した後、分散させる方法。
(ii)溶媒中に粒子成分とアクリル樹脂を順に添加して分散させる方法。
(iii)溶媒中に粒子成分とアクリル樹脂をあらかじめ分散させ、得られた分散体を混合する方法。
(iv)溶媒中に粒子成分を分散させた後、得られた分散体にアクリル樹脂を添加する方法。
【0072】
また、分散を行う装置としては、ディゾルバー、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ミーダー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、SCミル、アニュラー型ミル、ピン型ミル等が使用できる。上記装置を用いるときの好適な条件は、回転軸の回転速度が周速5~15m/sであり、回転時間を5~10時間とする条件である。さらに、分散性を高める点で、分散時にガラスビーズ等の分散ビーズを用いることがより好ましい。分散ビーズのビーズ径は、好ましくは0.05~0.5mm、より好ましくは0.08~0.5mm、さらに好ましくは0.08~0.2mmである。なお、混合や攪拌は、容器を手で振って行ったり、マグネチックスターラーや攪拌羽根を用いたり、超音波照射、振動分散などで行うことができる。
【0073】
離型層における粒子成分の含有量は、離型剤(A)とバインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の合計100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、1質量部以上7質量部以下、さらに好ましくは2質量部以上5質量部以下である。粒子成分の含有量を、離型剤(A)とバインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の合計に対して、0.5質量部以上10質量部以下とすることで、該離型層の造膜性を損なうことなく、好適な表面形状を付与することができる。その結果、所望の搬送性を十分に発現させることが可能となる。
【0074】
樹脂組成物を調製する場合は、溶媒または分散媒(以下、溶媒と省略する。)が含まれていても良い。すなわち、各種成分を溶媒に溶解または分散せしめて樹脂組成物とし、これをポリエステルフィルムに塗布してもよい。このような方法を採用した場合、塗布後に溶媒を乾燥させ、かつ加熱することで離型層が積層されたフィルムを得ることができる。
【0075】
本発明の離型フィルムでは、溶媒として水系溶媒を用いることが好ましい。ここで、水系溶媒とは水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合されているものを指す。水系溶媒を用いることで、加熱工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一な樹脂層を形成できるだけでなく、環境負荷の点でも優れているためである。
【0076】
本発明の離型フィルムにおいて離型層形成用の樹脂組成物は、必要に応じて水分散化または水溶化した離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)および水系溶媒を任意の順番で所望の重量比で混合、撹拌することで作製することができる。次いで必要に応じて易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤、熱開始剤などの各種添加剤を、樹脂組成物により設けた樹脂層の特性を悪化させない程度に任意の順番で混合、撹拌することもできる。混合、撹拌する方法は、容器を手で振る方法、マグネチックスターラーや撹拌羽根で攪拌する方法、超音波照射、振動分散などを用いる方法等を用いることができる。
【0077】
本発明における離型層形成用の樹脂組成物として、離型剤(A)には好ましい含有量が存在する。具体的には離型層全体(離型層形成用の樹脂組成物における離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の合計)を100質量%とした際に、離型剤(A)は10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。離型剤(A)を10質量%以上とした場合には、離型層の離型性が十分な水準となる。一方、離型剤(A)が50質量%以下の場合には、離型フィルムからの離型剤(A)の脱落が軽減され、離型剤(A)による被着体の汚染を抑えることができる。
【0078】
また反応性化合物(C)の含有量にも好ましい範囲が存在し、具体的には離型層全体(離型層形成用の樹脂組成物における離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の合計)を100質量%とした際に、反応性化合物(C)は40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。反応性化合物(C)が上記の含有量を満たすことで、離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比を好ましい範囲に制御しやすくなり、各種被着体の離型性が向上する。一方、含有量の上限については、離型剤(A)とバインダー樹脂(B)の配合量に依存するが、80質量%であり、好ましくは75質量%である。
【0079】
一方、バインダー樹脂(B)は前述の離型剤(A)および反応性化合物(C)が好ましい含有量となるように配合比を調整することが可能である。ただし、バインダー樹脂(B)が離型層全体(離型層形成用の樹脂組成物における離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の合計)を100質量%とした際に5質量%に満たない場合には、離型層を支持することが困難となり、離型層の脱落や品位の悪化に繋がる場合がある。
【0080】
以下、本発明の離型フィルムの製造方法について説明する。本発明の離型フィルムの好ましい製造方法は、ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程、塗布後のポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、及び延伸後のポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程をこの順に有することを特徴とする。ここでポリエステル樹脂基材シートとは、離型フィルムとなったときにポリエステルフィルムとなるシートをいい、離型層形成用の樹脂組成物とは、離型フィルムとなったときに離型層を形成する塗料組成物である。
【0081】
本発明の離型フィルムの好ましい製造方法は、ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程を有する。塗布工程では、前述の好ましい離型層形成用の樹脂組成物を塗布し、この樹脂組成物は、その後の熱処理工程での加熱により離型層となる。ここで用いる離型層形成用の樹脂組成物は、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物などから選ばれる離型剤(A)、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂、アクリル樹脂などから選ばれるバインダー樹脂(B)、メラミン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種以上の反応性化合物(C)に加え、架橋触媒、易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤、熱開始剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
本発明の離型フィルムの好ましい製造方法においては、離型層形成用の樹脂組成物の塗布方法は、インラインコート法、オフコート法のどちらでもよいが、好ましくはインラインコート法である。インラインコート法とは、ポリエステルフィルムの製造工程内で塗布を行う方法である。具体的には、ポリエステル樹脂を溶融押し出ししてから巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)ポリエステルフィルム(以下、Aフィルムということがある。)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)ポリエステルフィルム(以下、Bフィルムということがある。)、または、さらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)ポリエステルフィルム(以下、Cフィルムということがある。)の何れかのフィルム(A~Cフィルムは、ポリエステル樹脂基材シートに相当)に塗布する。
【0083】
本発明の離型フィルムの好ましい製造方法においては、塗布工程の後に、塗布後のポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程を有する。言い換えると、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムのAフィルム、Bフィルムの何れかに離型層形成用の樹脂組成物を塗布して溶媒を蒸発させ、その後、AフィルムやBフィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸することが好ましい。この方法によれば、ポリエステルフィルムの製膜と、樹脂組成物の塗布と溶媒の乾燥、および加熱(すなわち、離型層の形成)を連続した工程で行うことができる。そのため、製造コスト上のメリットがあるばかりでなく、乾燥後にポリエステル樹脂基材シートの結晶配向を完了させることで、ポリエステルフィルムの変形や熱収縮を軽減しつつ離型層に高温の熱処理を施すことが可能になる。その結果、塗布により形成した離型層の架橋が促進され各種被着体との離型性を得やすくなると同時に、ポリエステルフィルムが以降の加工における熱処理時に収縮などの変形を生じにくくなるため、特に高温の被着体に対しても優れた離型性を得ることが出来る。更に、塗布後に延伸を行うことは、離型層をより均一に薄膜化することが容易であることも利点である。
【0084】
本発明の離型フィルムの好ましい製造方法においては、延伸工程の後に、延伸後のポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程を有する。塗布層に施す熱処理には前述の離型層の架橋反応を十分に進行させて水系塗材の浸透を抑制する観点から好ましい温度条件が存在する。具体的には熱処理温度は150℃以上であり、170℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることがさらに好ましい。なお熱処理温度の上限は、ポリエステルフィルムの耐熱温度から260℃が好ましい。熱処理温度が260℃以下であることにより、ポリエステルフィルムの変形が抑えられ、均一な積層ポリエステルフィルムを得ることが容易となる。
【0085】
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、離型層形成用の樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥させ、その後、幅方向に延伸して加熱する方法が優れている。当該方法は、未延伸フィルム(Aフィルム)に離型層形成用の樹脂組成物を塗布した後に二軸延伸する方法に比べ、離型層形成用の樹脂組成物により形成される層が経る延伸工程が1回少ないため、延伸による離型層の欠陥や亀裂が発生しづらく、透明性や平滑性に優れた離型層を形成できるためである。
【0086】
一方、オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、加熱処理を施しポリエステルフィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、またはAフィルム自体に、フィルムの製膜工程とは別工程で離型層形成用の樹脂組成物を塗布する方法である。言い換えれば、塗布後に延伸や結晶配向完了のための熱処理を行わないコート法である。本発明の離型フィルムの製造では、上述した種々の利点から、インラインコート法を用いることが好ましいが、オフラインコート法により離型層を形成する場合にも、その加工温度が150℃以上であり、170℃以上であることが好ましく、200℃以上がより好ましい。加工温度を150℃以上とすることにより、薄膜の離型層を十分に硬化させることができる。特に前述の離型層の架橋反応を十分に進行させて水系塗材の浸透を抑制する観点から、同一の処方を用いた場合でも、加工温度を150℃以上としなければ離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比を上記の範囲に制御できない場合がある。なお、加工温度の上限については、ポリエステルフィルムの耐熱温度から260℃が好ましい、加工温度が260℃以下であることにより、ポリエステルフィルムの変形が抑えられ、均一な積層ポリエステルフィルムを得ることが容易となる。
【0087】
ここで、ポリエステルフィルムへの離型層形成用の樹脂組成物の塗布方式は、インラインコート法、オフラインコート法共に、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等の任意の方式を用いることができる。
【0088】
次に、本発明の離型フィルムの製造方法について、ポリエステルフィルムとしてポリエチレンテレフタレート(以下、PET)フィルムを用いた場合を例にしてより具体的に説明するが、本発明の離型フィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0089】
まず、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、260℃~280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80~120℃に加熱したロールで長手方向に2.5~5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した前述の離型層形成用の樹脂組成物を塗布する。
【0090】
このとき、離型層形成用の樹脂組成物を塗布する前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、離型層形成用の樹脂組成物のPETフィルムへの濡れ性が向上するため、そのはじきを軽減し、より均一な塗布厚みの離型層を形成することができる。塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80~130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)へ導き、離型層形成用の樹脂組成物の溶媒を乾燥させる。乾燥後、幅方向に1.1~5.0倍延伸し、引き続き150~260℃、好ましくは170~260℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導いて1~30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。
【0091】
この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3~15%の弛緩処理を施してもよい。かくして得られた積層ポリエステルフィルムは水系塗材の塗布性、密着性および透明性に優れた積層ポリエステルフィルムとなる。
【0092】
なお、本発明の離型フィルムは、離型層とポリエステルフィルムの間に中間層を設けてもよいが、中間層を設ける場合は、中間層を積層したフィルムの巻き取り時や、その後の本発明の離型層を設けるまでの工程において、フィルムにキズがつく場合がある。そのため、本発明では、樹脂層と熱可塑性樹脂層が直接積層されていることが好ましい。
【0093】
本発明の離型フィルムを構成するポリエステルフィルムは、熱可塑性樹脂層の構成に制限はなく、例えば、A層のみからなる単層構成や、A層/B層の積層構成すなわち2種2層積層構成、A層/B層/A層の積層構成すなわち2種3層積層構成、A層/B層/C層の積層構成すなわち3種3層積層構成等の構成を挙げることができる。なお、ここでいうA層、B層、C層は互いに組成が異なるものとする。
【0094】
本発明の離型フィルムを構成するポリエステルフィルムにおける熱可塑性樹脂層の積層方法は制限されるものではなく、例えば、共押出法による積層方法、貼り合わせによる積層方法、これの組み合わせによる方法等を挙げることができるが、透明性と製造安定性の観点から、共押出法を採用することが好ましい。積層構成とする場合、それぞれの層に異なる機能を付与すること目的として、異なる樹脂構成としても良い。例えば、A層/B層/A層の積層構成すなわち2種3層積層構成とする場合には、透明性の観点からB層をホモポリエチレンテレフタレートで構成し、A層には、易滑性付与のために、粒子を添加する等の方法を挙げることができる。
【0095】
本発明の離型フィルムは、ポリエステルフィルムが、バイオマス原料とリサイクル原料の少なくとも一方を含むことが、環境負荷低減の観点から好ましい。ここでバイオマスとは、二酸化炭素と水から光合成された植物由来の有機化合物である。バイオマスを燃やした場合、通常、再度二酸化炭素と水になるため、バイオマスはいわゆるカーボンニュートラルな再生可能エネルギーとして利用することができる。また、バイオマス原料とは、バイオマス由来の構成単位を含むポリエステルをいう。
【0096】
全炭素数に占める植物由来炭素数の割合をバイオマス度としたとき、例えばエチレンテレフタレートユニットにおいて、エチレングリコール成分のみを全て植物由来としたときバイオマス度は理論上20%となる。バイオマス度をそれより大きくするには、テレフタル酸も植物由来とする必要があり、環境負荷低減の効果は大きくなるが生産コストが上昇する。該エチレングリコール成分とテレフタル酸成分については、石油由来の成分と植物由来の成分を併用してもよい。
【0097】
フィルムを構成するポリエステルのバイオマス度の下限は、環境負荷低減効果を発現させる観点から、好ましくは5%、より好ましくは10%、さらに好ましくは13%である。バイオマス度が5%以上であることにより、環境負荷低減効果が期待できる。一方、バイオマス度の上限は環境負荷低減のみを考慮した場合には高いほど好ましく、100%が上限となる。しかしながら、生産コストと環境負荷低減を両立する観点から現実的には20%以下であることが好ましい。
【0098】
なお、バイオマス原料の有無を解析する公知の方法としては、例えば日本バイオプラスチック協会のホームページ(http://www.jbpaweb.net/bp/)に記載の炭素同位体(14C)を用いる手法が挙げられる。
【0099】
リサイクル原料とは一度、または複数回に渡って化学製品となったポリエステルを回収し、再利用した原料である。本発明の離型フィルムにおけるリサイクル原料としては、例えば、本発明の離型フィルムの製造工程で切断除去した幅方向両端部における未塗布部や、別のポリエステルフィルムの回収品、更にPETボトルの様にフィルムとは異なる形態で流通したポリエステル製品等を挙げることができる。本発明の離型フィルムを製膜するときに、リサイクル原料は、ポリエステル原料100質量%中、90質量%以下で使用することが好ましい。リサイクル原料の使用を90質量%以下に抑えることにより、一度化学製品となった結晶性の高いポリエステルの量が抑えられるため、得られる離型フィルムの熱特性や透明性の低下、着色を軽減することができる。
【0100】
次に本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、表面コート層、熱可塑性ポリウレタン層、及び粘着層をこの順に有する塗装保護シートを塗装保護シート1としたときに、塗装保護シート1の少なくとも粘着層側の表面に離型フィルムを有する積層体であって、離型フィルムが、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に離型層を有し、離型層の高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)と、離型層の厚みd0(nm)により算出される、離型層における厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有比が、0.0030[nm-1]以上であることを特徴とする。また特に好ましい構成は、塗装保護シート1の両面に上記離型フィルムを有する積層体である。
【0101】
離型フィルムの各特性は、前出した方法により制御することができる。また、塗装保護シート1に離型フィルムを貼り合わせる方法としては特に限定されず、例えば搬送工程中でラミネートロールやニップロールを通過させることで貼り合わせる方法や、市販のホットラミネーター、コールドラミネーター、ヒートシーラーを使用する方法を用いることができる。
【実施例0102】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明の離型フィルムを詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0103】
<特性の測定方法及び効果の評価方法>
本発明における特性の測定方法、及び効果の評価方法は次の通りである。
【0104】
(1)離型層の厚み d0
積層フィルムをRuO及び/またはOsOを用いて染色した。次に、積層フィルムを凍結せしめ、フィルム厚み方向と平行に切断し、離型層断面観察用の超薄切片サンプルを10点(10個)得た。それぞれのサンプル断面をTEM(透過型電子顕微鏡:(株)日立製作所製H7100FA型)にて1万~100万倍で観察し、断面写真を得た。その10点(10個)のサンプルの断面写真より、顕微鏡の測長機能で離型層の厚みを測定し、得られた測定値を平均して積層フィルムの離型層厚みとした。
【0105】
(2)150℃5時間加熱、テープ剥離後の離型層の厚み d1
150℃5時間加熱、テープ剥離後の離型層の厚みは下記の通り測定した。まず、アクリル系ポリエステル粘着テープ(日東電工社製、日東31Bテープ、19mm幅)を、本発明の離型フィルムの離型層上に貼り合わせ、その上から、2kgfのローラを1往復させてテープ貼合積層フィルムを作成した。その後、テープ貼合積層フィルムを熱風オーブンにて150℃5時間加熱した。その後、(株)島津製作所製万能試験機「オートグラフAG-1S」を用いて、剥離角度180°、引張速度300mm/分でポリエステル粘着テープを剥離した後、前述の(1)と同様の方法にて離型層厚みを測定した。
【0106】
(3)テープ剥離前後の厚み変化率 (d0-d1)/d0×100[%]
(1)および(2)で測定したd0およびd1を基に初期の離型層厚みを基準とした離型層厚みの減少率を百分率で算出した。
【0107】
(4)高分解能ラザフォード後方散乱法(HR-RBS法)測定によって算出される窒素原子と炭素原子の比(N/C)
測定装置は、National Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDHを用いた。エネルギー2300keV、ビーム径2mmφのHe++イオンを試料面に対して入射角75°で試料に照射し、散乱されたHe++イオンを散乱角度160°、146°で偏光磁場型エネルギー分析器により検出した。この際の試料電流は7nA、照射量は40μC、測定エネルギー範囲は200~1000keVで測定を行った。得られたスペクトルに対してシミュレーションフィッティングを行いデプスプロファイルに変換後、面密度[atoms/cm]を算出した。なお測定による焼き付きなどのダメージを軽減させるため、位置をずらしながら10点で測定を実施し、解析にはそれらを積算したデータを使用した。次いで、得られた窒素元素の面密度[atoms/cm]を炭素元素の面密度[atoms/cm]で除し、窒素原子と炭素原子の比(N/C)を算出した。さらに(1)により測定した離型層の厚みd0で除すことで、厚み1nmあたりの窒素原子と炭素原子の平均含有量比とした。
【0108】
(5)樹脂層表面の組成の分析方法
GCIB-TOF-SIMS(GCIB:ガスクラスターイオンビーム、TOF-SIMS:飛行時間型2次イオン質量分析法)を用いて、積層フィルムの樹脂層表面の組成を分析した。測定条件は、下記の通りとした。
<スパッタリング条件>
イオン源:アルゴンガスクラスターイオンビーム
<検出条件>
1次イオン:Bi ++(25keV)
2次イオン極性:Negative
質量範囲:m/z 0~1000
測定範囲:200×200μm
測定により最大強度で検出されるフラグメントのピーク強度をK、ポリジメチルシロキサンに由来するフラグメント(SiCH フラグメントイオン(M/Z=43))のピーク強度をPとし、その比P/Kを算出した。P/K<0.01の場合、樹脂層は実質的にシリコーン化合物を含んでいないと判断した。
【0109】
(6)溶融樹脂層の離型性
ポリイソシアネート成分としての水添キシリレンジイソシアネートと、ポリオール成分としてのポリカーボネートポリオールとの共重合により反応生成した熱可塑性ポリウレタンを押出機に供給し、溶融および混練後、押出機の先端に取り付けたTダイから押し出した。その両面を離型フィルムの離型層をポリウレタン側に向け配置した状態でニップし、厚さ150μmの層状の熱可塑性ポリウレタンシートを作製した。その後、23℃65RH%の環境下で12時間静置し、離型フィルムを熱可塑性ポリウレタンシートから剥離し、剥離の状態から以下の3段階に分類した。
A:離型フィルムへの付着物無く容易に剥離が可能であった
B:剥離は容易であったものの、離型フィルムの剥離後にフィルム表面に付着物が残った。
C:離型フィルムの剥離が困難であった。
【0110】
(7)表面コート層の離型性
表面コート層形成用塗布液として、フッ素変性アクリルポリオール(固形分率35%)に、イソシアネート系硬化剤(固形分率60%)と、希釈溶媒として酢酸エチルとを39:19:42の質量分率で配合したフッ素変性アクリルウレタン樹脂Aの塗布液を調製した。次いで(6)にて作製した熱可塑性ポリウレタンシートの表層に、表面コート層形成用塗布液を厚みが10μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した後、熱風オーブンにて150℃1分間の加熱により硬化させた。更に得られた表面コート層付き樹脂シートの上に、離型フィルムを離型層と表面コート層が接するように配置し、2kgfのローラを1往復させ離型フィルム付き樹脂シートを作製した。その後、23℃65RH%の環境下で12時間静置し、離型フィルムを樹脂シートから剥離し、剥離の状態から以下の4段階に分類した。
A:きっかけを与えるとシートの自重で剥離が可能であり、離型フィルムの剥離後、フィルム表面に付着物は残らなかった。
B:離型フィルムの剥離に強い力が必要であったが、離型フィルムの剥離後、フィルム表面に付着物は残らなかった。
C:離型フィルムの剥離後に、フィルム表面に付着物が残った。
D:離型フィルムの剥離が困難であった。
【0111】
(8)粘着層の離型性
粘着剤として綜研化学社製SKダインTM1717DTを使用した。(6)にて作製した熱可塑性ポリウレタンシートの表層に、厚みが20μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した後、熱風オーブンにて100℃2分間の加熱により硬化させた。更に得られた粘着層付き樹脂シートの上に、離型フィルムを離型層と粘着層が接するように配置し、2kgfのローラを1往復させ離型フィルム付き樹脂シートを作製した。その後、23℃65RH%の環境下で12時間静置し、(株)島津製作所製万能試験機「オートグラフAG‐1S」を用いて、剥離角度180°、引張速度300mm/分で離型フィルムを剥離した。剥離の状態から以下の3段階に分類した。
A:10.0N/mm未満の力で離型フィルムの剥離が可能であった。
B:10.0N/mm以上の力で離型フィルムの剥離が可能であった。
C:10.0N/mm以上の力でも離型フィルムの剥離が困難であった。
【0112】
<離型剤(A)>
・離型剤(A-1):長鎖アルキル基含有樹脂(1)
4つ口フラスコにキシレン200質量部、オクタデシルイソシアネート600質量部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100質量部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。ポリビニルアルコールを加え終わった後、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。その後、反応混合物を約80℃まで冷却してメタノール中に加え、生じた白色沈殿を濾別した。得られた白色沈殿にキシレン140質量部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した。その後、得られた沈殿物をメタノールで洗浄して乾燥粉砕することで、長鎖アルキル基含有樹脂(1)(ポリメチレンを主鎖として側鎖に炭素数18のアルキル基を有する。)を得た。これを水で希釈し、20質量%に調整した。
【0113】
・離型剤(A-2):長鎖アルキル基含有樹脂(2)
次に示す工程(I)~工程(III)を経て長鎖アルキル基含有樹脂(2)の水分散液を得た。
【0114】
工程(I):耐圧ガラス製重合用アンプルに、メタクリル酸メチル(MMA)(関東化学(株)社製)、重合開始剤としてα,α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(関東化学(株)社製。)、RAFT剤としてクミルジチオベンゾエート(CDB)、および溶媒であるトルエンを、MMA/CDB/AIBN/トルエン=2.92/0.03/0.007/2.27の質量部で仕込んだ。次に、凍結脱気法によりアンプル内の混合溶液を2回脱気した後、アンプルを密閉し、100℃のオイルバス中で18時間加熱し、重合体(I-1)を含む反応液を得た。
【0115】
工程(II):アンプル内の反応液に、オクタデシルアクリレート、重合開始剤であるAIBN、および溶媒であるトルエンを、オクタデシルアクリレート/AIBN/トルエン=1.37/0.003/1.3の質量部で加えて重合溶液とし、凍結脱気を2回行った後、アンプルを密閉して100℃で48時間加熱した。その後、重合溶液を20倍質量のヘキサンに滴下し、撹拌して固体を析出させた。得られた固体を濾過により回収し、40℃で一晩真空乾燥して長鎖アルキル基含有樹脂(炭素数18のアルキル基を有するブロック共重合体(長鎖アルキル基含有樹脂(2))を得た。
【0116】
工程(III):得られた長鎖アルキル基含有樹脂(2)を以下の様に乳化し、水系樹脂エマルションとした。ホモミキサーに375質量部の水を入れ、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル45質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール30質量部、長鎖アルキル基含有樹脂(2)を200質量部、トルエン150質量部を順次加え、70℃に加熱して、均一に撹拌した。この混合液を加圧式ホモジナイザーに移して乳化を行った後、さらに加温下で減圧しトルエンを留去した。
【0117】
・離型剤(A-3):シリコーン含有樹脂
東亞合成株式会社製“サイマック”(登録商標) US-480(アクリル系骨格を有するシリコーン系グラフト共重合体、ヒドロキシル基、カルボキシル基含有)。
【0118】
・離型剤(A-4):フッ化炭素鎖含有樹脂
離型剤(A-2)のオクタデシルアクリレートの代わりに2-ペルフルオロヘキシルエチルアクリレート(2-ペルフルオロヘキシルエタノールを原料として公知の方法で合成し、単蒸留精製したもの。)を使用した以外は、離型剤(A-2)と同様の製法で合成し、フッ化炭素鎖含有樹脂を得た。
【0119】
<バインダー樹脂(B)>
・バインダー樹脂(B-1):アクリル樹脂(1)(ヒドロキシル基含有)
ステンレス反応容器に、メチルメタクリレート(α)、エチルアクリレート(β)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(γ)、アクリロニトリル(δ)を(α)/(β)/(γ)/(δ)=60/32/6/2の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(α)~(δ)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。60質量部の上記混合液1と、イソプロピルアルコール200質量部、及び重合開始剤として過硫酸カリウム5質量部を反応装置に仕込み、60℃に加熱して混合液2を調製した。混合液2は60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、40質量部の混合液1とイソプロピルアルコール50質量部、過硫酸カリウム5質量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、25%アンモニア水60重量部、及び純水900重量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール、及び未反応モノマーを回収し、純水に分散されたアクリル樹脂(1)を得た。
【0120】
・バインダー樹脂(B-2):アクリル樹脂(2)(ヒドロキシル基、カルボキシル基含有)
ステンレス反応容器に仕込む出発材料を、メチルメタクリレート(α)、エチルアクリレート(β)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(γ)、アクリロニトリル(δ)/アクリル酸(ε)を(α)/(β)/(γ)/(δ)/(ε)=55/32/6/2/5(質量比)の合計を100質量部とした以外はバインダー樹脂(B-1)と同様にして、アクリル樹脂(2)を得た。
【0121】
<反応性化合物(C)>
・反応性化合物(C-1):メラミン化合物(メチロール化メラミン)
(株)三和ケミカル製、“ニカラック”(登録商標)MW-035(固形分濃度70質量%、溶媒:水)を用いた。
【0122】
・反応性化合物(C-2):イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート)
第一工業製薬株式会社、“エラストロン”(登録商標) BN‐69(固形分濃度40質量%。水分散型)を用いた。
【0123】
・反応性化合物(C-3):カルボジイミド化合物
(株)日清紡ケミカル(株)製、“カルボジライト”(登録商標)V-04(固形分濃度40質量%、溶媒:水)を用いた。
【0124】
・反応性化合物(C-4):オキサゾリン化合物
(株)日本触媒製、“エポクロス”(登録商標)WS-500(固形分濃度40質量%、溶媒:水)を用いた。
【0125】
<触媒の準備>
・酸触媒:ドデシルベンゼンスルホン酸
楠本化成株式会社、“NACURE”(登録商標)5528(製造元:KING INDUSTRIES社、NACURE DDBSAシリーズ:ドデシルベンゼンスルホン酸触媒(ブロック酸触媒))を用いた。
【0126】
(実施例1)
・離型層形成用の樹脂組成物:
離型剤(A-1)、バインダー樹脂(B-1)、反応性化合物(C-1)を固形分質量比で(A-1)/(B-1)/(C-1)=30/40/40となるように混合した。次いで後述する塗布方式、目標厚みに合わせて水を添加し固形分濃度を調整した。更にポリエステルフィルムへの塗布性を向上するために、フッ素系界面活性剤(互応化学工業(株)製“プラスコート”RY-2)を、上記の混合した樹脂組成物全体100質量部に対して0.1質量部になるように添加した。
【0127】
・ポリエステルフィルム:
2種類の粒子(1次粒径0.3μmのシリカ粒子を4質量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2質量%)を含有したPETペレット(極限粘度0.64dl/g)を十分に真空乾燥した後、押出機に供給して280℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめることにより、未延伸フィルム(Aフィルム)を得た。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。
【0128】
・離型フィルム
一軸延伸フィルムに空気中でコロナ放電処理を施した後、上記離型層形成用の樹脂組成物の項に記載の方法で作製した樹脂組成物を、ワイヤーバーコートを用いて塗布厚み約6μmで塗布した。続いて、樹脂組成物を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向の両端部をクリップで把持してテンターに導き、雰囲気温度が90~100℃の予熱ゾーンで樹脂組成物の溶媒を乾燥させた。引き続き、連続的に100℃の延伸ゾーンで幅方向に3.6倍延伸し、続いて230℃の熱処理ゾーンで20秒間熱処理を施して離型層を形成せしめ、さらに同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施してポリエステルフィルムの結晶配向を完了させた。その後、スリッターで長手方向と平行にフィルムを切断することにより、クリップが把持していた幅方向の両端部(未塗布部分)を切断除去し、離型フィルムをロール状に巻き取った。得られた離型フィルムの特性等を表2、3に示す。
【0129】
(実施例2~7、比較例2~4、6)
樹脂組成物の組成を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表2、3に示す。
【0130】
(実施例8)
実施例2の樹脂組成物を使用し、以下の方法で離型フィルムを得た。基材として東レ株式会社製PETフィルム“ルミラー”(登録商標)T60(基材厚み50μm)を使用した。基材の上に樹脂組成物を、ワイヤーバーを用いて塗布した。次いで熱による変形を防ぐため、フィルムと同型のSUS板フィルムを配置し、四辺を隙間なくダブルクリップで把持した後、熱風オーブンにて230℃、2分間の条件で乾燥・硬化を実施して離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表2、3に示す。
【0131】
(実施例9、10)
ポリエステルフィルムの原料として、表1に示した割合のリサイクル原料を含むPETペレット(実施例9)、およびバイオマス原料(実施例10)を使用した以外は実施例3と同様の方法で、離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表2、3に示す。なお、ここでいうリサイクル原料は、実施例1~7におけるポリエステルフィルムの製膜工程にて除去された未塗布部分を細断したものであり、ポリエステルフィルムの製膜時には、これをバージン原料と混練して使用した。一方、バイオマス原料は、バイオマス度が15%であり、エチレングリコール単位の一部が植物由来であるPETである。
【0132】
(比較例1、5)
樹脂組成物の組成、熱風オーブンでの乾燥温度を表1の通りとした以外は実施例8と同様の方法で、離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表2、3に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の離型フィルムは、熱可塑性ポリウレタンに代表される被着体との離型性、及び剥離時の成分転写抑制性に優れ、各種塗装保護シート製造工程用の工程フィルム、特に自動車、航空機、船、スノーモービル、トラック、又は列車等の乗り物の塗装保護シート製造工程用の工程フィルムとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0137】
1 熱可塑性樹脂層
2 粘着層
3 表面コート層
4 塗装保護シート
5 離型フィルム(粘着層側)
6 離型層(粘着層側)
7 離型フィルム(表面コート層側)
8 離型層(表面コート層側)
図1