(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130302
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】センサ校正システム、センサ校正方法、探傷システム、物体の製造設備、物体の製造方法および物体の品質管理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20230912BHJP
B21C 37/06 20060101ALI20230912BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20230912BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01N27/90
B21C37/06 L
B21C51/00 P
B21B38/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008839
(22)【出願日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2022034032
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏原 悠太
(72)【発明者】
【氏名】西澤 佑司
【テーマコード(参考)】
2G053
4E028
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA12
2G053BA26
2G053BA30
2G053BB03
2G053BC14
2G053CA03
2G053CA17
2G053CC07
4E028BB01
4E028BB07
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、複数のセンサを同時に校正することができるセンサ校正システム、センサ校正方法、探傷システム、物体の製造設備、物体の製造方法および物体の品質管理方法を提供すること。
【解決手段】センサ校正システムは、複数のセンサを校正するためのセンサ校正システムであって、一つ以上の貫通きずを有し、センサで計測される物体とセンサに対し同等の物理的特性およびセンサまでの距離が同じである試験片と、試験片を、センサの近傍で物体の搬送方向と同じ方向に移動させる第一移動手段と、貫通きずに対するセンサの感度からセンサの校正を行う第一校正手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサを校正するためのセンサ校正システムであって、
一つ以上の貫通きずを有し、前記センサで計測される物体と前記センサに対し同等の物理的特性および前記センサまでの距離が同じである試験片と、
前記試験片を、前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させる第一移動手段と、
前記貫通きずに対する前記センサの感度から前記センサの校正を行う第一校正手段と、
を備えるセンサ校正システム。
【請求項2】
20dB以上減衰しない距離範囲に配置された複数のセンサを、一つの貫通きずによって校正する請求項1に記載のセンサ校正システム。
【請求項3】
前記複数のセンサは、断面略円形の物体を、前記物体の円周方向半分以下の角度範囲にわたり検査する請求項1に記載のセンサ校正システム。
【請求項4】
前記試験片は、一定の幅および深さを有する一つ以上のスリットきずを有し、
前記スリットきずに対する前記センサの感度から前記センサの校正を行う第二校正手段を備える、
請求項1に記載のセンサ校正システム。
【請求項5】
前記センサを、前記センサで計測される物体を製造する製造設備列から外部に移動させる第二移動手段を備え、
前記第一移動手段は、前記第二移動手段で前記センサが移動した後に、前記試験片を前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させる、
請求項1に記載のセンサ校正システム。
【請求項6】
前記第一移動手段および前記試験片を、外部から前記センサで計測される物体を製造する製造設備列に移動させる第二移動手段を備え、
前記第一移動手段は、前記第二移動手段で前記試験片が移動した後に、前記試験片を前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させる、
請求項1に記載のセンサ校正システム。
【請求項7】
前記第一校正手段は、予め取得しておいた、各センサと前記貫通きずとの距離に応じた感度特性に基づいて、前記センサの校正を行う、
請求項1に記載のセンサ校正システム。
【請求項8】
複数のセンサを校正するためのセンサ校正方法であって、
一つ以上の貫通きずを有し、前記センサで計測される物体と前記センサに対し同等の物理的特性および前記センサまでの距離が同じである試験片を用いて、
前記試験片を前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させる第一移動ステップと、
前記貫通きずに対する前記センサの感度から前記センサの校正を行う校正ステップと、
を含むセンサ校正方法。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセンサ校正システムを備える探傷システム。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセンサ校正システムを備える物体の製造設備。
【請求項11】
請求項8に記載のセンサ校正方法によって校正を行った複数のセンサによって、製造した物体の探傷を行う探傷ステップを含む、物体の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載のセンサ校正方法によって校正を行った複数のセンサによって、製造した物体の検査を行い、その計測結果から品質を管理する品質管理ステップを含む、物体の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ校正システム、センサ校正方法、探傷システム、物体の製造設備、物体の製造方法および物体の品質管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に製造設備列の品質保証または管理用センサは、定期的な校正によりその性能が担保されている。センサの校正システムを構築する場合、製造設備列やセンサの特性に応じて、可能な限り高精度かつ簡易な手法を選択することが望ましい。特に広く用いられている校正方法として、実製造材に人工貫通きずを施して製造設備列内に通材し、人工貫通きずに対するセンサ感度に基づいてセンサを校正する方法が挙げられる。この方法では、実際に製造している物体の探傷に最も近い条件で、かつ毎回同じ条件でセンサを校正することができる。そのため、精度が高く、かつ既存の製造設備のみで校正を実施できる非常に優れた校正方法である。
【0003】
一方、前記した手法では校正を行うことができないケースがある。例えば、製造設備列が連続材を対象としており、校正用の試験片を単体で通すことができない場合が該当する。その場合、製造設備列から外れたオフライン位置で校正を行う必要があり、従来からオフライン位置で校正を行う方法がいくつか提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、断面略円形の被探傷材用渦流探傷装置の校正方法が提案されている。この特許文献1では、複数配置された渦流探傷センサを、被探傷材に対して移動させることにより校正を行っている。
【0005】
また、特許文献2では、熱間棒線用渦流探傷装置の校正方法が提案されている。この特許文献2では、貫通型渦流探傷装置をオフライン位置に移動させ、オフライン位置に設置されている校正用の試験片をコイル内に通材させることにより校正を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-32352号公報
【特許文献2】特開平08-105862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、センサを被探傷材に対して移動させる必要がある。そのため、例えば複数のセンサが、例えばある一定の曲率をもって円周方向に配置されている場合、センサをオフライン位置に移動させた上で、被探傷材に沿って移動させるためには、複雑な構造を要してしまう。
【0008】
また、特許文献2では、熱間用の貫通式渦流探傷装置を校正することが可能であるが、例えば複数のセンサが円周方向に配置されているような渦流探傷装置の場合、一つの人工欠陥により、円周方向に離れたセンサを校正することは困難である。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、簡易な構成により、複数のセンサを同時に校正することができるセンサ校正システム、センサ校正方法、探傷システム、物体の製造設備、物体の製造方法および物体の品質管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るセンサ校正システムは、複数のセンサを校正するためのセンサ校正システムであって、
一つ以上の貫通きずを有し、前記センサで計測される物体と前記センサに対し同等の物理的特性および前記センサまでの距離が同じである試験片と、
前記試験片を、前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させる第一移動手段と、
前記貫通きずに対する前記センサの感度から前記センサの校正を行う第一校正手段と、
を備えるものである。
【0011】
(2)また、本発明に係るセンサ校正システムは、上記(1)のセンサ校正システムにおいて、
20dB以上減衰しない距離範囲に配置された複数のセンサを、一つの貫通きずによって校正するものである。
【0012】
(3)また、本発明に係るセンサ校正システムは、上記(1)または上記(2)のセンサ校正システムにおいて、
前記複数のセンサは、断面略円形の物体を、前記物体の円周方向半分以下の角度範囲にわたり検査するものである。
【0013】
(4)また、本発明に係るセンサ校正システムは、上記(1)から上記(3)のいずれか一項に記載のセンサ校正システムにおいて、
前記試験片は、一定の幅および深さを有する一つ以上のスリットきずを有し、
前記スリットきずに対する前記センサの感度から前記センサの校正を行う第二校正手段を備えるものである。
【0014】
(5)また、本発明に係るセンサ校正システムは、上記(1)から上記(4)のいずれか一項に記載のセンサ校正システムにおいて、
前記センサを、前記センサで計測される物体を製造する製造設備列から外部に移動させる第二移動手段を備え、
前記第一移動手段は、前記第二移動手段で前記センサが移動した後に、前記試験片を前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させる備えるものである。
【0015】
(6)また、本発明に係るセンサ校正システムは、上記(1)から上記(4)のいずれか一項に記載のセンサ校正システムにおいて、
前記第一移動手段および前記試験片を、外部から前記センサで計測される物体を製造する製造設備列に移動させる第二移動手段を備え、
前記第一移動手段は、前記第二移動手段で前記試験片が移動した後に、前記試験片を前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させるものである。
【0016】
(7)また、本発明に係るセンサ校正システムは、上記(1)から上記(6)のいずれか一項に記載のセンサ校正システムにおいて、
前記第一校正手段は、予め取得しておいた、各センサと前記貫通きずとの距離に応じた感度特性に基づいて、前記センサの校正を行うものである。
【0017】
(8)本発明に係るセンサ校正方法は、複数のセンサを校正するためのセンサ校正方法であって、
一つ以上の貫通きずを有し、前記センサで計測される物体と前記センサに対し同等の物理的特性および前記センサまでの距離が同じである試験片を用いて、
前記試験片を前記センサの近傍で前記物体の搬送方向と同じ方向に移動させる第一移動ステップと、
前記貫通きずに対する前記センサの感度から前記センサの校正を行う校正ステップと、
を含むものである。
【0018】
(9)本発明に係る探傷システムは、上記(1)から上記(7)のいずれか一項に記載のセンサ校正システムを備えるものである。
【0019】
(10)本発明に係る物体の製造設備は、上記(1)から上記(7)のいずれか一項に記載のセンサ校正システムを備えるものである。
【0020】
(11)本発明に係る物体の製造方法は、上記(8)に記載のセンサ校正方法によって校正を行った複数のセンサによって、製造した物体の探傷を行う探傷ステップを含むものである。
【0021】
(12)本発明に係る物体の品質管理方法は、上記(8)に記載のセンサ校正方法によって校正を行った複数のセンサによって、製造した物体の検査を行い、その計測結果から品質を管理する品質管理ステップを含むものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡易な構成により、インラインで校正することが困難な複数のセンサ全てを同時に校正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムと、当該センサ校正システムが適用される製造設備列の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、センサを移動させる搬送機の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、搬送機およびセンサを移動させる搬送機の一例を示す図であって、搬送機およびセンサを移動させる前の状態を示す正面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、搬送機およびセンサを移動させる搬送機の一例を示す図であって、搬送機およびセンサを移動させる前の状態を示す側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、搬送機およびセンサを移動させる搬送機の一例を示す図であって、搬送機およびセンサを移動させた後の状態を示す正面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、搬送機およびセンサを移動させる搬送機の一例を示す図であって、搬送機およびセンサを移動させた後の状態を示す側面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片を用いた校正について説明するための図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片の貫通きずと複数のセンサとの位置関係の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片の貫通きずと各センサとの距離に応じた感度特性の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片の貫通きずとセンサとの距離に応じた感度特性の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片の貫通きずと複数のセンサとの位置関係の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片の貫通きずとセンサとの距離に応じた感度特性の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムにおいて、試験片における複数の貫通きずの配置の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態に係るセンサ校正システムが実行するセンサ校正方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に係るセンサ校正システム、センサ校正方法、探傷システム、物体の製造設備、物体の製造方法および物体の品質管理方法について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(製造設備列における探傷システム)
本実施形態に係るセンサ校正システムが適用される製造設備列について、
図1を参照しながら説明する。同図では、センサ校正システムが適用される製造設備列の一例として、鍛接鋼管製造設備列を示している。同図に示した構成のうち、符号5,6,40で示されている設備が探傷システムであり、当該探傷システム内にセンサ校正システムが内包される。
【0026】
信号処理装置5は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータ、あるいはPLC等のシーケンサーによって実現される。信号処理装置5は、処理プログラム等を記憶した格納部(例えばメモリやハードディスクドライブ等)および処理プログラムを実行する処理部(例えばCPU等)を用いて、センサ1によって検出された信号の処理を行う。また、信号処理装置5は、後記するセンサ校正システムの処理と制御も行う。
【0027】
なお、本実施形態では、信号処理装置5が第一校正手段および第二校正手段に該当する。このように本実施形態では、貫通きずにより校正を行う第一校正手段と、スリットきずにより校正を行う第二校正手段とが、同一装置である信号処理装置5に該当する。しかし、本発明はこれに限定されない。第一校正手段と第二校正手段とが、別々の装置であってもよい。
【0028】
表示装置6は、例えばLCDディスプレイ、CRTディスプレイ等によって実現され、信号処理装置5による信号処理結果(工程材(例えば鋼管W2)および試験片3の探傷結果)を表示する。
【0029】
(センサ校正システム)
本実施形態に係るセンサ校正システムについて、
図2~
図8を参照しながら説明する。本実施形態に係るセンサ校正システムは、複数のセンサ1を校正するためのシステムである。また、本実施形態に係るセンサ校正システムは、例えば渦流探傷システムをはじめとする、物体までの距離に応じてセンサの感度が変化するタイプの探傷システムに対して、幅広く適用可能である。
【0030】
本実施形態に係るセンサ校正システムは、センサ1と、搬送機(第二移動手段)2と、試験片3と、搬送機(第一移動手段)4と、を備えている。なお、センサ1、搬送機2、試験片3および搬送機4をまとめて「設備群40」と呼称する。
【0031】
センサ1は、搬送機2によって搬送される架台21に取り付けられている。また、センサ1は、例えば
図2に示すように、工程材の軸方向に沿って複数配置されている。また、各センサ1は、工程材および試験片3の円周方向において、一定角度ずつずらして配置されている。また、各センサ1は、例えば同図に示した工程材のような断面略円形の物体を、当該物体の円周方向半分以下の角度範囲にわたり検査する。
【0032】
搬送機2は、例えばサーボモータ等でセンサ1の位置を、製造設備列内の位置(すなわちインライン位置)と製造設備列外の位置(すなわちオフライン位置)との間で移動させるための機構である。すなわち、搬送機2は、センサ1を製造設備列から外部、および外部から製造設備列内へと移動させる移動手段として機能する。
【0033】
搬送機2によるセンサ1の移動距離は、製造のための操業の妨げとならないように十分な距離を確保する。また、搬送機2は、センサ1の位置を正確に検出する図示しないセンサを備えており、異物の噛みこみ等によって生じ得る位置ずれを防止、または補正する。
【0034】
なお、
図2では、センサ1が架台21に固定されており、搬送機2によって、インライン位置とオフライン位置との間を架台21ごと移動させる例を示している。しかし、架台21は必要不可欠なものではなく、センサ1が移動できる機構であればよい。また、
図2では、センサ1を移動させる搬送機2を用いる例を示しているが、例えば
図3~
図6に示すように、搬送機4および試験片3を移動させる搬送機2Aを用いてもよい。
【0035】
図3および
図4は、センサ1、搬送機2A、試験片3および搬送機4を含む設備群40Aにおいて、搬送機4および試験片3をインライン位置に移動させる前の状態を示す正面図および側面図である。また、
図5および
図6は、設備群40Aにおいて、搬送機4および試験片3をインライン位置に移動させた後の状態を示す正面図および側面図である。
【0036】
搬送機2Aは、搬送機4および試験片3を、外部から、センサ1で計測される物体を製造する製造設備列に移動させる。そして、搬送機4は、搬送機2Aで試験片3が製造設備列に移動した後に、当該試験片3をセンサ1の近傍で物体の搬送方向と同じ方向に移動させる。
図2の残りの構成について説明を続ける。
【0037】
搬送機4は、例えばサーボモータ等で試験片3を移動させるための機構である。この搬送機4は、試験片3をセンサ1上の近傍で、複数のセンサ1に計測される物体の搬送方向と同じ方向に移動させる移動手段として機能する。より詳細には、搬送機4は、搬送機2によってセンサ1が製造設備列から外部へと移動した後に、試験片3をセンサ1上の近傍で、複数のセンサ1に計測される物体の搬送方法と同じ方向に移動させる。言い換えると、搬送機4は、試験片3を
図4の紙面に対して手前から奥に移動させる。
【0038】
搬送機4による試験片3の移動範囲は、複数配置されているセンサ1全てに対し、試験片3の両端が通過できる程度に設定する。搬送機4は、搬送機2と同様に、試験片3の位置を正確に検出する図示しないセンサを備えている。また、搬送機4は、試験片3が搬送機4の端部に位置していない場合に、搬送機2が動かないようにするインターロックを備えることが好ましい。
【0039】
図2~
図6の例では、計測対象の物体に対してセンサ1が特定の方向に配置されていることが望ましい。また、いずれの例においても、計測対象の物体に対してセンサ1が全周に配置されている場合、搬送機4がセンサ1と干渉しないよう、前後いずれかの方向から試験片3を挿入するような構造が必要となり、設置スペースの増大等の制約が大きくなる。一方、例えば
図3~
図6のように、計測対象の物体に対してセンサ1が下方向(鉛直真下から±90度以内)に配置されている場合、搬送機2Aによって、試験片3および搬送機4を直接センサ1の直上に移動させることができるため、設置スペースが増大しない。なお、
図3~
図6では、計測対象の物体に対してセンサ1が下方向(鉛直真下から±90度以内)に配置されているが、それとは反対に、計測対象の物体に対してセンサ1が上方向(鉛直真上から±90度以内)に配置されていてもよい。この場合、試験片3および搬送機4をセンサ1の真下に移動させる搬送機を用いればよい。
【0040】
試験片3は、実際に製造され、センサ1で計測される対象となっている物体(以降は工程材と呼ぶ)になるべく近い形状や、種類(素材)のものを使用することが好ましい。例えば工程材が円筒状である場合、試験片3は、同じ径の円筒状であることが好ましい。またその際、円筒の厚みは同じであってもよく、異なっていてもよい。また、試験片3とセンサ1までの距離は、製造設備列で製造される工程材からセンサ1までの距離と、同じ距離となるように搬送機4に配されている。
【0041】
図7および
図8は、各センサ1の配置と、試験片3の2種類の人工欠陥の配置の一例を示している。ここで、2種類の人工欠陥は、貫通きず31とスリットきず32の各1種類ずつである。更に、試験片3は、センサ1と対向する面に一つ以上の貫通きず31と、前記センサ1と対向する面に一つ以上のスリットきず32とを有している。
【0042】
貫通きず31は、例えば円形状に形成されている。また、試験片3における貫通きず31の個数は、全てのセンサ1がいずれかの貫通きず31を計測可能な個数とすることが好ましい。スリットきず32は、例えば試験片3の円周方向に形成されたスリット状のきずであり、一定の幅および深さを有している。本実施形態では、後記するように、この貫通きず31およびスリットきず32に対する、センサ1の感度からセンサ1の校正を行う。
【0043】
図8に示すように、ここではセンサ1は、試験片3の搬送方向に三台設置されている。また、それぞれのセンサ1は、試験片3の搬送方向から見て、ある一定の曲率をもって、円周方向に所定の角度θずつ離して設置されている。
【0044】
人工欠陥の配置について、貫通きず31は全てのセンサ1の探傷範囲内に最低一つ以上配置するようにし、スリットきず32は必要に応じて配置する。例えば、後述する
図9のように、三つのセンサ1で円周方向に角度2θの範囲が探傷可能であるとする。この場合、貫通きず31は、中央に位置するセンサ1に合わせて一つ施すことが最も好ましい。試験片3に形成する貫通きず31の個数が少ない程、当該試験片3を短く設計することができるため、試験片3の取り回しが向上する。
【0045】
試験片3を用いた校正の考え方について、
図9~
図11を参照しながら説明する。試験片3の形状や各センサ1の配置は、
図7および
図8と同様とする。
【0046】
第一校正手段である信号処理装置5は、予め取得しておいた、各センサ1と貫通きず31との距離に応じた感度特性に基づいて、センサ1の校正を行う。より具体的には、試験片3がセンサ1上を通過した際に、各センサ1は、貫通きず31およびスリットきず32の探傷信号を出力する。センサ1から出力される探傷波形は、一般に各センサ1の位置ときずとの距離に応じて変化する。そこで、事前に各センサ1ときずとの距離に応じた感度特性(本実施形態の例では、円周上の角度差によってセンサおよびきず間の距離が決まるため、以下「角度特性」と表記する)を予め取得しておく。そして、このように予め取得しておいた角度特性に応じて、貫通きず31の探傷信号の大きさを信号処理装置5により補正することにより、円周方向に配置された複数のセンサ1を適切に校正することが可能となる。
【0047】
(貫通きずを用いた校正)
貫通きず31を用いたセンサ1の校正方法について、具体的に説明する。三台のセンサ1は、順にch1,ch2,ch3と表記する。
図9の場合、三つのセンサ1で円周方向に角度2θの範囲が探傷可能となる。角度θは、各センサ1の向きを、円筒の場合の試験片3の中心軸に対する角度で示したものである。中央に位置する一つのセンサ1(ch2)を基準(角度0)とし、もう一つのセンサ1(ch1)が時計回りに角度θだけ傾斜し、残り一つのセンサ1(ch3)が反時計回りに角度θだけ傾斜している(
図9参照)。また、試験片3には、貫通きず31が一つ、スリットきず32が一つ施されており、対称性を鑑みて、貫通きず31はch2直上にあるものとする(
図8参照)。そのため、角度θは、貫通きず31との角度ずれに相当する。
【0048】
まず、適切な計測条件の下で、事前に貫通きず31に対するセンサ1の角度特性を取得しておく。そうして得られるのが、
図11に示すような、貫通きず31に対するセンサ1の角度特性f(θ)である。予め得られた角度特性f(θ)は、信号処理装置5内の格納部に予め格納される。次に、校正のためにセンサ1により試験片3を探傷した際に得られる探傷信号の一例を、
図10とする。
【0049】
このとき、三つのセンサ1を校正、すなわち各センサ1の感度を一定に揃えるためには、信号処理装置5が各センサ1から得られた探傷信号を「1/f(θ)」倍に補正した上で、各センサ1の感度が同一となるように出力の倍率(以下、ゲイン)を調整すればよい。すなわち、ch2のセンサ1による探傷信号強度を「1/f(0)」倍し、ch1,ch3のセンサ1による探傷信号強度を「1/f(θ)」倍することにより、貫通きず31に対する各センサ1の感度を補正することができる。f(θ)による補正後、センサ1の貫通きず31に対する感度が一定となるよう、センサ1のゲインを適切に調整することで、センサ1の校正が完了する。
【0050】
本発明の特徴の一つが、センサ1の個数に対して試験片3上のきずの数を少なくできることである。例えば試験片を回転させられるような複雑な機構を搭載しない限り、一般にはセンサと同数のきずを試験片に施す必要がある。すなわち、三つのセンサを用いる場合は、試験片にも三つのきずを施す必要がある。
【0051】
例えば渦流探傷法によって、直径100mmの物体を円周方向に±20度の範囲で探傷する場合、一つのセンサは40mm程度の探傷範囲を有している。このとき、複数のきずからの探傷信号を同時に計測して干渉することがないように、校正に使用する試験片のきずの間隔は100mmとすることが望ましい。また、管端の不感帯を避けるため、きずから管端までの距離は150mm程度離すことが望ましい。そのため、「貫通きず:一つ、スリットきず:一つ」の試験片の長さは、400mmとなる。
【0052】
ここで、センサの数だけきずを用意する場合、センサが増えるごとに試験片の長さが100mずつ長くなってしまうため、多数のセンサを有する系では、試験片の取り回しが著しく悪化する。しかし、本発明では、一つの貫通きず31のみで、複数のセンサ1を校正することができる。従って、比較的短い試験片3を一軸搬送することにより、複数のセンサ1を同時に校正することが可能となる。
【0053】
(スリットきずを用いた校正)
スリットきず32を用いたセンサ1の校正方法について、具体的に説明する。スリットきず32は、
図7および
図8に示すように、円周方向に一様なきずである。そのため、各センサ1の探傷条件(例えば試験片3との距離等)が同じであれば、各センサ1からの出力も同じとなる。従って、スリットきず32によって各センサ1を校正する場合、信号処理装置5により、各センサ1の出力信号が同水準となるようゲインを調整すればよい。
【0054】
これまでの説明では、試験片3の貫通きず31が一つ、かつ複数のセンサ1が、試験片3の円周方向に離れて配置されているケースについて説明したが、例えば以下のようなケース(1)、(2)においても適用可能である。
【0055】
(1)貫通きず31が複数ある場合
センサ1の数が多く、センサ1間の距離が離れているような場合、一つの貫通きず31では全てのセンサ1をカバーできないことが想定される。例えば、複数のセンサ1が試験片3の搬送機4により搬送される方向とは異なる方向において、各センサ1間の距離が離れている場合である。
図9の場合は、円筒状の試験片3の周方向における角度θが大きくなる場合である。この場合、試験片3の周方向に、全てのセンサ1をカバーできる程度の個数の貫通きず31を施す。そして、この貫通きず31をセンサ1によって探傷し、予め取得しておいた、各センサ1と各貫通きず31との距離に応じた角度特性に基づいて、信号処理装置5が感度を補正する。これにより、複数のセンサ1を同時に校正することができる。
【0056】
続いて、センサ1によって、計測対象の物体の鉛直真下±90度の範囲を検査する場合を考える。
図12は、試験片3の円周方向の下半分に、9個のセンサ1を20度間隔で配置した例を示している。同図に示したセンサ1としては、探傷範囲が20度となるものを選定する。すなわちセンサ1は、例えば
図13に示すように、貫通きず31に対して、円周方向に距離が離れるほど感度が小さくなり、±20度の範囲では有意な感度を有しているが、±30度以上では感度を担保できない(-20dB以下)ように設計されている。そのため、
図12に示すように、試験片3の鉛直真下0度を中心として、20度おきに±80度まで、センサ1を等間隔に配置する。このようにセンサ1を配置することにより、試験片3の鉛直真下±90度の範囲を十分な感度で検査することができる。
【0057】
また、センサ1を
図12のように配置した場合、試験片3の貫通きず31およびスリットきず32を、例えば
図14に示すように設ける。例えば第一の貫通きず31は、試験片3の管端から長手方向に150mm離れた、鉛直真下の位置に設ける。また、第二の貫通きず31は、第一の貫通きず31から更に長手方向に100mm離れた、鉛直真下から+60度の位置に設ける。また、第三の貫通きず31は、第一の貫通きず31から更に長手方向に100mm離れた、鉛直真下から-60度の位置に設ける。また、スリットきず32は、第二および第三の貫通きず31から更に長手方向に100mm離れた位置に設ける。
【0058】
このとき、上記の校正方法により、0度の位置の第一の貫通きず31によって、0度および±20度の位置にあるセンサ1を校正することが可能である。また、+60度の位置の第二の貫通きず31によって、+40度、+60度、+80度の位置にあるセンサ1を校正することが可能である。また、-60度の位置の第二の貫通きず31によって、-40度、-60度、-80度の位置にあるセンサ1を校正することが可能である。
【0059】
ここで、
図14において貫通きず31を長手方向の同一の位置に三つ並べなかったのは、40度離れたセンサ1による僅かな干渉を防ぐためである。例えば20度の位置にあるセンサ1は、0度の位置にある貫通きず31によって校正するが、60度の位置にある貫通きず31からの信号が僅かに含まれる可能性がある。一方、貫通きず31を120度離して配置した場合、校正対象外のきずは100度以上離れ、完全に検査範囲外となる。従って、上記のような構成により、500mmの長さの試験片3の±90度の範囲を探傷可能な複数のセンサ1を、貫通きず31によって校正することが可能となる。なお、ここでは三つの貫通きず31によって9個のセンサ1を校正する場合の例を説明したが、より感度の高いセンサ1を用いる場合は、より少ない数の貫通きず31によって9個のセンサ1を校正することも可能である。
【0060】
このように、本実施形態では、各センサ1と貫通きず31との円周方向の距離に応じた感度特性に基づいて、各センサ1の校正を行う。その際、例えば
図13に示すように、貫通きず31に対するセンサ1の位置が±30度以上離れていると、探傷信号が20dB以上減衰し、感度を担保することができない。そこで、信号処理装置5では、探傷信号が20dB以上減衰しない距離範囲に配置された複数のセンサ1を、一つの貫通きず31によって校正する。
【0061】
また、
図14のように試験片3に複数の貫通きず31を設ける場合、貫通きず31同士の円周方向における間隔を、60度以上離すことが好ましく、100度以上離すことがより好ましい。
【0062】
(2)センサ1の幾何的配置が異なる場合
この場合、全てのセンサ1がいずれかの貫通きず31を探傷できるように配置し、適切な最低限の個数の貫通きず31を試験片3に施す。そして、このような試験片3は、計測する物体の搬送方向と同じ方向に、搬送機4によって搬送される。そして得られた各センサ1の出力と、予め取得しておいた、各センサ1と貫通きず31との距離に応じた角度特性とに基づいて、信号処理装置5が感度を補正する。これにより、複数のセンサ1を同時に校正することができる。
【0063】
ここで、試験片3に形成する人工欠陥の種類として、貫通きず31およびスリットきず32の二種類を用いるのは、各センサ1の配置に歪み等が生じていないかを確認するためである。原理上、センサ1の感度は、貫通きず31またはスリットきず32のどちらか一方のみにより校正可能である。一方、貫通きず31およびスリットきず32の両方を校正に採用した場合、二つの結果を照らし合わせることで角度特性が合理的か否かを判定することができる。すなわち、貫通きず31の探傷結果から本来想定されるスリットきず32の探傷感度に矛盾が生じた場合、センサ1の位置にずれが生じていることが示唆される。この場合、設備の異常判定を迅速に下すことができ、設備のメンテナンスを実施することができる。
【0064】
(センサ校正方法)
続いて、本実施形態に係るセンサ校正システムが実行するセンサ校正方法の流れについて、
図15を参照しながら説明する。まず、試験片3を移動させる(ステップS1)。ステップS1では、例えば
図2に示すように、校正開始時にインライン位置にあるセンサ1を、信号処理装置5が搬送機2によってオフライン位置に移動させる。また、ステップS1では、例えば
図3~
図6に示すように、校正開始時にオフライン位置にある搬送機4およびセンサ1を、信号処理装置5が搬送機2Aによってオフライン位置に移動させてもよい。
【0065】
続いて、信号処理装置5が、搬送機4により、複数のセンサ1が計測する物体の搬送方向と同じ方向に、貫通きず31が全センサ1上の近傍を通過するように移動させる。そして、信号処理装置5は、センサ1ごとに貫通きず31を探傷する(ステップS2)。ステップS2では、まず各センサ1の貫通きず31の探傷信号と、予め事前調査によって取得した貫通きず31に対する角度特性f(θ)に基づいて、信号処理装置5が各センサ1の感度を校正する。前記した通り、貫通きず31から角度θ離れたセンサ1について、感度を「1/f(θ)」倍することにより、各センサ1の感度を同一の基準で補正することができる。その上で、信号処理装置5が各センサ1のゲインを調整し、各センサ1の出力信号強度が同水準となるようにする。
【0066】
続いて、信号処理装置5が、搬送機4により、複数のセンサ1が計測する物体の搬送方向と同じ方向に、スリットきず32が全センサ1上の近傍を通過するように移動させる。そして、信号処理装置5は、センサ1ごとにスリットきず32を探傷する(ステップS3)。続いて、各センサ1の探傷信号強度が等しいか否かを信号処理装置5が判定する(ステップS4)。ステップS4では、スリットきず32の探傷信号を用いて、各センサ1の感度を校正する。
【0067】
各センサ1は、貫通きず31の探傷によって感度を一度揃えている。そのため、各センサ1の探傷信号強度(各センサ1のスリットきず32に対する感度)は、通常は全て等しくなっている。ステップS4において、各センサ1の探傷信号強度が信号処理装置5により等しいと判定された場合(ステップS4でYes)、校正完了とし、操業を開始する(ステップS5)。なお、ステップS1で搬送機2(
図2参照)を用いた場合、ステップS5では、センサ1が配置された架台21を、信号処理装置5が搬送機2によってインライン位置に移動させ、操業を開始する。また、ステップS1で搬送機2A(
図3~
図6参照)を用いた場合、ステップS5では、搬送機4および試験片3を、信号処理装置5が搬送機2Aによってオフライン位置に移動させ、操業を開始する。
【0068】
一方、ステップS4において、各センサ1の探傷信号強度が信号処理装置5により等しくないと判定された場合(ステップS4でNo)、各センサ1の配置(向きの角度、位置等)や試験片3等に不備が生じていると判断できる。この場合、設備のメンテナンスを実施し(ステップS6)、ステップS1に戻る。
【0069】
なお、ステップS4において、各センサ1のスリットきず32に対する感度が等しいか否かの判定は、例えば複数のセンサ1のうち、最も高感度なセンサ1の探傷信号強度と最も低感度なセンサ1の探傷信号強度とを比較し、予め定めておいた基準以上の乖離があれば感度が等しくない、と判定することができる。この判定基準は、ケースに応じて決定すればよい。
【0070】
なお、貫通きず31とスリットきず32との探傷順序を入れ替えてもよい。すなわち、信号処理装置5がステップS2において、スリットきず32の探傷および校正を実施し、ステップS3において、貫通きず31の探傷を実施する。このとき、ステップS2におけるスリットきず32による校正の方法は、前記段落0053で説明した通りである。次に、ステップS3において貫通きず31を探傷した際に、信号処理装置5が、前記と同様に、各センサ1の貫通きず31に対する感度を、f(θ)を用いて補正する。そして、信号処理装置5がステップS4において、補正後の貫通きず31に対する感度が一致しているか否かにより、ステップS5かステップS6のどちらに進むかを決定する。このようにして、貫通きず31とスリットきず32との探傷順序を入れ替えた場合においても、同等の校正を実施することができる。
【0071】
なお、スリットきず32の探傷(
図15のステップS3)を省略し、貫通きず31のみで校正を実施してもよい。すなわち、信号処理装置5は、貫通きず31の探傷信号に対して角度特性f(θ)による補正を行う。次に、信号処理装置5は、各センサ1の感度が等しいか否かを判定する。
【0072】
図15に示したセンサ校正方法は、信号処理装置5によってオペレータがその都度指示を出して行われてもよい。一方で、信号処理装置5によって可能な範囲において自動で行われることが最も好ましい。すなわち、信号処理装置5がセンサ1、搬送機2および搬送機4と通信しており、オペレータが信号処理装置5上で校正開始の操作をしたとき、以下の一連の処理を自動で行うように設計することが好ましい。
【0073】
(1)信号処理装置5から搬送機2,4に移動の指示を出力する。
(2)信号処理装置5が、事前にインプットされた角度特性f(θ)に基づいて、センサ1の貫通きず31に対する探傷信号を補正し、その上で感度が揃うようにゲインを調整する。
(3)信号処理装置5が、スリットきず32に対する各センサ1の探傷信号強度が等しいか否かを判定する。
(4)探傷信号強度が等しい場合、信号処理装置5が、搬送機2にインライン位置への移動指示を出力し、操業を開始する。探傷信号強度が等しくない場合、信号処理装置5が、表示装置6にエラー判定を表示させる。
【0074】
なお、
図15に示したセンサ校正方法や信号処理装置5による前記した一連の処理は、搬送機2,4の制御、センサ1の感度調整を信号処理装置5による自動処理ではなく、手動で個別に実施するように、適宜変更してもよい。
【0075】
また、本実施形態では、
図7および
図8に示すように、試験片3が円筒状である場合の例を説明しているが、異なる形状であっても、貫通きず31およびスリットきず32に対応する人工欠陥を施すことにより、同様の校正システムを組むことが可能である。
【0076】
貫通きず31は、スポット状の欠陥を再現するための人工欠陥であるため、例えば円柱状の試験片3である場合、一定深さのドリル孔を施せばよい。また、スリットきず32は、一定深さおよび一定幅で全てのセンサ1の探傷範囲に入ればよいため、例えば平面状の試験片である場合、搬送方向に垂直で平面全体を横切るようなスリット状欠陥を施せばよい。
【0077】
(鋼管製造設備列)
本実施形態に係るセンサ校正システムが適用される探傷装置(探傷システム)および鋼管製造設備について、
図1を参照しながら説明する。なお、探傷装置は渦流探傷装置、探傷システムは渦流探傷システムとして説明する。渦流探傷装置は、同図に示すような鍛接鋼管(以下、単に「鋼管」という)の製造設備(鋼管製造設備列)に適用される。この鋼管の製造設備は、加熱炉7と、鍛接機8と、渦流探傷装置と、絞り圧延機9,10と、切断機11と、を備えている。
【0078】
なお、本実施形態では、渦流探傷装置を鋼管の製造設備(鋼管製造設備列)に適用した例について説明する。また、本実施形態では、計測検査対象物が鋼管であり、またセンサ1が渦流探傷センサである場合の例について説明するが、計測検査対象物は、渦流探傷を実施可能な導電体からなる物質であればよく、またセンサ1は、原理上電磁気を利用したセンサであればよい。
【0079】
加熱炉7は、鋼帯(スリットコイル)W1を所定の温度(例えば1200℃)まで加熱する。また、鍛接機8は、鋼帯W1を管状に形成し、その端部を鍛接によって接合する(以下、接合部を「シーム部」と呼ぶ)。鍛接機8により接合された直後の鋼管をW2とする。また、渦流探傷装置は、計測検査対象物である鋼管W2のシーム部を検査する。また、絞り圧延機9,10は、鋼管W2を所定の径に縮径するために圧延する。そして、切断機11は、圧延後の縮径された鋼管W3を所定の長さに切断する。なお、
図1では図示を省略したが、切断機11の後段には、例えば切断後の鋼管を冷却、矯正する設備等が配置される。
【0080】
渦流探傷装置は、鋼管W2の製造設備において、鍛接機8の後段かつ切断機11の前段の範囲に設置されている。渦流探傷装置は、より詳細には、鋼管W2の搬送方向(鋼管W2の軸方向)において、鍛接機8と切断機11との間に設置されている。この渦流探傷装置は、センサ1(複数個)と、センサ1をオフライン位置およびオンライン位置間で移動させるための搬送機2と、センサ1を校正するための試験片3と、オフライン位置で試験片3を移動させるための搬送機4と、信号処理装置5と、表示装置6と、を備えている。なお、搬送機2に代えて、搬送機4およびセンサ1をオフライン位置およびオンライン位置間で移動させる搬送機2A(
図3~
図6参照)を用いてもよい。それぞれの機能は、前記した通りである。
【0081】
渦流探傷装置による渦流探傷は、検査対象物に対してセンサ1のコイルを接近させて当該コイルを励磁し、検査対象物に渦電流を誘起させて、渦電流の分布および変化をコイルによって検出するものである。渦流探傷では、測定範囲にきずや割れ等(以下、「きず等」という)がある場合、欠陥がない部分と比較して渦電流の分布が変化するため、その探傷信号の変化やコイルインピーダンスの変化に基づいて欠陥を検出する。
【0082】
また、渦流探傷装置では、熱間、すなわち鋼管W2の温度が変態点(キュリー点)以上である状態において、センサ1を用いて、鋼管W2のシーム部の渦流探傷を行う。鋼管W2が変態点以上である場合、鋼材は磁性を失うため、鋼管W2のシーム部の内面側を含めて高感度に探傷を行うことが可能となる。
【0083】
なお、操業中における鋼管W2のシーム部の位置は、当該鋼管W2のねじれ等によって多少変動する場合もある。この場合、シーム部を追従するために、プローブ移動機構を設けることも考えられるが、シーム部の検出・追従技術が必要となるため、システム構成が煩雑となる。一方で、プローブを鋼管W2の円周方向に複数個設置すれば、シーム追従機構なしにシーム部の全長検査が可能となる。
【0084】
渦流探傷装置では、センサ1の校正にあたり、製造設備列の設計上、試験片3をライン内に通材することができない。そのため、センサ1をオフライン位置に移動させて校正を実施するか(
図2参照)、あるいは試験片3をオンライン位置のセンサ1上に移動させて構成を実施する(
図3~
図6参照)必要がある。また、シーム部の追従のために、センサ1を鋼管の円周方向に複数配置しており、全てのセンサ1を同一の基準で校正する必要がある。そのために、本実施形態に係るセンサ校正システムを導入し、簡易な構成により、全てのセンサ1を校正することが可能となる。
【0085】
試験片3は、センサ1で計測される物体と同等の物理的特性を有することが好ましいが、渦流探傷装置は熱間の鋼管を対象としており、全く同じ物理的特性の試験片3を用意することは現実的ではない。このような場合、冷間で熱間鋼管と性質が近い材料、すなわちSUS管を試験片3として用いることが好ましい。SUS管は、冷間での電気特性が熱間の鋼管に近く、また非磁性という点で熱間鋼管と磁気特性が同じである。渦流探傷法は、材料の磁性の影響を強く受けるため、工程材および試験片3の磁気特性は揃えるべきである。
【0086】
本実施形態に係るセンサ校正システムでは、鋼管製造設備において操業前および操業後に校正を実施することが好ましい。校正開始は手動で指示してもよいが、鋼管製造設備全体を制御するPLC等と信号処理装置5とを接続することにより、操業開始および操業終了信号をPLCから信号処理装置5に受け渡す。そして、前記した信号をトリガーとして校正を開始することで、人手を介さずに全自動で校正を実施することも可能である。
【0087】
本実施形態に係るセンサ校正システムでは、以上の仕組みにより、渦流探傷装置の性能を保証し、渦流探傷装置により鋼管シーム部の品質を管理し続けることができる。また、本実施形態に係るセンサ校正システムによれば、簡易な構成により、インラインで校正することが困難な複数のセンサ全てを同時に校正することができる。
【0088】
また、本実施形態に係るセンサ校正システムは、当該センサ校正システムを備えた物体(例えば鋼管等)の製造設備として実施することも可能である。また、本実施形態に係るセンサ校正方法は、当該センサ校正方法によって校正を行った複数のセンサ1によって、製造した物体の探傷を行う探傷ステップを含む、物体の製造方法として実施することも可能である。また、本実施形態に係るセンサ校正方法は、当該センサ校正方法によって校正を行った複数のセンサ1によって、製造した物体の検査を行い、その計測結果から品質を管理する品質管理ステップを含む、物体の品質管理方法として実施することも可能である。
【0089】
以上、本発明に係るセンサ校正システム、センサ校正方法、探傷システム、物体の製造設備、物体の製造方法および物体の品質管理方法について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1 センサ
2,2A,4 搬送機
3 試験片
31 貫通きず
32 スリットきず
5 信号処理装置
6 表示装置
7 加熱炉
8 鍛接機
9,10 絞り圧延機
11 切断機
40,40A 設備群
W1 鋼帯
W2,W3 鋼管