(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130368
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】動物の橈尺骨骨折治療用ギプス及びその製作方法並びに動物の橈尺骨骨折の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/60 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
A61B17/60
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100657
(22)【出願日】2023-06-20
(62)【分割の表示】P 2020168753の分割
【原出願日】2020-09-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年1月26日 日本獣医再生医療学会 第15回「犬の橈尺骨骨折のピンニング手術後の骨吸収が3DギプスとPRP療法で回復した症例」石嶋茂夫 いしじま動物病院 2019年9月28日 日本臨床獣医学フォーラム年次大会第21回「3Dギプスによる犬の橈尺骨骨折の治療」石嶋茂夫 いしじま動物病院 2020年2月22日 日本獣医内科学アカデミー学術大会第16回「3Dギプスを用いた橈尺骨骨折の非観血的治療」唐津健輔 いしじま動物病院
(71)【出願人】
【識別番号】520387818
【氏名又は名称】有限会社クリオベッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100166132
【弁理士】
【氏名又は名称】木船 英雄
(72)【発明者】
【氏名】石嶋 茂夫
(57)【要約】 (修正有)
【課題】動物の骨折を3Dギプスで治癒させる。
【解決手段】患肢の骨折を、せん断方向と横方向と捻り方向は安定的に制御しながら垂直方向のみに負荷がかかる構造の3Dギプスを作成する。石膏で作った足型を基に3Dギプスを作成することで患肢に完全にフィットする。また、筒状の構造にすることで、せん断方向と横方向と捻り方向の骨折のズレを制御できる。また、足先を開放して歩行することで骨折に垂直の負荷が加わり間接的骨癒合が促される。3Dギプスによる治療で、橈尺骨が細いトイプードルやポメラニアンなどの小型犬から、ボルゾイなどの大型犬まで橈尺骨骨折を治癒させることが可能である。動物の骨折に対して3Dギプスは手術に代わる治療法になる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の足先と関節部分を開放しつつ橈尺骨骨折部位を覆うように巻装される筒状の固定材と、前記固定材の内側に位置する弾性体とを有すると共に、前記固定材は一方の開口部から他方の開口部に亘って斜めまたは波線状の切り込みを有することを特徴とする動物の橈尺骨骨折治療用ギプス。
【請求項2】
動物の橈尺骨骨折部位の足形模型を作成する工程と、
前記足形模型の骨折部位を覆うように弾性体を巻装すると共に、その弾性体を覆うように硬化性の包帯を順次巻装して硬化させる工程と、
前記硬化した包帯の一方の開口部から他方の開口部に亘って斜めまたは波線状の切り込みを入れて前記足形模型を取り除く工程と、を含むことを特徴とする動物の橈尺骨骨折治療用ギプスの製作方法。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載のギプスを用いた動物の橈尺骨骨折の治療方法であって、
受傷直後においては前記骨折部位が動かないように固定し、
受傷から7~10日後に前記請求項1または2に記載のギプスを、伸縮包帯を用いて動物の足先と関節部分を開放しつつ骨折部位を覆うように装着してその骨折部位にかかる横方向とせん断方向とひねり方向の動きを抑制し、
装着後は動物の歩行を許容して前記骨折部位に垂直方向の負荷をかけて治癒を促進することを特徴とする動物の橈尺骨骨折の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の橈尺骨骨折における治療用の3Dギプス(以下、「3Dギプス」という。)を装着して歩行することにより、仮骨を誘導して間接的骨癒合が起こり、骨折が治癒するというものである。主に犬の橈尺骨骨折の治療にて成果が見られた。
【背景技術】
【0002】
現在、動物の橈尺骨骨折は主にプレート手術で治療が行われている(特許文献1)。しかし、細い骨の骨折手術は髄腔内の血流障害によって、のちに骨吸収や癒合不全が起こる場合があり、大きなリスクがある。また、従来のギプス固定による治療法では、患肢を完全に固定するため、骨折部分に負荷がかからず、靴密度の低下や骨の湾曲が起こる可能性がある。そのため、骨折が癒合しても再骨折の危険性が伴ってる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-272146号
【特許文献2】特表2005-512731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のギプス固定による治療法は橈尺骨骨折の亀裂骨折や横骨折で治療が行われており、橈尺骨の斜骨折や複雑骨折では治療が不可能とされている。そこで、従来のギプスの欠点を克服するため、横方向とせん断方向と捻り方向を安定的に固定しながら垂直方向に負荷がかかる3Dギプスによって、上記課題を解決することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
患肢を型取りした印象材に石膏を流し込み、固めた足型模型を基にしてギプスを作成することで、完全に患肢に密着する立体的な3Dギプスが作成できる。この3Dギプスは骨折部分の横方向とせん断方向とひねり方向の動きを抑制させることができる。また、骨折部分に垂直負荷をかけるために、足先を開放した筒状の形状とした。
【発明の効果】
【0006】
患肢に密着させる3Dギプスの装着によって、骨折の横方向とせん断方向と捻り方向を安定的に固定することができる。3Dギプスの内側にアクリルフォームをつけることで患肢の皮膚を保護して褥瘡を軽減させる。3Dギプスを装着した足先を開放することで垂直負荷がかかり間接的骨癒合による治癒を誘導できる。また、橈尺骨の亀裂骨折や横骨折だけでなく斜骨折や複雑骨折でも間接的骨癒合による骨治癒が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】歯科用アルギン酸印象材で患肢の型取りを説明する図。
【
図2】石膏で作った足型にアクリルフォームを接着する図。
【
図3】アクリルフォームの上からプラスチック包帯で成形する図。
【
図4】前記
図3のアクリルフォームとプラスチック包帯を筒状に整形して波線状の切り込みを入れた3Dギプス。
【
図5】外側がプラスチック包帯で内側がアクリルフォームの3Dギプスの断面図。
【
図7】
図4記載の完成した3Dギプスと粘着テープ付きの伸縮包帯を用いて患肢に装着した図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
患肢の骨折部分を3Dギプスの中央付近に装着する。骨折の修復期に患肢の骨折部分の周囲に3Dギプスを装着して伸縮包帯で固定する。ギプス固定の足先を開放させて歩行を促す。
【実施例0009】
本発明の一実施例について、
図1~
図7を参照して説明する。
図1に示すように、主に犬の橈尺骨骨折の際に3Dギプスによる治療を行う。受傷直後の炎症期は患肢を完全に固定して動かないようにする。
図2に示すように、受傷7~10日後の修復期に患肢を型取りした歯科用アルギン印象材に石膏を流し込み、足型模型を作成する。
図3に示すように、前記足形模型を基に、軟性アクリルフォームと、水に触れると固まるプラスチック包帯で筒状に形成していく。
【0010】
また、軟性アクリルフォームは患肢を直接傷つけることを防ぎ、クッション材として使用している。その後、
図4の符号5のように斜めの切り取り線をハサミで入れ、患肢によりフィットさせる。
具体的には、一方の開口部から他方の開口部まで、直線的に切り込みを入れるより、中央付近に一部斜め方向に切り込みを入れる方がよい。
【0011】
これにより、
図5に示すように、石膏に巻装されて前記患肢の非関節部分を覆うように象られた軟性アクリルフォーム(弾性体)3と、軟性アクリルフォーム(弾性体)3を巻装して設けられたプラスチック包帯(固定材)4から成形する動物の橈尺骨骨折の治療用のギプスが生産される。
【0012】
このようにして生産されたギプスを装着後に歩行することで、骨折部位に垂直の負荷が加わり間接的骨癒合が促される。小型犬(例:トイプードルやポメラニアン)から大型犬(例:ボルゾイ)の橈尺骨骨折において、3Dギプスによる治療で骨折が約1~2ヶ月で治癒した。
【0013】
なお、水硬化性のプラスチック包帯を用いたが、これに限らず紫外線硬化部材を用いても良い。患肢を石膏で型取りして作成するギプス。
石膏に巻装されて前記患肢の非関節部分を覆うように象られた弾性体と前記弾性体を巻装して設けられた固定材から成形する請求項1記載の動物の橈尺骨骨折の治療用のギプス。
【0014】
石膏で型取りした模型を生成し、前記模型の非関節部分に相当する箇所を覆うように弾性体を巻装し、前記弾性体を覆うように水硬化性の包帯を巻装し、前記巻装された包帯に水を塗布することにより硬化させ、前記包帯の硬化後に前記硬化された筒状の包帯の一方の開口部から他方の開口部まで切り込みを入れ、前記模型を取り除くことを特徴とする犬の橈尺骨骨折の治療用のギプスの製作方法。