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特開2023-130376癌関連変異を検出するためのキットおよび方法
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  • 特開-癌関連変異を検出するためのキットおよび方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130376
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】癌関連変異を検出するためのキットおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20230912BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230912BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230912BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101691
(22)【出願日】2023-06-21
(62)【分割の表示】P 2020536961の分割
【原出願日】2019-01-06
(31)【優先権主張番号】62/614,421
(32)【優先日】2018-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517435261
【氏名又は名称】ニュークレイクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フルムキン,ダニー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァッサストロム,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ニルシュ,レヴィタル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】操作が簡単で、費用対効果が高く、高い特異性と感度を特徴とする、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するための改善された方法およびキットを提供する。
【解決手段】DNAサンプル中の癌関連変異を検出する方法であって、(a)前記DNAサンプルを制限エンドヌクレアーゼによる消化に供して、制限エンドヌクレアーゼ処理DNAを得るステップと、(b)前記制限エンドヌクレアーゼ処理DNAから、癌変異部位を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座を同時増幅し、それによって各遺伝子座の増幅産物を生成するステップと、(c)前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の前記増幅産物のシグナル強度間の比を計算するステップと、(d)ステップ(c)で計算された前記比を予め定義された閾値比と比較することによって、前記DNAサンプル中の前記癌関連変異を検出するステップと、を含む、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素的制限(enzymatic restriction)およびリアルタイムPCRを使用したDNAサンプルにおける癌関連変異の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、様々な細胞分子をコードする遺伝子の変化に関連している。癌変異の範囲は、タイプ、数、機能的影響の点で多様である。例としては、単一塩基の変化、欠失、および選択的スプライシングまたは転座が含まれる。特定の変異は1つ以上のタイプの癌に関連付けられており、変異遺伝子産物は癌の生物学的特性と関連している。
【0003】
腫瘍DNAの変異プロファイルは、診断、予後、治療方針の決定など、患者管理にとって重要である。しかしながら、臨床サンプルでは通常、大量の正常遺伝子内に少量の変異腫瘍遺伝子しか含まれていないため、臨床環境での癌関連変異の検出は課題である。血漿サンプル中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を分析する場合、癌関連変異の検出は特に困難である。したがって、高感度でさらに特異的なアッセイが必要である。
【0004】
現在、ほとんどの遺伝的変異体の臨床試験は、対立遺伝子特異的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サンガージデオキシシーケンシング、パイロシーケンシング、多重連結依存性プローブ増幅(MLPA)、質量分析(MS)などの技術を使用して行われる。大規模並列シーケンシングとも呼ばれる、新しい次世代シーケンシング(NGS)テクノロジが登場している。NGSを使用すると、多数の配列の増幅とシーケンシングを同時に実行することが可能になる。しかしながら、この技術は現在、高価であり、日常的な臨床試験には複雑である。
【0005】
Jenkinsら(1999)は、Mutagenesis、14(5):439-48において、遍在する制限酵素部位での変異を検出するための制限部位変異アッセイと命名された方法論の概要を提供している。簡単に言えば、遍在する制限酵素部位でのDNA変異によって、制限酵素が特定のDNA標的配列を認識する能力が失われる。したがって、野生型DNAは制限酵素によって認識および切断されるが、制限酵素部位に変異を含むDNAは制限酵素によって認識されず、消化されずに残り、その後のPCR増幅の基質となる。PCR増幅産物をゲル電気泳動に供して、酵素耐性バンド、すなわち、変異の存在を検出する。
【0006】
Jenkinsら(2002)は、Br J Surg.89(1):8-20において、癌の進行の原因となる遺伝的変化の分析に制限酵素を使用する方法を概説している。
【0007】
Wardら(1998)は、Am J Pathol.,153(2):373-379において、BstNI制限酵素とTaqポリメラーゼを同時に作用させて、野生型産物の形成を阻害しながら、変異型K-rasの増幅を可能にする、エンリッチドPCRの戦略を報告している。この制限エンドヌクレアーゼを介した選択的PCRアッセイは、BstNIと共に3セットのプライマーを反応ミックスで使用し、増幅産物をゲル電気泳動で分析する。
【0008】
Asanoら(2006)は、Clin Cancer Res,43:12(1),43-48において、EGFRエクソン19および21での変異のための、ならびに非小細胞肺癌(NSCLC)の患者の生検、胸水および外科的に切除された組織による検体を含む臨床サンプル中のEGFR変異を検出するための、PCRに基づくアッセイの開発を報告している。
【0009】
Zhaoら(2013)は、Int.J.Cancer、132、2858-2866において、PCRを制限エンドヌクレアーゼ消化と組み合わせて(リアルタイム消化PCR、またはRTD-PCRと呼ばれる)、一段階の反応チューブで、少数の細胞から体細胞変異を検出する方法を報告している。PCR混合物には、PCRプログラム中に、野生型対立遺伝子を消化する耐熱性制限酵素が含まれており、変異対立遺伝子の選択的な増幅を可能にする。
【0010】
WO2013/181276は、複数の核酸分子中のまれな核酸分子の変異を検出するための組成物および方法を開示している。また、ドロップレットデジタルPCRを使用して核酸分子のサイズを決定する方法も開示している。
【0011】
これまでに記載された方法には、あるものは手間がかかって高価であり、他のものは感度および/または特異性が不十分であり、ならびに定量データを欠くまたは定量データを提供するための複雑な処理や較正を必要とする、欠点がある。
【0012】
操作が簡単で、費用対効果が高く、高い特異性と感度を特徴とする、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するための改善された方法およびキットが必要である。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、一部の態様によれば、変異DNAが無傷のままでの野生型DNAの選択的な消化と、その後のPCR増幅および増幅産物の分析に基づく、DNAサンプル中の癌関連変異を検出する方法を提供する。PCR増幅には、2つの遺伝子座の同時増幅が含まれ、一方は、変異が存在する場合は無傷のまま残り、もう一方は、試験条件下で常に無傷のまま残り、対照として機能する。開示された方法は、これらの遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算すること、および計算された比に基づいて癌関連変異を検出することを含み、非常に正確な変異検出をもたらす。DNAサンプルは、腫瘍組織または血漿サンプルに由来する場合がある。さらに、対象が癌関連変異について陽性であるかどうかを決定するための方法が提供される。
【0014】
特に、本明細書に開示する方法は、制限酵素部位内の癌関連変異を検出する。非変異(野生型)DNAは、制限酵素部位を含み、制限酵素によって認識される。したがって、非変異DNAは、制限酵素に接触すると切断される。変異DNAでは、制限酵素部位が変化するため、変異DNAは、制限酵素に認識されない。変異DNAは、制限酵素と接触すると無傷のまま残り、その後のPCR増幅の基質を提供する。その後の変異位置を含む制限酵素部位を有する遺伝子座(「制限遺伝子座」)のPCR増幅では、変異DNAのみが増幅され、変異の存在が決定可能になる。高い特異性を達成するために、特定の閾値を超える変異レベルのみが臨床的に有意であると見なされる。したがって、DNAサンプルが特定の変異について陽性であると見なされるかどうかを決定するための定量的な手段を用意することが重要である。本発明は、制限酵素の認識配列を含まない対照遺伝子座の同時増幅、ならびに制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比の計算によって、この必要性に有利に対処する。変異レベルが異なると、制限遺伝子座と対照遺伝子座の間のシグナル比に違いが生じ、より高いシグナル比は、より高い変異レベルに対応する。一部の実施形態によれば、閾値シグナル比が決定され、それを超えると、所与のDNAサンプルは、特定の癌関連変異について陽性であると同定される。
【0015】
したがって、本発明は、癌関連変異の存在を検出するための、簡単で信頼できる手段を提供する。
【0016】
一部の実施形態では、癌変異位置(変異部位)は、制限酵素の認識配列内に(すなわち、天然DNA内に)天然に見出される。他の実施形態では、癌変異部位は、制限酵素の認識配列内に天然に見出されない。これらの実施形態によれば、本明細書に開示する方法によって変異を検出するために、認識配列が、PCRによって人工的に導入される。これらの実施形態によれば、消化およびさらなる分析に供されるDNAサンプルは、人工的に導入された制限遺伝子座を含むPCR産物である。追加の実施形態では、癌変異部位は、特定の制限酵素の認識配列内に天然に見出されるが、本発明の方法での使用には異なる制限酵素が望ましい。目的の制限酵素の認識配列は、PCRによって人工的に導入され得、これらの実施形態によれば、消化およびさらなる分析に供されるDNAサンプルは、人工的に導入された制限遺伝子座を含むPCR産物である。
【0017】
天然DNAおよび天然の制限遺伝子座の場合、好適な遺伝子座は、メチル化非感受性の制限酵素の遺伝子座を含むため、メチル化の存在によってDNAの消化が偏ることがない。
【0018】
したがって、一態様によれば、本発明は、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するための方法を提供し、この方法は、
(a)DNAサンプルを制限エンドヌクレアーゼによる消化に供して、制限エンドヌクレアーゼ処理DNAを得るステップと、
(b)制限エンドヌクレアーゼ処理DNAから、癌変異部位を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座を同時増幅し、それによって各遺伝子座の増幅産物を生成するステップと、
(c)制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算するステップと、
(d)ステップ(c)で計算された比を予め定義された閾値比と比較することによって、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するステップとを含む。
【0019】
一部の実施形態では、計算された比が予め定義された閾値比を超えると、癌関連変異が検出される。
【0020】
別の態様によれば、本発明は、対象が癌関連変異について陽性であると同定するための方法を提供し、この方法は、
(a)対象からのDNAサンプルをメチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼによる消化に供して、制限エンドヌクレアーゼ処理DNAを得るステップと、
(b)制限エンドヌクレアーゼ処理DNAから、癌変異部位を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座を同時増幅し、それによって各遺伝子座の増幅産物を生成するステップと、
(c)制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算するステップと、
(d)ステップ(c)で計算された比を予め定義された閾値比と比較することによって、対象が癌関連変異について陽性であると同定するステップとを含む。
【0021】
一部の実施形態では、計算された比が予め定義された閾値比を超える場合、対象が癌関連変異について陽性であると同定される。
【0022】
一部の実施形態では、DNAは、腫瘍組織に由来する。
【0023】
一部の実施形態では、DNAは、血漿に由来する。
【0024】
一部の実施形態では、対照遺伝子座は、当該制限エンドヌクレアーゼの認識配列を欠く遺伝子座である。
【0025】
一部の実施形態では、DNAは、天然DNAであり、制限遺伝子座は、天然の制限遺伝子座であり、制限エンドヌクレアーゼは、その認識配列が癌変異部位を含むメチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼである。
【0026】
一部の実施形態では、癌変異は、その部位がメチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼの認識配列内に自然に見つかり、EGFRエクソン19欠失(E747~A750)、EGFR L858置換、P53 H179置換、P53 G154置換、P53 R282置換、P53 R248置換、P53 R249置換およびBRAF V600置換、からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0027】
一部の実施形態では、制限エンドヌクレアーゼは、MseI(EGFRエクソン19欠失)、MscI(EGFR L858置換)、FatI(P53 H179置換)、MspI(P53 G154置換、P53 R282置換、P53 R248置換)、HaeIII(P53 R249置換)およびTspRI(BRAF V600置換)、からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0028】
他の実施形態では、癌変異部位は、制限エンドヌクレアーゼの認識配列内に天然に見出されない。これらの実施形態によれば、DNAは、PCR産物であり、制限遺伝子座は、当該PCRによってDNAに人工的に導入された制限遺伝子座である。
【0029】
一部の実施形態では、癌変異は、その部位が制限エンドヌクレアーゼの認識配列内に天然に見出されず、KRAS G12置換およびEGFR L858置換からなる群から選択される。一部の実施形態では、制限エンドヌクレアーゼは、BstNI(KRAS G12置換)およびAluI(EGFR L858置換)からなる群から選択される。
【0030】
一部の特定の実施形態では、癌変異は、その部位が制限エンドヌクレアーゼの認識配列内に天然に見出されず、KRAS G12置換であり、制限エンドヌクレアーゼは、BstNIである。一部の実施形態では、対照遺伝子座は、配列番号4に示される遺伝子座である。
【0031】
一部の実施形態では、癌関連変異は、KRAS G12置換、EGFRエクソン19欠失(E747~A750)、EGFR L858置換、P53 H179置換、P53 G154置換、P53 R282置換、P53 R248置換、P53 R249置換およびBRAF V600置換、からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0032】
一部の実施形態では、その方法のステップ(b)は、リアルタイムPCRを使用して実行される。一部の実施形態では、ステップ(b)がリアルタイムPCRを使用して実行される場合、その方法は、制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物の検出を補助するための蛍光プローブを添加することをさらに含む。
【0033】
一部の実施形態では、ステップ(b)は、リアルタイムPCRを使用して実行され、当該制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比の当該計算は、各遺伝子座の定量化サイクル(Cq)を決定して、2(Cq対照軌跡-Cq制限遺伝子座)を計算すること、を含む。
【0034】
さらなる態様によれば、本発明は、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するためのキットを提供し、このキットは、
DNAサンプルを消化するための少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼと、
制限エンドヌクレアーゼによる消化後の、癌変異部位を含む少なくとも1つの制限遺伝子座および少なくとも1つの対照遺伝子座の同時増幅のための複数のプライマー対と、
増幅後の制限遺伝子座および対照遺伝子座のシグナル強度の比と予め定義された閾値比との比較に基づいて、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するようにコンピュータプロセッサに命令するコンピュータソフトウェアを記憶するコンピュータ可読媒体と、を含む。
【0035】
一部の実施形態では、コンピュータソフトウェアは、コンピュータプロセッサに、制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅後にそれらのシグナル強度を決定するステップ、制限遺伝子座および対照遺伝子座のシグナル強度間の比を計算するステップ、計算された比を予め定義された閾値比と比較するステップ、および、その比較に基づいてDNAサンプルが癌関連変異について陽性であるかどうかを出力するステップ、を実行するように命令する。
【0036】
一部の実施形態では、キットは、少なくとも1つの制限遺伝子座および少なくとも1つの対照遺伝子座の増幅産物を検出するための複数のポリヌクレオチドプローブをさらに含む。
【0037】
さらなる態様によれば、本発明は、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するためのシステムを提供し、このシステムは、
DNAサンプルを消化するための少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼと、
制限エンドヌクレアーゼによる消化後の、癌変異部位を含む少なくとも1つの制限遺伝子座および少なくとも1つの対照遺伝子座の同時増幅のための複数のプライマー対と、
増幅後の制限遺伝子座および対照遺伝子座のシグナル強度の比と予め定義された閾値比との比較に基づいて、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するようにコンピュータプロセッサに命令するコンピュータ可読媒体に記憶されたコンピュータソフトウェアと、を含む。
【0038】
一部の実施形態では、コンピュータソフトウェアは、コンピュータプロセッサに、制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅後にそれらのシグナル強度を決定するステップ、制限遺伝子座および対照遺伝子座のシグナル強度間の比を計算するステップ、計算された比を予め定義された閾値比と比較するステップ、および、その比較に基づいてDNAサンプルが癌関連変異について陽性であるかどうかを出力するステップ、を実行するように命令する。
【0039】
本発明の、これらのおよびさらなる態様および特徴は、以下の詳細な説明、実施例および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A】KRAS G12変異部位を含むBstNIの制限遺伝子座、および対照遺伝子座の例示的な定量的PCRプロットであり、癌性肺組織由来のDNAサンプルのG12V変異(図1A)、G12A変異(図1B)またはG12変異なし(図1C)、および正常な肺組織由来のDNAサンプル(G12変異なし)(図1D)を示す。
図1B】KRAS G12変異部位を含むBstNIの制限遺伝子座、および対照遺伝子座の例示的な定量的PCRプロットであり、癌性肺組織由来のDNAサンプルのG12V変異(図1A)、G12A変異(図1B)またはG12変異なし(図1C)、および正常な肺組織由来のDNAサンプル(G12変異なし)(図1D)を示す。
図1C】KRAS G12変異部位を含むBstNIの制限遺伝子座、および対照遺伝子座の例示的な定量的PCRプロットであり、癌性肺組織由来のDNAサンプルのG12V変異(図1A)、G12A変異(図1B)またはG12変異なし(図1C)、および正常な肺組織由来のDNAサンプル(G12変異なし)(図1D)を示す。
図1D】KRAS G12変異部位を含むBstNIの制限遺伝子座、および対照遺伝子座の例示的な定量的PCRプロットであり、癌性肺組織由来のDNAサンプルのG12V変異(図1A)、G12A変異(図1B)またはG12変異なし(図1C)、および正常な肺組織由来のDNAサンプル(G12変異なし)(図1D)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、酵素的制限およびリアルタイムPCRを使用する、DNAサンプルにおける変異、特に癌関連変異の検出に関する。本発明は、制限酵素によるDNAの消化後、試験されたDNAサンプルから同時増幅された変異部位(例えば、癌変異部位)を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座との間のシグナル強度の比を計算することを含む。シグナル強度の比に基づいて、試験されたサンプルは、変異(例えば、癌関連変異)について陽性または陰性として同定される。
【0042】
シグナル強度の比は、同じ反応混合物中の同じDNAテンプレートから増幅された遺伝子座間で(つまり、同じ反応条件下で)計算される。これにより、本明細書に開示する方法が、テンプレートDNA濃度の変化、PCR条件、および阻害剤の存在などの様々な「ノイズ」的な要因に対して非感受性となる。
【0043】
有利には、一部の実施形態によれば、本発明の方法は、PCR産物を分離することおよび/またはシーケンシングすることなく行われる。本発明の方法は、変異を、高い特異性および感度で、簡便に検出する。
【0044】
さらに、本発明は、癌関連変異の同定のための単純な手段を提供し、これは、癌診断のための既存の方法に容易に統合することができ、同時に疾患の診断および情報、例えば、好適な治療法を選択することや疾患の予後を決定することを支援し得る情報、を提供する。より具体的には、本発明の方法は、肺癌診断に関する本発明の出願人の同時係属出願書に記載の方法、および膀胱癌診断に関する同出願人の同時係属出願書に記載の方法、などの癌診断方法に統合されてもよい。本明細書に開示された方法は、選択されたゲノム遺伝子座におけるDNAメチル化の変化に基づいて癌を同定することを含む。それらの方法は、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼを使用して試験された対象からのDNAサンプルを消化すること、癌と正常なDNAとの間の示差的にメチル化された少なくとも1つの制限遺伝子座および対照遺伝子座とを同時増幅すること、ならびに制限および対照遺伝子座のシグナル強度の比を計算すること、を含む。計算された比を参照比と比較することによって、癌の同定が行われる。有利には、本発明の方法は、DNA消化とその後の増幅、シグナル強度の決定、および比の計算、の同様のステップに基づくもので、これらの診断方法と並行して簡単に行うことができ、変異状態に関する診断および情報を提供する。例えば、本発明による肺癌関連変異の検出は、肺癌を診断する前述の方法と並行して行ってもよく、試験された対象が肺癌を有するかどうか、および対象が、対象に特定の治療を受け入れやすくするおよび/または対象の予後に影響を与える、1つ以上の変異を有するかどうか、の情報を提供し得る。
【0045】
一部の実施形態では、本明細書では、DNAサンプル中の癌関連変異を検出する方法が提供され、この方法は、(a)DNAサンプルを制限エンドヌクレアーゼによる消化に供して、制限エンドヌクレアーゼ処理DNAを得ること、(b)制限エンドヌクレアーゼ処理DNAから、癌変異部位を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座を同時増幅し、それによって各遺伝子座の増幅産物を生成すること、(c)制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算すること、および(d)計算された比が予め定義された閾値比を上回るかまたは下回るかを決定し、それによってDNAサンプル中の癌関連変異を検出すること、を含む。
【0046】
一部の実施形態では、本明細書において、DNAサンプル中の変異プロファイルを生成する方法が提供され、この方法は、(a)DNAサンプルを制限エンドヌクレアーゼによる消化に供して、制限エンドヌクレアーゼ処理DNAを得ること、(b)制限エンドヌクレアーゼ処理DNAから、癌変異部位を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座を同時増幅し、それによって各遺伝子座の増幅産物を生成すること、および(c)制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算すること、を含む。一部の実施形態では、本方法は、計算された比が予め定義された閾値比を上回るかまたは下回るかを決定することをさらに含み、それによって、DNAサンプルにおける変異プロファイルを生成する。
【0047】
一部の実施形態では、本方法は、制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比に基づいて、変異を検出することを含む。
【0048】
一部の実施形態では、本方法は、制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算することによって、変異が存在するかどうかを検出すること、および予め定義された閾値比を上回るシグナル比を検出することを含む。
【0049】
生体サンプルの収集と処理
分析されるDNAは、腫瘍組織(固形腫瘍)に由来してもよい。分析されるDNAは、血漿サンプルに由来してもよい。
【0050】
「~からのDNA」、「~由来のDNA」、「~起源のDNA」などの用語は、腫瘍サンプルまたは血液(血漿)サンプルなどの生体サンプルから得られたDNAを指す。これらの用語は、天然DNA、すなわち、生体サンプル中に見出されるDNA、および人工的に導入された制限遺伝子座を含むPCR産物などの天然DNAから生成されたPCR産物をも包含する。
【0051】
腫瘍および/または血漿サンプルは、従来の方法を使用して対象から収集され得る。
【0052】
本明細書で使用される「対象」という用語は、「個体」と互換的であり、典型的にはヒト対象を指す。対象は、癌患者であるか、または特定の変異に関連する癌を有する疑いがある場合がある。一部の実施形態では、対象は、例えば、家族歴に基づいて、特定の変異に関連する癌を発症するリスクがあり得る。
【0053】
DNAは、当該技術分野において既知の方法に従って、生体サンプルから抽出されてもよい。
【0054】
一部の実施形態では、癌関連変異は、メチル化非感受性制限酵素の制限遺伝子座内で自然に見つかる場合、生体サンプルから得られた天然DNAを変異状態の分析に使用することができる。
【0055】
他の実施形態では、人工制限遺伝子座が導入される場合、変異状態の分析の前に、生体サンプルから得られた天然DNAをPCRに供して制限遺伝子座を導入する。特に、ミスマッチのプライマーを使用する癌変異部位を含む遺伝子座のPCR増幅は、人工制限遺伝子座を導入するために行われる。以下に模範的な手順を例示する。
【0056】
DNA消化
本発明の方法によれば、生体サンプル由来のDNAまたは生体サンプル由来のDNAから生成されたPCR産物は、制限エンドヌクレアーゼによる消化に適用される。
【0057】
一部の実施形態では、生体サンプルから抽出される、またはPCRによって生成されるDNA全体が、消化ステップで使用される。一部の実施形態では、DNAは、消化に供される前に定量化されない。他の実施形態では、DNAは、その消化の前に定量化される。
【0058】
本明細書で「制限酵素」と互換的に使用される「制限エンドヌクレアーゼ」は、制限部位として知られる、特定の認識ヌクレオチド配列で、またはその近くでDNAを切断する酵素を指す。
【0059】
「メチル化非感受性」または「メチル化非依存性」制限エンドヌクレアーゼは、その活性がメチル化の存在に影響されない、または依存しない、制限エンドヌクレアーゼである。言い換えれば、メチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼは、制限部位を、そのメチル化状態とは無関係に切断する。
【0060】
本発明の方法によって使用される制限エンドヌクレアーゼの選択は、検出される癌関連変異の位置またはその近くのヌクレオチド配列に依存する。一部の実施形態では、変異位置がメチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼの認識配列内で天然に見出される場合、このメチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。消化は、生体サンプル由来の天然DNAに対して行うことができる。
【0061】
他の実施形態では、例えば、変異位置がメチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼの認識配列内にない場合、制限エンドヌクレアーゼは、高温で機能する能力などの技術的基準に基づいて選択され、適切な認識配列は、ミスマッチプライマーを使用してPCRによって導入され得る。制限酵素は、メチル化依存性制限酵素以外であることが好ましい。消化は、人工的に導入された認識配列を含むPCR産物に対して行われる。
【0062】
ゲノム遺伝子座の増幅
本明細書で使用される用語「ゲノム遺伝子座」または「遺伝子座」は、互換的であり、染色体上の特定の位置にあるDNA配列を指す。特定の位置は、分子の位置、つまり、染色体上の開始および終末の塩基対の数によって同定され得る。特定のゲノム位置にあるDNA配列のバリアントは、対立遺伝子と呼ばれる。遺伝子座の対立遺伝子は、相同染色体の同一部位に位置する。遺伝子座には、遺伝子配列ならびに他の遺伝要素(例えば、遺伝子間配列)が含まれる。
【0063】
「制限遺伝子座」は、本明細書では、本方法で使用される制限酵素の認識配列を含む遺伝子座を説明するために使用される。
【0064】
「癌変異部位を含む制限遺伝子座」は、特定のタイプの癌において変異しやすいことが知られている位置を含む制限遺伝子座を示す。癌変異部位は、本方法で使用される制限酵素の認識配列内に位置する。DNA変異の結果として、特定のアミノ酸が別のアミノ酸で置換されたタンパク質、あるいは1つ以上のアミノ酸が欠失したタンパク質などの変異タンパク質が生成される。
【0065】
用語「癌関連変異」は、1つ以上のタイプの癌に関連する変異タンパク質をもたらすDNA変異を示す。変異は、典型的に、タンパク質の名前、変化したアミノ酸、およびタンパク質鎖内でのその位置(アミノ酸番号)で示される。置換についても、また、置換されたアミノ酸が典型的に示される。癌関連変異の例としては、次のものが挙げられる。
-KRAS G12置換:例えば、G12A、G12C、G12D、G12R、G12SおよびG12Vは、肺癌、膵癌、膀胱癌、結腸直腸癌などの癌に関連する(例えば、Prior et al.2012,Cancer Res.,72(10):2457-2467で概説)。
-EGFRエクソン19欠失(E747~A750欠失):肺癌、主に、非小細胞肺癌(NSCLC)などの癌に関連する(例えば、Lovly et al.2015,EGFR Exon 19 Deletion in Non-Small Cell Lung Cancer.My Cancer Genome(Updated October 15,2015で概説)。
-EGFR L858置換:例えば、L858Rは、肺癌、主に、非小細胞肺癌(NSCLC)などの癌に関連する(例えば、Lovly et al.2015,EGFR c.2573T>G(L858R) Mutation in Non-Small Cell Lung Cancer.My Cancer Genome(Updated October 15,2015で概説)。
-P53 H179置換:例えば、H179R、H179LおよびH179Yは、乳癌、卵巣癌、肺癌などの癌に関連する(例えば、COSMIC-the Catalogue of Somatic Mutations in Cancer(cancer.sanger.ac.uk)(Forbes et al.2016,Nucleic Acids Research,45(D1):D777-D783で概説)。
-P53 G154置換:例えば、G154VおよびG154Sは、肺癌、食道癌、肝臓癌などの癌に関連する(COSMIC同文献を参照)。
-P53 R282置換:例えば、R282WおよびR282Gは、腸癌、食道癌、乳癌などの癌に関連する(COSMIC同文献を参照)。
-P53 R248置換:例えば、R248Qは、結腸直腸癌、乳癌、食道癌、CNS癌などの癌、およびリンパ腫に関連する(COSMIC同文献を参照)。
-P53 R249置換:例えば、R249Sは、肝癌、肺癌、乳癌などの癌に関連する(COSMIC同文献を参照)。
-BRAF V600置換:例えば、V600Eは、甲状腺癌や皮膚癌などの癌に関連する(COSMIC同文献を参照)。
【0066】
本明細書で使用される「非変異DNA」および「野生型DNA」という用語は、癌変異部位でのヌクレオチドの同一性を指し、「非変異」および「野生型」は、インビボで適切な野生型タンパク質の翻訳をもたらすヌクレオチドの存在を示す。
【0067】
用語「変異DNA」は、癌変異部位でのヌクレオチドの同一性を指し、それが癌に関連する非野生型ヌクレオチドを含むことを示す。
【0068】
「対照遺伝子座」および「内部参照遺伝子座」は、互換的であり、遺伝子座を説明するために本明細書で使用され、消化ステップで適用される制限酵素によるその消化は、変異の存在または不在に依存しない。典型的には、対照遺伝子座は、消化ステップで適用される制限酵素の認識配列を欠く遺伝子座である。有利には、対照遺伝子座は、内部遺伝子座、すなわち、分析されたDNAサンプル内の遺伝子座であり、したがって、外部/追加の対照サンプルの必要性を排除する。
【0069】
変異について陽性の組織では、変異について陰性の組織と比較して、より多くの細胞がこの位置に変異を含む。制限酵素は、その認識配列に変異部位が含まれると、非変異DNAにおいてのみ、その認識配列を切断する。したがって、変異を含むDNA分子の割合がより高いDNAサンプルでは、非変異DNAの割合がより高いDNAサンプルと比較して、消化される程度がより低くなる。消化効率の違いにより、その後の増幅および定量化ステップにおいて、異なる増幅パターンが確立され、変異について陽性のDNAと、変異について陰性のDNAを、識別可能にする。
【0070】
本明細書中で使用される場合、「増幅」とは、目的とする1つ以上の特定の核酸標的のコピー数の増加を指す。増幅は、典型的に、当該技術分野で既知の、DNAテンプレート、ポリメラーゼ(通常、Taqポリメラーゼ)、dNTP、プライマーおよびプローブ(必要に応じて)を補充した好適なバッファーを含み得るPCR反応混合物の存在下で、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行われる。
【0071】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのいずれか、あるいはそれらの類似体の、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を含む。また、「オリゴヌクレオチド」という用語が本明細書で使用され、典型的には、100塩基までの長さの、ヌクレオチドのポリマー形態を含む。
【0072】
「増幅産物」は、増幅反応において生成および蓄積される特定の標的配列の核酸分子を集合的に指す。この用語は、一般に、所定の増幅プライマーのセットを使用して、PCRによって生成された核酸分子を指す。
【0073】
本明細書で使用される場合、「プライマー」は、標的配列にアニーリング(ハイブリダイズ)することができ、それによって好適な条件下でDNA合成の開始点として役立ち得る二本鎖領域を生成するオリゴヌクレオチドを定義する。用語「プライマー対」は、本明細書では、いくつかのタイプの増幅プロセスの1つ、好ましくはPCRによって、選択された核酸配列を増幅する際に一緒に使用されるように選択されるオリゴヌクレオチドの対を指す。当該技術分野で一般に既知であるように、プライマーは、選択された条件下で相補的配列に結合するように設計することができる。
【0074】
本明細書で使用される場合、「ミスマッチプライマー」は、その対応する標的ポリヌクレオチドに部分的にハイブリダイズするプライマーを定義する。ミスマッチプライマーは、相補的部分と非相補的部分を含む。ミスマッチプライマーの非相補的部分は、その3’末端に位置し、標的ポリヌクレオチドに存在する目的のヌクレオチドとハイブリダイズすることができず、典型的には、1ヌクレオチド長である。典型的には、ミスマッチプライマーの相補的部分は、標的ポリヌクレオチドに完全に相補的である。相補的部分は、任意の適切な長さであり得る。一部の実施形態では、相補的部分は、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、または20を超えるヌクレオチド長である。
【0075】
プライマーは、特定のアッセイ形式および特定の必要性に応じて、任意の好適な長さであり得る。一部の実施形態では、プライマーは、少なくとも15ヌクレオチド長、好ましくは19~25ヌクレオチド長を含み得る。プライマーは、選択された核酸増幅システムに特に好適なように適合させることができる。当該技術分野で一般に既知であるように、オリゴヌクレオチドプライマーは、それらの標的配列とのそのハイブリダイゼーションの融点を考慮することによって設計することができる。
【0076】
一部の実施形態では、制限および対照遺伝子座は、各遺伝子座を特異的に増幅するために、当該技術分野で既知のように設計されたリバースおよびフォワードプライマーのペアを使用して、同じDNAサンプル(消化サンプル)から増幅され得る。
【0077】
一部の実施形態では、プライマーは、75~225塩基長の増幅産物を生成するように設計され得る。
【0078】
本明細書に開示する方法は、同じ反応混合物中の複数の標的配列(制限遺伝子座および対照遺伝子座)の同時的な増幅(多重増幅または同時増幅として知られているプロセス)を含む。このプロセスでは、2つのプライマー対を同時に使用する必要がある。当該技術分野で既知であるように、プライマーは、増幅中に同じアニーリング温度で機能することができるように設計することができる。一部の実施形態では、類似の融解温度(Tm)を有するプライマーが、本明細書に開示する方法で使用される。プールで使用されるプライマーについて、約3~5℃のTm変動は許容可能と見なされる。
【0079】
一部の実施形態では、ゲノム遺伝子座の増幅は、定量的PCR(qPCR)としても知られるリアルタイムPCR(RT-PCR)を使用して実施されてもよく、増幅産物の増幅および検出が同時に行われる。
【0080】
一部の実施形態では、RT-PCRにおける増幅産物の検出は、ポリヌクレオチドプローブ、典型的には、蛍光標識されたポリヌクレオチドプローブ、を使用して達成され得る。
【0081】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチドプローブ」または「オリゴヌクレオチドプローブ」は、互換的であり、目的の遺伝子座の核酸配列内の、例えば、制限遺伝子座または対照遺伝子座の配列内の、特定のサブ配列に相補的である標識されたポリヌクレオチドを指す。一部の実施形態では、検出は、レポーター分子とクエンチャー分子の組み合わせに基づくTaqManアッセイ(Roche Molecular Systems Inc.)を使用することによって達成される。そのようなアッセイでは、ポリヌクレオチドプローブは、それらの5’末端に結合された蛍光部分(フルオロフォア)および3’末端に結合されたクエンチャーを有する。PCR増幅中、ポリヌクレオチドプローブは、テンプレート上のそれらの標的シーケンスに選択的にハイブリダイズし、ポリメラーゼがテンプレートを複製するときに、ポリメラーゼの5’-ヌクレアーゼ活性によりポリヌクレオチドプローブも切断する。ポリヌクレオチドプローブが無傷の場合、クエンチャーと蛍光部分が非常に近接しているため、通常、バックグラウンドの蛍光レベルが低くなる。ポリヌクレオチドプローブが切断されると、クエンチャーは、蛍光部分から分離され、蛍光強度が増加する。蛍光シグナルは、増幅産物の量と相関し、すなわち、シグナルは、増幅産物が蓄積するにつれて増加する。
【0082】
本明細書で使用される場合、「選択的にハイブリダイズする」(ならびに「選択的ハイブリダイゼーション」、「特異的にハイブリダイズする」、および「特異的ハイブリダイゼーション」)は、ストリンジェントな条件下で、核酸分子(プライマーまたはプローブなど)が、特定の相補的ヌクレオチド配列に優先的に結合、二重化、またはハイブリダイズすることを指す。用語「ストリンジェントな条件」は、核酸分子がその標的配列に優先的にハイブリダイズし、他の非標的配列により低い程度でハイブリダイズするかまたは全くハイブリダイズしない、条件を指す。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション」は、核酸ハイブリダイゼーションの文脈において、配列依存的であり、当該技術分野で既知であるように、異なる条件下で異なる。
【0083】
ポリヌクレオチドプローブは、長さが異なっていてもよい。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドプローブは、15~30塩基を含み得る。追加の実施形態では、ポリヌクレオチドプローブは、25~30塩基を含み得る。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドプローブは、20~30塩基、例えば、20塩基、21塩基、22塩基、23塩基、24塩基、25塩基、26塩基、27塩基、28塩基、29塩基、30塩基を含み得る。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0084】
ポリヌクレオチドプローブは、テンプレートのいずれかの鎖に結合するように設計され得る。追加の考慮事項としては、ポリヌクレオチドプローブのTmが挙げられ、プライマーのものと適合性であることが好ましい。プライマーおよびプローブを設計するために、コンピュータソフトウェアを使用してもよい。
【0085】
上述の通り、本明細書に開示する方法は、同じ反応混合物中の複数の標的配列の同時増幅を含む。並行して増幅される複数の標的配列を識別するために、異なる蛍光色で標識されたポリヌクレオチドプローブを使用してもよい。
【0086】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドプローブは、当該技術分野で既知であるように、フルオロフォア/クエンチャー対を形成し、例としては、FAM-TAMRA、FAM-BHQ1、Yakima Yellow-BHQ1、ATTO550-BHQ2およびROX-BHQ2が挙げられる。
【0087】
一部の実施形態では、色素の組み合わせは、選択するRT-PCRサーモサイクラーに適合し得る。
【0088】
一部の実施形態では、蛍光は各PCRサイクルの間でモニターされてもよく、サイクル数の関数として、プローブからの蛍光シグナルの変化を示す増幅プロットを提供する。
【0089】
RT-PCRの文脈では、次の用語が使用される。
「定量化サイクル(quantification cycle)」(「Cq」)は、蛍光が、ソフトウェアによって自動的に、またはユーザーによって手動で設定された閾値を超えて増加するサイクル数を指す。一部の実施形態では、閾値は、すべての遺伝子座について一定であってもよく、増幅および検出を行う前に、事前に設定されてもよい。他の実施形態では、閾値は、増幅サイクル中にこの遺伝子座について検出された最大蛍光レベルに基づいて、実行後、各遺伝子座について別々に定義されてもよい。
【0090】
「閾値」とは、Cq決定用に使用される蛍光の値を指す。一部の実施形態では、閾値は、ベースライン蛍光を超える値および/またはバックグラウンドノイズを超える値であり得、増幅プロットの対数増幅期(exponential growth phase)内であり得る。
【0091】
「ベースライン」とは、蛍光の変化がほとんどない、または全くないPCRの初期サイクルを指す。
【0092】
コンピュータソフトウェアを使用して、増幅プロットを分析し、ベースライン、閾値、Cqを決定することができる。
【0093】
制限酵素による消化後、DNA分子が消化から保護されるため、癌の変異部位が変異している遺伝子座が高効率で増幅される。検出可能な増幅産物は、比較的小さい(低い)増幅サイクル数で示されるため、結果として、Cq値が比較的低くなる。逆に、癌変異部位が変異していない遺伝子座は、消化ステップ中により大幅に切断され、したがって、増幅および定量化ステップで、より高いCq値が得られる(つまり、比較的多く増幅サイクル後に検出可能になる増幅産物を示す)。
【0094】
代替の実施形態では、増幅産物の増幅および検出は、蛍光標識されたプライマーを使用する従来のPCR、その後の増幅産物のキャピラリー電気泳動、によって行うことができる。一部の実施形態では、増幅後、増幅産物は、キャピラリー電気泳動によって分離され、蛍光シグナルが定量化される。一部の実施形態では、サイズ(bp)または注入からの時間の関数として蛍光シグナルの変化をプロットする電気泳動図を生成することができ、電気泳動図の各ピークは単一の遺伝子座の増幅産物に対応する。ピークの高さ(例えば、「相対蛍光単位」、rFUを使用して与えられる)は、増幅された遺伝子座からのシグナルの強度を表す場合がある。コンピュータソフトウェアを使用して、ピークを検出し、増幅産物がキャピラリー電気泳動装置で実行された遺伝子座のセットの蛍光強度(ピーク高)を計算し、続いてシグナル強度間の比を計算することができる。
【0095】
癌変異部位が変異している制限酵素で消化されたDNAサンプルは、電気泳動図で比較的強いシグナル(より高いピーク)を生成する。逆に、癌変異部位が変異していない遺伝子座では、電気泳動図で比較的弱いシグナル(より低いピーク)が生成される。
【0096】
一部の実施形態では、プライマーの蛍光標識は、フルオレセイン、FAM、リサミン、フィコエリトリン、ローダミン、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、FluorX、JOE、HEX、NED、VICおよびROXのうちのいずれか1つを含む。
【0097】
シグナル比
本明細書で使用される「比」または「シグナル比」という用語は、単一のDNAサンプル中の(同じ反応混合物中の)一対のゲノム遺伝子座の同時増幅、特に、制限遺伝子座および対照遺伝子座の同時増幅、から得られるシグナルの強度間の比を指す。
【0098】
本明細書で使用される「シグナル強度」という用語は、遺伝子座の無傷なコピーの初期量に対応する遺伝子座特異的増幅産物の量を反映する尺度を指す。ただし、シグナル強度は、増幅産物/無傷な遺伝子座の実際の量を示さない場合があり、増幅産物/無傷な遺伝子座の絶対量の計算を全く含まない場合がある。したがって、増幅産物のシグナルの比を計算する場合、実際のDNA濃度自体を計算する必要がないため、標準曲線や参照DNAを必要としない。
【0099】
いくつかの例示的な実施形態では、増幅産物の増幅および検出は、RT-PCRによって行われ、特定の遺伝子座のシグナル強度が、この遺伝子座について計算されたCqによって表される。この場合のシグナル比は、次の計算で表される:2(対照遺伝子座のCq-制限遺伝子座のCq)。
【0100】
一部の実施形態では、増幅がないか、または増幅が非常に少ない場合、Cqは「無限大」と決定される。一部の実施形態では、そのような場合、式の数値(対照遺伝子座のCq-制限遺伝子座のCq)は、(-14)に設定され、シグナル比は、1:16384に設定される。追加の実施形態では、そのような場合、シグナル比は、1:16000に設定される。
【0101】
追加の例示的な実施形態では、増幅産物の検出は、キャピラリー電気泳動によって行われ、特定の遺伝子座のシグナル強度が、その対応するピークの相対蛍光単位(rfu)の数である。シグナル比は、制限遺伝子座のピークの高さを、対照遺伝子座のピークの高さで割ることによって計算される。
【0102】
一部の実施形態では、DNAサンプル中の制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算することは、(i)制限遺伝子座の増幅産物のシグナル強度を決定すること、(ii)対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度を決定すること、および(iii)2つのシグナル強度間の比を計算すること、を含む。
【0103】
一部の実施形態では、DNAサンプル中の制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物のシグナル強度間の比を計算することは、各遺伝子座のCqを決定して、対照遺伝子座のCqと制限遺伝子座のCqとの差を計算することを含む。一部の実施形態では、計算は、以下の式を適用することをさらに含む:2^(対照遺伝子座のCq-制限遺伝子座のCq)。
【0104】
一部の実施形態では、増幅産物のシグナル強度間の比を計算するために、コンピュータソフトウェアを使用することができる。
【0105】
変異状態の決定
本明細書に開示される方法は、その変異状態、すなわち、特定の癌関連変異について陽性であるか陰性であるかを決定するために、所与のDNAサンプルについて計算されたシグナル比を評価することに基づく。
【0106】
一部の実施形態では、試験されたサンプルで計算された比は、参照比と比較される。一部の実施形態では、計算された比は、閾値比と比較される。一部の実施形態では、計算されたシグナル比は、計算されたシグナル比が予め定義された閾値比を上回るかまたは下回る場合、DNAが変異について陽性であることを示す。
【0107】
「閾値比」または「カットオフ比」は、変異陰性サンプルの集団を、変異陽性サンプルの集団から区別するシグナル比を指す。
【0108】
一部の実施形態では、閾値を下回るより低い比は、非変異サンプル、例えば、正常な個体のサンプル(健康、すなわち、癌に罹患していない)からのものであり、一方、閾値を上回るより高い比は、変異サンプル、例えば、変異について陽性である癌患者からのものである。
【0109】
一部の実施形態では、閾値比を決定することは、他の方法によって決定されるように、変異陽性または変異陰性のいずれかの既知の変異状態を有する対象(または生体サンプル)の大集団における特定の対の制限および対照遺伝子座の間のシグナル比を測定することを含む。この大きなサンプルセットでシグナル比を分析した後、閾値が設定され、偽陽性のケースを最小限に抑え、所望のレベルの特異性を得る。好ましくは、閾値は、95%を超える特異性が得られるように設定される。
【0110】
上述の通り、シグナル比は、例えば、キャピラリー電気泳動後にピークを測定すること、またはRT-PCR後にCqを計算することを含む、様々な方法によって決定されることができる。
【0111】
一部の実施形態では、本発明の方法は、閾値比を提供することを含む。
【0112】
一部の実施形態では、閾値は、統計的に有意な値である。多くの場合、統計的有意性は、2つ以上の集団を比較して、信頼区間(CI)および/またはp値を決めることによって決定される。一部の実施形態では、統計的に有意な値は、約90%、95%、97.5%、98%、99%、99.5%、99.9%および99.99%の信頼区間(CI)を指し、一方、好ましいp値は、約0.1、0.05、0.025、0.02、0.01、0.005、0.001未満、または0.0001未満である。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。一部の実施形態によれば、閾値のp値は、最大で0.05である。
【0113】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、測定可能な値を指す場合、指定された値から+/-10%、より好ましくは+/-5%、さらにより好ましくは+/-1%、さらにより好ましくは+/-0.1%の変動を包含する。
【0114】
一部の実施形態では、本明細書に開示する方法の感度は、少なくとも約75%であり得る。一部の実施形態では、本方法の感度は、少なくとも約80%であり得る。一部の実施形態では、本方法の感度は、少なくとも約85%であり得る。一部の実施形態では、本方法の感度は、少なくとも約90%であり得る。
【0115】
一部の実施形態では、本明細書で使用される診断アッセイの「感度」は、検査で陽性の変異サンプルの割合(「真の陽性」の割合)を指す。したがって、アッセイによって検出されなかった変異個体は、「偽陰性」である。変異しておらず、アッセイで検査陰性のサンプルは、「真の陰性」と呼ばれる。診断アッセイの「特異性」は、1から偽陽性率を差し引いたものであり、「偽陽性」率は、突然変異がない検査で陽性のものの割合として定義される。特定の診断方法では、状態の確定診断が提供されない場合があるものの、その方法が診断に役立つ肯定的な指標を提供するのであれば、それで十分である。
【0116】
一部の実施形態では、本明細書に開示する方法の特異性は、少なくとも約65%であり得る。一部の実施形態では、本方法の特異性は、少なくとも約70%であり得る。一部の実施形態では、本方法の特異性は、少なくとも約75%であり得る。一部の実施形態では、本方法の特異性は、少なくとも約80%であり得る。
【0117】
キットとシステム
一部の実施形態では、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するためのキットが提供される。一部の実施形態では、DNAサンプル中の癌関連突然変異を検出するためのシステムが提供される。
【0118】
一部の実施形態では、キットおよびシステムは、本発明の方法によれば、癌関連変異を検出するためのものである。
【0119】
一部の実施形態では、キットは、DNAサンプルを消化するための少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼ、および制限エンドヌクレアーゼによる消化後の、癌変異部位を含む少なくとも1つの制限遺伝子座および少なくとも1つの対照遺伝子座の同時増幅のための複数のプライマー対を含む。
【0120】
一部の実施形態では、キットはさらに、増幅後の制限遺伝子座および対照遺伝子座のシグナル強度の比と予め定義された閾値比との比較に基づいて、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するようにコンピュータプロセッサに命令する、コンピュータソフトウェアを記憶するコンピュータ可読媒体を含む。
【0121】
一部の実施形態では、システムは、DNAサンプルを消化するための少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼと、制限エンドヌクレアーゼによる消化後の、癌変異部位を含む少なくとも1つの制限遺伝子座および少なくとも1つの対照遺伝子座の同時増幅のための複数のプライマー対と、増幅後の制限遺伝子座および対照遺伝子座のシグナル強度の比と予め定義された閾値比との比較に基づいて、DNAサンプル中の癌関連変異を検出するようコンピュータプロセッサに命令するコンピュータ可読媒体に記憶されたコンピュータソフトウェアと、を含む。
【0122】
一部の実施形態では、本発明によるコンピュータソフトウェアは、それらの同時増幅後の、各制限遺伝子座および各対照遺伝子座のシグナル強度を決定するステップ、各制限遺伝子座とそれに対応する対照遺伝子座のシグナル強度間の比を計算するステップ、計算された比を予め定義された閾値比と比較するステップ、およびその比較に基づいて、DNAサンプルが癌関連変異について陽性であるかどうかを出力するステップ、を実行するようにコンピュータプロセッサに命令する。一部の実施形態では、キットまたはシステムは、単一の癌関連変異の存在を検出するための、制限および対照遺伝子座の単一の対の増幅のためのプライマーを含む。他の実施形態では、キットまたはシステムは、複数の癌関連変異の存在を検出するための、複数の制限遺伝子座および対応する対照遺伝子座を増幅するためのプライマーを含む。
【0123】
一部の実施形態では、コンピュータソフトウェアは、リアルタイムPCRの実行の入力パラメータまたは生データとして受け取る。一部の実施形態では、コンピュータソフトウェアは、リアルタイムPCRの実行を分析して、シグナル強度およびシグナル比を決定するようにコンピュータプロセッサに命令する。
【0124】
コンピュータソフトウェアは、非一時的コンピュータ可読媒体に記憶されたプロセッサ実行可能命令を含む。コンピュータソフトウェアはまた、記憶されたデータを含み得る。コンピュータ可読媒体は、コンパクトディスク(CD)、磁気記憶装置、光学記憶装置、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、または任意の他の有形媒体などの有形コンピュータ可読媒体である。
【0125】
一部の実施形態では、キットは、制限酵素、制限遺伝子座および対照遺伝子座を増幅するためのプライマーの対、制限遺伝子座および対照遺伝子座の増幅産物を検出する手段、癌関連変異の決定を行うための取扱説明書、を含む。一部の実施形態では、取扱説明書は、電子取扱説明書であってもよい。
【0126】
一部の実施形態では、取扱説明書は、閾値シグナル比を提供してもよく、それを上回ると、サンプルが変異陽性であると決定される。他の実施形態では、取扱説明書は、閾値シグナル比を提供することができ、それを下回ると、サンプルが変異陽性であると決定される。
【0127】
一部の実施形態では、取扱説明書は、上に記載の方法ステップを実行するための指示を含み得る。
【0128】
一部の実施形態では、取扱説明書は、シグナル比と変異状態との間の相関を指導する指示を含み得る。
【0129】
一部の実施形態では、取扱説明書は、シグナル比を計算するための指示を提供することができる。
【0130】
一部の実施形態では、キットは、メチル化非感受性エンドヌクレアーゼを含む。
【0131】
一部の実施形態では、キットは、コンピュータソフトウェアをさらに含んでもよい。一部の実施形態では、コンピュータソフトウェアは、シグナル強度およびシグナル比のうちの少なくとも1つを計算するコンピュータソフトウェアであり得る。
【0132】
一部の実施形態では、キットは、制限遺伝子座および対照遺伝子座に相補的な蛍光ポリヌクレオチドプローブを含む。
【0133】
一部の実施形態では、キットは、本明細書に記載の制限遺伝子座および対照遺伝子座に相補的なプライマー対、および制限遺伝子座および対照遺伝子座内の部分配列に相補的な蛍光ポリヌクレオチドプローブを含む。
【0134】
一部の実施形態では、キットは、人工的な制限遺伝子座をDNAサンプルに導入するためのミスマッチプライマーを含む。
【0135】
一部の実施形態では、キットは、少なくとも1つのヌクレオチドプライマー対で満たされた1つ以上の容器を含む。一部の実施形態では、本発明のキットに含まれる各ヌクレオチドプライマー対は、制限遺伝子座または対照遺伝子座内の部分配列に相補的なプライマーを含んでもよく、当該各ヌクレオチドプライマー対は、制限または対照遺伝子座を含むゲノムの断片を選択的に増幅するように設計される。
【0136】
一部の実施形態では、キットは、上に記載の遺伝子座の組み合わせを選択的に増幅するためのプライマー対を含み得る。
【0137】
一部の実施形態では、キットは、キット中のプライマーを使用して増幅された遺伝子座の増幅産物を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブをさらに含み得る。各オリゴヌクレオチドプローブは、遺伝子座内の部分配列に相補的であり得、それにハイブリダイズすることが可能であり得る。一部の実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブは、蛍光標識され得る。
【0138】
一部の実施形態では、キットは、DNA消化、遺伝子座増幅、およびDNAポリメラーゼおよびヌクレオチド混合物などの増幅産物の検出に必要な少なくとも1つの追加の成分をさらに含み得る。
【0139】
一部の実施形態では、キットは、消化および増幅のための好適な反応バッファー、ならびに変異検出を行うための書面のプロトコールをさらに含み得る。書面のプロトコールは、DNA消化パラメータ、PCRサイクリングパラメータ、シグナル比分析、およびシグナル比閾値を含むが、これらに限定されず、本明細書に開示されたステップのいずれかを実行するための指示を含んでもよい。
【0140】
一部の実施形態では、キットは、組織または血漿からのDNA抽出のための材料をさらに含む。
【0141】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態をより十分に示すために提示される。しかしながら、それらは決して本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示された原理の多くの変形および修正を容易に考案することができる。
【実施例0142】
実施例1-固形組織由来のDNAにおける変異検出
肺癌腫瘍組織サンプル(n=72、腺癌、扁平上皮癌および小細胞癌を含む)および正常な肺組織サンプル(n=25)は、KRAS G12変異について、サンガーシーケンシングによって、および本発明によるリアルタイム(RT)-PCRと組み合わせた酵素的制限によって試験された。
【0143】
QIAamp(登録商標)DNAミニキットを使用して、DNAを組織サンプルから抽出した。G12コドン周辺のKRASの天然DNA配列には、制限部位が含まれないため、BstNI制限部位を導入する10サイクルの分析前PCRを実行し、次のプライマーを使用して、配列を修飾した。
フォワード 5’-GGATCATATTCGTCCACAAAATG(配列番号1)
リバース 5’-TATAAACTTGTGGTAGTTGGACCT(配列番号2)
分析前PCRのDNA量は4ngであった。
【0144】
BstNI制限部位の導入の前と後のG12コドン周辺の配列は、次の通りである(制限部位を導入するように変更されたヌクレオチドは太字で示し、導入された制限部位は下線を引く)。
【0145】
改変された配列はBstNIによって認識され、酵素との接触により大幅に切断されると予想される。斜体でマークされた1つ以上のヌクレオチドGを変化する変異が存在する場合、その遺伝子座は、もはやBstNIによって認識されなくなり、切断されない。
【0146】
BstNI部位の導入後、各DNAサンプルを、BstNIによる消化に供した。消化反応(総容積50マイクロリットル)には、消化バッファーで希釈した(1:100)PCR産物とBstNIが40マイクロリットル含まれた。60℃で2時間、消化を行った。
【0147】
消化されたDNAを定量的RT-PCRに供し、G12コドンを含む制限遺伝子座、およびBstNIの認識配列を含まず、この酵素でDNAサンプルを消化したときに無傷のまま残る対照遺伝子座を増幅した。
【0148】
制限遺伝子座の配列(G12コドンを太字で示す):
【0149】
制限遺伝子座は、第12染色体の位置25289485~25289577に対応する。
【0150】
対照遺伝子座の配列:
AGCAAGGTGAAGACTAACTTTTCTCTTGTACAGAATCATCAGGCTAAAT TTTTGGCATT ATTTCAGTCC TTGGAGAC(配列番号4)。
【0151】
対照遺伝子座は、第7染色体の位置121380844~121380921に対応する。
【0152】
増幅反応(総容積25マイクロリットル)には、10マイクロリットルの消化DNA、0.2μMのプライマー、dNTP、および反応バッファーが含まれた。増幅中の増幅産物の検出を可能にするため、各遺伝子座に対して、蛍光標識ポリヌクレオチドプローブを反応に添加した(FAMおよびJOE標識、それぞれ制限および対照遺伝子座に対して)。RT-PCR反応は、ABI 7500 FastDx装置で、次のPCRプログラムを使用して実行した:95℃、10分->45X(95℃、15秒->60℃、1分)。
【0153】
図1A~1Dは、例示的な定量的PCRプロットを示し、サイクル数の関数としてのプローブからの蛍光シグナルの変化を示す。これらの図は、G12V変異(図1A)、G12A変異(図1B)またはG12変異なし(図1C)を有する癌性肺組織由来のDNAサンプル、および正常な肺組織由来のDNAサンプル(G12変異なし)(図1D)での制限および対照遺伝子座のPCRプロットを示す。
【0154】
変異が存在するサンプルでは、制限遺伝子座がもはやBstINによって認識されなくなったため、酵素で消化したときにほとんど無傷のまま残り、制限遺伝子座が高効率で増幅された。それは、対照遺伝子座(全く切断されなかった)とほぼ同じサイクルで、またはそれより1~3サイクル遅れて上昇した。
【0155】
G12(癌性または正常)に変異がないサンプルでは、制限遺伝子座がBstNIによって大幅に切断され、増幅がほとんど見られなかった(図1Cおよび図1D)。
【0156】
各サンプルについて、制限遺伝子座のシグナル強度と対照遺伝子座のシグナル強度との間の比を以下のように計算した:制限遺伝子座および対照遺伝子座について定量化サイクル(Cq)を決定した。Cq値を、次の式に用いた。
2(対照遺伝子座のCq-制限遺伝子座のCq)
【0157】
この計算から得られた数値は、制限遺伝子座および対照遺伝子座の間のシグナル比を表す。
【0158】
図1Aでは、対照遺伝子座のCqは28.3であり、制限遺伝子座のCqは27.8であり、したがってシグナル比は1:0.7である。このシグナル比は、設定された閾値(1:500、以下でさらに詳しく説明する)よりも有意に高く、サンプル中にKRAS G12変異が存在することを示す。
【0159】
図1Bでは、対照遺伝子座のCqは28.5であり、制限遺伝子座のCqは31.3であり、したがってシグナル比は1:6.9である。このシグナル比も、閾値よりも有意に高く、サンプル中にKRAS G12変異が存在することを示す。
【0160】
図1C-対照遺伝子座のCqは27.7である。制限遺伝子座は、最小蛍光閾値を超えないため、Cqは計算することができず、「無限大」として決定される。このような場合、シグナル比の数値は1:16000に設定され、閾値(1:500)より有意に低い。図1Dは、同様のケースを表し、対照遺伝子座のCqが28であり、制限遺伝子座のCqが「無限大」である。したがって、シグナル比が1:16000である。どちらのサンプルも、KRAS G12変異について陰性であると判定される。
【0161】
結果:
サンガーシーケンシング:正常な肺組織サンプルにおいて、KRAS G12変異は同定されなかった。肺癌腫瘍組織サンプルの19%に、KRAS G12変異があることがわかった。
【0162】
酵素的制限およびRT-PCRアッセイ:制限遺伝子座および対照遺伝子座との間のシグナル比が1:500よりも高い(例えば1:200)ことで、G12変異の存在が示されるように、1:500のシグナル比の閾値を設定した。95%を上回る特異性を得るために、正常な肺および肺腫瘍組織の主要セットの分析後、シグナル比の閾値を1:500に設定した。各サンプルについて計算されたシグナル比データに基づいて、シーケンシングによってKRAS G12変異を有することが判明したすべての肺癌腫瘍組織サンプルも、G12変異を伴っていると同定された。正常な肺組織では、KRAS G12変異は同定されなかった。
【0163】
実施例2-血漿由来のDNAにおける変異検出
対照患者(肺癌を含まない)からの105の血漿サンプルおよび肺癌患者からの99の血漿サンプルを、上記の実施例1に記載のようにKRAS G12変異について試験した。
【0164】
血漿由来DNAのシグナル比の閾値を1:1000に設定し、制限遺伝子座および対照遺伝子座の間のシグナル比が1:1000(例えば、1:200)を超えると、G12変異の存在が示されようにした。
【0165】
健常者の血漿サンプルからのDNAがKRAS G12突然変異を含まないと仮定して、健康な(肺癌を有さない)および肺癌の患者から血漿サンプルの一次セットを試験した後、偽陽性のケースを最小化するために(95%を超える特異性を得るため)、シグナル比の閾値を1:1000とした。
【0166】
肺癌血漿の6%が、G12変異陽性として同定された。
【0167】
対照血漿の1%は、G12変異陽性として同定され、ケースの1%が偽陽性であることを示す。
【0168】
特定の実施形態の前述の説明は、本発明の一般的な性質を完全に明らかにするので、他の人は、現在の知識を適用することによって、過度の実験なしに、および一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を様々な用途に容易に修正および/または適合することができ、したがって、そのような適合および修正は、開示された実施形態の等価物の意味および範囲内で理解されるべきであり、そのように意図されている。本明細書で使用される表現または用語は、説明を目的とするものであり、限定を目的とするものではないことを理解されたい。開示された様々な化学構造および機能を実行するための手段、材料、およびステップは、本発明から逸脱することなく、多様な代替形態をとることができる。
【0169】
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。本明細書の記載から次の技術的思想が把握される。
(付記項1)
DNAサンプル中の癌関連変異を検出する方法であって、
(a)前記DNAサンプルを制限エンドヌクレアーゼによる消化に供して、制限エンドヌクレアーゼ処理DNAを得るステップと、
(b)前記制限エンドヌクレアーゼ処理DNAから、癌変異部位を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座を同時増幅し、それによって各遺伝子座の増幅産物を生成するステップと、
(c)前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の前記増幅産物のシグナル強度間の比を計算するステップと、
(d)ステップ(c)で計算された前記比を予め定義された閾値比と比較することによって、前記DNAサンプル中の前記癌関連変異を検出するステップと、を含む、方法。
(付記項2)
前記DNAが腫瘍組織に由来する、付記項1に記載の方法。
(付記項3)
前記DNAが血漿に由来する、付記項1に記載の方法。
(付記項4)
前記対照遺伝子座が、前記制限エンドヌクレアーゼの認識配列を欠く遺伝子座である、付記項1に記載の方法。
(付記項5)
前記DNAが天然DNAであり、前記制限遺伝子座が天然の制限遺伝子座であり、前記制限エンドヌクレアーゼがメチル化非感受性制限エンドヌクレアーゼであり、その認識配列が前記癌変異部位を含む、付記項1に記載の方法。
(付記項6)
前記癌関連変異が、EGFRエクソン19欠失(E747~A750)、EGFR L858置換、P53 H179置換、P53 G154置換、P53 R282置換、P53 R248置換、P53 R249置換およびBRAF V600置換、からなる群から選択される、付記項5に記載の方法。
(付記項7)
前記制限エンドヌクレアーゼが、MseI(EGFRエクソン19欠失)、MscI(EGFR L858置換)、FatI(P53 H179置換)、MspI(P53 G154置換、P53 R282置換、P53 R248置換)、HaeIII(P53 R249置換)およびTspRI(BRAF V600置換)、からなる群から選択される、付記項6に記載の方法。
(付記項8)
前記癌変異部位が制限エンドヌクレアーゼの認識配列内に天然に見出されず、前記DNAがPCR産物であり、前記制限遺伝子座が前記PCRによって前記DNAに人工的に導入された制限遺伝子座である、付記項1に記載の方法。
(付記項9)
前記癌関連変異が、KRAS G12置換およびEGFR L858置換からなる群から選択される、付記項8に記載の方法。
(付記項10)
前記制限エンドヌクレアーゼが、BtsIN(KRAS G12置換)およびAluI(EGFR L858置換)からなる群から選択される、付記項9に記載の方法。
(付記項11)
前記癌関連変異が、KRAS G12置換であり、前記制限エンドヌクレアーゼが、BtsINである、付記項8に記載の方法。
(付記項12)
前対照遺伝子座が、配列番号4に示される遺伝子座である、付記項11に記載の方法:
AGCAAGGTGAAGACTAACTTTTCTCTTGTACAGAATCATCAGGCTAAATTTTTGGCATTATTTCAGTCCTTGGAGAC。
(付記項13)
前記癌関連変異が、KRAS G12置換、EGFRエクソン19欠失(E747~A750)、EGFR L858置換、P53 H179置換、P53 G154置換、P53 R282置換、P53 R248置換、P53 R249置換およびBRAF V600置換、からなる群から選択される、付記項1に記載の方法。
(付記項14)
ステップ(b)が、リアルタイムPCRを使用して実行される、付記項1に記載の方法。
(付記項15)
前記方法が、前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の前記増幅産物の検出を補助するための蛍光プローブを添加することをさらに含む、付記項14に記載の方法。
(付記項16)
前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の前記増幅産物の前記シグナル強度間の比の前記計算は、各遺伝子座の定量化サイクル(Cq)を決定し、2(Cq対照遺伝子座-Cq制限遺伝子座)を計算することを含む、付記項15に記載の方法。
(付記項17)
対象が癌関連変異について陽性であると同定するための方法であって、
(a)前記対象からのDNAサンプルを制限エンドヌクレアーゼによる消化に供して、制限エンドヌクレアーゼ処理DNAを得るステップと、
(b)前記制限エンドヌクレアーゼ処理DNAから、癌変異部位を含む制限遺伝子座および対照遺伝子座を同時増幅し、それによって各遺伝子座の増幅産物を生成するステップと、
(c)前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の前記増幅産物のシグナル強度間の比を計算するステップと、
(d)ステップ(c)で計算された前記比を予め定義された閾値比と比較することによって、前記対象が前記癌関連変異について陽性であると同定するステップと、を含む、方法。
(付記項18)
DNAサンプル中の癌関連変異を検出するためのキットであって、
DNAサンプルを消化するための少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼと、
前記制限エンドヌクレアーゼによる消化後の、癌変異部位を含む少なくとも1つの制限遺伝子座および少なくとも1つの対照遺伝子座の同時増幅のための複数のプライマー対と、
増幅後の前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座のシグナル強度の比と予め定義された閾値比との比較に基づいて、前記DNAサンプル中の癌関連変異を検出するようにコンピュータプロセッサに命令するコンピュータソフトウェアを記憶するコンピュータ可読媒体と、を含む、キット。
(付記項19)
前記コンピュータソフトウェアが、前記コンピュータプロセッサに、前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の増幅後にそれらのシグナル強度を決定するステップ、前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の前記シグナル強度の間の比を計算するステップ、前記計算された比を予め定義された閾値比と比較するステップ、および、前記比較に基づいて前記DNAサンプルが前記癌関連変異について陽性であるかどうかを出力するステップ、を実行するように命令する、付記項18に記載のキット。
(付記項20)
前記少なくとも1つの制限遺伝子座および前記少なくとも1つの対照遺伝子座の増幅産物を検出するための複数のポリヌクレオチドプローブをさらに含む、付記項18に記載のキット。
(付記項21)
DNAサンプル中の癌関連変異を検出するためのシステムであって、
DNAサンプルを消化するための少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼと、
前記制限エンドヌクレアーゼによる消化後の、癌変異部位を含む少なくとも1つの制限遺伝子座および少なくとも1つの対照遺伝子座の同時増幅のための複数のプライマー対と、
増幅後の前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座のシグナル強度の比と予め定義された閾値比との比較に基づいて、前記DNAサンプル中の癌関連変異を検出するようにコンピュータプロセッサに命令するコンピュータ可読媒体に記憶されたコンピュータソフトウェアと、を含む、システム。
(付記項22)
前記コンピュータソフトウェアが、前記コンピュータプロセッサに、前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の増幅後にそれらのシグナル強度を決定するステップ、前記制限遺伝子座および前記対照遺伝子座の前記シグナル強度間の比を計算するステップ、前記計算された比を予め定義された閾値比と比較するステップ、および、前記比較に基づいて前記DNAサンプルが前記癌関連変異について陽性であるかどうかを出力するステップ、を実行するように命令する、付記項21に記載のシステム。
図1A
図1B
図1C
図1D
【配列表】
2023130376000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-07-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023130376000001.xml