(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013054
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】貯液量検出システム
(51)【国際特許分類】
G01F 23/26 20220101AFI20230119BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20230119BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G01F23/26 A
G01N27/02 D
G01N27/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116956
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】304024865
【氏名又は名称】学校法人杏林学園
(71)【出願人】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【弁理士】
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳史
(72)【発明者】
【氏名】桑名 克之
(72)【発明者】
【氏名】井上 将
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 拓
(72)【発明者】
【氏名】小林 翔太郎
【テーマコード(参考)】
2F014
2G060
【Fターム(参考)】
2F014AB02
2F014AB03
2F014AC00
2F014EA00
2G060AA07
2G060AE31
2G060AF06
2G060AF10
2G060AG10
2G060AG15
2G060FA01
2G060FA10
2G060JA06
2G060KA05
(57)【要約】
【課題】貯液量の連続的な変化を検出することが可能でかつ貯液容器内の視認性の低下を抑制し又は解消することが可能な貯液量検出システムを提供する。
【解決手段】医療用の貯液容器の一例としての貯血槽1の高さ方向に沿って延びるように、かつ貯血槽1の内部に露出しないようにして貯血槽1の壁部に設けられた少なくとも一つのシート状の電極部11と、電極部11を含む貯血槽1の対象位置に接続されて貯血槽1のインピーダンスを検出し、得られた検出値に基づいて、貯液量を代表する測定値を演算し、出力する測定器20とを備えた貯液量検出システム10において、電極部11を、貯血槽1の内部を目視可能な透明性を有する導電性シート12と、導電性シート12の一部の範囲に限定して配置された金属電極13とを含むように構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が目視可能な透明性を有する医療用の貯液容器の貯液量を検出するための貯液量検出システムであって、
前記貯液容器の高さ方向に沿って延びるように、かつ前記貯液容器の内部に露出しないようにして前記貯液容器の壁部に設けられた少なくとも一つのシート状の電極部と、
前記電極部を含む前記貯液容器の対象位置に接続されて前記貯液容器の前記貯液量に相当するインピーダンスを検出し、得られた検出値に基づいて、前記貯液量を代表する測定値を演算し、出力する測定手段と、を備え、
前記電極部は、前記貯液容器の内部を目視可能な透明性を有する導電性シートと、前記導電性シートの一部の範囲に限定して配置された金属電極とを含んでいる貯液量検出システム。
【請求項2】
前記電極部は、前記壁部の周方向に離れるようにして一対設けられ、
前記対象位置が各電極部上に設定されている請求項1に記載の貯液量検出システム。
【請求項3】
前記電極部間にはコンデンサが接続されている請求項2に記載の貯液量検出システム。
【請求項4】
前記金属電極は、前記導電性シートに対して前記高さ方向の下端部から上端部まで延びる高さ方向部を備えている請求項1~3のいずれか一項に記載の貯液量検出システム。
【請求項5】
同一の導電性シートに対して、前記高さ方向部が前記壁部の周方向に離れるようにして複数本設けられている請求項4に記載の貯液量検出システム。
【請求項6】
前記金属電極は、前記高さ方向部を相互に接続する連絡部をさらに備えている請求項5に記載の貯液量検出システム。
【請求項7】
前記金属電極の面積が前記導電性シートの面積に対して10%以上かつ50%以下の範囲である請求項1~6のいずれか一項に記載の貯液量検出システム。
【請求項8】
前記導電性シートの厚さが0.1mm以上かつ2.0mm以下の範囲である請求項1~7のいずれか一項に記載の貯液量検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の貯液容器、例えば体外循環装置に設けられる貯血槽等の貯液量を検出するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓外科手術等にて体外循環装置を利用する場合、その稼働中に、貯血槽内の血液の量(以下、貯液量という。)を記録することが求められる。貯血槽は、その内部を目視可能な透明性を有していることが通例であり、貯血量も目視によって把握可能である。一方、目視に依存しない液面管理を目的として、圧力センサや超音波センサを用いて貯血槽の液面レベルを検出する仕組みが提案されている(例えば特許文献1、2参照)。管体内の液面レベルを非接触で検出することを目的として、管体の外面に一対の電極を配置し、液面変化を電極間の静電容量の変化に置き換えて検出する静電容量センサも提案されている(特許文献3参照)。点滴バッグの外面に静電容量センサを貼り付けて点滴バッグ内の液面の変化を検出する装置も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3-91352号公報
【特許文献2】実開昭62-92834号公報
【特許文献3】特開平6-194212号公報
【特許文献4】特開2017-201272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の検出システムは、例えば、貯液量の下限を検出して警告を発するといった目的で構成され、貯液量の連続的な変化を検出するには必ずしも適していない場合がある。静電容量センサを用いる場合は貯液量の連続的な変化を検出できる可能性があるものの、電極の構成によっては十分な感度が得られないか、あるいは電極が貯血槽内の目視の妨げとなるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、貯液量の連続的な変化を検出することが可能でかつ貯液容器内の視認性の低下を抑制することが可能な貯液量検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る貯液量検出システムは、内部が目視可能な透明性を有する医療用の貯液容器の貯液量を検出するための貯液量検出システムであって、前記貯液容器の高さ方向に沿って延びるように、かつ前記貯液容器の内部に露出しないようにして前記貯液容器の壁部に設けられた少なくとも一つのシート状の電極部と、前記電極部を含む前記貯液容器の対象位置に接続されて前記貯液容器の前記貯液量に相当するインピーダンスを検出し、得られた検出値に基づいて、前記貯液量を代表する測定値を演算し、出力する測定手段と、を備え、前記電極部は、前記貯液容器の内部を目視可能な透明性を有する導電性シートと、前記導電性シートの一部の範囲に限定して配置された金属電極とを含んでいるものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る貯液量検出システムの一形態を示す図。
【
図3】電極部の構成を変更したさらに他の形態を示す図。
【
図4】電極部間にコンデンサを接続した形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の一形態に係る貯液量検出システムの概略構成を示している。
図1のシステム10は、体外循環装置に設けられた貯血槽1内の貯液量を検出するためのものである。貯血槽1は、患者から脱血回路に取り出された静脈血を一時的に蓄えるものであって、リザーバと呼ばれることもある。貯血槽1は、本発明が適用される医療用の貯液容器の一例である。貯血槽1は、槽本体2とその上端側を閉じる蓋体3とを含む。槽本体2は、内部が目視可能な透明性を有している。一例として、槽本体2は可視光域で透明な樹脂を素材とした成形品として構成される。槽本体2の透明性は、少なくとも内部に蓄えられた血液の液量、状態等を視認できる程度に確保される。具体例として、槽本体2はポリカーボネート樹脂を素材とした透明な成形品である。槽本体2の厚さはほぼ一定である。電気的特性の観点でいえば、槽本体2は絶縁体であって、かつ誘電体に区分される。そのような特性を有している限り、貯血槽1は、ポリカーボネート樹脂に限らず、ポリエチレン等の他の樹脂素材によって形成されてもよい。
【0009】
槽本体2の外周には貯液量を把握するための目盛4が設けられている。一方、蓋体3には、脱血回路と接続するための入口ポート5が、槽本体2の底部には送血回路と接続するための出口ポート6がそれぞれ設けられている。その他にも、薬液注入、ガスベント、温度測定といった各種の用途に向けられたポートが貯血槽1の適宜の位置に設けられてよい。なお、蓋体3は、必ずしも内部を目視可能な透明性を有することを要しない。ただし、槽本体2と同素材の成形品として蓋体3が構成されてもよい。
【0010】
以上のような貯血槽1に適用される貯液量検出システム10は、貯血槽1のインピーダンスが貯液量に応じて変化する性質を利用して貯液量の変化を連続的に検出するように設けられている。その機能を実現するため、貯液量検出システム10は、一対のシート状の電極部11と、それらの電極部11に接続された測定手段の一例としての測定器20とを備えている。各電極部11は、目盛4を挟むようにして左右対称的に配置され、かつ貯血槽1の高さ方向に沿って貯血槽1の下端部から上端部まで延びるように設けられている。電極部11は、貯血槽1の内部に露出しないようにして貯液槽1の壁部に設けられる。一例として、電極部11は槽本体2の外壁(壁部の外面)上に貼り付けられている。ただし、電極部11は、貯血槽1内に露出して血液に触れることがないように設けられていればよい。例えば、槽本体2の壁部内に埋め込まれるようにして電極部11が設けられてもよい。また、電極部11は貯血槽1の周方向に離れるように設けられていればよく、目盛4を挟むように配置されることは必ずしも必要ではない。目盛4は、貯血槽1に代えて、又は加えて電極部11に設けられてもよい。
【0011】
測定器20は、貯血槽1の貯液量に相当するインピーダンスとして、電極部11間のインピーダンス、より具体的にはキャパシタンスを検出し、得られた値に基づいて貯液量を代表する測定値を演算し、その測定値を所定の出力先に出力する。出力先は、一例として、モニタ21及び記憶装置22である。電極部11間のキャパシタンスは、貯血槽1の貯液量と相関するため、キャパシタンスを検出すれば、その値を手掛かりとして貯液量を把握することが可能である。測定器20は、キャパシタンスを検出し、得られた検出値に基づいて演算された測定値をモニタ21に表示し、あるいは記憶装置22に記録する。そのような機能はハードウエア回路によって提供されてもよいし、コンピュータハードウエアとソフトウエアとの組み合わせによって実現される論理的装置によって提供されてもよい。
【0012】
貯液量を代表する測定値は、貯液量それ自体でもよいし、貯液量と関連する適宜の物理量であってもよい。例えば、キャパシタンスの検出値を、貯血槽1における液面の高さ(液位)に換算した値を貯液量の測定値としてもよい。液位は、一例として、目盛4の指標値としてもよい。つまり、貯液量は、貯血槽1に蓄えられた血液の体積に限定されず、体積と相関する液位等の物理量によって表現されてもよい。体外循環装置のオペレータ等が貯液量を把握することが可能な限り、適宜の態様で貯液量の測定値が表現されてよい。モニタ21や記憶装置22に出力される情報には、キャパシタンスの検出値それ自体が含まれてもよい。
【0013】
次に、電極部11の詳細を説明する。各電極部11は、導電性シート12と、金属電極13とを組み合わせた構成を備えている。図では金属電極13をハッチングにて示している。導電性シート12は、貯血槽1の高さ方向に沿って下端部から上端部まで延びる長さの長方形状に形成されている。貯血槽1内の目視の妨げとならないように、導電性シート12は、貯血槽1の内部を目視可能な透明性をその全面に亘って有している。例えば、導電性シート12には、全面的に透明な導電性ゲルシートが用いられる。導電性シート12の透明度、あるいは透過率は、貯血槽1の内部を目視する妨げとならない範囲であればよい。導電性シート12は、槽本体2の外壁の湾曲に沿って変形可能な柔軟性を備えている必要がある。導電性シート12の厚さは特に制限されないが、過度に薄い場合には槽本体2に対する接着強度を確保することが困難となるおそれがあり、過度に厚い場合には槽本体2への貼り付け作業時にしわが入り易くなって作業性が損なわれるおそれがある。導電性シート12の厚さの好適範囲は導電性シート12の特性等に応じても変化するが、一例として、0.1mm以上かつ2.0mm以下の範囲とすることができる。
【0014】
導電性シート12の寸法は、貯血槽1のサイズに応じて適宜に調整されてよい。ただし、貯血槽1の高さ方向に関しては、貯血槽1内にて液面の変化を計測する対象とすべき範囲、例えば、貯血槽1内における液面の最低位置と最高位置の間を包含できるように導電性シート12の範囲が設定される。導電性シート12の幅(貯血槽1の周方向の寸法)に関しては、過度に小さいと貯液量の検出感度が不足するおそれがあり、過度に大きければ貯血槽1への貼り付け時にしわが入る等して作業性が損なわれ、あるいは貯血槽1側に貼り付け用のスペースを確保すること自体が困難となるおそれがある。このような観点を考慮して導電性シート12の幅を設定することが好ましい。
【0015】
金属電極13は、導電性シート12のみでは不足する導電率を補って、貯血槽1の貯液量の変化を十分な分解能で検出するために設けられている。金属電極13は非透明であって、これを通して貯血槽1の内部を目視することは不可能である。したがって、金属電極13は導電性シート12の一部の範囲に限定して、導電性シート12に重ね合わせて配置される。例えば、金属電極13は、その面積が、導電性シート12の面積に対して10以上かつ50%以下の範囲となるように設けられる。面積比が50%を超えると、金属電極13が貯血槽1の内部の視認性に与える影響が看過できない程度に損なわれるおそれがある。面積比が10%未満では、金属電極13による導電率の改善効果が十分には得られないおそれがある。金属電極13は、導電性を示す限り適宜の材質にて構成されてよい。一例として、アルミニウム製の1本のテープ状電極13aを金属電極13として用いることができる。
【0016】
金属電極13は、導電性シート12の適宜の位置に適宜数設けられてよい。
図1の例では、1枚の導電性シート12の一方の長辺(高さ方向に延びる側縁)に沿って1本のテープ状電極13aを貼り付けることにより1本の金属電極13が設けられている。また、各電極部11において、金属電極13は電極部11の並び方向(貯血槽1の周方向)に関して互いに遠方の側縁に位置している。金属電極13は、導電性シート12の下端部から上端部まで設けられることにより、その全長は、導電性シート12の高さ方向全長に等しい。この場合、テープ状電極13aが高さ方向部の一例に相当する。ただし、貯液量の分解能が必要十分に確保できる限りにおいて、テープ状電極13aは、導電性シート12よりも高さ方向において幾らか短く設定されてもよい。
【0017】
一方、
図2及び
図3の例では、同一の導電性シート(1枚の導電性シート)12の左右の側縁のそれぞれに沿って1本ずつテープ状電極13aが貼り付けられるとともに、それらのテープ状電極13aを相互に接続するテープ状電極13bが導電性シート12の上端部(
図2)、又は下端部(
図3)に沿って配置されている。それらのテープ状電極13a、13bにより、1枚の導電性シート12の3辺に沿って金属電極13が設けられている。テープ状電極13aは、金属電極13における高さ方向部の一例に、テープ状電極13bは金属電極13における連絡部の一例にそれぞれ相当する。テープ状電極13aは、同一の導電性シート12に対して、貯血槽1の周方向に離れるように設けられていれば足り、導電性シート12の両側縁に配置されることは必ずしも必要ではない。3本以上のテープ状電極13aが同一の導電性シート12上に設けられてもよい。
【0018】
テープ状電極13bは
図2又は
図3に示した位置に限らず、導電性シート12上の適宜の位置に設けられてよい。1枚の導電性シート12上に複数のテープ状電極13bが設けられてもよい。例えば、
図2に想像線で示したように、連絡部としての複数のテープ電極部13bが、テープ状電極13aの高さ方向の中間の複数箇所、及び下端部に追加さrえることにより、金属電極13を梯子状に構成してもよい。テープ状電極13bの追加数及び位置は
図2の想像線の例に限らず、適宜に変更可能である。なお、
図2及び
図3に例示したように一つの金属電極13を、複数のテープ状電極部13aによって構成し、あるいは複数のテープ状電極部13aと1本以上のテープ状電極部13bとの組み合わせによって構成する場合には、それらのテープ状電極部13a、13bの合計面積が導電性シート12のそれに対して上述した10~50%の範囲に設定されることが好ましい。
【0019】
キャパシタンスの測定においては、インピーダンスの絶対値と、電流と電圧の位相差から、実数部のレジスタンス(R)と虚数部のリアクタンス(1/ωC)に分けられる。貯血槽1の液面の上昇によりキャパシタンスの値は増加し、リアクタンスが変化する。この場合のインピーダンスには実数部のレジスタンス成分も含まれ、キャパシタンスの値には損失が生じる。また、液面の高さが変化するとレジスタンスも変化し、電流と電圧の位相差も一定ではなくなる。特に、キャパシタンスの値が小さい場合には、レジスタンスや浮遊容量の影響を受けやすい。そのような影響を抑えるため、
図4に示したように、電極部11間にコンデンサ14が並列に追加接続されてもよい。これにより、位相の安定、浮遊容量、レジスタンスの影響を極力低く抑え、測定精度の安定性を向上させることができる。コンデンサ14の容量は一例として100pF程度とすることができる。
【0020】
電極部11と測定器20との接続には、一例として
図1~
図3に示したように、先端にクリップ23aを備えたコード23が用いられてよい。クリップ23aは一例として金属電極13を挟み込むようにして電極部11と接続される。ただし、電極部11の他の位置にクリップ23aが装着されてもよい。電極部11上の適宜の位置に端子部を設け、これをコード23と接続するものとしてもよい。端子部は、ねじを用いた構造、ボタン状、又はスナップ状等の適宜の形態で設けられてよい。あるいは、電極部11にコード23の一端部が直結され、コード23の反対側の端部が測定器20に対して着脱自在に連結されてもよい。
【0021】
以上の形態によれば、電極部11に透明な導電性シート12を用いるとともに、その導電率を導電性シート12の一部に限定的に配置される金属電極13にて補うようにしているので、貯液量の連続的な変化を十分な分解能で検出することが可能な検出感度を確保しつつ、貯血槽1内の視認性の低下を抑制することが可能である。
【0022】
本発明は上記の形態に限定されず、各種の変形又は変更が施された形態にて実施されてよい。例えば、上記の形態では、一対の電極部11を測定器20と接続してキャパシタンスを検出しているが、単一の電極部11を利用するようにシステム10の構成が変更されてもよい。その場合、電極部11と、貯血槽1にて電極部11の代替として利用可能な適宜の部位、例えば入口ポート5に取り付けられる温度測定プローブ等にコード23を接続してそれらの間のキャパシタンスを測定器20にて検出してもよい。要するに、液面が変化する方向である貯血槽1の高さ方向に沿って少なくとも一つの電極部11が設けられていれば、その電極部11を含む貯血槽1の対象位置間にてインピーダンスを検出できるように測定器20を接続すれば、本発明に従って貯液量を検出することが可能である。貯液量の検出対象となる貯液容器は、体外循環装置の貯血槽に限定されず、例えば限外濾過における廃液等、体外に取り出された各種の液種を蓄えるための容器、心筋保護液等の体外に供給されるべき液種を蓄えるための容器を対象としてもよい。硬質樹脂製の剛体の容器に限らず、可撓性を含んだ廃液バッグ等が検出対象の容器とされてもよい。
【0023】
次に、表1を参照して、貯血槽の貯液量とキャパシタンスとの関係を検証した実験例を、その対比のために実施した比較例とともに説明する。表1の実験例1~10は、上記形態の貯液量検出システム10により、貯血槽1の液面位置を代えてキャパシタンスを測定した結果を示している。
【0024】
【0025】
実験に用いた貯血槽はポリカーボネート樹脂製であり、その比誘電率は2.9~3.1の範囲である。キャパシタンスは、貯血槽の液面がその下限付近の液位Aにある場合、及び上限付近の液位Bにある場合の2段階で測定した。測定に用いた電源周波数は1MHzである。液位Aは目盛で1cmの位置に液面がある状態、液位Bは目盛で18cmの位置に液面がある状態である。貯血槽の容量は4Lであり、貯液量が許容範囲の最大値のときの目盛は23cmである。
【0026】
実験例1~10は上記形態の貯液量検出システム10を用いたときの液位A、Bにおけるキャパシタンスを測定し、それらのキャパシタンスの差分を求めた結果を示している。電極部の構成は、実験例1~4が一対の電極部のそれぞれの導電性シートに1本のテープ状電極(金属テープ)を金属電極として貼り付けた
図1の形態に相当し、実験例5~10が一対の電極部のそれぞれの導電性シートに1本のテープ状電極を金属電極として貼り付けた
図2の形態(ただし、2本のテープ状電極部13aがそれらの上端部のテープ状電極部13bにて相互に接続され、それ以外の位置にはテープ状電極部13bが存在しない形態)に相当する。実験例2、4、6、8及び10では、
図5に例示したように電極部間に100pFのコンデンサを並列に接続し、実験例1、3、5、7及び9ではコンデンサを省略した。電極部の透明導電性シートには、積水化成品工業株式会社のテクノゲル(登録商標)を使用し、その幅は40mmとした。導電性シートの厚さは、実験例1、2、5及び6で1.0mm、実験例3、4、7~10で0.3mmとした。金属電極には、幅5mmのアルミニウム箔からなるテープ状電極を使用し、これを導電性シートの表面に貼り付けた。テープ状電極1本当たりの導電性シートに対する面積比は12.5%である。
図2の形態の場合(実験例5~10)、金属電極の合計面積は導電性シートのそれに対して26.4%(高さ方向の2本のテープ状電極13aの合計面積は25%)である。貯血槽には、測定液体として生理的食塩水(実験例1~8)、又はヘマトクリット25%の牛血液(実験例9、10)を蓄えた。
【0027】
一方、実験例1~10との対比のため、電極部を不透明な導電性布テープのみによって構成した比較例1及び2と、電極部を、透明導電性シートのみで構成し、金属電極を設けない比較例3及び4についても生理的食塩液を用いて液位A、Bのそれぞれのキャパシタンスを測定し、その差分を求めた。なお、比較例2は電極部間に100pFのコンデンサを並列接続し、比較例1、3及び4ではコンデンサを接続していない。また、比較例3の導電性シートは実験例1、2、5及び6の電極部に用いた導電性シートと同じであり、比較例4の導電性シートは実験例3、4、7~10の電極部に用いられた導電性シートと同じである。
【0028】
実験結果の考察は以下の通りである。まず、比較例1、2について説明すると、いずれの場合の液位A、Bで検出されたキャパシタンス間の差分は20pFを超えている。差分は貯液量の分解能と関連し、差分が大きいほど分解能も高い。比較例1、2によれば貯液量を実用的に十分な分解能で検出できることが確認されており、その差分20pFを分解能の目安とすることができる。しかしながら、比較例1、2に用いた不透明な導電性布テープは貯血槽の外壁を覆い隠すため、貯血槽内の視認性に問題が生じる。なお、比較例1、2の対比から明らかなように、コンデンサの有無により、液位A、Bのそれぞれのキャパシタンスの絶対値は異なるが、差分にはほとんど影響がない。一方、電極部を透明な導電性シートのみで構成した比較例3、4については、差分が20pFを大きく下回っており、十分な分解能が得られないことが確認された。
【0029】
次に、透明導電性シートに金属電極を付加した実験例1~10については、いずれの場合も目安としての20pFに近い結果が得られており、比較例3、4に対して大きな改善が認められた。特に、
図2の形態に相当する実験例5~8については、概ね20pF程度か又はこれを超える分解能が得られている。
図1の形態に相当する実験例1~4でも、目安の20pFに迫る分解能が得られており、金属電極の追加が分解能の確保に有効であることが確認された。実験例1~8のいずれでも、金属電極は電極部の一部に限定して設けられており、透明導電性シートを介して貯血槽内を十分に目視できることも併せて確認された。測定対象の液体を変更した実験例9、10においても、生理的食塩液を対象としかつ電極部の構成を同じくする実験例5~8より幾らか分解能が低下する結果が得られた。しかしながら、キャパシタの差分は実験例1~4よりも大きい。しかも、実験例5~8との差は、任意の貯液量による校正を実施することにより十分に補うことが可能であって、実用可能な範囲である。
【0030】
上述した実施の形態及び変形例のそれぞれから導き出される本発明の各種の態様を以下に記載する。なお、以下の説明では、本発明の各態様の理解を容易にするために添付図面に図示された対応する構成要素を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0031】
本発明の一態様に係る貯液量検出システムは、内部が目視可能な透明性を有する医療用の貯液容器(1)の貯液量を検出するための貯液量検出システム(10)であって、前記貯液容器の高さ方向に沿って延びるように、かつ前記貯液容器の内部に露出しないようにして前記貯液容器の壁部に設けられた少なくとも一つのシート状の電極部(11)と、前記電極部を含む前記貯液容器の対象位置に接続されて前記貯液容器の前記貯液量に相当するインピーダンスを検出し、得られた検出値に基づいて、前記貯液量を代表する測定値を演算し、出力する測定手段(20)と、を備え、前記電極部は、前記貯液容器の内部を目視可能な透明性を有する導電性シート(12)と、前記導電性シートの一部の範囲に限定して配置された金属電極(13)とを含んでいるものである。
【0032】
上記の態様によれば、貯液容器の壁部に対して、高さ方向に沿って延びるように、かつ貯液容器の内部に露出しないように電極部が設けられているため、その電極部を含む対象位置間のインピーダンスは貯液容器内の貯液量に応じて変化する。そのため、インピーダンスの検出値を手掛かりとして貯液量を取得し、その変化を連続的に検出することが可能である。電極部に透明な導電性シートを用いているため、貯液容器内を目視して貯液量を確認することができる。また、透明な導電性シートに加えて金属電極を設けることにより、貯液量の変化を検出するために必要な分解能を確保することも可能である。金属電極が導電性シートの一部に限定して設けられるため、金属電極による貯液容器内の視認性の低下を抑制することもできる。
【0033】
上記態様において、前記電極部は、前記壁部の周方向に離れるようにして一対設けられ、前記対象位置が各電極部上に設定されてもよい。これによれば、貯液容器内の貯液量の変化を、一対の電極部間のインピーダンスの変化として十分な分解能で検出することができる。
【0034】
前記電極部間にはコンデンサ(14)が接続されてもよい。コンデンサを接続することにより、インピーダンス検出時の位相の安定、浮遊容量、レジスタンスの影響を極力低く抑え、測定精度の安定性を向上させることができる。
【0035】
前記金属電極は、前記導電性シートに対して前記高さ方向の下端部から上端部まで延びる高さ方向部(13a)を備えてもよい。これによれば、導電性シートの高さ方向の略全域に亘って金属電極を機能させて検出感度、分解能の安定化、均質化を図ることができる。
【0036】
同一の導電性シートに対して、前記高さ方向部が前記壁部の周方向に離れるようにして複数本設けられてもよく、さらに、前記金属電極は、前記高さ方向部を相互に接続する連絡部(13b)を備えてもよい。これらの態様によれば、分解能をさらに向上させることが可能である。
【0037】
前記金属電極の面積が前記導電性シートの面積に対して10%以上かつ50%以下の範囲であってもよい。金属電極の面積を上記の範囲に設定すれば、金属電極による分解能の向上効果を確実に発揮させ、かつ金属電極による視認性の低下を実用上支障がない範囲にとどめることができる。
【0038】
前記導電性シートの厚さが0.1mm以上かつ2.0mm以下の範囲であってもよい。導電性シートの厚さを上記の範囲に設定すれば、導電性シートを貯液容器に貼り付ける際の接着強度を確保しつつ、貼り付け作業時のしわの発生を防いで作業性を良好に確保することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 貯血槽(貯液容器)
10 貯液量検出システム
11 電極部
12 導電性シート
13 金属電極
13a テープ状電極(高さ方向部)
13b テープ状電極(連絡部)
14 コンデンサ
20 測定器(測定手段)