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特開2023-130550空気電池システムおよび空気二次電池を充放電させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130550
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】空気電池システムおよび空気二次電池を充放電させる方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20230913BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M10/48 Z
H01M12/08 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034881
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】井上 実紀
(72)【発明者】
【氏名】荻原 克幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【テーマコード(参考)】
5H030
5H032
【Fターム(参考)】
5H030AA01
5H030FF51
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032CC02
5H032CC16
5H032CC22
5H032HH00
(57)【要約】
【課題】 電解液の蒸発を防いで長期間に亘り安定した電池特性を有する空気二次電池システムを提供する。
【解決手段】 空気電池システム100は、空気極40及び負極60を含む電極群8をアルカリ電解液と共に収容する空気二次電池2と、空気二次電池を充放電させるときに空気二次電池2に空気を供給するポンプ3と、空気の露点を調整する調整手段4とを備える。空気二次電池は、空気流が通過して空気極と作用するように構成された空気流路22と、空気流路に向けて空気が導入される入口81Aと、空気流が排出される出口82Aとを備える。調整手段4は、導入される空気の露点を1次側露点として測定し、排出される前記空気流の露点を2次側露点として測定し、2次側露点に基づいて1次側露点を調整する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極及び負極を含む電極群をアルカリ電解液と共に内部に収容する空気二次電池と、
前記空気二次電池を充電または放電させるときに前記空気二次電池の内部に空気を供給する供給手段と、
前記空気の露点を調整する調整手段と、
を備えた空気電池システムであって、
前記空気二次電池は、空気流が通過して前記空気極と作用するように構成された空気流路と、前記空気流路に向けて空気が導入される供給口と、前記空気流が排出される排出口と、を備え、
前記調整手段は、導入される空気の露点を1次側露点として測定し、排出される前記空気流の露点を2次側露点として測定し、前記2次側露点に基づいて前記1次側露点を調整する、空気電池システム。
【請求項2】
前記調整手段は、第1期間に亘り前記2次側露点を間隔毎にまたは連続的に測定して平均値を算出し、前記第1期間の後の第2期間において、前記1次側露点が前記平均値と同じになるように、前記1次側露点を調整する、請求項1記載の空気電池システム。
【請求項3】
前記調整手段は、前記1次側露点が前記2次側露点と同じになるように、前記1次側露点を調整する、請求項1記載の空気電池システム。
【請求項4】
前記調整手段は、前記空気二次電池が休止状態にあるとき、前記2次側露点が所定値より高いときは前記1次側露点を下げ、または、前記2次側露点が前記所定値より低いときは前記1次側露点を上げることにより、前記2次側露点を前記所定値に近接させる、請求項1から3のいずれか一に記載の空気電池システム。
【請求項5】
前記所定値は、前記アルカリ電解液の濃度を適正に維持可能な空気の露点である、請求項4記載の空気電池システム。
【請求項6】
アルカリ電解液と共に収容される空気極及び負極を含む電極群と、空気流が通過して前記空気極と作用するように構成された空気流路と、空気が前記空気流路に向けて導入される供給口と、前記空気流が排出される排出口と、を備える空気二次電池を充放電させる方法であって、
導入される空気の露点を1次側露点として測定する1次側測定工程と、
排出される前記空気流の露点を2次側露点として測定する2次側測定工程と、
前記2次側露点に基づいて、前記1次側露点を調整する調整工程と、を含む方法。
【請求項7】
前記2次側測定工程は、第1期間に亘り前記2次側露点を間隔毎にまたは連続的に測定して前記第1期間の平均値を算出し、前記平均値を前記2次側露点として更新する工程を含み、
前記調整工程は、前記第1期間の後の第2期間において、前記1次側露点が更新された2次側露点と同じになるように、前記1次側露点を調整する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記調整工程は、前記空気二次電池が休止状態にあるとき、前記2次側露点を所定値と比較する工程と、前記2次側露点と前記所定値との比較結果に基づき、前記2次側露点が前記所定値になるまで、前記1次側露点を調整する工程とを含む、請求項6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池システムおよび空気二次電池を充放電させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に、Li、Zn、Al、Mgなど種々の金属を負極に用いる電池であり、正極活物質を電池内に備える必要がないため、エネルギー密度が高く、小型化・軽量化が容易であることから注目を集めている。また、繰り返し充放電可能な空気二次電池は、電動車両などの駆動用電源や、自然エネルギーの蓄電用途としての利用が期待されている。なかでも、負極に水素吸蔵合金や金属亜鉛を用い、電解液にアルカリ水溶液を用いる空気二次電池は、高いエネルギー密度と安全性とを両立する電池として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-204300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の空気二次電池は、充電時の空気極の酸化劣化や、負極金属の溶解析出に伴う容量低下、電解液の炭酸劣化などにより、長期間に亘り安定した充放電反応を行うことができなかった。また、放電時に必要な酸素(空気)を電池内部に送り込む構造やシステムの最適化はなされていなかった。
【0005】
また、空気二次電池では、供給する空気の湿度が低すぎると電解液が乾燥してアルカリ水溶液の濃度が上昇して、電池抵抗の上昇や腐食反応による材料劣化が起きることがある。一方、供給する空気の湿度が高すぎると電解液が湿潤してアルカリ水溶液の濃度が低下し、電池の電気容量の低下や電解液の漏液が生じることがある。電解液の濃度を変化させない最適な空気の湿度は、電池の周囲温度環境や、充電状態、劣化状態、または、電池が組み込まれたモジュールの動作条件などに応じて変化する。そのため、電池の充放電条件のみから調湿条件を決めるだけでは、長期に亘り安定して動作させることが難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、その目的は、長期間に亘って電池特性が安定する空気二次電池システム、及び空気二次電池を充放電させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の空気電池システムは、空気極及び負極を含む電極群をアルカリ電解液と共に内部に収容する空気二次電池と、前記空気二次電池を充電または放電させるときに前記空気二次電池の内部に空気を供給する供給手段と、前記空気の露点を調整する調整手段と、を備えた空気電池システムであって、前記空気二次電池は、空気流が通過して前記空気極と作用するように構成された空気流路と、前記空気流路に向けて空気が導入される供給口と、前記空気流が排出される排出口と、を備え、前記調整手段は、導入される空気の露点を1次側露点として測定し、排出される前記空気流の露点を2次側露点として測定し、前記2次側露点に基づいて前記1次側露点を調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気電池システムによれば、長期間に亘り安定した電池特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係る空気電池システムを示すブロック図である。
図2図1に示す空気二次電池の構成を示す概略図である。
図3】空気二次電池の充放電時における空気電池システムの制御を示すフローチャートである。
図4】充放電サイクル数に対するセル電圧の変化の様子を示す。
図5】休止状態にある空気二次電池に対する空気電池システムの制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態を、図面を参照して以下に説明する。
【0011】
図1に、本実施の形態に係る空気電池システム100の概略を示す。図1に示すように、空気電池システム100は、空気二次電池2と、空気二次電池2に空気(酸素)を供給するポンプ3と、空気二次電池2に送る空気の温度及び湿度を調整する調整ユニット4と、を備える。
【0012】
図2に示すように、空気二次電池2は、例えば3つの空気二次電池セル(以下、電池セルと称す)1が積層されて直列接続され、電池ケース5に収容されている。各電池セル1は、正極側から負極側に向けて、順に、流路板20、撥水膜30、空気極(正極)40、セパレータ50、負極60、負極集電板70を備える。空気極(正極)40は、セパレータ50を介して負極60と対向する。
【0013】
流路板20は、矩形のステンレス板からなる。流路板20は、空気極40と対向する面に、フォトエッチング加工により空気流路22が形成される。空気流路22には、空気極40と反応する空気が面内方向に沿って流れる。さらに、流路板20は、ニッケルがメッキされて導電性を呈する。空気流路22は、面内において平面視がサーペンタイン形状の溝である。また、流路板20は、空気流路22に空気を導入する供給路23と、空気流路22を流れた空気が外部に排出される排出路24とが形成されている。供給路23及び排出路24は、それぞれ流路板20を厚み方向に貫通する。流路板20は、電池ケース5の正極端子板11側に位置する。
【0014】
さらに、撥水膜30が、流路板20の面に対し、枠体32によってガス拡散膜31と共に固定される。撥水膜30は、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)からなる微多孔性樹脂フィルムであり、空気流路22を流れる空気を空気極40へ通過させると共に、空気極40側にあるアルカリ電解液の空気流路22への漏出を防止する。詳細には、撥水膜30は、空気流路22の面上の溝として形成された開口を閉塞しながらも、供給路23及び排出路24を被覆せずに流路板20に固定される。
【0015】
ガス拡散膜31は、ポリオレフィン繊維からなる不織布からなり、空気流路22を流れて空気極40の充放電反応に必要な空気を、空気極40全体に行き渡らせる。
【0016】
枠体32は、矩形のステンレス板から作製され、フォトエッチング加工の後、ニッケルメッキが行わる。枠体32は、撥水膜30に対向する枠面が平面状であり、撥水膜30及びガス拡散膜31を流路板20に固定すると共に、枠体32の内側に空気極40を包囲する。
【0017】
空気極40は、多数の空孔を有する導電性の極板基材と、空孔内及び極板基材の表面に保持される空気極合剤(正極合剤)とからなる。このような極板基材としては、例えば、発泡ニッケルやニッケルメッシュが用いられる。空気極合剤は、酸化還元触媒、導電剤及びフッ素樹脂を含む。酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものであれば特に限定されない。好ましい酸化還元触媒としては、パイクロア型のビスマスルテニウム酸化物が用いられる。
【0018】
セパレータ50は、空気極40及び負極60の間に配置されて空気極40及び負極60を電気的に絶縁する。セパレータ50は、親水化処理を施したポリアミド繊維製の不織布又はポリオレフィン繊維製の不織布にて作成され、アルカリ電解液を内部に含む。アルカリ電解液は、5mol/Lの水酸化カリウム水溶液である。
【0019】
負極60は、多数の空孔を有する導電性の負極基材と、空孔内及び負極基材の表面に保持された負極合剤とからなる。負極基材としては、例えば発泡ニッケルが用いられる。負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末と、導電剤と、結着剤とを含む。導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック等を用いることができる。水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が用いられる。
【0020】
負極集電板70は、導電性部材からなり、一方の面が負極60に電気的に接続され、多方の面が直列接続される隣接する電池セル1の正極側に、または電池ケース5の負極端子板12に電気的に接続される。
【0021】
空気極40、セパレータ50及び負極60は、電極群8を構成し、ガスケット33により流路板20に固定され、一つの電池セル1を構成する。ガスケット33は、矩形のポリプロピレンシートに対して打ち抜き、端部にエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)またはシリコンゴムのシート(不図示)を重ねて作製される。
【0022】
さらに、流路板20の供給路23及び排出路24は、それぞれ一の電池セル1内において、流路板20から負極集電板70にかけて線条に延びて、電池セル1内の吸気路81及び排気路82をそれぞれ形成する。吸気路81では、ポンプ3により入口81Aを介して流れ込む空気が空気流路22に向けて流れる。一方、排気路82では、空気流路22を流れた空気流が出口82Aより外部に排出される。
【0023】
3つの電池セル1が直列接続されて空気二次電池2を構成し、電池ケース5に収納される。電池ケース5の一端に正極端子板11が、他端に負極端子板12が電気的に接続される。さらに、空気電池システム100は、空気二次電池2の充放電を制御するメイン制御ユニット90を有する。メイン制御ユニット90は、空気二次電池2の充電、放電、及び休止のいずれかを選択するスイッチ(不図示)を含む。なお、本開示において「空気二次電池の休止状態」とは、空気二次電池2に対し充電及び放電のどちらも行われていない状態を意味する。
【0024】
ポンプ3は、供給手段として、1次側流路41を介して空気二次電池2の吸気路81と連通する。ポンプ3は、外気を取込み、取込んだ外気を空気流として空気二次電池2に向けて吐出する。ポンプ3は、本実施の形態では、取込んだ空気を加圧して送出するコンプレッサーからなる。ポンプ3は、空気二次電池2の充放電時に加え、空気二次電池2の休止時においても、空気二次電池2に空気を送出することが可能である。
【0025】
調整ユニット4は、調整手段として、1次側露点計14と、2次側露点計15と、露点制御ユニット13と、を備える。1次側露点計14は、1次側流路41において、ポンプ3と空気二次電池2の吸気路81の入口81Aとの間に配置される。1次側露点計14は、静電容量式や鏡面冷却式等の適宜の種類の露点計からなり、温度と相対湿度とから露点を計算するものでも構わない。1次側露点計14は、空気二次電池2の入口81Aに吸い込まれる直前の空気の露点を測定し、測定された露点を1次側露点として露点制御ユニット13に出力する。2次側露点計15は、1次側露点計14と同じ種類の露点計からなり、空気二次電池2の排気路82の出口82A近傍に配置される。2次側露点計15は、空気二次電池2から外に排出される空気流の露点を測定し、2次側露点として露点制御ユニット13に出力する。2次側露点計15を通過した空気流は、空気電池システム100の外部に放出される。露点は、空気中で物体が冷却していって表面に露ができはじめるときの表面の温度をいい(理化学辞典)、空気流の温度、及び空気流に含まれる単位体積当たりの絶対水分量に依存する。
【0026】
露点制御ユニット13は、1次側流路41においてポンプ3と1次側露点計14との間に配置される。露点制御ユニット13は、ヒーター、冷却器、加湿器、及び乾燥器を含み、測定された1次側露点及び2次側露点に基づき、ポンプ3から送出されてくる空気流を加熱もしくは冷却し、または加湿若しくは乾燥させて、空気流の露点、すなわち1次側露点を調整して空気二次電池2に向けて供給する。
【0027】
次に、空気二次電池2を充電または放電させるときの空気電池システム100の動作について、図3を参照しながら説明する。メイン制御ユニット9により空気二次電池2の充電または放電が開始されると(ステップS1)、ポンプ3が稼働して空気二次電池2へと空気流を供給する(ステップS2)。供給される空気は、室温環境下の空気を、コンプレッサーで加圧した後、ソーダライムを通してCOを除去し、マスフローメーターで流量を制御し、温度調節されたイオン交換水中をバブリング通気させることで湿度を調整する。また、イオン交換水の温度はチラーを用いて制御する。このように湿度が調節された空気流を、25℃の恒温槽に配置した充電中または放電中の空気二次電池2に導入する。
【0028】
空気流は、各電池セル1の空気流路22を流れ、排気路82から2次側露点計15を経て空気二次電池2の外部に排出される。このとき、空気二次電池2の内部では、以下の反応が生じる。
正極(空気極):1/2O + HO + 2e ⇔ 2OH
負極: 2MH + 2OH ⇔ 2HO + 2M + 2e
全反応: 2MH + 1/2O ⇔ 2M + H
なお、上式において、Mは水素吸蔵合金である。
【0029】
空気二次電池2は放電されるとき、空気極40で酸素を還元して水酸化物イオンを生成し、負極60の水素吸蔵合金から放出されたプロトンと反応するので、アルカリ電解液に含まれる水分量が増加する。一方、空気二次電池2を充電するときは、上記とは逆の反応が生じる。則ち、空気二次電池2の充放電に伴いアルカリ電解液の濃度変化が起きる。
【0030】
また、アルカリ電解液は、空気流そのものの湿度によっても濃度は変化する。アルカリ水溶液を電解液として使用する電池では、電導度を高めるために、10mol/kg程度の濃度の水溶液を用いることが一般的である。このとき、アルカリ水溶液の分圧は、純水の分圧に対し約50%となる。例えば、相対湿度80%の空気を電池2に供給すると電解液は湿潤し、相対湿度20%の空気を電池に供給すれば電解液は乾燥する。この電解液の濃度変化は、1次側露点及び2次側露点をそれぞれ測定する(ステップS3)ことで定量化できる。1次側露点は、電池ケース5の入口81Aに入る直前の空気流から測定する。一方、2次側露点は、電池ケース5の出口82Aから排出された直後の空気流から測定する。
【0031】
ここで、2次側露点は、周囲温度環境や充電状態、劣化状態、また電池が組み込まれたモジュールの動作条件(例えば充放電時の電流値)などに応じて変化する。すなわち、電池が満充電状態に近いほど電解液の濃度が上昇しているため2次側露点は低下し、周囲の温度が高く充放電のレートが早い場合には電池温度の上昇で2次側露点は上昇する。
【0032】
次に、測定された1次側露点T1と2次側露点T2とを比較する(ステップS4)。1次側露点T1と2次側露点T2との間の差異は、供給した空気からアルカリ電解液への水の授受を示すので、アルカリ電解液の状態を把握することができる。
【0033】
2次側露点T2が1次側露点T1よりも高い場合、2次側露点T2と同じになるように、露点制御ユニット13により空気流の1次側露点T1を上げて、露点の高い空気流を空気流路22に供給する(ステップS5)。
【0034】
一方、2次側露点T2が1次側露点T1よりも低い場合、2次側露点T2と同じになるように、露点制御ユニット13により空気流の1次側露点T1を下げて、露点の低い空気流を空気流路22に供給する(ステップS6)。
【0035】
さらに、2次側露点T2が1次側露点T1と同じ場合は、露点制御ユニット13による空気流の1次側露点T1の調整は行わずに、空気流を空気流路22に供給する。
【0036】
空気二次電池2の充放電中は、継続的にまたは所定周期毎に1次側露点T1及び2次側露点T2を測定して、1次側露点T1が2次側露点T2と同じになるように調整する。ステップS3及びステップS4以降の動作を、空気二次電池2の充放電を停止するまで継続する。
【0037】
上記のように、1次側露点T1が2次側露点T2と同じになるように電池セル1に導入される空気流を調整することによって、アルカリ電解液の濃度、及び絶対量の変化を抑制し、空気二次電池2の内部抵抗の増加を抑制する。すなわち、アルカリ電解液の濃度変化を長期に亘り抑制することで、電池寿命を延ばすことが可能となる。
【0038】
<実施例1>
充放電は、負極に含まれる水素吸蔵合金重量から推定される最大容量の80%に相当する10Ahを1Itとし、0.1It×10時間の充電と、0.2Itの放電(終止電圧1.2V)とを行い、電池容量を確認した。その後、空気二次電池2のSOC(State of charge)が40%から60%までの範囲にあるように、0.3Itで90サイクルの充放電を行う。そのとき、放電時の酸素利用率を20%とするために、空気流の流量は500mL/分とした。本実施例では、出口82Aから排出される空気の露点の平均値は22℃だったので、入口81Aでの空気が露点22℃となるように調整ユニット4により露点を調整した。
【0039】
<比較例>
実施例の空気二次電池を、初期温度が20℃の環境に置き、1次側露点および2次側露点のいずれも測定せず且つ露点を調整せずに、実施例と同様に、0.1It×10時間の充電と0.2Itの放電とを1サイクルとする充放電を30回行った。
【0040】
<結果>
実施例の電池2では、90サイクルの充放電を行っても、電気容量を含む電池2の保存特性は安定していた。一方、比較例の電池では、充電・放電共にサイクル数が増えるに従い過電圧が上昇した。図4に実施例の電池と比較例の電池との時間経過に伴う過電圧の変化の様子を示す。実施例の電池では、電池に供給する空気流の露点は、排出空気の露点の平均値である22℃であった。一方、比較例の電池では、供給される空気の露点は20℃であったが、排出されるときの露点の平均値は22℃に上昇した。すなわち、比較例の電池では、露点の差分に相当する水分量がアルカリ電解液から排出していると推定される。具体的には、露点22℃の空気と20℃の空気との絶対湿度の差は、2.13g/mである。従って、比較例では、空気流を500mL/分で60時間流すと、3.83gの水がアルカリ電解液から蒸発する。これは、アルカリ電解液の重量の10%に相当する。
【0041】
なお、比較例の電池は、30サイクルの充放電後に電池重量は減少し、1kHzの交流抵抗は上昇した。
【0042】
空気流の入口での露点調整を行わない比較例の電池は、30サイクルの充放電後に過電圧が上昇すると共に、アルカリ電解液の重量比で10%の蒸発が発生した。これに対し、本実施例の電池では、90サイクルの充放電後であっても、保存特性は安定し、空気流の露点が吸気路81および排気路82で同一となるため、アルカリ電解液の濃度変化が抑制される。このように、空気流の露点を電池の入口及び出口で測定し且つ同一になるように調整することにより、空気二次電池の電池特性を長期間に亘り安定させることができる。本実施例では、供給される空気流の露点は22℃が適正として調整したが、周囲の温度、充放電のレート、SOCに応じて、適正な露点は変化する。従って、空気二次電池の充放電の条件、または空気二次電池の設置環境に応じて、適宜、供給される空気流の露点を制御することが好ましい。
【0043】
なお、上記実施の形態では、排出される空気流の露点を測定し、測定された露点と同じになるように、導入される空気流の露点を露点制御ユニット13によってフィードバック制御した。
【0044】
他の実施の形態において、所定期間、例えば1日の2次側露点T2の平均値を、次の所定期間、例えば翌日の1次側露点T1の目標値として空気二次電池の充放電を行うこともできる。
【0045】
次に、空気二次電池2が休止状態にあるときの空気電池システム100の動作について、図5を参照しながら説明する。
【0046】
メイン制御ユニット9は、空気二次電池2の休止を検出したときであっても(ステップS11)、ポンプ3を稼働さて空気二次電池2へと空気流を供給する(ステップS12)。供給される空気は、空気二次電池2を充放電するときと同様に、調整ユニット4によって露点が調節されて空気二次電池2に導入される。
【0047】
次に、2次側露点T2を測定する(ステップS13)。2次側露点T2は、電池ケース5の出口82Aから排出された直後の空気流から測定する。次に、測定された2次側露点T2を所定値Pと比較する(ステップS14)。
【0048】
アルカリ電解液の適正な濃度は、空気二次電池2の規格に応じて設定される。アルカリ電解液の濃度を適正に維持可能とする露点が所定値Pに設定される。例えば、電池の高出力化を求める場合や構成部材の劣化を抑制する場合は、アルカリ電解液濃度を薄く設計するので、休止中の空気二次電池2から排出される空気の相対湿度は、60%~80%RHとするのが好ましい。一方、保存特性や充電受け入れ性を重視する場合は、アルカリ電解液濃度を濃く設計するので、排出される空気の相対湿度は、40~60%RHとするのが好ましい。これらの相対湿度を維持可能とする露点が所定値Pとして設定される。
【0049】
2次側露点T2が所定値Pよりも大きい場合(T2 > P)、排出空気に含まれる水蒸気量が多く、アルカリ電解液の濃度が高いことを示す。従って、測定された1次側露点T1よりも露点を下げた空気、例えば乾燥した空気を供給することにより、2次側露点T2を下げるように制御する(ステップS15)。
【0050】
一方、2次側露点T2が所定値Pよりも小さい場合(T2 < P)、排出される空気の水蒸気量が少なく、アルカリ電解液の濃度が低いことを示す。従って、測定された1次側露点T1よりも露点を上げた空気、例えば湿潤空気を供給することにより2次側露点T2が上がるように制御する(ステップS16)。
【0051】
2次側露点T2が所定値Pと同じ場合(T2 = P)、空気流路22に導入される空気流の1次側露点T1を調整しない(ステップS17)。
【0052】
上記のように、休止状態にある空気二次電池2を流れる空気流の露点を測定し調整することによって、空気二次電池2を流れる空気流の露点を、空気二次電池2の使用開始前の初期状態に回復させることができる。
【0053】
以上から、空気二次電池2が充電、放電または休止状態にあるときに、空気流路22を流れる空気流の吸気側及び排気側のそれぞれの露点を測定して吸気側の露点を調整することにより、空気二次電池2に含まれるアルカリ電解液の蒸発を防いで、長期に亘り安定した電池特性を維持することができる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施の形態として記載した水素吸蔵合金を負極に用いる水素空気二次電池のみならず、アルカリ電解液を用いる適宜の種類の空気電池に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
2 空気二次電池
3 供給手段
4 調整手段
22 空気流路
40 空気極
60 負極
81A 入口
82A 出口
100 空気電池システム
図1
図2
図3
図4
図5