(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130557
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】半ネジボルト用締結具
(51)【国際特許分類】
F16B 39/22 20060101AFI20230913BHJP
F16D 41/06 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
F16B39/22 Z
F16D41/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034897
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】522032280
【氏名又は名称】藤原 良
(74)【代理人】
【識別番号】240000268
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人英明法律事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155804
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 健氏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ネジ山を潰してしまう恐れがなく、容易に且つ適度に締結状態を生じせしめ、緩み止め効果の高い半ネジボルト用ナットの提供。
【解決手段】半ネジボルト、補助具、有底ナットで構成され、補助具は保持体に一方向回転機構を嵌装固定した略筒状をなし、半ネジボルトに螺合せずにこれを挿通し、開口部内周縁に嵌合部とフランジ部を設け、有底ナットは内周面に半ネジボルトの雄ネジ部に螺合する雌ネジ部と、一端の開口部外周縁に補助具の嵌合部に嵌合する嵌合部、他端にフランジ部を設け、有底ナットの雌ネジ部外径大の孔を穿った被締結物は、前記両フランジ部に挟持固定され、締結時、一方向回転機構は半ネジボルトのボルト軸円筒部に相対し、半ネジボルトが有底ナットへ螺入する方向に回転したときに回転トルクは一方向回転機構に伝達されずに補助具は空転し、螺出方向に回転したときに回転トルクは円筒部を介して前記一方向回転機構へ伝達される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト軸が円筒部と雄ネジ部とからなる半ネジボルト用の締結具であって、
該締結具は半ネジボルト、補助具、有底ナットで構成され、
該補助具は、
保持体に一方向回転機構を嵌装固定した略筒状をなし、
前記半ネジボルトに螺合せずにこれを挿通し、
前記有底ナット側の開口部内周縁に嵌合部とフランジ部を設け、
前記有底ナットは、
内周面に前記半ネジボルトのボルト軸の雄ネジ部に螺合する雌ネジ部と、
一端の開口部外周縁に前記補助具の嵌合部に嵌合する嵌合部を、
他端にフランジ部を設け、
該有底ナットの雌ネジ部外径大の孔を穿った被締結物は、
前記補助具のフランジ部と前記有底ナットのフランジ部とで挟持固定され、
締結時、前記一方向回転機構は、前記半ネジボルトのボルト軸円筒部に相対し、前記半ネジボルトが前記有底ナットへ螺入する方向に回転したときに該回転トルクは前記一方向回転機構に伝達されずに前記補助具は空転し、
前記半ネジボルトが前記有底ナットから螺出する方向に回転したときに該回転トルクは前記円筒部を介して前記一方向回転機構へ伝達される
半ネジボルト用締結具。
【請求項2】
前記一方向回転機構が、前記半ネジボルトのボルト頭側へ一部突出して前記保持体へ嵌装固定することで環状凸部を形成し、
前記ボルト頭の首下側軸部の周囲に環状溝を設け、
締結時に前記環状凸部が該環状溝と嵌合することを特徴とする
請求項1に記載の半ネジボルト用締結具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半ネジボルトと結合して、複数の物体相互を固定するのに使用される締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボルトとナットを用いて締め付け固定すると、ボルトの軸部に発生した軸力(引張力)と、被締結部材に発生した圧縮力(締付力)によって一体化され、両者が釣り合うことでその締結状態が維持される。
【0003】
しかし、ボルトとナットを単純に螺合し、締め付けただけでは、ネジ締結体の接触部のあらさ等による初期緩み、軸力の静的又は動的変動に起因するナットの戻り回転により、締結に緩みが生じる。
【0004】
そこで、過去様々な取り組みが行われている。例えば、溝付き六角ナットやナイロンナット、くさび止め効果を利用したナット、フリクションリングを組み込んだゆるみ止めナットなどが公知である。
【0005】
具体的には、ボルトを螺合した時に該ボルトのねじ部に接する断面形状がほぼ楕円形の柱状体をなすクラッチ片を上記ボルトのねじ部に接する位置に配置したことを特徴とする技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58-156712号公報
【特許文献2】特開平11-117954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明は、クラッチ片の先端がボルトの雄ネジ部分に圧着され噛み込む構造により該クラッチ片とネジとの接触面積が十分でなく緩み回転の阻止効果は限定的である。さらにはネジ山を潰してしまう恐れもある。
よって、ネジ山を潰すことなく、適度な締結状態を生じせしめ、高い緩み止め効果を得るために更なる改良が望まれてきた。
【0008】
そこで、本願発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意研究の結果、新規な着想を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ボルト軸が円筒部と雄ネジ部とからなる半ネジボルト用の締結具であって、該締結具は半ネジボルト、補助具、有底ナットで構成され、該補助具は、保持体に一方向回転機構を嵌装固定した略筒状をなし、前記半ネジボルトに螺合せずにこれを挿通し、前記有底ナット側の開口部内周縁に嵌合部とフランジ部を設け、前記有底ナットは、内周面に前記半ネジボルトのボルト軸の雄ネジ部に螺合する雌ネジ部と、一端の開口部外周縁に前記補助具の嵌合部に嵌合する嵌合部を、他端にフランジ部を設け、該有底ナットの雌ネジ部外径大の孔を穿った被締結物は、前記補助具のフランジ部と前記有底ナットのフランジ部とで挟持固定され、締結時、前記一方向回転機構は、前記半ネジボルトのボルト軸円筒部に相対し、前記半ネジボルトが前記有底ナットへ螺入する方向に回転したときに該回転トルクは前記一方向回転機構に伝達されずに前記補助具は空転し、前記半ネジボルトが前記有底ナットから螺出する方向に回転したときに該回転トルクは前記円筒部を介して前記一方向回転機構へ伝達されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記一方向回転機構が、前記半ネジボルトのボルト頭側へ一部突出して前記保持体へ嵌装固定することで環状凸部を形成し、前記ボルト頭の首下側軸部の周囲に環状溝を設け、締結時に前記環状凸部が該環状溝と嵌合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、雄ネジのネジ山を潰すことなく、また、作業者の熟練度合いに関わらず適度なボルト・ナットの締結状態を生じせしめ、且つ高い緩み止め効果を得ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用締結具の構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用締結具の補助具の構造を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用締結具の使用時の縦断面図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用締結具のA-A線部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
なお、本発明を構成する各部の大きさや形状、位置関係は本発明の理解を促すことを目的として概略的に記した。また、各構成要素の材料や材質などは好適な組み合わせとして開示するものであり、本発明の主旨を逸脱することなく、この効果を達成可能な変更を妨げるものでない。
【0014】
本発明は、ボルト軸が円筒部と雄ネジ部とからなる半ネジボルト用の締結具であって、該締結具は半ネジボルト、保持体、有底ナットとで構成され、被締結物を、該保持体と該有底ナットとで挟持して固定するものである。以下詳述する。
【0015】
半ネジボルト10は、ボルト頭11と、円筒部12及び雄ネジ部13とからなるボルト軸からなる。
【0016】
補助具20は、複数のローラー21aを内周面に配した一方向回転機構21を、保持体22に嵌装固定した略筒状をなし、半ネジボルト10の雄ネジ部13には螺合せずにこれを挿通し、前記有底ナット30側の開口部内周縁に嵌合部23を、そしてフランジ部f1を設けてなる。なお、該嵌合部23は、図示した形状・構造に限られない。
【0017】
一方向回転機構は、その代表的な構造と原理は、例えば、前掲の特許文献2に開示されているように、互いに同心に組み合わされた2個の部材のうち、一方の部材が両方向回転運動をした場合に、このうちの一方向の回転運動のみを他方の部材に伝達する場合に利用される機構である。この機構は「ワンウェイクラッチ」とも称され、具体的には、例えば、日本精工株式会社から発売されている「シェル型ローラクラッチ」を利用することができる。
【0018】
有底ナット30は、内周面に前記半ネジボルト10の雄ネジ部13に螺合する雌ネジ部31と、一端の開口部外周縁に前記補助具の嵌合部23に嵌合する嵌合部32を、他端にフランジ部f2を設けてなる。
なお、適宜、解除手段33を設けてもよい。本発明を使用して被固定物Aを対象物Bに締結固定した状態を解除する際に、該解除手段33を工具等で挟持するために設けたるものである。なお、該解除手段33は、図示した形状・構造に限られない。
【0019】
被固定物Aを、対象物B(ここでいう対象物とは、機械や建造物など、被固定物Aを固定する対象を指す。)へ取り付ける際の手順について説明する。なお、予め被固定物A及び対象物Bには、前記有底ナット30の雌ネジ部外径大の孔を設けているものとする。
【0020】
被固定物Aと対象物Bに穿った孔を合わせて有底ナット30の筒部を挿通し、反対側から補助具20を装着する。該補助具20の嵌合部23と、前記有底ナット30の嵌合部32とを嵌合させ、フランジf1とフランジf2とで被固定物Aと対象物Bとを挟持し、その状態で、半ネジボルト10を前記補助具20の挿通孔hへ挿通し、雄ネジ部13を有底ナットの雌ネジ部へ螺入し、締結する。ボルト頭、フランジf1、被固定物A、対象物Bそしてフランジ2とで一体的な締結状態が得られる。(
図3)
【0021】
一方向回転機構21は、ボルト軸の円筒部12に相対し、該円筒部12の一方向の回転時(
図4(A))にはローラー21aへは該回転トルクは伝わらないが、他方向の回転時(
図4(B))には該回転トルクは伝わる。
つまり、半ネジボルト10を螺入、即ち締め付ける方向(右回転)へと回転させたときには、該回転トルクは該ローラー21aへは伝わらず補助体22は空転し、雄ネジ部13との螺合が進むが、該半ネジボルト10を螺出、即ち緩める方向(左回転)へと回転させようとすると、該回転トルクは該ローラー21aへ伝わり、クラッチ機構が働くことから該半ネジボルト10は左回転しない構造である。
【0022】
半ネジボルト10による締結が完了し、ボルト頭、フランジf1、被固定物A、対象物Bそしてフランジ2とで一体的な締結状態が形成された後、これを緩めるためには前記補助具20のクラッチ機構を破壊するほどの力が加わらない限り、半ネジボルト10が左回転することはない。
即ち、通常の使用状態において、本発明の半ネジボルト10が緩むことはない。
【0023】
本実施の形態によれば、半ネジボルトの締め付け作業が容易であるうえ、適度に締結状態を生じせしめるとともに、高い緩み止め効果を得ることができる。
【0024】
異なる実施の形態として、一方向回転機構21が、半ネジボルトのボルト頭11側へ一部突出して保持体22へ嵌装固定することで環状凸部Pを形成し、前記ボルト頭11の首下側軸部の周囲に環状溝dを設け、締結時に前記環状凸部Pが該環状溝dと嵌合する構造としてもよい。このような構造とすることで、高い防水・防塵効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、従来のボルト・ナットのように強い締め付け力を頼りに締結状態を維持せんとするものでなく、一定の締結状態を得た後は、一方向回転機構による緩み止め効果を得る構造であるため、例えば、被固定物A又は対象物Bがガラスやレンガ、また陶器や磁器その他物理的な力に対して脆い素材である場合に特に有効である。
また、一旦締め付け施工が完了した後に定期点検が困難な場所に幅広く利用が期待されるものである。
【符号の説明】
【0026】
1 半ネジボルト用締結具
10 半ネジボルト
11 ボルト頭
12 円筒部
13 雄ネジ部
20 補助具
21 一方向回転機構
21a ローラー
22 保持体
23 嵌合部
30 有底ナット
31 雌ネジ部
32 嵌合部
33 解除手段
A 被固定物
B 対象物
d 環状溝
f1、f2 フランジ部
h 挿通孔
P 環状凸部