(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130567
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】霧化装置
(51)【国際特許分類】
B05B 17/06 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
B05B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034917
(22)【出願日】2022-03-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトへの掲載 掲載日:2021年8月25日 ウェブサイトのアドレス:https://www.ecei.tohoku.ac.jp/tsjc/program2021/forregistrants.html ・集会において発表 発表日:2021年8月26日 集会名:2021年度電気関係学会東北支部連合大会 ※オンライン開催(https://zoom.us/j/94111480264) ・集会において発表 発表日:2021年9月21日 集会名:第45回静電気学会全国大会 ※オンライン開催(https://zoom.us/j/94449681462?pwd=cThDaEszdmFLVitnTS9iZm1Wc1BIZz09) ・刊行物に発表 発行日:2022年2月18日 刊行物名:第37回塗料・塗装研究発表会 講演予稿集p.15-20 発行者:一般社団法人日本塗装技術協会 ・集会において発表 発表日:2022年3月4日 集会名:第37回塗料・塗装研究発表会 ※オンライン開催(https://us06web.zoom.us/w/81168806742?tk=3L5BaoH1ocg69ytu9OOk9Tkefj2bSWtUYb4JOzYnjE.DQMAAAAS5gmzVhZiLTVWSndLcFFVcXdmTkJ1T1NnQm1BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA&pwd=emoxQkpCNFJPOGFGbkFEVG51cWd0QT09&uuid=WN_36gPcrHUSX6zt53SCslg2Q)
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146732
【弁理士】
【氏名又は名称】横島 重信
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊之
(72)【発明者】
【氏名】内山 優志
【テーマコード(参考)】
4D074
【Fターム(参考)】
4D074AA01
4D074BB02
4D074DD09
4D074DD11
4D074DD22
4D074DD32
4D074DD48
4D074DD64
4D074DD65
(57)【要約】
【課題】本発明は、上記のような従来技術に対して、新規な機構によって液体の霧化を生じさせる霧化装置を提供すること、及び、当該霧化装置を使用する塗布装置等を提供することを課題とする。
【解決手段】液体を霧化する霧化装置であって、少なくとも表面の一部が霧化される液体と親和性を示すことによって、当該液体の液膜を形成可能なフィルムと、当該フィルムに接触して超音波振動を印加可能な超音波印加手段とを有し、当該フィルムの表面に形成された液膜に対して、フィルムを介して超音波を印加することによって、当該液膜に含まれる液体を霧化することを特徴とする霧化装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を霧化する霧化装置であって、
少なくとも表面の一部が霧化される液体と親和性を示すことによって、当該液体の液膜を形成可能なフィルムと、
当該フィルムに接触して超音波振動を印加可能な超音波印加手段とを有し、
当該フィルムの表面に形成された液膜に対して、フィルムを介して超音波を印加することによって、当該液膜に含まれる液体を霧化することを特徴とする霧化装置。
【請求項2】
上記フィルムの表面に霧化される液体を供給して液膜を形成する液体供給手段を有することを特徴とする請求項1に記載の霧化装置。
【請求項3】
上記超音波印加手段は、上記フィルムの表面に対して垂直な成分を有する超音波振動を印加するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の霧化装置。
【請求項4】
上記フィルムの表面に形成された液膜に対して電圧を印加可能な電圧印加手段を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の霧化装置。
【請求項5】
上記フィルムの表面に形成される液膜の厚みが5mm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の霧化装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の霧化装置を有することを特徴とするスプレー装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の霧化装置を有することを特徴とする塗布装置。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の霧化装置を有することを特徴とする造粒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を霧化する霧化装置、及び、当該霧化装置を用いるスプレー装置、塗布装置、造粒装置などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の目的のために、超音波を利用して水等の液体を霧化する技術が使用されている。例えば、特許文献1には、主に加湿等を目的として、水等の液体を保持可能な容器の底部に超音波振動子を設けて、当該超音波振動子により発生させた超音波によって液体を霧化させるための装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、主に呼吸器系疾患の治療薬を霧化することで、当該霧化された治療薬を患者が吸入した際に呼吸器内に作用し易くするためのネブライザーとして、超音波振動により液体を霧化して噴出する装置が記載されている。また、特許文献3には、スプレー塗装を行う際に使用する塗料から構成される液滴を吐出するために、超音波振動により液体を霧化する装置が記載されている。また、特許文献4には、超音波振動により噴霧した霧状の溶液を乾燥することで微細粉末を製造する噴霧乾燥装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-153117号公報
【特許文献2】特開2014-4211号公報
【特許文献3】特開2011-251278号公報
【特許文献4】特開2019-45114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるような、液体を保持可能な容器の底部に超音波振動子を設けて、当該超音波振動子から生じる超音波によって容器内の液体を揺動して霧化を生じさせる装置においては、超音波によって揺動された液体の表面が超音波により微細に波立つことにより、当該波の隆起部の一部が液体からちぎれて空間中に放出されるという過程を経ることにより、液体の霧化を生じるものである。当該機構によって生じる霧化によっては、容器の形状や、容器内の液体の量や深さなどによって霧化を生じる過程が変化するために、所望のサイズの霧(液滴)を定常的に得ることが困難となる。
【0006】
これに対して、特許文献2~4に記載されるような、微細な貫通孔を設けた隔膜(隔壁)の近傍で超音波振動子を振動させることにより、当該貫通孔の超音波振動子の側に充填された液体を、貫通孔を介して断続的に放出させることで霧化する機構を有する、いわゆるメッシュ方式の霧化装置においては、貫通孔のサイズや印加される超音波の強さなどを調整することで所望のサイズの霧(液滴)の生成が可能となる。一方、液体が当該貫通孔を介して放出される際の放出抵抗を低下させ、また噴出量を拡大する等の目的で、貫通孔を設ける隔膜の厚みを低下させたり、貫通孔の密度を拡大する等を行った場合には、隔膜の強度が低下して、隔膜と超音波振動子の間の距離が変動し、霧化の性能が変動する問題を有している。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に対して、新規な機構によって液体の霧化を生じさせる霧化装置を提供することを課題とする。また、本発明は、当該霧化装置を使用する塗布装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような手段を提供する。
(1)液体を霧化する霧化装置であって、少なくとも表面の一部が霧化される液体と親和性を示すことによって、当該液体の液膜を形成可能なフィルムと、当該フィルムに接触して超音波振動を印加可能な超音波印加手段とを有し、当該フィルムの表面に形成された液膜に対して、フィルムを介して超音波を印加することによって、当該液膜に含まれる液体を霧化する霧化装置。
(2)上記フィルムの表面に霧化される液体を供給して液膜を形成する液体供給手段を有する霧化装置。
(3)上記超音波印加手段は、上記フィルムの表面に対して垂直な成分を有する超音波振動を印加するものである霧化装置。
(4)上記フィルムの表面に形成された液膜に対して電圧を印加可能な電圧印加手段を有する霧化装置。
(5)上記フィルムの表面に形成される液膜の厚みが5mm以下である霧化装置。
(6)上記の霧化装置を有するスプレー装置。
(7)上記の霧化装置を有する塗布装置。
(8)上記の霧化装置を有する造粒装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る霧化装置によれば、霧化される液体と、当該液体と親和性を有するフィルム表面の間に存在する親和性を利用することにより、当該液体を効率的に霧化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る霧化方法の検討に用いた装置の概略図である。
【
図2】本発明に係る霧化装置において霧化を生じる機構を説明するための模式図である。
【
図3】本発明に係る霧化装置において霧化を生じる機構を説明するための模式図である。
【
図4】本発明に係る霧化装置の実施形態の一例を示す図である。
【
図5】本発明に係る霧化装置において使用する液体供給手段の一例を示す図である。
【
図6】本発明に係る霧化装置において使用する超音波発生手段の一例を示す図である。
【
図7】本発明に係る霧化装置によって霧化した塗料を基材に吹き付けた状態を示す写真である。
【
図8】本発明に係る霧化装置によって霧化した塗料を基材に吹き付けた際の塗膜厚さのプロファイルを示す図である。
【
図9】本発明に係る霧化装置によって霧化する塗料の量を変化させた際の塗膜の幅の変化を示す図である。
【
図10】本発明に係る霧化装置によって霧化する際に、液体に印加する電圧を変化させた際の塗膜の電荷量の変化を示す図である。
【
図11】本発明に係る霧化装置によって霧化する際に、液体に印加する電圧を変化させた際の塗膜の幅の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1には、本発明に係る霧化方法の検討に用いた装置の概略図を示す。
図1に示す装置では、それぞれ内径16mmの樹脂リング10と金属リング11を積層し、当該樹脂リング10と金属リング11との間によって挟むことで各種のフィルム1が保持可能とされている。そして、当該保持されたフィルム1の上面に所定量の水滴2を供給した状態で、フィルム1の下面に振動子3としてのホーン(先端部断面:12mm×2mm)を接触させて、所定の振幅でフィルム面と垂直な方向を振動方向5とする超音波振動を印加可能としている。
【0012】
図1に示す装置を使用して、(1)表面が親水化された親水性フィルム(スリーエムジャパン社製、SH2LHF(厚み80μm))、(2)疎水性フィルム(ポリ塩化ビニル製、厚み10μm)、(3)アルミ箔(厚み10μm)をそれぞれ保持した状態で、所定量の水滴をフィルム等の表面に供給した状態で、振動子3を所定の振幅(発振周波数:42.3kHz)で振動させることで水滴をフィルム等の表面の水滴を揺動して、水滴に含まれる水の霧化を試みた。
【0013】
上記試行した内で、上記アルミ箔を使用した場合には、超音波の印加開始後、速やかに振動子3に接する部分のアルミ箔が融解し、アルミ箔表面の水滴に継続して超音波を印加することが困難であった。一方、上記親水性フィルム、疎水性フィルムを使用することにより、フィルム上の水滴に超音波が継続して印加可能であった。表1には、当該評価を行った際に、親水性フィルム、疎水性フィルムの表面上における水滴の状態、及び霧化の可否等についての評価結果を示す。なお、表1において、括弧外の記号は親水性フィルムを使用した際の状態を示し、括弧内の記号は疎水性フィルムを使用した際の状態をそれぞれ示す。
【0014】
また、表1において、「●」は印加した超音波振動によって安定して水の霧化を生じたこと、「▲」は間欠的な水の霧化を生じたことをそれぞれ示す。一方、「×」は、超音波の印加中にフィルム表面に略均一な厚みの水膜を生じ、霧化を生じないことを示す。また、「◇」は、超音波の印加中によって複数の球状の水滴等を生じる等により、略均一な厚みの水膜が生成せず、当該水滴等がフィルム表面を移動する状態になって霧化を生じないことを示す。また、表1には、各種の量で供給した水滴がフィルム表面に均一に濡れ広がったと仮定した際に、フィルム表面に形成される水膜の厚みを括弧内に記載した。
【0015】
親水性フィルムを使用した際には、フィルム表面に供給された水滴は、超音波の印加によって速やかにフィルム表面に濡れ広がって水膜を形成する様子(表1内の×等)が観察された。また、所定以上の振幅の超音波振動を印加することにより、当該水膜から微少な液滴が放出されて水の霧化を生じることが観察された(表1内の●)。つまり、表1の括弧外の記号に示すように、10μm程度の振幅の振動が印加されることで1mm程度以下の厚みの水膜から霧化を生じると共に、振動の振幅を拡大することで3.5mm程度の厚みの水膜からも霧化を生じることが観察された。このことから、親水性フィルムの表面においては、振動子の振幅や水膜の厚さ等の条件が整うことによって水の霧化を生じることが観察された。
【0016】
一方、疎水性フィルムの表面上では、フィルム上に滴下された水滴に対して超音波を印加することによって、広い条件の範囲で、当該水滴のフィルム表面に対する接触角が大きい略球状等の液滴となり、フィルム表面を移動する状態となることが観察された(表1内の◇)。また、フィルム上に供給する水量を増加させることで、当該球状の液滴が形成される状態から略均一な厚みの水膜が形成される状態(表1内の×)に移行する様子が観察されたが、水の霧化は観察されなかった。
【0017】
【0018】
図2には、各種のフィルム1の表面上に存在する水2(水滴)の形態に関与すると考えられる各種の力について模式的に示す。水2の内部には、凝集力41(表面張力)が存在するものと考えられ、水の表面積が小さくなるように作用すると考えられる。また、水2に対して重力40が作用し、水の位置エネルギーが最小になるように作用すると考えられる。
更に、フィルム1が親水性である場合(
図2(a))には、フィルムと水の間に親和力42が存在し、当該親和力42は、水がフィルム表面に濡れ広がるように作用する。そして、フィルム1の表面上に存在する水2(水滴)の形態等は、主に上記の重力40、凝集力41(表面張力)、フィルムとの親和力42によって定まるものと考えられる。
【0019】
一方、フィルム1が疎水性である場合(
図2(b))には、フィルムと水の間の相互作用が小さく、フィルム1の表面上に存在する水2(水滴)の形態等は主に重力40と凝集力41(表面張力)により決定される。特に水等においては大きな凝集力41が存在するために、重力40と凝集力41のバランスに従ってフィルムとの間で大きな接触角を有する水滴が形成され、水とフィルムの接触面積が縮小することが観察される。当該状態は、見かけ上、水とフィルムの間に斥力43が作用して水が弾かれているようにも観察することができる。
【0020】
表1に示すように、振動子3によって振動するフィルム表面上の水の形態や霧化の可否が、当該フィルムの表面が示す親水性又は疎水性によって違いを生じる機構は以下のように考察される。
図2(a)に示すフィルムと水の間に親和力42を生じる機構は以下のように推察される。つまり、親水性を示す表面に水が接触した際には、一般に当該表面が水和して水分子との間に各種の結合を生じ、当該表面に拘束された水分子を生じるものと考えられる。そして、当該表面に拘束される水分子は、その周囲に存在する水分子との間で凝集力41(表面張力)を有する結果、親水性の表面上において水は所定の拘束力を受けることとなり、当該拘束力が親水性(濡れ易さ)の原因としての親和力42として観測されるものと考えられる。また、当該親和力42が水の凝集力41(表面張力)に対抗することによって、比表面積の大きい水膜の形態等で水を保持することができるものと考えられる。
【0021】
そして、上記水膜が形成されたフィルムに対して振動子3によって振動を印加した際には、主に上記フィルムと水の間に存在する親和力42等に起因した拘束力が振動を伝達するための継ぎ手として機能し、当該振動のエネルギーが水膜に対して供給可能であると考えられる。この結果、フィルムを介して振動エネルギーを供給することによって水膜を揺動可能となり、水滴形成の条件が満たされることによって、水膜を構成する水の一部が水膜から引きちぎられて微少な水滴を生じ、表1に示すような現象を生じるものと推察される。
【0022】
一方、疎水性を示す表面においては、当該表面と水の間の相互作用が小さく、凝集力41(表面張力)によって球状になろうとする水滴が、主に水に作用する重力40によってフィルム表面に押し付けられた状態が形成されていると推察される(
図2(b))。そして、当該状態においては水滴とフィルムが接触しているにも関わらず、水滴とフィルムの界面には有効な拘束力が存在せず、相互に自由に変位可能であるために、フィルム1に対して振動子3によって振動を印加した際に当該振動のエネルギーが水滴内に導入され難いものと考えられる。また、フィルムの振動によって水滴が上方に弾かれる等によって、凝集力(表面張力)41に起因して水滴が球状化してフィルムと水滴の接触面積の縮小を生じる結果として、表1で「◇」で示すようにフィルム表面で水滴が形成されるものと推察される。
【0023】
また、疎水性のフィルム上においても、水量が増えて水に作用する重力40が増加することで水膜を形成する(表1の「×」)が、依然として水滴とフィルムの界面には十分な拘束力が存在しない等の理由によって霧化を生じないものと推察される。
【0024】
本発明に係る霧化装置は上記知見を利用するものであり、霧化される液体に対して親和性を示す表面を有するフィルム1を使用し、当該表面に霧化される液体によって液膜2を形成した状態で、当該フィルム1を介して液膜2に超音波振動を印加することで、フィルム表面の液膜を揺動させ液膜を構成する液体の一部を液滴として霧化20するものである。つまり、本発明に係る霧化装置は、霧化される液体と、当該液体と親和性を示すフィルム表面間に生じる結合(親和力)を、超音波振動を伝達するための継ぎ手として使用することにより、当該親和力によってフィルム表面に拘束される液膜を揺動して霧化を生じることを特徴とする霧化装置である。
【0025】
図1及び2では、略水平に設置されたフィルムの上面に水等の液体を供給する例について記載するが、本発明の形態はこれに限定されず、フィルム表面に略均一な厚みで液膜を形成可能である範囲で、フィルム表面を鉛直方向に対して任意の角度に配置することが可能である。つまり、例えば、水平に配置したフィルムの下面に液膜を形成した状態で、当該液膜を構成する液体を霧化してもよく、また、鉛直方向と平行にフィルム表面を配置して、その表面に形成した液膜から霧化を生じさせる等が可能である。
なお、本明細書において「液膜」は液体の形態を示す語であって、特に使用される液体とフィルム間の親和性の不足に起因して当該液体がフィルムに弾かれることで形成される「液滴」と区別される形態を示す語として使用する。
【0026】
図3には、本発明に係る霧化装置について、その構成の一例を模式的に示す。
図3に示す構成においては、下面側に霧化される液体に対する親和性を有するフィルム1を使用して、フィルム1の下面に当該液体からなる液膜2を形成すると共に、フィルム1の上面に振動子3を接触させて、当該液膜に含まれる液体を液滴20として霧化する構成を有する。当該構成においては、フィルム1に沿うように液体を継続して供給することにより、振動子3によって揺動される部分の液膜の厚さを維持することが可能となり、霧化を継続して行うことが可能となる。
【0027】
また、本発明に係る霧化装置を構成するフィルム1は、少なくともその表面の一部が霧化される液体に対して親和性を示す表面を有し、振動子3の振動に伴う変位に追従できる程度の可撓性を示すものであれば特に限定されずに使用することができる。
【0028】
また、本発明に係る霧化装置により霧化される液体は、水や水溶液等に限定されず、例えば、少なくともその表面が親油性を示すフィルムを使用することで、有機溶剤や、有機溶剤を溶媒とする溶液の霧化を行うことが可能である。一方、本発明に係る霧化装置は、所定の大きさの凝集力(表面張力)を有する液体の霧化に好ましく使用され、特に水や水溶液等の霧化に好ましく使用することができる。
【0029】
霧化される液体を液膜状の形態で保持するために、本発明に係る霧化装置を構成するフィルム1は当該液体に対して所定の親和性を示すものが好ましく使用される。フィルムと液体の間に生じる親和性の大きさは、例えば、当該フィルムと液体が接した状態で超音波振動を印加した際の、液膜の形成の容易性によって評価することができる。
【0030】
例えば、 フィルム表面に液体を滴下して超音波振動を印加した際に、当該液体が接触角の大きい液滴を形成せず、フィルム表面と液体間の親和力によって0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下の厚みで当該液体の液膜を形成可能な程度の親和性を示すフィルムであれば、本発明に係る霧化装置を構成するフィルムとして好ましく使用することができる。当該フィルムを使用することによって、フィルム表面との親和力等によって拘束を受ける液膜をフィルムの表面に形成可能であり、当該液膜を超音波振動で揺動することにより霧化を生じさせることができる。
【0031】
本発明に係る霧化装置を構成するフィルム1は、フィルムの全体が霧化される液体に対して親和性を示す材質で構成されていても良く、又は、所定の材質で構成されるフィルムの表面部分に対して各種の方法で親和性を付与したものでも良い。例えば、霧化される液体によって液膜を形成する面のみに、当該液体に対する親和性を付与しても良く、表面の一部分のみに当該液体に対する親和性を付与したフィルムを用いることもできる。
【0032】
特許文献1に記載されるような、水槽内に保持された水深と体積が大きいバルクの水に対して超音波振動子による揺動を加えて霧化させる装置においては、揺動される水の量が大きく、水の内部摩擦等によって消費されるために、霧化に使用されないエネルギーが大きくなることが避けられない。これに対して、本発明に係る霧化装置では、微少体積の液体に対して超音波振動子による揺動を加えるために、一般に高いエネルギー効率が得られることが期待される。また、継続して霧化を行う際に、本発明に係る霧化装置においては、揺動を加える液の体積を一定にすることにより、常に同様のサイズの液滴を所定で含む霧を得ることが可能になる。
【0033】
また、特許文献1に記載される霧化装置では、水槽に貯めた水の一部を霧化するために、霧化されて放出される水滴がその水面の上方に発散されるのに対して、本発明に係る霧化装置では、液滴を放出しようとする方向に対して垂直な面内にフィルムを配置することによって、上方以外の任意の方向に向けて液滴を放出することが可能となる。
【0034】
また、特許文献2~4に記載されるようなメッシュ方式の霧化装置によれば、例えば、任意の方向に向けて霧化された液滴を放出することが可能となる。一方、上記で説明したように、本発明においては、フィルム表面に形成した液膜を揺動することで液滴を生成するために、特許文献2~4に記載される霧化装置で必須となる貫通穴を設けた隔膜(メッシュ)が不要となり、当該隔膜に起因する液体の噴出抵抗が軽減されて、霧化効率を高めることが可能である。
【0035】
図4には、本発明に係る霧化装置を実施する際の形態の例を示す。
図4においては、開口部を有するフィルム支持体6に対して、液膜2を生じさせるためのフィルム1を貼付して固定することにより、所定の張力を有する状態でフィルム1が保持される。使用されるフィルム1は、霧化する液体に対する耐性を有し、所定の可撓性を有することにより振動子3の動作に伴って変形可能であると共に、フィルム1内での巨視的な弛みを生じない程度の張力を有するものであれば、特に限定することなく使用することができる。
【0036】
また、フィルム1の液膜2を生じさせる側の面は、液膜2を形成する液体と親和性を示すものであることが好ましく、フィルム1の表面に使用する液体を滴下して超音波を印加した際に、当該液体が濡れ広がる程度の親和性を示すものが好ましく使用される。
【0037】
フィルム1を支持するフィルム支持体6は、振動子3の動作によってフィルム1が振動する際に、変形や共振を生じない程度の強度を有したものであれば、その形状や材質は特に限定されない。また、以下に説明するように、液膜2を形成する液体に電位を印加する場合には、フィルム支持体6を金属などの導電性を有する材質で構成し、電気的に接地することで、その電位を安定させることが好ましい。
【0038】
図4においては、フィルム支持体6に添付されたフィルム1表面に液膜2を形成するために、フィルム1の表面に液体供給手段7が設けられている。液体供給手段7は、液体供給ポンプ10から供給される液体をフィルム1表面に接触させることで、液体の表面張力によってフィルム1表面に液膜2を形成するために使用される。
【0039】
図5には、本発明に係る霧化装置において使用される液体供給手段7の一例を模式的に示す。
図5に示す液体供給手段7では、板状体に対して、当該板状体の一端の側面に開口部7aを有する凹部を設け、当該凹部に対して液体供給経路7bを介して外部から液体が供給可能とされている。
図5に示す液体供給手段7の凹部側の表面7cをフィルム1の表面に接触させた状態で保持し、液体供給経路7bを介して適宜の流速で液体を供給して凹部内に液体を充満させた状態で、開口部7aの部分からフィルム1表面に沿って液体を流出させて供給することが可能である。
【0040】
また、以下に説明するように、液膜2を形成する液体に電位を印加する場合には、上記の液体供給手段7の少なくとも液体に接触する部位を金属で形成し、当該金属の部位を電極として、外部に設けた電圧印加手段8によって液体に電位を印加することができる。
【0041】
本発明に係る霧化装置において使用される液体供給手段7は
図4に示す形態に限定されず、フィルム1表面に一定の割合で液体を供給して液膜2を形成して保持可能なものであれば、例えば、スプレー等によってフィルム1表面に液体を供給する等の手段を採ることも可能である。
【0042】
上記フィルム1表面に液体を供給するための液体供給ポンプ10は、一定の割合で液体を圧送して供給可能なポンプ等であれば特に限定されず、適宜の容量を有するチューブポンプ等を液体供給ポンプ10として使用することができる。
【0043】
図4に示すように、フィルム支持体6の開口部を介して、表面に液膜2が形成されたフィルム1の裏面側に振動子3によって超音波発生手段4で発生させた超音波振動を印加することにより当該液膜2を揺動することが可能であり、液膜2を構成する液体の一部を分断して液体の霧を構成する微少な液滴20を形成することができる。
【0044】
図4等に示す形態で、液膜2を構成する液体から微少な液滴20を形成する際には、フィルム1の裏面側に振動子3が接触することでフィルム1に超音波振動が印加されれば良好に液滴20を形成することができる。また、フィルム1の振動を安定化する等の目的で、適宜の手段によってフィルム1の裏面側に振動子3を接着して使用することも可能である。
【0045】
また、
図3及び4等に示す形態で、フィルム1に接触させた振動子3を振動させることで、特に振動子3に接触した部分のフィルムは振動子3における振動と実質的に同一の振動を生じ、液膜2中から微少な液滴20を形成することができる。一方、振動子3との接触部位から離れることでフィルム内の超音波振動が急速に減衰するために、振動子3との接触部位以外の部分のフィルム表面では液滴20が生成せず、実質的に振動子3と接触した部分のフィルム表面からのみ液滴20を生成することが可能である。
【0046】
また、フィルム表面と垂直な方向を振動方向5とする振動子3を使用することによって、生成した液滴20はフィルム表面に垂直な方向に所定の速度を有することとなり、当該生成する液滴20は振動子3とフィルム1の接触面と略同一、又は当該接触面と相似形の断面を有する流束(フラックス)を有することが可能となる。このような特徴を利用して、本発明に係る霧化装置は、空間に霧化された液体を供給する等の目的の他、当該液滴20のフラックスを利用して対象物表面の所定の位置に液滴20を吹き付けることを含む描画手段の噴霧ヘッド部等として好適に使用することができる。
【0047】
また、
図3及び4等に示す形態で、液膜2から微少な液滴20を形成することにより、振動子3と接触する部位のフィルム表面の液膜2に含まれる液体が減少し、液膜2の厚みが減少する。本発明に係る霧化装置においては、液体供給手段7によって当該振動子3との接触部位のフィルム表面に液体を供給することにより、継続的に液滴20を生成することが可能である。
【0048】
例えば、
図3及び4に示す形態においては、振動子3と接触する部位のフィルム表面への液体の供給21は、主に当該液体が有する表面張力によって駆動することができる。つまり、振動子3との接触部位におけるフィルム表面の液膜2の厚みが減少した際には、液体の表面張力の作用によって、その周囲の液膜の厚みと同一にする方向に液膜内での液体の流れが生じることで、振動子3との接触部位の液膜2の厚みが維持することができる。
【0049】
このため、フィルムの振動子3との接触部位の表面への液体の供給21を円滑にして、生成する液滴20の量を維持する観点からは、当該接触部位の近傍における液膜2の厚みを維持することが望ましく、例えば、
図5に示すような液体供給手段7の開口部7aを当該接触部位の近傍に配置して液体の流動距離を小さくすることが望ましい。
【0050】
一方、
図4に示すように、フィルム表面に供給される液体に対して電圧印加手段8によって液体に電位を印加すると共に、振動子3を金属で構成して、これを接地電位に維持する等により、液膜2と振動子3間に電位差を設けることにより、静電気力によってフィルム1と振動子3との接触部位への液体の供給21を促進することが可能である。また、液膜2と振動子3間に電位差を設けることで生じる静電気力は、フィルム1に対して液膜を拘束する拘束力としても作用し、液膜2の厚みを拡大することで生成する液滴20の量を増大することができる。
また、フィルム1表面の液膜に電圧を印加することで液膜内の液体や、霧化によって生じる液滴に電荷が付与されるため、特に霧化された液滴を含む空間に所定の電界分布を設けることで、液滴の流れ(フラックス)を制御することが可能となる。
【0051】
電圧印加手段8によって液膜2と振動子3間に電位差を設ける際には、フィルム1として、液体に接触した際にも絶縁性を確保できる材質から構成されるフィルムが望ましく使用される。
図4においては、電圧印加手段8によって液膜2に電位を印加する一方で、振動子3を接地する例を示すが、本発明はこれに限定されず、振動子3の側に電位を付与することによっても、液膜との間で静電気力を生じさせ、フィルム1と振動子3との接触部位への液体供給の効率化や、液膜2の厚みの拡大を図ることができる。
【0052】
超音波発生手段4は、主にフィルム1と振動子3との接触部位の面積に応じた出力を有するものであれば特に限定せずに使用することができる。
図6には、本発明で使用される超音波発生手段4の構造の例を模式的に示す。
図6に示すように、電圧の印加によって拡張/収縮を生じる圧電材料31に対して、その両面に電極30を設けて、交流電源装置33により所定の周波数の交流電圧を印加することで、当該電極間の距離を拡張/収縮する方向の振動を生じさせる超音波振動子を構成することができる。また、当該超音波振動子の電極の一方の側に、適宜の音響特性を示すホーン32を取り付けることによって、超音波振動子から発する音波の振幅等を調整することができる。
【0053】
図6に示す構成の超音波発生手段4ではホーン32の先端面に対して垂直方向の振動を発生可能であるが、本発明に係る霧化装置において使用される超音波発生手段はこれに限定されず、ホーン32の先端面と平行な方向の振動を生じる超音波発生手段や、ホーン32の先端面に対して垂直方向と水平方向の振動を混合して生じる超音波発生手段を使用することができる。一方、特に本発明に係る霧化装置を上記描画手段のヘッド部等として使用する際には、生成する液滴のフラックスを揃える観点から、フィルム表面に対して垂直な方向の振動を印加可能な超音波発生手段を使用することが好ましい。
【0054】
本発明に係る霧化装置においてフィルムに接触して超音波振動を印加する超音波印加手段としての振動子3は、
図6に示すような超音波発生手段のホーン32を振動子3としてフィルム1に接触させても良く、またホーン32に更に接続した部材を振動子3とすることもできる。
【0055】
振動子3がフィルム1に印加する超音波振動の振幅は、霧化される液体が有する表面張力の大きさや、単位時間に霧化される液量等に応じて適宜決定することができる。特に、振幅が10μm以上の振動子を使用することで、表面張力の大きい水等の霧化が可能となり、振幅が20μm以上の振動子を使用することで3mm程度の厚さの水膜からの霧化が可能となり、更に振幅を拡大することで霧化を生じる条件を拡大することができる。
【0056】
また、振動子3によりフィルム1に印加される超音波振動の振動数は特に限定されないが、上記のような振幅を容易に得ることができる点から、比較的低い周波数の超音波を使用することができる。例えば、20k~100kHzの周波数を有する超音波、或いは、20k~50kHzの周波数を有する超音波とすることで、上記の程度の振幅の振動を容易に得ることができる。
【0057】
図4に示す構成の霧化装置による液体の霧化を検証するために、以下に示す方法で、
図4に示す霧化装置によって生じる液滴20を基材11に吹き付けることで、霧化の安定性等を評価した。
【0058】
20mm×10mmの開口部を設けた厚さ2mmのアルミニウム板をフィルム支持体6として、一方の面が親水性表面とされたフィルム(スリーエムジャパン社製、SH2LHF(厚み80μm))を、当該親水化表面の裏面側をフィルム支持体6に接着剤により貼付した。更に、
図5に示す形態のアルミニウム製の液体供給手段7(開口部7aの幅;20mm,凹部の深さ;1mm)を、その開口部7aが、フィルム支持体6の開口部の長辺と一致するように親水性のフィルム表面に配置して、外部からクリップによってフィルム支持体6に固定した。
【0059】
フィルムの親水面を下方に向けて概ね水平となるように上記フィルム支持体6等をスタンドに固定して、フィルム支持体6をアース(接地)した。また、超音波発生装置(シャープ製UW-A2)のホーン部(先端部断面;12mm×2mm)を、フィルム支持体6の開口部の中心付近を介してフィルムの裏面に接触させた状態で固定した。当該超音波発生装置のホーン部先端は周波数が38kHz、振幅12μm程度で、フィルムの表面と垂直な方向の振動を生じる。
【0060】
また、上記フィルム支持体6から30mmの位置に、液体が霧化されて生じる液滴20を吹き付ける対象としての基材11(Sus430製)を、フィルム支持体6と平行に配置し、ホーン部の短辺の方向に所定の速度で移動可能な状態で、電気的にアース(接地)して配置した。
【0061】
上記の状態で、液体供給ポンプ10としてのシリンジポンプを用いて、染料を溶かした水性塗料(粘度;25mPa・sec)を一定の割合で液体供給手段7に供給してフィルムの親水面に液膜を形成すると共に、液体供給手段7に電圧印加手段8によって所定の電圧を印加した状態で超音波発生装置を動作させて、当該液膜からの霧化を生じさせた。
【0062】
図7には、水性塗料の供給量を0.03(ml/sec)、基材11の移動速度を3.0(cm/s)、液体供給手段7に印加する電圧を-6(kV)として、上記のようにして水性塗料の液滴20を吹き付けた基材の様子を示す。
図7に示すように、基材を移動しながら
図4に示す霧化装置による霧化を行った結果、基材の移動方向に色むらが無く、基材の移動方向と垂直な方向に一定の幅を有するストライプ状の塗膜12が描かれることが検証された。上記の結果は、
図4に示す霧化装置による霧化が継続して均一に生じることを示すものである。そして、当該霧化によって生じるミストを利用することで、各種の液体からなるミストを噴出するスプレー装置や、各種の対象物の表面に塗料などを塗布する塗布装置を形成可能であることを示すものである。
【0063】
上記霧化装置の評価においては、フィルムの下側表面に液膜が形成されている。当該フィルムの下側表面に形成された液膜においては、当該液膜中の液体に生じる重力の存在に関わらず、所定の略均一な厚みの液膜が維持可能であることから、当該液膜はフィルムと液体間に生じる親和力によって保持されているものと考えられる。そして、基材表面に継続的にムラのないストライプが描かれることは、フィルムと液体間に生じる親和力によって保持された液膜(液体)に超音波振動が伝達されて霧化を生じることが可能であることや、液体供給手段7により液体を供給することで液膜の厚み等が維持可能であることを示すものと考えられた。
【0064】
図8には、上記の装置を使用して、水性塗料の供給量を0.03(ml/sec)、液体供給手段7に印加する電圧を9(kV)とし、基材11の移動速度を1.0,3.0,5.0(cm/s)に変化した際に形成されたストライプ状の塗膜を乾燥させた後、塗膜の幅方向の厚さのプロファイルを測定した結果を示す。
図8(c)に示すように、基材を5.0(cm/s)の速度で移動した際に、形成されるストライプの幅が14mm程度となり、ホーン部の幅(12mm)に近くなることが観察された。このことは、少なくともホーン部の幅方向について、
図4に示す霧化装置によって生じた液滴は、フィルム面とほぼ垂直な方向に直進することを意味するものと推察された。
【0065】
また、
図8(a),(b)に示すように、基材の移動速度を低下させることで、ストライプ状の塗膜の幅が広がると共に、塗膜の厚みが均一化することが観察された。これは、基材の移動速度を低下させた際に単位面積当たりに付着する液体の量が増加することで、基材に付着した液滴が濡れ広がる結果であると推察され、類似の条件で描かれるストライプの幅は単位面積当たりに付着する液体の量の大小を反映するものと考えられた。
【0066】
図9には、上記の装置を使用して、液体供給手段7に印加する電圧を9(kV)、基材の移動速度を3.0(cm/s)とし、液体供給ポンプ10としてのシリンジポンプから液体供給手段7に供給する塗料の供給速度を変化させた際に、基材表面に描かれるストライプ状の塗膜の幅の変化を示す。
図9に示すように、液体供給手段7に供給する塗料の供給速度を増加させることで描かれるストライプの幅が増加することが観察された。このことから、液体供給手段7に供給する塗料の供給速度が増加することで、フィルム表面の液膜の厚みが増加し、霧化によって生じる液滴の量が増加するものと推察された。
【0067】
一方、液体供給手段7に供給する塗料の供給速度を一定値以下(
図8では、0.01ml/sec未満)にした際には継続した霧化が困難となり、ストライプ幅の評価が困難となった。これは、塗料の供給速度が一定値以下とされた際には、フィルム表面での液膜の厚みが薄くなることで、液膜の揺動によって微少液滴の生成が均一に生じにくくなることを示すものと考えられた。
【0068】
また、塗料の供給速度を一定値以上(
図8では、0.05ml/sec以上)にした際には、フィルム表面の液膜から塗料がマクロ的な液滴となって滴下する現象が観察され、良好な霧化の維持が困難となった。
【0069】
図10には、上記の装置を使用して、基材の移動速度を3.0(cm/s)、水性塗料の供給量を0.05(ml/sec)とし、電圧印加手段8によって液体供給手段7に印加する電圧を変化させて上記と同様にアースされた基材表面にストライプ状の塗膜を描いた際に、当該基材に吹き付けられた塗料の単位重量当たりに付着していた電荷量(比電荷量:mC/kg)を示す。なお、塗料の単位重量当たりに付着していた電荷量の測定は、金属製の基材に所定量の塗料を吹き付ける際に、当該基材とアースの間に流れる電流値を測定することにより行った。また、
図11には、上記の際に基材表面に描かれるストライプ状の塗膜の幅の変化を示す。
【0070】
図10に示すように、電圧印加手段8によって液体供給手段7を介して液膜に電圧を印加することで、噴霧される塗料の液滴に電荷を付着させることが可能であり、当該電圧値に応じて付着する電荷量が増加することが示された。
【0071】
図11に示すように、液膜に電圧を印加しない際には、塗料の霧化によって描かれるストライプ状の塗膜の幅が18mm程度となり、ホーン部の幅(12mm)と比べて拡大する傾向が見られた。一方、液膜に印加する電圧を1kV程度にすることでストライプの幅がホーン部の幅と同程度になり、静電気力によって霧化された液滴のフラックスの拡散が防止されたものと考えられた。
【0072】
一方、液膜に印加する電圧を、1kVを越えて拡大することによりストライプの幅が拡大する傾向が観察された。これは噴霧される塗料に付着する電荷量が上昇することで、当該電荷によって液滴間に斥力を生じて液滴のフラックスに広がりを生じた結果と推察された。
【0073】
上記の結果は、本発明に係る霧化装置において、フィルム表面に形成される液膜に電圧を印加することにより、フィルム表面の液膜から生じる液滴に所定量の電荷を付与可能であり、液滴の噴霧状態を変化することができると共に、所定の電位に保持した基材に対して静電気力によって液滴を付着させる、いわゆる静電塗装を行う際の霧化装置として本発明に係る霧化装置を使用可能であることを示すものである。
【0074】
上記で説明したように、本発明に係る霧化装置によれば、経時的に安定した量で液体を霧化して微少な液滴のフラックスを生成することができる。また、本発明に係る霧化装置は、方向性を有する液滴のフラックスを任意の方法に噴出することが可能であり、このことを利用して各種の液体からなるミストを噴出するスプレー装置を構成することができる。
【0075】
また、上記スプレー装置によって、液体中に所定の染料等を分散・溶解することで構成される塗料等を対象物に吹き付けて塗膜を形成するための塗布装置を構成することができる。当該塗布装置においては、霧化された液滴が霧化の過程で所定の方向性を有して飛翔するため、一般のエアスプレーのように空気等の流れを利用して液滴に方向性を付与する必要がなく、いわゆるエアレス方式での塗布が可能となる。エアレス方式での塗布は、エアの吹き戻しに伴う塗料の塗着率の低下がないため、高い塗布効率で塗布を行うことができる。
【0076】
本発明に係る霧化装置では、液体を霧化するための超音波振動を付与する振動子等の超音波印加手段と略同一の断面形状を有する液滴のフラックスを生成可能であり、当該超音波印加手段の形状等に応じて微細な範囲に塗料等の塗布を行うことができると共に、これを塗布対象の面内で移動しながら塗料の霧化を行うことで、大きな面積の塗布を行うことができる。また、本発明に係る霧化装置を複数個、並列に並べる等により、効率的な塗布を行うことができる。
【0077】
更に、本発明に係る霧化装置によって、所定の溶質を溶解してなる溶液を霧化すると共に、霧化によって生成する液滴から溶媒を蒸発除去等する機構を付加することにより、当該溶質から構成される微粒子を製造する造粒装置を構成することができる。当該造粒装置の形態として、溶液が霧化された空間を加熱等することによって当該溶媒を蒸発除去等して、当該空間内で微粒子を製造するものの他、当該溶液に対して親和性を有しない基材の表面に当該溶液を噴霧して、当該溶液からなる液滴を生成・成長させた後でその溶媒を蒸発除去する等、適宜の形態を有することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る霧化装置によれば各種の液体を効率的に霧化することが可能であり、当該液体からなるミストを容易に生成できると共に、特に当該ミストを利用することにより高い塗着率で塗料等の塗布を行い、また当該ミストを使用して各種の微粒子の造粒などを行うことができる。
【符号の説明】
【0079】
1 フィルム
2 水(水滴、液膜)
3 振動子
4 超音波発生手段
5 振動方向
6 フィルム支持体
7 液体供給手段
8 電圧印加手段
10 液体供給ポンプ
11 基材
12 塗膜
20 液滴(ミスト)
30 電極
31 圧電体
32 ホーン
33 交流電源装置
40 重力
41 凝集力(表面張力)
42 フィルム表面と液体の間に生じる親和力