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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130579
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】レーザ加工用ノズル
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/14 20140101AFI20230913BHJP
【FI】
B23K26/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034939
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】奥田 剛久
(72)【発明者】
【氏名】河西 賢一
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 崇
(72)【発明者】
【氏名】谷内 俊範
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168AD11
4E168CA06
4E168CB03
4E168EA17
4E168FA00
4E168FB03
4E168FB05
4E168JA02
4E168KA03
(57)【要約】
【課題】対象物の姿勢に関わらずレーザ加工を好適に実施可能なレーザ加工用ノズルを提供する。
【解決手段】レーザ加工用ノズルは、アシストガスを供給しながらレーザ光を照射することにより対象物を加工し、ノズル本体、曲面部材及びキャップ部材を備える。ノズル本体は、アシストガス及びレーザ光が通過可能な内部空間が軸方向に沿って延在する略円筒形状を有する。曲面部材は、ノズル本体の外表面に、ノズル本体の周方向に沿って設けられる。キャップ部材は、ノズル本体の外側に間隙を介してノズル本体の軸方向に沿って延び、内表面が少なくとも1つの曲面部材に接触する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシストガスを供給しながらレーザ光を照射することにより対象物を加工するためのレーザ加工用ノズルであって、
前記アシストガス及び前記レーザ光が通過可能な内部空間が軸方向に沿って延在する略円筒形状を有するノズル本体と、
前記ノズル本体の外表面に、前記ノズル本体の周方向に沿って設けられた少なくとも1つの曲面部材と、
前記ノズル本体の外側に間隙を介して前記ノズル本体の軸方向に沿って延び、内表面が前記少なくとも1つの曲面部材に接触するキャップ部材と、
を備える、レーザ加工用ノズル。
【請求項2】
前記少なくとも1つの曲面部材は、前記ノズル本体の周方向に沿って延在するリング状部材である、請求項1に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項3】
前記少なくとも1つの曲面部材は、前記ノズル本体の周方向に沿って配列された複数のドーム状部材を含む、請求項1又は2に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項4】
前記キャップ部材の先端部は、前記軸方向に対して略垂直な面を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項5】
前記キャップ部材の先端部は、前記軸方向に対して傾斜した面を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項6】
前記キャップ部材は、内表面に凹状に形成された溝部を有し、
前記少なくとも1つの曲面部材は、前記溝部に当接する、請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項7】
前記溝部は、前記少なくとも1つの曲面部材より大きな曲率半径を有する、請求項6に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項8】
前記溝部は、前記軸方向に沿った長さが、前記少なくとも1つの曲面部材より大きい、請求項6又は7に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項9】
前記キャップ部材は、前記ノズル本体の周方向に沿って部分的に設けられる、請求項1から8のいずれか一項に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項10】
前記キャップ部材の先端部は、外側に切り欠き部を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載のレーザ加工用ノズル。
【請求項11】
前記キャップ部材は、前記間隙と外部空間とを連通する少なくとも1つの流路孔を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載のレーザ加工用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
アシストガスを供給しながらレーザ光を照射することにより対象物を加工するためのレーザ加工用ノズルが知られている。例えばレーザ加工の一種であるレーザ切断加工では、対象物に対して所定の姿勢でレーザ加工用ノズルを配置し、アシストガスを供給しながらレーザ光の照射が行われる。レーザ加工用ノズルは所定の経路に沿って走査されることにより、レーザ光による溶融箇所がアシストガスの流体力によって排除されながら、対象物の切断が行われる。
【0003】
例えば特許文献1には、水中のレーザ加工に用いられるレーザ加工用ノズルの一例が開示されており、レーザ光を照射するための構成とアシストガスを供給するための構成が同軸に配置された構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-42113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のようにレーザ光の照射とアシストガスの供給とが一体的に構成されたレーザ加工用ノズルで行われる場合、レーザの照射位置とアシストガスの供給位置を独立に制御することができない。ここで、レーザ加工の実施時に、レーザ加工用ノズルを対象物の表面に対して略垂直に設置できる場合には、レーザ加工用ノズルからのアシストガスによってレーザ光による溶融箇所に十分な淀み圧を与えることができ、アシストガスを対象物の裏側に至るまで好適に導くことができる。しかしながら、レーザ加工用ノズルを対象物に対して垂直に設置できず傾斜して設置される場合には、傾斜の角度が大きくなると、レーザ加工用ノズルからのアシストガスの流れが対象物の表面でいなされてしまい、レーザ光による溶融箇所に対して十分な淀み圧を与えることができない。その結果、対象物の裏側に至るまでアシストガスを導くことができず、施工不良が生じるおそれがある。そのため、レーザ加工の実施中にレーザ加工用ノズルに対して対象面の表面の角度が変化する場合や、対象物にアクセスするためにレーザ加工用ノズルの姿勢が対象物に対して傾斜してしまう場合には、上記のような課題が生じる。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、対象物の姿勢に関わらずレーザ加工を好適に実施可能なレーザ加工用ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係るレーザ加工用ノズルは、上記課題を解決するために、
アシストガスを供給しながらレーザ光を照射することにより対象物を加工するためのレーザ加工用ノズルであって、
前記アシストガス及び前記レーザ光が通過可能な内部空間が軸方向に沿って延在する略円筒形状を有するノズル本体と、
前記ノズル本体の外表面に、前記ノズル本体の周方向に沿って設けられた少なくとも1つの曲面部材と、
前記ノズル本体の外側に間隙を介して前記ノズル本体の軸方向に沿って延び、内表面が前記少なくとも1つの曲面部材に接触するキャップ部材と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、対象物の姿勢に関わらずレーザ加工を好適に実施可能なレーザ加工用ノズルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】参考技術に係るレーザ加工用ノズルを用いて対象物をレーザ加工する様子を側方から示す断面模式図である。
図2図1のレーザ加工用ノズルを対象物に対して傾斜するように配置してレーザ加工を実施する際の出口部近傍の様子を示す図である。
図3】一実施形態に係るレーザ加工用ノズルを対象物とともに側方から模式的に示す断面図である。
図4図3のA-A断面図である。
図5図4の変形例である。
図6図3の変形例である。
図7図3の他の変形例である。
図8図3の他の変形例である。
図9図3の他の変形例である。
図10図3の他の変形例である。
図11図3のB-B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
図1は参考技術に係るレーザ加工用ノズル1´を用いて対象物2をレーザ加工する様子を側方から示す断面模式図であり、図2図1のレーザ加工用ノズル1´を対象物2に対して傾斜するように配置してレーザ加工を実施する際の出口部14近傍の様子を示す図である。
【0012】
レーザ加工用ノズル1´は、対象物2に対してアシストガスGを供給しながらレーザ光Lを照射することにより、対象物2を加工するための装置である。レーザ加工用ノズル1´によって実施されるレーザ加工は、例えば、レーザ切断であるが、穿孔であってもよい。対象物2は限定されないが、本実施形態では所定の厚さtを有する平板形状を有する構造物であり、例えばSUSを材料としている。
尚、レーザ光は例えば波長は近赤外領域であり、アシストガスは例えば圧縮空気、アルゴン、窒素である。
【0013】
レーザ加工用ノズル1´から照射されるレーザ光Lは、レーザ光源(不図示)からレーザファイバ4を介してノズル本体6に導入される。ノズル本体6は、中心軸Cを有する略円筒形状を有しており、内部にレーザ光L及びアシストガスGが通過可能な内部空間8を有する。レーザファイバ4はノズル本体6の上流側(図1において左側)に接続されており、レーザファイバ4によって内部空間8に導入されたレーザ光Lは、内部空間8に設けられた光学系11に入射する。光学系11はレーザ光Lを対象物2の表面に集光する。対象物2に照射されたレーザ光Lは、対象物2の表面に対してエネルギーを付与することで、対象物2を局所的に溶融する。
【0014】
アシストガスGは、アシストガス源(不図示)からガスライン12を介して、ノズル本体6の内部空間8に導入される。ガスライン12はノズル本体6の側方に接続されており、所定の圧力で供給されたアシストガスGは、ノズル本体6の出口部14から対象物2に向けて噴射されることにより、レーザ光Lによる対象物2の溶融分を排除する。
【0015】
尚、ノズル本体6は、上流側においてレーザファイバ4が接続される第1部分6aと、第1部分6aより下流側にある第2部分6bを含む。第1部分6aは、内部空間8が中心軸Cに対して略一定の内径を有する円筒形状を有しており、内部空間8には光学系11が設けられる。第2部分6bでは、内部空間8が中心軸Cに沿って下流側に向かうに従って内径が減少する略円錐形状を有しており、側方にはガスライン12が接続される。これにより、第2部分6bでは光学系11で対象物2の表面に集光されるレーザ光Lが内部空間8の内表面に干渉することなく、且つ、内部空間8を通って出口部14から対象物2に噴射されるアシストガスGが加速されるように構成されている。
【0016】
尚、図1では、レーザ加工用ノズル1´において、出口部14から出射されるレーザ光Lの照射方向とアシストガスGの噴射方向とが同軸に構成されている場合を例示しているが、これらは同軸でなくともよい。
【0017】
このようにレーザ加工用ノズル1´では、レーザ光Lの照射機構とアシストガスGの供給機構とが一体的に構成されるため、レーザ光Lの照射位置とアシストガスGの供給位置を独立に制御することができない。ここで、レーザ加工の実施時に、図1に示すように、レーザ加工用ノズル1´を対象物2の表面に対して略垂直に設置できる場合には、レーザ加工用ノズル1´からのアシストガスGによってレーザ光Lによる溶融箇所に十分な淀み圧を与えることができ、アシストガスGを対象物2の裏側に至るまで好適に導くことができる。
【0018】
しかしながら、図2に示すように、レーザ加工用ノズル1´を対象物2に対して垂直に設置できず傾斜して設置せざるを得ない場合には、傾斜角度θ(対象物2の表面に対する法線Dに対する中心軸Cの角度)が大きくなると、レーザ加工用ノズル1´からのアシストガスGの流れが対象物2の表面でいなされてしまい、レーザ光Lによる溶融箇所に対して十分な淀み圧を与えることができない。すなわち、対象物2の表面に対する中心軸Cの鈍角側(前方側)では、アシストガスGの大部分の流れが圧力に変換されず、流れ方向が変わって前方に流出してしまう。その結果、例えばレーザ切断加工を行う場合には、レーザ光Lによる対象物2の局所的な溶融箇所に対して十分な淀み圧が与えられず、対象物2に形成された溶融孔5を介して、対象物2の裏側に至るまでアシストガスGを導くことができず、施工不良が生じるおそれがある。そのため、レーザ加工の実施中にレーザ加工用ノズル1´に対して対象物2の表面の角度が変化する場合や、対象物2にアクセスするためにレーザ加工用ノズル1´の姿勢が対象物2に対して傾斜してしまう場合には、上記のような課題が生じる。このような課題は、以下に説明する各実施形態によって好適に解消することができる。
【0019】
図3は一実施形態に係るレーザ加工用ノズル1Aを対象物2とともに側方から模式的に示す断面図であり、図4図3のA-A断面図である。尚、以下の説明では前述の参考技術に対応する構成には、共通の符号を用いて述べることとし、特段の記載がない限りにおいて、重複する説明は省略する。
【0020】
レーザ加工用ノズル1Aは、アシストガスGを供給しながらレーザ光Lを照射することにより対象物2を加工するための装置であって、ノズル本体6を有する。ノズル本体6は、アシストガスG及びレーザ光Lが通過可能な内部空間8が中心軸Cの軸方向に沿って延在する略円筒形状を有する。
【0021】
ノズル本体6の外側には、キャップ部材20が設けられる。キャップ部材20は、ノズル本体6と略同心(但し、後述するように、キャップ部材20は中心軸Cに沿ってスライド移動したり、傾斜(角度変化)することも可能である)に設けられた略円筒形状を有する。キャップ部材20は、その内径がノズル本体6の外径より大きい。キャップ部材20の内表面と、ノズル本体6の外表面との間には間隙22が設けられる。間隙22は、ノズル本体6とキャップ部材20との間から、ノズル本体6の出口部14に至るまで及ぶ。図3に示すように、レーザ加工用ノズル1Aが対象物2の表面に対して中心軸Cが略垂直になるように配置された場合には、間隙22はノズル本体6の出口部14と対象物2の表面との間であって、キャップ部材20に囲まれる空間にまで及んでおり、当該空間にはノズル本体6の内部空間8を介して導かれるアシストガスGが供給される。
【0022】
キャップ部材20の先端部28は、中心軸Cに対して略垂直な面を有する。これにより、図3に示すように、ノズル本体6に対して対象物2の表面が略垂直に近い場合には、キャップ部材20の先端部28が中心軸Cに対して略垂直な面を有するように構成することで、キャップ部材20の先端部28と、対象物2の表面との間にある隙間を狭め、当該隙間におけるアシストガスGの流動抵抗を増加させられる。これにより、キャップ部材20の先端部28と対象物2の表面との間にある隙間から、アシストガスGが外部にリークすることを抑制し、レーザ光Lの照射位置に対して好適に淀み圧を与えることができる。
【0023】
ノズル本体6の外表面には、ノズル本体6の周方向に沿って設けられた少なくとも1つの曲面部材24が設けられる。曲面部材24は、その頂部がキャップ部材20の内表面に接触するように設けられる。これにより、対象物2が図3の対象物2´のように傾斜した場合においても、ノズル本体6の対象物2に対する角度が変化(傾斜)した場合においても、キャップ部材20は曲面部材24との接触箇所を起点として、ノズル本体6に対して傾斜(角度変化)することで、キャップ部材20の先端部28を対象物2の表面に追従させることができる。これにより、対象物2に対してノズル本体6に傾斜する場合においても、キャップ部材20と対象物2の表面との隙間を低減しながら、キャップ部材20が対象物2の表面と連動してノズル本体6に対して傾斜することで、ノズル本体6から供給されるアシストガスGの流れが有する動圧から静圧を回復し、レーザ光Lの照射位置に対して好適に淀み圧を与えることができる。その結果、ノズル本体6に対するキャップ部材20の傾斜角度が大きい状態においても、ノズル本体6から供給されるアシストガスGの動圧をブロックして好適に静圧に回復できる。
【0024】
本実施形態では図4に示すように、曲面部材24は、ノズル本体6の周方向に沿って延在するリング状部材である。この場合、曲面部材24は周方向に沿ってキャップ部材20の内表面に対して線接触することにより、ノズル本体6とキャップ部材20との間の間隙22は、周方向に沿ってシールされる。これにより、ノズル本体6を介して供給されるアシストガスGの流れがキャップ部材20の内側にある対象物2の表面によってブロックされることで、アシストガスGの動圧から静圧を回復できる。また間隙22を介した外部へのアシストガスGのリークも好適に抑制できる。
【0025】
また図3に示すように、キャップ部材20は、曲面部材24より上流側において、内側に向けて凸状に設けられた突起部26を有する。キャップ部材20は、ノズル本体6に対して間隙22を介して配置されることで中心軸Cに沿ってスライド移動可能であるが、スライド量が一定量に達すると、突起部26が曲面部材24に干渉(当接)する。これにより、スライド量が一定量を超えて、キャップ部材20がノズル本体6から軸方向に沿って抜け出て脱落することを防止できる。
【0026】
ここで図5図4の変形例である。図5に示す変形例に示すように、曲面部材24は、ノズル本体6の周方向に沿って配列された複数のドーム状部材であってもよい。ドーム状部材は、例えばノズル本体6の外表面上に設けられた半球形状を有する構造である。この場合、各ドーム状部材はキャップ部材20の内表面に対してそれぞれ点接触することにより、ノズル本体6とキャップ部材20との間の間隙22を部分的にシールできる。またドーム状部材である曲面部材24は、キャップ部材20の内表面に対して点接触するため接触面積が小さく、ノズル本体6とキャップ部材20とが相対的にスライド移動又は傾斜した場合に生じる摩耗量を効果的に低減できる。
【0027】
尚、曲面部材24が複数のドーム状部材である場合には、隣り合うドーム状部材間に隙間があるため、当該隙間を介して少なからず外部にアシストガスGがリークする。そのため、複数のドーム状部材の形状や間隔は当該リーク量を考慮して適宜設定するとよい。
【0028】
図6図3の変形例である。前述のレーザ加工用ノズル1Aは、中心軸Cに対して垂直な姿勢で対象物2が配置可能な場合に適した構成例であるが、図6に示すレーザ加工用ノズル1Bは、中心軸Cに対して傾斜した姿勢を有する対象物2に適した構成例である。この場合、キャップ部材20の先端部28は、キャップ部材20の軸(又は中心軸C)に対して傾斜した面を有してもよい。先端部28の傾斜角度は、対象物2の傾斜角度に対応するように設定されるとよい(好ましくは、対象物2の表面に平行になるための傾斜角度に設定されるとよい)。これにより、ノズル本体6に対して対象物2の表面が傾斜している場合においても、キャップ部材20の先端部28と、対象物2の表面との間にある隙間を狭め、当該隙間を通過するアシストガスGに対して流動抵抗を増加させられる。これにより、キャップ部材20の先端部28と対象物2の表面との隙間から、アシストガスGが外部にリークすることを抑制し、ノズル本体6の内部空間8から導かれるアシストガスGの動圧を静圧に変換して、レーザ光Lの照射位置に対して好適に淀み圧を与えることができる。
【0029】
図7図3の他の変形例である。図7に示すレーザ加工用ノズル1Cでは、キャップ部材20の先端部28のうち外側には、切り欠き部29が設けられている。これにより、対象物2に沿ってレーザ加工用ノズル1Cが移動(走査)される際に、先端部28が対象物2に干渉することを効果的に軽減でき、スムーズな移動(走査)が可能となる。
【0030】
尚、先端部28に設けられた切り欠き部29は角状であってもよいが、曲面状(角をとるように)に形成されることで、対象物2に対する干渉(引っ掛かりなど)をより効果的に軽減できる。
【0031】
図8図3の他の変形例である。図8に示すレーザ加工用ノズル1Dでは、キャップ部材20には、間隙と外部空間とを連通する少なくとも1つの流路孔30が設けられる。レーザ加工用ノズル1Dは、このような流路孔30を有することにより、キャップ部材20とノズル本体6との間にある間隙における圧力が過大になった場合には流路孔を介してアシストガスGをリークさせることで、当該圧力の調整が可能となる。
【0032】
図9図3の他の変形例である。図9に示すレーザ加工用ノズル1Eでは、キャップ部材20の内表面に、凹状に形成された溝部32が設けられる。ノズル本体6の外表面上に設けられた曲面部材24は、溝部32に当接することにより、ノズル本体6とキャップ部材20との間にある間隙をシールする。このような構造では、溝部32と曲面部材24とによってラビリンス構造が構成されるため、間隙を介して外部にアシストガスGがリークすることをより効果的に抑制できる。
【0033】
溝部32は、曲面部材24より大きな曲率半径を有するとよい。これにより、曲面部材24は溝部32の表面に沿った滑らかな回動が可能となり、ノズル本体6に対するキャップ部材20の傾斜範囲を効果的に広げることができる。
【0034】
また溝部32は、軸方向に沿った長さが曲面部材24より大きくともよい(すなわち溝部32は、軸方向に沿った断面において、軸方向に沿った長軸を有する半楕円形状を有してもよい)。このように曲面部材24に当接する溝部32の軸方向長さを大きくすることにより、ノズル本体6に対するキャップ部材20の可動域(軸方向に沿ったスライド移動、又は、軸方向に対する傾斜が可能な範囲)を効果的に広げることができる。
【0035】
図10図3の他の変形例であり、図11図10のB-B線断面図である。前述の各実施形態に係るレーザ加工用ノズル1A~1Eでは、キャップ部材20がノズル本体6の周方向全体にわたって囲むように構成されていたが、図10に示すレーザ加工用ノズル1Fでは、キャップ部材20は、ノズル本体6の周方向に沿って部分的に設けられる。これにより、ノズル本体6のうちキャップ部材20が設けられた側では、前述の各実施形態と同様に、キャップ部材20によってアシストガスGが外部にリークすることが抑制されることで、レーザ光Lによる溶融箇所に対して効果的に淀み圧を与えることができる。一方で、ノズル本体6のうちキャップ部材20が設けられていない側では外部に対して開放されるため、例えば、外部からカメラ等の撮像装置40によって、ノズルの設置状態や、レーザ光Lによる溶融箇所の観察等が可能となる。
【0036】
また図11に示すように、図10におけるキャップ部材20は、周方向に沿って180度より広い範囲にわたって設けられてもよい。この場合、キャップ部材20は、ノズル本体6の半分以上の領域を囲むことで、外部に抜け出ることが規制され、簡易的な構成でキャップ部材20をノズル本体6に支持することができる。
【0037】
尚、キャップ部材20が、周方向に沿って180度以下の範囲にわたって設けられている場合には、例えば、不図示の支持構造によってノズル本体6に支持することができる。この場合に用いられる支持構造は任意でよく、レーザ加工用ノズル1Fの動作に支障がない範囲で適宜設計可能である。
【0038】
以上説明したように上記各実施形態によれば、対象物2の姿勢に関わらずレーザ加工を好適に実施可能なレーザ加工用ノズル1A~1Fを提供できる。
【0039】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0040】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)一態様に係るレーザ加工用ノズルは、
アシストガス(G)を供給しながらレーザ光(L)を照射することにより対象物(2)を加工するためのレーザ加工用ノズル(1A~1F)であって、
前記アシストガス及び前記レーザ光が通過可能な内部空間(8)が軸方向に沿って延在する略円筒形状を有するノズル本体(6)と、
前記ノズル本体の外表面に、前記ノズル本体の周方向に沿って設けられた少なくとも1つの曲面部材(24)と、
前記ノズル本体の外側に間隙を介して前記ノズル本体の軸方向に沿って延び、内表面が前記少なくとも1つの曲面部材に接触するキャップ部材(20)と、
を備える。
【0042】
上記(1)の態様によれば、ノズル本体の外側に間隙を介してキャップ部材を設けることで、ノズル本体の内部空間を介して供給されるアシストガスのうち、対象物の手前側においてノズル本体の側方から外部にリークする流れに対する流動抵抗を増加できる。これにより、対象物を貫通することなく対象物の表面周囲にリークする流れを低減し、レーザ光の照射位置に対して好適に淀み圧を与えることができる。またノズル本体の外表面に設けられた曲面部材がキャップ部材の内表面に接触することで、ノズル本体が対象物に対して傾斜した場合においても、曲面部材とキャップ部材との接触箇所を起点として、ノズル本体に対するキャップ部材の軸方向に沿ったスライド移動、又は、軸方向に対する傾斜が可能となる。これにより、対象物に対してノズル本体を略垂直に配置できない場合においても、ノズル本体に対するキャップ部材の姿勢が対象物の角度に応じて追従することで、キャップ部材と対象物の表面との隙間を低減しながら、キャップ部材が対象物の表面と連動してノズル本体に対して傾斜することで、ノズル本体から供給されるアシストガスの流れが有する動圧から静圧を回復し、レーザ光の照射位置に対して好適に淀み圧を与えることができる。
【0043】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記少なくとも1つの曲面部材は、前記ノズル本体の周方向に沿って延在するリング状部材である。
【0044】
上記(2)の態様によれば、ノズル本体の外表面上に設けられる曲面部材は、周方向に沿って延在するリング状部材として構成される。リング状部材は周方向に沿ってキャップ部材の内表面に対して線接触することにより、ノズル本体とキャップ部材との間の間隙は、周方向に沿ってシールされ、ノズル本体を介して供給されるアシストガスの流れがキャップ部材の内側にある対象物の表面によってブロックされることで、アシストガスGの動圧から静圧を回復できる。また間隙を介した外部へのアシストガスのリークも好適に抑制できる。
【0045】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記少なくとも1つの曲面部材は、前記ノズル本体の周方向に沿って配列された複数のドーム状部材を含む。
【0046】
上記(3)の態様によれば、ノズル本体の外表面上に設けられる曲面部材は、周方向に沿って配列された複数のドーム状部材として構成される。各ドーム状部材はキャップ部材の内表面に対してそれぞれ点接触することにより、ノズル本体とキャップ部材との間の間隙を部分的にシールできる。またドーム状部材である曲面部材は、キャップ部材の内表面に対して点接触するため接触面積が小さく、ノズル本体とキャップ部材とが相対的に移動した場合に生じる摩耗量を効果的に低減できる。
【0047】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記キャップ部材の先端部は、前記軸方向に対して略垂直な面を有する。
【0048】
上記(4)の態様によれば、ノズル本体に対して対象物の表面が略垂直に近い場合には、キャップ部材の先端部が軸方向に対して略垂直な面を有するように構成することで、キャップ部材の先端部と、対象物の表面との間の流動抵抗を増加させられる。これにより、キャップ部材と対象物との隙間から、アシストガスが外部にリークすることを抑制し、レーザ光の照射位置に対して好適に淀み圧を与えることができる。
【0049】
(5)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記キャップ部材の先端部は、前記軸方向に対して傾斜した面を有する。
【0050】
上記(5)の態様によれば、ノズル本体に対して対象物の表面が傾斜している場合には、キャップ部材の先端部が軸方向に対して傾斜した面を有するように構成することで、キャップ部材の先端部と、対象物の表面との間の流動抵抗を増加させられる。これにより、キャップ部材と対象物との隙間から、アシストガスが外部にリークすることを抑制し、レーザ光の照射位置に対して好適に淀み圧を与えることができる。
【0051】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記キャップ部材は、内表面に凹状に形成された溝部(32)を有し、
前記少なくとも1つの曲面部材は、前記溝部に当接する。
【0052】
上記(6)の態様によれば、キャップ部材の内表面のうち曲面部材が当接する箇所には、キャップ部材の内表面に凹状に形成された溝部が設けられる。曲面部材は溝部に対して当接することにより、ノズル本体とキャップ部材との間にある間隙をシールする。このような構造では、溝部と曲面部材とによってラビリンス構造が構成されるため、間隙を介して外部にアシストガスがリークすることをより効果的に抑制できる。
【0053】
(7)他の態様では、上記(6)の態様において、
前記溝部は、前記少なくとも1つの曲面部材より大きな曲率半径を有する。
【0054】
上記(7)の態様によれば、キャップ部材の内表面に設けられる溝部は、曲面部材より大きな曲率半径を有するように構成される。これにより、曲面部材は溝部の表面に沿った滑らかな回動が可能となり、ノズル本体に対するキャップ部材の傾斜範囲を効果的に広げることができる。
【0055】
(8)他の態様では、上記(6)又は(7)の態様において、
前記溝部は、前記軸方向に沿った長さが、前記少なくとも1つの曲面部材より大きい。
【0056】
上記(8)の態様によれば、曲面部材に当接する溝部の軸方向長さを大きくすることにより、ノズル本体に対するキャップ部材の可動域(軸方向に沿ったスライド移動、又は、軸方向に対する傾斜が可能な範囲)を効果的に広げることができる。
【0057】
(9)他の態様では、上記(1)から(8)のいずれか一態様において、
前記キャップ部材は、前記ノズル本体の周方向に沿って部分的に設けられる。
【0058】
上記(9)の態様によれば、ノズル本体の周方向に沿ってキャップ部材が部分的に設けられる。これにより、ノズル本体のうちキャップ部材が設けられた側では、前述の態様と同様に、キャップ部材によってアシストガスが外部にリークすることを抑制することで、レーザ光による溶融箇所に対して淀み圧を与えることができる。一方で、ノズル本体のうちキャップ部材が設けられていない側では外部に対して開放されるため、例えば、外部からカメラ等の撮像装置によって、ノズルの設置状態や、レーザ光による溶融箇所の観察等が可能となる。
【0059】
(10)他の態様では、上記(1)から(9)のいずれか一態様において、
前記キャップ部材の先端部は、外側に切り欠き部(29)を有する。
【0060】
上記(10)の態様によれば、キャップ部材の先端部の外側が切り欠かれていることで、対象物に沿ってレーザ加工用ノズルが移動(走査)される際に、先端部が対象物に干渉することを効果的に軽減できる。
【0061】
(11)他の態様では、上記(1)から(10)のいずれか一態様において、
前記キャップ部材は、前記間隙と外部空間とを連通する少なくとも1つの流路孔(30)を有する。
【0062】
上記(11)の態様によれば、キャップ部材に流路孔を有することにより、キャップ部材とノズル本体との間にある間隙における圧力が過大になった場合には流路孔を介してアシストガスをリークさせることで、当該圧力の調整が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1A~1F レーザ加工用ノズル
2 対象物
4 レーザファイバ
5 溶融孔
6 ノズル本体
6a 第1部分
6b 第2部分
8 内部空間
11 光学系
12 ガスライン
14 出口部
20 キャップ部材
22 間隙
24 曲面部材
26 突起部
28 先端部
29 切り欠き部
30 流路孔
32 溝部
40 撮像装置
C 中心軸
G アシストガス
L レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11