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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130656
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/15 20160101AFI20230913BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20230913BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20230913BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20230913BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20230913BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20230913BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/442 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L15/20 J
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035072
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩介
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB01
3D202BB11
3D202CC15
3D202CC16
3D202CC24
3D202DD01
3D202DD02
3D202DD07
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD26
3D202FF12
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125DD18
5H125EE08
5H125EE41
5H125EE52
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】ガレージシフトが実行された場合であっても、車両のずり下がりを的確に判定することができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】HCUは、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更する操作であるガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定する(ステップS1)。HCUは、ガレージシフトが実行されたと判定した場合、第1のずり下がり判定処理を実施して車両のずり下がりの有無を判定し(ステップS2)、ガレージシフトが実行されていないと判定した場合、第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して車両のずり下がりの有無を判定する(ステップS3)。HCUは、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両のずり下がりが有ると判定された場合(ステップS4でYES)、車両1の駆動力を増加する(ステップS5)。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に動力を伝達する駆動力源として少なくともモータを備える車両の制御装置であって、
前記モータが発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更する操作であるガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定するガレージシフト判定部と、
前記ガレージシフトが実行されたと前記ガレージシフト判定部により判定された場合、第1のずり下がり判定処理を実施して前記車両のずり下がりの有無を判定する第1のずり下がり判定部と、
前記ガレージシフトが実行されていないと前記ガレージシフト判定部により判定された場合、前記第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して前記車両のずり下がりの有無を判定する第2のずり下がり判定部と、
前記第1のずり下がり判定処理または前記第2のずり下がり判定処理により前記車両のずり下がりが有ると判定された場合、前記車両の駆動力を増加させる制御部と、を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1のずり下がり判定処理は、前記シフトポジションと前記モータの回転速度と前記モータの回転加速度とに基づいて前記車両のずり下がりの有無を判定する処理であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記第2のずり下がり判定処理は、前記シフトポジションと前記モータの回転速度とに基づいて前記車両のずり下がりの有無を判定する処理であることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記第1のずり下がり判定処理は、前記モータの回転加速度の絶対値が所定の閾値よりも小さいか否かと、前記シフトポジションと前記モータの回転速度と前記モータの回転加速度とに基づいて前記車両のずり下がりの有無を判定する処理であることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記第1のずり下がり判定処理は、前記シフトポジションと前記車両の速度と前記車両の加速度とに基づいて前記車両のずり下がりの有無を判定する処理であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記第2のずり下がり判定処理は、前記シフトポジションと前記車両の速度とに基づいて前記車両のずり下がりの有無を判定する処理であることを特徴とする請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記車両は、前記駆動力源として前記モータと内燃機関とを備え、
前記制御部は、前記第1のずり下がり判定処理または前記第2のずり下がり判定処理により前記車両のずり下がりが有ると判定された場合、前記内燃機関を始動して前記車両の駆動力を増加させることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
駆動輪に動力を伝達する駆動力源として少なくとも内燃機関を備える車両の制御装置であって、
前記内燃機関が発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更するガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定するガレージシフト判定部と、
前記ガレージシフトが実行されたと前記ガレージシフト判定部により判定された場合、第1のずり下がり判定処理を実施して前記車両のずり下がりの有無を判定する第1のずり下がり判定部と、
前記ガレージシフトが実行されていないと前記ガレージシフト判定部により判定された場合、前記第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して前記車両のずり下がりの有無を判定する第2のずり下がり判定部と、
前記第1のずり下がり判定処理または前記第2のずり下がり判定処理により前記車両のずり下がりが有ると判定された場合、前記車両の駆動力を増加させる制御部と、を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
前記第1のずり下がり判定処理は、前記シフトポジションと前記車両の速度と前記車両の加速度とに基づいて前記車両のずり下がりの有無を判定する処理であることを特徴とする請求項8に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記第2のずり下がり判定処理は、前記シフトポジションと前記車両の速度とに基づいて前記車両のずり下がりの有無を判定する処理であることを特徴とする請求項9に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、登坂路をモータにより走行しているときに、車速を負の値である閾速度と比較し、車速が閾速度以下である場合には、車両のずり下がりが発生していると判定してエンジンを始動するようにした技術が記載されている。特許文献1に記載のものは、モータトルクの不足分をエンジントルクで補うことにより、車両のずり下がりを停止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-84453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、シフトポジションに基づく進行方向とは逆方向の車速を検出した場合に車両のずり下がりが発生していると判定しているため、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更する操作であるガレージシフトがドライバにより実行された場合、実際には車両のずり下がりが発生していないにも関わらず車両のずり下がりが発生していると誤判定されるおそれがあった。
【0005】
例えば、車両の微速後進中にドライバがシフトポジションを後進レンジから前進レンジに切り替えた場合、前進レンジへの切り替え直後は車両がまだ後進しているため、車両のずり下がりが発生していると誤判定されてしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ガレージシフトが実行された場合であっても、車両のずり下がりを的確に判定することができる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、駆動輪に動力を伝達する駆動力源として少なくともモータを備える車両の制御装置であって、前記モータが発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更する操作であるガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定するガレージシフト判定部と、前記ガレージシフトが実行されたと前記ガレージシフト判定部により判定された場合、第1のずり下がり判定処理を実施して前記車両のずり下がりの有無を判定する第1のずり下がり判定部と、前記ガレージシフトが実行されていないと前記ガレージシフト判定部により判定された場合、前記第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して前記車両のずり下がりの有無を判定する第2のずり下がり判定部と、前記第1のずり下がり判定処理または前記第2のずり下がり判定処理により前記車両のずり下がりが有ると判定された場合、前記車両の駆動力を増加させる制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明によれば、ガレージシフトが実行された場合であっても、車両のずり下がりを的確に判定することができる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置の概要を示す図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置による車両ずり下がり判定動作の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置による第1のずり下がり判定処理をシフトポジションとモータ回転速度とモータ回転加速度とに基づいて実施する場合の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置による第2のずり下がり判定処理をシフトポジションとモータ回転速度に基づいて実施する場合の手順を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置による第1のずり下がり判定処理をシフトポジションと車両速度と車両加速度とに基づいて実施する場合の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置による第2のずり下がり判定処理をシフトポジションと車両速度に基づいて実施する場合の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、駆動輪に動力を伝達する駆動力源として少なくともモータを備える車両の制御装置であって、モータが発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更する操作であるガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定するガレージシフト判定部と、ガレージシフトが実行されたとガレージシフト判定部により判定された場合、第1のずり下がり判定処理を実施して車両のずり下がりの有無を判定する第1のずり下がり判定部と、ガレージシフトが実行されていないとガレージシフト判定部により判定された場合、第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して車両のずり下がりの有無を判定する第2のずり下がり判定部と、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両のずり下がりが有ると判定された場合、車両の駆動力を増加させる制御部と、を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、ガレージシフトが実行された場合であっても、車両のずり下がりを的確に判定することができる。
【実施例0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る制御装置を搭載した車両について詳細に説明する。
【0012】
図1において、本発明の一実施例に係る車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、自動変速機としてのトランスミッション3と、モータとしてのモータジェネレータ4と、駆動輪5と、車両1を総合的に制御する制御部としてのHCU(Hybrid Control Unit)10と、エンジン2を制御するECM(Engine Control Module)11と、トランスミッション3を制御するTCM(Transmission Control Module)12と、ISGCM(Integrated Starter Generator Control Module)13と、INVCM(Invertor Control Module)14と、BMS(Battery Management System)16とを含んで構成される。
【0013】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0014】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20と、スタータ21とが連結されている。ISG20は、ベルト22などを介してエンジン2のクランクシャフト18に連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を回転駆動させる電動機の機能と、クランクシャフト18から入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0015】
本実施例では、ISG20は、ISGCM13の制御により、電動機として機能することで、エンジン2をアイドリングストップ機能による停止状態から再始動させるようになっている。ISG20は、電動機として機能することで、車両1の走行をアシストすることもできる。
【0016】
スタータ21は、図示しないモータとピニオンギヤとを含んで構成されている。スタータ21は、モータを回転させることにより、クランクシャフト18を回転させて、エンジン2に始動時の回転力を与えるようになっている。このように、エンジン2は、スタータ21によって始動され、アイドリングストップ機能による停止状態からISG20によって再始動される。
【0017】
トランスミッション3は、エンジン2から出力された回転を変速し、ドライブシャフト23を介して駆動輪5を駆動するようになっている。トランスミッション3は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の変速機構25と、ノーマルクローズタイプの乾式クラッチによって構成される動力伝達機構としてのクラッチ26と、ディファレンシャル機構27と、図示しないアクチュエータとを備えている。
【0018】
トランスミッション3は、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)として構成されており、TCM12により制御されたアクチュエータにより変速機構25における変速段の切換えとクラッチ26の接続及び解放が行われるようになっている。ディファレンシャル機構27は、変速機構25によって出力された動力をドライブシャフト23に伝達するようになっている。
【0019】
モータジェネレータ4は、ディファレンシャル機構27に対して、チェーン28を介して連結されている。モータジェネレータ4は、電動機として機能する。
【0020】
モータジェネレータ4は、発電機としても機能し、車両1の走行によって発電を行うようになっている。なお、モータジェネレータ4は、エンジン2から駆動輪5までの動力伝達経路の何れかの箇所に動力伝達可能に連結されていればよく、必ずしもディファレンシャル機構27に連結される必要はない。
【0021】
このように、車両1は、駆動輪5に動力を伝達する駆動力源としてエンジン2とモータジェネレータ4とを備えており、エンジン2のエンジントルクまたはモータジェネレータ4のモータトルクの少なくとも一方を用いて走行可能なハイブリッド車両である。
【0022】
ここで、車両1の走行モードとしては、HEV走行モードとEV走行モードとがある。
【0023】
HEV走行モードは、エンジン2のエンジントルクおよびモータジェネレータ4のモータトルクを用いて車両1が走行するモードである。HEV走行モードにおいて、HCU10は、ドライバ要求トルク等に応じて、エンジン2の停止、始動およびトルク制御と、モータジェネレータ4のトルク制御とを行う。
【0024】
EV走行モードは、モータジェネレータ4のモータトルクのみによって車両1が走行するモードである。EV走行モードにおける車両1は、エンジン2を利用しないため、モータのみを駆動力源として備える、いわゆる電動車両に相当する。
【0025】
また、車両1の走行モードとしては、エンジン走行モードがある。エンジン走行モードは、何らかの理由によりモータジェネレータ4が利用できない場合に、エンジン2のエンジントルクのみで車両1が走行するモードである。エンジン走行モードにおける車両1は、モータジェネレータ4を利用しないため、エンジンのみを駆動力源として備える、いわゆるコンベンショナル車両に相当する。
【0026】
車両1は、第1蓄電装置30と、蓄電部としての第2蓄電装置33を含む高電圧パワーパック34と、高電圧ケーブル35と、低電圧ケーブル36とを備えている。
【0027】
第1蓄電装置30、第2蓄電装置33は、充電可能な二次電池から構成されている。第1蓄電装置30は鉛電池からなる。
【0028】
第1蓄電装置30は、約12Vの出力電圧を発生するようにセルの個数等が設定された低電圧バッテリである。第1蓄電装置30の残容量や温度、充放電電流などの状態は、HCU10によって管理される。
【0029】
第2蓄電装置33は、第1蓄電装置30より高電圧を発生するようにセルの個数等が設定された高電圧バッテリであり、例えば、100Vの出力電圧を発生させる。第2蓄電装置33は、例えば、リチウムイオン電池からなる。第2蓄電装置33の蓄電量や温度、充放電電流などの状態は、BMS16によって管理される。
【0030】
車両1には、電気負荷としての一般負荷37が設けられている。一般負荷37は、スタータ21及びISG20以外の電気負荷である。
【0031】
一般負荷37は、安定した電力供給が要求されず、一時的に使用される電気負荷である。一般負荷37には、例えば、図示しないワイパー、及び、エンジン2に冷却風を送風する電動クーリングファンが含まれる。
【0032】
第1蓄電装置30は、低電圧ケーブル36を介して、スタータ21と、ISG20と、電気負荷としての一般負荷37とに電力を供給可能に接続されている。
【0033】
このように、第1蓄電装置30は、エンジン2を始動する始動装置としてのスタータ21及びISG20に少なくとも電力を供給するようになっている。
【0034】
高電圧パワーパック34は、第2蓄電装置33に加えて、インバータ45と、INVCM14と、BMS16とを有している。高電圧パワーパック34は、高電圧ケーブル35を介して、モータジェネレータ4に電力を供給可能に接続されている。
【0035】
インバータ45は、INVCM14の制御により、高電圧ケーブル35にかかる交流電力と、第2蓄電装置33にかかる直流電力とを相互に変換するようになっている。例えば、INVCM14は、モータジェネレータ4を力行させるときには、第2蓄電装置33が放電した直流電力をインバータ45により交流電力に変換させてモータジェネレータ4に供給する。
【0036】
INVCM14は、モータジェネレータ4を回生させるときには、モータジェネレータ4が発電した交流電力をインバータ45により直流電力に変換させて第2蓄電装置33に充電する。
【0037】
HCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14及びBMS16は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0038】
これらのコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14及びBMS16としてそれぞれ機能させるためのプログラムが格納されている。
【0039】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例におけるHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14及びBMS16としてそれぞれ機能する。
【0040】
本実施例において、ECM11は、アイドリングストップ制御を実行するようになっている。このアイドリングストップ制御において、ECM11は、所定の停止条件の成立時にエンジン2を停止させ、所定の再始動条件の成立時にISGCM13を介してISG20を駆動してエンジン2を再始動させるようになっている。このため、エンジン2の不要なアイドリングが行われなくなり、車両1の燃費を向上させることができる。
【0041】
車両1には、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内LAN(Local Area Network)を形成するためのCAN通信線48、49が設けられている。
【0042】
HCU10は、INVCM14及びBMS16にCAN通信線48によって接続されている。HCU10、INVCM14及びBMS16は、CAN通信線48を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行う。
【0043】
HCU10は、ECM11、TCM12及びISGCM13にCAN通信線49によって接続されている。HCU10、ECM11、TCM12及びISGCM13は、CAN通信線49を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行う。
【0044】
図2において、HCU10の入力ポートには、シフトポジションセンサ51、モータ回転速度センサ52、車速センサ53等の各種センサ類が接続されている。
【0045】
シフトポジションセンサ51は、ドライバにより操作される図示しないシフトレバーの位置(以下、シフトポジションともいう)を検出し、検出信号をHCU10に出力する。シフトポジションには、車両1を前進させる前進レンジと、車両1を後進させる後進レンジとが含まれる。前進レンジは一般的にDレンジと呼ばれ、後進レンジはRレンジと呼ばれる。前進レンジには、変速段の切り替えが自動で行われるDレンジの外に、変速段の切り替えがドライバにより行われるMレンジと、変速段を低速ギヤに制限するLレンジ等がある。
【0046】
モータ回転速度センサ52は、モータジェネレータ4の回転速度(以下、モータ回転速度ともいう)を検出し、検出信号をHCU10に出力する。モータ回転速度センサ52としては、レゾルバを用いることができる。
【0047】
モータ回転速度センサ52に用いるレゾルバは、モータジェネレータ4の回転角度(回転位置)、回転速度および回転方向を高精度に検出することができるセンサである。レゾルバは、高精度に検出することができる一方で、ギヤのガタ詰まり等の影響により出力信号が急変(短時間での大きな変化)することがある。このため、急変している部分の出力信号は、車両1のずり下がり判定には用いないようになっている。
【0048】
車速センサ53は、車両1の速度(以下、車速または車両速度ともいう)を検出し、検出信号をHCU10に出力する。車速センサ53は、駆動輪5の回転速度および回転方向に基づいて車両1の速度および進行方向を検出する。なお、本実施例では、モータジェネレータ4がディファレンシャル機構27を介して駆動輪5に連結されているため、モータ回転速度に基づいて車速を算出するようにしてもよい。
【0049】
ここで、車両1において、登坂路で登坂方向の駆動トルクが登坂に必要とされるトルクよりも小さい場合には、車両1は降坂方向へ後退する(ずり下がる)ことが起こり得る。
【0050】
登坂路での車両1のずり下がり時において、シフトポジションは前進レンジであるのに対し、車速およびモータジェネレータ4の回転方向の値は、車両1が後退する方向の値となる。なお、車両1のずり下がりは、車両1がバックでの登坂時に降坂方向へ移動する場合にも生じる。
【0051】
したがって、登坂路の走行時において、HCU10は、車速またはモータジェネレータ4の回転速度の値が、シフトポジションに基づく進行方向とは逆方向(符号の正負が逆)の値であることを検出した場合に、車両1のずり下がりが発生していると判定することができる。
【0052】
一方、車両1のずり下がりは、登坂路の走行中だけでなく、傾斜した駐車位置や車庫(ガレージ)に車両1を駐車させるときにも発生しうる。一般的に、車両1を駐車させるときには、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更(シフト)する操作であるガレージシフトがドライバにより実行される。
【0053】
このようなガレージシフトは、通常は車両1が完全に停止してから行われるが、車両1が完全に停止する前の微速(例えば、10km/h未満)で走行している状態でも実行可能である。そのため、車両1が微速で後進している状態で後進レンジから前進レンジへのガレージシフトが実行されたり、車両1が微速で前進している状態で前進レンジから後進レンジへのガレージシフトが実行されたりすることがある。
【0054】
仮に、車速またはモータジェネレータ4の回転速度のみに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようにした場合、ガレージシフトがドライバにより実行された状況においては、実際には車両1のずり下がりが発生していないにも関わらず車両1のずり下がりが発生していると誤判定されるおそれがある。
【0055】
例えば、ドライバが車両1を駐車する際に、車両1が微速で後進中にシフトポジションを後進レンジから前進レンジに切り替えた場合、後進レンジから前進レンジへの切り替え直後は車両1がまだ後進しているため、車両1の後進が路面の傾斜によるものでなくても、車両1のずり下がりが発生しているとの誤判定が行われることがある。
【0056】
そこで、本実施例では、HCU10は、ガレージシフトが実行されたときは、ガレージシフトが実行されていないときとは異なる手法により車両1のずり下がりの有無を判定するようになっている。
【0057】
詳しくは、HCU10は、ガレージシフトが実行されていないときは、車速またはモータ回転速度に基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する。一方、ガレージシフトが実行されたときは、車速またはモータ回転速度に加えて、車両1の加速度(以下、車両加速度ともいう)またはモータジェネレータ4の加速度(以下、モータ回転加速度ともいう)にも基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようになっている。車速およびモータ回転速度は、車両1のずり下がりが実際に発生している場合は降坂方向に増加するが、微速走行中にガレージシフトが実行された場合は減少する。HCU10は、ガレージシフトが実行されたときは、車両加速度またはモータ回転加速度も参照することにより、車両1のずり下がりを的確に判定することができる。HCU10は、車速を微分することにより車両加速度を算出し、モータ回転速度を微分することによりモータ回転加速度を算出する。また、HCU10は、車両1のずり下がりが有ると判定された場合、車両1の駆動力を増加させるようになっている。
【0058】
以下に、HCU10によって実行される車両ずり下がり判定動作について説明する。この車両ずり下がり判定動作は、車両1のずり下がりの有無を判定し、ずり下がりが有ると判定した場合に車両1の駆動力を増加させる動作である。本実施例では、車両1の前進方向の車速およびモータ回転速度を正の値とし、車両1の後進方向の車速およびモータ回転速度を負の値としている。
【0059】
まず、HEV走行モードにおけるモータトルクによる車両走行中、またはEV走行モードにおける車両走行中に実施される、車両ずり下がり判定動作について説明する。以下に説明するずり下がり判定動作は、電動車両にも適用することができる。
【0060】
HCU10は、モータジェネレータ4が発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更する操作であるガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定する。
【0061】
次いで、HCU10は、ガレージシフトが実行されたと判定した場合、第1のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。HCU10は、ガレージシフトが実行されていないと判定した場合、第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。
【0062】
そして、HCU10は、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両1のずり下がりが有ると判定された場合、車両1の駆動力を増加させる。ここで、「車両1の駆動力を増加させる」とは、EV走行モードにおけるモータトルクによる車両走行中においてはモータトルクを増加させることであり、HEV走行モードにおいては、モータトルクを増加させること、またはエンジン2を始動してエンジントルクを増加させることである。つまり、「車両1の駆動力を増加させる」とは、現在の走行モードまたは車両構成において利用可能な駆動力を増加させることである。
【0063】
第1のずり下がり判定処理は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0064】
第2のずり下がり判定処理は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0065】
第1のずり下がり判定処理は、モータジェネレータ4の回転加速度の絶対値が所定の閾値よりも小さいか否かと、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理とすることが好ましい。本実施例では、ギヤのガタ詰まりによる影響を排除するため、HCU10は、モータジェネレータ4の回転加速度の絶対値が所定の閾値よりも小さい場合に限り、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する。
【0066】
第1のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理であってもよい。
【0067】
第2のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理であってもよい。
【0068】
HEV走行モードにおいてモータトルクによる車両走行中は、HCU10は、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両1のずり下がりが有ると判定された場合、エンジン2を始動して車両1の駆動力を増加させるようにしてもよい。
【0069】
次に、HEV走行モードにおけるエンジントルクによる車両走行中、またはエンジン走行モードにおける車両走行中に実施される、車両ずり下がり判定動作について説明する。以下に説明するずり下がり判定動作は、コンベンショナル車両にも適用することができる。
【0070】
HCU10は、エンジン2が発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更するガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定する。
【0071】
次いで、HCU10は、ガレージシフトが実行されたと判定された場合、第1のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。また、HCU10は、ガレージシフトが実行されていないと判定された場合、第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。
【0072】
そして、HCU10は、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両1のずり下がりが有ると判定された場合、車両1の駆動力を増加させる。
【0073】
ここで、「車両1の駆動力を増加させる」とは、HEV走行モードにおけるエンジントルクによる車両走行中においては、エンジントルクを増加させること、またはモータトルクを増加させることであり、エンジン走行モードにおいてはエンジントルクを増加させることである。つまり、「車両1の駆動力を増加させる」とは、現在の走行モードまたは車両構成において利用可能な駆動力を増加させることである。
【0074】
第1のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0075】
第2のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0076】
このように、HCU10は、本発明におけるガレージシフト判定部、第1のずり下がり判定部、第2のずり下がり判定部および制御部を構成する。また、HCU10は、モータジェネレータ4の回転加速度を算出するモータ加速度算出部と、車両1の加速度を算出する車両加速度算出部とを構成する。
【0077】
図3を参照し、本実施例に係る制御装置による車両ずり下がり判定動作の流れについて説明する。なお、この車両ずり下がり判定動作は、HCU10が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0078】
HCU10は、ステップS1において、ガレージシフトの実行がされたか否かを判定する。
【0079】
HCU10は、ガレージシフトが実行されたと判定した場合はステップS2で第1のずり下がり判定処理を実施し、ガレージシフトが実行されていないと判定した場合はステップS3で第2のずり下がり判定処理を実施する。
【0080】
したがって、車両1が前進レンジで登坂路を走行しているような状況では、第2のずり下がり判定処理によって車両1のずり下がりの有無が判定され、ガレージシフトを伴って車両1を駐車させるような状況では、第1のずり下がり判定処理によって車両1のずり下がりの有無が判定される。
【0081】
なお、第1のずり下がり判定処理は、ガレージシフトの実行が検出されてから所定時間(例えば、2秒)が経過するまでの期間、またはガレージシフトの実行が検出されてからレンジに対応する走行方向が検出されるまでの期間に行われるようになっている。ガレージシフトの実行が検出されてからレンジに対応する走行方向が検出されるまでの期間は、具体的には、後進レンジから前進レンジに切り替えられたことを検知した後、前進方向への走行が検出されるまでの期間である。または、前進レンジから後進レンジに切り替られたことを検知した後、後進方向への走行が検出されるまでの期間である。
【0082】
HCU10は、第1のずり下がり判定処理(ステップS2)または第2のずり下がり判定処理(ステップS3)において、互いに異なる手法により車両1のずり下がりの有無を判定する。なお、第1のずり下がり判定処理および第2のずり下がり判定処理の流れの詳細については、図4および図5、または図6および図7を参照して説明する。
【0083】
HCU10は、ステップS2またはステップS3の実行後、ステップS4で、車両1のずり下がりの有無を判定する。このステップS4では、HCU10は、第1のずり下がり判定処理(ステップS2)または第2のずり下がり判定処理(ステップS3)において車両1のずり下がりが有ると判定されたか否かを判定する。HCU10は、ステップS4で車両1のずり下がりが無いと判定した場合は今回の動作を終了する。
【0084】
HCU10は、ステップS4で車両1のずり下がりが有ると判定した場合、ステップS5で、車両1の駆動力を増加させる。
【0085】
図4図5を参照し、HEV走行モードにおけるモータトルクによる車両走行中、またはEV走行モードにおける車両走行中に実施される第1のずり下がり判定処理および第2のずり下がり判定処理の流れについて説明する。
【0086】
図4を参照し、図3のステップS2の第1のずり下がり判定処理の詳細について説明する。
【0087】
HCU10は、ステップS11で、モータ回転加速度を算出する。次いで、HCU10は、ステップS12で、モータ回転加速度の絶対値が所定の閾値αより小さいか否かを判定する。
【0088】
HCU10は、モータ回転加速度の絶対値が所定の閾値αより小さくないと判定した場合、今回の動作を終了する。
【0089】
HCU10は、モータ回転加速度の絶対値が所定の閾値αより小さいと判定した場合、ステップS13で、ガレージシフトが後進レンジから前進レンジへのシフト変更であるか否かを判定する。
【0090】
HCU10は、ステップS13で後進レンジから前進レンジへのシフト変更であると判定した場合、ステップS14で、モータ回転速度が0より小さいか否かを判定する。ステップS14では、モータ回転速度が負の値であり車両1が後進しているか否かが確認されるようになっている。
【0091】
HCU10は、モータ回転速度が0より小さくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、モータ回転速度が0より小さいと判定した場合、ステップS15で、モータ回転加速度が0より小さいか否かを判定する。ステップS15では、モータ回転加速度が負の値であり車両1の速度が後進方向に増速しているか否かが確認されるようになっている。
【0092】
HCU10は、モータ回転加速度が0より小さくないと判定した場合、今回の動作を終了する。
【0093】
HCU10は、モータ回転加速度が0より小さいと判定した場合、ステップS16で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS16の実行後、今回の動作を終了する。
【0094】
HCU10は、ステップS13で後進レンジから前進レンジへのシフト変更ではないと判定した場合(前進レンジから後進レンジへのシフト変更が行われた場合)、ステップS17で、モータ回転速度が0より大きいか否かを判定する。ステップS17では、モータ回転速度が正の値であり車両1が前進しているか否かが確認されるようになっている。
【0095】
HCU10は、モータ回転速度が0より大きくないと判定した場合、今回の動作を終了する。
【0096】
HCU10は、モータ回転速度が0より大きいと判定した場合、ステップS18で、モータ回転加速度が0より大きいか否かを判定する。ステップS18では、モータ回転加速度が正の値であり車両1の速度が前進方向に増速しているか否かが確認されるようになっている。
【0097】
HCU10は、モータ回転加速度が0より大きくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、モータ回転加速度が0より大きいと判定した場合、ステップS19で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS19の実行後、今回の動作を終了する。
【0098】
図5を参照し、図3のステップS3の第2のずり下がり判定処理の詳細について説明する。
【0099】
HCU10は、ステップS21で、前進レンジか否かを判定する。
【0100】
HCU10は、ステップS21で前進レンジと判定した場合、ステップS22で、モータ回転速度が0より小さいか否かを判定する。ステップS22では、モータ回転速度が負の値であり車両1が後進しているか否かが確認されるようになっている。
【0101】
HCU10は、モータ回転速度が0より小さくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、モータ回転速度が0より小さいと判定した場合、ステップS23で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS23の実行後、今回の動作を終了する。
【0102】
HCU10は、ステップS21で前進レンジではないと判定した場合(後進レンジと判定した場合)、ステップS24で、モータ回転速度が0より大きいか否かを判定する。ステップS24では、モータ回転速度が正の値であり車両1が前進しているか否かが確認されるようになっている。
【0103】
HCU10は、モータ回転速度が0より大きくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、モータ回転速度が0より大きいと判定した場合、ステップS25で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS25の実行後、今回の動作を終了する。
【0104】
図6図7を参照し、HEV走行モードにおけるエンジントルクによる車両走行中、またはエンジン走行モードにおける車両走行中に実施される第1のずり下がり判定処理および第2のずり下がり判定処理の流れについて説明する。
【0105】
図6を参照し、図3のステップS2の第1のずり下がり判定処理の詳細について説明する。
【0106】
HCU10は、ステップS31で、車両加速度を算出する。次いで、HCU10は、ステップS32で、ガレージシフトが後進レンジから前進レンジへのシフト変更であるか否かを判定する。
【0107】
HCU10は、ステップS32で後進レンジから前進レンジへのシフト変更であると判定した場合、ステップS33で、車両速度が0より小さいか否かを判定する。ステップS33では、車両速度が負の値であり車両1が後進しているか否かが確認されるようになっている。
【0108】
HCU10は、車両速度が0より小さくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、車両速度が0より小さいと判定した場合、ステップS34で、車両加速度が0より小さいか否かを判定する。ステップS34では、車両加速度が負の値であり車両1の速度が後進方向に増速しているか否かが確認されるようになっている。
【0109】
HCU10は、車両加速度が0より小さくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、車両加速度が0より小さいと判定した場合、ステップS35で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS35の実行後、今回の動作を終了する。
【0110】
HCU10は、ステップS32で後進レンジから前進レンジへのシフト変更ではないと判定した場合(前進レンジから後進レンジへのシフト変更が行われた場合)、ステップS36で、車両速度が0より大きいか否かを判定する。ステップS36では、車両速度が正の値であり車両1が前進しているか否かが確認されるようになっている。
【0111】
HCU10は、車両速度が0より大きくないと判定した場合、今回の動作を終了する。
【0112】
HCU10は、車両速度が0より大きいと判定した場合、ステップS37で、車両加速度が0より大きいか否かを判定する。ステップS37では、車両加速度が正の値であり車両1の速度が前進方向に増速しているか否かが確認されるようになっている。
【0113】
HCU10は、車両加速度が0より大きくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、車両加速度が0より大きいと判定した場合、ステップS38で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS38の実行後、今回の動作を終了する。
【0114】
図7を参照し、図3のステップS3の第2のずり下がり判定処理の詳細について説明する。
【0115】
HCU10は、ステップS41で、前進レンジか否かを判定する。
【0116】
HCU10は、ステップS41で前進レンジと判定した場合、ステップS42で、車両速度が0より小さいか否かを判定する。ステップS42では、車両速度が負の値であり車両1が後進しているか否かが確認されるようになっている。
【0117】
HCU10は、車両速度が0より小さくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、車両速度が0より小さいと判定した場合、ステップS43で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS43の実行後、今回の動作を終了する。
【0118】
HCU10は、ステップS41で前進レンジではないと判定した場合(後進レンジと判定した場合)、ステップS44で、車両速度が0より大きいか否かを判定する。ステップS44では、モータ回転速度が正の値であり車両1が前進しているか否かが確認されるようになっている。
【0119】
HCU10は、車両速度が0より大きくないと判定した場合、今回の動作を終了する。HCU10は、車両速度が0より大きいと判定した場合、ステップS45で、車両1のずり下がりが有ると判定する。HCU10は、ステップS45の実行後、今回の動作を終了する。
【0120】
以上のように、本実施例では、車両1は、駆動輪5に動力を伝達する駆動力源として少なくともモータジェネレータ4を備える。HCU10は、モータジェネレータ4が発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更する操作であるガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定する。
【0121】
次いで、HCU10は、ガレージシフトが実行されたと判定した場合、第1のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。また、HCU10は、ガレージシフトが実行されていないと判定した場合、第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。
【0122】
このように、ガレージシフトが実行されたときと実行されていないときとで異なる手法により車両1のずり下がりの有無が判定されるので、ガレージシフトが実行された場合であっても、車両1のずり下がりを誤判定することを防止でき、車両1のずり下がりを的確に判定することができる。
【0123】
そして、HCU10は、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両1のずり下がりが有ると判定された場合、車両1の駆動力を増加する。これにより、車両1のずり下がりを止めることができる。
【0124】
本実施例では、第1のずり下がり判定処理は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0125】
このように、ガレージシフトが実行された場合は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定することにより、ガレージシフトの直後にシフト変更前の進行方向が維持された場合であっても、車両1のずり下がりの誤判定を防止でき、車両1のずり下がりを的確に判定することができる。
【0126】
詳しくは、後進レンジから前進レンジへのガレージシフトが実行された場合、シフト変更の直後に車両1の後進が一時的に維持されたとしても、シフト変更から時間が経過すると車両1の進行方向が前進方向になる。シフト変更の直後に車両1の後進が一時的に維持される状況において、仮に、ガレージシフトが実行されていない場合と同様にシフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようにした場合、ガレージシフトの直後は、シフトポジションが前進レンジで、モータジェネレータ4の回転速度が負の値(後進方向)であり、シフトポジションと車両1の進行方向とが一時的に不一致となるため、車両1がずり下がっていると誤判定されてしまう。
【0127】
一方、本実施例では、ガレージシフトが実行された場合は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定している。このため、シフトポジションが前進レンジで、モータジェネレータ4の回転速度が負の値(後進方向)であっても、モータジェネレータ4の回転加速度が正の値であれば、車両1の後進速度が減速しており、後進方向から前進方向への移行途中であるため、車両1がずり下がっていないと的確に判定することができる。一方、モータジェネレータ4の回転加速度が負の値であれば、車両1の後進速度が加速しているため、車両1がずり下がっていると的確に判定することができる。
【0128】
また、前進レンジから後進レンジへのガレージシフトが実行された場合、シフト変更の直後に車両1の前進が一時的に維持されたとしても、シフト変更から時間が経過すると車両1の進行方向が後進方向になる。シフト変更の直後に車両1の前進が一時的に維持される状況において、仮に、ガレージシフトが実行されていない場合と同様にシフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようにした場合、ガレージシフトの直後は、シフトポジションが後進レンジで、モータジェネレータ4の回転速度が正の値(前進方向)であり、シフトポジションと車両1の進行方向とが一時的に不一致となるため、車両1がずり下がっていると誤判定されてしまう。
【0129】
一方、本実施例では、ガレージシフトが実行された場合は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定している。このため、シフトポジションが後進レンジで、モータジェネレータ4の回転速度が正の値(前進方向)であっても、モータジェネレータ4の回転加速度が負の値であれば、車両1の前進速度が減速しており、前進方向から後進方向への移行途中であるため、車両1がずり下がっていないと的確に判定することができる。一方、モータジェネレータ4の回転加速度が正の値であれば、車両1の前進速度が加速しているため、車両1がずり下がっていると的確に判定することができる。
【0130】
したがって、車両1のずり下がりが発生していない場合に車両1のずり下がりが発生していると誤判定することを防止して、不必要な駆動力の増加をしないようにすることができる。
【0131】
本実施例では、第2のずり下がり判定処理は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0132】
これにより、ガレージシフトが実行されていない場合は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無が判定されるため、ガレージシフトが実行された場合と同様にシフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようにした場合と比較して、車両1のずり下がりの有無の判定に要する時間を短くすることができる。
【0133】
ここで、モータジェネレータ4の回転加速度は、モータジェネレータ4の回転速度の微分値である。モータジェネレータ4が発生する駆動力は、動力伝達機構のギヤを介して駆動輪5に伝達されるため、ギヤのガタが詰まったことによる回転変化や車体振動によりモータジェネレータ4の回転加速度が急変することがある。このため、仮に、第1のずり下がり判定と同様にシフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようにした場合、ギヤのガタ詰まり等の影響を排除するためにモータジェネレータ4の回転加速度を一定時間監視する必要が生じ、車両1のずり下がりの有無の判定に要する時間が長時間化する可能性がある。一方、本実施例では、ガレージシフトが実行されていない場合は、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定することにより、ずり下がり判定に要する時間を短くすることができる。
【0134】
本実施例では、第1のずり下がり判定処理は、モータジェネレータ4の回転加速度の絶対値が所定の閾値よりも小さいか否かと、シフトポジションとモータジェネレータ4の回転速度とモータジェネレータ4の回転加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0135】
これにより、車両1のずり下がりが発生していない場合に車両1のずり下がりが発生していると誤判定することを防止することができる。詳しくは、本実施例では、モータジェネレータ4の回転速度は、レゾルバの検出結果を基に算出しているために高精度であるが、高精度であるためにギヤのガタ詰まりにより回転速度の検出値が急変することがある。ギヤのガタ詰まりによる回転速度の急変は、車両1のずり下がりの有無とは無関係である。そのため、モータジェネレータ4の回転加速度の絶対値が所定の閾値より大きい値であった場合は、車両1のずり下がり判定からその値を除外することにより、ずり下がり判定の誤判定を防止することができる。
【0136】
本実施例では、第1のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理であってもよい。
【0137】
このように、シフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定することにより、ガレージシフトが実行された場合であっても、車両1のずり下がりを的確に判定することができる。
【0138】
本実施例では、第2のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理であってもよい。
【0139】
このように、ガレージシフトが実行されていない場合は、シフトポジションと車両1の速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定することにより、ガレージシフトが実行された場合と同様にシフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようにした場合と比較して、車両1のずり下がりの有無の判定に要する時間を短くすることができる。
【0140】
本実施例では、車両1は、駆動力源としてモータジェネレータ4とエンジン2とを備え、HCU10は、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両1のずり下がりが有ると判定された場合、エンジン2を始動して車両1の駆動力を増加させる。
【0141】
これにより、モータジェネレータ4が発生する駆動力を増加させることができない場合であっても、エンジントルクによって車両1の駆動力を増加させることができる。
【0142】
なお、モータジェネレータ4は、モータ回転速度が0rpm付近では発熱量が大きいため、モータジェネレータ4が高温であるためにモータジェネレータ4が発生する駆動力を大きくすることができないことがある。また、モータジェネレータ4に電力を供給するバッテリ(第2蓄電装置33)のSOC低下により、モータジェネレータ4が発生する駆動力を大きくできないことがある。モータジェネレータ4が発生する駆動力を大きくできない場合であっても、エンジン2を始動することによりエンジントルクによって車両1の駆動力を増加させることができる。
【0143】
本実施例では、車両1は、駆動輪5に動力を伝達する駆動力源として少なくともエンジン2を備える。HCU10は、エンジン2が発生する駆動力による車両走行中に、シフトポジションを前進レンジまたは後進レンジの一方から他方に変更するガレージシフトがドライバにより実行されたか否かを判定する。HCU10は、ガレージシフトが実行されたと判定された場合、第1のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。HCU10は、ガレージシフトが実行されていないと判定された場合、第1のずり下がり判定処理とは異なる第2のずり下がり判定処理を実施して車両1のずり下がりの有無を判定する。HCU10は、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両1のずり下がりが有ると判定された場合、車両1の駆動力を増加させる。
【0144】
このように、ガレージシフトが実行されたときと実行されていないときとで異なる手法により車両1のずり下がりの有無が判定されるので、ガレージシフトが実行された場合であっても、車両1のずり下がりを誤判定することを防止でき、車両1のずり下がりを的確に判定することができる。
【0145】
これに加え、第1のずり下がり判定処理または第2のずり下がり判定処理により車両1のずり下がりが有ると判定された場合、車両1の駆動力が増加されるので、車両1のずり下がりを止めることができる。
【0146】
本実施例では、エンジン2が発生する駆動力による車両走行中の、第1のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0147】
このように、シフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定することにより、ガレージシフトが実行された場合であっても、車両1のずり下がりを的確に判定することができる。
【0148】
本実施例では、エンジン2が発生する駆動力による車両走行中の、第2のずり下がり判定処理は、シフトポジションと車両1の速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定する処理である。
【0149】
このように、ガレージシフトが実行されていない場合は、シフトポジションと車両1の速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定することにより、ガレージシフトが実行された場合と同様にシフトポジションと車両1の速度と車両1の加速度とに基づいて車両1のずり下がりの有無を判定するようにした場合と比較して、車両1のずり下がりの有無の判定に要する時間を短くすることができる。
【0150】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0151】
1 車両
2 エンジン(内燃機関)
4 モータジェネレータ(モータ)
5 駆動輪
10 HCU(ガレージシフト判定部、第1のずり下がり判定部、第2のずり下がり判定部、制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7