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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130676
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】流量制御装置および気化供給装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035107
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】日高 敦志
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】中谷 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】森崎 和之
【テーマコード(参考)】
5H307
【Fターム(参考)】
5H307AA02
5H307BB01
5H307DD02
5H307DD03
5H307EE02
5H307FF03
5H307FF12
5H307HH04
(57)【要約】
【課題】 広い制御範囲で適切に流量制御を行うことができる流量制御装置およびこれを備える気化供給装置を提供する。
【解決手段】 流量制御装置20は、コントロール弁22と、コントロール弁の下流側の流路に設けられた小流量絞り部27Sと、コントロール弁の下流側の流路において小流量絞り部と並列に設けられた絞り部内蔵弁26であって、弁座および弁体を含み流路を開閉する弁機構に大流量絞り部27Lが一体的に設けられた絞り部内蔵弁26と、コントロール弁と小流量用絞り部および絞り部内蔵弁との間の流体圧力を測定する上流圧力センサ24とを備え、絞り部内蔵弁の開閉を制御するとともに、上流圧力センサの出力に基づいてコントロール弁の開度を調整することによって流量を制御するように構成されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントロール弁と、
前記コントロール弁の下流側の流路に設けられた小流量絞り部と、
前記コントロール弁の下流側の流路において前記小流量絞り部と並列に設けられた絞り部内蔵弁であって、弁座および弁体を含み流路を開閉する弁機構に大流量絞り部が一体的に設けられた絞り部内蔵弁と、
前記コントロール弁と、前記小流量絞り部および前記絞り部内蔵弁との間の流体圧力を測定する上流圧力センサと
を備え、
前記絞り部内蔵弁の開閉を制御するとともに、前記上流圧力センサの出力に基づいて前記コントロール弁の開度を調整することによって流量を制御するように構成されている、流量制御装置。
【請求項2】
前記絞り部内蔵弁において、前記大流量絞り部は、前記弁座よりも上流側に配置されている、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記小流量絞り部および前記大流量絞り部のそれぞれはオリフィスプレートを含む、請求項1または2に記載の流量制御装置。
【請求項4】
気化器と、
前記気化器の下流側に接続された請求項1から3のいずれかに記載の流量制御装置と
を備える気化供給装置。
【請求項5】
前記気化器と前記流量制御装置との間の流体圧力を測定する供給圧力センサをさらに備える、請求項4に記載の気化供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置および気化供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造設備又は化学プラント等において、原料ガスやエッチングガスを所望の流量でプロセスチャンバに供給することが求められている。ガス流量の制御装置としては、マスフローコントローラ(熱式質量流量制御器)や圧力式流量制御装置が知られている。
【0003】
圧力式流量制御装置は、コントロール弁と絞り部(例えばオリフィスプレートや臨界ノズル)とを組み合せた比較的簡単な構成によって各種流体の質量流量を高精度に制御することができるので広く利用されている。圧力式流量制御装置は、一次側の供給圧力が大きく変動しても安定した流量制御が行えるという優れた流量制御特性を有している。
【0004】
圧力式流量制御装置には、絞り部の上流側の流体圧力(以下、上流圧力P1と呼ぶことがある)を制御することによって流量を調整するものがある。上流圧力P1は、絞り部の上流側の流路に配置されたコントロール弁の開度を調整することによって制御される。
【0005】
コントロール弁としては、例えば、ピエゾアクチュエータによってダイヤフラム弁体を開閉するように構成されたピエゾ素子駆動式バルブが用いられている。ピエゾ素子駆動式バルブは高い応答性を有しており、これを上流圧力P1に基づいてフィードバック制御することによって、絞り部下流側のガス流量を適切に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第543007号公報
【特許文献2】特許第5461786号公報
【特許文献3】特許第3522535号公報
【特許文献4】特開2021-32391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、コントロール弁の下流側において、大流量用のオリフィスが設けられた流路と小流量用のオリフィスが設けられた流路とが並列に接続された圧力式流量制御装置が開示されている。この圧力式流量制御装置では、大流量流路に設けられた開閉弁の開閉を切り替えることによって、制御レンジを変更することができ、幅広い流量レンジで正確に流量制御を行うことができる。
【0008】
ただし、特許文献1に記載の圧力式流量制御装置では、大流量レンジに移行するために開閉弁を閉から開に切り替えたときに、開閉弁と、その下流側に配置された大流量用オリフィスとの間の流路にガスが流れ込み、一時的に上流圧力P1の比較的大幅な低下が生じる場合がある。この場合、上流圧力P1に基づく流量制御では、流量切り替え時に出力に揺らぎ(ハンチング、アンダーシュート、オーバーシュート)が生じることがあった。
【0009】
また、小流量レンジに移行するために開閉弁を開から閉に切り替えたときは、開閉弁とオリフィスとの間のガスが、閉弁後にもオリフィスを介して時間をかけて流出する。このため、即時には流量が低下せず応答性に問題が生じる場合があった。また、切り替え直後のガス流出中は、上流圧力P1から求められる流量と実際流量とにずれが生じているため、流量制御が即座に安定しにくいという問題もあった。
【0010】
また、特許文献2には、気化器に導入された液体材料を加熱し、生成された材料ガスを流量制御して供給するように構成された気化供給装置が開示されている。このような気化供給装置では、比較的高温(例えば150℃以上)のガスの流量制御を行うことが求められる。
【0011】
ただし、高温のガスの流量制御を行う場合、ガスのリークになおさら注意する必要がある。ところが、特許文献1に記載されているような2つのオリフィス部材を金属ブロックの連結部に配置する構成では、その部分からリークが生じる可能性が高まる。したがって、気化供給装置を用いて高温ガスの供給を行う場合には、リーク発生の可能性をより低減させながらも、広い流量制御範囲で正確な流量でガスの供給を行うことが求められていた。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、大流量域と小流量域とを切り替えて制御することで広い流量制御範囲を実現しながらも、切り替え時における流量制御の応答性や安定性を向上させることができ、なおかつ、リーク発生の可能性も低減された流量制御装置および気化供給装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施態様に係る流量制御装置は、コントロール弁と、前記コントロール弁の下流側の流路に設けられた小流量絞り部と、前記コントロール弁の下流側の流路において前記小流量絞り部と並列に設けられた絞り部内蔵弁であって、弁座および弁体を含み流路を開閉する弁機構に大流量絞り部が一体的に設けられた絞り部内蔵弁と、前記コントロール弁と、前記小流量用絞り部および前記絞り部内蔵弁との間の流体圧力を測定する上流圧力センサとを備え、前記絞り部内蔵弁の開閉を制御するとともに、前記上流圧力センサの出力に基づいて前記コントロール弁の開度を調整することによって流量を制御するように構成されている。
【0014】
ある実施形態において、前記絞り部内蔵弁において、前記大流量絞り部は、前記弁座よりも上流側に配置されている。
【0015】
ある実施形態において、前記小流量絞り部および前記大流量絞り部のそれぞれはオリフィスプレートを含む。
【0016】
本発明の実施形態に係る気化供給装置は、気化器と、前記気化器の下流側に接続された上記いずれかの流量制御装置とを備える。
【0017】
ある実施形態において、上記の気化供給装置は、前記気化器と前記流量制御装置との間の流体圧力を測定する供給圧力センサをさらに備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態による流量制御装置および気化供給装置によれば、広い制御流量範囲にわたって、半導体製造装置などで用いられるガスを適切に流量制御して供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による気化供給装置を含むガス供給システムを示す模式図である。
図2】本発明の実施形態による気化供給装置の具体構成例を示す側面図である。
図3】本発明の実施形態による流量制御装置が備える絞り部内蔵弁を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態による流量制御装置が備える別の態様の絞り部内蔵弁を示す断面図である。
図5】本発明の実施形態による流量制御装置が備えるコントロール弁の具体構成例を示す断面図である。
図6】制御流量レンジの変更を伴いながら流量制御を行うときの動作を説明するための図であり、絞り部内蔵弁の動作、上流圧力および流量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態にかかる気化供給装置50が組み込まれたガス供給システム100を示す。ガス供給システム100は、液体材料源2と、液体材料源2に接続された気化供給装置50と、遮断弁4を介して気化供給装置50に接続されたプロセスチャンバ6とを備えている。
【0022】
ガス供給システム100は、液体材料源2から送られた液体材料Lを気化供給装置50において気化し、得られた材料ガスGを流量制御してプロセスチャンバ6に供給するように構成されている。なお、図1において、液体材料Lの供給路を太い実線で示し、材料ガスGの供給路を太い破線で示している。
【0023】
プロセスチャンバ6には、真空ポンプ8が接続されており、チャンバ内およびチャンバに接続された流路を減圧することができる。図1には、1系統のガス供給ラインのみが示されているが、種々のガスを供給するために、複数のガス供給ラインがプロセスチャンバ6に接続されていてもよいことは言うまでもない。
【0024】
使用される液体材料Lとしては、例えば、HCDS(SiCl)、あるいは、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)などの有機金属材料があげられる。これらの材料は室温では液体であり、例えば150℃~200℃程度に加熱することによって気化させることができる。生成された材料ガスGは、プロセスチャンバ6において、例えば、シリコン窒化膜(SiN膜)やシリコン酸化膜(SiO膜)などの絶縁膜を形成するために用いられる。
【0025】
材料ガスGは、再液化されないように、比較的高温に保ったままプロセスチャンバ6に供給する必要がある。本実施形態の気化供給装置50は、供給された液体材料Lを気化させるとともに流量制御できるように構成されているので、気化供給装置50をプロセスチャンバ6の近傍に配置することによって、高温に維持すべき領域を小さくまとめることが可能である。
【0026】
図2は、気化供給装置50の具体的な構成例を示す。図1および図2に示すように、本実施形態の気化供給装置50は、気化器10と、気化器10の下流側に設けられた流量制御装置20とを備えている。
【0027】
気化器10は、液体材料源2から圧送されてきた液体材料Lを、図示しないヒータによって加熱し、材料ガスGを生成するように構成されている。図2に示すように、気化器10は、予加熱部14と気化部16とこれらの間の流路に設けられた液体補充弁18とを備えていてよい。予加熱部14において液体材料Lを気化しない程度の高温にまで予め加熱しておくことによって、気化部16での気化を容易にすることができる。これにより、気化潜熱による気化室内での液温の低下を抑制し、材料ガスGの供給圧力P0を高い値に維持して安定的にガスを供給しやすくなる。
【0028】
また、本実施形態の気化供給装置50において、気化器10で生成した材料ガスGの供給圧力P0は、供給圧力センサ12によって測定されている。供給圧力P0を測定することによって、気化部16内の液体材料Lの量が十分であるか否かを判断することができる。供給圧力P0が閾値よりも低下しているときには、液体補充弁18を開いて液体材料を補充することができ、気化部16において安定的にガスの生成を行うことができる。
【0029】
また、気化器10は、気化部16に所定量を超える液体材料Lが供給されたことを検知することができる液体検知部(図示せず)を備えていてもよい。液体検知部を設けることによって、気化部16への液体材料Lの過供給を防止することができる。液体検知部は、例えば、気化室に配置された温度計(白金測温抵抗体、熱電対、サーミスタなど)、液面計、ロードセルなどによって構成される。
【0030】
以下、気化器10を用いて生成された材料ガスGの流量制御を行うための流量制御装置20の詳細構成について説明する。
【0031】
図1および図2に示すように、本実施形態の流量制御装置20は、コントロール弁22と、コントロール弁22の下流側に設けられた上流圧力センサ24と、コントロール弁22の下流側で分岐し再度合流する大流量流路PLおよび小流量流路PSとを備えている。流量制御装置20は、コントロール弁22の下流側のガスの温度を測定するための図示しない温度センサを備えていても良い。
【0032】
コントロール弁22としては、例えば、ピエゾ素子駆動型バルブが用いられる。ピエゾ素子駆動型バルブは、ピエゾ素子への印加電圧の制御によってダイヤフラム弁体の移動量を調節することができ、その開度を任意に調節することができる。また、上流圧力センサ24としては、例えば、歪ゲージが設けられた感圧ダイヤフラムを有するシリコン単結晶製の圧力センサや、キャパシタンスマノメータが用いられる。また、温度センサとしては、例えば、サーミスタや白金測温抵抗体が用いられる。
【0033】
流量制御装置20において、大流量流路PLには、絞り部内蔵弁26が設けられている。絞り部内蔵弁26は、大流量絞り部27L(図3および図4参照)が内部流路の弁座の近傍に設けられた開閉弁であり、絞り部内蔵弁26において、流路を開閉する弁機構(弁座および弁体)と大流量絞り部27Lとが一体的に設けられている。
【0034】
一方、小流量流路PSには、小流量絞り部27Sが設けられている。大流量絞り部27Lが絞り部内蔵弁26に組み込まれるのに対して、小流量絞り部27Sは、例えば、図2に示されるようにガスケットオリフィスとして流路ブロックの接続部において封止固定されている。大流量絞り部27Lの開口面積は、典型的には、小流量絞り部27Sの開口面積よりも大きく設定されるが、これらは同等であっても良い。
【0035】
大流量絞り部27Lおよび小流量絞り部27Sは、本実施形態では、オリフィスプレートを用いて構成されている。大流量絞り部27Lのオリフィス径は、例えば、約180μm~2200μmに設定され、小流量絞り部27Sのオリフィス径は、例えば、約40μm~1500μmに設定される。ただし、絞り部27S、27Lとしては、臨界ノズルまたは音速ノズルなどを用いることもできる。
【0036】
また、本実施形態において、絞り部内蔵弁26は、圧縮空気が駆動部に供給されることによって弁体が動作し流路を開閉させるように構成されている。図1に示すように、絞り部内蔵弁26には、圧縮空気の供給を制御する電磁弁29が接続されており、電磁弁29を制御することによって絞り部内蔵弁26の開閉を迅速に行うことができる。ただし、これに限られず、絞り部内蔵弁26は、電磁弁、または、電動弁などの他の態様のオンオフ弁を用いて構成されていてもよい。
【0037】
以上に説明した流量制御装置20は、上流圧力センサ24の出力に基づいてコントロール弁22の開度を調整することによって、小流量絞り部27Sおよび大流量絞り部27L(または絞り部内蔵弁26)の下流側に流れるガスG’の流量を制御するように構成されており、圧力式流量制御装置をなしている。流量制御装置20は、絞り部内蔵弁26を閉じたときには、小流量流路PSのみを通ってガスが流れるので小流量でのガス供給を行うことができる。また、絞り部内蔵弁26を開いたときには、主として大流量流路PL(絞り部27L、27Sの口径比によっては大流量流路PLと小流量流路PSとの双方)を通ってガスが流れるので、大流量でのガス供給を行うことができる。
【0038】
より具体的には、流量制御装置20は、臨界膨張条件P1/P2≧約2(ここで、P1は上流圧力、P2は下流圧力、約2は窒素ガスの場合)を満たすとき、流量Qは下流圧力P2(絞り部下流側の圧力)によらず上流圧力P1によって決まるという原理を利用して流量制御を行う。
【0039】
臨界膨張条件を満たすとき、流量Qは、Q=K1・P1(K1は絞り部の開口面積と流体の種類と流体温度に依存する定数)から算出される。また、図示しない下流圧力センサを備える場合、臨界膨張条件を満足しない場合であっても、流量Qを、Q=K2・P2(P1-P2)(ここでK2は絞り部の開口面積と流体の種類と流体温度に依存する定数、m、nは実際の流量を元に導出される指数)から算出することができる。
【0040】
ここで、流量制御装置20では、絞り部内蔵弁26が開いている時には、大流量用の流量演算式(具体的には上記のK1またはK2として、大流量絞り部の開口面積と小流量絞り部の開口面積との合計に対応する定数を用いた式)を用いて演算流量を求め、絞り部内蔵弁26が閉じている時には、小流量用の演算式(具体的には上記のK1またはK2として、小流量絞り部の開口面積に対応する定数を用いた式)を用いて演算流量を求めるように構成されている。このため、いずれの場合においても、上流圧力P1を制御することによって、絞り部下流側の流量制御を行うことができる。
【0041】
流量制御を行うために、設定流量Qsが制御回路(図示せず)に入力され、制御回路は、絞り部内蔵弁26の開閉状況や、上流圧力センサ24の出力などに基づいて、上記の式に従って演算流量Qcを求める。そして、この演算流量Qcが、入力された設定流量Qsに近づくようにコントロール弁22をフィードバック制御する。演算流量Qcは、流量出力値として外部のモニタに表示されてもよい。
【0042】
ここで、絞り部内蔵弁26のより具体的な構成例について説明する。図3および図4は、大流量流路PLに設けられた絞り部内蔵弁26(ここではオリフィス内蔵弁)の弁体近傍を拡大して示す断面図であり、それぞれ別の構成例を示す。図3および図4に示すように、絞り部内蔵弁26において、開口27Oを有する大流量絞り部27L(ここではオリフィスプレート)が、内部流路において弁座(または弁座部材26S)の近傍位置に設けられている。なお、オリフィス内蔵弁の構成自体は、例えば特許文献3においても示されており、本実施形態でも同様の構成を採用し得る。
【0043】
図3および図4に示すように、絞り部内蔵弁26では、弁座(または弁座部材26S)および弁体26Vによって構成され流路を開閉することができる弁機構に、大流量絞り部27Lが一体的に設けられている。ここで、「一体的」に設けられるとは、弁機構と大流量絞り部27Lとが、流路ブロックの共通の取り付け位置(典型的には凹所)にまとめて配置されることを広く意味し、弁機構と絞り部とが流路ブロックにおける離れた位置に別々に配置された状態ではないことを意味する。「一体的」に設けられるという場合、ダイヤフラム弁体26V(または弁座部材26S)と大流量絞り部27Lとが同じ取り付け位置にまとめて配置されていればよく、これらが互いに対して固定されている必要はない。また、弁機構(例えば弁座部材26S)と、絞り部27L(またはこれを固定する支持部材を含む絞り部材)との間に他の任意部材が介在することを排除しない。
【0044】
絞り部内蔵弁26は、アクチュエータピストン部26Aによって、ダイヤフラム弁体26Vを弁座(ここでは弁座部材26Sの上面に形成された環状の接触面)に押圧することによって閉弁するように構成されている。アクチュエータピストン部26Aは、圧縮空気を用いて上下動させることができる。また、圧縮空気を供給しないときには、図示しない弾性部材によってピストン部26Aを解放方向に移動させることでダイヤフラム弁体26Vの自己復元力を利用して開弁することができる。
【0045】
このような絞り部内蔵弁26を用いれば、閉弁時のダイヤフラム弁体26Vと大流量絞り部27Lとの間の流路容積26Cを、極めて小さく(例えば、0.05cc以下)設計することができる。流路容積26Cは、コントロール弁22と大流量絞り部27Lおよび小流量絞り部27Sとの間の流路容積と比較して十分に小さいものであり、例えば、1/30以下である。
【0046】
したがって、閉弁時に絞り部27Lを介して流路容積26Cに流れ込むガスの量が少なく、上流圧力P1の一時的な低下もほとんど生じない。また、開弁時に、流路容積26Cから流れ出るガスの量もごくわずかであるので、ほとんど無視できるものである。このため、絞り部内蔵弁26を閉じて小流量レンジでの流量制御への切り替えの際や、絞り部内蔵弁26を開いて大流量レンジでの流量制御への切り替えの際に生じ得た流量出力の揺らぎ(ハンチング、アンダーシュート、オーバーシュート)を抑制し、また、切り替え後に応答性高く安定した流量制御を行うことができる。
【0047】
また、絞り部内蔵弁26は、その下方において本体ブロックとの間に大流量絞り部27Lを挟み込んで固定することができるので、大流量絞り部27Lを有しながらもシール性高く設計することが容易である。特に、図3および図4に示したように、大流量絞り部27Lを、互いの凹凸部が嵌合可能な2つの金属部材間に挟持させる構成を採用すれば、組み立ての容易性が向上するとともに、よりシール性を高めて大流量絞り部27Lの固定箇所からのガスリークの発生をより効果的に低減できる。
【0048】
また、弁座部材26S(金属製または樹脂製のいずれであってもよい)を、ガスの通り道を周辺部に有する押さえ部材26Pによって、本体ブロックに押さえつけながら固定することによって、ガス流路を形成しながら、しっかりとした固定ができるとともに、絞り部内蔵弁26の全体のシール性も向上させることができる。したがって、絞り部内蔵弁26を用いることによって、気化器10からの比較的高温のガスが流れるときにもリーク発生の可能性を低減することができる。
【0049】
なお、図3に示した態様では、弁座部材26Sの径が、絞り部27Lを挟持する金属部材(まとめて絞り部材と呼ぶことがある)の径よりも大きく、弁座部材26Sが金属部材の側面上部まで覆うように設けられている。これに対して、図4に示した態様では、弁座部材26Sの径が、絞り部材の径よりも小さく、押さえ部材26Pによって例えば樹脂製の弁座部材26Sを絞り部材に対して強く押さえつけることで固定が行われている。絞り部材のサイズと弁機構(ピストン部26Aなど)のサイズとが比較的近い場合にはコンパクトに設計できる図4に示した構成を採用すればよいが、閉弁時の入り口側流路と出口側流路との絞り部材周辺で生じ得るリーク発生をより抑制したいときには図3に示した構成を採用すればよい。ただし、絞り部27Lが弁座の近傍に配置されて流路容積26Cを小さく設計できる限り、これら以外にも、絞り部内蔵弁26は種々の態様を取り得る。
【0050】
また、図3および図4に示したように、本実施形態では、絞り部内蔵弁26において、材料ガスGは、絞り部内蔵弁26の中央部から流入し、周辺部から流出する。この構成において、大流量絞り部27Lは、弁座および弁体よりも上流側に配置されている。このことによって、小流量レンジへの切り替えのときに、閉弁した後に大流量流路PLからのガスの流れは即座に遮断され、流路容積26Cからのガスの流出がない。したがって、小流量レンジでの制御に、より応答性良く移行することができるという利点が得られる。ただし、これに限られず、絞り部内蔵弁26の周辺部にガスの入り口を設け、中央部にガスの出口を設けるように流路設計するなどして、大流量絞り部27Lが、弁座および弁体よりも下流側に配置されていてもよい。
【0051】
次に、流量制御装置20が備えるコントロール弁22の具体例について説明する。コントロール弁22は、通常のピエゾ素子駆動型バルブや、高温対策用にピエゾアクチュエータの下方(ダイヤフラム弁体との間)に棒状の放熱スペーサ(エクステンション)が配置されたバルブを用いて構成されていてもよい。放熱スペーサは、例えばインバー材によって形成されており、これをピエゾアクチュエータと連動して動かすことによって、ガス流路に高温のガスが流れたときにも、ピエゾ素子が耐熱温度以上になることを防ぎながら、流量制御を適切に行うことができる。
【0052】
ただし、より広い制御範囲、特により大流量での流量制御を行うために、図5に示すような、複数のアクチュエータを備えるダイヤフラムバルブを、流量制御装置20のコントロール弁22として用いることもできる。このようなバルブは、例えば、本出願人による特許文献4に開示されている。
【0053】
図5に示すように、本実施形態のコントロール弁22は、ダイヤフラム弁体44を開閉動作させるための操作部材42と、操作部材42を比較的大きく移動させるための主アクチュエータ40と、操作部材42を比較的小さく移動させるための副アクチュエータ41とを備えている。操作部材42の先端には、ダイヤフラム弁体44と接する弁体押さえ45が固定されている。
【0054】
主アクチュエータ40、副アクチュエータ41、および、操作部材42は、いずれも、バルブ筐体43の内側に収容されている。バルブ筐体43は流路ブロックに固定されており、流路ブロックに対して不動の部材である。一方、操作部材42は、バルブ筐体43に対して内側で移動可能に設けられている。
【0055】
主アクチュエータ40としては、操作部材42を上下動させる空気駆動式のアクチュエータ(駆動流体によって動作するアクチュエータ)が用いられる。主アクチュエータ40は、複数の環状ピストンによって構成されており、これらの環状ピストンは操作部材42と共に上下方向に移動可能である。また、主アクチュエータ40の圧力室には、供給管47を介して駆動流体としての圧縮空気が送られる。供給する圧縮空気の空気圧を、電空レギュレータなどの圧力調整器を用いて制御することによって、操作部材42の移動量およびダイヤフラム弁体44の開度を制御することができる。
【0056】
また、副アクチュエータ41としては、ピエゾアクチュエータ(電気的な駆動により伸長可能なアクチュエータ)が用いられている。副アクチュエータ41は、操作部材42の内側において、操作部材42に対して摺動可能に設けられている。副アクチュエータ41の印加電圧を制御することによって、操作部材42の移動量およびダイヤフラム弁体44の開度を、より精密に制御することができる。
【0057】
図4に示すコントロール弁22は、ノーマルクローズ型のバルブであり、主アクチュエータ40および副アクチュエータ41が駆動されていないとき、ダイヤフラム弁体44は、コイルばね46や、副アクチュエータ41の上面とバルブ筐体43(蓋部)との間に配置された皿ばね48から受ける付勢力によって、操作部材42を介して弁座に押し付けられている。
【0058】
一方、開弁するときには、主アクチュエータ40に開度相応の圧力を有する圧縮空気が供給され、コイルばね46および皿ばね48の付勢力に抗して、操作部材42を上側に持ち上げる。これによって、ダイヤフラム弁体44を概ね所望の開度に開くことができる。
【0059】
また、主アクチュエータ40による駆動によって、操作部材42だけでなく、その内側に配された副アクチュエータ41も上側に移動する。このとき、副アクチュエータ41に印加する電圧ひいてはその伸長度を制御することによって、下方向への付勢力を増加させることができる。これにより、操作部材42の変位を下方向に微調整することができる。
【0060】
したがって、主アクチュエータ40の操作圧力と、副アクチュエータ41の印加電圧との双方を組み合わせて制御することによって、小流量から大流量までの広い範囲にわたって、精度よく流量制御を行うことが可能になる。主アクチュエータ40の使用によって大流量のガスを流すことが可能になるとともに、副アクチュエータ41よる応答性の高い微調整が可能であるので、コントロール弁22として用いたときに、上流圧力P1を広い範囲で所望の値に適切に制御することができる。
【0061】
以下、図6を参照しながら、流量制御装置20を用いて行う、制御流量レンジの変更を伴う流量制御の例示的な動作について説明する。
【0062】
図6に示すように、まず、コントロール弁22および絞り部内蔵弁26が閉じられ、流量が0の状態から、時刻t1においてコントロール弁22が開かれて、所望の小流量レンジでの流量制御が行われる。流量制御中、上流圧力センサ24によって測定された上流圧力P1に基づいてコントロール弁22をフィードバック制御することによって、一定の上流圧力P1ひいては一定の流量Qに維持することができる。この期間中、絞り部内蔵弁26は閉じられており、小流量流路PSのみを介してガスの供給が行われる。
【0063】
次に時刻t2において、大流量レンジでの流量制御に切り替えるものとする。このとき、絞り部内蔵弁26は瞬時に開かれ、大流量流路PLをも介してのガス供給が開始される。また、このときには、より低い上流圧力P1であっても、より大流量でガスを流すことができる。もちろん、図示する態様とは異なり、上流圧力P1をより高い値または同値に維持するように制御されてもよく、この場合にはさらに大流量でガスを流し続けることができる。
【0064】
なお、気化器10を用いて生成したガスの流量制御を行う場合、生成ガスの圧力(供給圧力P0)は、上流圧力P1よりも常に高いことが求められる。本実施形態の流量制御装置20(および特に図5に示したコントロール弁22)を用いれば、従来よりも大流量のガスを所望流量で流すことが可能であるが、一方で、供給圧力P0の低下はより著しいものとなる。このため、気化器10は、ガス生成能力が十分に高く構成されていることが好ましく、また、供給圧力P0の監視をして、これを上流圧力P1よりも高い値に維持できるように気化供給装置50が構成されていることが好ましい。
【0065】
また、時刻t3において、再び小流量レンジでの流量制御に切り替えるものとする。このとき、絞り部内蔵弁26は瞬時に閉じられ、小流量流路PSを介してのガス供給が開始される。上流圧力P1は、コントロール弁22のフィードバック制御により、所望流量が実現できる任意に圧力に維持される。
【0066】
以上のようにして、大流量レンジと小流量レンジとで制御範囲を切り替えてガスの供給を行うときにも、大流量絞り部27Lを、絞り部内蔵弁26の内部流路の弁座近傍位置に設けているため、切り替え時の出力の揺らぎを防止して、安定的に、また、応答性良く流量制御を行うことができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、種々の改変が可能である。例えば、上記にはコントロール弁の下流側に並列接続された小流量流路PSと大流量流路PLとの2流路を設ける態様を説明したが、3流路以上を並列接続してもよい。この場合にも、小流量流路以外の流路において絞り部が内部流路の弁座近傍位置に設けられた絞り部内蔵弁を配置することによって、複数制御レンジの切り替えを可能とするとともに、レンジ切り替え時にも安定して流量制御を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の実施形態による流量制御装置および気化供給装置は、例えば、半導体製造設備等のガス供給システムに組み込まれ、幅広い制御レンジで流量制御を行うために好適に利用される。
【符号の説明】
【0069】
2 液体材料源
4 遮断弁
6 プロセスチャンバ
8 真空ポンプ
10 気化器
12 供給圧力センサ
14 予加熱部
16 気化部
18 液体補充弁
20 流量制御装置
22 コントロール弁
24 上流圧力センサ
26 絞り部内蔵弁(オリフィス内蔵弁)
26P 押さえ部材
26S 弁座部材
26V ダイヤフラム弁体
27O 開口
27L 大流量絞り部
27S 小流量絞り部
29 電磁弁
40 主アクチュエータ
41 副アクチュエータ
42 操作部材
43 バルブ筐体
44 ダイヤフラム弁体
50 気化供給装置
100 ガス供給システム
P0 供給圧力
P1 上流圧力
PL 大流量流路
PS 小流量流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6