(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130688
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ズームレンズ及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 15/20 20060101AFI20230913BHJP
G02B 13/18 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
G02B15/20
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035128
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(72)【発明者】
【氏名】三觜 隆広
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087MA15
2H087PA12
2H087PA13
2H087PA16
2H087PB17
2H087PB18
2H087QA02
2H087QA06
2H087QA17
2H087QA21
2H087QA25
2H087QA37
2H087QA39
2H087QA41
2H087QA46
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA42
2H087RA43
2H087RA44
2H087SA57
2H087SA63
2H087SA65
2H087SA66
2H087SA72
2H087SA74
2H087SB05
2H087SB15
2H087SB24
2H087SB33
2H087SB44
2H087UA06
(57)【要約】
【課題】 近距離撮影時においても、高い光学性能を得ることが可能なズームレンズを備えた撮像装置を提供する。
【解決手段】 物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群(G1)と、負の屈折力を有する第2レンズ群(G2)と、正の屈折力を有する第3レンズ群(G3)と、負の屈折力を有する第4レンズ群(G4)、後群とを有し、開口絞りより像面側に配置される負の屈折力を有するレンズ群のうち少なくとも1つは、負レンズLnを有し、所定の式を満足するズームレンズ。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、負の屈折力を有する第4レンズ群と、後群とを有し、
隣り合うレンズ群の間隔を変えることで変倍するズームレンズであって、
開口絞りより像面側に配置される負の屈折力を有するレンズ群のうち少なくとも1つは、負レンズLnを有し、以下の式を満足するズームレンズ。
0.95 ≦ fn / fGN < 20.00・・・・(1)
1.55 < Ndn < 1.70・・・・・・・・・(2)
15.0 < νdn < 32.0・・・・・・・・・(3)
但し、
fn:前記負レンズLnの焦点距離
fGN:前記負レンズLnを有するレンズ群の焦点距離
Ndn:前記負レンズLnのd線における屈折率
νdn:前記負レンズLnのd線におけるアッベ数
【請求項2】
以下の式を満足する請求項1に記載のズームレンズ。
-0.100 < ΔPcti < 0.000・・・・・・・(4)
但し、
ΔPcti:前記負レンズLnの材料iにおけるC線とt線の異常分散性
【請求項3】
以下の式を満足する請求項1又は請求項2に記載のズームレンズ。
3.0 ≦ f1 / |f2| ≦ 10.0・・・(5)
但し、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離
f2:前記第2レンズ群の焦点距離
【請求項4】
以下の式を満足する請求項1から3のいずれか一項に記載のズームレンズ。
1.0 ≦ |f2| / fw ≦ 2.0・・・(6)
但し、
f2:前記第2レンズ群の焦点距離
fw:広角端における無限遠合焦時の当該ズームレンズの焦点距離
【請求項5】
以下の式を満足する請求項1から4のいずれか一項に記載のズームレンズ。
0.5 ≦ f3 / |f4| ≦ 2.0・・・(7)
但し、
f3:前記第3レンズ群の焦点距離
f4:前記第4レンズ群の焦点距離
【請求項6】
以下の式を満足する請求項1から5のいずれか一項に記載のズームレンズ。
3.0 ≦ D2rw / fw ≦ 10.0・・・(8)
但し、
fw:広角端における無限遠合焦時の当該ズームレンズの焦点距離
D2rw:広角端における無限合焦時の前記第2レンズ群と前記第3レンズ群との間隔
【請求項7】
以下の式を満足する請求項1から6のいずれか一項に記載のズームレンズ。
5.0 ≦ β2T/ β2W ≦ 50.0・・・(9)
但し、
β2W:広角端における無限遠合焦時の前記第2レンズ群の横倍率
β2T:望遠端における無限遠合焦時の前記第2レンズ群の横倍率
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のズームレンズと、当該ズームレンズの像側に当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ズームレンズ及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルスチルカメラの等の固体撮像素子を用いた撮影装置が普及している。それに伴い、ズームレンズの高性能化、小型化が進み、小型の撮像装置システムが急速に普及してきている。従来のレンズにおいて、特に全長が短く小型なズームレンズが望まれる監視用レンズ、ビデオカメラ用レンズ、デジタルスチルカメラ用レンズ、一眼レフレックスカメラ用レンズ、ミラーレス一眼カメラ用レンズ等では、高い光学性能を有しながら、近距離撮影時の性能維持するための収差補正を行うことが課題となる。
【0003】
特許文献1~3に記載のズームレンズは、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群、負の屈折力を有する第2レンズ群、正の屈折力を有する第3レンズ群、負の屈折力を有する第4レンズ群、正の屈折力を有する第5レンズ群からなるズームレンズが開示されている。しかしながら特許文献1、3は、第4レンズ群の負レンズの屈折力が強すぎるため、近距離合焦時の像面湾曲補正が難しくなり、近距離撮影及びその際の性能維持が困難である。また、特許文献2は第4レンズ群の負レンズによる倍率色収差補正が十分でなく、近距離撮影及びその際の性能維持が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5581730号公報
【特許文献2】特開2017-134304号公報
【特許文献3】特開2006-099130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本件発明の課題は、近距離撮影時においても、高い光学性能を得ることが可能なズームレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、負の屈折力を有する第4レンズ群と、後群とを有し、
隣り合うレンズ群の間隔を変えることで変倍するズームレンズであって、
開口絞りより像面側に配置される負の屈折力を有するレンズ群のうち少なくとも1つは、負レンズLnを有し、以下の式を満足するズームレンズ。
0.95 ≦ fn / fGN < 20.00・・・・(1)
1.55 < Ndn < 1.70・・・・・・・・・(2)
15.0 < νdn < 32.0・・・・・・・・・(3)
但し、
fn:前記負レンズLnの焦点距離
fGN:前記負レンズLnを有するレンズ群の焦点距離
Ndn:前記負レンズLnのd線における屈折率
νdn:前記負レンズLnのd線におけるアッベ数
【0007】
また、上記課題を解決するために本件発明に係る撮像装置は、上記ズームレンズと、当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換にする撮像素子とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本件発明によれば、近距離撮影時においても、高い光学性能を得ることが可能なズームレンズを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】実施例1のズームレンズの広角端における縦収差図である。
【
図4】実施例1のズームレンズの中間域における縦収差図である。
【
図5】実施例1のズームレンズの望遠端における縦収差図である。
【
図7】実施例2のズームレンズの広角端における収差図である。
【
図8】実施例2のズームレンズの中間域における収差図である。
【
図9】実施例2のズームレンズの望遠端における収差図である。
【
図11】実施例3のズームレンズの広角端における収差図である。
【
図12】実施例3のズームレンズの中間域における収差図である。
【
図13】実施例3のズームレンズの望遠端における収差図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る撮像装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置の実施の形態を説明する。但し、以下に説明するズームレンズ及び撮像装置は、本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置の一態様であって、本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置は以下の態様に限定されるものではない。
【0011】
1.ズームレンズ
1-1.光学構成
本件発明に係るズームレンズは物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有し第3レンズ群と、負の屈折力を有し第4レンズ群と、後群を有し構成される。この構成によって、比較的倍率が高いズームレンズとすることが容易となる。また、後群は、より高性能とする上では、第5レンズ群及び第6レンズ群を有することが好ましい。
【0012】
(1)第1レンズ群
第1レンズ群は、正の屈折力を有するレンズ群である限り、その具体的な構成は特に限定されるものではない。第1レンズ群は、望遠域の軸上色収差を収差補正する上で、4枚以上のレンズで構成することが好ましい。また、第1レンズ群は、物体側から像側へ順に負メニスカスレンズと両凸レンズが接合された接合レンズと、正レンズと、正レンズから構成されることが、望遠側の高性能化が容易となる。
【0013】
ここで、「レンズ群」とは、変倍の際に光軸に沿って同じ軌跡で同じ移動量だけ移動する1枚又は互いに隣接する複数枚のレンズからなる群をいう。一つのレンズ群が複数枚のレンズから構成される場合、その一つのレンズ群に含まれる各レンズ間の光軸上の距離は変倍の際には変化しない。また、隣接するレンズ群間の光軸上の距離は、変倍の際に変化する。
【0014】
(2)第2レンズ群
第2レンズ群は、負の屈折力を有するレンズ群である限り、その具体的な構成は特に限定されるものではない。第2レンズ群は、変倍の際に倍率の色収差を補正する上で、負レンズ3枚、正レンズ1枚を有することが好ましい。また第2レンズ群は、物体側から像側へ順に、負メニスカスレンズと、負メニスカスレンズと、両凹レンズと両凸レンズが接合された接合レンズとから構成されることが、より好ましい。
【0015】
(3)第3レンズ群
第3レンズ群は、正の屈折力を有するレンズ群である限り、その具体的な構成は特に限定されるものではない。第3レンズ群は、負レンズは少なくとも1枚有することが好ましい。また、第3レンズ群は、物体側から像側にむかって、正レンズ、負レンズ、正レンズの構成からなることが好ましい。この構成によって、収差補正をしつつ、小型化が容易となる。
【0016】
(4)第4レンズ群
第4レンズ群は、負の屈折力を有し、変倍の際に光軸に沿って移動するレンズ群である限り、その具体的な構成は特に限定されるものではない。この構成によって、収差補正をしつつ、小型化が容易となる。第4レンズ群は、最も物体側に正レンズを有することが好ましい。また、第4レンズ群は、物体側から像側にむかって、正レンズ、負レンズの構成からなることが好ましい。この構成によって、収差補正をしつつ、小型化が容易となる。
【0017】
(5)後群
後群は1つ以上のレンズ群から構成され、レンズ群の数は特に限定されるものではない。後群は、第5レンズ群のみから構成されていてもよいが、第5レンズ群及び第6レンズ群を有することが好ましく、更に第7レンズ群を有していてもよい。また、第5レンズ群は、正の屈折力を有するレンズ群であることが好ましく、負の屈折力を有するレンズを少なくとも1枚有することが好ましい。第6レンズ群は、負の屈折力を有することが好ましく、像面湾曲を補正する上で少なくとも物体側が凹面の負レンズを有することが好ましい。なお、第7レンズ群は、正の屈折力であっても負の屈折力であってもよく、特に限定されない。
【0018】
(6)開口絞り
当該ズームレンズにおいて、開口絞りの配置は特に限定されるものではない。開口絞りは、第4レンズ群よりも物体側に配置することが好ましく、更に第3レンズ群の物体側に配置することで、レンズの構成を簡易化することができより好ましい。
【0019】
(7)負レンズLn
負レンズLnは開口絞りより像面側に配置される負の屈折力を有するレンズ群のうち、少なくとも1つのレンズ群に含まれる。負レンズLnは後述する式(2)及び式(3)の少なくとも何れかを満足することが好ましく、式(2)及び式(3)の双方を満足することが更に好ましい。色収差を良好に補正する観点から、負レンズLnは第4レンズ群又は第6レンズ群に含まれることがより好ましい。
【0020】
1-2.動作
(1)変倍
当該ズームレンズは、広角端から望遠端への変倍に際し、第4レンズ群が光軸上を移動する限り、その具体的な動作は特に限定されるものではない。第1レンズ群及び第3レンズ群は、当該ズームレンズの小型化をする上で、変倍に際し、像面に対して固定されることが好ましい。
【0021】
(2)合焦
当該ズームレンズは、無限遠から近距離への合焦に際し、負の屈折力を有するレンズ群が光軸上を移動する限り、その具体的な動作は特に限定されるものではない。無限遠から近距離への合焦に際し、第4レンズ群または第6レンズ群が光軸上を像側へ移動する構成が好ましい。倍率の色収差及び像面湾曲の補正が出来るからである。
【0022】
1-3. 式
当該ズームレンズは、上述した構成を採用すると共に、次に説明する式を少なくとも1つ以上満足することが望ましい。
【0023】
1-3-1.式(1)
0.95 ≦ fn / fGN < 20.00・・・・(1)
但し、
fn:負レンズLnの焦点距離
fGN:負レンズLnを有するレンズ群の焦点距離
【0024】
式(1)は、負レンズLnの焦点距離と、負レンズLnを有するレンズ群の焦点距離の比を規定するための式である。式(1)を満足させることで、全ズーム域での近距離撮影時における像面湾曲を抑制し、高い光学性能が容易となる。
【0025】
式(1)の下限値を下回ると、負レンズLnの屈折力が強くなり、像面湾曲が増大し、近距離撮影時の光学性能維持が困難となる。一方、式(1)の上限値を超えると、負レンズLnの屈折力が弱くなり、合焦距離毎の収差変動の抑制は容易になるが、正の屈折力を有するレンズ群で発生する収差を打ち消すことが困難となる。
【0026】
上記効果を得る上で、式(1)の下限値は1.00であることが好ましく、1.10であることがより好ましい。また、式(1)の上限値は19.00であることが好ましく、18.00であることがより好ましい。なお、これらの好ましい下限値又は上限値を採用する場合、式(1)において等号付不等号(≦)を不等号(<)に置換してもよい。他の式についても原則として同様である。
【0027】
1-3-2.式(2)
1.55 < Ndn < 1.70・・・・・・・・・(2)
但し、
Ndn:負レンズLnのd線における屈折率
【0028】
式(2)は、負レンズLnの屈折率を規定するための式である。
【0029】
式(2)の下限値を下回ると、像面湾曲の収差補正が不十分となり、近距離撮影時における高性能化が困難となる。一方、式(2)の上限値を超えると、像面湾曲の収差補正が過剰となり、近距離撮影時における高性能化が困難となる。
【0030】
上記効果を得る上で、式(2)の下限値は1.56であることが好ましく、1.57であることがより好ましい。また、式(2)の上限値は1.69であることが好ましく、1.68であることがより好ましい。
【0031】
1-3-3.式(3)
15.0 < νdn < 32.0・・・・・・・・・(3)
但し、
νdn:負レンズLnのd線におけるアッベ数
【0032】
式(3)は、負レンズLnのアッベ数を規定するための式である。
【0033】
式(3)の下限値を下回ると、倍率色収差の収差補正が過剰となり、近距離撮影時における高性能化が困難となる。一方、式(3)の上限値を超えると、倍率色収差の収差補正が不十分となり、近距離撮影時における高性能化が困難となる。
【0034】
上記効果を得る上で、式(3)の下限値は18.0であることが好ましく、20.0であることがより好ましい。また、式(3)の上限値は31.5であることが好ましく、31.0であることがより好ましい。
【0035】
式(2)及び式(3)を同時に満足させることで、像面湾曲と倍率の色収差を効果的に抑制することができ、近距離撮影時における高性能化が容易となる。また、負レンズLnは樹脂製レンズであることが式(2)及び式(3)を同時に満足するうえでより好ましい。
【0036】
1-3-4.式(4)
-0.100 < ΔPcti < 0.000・・・・・・・(4)
但し、
ΔPcti:負レンズLnの材料iにおけるC線とt線の異常分散性
【0037】
まず、部分分散比と異常分散性について記載する。
各スペクトル線とその波長をt線(1013.98nm)、C線(656.27nm)、d線(587.56nm)とし、任意の文字x,yを各スペクトル線に対応させたとき、x線,y線に対する屈折率をnx,nyと定義する。たとえば、d線に対する屈折率はnd、F線に対する屈折率はnFと表す。さらに、x線とy線に対する部分分散比をPxyと表し、Pxy=(nx-ny)/(nF-nC)と定義する。たとえば、C線とt線に対する部分分散比PCtは、PCt=(nC-nt)/(nF-nC)である。
C線とt線に対する異常分散性について説明する。
図1は、C線とt線に対する異常分散性について説明するためのグラフである。
図1に示すように、まず、XY座標平面上のX軸にd線に対するアッベ数νd、Y軸にC線とt線に対する部分分散比PCtをとる。そして、C線とt線に関する2つの基準材料に対して座標平面上の2点を定め、その2点を結ぶ直線をC線とt線に関する標準線Ctと定義する。本発明では、標準線Ctを、傾き0.0047、切片0.546の直線として「標準線Ct:PCt=0.546+0.0047×νd」と定める。これにより、C線とt線に関する異常分散性を、与えられた材料のνdに対して、標準線CtからのPCtの偏差ΔPCtを異常分散性の値と定義できる。たとえば、任意の材料iのd線に対するアッベ数をνdi,C線とt線に対する部分分散比をPCtiとしたとき、任意の材料iのC線とt線に関する異常分散性ΔPCtiは、ΔPCti=PCti-(0.546+0.0047×νdi)と計算できる。このように定義したΔPCtが、C線とt線に関する異常分散性を表す。
【0038】
式(4)は、負レンズLnの材料iにおけるC線とt線の異常分散性を規定するための式である。C線からt線までの近赤外域の軸上色収差、倍率色収差を補正することができ、近距離撮影時における高性能化が容易となる。
【0039】
式(4)の下限値を下回ると、負レンズLnの異常分散性の絶対値が大きくなりすぎ、t線を含む近赤外域の収差が補正過剰になるため、近赤外域を含む波長域の光に対し、良好な光学性能を得ることが困難となる。一方、式(4)の上限値を超えると、負レンズLnの異常分散性の絶対値が小さくなりすぎ、t線を含む近赤外域の色収差が大きくなるため、近赤外域を含む波長域の光に対し、良好な光学性能を得ることが困難となる。また、条件式(4)にあてはまるものとして負レンズLnは樹脂製レンズであることがより好ましい。
【0040】
上記効果を得る上で、式(4)の下限値は-0.090であることが好ましく、-0.080であることがより好ましい。また、式(4)の上限値は-0.005であることが好ましく、-0.010であることがより好ましい。
【0041】
1-3-5.式(5)
3.0 ≦ f1 / |f2| ≦ 10.0・・・(5)
但し、
f1:第1レンズ群の焦点距離
f2:第2レンズ群の焦点距離
【0042】
式(5)は、第1レンズ群の焦点距離と第2レンズ群の焦点距離の絶対値の比を規定するための式である。式(5)を満足することで、望遠端の収差補正を良好にでき、高い光学性能を得ることが容易となる。
【0043】
式(5)の下限値を下回ると、第2レンズ群の変倍による収差変動が小さくなるが、望遠端の収差補正が難しくなり、高性能化が困難となる。一方、式(5)の上限値を超えると、望遠端での収差補正が容易となるが、第2レンズ群の変倍による収差変動が大きくなりすぎ、全ズーム域での収差補正が難しくなり、高性能化が困難となる。
【0044】
上記効果を得る上で、式(5)の下限値は4.0であることが好ましく、5.0であることがより好ましい。また、式(5)の上限値は9.0であることが好ましく、8.0であることがより好ましい。
【0045】
1-3-6.式(6)
1.0 ≦ |f2| / fw ≦ 2.0・・・(6)
但し、
f2:第2レンズ群の焦点距離
fw:広角端における無限遠合焦時のズームレンズの焦点距離
【0046】
式(6)は、第2レンズ群の焦点距離の絶対値と広角端における無限遠合焦時のズームレンズの焦点距離の比を規定するための式である。式(6)を満足することで、広角端での収差補正を良好にでき、高性能化が容易となる。
【0047】
式(6)の下限値を下回ると、第2レンズ群の変倍による移動量が小さくなるが、広角端の像面湾曲が大きくなり補正が難しくなり、高性能化が困難となる。一方、式(6)の上限値を超えると、広角端での像面湾曲の収差補正が容易となるが、第2レンズ群の変倍による移動量が大きくなりすぎ、高性能化が困難となる。
【0048】
上記効果を得る上で、式(6)の下限値は1.1であることが好ましく、1.2であることがより好ましい。また、式(6)の上限値は1.9であることが好ましく、1.8であることがより好ましい。
【0049】
1-3-7. 式(7)
0.5 ≦ f3 / |f4| ≦ 2.0・・・(7)
但し、
f3:第3レンズ群の焦点距離
f4:第4レンズ群の焦点距離
【0050】
式(7)は、第3レンズ群の焦点距離と第4レンズ群の焦点距離の絶対値の比を規定するための式である。式(7)を満足することで、球面収差と像面湾曲の収差補正を良好にすることができ、高性能化が容易となる。
【0051】
式(7)の下限値を下回ると、球面収差補正は容易になるが、像面湾曲の収差補正ができず、高性能化が困難となる。一方、式(7)の上限値を超えると、像面湾曲の収差補正は容易になるが、球面収差の抑制ができず、高性能化が困難となる。
【0052】
上記効果を得る上で、式(7)の下限値は0.6であることが好ましく、0.7であることがより好ましい。また、式(7)の上限値は1.9であることが好ましく、1.8であることがより好ましい。
【0053】
1-3-8. 式(8)
3.0 ≦ D2rw / fw ≦ 10.0・・・(8)
但し、
fw:広角端における無限遠合焦時のズームレンズの焦点距離
D2rw:広角端における無限合焦時の第2レンズ群と第3レンズ群との間隔
【0054】
式(8)は、広角端における無限合焦時の第2レンズ群と第3レンズ群との間隔と、広角端における無限遠合焦時のズームレンズの焦点距離の比を規定するための式である。式(8)を満足することで、レンズの小型化及び広角端の焦点距離をより広角化が容易となる。
【0055】
式(8)の下限値を下回ると、レンズの小型化が容易となるが、広角端の焦点距離の広角化が困難となる。一方、式(8)の上限値を超えると、広角端の焦点距離をより広角化することが容易となるが、レンズの小型化が困難となる。
【0056】
上記効果を得る上で、式(8)の下限値は4.0であることが好ましく、5.0であることがより好ましい。また、式(8)の上限値は9.0であることが好ましく、8.0であることがより好ましい。
【0057】
1-3-9. 式(9)
5.0 ≦ β2T/ β2W ≦ 50.0・・・(9)
但し、
β2W:広角端における無限遠合焦時の第2レンズ群の横倍率
β2T:望遠端における無限遠合焦時の第2レンズ群の横倍率
【0058】
式(9)は、望遠端における無限遠合焦時の第2レンズ群の横倍率と、広角端における無限遠合焦時の第2レンズ群の横倍率の比を規定するための式である。式(9)を満足することで、第2レンズ群と他群の変倍比のバランスをとることができ、高倍率化した際も良好な収差補正が容易となる。
【0059】
式(9)の下限値を下回ると、第2レンズ群を移動させることによって得られる変倍比が小さくなり、移動量が増加することで所望の全長で高倍率化することが困難となる。一方、式(9)の上限値を超えると、第2レンズ群の屈折力が強まり、変倍時の収差変動が増大し、全ズーム範囲にわたり高い光学性能を得ることが困難となる。
【0060】
上記効果を得る上で、式(9)の下限値は6.0であることが好ましく、7.0であることがより好ましい。また、式(9)の上限値は40.0であることが好ましく、30.0であることがより好ましい。
【0061】
2.撮像装置
次に、本件発明に係る撮像装置について説明する。本件発明に係る撮像装置は、上記本件発明に係るズームレンズと、当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする。なお、撮像素子はズームレンズの像側に設けられることが好ましい。
【0062】
ここで、撮像素子等に特に限定はなく、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの固体撮像素子等も用いることができる。本件発明に係る撮像装置は、デジタルカメラやビデオカメラ等のこれらの固体撮像素子を用いた撮像装置に好適である。また、当該撮像装置は、一眼レフカメラ、ミラーレス一眼カメラ、デジタルスチルカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ドローン搭載用カメラ等の種々の撮像装置に適用することができる。また、これらの撮像装置はレンズ交換式の撮像装置であってもよいし、レンズが筐体に固定されたレンズ固定式の撮像装置であってもよい。特に本発明に係るズームレンズはフルサイズ等のサイズの大きな撮像素子を搭載した撮像装置のズームレンズに好適である。当該ズームレンズは全体的に小型で軽量、且つ、高い光学性能を有するため、このような撮像装置用のズームレンズとしたときにも高画質な撮像画像を得ることができる。
【0063】
図14は、本実施形態に係る撮像装置の構成の一例を模式的に示す図である。
図14に示されるように、カメラ1は、本体2及び本体2に着脱可能な鏡筒3を有している。カメラ1は、撮像装置の一態様である。
【0064】
本体2は、撮像素子としてのCCDセンサ21及び光学フィルター22を有している。CCDセンサ21は、本体2中における、本体2に装着された鏡筒3内のズームレンズ30の光軸が中心軸となる位置に配置されている。本体2は、光学フィルター22の代わりに、カバーガラス等を有していてもよい。
【0065】
次に、実施例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0066】
(1)光学構成
図2は、本件発明に係る実施例1のズームレンズの無限遠合焦時の断面図である。当該ズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1、負の屈折力を有する第2レンズ群G2、正の屈折力を有する第3レンズ群G3、負の屈折力を有する第4レンズ群G4、正の屈折力を有する第5レンズ群G5、及び、負の屈折力を有する第6レンズ群G6から構成されている。
【0067】
広角端から望遠端の変倍の際、光軸に沿って、第2レンズ群G2が物体側から像面側へ移動し、第4レンズ群G4が像側に凸軌跡で像側へ移動し、第5レンズ群G5が物体側から像側へ移動し、第6レンズ群G6が像側に凸軌跡で移動する。また、第1レンズ群G1と、第3レンズ群G3は、像面IMGに対して固定である。
【0068】
無限遠物体から近接物体への合焦の際、第4レンズ群G4が光軸に沿って像側から物体側へ移動する。
【0069】
第1レンズ群G1は、物体側から順に、負メニスカスレンズと両凸レンズが接合された接合レンズと、正メニスカスレンズと、正メニスカスレンズから構成されている。
【0070】
第2レンズ群G2は、物体側から順に、負メニスカスレンズと、負メニスカスレンズと、両凹レンズと両凸レンズが接合された接合レンズとから構成されている。
【0071】
第3レンズ群G3は、物体側から順に、両凸レンズと、負メニスカスレンズと両凸レンズが接合された接合レンズとから構成されている。
【0072】
第4レンズ群G4は、物体側から順に、正メニスカスレンズと両凹レンズが接合された接合レンズとから構成されている。
【0073】
第5レンズ群G5は、物体側から順に、両凸レンズと、負メニスカスレンズと両凸レンズが接合された接合レンズとから構成されている。
【0074】
第6レンズ群G6は、両凹レンズから構成されており、本実施例では当該両凹レンズが負レンズLnである。
【0075】
開口絞りSは、第3レンズ群G3の物体側にあり、広角端から望遠端の変倍の際、及び無限遠物体から近接物体への合焦の際、像面IMGに対して固定である。
【0076】
なお、
図2において、「IMG」は像面であり、具体的には、CCDセンサやCMOSセンサなどの固体撮像素子の撮像面、或いは、銀塩フィルムのフィルム面等を示す。また、像面IMGの物体側には光学フィルターCGを備える。また、「F」は合焦時に移動するレンズ群を示し、矢印はレンズ群の移動方向を表す。この点は、他の実施例で示す各レンズ断面図においても同様であるため、以後説明を省略する。
【0077】
(2)数値実施例
次に、当該ズームレンズの具体的数値を適用した数値実施例について説明する。以下に、「レンズデータ」、「諸元表」、「可変間隔」、「非球面係数」、「各レンズ群の焦点距離」を示す。また、各式の値(表1)は実施例3の後にまとめて示す。なお、以下の各数値実施例において、長さの単位が記載されていない数値の単位は全て「mm」であり、角度の単位は全て「°」である。
【0078】
(レンズデータ)において、「面NO.」は物体側から数えたレンズ面の順番、「r」はレンズ面の曲率半径、「D」は光軸上のレンズ肉厚又は空気間隔、「Nd」はd線(波長λ=587.56nm)における屈折率、「νd」はd線におけるアッベ数、「H」は最大光束高さ、「PCt」はC線とt線に対する部分分散比を示す。また、「面NO.」の欄において数字の次に付した「*」はそのレンズ面が非球面であることを示し、「S」はその面が開口絞りであることを示す。「D」の欄において、「D(7)」、「D(14)」等と示すのは、当該レンズ面の光軸上の間隔が合焦時に変化する可変間隔であることを意味する。また、曲率半径の欄の「INF」は、そのレンズ面が平面であることを意味する。
【0079】
(諸元表)において、「f」は当該ズームレンズの焦点距離、「FNO」はFナンバー、「ω」は半画角である。それぞれ広角端、中間域、望遠端無限遠合焦時における値を示す。
【0080】
(可変間隔)において、広角端、中間域、望遠端の無限遠合焦時の値をそれぞれ示す。
【0081】
(非球面係数)は、次のようにして非球面形状を定義したときの非球面係数を示す。但し、xは光軸方向の基準面からの変位量、rは近軸曲率半径、Hは光軸に垂直な方向の光軸からの高さ、Kは円錐係数、Anはn次の非球面係数とする。また「非球面係数」の表において「E±XX」は指数表記を表し「×10±XX」を意味する。
【0082】
【0083】
これらの各数値実施例における事項は他の実施例においても同様であるため、以後説明を省略する。
【0084】
また、
図3、
図4、
図5に当該ズームレンズの広角端及び中間域及び望遠端の無限遠物体合焦時における縦収差図を示す。各図に示す縦収差図は、図面に向かって左側から順に、それぞれ球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)である。球面収差図は実線がd線(波長587.56nm)、短破線がF線(波長486.13nm)、長破線がC線(波長656.27nm)における球面収差をそれぞれ示す。非点収差図は縦軸が半画角(ω)、横軸がデフォーカスであり、実線がd線のサジタル像面を示し、破線がd線のメリディオナル像面をそれぞれ示す。歪曲収差図は、縦軸が半画角(ω)、横軸が歪曲収差である。これらの事項は、他の実施例において示す各収差図においても同じであるため、以後説明を省略する。
【0085】
(レンズデータ)
面No. r D Nd νd H
1 84.1708 1.0000 2.00330 28.32 17.54
2 42.6674 6.0000 1.49700 81.61 16.48
3 -330.8051 0.1500 17.40
4 37.6397 4.7000 1.43700 95.10 15.80
5 274.3137 0.1500 14.08
6 36.0323 3.0000 1.72916 54.67 13.50
7 80.5079 D(7) 13.11
8 81.6391 0.7000 1.91082 35.25 7.53
9 9.2031 3.1399 5.99
10* -27.7437 0.7000 1.85135 40.10 5.86
11* -88.0908 0.6267 5.75
12 -23.9020 0.6000 1.80420 46.50 5.73
13 14.0862 2.7383 1.98612 16.48 5.68
14 -1000.0000 D(14) 5.60
15S INF 0.5399 5.23
16* 16.3486 3.1759 1.55332 71.68 5.40
17* -77.1346 0.1500 5.33
18 17.5915 0.6000 1.92119 23.96 5.25
19 10.3224 3.5000 1.55032 75.50 5.04
20 -22.2379 D(20) 4.87
21 -24.8093 1.7000 1.92286 18.90 4.60
22 -12.6838 0.7000 1.76802 49.24 4.52
23* 14.0141 D(23) 4.32
24* 17.6940 2.2633 1.59201 67.02 5.10
25* -28.0053 0.6500 5.18
26 254.0251 0.6000 1.80450 39.64 5.20
27 13.2247 4.5778 1.49710 81.56 5.20
28* -9.8564 D(28) 5.38
29* -27.5952 0.6000 1.66134 20.37 3.78 PCt=0.595
30* 119.2187 D(30) 3.72
31 INF 0.7000 1.51633 64.14 3.61
32 INF 3.4483 3.56
【0086】
(諸元表)
広角端 中間域 望遠端
f 4.6766 49.8394 129.5653
FNO 1.8500 4.3000 4.8000
ω 34.6485 3.6083 1.3990
【0087】
(可変間隔)
広角端 中間域 望遠端
撮影距離 INF INF INF
D(7) 0.7401 23.7282 28.9922
D(14) 29.4523 6.4641 1.2002
D(20) 0.8000 8.7982 6.1642
D(23) 8.9878 2.4097 10.4317
D(28) 7.6908 5.7042 0.8500
D(30) 1.0673 1.6338 1.1000
【0088】
(非球面係数)
面NO. K A4 A6 A8 A10
10 -7.15001E-01 2.32389E-05 -2.07527E-07 8.90122E-10 -8.34913E-11
11 -9.98408E+00 1.84937E-06 9.90432E-08 -1.23943E-09 -2.91221E-11
16 3.64226E-01 -5.21326E-05 1.01929E-07 -2.45782E-08 1.27704E-10
17 0.00000E+00 5.94777E-05 1.47185E-07 -2.88838E-08 1.88672E-10
23 0.00000E+00 -4.62462E-05 -1.79184E-06 1.26354E-07 -2.51593E-09
24 1.61135E+00 -9.11952E-05 -3.15487E-06 1.71972E-07 -5.62861E-09
25 -8.27837E+00 1.20295E-04 -6.69060E-07 1.03799E-07 -4.31101E-09
28 0.00000E+00 5.54748E-05 -1.56757E-06 4.30038E-08 -6.18084E-10
29 0.00000E+00 1.98970E-05 2.57704E-07 -3.68079E-08 -8.03780E-09
30 0.00000E+00 -2.33972E-05 -2.80345E-07 -6.81682E-09 -9.77628E-09
【0089】
(各レンズ群の焦点距離)
群 面NO. 焦点距離
G1 1- 7 44.0063
G2 8-14 -7.1353
G3 16-20 13.2017
G4 21-23 -12.2357
G5 24-28 13.2545
G6 29-30 -33.8282
広角端から望遠端の変倍の際、光軸に沿って、第2レンズ群G2が物体側から像面側へ移動し、第4レンズ群G4が像側に凸軌跡で像側へ移動し、第5レンズ群G5が物体側から像側へ移動する。また、第1レンズ群G1と、第3レンズ群G3と第6レンズ群G6は、像面IMGに対して固定である。