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特開2023-130690音処理システムおよび該音処理システムの音処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130690
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】音処理システムおよび該音処理システムの音処理方法
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20230913BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G10H1/00 C
G10H1/00 Z
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035131
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 善政
(72)【発明者】
【氏名】青木 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】須山 明彦
【テーマコード(参考)】
5D220
5D478
【Fターム(参考)】
5D220AA11
5D220AB00
5D220DD03
5D220DD05
5D478DE00
5D478HH14
5D478LL00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電子楽器のエフェクト処理では実現できない豊かなエフェクト音を利用者に提供する。
【解決手段】音処理システム1は、電子ピアノ10及び電子ピアノに接続されるレシーバ11からなる。電子ピアノは、利用者の演奏に応じて音信号を生成する音信号生成部と、音信号に第1エフェクト処理を施した音信号に基づいて第1演奏音成分を放音する第1放音部と、音信号を外部に出力する第1音信号出力部と、を備える。レシーバは、第1音信号出力部から出力された音信号を受け付ける第1音信号受付部と、第1音信号受付部で受け付けた音信号に第2エフェクト処理を施し、直接音成分を除く第2信号処理部と、第2信号処理部で第2エフェクト処理を施し、直接音成分を除いた音信号に基づいて第2演奏音成分を放音する第2放音部と、を備える。第1信号処理部は、第1音信号出力部から音信号を外部に出力する場合と出力しない場合で、第1エフェクト処理を変更する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子楽器および該電子楽器に接続される音処理装置からなる音処理システムであって、
前記電子楽器は、
利用者の演奏に応じて音信号を生成する音信号生成部と、
前記音信号に第1エフェクト処理を施す第1信号処理部と、
前記第1信号処理部で前記第1エフェクト処理を施した音信号に基づいて第1演奏音成分を放音する第1放音部と、
前記音信号を外部に出力する第1音信号出力部と、
を備え、
前記音処理装置は、
前記第1音信号出力部から出力された前記音信号を受け付ける第1音信号受付部と、
前記第1音信号受付部で受け付けた音信号に第2エフェクト処理を施し、直接音成分を除く第2信号処理部と、
前記第2信号処理部で前記第2エフェクト処理を施し、前記直接音成分を除いた音信号に基づいて第2演奏音成分を放音する第2放音部と、
を備え、
前記第1信号処理部は、前記第1音信号出力部から前記音信号を外部に出力する場合と出力しない場合で、前記第1エフェクト処理を変更する、
音処理システム。
【請求項2】
前記第1エフェクト処理および前記第2エフェクト処理は、リバーブ成分を付加するリバーブ処理を含む、
請求項1に記載の音処理システム。
【請求項3】
前記第1信号処理部は、前記第1音信号出力部から前記音信号を外部に出力する場合に、前記リバーブ成分を低減する、
請求項2に記載の音処理システム。
【請求項4】
前記音処理装置は、前記第2エフェクト処理を施した後の音信号を外部に出力する第2音信号出力部を備え、
前記電子楽器は、前記第2音信号出力部から出力された音信号を受け付ける第2音信号受付部を備え、
前記第1放音部は、第2音信号受付部で受け付けた音信号に基づいて前記第2演奏音成分を放音する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の音処理システム。
【請求項5】
前記電子楽器および前記音処理装置は、ネットワークを介して接続される、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の音処理システム。
【請求項6】
前記第2放音部は、複数のスピーカを含み、
前記複数のスピーカに分配して前記第2演奏音成分を放音する、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の音処理システム。
【請求項7】
前記電子楽器は鍵盤楽器である、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の音処理システム。
【請求項8】
前記第1信号処理部は、前記音処理装置との接続を検知した時、前記第1エフェクト処理を変更する、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の音処理システム。
【請求項9】
前記電子楽器は、前記音処理装置の前記第2エフェクト処理のパラメータを変更するための操作子を備える、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の音処理システム。
【請求項10】
電子楽器および該電子楽器に接続される音処理装置からなる音処理システムの音処理方法であって、
前記電子楽器は、
利用者の演奏に応じて音信号を生成し、
前記音信号に第1エフェクト処理を施す第1信号処理を行い、
前記第1エフェクト処理を施した音信号に基づいて第1演奏音成分を放音し、
前記音信号を外部に出力し、
前記音処理装置は、
前記電子楽器から出力された前記音信号を受け付け、
受け付けた音信号に第2エフェクト処理を施し、直接音成分を除く第2信号処理を行い、
前記第2エフェクト処理を施し、前記直接音成分を除いた音信号に基づいて第2演奏音成分を放音し、
前記第1信号処理は、前記電子楽器が前記音信号を外部に出力する場合と出力しない場合で、前記第1エフェクト処理を変更する、
音処理方法。
【請求項11】
前記第1エフェクト処理および前記第2エフェクト処理は、リバーブ成分を付加するリバーブ処理を含む、
請求項10に記載の音処理方法。
【請求項12】
前記第1信号処理は、前記電子楽器が前記音信号を外部に出力する場合に、前記リバーブ成分を低減する、
請求項11に記載の音処理方法。
【請求項13】
前記音処理装置は、前記第2エフェクト処理を施した後の音信号を外部に出力し、
前記電子楽器は、前記音処理装置から出力された音信号を受け付け、
前記電子楽器は、前記音処理装置から受け付けた音信号に基づいて前記第2演奏音成分を放音する、
請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載の音処理方法。
【請求項14】
前記電子楽器および前記音処理装置は、ネットワークを介して接続される、
請求項10乃至請求項13のいずれか1項に記載の音処理方法。
【請求項15】
音処理装置は、複数のスピーカを備え、
前記複数のスピーカに分配して前記第2演奏音成分を放音する、
請求項10乃至請求項14のいずれか1項に記載の音処理方法。
【請求項16】
前記電子楽器は鍵盤楽器である、
請求項10乃至請求項15のいずれか1項に記載の音処理方法。
【請求項17】
前記第1信号処理は、前記音処理装置との接続を検知した時、前記第1エフェクト処理を変更する、
請求項10乃至請求項16のいずれか1項に記載の音処理方法。
【請求項18】
前記電子楽器は、前記音処理装置の前記第2エフェクト処理のパラメータを変更するための操作子を備える、
請求項10乃至請求項17のいずれか1項に記載の音処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、音処理システムおよび該音処理システムの音処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ユーザの演奏に応じて発音する第1の楽器と、第1の楽器から演奏データを受信して発音する第2の楽器と、を用いるシステムが開示されている。
【0003】
特許文献2には、サラウンドスピーカを接続してリバーブ成分を出力する電子鍵盤楽器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-132695号公報
【特許文献2】特開2017-181686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシステムは、エフェクト処理に関する記載はない。
【0006】
特許文献2のシステムは、電子楽器でエフェクト処理を行うため、電子楽器のエフェクト処理による音を提供するだけである。
【0007】
本開示のひとつの態様は、電子楽器のエフェクト処理では実現できない豊かなエフェクト音を利用者に提供することができる音処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る音処理システムは、電子楽器および該電子楽器に接続される音処理装置からなる。前記電子楽器は、利用者の演奏に応じて音信号を生成する音信号生成部と、前記音信号に第1エフェクト処理を施す第1信号処理部と、前記第1信号処理部で前記第1エフェクト処理を施した音信号に基づいて第1演奏音成分を放音する第1放音部と、前記音信号を外部に出力する第1音信号出力部と、を備える。前記音処理装置は、前記第1音信号出力部から出力された前記音信号を受け付ける第1音信号受付部と、前記第1音信号受付部で受け付けた音信号に第2エフェクト処理を施し、直接音成分を除く第2信号処理部と、前記第2信号処理部で前記第2エフェクト処理を施し、前記直接音成分を除いた音信号に基づいて第2演奏音成分を放音する第2放音部と、を備える。前記第1信号処理部は、前記第1音信号出力部から前記音信号を外部に出力する場合と出力しない場合で、前記第1エフェクト処理を変更する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、電子楽器のエフェクト処理では実現できない豊かなエフェクト音を利用者に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】音処理システム1の構成を示す図である。
図2】電子ピアノ10の構成を示すブロック図である。
図3】電子ピアノ10の動作を示すフローチャートである。
図4】レシーバ11との接続を検出した場合の電子ピアノ10の動作を示すフローチャートである。
図5】レシーバ11の構成を示すブロック図である。
図6】レシーバ11の動作を示すフローチャートである。
図7】変形例1に係る音処理システム1の一例を示す外観図である。
図8】レシーバ11の動作を示すフローチャートである。
図9】電子ピアノ10の動作を示すフローチャートである。
図10】変形例3に係る電子ピアノ10の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、音処理システム1の一例を示す外観図である。音処理システム1は、電子ピアノ10およびレシーバ11を有する。レシーバ11には、複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)が接続されている。スピーカ12FLは利用者の前方左側に配置され、スピーカ12FRは利用者の前方右側に配置され、スピーカ12SLは利用者の後方左側に配置され、スピーカ12SLは利用者の後方左側に配置される。
【0012】
電子ピアノ10は、電子楽器の一例である。本実施形態では電子楽器の一例として電子ピアノ10を示すが、電子楽器は、他にも電子オルガンやシンセサイザー等の電子鍵盤楽器を含む。また、本発明の電子楽器は、鍵盤楽器に限らず、利用者の演奏に応じて音源を駆動し、音信号を生成する楽器を全て含む。
【0013】
レシーバ11は、本発明の音処理装置の一例である。音処理装置は、他にも例えばパーソナルコンピュータ、セットトップボックス、パワーアンプ、またはパワードスピーカ等であってもよい。本発明の音処理装置は、音信号にエフェクト処理を施すことが可能な装置を全て含む。
【0014】
電子ピアノ10およびレシーバ11は、Bluetooth(登録商標)または無線LAN等のネットワークを介して接続される。あるいは、電子ピアノ10およびレシーバ11は、HDMI(登録商標)、MIDI、LAN、USB、またはオーディオケーブル等の有線で接続されてもよい。
【0015】
図2は電子ピアノ10の構成を示すブロック図であり、図3は、電子ピアノ10の動作を示すフローチャートである。
【0016】
電子ピアノ10は、表示器100、ユーザインタフェース(I/F)101、鍵盤102、センサ103、フラッシュメモリ104、CPU105、RAM106、通信インタフェース(I/F)107、波形メモリ108、音源109、DSP110、D/A変換器111、アンプ112、およびスピーカ113を備えている。
【0017】
表示器100は、例えばLED、LCD(Liquid Crystal Display)またはOLED(Organic Light-Emitting Diode)等からなり、電子ピアノ10の状態等を表示する。
【0018】
ユーザI/F101は、摘まみ、スイッチ、ボタン、またはタッチパネル等からなり、利用者の操作を受け付ける。
【0019】
鍵盤102は、利用者の演奏操作(押鍵操作)を受け付ける。センサ103は、鍵盤102の動作を検出する。
【0020】
CPU105は、記憶媒体であるフラッシュメモリ104に記憶されている各種プログラムをRAM106に読み出して、電子ピアノ10を制御する。例えば、CPU105は、センサ103で検出した鍵盤102の動作に基づいて、音源109を駆動するための演奏情報を生成する。演奏情報は、ノートオン、ノートオフ、ベロシティ、あるいは音色を指定するための情報等を含む。
【0021】
音源109は、CPU105で生成した演奏情報に基づいて波形メモリ108から波形データを読み出し、音信号を生成する。これにより、音源109は、利用者の演奏に応じて音信号を生成する(S11)。
【0022】
DSP110は、本発明の第1信号処理部の一例であり、音源109の生成した音信号に第1エフェクト処理を施す(S12)。第1エフェクト処理は、音信号にリバーブ成分を付加するリバーブ処理を含む。リバーブ処理は、受け付けた音信号に所定の遅延時間を付与し、レベル調整した擬似反射音を生成することで、ある部屋の響き(反射音)を模擬する処理である。
【0023】
DSP110は、第1エフェクト処理を施した後の音信号をD/A変換器111に出力する。
【0024】
D/A変換器111は、DSP110から受け付けたデジタルの音信号をアナログの音信号に変換する。アンプ112は、当該アナログの音信号を増幅する。
【0025】
スピーカ113は、本発明の第1放音部に対応し、アンプ112で増幅されたアナログの音信号に基づいて、演奏音を出力する(S13)。つまり、スピーカ113は、音源109の生成した音信号(直接音の音信号)を含む第1演奏音成分を放音する。
【0026】
この様にして、電子ピアノ10は、利用者の演奏に応じた演奏音を出力する。
【0027】
そして、電子ピアノ10は、レシーバ11との接続を検出した場合に以下の様な動作を行う。図4は、レシーバ11との接続を検出した場合の電子ピアノ10の動作を示すフローチャートである。
【0028】
CPU105は、レシーバ11との接続を検出した場合、通信I/F107を介して、音源109の生成した音信号を外部に出力する(S21)。通信I/F107は、本発明の第1音信号出力部の一例であり、音源109の生成した音信号を外部に出力する。
【0029】
DSP110は、通信I/F107から音信号を外部に出力する場合に、リバーブ成分を低減する(S22)。例えば、DSP110は、リバーブ成分のレベルを低減してもよいし、リバーブの持続時間を短くすることでリバーブ成分を低減してもよい。あるいは、DSP110は、リバーブ処理をオフすることで、リバーブ成分を低減してもよい。
【0030】
DSP110は、リバーブ成分を低減した音信号をD/A変換器111、アンプ112を介してスピーカ113に出力する。スピーカ113は、リバーブ成分を低減した音信号に基づいて、演奏音を出力する(S23)。つまり、スピーカ113は、リバーブ成分を低減した第1演奏音成分を放音する。DSP110がリバーブ処理をオフにした場合、スピーカ113は、音源109の生成した音信号(直接音の音信号)の第1演奏音成分のみ放音する。
【0031】
図5は、レシーバ11の構成を示すブロック図であり、図6は、レシーバ11の動作を示すフローチャートである。
【0032】
レシーバ11は、表示器201、ユーザI/F202、フラッシュメモリ203、CPU204、RAM205、DSP206、通信I/F207、D/A変換器208、アンプ209、およびオーディオインタフェース(I/F)210を備えている。
【0033】
表示器201は、例えばLED、LCDまたはOLED等からなり、種々の情報を表示する。
【0034】
ユーザI/F202は、摘まみ、スイッチ、ボタン、またはタッチパネル等からなり、利用者の操作を受け付ける。
【0035】
CPU204は、レシーバ11の動作を制御する制御部である。CPU204は、記憶媒体であるフラッシュメモリ203に記憶されたプログラムをRAM205に読み出して実行することにより各種の動作を行なう。
【0036】
通信I/F207は、本発明の第1音信号受付部に対応し、電子ピアノ10から音信号を受け付ける(S31)。
【0037】
DSP206は、本発明の第2信号処理部の一例であり、通信I/F207で受け付けた音信号に第2エフェクト処理を施す(S32)。第2エフェクト処理は、リバーブ成分を付加するリバーブ処理を含む。
【0038】
より具体的には、第2エフェクト処理におけるリバーブ処理は、特定のコンサートホール、ライブハウス、あるいは教会等の所定の音響空間の響きを再現する処理である。第2エフェクト処理におけるリバーブ処理は、予め実際のコンサートホール、ライブハウス、あるいは教会等において、ある位置(客席またはステージ等)に設置したマイクを用いて取得したインパルス応答を音信号に畳み込む処理である。
【0039】
第2エフェクト処理におけるリバーブ処理は、第1エフェクト処理におけるリバーブ処理よりも長い反射音を再現し、より実際のホールに近い響きを再現することができる。
【0040】
また、第2エフェクト処理におけるリバーブ処理は、複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)にリバーブ成分に係る音信号を分配することで、インパルス応答に対応する各反射音に定位を付加する処理を含む。例えば、スピーカ12FLおよびスピーカ12SLに同じ音量および同じタイミングで反射音の音信号を入力すると、利用者は、スピーカ12FLおよびスピーカ12SLの中間位置、つまり利用者の左側に反射音を知覚する。
【0041】
レシーバ11は、複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)の位置に基づいて、反射音が実際のホール等と同じ位置に定位する様に、複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)に音信号を分配する。複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)の位置は、例えば複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)からテスト音を出力し、利用者の位置に設置したマイクでテスト音を収音することで、検出できる。また、実際のホールにおける反射音の位置は、実際のホールに複数のマイクを設置してインパルス応答を測定することで取得できる。
【0042】
これにより、利用者は、利用者の望むホール等の音響空間と同じ様な位置から反射音が到来する様に知覚できる。
【0043】
フラッシュメモリ203は、複数の音響空間のインパルス応答を予め取得し、記憶している。利用者は、ユーザI/F202を介して、複数の音響空間(特定のコンサートホール、ライブハウス、あるいは教会等)から、所望の音響空間を選択することができる。あるいは、利用者は、電子ピアノ10のユーザI/F101を介して、所望の音響空間を選択してもよい。この場合、電子ピアノ10は、レシーバ11から複数の音響空間の名称を示す情報を取得し、表示器100に表示する。利用者は、表示された複数の音響空間から、所望の音響空間を選択する。電子ピアノ10は、選択された音響空間の名称を示す情報をレシーバ11に送信する。
【0044】
また、フラッシュメモリ203は、同じ音響空間であっても、空席の場合、満席の場合、等、聴取環境の異なる複数のインパルス応答を予め取得し、記憶しておいてもよい。この場合、利用者は、音響空間の名称と、聴取環境と、を選択してもよい。
【0045】
DSP206は、選択された音響空間のインパルス応答をフラッシュメモリ203から読み出して、通信I/F207で受け付けた音信号に畳み込む。DSP206は、第2エフェクト処理を施した後の音信号をD/A変換器208に出力する。
【0046】
D/A変換器208は、DSP206から受け付けたデジタルの音信号をアナログの音信号に変換する。アンプ209は、当該アナログの音信号を増幅する。
【0047】
オーディオI/F210は、スピーカ接続端子を含み、アンプ209で増幅された音信号を複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)に出力する。オーディオI/F210および複数のスピーカは、本発明の第2放音部に対応する。スピーカ12FL,12FR,12SL,12SRは、それぞれオーディオI/F210から供給される音信号に基づいて、演奏音を出力する(S33)。つまり、オーディオI/F210および複数のスピーカは、第2エフェクト処理が施され、かつ直接音成分が除かれた音信号に基づいて第2演奏音成分を放音する。
【0048】
第1演奏音成分は、リバーブ成分が低減された音であり、第2演奏音成分は、レシーバ11によりリバーブ成分が付加され、かつ直接音成分が除かれた音である。
【0049】
これにより、音処理システム1は、電子楽器の第1エフェクト処理では実現できない豊かなエフェクト音を利用者に提供することができる。より具体的には、レシーバ11は、予め実際のホール等の音響空間において取得したインパルス応答を用いてリバーブ処理を行う。また、レシーバ11は、複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)を用いて、反射音の定位感も再現する。したがって、レシーバ11は、電子ピアノ10の第1エフェクト処理より、実際の音響空間の響きに近い反射音を再現することができる。
【0050】
これにより、利用者は、あたかも実在のホール等の音響空間で演奏をしているように知覚することができる。また、利用者は、ユーザI/F202を介して、特定のコンサートホール、ライブハウス、あるいは教会等の仮想の音響空間から、好みの仮想の音響空間を選択することができる。これにより、音処理システム1は、電子楽器を用いた演奏において、利用者の好みの仮想の音響空間が実空間に存在し、利用者の好みの仮想の音響空間で利用者が演奏しているかのように利用者に体験させることができる。
【0051】
また、複数のスピーカ(スピーカ12FL,12FR,12SL,12SR)で放音される第2演奏音成分は、直接音成分を除いた音である。直接音成分は、電子ピアノ10のスピーカ113のみから出力される。したがって、直接音成分は電子ピアノ10と異なる位置では放音されず、演奏に違和感を与えることもない。
【0052】
(変形例1)
図7は、変形例1に係る音処理システム1の一例を示す外観図である。図8は、レシーバ11の動作を示すフローチャートであり、図9は電子ピアノ10の動作を示すフローチャートである。
【0053】
変形例1の音処理システム1のレシーバ11は、複数のスピーカとして、自装置に接続されているスピーカ12FL,12FR,12SL,12SRに加えて、電子ピアノ10のスピーカ113からも第2演奏音成分を放音する。
【0054】
図8に示す様に、レシーバ11は、第2エフェクト処理を施した後の音信号を通信I/F207を介して電子ピアノ10に送信する(S303)。この場合、通信I/F207は、本発明の第2音信号出力部に対応する。
【0055】
レシーバ11は、スピーカ113からテスト音を出力し、利用者の位置に設置したマイクでテスト音を収音することで、スピーカ113の位置を検出できる。レシーバ11は、スピーカ113、スピーカ12FL,12FR,12SL,12SRのそれぞれの位置に基づいて、反射音が実際のホール等と同じ位置に定位する様に、これらのスピーカに音信号を分配する。スピーカ113に分配する音信号は、上記の様に通信I/F207を介して電子ピアノ10に送信される。
【0056】
図9に示す様に、電子ピアノ10は、通信I/F107を介してレシーバ11から音信号を受信する(S201)。この場合、通信I/F107は、本発明の第2音信号受付部に対応する。電子ピアノ10は、受信した音信号に基づいて、スピーカ113から第2演奏音成分を放音する(S202)。
【0057】
これにより、変形例1に係る音処理システム1は、さらに電子ピアノ10のスピーカ113を用いて第2演奏音成分を放音する。これにより、音処理システム1は、より豊かな響きを再現することができる。
【0058】
(変形例2)
上記実施形態では、電子ピアノ10は、レシーバ11との接続を検出した場合に音信号をレシーバ11に送信し、レシーバ11で第2演奏音成分を放音する例を示した。これに対して、変形例2の電子ピアノ10は、ユーザI/F101で利用者の操作を受け付けた場合に、音信号をレシーバ11に送信し、レシーバ11で第2演奏音成分を放音してもよい。例えば、ユーザI/F101は「外部リバーブ」と表示されたスイッチを有する。利用者が「外部リバーブ」のスイッチをオンにすると、電子ピアノ10は音信号をレシーバ11に送信し、レシーバ11で第2演奏音成分を放音する。
【0059】
また、ユーザI/F101は、「リバーブレベル」と表示された摘まみなどの操作子を有してもよい。例えば、利用者は、5段階の「リバーブレベル」を設定することができる。利用者が「リバーブレベル」を1~4のいずれかに設定した場合には、電子ピアノ10は、第1エフェクト処理のリバーブ処理を行い、音信号をレシーバ11に送信しない。一方、利用者が「リバーブレベル」を最大の5に設定した場合、電子ピアノ10は音信号をレシーバ11に送信し、レシーバ11で第2演奏音成分を放音する。
【0060】
(変形例3)
図10は、変形例3に係る電子ピアノ10の構成を示すブロック図である。変形例2に係る電子ピアノ10は、さらにペダル114を備えている。
【0061】
ペダル114は、本発明の操作子の一例であり、第2エフェクト処理のパラメータを変更するための操作子の一例である。電子ピアノ10は、ペダル114の踏み込み量を検出し、踏み込み量を示す情報をレシーバ11に送信する。レシーバ11は、踏み込み量を示す情報を受信し、受信した踏み込み量を示す情報に応じて、第2エフェクト処理のパラメータを変更する。
【0062】
例えば、レシーバ11は、踏み込み量が大きいほど残響時間の長いリバーブ成分を付加する。これにより、利用者は、ペダルの踏み込み量に応じて、第2エフェクト処理のパラメータを変更することができる。つまり、利用者は、演奏を行い、演奏音を聴きながら響きの強さを調整することができる。
【0063】
なお、電子ピアノ10は、踏み込み量が所定値以下の場合に第1エフェクト処理のリバーブ処理を行い、音信号をレシーバ11に送信しないで、踏み込み量が所定値を超えた場合に電子ピアノ10は音信号をレシーバ11に送信し、レシーバ11で第2演奏音成分を放音するようにしてもよい。
【0064】
(変形例4)
変形例4の電子ピアノ10またはレシーバ11は、ステージモードおよび客席モードの指定を受け付ける。ステージモードとは、予め実際のホール等の音響空間において、ステージ上にマイクを設置して取得したインパルス応答を用いてリバーブ処理を行うモードである。客席モードとは、予め実際のホール等の音響空間において、客席にマイクを設置して取得したインパルス応答を用いてリバーブ処理を行うモードである。
【0065】
フラッシュメモリ203は、同じ音響空間であっても、ステージ上で取得したインパルス応答と、客席で取得したインパルス応答と、をそれぞれ予め取得し、記憶している。
【0066】
利用者は、電子ピアノ10のユーザI/F101、またはレシーバ11のユーザI/F202を介してステージモードまたは客席モードを指定する。レシーバ11は、ステージモードを受け付けた場合、フラッシュメモリ203からステージ上のマイクで取得したインパルス応答を読み出して、第2エフェクト処理を行う。レシーバ11は、客席モードを受け付けた場合、フラッシュメモリ203から客席のマイクで取得したインパルス応答を読み出して、第2エフェクト処理を行う。
【0067】
これにより、利用者は、あたかも実在のホールのステージ上で演奏をしているように知覚することもできるし、客席で演奏を聴いているように知覚することもできる。
【0068】
なお、ステージモードは、さらに電子ピアノ10から見て右側が客席になる第1ステージモード、左側が客席になる第2ステージモードを含んでいてもよい。レシーバ11は、第1ステージモードと第2ステージモードで、複数のスピーカに分配する音信号を左右で反転する。
【0069】
これにより、利用者は、あたかも実在のホールのステージ上で客席を右側にして演奏をしているように知覚することもできるし、客席を左側にして演奏をしているように知覚することもできる。
【0070】
(変形例5)
上記実施形態では、第2演奏音成分は、レシーバ11によりリバーブ成分が付加され、かつ直接音成分が除かれた音であった。しかし、レシーバ11は、受信した音信号から全ての直接音成分を除く必要はない。第2演奏音成分は、直接音成分をわずかに含んでいてもよい。すなわち、レシーバ11で放音する第2演奏音成分は、リバーブ成分が主成分であればよい。
【0071】
(変形例6)
上記実施形態では、電子ピアノ10は、音信号を外部に出力する場合にリバーブ成分を低減する処理を行った。しかし、電子ピアノ10は、音信号を外部に出力する場合に、必ずしもリバーブ成分を低減する必要はない。電子ピアノ10は、音信号を外部に出力しない場合においてリバーブ処理を行わない場合、音信号を外部に出力する場合でもリバーブ処理を行わない状態を維持する。あるいは、電子ピアノ10で行うリバーブ処理の反射音が短い場合や反射音のレベルが低い場合、電子ピアノ10は、リバーブ成分を低減する必要はない。第1演奏音成分は、リバーブ成分をわずかに含んでいてもよい。すなわち、第1演奏音成分は、直接音が主成分であればよい。
【0072】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の範囲を含む。
【0073】
例えば、上記実施形態では、エフェクト処理の例としてリバーブ処理を示したが、エフェクト処理は、イコライザ、コーラス等の他のエフェクト処理であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 :音処理システム
10 :電子ピアノ
11 :レシーバ
12FL :スピーカ
12FR :スピーカ
12SL :スピーカ
12SR :スピーカ
100 :表示器
101 :ユーザI/F
102 :鍵盤
103 :センサ
104 :フラッシュメモリ
105 :CPU
106 :RAM
107 :通信I/F
108 :波形メモリ
109 :音源
110 :DSP
111 :D/A変換器
112 :アンプ
113 :スピーカ
114 :ペダル
201 :表示器
202 :ユーザI/F
203 :フラッシュメモリ
204 :CPU
205 :RAM
206 :DSP
207 :通信I/F
208 :D/A変換器
209 :アンプ
210 :オーディオI/F
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
図9
図10