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特開2023-130714電気化学セルの製造方法及び電気化学セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130714
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】電気化学セルの製造方法及び電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20230913BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/139
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/80 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035158
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】牧島 聖弥
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AA04
5H017BB13
5H017EE06
5H017HH01
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ03
5H029CJ02
5H029CJ13
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029HJ01
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA12
5H050GA02
5H050GA13
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、製造効率を高められる電気化学セルの製造方法及び電気化学セルを目的とする。
【解決手段】固体電解質層10と、固体電解質層10の一方の面10Aに位置する正極層20と、固体電解質層10の他方の面10Bに位置する負極層30とを有する電気化学セルの製造方法において、正極活物質とバインダーとを含む正極スラリーを導電性シート22に含浸した含浸シートを、固体電解質層10の一方の面10Aに位置させ、次いで、前記含浸シート中の前記正極スラリーを固化して、正極層20とする工程を有する、電気化学セルの製造方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルの製造方法において、
正極活物質とバインダーとを含む正極スラリーを導電性シートに含浸した含浸シートを、前記固体電解質層の一方の面に位置させ、次いで、前記含浸シート中の前記正極スラリーを固化して、前記正極層とする工程を有する、電気化学セルの製造方法。
【請求項2】
前記含浸シートにおける前記正極スラリーの含浸量は、前記導電性シート100質量部に対して、30~95質量部である、請求項1に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項3】
前記含浸シートと前記固体電解質層との積層体を焼結して、前記含浸シート中の前記正極スラリーを固化して、前記正極層とする、請求項1又は2に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項4】
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電極体を含む電気化学セルにおいて、
前記正極層が導電性シートを含む、電気化学セル。
【請求項5】
2以上の前記電極体が積層された、請求項4に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの製造方法及び電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池の固体電解質層上に正極層を形成する方法として、正極スラリーを作製し、固体電解質層表面に塗布するスクリーン印刷法が知られている。
例えば、特許文献1には、活物質粒子及びバインダー樹脂からなる樹脂粒子を、スクリーン印刷法により、電極基板の基板主面上に堆積させて、活物質層(正極層)を形成する電極板の製造方法が提案されている。特許文献1の発明によれば、活物質層における活物質粒子同士の結着力を向上させることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/067440号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリーン印刷法においては、正極スラリーをマスクするメッシュが用いられる。スクリーン印刷法で固体電解質層上に正極層を形成する場合、印刷の際にメッシュに正極スラリーが付着し、正極スラリーの損失が生じる。加えて、スクリーン印刷法の場合、固体電解質層の形状や厚さに応じて印刷機の位置や形状をデザインする必要があり、全固体電池の製造に手間がかかる(製造効率が低い)。
【0005】
そこで、本発明は、製造効率を高められる電気化学セルの製造方法及び電気化学セルを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
本発明に係る電気化学セルの製造方法は、固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電気化学セルの製造方法において、正極活物質とバインダーとを含む正極スラリーを導電性シートに含浸した含浸シートを、前記固体電解質層の一方の面に位置させ、次いで、前記含浸シート中の前記正極スラリーを固化して、前記正極層とする工程を有する。
【0007】
この構成によれば、正極スラリーの損失を低減できる。加えて、固体電解質層の形状や厚さに応じて導電性シートの形状を変えることができる。このため、スクリーン印刷法で用いられる印刷機の位置や形状をデザインする必要が無く、製造効率を高められる。
【0008】
また、前記含浸シートにおける前記正極スラリーの含浸量は、前記導電性シート100質量部に対して、30~95質量部であってもよい。
この構成によれば、正極層の形状や厚さを簡便に調整でき、製造効率をより高められる。
【0009】
また、前記含浸シートと前記固体電解質層との積層体を焼結して、前記含浸シート中の前記正極スラリーを固化して、前記正極層としてもよい。
この構成によれば、正極層をより容易に形成でき、製造効率をより高められる。
【0010】
本発明に係る電気化学セルは、固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する電極体を含む電気化学セルにおいて、前記正極層が導電性シートを含む。
【0011】
この構成によれば、正極スラリーの損失を低減できる。加えて、固体電解質層の形状や厚さに応じて導電性シートの形状を変えることができる。このため、スクリーン印刷法で用いられる印刷機の位置や形状をデザインする必要が無く、製造効率を高められる。
また、正極層が導電性シートを含むため、正極層の導電率をより高められる。
【0012】
また、2以上の前記電極体が積層されていてもよい。
この構成によれば、製造効率に加えて、電池の出力をより高められる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電気化学セルの製造方法及び電気化学セルによれば、製造効率を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る電気化学セルの外観を示す斜視図である。
図2】同電気化学セルに収容する固体電解質層の一例を示す平面図である。
図3図2に示す固体電解質層に正極層を設けた状態を示す平面図である。
図4図3に示すIV-IV線断面図である。
図5】2以上の電極体の製造方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電気化学セルの実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態では、電気化学セルの一例として、コイン型の全固体電池(以下、単に「電池」ともいう。)を挙げ、この電池の構成について説明する。
なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し、表示している。
【0016】
≪電気化学セル≫
図1に示すように、本実施形態の電池(電気化学セル)1は、平面視円形状のボタン型の電池である。この電池1は、容器状の外装体2と外装体2の内部に収容された電極体とを備えている。
【0017】
外装体2は、ラミネートフィルムにより形成されている。ラミネートフィルムは、金属箔と内側面に設けられ金属箔を被覆する融着層と、外側面に設けられ金属箔を被覆する保護層とを有する。
金属箔は、例えば、アルミニウムやステンレス鋼等の外気や水蒸気を遮断する金属により形成されている。
融着層は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンや、2種類以上の樹脂を含むコポリマーから形成されている。
保護層は、例えば、上述のポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミドから形成されている。
【0018】
電極体は、固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に位置する正極層と、前記固体電解質層の他方の面に位置する負極層とを有する。
本実施形態の電極体3は、図4に示すように、固体電解質層10と、固体電解質層10の一方の面10Aに位置する正極層20と、固体電解質層10の他方の面10Bに位置する負極層30とを有し、正極層20が導電性シート22を含む。
【0019】
<固体電解質層>
固体電解質層10は、固体電解質を含む。
固体電解質としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。固体電解質としては、酸化物系固体電解質が挙げられる。
酸化物系固体電解質としては、例えば、Li1.5Al0.5Ge1.512(LAGP)、LiLaZr12(LLZ)、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(LATP)、Li10GeP12(LGPS)、Li3.5Ge0.50.5(LGVO)、LiTaPO(LTPO)、La0.57Li0.29TiO(LLTO)、LiBaLaTa12(LBLTO)、Li3.5Si0.50.5(LSPO)、Li6.25LaZrAl0.2512等が挙げられる。
これらの固体電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
固体電解質層10の厚さは、例えば、10~10000μmが好ましく、10~5000μmがより好ましく、10~1000μmがさらに好ましい。固体電解質層10の厚さが上記下限値以上であると、電気容量をより高められる。固体電解質層10の厚さが上記上限値以下であると、内部抵抗をより低減できる。
固体電解質層10の厚さは、例えば、電極体3を厚さ方向に切断した断面を顕微鏡等で観察することにより求められる。
【0021】
<正極層>
正極層20は、正極活物質と、導電性シート22とを含む。
正極活物質としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。正極活物質としては、例えば、一元系正極材、二元系正極材、三元系正極材等が挙げられる。
一元系正極材としては、例えば、LiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Al、Fe等の金属元素を表す)が挙げられる。
二元系正極材としては、例えば、Li1-xCoMnO(xは、0<x<1を満たす数)、LiFePO(xは、0<x≦1を満たす数)、Li13(xは、0<x≦1を満たす数)、Li1-xMn(xは、0<x<1を満たす数)、Li1-xNi0.5Mn1.5(xは、0<x<1を満たす数)等が挙げられる。
三元系正極材としては、例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3等が挙げられる。
これらの正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
導電性シート22としては、イオン伝導性及び電子伝導性の両方又はいずれか一方の性質を有していて、かつ、正極スラリーを含浸できるものであればよい。
導電性シート22としては、例えば、カーボンシート、カーボンナノチューブシート等が挙げられる。
導電性シート22としては、形状を容易に調整でき、正極層20の導電率をより高められることから、カーボンシートが好ましい。
【0023】
導電性シート22の厚さは、例えば、1~1000μmが好ましく、1~100μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましい。導電性シート22の厚さが上記下限値以上であると、後述する含浸量をより高められる。導電性シート22の厚さが上記上限値以下であると、内部抵抗をより低減できる。
導電性シート22の厚さは、例えば、電極体3を厚さ方向に切断した断面を顕微鏡等で観察することにより求められる。
【0024】
正極層20の厚さは、例えば、10~1000μmが好ましく、10~200μmがより好ましく、10~30μmがさらに好ましい。正極層20の厚さが上記下限値以上であると、電気容量をより高められる。正極層20の厚さが上記上限値以下であると、内部抵抗をより低減できる。
正極層20の厚さは、例えば、電極体3を厚さ方向に切断した断面を顕微鏡等で観察することにより求められる。
【0025】
<負極層>
負極層30は、負極活物質を含む。負極活物質としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。
負極活物質としては、例えば、金属リチウム、LiTi12(LTO)、黒鉛、Li15Si等のSi系化合物等が挙げられる。
負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
負極層30の厚さは、例えば、1~500μmが好ましく、1~200μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましい。負極層30の厚さが上記下限値以上であると、電気容量をより高められる。負極層30の厚さが上記上限値以下であると、内部抵抗をより低減できる。
負極層30の厚さは、例えば、電極体3を厚さ方向に切断した断面を顕微鏡等で観察することにより求められる。
【0027】
≪電気化学セルの製造方法≫
本発明の電気化学セルの製造方法は、正極活物質とバインダーとを含む正極スラリーを導電性シートに含浸した含浸シートを、前記固体電解質層の一方の面に位置させ、次いで、前記含浸シート中の前記正極スラリーを固化して、前記正極層とする工程を有する。
以下に、本実施形態の電気化学セルの製造方法について、図面を参照して、詳細に説明する。
【0028】
図2に示すように、平面視円形の固体電解質層10を用意する。
固体電解質層10を製造するには、固体電解質と、バインダーと、必要に応じて溶媒、分散剤、可塑剤等とを混合して電解質スラリーを調製する。この電解質スラリーをシート成型法等でキャリアフィルム表面に必要厚さ塗工し、この塗工物をキャリアフィルムから剥がして、電気炉等で焼成し、固体電解質層10とする。
【0029】
電解質スラリーに用いられる固体電解質としては、上述した固体電解質層10に含まれる固体電解質が挙げられる。
電解質スラリーに用いられるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂、ポリイミド、ケイ酸系無機バインダーもしくはリン酸塩系無機バインダー等の無機系バインダー等が挙げられる。
電解質スラリーに用いられる溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、水等が挙げられる。
アルコール類としては、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール等が挙げられる。
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル等が挙げられる。
電解質スラリーに用いられる分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系、アルキルスルホン酸系、アルキルポリアミン系等の各種化合物が挙げられる。
電解質スラリーに用いられる可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジイソノニル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル等が挙げられる。
【0030】
電解質スラリーにおける固体電解質の含有量は、電解質スラリーの総質量に対して、例えば、40~80質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましく、60~80質量%がさらに好ましい。固体電解質の含有量が上記下限値以上であると、内部抵抗をより低減できる。固体電解質の含有量が上記上限値以下であると、電解質スラリーの粘度を低減でき、ハンドリング性をより高められる。
【0031】
電解質スラリーにおけるバインダーの含有量は、電解質スラリーの総質量に対して、例えば、1~50質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましく、1~30質量%がさらに好ましい。バインダーの含有量が上記下限値以上であると、固体電解質層10の強度をより高められる。バインダーの含有量が上記上限値以下であると、内部抵抗をより低減できる。
【0032】
調製した電解質スラリーは、上述した固体電解質層10の厚さとなるように塗工することで、固体電解質層10の電気容量をより高められ、かつ、固体電解質層10の内部抵抗をより低減できる。
【0033】
キャリアフィルムとしては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等のフィルムが挙げられる。
【0034】
焼成の雰囲気は、酸素欠損を抑える為、酸素を含む雰囲気が好ましく、水分の影響が懸念される場合は、ドライ雰囲気を選択することがさらに好ましい。焼成の際、固体電解質シートのゆがみを抑える為、セラミック板(AlやMgO等からなる)やグラファイト板等で挟むことが好ましい。セラミック板との反応や、Liの揮発を抑える為に、固体電解質と同じ材料や、Liを含有する酸化物等をシート化したものをセラミック板との間に挿入してもよい。
【0035】
焼成の温度は、例えば、100~1500℃が好ましく、300~1350℃がより好ましく、500~1200℃がさらに好ましい。焼成の温度が上記下限値以上であると、固体電解質層10の強度をより高められる。焼成の温度が上記上限値以下であると、焼成に要するエネルギーを低減できる。
【0036】
焼成の時間は、例えば、15~30時間が好ましく、18~27時間がより好ましく、20~24時間がさらに好ましい。焼成の時間が上記下限値以上であると、固体電解質層10の強度をより高められる。焼成の時間が上記上限値以下であると、固体電解質層10の生産性をより高められる。
なお、固体電解質層10は、上述したようなキャリアフィルムへ電解質スラリーを塗工してから焼成する方法の他に、それぞれ粉体状の固体電解質とバインダーとを混合してなる合剤をプレス成形した後、上述の条件で焼成する方法により作製してもよい。この場合、固体電解質層10を、例えば、シート状、板状、もしくはペレット状といった各種形状とすることができる。
【0037】
次に、得られた固体電解質層10の他方の面10Bに負極層30を形成する。
負極層30の形成には、ホットプレスによる熱圧着法や、スパッタ等の成膜法が利用できる。熱圧着法や、固体電解質層10に成膜法で金属(In、Cu、Al、Au等)を成膜し、リチウムと合金化反応することにより、固体電解質層10の他方の面10Bに負極層30を形成することができる。
なお、負極層30の形成は、後述する固化工程の後に行ってもよい。
【0038】
次に、正極活物質とバインダーとを含む正極スラリーを調製する(調製工程)。
調製工程では、正極活物質と、バインダーと、必要に応じて溶媒、分散剤、可塑剤等とを混合して正極スラリーを調製する。
正極スラリーに用いられる正極活物質としては、正極層20に含まれる正極活物質が挙げられる。
正極スラリーに用いられるバインダーとしては、電解質スラリーに用いられるバインダーと同様の樹脂が挙げられる。
正極スラリーに用いられる溶媒としては、電解質スラリーに用いられる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
正極スラリーに用いられる分散剤としては、電解質スラリーに用いられる分散剤と同様の分散剤が挙げられる。
正極スラリーに用いられる可塑剤としては、電解質スラリーに用いられる可塑剤と同様の分散剤が挙げられる。
【0039】
正極スラリーにおける正極活物質の含有量は、正極スラリーの総質量に対して、例えば、10~90質量%が好ましく、15~60質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。正極活物質の含有量が上記下限値以上であると、電気容量をより高められる。正極活物質の含有量が上記上限値以下であると、正極スラリーの粘度を低減でき、ハンドリング性をより高められる。
【0040】
正極スラリーにおけるバインダーの含有量は、正極スラリーの総質量に対して、例えば、5~80質量%が好ましく、12~65質量%がより好ましく、25~45質量%がさらに好ましい。バインダーの含有量が上記下限値以上であると、固体電解質層10と正極スラリーとの接合性をより高められる。バインダーの含有量が上記上限値以下であると、正極層20の電気特性をより高められる。
【0041】
正極スラリーは、固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質としては、上述した酸化物系固体電解質が挙げられる。正極スラリーが固体電解質を含む場合、固体電解質の含有量は、正極スラリーの総質量に対して、例えば、10~90質量%が好ましく、15~60質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。固体電解質の含有量が上記下限値以上であると、内部抵抗をより低減できる。固体電解質の含有量が上記上限値以下であると、正極スラリーの粘度を低減でき、ハンドリング性をより高められる。
【0042】
正極スラリーの25℃における粘度は、例えば、1000~10000mPa・sが好ましく、3000~9000mPa・sがより好ましく、4000~8000mPa・sがさらに好ましい。正極スラリーの25℃における粘度が上記下限値以上であると、正極スラリーをより容易に固化できる。正極スラリーの25℃における粘度が上記上限値以下であると、導電性シート22に含浸させる正極スラリーの質量(含浸量)をより高められる。
正極スラリーの25℃における粘度は、例えば、測定対象を25℃に調整し、B型粘度計を用い、回転数2000rpmで、ローターの回転開始から60秒後の値を読み取ることによって求められる。
【0043】
次に、導電性シート22に正極スラリーを含浸させて、含浸シートを得る(含浸工程)。
導電性シート22に含浸させる正極スラリーの質量(含浸シートの含浸量)は、導電性シート100質量部に対して、例えば、30~95質量部が好ましく、50~95質量部がより好ましく、65~95質量部がさらに好ましい。含浸シートの含浸量が上記下限値以上であると、正極層20の電気特性をより高められる。含浸シートの含浸量が上記上限値以下であると、含浸シートの質量を低減でき、ハンドリング性をより高められる。
含浸シートの含浸量は、導電性シート22の種類、導電性シート22の厚さ、正極スラリーの種類、正極スラリーの粘度、後述する含浸温度、後述する含浸時間及びこれらの組合せにより調節できる。
【0044】
導電性シート22に正極スラリーを含浸させる温度(含浸温度)は、例えば、25~200℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、70~100℃がさらに好ましい。含浸温度が上記下限値以上であると、含浸量をより高められる。含浸温度が上記上限値以下であると、導電性シート22の変質を抑制できる。
【0045】
導電性シート22に正極スラリーを含浸させる時間(含浸時間)は、例えば、10秒間以上が好ましく、1分間以上がより好ましく、5分間以上がさらに好ましい。含浸時間が上記下限値以上であると、含浸量をより高められる。また、含浸時間は、例えば、1時間以下が好ましく、30分間以下がより好ましく、10分間以下がさらに好ましい。含浸時間が上記上限値以下であると、正極層20の生産性をより高められる。
【0046】
次に、含浸シートを、固体電解質層10の一方の面10Aに位置させ、含浸シート中の正極スラリーを固化して、正極層20とする(固化工程)。本実施形態の電気化学セルの製造方法は、固化工程を有することで、正極スラリーに含まれるバインダーが固体電解質層10と導電性シート22とを接合し、固体電解質層10の一方の面10Aに位置する正極層20を形成できる。
含浸シート中の正極スラリーを固化する方法としては、例えば、含浸シートと固体電解質層10との積層体を焼結する方法(焼結法)、含浸シートと固体電解質層10との積層体を圧着する方法(圧着法)、含浸シートと固体電解質層10とを接着剤等を用いて接着し、乾燥する方法(接着法)等が挙げられる。
含浸シート中の正極スラリーを固化する方法としては、製造効率が高く、固体電解質層10と正極スラリーとの接合性をより高められ、接触抵抗を低減できることから、焼結する方法が好ましい。
【0047】
焼結法において、焼結する際の温度(焼結温度)は、例えば、100~1500℃が好ましく、300~1350℃がより好ましく、500~1200℃がさらに好ましい。焼結温度が上記下限値以上であると、接触抵抗をより低減できる。焼結温度が上記上限値以下であると、導電性シート22の変質を抑制できる。
【0048】
焼結する際の時間(焼結時間)は、例えば、1~30時間が好ましく、10~27時間がより好ましく、20~24時間がさらに好ましい。焼結時間が上記下限値以上であると、接触抵抗をより低減できる。焼結時間が上記上限値以下であると、電極体3の生産性をより高められる。
焼結する際の雰囲気は、導電性シート22を構成する炭素への影響、具体的には酸化や燃焼といった影響を抑えるため、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気、もしくは真空が好ましい。
【0049】
圧着法において、圧着する際の圧力(圧着圧力)は、例えば、10~5000MPaが好ましく、50~1000MPaがより好ましく、100~600MPaがさらに好ましい。圧着圧力が上記下限値以上であると、接触抵抗をより低減できる。圧着圧力が上記上限値以下であると、固体電解質層10の崩壊を抑制できる。
【0050】
圧着する際の時間(圧着時間)は、例えば、0.5~20時間が好ましく、1~10時間がより好ましく、1~7時間がさらに好ましい。圧着時間が上記下限値以上であると、接触抵抗をより低減できる。圧着時間が上記上限値以下であると、電極体3の生産性をより高められる。
【0051】
接着法において、接着剤としては、従来公知の接着剤を利用できる。接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤等が挙げられる。
また、接着剤としては、金属粉等の導電性物質を添加して、導電性を高めた接着剤を利用してもよい。
【0052】
乾燥する際の温度(乾燥温度)は、例えば、120~500℃が好ましく、160~400℃がより好ましく、200~300℃がさらに好ましい。乾燥温度が上記下限値以上であると、正極スラリーの固化をより促進できる。乾燥温度が上記上限値以下であると、含浸シートと固体電解質層10との接合性をより高められる。
【0053】
乾燥する際の時間(乾燥時間)は、例えば、2~24時間が好ましく、2~15時間がより好ましく、2~6時間がさらに好ましい。乾燥時間が上記下限値以上であると、正極スラリーを充分に固化できる。乾燥時間が上記上限値以下であると、電極体3の生産性をより高められる。
【0054】
含浸シート中の正極スラリーを固化する方法においては、焼結法及び圧着法は、1種を単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。2種を併用することで、電極体3の製造効率をより高められる。
【0055】
固化工程を経ることにより、図3及び図4に示すような、固体電解質層10の一方の面10Aに正極層20が位置する電極体3が得られる。
【0056】
電気化学セルは、2以上の電極体を有していてもよい。電極体を2以上とすることで、全固体電池の電気容量をより高められる。
【0057】
電極体は、例えば、図5に示すように、固体電解質層10の一方の面に正極層20が位置する中間体4Aと、固体電解質層10の一方の面に負極層30が位置する中間体4Bとを順次積層することで得られる。
中間体4Aと中間体4Bとを順次積層し、焼結、圧着等することにより、2以上の中間体4Aと中間体4Bとが積層された電極体が得られる。ここで、正極層20は、導電性シート22を含む。
中間体の焼結、圧着は、中間体の数一つずつ行ってもよく、全ての中間体を一括して行ってもよい。
電気化学セルの製造効率をより高められることから、中間体の焼結、圧着は、全ての中間体を一括して行うことが好ましい。
また、例えば、図5に示すように、最も下に位置する中間体4Aの固体電解質層10の他方の面に、熱圧着法や成膜法を用いて負極層30を形成してもよい。これにより、電極体の一方の面に正極層20を配置し、他方の面に負極層30を配置することができる。
【0058】
本発明の電気化学セルは、正極層に導電性シートを含むため、正極層の導電率をより高められる。
本発明の電気化学セルの製造方法は、正極スラリーを導電性シートに含浸した含浸シートを用いて正極層としているため、正極スラリーの損失を低減できる。
本発明の電気化学セルの製造方法は、固体電解質層の形状や厚さに応じて導電性シートの形状を変えることができる。このため、スクリーン印刷法で用いられる印刷機の位置や形状をデザインする必要が無く、製造効率を高められる。
本発明の電気化学セルの製造方法は、簡便に固体電解質層上に正極層を形成できる。また、正極層の形状や厚さを容易に調節できる。このため、全固体電池を製造する際の作業性をより高めることができる。
本発明の電気化学セルの製造方法は、従来のスクリーン印刷機を必要としない。スクリーン印刷機は高価であるため、本発明の電気化学セルの製造方法は、コスト面でも優れる。
【0059】
以上、本発明の電気化学セル及び電気化学セルの製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、固体電解質層の形状は、平面視円形状ではなく、平面視多角形状であってもよい。
例えば、導電性シートは、正極層に1つではなく、2つ以上用いられてもよい。
例えば、導電性シートは、厚さ方向に垂直な方向(平面方向)に2つ以上に分断されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…電気化学セル、2…外装体、3…電極体、4A,4B…中間体、10…固体電解質層、20…正極層、22…導電性シート、30…負極層
図1
図2
図3
図4
図5