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特開2023-130736エアゾール組成物及びエアゾール製品並びに生分解性ポリマー薄膜の製造方法
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  • 特開-エアゾール組成物及びエアゾール製品並びに生分解性ポリマー薄膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130736
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】エアゾール組成物及びエアゾール製品並びに生分解性ポリマー薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/30 20060101AFI20230913BHJP
   A61K 8/85 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 8/33 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230913BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230913BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230913BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20230913BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230913BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20230913BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20230913BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C09K3/30 V
A61K8/85 ZBP
A61K8/33
A61K9/12
A61K47/08
A61K47/34
A61Q19/00
A61P17/00
A61L15/26 110
C09K3/30 R
C08L101/00
C08L67/04
C08K5/06
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035200
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】500407536
【氏名又は名称】学校法人城西大学
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(71)【出願人】
【識別番号】000222129
【氏名又は名称】東洋エアゾール工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野 朋美
(72)【発明者】
【氏名】岡村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】西片 百合
(72)【発明者】
【氏名】中島 康友
(72)【発明者】
【氏名】上條 北斗
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C083
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD39
4C076EE24H
4C076FF21
4C076FF68
4C081AA08
4C081AA12
4C081CA172
4C081CE02
4C081CE07
4C081DA16
4C081DC03
4C083AB082
4C083AB132
4C083AC012
4C083AC171
4C083AC172
4C083AC212
4C083AC812
4C083AD011
4C083AD012
4C083BB49
4C083CC02
4C083DD08
4C083EE11
4J002AB021
4J002AB031
4J002AB051
4J002AD011
4J002AD031
4J002CF031
4J002CF051
4J002CF181
4J002CF191
4J002CL021
4J002EC037
4J002EC047
4J002EC057
4J002EC067
4J002ED026
4J002EH037
4J002EH047
4J002EH097
4J002FD027
4J002FD206
4J002GB00
4J002GB01
4J002GH00
4J200AA04
4J200BA13
4J200BA14
4J200BA15
4J200BA19
4J200BA20
4J200BA29
4J200BA30
4J200BA37
4J200BA38
4J200DA22
4J200EA22
(57)【要約】
【課題】生分解性ポリマーの薄膜を高い生産性で容易に被処理対象に形成可能なエアゾール組成物。
【解決手段】ジメチルエーテルを含有する噴射剤、及び該ジメチルエーテルに溶解可能な生分解性ポリマーを含有することを特徴とするエアゾール組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルエーテルを含有する噴射剤、及び
該ジメチルエーテルに溶解可能な生分解性ポリマーを含有することを特徴とするエアゾール組成物。
【請求項2】
前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸を含む請求項1に記載のエアゾール組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸が、D体による構成単位及びL体による構成単位を含み、
前記ポリ乳酸における、モノマー成分換算でのD体比率が、2~50モル%であり、
前記ポリ乳酸における、モノマー成分換算でのL体比率が、50~98モル%である、請求項2に記載のエアゾール組成物。
【請求項4】
前記エアゾール組成物中の前記ジメチルエーテルの含有割合が、85.0~99.9質量%である請求項1~3のいずれか一項に記載のエアゾール組成物。
【請求項5】
前記エアゾール組成物中の前記生分解性ポリマーの含有割合が、0.1~15.0質量%である請求項1~4のいずれか一項に記載のエアゾール組成物。
【請求項6】
前記エアゾール組成物が、さらに前記生分解性ポリマーを可塑化する可塑剤を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載のエアゾール組成物。
【請求項7】
エアゾール組成物が充填された容器、及び
該容器に備えられ、該エアゾール組成物を吐出させる吐出機構
を有するエアゾール製品であって、
該エアゾール組成物が、請求項1~6のいずれか一項に記載のエアゾール組成物であるエアゾール製品。
【請求項8】
被処理対象に生分解性ポリマーの薄膜を形成する生分解性ポリマー薄膜の製造方法(ただし、医療行為を除く)であって、
請求項7に記載のエアゾール製品を準備する工程、及び
該エアゾール製品を該被処理対象に噴射して生分解性ポリマーの薄膜を形成する工程
を有する生分解性ポリマー薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアゾール組成物及びエアゾール製品並びに生分解性ポリマー薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生分解性ポリマーなど生体適合性樹脂が、縫合材料、医療用接着剤、人工臓器などに使用されている。また、人体に対して高い安全性、柔軟性、透明性、接着性をもつ生分解性ポリマーを用いた生体適合性薄膜の開発も進められている。例えば、特許文献1では、創傷被覆材などに使用しうるポリ乳酸系の樹脂を用いた生分解性ポリマーの積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/163289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1のような生分解性ポリマーを用いた生体適合性薄膜の製造には、通常、スピンコート法などが採用されている。スピンコート法では、ガラスやシリコン基板の上に、例えば、水溶性であるポリビニルアルコール(PVA)の水溶液を滴下後、基板を回転させることで、PVAの水溶性の犠牲層を成膜する。その犠牲層の上に、トルエン等の生分解性ポリマーを溶解し得る有機溶媒に生分解性ポリマーを溶解した溶液を滴下し、スピンコートして生分解性ポリマーの薄膜を形成している。基板の上に犠牲層、生分解性ポリマーの2つの層が形成されており、これを水に沈めることで犠牲層が溶解され、生分解性ポリマー薄膜が水中に浮遊した状態となる。この生分解性ポリマー薄膜を回収して生体適合性薄膜として人体などの被処理対象に適用している。
【0005】
しかし、スピンコート法で薄膜を製造するには、量産が困難であるなど生産性の観点からは課題を有している。また、生体適合性薄膜を人体などの被処理対象に適用する際に、あらかじめ被処理対象に水を塗布することが必要となるなど、生体適合性薄膜は、その適用の容易さという観点からも課題を有している。さらに、従来技術では、生分解性ポリマーが有機溶媒等の人体に有害な溶媒以外に溶解可能な溶媒を見出すこと困難であった。そのため、製造方法がスピンコート法による生分解性ポリマーの薄膜化に限定されており、生分解性ポリマー溶液を人体などに直接塗布して溶媒を揮発させて生分解性ポリマー薄膜を形成する技術に拡張することは困難であった。
【0006】
他の方法として、スピンコート法で生分解性ポリマーの超薄膜を作製し、この超薄膜を細断化して水などの溶液に含有させた分散液を人体などに塗布して細断化した超薄膜を積層させることで該当部に生分解性ポリマーの膜を形成する方法もある。しかし、細断化した超薄膜が積層しているため、膜厚にムラが生じ、期待した効果を発揮できない課題を有している。また、スプレーに細断化した超薄膜を含有した分散液を入れて噴射すると、細断化した超薄膜によってノズルが詰まりやすく、噴射による膜形成には適していないという課題を有している。
本開示は、人体などに噴射すると瞬時に揮発する溶媒(噴射剤)と、その溶媒に溶解する生分解性ポリマーの薄膜を高い生産性で容易に被処理対象に形成可能なエアゾール組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ジメチルエーテルを含有する噴射剤、及び該ジメチルエーテルに溶解可能な生分解性ポリマーを含有するエアゾール組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、人体などに噴射すると瞬時に揮発する溶媒(噴射剤)と、その溶媒に溶解する生分解性ポリマーの薄膜を高い生産性で容易に被処理対象に形成可能なエアゾール組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】走査電子顕微鏡による薄膜の形成状態を示す写真(図面代用写真)
図2】走査電子顕微鏡による薄膜の形成状態を示す写真(図面代用写真)
図3】走査電子顕微鏡による薄膜の形成状態を示す写真(図面代用写真)
図4】薄膜の形成状態を示す写真(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0010】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0011】
エアゾール組成物は、ジメチルエーテルを含有する噴射剤、及びジメチルエーテルに溶解可能な生分解性ポリマーを含有する。ジメチルエーテルを含有する噴射剤は、揮発性が高い。本発明者らは、ジメチルエーテルを含有する噴射剤を、ジメチルエーテルに溶解可能な生分解性ポリマーの溶媒とすることに着想した。
ジメチルエーテルを含有する噴射剤の高い揮発性により、エアゾール組成物を被処理対象に噴射することで、ジメチルエーテルに溶解していた生分解性ポリマーが析出し薄膜を形成することができる。走査電子顕微鏡(SEM)による観察において、生分解性ポリマーが粒子状に塗膜になり、積層されて薄膜を形成できることがわかった(図1)。したがって、上記エアゾール組成物を用いることにより、生分解性ポリマーの薄膜を高い生産性で容易に被処理対象に形成可能となる。
【0012】
生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解可能とは、エアゾール組成物を噴射したときに生分解性ポリマーによる薄膜を形成可能な程度に、生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解することをいう。具体的には以下のように判断する。25℃において、耐圧容器(エアゾール用ガラス試験瓶100mL)に、50mLのジメチルエーテル及び生分解性ポリマーを充填したときに、0.01g以上(好ましくは0.20g以上)の生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解する場合、「生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解可能」と判断する。
【0013】
噴射剤はジメチルエーテルを含有する。噴射剤は、本開示の効果を損なわない程度に、ジメチルエーテル以外のその他の液化ガスを含有してもよい。その他の液化ガスとしては、例えば、LPGやLNGなどの炭化水素、HFO-1234zeなどのハイドロフルオロオレフィンなどが挙げられる。
【0014】
噴射剤には、本開示の効果を損なわない程度に、圧縮ガスを併用してもよい。圧縮ガスは特に制限されず、エアゾール製品に使用しうる公知のものを用いることができる。圧縮ガスは、好ましくは炭酸ガス、窒素ガス、亜酸化窒素、アルゴン、ヘリウム及び圧縮空気などからなる群から選択される少なくとも一であり、より好ましくは炭酸ガス、窒素ガス、圧縮空気及び亜酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一であり、さらに好まし
くは炭酸ガス及び窒素ガスからなる群から選択される少なくとも一であり、さらにより好ましくは窒素ガスである。
噴射剤中のジメチルエーテルの含有割合は、好ましくは50.0~100.0質量%、より好ましくは70.0~100.0質量%、さらに好ましくは80.0~100質量%、さらにより好ましくは90.0~100.0質量%、特に好ましくは95.0~100.0質量%、最も好ましくは100.0質量%である。
【0015】
エアゾール組成物中の噴射剤の含有割合は、好ましくは85.0~99.9質量%であり、より好ましくは88.0~99.5質量%であり、さらに好ましくは90.0~99.0質量%である。
エアゾール組成物中のジメチルエーテルの含有割合は、好ましくは85.0~99.9質量%であり、より好ましくは88.0~99.5質量%であり、さらに好ましくは90.0~99.0質量%である。
【0016】
エアゾール組成物は、ジメチルエーテルに溶解可能な生分解性ポリマーを含有する。生分解性ポリマーは、生体内で分解される性質を有するポリマーである。生分解性ポリマーは、ジメチルエーテルに溶解可能であれば特に制限されず、公知の生分解性ポリマーを用いることができる。
具体的には、生分解性ポリマーは、例えば、ポリ乳酸、ポリ乳酸(PLA)系樹脂、ポリグリコール酸、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等に代表される脂肪族ポリエステル、ポリエチレンサクシネートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等に代表される脂肪族芳香族ポリエステル、ポリビニルアルコールまたはその共重合、デキストラン、アガロース、プルラン、キトサン、マンナン、カラギーナン、アルギン酸、デンプン類(酸化でんぷん、エーテル化でんぷん、デキストリン等)、アミロース、アミロペクチン、ペクチン、レンチナン、ヒアルロン酸、ハイラン、セルロース誘導体(メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等の多糖類、ゼラチン、コラーゲン、エラスチン、アルブミン、ヘモグロビン、トランスフェリン、グロブリン、フィブリン、フィブリノーゲン、ケラチン硫酸、アミノ酸のホモポリマー(例えば、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等)等のポリペプチド、熱可塑性澱粉、澱粉と脂肪族(芳香族)ポリエステルからなる樹脂等などからなる群から選択される少なくとも一のポリマーが挙げられる。生分解性ポリマーは、好ましくはポリ乳酸を含む。
【0017】
ポリ乳酸系樹脂としては、ポリエチレングリコール-(L)ラクチド共重合体、ポリエチレングリコール-(DL)ラクチド共重合体などのポリ乳酸-ポリエチレングリコール共重合体;ポリ乳酸にデキストランなどの多糖がグラフト重合した共重合体;などが挙げられる。市販のものとしては、多木化学株式会社製の「タキラール」シリーズが挙げられる。
【0018】
ポリ乳酸は、D体による構成単位及びL体による構成単位を含むことが好ましい。
ポリ乳酸における、モノマー成分換算でのD体比率は、好ましくは2~50モル%であり、より好ましくは4~40モル%であり、さらに好ましくは6~30モル%であり、さらにより好ましくは8~20モル%であり、殊更好ましくは10~15モル%であり、特に好ましくは12モル%である。
また、ポリ乳酸における、モノマー成分換算でのL体比率は、好ましくは50~98モル%であり、より好ましくは60~96モル%であり、さらに好ましくは70~94モル
%であり、さらにより好ましくは80~92モル%であり、殊更好ましくは85~90モル%であり、特に好ましくは88モル%である。上記範囲であると、ポリ乳酸の溶解性がより良好になる。ポリ乳酸は好ましくは、ポリ-DL-乳酸である。
【0019】
L体比率が100%程度のいわゆるポリ-L-乳酸は、ジメチルエーテルに溶解しないことがわかっている。しかしながら、本発明者らの検討により、上記のようにポリ乳酸におけるD体比率が一定程度であることで、ポリ乳酸がジメチルエーテルに溶解可能であることを見出した。これは、ポリ-L-乳酸の立体規則性はイソタクチック構造であるため結晶性高分子に分類されるが、D体比率が上昇するとL-乳酸連鎖の結晶領域の生成が阻害されて非晶性を示すようになる。その結果、ジメチルエーテルと溶媒和して溶解性が向上したと、本発明者らは考えている。
【0020】
エアゾール組成物中のジメチルエーテルに溶解可能な生分解性ポリマーの含有割合は、特に制限されず、生分解性ポリマーの薄膜を形成可能な範囲であればよい。当該含有量は、好ましくは0.1~15.0質量%であり、より好ましくは0.5~12.0質量%であり、さらに好ましくは1.0~10.0質量%である。上記範囲であると、被膜形成性がより良好になる。
【0021】
エアゾール組成物は、生分解性ポリマーを可塑化する可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤は、生分解性ポリマーに対し塑性を与える物質を意味し、このような性質を有するものであれば特に制限されず、公知のものを用いることができる。
このような可塑剤をエアゾール組成物に含有させることで、生分解性ポリマーの塑性が増大するため、得られる生分解性ポリマー薄膜の平滑性が向上し、より透明度の高い薄膜を得ることができる。そのため、例えばエアゾール組成物を人体に適用したときに薄膜が目立ちにくいため、外観上の観点から好ましい。
図2は、紫外線吸収剤であり、かつ可塑剤としても機能しうるオキシベンゾン(OB)を含有させたエアゾール組成物を噴射した時の、SEMの観察画像である。オキシベンゾンが可塑剤として働いていると考えられ、噴射後の薄膜の平滑性が向上している。
【0022】
生分解性ポリマーを可塑化する可塑剤としては、オキシベンゾンなどの他、油性成分及びアルコールなどからなる群から選択される少なくとも一の化合物が挙げられる。
油性成分は、エステル化合物からなる群から選択される少なくとも一の化合物が挙げられる。
エステル化合物としては、例えばミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸エチルヘキシル、イソステアリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチルヘキシル、リノール酸エチル、サリチル酸ブチルオクチル、エチルヘキサン酸セチル、オリーブ脂肪酸エチル(オレイン酸エチル)等の脂肪酸エステル;トリエチルヘキサノイン、モノカプリル酸プロピレングリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等の多価アルコール脂肪酸エステル;アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル等の多塩基酸エステル;ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)、ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル)、ダイマージリノール酸水添ヒマシ油、ダイマージリノール酸ジグリセリンイソステアレート等のダイマー酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
アルコールは、例えばエタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコ
ール;セチルアルコール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、デシルテトラデカノールなどの高級アルコール;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、イソペンチルジオール、ペンチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールからなる群から選択される少なくとも一が挙げられる。
【0024】
エアゾール組成物中の可塑剤の含有割合は、生分解性ポリマー及び可塑剤の組み合わせにより塑性の変化の割合が異なるため特に制限されない。目的とする生分解性ポリマーの塑性に合わせて適宜変更すればよい。エアゾール組成物中の可塑剤の含有割合は、例えば、0.1~10.0質量%が好ましく、0.2~5.0質量%がより好ましく、0.3~3.0質量%がさらに好ましく、0.5~2.0質量%がさらにより好ましい。
【0025】
エアゾール組成物中の、生分解性ポリマー及び可塑剤の質量比(生分解性ポリマー:可塑剤)も、目的とする生分解性ポリマーの塑性に合わせて適宜変更すればよい。当該質量比は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは5:1~1:5であり、さらに好ましくは3:1~1:3である。
【0026】
エアゾール組成物は、上記効果を損なわない程度に、医薬品・医薬部外品・化粧品などで使用できる公知の有効成分や、添加剤を含有する事ができる。例えば、香料、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、保湿剤、皮膚保護剤、ビタミン類、各種抽出液、消臭剤、防臭剤、清涼剤、制汗剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、消炎鎮痛剤、抗炎症剤、鎮痒剤、殺菌剤、抗菌剤、抗真菌剤、皮膚外用剤、害虫忌避成分、帯電防止剤などを含有させてもよい。有効成分や添加剤等は、ジメチルエーテルに溶解可能であることが好ましい。
【0027】
本開示のエアゾール組成物を噴射することで、被処理対象を生分解性ポリマーの薄膜で容易にラッピングすることが可能となる。エアゾール組成物に有効成分を含有させることで、生分解性ポリマーの薄膜に有効成分を含ませることができる。生分解性ポリマーは、有効成分などの徐放性を有し、また、摩擦・雨・風などの外的要因に対する耐性を有するため有効成分などを長時間安定させつつ、持続的に被処理対象に供給しうる。
エアゾール組成物中の有効成分の含有量は、使用する成分の目的に応じ適宜変更すればよく特に制限されないが、例えば、0.1~10.0質量%が好ましく、0.2~5.0質量%がより好ましい。
【0028】
有効成分やその他の添加剤としては、例えば以下のものが挙げられる。
紫外線吸収剤(例えばオキシベンゾン、アボベンゾンなど);防腐剤(例えばパラベン類、フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸メチル);pH調整剤(例えばクエン酸、乳酸、トリエタノールアミン、KOH、NaOHなど);酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、チオタウリンなど);抗菌剤(例えばキトサンなど);尿素;カルシウム、鉄、ナトリウムなどのミネラル;顔料;色素;ジメチコンなどのシリコーンオイル;EDTA-2Na、クエン酸ナトリウムなどのキレート剤;抗ウイルス剤(例えばアシクロビルなど);抗真菌剤(例えばイトラコナゾールなど);副腎皮質ステロイド(例えばベタメタゾンとそのエステル類など);非ステロイド系抗炎症剤(例えばインドメタシン、ロキソニンなど);抗アレルギー剤(例えばジフェンヒドラミン,エメダスチンフマル酸塩など);気管支拡張剤(例えばツロブテロールなど);狭心症治療薬(例えばニトログリセリン、硝酸イソソルビドなど);降圧薬(例えばビソプロロールなど);過活動膀胱治療薬(例えばオキシブチニン塩酸塩など);抗認知症薬(例えばリバスチグミンなど);パーキンソン病治療薬(例えばロチゴチンなど);精神刺激薬-注意欠陥・多動性障害治療薬(例えばメチルフェニデートなど);SDA-統合失調症治療薬(例えばブロナンセリンなど);女性ホルモン(例えばエストラジオールなど);オピオイド(例えばフェンタニル、
ブプレノルフィンなど);禁煙補助薬(ニコチン)など。
【0029】
次に、エアゾール製品について説明する。
エアゾール製品は、
エアゾール組成物が充填された容器、及び
該容器に備えられ、該エアゾール組成物を吐出させる吐出機構を有する。
吐出機構及び容器は特段限定されず、公知のものを採用しうる。容器は、噴射剤の圧力に耐えられるものであればよく、公知の樹脂製、金属製、ガラス製等の容器を用いることができる。
【0030】
エアゾール製品における容器内の圧力(ゲージ圧力)は特に制限されない。噴射剤を、エアゾール容器内に充填されたときの容器内の圧力(ゲージ圧力)が、25℃で、例えば1MPa以下となるように充填すればよい。
【0031】
エアゾール製品の吐出形態は特に制限されないが、スプレー状又はミスト状であることが好ましい。エアゾール組成物は、スプレー状又はミスト状に噴射される噴霧用組成物であることが好ましい。エアゾール製品の吐出機構も特に制限されず、例えば噴口がストレートタイプ又はメカニカルブレークアップタイプのものが挙げられる。エアゾール製品には、スプレー状又はミスト状に噴霧しうる公知のアクチュエーターを採用しうる。噴口孔径(直径)は、好ましくは0.1~2.5mm、より好ましくは0.2~1.5mm、さらに好ましくは0.3~1.0mmである。
【0032】
エアゾール組成物及びエアゾール製品の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用しうる。例えば、生分解性ポリマー及びジメチルエーテル、並びに必要に応じて可塑剤、有効成分及びその他の成分を任意の割合で耐圧容器に充填して、エアゾール製品を得ることができる。
エアゾール組成物及びエアゾール製品は、例えば、皮膚外用剤(絆創膏を含む)、化粧料、医薬品、医薬部外品などの用途に用いることができる。
【0033】
本開示は、生分解性ポリマー薄膜の製造方法を提供する。被処理対象に生分解性ポリマーの薄膜を形成する生分解性ポリマー薄膜の製造方法(ただし、医療行為を除く)は、上記エアゾール製品を準備する工程、及び該エアゾール製品を被処理対象に噴射して生分解性ポリマーの薄膜を形成する工程を有する。被処理対象は特に制限されず、例えば、人間及び動物などの生体における、皮膚などの臓器が挙げられる。
【実施例0034】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に制限されない。
【0035】
<実施例1~30、比較例1~11>
表1~3に示す処方(質量%)にて各原料を耐圧容器(エアゾール用ガラス試験瓶100mL)に充填して混合し、各エアゾール製品を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
可塑剤を添加した実施例16~30は、被膜形成性の評価において、実施例1よりも透明性の高い皮膜が得られた。
【0039】
使用した材料は以下の通り。なお、25℃において、耐圧容器(エアゾール用ガラス試験瓶100mL)に、50mLのジメチルエーテル及び生分解性ポリマーを充填する溶解試験において、Poly(D,L-lactic acid)は0.01g以上溶解した。一方、Poly(L-lactic acid)、Poly(D,L-lactide-co-glycolide)及びPolycaprolactoneは、溶解量が0.01g未満であった。
Poly(D,L-lactic acid)(D体比率:12モル%、L体比率:88モル%、NatureWorks LLC)
Poly(L-lactic acid)(Polysciences Inc.)
Poly(D,L-lactide-co-glycolide)(Polysciences Inc.)
Polycaprolactone(Polysciences Inc.)
LPG (Liquefied Petroleum Gas)
DME (ジメチルエーテル)
HFO 1234-ze(トランス―1,3,3,3―テトラフルオロプロペン)
オキシベンゾン(東京化成工業株式会社)
アボベンゾン(東京化成工業株式会社)
1,3-ブチレングリコール(KHネオケム株式会社)
プロピレングリコール(株式会社ADEKA)
PEG-300(日油株式会社)
ミリスチン酸イソプロピル(エキセパールIPM)(花王株式会社)
99%エタノール(日本アルコール販売株式会社)
【0040】
得られたエアゾール製品に対し、以下の評価を行った。結果を表1~3に示す。
(1)生分解性ポリマーの溶解性
得られたエアゾール製品において、生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解しているかどうか確認した。
A:生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解した。
B:生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解したが、一部は溶け残った。
C:生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解しなかった。
【0041】
(2)被膜形成性
各エアゾール製品を用い、エアゾール組成物を噴射した時の被膜の形成性を評価した。なお、生分解性ポリマーがジメチルエーテルに溶解しなかったものは評価を行っていない。
具体的には、25℃の条件下、ミスト用のボタン(噴口孔径(直径)φ0.5mm、ストレートタイプ(D390W0520D“3”-A 株式会社三谷バルブ))を用い、手の甲にエアゾール製品を約1秒噴射して、被膜が形成できたかどうかを確認した。
A:被膜が形成された。
B:被膜が形成されなかった。
【0042】
また、実施例1のエアゾール製品を、ミスト用のボタン(噴口孔径(直径)φ0.5mm、ストレートタイプ(D390W0520D“3”-A 株式会社三谷バルブ))を用い、15cmの距離からスライドグラスに0.5秒、1秒、2秒及び3秒噴射した時の塗膜の形成の様子を走査電子顕微鏡(SEM)により確認した写真を図1に示す(PLA in DME)。生分解性ポリマーが粒子状に塗膜になり、積み重なっていく様子が確認された。
【0043】
同様にして、実施例6のエアゾール製品を用いたときの様子を図2に示す(OB-PLA in DME)。実施例6では、紫外線吸収剤としてのオキシベンゾン(OB)が生分解性ポリマーを可塑化する可塑剤としても機能していると考えられるため、より平滑性及び透明性が高い塗膜が得られる。
【0044】
また、同様にして、実施例7のエアゾール製品を用いたときの様子を図3に示す(AB-PLA in DME)。実施例7では、紫外線吸収剤としてのアボベンゾン(AB)を用いている。ABは可塑剤として働いていないと思われるため、実施例1と同様に、生分解性ポリマーが粒子状に塗膜になり、積み重なっていく様子が確認された。
【0045】
実施例1,6,7のエアゾール製品を噴射したスライドグラスの様子を図4に示す(1):実施例1、(2):実施例6、(3):実施例7)。可塑剤を含む(2)実施例6の薄膜は他に比べて白濁の度合いが小さく、透明性が高い。
図1
図2
図3
図4